今週のReview
12/29-1/3
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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******* 感嘆キー・ワード **********************
ドイツの財政刺激策消極論, 大規模な財政刺激策の後に1,2, 中国を軸として, マドフ, 債務帳消し, 見えない日本, Buiterの救済反対論, Rodrikの「政策余地」合意, ガザ
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor, WSJ:Wall Street Journal Asia
SPIEGEL ONLINE 12/15/2008
INTERVIEW WITH NOBEL ECONOMIST PAUL KRUGMAN
'Merkel and Steinbrück Are Wasting Crucial Time'
(コメント) 今年のノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンに、財政刺激策を拒むドイツの石頭、メルケル首相とSteinbrück財務大臣のことを尋ねています。彼らの何が間違っているのか?
「彼らは1年か2年前の世界を考えている。その当時は、インフレが主要な心配であって、財政赤字を抑制しなければならなかった。その結果、彼らは不況の深刻さを正しく評価せず、。ヨーロッパと世界にとって決定的に重要な時間を浪費している。」
確かに、無駄な公共投資をするべきではない。しかし、それは財政支出のデザインを問題にしているのであって、支出しないことを求めるわけではない。ドイツ人の貯蓄率が高いなら、減税するより、政府が支出するべきだ。
通常の景気循環であれば、金融緩和や自動的な安定化が有効だ。しかし、今は財政支出が重要である。それがなければ大恐慌以来の大量失業、日本型の不況も起こりうる。
SPIEGEL ONLINE 12/18/2008
THE WORLD FROM BERLIN: Europe's 'Unloved Stability Pact'
WSJ DECEMBER 22, 2008
Germany's Way Out of the Crisis
By PEER STEINBRüCK | From today's Wall Street Journal Europe
(コメント) ユーロ圏が採用している財政安定化法を緩和するべきだ、という議論も起きます(フランス、イラリア、ギリシャ、アイルランド)。ドイツの政治家たちは賛成するでしょうか?
「金融危機においても、ユーロ圏は安定性の避難所になるべきであって、債務諸国の集団になってはいけない」と、中道左派の新聞Süddeutsche Zeitungは主張します。
他方、左派のFrankfurter Rundschauは財政刺激策を求めます。「Steinbrück財務大臣は間違った成長見通しのせいで不況を緩和する機会を失うだろう。そして(不況による)大幅な財政赤字で終わるに違いない。」
STEINBRüCK自身がWall St. Journalで反論しています。すなわち、ドイツ政府は金融危機からの脱出に全力を尽くすし、その再発を防止することに協力する。他方、景気の悪化には自動的な安定化作用を支持する。不況によって財政赤字は増えるし、それを容認する。しかし、積極的に債務を増やして支出することは支持しない。
なぜなら過去の例が示すように、不況においては、追加に得た所得は貯蓄するだけであり、確実に債務が増える一方で、確かに景気を回復するとは言えない。中産層は、将来の増税と、EU内の財政規律が弱まることを心配しなければならないだろう。だからドイツは財政の健全性を回復しながら、一時的な刺激策を取るに過ぎない。
FT December 18 2008
How to give banks confidence to lend to businesses
By Lucian Bebchuk and Itay Goldstein
Asia Times Online, Dec 19, 2008
No end to financial disorder
By Hossein Askari and Noureddine Krichene
NYT December 21, 2008
Missing the Target With $700 Billion
By ALAN S. BLINDER
(コメント) なぜ銀行の融資は増えないのか? Lucian Bebchuk and Itay Goldsteinは、銀行は他の銀行が融資を増やさないと思う限り融資を増やさない、と考える。企業の売り上げは互いに依存しているから、他の企業が活発に投資しないと一つの企業だけでは失敗する。
だから銀行が再建されても、融資は容易に伸びない。将来の不確実性があるときは、中央銀行がいくら流動性を供給しても、労働者や財の市場そのものを作ることはできない。
金融安定化法TARP(the Troubled Assets Relief Program)も、何度も方針が変更されて、ポールソンの求める金融秩序再建は難しいでしょう。ALAN S. BLINDERは、住宅融資(モーゲージ)の再融資と、不良債権の買い取りを唱えたものの、それを行うはずのTARPが成果を上げない理由を考えます。
第一に、ポールソンは、連邦預金保険庁のSheila C. Bair長官と論争した挙句、逆に、TARPによるモーゲージ融資を拒んだ。そして資産価値が損なわれた銀行への救済融資、資本強化ばかり行った。それは失敗だったのだ。確かにそれを支持する議論もあったが、政府が経営に関与しない優先株を購入しても、銀行融資の正常化は進まなかった。
また、不良債権の購入について議会を説得するのは難しかっただろう。しかし、国民の税金を使って銀行に資金を入れるばかりでは、金融危機を解決できない。
NYT December 22, 2008
By PAUL KRUGMAN
FT December 23 2008
Keynes offers us the best way to think about the financial crisis
By Martin Wolf
(コメント) クルーグマンは、オバマによる大規模な景気刺激策によって2010年に景気が回復した後、何が起きるかを考えます。まず、住宅バブルに支えられた過剰な消費ブームは戻ってこない。その代わりに、アメリカは大幅な経常赤字を減らして、それを国内雇用の維持に利用する。ただし、たとえ(大幅な?)ドル安がそれを支持しても、世界中の輸出依存型成長モデルが亡くなるまで時間がかかるだろう、と。
他方、その間、アメリカの雇用は財政支出によって支えるしかない。ところが、景気が回復すれば財政再建を求める声が高まる。景気回復は早期にくじかれて、不況に戻るかもしれない。住宅バブルがない、しかも、経常赤字がなかなか減らない期間は、予想以上に長期に及び、その間、財政赤字が増大するだろう、と考えているようです。まるで、日本です。
Martin Wolfは、金融危機から学ぶべき教訓とは、これを道徳的な問題にしないことだ、と考えます。かつて大恐慌について、1920年代の過剰な支出を批判する「清算主義者」と、資本主義の搾取。不安定、恐慌を批判する「社会主義者」がいたけれど、ケインズはどちらも否定した、というのです。市場の動きは個人と違うからです。
すなわち、1.銀行家・金融専門家はしばしば間違う(合理的な銀行家は経済が崩壊するとき、一緒に崩壊する)、2.市場の働きは個人の合理性に従わない(倹約は失業を増やす)、3.市場を道徳的に判断しない(市場システムを技術的な管理問題とする)、と。
ケインズは、清算主義でも社会主義でもなく、高度に都市化した複雑な経済と民主的な社会を維持するために、最小限の国家介入を認め、そうすることで個人の自由を最大限に保持しようとした。そのようなプラグマティズムを持って、われわれも短期と長期の問題を解決するべきだ、とMartin Wolfは主張します。
すなわち、世界の有効需要水準を維持し、その役割をヨーロッパや日本、中国が引き受けない以上、数年に及ぶアメリカの債務超過、財政赤字を維持し、処理しなければならない。最初は連銀が、その後、連邦政府が、債務の株式化などを行うでしょう。
他方、長期には、世界経済の均衡(需要配分)を回復しなければならない。赤字国と黒字国との構造的な不均衡を、1944年、ケインズがブレトン・ウッズ会議で設計し直したように。
The Guardian, Thursday 18 December 2008
On an auspicious anniversary, here are four keys to China's peaceful rise
Timothy Garton Ash
(コメント) 中国でケ小平の改革開放政策が始まって30周年です。その成功を祝うとともに、ある国でパワーの急速な増大が起これば、その国が民主主義であれ、何であれ、歴史上、戦争の起きる危険性も高まった、と言えます。中国の台頭はそれに当てはまるのです。中国が「和平演変(平和的な台頭)」を提唱したのも、この点に注目したからでしょう。
中国の台頭は大きなチャンスでもある、とTimothy Garton Ashは考えます。近代的な、繁栄する国家が現れて、気候変動のような、人類の課題に協力して解決を模索するなら、それは素晴らしいことだから。戦争するのか、協力して繁栄するのか?
中国で起きることは、中国人自身が決めるけれど、同時に、中国の製品を輸入する市場として、アメリカやヨーロッパもそれに関与しています。そこで、平和的な台頭に必要な4分野について、中国とその他世界との責任分担the division of responsibility (DoR)を考えよう、と。
1.国内改革(90%・10%)、2.米中関係(65%・35%)、3.ガバナンスの改善:G8からG14へ(30%・70%)、4.文化・社会的交流(50%・50%)
中国の指導者や知識人たちは、法の支配やガバナンスの改善、民主主義(ただし、欧米の自由民主主義ではない)を必要と認めている。経済改革の30年に続いて、政治改革の30年が要る。その結果がどうなるのか、地域や都市による多様性は大きく、誰にも予想できない。
「欧米の経験が生かせるな、それを利用してほしいし、支援できるものなら喜んで支援する。中国が達成した成果がどのようなものであれ、それが人民の声を反映するものであれば、われわれもそれを歓迎するし、大いに学びたい。」
内外のガバナンス改善によって、中国には責任ある国際的な役割を期待されているが、中国政府はまだ自国の改革だけを重視したい。「中国の改革にとって良いことが、世界にとっても良いことだ。」(もちろん、冗談として)
WP Thursday, December 18, 2008
In China, Justice in Reverse
By James V. Feinerman
YaleGlobal, 18 December 2008
Divergence Grows Between China and the West – Part I
Xu Sitao
NYT December 19, 2008
After 30 Years, Economic Perils on China痴 Path
By JIM YARDLEY
(コメント) James V. Feinermanは、中国の経済的・政治的自由を実現する方針は、今や、逆転してしまった、と考えます。それは中国にとって、また世界社会にとって、不幸なことです。1978年にケ小平が掲げた方針はわずか16文字の漢字で示されました。"There must be law to rely upon; these laws must be followed; enforcement must be strict; violations must be corrected." ケ小平は、文化大革命による混乱を終わらせ、経済成長を実現できる社会を目指しました。そのために、刑法と、外資との合弁法、ができたのです。
人権活動家や様々な抗議活動は、法による保護を受けていません。法治国家の目標は損なわれ、後退しています。多くの発展途上国がネオリベラリズムの破綻によって中国にモデルを求めているとき、逆に、その権威主義体制を輸出しています。
世界経済危機や不均衡に関する中国政府の対応について、Xu Sitaoがまとめています。人民元の増価、周辺国への支援、内需の拡大。しかし西側は、中国に負担を求める前に、中国自身がどれほど大きな国内の課題に立ち向かっているかを知るべきだ、と。
JIM YARDLEYは、急速な輸出の減少が、中国の農村部だけでなく都市にも失業と社会不安、政治的な騒擾を広めている、と政治改革の必要性に注目します。胡錦禱主席も、社会不安の解消に向けた民主主義の重要性を認めながら、同時に、中国の改革は西側の政治システムを模倣しない、と明言しました。
1978年にケ小平が改革開放を唱えて、2年後、香港に隣接した小さな漁村、深川Shenzhenに、経済特区が作られました。その後の急速な経済成長をもたらすモデルなって、今では数千の工場が建ち、人口も1000万人を超えています。それは同時に、現在の中国が直面する様々な問題も示しています。工場閉鎖、解雇、労働時間の短縮、賃金切り下げ・・・ この数か月で7000の中小工場が閉鎖され、5万人が失業した、と市長は述べました。400万人以上の出稼ぎ労働者が職を失って春節前に帰郷する、と国営放送は伝えています。
雇用を維持する方策として、中国政府は輸出補助金を復活しています。輸出を維持しなければ、失業者が増え続けると考えるからです。しかし、世界金融危機と欧米の不況が市場を落ち込ませています。そうであれば、今こそ労働者や農民の生活水準を改善し、社会福祉を充実して、「中国式の資本主義」を実現するチャンスでもあるはずだ、とMITのHuang Yashengは考えます。
当面、政府の内需刺激策は公共投資の拡大に向けられています。しかし、それは一層の政治的な腐敗を招くでしょう。共産党の調査研究機関に属するYu Kepingは、腐敗をなくすために民主主義が必要だ、と主張しています。また、法の支配を確立し、民主主義と社会的安定性とを一緒に実現されなければならない。今すぐ選挙すれば、タイと同じような混乱が生じる、と警告します。
Project Syndicate, 2008.
China and the Global Financial Crisis
by David Hale
NYT December 21, 2008
China to the Rescue? Not!
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) ドイツのPeer Steinbrück財務大臣はアメリカが衰退して多極世界が来る、と予想し、China Daileyは “Is the Sun Setting on US Economic Supremacy?” と記事を載せた。アメリカに投資してきた外国人投資家は大きな損失をこうむった。中国はすでに投資したウォール街の救済によって巨額の損失を受け、リーマン・ブラザーズの買収まで検討しなかったわけです。ネオコン、市場信仰、特に金融ビジネスの支配に対して、彼らは終末を予言したが、さて、どうだろうか? とDavid Haleは考えます。
なぜなら、金融危機に直面した中国の政策は、これまで欧米の望んできた内需刺激策に向けて大きく転換したからです。欧米の金融緩和に協調する形で、中国人民銀行も初めて金利を引き下げました。欧米が財政刺激策を強調するために時間を要する中で、中国はGDPの15%に当たる巨額の財政刺激策を発表したのです。この転換は、人民元の増価を受け入れた過程と並んで、中国が国際的な覇権を引き受ける重要な前進であった、とDavid Haleは認めます。
THOMAS L. FRIEDMANも、アメリカと中国の経済・政治体制、成長パターンが互いに相手を前提した共生関係、「チャイメリカ」(Niall Fergusonが“Chimerica”と呼んだ)であったことを確認します。中国共産党は国民に生活水準の向上を約束して支配を維持し、アメリカ大統領は増税なしの戦争と、クレジットカードと住宅価格上昇による高成長を約束できたのです。
それが金融危機に終わった今、アメリカ人が貯蓄に励み、消費や輸入を減らすように、中国人は輸出ではなく内需によって成長しなければなりません。しかし、FRIEDMANは、中国の政治や制度、消費構造が内需を抑制し、輸出を促すようにできている、と指摘して、その「調整」には時間がかかるだろう、と考えます。
FT December 21 2008 China battles unemployment to deter unrest By Jamil Anderlini in Beijing
The Guardian, Monday 22 December 2008 China and the internet: The great firewall
FT December 22 2008 China bails out Taiwan
IHT Monday, December 22, 2008 Free trade under threat By Philip Bowring
(コメント) Philip Bowringは、不況から保護主義,為替レートの競争的な切り下げへの転換を心配します。現在では国境を超える投資が緊密な供給体制を築いており、スムート=ホーレイ関税法の先例にも言及されて保護主義は表面化しません。しかし、この点で、中国の行動が非常に重要です。
しかし、再び、開放型の国際経済体制は崩壊するかもしれません。他の新興諸国は中国に追随せず、保護主義や切り下げを用いて競争的な優位を得ようとするでしょう。また、国内不況による輸出企業や失業者からの政治的圧力を受ける北京政府が、いつまでも欧米市場の回復を待っている余裕はないのです。
Asia Times Online, Dec 24, 2008 China's inflation-free route from crisis By Henry C K Liu
Asia Times Online, Dec 24, 2008 Chinese demand a wobbly bulwark By Robert M Cutler
Dec. 24 (Bloomberg) When $14 Trillion Hit Wall All Hell Broke Loose William Pesek
CSM December 26, 2008 edition Beijing blinks at 'Charter '08'
(コメント) 中国の輸出が減少し、景気が悪化するにつれて、政府の保有する巨額の外貨準備を内需拡大に使用する、という政策が求められます。公共投資や減税、あるいは社会保障制度の整備に、中国政府は外貨準備を積極的に使用するのではないか? Henry C K Liuが提案する “a Commission to Restructure the Chinese Economy (CRCE)” も、そのような成長モデルの転換を推進する政府組織です。それは、一種の「新しい輸出加工区」なのです。
William Pesekは、2008年のアジアで最も記憶に残った多くの重要事件を振り返ります。
WP Thursday, December 18, 2008
End of the Hedge Fund?
By Sebastian Mallaby
NYT December 19, 2008
The Madoff Economy
By PAUL KRUGMAN
BG December 21, 2008
Madoff and Ponzi: Reflections of their times
By Mitchell Zuckoff
FT December 23 2008
Hedge funds: the year from hell
(コメント) マドフ・スキャンダルの影響はどこまで及ぶでしょうか? Sebastian Mallabyは、これによってヘッジファンドの規制強化を求める意見に反対します。なぜなら、規制強化や情報公開にはマドフも従っていたからです。ただし、嘘の情報を使って。監督当局はそれを見抜けませんでした。だから、ヘッジファンドを規制によって潰すことは間違いだ、と。
他方、市場の反応は重大です。マドフはヘッジファンドに特有の秘密の情報や投資戦略について、投資家に強い疑いを抱かせました。規制がなくても、彼らは投資家にもっと説明しなければならないでしょう。そして、良いヘッジファンドがマドフと区別できないとしたら、それこそが死滅をもたらします。しかし、市場の非効率性が存在する限り、ヘッジファンドの利益はあるはずです。
PAUL KRUGMANも同様に、マドフと投資ビジネス全般との違いは何か? と問います。ウォール街の投資ビジネスも、マドフのように、株価や住宅価格を吊り上げて高収益を実現し、その間に莫大な所得やボーナスを得ていた。そして、バブルが破裂した後も、その所得を返すことはない。
金融部門から生じる所得は、1世代前のGDP比5%から現在は8%に増えており、もしこれが無駄なカネであれば、それは年4000億ドルが、詐欺や虚像のために支払われたことを意味する。その弊害は、さらに、政治を腐敗させ、最も優秀な若者や頭脳を投資ビジネスで無駄にしたことにおよぶ。
なぜこれほどの虚偽や欺瞞、無駄が行えたのか? 答えは簡単。人々は、その利益に値する何かが行われている、その人々が優れた何かを知っている、と信じていたからだ。つまり、マドフの世界、である。
Mitchell Zuckoffは、マドフとその歴史的な代表モデルとされるポンツィとを比べています。
FT December 18 2008
Lessons from the original New Deal
By Samuel Brittan
(コメント) その評価は論者によって大きく異なっていると断った上で、1930年代のF.D.ルーズベルトによるニュー・ディールの経験から、Samuel Brittanはオバマに助言します。特に、ルーズベルト政権の初期に、銀行休日を実施し、金本位制を離脱して為替レートを切り下げ、ヨーロッパからの金の流入で金融緩和したことが重要でした。しかし、その後、ニュー・ディーラーたちはコーポラティズムを目指し、価格を政治的に操作しようとした、と批判します。また、ビジネス界と敵対するような主張に振り回された、と。
すなわち、Samuel Brittanが望むことは、オバマ政権が雇用と需要の水準に関心を集中し、価格や賃金に介入しないこと。また、政府はビジネス界にも、労働組合にも、農業団体にも、加担してはいけない、と。
FT December 18 2008 Five ways to start the world economic recovery By George Magnus
George Magnus は考えます。1990年代の日本のような「失われた10年」を避けるためには、マクロ政策介入が必要です。1.金融システムの基盤を守る。2.融資の回復や不良債権処理を助ける。3.信用の収縮が雇用や所得に及ぼす効果を減らすために財政政策を最大限利用する。4.デフレが迫れば量的緩和も積極的に行う。5.ビジネス界の信頼が失われるとき、政府への信頼や強い指導力が重要になる。
The Guardian, Sunday 21 December 2008 Good news in bad times Jeffrey D Sachs
世界の有効需要を増やすためには、伝統的な手法として、植民地・開発地域への投資と輸出があると思います。Jeffrey D Sachsの主張は、開発地域の成長率を高める意味でも、医療や教育に投資し、病気や貧困を減らすことが最も効果的な公共投資である、というものです。しかも、小規模のプロジェクトが良いのです。わずかな融資でも実際的な諸問題を解決できる、と強調し、金融危機と政治不安を克服する可能性をつかむ指導力を期待します。
BG December 24, 2008 Don't let the naysayers block stimulus plan By Robert Kuttner
1兆ドルの財政支出も可能であるし、その財源は調達できる、また健全に返済できる、と反対論者に対してRobert Kuttnerは主張しています。アメリカは第二次世界大戦に参加し、融資し、勝利して、インフレを起こさず、経済も強くできました。
効果的な支出として、公教育の復活、あるいは、消費税の一時的な引き下げ、を指摘します。
WSJ DECEMBER 24, 2008 Defense Spending Would Be Great Stimulus By MARTIN FELDSTEIN
もう一つ、景気を刺激する伝統的な手法としては、軍備の拡大、あるいは戦争があります。オバマ政権が軍事力よりも外交を重視し、経済も不況であれば、軍事予算は削られると予想されますが、MARTIN FELDSTEINは反対です。軍備や兵員の補充、治安活動や諜報活動にも、一時的な予算の増額は有効な使い方である、と。
FT December 18 2008
Global economy: The age of obligation
By Niall Ferguson
(コメント) なぜ急速に経済が悪化しているのか? 日本の雇用情勢はどうなるのか? そう(ゼミ生)に質問されたとき、私は、債務の膨張によって増大していた資産や所得、経済活動の水準が、債務の縮小によって一気に減少していくのだろう、と答えました。支出や経済活動が減少するなら、所得や雇用も減少します。たとえ金融緩和や財政刺激策が限界まで行われても、基本的に水準を低下させて新しい均衡に至るまで、雇用は容易に回復しない、と。
これほどの債務をどうやって支払うのか? 日本政府であれ、アメリカ政府であれ、政府は無限に債務を増やしても良いのだろうか? そう(父に)聞かれたとき、私は、増税して、長期にわたって支払うしかないだろう、と答えました。もちろん、政府は中央銀行と共謀して、インフレーションを爆発させることができます。その場合、何万倍、何億倍にもなった物価(逆に小さくなった実質債務)が、問題を解消します。しかし、庶民の貯蓄や資産を破壊し、経済活動も破壊するわけです。
こうした常識的な答えを超えて、もっと中身のある歴史的比較ができたらよいのに、と思っている人には、Niall Fergusonの論説が非常に興味深いはずです。
旧約聖書において紹介されたすべての債務を帳消しにする話は、一種の現実を無視したユートピアとして理解されています。しかしNiall Fergusonは、ドイツのハーパー・インフレーションや、それを避けようとしたJ.M.ケインズの戦債放棄、あるいは、ドイツへの賠償金請求放棄、を同様に指摘しています。西暦B.C.1788年の債権放棄が、A.D.2008年から9年において再現する、というのは驚きです。
しかし、債権放棄でも、ハイパー・インフレーションでもなく、債務の一部免除や株式化、長期への切り替え、として行われるわけです。すでに、その提案や部分的な実施が始まっています。
The Japan Times: Thursday, Dec. 18, 2008
What can be done to protect Zimbabweans
By RAMESH THAKUR
BBC 2008/12/19
Dollar is key to Zimbabwe survival
By Karen Allen
(コメント) ムガベを退陣させるために、安保理の決断と国連軍の結成は可能でしょうか? あるいは、ますますドル化が進む経済において、ムガベとその側近たちを経済制裁、特にドルの枯渇によって降伏させることはできないのでしょうか? 公式のドル化ではないから。
WSJ DECEMBER 18, 2008 The Fed's Price Controls
WP Friday, December 19, 2008 Bound for Zero
FT December 19 2008 Quantitative teasing
The Japan Times: Friday, Dec. 19, 2008 What more can the Fed do?
The Times, December 19, 2008 It's dramatic! It's sensational! It's the Fed rescue Gerard Baker
・・・デフレをなぜ恐れるのか? デフレが起きると、消費者が購入を延期する傾向を強め、債務の実質負担が重くなり、金融政策が効果を失って、むしろ金融引き締め(また、実質増価)につながる。それゆえ、債務の膨張した経済がデフレに陥ることは必死に避けたいわけです。
Project Syndicate, 2008.
Has Global Stag-Deflation Arrived?
by Nouriel Roubini
(コメント) 経済学者は経済状態を説明するため、いろいろな概念を発明します。ケインズのliquidity traps フィッシャーのdebt deflation そしてルービニは“stag-deflation” を考えました。金融機関(そして借り手)の救済、不良債権の買い取り、量的緩和策。そして、アメリカの消費者が世界経済の最後の買い手として活躍しましたが、今や政府が最初の、そして唯一の買い手です。
それでも、世界経済は2009年末まで不況を脱することはない、と予想します。
WP Monday, December 22, 2008
Bankers In the Crucible
By Robert J. Samuelson
WSJ DECEMBER 23, 2008
Bernanke Is the Best Stimulus Right Now
By ROBERT E. LUCAS JR.
(コメント) 中央銀行は貨幣を発行できる、流動性を供給できる、という意味で、万能なのでしょうか? 特に危機に際して、民間の信用収縮や破たんの連鎖に中央銀行が立ち向かい、国際的に協力します。それが欠如した場合、1930年代にそうであったように、危機は深刻化し、国際的に波及します。
現在は、中央銀行がなすべきことを知っており、果敢に行動しています。国際協調も緊密に行われており、スワップ網の合意や、G20のような国際会議が成功しました。ただし、その多くは名目だけであった、と。中国は人民元の増価傾向を反転させるかもしれないし、アメリカでは自国製品を購買する運動が広まって、攻撃的なナショナリズムが準備されています。
ROBERT E. LUCAS JR.は、こうした状況で、連銀によるゼロ金利と債券購入の追加を歓迎しています。
Dec. 19 (Bloomberg)
Suicide, Porn Not the Only Uses for Web in Tokyo
William Pesek
The Japan Times: Friday, Dec. 19, 2008
Obama may press Japan
By ROBERT DUJARRIC
NYT December 20, 2008
Japan Offers a Possible Roadmap for U.S. Economy
By MARTIN FACKLER
(コメント) 外国から見て、日本のネット文化は異様なものでしょうか? 児童ポルノを公開して共有し、犯罪の広告を載せ、自殺の仲間を募る。William Pesekは、インターネットによって日本の投資家に革命を起こせるかもしれない、と考えます。
他方、ROBERT DUJARRICによると、国際政治でオバマ政権が日本の安全保障政策・・・ではなく、経常黒字の抑制に向けて圧力をかけそうです。共和党や日本の保守系政治家が警戒したようなオバマの中国寄り、日本軽視、という推測は間違っています。むしろ、オバマ政権の最重要課題は経済の回復です。その意味で、経常黒字の累積を放置しているドイツ、中国、日本が問題になるでしょう。
ドイツは独自通貨を持たず、その通商政策もEUが決めています。中国とは信頼関係を築くことが必要です。その意味で、日本政府に最も是正を求めやすいわけです。また、アフガニスタンへの兵力を日本にも負担してほしいでしょうから、もし日本政府がこの問題を避けようとすれば、ますます財政的な負担や経常収支不均衡の是正に圧力がかかります。
MARTIN FACKLERの記事は、日本のゼロ金利政策が機能しなかった理由について紹介しています。
The Japan Times: Monday, Dec. 22, 2008
Japan's global invisibility
By HUGH CORTAZZI
(コメント) 日本(の政治指導者)が国際的な役割を果たせないのはなぜか? 靖国参拝(あるいは自衛隊の海外派遣)のように、国内政治において評価されることは、国際政治の評価と矛盾する。アジアの戦後処理において明確な方針がなかった。もっとも重要な国際的貢献である日本の経済改革を延期し続けている。自民党の支配が長過ぎた。自民党と民主党とのイデオロギー的な違いがはっきりしない。才能のある若手の政治家が活躍できない。・・・など。
The Guardian, Friday 19 December
Let Detroit die
George Monbiot
WSJ DECEMBER 20, 2008
Thatcher Wouldn't Have Gone Wobbly on Detroit
By ANDREW B. WILSON
(コメント) 左派のGeorge Monbiotも、異例なことに保守派と一致し、ビッグ・スリーの破産処理を支持しています。
ANDREW B. WILSONの記事は熱烈なサッチャー賛美論です。ビッグ・スリー救済には意味がなく、競争力を失った産業については、サッチャーが示したように、今でも規制緩和や労働組合の力を削ぐことが正しい解決策だ、と主張します。
FT December 20 2008
Car manufacturers: the case for doing nothing for the sector
Willem Buiter
(コメント) Willem Buiterの論説が詳しいです。・・・アメリカ政府が与えた174億ドルのつなぎ融資は何のために必要なのか? その条件は厳しい(と見える)。「来年3月までに改善せよ。さもないと破産だ。」「利益が出たら返済せよ。」 つまり、ブッシュ政権は問題をオバマに積み残した。
世界の自動車産業に業績の悪化は現れており、スウェーデン、ドイツ、フランス政府も救済策を用意している。イギリス政府もこれまで支援を避けてきたが、この傾向に従うだろう。
ここで、Willem Buiterは原則を考えます。政府が(公的な利益に照らして)企業を救済できるのは、それが効率を改善し、公平性を損なわない、というときだ。しかし、マンカー・オルソンが指摘したような集団的利益が政治に作用します。
保護関税と同じように、多数の有権者が個人としては政策に十分な影響を行使できず、少数の関係者だけが組織されていて、強い政治的圧力を行使できる。その結果、少数者の利益によって多数が搾取される。救済融資や補助金よりも保護関税の方が(政治的に)便利なのは、見掛け上、その負担が外国に対して課せられるからだ。
金融機関の救済と比べて、効率性や公平性に与える影響を検討します。そして、金融部門編介入は支持できるが、自動車産業は支持できない、となるわけですが、その区別は厳密ではなく、モラル・ハザード論や公的監視が重要になります。もし自動車会社を救済するのであれば、それが過去の非効率を許す(利する)ものではいけません。すなわち、1.売り上げ水準に合わせて販売店を減らす、2.債務を株式化する、3.労働コストを下げる、4.経営陣は解任する。
自動車は、住宅と同様に、耐久消費財であり、景気変動に合わせてその消費が大きく変動する。だから、不況に耐えられない企業は生き残れない。それを公的資金で救済するのは間違っているし、環境にやさしい車の開発で生き残れる、という提案は無責任だ。技術変化に対応した自動車会社は、外国企業であれ、アメリカの海外の子会社であれ、すでに存在しており、アメリカ人もその自動車を買うことができる。
もし総需要(そして失業や遊休資源の水準)が問題であれば、政府はマクロ政策によって需要を刺激し、補うべきだ。特定の産業を利することは間違いだ。では、地域の衰退をどうするべきか? 政府が地域の雇用安定化に関与するべきか?
Willem Buiterは、再び、地域の比較優位を問題にし、その変化は永久に続くから、一定の水準に固定するのは間違っている、と考えます。市場のシグナルがゆがめられているときや、労働者、生産資源の部門間・地域間移動が妨げられているとき、政府はこれに介入して、インフラ投資などで、その障害を取り除くようにする。
最後にWillem Buiterはゴードン・ブラウン首相を批判します。政治は経済過程に「道徳」を持ち込むべきではない。たとえ関係者にとって悲劇であっても、経済活動において企業の倒産や失業は常に発生する。その一つ一つに政治が関与することは間違いだ、と。もちろん、この点では、労働党政権が従うとは思えません。
The Observer, Sunday 21 December 2008 When the market fails, the state has a role to play
Businessworld, 22 December 2008 Wheels of Recession Nayan Chanda
The Guardian, Friday 19 December
'Intellectually tolerant, never'
Andrew Gamble
(コメント) Bernard Crickの訃報に接してその経歴・業績を賞賛し、その理論、政治の擁護、を受け継ぎます。ジョージ・オーウェル、あるいは、スウィフトの政治風刺に習い、E.ゲルナーの「社会的には寛容であっても、知的には不寛容であれ」という言葉をよく引いた。市民は政治的にアクティブでなければならず、ポピュリズムを排して「政治教育」を重視した。
Business Daily, 19 December 2008
Emerging Economies to Reap From Global Crisis
Dani Rodrik
(コメント) 新興諸国は国際経済秩序の運営と再編に発言力を得る。そして、何をするか?
Dani Rodrikの主張は興味深いです。それは、IMFやWTOを介して、発展途上諸国のための成長を促す政策に「政策余地“policy space”」を与えることです。まず、金融危機を起こさず、そのコストを抑えるために、IMFが発展途上諸国の最後の貸し手となり、融資を増やします。また、投機的な短期融資や投資を抑えるためにトービン税を導入し、公共財の供給に役立てます。
さらに、WTOの中に発展途上国のための「政策余地」を定める機関を設置します。私は資本取引の規制に国際的合意を求めましたが、通商政策においても同様です。選択できる政策の余地を国際的に合意して、その破壊的な効果を防ぎ、同時に、自国の経済発展に役立つ政府の行動を積極的に認めるのです。
Dani Rodrikは、この合意が双方向のものであることを強調します。アメリカの中産階級もグローバリゼーションから利益を受けていません。彼らが支持しなければ開放型の世界市場統合は持続できないでしょう。発展途上国は保護主義の訴えを許さずに、彼らとも協力しながら、社会的・政治的目標を実現するのです。
The Guardian, Saturday 20 December 2008
An economic rivalry
Anna Masera
The Japan Times: Wednesday, Dec. 24, 2008
Asia will rise as dollar sinks
By JOERGEN OERSTROEM MOELLER
(コメント) イギリスはポンドを捨ててユーロを採用し、アジアもドルを捨てるのか? あるいは、イタリアがユーロを離脱し、アジアの通貨秩序も混乱を深めるのか? 買い物客や観光客を為替レートの変動で奪い合わなければならないのは、その部門の関係者にとって苦しいことでしょう。
NYT December 21, 2008 How to Pay for a 21st-Century Military
NYT December 21, 2008 Let Russia Stop Iran By ODED ERAN, GIORA EILAND and EMILY LANDAU
NYT December 21, 2008 Never Again, for Real By MADELEINE K. ALBRIGHT and WILLIAM S. COHEN
NYT December 21, 2008 Financial Time Bombs By CHARLES DUELFER and JIM RICKARDS
The Japan Times: Sunday, Dec. 21, 2008 Nail a North Korea deal by going to the top By TOM PLATE
BG December 22, 2008 That first foreign challenge
(コメント) オバマ政権が直面する安全保障問題の検討です。たとえば、ジェノサイド禁止条約を支持して、MADELEINE K. ALBRIGHT and WILLIAM S. COHENはオバマ政権がジェノサイドを防ぐ具体的なプログラムを示すように求めます。またCHARLES DUELFER and JIM RICKARDSは、金融危機に示されたアメリカの脆弱性を他国やテロ集団が利用する可能性に注意します。
オバマ政権は、北朝鮮やロシアに対しても、積極的に行動するチャンスを得るかもしれません。
BG December 21, 2008
By Yousef Munayyer
WP Tuesday, December 23, 2008
More Rockets From Gaza
BG December 25, 2008
The looming crisis in Gaza
(コメント) イスラエル政府が行ったガザ地区の封鎖は、ハマスを懲らしめるために、ガザ地区の全住民を集団的に非人間的な生活状態に陥れる制裁でした。ハマスの支持を失わせることが目的であれば、その結果は失敗でした。しかし、それ以上に、イスラエルの行為に対する道義的・人道的な国際非難が向けられるべきだ、とYousef Munayyerは書いています。
WPは、イスラエル政府が市民を守るため、ガザ地区からのロケット攻撃を阻止する正当性を認めています。しかしハマスへの住民の支持は弱まっておらず、むしろ市民生活を復旧し、捕虜の交換を行うことで、ハマスと交渉を進めるなら、イスラエルは優位を得られるだろう、と注意します。
あるいは、非人間的な扱いが暴力の応酬と戦闘行為の拡大につながります。
FT December 21 2008
Obama has to lead the way on trade
By Clive Crook
(コメント) オバマ政権の通商政策に関与するスタッフが決まりました。Ron Kirk(通商代表US trade representative), Hilda Solis(労働長官labour secretary), Bill Richardson(商務長官commerce secretary). Lawrence Summers(国家経済会議議長director of the National Economic Council) それは民主党内の左右の党派を揃えています。一貫性のある政策決定ができるのか?
Clive Crookの論説は、特に、LSEのRazeen Sallyが示す通商政策における国家の役割低下を支持し、自由化は各国家がそれを利益と判断して一方的に行うとき、大きく進展した、と主張します。WTOによる多角的な貿易自由化交渉(自由化に伴う犠牲を肯定する)が失敗してから、各国は政治的により穏健な、プラグマティックな対応を取るだろう、と考えます。
WP Monday, December 21, 2008
Now the Real Test for Obama
By Fareed Zakaria
(コメント) オバマは「カリスマ」的な権力を得ました。しかし、時間がたてば合法的な権力に戻るでしょう。その前に、市場の信頼を回復しなければなりません。
ブッシュ政権の失敗は、回復が予想不可能になって、事後的な、それぞれの機関がばらばらな対応と、あいまいな説明をしたことです。
Foreign Affairs , January/February 2009
The Making of a Mess
By Harold James
(コメント) 金融危機が始まる前に出版されたMartin Wolf, Fixing Global Financeを材料にして、ただし、Harold Jamesは中国の過剰貯蓄を非難するWolfの立場を取りません。世界の金融システムが開放型の市場メカニズムを維持するためには、IMFが世界的な過剰貯蓄・資産の管理機関になる必要がある、とHarold Jamesは主張します。そして、中国の現在の立場を、覇権の地位に近づきながらそれを拒んだ第一次大戦後のアメリカにたとえます。
それほど欧米では中国の役割が重視されていること、それに比べて、日本の政府・政策や思想の遅れに驚きます。
NYT December 22, 2008
Two Shoes for Democracy
By Roger Cohen
(コメント) ブッシュ大統領に靴を投げつけた記者Muntader al-Zaidiはアラブ世界の英雄になりました。彼は、イラクを混乱させたまま回復できないブッシュ政権やイラク政府が、グリーン・ゾーンで行う記者会見に対して憤慨しました。イラク人が住む自称「レッド・ゾーン」から、アメリカ人やスタッフたちが安全を確保された「グリーン・ゾーン」に対して投げた靴は、民主主義の象徴です。
ブッシュは靴を避けたけれど、恥辱を避けることはできない。
FT December 23 2008
Iceland gives Christmas frosty reception
By Sarah O’Connor in Reykjavi
FT December 23 2008
Christmas, but not as Reykjavik knows it
By Sarah O’Connor in Reykjavik
(コメント) レイキャビクの町にもクリスマスの飾りつけが行われました。しかし、貯蓄や資産、仕事を失った人々の不満はますます高まるでしょう。金融危機の3か月後、2月には失業が急増する、と予想されています。
THE Guardian, Wednesday 24 December 2008
Christmas on the margins
Sadhbh Walshe
(コメント) 金融機関や自動車会社の重役が救済される一方で、アメリカには食糧スタンプで生活する人々がいます。大人一人で週に$24。クリスマスでもチョコ・クッキーが買えずに、少年を失望させてレジでため息をつく婦人がいる、と記事は伝えています。
9月の統計では3150万人、アメリカ人の約10%が食糧スタンプで暮らしています。Sadhbh Walsheが憤慨するのは、ポールソン財務長官がゴールドマンサックスのパートナーとして2006年に得た収入です。その数字は、$163,987,000!となっています。
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The Economist December 13th 2008
Suddenly vulnerable
China’s reform: The second Long March
Economics focus: A stimulating question
(コメント) インドと中国の成長が続くという予想が逆転し、突如として、政治・経済の脆弱性を露見しました。特に中国が、その神秘的な8%という成長率の下限を守れないとき、社会・政治的な混乱も予想されます。
中国の改革が第二ラウンドに入ることを議論する特集記事は、ケ小平の「つま先で意志を探りながら川を渡る」という長期目標を欠いた実践的改革を指摘しますが、その要点をつかみ切れませんでした。農地所有と民主主義、でしょうか。
新興経済が引き締めによって通貨価値を守るべきか、あるいは、反循環的な景気回復を目指すべきか、1997年のアジア通貨危機以後、IMFのK.ロゴフと、それを批判するJ.スティグリッツとが、激しい論争を繰り返しました。現在の金融危機に対しては、アメリカを筆頭に、新興市場でも金融緩和と財政刺激策が取られています。記事が指摘するような新興市場の通貨問題より、欧米市場が危機の発生源であることに違いがあると思います。
The Economist December 13th 2008
Greece’s riots: When nettles go ungrasped
The economy: Days of open wallet
Charlemagne: The left’s resignation note
Iceland: Cracks in the crust
(コメント) ギリシャの民主主義も、イタリアの債務危機も、アメリカの金融緩和と公共投資による不況回避も、失敗の基準は「日本であったように」と言われそうです。
金融危機から世界不況が迫っているのに、なぜヨーロッパの左翼(アテネの無政府主義ではない)は沈黙しているのでしょうか? 一つの理由は、中道左翼の政党内で、雇用を守る政策に関する意見が分裂していることです。EU内の労働者の自由移動について、政府が労働者個人の社会保障にとどまらず、職場を保証するべきか。さらに、その背景にはもう一つの理由、世界的な規模の競争激化、中国などの労働者が国際競争に参入したこと、があります。
アイスランドの特集記事は、なかなか面白いです。David Oddssonという政治指導者(首相から中央銀行総裁)の強烈な個性、民営化された銀行の極端な経営拡大、ロンドンとの比較、ユーロ採用に向けた政治論争、が注目されます。政治家と国際経営者・銀行家との対立が生じているようです。