今週のReview
12/22-12/27
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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******* 感嘆キー・ワード **********************
為替レート、 自動車産業、 財政刺激策を過信してはいけない、 中国のデフレと人民元、 アテネの暴動、 グローバル国家、 オバマの中国訪問、 アメリカは衰退しない、 強いドル、 ゼロ金利政策、 移民とヨーロッパ都市政治
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor, WSJ:Wall Street Journal Asia
FT December 9 2008
The eurozone depends on a strong US recovery
By Martin Wolf
(コメント) 為替レートがこれほど重要であるのは、それが資本移動を反映するからか、あるいは、国内需要の再配分を政府の望む方向と関係なく急速に進めるからか。いずれにせよ、政府による競争的切り下げ(あるいは協調介入)ではないとしても、非常に深刻な不安定化が波及しているように見えます。
ユーロ圏に加盟した諸国は地方政府のようになった、とMartin Wolfは書いています。金融政策を奪われて財政政策で対応しなければなりませんが、その赤字にも「連邦政府」の上限が課せられています。そして、資本市場では各政府の信用・財務評価が行われるわけです。
単一通貨になれば通貨圏内で危機は起きない、という楽観が、実際は、各地方政府の債券が売られて高金利、短期化し、累積してデフォルトになる危険を増している、というわけです。それに対してユーロ圏が公的に課している財政の規律はおおざっぱで、信用を正しく反映せず、不況が悪化する中で危機を防げない。
どんな危機か? Martin Wolfは実際の国を例に明確なシナリオを描きます。すなわち、ある国で好景気が続けば対外赤字が発生します。それは為替レートによって調整されず、それゆえ高金利と資本流入を招くでしょう。その結果、おそらく、資産市場や住宅・土地市場でバブルが発生します。その間、対外赤字は民間部門の対外債務を累積していますが、このブーム(あるいはバブル)が終わったとき、何が起きるか?
資本流入は減少、あるいは逆転します。経済は減速し、対外赤字が減り、財政赤字が膨らみます。政府はこの急激な落ち込みを避けるために、財政赤字によって需要を追加しますが、問題はこの国が国際競争力を持たず、経済調整を行う弾力性を欠いている場合です。ヨーロッパの労働市場や為替レートの喪失は、調整困難を意味します。バブル崩壊後の急速な国内需要の落ち込みにも、輸出は伸びず、その分、財政赤字の急速な増大が避けられません。
ユーロ圏の財政破たんは生じるか? そして、その場合、誰が破たんした政府の救済を行うのか? どのようなコストを支払うのか? 連邦政府が財源を移転してくれるのでない限り、財政赤字は輸出の増大、あるいは景気回復によって税収が増えるしかないわけです。ユーロ圏の問題は、ECBも、最大の構造的な黒字国であるドイツも、この問題に関心を払わないことです。
Martin Wolfは、ドイツの「問題」!?ある特徴を指摘します。1.輸出競争力が高い。2.内需が弱く、それゆえ、構造的に黒字を出し続けている。3.インフレやバブルを嫌い、実際に、これを回避してきた。4.エリートたちは成長に関心が薄く、所得以上に支出することを不道徳だと嫌っている。
ドイツがそうである以上、ユーロ圏は深刻な危機を迎えるでしょう。そして、結果的に連邦型の財政制度を採用するとしても、かなり悲惨な過程で合意を探るしかない(あるいは、ユーロ圏を解体する?)わけです。もし調整や制度の改革が容易に進むとしたら、皮肉なことに、それはヨーロッパが嫌っている米英の「放蕩癖」が再現して、潤沢な需要を与えてくれる場合だ、と。
The Guardian, Monday 15 December 2008
Sit it out, holidaymakers
Bill Emmott
(コメント) ユーロを採用しないイギリスはどうでしょうか? Bill Emmottは、誰もポンドに注目しないことを歓迎しています。ポンド安に対して、政府も放置する姿勢です。それは正しいのです。ポンド安は、イギリスがインフレを心配する必要はなく、むしろデフレを心配しており、金利の上昇を加速する心配もないとき、急速な景気の悪化を緩和するでしょう。
他方、ユーロ高に注目する市場は、それが深刻な政府対立を生じることに気づいていません。ユーロが誕生して以来の深刻な不況を経験する中で、ECBの金融緩和やユーロ安を期待できないとき、財政刺激策や輸入拡大に関心を示さないドイツに対して、彼らが一斉に財政規律を無視した刺激策を採用するのは確実です。
・・・つまり市場の関心は、ユーロ解体、に変わるでしょう。
SPIEGEL ONLINE 11/24/2008
TO BAIL OR NOT TO BAIL: German Government 'Has to Step into the Breach'
By Nina Bovensiepen, Dietmar Hawranek and Christian Reiermann
(コメント) 社会民主党の左派でルター派のキリスト教徒であるドイツの財務長官、Peer Steinbrückは、大規模な救済や財政刺激策を道徳的に嫌っており、その要請を受け入れる気がありません。それはドイツの政治的な議論を支配する戒律でした。
1960年代、70年代の債務による政府支出は何に消えたのか? 無駄だった、とSteinbrückは断定します(日本の無節操な政治家とは全く違う、原則的・道徳的な美点です)。しかし、重要な影響力を持つ、経済専門家の政策諮問会議も刺激策を支持する方針転換を唱えます。1970年代の需要刺激策は、石油価格高騰への調整を見失った点で間違いだった。しかし、今は違う。金融危機によって生じた需要の落ち込みを補うべきだ、と。
他方、企業を救済したいときはどうすべきか? OPELの場合、それは親会社のGMが問題であり、OPELが救済されるとしたら、中国化インドの自動車会社が買収することだろう、と考えます。
FT December 10 2008
A car industry rescue just does not wash
By Jonathan Guthrie
WP Thursday, December 11, 2008
A Bridge Detroit Needs
By Carlos M. Gutierrez(U.S. secretary of commerce)
(コメント) 自動車産業を救済してほしい、という要請に対して、イギリスの話です。これまで外国資本に経営を明け渡すことで、イギリスの自動車産業は国際的な競争から守られました。しかし、今や世界的な金融危機と不況によって、再編や合理化が迫っています。Jonathan Guthrieは、他にもっと救済するべき産業がある、と考えます。政府が市場の勝者を決めることはできず、むしろ敗者を退出する程度です。
なぜ自動車会社を助けるのか? アメリカ政府の見解でしょうが、Carlos M. Gutierrezは雇用と不況対策である、と断言します。ビッグ・スリーは25万人を雇用しており、もし倒産すれば100万人が失業する、と主張します。その影響は他の地域、他の産業に及びます。ビッグ・スリーの再建は、アメリカ経済の再建に等しいのです。
FT December 11 2008
Chapter 11 is the right road for US carmakers
By Joseph Stiglitz
FT December 11, 2008
Will Americans demand the cars that Congress wants the big three to build?
By Robert Z. Lawrence
(コメント) Joseph Stiglitzの議論は説得的です。ビッグ・スリーを救済してはならない。なぜなら、それは(経営の失敗を放置してきた)株主の救済に過ぎないから。ビッグ・スリーは素晴らしい自動車を作る技術があり、アメリカにおける日系自動車会社で働く労働者が優れた労働の成果を示しているように、生産は継続する必要がある。それこそ破産法が求めていることだ、と。
破産法の下で、燃費の良い、環境に配慮した自動車を開発し、長期的な年金支払いを見直し、追加の融資を受けられる。他方、株主はすべての損失をこうむる。だからモラル・ハザードを許さない。年金基金が破たんするとしたら、それはビッグ・スリーを救済して間接的に支持するのではなく、直接、支援する方が良い。金融機関を巨額の資金投入で救済した(AIGに1500億ドル)後では、ビッグ・スリー救済の資金(たとえば340億ドル)などわずかな追加に見える。しかし、ブッシュ大統領は数か月前、貧困家庭の子供たちに対する数十億ドルの医療保険を削った!
金利も、為替レートも、経済活動に大きく影響します。そして石油価格もです。Robert Z. Lawrenceは、自動車産業の復活のためには、国内のガソリン価格が、今は低く(国際価格を反映して)、しかし、将来的には高くなること(国際価格の大幅な変動を排除して)が望ましい、と主張します。
自動車の技術革新を政府が支援する点で議会は合意するでしょうが、それだけではアメリカ自動車産業は復活できません。消費者の選択も、新しい燃料の普及も、政府が命令するより、市場価格が正しい動機を与えなければならない、と。それがガソリン価格なのです。アメリカ政府は世界の石油価格を決めることはできないが、国内の最低価格を決めることはできます。
NYT December 13, 2008
U.A.W. at Center of Dispute Over Bailout
By MICHELINE MAYNARD
WP Wednesday, December 17, 2008
Destroying What the UAW Built
By Harold Meyerson
(コメント) 労働組合は、ビッグ・スリー再建の交渉に労働組合との協約を見直すことが重視されていることを懸念しています。政治家が組合労働者に対する賃金を決めるのは受け入れられない、と。2007年の交渉で、新規採用の労働者に対する賃金はカットしましたが、長年勤めている労働者の賃金は変わりません。時給にして55ドル、年金支払いの負担などを考慮すると、時給70ドル以上する、ということです。外国資本の自動車会社では自給45ドル、しかも、コストとなる「遺産」がありません。
Harold Meyersonの記事によれば、1949年、アメリカの自動車業界に巨大さではなく「小型車」を評価するよう求めたのは、労働組合(UAW)のパンフレットであったそうです。UAW(と、その委員長Walter Reuther)は、単に最も先進的な労働組合であるだけでなく、アメリカ社会の未来を構想する最も優れた組織であった、と。
UAWは、それだけにとどまらず、アメリカ社会のリベラルな変革を指導し、労働組合の革新的な合意を積み重ね、同時に、そのさまざまな社会運動を支援してきました。1963年のキング牧師のワシントン大行進も、女性解放も、環境保護運動も。早くから国民医療保険を唱えたのもUAWであった、ということです。そのせいで、保守派の政治家たちはUAWを極端に嫌うのです。
ブッシュ政権が人気の最後になって、ビッグ・スリーへの「つなぎ融資」を認めたのは、その条件としてUAWに譲歩させることがあったからだ、とHarold Meyersonは考えます。保守派の政治家たちは、少なくとも、UAWの労働者に年金を支払いたくなのです。さらに言えば、アメリカ人の生活水準を高めることに貢献したこの組織を破壊したいのです。大恐慌以来の最大の不況が襲う中で!
NYT December 10, 2008
Dire Forecast for Global Economy and Trade
By MARK LANDLER
The Japan Times: Wednesday, Dec. 10, 2008
Managing the international economic crisis
By KUMIHARU SHIGEHARA
(コメント) 金融危機から世界貿易の縮小、そして世界的な不況、というのは1930年代の悪夢を再現するメカニズムです。国際商品価格の上昇で苦しんだ国もあれば、その急激な下落で苦しむ国もあり、急激な資本流入や資本流出で破壊された市場もあります。金融危機と不況は、金利水準の上昇、融資の途絶、資本逃避、輸出の急速な減少、などによって、これまでの世界市場統合を大きく後退させました。
通貨や貿易の混乱が、通貨価値の競争的切り下げ、市場介入・保護措置、ナショナリズム、軍備拡張・軍事衝突、といった政府の行動にまで及ぶのか、国際機関が協力を促しますが、不安は高まるでしょう。
重原久美春氏は(あるいは、たとえば、F.バーグステン、J.ウィリアムソンも)、雇用を創出する国際政策協調を求めます。為替・金融・財政政策に関して、主要国が協調するなら(G20でも、OECDでも、+BRICsでも、APECでも)、大規模な刺激策を採用できます。ただし、その中でも、円高が日本だけ輸出を減らし、マイナス成長を押し付けるという予想に、日銀の金融緩和や政府の円高抑制介入を求めています。
FT December 10 2008
The fiscal cure may make the patient worse
By Leszek Balcerowicz and Andrzej Rzonca
(コメント) 財政刺激策は万能か? 財政刺激策の要求に強く反対する論説がありました。
Leszek Balcerowicz(ポーランドの元財務長官、中央銀行総裁) and Andrzej Rzoncaは、金融緩和と並んでますます求められている財政刺激策の効果が、消費者の反応(あたかも、パヴロフの犬)を勝手に前提したもので、根拠がない、と批判します。消費者は予想によって反応を変える。
たとえば、1990年代初めのスウェーデンにおける銀行危機において、政府は大幅に財政刺激策を用いたが、財政赤字の急増を悲観して消費は逆に減った、と言います。また、財政赤字の増大は金融ひっぱくを悪化させ、途上国の場合は外国からの資金調達を妨げます。日本の経験を考慮しても、不況やデフレの予想が重要であったと思います。
巨額の財政支出を行うという圧力は、もちろん政治家を喜ばせるけれど、効果的な長期投資にならず、政治的な圧力に支配され、あるいは、汚職が蔓延する、と注意しています。
こうして、リスク管理に失敗して起こした金融危機であれば、同様に、政府が巨額の財政赤字の管理にも失敗して、大きな失望、もしくは国民への負担を残す結果になるのは当然です。
NYT December 14, 2008
To Build Confidence, Aim for Full Employment
By ROBERT J. SHILLER
(コメント) 他方で、ROBERT J. SHILLERの論説は、その核心に対応していて、興味深いです。すなわち、政府が約束するのは財政刺激策の規模でしかない(そしてオバマは250万人の雇用創出を約束しています)。むしろ、完全雇用を実現する、と約束することで、人々を安心させる方が良い。それによって消費は回復し、投資や雇用も回復する、と述べています。
金融政策において、インフレの抑制が目標として示され、人々の期待に影響を与えました。しかし、今やインフレは(消費や投資を損なう)重要なリスクではなくなり、むしろデフレや不況が人々の不安を高めているのです。それゆえ、従来の金融政策・財政政策だけでなく、金融市場の利用可能性(信用供与)を目標として、完全雇用を約束します。
WP Sunday, December 14, 2008 5 Myths About Our Sputtering Economy By James P. Moore Jr.
LAT December 16, 2008 It's no time to panic Jonah Goldberg
Dec. 17 (Bloomberg) When My Recession Becomes Your Great Depression Amity Shlaes
(コメント) James P. Moore Jr.は、アメリカ経済は今も国際競争力を持った多くの産業と活発な投資、世界中からの資本流入を基礎に、世界貿易と成長を支えている、と強調します。中国ではなく、今もアメリカこそ、世界経済の成長のエンジンなのです。
経済危機は、それまで常識であった賢明な行動基準を逆転させるかもしれません。たとえば、失業を抑える方法として、ケインズのように需要を維持するより、フィッシャーのように賃金を物価水準に合わせて引き下げるような契約に合意することが重要かもしれません。
FT December 10 2008
Muddling through a middling slump
NYT December 12, 2008
Even in Hard Times, Japanese Companies Reinvest in Themselves
By MARTIN FACKLER
Dec. 12 (Bloomberg)
It’s Aso Versus Bush in the Big Debt Sweepstakes
William Pesek
FT December 12 2008
Fukuoka summit
Dec. 15 (Bloomberg)
Get Ready for ‘Toyota Shock’ With Dollar’s Slump
William Pesek
(コメント) 日本は輸出に頼る経済を転換しなければ、外国市場の悪化によって不況を余儀なくされるわけです。では、日本の消費は伸びるのか? 金融政策にも、円安による輸出の増加にも、日本は頼れない、あるいは、頼るべきではないから、財政刺激策によって輸出の減少による不況を緩和するしかない、とFTは考えます。
むしろ、なぜ今まで、もっと内需を基本とした成長が実現していなかったのか(そして財政再建を済ませていないのか)、が悔やまれるわけです。
MARTIN FACKLERの記事は、日本経済が急速に落ち込む中で、日本企業の雇用縮小、あるいは、長期的な投資の継続が、激しい国際競争や技術変化にさらされながら追求される現場の緊張感を伝えています。わずかな時間で、トヨタやソニーでさえ、世界の優良企業という評価を失うような危機に直面しています。
ブッシュと麻生が世界のリーダーを賭けて競うのは、William Pesekの皮肉な視点で、世界最強(最恐?)の債務国という地位です。アメリカはGDP比3.6%、日本は5.2%です。イラク戦争や不況脱出のため積極的な支出を計画するアメリカは日本を急追しますが、日本も負けていません。日本はOECD加盟30か国中、その公的債務残高がGDP比170%という最悪の地位を譲りません。
ところが、アメリカ経済は民間の債務で成り立っており、その市場債務を合計すれば51兆ドル、GDP比357%ですし、1929年の大恐慌がはじまったとき、債務はGDPの185%でした。アメリカも日本も、市場に債務を売りつけることは極上の手腕を発揮します。しかし、また、1992年のJames Carvilleの名言のように、債券市場が世界を恐怖させ、その後、株式市場が、そして今や、日米政府の債券格付けが投資家たちを眠れなくするわけです。両政府が一斉に不況に入って、その競争が激しくなるとき、緊張の夜が続くのかもしれません。
FT December 10 2008
FT December 11 2008
How to make ‘made in China’ less alarming
By James Rice and Matthew Waller
(コメント) 中国は、輸出の落ち込みと価格の下落、直接投資の減少(過剰な契約の減退)により、失業の増加、デフレが懸念されています。
他方、中国製のペット・フード、おもちゃ、食品、などの安全性について、国境を越えた供給ラインの検査体制が確立される方向で米中の協力が進んでいます。
FT December 14 2008
Asia faces a tough 2009 as output decreases
By Michael Pettis
FT December 15 2008
China’s economy hits the wall
By Gideon Rachman
FT December 16 2008
Unmade in China
By Geoff Dyer
FT December 17 2008
China’s ‘warp-speed’ industrial revolution
By David Pilling
(コメント) Michael Pettisは考えます。アメリカの金融危機でその莫大な消費市場が失われるとき、1.アメリカの消費や公共投資をさらに融資してやる、2.アジア自身が莫大な財政支出で内需を刺激する、3.アジアの過剰生産能力が破壊される、という三つの選択肢に直面します。
しかし、過剰消費に頼る成長を再開することは長期的に破たんを避けられず、アメリカの代わりに内需を拡大する規模は実現不可能です。つまり、アジア諸国は輸出向けに蓄積してきた生産能力を破壊する「調整」に入るわけで、それを嫌って過激な貿易・通貨摩擦が起きるという懸念が深刻になっています。1930年にアメリカが採ったスムート=ホーレイ関税と大恐慌への分岐点に、世界は再び直面しているわけです。
Gideon Rachmanも、中国には国民が不満を表し、政策選択を変える民主的な仕組みがなく、地方では騒乱が頻発し、都市富裕層にも株価や不動産価格の下落を許せないと感じる人々が増えています。アメリカやEUの保護主義が顕著になれば、2009年が1989年天安門事件以上の騒乱や国際紛争の年でなっても、不思議ではないでしょう。
Geoff Dyerの論説は、中国の靴の街、Wenzhou、を紹介しています。たとえば、1988年、親せきから借りた資金で始めたLi Anlianの靴工場は、今、その息子によって3,800人の労働者を雇い、年間1000万足を生産します。こうした工場が約30万社も集まって、Wenzhouを生産拠点にしています。
輸出不振と不況が広まるなかで、一方では社会不安と騒擾が深刻になり、他方では、共産党政府との関係を重視し、公的金融を得るために、民間部門の企業家が一斉に共産党の庇護を競う状態が現れているようです。改革開放路線の限界が試されています。
Asia Times Online, Dec 17, 2008 ASEAN tightens up to ride China's rise By Brian McCartan Asia Times Online, Dec 17, 2008 China shelves island dispute, yet again By Wu Zhong
WP Wednesday, December 17, 2008 China's Charter
(コメント) 地域協力体制や領土問題、民主化の促進は、経済が成長し、たがいに貿易や投資を拡大する中で話し合う方が解決できたはずです。不況が来ても、その後退を阻めるか?
The Guardian, Thursday 11 December 2008
Costas Pitas
IHT Thursday, December 11, 2008
Why Athens is burning
By Stathis N. Kalyvas
WSJ DECEMBER 11, 2008
The Fall of Athens
By TAKIS MICHAS
(コメント) 15歳の少年、Alexandros Grigoropoulos、が警官に射殺されたことは事件の発端でしかなく、ギリシャの騒擾はもっと根深い問題です。若者たちは、現在の腐敗した政治支配層、選挙政治のシステムに深く失望している、と言います。A feeling of unfairness, poor treatment by incompetent authorities and a glass ceiling is widespread among the younger generation.
また、若者たちはヨーロッパ諸国やアメリカへの出稼ぎから帰って、すぐれた経験や知識を持っているのもかかわらず、雇用されません。彼らは自国の民主主義に対する不満を明確に持つようになりました。
政治の腐敗や無能さに若者が激しく抗議する。Stathis N. Kalyvasは、そうした解釈に反対です。なぜなら、これはアナーキーな「暴動riots」を演出する少数の反体制集団が広めている政治文化現象だからです。彼らは社会的に差別・抑圧された貧困層や隔離された移民の子孫ではなく、比較的富裕な中産層の若者です。
ベルリンの壁崩壊で顕著に示されたように、群集の抗議に対する警察の介入は、それが広く関心を集まる問題であれば、多くのジャーナリストを集め、激しい抗議ほど警備する側が難しい状況になります。対抗して暴動を鎮圧する治安部隊はマスメディアに監視され、政治家が強く批判されて、結局、暴動が広がるのを放置するしかないのです。こうした現象は他の都市にも波及し、破壊行為を正当化して悪循環をなす、とStathis N. Kalyvasは批判します。
フーリガンと言い、社会的・経済的騒擾、都市暴動と言い、世界的な不安定性と不況の深刻化がいたるところに輸出しているように見えます。もうすぐ、日本にも届くのでしょうか?
The Guardian, Thursday 11 December 2008
Peter Bofinger
(コメント) それはグローバリゼーション下の「国家の再建」として、あるいは、「ユートピア国家の再臨」として描かれるビジョンです。
言うまでもなく、市場はあまりにも短期的、利己的であり、市場自身が社会的・政治的に維持できないような破壊行為を制御できません。金融市場に限らず、グローバリゼーション下の諸問題に、国家の介入や規制が必要になるでしょう。
Peter Bofingerは、特に二つを指摘します。すなわち、貧しい家庭が子供を産み・育てるのを保障する「マイナスの所得税」、そして、平等な市場競争が行われていることを人々に納得させるために十分な教育制度と相続税です。
北欧諸国が示したように、高税率は必ずしも国際競争力を破壊しません。「良いホテルと同じように」とPeter Bofingerは指摘します、住民や企業は優れたインフラ設備や、効果的な教育システム、犯罪の防止、好ましい文化に対して、支払う用意があるのです。
自由な市場が人々に好ましい生活をもたらさないなら、その未来を失います。
The Guardian, Thursday 11 December 2008
It's our time
Polly Toynbee
WP Friday, December 12, 2008
The Real Obama
By Charles Krauthammer
(コメント) 突然、イデオロギーや世論がさかさまになって、ビッグ・ガバメントが要請され始めたことをPolly Toynbeeは考えます。イギリスでも、金融危機と不況により、ビジネス界、保守党、地主も、規制や介入を求めています。そして、世界の需要管理を目指す温暖化防止、オバマ政権の誕生が迫っています。
他方、Charles Krauthammerはオバマの変革を懸念する保守派です。オバマの経済チームや外交チームを観て、そのプラグマティスト(現実重視)やセントリスト(中道・穏健)に感銘を受けているとしたら、それは間違いだ。オバマはソ連を滅ぼすために大統領になったわけではないし、アフガニスタンの管理を目指してもいない。金融システムが再建されるのは好都合であろう。
オバマが目標としていることは、この経済危機を絶好の機会として、アメリカを根本的に改造することである、とCharles Krauthammerは強調します。それはF.D.ルーズベルトがなしたことであり、オバマがシカゴのコミュニティーを再生する社会活動家として目標にしたことである。彼は今や、その財源と政治的な支持を得た。だから、現実的でも、穏健でもなく、アメリカ社会を根底から変えるのである。・・・だまされるな?
FT December 11 2008 Slicing salaries
The Guardian, Friday 12 December 2008 The pact between rich and poor Wolfgang Thierse
LAT December 15, 2008 Recession's silver lining Gregory Rodriguez
(コメント) かつては英米にも「終身雇用“a job for life”」という言い方があったようです。今では賃金を下げても雇用を守りたい、という要求に変わりました。しかし、厳しい不況になれば、賃金切り下げで助かる企業は限られています。あるいは、慈善活動。
Gregory Rodriguezは、金融危機のプラス面を指摘します。革新、団結、・・・?
CSM December 12, 2008 edition
Zero hour in Zimbabwe
By The Monitor's Editorial Board
FT December 14 2008
Rescuing Congo
The Japan Times: Sunday, Dec. 14, 2008
Human rights require stronger institutions
By MARY ROBINSON and DESMOND TUTU
The Guardian, Wednesday 17 December 2008
Keeping watch in Georgia
Conor Foley
(コメント) 西側の国際軍事介入は、国連においてもNATOにおいてもその政治的意志を欠いています。周辺のアフリカ諸国が積極的にムガベの行動を抑制し、権力を放棄させるべきだ、という声が強まっています。あるいは、かつてフランスがコンゴへ、イギリスがシエラレオネへ行ったように、EUによる軍事介入です。
世界人権宣言the Universal Declaration of Human Rights (UDHR)が承認されてから60年が経ちました。ジンバブエを支配するムガベの与えた暴力、貧困、疫病は、こうした宣言がいかに無力であるかを示しています。個人的自由、社会的な保障、経済的機会を、UDHRは求めました。差別や抑圧、不正義、無視、搾取、貧困は、法律によって解消できません。改革を進め、人権を尊重する、政府の機構が必要です。それを利用する機会はまだまだ一部の住民に限られています。
グルジアに侵攻したロシア軍の撤退を要求し、監視するために、EUは要員を配置しました。ソフト・パワーによる一定の影響力が試されています。
YaleGlobal, 12 December 2008
Obama’s First Trip Abroad Should Be to China
Jeffrey E. Garten
(コメント) オバマ新大統領が最初の訪問先にするのはどこか? Jeffrey E. Gartenは中国にします。米中関係を重視する姿勢を示すためです。かつて、ポールソンが中国に飛んでアメリカの金融政策を説明した、とコメントしたことを思い出します。
Jeffrey E. Gartenは、中国がいかに重要か、投資、通貨、WTO、北朝鮮、パキスタン、G20、安保理、など多方面に言及します。2兆ドルの外貨準備を含めて、特に経済領域では、圧倒的です。
クリントンやブッシュに比べて、オバマは中国を悪しざまに非難していません。外交的に中立な立場で、米中関係を構築できます。世界不況の中で、米中の財政刺激策は最も重要です。アメリカは特に中国の人民元レートが増価を続けるように求めていますが、中国はそれを抑制する兆しがあります。中国がもっと内需を拡大し、IMFを介して金融危機の波及を抑える国際支援に協力すべきだ、と考えます。
米中間で話し合うことが、国際制度の将来の役割や改造を決めるでしょう。安全保障やエネルギーに関しても同様です。
もっと世界中を訪問するべきだ、中国を重視することに日本が反発する、インドネシアやインド、韓国、などを軽視できない、という批判を、Jeffrey E. Gartenは退けます。オバマが重視する国内改革にとっても、中国との関係こそが決定的だからです。ある意味で、中国だけが、アメリカの計画を破壊できるのです。
NYT December 15, 2008
Mr. Obama’s First Trip
By MICHAEL FULLILOVE
FT December 16 2008
Middle East needs Obama’s touch
By Richard Haass and Martin Indyk
(コメント) MICHAEL FULLILOVEはオバマが約束したイスラム世界との和解を目指すために、インドネシアを最初の訪問国に選ぶべきだ、と考えます。Richard Haass and Martin Indykは、訪問先の選択には中東世界の安定化という目的を考慮します。
WP Saturday, December 13, 2008
Dealing With Revisionist Russia
By Ronald D. Asmus
NYT December 16, 2008
Russia Devalues Ruble for 2nd Time in Week
By ANDREW E. KRAMER
(コメント) ロシアの示すヨーロッパの新しい安全保障メカニズムに合意するべきか? ロシアは重要な役割を担うけれど、同時に、ナショナリズムを強め、歴史の再解釈による秩序の改編を目指しています。
ロシア経済も、石油価格の下落が続けば、その外貨準備にもかかわらず再編を強いられるでしょう。ルーブルの価値が下落するのは、それを準備する過程です。一方でルーブルの暴落を避けながら、他方で、輸出入の不均衡を是正しなければなりません。
WP Monday, December 15, 2008
The Day the Door to China Opened Wide
By Richard Holbrooke
(コメント) ニクソンとキッシンジャーは米中国交を再開した、ということで有名ですが、本当に国交を正常化したのはカーター政権だった、とRichard Holbrookeは書いています。しかも、その過程は台湾ロビーとして有名な保守派の重視する安全保障問題があり、バリー・ゴールドウォーターやロナルド・レーガンが激しく抵抗しました。
台湾ではなく中国に外交の重点を置き換えたことは、今日の中国の発展を説明しますが、同時に台湾の苦境にも(それは必然ではないですが)関係しています。ベトナムとの国交正常化も、さまざまな経緯があったのでしょう。しかし、ベトナムはASEANに受け入れられて、地域全体で発展しようとしています。つまり、・・・日本はどうなるのか? あるとき、麻生首相が温家宝首相と握手した映像で、温首相は手を握っても決して麻生首相に笑顔を向けなかったな、と思い出しました。アメリカは、日本ではなく、(必然ではないけれど)次第に、中国を主要パートナーとします。
WP Wednesday, December 17, 2008
By Robert D. Kaplan
IHT Wednesday, December 17, 2008
And then there's the rest of the world
By Paul Kennedy
FEER December 2008
China and the End of the G-8
by Gregory Chin
(コメント) アメリカ衰退論は間違っている、とRobert D. Kaplanは考えます。イラク戦争、アジアの経済的興隆、アメリカ発の世界金融危機、こうしたことが組み合わさって、世界におけるアメリカの指導力は根本的に損なわれたのか?
イギリス海軍の衰退は1890年代に始まっていたが、その後も半世紀にわたって、イギリスは世界戦争の勝利に決定的な貢献をした。ただし、幻想や価値を押し付ける帝国であることをやめて、よりプラグマティックな、貿易・教育・技術に依拠して軍務に服する国家になった、と。アメリカもそうなるだけである。アメリカ海軍は、中東やマラッカ海峡の警備を、時とともに、インドや日本(そして中国)と共同で担うようになるだろう、と考えます。
確かに「一極世界」は失われたが、かと言って、アメリカはスウェーデンにならない。世界中が「アメリカの覇権」という言葉を嫌うが、中東和平も、イラクも、アメリカ抜きには解決できない。それは新大統領が内外で高い支持を得ている以上、軍事的。外交的なだけでなく、道徳的にも重要な影響力を確保することによって強められる。
「支配するとは、選択することである。」 Paul Kennedyは、オバマがアメリカの権力を握ったことで、その選択から外れるテーマを指摘します。なぜなら、オバマはその力を国内経済の復活、国際的な地政学上の地位強化、に向けるからです。
彼が無視するのは、1.ラテンアメリカ、2.アフリカ、3.国連とブレトン・ウッズの制度改革、4.EUおよび大西洋関係、です。・・・日本は、すでに視界から消えてしまった?
G7でも、G20でもなく、国際秩序を決めるのは、G2(米中対話)である、と中国の指導者たちは考えます。
NYT December 15, 2008
The 17th Floor, Where Wealth Went to Vanish
By DIANA B. HENRIQUES and ALEX BERENSON
FT December 15 2008
Madoff fallout spreads worldwide
WP Tuesday, December 16, 2008
Tumble From a Pyramid
By Anne Applebaum
(コメント) (自分で認めている額で)500億ドルの金融詐欺です。Bernard L. Madoff Investment Securitiesを運営しているマドフの下に、さまざまな金融機関が資金を委託しました。推定被害額は200億ドル。
次々に新しい資金を得て、古い資金提供者には高い利回りを支払い、さらに資金を集める、という昔からの金融詐欺です。問題は、なぜ一人の人物が、これほど長く、これほど巨額の資金をだまし取れたのか? です。証券取引は自身の証券会社内で処理され、顧客は彼の個人的な友人として広がりました。特別な儲け、であったわけです。
ワルシャワで自動車を買うのは現金に限る? ロシアの金持ちは信用できない? ラテンアメリカ、あるいは、中国の商売は儲けが消えてしまう? そんな「文化」を国際ビジネス・マンは解説してきたけれど、実はアメリカにもある、と分かりました。世界中が、同様の「文化」を蔓延させたはずです。その除去には何が必要でしょうか?
LAT December 17, 2008 The moral of Madoff's tale Tim Rutten
NYT December 17, 2008 The Great Unraveling By THOMAS L. FRIEDMAN
FT December 17 2008 Wall Street insiders and fools’ gold By John Gapper
FT December 15 2008
The crisis gives the US new financial power
By Ricardo Hausmann
NYT December 17, 2008
A Dicey Safe Haven
By EDUARDO PORTER
FT December 17 2008
How to fight the global financial contagion
By Dennis Snower
(コメント) Ricardo Hausmannは、金融危機が逆にアメリカの覇権を強化する、と主張します。すなわち、アメリカには資金が流入しているのであって、他国はアメリカからそれを融資してもらわなければ大変な不況に苦しむ。アメリカは、世界が流入させる5兆ドルを使って金融救済とリフレ政策をとり、経済を再建して、輸入も再開してやらなければならない。アメリカ市場に向けて輸出している国も、アメリカの市場に融資と輸出再開を懇請している。
こうして、アメリカはますます強大なソフト・パワーを手に入れたのです。こうした金融市場に不安を感じる国も多いでしょうが、Ricardo Hausmannは対策を用意しています。それは、FRBがメキシコや韓国などに行ったように、その国のドルに依存した流動性を保証してやることです。また、各国(あるいは地域)で介入基金を作って、公的・民間債券の市場安定化操作を行うことです。それは、たぶん、将来の世界連銀を準備します。
しかし、EDUARDO PORTERは、このアメリカ(政府債券)という避難所を信用できるのか、不安を残します。円も、ユーロも、その代わりにならなかった。それだけの理由で、ドルが支持された。
Dennis Snowerは考えます。金融規制は改善されておらず、金融機関の支払い不能は続き、たとえ救済されても融資を増やさないかもしれない。その意味で、金融危機の解決策は、問題のある金融機関を特定し、その返済を保証することだ、と主張します。これによって金融機関はよみがえり、金融市場の不安は解消され、債券と株式が交換されるので、政府も税金を浪費しない、と。
金融市場の麻痺、連鎖的な破綻、を終わらせるでしょう。
BBC 2008/12/16
Migrant workers under pressure
By Stephanie Holmes
(コメント) 世界的な不況の広がりは、そのもっとも弱い位置にある移民・出稼ぎ労働者を切り捨てています。中国では、数少ない求人に対して無数の労働者が殺到し、混乱が生じています。
移民たちの送金は、世界人口の10分の1に影響を与えているということです。金融危機は彼らにも厳しい選択を意味します。世界銀行は、移民たちによる非正規の海外送金額を年間3500億ドルから6000億ドルと推定します。
世界第3位の移民送金額を受けているメキシコは、その額が8%減少したようです。発展途上諸国への投資や援助が減る中で、移民の送金はますます重要になっています。
BBC 2008/12/16
US rates slashed to nearly zero
FT December 16 2008
‘Helicopter Ben’ confronts the challenge of a lifetime
By Martin Wolf
(コメント) 金利の引き下げがゼロにまで達して、あとは、量的緩和、為替レートの減価、そして財政刺激策、という話になります。そして、日本がなぜ回復できなかったのか、という問題に戻るわけです。結局、誰も、本当に理解していたわけではない?
かつて、アメリカは(日本と違って)デフレにならない。デフレになる前に通貨供給を十分に増やす、と主張していたバーナンキも、今なら傲慢であったと反省しているでしょう。通貨秩序は、中央銀行総裁が思いのままに作れるわけではないからです。
Martin Wolfは、中央銀行が長期国債を無制限に購入したり、政府が短期国債を無制限に発行したりして支出を増やせば、いつかデフレは終わるだろう、と認めます。しかし、かつて日銀や日本政府は、それほどまでに極端な金融政策が正常な秩序を破壊することを恐れて、行動できなかった、と考えます。・・・アメリカはそうではないようだ、と。
それが覇権国の自信・自負であり、基軸通貨国であることの特権であるかも知れません。しかし、失敗すれば信認(そして秩序)を大きく損ないます。しかも、現在のデフレの原因となったは、バーナンキがITバブル崩壊後のデフレを恐れて住宅バブルに火を付けたからであれば、その皮肉は将来を悲観させます。
WSJ DECEMBER 16, 2008
Bernanke Goes All In Article
NYT December 17, 2008
Fed Cuts Benchmark Rate to Near Zero
By EDMUND L. ANDREWS
The Guardian, Wednesday 17 December 2008
Rev up the helicopter
Richard Adams
(コメント) アメリカが国際通貨の供給を支配しており、世界の物価水準に強い影響力を持っているのであるから、国際商品市場そして世界の主要都市の不動産価格、主要株式市場、などが過熱してバブルを生じたり、それが破裂したことに、重大な責任を負わねばなりません。グリーンスパン=バーナンキが、いくらアメリカの景気やインフレを監視して、自分たちの積極的な(過激な?)政策変更を説明してきたとしても、結果的に、世界経済の長期的な混乱を助長してきた、という批判を避けることができるでしょうか?
しかし、消費者や投資家の不安が解消しないまま、連銀の過激な金融政策が効果を示すだろうか、とWSJも否定的です。また、減税ではなく、大型の公共投資を計画するオバマにも否定的です。
だれでも思うように、連銀はデフレを防ぐために貨幣を供給し続けており、それが終われば、インフレに転化しないように急速にこれを吸収しなければなりません。しかし、その判断は、規模や時期について、あらかじめ準備されていないと思います。このような金融操作を行うことの副作用も、未知の領域ではないでしょうか?
世界的な危機の広がりと、旧来の政策合意を投げ捨てて、主要諸国が次々と過激な実験的政策に乗り出す状況は、戦間期、と呼ぶにふさわしいです。次に大規模な戦争が起きるか、それはまだ分かりませんが、最終的な選択の過激化がたどりつくのは戦争です。
トヨタでさえ赤字を出す、と久しぶりの世界中のメディアが日本に注目しています。M.フリードマンはヘリコプターで貨幣をばらまく話をしましたが、いまでは自動車会社が世界中で救済資金をばらまく蛇口になろうとしています。
FT December 17 2008
Clarity is needed in the Fed’s new world
By Mark Gertler
FT December 17 2008
Quantitative easing: Lessons from Japan
By John Richards
Dec. 18 (Bloomberg)
Tax Treasuries to Avoid ‘Japan Disease’ in U.S.
William Pesek
The Guardian, Thursday 18 December 2008
Why such drastic action? The Fed is utterly petrified
Larry Elliott
(コメント) 「ようこそ、素晴らしい新世界へ!」US monetary policy has entered a brave new world.
Mark Gertlerは、新しい困難な状況で、連銀が最後の貸し手として、金融危機を回避し、抑制しなければならないことを理解します。さまざまな異常な行動は、正常な論理の延長であるとして、平静さを求めるわけです。
そして,いよいよ連銀も「量的緩和政策」に入ったとすれば,それを理解する上でJohn Richardsによる日銀の経験を考察した論説が有益です.量的緩和策はデフレを解消する効果がなかったし,むしろ国際価格のバブルを生み,その後の銀行経営に新しいリスクをもたらした,と批判しています.一時的な緩和策となりえても,長期的な問題(預金の保証,資本増強策,不良債権や企業の整理,金融規制)を解決する力はない,と.
もし貨幣を国債に換えてしまうことが問題であれば,国債の保有に税金を課してはどうか? というアイデアがWilliam Pesekの論説で検討されます.
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The Economist December 6th 2008
The king and them
Thailand’s king and its crisis: A right royal mess
Savings: Where have all your savings gone?
Savings: When the golden eggs run out
Economics focus: The teetotaller’s hangover
(コメント) タイのプミポン国王が尊敬されているとしても,それは彼自身の間違った政治介入や民主化の否定を隠し続ける法律の存在によって,そのゆがめられた情報に基づいて維持されています.この論説は明確に法律の廃止と民主制度の優位を主張します.
バブルをもたらした金融市場や金融政策への不信は,国民の貯蓄を市場から遠ざけ,日本と同じように,高齢化する停滞経済,投資の行われない金融マヒを長引かせるかもしれない,という考察です.そして,ある意味で対をなすのは,ドイツや日本が黒字を長期的に貯め込む姿勢に対して,低賃金や低投資を続けることは,結局,不況からの回復を外需に依存させている,という批判を展開します.
The Economist December 6th 2008
Muslims in European cities: A case for vigilance, not despair
Muslims and city politics: When town halls turn to Mecca
(コメント) 12月はクリスマスの季節である前に,イスラム教徒の祭日があり,主要都市ではイスラム教徒の家庭で羊を殺し,肉を取る祭礼が盛んにおこなわれるそうです.それは法律や都市の条例に違反しますよ,と広報を行いますが,なかなか守られず,市は大規模な会場の設けたりしているそうです.
ヨーロッパの諸都市で移民,特にイスラム教徒の移民が増え,モスクの建設や学校給食などをめぐって文化・宗教摩擦が激化していることは,「文明の衝突」と「宗教戦争」をもたらすのか? と日本でも恐れられているテーマについて,論説は楽観的・積極的な政治的妥協の可能性を示しています.
また,大規模なモスクの建設を阻止する住民運動が強い都市や,反移民のイデオロギーを掲げて当選した市長も,次第に,都市の住民としてイスラム教徒が互いの習慣や価値観を尊重するように求め,むしろ他の土地から侵入する過激な人種差別集団を非難する姿勢を示します.モスクは公共の建造物として開放的に設計され,大きな窓や展示,イスラム教徒以外にも分かるように,詳しい説明などが加えられている,と言います.
国政レベルでは,人種差別集団や排外主義的な団体が増え,民族差別のイデオロギーを一部の政治家が誇示するかもしれません.しかし,現実に移民たちが集中する都市の政治は,はるかにプラグマティックで,異なる宗教間の和解や開放的な姿勢と公共性を再建する政治の力を維持している,と指摘します.