IPEの果樹園2008

今週のReview

12/15-12/20

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

ビッグ・スリー救済、 タイ政治、 経済の縮小、 日本について、 オバマ人事、 G国家について、 中国について1,、 過激な金融緩和と財政赤字、 ニュー・ディール、 ロシア特集

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


LAT December 2, 2008

Nationalize GM

By Dan Neil

LAT December 4, 2008

The Big Three's bailout

LAT December 6, 2008

The Big Three's real union problem

By Jonathan Cutler

(コメント) Dan Neilは、GMの国有化を主張します。そして、クライスラーは倒産しても救済せず、フォードは自力で再建できる、と考えます。

なぜ政府が自動車会社を所有しなければならないのか? まず、GMは良い自動車を作れるし、アメリカ以外の市場では十分に利益を出している。GMがトヨタに負けるのは、労働組合との過去の協約による負担(医療・年金)が大きいからだ。そして、日本やヨーロッパ、中国の自動車会社は政府から補助を受けているからだ。と、Dan Neilは考えます。しかも、シティグループがそうであるように、GMを倒産させる影響は大き過ぎるのです。

また、アメリカの自動車会社が赤字を重ねた理由は、長期的な視野で環境を重視した自動車などを開発することができなかったからだ。それは経営陣や、短期的利益を重視する金融ビジネス、株主も悪い。だから、長期的な視野で、アメリカ中に充電できるスタンドを整備するような政府のインフラ投資も含めて、連邦政府が自動車会社を所有し、グリーン・カーを開発すればよい、と。その後、利益を出す会社を民営化すれば、国民に負担を求めることもない。

あるいは、トヨタやホンダでさえ売り上げが大幅に落ち込んでいるのだから、倒産させるのではなく、より小さな会社に分割して競争させる、という意見もあります。

もしビッグ・スリーを苦しめているのが労働組合UAW(the United Auto Workers)であるというなら、むしろ外国企業もUAW並みの労働条件に揃えるべきである、とJonathan Cutlerは主張します。労働組合は厳しい要求によって、自分たちが会社を潰してしまうことに気付いたわけです。

The Observer, Sunday December 7 2008

Detroit has run out of road. The car's future lies in Europe

Will Hutton

(コメント) 自動車は、20世紀のシンボルであった、とWill Huttonは書きます。ヘンリー・フォードが自動車を労働者にも買うことのできる工業製品として確立し、アメリカから世界中へ広まって、工業文明を変え、この地球上の文化を変えました。

デトロイトは自動車産業の中心地として、1950年代後半、世界中の自動車の5台に4台は生産していたそうです。そのデトロイトとビッグ・スリーが、倒産を避けるために、アメリカ議会に融資や援助を求めているのは、時代の大きな変化を意味しています。アメリカの製造業は、すでに先月だけでも50万人の職場を失った、と言われます。デトロイトの崩壊は数100万人の犠牲者をもたらすでしょう。アメリカ社会とアメリカ経済が岐路に立っています。

それは様々な危機として発生しました。金融危機は、自動車産業が変化に対応する時間と新しい投資を奪いました。また、経営者とブッシュ政権は、環境基準を満たす効率的な自動車の開発を無視しました。安価な石油と、ネオコンや市場原理主義に支配されたアメリカは、自動車産業の社会的な目標を奪いました。政府は悪をなすだけの存在として無視されていました。

アメリカの社会保障制度が整備されないままであったことは、自動車会社に労働者への追加のコストを支払う圧力を生じ、国際競争力を奪いました。これまで数10年にわたって当然とみなされてきたアメリカ社会の在り方、消費や経営の在り方が、自動車産業の崩壊とともに、その姿を完全に変えるでしょう。

政府と消費者、企業は、新しいビジョンを共有して、社会の規制の在り方・法律を決めます。たとえば、エネルギーの効率を高めるにも、ますます個人の移動集団から社会的な集団的移動集団にシフトするでしょう。自動車は公共の輸送手段を拠点としてプールされ、自宅を結ぶためだけに使います。

金融機関や自動車会社を一時的に救済することが問題ではなく、長期的な社会の姿を描かなければなりません。われわれはどのように移動するのか? 何を生産するのか? もっと相互に依存した、生活スタイルや都市の形、文明の性質が誕生します。

FT December 9 2008

From Tarp to Carp

NYT December 10, 2008

While Detroit Slept

By THOMAS L. FRIEDMAN

FT December 10 2008

Bridge to nowhere

(コメント) タープからカープへ? 金融資産の救済ではなく、自動車会社の救済に、議会は公的資金を使用するのでしょうか? アメリカの国民は多くが救済に反対していますが、政治家たちは支持に向かいます。金融機関への救済には、もっと反対意見が強かったのです。FTは労働組合が民主党に対して資金と支持を提供してきた点を強調します。自動車産業の政治支配は成功するのか?

THOMAS L. FRIEDMANは、国有化された自動車産業が次の移動手段を開発できるとは考えません。彼の考える世界では、新しいアイデア、新しい製品が、どこであれ、その最初にビジネス・モデルを形成したところから、世界中のネットワークを形成します。そして既存産業を消滅させるのです。たとえ政府でも、それを妨げることはできません。私たち納税者は、アイデアにもニュー・ビジネスにも投資しておらず、ただ旧産業の更新を助けて、莫大な損失を負担するだけです。

政治家が「皇帝」となって自動車産業を監視しても、それで産業の回復が保証されるわけではありません。


FT December 2 2008

Thailand’s revolting middle-classes

BBC 2008/12/03

How did Thai protesters manage it?

By Jonathan Head

(コメント) 大型バスを連ねて、そろいのTシャツを着た反政府デモが、警察や軍の介入を排除し、次々に最も重要な公的機関を占拠する、というのは、まるで東欧の社会主義圏崩壊を観るようです。いやそれ以上に、不可解なほど深刻ではない? その責任を負う者はなく、その被害は誰も支払わない?

タイは、これまでの民主主義に関する理論を覆しました。民主主義は、都市の豊かな中産階級、市民社会によって支持されるはずではなかったか? タイでは逆に、民主主義を廃止するように求めています。「代表制民主主義はタイに向かない!」

それはタイだけでなく、中国の都市富裕層を刺激します。そして中国を介して、世界の民主主義を震撼させるでしょう。

BBCの記事は、さまざまな光景を「超現実主義の記憶」と書いています。その疑問は、まったく、私にも納得いきます。つまり、わずか数千人の群衆が、観光や輸出、外国からの投資に依存している経済をなぜこれほど破壊する行為に及ぶのか? 法的な制裁を恐れずに、このような激しい経済の破壊活動を実行できるPADとは何か?

Jonathan Headは、要点を衝いて書いています。まず、PADの表の顔は中産階級の大衆抗議活動ですが、その裏では退役軍人や民間テレビ局、タイの大銀行などが支持組織を張り巡らせている、というのです。その意味では、タイは二重政権の時代に入ってしまったと思います。

タイ政府がPADの行動を容認したのは、首相府占拠を排除する際にケガ人が出て、国民が反発したことを気遣ったからでした。ところがPADは、警察が強制的な介入に躊躇していることを利用して、空港占拠を事前に計画していたようです。PADの行動は警察以上に組織力があり、群集を動かして、その食糧(さらに、水、毛布、医薬品)を十分に供給し、清掃作業や治安維持も独自に続けたと言います。政府側のスパイが見つかれば制裁が加えられた、と伝えています。

華人のビジネスマンだけでなく、企業や銀行からの資金援助も絶えることなく、さらに、反政府の宣伝活動(タクシンは邪悪で、われわれの金を奪い、無学の貧しい農民たちを買収した。タクシンはタイを滅ぼす!)が続けられ、軍隊・王室からも暗黙のPAD支持を前提されているような印象を国民は持ちました。

それは、アジア通貨危機後の市場自由化によって莫大な富を得たタクシンや外国資本に対する、旧支配層の怨嗟が政治的に組織され、過激な主張や行動によって、本来は重要な、互いの違いや長期的・国家的な見通しを無視しているのではないか、と思います。タクシンの新興ビジネスに集まる富の性質、それを利用した政治の改造、もしくは、個人的な支配強化は、イタリアのベルルスコーニ首相と比較されました。あるいは、自由化や通貨危機、経済混乱を利用して、個人的な強権支配と莫大な石油利権を確立したロシアのプーチンとも比較できます。

さらに、王室の問題を持ち出してPADはタクシン派を牽制しました。農民層からの強い支持を得て、タクシンが王室を廃止しようとした、という主張を繰り返しています。それゆえ、王室はPADに対する暗黙の支持を与えている、というのです。明確な証拠はなくても、そのような印象を与えることに成功しました。

タイでは、保守派と国際派・改革派・市場派、その他、さまざまな政治の流れが混乱し、制度が機能しないままです。なぜタクシンは市場を通じた改革を唱え、都市富裕層と新しい分配や秩序を分かち合わないのか、なぜ保守派は農民の支持をタクシン派と選挙において奪い合わないのか? 保守派がバンコクの既得権層であり、直接行動を重視している限り、農民が支持する政権は再び選挙で勝利し、両者が政治的に妥協するしかありません。

FT December 3 2008

Thailand: the next Asian basket case?

By David Pilling

(コメント) さて、トニー・ブレアが、デリア・スミスの料理番組にゲストで出演した、という理由で首相を引退しました。後任となったゴードン・ブラウン首相は、群衆がヒースロー空港を占拠したことで辞任し、その内閣はシェフィールドから政府を指導している、というわけです。この異常な政治風景は世界を驚かせています。

76年間の王政下で17回も憲法を改訂し、数多くの軍事クーデタを経験した国ですから、この騒動もそれほど異常ではないのかもしれない、とDavid Pillingは考えます。その背後では、貧しい農民や家政婦、タクシー運転手たちが、数の力で政治を変えること、大衆民主主義に対する、都市富裕層の反感があるのです。

The Guardian, Thursday December 4 2008

Astrology and politics in Thailand

Rattawut Lapcharoensap

WP Thursday, December 4, 2008

Thailand's Vicious Circle

FT December 4 2008

An intractable crisis in Thailand

LAT December 11, 2008

Bhumibol, Thailand's remarkable king

By W. Scott Thompson

(コメント) Rattawut Lapcharoensapは、タクシン元首相とその派閥の政治的腐敗には十分な証拠がある、と注意しています。また、PADが広めた反タクシンの政治宣伝(無学で、買収された農民の政治的な判断を否定する)は、今後のタイ政治において、手に負えない農民からの激しい反発を生じる、と指摘します。

子の反民主化運動の戦略は単純だ、とWPは指摘します。政府を、首都を、そして国の経済を混乱させて、軍隊か王様の介入を待つ。それだけだ。クーデタも含めて、3度の政変に成功したが、その究極の目標はまだ達成されない。すなわち、それは伝統的な政治支配層にとって、タクシンがその勢力を確立したような、貧しい農民、都市下層に依拠したポピュリスト政治、普通選挙権による政権の破壊です。しかし、それは達成できないでしょう。

PADが残すのは、単にタイ経済の混乱と国民の疲弊、暴力的対立のエスカレーションです。グローバリゼーションと民主化は、伝統的な政治支配体制を打ち負かし、その反撃もまた激しく続きます。WPは、暴力によってポピュリスト運動を倒すことはできない、という教訓を学ぶべきだと訴えます。

プミポン国王が政治に関して発言しなかったことは、民主主義にとって歓迎すべきことでした。しかし、タイ政治は、都市と農村、富裕層と貧困層とを含めた、国民の利益を示すことに、もっと努力しなければなりません。もし国王が発言するとしたら、そう言ったはずです。

W. Scott Thompsonによるプミポン国王の政治闘争に関する要約は興味深いです。プミポンの兄は、おそらく、軍により暗殺され、王位を継承しますが、その発言は無視され、あるいは軍に利用されました。1992年の、軍政府と学生運動との衝突が、プミポン国王の介入によって平和的に収束したとき、はじめてこの国王の権威は確立されたようです。首相と反政府の指導者が、国王の席まで床の上に這いながら近づき(その映像はテレビに流れました)、王の摂理に触れることで、王政下の民主体制は安定性を確立した、少なくとも国民がそう確信したからです。

The Japan Times: Tuesday, Dec. 9, 2008

Thailand turns: next stop Banana Republic

By SIN-MING SHAW

(コメント) 新しいバナナ共和国への転落か? SIN-MING SHAWの論説も有益です。

タクシンは、タイ政治の伝統を破って、選挙のよる勝利を、自分と仲間だけに、利益の再分配を適用しました。タクシンが勝利を重ねることで、バンコクの既得権層はすべてを失う恐怖に駆られたわけです。他方、農民たちはタクシンの買収によって投票した、と非難されました。しかし、債務を帳消しにしたり、医療費を安くしたりすることは、貧しい者にとって政府の行う好ましい再分配政策であり、それを惜しむ旧来の政治支配層を支持しないのは当然です。

他方、デモに参加することは、一日当たり300バーツの報酬と食事、それに、きれいな黄色のTシャツをもらえる、と宣伝されたそうです。これは、金で雇われた反政府集会です。参加者数万人から数十万人が、200日近くもタクシン派の政権打倒に街頭で雇われていたわけで、それを資金面で支えた旧支配層の広がりが示されています。

そんなカネがあれば、農民を豊かにするために使えばよい、と思いますが、農民は多く、もっとお金がかかるから嫌うのでしょう。


Dec. 3 (Bloomberg)

China, India Looking More `Third World' Again

William Pesek

FT December 10 2008

Prudent Asia is unlikely to bail out the west

By David Pilling

(コメント) アメリカに始まった金融危機は、アジアの成長にも深刻な打撃を与えそうです。得をするのはセラピストだけ、とWilliam Pesekは書いています。

不況から世界を救ってくれるのは中国か、インドか、と一部で期待されたのは一時的な慰めでしかなく、いまでは成長率の大幅な落ち込みによる、社会・政治不安が波及する震源地になると恐れられています。世界市場統合と自由化による成長加速というモデルが崩れて、再び自給的な、第三世界のイメージがよみがえるのでしょうか? 中国の大規模な財政刺激策は「張り子のトラ」でしかなく、インドのテロ対策はまるで不十分でした。

アジアの地政学的な不安が広まることを、タイの政治不安に見ている人も多いでしょう。中国であれ、インドであれ、タイであれ、観光客も、外国投資も、すでに脱出に向かっており、次の政治的パニックを準備しています。

たとえ欧米や日本が景気を維持するために政府や中央銀行による支出促進、放蕩奨励策が喧伝されても、アジアの伝統的な貯蓄志向は変わらないでしょう。それは世界の不均衡をますます解決できない問題にします。かつて日米の不均衡を「アリとキリギリス」の寓話によって揶揄した状態が、アジア規模で再現されているわけです。

しかし、David Pillingは、アジアの倹約を戦後の成長パターンによって有権者が身に付けたものだ、と考えます。日本など、アメリカ市場向けの輸出で成長したアジア諸国では、政府が通貨を切り下げ、価格カルテルを許して、消費を抑制し、輸出向けの大企業を優遇しました。また、社会保障制度の遅れも人々の貯蓄を促しました。

アジアの倹約は「文化」ではなく、「政策」であるが、それは容易に変わらないだろう、と。世界不況によって、すべてが変わるときまで?


BBC 2008/12/03

Nato disagreements still simmer

By Jonathan Marcus

The Guardian, Wednesday December 3 2008

Détente over Nato

Joshua Kucera

The Japan Times: Wednesday, Dec. 3, 2008

Time for Europe to fill a fading NATO's shoes

By NICK WITNEY

FT December 4 2008

Unilateral Germany threatens to weaken Europe

By Charles Grant

(コメント) ロシアとグルジアとの戦争によって、NATOに関する加盟諸国の意見が対立しています。ウクライナとグルジアへの軍事援助や加盟承認を求めるアメリカと、ロシアを刺激したくないドイツやフランスが対立します。また、アメリカはNATOの役割を拡大し、アフガニスタンも含めて、世界中の紛争解決に利用したいと考えます。

コソボで、ヴェネズエラで、ミサイル防衛システムで、ロシアはアメリカとNATOに対抗します。ソ連時代の冷戦や、1930年代のナチス・ドイツと比べて、対決するべきか、宥和するべきか、外交官たちは議論します。

NATOにおいてアメリカはEUが安全保障上の役割を担うように求めています。それは、日本が安保条約の改定を求められているのと同様でしょう。また、ドイツがEUに埋め込まれることで、他の国々は平和が維持されると考えます。通貨同盟でも、安全保障でも、ドイツが単独行動を選択する危険を、ヨーロッパの政治家たちは心配しています。日本は?

Charles Grantは、EU拡大以後、ますますユニラテラルに行動するドイツを考えます。ドイツにとって、EUを支持することは必ずしも利益でなく、障害になってきました。EUの政策だけでドイツの利益は実現できない。EUのために財政刺激策を取るべきか? イランの核開発を阻止するために経済制裁をするべきか? フランスと一緒にEUの軍隊を強化するべきか? ロシアとの天然ガス・パイプラインを中止するべきか? 環境規制を強化するべきか? 問題によって、アメリカやイギリスだけでなく、フランスやEUとも、ドイツの意見は食い違います。

それは、世代交代の結果であり、普通の「ナショナリズム」として、なくならないでしょう。


WP Wednesday, December 3, 2008

Was Summers Right?

By Ruth Marcus

NYT December 7, 2008

Harvard Lightning Rod Finds Path to Renewal With Obama

By JODI KANTOR and JAVIER C. HERNANDEZ

(コメント) サマーズは性差別主義者であり、女性は家庭で子供を育てる方が社会のためになる、と科学的に証明できるという人物です。その欠陥を認めたのでしょうか?

20066月に、彼はハーバード大学の学長を辞任しました。ハーバードの元同僚たちは、彼が他人の意見に耳を貸さない人物だ、と証言します。しかし、金融危機が深刻になったころから、サマーズの知識とアイデアが求められるようになりました。今は、バーナンキの後を狙っています。


NYT December 3, 2008 Calling All Pakistanis By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT December 3, 2008 India 9/11? Not Exactly By AMITAV GHOSH

LAT December 4, 2008 'War on terror' -- an exercise in folly Rosa Brooks

FT December 7 2008 India-Pakistan conflict returns to Kashmir By Sunandan Roy Chowdhury

BG December 7, 2008 The trail leads to Kashmir

WSJ DECEMBER 8, 2008 Pirates, Terrorism and Failed States By MAX BOOT

(コメント) THOMAS L. FRIEDMANは、2006年に、モハメッドの風刺漫画に激しく抗議したパキスタンの群衆がデンマーク大使館などを取り囲んだことを思い出して、多くの犠牲者を出したインド・ムンバイのテロ攻撃に対して、街頭で抗議する人はイスラム世界にも、パキスタンにも、いないのか? と疑問を示します。そしてパキスタン自身のために、市民を狙ったテロ攻撃を行ったイスラム教徒の武装集団に対して、パキスタンの民衆が抗議デモを行ってほしい、と願います。

こうしたテロをなくすには、貧しい、隔離された社会で、テロ組織の勧誘に従う若者を減らすことが重要です。できるだけ多くの人が声をあげて、逆に、テロリストを社会から締め出すこと、そのやり方を公然と非難することを求めます。

インド政府は繰り返されるテロ攻撃に対しても暴力的な対立が高まることを回避してきました。それゆえAMITAV GHOSHは、アメリカ型の9・11ではなく、スペイン型の11−Mを求めます。アメリカと違って、スペインの政府と警察はテロ攻撃に対して、近隣諸国と協力した警戒・忍耐・注意深い治安活動を展開しました。

Rosa Brooksは、こうしたテロ攻撃によって、「テロとの戦い」という主張が再生することを批判します。恐怖は心理状態であり、テロ行為は犯罪です。その意味で、人間の社会に昔からあるように、恐怖も犯罪も消滅することはなく、「テロとの戦い」という主張は意味のないものでした。むしろ、人々のパニックを増幅して、テロ集団が望むような社会の恐慌状態を正当化してしまう論理です。

私たちはテロ行為を減らす努力を持続しなければなりません。テロ攻撃に関する情報収集、特定のテロ集団に対する監視、さまざまな社会・政治問題(例えば、カシミール問題)の解決を通して、テロ行為は減るのです。


FT December 3 2008 Only new thinking will save the global economy By Mohamed El-Erian

The Times, December 8, 2008 A crash as historic as the end of communism Robert Peston

FT December 9 2008 Recessions give space for new ideas to flourish By Lynda Gratton

(コメント) 単なる景気の悪化ではなく、これまで蓄積されてきた不均衡が一気に崩壊するショックを味わっている、というのは、政府が何をなすべきか、慎重な判断を求めることになります。すなわち、介入を回復過程の基軸的な分野に限定すること。民間部門に協力する形にとどめること。

Robert Pestonは、このカジノ資本主義の崩壊をもたらした金融危機は、ソ連邦崩壊よりもわれわれの経済に大きな破壊的影響を与える、と指摘します。アメリカやイギリスの経済は、債務と消費の拡大に拠って成長し、この数年で急速に金融ビジネスを膨張させました。しかし、中国人民銀行のZhou Xiaochuan総裁は、アメリカのポールソン財務長官に、財政赤字や債務を減らすよう求めました。

米英経済規模の縮減、デ・レバレッジは、まだ始まったばかりです。そして、政府や金融市場に関する様々な反省が必要である以上に、グローバリゼーションに関するリスクが学ばなければならない教訓として残ります。私たちは、国境を超える財・サービス・資本の移動とリスクについて、情報を集め、協力して対処しなければなりません。

The Japan Times: Wednesday, Dec. 10, 2008

Managing the international economic crisis

By KUMIHARU SHIGEHARA

The Guardian, Thursday 11 December 2008

Tax and spend – properly

Peter Bofinger

(コメント) KUMIHARU SHIGEHARAは、日本が積極的な金融緩和と、一層の円高を阻止するような介入を行うべきだ、と考えます。「近隣化窮乏化政策」を回避する責任があるとはいえ、その分担をOECDの政策監視によって主要国、アジア諸国間で、相互に検討するのが望ましいでしょう。

Peter Bofingerは考えます。ソ連崩壊が市場システムに対する信頼を高めた結果、税金は減らされ、規制は解除されました。しかし、教育や治安維持、文化の質を高めることは十容易であり、人々はそのためになら支払います。優れた政府は、将来も、単に市場の圧力に従うだけではないでしょう。


YaleGlobal, 3 December 2008 Burma’s Nuclear Temptation Bertil Lintner

The Guardian, Monday December 8 2008 A world without nuclear weapons David Miliband

(コメント) 北朝鮮がそうしたように、独立を維持し、外国の干渉を排除するために、ウラン鉱山を持つビルマ(もしくはミャンマー)の軍事政権が、核兵器を求めているとしてもおかしくない? たとえ中国がそれを拒んでも、ロシアや北朝鮮は秘密裏に核兵器や技術を輸出するかもしれません。そして亡命者たちの証言では、すでに行われている、というのです。

国際合意による景気対策だけでなく、国際的な協調体制によって、核軍縮と廃絶を進めるべきだ、とDavid Milibandは主張します。


Asia Sentinel, Wednesday, 03 December 2008

Japan's Doing Better Than You Think

Philip Bowring

Dec. 5 (Bloomberg)

Japanese Must Have More Sex for Economy’s Sake

William Pesek

FT December 9 2008

Mini-size me

FT December 9 2008

Sony

(コメント) 与謝野大臣と話し合って、Philip Bowringは、日本経済はアメリカやドイツに比べて、それほど悪いわけではない、と考えます。アメリカは外国の貯蓄を奪って消費や投資に注ぎ込み、その資産が急速に減っています。ドイツも盛んに輸出して好調でしたが、EUが成長率で日本を超えるとしたら、ドイツではなく新規加盟諸国の成長率が高いからです。そして、欧米の金融危機で、円が唯一の避難所になってしまった以上、円高の影響が日本経済をデフレに向かわせるとしても、日本の不調を非難するべきではないのです。

しかしWilliam Pesekのように、日本人はもっとセックスしろ、と言われたら、大臣たちは困惑することでしょう。韓国も、ロシアも、子供が少ないという意味で、日本の長期的な低成長問題を共有します。かつて著名な投資家、ジム・ロジャーズは、こんなに出生率が低いままであれば、日本人は消滅してしまうだろう。いったい誰が莫大な債務を支払うのか? と問いました。あと5年で、65歳以上の老人人口が子供の数の2倍を超える、というのは不気味です。

働き過ぎ、と言われましたが、今なら、派遣労働者に家族や子供を養う賃金や労働条件を提示していないからです。低所得、不安定な雇用、少子化は景気を悪化させ、不況を長引かせます。William Pesekは、景気対策として今すぐにやるべきこととして、出産奨励金や、二人以上子供を育てる家庭への大幅な減税を求めています。今すぐやらなければ、間に合いません。

FTの短評は、縮み続ける日本経済とソニーについて厳しい内容です。プレイ・ステーションが、韓国のゲーム機に市場を奪われて行くように。

WSJ DECEMBER 5, 2008

A Japanese General Rewrites the Past

By WARREN KOZAK

The Guardian, Sunday December 7 2008

Understanding Pearl Harbor

Eri Hotta

(コメント) 67年たって、日本人の中には戦争の記憶や歴史を書き換えてしまう者が現れた、とWARREN KOZAKは、田母神論文を取り上げています。日本人は攻撃する意図など無かったが、戦争しなければ「白人の植民地にされただろう」という内容に、This would be news to the more than 15 million Chinese, Koreans, Filipinos and others who died at the hands of the Japanese. と慨嘆します。

世界中に歴史を書き換える動きはあります。そのひどい例として、ロシア、台湾、アメリカからも指摘しています。しかし、1945年の前半でさえ、日本人の手でアジアの民衆は25万人も死んでいった、と述べて、戦争ではなくジェノサイドである、と当時の日本政府を批判しています。

Eri Hottaは、日本政府が真珠湾攻撃を決断する過程で、いかに多くの異なった意見があったかを示しています。戦争への道は、東南アジアからの資源供給をめぐる日本とアメリカの制裁・報復合戦によってエスカレートしました。F.D.ルーズベルト政権との外交交渉が進まず、アメリカが空母を派遣したこと、中国からの全面撤退を求める強硬な国務長官ハルのノートなどから、穏健な外交的解決を求めていた日本政府は奇襲攻撃を切り札にした、と考えます。

そして、西洋人の傲慢さに対するアジア諸国の戦争である、という大義を掲げたわけです。


WP Wednesday, December 3, 2008 Closet Centrist By Michael Gerson

BG December 3, 2008 A strong message from a team of stars By Scot Lehigh, Globe Columnist

The Japan Times: Wednesday, Dec. 3, 2008 Hillary has earned a place on the world stage By NAOMI WOLF

FT December 4 2008 Never mind the team: the president does the moves By Philip Stephens

(コメント) オバマの意外な閣僚人事について、さまざまな意見が出ています。結局、マッケインを破ったオバマが事実上のマッケイン政権を作ったのか? オバマの本心はどこにあるのか? 隠れラディカル(左派)ではなかったのか? リベラルな支持者たちは大きく失望したのではないか?

オバマは、ワシントンの政治に新しい要素を持ち込むはずでしたが、ホワイト・ハウスの集団志向による陥穽を避けるために、敢えて、最高の知性と異なる意見を集めた、と説明したようです。そして、政権運営には、特に外交政策には、超党派的な支持が必要である、というプラグティックな判断に従います。

それにしても、国務長官がヒラリーか・・・? オバマのメッセージを、ヒラリーの顔と声で伝えられるのか? ・・・そんな疑念を持ちましたが、NAOMI WOLFの論説はこの指名を強く支持しています。オバマは、自分の外交政策が世界市民の支持を得なければならないことを強く信じており、世界コミュニティーに強くアピールしたクリントン政権の成功がヒラリーの貢献であったと理解した、というのです。

ヒラリーは、ファースト・レディーとして外国を訪れても、決してエアコンの効いたホテルに住むことなく、貧しい小さな村へ行った。毎日、水汲みに6キロを歩く女性を訪ねた。20ドルのローンで編み機を購入して家族を養う女性たちにあった。泥だらけの床に座って、村の食堂で彼女たちの話を聞いた。世界の最底辺に生きる10億人、the "'bottom billion" に会うことが、ライスでも、オルブライトでもなく、ヒラリーの基本姿勢であった、と。だからオバマは彼女を国務長官に指名した、と。

WP Friday, December 5, 2008 Team of Heavyweights By Henry A. Kissinger

NYT December 7, 2008 The Brightest Are Not Always the Best By FRANK RICH

(コメント) Henry A. Kissingerは、オバマとヒラリーを"team of rivals"と揶揄する声に反対します。そして、ヒラリーやJames L. Jones、ロバート・ゲイツが務めることになる国務長官と大統領国家安全保障顧問、国防長官について、興味深い要約をしています。

他方、David Halberstamの『ベスト&ブライテスト』が描いたJ.F.ケネディー政権の時代、その知性と栄光がベトナム戦争の惨禍に落ち込む歴史を想起しながら、FRANK RICHは、サマーズ、ガイトナー、そしてルービンのもたらすアメリカの将来を憂慮しています。ルービンは、まるでかつてのマクナマラのように、シティグループの損失について自分の責任を否定します。

52000人が解雇されたシティグループの重役として、1999年以来、ルービンは11500万ドル以上を得ている。


Asia Times Online, Dec 4, 2008

Obama needs new start with China

By George Koo

The Guardian, Thursday December 4 2008

Obama and Hu: an odd couple the world needs

Jonathan Fenby

FT December 4 2008

US-China dialogue

(コメント) George Kooは、アメリカが中国を最も重要なパートナーとして認める政策に転換するべきだ、と考えます。それは、

1.国際関係(北朝鮮との交渉だけでなく、さまざまな分野でアメリカは中国と協力することに利益を見出します。また、中国は国際的な役割を引き受け、安保理や国連軍の介入に際しても重要な役割を果たしています。東南アジア、ラテンアメリカ、アフリカ、で積極的な貿易拡大やインフラ投資を行っています。)

2.軍事支出(中国との友好関係を維持し、軍拡競争を避けることは、アメリカの外交政策にとって非常に重要です。)

3.経済パートナー(世界最大のドル準備を保有しており、中国政府との協力がアメリカの経済運営にとって不可欠である。また、中国企業や投資家はアメリカへの投資を望んでいる。アメリカ市場は中国に対する差別的な扱いをやめて、中国からの投資にも市場を開放し始めた。)

4.ハイテク輸出(ヨーロッパや日本に比べて、アメリカのハイテク製品に対する強い需要がある。)

5.アジア人差別の撤廃(アメリカの行政機関や司法には、中国人やアジアに対する人種差別がある)、において顕著な転換をもたらすでしょう。

The Guardian, Thursday December 4 2008

China's economic success may soon bring trouble. It would be ours too

Timothy Garton Ash in Shanghai

(コメント) Timothy Garton Ashは、アメリカの金融危機やインドのテロ攻撃に対する中国メディアの反応に、アメリカを超える超高層建築群を築くに至った30年間の高成長を経験した人々の「自己満足と傲慢さ」を見ています。おそらく非常に的確な観察でしょう。中国政府の高官は、インドが民主主義でなければもっと効果的にテロ攻撃に対処できただろう、と述べ、欧米の金融危機に対して、だからもっと国際機関における中国の代表権と発言力を引き上げるべきなのだ、と述べるわけです。

「もちろん、上海など都市の繁栄は、農村の貧困の海に浮かぶ島に過ぎない。特に、地方にはまだ3億人もの絶対的な貧困層がいる。」それでも、the Economist Intelligence Unitによれば、2020年に中国の経済規模はアメリカやEUに匹敵するだろう、と予測されます。

Timothy Garton Ashは、改革開放政策が30年を経てその役割を終えた、と考えています。まだ中国の「管制高地」は巨大な国営企業に支配されていますが、株式化によって、その所有は次第に分散され、国際的にも売買されて、市場の圧力に応じた利益を追求するようになるでしょう。また、中国は人ではなく法による支配を確立する過程にあって、共産党思想部門の高官は、中国の数千年の歴史で初めて、政治権力を持つ者たちに対して、庶民が法によって訴える力を得た、と述べました。地方政府においても、共産党の内部においても、民主主義が確立されねばならない、と。

もちろん、現実はこの理論からは度遠いだろう、とAshは考えます。しかし、どこにおいても改革の方向は正しく、時間はかかるだろうが進んでいる、と。われわれは中国の改革を推進する者の味方になり、彼らとともに困難を克服することで協力関係を深めることである、と。

もしそうでなければ、中国には、そして世界には、どんなシナリオがあるのか? もし世界金融危機や不況、欧米の保護主義、地方の政治的腐敗、民主主義の欠如、などが合わさって、人々の期待にこたえられなくなれば、今の指導部よりもはるかに攻撃的なナショナリズムを称賛する政治指導者が登場するのではないか?

ブッシュ政権の高官は中国との戦争を避けられないと考えていました。しかしオバマは、中国との戦争を回避しなければならず、それゆえ中国の改革が成功することを願っているでしょう。

Asia Times Online, Dec 9, 2008

US-China dialogue is Paulson's vital legacy

By Jing-dong Yuan

CSM December 9, 2008 edition

Obama's dependence on China

By The Monitor's Editorial Board

Asia Times Online, Dec 12, 2008

Red alert on China, Wall-Mart

By Benjamin A Shobert

(コメント) 第5回米中経済戦略対話(SED:Strategic Economic Dialogue)が行われました。中国通のポールソン財務長官がアメリカに残す優れた成果でしょう。彼は中国を世界市場に包摂することを唯一の正しい戦略と信じていました。個々の摩擦や問題で衝突するのではなく、長期的なり屋で利益を拡大するように、情報の交換と対話を制度化したのです。

"Wake Up Wal-Mart"という政治・社会運動があるそうです。ウォル・マートの販売する製品の70%は中国製である、という抗議活動です。アメリカ人の雇用や中産階級を守れ、アメリカ製品をもっと買え、という意味です。1930年代の保護関税、1980年代の自動車輸出自主規制、と同様に、ウォル・マートへの中国製品ボイコットを求める運動は、世界経済を深刻な混乱と破壊に導く、と危惧します。


The Times, December 4, 2008

Why the irresistible financial force will prevail

Anatole Kaletsky

(コメント) 確かに病状は厳しいとしても、これほど劇薬を多用して行う蘇生手術というのは、何を創り出す、というのか? 史上空前の不況が世界を襲う前に、史上空前の予防策、そして需要刺激策が世界各国で行われています。金利をゼロにして、中央銀行が政府や民間から様々な証券を購入し、通貨供給を増やして、政府が介入して信用を保証し、融資を命令しているのです。

さらに、金融緩和や金融機関の救済によっても金融市場が容易に持ち直さず、失われた資産と将来への不安から投資や消費が減少し続けるのですから、政府が財政刺激策を行う条件はそろっています。財源はどこにあるのか? その答えは、もちろん、中央銀行が出せばよい! です。

財政政策も効果がない、という悲観論を退けています。その効果は数カ月から1年以上遅れるけれど、必ず生じるし、今回のように主要国が一斉に刺激策を取れば、漏出を心配することも限られる。むしろ、人々が悲観的で、デフレを心配すればするほど、中央銀行による通貨増発や、国債発行による政府の支出は容易に実行できるだろう、と。

Anatole Kaletskyは、もう一つの悲観論も退けます。もちろん、景気回復に成功すれば、金利は上昇し、インフレも発生する。政府は財政の均衡化を、中央銀行はインフレ抑制を正常に目指すときが来る。それは好ましいのであり、今、財政赤字やハイパー・インフレーションを心配するのは、ここがジンバブエでない限り、間違っている。

FT December 4 2008

‘A framework for economic stability’

By Samuel Brittan

FT December 4 2008

Central banks need a helicopter

By Eric Lonergan

FT December 4 2008

Beating the crisis needs co-operation

(コメント) インフレに対してだけでなく、デフレに対しても、M.フリードマンの提案は重要な意味を含んでいる、とSamuel Brittanは考えます。また、Eric Lonerganも、フリードマンに言及します。ヘリコプターで貨幣をばらまく話です。

インフレと同じように考えて、デフレはいつでも、貨幣供給が足りないから起きるのでしょうか? 問題は、それを実行する機関がないことです。オバマがそれを実現するかもしれません。しかし、人々があまりに財政の不健全化を警告し、納税者に増税を警告すれば、リカードの等価定理が実現します。短期的な景気刺激と、中長期的な財政均衡化。

そして、重要なことは、経常収支赤字国、特にアメリカとイギリスが景気刺激策を取る場合、経常収支黒字国、特に中国の態度が重要だ、ということです。

Asia Times Online, Dec 5, 2008 Obama's choice: Straight talk - or more chaos By Hossein Askari and Noureddine Krichene

Dec. 5 (Bloomberg) Fed Takes a $3 Trillion Gamble to Spur Lending John M. Berry

(コメント) Hossein Askari and Noureddine Kricheneが指摘するように、現在の金融危機はグリーンスパン=バーナンキの金融政策が市場に対する極端な緩和と介入を繰り返した結果であるように思います。それは株価下落のリフレーション政策や、住宅バブルの放置という、中央銀行の権限を逸脱した投資家優遇の結末であった、と批判されても仕方ないでしょう。

では、バーナンキとポールソンが推進する超金融緩和・救済・財政刺激策の結果、アメリカの成長と財政赤字、ドルは、どこに向かうのでしょうか? それは消費を増やすとしても、貯蓄も投資も増やさず、景気は回復しない、とHossein Askari and Noureddine Kricheneは考えます。アメリカは外国の貯蓄を取り込んで投資を増やすしかなく、日本がその役割を担い、今は中国やアジア諸国が加わりました。しかし、アメリカの低金利がそれを損なうでしょう。

2007年の金融緩和は世界の信用膨張と国際商品価格の上昇によってインフレを生じ、成長を損ないました。今回の金融緩和がどうなるか、まだ分かりません。もしインフレが再燃するなら、その影響は容易に短期間で抑制できないと思われます。また、金融機関は危機によって融資を抑制し、安全な債券しか保有しません。その結果、政府は債券発行を増やせますが、大幅な不均衡を生じています。

その他、多くの懸念を正確に描き出す(いわば正統的悲観派の)論説を、読んで損はないと思いました。オバマ政権は、この異常な超刺激策を受けて、健全な公共投資とインフレなき成長、財政健全化に成功するのか? 当面の不況対策ではなく、その次が、誰にも分からないわけです。

FRBが金融救済のために3兆ドルの融資を行ったことにJohn M. Berryも驚きます。インフレを準備する危険な賭けだが、それを恐れても数年に及ぶ不況を招き寄せることでしかない。この賭けに勝てるのか? しかも、その新しい資産の購入(例えば、自動車ローン)や介入技術について、効果を正しく予測することは難しいでしょう。不況を回避するために何でもやる、とバーナンキが述べたように、その目標だけが明確です。

たとえ、これほどのことを実行しても、金融機関が融資を行わない限り、連銀は不況を避けられないのです。

The Guardian, Friday December 5 2008 Getting bang for your buck Joseph Stiglitz

The Guardian, Friday December 5 2008 Farewell, convention Larry Elliott

The Guardian, Saturday December 6 2008 From Berlin to Beijing, chancellors and presidents feel the strain Julian Borger

FT December 7 2008 No need to panic – we can beat deflation By Wolfgang Münchau

(コメント) Joseph Stiglitzは、市場原理主義者を批判した後、いよいよケインズ主義の復活にも関わらず、単純な拡大政策の限界を指摘します。むしろ、ブッシュ政権の残した政府債務、技術や公的インフラへの投資不足、環境政策の欠如、貧富の格差を考慮した、効果的な投資が求められています。

Joseph Stiglitzは、今のアメリカの銀行は信用を評価するまじめな銀行ではなくなった、と指摘しています。その意味では、大恐慌や銀行倒産を恐れて極端な救済を続けるバーナンキ=ポールソンの戦略は的外れで、国民に大きな負担を残すものです。それは市場原理主義の失敗を国民に背負わせるための似非ケインズ主義を連呼する金融ビジネスの主張でしかない?

他方、アメリカに比べて、イギリスは、ポンドに対する投げ売りの不安があるので、金融緩和がどこまでできるか、単独では不況を回避できないかもしれません。

金融危機と景気の悪化が、世界の政治にどのような影響を与えているか、ulian Borgerは主な国について指摘しています。マッケインがオバマに敗北しただけでなく、サルコジはますます左派的なポピュリズムへ傾き、カナダのハーパー首相は衝撃を受け、中国は共産党支配の正当性が動揺し、ロシアは石油価格が147ドルから41ドルに暴落して、プーチンの強気もその影に隠れました。日本の麻生太郎首相も、当然、日経平均株価と一緒に、将来を悲観されています。メルケル首相は慎重な対応です。

Asia Times Online, Dec 10, 2008 Worse than the Great Depression By Martin Hutchinson

FT December 10 2008 The fiscal cure may make the patient worse By Leszek Balcerowicz and Andrzej Rzonca

Dec. 11 (Bloomberg) Deflation Says Buy Bonds; Supply Flood Says Sell Mark Gilbert


The Guardian, Thursday December 4 2008

The future active state

Peter Mandelson

FT December 8 2008

And now for a world government

By Gideon Rachman

(コメント) グローバリゼーションは政策の効果を失わせ(あるいは、予測困難にし)、政府の役割を小さくするばかりなのでしょうか?

Peter Mandelsonは、社会を平等で公平な者にして、市民の力を高めることは、国際的な競争力や経済の開放度を犠牲にしなくても実現できる、と考えます。もちろん、従来の考え方で政策を行使するだけでは失敗するでしょう。しかし、個々の市場参加者が、常に、社会の正しい姿を考えて行動するわけではありません。医療保険制度や失業者の救済を通じて、教育、科学、研究&開発、インフラの整備を通じて、長期的な社会の生産性を高めるため、プラグマティックでダイナミックな政府の役割はますます重要になる、と考えます。

世界不況は、これまで考えてもいなかったような「世界政府」の必要性を多くの人に示しました。

I have never believed that there is a secret United Nations plot to take over the US. I have never seen black helicopters hovering in the sky above Montana. But, for the first time in my life, I think the formation of some sort of world government is plausible.

世界金融危機は、気候変動やテロ対策と同じく、一国の政府に解決できない緊急の問題でした。しかも、交通・輸送手段や情報伝達・処理技術の発達は世界的規模の交渉や合意形成、監視を容易にしました。最後に、政治的な指導層の考え方に変化が起きたのです。特に、オバマはブッシュと違って国連を軽視しません。

「グローバル・ガバナンス」に対する最も根強い反対は、今も地域の政府を極端に優先する庶民なのです。それはまた、民主主義、という意味で必要な障害である、と書いています。


FT December 4 2008

When good politics makes for bad economics

Willem Buiter

(コメント) 政権を維持したい政府には正しい対策でも、経済学者には不適当とみられることが多い、とWillem Buiterは考えます。たとえば、住宅融資の返済に対する補償を政府が補助してやる政策です。これは典型的な差別的扱いであり、アウトサイダーに対するインサイダーの優遇措置です。地代の規制や雇用の保護、零細企業への支援、なども、同様に、批判します。金融危機や不況対策として、間違った政策が増えている、というのです。

NYT December 4, 2008 Medicine for the Job Market By JONATHAN GRUBER

BG December 4, 2008 A blueprint for a green agenda By Armando Carbonell

NYT December 6, 2008 Are Cuts in Hours and Pay an Alternative to Mass Layoffs? By ADAM COHEN

NYT December 7, 2008 The Employment Crash

NYT December 7, 2008 The Real Generation X By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 財政赤字によって需要を喚起し、不況を回避するとしても、大量の失業者が出たら、全国民を含む医療保険制度によって救済することが望ましいでしょう。大量レイオフが経済を回復に向かわせる正しい企業の対応でしょうか? 

環境保護政策も、労働者の保護も、オバマ政権の課題です。それらが、金融機関の救済にばかり税金を投入するブッシュ政権と根本的に異なる、オバマ政府の誕生を意味します。そして、オバマ政権の刺激策が契機となって、アメリカの次の世代はもっとラディカルに、もっとヨーロッパに近くなっているでしょう。


Asia Times Online, Dec 5, 2008 China's yuan set to reverse course By Kosuke Takahashi

FT December 5 2008 Paulson urges China not to curb currency By Geoff Dyer and Jamil Anderlini in Beijing

FT December 7 2008 Chinese acrobats

Asia Times Online, Dec 9, 2008 China plays beggar thy neighbor By Peter Navarro

The Japan Times: Tuesday, Dec. 9, 2008 Benefiting from a dream market By KEVIN RAFFERTY

China Will Be Happy Geithner Isn’t a Goldman Guy William Pesek Dec. 10 (Bloomberg)

Asia Times Online, Dec 11, 2008 Yuan's slide no power game By Antoaneta Bezlova

(コメント) 人民元の為替レートは、中国の輸出による成長を支え、その貿易不均衡と外貨準備を介して、アメリカとの摩擦を生じてきました。しかし、もし人民元高が行き過ぎれば、中国が不況になって、競争的な為替の切り下げ競争を引き起こすのではないか、という不安を世界は抱えています。

米中の経済戦略会議において、中国側はアメリカの消費過剰を批判し、中国からの投資の安全性を確保するように求め、アメリカ側のポールソンは人民元レートの調整を続けるように求めた、ということです。「近隣窮乏化」政策に向かうのか、内需拡大に向かうのか、世界が不況に向かう中国政府の対応に注目しています。すなわち、中国国内の貧困解消です。

アジア諸国から見て、アメリカ経済を狂わせたゴールドマン・サックスによる政府は、少なくとも、ガイトナーの指名によって終わりました。人民元の切り上げに固執する政策は終わるだろう、とWilliam Pesekは考えます


FT December 5 2008

Outside Edge: Europe’s identity crisis

By Haig Simonian

The Guardian, Saturday December 6 2008

It is a desperate tale, but far from proof of broken Britain

Polly Toynbee

FT December 10 2008

Europe has to guard democracy amid crisis

By Anatol Lieven

(コメント) 国家のアイデンティティーは何によって決まるのか? ヨーロッパの歴史にはそのさまざまなケースがあるようです。それは危機への対処や民主主義的な統治、移民流入にも、きっと影響するでしょう。


WP Friday, December 5, 2008

Obama's Manna

By E. J. Dionne Jr.

The Times, December 8, 2008

Sit by the fireside to hear Obama's New Deal

William Rees-Mogg

The Times, December 8, 2008

The New New Deal

The Guardian, Monday December 8 2008

Obama's medicine for the economy

Dean Baker

WP Monday, December 8, 2008

Bernanke's Burden

By Robert J. Samuelson

FT December 8 2008

Obama digs deep to escape the hole

(コメント) オバマ政権の公共投資計画や「ニュー・ディール」に関する論争です。支持派は、不況が迫るときに、政府は財源やその使途を迷うより、迅速に、しかも十分な規模で支出を増やすことが重要だ、と考えます。オバマはそのせいで、彼の公約をすべて実現できる、まさに棚から牡丹餅のマナ(天恵)を得たわけです。当然、反対派は不満です。不況を良いことに、アメリカを改造してしまう、と。しかしE. J. Dionne Jr.は、オバマが将来に向けた投資をするより、(日本の道路族のような)地域の利害関係者が「丸太ころがし」で予算を奪い合うことを懸念します。

また、南北戦争におけるリンカーン、大恐慌におけるF.D.ルーズベルトを挙げてWilliam Rees-Moggは指摘します。「戦争と同じように、経済は心理的要因、モラルや期待、指導力によって影響される。」だから、失業者が増えるなかで、オバマがどのような公共投資を国民に説明するかが重要だ、と。それが、大統領と国民との新しい関係を誕生させる力となるでしょう。

他方、Robert J. Samuelsonは、オバマが就任しても、経済政策のもっとも重要な舵を握るのはバーナンキであることを強調します。オバマの財政政策に対して、どのような金融政策が取られるのか? そして、レーガン政権下の戦後最悪の不況を思い出します。5兆ドルとも、6兆ドルとも言われる、連銀の信用膨張が、いつかインフレ圧力となって帰ってくるかもしれません。いずれにせよ、その遺産を抱えて、オバマ=バーナンキの経済運営が始まります。

CSM December 9, 2008 edition

The dangers of Obama's public-works juggernaut

By Peter Navarro

NYT December 9, 2008

F.D.R. Knew How to Spend Carefully

By NICK TAYLOR

WP Wednesday, December 10, 2008

The Perils of a Cement Tsunami

By Amity Shlaes

(コメント) 近い将来、それがすべて無用の公共工事と巨大な債務の山でしかない、と分かるのではないか? 国中を公共工事のセメントの洪水で固めても、決して経済に良いわけではない。経済を改善するのは改革であって、公共工事の多さではない。そんなことは日本を見ればわかるだろう、・・・と言われて、日本の政治家も何か反論できないのですか?


WP Sunday, December 7, 2008

Don't Trade Recession for Depression

By Paul Blustein

(コメント) 大恐慌を招いたもう一つの問題、各国に高まる保護主義を回避できるか、WTOの役割と実力が問われています。


LAT December 7, 2008

5 secretaries of State advise Hillary Clinton

George Shultz, James Baker, Warren Christopher, Madeleine Albright and Colin Powell offer their views.

(コメント) 国務長官に指名されたヒラリー・クリントンに、5人の最近のすぐれた元国務長官が助言しています。

WP Wednesday, December 10, 2008

Obama's Human Rights Opportunity

By Jimmy Carter

(コメント) カーター元大統領は、9・11(そしてアブグレイブ監獄、グァンタナモ収容所)以後は否定されるようになったけれど、アメリカ外交の重要な柱として人権と民主主義を守るための国際介入を実現するように求めています。世界中の人権活動家たちが、オバマの登場を歓迎し、その行動を待っています。


Rescue Zimbabwe WP Sunday, December 7, 2008

FT December 7 2008 Zimbabwe needs a political solution

Predator For a Predator By Richard Cohen WP Tuesday, December 9, 2008

(コメント) ジンバブエのムガベ独裁体制はどこまで悪化すれば終わるのか?


LAT December 8, 2008 Mexico's drug war

LAT December 10, 2008 Mexico's bloody drug war By David Danelo

(コメント) アメリカの隣国、メキシコにおける麻薬戦争は、1000人を超える死者を出している、まさに戦争です。その影響はアメリカ、サン・ディエゴの郊外にまで及び、麻薬密輸のギャング団たちが誘拐や殺人を日常的に繰り返している、というわけです。これもNAFTA?


Athenian democracy in ruins Kat Christofer The Guardian, Monday December 8 2008

FT December 9 2008 Greek wildfire

SPIEGEL ONLINE 12/10/2008 WAVE OF VIOLENCE: Riots Throw Greece into Deep Democratic Crisis By Jörg Diehl in Athens

FT December 10 2008 Greece unravelled

We need a fairer Greece Costas Pitas The Guardian, Thursday 11 December 2008

(コメント) ギリシャ、アテネにおける反政府活動は、およそ考えられないくらいに急進化し、暴力行為に及んでいます。

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The Economist November 22nd 2008

The world economy: The peril of incrementalism

Unorthodox economic policies: Plan C

Policy in Europe: Those reluctant Germans

Barack Obama’s economic team: Off to work they go

Citigroup: Singing the blues

Bank bail-outs: Stockholm syndrome

Buttonwood: The issuance issue

(コメント) 世界金融危機から世界恐慌が近付いている、という警鐘を、日本の私たちは数日前まで対岸の火事、遠くの津波だと思っていました。しかし、景気を観察するプロたちの眼はもっと惨憺たる世界のイメージを映していたようです。

しかし、さらに、マクロ経済学の教科書や、恐慌に関する経済史の教えることに忠実であるだけでは、現在の津波を生き延びる手段を見いだせない、と皆が焦っています。いずれの記事も興味深いです。


Terror in India

Thailand: Desperate days

Lexington: Head of State

Charlemagne: Europe’s surprising labour flexibility

(コメント) 不況は社会・政治不安を深刻にするでしょう。世界不況を回避する可能性を示せるのは、ヒラリーか、アイルランドか?


The Economist November 22nd 2008

Enigma Variations: A special report on Russia

(コメント) ロシアの特集記事が秀逸です。ロシアの政治が目指すのは「アメリカ」であり、「アメリカ帝国主義」だ、ということに驚きます。しかし、ロシアは石油価格の高騰を経済構造の改善や政治・社会改革に生かすチャンスをつかみ損ねたようです。

その腐敗・汚職、アルコール依存・自殺率・人口減少、南部における少数派・分離独立派への弾圧・政治不安、は読むだけでも血が凍りそうです。グルジアに対する戦争で飽き足りないとき、日本も隣国であることを思い出してほしくない。