IPEの果樹園2008

今週のReview

12/1-12/6

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

保護主義の擁護、 ビッグ・スリーの救済1、 ケインズ案の再発見、 財政刺激策協調、 マイナスの金利、 ドル不安、 ケインズ復活1、 惑星ガザ、 多極の世界、 中国の選択、 オバマ・ボンド、 ガイトナー

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


FT November 14 2008

The case for forward-looking protectionism in the US

By Ha-Joon Chang

WSJ NOVEMBER 20, 2008

An Auto Bailout Would Be Terrible for Free Trade

By MATTHEW J. SLAUGHTER

(コメント) オバマを選んだアメリカ国民は、所得格差や戦争を嫌うだけでなく、経済政策にも変更を求めたはずです。危機を起こした以上、金融規制が強まることは避けられませんし、ブッシュの減税を享受し続けた富裕層が増税されることにも反対できないでしょう。

問題を起こすとしたら、通商政策であり、(対外)通貨すなわち為替レート政策です。保護主義とドル安による輸出促進や不均衡の是正を求めるのではないか? と、不況に面する諸外国は心配するわけです。

Ha-Joon Changの論説は、保護主義と自由貿易の見せかけの論争を完全に破壊し、再構築しています。一つは、アメリカは保護主義の強い国、伝統的に保護によって産業を育成させた国である、と認めます。このハミルトン以来の「幼稚産業」保護論は、発展途上諸国が今も大いに主張するはずです。他方、アメリカの労働者は自由貿易を支持しません。彼らは貿易の利益を受けることが確信できないし、「幼稚産業」ではなくても、「産業の更新」や「産業の衰退」においても、政府は積極的に労働者を支援しなければならない、と主張します。そのような貿易と組み合わされた福祉国家がなければ、グローバリゼーションは政治的な支持を失うでしょう。

つまり、自由貿易を維持するための「前向き」の保護主義、貧しい諸国が支持するような保護政策の可能性、貧しい労働者も利益を感じるような福祉国家、が必要なのです。オバマならできる、と考えます。

それはやっぱり保護主義だ、と反対する者も多いはずです。特に今問題になっているのは、不況を理由に自動車産業を救済することは、世界の自動車市場においてアメリカが不当な補助金を出すことになる、という心配です。保護主義は、そのもっとも難しい国内政策の調整を求めています。

MATTHEW J. SLAUGHTERは、もしビッグ・スリーを救済すれば、その最初の影響はアメリカへの直接投資が減ることだ、と考えます。なぜなら、アメリカ政府は自国企業だけを税金で支援し、市場を奪わせるからです。そんな国に外国企業が投資するなんて、結局、無駄ではないか? そして、外国資本が経営する自動車の方が効率的で、利益を生んでいるのであれば、直接投資の減少は、アメリカの利益を損ないます。


WP Friday, November 14, 2008

A Lemon of a Bailout

By Charles Krauthammer

NYT November 14, 2008

Bailout to Nowhere

By DAVID BROOKS

NYT November 15, 2008

Saving Detroit From Itself

BG November 15, 2008

Detroit on the brink

(コメント) 政府は自動車産業を救済するべきか? これはもはや、福祉国家ならぬ、救済国家だ、と保守派は憎悪を燃やします。市場の規律もなく、税金で賄う。誰も銀行が倒産してお金が回らないことに我慢できない。誰もが電気や水道の会社が倒産して文明生活を放棄するのを許さない。石油や自動車だってそうではないか?

だから政府は、銀行を救済し、電気や水道の供給を国有化し、石油のために戦争する。自動車だって、救済し、国有化し、戦争してでも、永遠に維持してやるのが良いだろう・・・? なるほど、誰しも燃費の良い、環境にやさしい、かわいい小型乗用車を望んでいる。政府がそれを実現してやることに問題はない・・・? Charles Krauthammerは憤慨します。

しかし、これは恣意的で、政治的で、何の明確な基準もない。業界のロビー活動に相槌を打っているだけだ。オバマが選挙で批判していたやり方ではないか? しかも、全く非効率である。共和党のミニマリズムを嫌う大衆を誘惑して、民主党のリベラルたちは、とんでもなく無駄をもたらした○スク主義の指令経済を目指すのか?

DAVID BROOKSも、選挙が終わってから、今まで聞いたこともない積極的な自動車産業再建策を示すオバマに不満です。まるで中国の自動車産業育成策、産業の皇帝を目指す計画ではないか? アメリカは産業の盛衰を経てダイナミズムを維持してきたのであり、政府が市場の淘汰に直接手を出すべきではない、と。そして、政府を団体利益の擁護者にしてしまうのではなく、市場競争を擁護せよ、と。

確かに、政府が金を出しても問題が解決するわけではなく、むしろ解決を延期し、長引かせるだけです。経営者たちは、短期的な利益に執着して開発や労働者の育成を怠ります。労働者は経営陣に対して、長期の労働協約を理由として反対を繰り返します。どちらも根本的な解決策を考えたくないのです。自由放任で市場メカニズムを信奉する強硬派がもたらす解決策が、誰も望まないまま、結局、採用されてしまうのかもしれません。

NYT November 16, 2008

What’ Good for G.M. Is Good for the Army

By WESLEY K. CLARK

(コメント) かつてアイゼンハワーが大統領であった頃、アメリカで最強の組織はGMやフォードでした。軍隊は自動車会社やその経営システムを目標として改革を求められたのです。今は逆です。アメリカは最強の軍事力を持ち、破たん寸前の自動車会社を抱えています。

イラク戦争によって、そのアメリカの軍隊も、待ち伏せ攻撃や自爆テロによる犠牲を増やし続けました。そして、目標となるアメリカ企業もありません。つまり、この論説は産業の再生を安全保障のためにも支持するわけです。


FT November 16 2008

Prejudice in Europe is more than skin deep

By Mark Mazower

(コメント) オーストリアの右翼団体が繰り返したスローガンとは、「ウィーンをシカゴにしてはならない!」でした。そんなヨーロッパがオバマの当選を歓迎するのは矛盾したことです。シカゴ出身のアフリカ系アメリカ人が大統領になったわけです。それでもアメリカと仲良くしたいのか?

ヨーロッパはブッシュ政権と仲たがいしてきました。そしてまた、排外主義的な、右翼の政治的風潮は、黒人(オバマ)が西側同盟を指導するのは受け入れられない、という露骨な嫌悪感です。グローバリゼーションは、いたるところで反動的な保守主義を刺激します。

むしろ、「ヨーロッパをシカゴにしてほしい!」というスローガンに変えてはどうか?


IHT Sunday, November 16, 2008

The way forward

By Kofi Annan

The Times, November 17, 2008

Good intentions took us on the road to hell

William Rees-Mogg

(コメント) 豊かな国の金融危機の影響は、貧しい国にも波及します。特に、世界的な成長が商品価格の上昇と投資をもたらしていたアフリカ経済に、急速な悪化をもたらします。G20で決まった国際協調や積極的な衝撃緩和策は、アフリカにこそ必要です。

しかし、William Rees-Moggに言わせれば、そんな指導者たちの善意や傲慢さが市場を破局に向かって飛躍させているのかもしれません。現在も進行中の歴史的な金融危機は、ブッシュ政権の愚かな富裕層への優遇によって起きたというより、カーター大統領が低所得者層への住宅融資を促進し、また、ファニー・メイやフレディー・マックが政府の保護を受けて、低所得者の住宅融資を証券化するビジネスが膨張した結果として起きたわけです。

G20も、オバマ大統領も、ゴードン・ブラウン首相も、その善意にも関わらず、未来の惨事をどこまで予見できるでしょうか?

The Guardian, Monday November 17 2008

Free trade in the eye of the beholder

Rodrigo Orihuela

WP Monday, November 17, 2008

Team 'Chimerica'

By Niall Ferguson

WP Monday, November 17, 2008

A Global Grand Bargain

By Robert Hutchings

(コメント) 地域市場統合は、自由貿易に拠るより、実質的には市場を拡大する道かもしれません。管理貿易や、主要国間の貿易・通貨政策協力、そのような政治的合意と妥協によって、新しい秩序や制度が生まれるわけです。

世界不況や資源・エネルギー・食糧の供給において、中央アメリカやラテンアメリカの自由貿易協定や関税同盟が活発になるかもしれません。また、アメリカと中国は政治的に反目しつつも、ますます経済統合を進めるでしょう。アメリカの金融安定化や景気回復策が成功するためには、中国の協力が欠かせません。また、中国の成長には世界市場やアメリカの協力が欠かせません。しかし、もしアメリカが積極的に呼び掛けなければ、中国は内需による成長の持続に向かうでしょう。それはアメリカの破局を意味する?

G20が示した世界のパワー配置に即して、オバマ政権は新しい「ブレトン・ウッズの瞬間」を実現するでしょうか? それはアメリカを中心とした主要国との政治取引「グランド・バーゲン」によって決まります。ヨーロッパと、中国と、ラテンアメリカと、ロシアと、・・・オバマは安全保障、貿易・通貨・金融・投資の条件を合意します。

もちろん、将来の秩序に、新興の諸国も重要な役割を担います。

The Guardian, Tuesday November 18 2008

Keynes is innocent: the toxic spawn of Bretton Woods was no plan of his

George Monbiot

The Guardian, Wednesday November 19 2008

The fallacy of the fix

Will Hutton

(コメント) George Monbiotは、1944年のケインズ案が優れたいたにもかかわらず、アメリカ政府によって放棄させられたことが、今また、注目されているが、あまりにも遅すぎるし、また、改革の程度が小さすぎる、とG20を批判しています。

国際金融危機の原因は収支の不均衡にあり、それは黒字を累積する国に政策を変更させて、もっと支出させる必要がありました。ケインズはそのことを知っていましたから、「国際決済同盟」を合意させて国際通貨「バンコール」を発行し、赤字国が黒字国に支払う仕組みを作るはずでした。過去5年間の平均貿易額の半分を発行できる、というわけです。

ただし、「バンコール」が抑制されるためには、赤字国も黒字国も、その残高を減らすインセンティブが必要でした。すなわち、赤字国だけでなく、バンコール残高の大幅な黒字国にも利子を課し、通貨の切り上げや資本輸出を命じ、それでも黒字が減らなければ過大な部分を没収して、赤字国の残高を免除する、としたのです。

この提案を完全に拒んだアメリカは、ホワイトが「国際安定化基金」を提案します。しかし、ケインズ案が放棄されたことは、その後の発展途上諸国にとって悲劇であった、とMonbiotは考えます。IMFが与える融資は、それに伴う政策変更によって、発展途上諸国の経済や政権、人々の生活を大きく損なったからです。

もちろん、その後、アメリカは世界最大の債権国から世界最大の債務国に変化しましたから、ケインズ案を放棄したことを後悔しているかもしれません。しかし、アメリカはIMF・世銀の決定に拒否権を持ち続け、また世界がドルを外貨準備として受け入れているのだから、決して他の債務国のようには破綻しないのだ、とMonbiotは主張します。

Will Huttonは、新しい福祉資本主義、あるいは、社会的市場モデルを提案しています。政府や国家の市場介入を嫌う人々は、それが市場のダイナミズムや個人の自由を奪うと主張します。しかし、現に示されているように、規制されない市場や金融ビジネスの暴走こそ、社会の富を破壊し、ダイナミズムを悪用し、人々の報酬や自由を奪うのです。

政府が積極的に市場のダイナミズムを支持すること、革新の社会的な成果を高めることは可能であり、必要である、と考えます。

Catastrophe averted?

New Statesman, 20 November 2008

(コメント) 指導的な人々はG20の成果と今後の展望をどう考えているのか?


WP Monday, November 17, 2008

How to Bail Out GM

By Robert J. Samuelson

WP Monday, November 17, 2008

A Bridge for the Carmakers

By Jeffrey D. Sachs

(コメント) 金融危機や不況が迫る中で、ビッグ・スリーの倒産は受け入れ可能か? 推定で250万人の失業者をもたらす? 彼らの救済ではなく、経済システムの危機を回避する作業として、財政的な支援は避けられない、と救済支持論者は考えます。

さらに、Robert J. Samuelsonは、この支援がアメリカの国際競争力を改善するものでなければならないと考えます。(・・・国際競争力!?) 債務、労働契約、エネルギーについて、自動車会社の競争条件を見直します。

Jeffrey D. Sachsも、リーマン・ブラザーズの失敗を繰り返すな、と主張します。破壊するより、エネルギー価格の高騰や環境規制に対応する小型車を開発しなければなりません。もし消費者の選択にゆだねるなら、長期の開発計画より、今すぐに優れた外国製の小型車を買うでしょう。だから、医療保険制度と同じく、政府が立て直すべきだ、と。

WSJ NOVEMBER 17, 2008

Why Bankruptcy Is the Best Option for GM

By MICHAEL E. LEVINE

WP Tuesday, November 18, 2008

A Chapter For Detroit To Open

By Martin Feldstein

NYT November 18, 2008

The Great Bailout Debate

By DAVID E. SANGER

(コメント) Martin Feldsteinは、ビッグ・スリーは良い自動車を作っているが、主に組合と決めた労働コストの点で、日本や韓国の自動車には勝てない、と考えます。そして自動車会社は政府に250万ドルの融資を求めているが、それは必要ない、と主張します。なぜなら、破産法の下でこそビッグ・スリーは雇用契約を見直し、合理化を条件に融資を受けて、再建できるからです。それが大量失業や金融危機を悪化させる、というのは間違った宣伝、情報操作だ、と批判します。

もし政府が救済すれば、政治家たちはそれを代わりに実行できるのでしょうか?  Martin Feldsteinは、任期終了前ならできるかもしれない、と考えます。ブッシュ政権がそれを行えば、自動車産業の救済を約束しているオバマにとっても好都合ではないか、と。

DAVID E. SANGERは、論争を紹介します。自動車会社を救うのか? 労働者を救うのか? 不況から経済を救うのか? そして繰り返し問われるのは、日本やドイツの自動車と競争して負けたから、という問題です。

そうであれば、世界の自動車市場を見渡して、アメリカのビッグ・スリーを救済することにはどんな意味があるのか? たとえば、トヨタの投資・雇用計画は変わるでしょう。

FT November 18 2008

Detroit spinners?

By John Reed and Bernard Simon

WP Wednesday, November 19, 2008

Should GM Be Allowed to Fail?

By Michael Gerson

NYT November 19, 2008

Let Detroit Go Bankrupt

By MITT ROMNEY

The Guardian, Friday November 21 2008

Motown meltdown

Thomas Palley

IHT Monday, November 24, 2008

For Detroit, Chapter 11 would be a disaster

By Spencer Abraham

The Japan Times: Thursday, Nov. 27, 2008

Letting the Big Three fail risks a meltdown

By THOMAS I. PALLEY

(コメント) かつてGMの拡大がアメリカの繁栄を示していたように、今また、GMの再生がアメリカ経済復興のシンボルとして政治的に支持されるかもしれません。実際、現在のような景気の悪化局面で、アメリカを代表する企業が倒産することに満足する国民や政府は存在しないのです。

たとえ、企業の救済は滑りやすい坂道であり、次々に救済を求める企業が現れるとしても、それを抑えるのが大統領の仕事である、とMichael Gersonは考えます。救済とともに、レーガンと同じような厳しい措置を取れるかどうか、オバマは試されるのです。

救済に反対する者は、政府による企業再建は失敗し、税金を無駄にする、と主張します。MITT ROMNEYも、政府による支援は民間企業のように将来に向けた投資を怠らせるだろう、と批判します。他方、Spencer Abrahamは、破産法で解決できる、という意見に反対します。なぜなら破産法を適用されて復活した自動車会社はないからです。破産した自動車会社は、購入者の信頼を失い、地域全体に及ぶ膨大な供給ラインに属する中小企業を失います。

THOMAS I. PALLEYも、ビッグ・スリーの倒産がもたらす金融システムへの影響を指摘して、この時期に倒産することは許されない、と救済を支持します。


FT November 17 2008

Europe needs a concerted fiscal stimulus

By Jean Pisani-Ferry, André Sapir and Jakob von Weizsäcker

The Guardian, Friday November 21 2008

No more US v them

Jeffrey Sachs

(コメント) EU諸国がC20で合意されたように財政的刺激策を採用する場合、EMUで合意された安定成長協定stability and growth pactが障害になるでしょう。緊密に統合した経済では、一国で刺激策を取っても財政赤字と貿易赤字が増えるばかりです。そして各国は隣国の刺激策にただ乗りすることを期待します。それは今まで個々の国で問題になってきましたが、今こそシステムとしての矛盾を示しています。

そこで、EU諸国は協調的な刺激策を採用する。構造的な財政赤字を抑制するような計画を示す。市場金利が異常に高まったときには借り入れない、と合意することを提案しています。

Jeffrey Sachsは、オバマが世界の財政刺激策を協調させることを求めます。また、そうしなければアメリカだけの刺激策では成功しないのです。


The Japan Times: Monday, Nov. 17, 2008

If America fades, who will lead the world?

By ANN FLORINI

The Japan Times: Monday, Nov. 17, 2008

Reviving Pax Americana

By ALAN DUPONT

The Guardian, Tuesday November 18 2008

Soft power is on the up. But it can always be outmuscled

Paul Kennedy

FT November 18, 2008

Understanding the Fed’s swap line

By Perry Mehrling

(コメント) 貿易、金融、核拡散防止、気候変動、・・・誰が世界の交渉を指導するのか? ヨーロッパも、中国も、候補者を出していません。オバマ以外にはいないのです。しかし何を決めるのか? どうやって? まず最大の二国間で交渉し、信頼できるデータを共有します。そして国際的な合意の原案と調整・監視のメカニズムを示すのです。たとえNGOが活発に参加しても、強制力は今も国家のみが独占しているのですから、合意の実行を迫る手段は説得しかありません。各国を深くこの社会化された国際調整過程に取り込み、より優れた議論を提供することです。

ALAN DUPONTは、オバマのアメリカが協調を重視し、権力を共有することで、パックス・アメリカーナは再生し、まだ長期にわたってアメリカに代わる者はない、と考えます。アメリカは国際秩序やガバナンスに不可欠な国であり続けるし、このことを忘れてはいけない。

Paul Kennedyは、ハード・パワーとソフト・パワーとの違いを強調します。それはソフト・パワーがはるかに急速に失われ、あるいは、回復する、という点です。しかも、金融であれ、ハリウッドであれ、ソフト・パワーはアメリカによって指導されるのではなく、アメリカがソフト・パワーに従うのです。アメリカはソフト・パワーを操縦しているのではなく、ソフト・パワーのある条件をアメリカは維持するように努めるしかないのです。

オバマは選挙を通じて多くの支持を得たし、アメリカ人や世界のメディアを介して多くの人から称賛と支持を得ました。しかし、オバマが直面する問題は歴史的にも非常に困難なものであり、その国際ステムにおけるアメリカの地位は、ウィルソンやアイゼンハワー、ケネディの時代ほども高くはないのです。ソフト・パワーが改善されるとしても、それだけに頼ることはできません。

たとえば、FRBがドルを他国の中央銀行を介して融資しています。Perry Mehrlingは、その仕組みを基本的に為替レートだけが問題だ、と考えます。一種の世界の中央銀行ですが、為替レートに大きな損失が生じた場合は、別の取り決めがあるはずです。


FT November 17 2008

Shifting away from export-led growth

FT November 20 2008

The case for negative interest rates now

By Brendan Brown

NYT November 21, 2008

The Lame-Duck Economy

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 英米の過剰消費が失われたら、日本やドイツ、中国のような黒字国はどのような影響を受けるのか? 彼らは保護主義や為替レートの管理を強めるのでなければ、基本的に、国内需要を刺激しなければなりません。この点で、日本は最も不利な位置にあります。金利はすでに0.3%、累積債務はGDPの170%、とFTは指摘します。

ドイツは今年予算を黒字にしており、ECBも金融緩和の余地があります。そして中国は、財政的な負担にまだ多くの余力があります。ただし、その使い道は間違っている、と。その意味では、日本が最も世界需要に依拠しており、世界不況は深刻なデフレを再現するかもしれません。

バブルが破裂すると、その過程ではリスク回避傾向が異常に高まって、日本が示したように、金利水準が数年にわたって、それ以前の効果を失います。いっそ、Brendan Brownが主張しているように、日本が率先してマイナス金利を導入することが必要かもしれません。しかし、どうやって? Brendan Brownは現金保有に追加の課税をすることを考えています。・・・どうやって?

当然、旧貨幣の保有者を罰する(課税する)ために、新貨幣を発行するわけです。そして、毎月、決まった額を新貨幣に交換できますが、時間がたつほど交換率は悪くなるのです。さっさと消費して使うか(その場合も他人が旧貨幣を保有してしまいます)、あるいはマイナスの金利を耐えるしかありません。賞味期限付きの現金ですね。

この論説にあるBrendan Brownの提案では、3年以内で0.9の割合に交換します、となっています。でも、段階的に交換率を下げた方がまじめに毎月使いそうです。ゼロ金利や量的緩和政策の消極的なイメージを払しょくすることは、政策効果としても非常に重要だと思います。こうした支出の最大の受け手は株式市場ではないか、という予想も加えています。こうした投資を本当に生産的な分野に向けることが重要です。

PAUL KRUGMANは、オバマ政権が直面する二つの不安を示します。それは、二つのD、すなわち、デフレーションとデトロイトです。しかし、本当に心配しているのは、政治的な真空状態がこのまま就任式まで続くことです。


NYT November 18, 2008

Fighting the Financial Crisis, One Challenge at a Time

By HENRY M. PAULSON Jr.

WSJ NOVEMBER 18, 2008

How to Help People Whose Home Values Are Underwater

By MARTIN FELDSTEIN

(コメント) ポールソン財務長官は危機管理に失敗したと非難されていますが、私はそう思いません。ポールソンもバーナンキも、政策の反応や革新において優れた指導力を発揮していると思います。TARPの最初の提案は失敗であったし、もっと最初から十住宅債務者の救済に重点を置くべきだったと思います。しかし、この論説で彼は方針転換を説明しています。

MARTIN FELDSTEINは、今や1200万人の住宅債務者が債務よりも価値の下がった住宅に住んでいます。つまり、住宅を出て債務を帳消しにした方が楽になる、と考えるわけです。もしこの住宅が市場に出れば、ますます住宅価格は下落し、ますます不況と債務負担が悪化して・・・

MARTIN FELDSTEINは、政府がこの悪循環を止めるべきだ、と考えます。そこでこの過大な債務部分を政府が支援して低利の長期ローンにする、という点案をしています。


The Guardian, Wednesday November 19 2008

Making a drama out of a credit crisis

Alda Sigmundsdóttir

FT November 20 2008

Iceland/IMF

(コメント) アイスランドの危機がたった一人の人物に帰せられるとは思いませんが、長年首相を務めて、現在は中央銀行の理事も務めるというDavid Oddssonが決定的な重要人物であることは当然です。それでも最近まで、自分たちはなにも間違っていない、中央銀行は早くから警告していた、イギリスのゴードン・ブラウン首相はテロ対策法まで使ってアイスランドを苦しめた、など、国民の多くを説得してきたようです。

FTは、アイスランドを「グローバリゼーションの逆転globalisation in reverse」と呼んでいます。資本流入が終わって、債務が取り立てられ、労働者たちは国を去ります。

彼らの所得は1割減少し、失業は3倍に増えるでしょう。金利は18%に上昇しています。資本自由化を主張するIMFでさえ、アイスランドへの安定化融資には資本規制を求めたほどです。融資した分がすべて資本逃避になっては何の意味もないからです。アイスランドの失敗は、銀行が預金を超える資金を海外の金融市場で調達したことです。


NYT November 19, 2008

Madam Secretary?

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) ヒラリー・クリントンをオバマの国務長官にすることに賛成ですか? と訊かれたら、私はすぐに賛成できません。反対することもないでしょうが。オバマとヒラリーは主要な政策で近いということですから、できないことはないのでしょう。

しかし、・・・アメリカのメディアはヒラリーとビルとの関係を騒いでいる、ということです。ヒラリーが大統領になれば、ビルも付いてくる。二倍お得だ! という話がありました。国務長官でもそうでしょうか? ビルは寄付金を返還したり、目立たないよう影に立ちます。

THOMAS L. FRIEDMANは、ヒラリーとオバマとの関係を問題にします。なぜならFRIEDMANは、ジェームズ・ベイカー3世を数年取材して、一つの教訓を得たからです。国務長官が働く場合、大統領から信頼され、強く支持されていること、国務長官の言葉が大統領の言葉である、と交渉相手が信じることは何より重要だ。ヒラリーは、オバマから篤い信頼を得るような人物だろうか?


FT November 19 2008

How Obama can energise the economy

By Glenn Hubbard

NYT November 23, 2008

The New Deal Didn’t Always Work, Either

By TYLER COWEN

(コメント) 大胆な刺激策を採用するとしたら、ドルへの不安が生まれることを絶対に抑えなければなりません。オバマ政権がサマーズとガイトナーだけでなく、ポール・ボルカーの権威を必要とするのは、多分、こうした事情があるからでしょう。

資産価格を守ることから始めるべきだ、というのは分かりませんが、Glenn Hubbardの助言は概ね説得的です。そして、TYLER COWENは大恐慌が、結局、(グリーン)ニュー・ディールではなく、金融緩和とヨーロッパの戦争によって回復したのだ、ということを確認します。

The Guardian, Sunday November 23 2008

The moral dimension of boom and bust

Robert Skidelsky

The Guardian, Wednesday November 26 2008

Who voted for the markets?

Bryan Gould

(コメント) Robert Skidelskyは、一方で、金融危機とグローバリゼーションとを結びつけて考える人々を支持します。「経済学のこの怪物じみた思い込みが世界を破滅の淵に導いた。」・・・なかなかの毒舌家です。すなわち、あらゆる人間性・道徳性を無視して、金銭によって判断することが、最も効率的な使い道を示すのであり、世界を豊かにするはずだ、さらに、将来のリスクは、すべて、現在の価値に反映されており、それゆえリスク・フリーに投資できる、という信念です。金貸しを嫌う伝統的な価値観は世界中に見られます。

H.G.ウェルズが考えたように、戦争によって人間性を捨てるか、科学によって狂気を抑えるか? しかし、経済学も同じ選択に直面している、と思うのは間違いです。Skidelskyは、金融革新とグローバリゼーションのもたらす世界にも、豊かな中間の道がある、と主張します。それは1980年代、90年代にバブルを経験したスペインが銀行に「構造化された投資手段」を法律で強制したことで、融資には手厚い準備を維持し、住宅の購入者は十分な頭金を用意したように、顕著に効果を発揮するのです。

金融やグローバリゼーションを拒んだ世界は、牧歌的かもしれませんが、逆に、もっと貧しい、憎しみや争いに満ちた世界かもしれません。

ケインズ経済学の復活は、経済学者にとって驚きでしょう。経済学が現実の変化を説明するのではなく、現実の変化が経済学を選んだことが顕著だからです。市場はもともと不安定なものであり、適当な規制がないと問題を起こします。それゆえ、市場を非難するより、市場を支持する者は規制や政府介入の間違いを非難します。他方、市場の不安定性を重視する者は、それを放置したまま世界的な規模にまで市場自由化を拡大した政治家たちを批判します。

Bryan Gouldによれば、金融危機を避けるには、民主主義と極端な自由市場(の信仰)とは両立しない、と理解することです。


BBC 2008/11/20

Gazans despair over blockade

Aleem Maqbool

LAT November 21, 2008

Israel's hold on Gaza

WP Friday, November 21, 2008

Middle East Priorities For Jan. 21

By Brent Scowcroft and Zbigniew Brzezinski

(コメント) 地球上から切り離された土地、「惑星ガザ」はどうなったのか? ヨルダン川西岸のイスラエル軍による支配はいつまで続くのか? ガザには何もない。ガザ市民は何でも行列して待ちつづけるしかない。国連の援助物資もなかなか届かない。・・・電気もガスも止まって、何時間もパンをもらうために並ぶ。なぜこんな目に合うのか、子供たちに説明できない、と父親は嘆きます。

イスラエルは土地を封鎖したまま、世界はそれに対して何もしてくれない。

LAT November 22, 2008

Clinton, Obama and Israel

Tim Rutten

CSM November 26, 2008 edition

In the name of peace, Israelis and Palestinians should become European

By Richard N. Rosecrance and Ehud Eiran

(コメント) オバマ政権なら何かできるかもしれません。ヒラリーとビルを加えたアメリカ外交は、中東和平を新しい視点で動かすことができるのでしょうか? 南アフリカでも、北アイルランドでも、解決し得ない問題はないのです。パレスチナ問題にも、解決の道はあるはずです。厳しい現実に直面することで、指導者たちの政治的信念や心も変わり始めます。イスラエルのオルメルト首相は、アメリカの新政権に和平推進のシグナルを送っています。

あるいは、EUが、イスラエルとパレスチナを同時にEUに加盟させて、中東世界に新しい平和と繁栄の時代をもたらすでしょうか? なぜなら、和平が進展しない間にも、ユダヤ人の強硬派による入植は増え続け、エルサレムなどでパレスチナ人の人口は増加し続けているからです。たとえ独立国を得ても、パレスチナ問題は終わりません。むしろ彼らには新しい目標が必要です。彼らが一緒に救済されるような、政治的目標です。それがEU同時加盟です。


The Guardian, Thursday November 20 2008

Here, you can feel the power shift. But we all wrestle with the same problems

Timothy Garton Ash in Hong Kong

(コメント) 香港から、世界のパワー・シフトが見えたのでしょうか? 遺伝子を研究することで、なんと、カンガルーは中国からオーストラリアに渡ったことが確認されたそうです。・・・本当に!

Timothy Garton Ashは、香港で二つの文明を比較します。西洋とアジア。アメリカと中国。香港における中国の政治的支配と民主的な市民文化の衝突。そして、たとえ政治的には、オバマの勝利がもたらした興奮によって、今もアメリカに顕著な優位があるけれど、市場によって結びついた世界においては、成長をもたらす社会や制度の在り方は様々であり続け、明確な勝負の判定基準など無いのです。


NYT November 20, 2008

Obama, Misha and the Bear

By NICHOLAS D. KRISTOF

LAT November 22, 2008

JFK and Vietnam

By Gordon M. Goldstein

(コメント) アメリカが生きる困難な世界。サーカシビリ大統領のグルジアと、プーチン=メドヴェージェフのロシアとの対立は、NATOの拡大や改革問題とともにオバマ政権を悩ませるでしょう。ソフト・パワーを重視するオバマが、サーカシビリのような外交政策の道徳的冒険主義を取らないように、NICHOLAS D. KRISTOFは警告します

かつて、ベトナム戦争をアメリカの戦争にしない、というのがケネディの決意でした。45年前のケネディ暗殺は、この点で、アメリカの歴史を大きく変えたのです。


FT November 20 2008

World confronts a choice between chaos and order

By Philip Stephens

(コメント) 多極化した世界について、アメリカの情報部が報告書を発表して話題になっています。すなわち、the US National Intelligence Council, Global Trends 2025: A Transformed World, National Intelligence Council. です。現在の政治・経済変化をもたらすダイナミズムとは何か?

その解釈は、驚くほどIPEの唱える世界像と似ています。例えば、2025年の世界は密接に相互依存しており、急速に変化してしまう。アメリカ大統領は、まだ、重要な変化を促す決断を下せますが、同時に多極化し、制御できない世界の将来の秩序を決定するわけではありません。

過去、200年間、アメリカは新興国として世界の最強国にまで上り詰め、まだ少なくとも20年以上、その地位にとどまるでしょう。しかし、対抗する強国は顕著な影響力を示し始め、それが新しい制度や秩序に反映される過程は制度化されておらず、合理的な調整過程とはほど遠いものです。

さらにグローバリゼーションは非国家主体の重要性をますます高めるでしょう。ビジネス、宗教、犯罪組織、NGOsなど、彼らの影響力が強まる中で国家が支配的な影響力を保持する領域は限られてくるでしょう。世界的なパワーが再配分されて、1945年の国際秩序は維持不可能になっています。この多極化した世界は、支配の重なり合いやバラバラの努力から成り、多くはパッチワークでしかなく、安易に「グローバル・ガバナンス」と呼べるものではありません。「国際秩序」と呼ぶのも間違いです。

重要なことは、このような世界でシステムをカオスに向かわせるのは政治家たちの沈黙であり、何もしないことです。アメリカは今後も、たとえアメリカ国民が望まないとしても、世界で唯一の警察官として働くことのできる国家です。新しい、より包括的な世界の構造を発展させるためには、政治家たちが発言して、指導的な役割を担うべきです。

The Guardian, Sunday November 23 2008

Fundamentally flawed

Jeremy Seabrook

LAT November 23, 2008

Obama's multipolar moment

By A. Wess Mitchell

The Observer, Sunday November 23 2008

The world is facing epic change. How will we cope?

Amit Chaudhuri

IHT Sunday, November 23, 2008

Shifting to multilateralism

By Daniel Serwer and Megan Chabalowski

FT November 24 2008

Is America’s new declinism for real?

By Gideon Rachman

YaleGlobal, 26 November 2008

Lessons Obama Can Learn from the Wily North Korean

Peter M. Beck

(コメント) オバマが直面する世界は、それ以前の大統領よりも厳しいものでしょう。軍事的にも、資源や金融面でも、イラン、パキスタン、ロシア、中国など、アメリカの地位を損なうだけの力を得た、異なる価値観や行動原理を持った国が現れています。大恐慌以来の最悪の不況の中で、ドルの価値が急速に失われるかもしれません。

オバマはトルーマン大統領以来の大きな課題に、ハーディング大統領以来の弱い力で立ち向かうのです。そうであれば、金融用語で言うなら、大きなレバレッジを効かすことで、ようやく成果をあげられるでしょう。それは、わずかな力の差を利用して地域のバランス・オブ・パワーを変化させた19世紀のヨーロッパにおける「多極型世界」にそっくりだ、とA. Wess Mitchellは考えます。

それでも、ネオコンや保守派は認めません。アメリカの役割を過小評価する「衰退論者」や「敗北主義」は外交を誤らせる、というわけです。あるいは、そのようなアメリカ勝利論、軍事優先論こそ、多極化の現実を見失わせる危険な議論ではないか? とNCIの報告に拠ってA. Wess Mitchellは注意します。そしてむしろ、アメリカ国内の政治システムが十分に理解している、バランス・オブ・パワーの原則を確認しています。

同時に、マルチラテラリズムが注目されています。Daniel Serwer and Megan Chabalowskiの場合、それはヨーロッパを国際政治にもっと関与させるためです。ヨーロッパは内部分裂だけでなく、イラク戦争によるアメリカとの関係悪化が加わり、国際的な役割をますます拒むようになりました。

アメリカが撤退して、その後、イラクが深刻な内戦状態を再生し、地域全体の不安も高まるなら、そのコストは測り知れません。欧米が協力して、国連を主体としたイラク再建を支援するか、あるいは戦争地域を封じ込める、と考えるわけです。

Gideon RachmanはNCIの報告書を、アメリカ政府の情報部が「新衰退論」を採用した、という点に注目しています。しかし、過去にもアメリカは「衰退論」の流行を経験しました。すなわち、1980年代です。当時は日本の台頭や貿易不均衡、製造業の衰退、が問題になりました。さらに過去には、スプートニク・ショックやベトナム戦争がありました。

ただし、今回は中国です。中国はソ連がなしえなかった実質的な高成長と世界市場への進出を成し遂げ、また、日本が成功した以上の人口規模でそれを国際秩序に反映させるでしょう。

オバマ政権で北朝鮮政策はどう変わるでしょうか?  Peter M. Beckは、ブッシュ政権と違って、交渉はを支持するアメリカの国内体制が採用される、と考えます。


WSJ OPINION NOVEMBER 22, 2008

China Will Be a Winner in the New Economy

By ZACHARY KARABELL

WP November 23, 2008

China's Lifeline to the U.S.

Fareed Zakaria

The Japan Times: Tuesday, Nov. 25, 2008

Room for Asian influence in G20 structure

By MICHAEL RICHARDSON

(コメント) 資産市場が暴落する中では、プライヴェート・イクィティ・ファンドなど、現金を持つ者が王様です。そして、おそよ2兆ドルの外貨準備を保有する中国も。

さて、アメリカ衰退論者、敗北主義者と、保守派にこっぴどくののしられた、オバマと近いFareed Zakariaの論説も読んでみてはどうでしょうか?

アメリカが深刻な不況を回避するためには、GDPの7−11%に当たる1兆ないし1.5兆ドルの財政刺激策を必要とし、そのための財政赤字を融資できる者は中国しかいない、と書いています。米中友好、米中経済統合化路線です。だからオバマが誰を中国大使に任命するかが重要である、と考えます。

しかし、中国はそれ以上に、自国の雇用水準を維持しなければなりません。アメリカの財政赤字を埋めるより、国内の失業者を増やさないことが優先されるでしょう。アメリカには財政赤字の増大しか選択肢がなく、中国には、アメリカに資本輸出(そしてアメリカ向け輸出を維持)するか、国内で財政刺激を行うか、選択肢があるわけです。国際秩序を変えるのは、バクダッドではなく、北京になる、と。

9月に、中国は日本を抜いて、アメリカの最大の債権国になりました。中国がアメリカとの経済統合を利益と思わなくなれば、グローバリゼーションに別れを告げるときです。 say goodbye to globalization!

他方、MICHAEL RICHARDSONが描くように、G20の中でアジアが主導的な役割を果たす、というのは本当でしょうか?


The Guardian, Sunday November 23 2008

Five steps to a nuclear-free world

Ban Ki-moon

The Japan Times: Monday, Nov. 24, 2008

Connecting the solutions while there's time

By BAN KI MOON

(コメント) 核兵器のない世界を残すことは、われわれにとって最も重要な公共財である、と播基文国連事務総長は訴えます。したがって、それこそ国連の重要な使命であるはずです。核兵器を使用することへの道徳的な抑制以外に、何を提供できるでしょうか?

核兵器のコストと増大する核拡散の危険について、最近、さまざまな提言がなされています。そこで彼は、次の5点を主張します。1.NPTの下で核保有を認められた諸国が、核軍縮の具体的な手続きを開始する。そのためには問題を討議する国際的な常設機関と、核廃棄を検証する確実な方法の研究にもっと投資する。2.国連安保理が核兵器開発を阻止し、非核化を支持する。3.一方的な核実験の停止ではなく、包括的な合意を求める。4.保有する核の情報を国連事務総長に報告して、核の透明性を高める。5.核兵器に限らず、関連する軍縮を進める。

そして、自由貿易協定(FTA)よりも、核兵器のない地域(FNA)に合意することを強く支持する、と書いています。

また、後者の論説では、世界の貧困解消を訴えています。さらに、虐殺や内戦、気候変動を訴えています。そして、金融危機も。

国連事務総長は、こうした危機が互いに影響することを指摘し、金融危機の緊急課題を解決することが他の問題を解決するうえでも役立つ、と考えるようです。それは、他の問題を悪化させるような金融危機の解決策は受け入れられない、と主張しているのか?


WP Sunday, November 23, 2008

The Shadow of Deflation

FT November 24 2008

The world’s central banks must buy assets

By John Muellbauer

SPIEGEL ONLINE 11/24/2008

SPIEGEL INTERVIEW WITH GEORGE SOROS: 'The Economy Fell off the Cliff'

The Guardian, Tuesday November 25 2008

Mr President: spend, spend, spend

John Maynard Keynes

WP Tuesday, November 25, 2008

A 'Wealth Effect' in Reverse

By Robert J. Samuelson

BG November 25, 2008

We are all Keynesians now

FT November 27 2008

Credit creationism

(コメント) 資産市場の崩壊が激しいほど、たとえどれほど金融緩和や財政刺激策を行っても、デフレになる深刻な危険があるのです。金融機関は一斉に損失を抱えて融資を縮小し、人々はますます価格が下がると期待して購入を遅らせ、その結果、企業の売り上げは減って急速に経済全体へ倒産の波が広がっていきます。

金融資産を救済し、公的資金で資本増強を行い、不良な銀行は整理する。アメリカは日本のバブル崩壊に、また、アジア通貨危機の際にも、この方法を要請しました。しかし、その結果は激しい金融パニックやデフレであったと、今更、自国で気付いたようです。John Muellbauerは、コストのともなう財政政策よりも金融政策で資産市場を維持する方が好ましいし、必要なら株式市場に介入して、大幅に下がった株式を購入するのが良い、と主張します。アジア通貨危機の際に香港が成功したように、と。

19331231日に、ジョン・メイナード・ケインズはアメリカ大統領にあてた手紙としてNYTに寄稿したそうです。"An open letter to President Roosevelt" その要約が紹介されています。政府はどんどん支出を増やして、雇用を短期間で回復させること。それによって政権への信頼は高まり長期の改革も成功する。また、政府が景気を十分に刺激して、初めて民間の投資も回復に向かう。

しかし、中央銀行が資産市場や住宅市場、消費者ローン、しまいには、デパートや遊園地にも表れて、お金を使いまくっても良いのでしょうか? もちろん、銀行が融資を行うはずですから、中央銀行は一方で銀行が資産を減らしていることに応じて資本増強に支援を与えるでしょう。また、銀行が市場で資金を動かせなくなっているから、銀行間の融資に保証を与え、さまざまな資産をどんどん現金化する、というわけでした。

日銀はゼロ金利と量的緩和政策まで行っていました。しかし、いずれの効果もあまり期待できません。あるいは、日本には高齢化と中国製品の価格破壊が加わったからでしょうか?


FT November 23 2008

Bring back the link between gold and the dollar

By Richard Duncan

WSJ NOVEMBER 24, 2008

The Fed Is Out of Ammunition

By CHRISTOPHER WOOD

Nov. 25 (Bloomberg)

Obama Bonds May Be the Answer as Dollar Plunges

William Pesek

(コメント) アメリカの通貨や金融市場に対する信頼を損なわないための最善の方法は、ポール・ボルカーを政権に招くより、ドルと金の兌換性を復活させることだ、という主張もあります。アメリカはドルの価値を失わないために必要な政策を躊躇なく取ることになります。

Richard Duncanも指摘するように、ラテンアメリカ、日本、米英などの住宅市場など、ドルの供給は繰り返し過度な金融緩和を黒字国、銀行の国際融資、住宅市場や資産市場にもたらし、その後の危機を招きました。金との兌換を、ルールに依拠した、安定した価値を維持する通貨供給と、国際収支の均衡にとって不可欠の基礎にすることが、次の国際通貨秩序の条件になるだろう、と。

かつて日本のバブルを描いた興味深い本を書いたCHRISTOPHER WOODは、アメリカが住宅市場で4兆ドル、株式市場で9兆ドルの損失を出した、と書いています。そして、たとえ大恐慌の過程やミルトン・フリードマンの研究、日本のデフレを詳しく知っているとしても、アメリカがデフレの波を逃れることは難しい、と。

なぜなら、Fedが管理しているのは貨幣の供給量だけであって、その流通速度は管理できないからです。バーナンキたちは日銀が金融政策を失敗したとして批判していましたが、今、自分たちもその状態に向かいつつあるのです。ケインズも、このような場合、金融政策が効かないことを知っていました。

政治家たちは市場が完全に均衡を回復するのを待つことはできず、たとえ効果がなくても、さまざまな介入や救済を行い、市場の調整を遅らせることしかできません。日本の例は、こうした介入が不況を長引かせ、コストを増大させる、という警戒心を欧米市場の政策担当者たちに強めました。競争力のない企業と、異常な低金利、それでもデフレに苦しむ経済停滞です。

いよいろバーナンキは長期金利にも介入するかもしれません。すなわち、長期の財務省証券を中央銀行が買い上げる、政府債務の貨幣化に向かうのです。CHRISTOPHER WOODは、こうして貨幣数量説は信用を失い、ドルから金への逃避が生じて、貨幣価値を安定化するために再び野蛮な遺物である金とのリンクが求められる、と予想します。

オバマ政権は、中国政府の友情に頼るだけでなく、そのようなドル暴落への回避策として、外貨建のオバマ・ボンド発行を検討しなければなりません。しかし、そのような手段はドルの下落を公認したことになり、カーター・ボンドが国民の間で厳しい不評を招いたことと結びつきます。たとえ必要でも、政治的に選択されないでしょう。

アメリカが債務不履行になると思う投資家はいないだろうが、外貨建債券を発行することは彼らを安心させる、とWilliam Pesekは認めます。日銀は2度とゼロ金利政策に戻りたくないでしょう。するとアメリカの金利は一方的に下落するのです。日銀が円高に対する激しい不満を免れ続けるとも思えません。

アメリカの投資家は財務省証券へと逃避し続け、金利を低下させます。他方、外国の投資家はドルから金や円に逃避します。この恐怖の均衡は、どこに向かうのか?


FT November 23 2008

Britain will pay for Brown’s fiscal boost

By Nigel Lawson

FT November 23 2008

Wanted: borrower of last resort

The Guardian, Monday November 24 2008

Bold, imaginative – and it might just work

Will Hutton

The Guardian, Monday November 24 2008

Darling is right, but must go further

Bill Emmott

(コメント) 金融緩和が限界に達するなら、財政政策が登場しなければなりません。しかし、たとえインフレの心配がなくても、貿易や資本移動を自由化した世界では、資本流出と予測不能な不況や通貨危機の連鎖を心配しなければなりません。また、財政刺激策に頼るだけでは、日本のように、危機を回避しても長期不況から抜け出せない、と。

元大蔵大臣のローソンNigel Lawsonは、イギリス経済は1930年代のナチス・ドイツと違って、市場による回復過程が機能するから、イギリスの財政刺激策が大きくなりすぎないように求めます。

Will Huttonはローソンの消極性、政府への否定的な見方、を批判します。Bill Emmottも、イギリス政府がもっと大規模な財政刺激策を採用するべきだ、と主張します。

FT November 24 2008

Finally, System-Risk Insurance

By Laurence Kotlikoff and Perry Mehrling

FT November 24 2008

The government takes a huge gamble on investor confidence

By Martin Wolf

The Guardian, Wednesday November 26 2008

Darling is gambling on V, but it could yet be W, U, or even L

Larry Elliott

(コメント) いつの間にか、政府が財政の規律より、目的のある放蕩を主張するようになった、とWolfは懸念します。たとえ債務によって支出を増やしても、それは人々を恐れさせ、消費を削らせます。融資を嫌うようになった民間部門に代わって政府が借り入れを増やしても、それですべてうまく行くわけではないようです。


The Guardian, Monday November 24 2008

Geithner at Treasury: can he learn?

Dean Baker

(コメント) オバマ政権の経済チームが決まりました。その中心は、ガイトナーTimothy Geithner財務長官です。現在、ニューヨーク連銀の総裁で、元財務次官です。Dean Bakerは「無難な選択」と呼び、株価も5%上げたわけです。

しかし、現在の金融危機の原因は、ガイトナーが金融政策の中枢にいた時期に形成されたのであり、しかも、迷走した金融救済措置の実行には彼がポールソンの重要な仲間として関わりました。さらに、ガイトナーが有名になったのは1997年のアジア通貨危機で、アメリカ政府がIMFの救済案に関わる過程においてでした。その成果も怪しい限りで、多くの批判を招いたわけです。

当時、債務を処理する方法として、一部を放棄させるのではなく、短期融資を与えて、すべて返済させる方法が選択されました。そのためにアジア諸国は通貨を大きく減価させ、アメリカは大量の輸入したわけです。この考え方が当時のルービン財務長官の「強いドル」政策であった、とBakerは指摘します。

ところが、その後もアメリカへの輸出は続き、アジア諸国は危機に備えて外貨準備を増やし、為替レートをなかなか調整しませんでした。アメリカは大幅な赤字を出し、大量の資本流入やバブルでドル高と好況を維持し続け、ある意味で、現在の金融危機にもつながったわけです。それはまた金融規制の緩和によっても支えられました。ガイトナーはこうした政策決定に深く関与してきたのです。

こうしてオバマ政権は、イラク戦争と同じように、金融危機でもブッシュ政権の負の遺産を継承したわけです。

WP Monday, November 24, 2008

Team Obama Rides In

By Sebastian Mallaby

WSJ NOVEMBER 24, 2008

Secretary of Bailouts

NYT November 25, 2008

Obama Unveils Team to Tackle ‘Historic’ Crisis

By JEFF ZELENY

WP Tuesday, November 25, 2008

Obama's Brain Trust

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) ホワイトハウスの経済政策を担当するのはサマーズLarry Summersです。ガイトナーとともにクリントン政権で財政政策を担い、ロシア、LTCM危機 日本やアジアの金融危機に直截な言葉で政策を要求したと言われます。

さて、彼が直面する危機は、大恐慌以来の激しさで最大の銀行さえも飲みこみました。シティ・グループは資本を増強し、破たんしかかった金融機関の買収にも名乗りを上げたほどでした。しかし、その後の住宅価格は下落し、企業倒産は増え続けて、とうとうシティ・グループ自身が人員削減やリストラ策を発表し、さらに政府による救済の対象となったわけです。

他方で、危機は国際的にも波及しています。オバマは積極的な対策を打つでしょうが、それが効果を発揮するには時間がかかります。この危機において残された手は、中央銀行が通貨を増発することだ、とSebastian Mallabyは考えます

WSJは、ガイトナーをSecretary of Bailoutsと呼びます。

NYT November 25, 2008

Mr. Obama’ Economic Advisers

NYT November 25, 2008

Where Was Geithner in Turmoil?

By ANDREW ROSS SORKIN

Asia Times Online, Nov 26, 2008

Geithner a balm for Japan's Clinton trauma

By Kosuke Takahashi

WSJ NOVEMBER 25, 2008

The Compleat Summers

NYT November 26, 2008

The Return of Larry Summers

By DAVID LEONHARDT

(コメント) オバマはその指名に「健全な判断と新鮮な発想」という理由を挙げました。しかし、彼らがそうでしょうか? NYTの記事は否定的です。

例えばサマーズは、クリントン政権下でデリバティブの規制を緩和した張本人です。その際、危険だという反対意見をねじ伏せた、と言われます。市場の機能に対する彼の信念は揺るぎないものです。ガイトナーも、リーマン・ブラザーズの破産やシティ・グループ救済で、市場を迷走させた張本人です。

また、日本では、クリントン政権の悪夢が再現されるという懸念が飛び交っています。結果重視で行われた通商交渉、円高・ドル安の放置、中国への接近、など、日本政府が嫌がることばかりした、というわけです。ただし、ガイトナーはアジアに深く関与している、と歓迎しています。

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The Economist November 8th 2008

Climate change: Green, easy and wrong

Challenges facing Barack Obama: Obamas world

Lexington: The unhappy warrior

Cities and growth: Lump together and like it

(コメント) 環境対策に投資するニュー・ディールを批判しています。オバマが直面する、危険に満ちた世界の問題を整理します。マッケインの敗退ぶりを称賛します。

そして世界の激変を秘めた都市の膨張を概観します。新興の世界都市は絶対的な貧困ではなく、雇用と生活水準、グローバリゼーション時代の都市文化・政治を準備します。