IPEの果樹園2008

今週のReview

10/26-10/31

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

地政学的な危機、 金融危機後の秩序: Emmott ; Plender ; Brown ; the Economist、 産業保護基金、 ニュー・ディール、 ブレトン・ウッズU: Mallaby ; Sachs ; Kettle ; Chang ; Yueh、 黒字国によるIMFへの委託基金、 マルチラテラリズム、 Stiglitz、 Stern、 資本主義は死んだ、 救済の財政負担Brittan、 ケインズ、 「アイスランド病」、 中国、 アフリカ

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ただしFT: Financial Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, LAT: Los Angeles Times, BG: Boston Globe, IHT: International Herald Tribune, CSM: Christian Science Monitor, WSJ: Wall Street Journal Asia, FEER: Far Eastern Economic Review


The Japan Times: Thursday, Oct. 16, 2008

Defining moment in history

Brahma Chellaney

(コメント) 世界の関心が国際金融危機に集まることで、地政学的な危機が軽視されることになっていないか? ロシアは21世紀最初の軍事力による国境変更と、自国に敵対する外国の権力者の交代を要求しています。

危機の根は深く、表面的な対策を繰り返すだけなら、次第に危機が結びついて拡大するでしょう。サルコジ大統領が、21世紀の世界が20世紀の制度の依拠している、と嘆いたのも当然です。国連安保理も、G7も、ブレトン・ウッズの国際機関も、第二次世界大戦が終わるころにできました。その寿命はとっくに尽きています。

Brahma Chellaneyは、他にも、民主主義と市場の関係が矛盾していること、アングロ・サクソン型の資本主義(金融ビジネスと企業組織)が世界に蔓延したこと、を危機の背景として挙げています。今、アメリカ政府自身が主要な金融機関を国有化するに及んで、そのモデルは放棄されました。

2007-08年、世界の金融システム不安から不況に至る危機は、2001年の9・11に劣らず、既存の国際制度を根底から動揺させています。もはや、アメリカの指導力を頼りに、部分的な改善で終わることはないでしょう。

WP Sunday, October 19, 2008

Brace Yourselves

By Bill Emmott

(コメント) この種の問題については、Bill Emmottに勝る評者はなかなかいません。Emmottは、危機に直面して、にわかに形成されつつある「合意」について疑念を示します。すなわち、1.市場と国家のバランス、2.アメリカそしてドルの地位低下、3.アジア、特に中国へのパワーの移転、4.権威主義国家のパワー増大、です。

市場と国家の関係が大幅に見直されて、国家の役悪が重視されるだろう、という合意をEmmottは否定します。その理由は、1990-91年の危機後、日本がそうならなかった、ということです。国家を受け入れやすい日本人でさえ、金融危機の後始末を国家が支持し続けるには、財政負担が大き過ぎた(そして市場を停滞させた)のです。GDPの180%も債務を負って、まだ財政赤字を膨張させる戦略を取ることは困難でした。アメリカはまだ90%ですが、EUには同様の困難があるでしょう。サルコジもメルケルも市場型の改革を目指している、とEmmottは指摘します。

次に、アメリカやドルの地位が低下する、という合意には、従来の反論を取り上げます。すなわち、それに代わるものがない、ということです。ユーロも、中国の人民元も、ドルの代わる用意はないでしょう。また、アメリカ経済は1980年代に示したように、急速に回復する力を持っています。アメリカの家計が消費よりも貯蓄し、政治家が市場開放から離反しなければ、WTOを介した多角的な協調体制とドル安によって経済状態を再建することは可能です。

他方、中国が世界の指導的な役割を引き受けるでしょうか? もし中国が財政刺激策を取って、しかも金融緩和するなら、内需を中心にした成長を持続するかもしれません。さらに人民元の増価を受け入れて、輸出だけでなく輸入が増えることを歓迎するなら、アメリカの役割を引き継ぐわけです。しかし、財源を振り向けるべき国内の優先課題が無視されることはないし、国内事情を無視して金融を緩和することは難しいでしょう。人民元高や輸入を歓迎するとも思えません。なにより、中国市場はアメリカの4分の1しかないのです。

Emmottは、中国の政治指導部が願うのは、むしろこの世界不況から自国の政治・社会不安が刺激を受けないように、国内経済対策を万全にすることだ、と指摘します。そのためには「国際的責任」「分担」などを要求されることは避けねばなりません。そのようなことを主張するとしたら、2020年代あるいは、30年代か40年代だ、と。

最後に、中国を除けば、プーチンのロシア、チャベスのヴェネズエラなど、権威主義国家のパワーの源泉は石油などの資源価格高騰でした。国際金融危機や世界不況が続いて石油価格は暴落しており、彼らは最大の犠牲者になるでしょう。逆に、アメリカや中国はその受益者です。

経済危機は政治危機と結びつき、前回の最大の崩壊はインドネシアで起きました。今回の危機でスハルトを探すなら、それは欧米ではなく、パキスタンのような貧困国や、むしろ資源に依存した権威主義国家になるでしょう。4つの合意は間違っている、とEmmottは主張します。

WP Monday, October 20, 2008

Russia Unromanticized

By John R. Bolton

WSJ OCTOBER 21, 2008

The Dangers of a Diminished America

By AARON FRIEDBERG and GABRIEL SCHOENFELD

FT October 22 2008

The complexities of a multipolar future

By Zaki Laïdi

Asia Times Online, Oct 22, 2008

Lessons from the war in Georgia

By Herbert Bix

FT October 23 2008

Globalisation and the new nationalism collide

By Philip Stephens

(コメント) Henry Kissinger and George Shultzはロシアを孤立させるのは間違いだ、と主張しました。しかし、John R. Boltonは反対です。なぜなら、ロシアとの冷戦は起きないからです。ロシアの冒険主義を是正しなければ、その行動をますます助長するでしょう。

John R. Boltonは、1.NOTOの加盟国をバルト3国にも拡大する。そして黒海周辺のウクライナ、グルジアも包括する。2.中東欧のNATO加盟を望む諸国と軍事協力関係を強める。3.ミサイル防衛網を構築する。ロシアの参加も呼び掛ける。

AARON FRIEDBERG and GABRIEL SCHOENFELDは、ロシアや中国にまで株価暴落が波及し、政治経済体制を不安定化していることを懸念します。1930年代に、国際金本位制度が崩壊し、保護主義やナショナリズム、軍備拡大が始まり、戦争に至った過程を、ある程度まで、繰り返しているからです。アメリカの新しい大統領は孤立主義を避けて、世界の開放体制を積極的に守らなければなりません。

Philip Stephensにとって、危機の教訓とは、われわれが相互依存から向け出すことは不可能であり、世界市場には多角的な・マルチラテラルなルールが必要である、ということです。しかし、サルコジ大統領が熱心に主張するヨーロッパの救済基金は、ヨーロッパの、特にフランスの企業や銀行を助けるものでしかありません。イタリアのベルルスコーニ首相は余所者を排除する新しい国家資本主義を唱えました。他方、メルケル首相はこれに反対します。ユーロはもはやドイツの貨幣ではなく、それによって他国の企業や銀行が大規模に救済されることを望みません。

Economics and finance may be global, but politics is still local. 結局、グローバリゼーションは、新興諸国では西側が支配する国際制度への不満を強めており、他方、裕福な諸国は相互利益や相互依存という言葉で既得権を守りたがる。こうして、相互依存が致命的に高まっているのに、同時に、各国のナショナリズムを刺激してしまう。

Stephensは、新しいアメリカの大統領に、二つの不満に結びつく現状を転換するように求めています。そのために、アメリカ大統領は一方的な多角主義を採用します。すなわち、G7(G8)を欠席し、G13とG20の会合にだけ出席するのです。楽観主義に立てば、こうして新しい秩序が始まります。


Oct. 17 (Bloomberg) Poorhouse Awaits Opponents of Globalization Michael R. Sesit

FT October 17 2008 Saving the banks was just a first step

危機はすでに銀行の連鎖的な破綻にまで及びました。政府はその先回りをして、あらゆる手段で被害の拡大を食い止めています。金融が止まれば、債務に依存する住宅、自動車、クレジット・カードによる販売が止まります。また、債務に依存した各国の貿易取引や経済活動が止まります。

もし金融システムが死んで、世界不況が迫れば、政府は財政赤字を拡大して支出を一気に増やすでしょう。しかし、これは危険な最終兵器です。中期的な財政再建の見通しを示さなければなりません。そのような手段を取る前に、再度の金利引き下げなど、まだできることがあるはずです。

ニュー・ニュー・ディールの用意はしなければなりません。しかし、まだそのときではない。

Latin Business Chronicle, 17 October 2008 China Sneezes, Latin America Catches a Cold Jeremy Martin and Roger Tissot

かつて、「アメリカが風邪をひくと、ラテンアメリカ(あるいは日本)は肺炎になる」と言われました。今は違います。中国が風邪をひくと、ラテンアメリカが肺炎になるのです。

The Japan Times: Friday, Oct. 17, 2008 Plugging U.S. equity leaks By HANS-WERNER SINN

The Observer, Sunday October 19 2008 Smoke clears to reveal the monster of rising unemployment Will Hutton

NYT October 19, 2008 Three Trends and a Train Wreck By TYLER COWEN

WP Monday, October 20, 2008 In Good Times and Bad By Robert J. Samuelson

NYT October 21, 2008 This Bailout Doesn’t Pay Dividends By DAVID S. SCHARFSTEIN and JEREMY C. STEIN

NYT October 22, 2008 Only Half a Bailout

NYT October 22, 2008 France Suggests Wealth Funds for European Stocks By KATRIN BENNHOLD

通貨価値と株価が急激に下がるとき、香港でも、マレーシアでも、タイでも、・・・日本でも、銀行や企業の買収を嫌って、政府が資金を供給する話になります。外国の機関投資家を嫌うヨーロッパもそうでした。SWFに対抗してSWFを。資本市場における経済ナショナリズムです。

さらにフランスの主張は、ユーロとECBの運営をめぐる旧来の論争を再現します。貨幣価値を重視するドイツに比べて、産業の保護や雇用を重視するフランスやイタリアは激しく対立していました。金融危機と不況を前にして、ECBの独立性を損なう発言はないけれど、巨大な産業保護の基金設立を要求し始めます。

FT October 22 2008 A simple plan to unclog the interbank market By Tim Congdon and Brandon Davies

銀行間市場に流動性を供給する方法とし、イングランド銀行が民間銀行とのレポ取引を長期化すること(“permanent long-term repo open market operations against broader classes of collateral”)を提案します。

NYT October 23, 2008 Struggling to Keep Up as the Crisis Raced On By JOE NOCERA and EDMUND L. ANDREWS

913日、リーマンブラザーズの倒産で急速に深刻化する、ポールソン財務長官の悪戦苦闘を描いています。


FT October 16 2008

Grand claims but only tired ideas

FT October 17 2008

Shut out

By John Plender

(コメント) カール・マルクスは多くの点で間違っていたが、『資本論』に示した恐慌の叙述は現代にも通用する。「貨幣資本の所有者にとって、生産過程は、単なる避けられない中間段階、貨幣を得るための必要悪である。資本主義生産様式を取るすべての国民が、それゆえ、生産に邪魔されないで貨幣を作る熱狂的な試みに、周期的に取りつかれる。」

John Plenderは、今回の熱狂によるバブルが崩壊したことで、人々は犯人探しに夢中だが、忘れているものがある、と考える。それは、株主だ。政府は資本増強策に奔走し、どこでも巨大銀行が準国有化になっているが、かつてのように誰もそれを非難しない。

1990年代、資本市場が世界を支配していたころの、クリントン大統領が述べた有名な言葉がここにも引かれます。

“I used to think that, if there was reincarnation, I wanted to come back as the president, or the pope, or a top baseball hitter. But now I want to come back as the bond market. You can intimidate everybody.”

「もし生まれ変われるとしたら、・・・資本市場になりたい!」 ところが、財政規律に欠ける政府を拒み、日干しにできた資本市場の個人投資家、債券保有者たちの居場所も、規制緩和と金融自由化が世界を変貌させてしまうと、すっかり様変わりしました。

アジア諸国の貿易黒字や産油諸国の石油代金が、政府の財政赤字に注ぎ込まれ、さらに住宅バブルや様々な金融緩和の源泉となったのです。その資本の流れは市場を乗っ取り、投資家たちの自警団を失業させました。政府が相次いで銀行を救済し、財政赤字を膨らませているのに、それをとがめる投資家はいません。

そもそも投資家は債券の価値を維持する点で債務者と利益を共有するようになりました。あまりにも巨額の不良債権は処理することができない、という日本でもよく見た光景です。アジアの貯蓄者も、産油諸国の王族も、裕福な諸国の政府がハイパーインフレや債務不履行、世界デフレになることを願っていません。そのため、銀行連鎖倒産の恐怖や1930年代の失業者に開かれたスープの配給所を再現することは、政府が一層の財政赤字を注いでも拒まないでしょう。

さらに、この論説の後半は、株式所有や機関投資家、企業のガバナンスが機能していないことに向かいます。金融革新やリスク評価について無頓着な、旧世代の重役連中で拡大した融資戦略、自分たちに都合の良い報酬システムを作り、外部の監視を入れずに「ソビエト型の多数決」を採用し、結局、欧米とも、金融機関は多くの失敗を重ねていたことが倒産してから分かります。

John Plenderは、だからと言って政府が(かつてのように)金融を支配することにも反対です。ドイツの金融システムがそうであるように、政治家たちは中央と地方で結束して銀行を保護します。零細な銀行が過剰に存続したまま、危険な国際金融市場で、有毒な金融商品の海に、餌食となるための見込まれるのを待っていた、と。

WP Friday, October 17, 2008

Out of the Ashes

By Gordon Brown

(コメント) 世界経済を恐慌の淵から救い出したのは、ポールソン財務長官ではなく、イギリスのゴードン・ブラウン首相でした。多くの評価では、ポールソン=バーナンキの演出したウォール街大乱闘はむしろパニックをあおったのです。

ブラウン首相は、世界資本主義の最初の本格的危機に直面している、と断言します。ヨーロッパの政治家たちが繰り返すように、“The global problems we face require global solutions.

今、この瞬間に世界の秩序が作られている、という感覚と責任を、彼は冷戦期のアメリカ国務長官ディーン・アチソンの言葉に見出します。また、現在の危機を第二次世界大戦末期にたとえ、次の時代のブレトン・ウッズ会議new Bretton Woodsを呼びかけます。それは普通であれば大げさな政治的ポーズでしょう。しかし、今はそのまま受け取られるほどの恐怖が、金融市場と政治家を支配しています。

金融市場に信頼を取り戻すには、それがたとえ現在の問題でも、未来について信頼を取り戻す必要があります。国際金融市場がなぜこれほどの困難に直面したか、危機の症状に対応するだけでなく、その原因を究明し、再現しないと確信できるようなシステムを再建しなければならない、とブラウン首相は断言します。

新しいシステムは、透明で、健全な銀行、責任ある、高潔な、そして、グローバルなガバナンスを実現しなければなりません。

国境を超えて金融機関を監督し、世界的な規模で会計基準や金融規制を共有し、銀行家たちの困難な労働と企業家精神に見合う、そして無責任なリスクの高い取引を拒むような報酬体系を打ち立て、世界経済に対する効果的な早期警戒システムを備えた国際機関を創設する。また政治指導者たちは共同で、自分たちが近隣窮乏化政策に訴えないこと、貿易自由化交渉を支持し、保護主義に反対することを表明するべきだ、と。

われわれは同じ船の乗客であり、沈むときも、助かるときも一緒である。各国の政治指導者たちは救済基金を用意することに成功した。さらに、これからの数週間で、新しい世界経済のルールを協力して打ち立てねばならない。

The Guardian, Sunday October 19 2008

Brown's brave new world

Chris Osborne

(コメント) オルダス・ハクスリーの『素晴らしい新世界』というアンチ・ユートピア小説を知っている人も少なくなったようです。しかし幸い、この論説は冷笑的なものではありません。

Chris Osborneは、ブラウン首相の求める新しい国際機関は何をするのか? 三つを指摘します。1.危機の予防。BISの行っている銀行の交際規制に加えて、金融規制の国際的な調和を促し、その悪用(制度のアービトラージ)を防ぐこと。デリバティブの規制。2.早期の警告。例えばアメリカの財政赤字とアジアの過剰貯蓄のリサイクリング、小国の銀行システムに中央銀行の最後の貸し手が応じられない場合(アイスランド)、などを警告する。3.最後の貸し手。アメリカ連銀、ECB、日本銀行が行っている最後の貸し手を前提に、信用枠を設けて行使する。

WP Saturday, October 18, 2008

Going Global

By Harold Meyerson

(コメント) 金融市場を規制し、大きな政府の時代になることは間違いない。しかし、それだけではない。次第に、グローバルな規模の政府になる。

金融市場の危機が示したように、世界的な協調がなければ、各国政府の行動は危機を激化させた。あるいは、AIGがそうであるように、世界的規模に展開する企業や金融機関をアメリカ政府が国有化しなければ、世界中に危機が波及した。

世界政府と言うと、しばしば、ビザンチン的な官僚制度、非効率性の怪物を想像する。しかし、国民国家の法体系と世界経済との矛盾はますます深刻になる。すでに、世界中で中国の食品、薬品、工業製品、が使用されている。また、アメリカの航空機はコストの安い中央アメリカで機体整備を行う。その安全性を確保するために検査官たちが世界を飛び回る。

ルーズベルトのニュー・ディール政策が州の権限を中央政府に集めたように、ブレトン・ウッズUも世界の幹線道路に適用する共通のルールを作る。それは金融システムにとどまらない。世界経済がもたらす生産物の安全を確保するために、労働者の生活水準や安定した暮らしを確保するために、ニュー・ディールが世界化するときだ。

NYT October 19, 2008

Bush to Host World Economic Summit

By JOHN H. CUSHMAN Jr. and CARLA BARANAUCKAS

WP Monday, October 20, 2008

Bretton Woods, The Sequel?

By Sebastian Mallaby

(コメント) 新しいブレトン・ウッズ会議について、Sebastian Mallabyは否定的です。為替レートを固定するIMFと世界銀行の役割はとっくに終了し、今では中国に変動レートへの移行を説得しています。今、IMFのような新機関ができて、何をさせるのか?

ブラウン首相は世界の規制を統一することを願うかもしれないが、BISが銀行規制を長く試みて失敗してきたことだ。次にやるとしたらレバレッジの規制を強めることかもしれないが、たぶん、不可能だ。各国が互いに話し合ってスワップを結ぶことならできる。その方が柔軟で、現実的だ。IMFがかつて行った新興諸国への融資と政策勧告は、今ではロシアがアイスランドに、EUがハンガリーに行う。

新機関に早期警戒システムを期待するのは難しい。すでに多くの同様の警報が出されている。そして、役に立たなかった。実際に主張するとしたら、IMFの改革であろう。新興諸国に発言権を与えるため、クオータを見直すことになる。それは旧来のヨーロッパ諸国、特にイギリスやフランスの発言権が失われることであり、彼らが反対している。

各国政府が危機対策で協力することは望ましい。しかし、1997-98年の危機後に、各国は散々話し合った。しかし、新しい金融アーキテクチャーはできなかった。結局、実現したのは各国の改革だ。金融制度を整備し、財政を黒字にして外貨準備を積んだ。その結果、彼らは今回の危機をうまく回避できるかもしれないが、それは国際会議が決めたからではない。

WP Monday, October 20, 2008

Is Capitalism Dead?

FT October 20 2008

Super-Sarko’s plans for the world

By Gideon Rachman

(コメント) サルコジの唱える資本主義再建、あるいは国際金融を飼いならすことに、Gideon Rachmanもきわめて懐疑的です。特に、危機によって見えてきたのは、EUではなく、政府間交渉が権力を強めたことです。それはEUの権限や政策手段を強化する動きに逆行しています。

サルコジが強く望むタックス・ヘイブンの規制も、アメリカの不支持で、実現しないでしょう。たとえ国際会議に集まって政策や規制について話し合っても、その核心部分は静かに無視されるだけです。高貴な、刺激的な、新しい国際機関によるガバナンスが語られても、次の危機が来れば無意味であったと分かるだろう。

FT October 20 2008

The Fund must be a global asset manager

By Michael Bordo and Harold James

(コメント) ハロスド・ジェームズの提案は興味深く、重要です。

国際金融を安定化する役割において、IMFの政策監視が重要であった。IMFは経常収支黒字国がため込む外貨準備を委託されることで、国際金融市場の安定化を促進する。その役割は、かつて大量の国際金融資産を管理する大投資家たち、すなわち、ロスチャイルドやJ.P.モルガンが金融パニックの際に担っていたものだ。

このまま放置すれば黒字国の政府系投資ファンドが金融センターや赤字国に資本を流入させる。しかし、それでは政治的な思惑が働くし、各国の行動によって国際市場が安定するとは言えない。そこで、新しい投票権を与えて、黒字国の資産をIMFの運用に委ねてもらうのだ。

IMFによるこうした安定化は、世界経済に利益をもたらし、また準備資産の所有者(黒字諸国)にも利益をもたらす。この新しい準備資産は、その半分をIMFの旧来の投票権と同じ比率で配分し、残りの半分は新しい資産を拠出した黒字諸国に、その拠出額に応じて配分する。それはアメリカ合衆国憲法の上院と下院の二院制に似ている。

この政治構造は、IMFをアメリカの政治的影響力からある程度切り離す。また、経常収支黒字国は世界市場の変化につれて移り変わるから、この準備資産も変動し、投票権の配分も市場によって再配分されて行く。それは市場に依拠した株式会社のガバナンスに似ている。

新しいIMFは、一方で民間銀行の救済といった使命を拡大し、他方で政治的な勢力争いが強まることから距離を置かなければならない。国際的なルールに従って、赤字国や民間金融機関に対する緊急融資や資本注入を行うことが重要である。

BG October 20, 2008

Needed: new multilateralism

By Robert B. Zoellick

(コメント) ニュー・マルチラテラリズムを支持する形でRobert B. Zoellick異論を示します。

The New Multilateralismは、伝統的な国際機関が貿易と金融に依拠していたのに対して、他の様々なグローバルな問題を結びつけ、大きな交渉・取引と合意を模索します。すなわち、すでに安全保障と環境・温暖化問題で世界的な会議が持たれています。他にも、エネルギー、破たん国家の再建、その他、協力しなければならない問題が多くあります。

The New Multilateralismは、関係国を限定しません。貿易や金融について、明らかに既存のG7は時代遅れです。ブラジル、中国、インド、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、は必ず含めるべきでしょう。しかし、特定の国に固定することも間違いです。グローバル・ネットワークを構築して、そのときの問題に応じた中核グループを柔軟に編成することが求められます。

グロバルな問題を解決するために、ニュ・ツール、ニュー・メカニズム、ニュー・テクノロジー、その普及を図るための金融的支援が重要です。運命はわれわれに機会を示します。それに応えることです。Multilateralismと市場を革新することで。

DAVID HOWELL Now for the consequences The Japan Times: Monday, Oct. 20, 2008

MICHAEL SPENCE From distress to effective global governance The Japan Times: Monday, Oct. 20, 2008

L. GORDON CROVITZ Don't Sell Hedge Funds Short WSJ OCTOBER 20, 2008

Claire Berlinski What the free market needs LAT October 21, 2008

The Guardian, Tuesday October 21 2008

Amid the rubble of global finance, a blueprint for Bretton Woods II

Jeffrey Sachs

(コメント) Jeffrey SachsJoseph Stiglitzは、一種の、国際制度改革常任委員会メンバーです(もしそんなものがあれば)。

今回の危機は、リスク評価の問題をビジネスとして処理し、システム全体のリスクを考慮しなかったという失敗です。国際的な最後の貸し手が必要であることは、自己実現的な通貨危機が起きる可能性が理解されてから、Sachsなども提唱してきたけれど、改善されなかった。

そもそも既存の国際制度には多くの欠陥がある。世界の繁栄から取り残されたおびただしい貧困があって、多くの人々が病気や犯罪、戦争に苦しんでいる。その問題を解決するために国連で合意したミレニアム開発目標も、約束した富裕諸国のほとんどが達成していない。地球温暖化の危機も一致した行動を促せていない。

真のブレトン・ウッズUが実現するなら、世界金融とマクロ経済の安定化、経済発展、環境の持続可能性、貿易と開発、といった問題を解決するであろう。これらは全て世界経済が持続的な成長を実現するために欠かせない。

Sachsの主張で興味を引くのは、これらの分野で行動を促すという目標が新しい世界銀行の下で同時に活性化されることであり、国際的な最後の貸し手を担うIMFとともに、追加の財源としてはトービン税を考えることです。また、複雑で効果の怪しい排出権取引などやめて、炭素税を課します。

The Guardian, Tuesday October 21 2008

Economies of scale

Ann Pettifor

The Guardian, Tuesday October 21 2008

Light in the dark corners

Richard Murphy

FT October 21 2008

The Fund faces up to competition

By David Rothkopf

(コメント) グローバリゼーションの逆転、国家の強化、資本規制の国際的導入ルール、国際決済同盟の超国家通貨バンコールの誕生、そして、世界は最適規模の経済に向かいます。これがラディカルのイメージする新しい「大転換」(ポランニーとは逆?の)です。

また、Richard MurphySachsの提案を批判しています。何よりも、タックス・ヘイブンを放置することはできない。多国籍企業がどこで何をしているのか、明確にする。国際的な会計基準を改善し、四大会計事務所の支配を解体する。

IMFの融資条件に代わって、ロシアや中国、ヴェネズエラの外貨準備を得るために、アイスランドやパキスタン、ボリビアは彼らの条件を受け入れるかもしれない、とDavid Rothkopfは懸念します。融資条件を介したソフト・パワーはシフトしてしまった、と。

The Guardian, Wednesday October 22 2008

A crisis of confidence

Joseph Stiglitz

The Guardian, Wednesday October 22 2008

Bretton Woods II, with caveats

Ha-Joon Chang

(コメント) Joseph Stiglitzが強調するのは、金融ビジネスにおける競争を情報の透明性、少なくとも情報の開示によって、もっと促すことです。それによって不当な報酬システムや危険な金融商品は排除されるはずでした。大き過ぎて潰せないような銀行の支配的地位はなくなります。

同様に、もっとシンプルで包括的な、効果的規制の枠組みが必要です。金融サービスは経済発展に欠かせない重要な役割を担いますが、その規制によって活動の在り方が変わります。社会にとって望ましい金融サービスであることを長期的に保証するような規制体系が必要です。

Ha-Joon Changは、Sachsの提案に追加すべき点を述べ、特に、貿易と開発に関する部分を批判します。

まず追加する点としては、国家の破産と返済条件の交渉を制度化し、自己資本比率規制を強化し、同時に、景気変動も抑制するように比率を変更し、タックス・ヘイブンやプライヴェート・イクイティ・ファンドへの規制を強化し、信用格付け会社の改善もしくは公的機関による交代を主張します。また、IMFを強化して国際的な最後の貸し手にすることも、今のままでは反対します。IMFはその融資条件により、デフレ政策や自由化を強制したことで批判されました。そもそもIMFの利用者(多くは発展途上諸国)の発言がもっと重視されなければなりません。

さらに、Sachs提案を批判して、国連のミレミアム開発目標(MDG)や貿易と開発の考え方を取り上げます。MDGは健康状態や教育に対する投資を重視する。しかし、それだけでは開発にならない。もっと彼らの生産能力、生産手段を強化しなければならない。同様に、貿易と開発について、Sachsは発展途上諸国が援助を受ける条件として自由化を求める。しかし、極端な自由化は発展途上国の生産能力を破壊し、彼らの未来を奪ってしまう。18世紀のイギリス、19世紀のアメリカ、ドイツ、20世紀の韓国、台湾が成功したことを、現代の発展途上諸国に拒むのは間違いだ。

The Guardian, Thursday October 23 2008

In times like these

Martin Kettle

The Guardian, Thursday October 23 2008

The financial cloud's silver lining

Linda Yueh

(コメント) Martin Kettleは考えます。ブレトン・ウッズUは実現しない。最初のそれが成功したのは、アメリカとイギリスしか交渉しなかったからだ。BWUは、だれがその操縦席に座るのか? あまりにも多くの経済学者と、あまりにも多くの政治指導者が、巨大な会議室にも入りきれないで議論し続けても、新しい国際制度は生み出せない。

21世紀の地政学が、あるいは、領土的支配を超えた権力が、真っ先に解決されなければ、国際会議には意味がない。

Linda Yuehは、個々の国家を離れて、経済法則を確認し、国際規制を求める動きは実現可能だ、と考えます。BISやWTOを改善することです。また、共通の利益、互恵性は有効だ、と。

The Guardian, Thursday October 23 2008

Not the death of capitalism, but the birth of a new order

Seumas Milne

The Guardian, Thursday October 23 2008

Green routes to growth

Nicholas Stern

(コメント) Seumas Milneは考えます。恐慌とともに蘇るのは、ケインズだけではない。帰ってきたぞ、とTimes誌はカール・マルクスを取り上げた。ヨーロッパの政治指導者たちはあわてて『資本論』を読み直す。マッケインはオバマを「社会主義者」と非難し、BBCは資本主義が死滅するかどうかを議論している。新自由主義の大本山であったthe Economistは、経済的自由が砲撃されている、と絶叫し、反攻を呼びかけている。・・・

しかし、死滅しつつあるのは「自由市場モデル」への信仰であって、「資本主義システム」ではないのです。フランスのサルコジ大統領が批判したのは「自由放任」であり、イギリスのダーリング蔵相もケインズに頼ります。歴史家のEric Hobsbawmが指摘したように、共産主義体制が崩壊した後、社会主義が対抗するイデオロギーではなくなり、労働者を組織する思想や運動が失われたとき、恐慌から最大の利益を受けるのは極右の政治運動です。

過去25年に数億の人々が市場自由化によって貧困を脱した、とthe Economistは主張します。しかし、その大部分を達成したのは、社会主義のイデオロギーを支持し、厳しい市場管理を行っている中国でした。他方、インドの成長がどれほどグロテスクで不平等なものであったか、さまざまな児童労働を見れば分かります。

左派であれ、右派であれ、危機に対する明確な答えなど持っていない。社会主義が対案でなくなった、と主張するのは右派のイデオロギーだ。ケインズ主義と社会主義があったから、豊かな社会は戦後のより平等な成長を達成できた、とSeumas Milneは考えます。

あるいは、Nicholas Sternの言うように、この危機を生かして、低炭素型の経済成長へと世界を転換させるべきでしょうか?

WP Thursday, October 23, 2008

Five Ways to Fix Our Financial Architecture

By Howard Davies

FT October 23 2008

The big myth of taxpayer cost

By Samuel Brittan

(コメント) イギリスの金融サービス庁(FSA)の元長官、現在はイングランド銀行副総裁のHoward Daviesが、国際会議に向けて新しい機関の基本条件を求めています。1.より単純で包括的であること(銀行、証券市場、保険、がリスクを分散している)。2.より代表制を充実させて、正当性を高めること。3.より迅速に行動すること(BIS規制の改正は遅い)。4.規制とマクロ経済のサーベイランスを組み合わせて実施すること(IMFの復権)。5.新しい政治的指導力を発揮すること(G7の拡大)。

世界金融危機の中でも、中国政府は国際協調を支持し、各国の自衛策を主張し、建設的な行動を取る、と約束しました。

Samuel Brittanは、政府による金融機関の救済が、危機の後にどのようなコストを国民に負わせるのか、という論争を取り上げています。興味深いことに、救済融資にはほとんど限界がなく、ただ、インフレを生じるとその限界が来たと考えて抑制しなければならない、また、長期的には生産や雇用を増やすものではない、というのです。遊休資源や失業が増えるなかで、インフレを心配して救済融資をためらうことは間違いです。

この点が矛盾しているように感じる、と、ミルトン・フリードマンやケインズの大恐慌に関する考察を引いています。実際には、危機後のシナリオが多くある、と考えます。


NYT October 17, 2008

Buy American. I Am.

By WARREN E. BUFFETT

YaleGlobal, 20 October 2008

Unilateral Delusions

Joseph P. Quinlan

(コメント) 失業は増加し、経済活動は衰退し、新聞記事は不安をあおるだろう。しかし、だから私は、アメリカ株を買い続ける、とウォーレン・バフェットは宣言します。「他人が強欲になれば恐れ、他人が恐れているときに欲ばれ」という個人的な原則を信じている、と。長期的には、アメリカの株式で保有することが正しい。

Joseph P. Quinlanは、アメリカの保護主義を批判する論説ですが、アメリカの富というものが世界の資源や供給ラインや貯蓄によって実現可能であることを、ある意味では、非常に強欲で、貧困なことを示している、と思います。

次世代の若いバフェットたちは、何に投資するべきか?


WP Friday, October 17, 2008

Barack Obama for President

NYT October 17, 2008

Thinking About Obama

By DAVID BROOKS

LAT October 19, 2008

Barack Obama for president

LAT October 19, 2008

The promise of Obama

By Rubén Martínez

(コメント) 長年、マッケインを支持してきたが、大統領にはオバマを支持する、とWPは宣言します。その理由は、マッケインの選挙戦は失敗だった。特にペイリンの指名は間違いだ。経済危機への対処やアメリカの国際的指導力を高める点で、オバマに期待する。彼は偉大な大統領になれる。

戦争、核、テロ、安全保障から、金融危機、失業、不平等まで、大統領が直面する問題にオバマの方がうまく応えるでしょう。マッケインが示さなかった、グローバリゼーションの下での経済的繁栄と分配について、オバマは強い関心を示しています。

この長大で、複雑な、大統領候補を決める社説の影響力がどれほどあるのか、私は知りません。しかし、アメリカ大統領選挙という民主主義の水準を示すものとして、大いに感銘を受けます。

LATのオバマ支持表明も面白いです。

We need a leader who demonstrates thoughtful calm and grace under pressure, one not prone to volatile gesture or capricious pronouncement. We need a leader well-grounded in the intellectual and legal foundations of American freedom. Yet we ask that the same person also possess the spark and passion to inspire the best within us: creativity, generosity and a fierce defense of justice and liberty.

だからオバマを大統領にしたい、と。

Robert Dallek A Hale Chief? Better Check Up on That. WP Sunday, October 19, 2008

PAUL KRUGMAN The Real Plumbers of Ohio NYT October 20, 2008

ROGER COHEN Vive la Dépression! NYT October 20, 2008

PAUL H. RUBIN Get Ready for the New New Deal WSJ OCTOBER 21, 2008


FT October 17 2008

Man in the News: John Maynard Keynes

By Ed Crooks

The Guardian, Wednesday October 22 2008

Who'd be a Keynesian?

Meghnad Desai

The Times October 23, 2008

An impossible crash brought Keynes back to life

Robert Skidelsky

(コメント) 今やだれもがマルクスを読み直し、ケインズを学びます。Ed Crooksはケインズの生涯と業績と主張を紹介します。Meghnad Desaiはケインズの経済学を、失業対策としての財政赤字から進んで、70年代のインフレやマネタリズムによる批判も含めて、その要点を再確認します。

Robert Skidelskyは、経済学を科学的なスタイルに変えた新古典派も、いよいよ市場に導かれた経済活動は不確実で、それゆえパニックに陥る性質を持つことにより否定される、と考えます。流動性は個人が求めるもので、社会全体には意味がない。不況期に流動性を供給できるのは、社会の外から、政府が行う仕事である。

しかし、財政赤字にも限界がある。正しい政策も時間がたてば間違いになる。イングランド銀行総裁が人々のインフレ期待を操作できると思ったのは、アメリカの成長と、アジアのデフレ圧力が世界規模の競争を維持してくれたからだ。今はそうではない。ダーリング蔵相は財政赤字を緊急に出して大量失業を回避した後、財政を立て直す算段を必要としている。


The Guardian, Saturday October 18 2008

Do we want to end up like Iceland?

Iain Macwhirter

NYT October 19, 2008

The Great Iceland Meltdown

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Tuesday, October 21, 2008

The Iceland Syndrome

By Anne Applebaum

(コメント) アイスランド経済の崩壊と石油価格の暴落は、スコットランドの独立派に衝撃を与えたようです。

THOMAS L. FRIEDMANは、アイスランドに早速、彼の「フラット・ワールド」を発見します。世界は平坦だから、貨幣は最も金利の高い所へ向かう。そして、世界は平坦だから、どこかで金融危機が起きると市場が止まってしまう。結局、世界は平坦だから、イギリスの町の警察官がアイスランドの銀行にインターネットで預金しており、銀行が閉鎖されたら町を巡回する警官がいなくなる。

イギリスからアイスランドの銀行に流今がお金は約18億ドルです。世界中の出来事は切り離せず、われわれは仲間であり、多角的外交も、国際規制も、選択の問題ではなくなった。それは現実であり、それ以外に無い。

Anne Applebaumは、「アイスランド病」と呼びます。一つの話。ある国の銀行が他国の銀行に買収されて、この多国籍金融グループが銀行の資産を国際移転しました。それが右翼の政府批判に関わる情報として伝わったとき、銀行の株が売られます。株価は下落して、その国の小さな株式市場から資本逃避が始まり、通貨の下落と重なります。数時間で外貨準備も底をつき、IMF融資を求めるに至ります。

つまり、これが「アイスランド病」です。銀行の取り付けや噂による株価の下落はありました。しかし、今はその資本が国際的に不安定化しています。アイスランド・ショックが個人投資家・預金者たちを恐慌に陥れ、株価下落、通貨価値の下落、国家財政の破たん、まで数日、数時間で進行するのです。そのスピードと破壊力は、グローバルな金融市場に蔓延する「病気」と言えるでしょう。

Applebaumは、もう一つの話をします。ポーランド、ハンガリー、ウクライナの通貨が暴落しました。数日前には健全であったはずの国が、容易に通貨価値を失います。小国の政治文化に内在する紛争の種が、資本移動と結びついたからです。このような世界では、きっと誰かが気づくのです。政府を批判したい者が不安定な資本移動を刺激することもできるだろう、と。

政治的な不安定性は経済的な不安定性をともないます。それは以前もそうでした。今は、国際資本移動が不安定化し、激しくなって、政治体制や生活水準を破壊します。アイスランドだけでなく、セルビア、バルチック諸国、カザフスタン、韓国、インドネシア、アルゼンチン、・・・

そして、最後の話は、パキスタンとアフガニスタンです。この国際安全保障のカギとなる国に、さまざまな投資と軍隊の派遣が行われました。しかし、誰かがそれに気づけば、きっと「アイスランド病」が襲います。そしてイスラム原理主義や核兵器が大勢を滅ぼし、世界を震撼させます。

NYT October 21, 2008

Iceland Poised to Get $6 Billion Rescue Package

By MARK LANDLER and BRIAN KNOWLTON

SPIEGEL ONLINE 10/22/2008

FORGET THAILAND: Near Bankruptcy Draws Bargain-Hunting Tourists to Iceland

By Sebastian Wieschowski

Oct. 24 (Bloomberg)

Ghost of Bear Stearns Haunts South Korea Economy

William Pesek

(コメント) 韓国の株価と通貨ウォンの下落について、William Pesek「ベア・スターンズ・ダイナミクス」と呼びます。ヘッジ・ファンドと投機的な資本移動は、ウォール街の投資銀行を倒したし、韓国政府も倒せる、というわけです。


The Guardian, Sunday October 19 2008

North Korea's choice

Han Seung-soo

The Japan Times: Monday, Oct. 20, 2008

North Korea: settling for half a loaf

By RALPH COSSA

(コメント) 韓国の首相は、アメリカによる北朝鮮のテロ支援国家指定解除を、北朝鮮への援助と経済復興による和解や統一のチャンスである、と考えます。現政権は、むしろ制裁を強めて、ブッシュ政権と同一の強硬策を取ると言われましたが、ある意味では、違うわけです。

他方、RALPH COSSAは、8カ国協議の課題が北朝鮮のプルトニウム保有量を確認することである、と考えます。


SPIEGEL ONLINE 10/20/2008

THE BANKING CRISIS IN GERMANY: Can the Bailout Prevent an Economic Meltdown?

NYT October 21, 2008

Japan Considers Bigger Role on Economic Stage

By MARTIN FACKLER

NYT October 21, 2008

In Finance, Japan Sees an Opening

By MARTIN FACKLER

(コメント) イギリスやアメリカに比べて、ドイツと日本は金融危機をどのように考え、どのような対策を主張しているのでしょうか?

ドイツについては、東西再統一の後に行われた財政移転にも匹敵するような、大規模な銀行への救済資金を用意することは、国内でも意見対立が激しいわけです。労働組合が強い部門、国際競争に弱い部門、高収益を上げている部門で、考え方が異なります。

日本については、政府の積極的な発言が、その経験と矛盾している印象を受けます。NYTの二つの記事は、日本の経験、不良債権処理、資本注入後の景気回復、などを、日本の政治家やエコノミストの言葉とともに紹介しています。日本の専門家を派遣しよう、という提案を歓迎してくれるでしょうか? むしろ、もっと成長率を高めて輸入を受け入れ、金融機関の国際的整理・買収や貧困地域への開発プロジェクトに長期投資をするよう求められると思います。


Ochieng Rapuro and Jenny Luesby How the US Financial Crisis Might Affect Kenya Business Daily, 20 October 2008

No economy is an island IHT Monday, October 20, 2008

Pakistan needs IMF help badly FT October 21 2008

MARK LANDLER Scandal Hinders I.M.F. Role in Global Lending NYT October 22, 2008

FT October 23 2008

The Fund must act to protect emerging markets

By William Rhodes

(コメント) 中国や日本の外貨準備を使って、IMFが流動性問題に直面する(そして、財政赤字やインフレを急激に抑制しなければならない)新興市場に緊急融資せよ、という提案は面白いです。彼らの苦境は、放置すれば、国政金融市場の不安を激しいデフレの螺旋的な拡大に結び付くからです。


NYT October 21, 2008

China Plans to Bolster Its Slowing Economy

By KEITH BRADSHER

FT October 22 2008

How the financial crisis is changing China

By Geoff Dyer

Oct. 22 (Bloomberg)

Lehman Dynamic Spreads Through Chinese Economy

William Pesek

The Japan Times: Thursday, Oct. 23, 2008

Remember the China lesson

By BRAHMA CHELLANEY

FEER October 23, 2008

How Low Will Asia Go?

by Brian P. Klein

Asia Times Online, Oct 23, 2008

Crisis plays havoc with China's toymakers

(コメント) Geoff Dyerは、国際金融危機に影響を受けるけれど、中国の生産力にはまだキャッチ・アップ過程が続いており、9%成長が終わったわけではない、と考えます。重工業への過重な投資をやめて、もっと消費やサービス、技術革新に投資する。政治的な資源配分をやめて、もっと消費者を重視した、法による保護と市場の競争を促す。・・・こういった中国経済が求められている変化は、日本がバブル前から経験し、バブルによって迷走していた経済の転換過程ではないでしょうか? 中国が日本とともにそれに成功し、アジア経済のエンジンとなればよいと思います。

BRAHMA CHELLANEYは、アメリカおよび西側の選択が、中国の経済成長を助けた経過と、他方、ロシアの選択が世界市場からの離脱をもたらす危険を、同時に考察しています。


FT October 23 2008

An orderly end to occupation of Iraq

(コメント) イラク内の政治問題は解決されておらず、しかも、アメリカ軍の長期駐留に対する国民の反対は強い。もちろん、イラク国民自身が新しい合意を形成して、政治交渉を介して事態を掌握するなら、アメリカ軍の撤退は望ましい。その条件がないまま駐留が長引き、国民の反感が強まる、という進路を政府は避けられるのか?

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The Economist October 11th 2008

Saving the system

When fortune frowned: A special report on the world economy

Global finance: Lifelines

Fiscal implications: Deep pockets

China’s economy: Domino or dynamo?

Economics focus: Not yet the last resort

(コメント) 世界経済、そして現在の国際金融危機について、特集記事があります。大恐慌には至らないが、世界的な市場統合の行方には強い影響を及ぼす、と考えます。簡単には、英米型の市場モデルが後退し、市場と国家・政府のバランスが逆転し、中国の台頭が早まるでしょう。

しかし、the Economistはグローバリゼーションや市場統合を支持することに迷いを見せません。その点で、最初に、政治指導者や知識人、専門家の間に広がる市場への批判を取り上げて、反論を試みます。金融や投機、先物、などを規制する極端な動きに反対します。金融緩和や市場のブーム・アンド・バーストを防ぐ試みは必要です。しかし、その前に市場をゆがめる政府の介入政策や禁輸措置を廃止するべきなのです。

金融緩和が行き過ぎた、と単純に一つの原因に結びつけることをthe Economistは戒めます。金融市場の機能を改善する方が、国際資本移動によって企業や銀行が、そして政府が倒されることを心配し、救済融資・基金を急増するより、重要な対策だと主張します。

むしろ、the Economistにとって問題はドーハ・ラウンドの失敗です。政府系投資信託をめぐっては投資における保護主義が強まっています。新しいスムート・ホーリー関税法がすぐ近くに迫っているかもしれません。

アメリカ連銀も、経過が違うとはいえ、事実上の「ゼロ金利」や「量的緩和」という過激な(?)金融政策に向かっているのは、興味深くもあり、また、恐ろしくもあります。


The Economist October 11th 2008

Africa: There is hope

Africa’s prospects: Opportunity knocks

(コメント) アフリカの特集記事が興味深いです。携帯電話のよる情報革命、資源への世界的な需要増、食糧供給の新たな可能性、など、アフリカには開発・成長の機会が増えています。しかし、それに失敗すれば、膨大な若者たちにまともな職場がない、という窮状が政治を不安定化し、内戦や移民・難民を増やすでしょう。この人口圧力を描く叙述を読むと、アジアにも劣らず、アフリカが世界を変える震源となりそうです。他方、新しい成長の機会を実現し、国民の雇用と豊かさをもたらしているのは、資源の少ない小国です。


The Economist October 11th 2008

Thailand: Blood on the streets

China’s water-diversion scheme: A shortage of capital flows

The High North: The Arctic contest heats up

Iceland: Kreppanomics

(コメント) タイの街頭デモと流血の鎮圧断行。中国の水不足。北極海をめぐる救済融資・採掘権・航行権・安全保障の拮抗。