IPEの果樹園2008

今週のReview

9/22-9/27

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

新世界秩序、 ファニーとフレディーの救済、 金融システムの改革1-2-3、 アメリカの保守主義、 リーマン・ブラザーズ、 アメリカ経済と貿易の調整、 石油市場への協調介入

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


The Guardian, Thursday September 11 2008

We friends of liberal international order face a new global disorder

Timothy Garton Ash

(コメント) 9・11から7年が過ぎても、根本的な問題は解決されていません。テロリストとどう戦うのか? 将来、テロリストは病原菌や核物質も使用するでしょう。それを阻止するために、私たちの生活はどこまで自由を犠牲にするのか?

イスラム・ファシズムの浸透と対決するのは、この新しい世界<無>秩序の一つの重要な戦線でしかありません。今、多くの関心は、新興諸国の成長に向けられています。ゴールドマンサックスは、2040年までに、新興諸国(中国、インド、ロシア、ブラジル、メキシコ)の世界GDPに占める割合はG7諸国を抜くだろう、と予想します。それが正確にいつ起きるかではなく、その変化する方向と速さに戦慄するでしょう。

新世界<無>秩序の中身は、ヨーロッパに発生したリベラルな民主主義という社会原理が世界の趨勢を決めるわけではなくなった、という事実です。むしろ新興諸国に支配的であるのは、権威主義的な資本主義、です。それがこれまで考えられてきたような、ソ連や北朝鮮の沈滞するイメージから、圧倒的に飛躍した、魅力的な姿を、北京オリンピックの開会式が示しました。中国の得た莫大な富、最先端の技術、北朝鮮にも負けない集団的な統制によって、見たこともない演出を実際に成功させたわけです。リベラルでも、民主主義でもない社会に、何ができるのかは、まだ、限界を試されています。

Ashは、世界がリベラルな国際秩序を失わないように、新世界<無>秩序に対抗するFLIO(friends of liberal international order)の結成を求めます。マッケイン(そして麻生太郎)が「民主主義諸国の協力a "concert of democracies"」を唱えて世界を分割し、冷戦を再現する発想である、という批判を浴びました。しかし、プーチン=メドヴェージェフは、すでに新冷戦を威嚇のために吹聴しています。リベラルな民主主義がヨーロッパだけのものではないこと、また、リベラルでも民主的でもない国と積極的に交流し、彼らの友好的な変化を助けること、これがAshの唱える新世界<無>秩序に対するFLIOの戦略です。

The Guardian, Friday September 12 2008

These are the new middle ages, not a new order

Parag Khanna

(コメント) われわれが経験しつつあるのは、“the new new, new new world order”である、という論説です。何がそんなに新しいのか? ・・・冷戦の終幕とブッシュ・シニアによる新世界秩序はソマリア、ルワンダ、ボスニアに躓き、クリントンのパックス・アメリカーナを脚色したグローバリゼーションは9・11で転覆し、ブッシュ・ジュニアの「テロとの戦い」という新しい世界像もその寿命を終えました。

ロシア、中国、インド、ブラジル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、など、欧米以外の石油や工業力が世界に富をもたらし、新たに結びつきます。新しい世界秩序は、むしろ「中世的」な諸帝国をもたらすでしょう。グローバルな制度的関与は衰退します。

新しい世界秩序を支配する原理は、次の世界戦争か、新しい富やパワーの極が形成されることです。それはアメリカではなく、東アジアから誕生するでしょう。ヨーロッパを手本に、ASEAN+3は、安全保障やエネルギー開発、貿易・投資の協調体制を目指しています。産油諸国も、政府系投資信託が動かす金融資本も、中国やインドが融合してできるアジア市場の巨大さに引き寄せられています。

中国がアフリカの資源を求めて新しく植民地化している、などと欧米諸国が非難することなど、それによって富を得るアフリカの人々にとって空しい叫びであり、欧米の植民地支配の歴史から多くを学んだ中国人にも退けられるでしょう。次の世界秩序は、アジアが描くのです。

WP Monday, September 15, 2008

Who's More Realistic: McCain or Obama?

Fareed Zakaria

(コメント) マッケインとオバマの外交政策はよく似てきたので、選挙戦の争点になっていません。しかし、Zakariaは二人の根本的な違いを指摘します。それは、私たちがどんな世界に住んでいるか、という認識です。

マッケインは、非常に危険な世界に住んでいます。イスラム過激派や聖戦テロリストが近くの闇に隠れ、中国、インド、ロシアが急速に台頭しています。アメリカは敵を倒し、自由を広まるために、ハード・パワーを高め、攻撃的に使用しなければなりません。

他方、オバマはイスラム過激派のテロについて、あまり話しません。ソ連の核兵器に直面した冷戦時代と比べたら、今の方が平和です。イスラム教徒の多くは経済発展や生活の改善を望んでおり、アメリカ人と同じです。世界の無法国家を取り締まるとしても、過剰反応は禁物です。それはさらに多くの問題を引き起こすだけですから。アメリカは常に冷静に、他国の経済発展や民主主義を助けることにより、自国の安全と正当性を高めるでしょう。

歴史的に見ても、危機をあおる過剰なレトリックは、アメリカの戦略的な利益を損なう外交政策につながりました。

Asia Times Online, Sep 19, 2008

China threat? It's a blessing

By Francesco Sisci

(コメント) アメリカは東西を海に守られ、南北を友好的な小国、干渉国家によって守られた、地理的な孤立状態を享受しています。それゆえ、中東の紛争に関わって軍事力を行使しても、自国の安全が脅かされる心配はなかったわけです。

他方、中国の周りには、多くの敵対する可能性を持った国家が存在します。ロシア、インド、日本、ベトナム、・・・国境線の多くで紛争を抱えています。21の国家や領地に囲まれた中国は、アメリカと全く異なる地理的条件を意識して、常に世界を見ています。

その結果、中国はアメリカの軍事的な地域安全保障に対して、むしろ利益を感じます。もし米軍がアジアの安全保障に関与しなければ、日本など、各国は独自の軍事力を整備したでしょう。それはまた、中国も含めて、各国のショナリズムや攻撃的な外交政策を強く刺激したはずです。

またアメリカに比べて、中国は他国における軍事力の行使に非常に慎重になります。テロとの戦いでも、アメリカのような軍事介入ではなく、社会的・経済的な発展を促すことを重視します。20年ないし30年で、中国はアジア全体に新しい政治的・経済的なつながりを形成するでしょう。人民元の増価は中国経済の規模を飛躍させますが、その地理的制約からは逃れられず、中国はなおアジアの安全保障に対するアメリカの関与を歓迎するはずです。

他方、もしアメリカが中東における軍事的敗北を重ねて、アジアへの関与も減退させるなら、アジアの情勢は全く異なってきます。


Fannie, Freddie and fair pay LAT September 12, 2008

金融機関を救済するのは、その幹部たちの高額報酬を考えれば、貧しい者を人質にして自分たちが無傷で逃げ出すのを助けているようなものではないですか? 救済される金融機関の幹部たちが数百万ドルから1千500万ドル以上の報酬を得ていることなど考えられますか?

Krishna Guha Poser for Paulson: the US Treasury chief wants a halt to public bail-outs FT September 12 2008

ベア・スターンズをJPMorgan Chaseが買収したときは、財務省から公的な保証がありました。しかし、リーマン・ブラザーズには支援しませんでした。ベア・スターンズのモデルが続くという期待を拒むためです。さらに、ポールソンにとって、リーマンとFannie and Freddieとは全く異なります。後者の破たんは住宅市場や金融システムそのものの崩壊をもたらします。

ベア・スターンズは市場にパニックを引き起こしかねませんでしたが、リーマンはすでに予想された危機であり、対応策も準備されていました。それでも、リーマン・ブラザーズの新しい証券化された金融ビジネスがこのまま繁栄する可能性を否定された、と考える者もいるでしょう。

Krishna Guhaは、ポールソンが行った秘密裏の交渉と完璧な作業を称賛しています。

PETER J. WALLISON How Paulson Would Save Fannie Mae WSJ September 12, 2008

Chan Akya Pareto's Bazooka Asia Times Online, Sep 13, 2008

投資銀行の中身はすっかり変わってしまい、自分たちの売買を膨らませて、利益をあげていたようです。財務長官が金融機関を救済する権限を持つなら、誰を助けて、誰を殺すか、市場ではなく、長官が決めなければなりません。それはさらに投機的な売買を増やす恐れがあります。そして、ポールソンという男の手に、アメリカ資本主義の生き残りがかかっています。

Will Hutton Now is the time to seize power from the markets The Observer, Sunday September 14 2008

危機は政治的な意志を問われる場面です。リスクを取った投資を市場によって供給するメカニズムは重要ですが、同時に、それが投機的な利益のために悪用されることを許してはなりません。アメリカでも、イギリスでも、政治は金融ビジネスといの距離を取りながら、しかし必要なら、強い姿勢で政治がそのバランスを求めるわけです。

Bailout Hide and Seek NYT September 14, 2008

David Pauly Fannie Mae, Freddie Mac Tell Same Old Market Tale Sept. 15 (Bloomberg)

John F. Wasik Fannie, Freddie Rescue Won't End Ripple Effect Sept. 15 (Bloomberg)

David Paulyは市場の常識を紹介します。金融において一つだけ確かなことは、・・・確かなことなど何もない、ということだ。しかし、これでさえJohn F. Wasikは、a Band-Aidと考えます。市場が悪化するのを止めることはできないでしょう。住宅の差し押さえが続きます。

ROBERT J. SHILLER Bailout raises moral issues The Japan Times: Monday, Sept. 15, 2008

なぜ彼らの経営失敗による損失を税金で埋めなければならないのか? 多額の債務を残したまま土地や住宅の価値が下落した個人は多くいるのに救済されず、金融機関が救済されるのは不公平・不正義ではないか?

しかし、ROBERT J. SHILLERは、救済融資の対象は金融システムである、と主張します。金融システムの悪化や混乱による損失は莫大であり、それを回避するために行う融資は社会にとってプラスなのです。個々の損失を穴埋めしたり、価格の下落を補償するのではありません。

しかし、損失が社会的だから税金で減らすというなら、バブルで生じた利益はなぜ私物化されたのでしょうか? 救済融資によって損失を回避する、あるいは資産を維持するのも、裕福な階層ほど感謝するのではないか、と思います。

資本主義への信頼を維持するには、このまま崩壊して不況を引き起こすより、金融システムの安定化に公的な資金を注入することが望ましい、というのです。


NYT September 12, 2008

The Social Animal

By DAVID BROOKS

(コメント) アメリカ共和党のイデオロギーについて、DAVID BROOKSは修正を求めます。共和党は今も、バリー・ゴールドウォーターの示した保守主義のイデオロギーに頼っています。それは個人の選択の自由を何よりも重視します。

しかし、その後の30年間に諸科学が示したことは、個人が社会的な創造物だということです。個人の合理性や、人生を思いのままに生きる、というイメージは幻想にすぎません。私たちの認識、意思決定、満足は、社会的な状況によって変化します。われわれの心の変化や行動も、先祖から継承した遺伝子や歴史的なパターンを反映しています。

私たちは互いに切り離された自由の価値を誇張するより、たがいに深く結びついて自律的な生き物であることを前提に、この状態を改善することを問題にします。現実の課題に対して、大きな政府を非難し、年金や税金を非難する保守派のイデオロギーでは対応できません。医療保険制度の改革や、住宅危機、金融機関への救済融資など、保守派のイデオロギーは政策の具体的な基準になりません。

コミュニティー、制度、社会的な仕組みは、古くから保守派の思想家にとって重視されていた言葉です。イギリス保守党がそれらを見直したように、アメリカの共和党も、個人だけでなく社会を、自由だけでなく安全を、経済だけでなく社会の復権を、重視しなければなりません。


The Japan Times: Friday, Sept. 12, 2008

The future of mini-states

By HUGH CORTAZZI

NYT September 13, 2008

Europe’s Problem

SPIEGEL ONLINE 09/15/2008

DID SAAKASHVILI LIE? The West Begins to Doubt Georgian Leader

FT September 17 2008

Retreat from Moscow: Investors take flight as global fears stoke Russian crisis

By Charles Clover and Catherine Belton in Moscow

FT September 17 2008

Russian retreat

NYT September 19, 2008

Russian Exchanges Remain Closed a Second Day

By THE ASSOCIATED PRESS

(コメント) 南オセチアやアブハジアの独立を承認するメドヴェージェフ大統領の会見に、西側の反応は冷笑的でした。とはいえ、ヨーロッパでも、アメリカでも、アジアでも、世界中に独立を唱える少数民族がいます。小さな地域に限定された主権が持つ意味はますます減っているのに、ナショナリズムは消えません。また、言語に依拠した国際主義も、必ずしも解決策ではないのです。

ロシアが軍事力で国境を書き換え、敵対する政府を転覆することを許さない、という西側の抗議は、効果的な制裁や行動をともないません。アメリカとヨーロッパ諸国の意見はバラバラです。ドイツでは、SPIEGELが示しように、むしろサーカシビリの自治区弾圧や攻撃の決定に対する批判が強いいようです。

もっと顕著な反応は市場において示されていました。7.5%の成長率、低い対外債務依存率、膨大な貿易黒字と外貨準備、政府系投資ファンドによる対外投資、など、ロシア経済が動揺する条件は、一見、特にありません。しかし、グルジアとの戦闘が始まる前から、市場は悪化していました。アメリカのサブプライム・ローン危機が国際的に波及した国で、ロシアが最も深刻な影響を受けていました。その原因は、アメリカでも、グルジアでもなく、ロシア国内にあったのです。銀行の資産が悪化し、支払い不能となりました。

政府は流動性を供給し続けましたが、ほとんどが保蔵されただけでした。ある意味では、グルジア戦争は経済の軍事化による刺激(また、市場心理の転換)を狙った面もありますが、プラスの効果はなかったわけです。ただし、戦争と株価暴落は、プーチン政権の中で過激なナショナリストが影響を強め、リベラルな市場改革派が失脚する傾向を強めます。ロシア国内の政治的危機が投資家の不安を高めている、という見方もあります。

プーチンは、資本流入の逆転を非難します。メドヴェージェフ当選が市場のピークであり、外国資本流入によって支えられていました。その後、外国投資家が不安になったのは、BPや国内鉄鋼財閥に対してプーチン政権が行った嫌がらせや介入でした。グルジア戦争以後、市場は、その最終的な信頼崩壊を示したのです。それは国内の中小投資家による逃避も加わったようです。

しかし、株を保有している者は庶民にほとんどおらず、資産家たちの損失です。株価下落が不況をもたらせば、庶民の生活を脅かしますが、その可能性はほとんどない、とFTは考えます。


The Japan Times: Friday, Sept. 12, 2008

Water management for the Mekong basin

By MICHAEL RICHARDSON

(コメント) その輸出や市場としての成長が与える影響だけでなく、中国が東南アジアとの経済共同体を支える重要な条件は、メコン川共同開発計画かもしれません。それは開発を促すだけでなく、河川の氾濫・洪水などの災害を管理するため(その非難合戦を避けるため)にも必要です。例えばタイのNGOは、中国が上流で築いたダムを洪水の原因として非難しています。これに対して、メコン川管理委員会the Mekong River Commissionが反論しています。その真偽にかかわらず、上流におけるダム建設や水量の管理は、下流域の強い関心と不安を刺激します。

管理委員会への情報提供と水量調整への国際協調体制に中国政府が十分な権限を与え、責任を果たすことが重要です。


NYT September 13, 2008

Gov. Palin’s Worldview

BBC 2008/09/14

How to be a good president

By Jonathan Freedland

(コメント) NYTは、この2年にも及ばない知事の経験しかない女性を、可能性として、大統領にしても良い、とマッケインが考えたことは、全く衝撃的なほど無責任だ、と批判します。彼女はイラク戦争についても、ブッシュ大統領がキリスト教の布教に失敗したことしか問題にしない。政策と信仰の区別もつかない。

大統領に必要なものは何か? オバマは「将来に向けたビジョン」と語り、マッケインは「経験」と主張しました(ペイリンを指名するまでは)。Jonathan Freedland は嘆きます。The trouble is, they are so many and various, it's almost impossible to imagine any normal human being matching up.・・・まったく。

日本の首相と大きく異なるのは、大統領が議会や国民に直接語りかけること、その際の説得や言い回り、攻撃する舌鋒の鋭さ、ユーモア、などが重視されることです。

優れたアメリカの大統領は、その上に、大きな危機や戦争に直面して国民を守り、さらに、ニクソンのような欺瞞を避け、カーターのようなよそよそしい高慢さを避け、クリントンのような無節操を避け、そしてさらにその上、個人としての経歴がハリウッドの映画になるような波乱万丈の内容で、カリスマ性に富んでいなければなりません。

BG September 14, 2008

Seeing through Obamanomics

By Jeff Jacoby

BG September 16, 2008

The frozen world view of a McCain guru

By H.D.S. Greenway

The Guardian, Thursday September 18 2008

America is gripped by the politics of fear. Bad news for the prophet of hope

Timothy Garton Ash in Stanford, California

(コメント) ロシア・グルジア戦争がマッケインに有利であったように、金融危機の激化はオバマに有利です。政府による市場介入や分配問題が関心を集めるからです。しかし、オバマの経済政策は正しいのでしょうか? Obamanomicsを試すべきです。たとえば、富裕層の課税して多くの人に減税する?

保守派のイデオローグであるRobert Kaganがリアリストの軟弱さを攻撃し、ロシアのグルジア侵攻を当然だと断言したことに、H.D.S. Greenwayは反論します。

アメリカ大統領選挙は、「希望」から「不安」へと、焦点をずらしつつあります。中産階級は、戦争だけでなく、医療費や企業年金、金融危機が財源を消耗し、さらに不況や失業が自分たちの生活水準を悪化させることを心配します。対外債務は、中国の貯蓄は、・・・

しかし、「不安の政治学」がオバマに不利に働く要素も一つあります。それは「他者であること」への不安を強める点です。今でも、「黒人」に投票するでしょうか?


NYT September 13, 2008

A Big Regulator for the Little Investor

By WILLIAM R. GRUVER

NYT September 14, 2008

Too Few Regulations? No, Just Ineffective Ones

By TYLER COWEN

(コメント) ポールソン財務長官とバーナンキ議長は、新しい金融システムの構築を目指すしかないようです。グラス=スティーガル法が時代遅れとして破棄されてから、何度も金融危機が起きましたが、この大恐慌以来の危機によって、いよいよそのチャンスが来たわけです。

すでにFRBは投資銀行にも直接の融資を行い、監督を行う権限を認められました。財務省はファニー・メイとフレディー・マックを救済する権限を議会に認められました。WILLIAM R. GRUVERは、複雑な金融商品を扱う業者ではなく、顧客を分類するべきだ、と主張します。資格や登録がなければ、金融商品の売買に参加することを制限されるわけです。タバコやお酒、ポルノと同じですね。

他方、TYLER COWENは、規制が緩和されたことではなく、政府が機能しなかったことが問題だった、と考えます。つまり、現実にはあまりにも多くの規制があって、それが問題を悪化させただけでした。重要なのは、規制の優先順位を付けることだ、と考えます。

FT September 16 2008

The end of lightly regulated finance has come far closer

By Martin Wolf

FT September 16 2008

Taxpayers will fund another run on the casino

John Kay

(コメント) ウォール街の5大投資銀行から3つが消滅しました。アメリカ金融システムの「素晴らしい新世界」が眼前で溶解してしまったのです。

Martin Wolfは考えます。その原因については、ハイマン・ミンスキーの指摘が正しい。高度成長、低インフレ、低金利、マクロ経済の安定性について、人々は過信し始めた。リスクを積極的に取るようになり、金融革新がそれを加速した。

最悪の時期は過ぎたのか? まだわからない。そのためには、膨張した資産価値が持続可能な水準まで十分に下がる。レバレッジが消滅して民間部門の損失が膨張する。その処理で資本が減少することを受けて、金融システムが資本を調達しなければならない。その間、民間部門の需要は減り、信用は収縮し、資産価値が下落していく。

もっとも重要な問題は、金融システムが資本を再生するために政府が支援するべきか、ということだ。現代の経済では、4つの方法で行われる。1.最後の貸し手として中央銀行が行う。2.民間部門の赤字を財政移転で肩代わりする。3.赤字の金融機関を国有化する。4.インフレを起こして債務の負担を減らす。

Wolfは、金融システムが本来はどのように機能しなければならなかったか、について、Final Report of the IIF Committee on Market Best Practicesを推奨しています。しかし、そこにあるような指摘を危機の直後は真剣に取り上げても、20年、もしかすると10年足らずで失敗を繰り返すだろう、と悲観します。地震の危険区域に住むようなものです。

政府が何をするべきか? John Kayの意見に従い、金融規制を増やさないように求めます。政府が金融システムを安定化するために何かできる、というフリ(中身のない保証)をしてはなりません。金融決済システムが停止しないことに注意を集中し、また、金融不安が生じた際にはそれが実物経済に影響を与えないように、政府は努力する、というのです。

しかし、後者は不可能でしょう。Wolfは、だから政府はいつも金融不安が生じたときに、個々の金融機関を救済し、金融案が抑制できるような仕組みを提供しようと躍起になるのです。

そこで、Wolfは2つ要望します。金融システムの機能を改善する単純なルールを発見する。例えば、バブルを抑えるような準備金の増額です。また、個別には合理的でも、システムとして行えば危機をもたらすような行動をチェックすることです。

John Kayは、大衆が政治家に望むような金融システムの改善や損失の補填を許さないように、それを大衆が期待しないように、求めます。なぜなら、不完全な世界で単純なルールを導入すれば事態が悪化するかもしれないからです。

問題は、公共サービス(決済機能)とカジノ(投機)が金融部門で一体化していることです。公共サービスを救うために、なぜカジノのツケを支払わねばならないのか?

Asia Times Online, Sep 17, 2008

Dust off the Chicago Plan

By Hossein Askari and Noureddine Krichene

FT September 17 2008

Modern history’s greatest regulatory failure

By Roger Altman

FT September 18 2008

Why global capitalism needs global rules

By Philip Stephens

FT September 18 2008

Not the time to worry about moral hazard

By Charles Goodhart

FT September 18 2008

Central banks: a survival guide

(コメント) 大恐慌の結果に衝撃を受けた経済学者たちは、1933年にthe Chicago Planを作成しました。イェール大学のアーヴィング・フィッシャーが提唱した100% Moneyとともに、投機を貨幣から切り離すための、シカゴ大学の研究者による改革案です。ミンスキーの金融不安定化を逃れるためには、これが必要だ、と考えます。

Charles Goodhartが強調するのは、金融機関同士の資金市場wholesale marketsが停止してしまう事態です。そのような状態が来ると、誰も予想していなかった、と考えます。モラル・ハザードが警戒されるのはブームの時期です。今は危機を脱することが必要であり、モラル・ハザードを心配する理由はありません。


VIKAS BAJAJ Bankers and U.S. Map Out Options in Lehman Crisis NYT September 14, 2008

Lehman set to go into insolvency BBC 2008/09/14

Lehman Brothers FT September 14 2008

リーマン・ブラザーズ、メリル・リンチ、AIGは、同時に進行していました。他の金融機関に吸収される案や、受け皿を作って秩序ある破たん処理を行うこと、など、さまざまな案が検討されましたが、市場は時間を奪い、危機は複合して行きました。

リーマン・ブラザーズの場合、ベア・スターンズと違って、すでに市場の警戒心が高まって、連銀も投資銀行に融資する仕組みを用意しながら、支払い不能のリスクを軽減できなかったわけです。政府は金融システムの安定化を望みますが、しかし、長期にわたって個々の金融機関を保護し続けることは失敗します。リーマン買収に公的な支援を与えることは拒否しました。

FTは、財務省が公的な資金を使わないと言明したのは、民間の資本による救済合併を促すためであっただろうが、事態は好転しなかった、と考えます。また、市場圧力にさらされている他の金融機関は、公的な救済の道を断たれて一層の圧力を受けるはずです。

Richard Adams Wall Street's bloody Sunday The Guardian, Monday September 15 2008

Avinash Persaud A brave decision on Lehman FT September 15 2008

Avinash Persaudは、アメリカ金融当局の決断を称賛します。財務長官Hank PaulsonとNY連銀総裁Tim Geithnerです。市場圧力は高まり、今後数週間に金融間が続けて倒産することを知りながら、決断しました。

1990年代の日本の政策が失敗したのは、金融機関の流動性と支払い不能(資産悪化)とを区別せず、市場の回復を待ったことだ(そして回復は決して来なかった)、と主張します。ベア・スターンズは流動性危機であり、リーマンは支払い不能になっていました。

ゴールドマンサックスも、いつまで有利な取引に賭け続けられるか分かりません。厳しい規制を増やして、1960年代の低リスク低リターンを再現するのか?

Henny Sender, Francesco Guerrera, Peter Thal Larsen and Gary Silverman Broken brothers: How brinkmanship was not enough to save Lehman FT September 15 2008

Willem Buiter What if Lehman files for bankruptcy and nothing much happens? FT September 15 2008

Lehman’s lessons FT September 15 2008

ファニーとフレディーを救済したアメリカ政府には、たとえ小さくとも、債務不履行になる危険が市場金利によって示されています。それはリーマンを救済し、他の投資銀行が救済を期待するなら、何が起きるかを懸念させたはずです。Japan not that long ago shared a sovereign credit rating with Botswana. A trillion here, a trillion there and the US Federal debt could lose its triple-A rating. ただし、アメリカと違って、日本は対外公的債務を気にする必要はなかったのです。

Spengler Lehman and the end of the era of leverage Asia Times Online, Sep 16, 2008

MICHAEL J. de la MERCED and MARY WILLIAMS WALSH Fed Takes Steps to Aid A.I.G. NYT September 16, 2008

Ann Woolner Lehman Lets Some Creditors Take Key Assets First Sept. 16 (Bloomberg)

Larry Elliott This week the crash went nuclear, and Britain will feel the worst of the fallout The Guardian, Tuesday September 16 2008

The Lehman Lesson WP Tuesday, September 16, 2008

リーマン・ブラザーズが破たんしたと聞いても、その影響は想像できません。しかし、6130億ドル(60兆円以上)の債務を世界中の10万人の債権者に負っている、1550億ドルの債券保有者を含む、と知れば、その処理がけた外れなことは当然です。

Wall Street Casualties NYT September 16, 2008

MICHAEL LEWITT Wall Street’s Next Big Problem NYT September 16, 2008

Bigger they come, harder we fall FT September 16 2008

Death of an investment bank BG September 16, 2008

Bigger they come, harder we fall FT September 16 2008

AIGは4410億ドルの、クレジット・デフォルト・スワップなど、デリバティブのリスクにさらされています。それでもAIGの信用格付けを扱う会社はエクセレントの評価を変えませんでした。つまり、格付け会社を全然信用できないわけです。またAIGを監督したのはニューヨーク州であり、連邦政府でもなかったのです。本来は世界的な監督制度やルールが必要なはずです。

AIGは破たんさせることができないほど、大きく、しかも国際的なつながりを持っていました。

The sunny side of Wall Street CSM September 17, 2008 edition

Robert J. Samuelson Wall Street's Unraveling WP Wednesday, September 17, 2008

1980年ごろから、ウォール街は新しいモデルに変化しました。1.投資銀行は助言や仲介ではなく、直接に投資し、売買した。2.社員の給与は巨額のボーナス中心になった。3.投資する資金を融資で調達した。7000億ドルの株式や債券に投資しながら、資本調達は20億ドルで、レバリッジ率は301でした。

強欲と恐怖を吸収して繁栄した金融システムが、現在の危機を育てました。そして、リスクなど無いかのように振る舞いました。

John Gapper This greed was beyond irresponsible FT September 17 2008

Changing the rules of the game FT September 17 2008

レバリッジによる金融利益の増大を優れた技術と主張できた時代は終わるでしょう。

Short-selling regulation FT September 17 2008

Chan Akya Waiter, there's a banker in my soup Asia Times Online, Sep 18, 2008

バーナンキの就任当初から、グリーンスパンの遺産に苦しめられるだろう、と言われてきました。資産市場が崩壊すれば、たとえ金融緩和しても、証券会社から保険業界、そして銀行へと、連動して破たんします。特に、credit default swaps (CDS)です。デフォルトのリスクだけが証券化されて売買されています。それは保険契約のようなものです。実際にデフォルトしなければ、どんどん引き受けて証券化した方が儲かります。

金融機関は、そのファンダメンタルズが回復するまで、次々に倒産し、健全な金融機関に吸収されて、整理されるでしょう。単なる救済融資ではない道を示した点で、リーマン・ブラザーズが転換点だった、と考えます。

Roy C. Smith and Ingo Walter It's Hurricane Season for Banks Sept. 18 (Bloomberg)

David Blake Greenspan’s sins return to haunt us FT September 18 2008

Why AIG was saved LAT September 18, 2008

Alan Neff For a Bailout, Press 'One' . . . WP Thursday, September 18, 2008

Back to Bailouts WP Thursday, September 18, 2008

もっと予測可能で、透明な処理の方法を示さなければならない。そして再発を防ぐ新しいルールを示さなければならない。

NICHOLAS D. KRISTOF Need a Job? $17,000 an Hour. No Success Required. NYT September 18, 2008

ROGER COHEN The King Is Dead NYT September 18, 2008

PAUL WILMOTT For Wall Street, Greed Wasn Good Enough NYT September 18, 2008

HEATHER TIMMONS and KEITH BRADSHER Sovereign Funds Have Moved On From Banks NYT September 19, 2008

William Pesek Samurai Rules as U.S. Economy Follows Japan's Sept. 19 (Bloomberg)

日本の銀行は、リーマン・ブラザーズのサムライ・ボンドを1950億円も、すなわち、アルゼンチンのデフォルトが起きたときに匹敵するほど、購入しています。それは日本の政治指導者に侍がいないからです。

自民党と民主党が競っても、どちらもよく似ており、二大政党制が機能するようには見えません。麻生が首相になれば、国際金融危機を理由に財政支出をばらまくだけです。

アメリカもますます日本の不況を再現しつつあります。日本がアメリカよりも優れていたのは、国民が自分たちの貯蓄で不況を耐えたことです。アメリカ国民はそれがありません。


LAT September 14, 2008

My Dad, the illegal immigrant

By Gustavo Arellano

Does my pride in Dad's outlaw past mean I support a free-for-all at the border? No. We deserve an accurate account of who enters and leaves the United States. We deserve immigrants who don't cheat the system, don't commit crimes against others, who better their communities and don't become burdens.


LAT September 14, 2008

The mixed lessons, and legacies, of Munich 1938

By Ian Buruma

(コメント) 1938年のミュンヘン会談から何を学ぶべきか? チェンバレンはナチス・ドイツとの戦争を回避することを優先しました。他方、チャーチルは開戦するべきだと考えました。

その後の西側の分裂を、異なった教訓から理解できます。戦争ではなくナショナリズムの克服や経済的な繁栄の共有に平和を求める欧日と、決定的な軍事的優位の維持と介入に安全保障の真髄を見るアメリカとは、対立し、不信を抱きます。手遅れにならないうちに、双方の洗練された認識を求めます。


WP Sunday, September 14, 2008

My Excellent North Korean Adventure

By Jerry Guo

IHT Wednesday, September 17, 2008

Do the deal with Kim Jong Il

(コメント) Jerry Guoの小文は、少しハイ・テンションの北朝鮮訪問記です。

金正日が脳卒中ではないか、という情報があります。核保有を宣言した独裁国家で深刻な政治的混乱が起きることは、誰も望みません。


FT September 14 2008

Chinese economy

FT September 16 2008

Chinese equities

(コメント) 中国の株式市場も大きく下落していることに驚きます。1年前に比べて60%の下落、というのは何を意味するのか?

オリンピックによる工場の操業停止などにとどまらず、多くの地域で消費が減速しているようです。インフレ抑制から不況回避に、中国の政策も変化します。企業は海外需要が落ち込み、同時に投入物のコスト上昇に苦しんでいます。


The Japan Times: Sunday, Sept. 14, 2008

Nepali 'democracy' unlikely to push peace

By CHRISTOPHER LINGLE

(コメント) 王制を倒すために様々な集団が毛派のゲリラと手を組んだけれど、今後の民主的な政府や議会の発展には不安がある、という観察です。


BBC 2008/09/15

Zimbabwe leaders proclaim new era

By Adam Mynott

FT September 15 2008

Zimbabwe tests a recipe for gridlock

CSM September 16, 2008 edition

Rock-paper-scissors in Zimbabwe's deal

LAT September 17, 2008

Hope in Zimbabwe

BG September 17, 2008

Easing Mugabe out

WP Thursday, September 18, 2008

Mr. Mugabe's Deal

NYT September 18, 2008

Dealing With Mr. Mugabe

(コメント) ジンバブエでは、ムガベ大統領が、いよいよ反対派の候補Morgan Tsvangiraiと連立政権を組みました。彼らは合意を維持できるのでしょうか? 南アフリカのムベキ大統領が保証人です。他のアフリカ諸国の指導者も合意文書の式典に参加しました。

彼らの目標は、年率1000万%(1年で10万倍になる)物価上昇という経済の破局を抜け出し、国民の暮らしを再建することです。権力を分割し、軍と警察を別々に指揮します。

LATは、この権力の拮抗モデルをRock-paper-scissors dealと呼んでいます。経済再建のための支援は届けられます。誰も裏切らないように。


Max Hastings Many of these bankers are horrible people, but we will still need them The Guardian, Monday September 15 2008

PAUL KRUGMAN Financial Russian Roulette NYT September 15, 2008

アメリカの金融システムは、今日、あるいは、数日中に崩壊するのか? PAUL KRUGMANはそう思わないが、確かなことは何も言えない、と認めます。

銀行の中身が変わったことが重要です。かつて、預金を預かって、長期の融資を契約した銀行は、今や“shadow banking system”にビジネスの主体を移しました。さまざまな手段で非銀行系の金融機関に資金を融通するのです。しかし、その結果、多くの投資家は自分がどんなリスクを負うか、無感覚になります。しかも、この新しいシステムでは、金融監督や緊急融資の用意があるのは表の銀行だけで、裏の契約は見えないままです。

ポールソン財務長官とバーナンキ連銀議長は監督と緊急融資を拡大しましたが、救済を続けることに不安があるわけです。巨額の税金を失うのではないか? 投機的な行動を更に助長するのではないか?

そこで、ポールソンたちは「金融版ロシアン・ルーレット」を避けられません。誰に当たるか分からないまま、引き金を引き続ける。

John M. Berry Fed Gets Ready to Gulp, Save Financial System Sept. 16 (Bloomberg)

Amity Shlaes First Men, Then New Rules Can Rescue Wall Street Sept. 16 (Bloomberg)

Joseph Stiglitz The fruit of hypocrisy The Guardian, Tuesday September 16 2008

これは、1929年にも匹敵するような、政策担当者の無能さと制度の不正直さがもたらした災厄である。われわれは偽善に慣れてしまった。金融システムを守る規制や装置は、その効き目があるかのように、しかし、無視されていた。

常に重要な問題はシステミック・リスクの評価である。そして、金融取引を行うにはシステムへの信頼が必要だ。たとえ中央銀行の救済融資や財政政策が使えても、1998年にインドネシアは危機を避けられなかったし、イラク戦争やカトリーナの処理に失敗したブッシュ政権が金融危機の鎮静化に成功する、と誰しも思うだろうか?

革新と言えば何でも素晴らしいように聞こえるが、金融革新の中には規制を免れ、基準を劣化させる、銀行システムの安全を破壊するようなものもあった。それはあまりにも成功して、その代償を住宅所有者や労働者、投資家、納税者が支払う。

Seth Freedman A great day for making money The Guardian, Tuesday September 16 2008

Maelstrom in the markets The Guardian, Tuesday September 16 2008

Sebastian Mallaby Paulson's Moment Of Truth WP Tuesday, September 16, 2008

アメリカ型の金融グローバリゼーションが逆流し始めました。

Kenneth Rogoff No More Creampuffs WP Tuesday, September 16, 2008

Harold James History provides little comfort FT September 16 2008

Robert Kuttner Bush's disastrous financial rescue strategy BG September 16, 2008

ポールソン財務長官が、2006年にゴールドマンサックスCEOからワシントンDCへ移ったとき、アメリカの金融システムを政府からもっと独立したものに変えることを計画していたはずです。しかし、金融不安に直面したポールソンとバーナンキにできることは、買収させる金融機関を探すか、破たんが波及しないような防火壁を築くことでした。

利益は金融ビジネスの強欲に委ね、サブプライム・ローンのような詐欺的取引や損失は政府が負担する、というのでは金融秩序への信頼が失われます。ポールソンはウォール街全体を国有化できないし、連銀がその資金を無限に供給し続けることもありません。

もっと一貫した規制が必要でした。ブッシュ政権ではなく、次の大統領の仕事です。マッケインなら、今回の危機につながった規制緩和の張本人Phil Grammがその顧問です。オバマなら、金融ビジネスの強欲を野放しにしない、F.D.ルーズベルト以上に厳しい規制を考えるでしょう。

Martin Hutchinson Fed's misplaced fulcrum Asia Times Online, Sep 17, 2008

Mark Skousen Ride out Wall Street's hurricane CSM September 17, 2008 edition

Caroline Baum Fed Recreates the 1970s; Wait, It's the 1930s Sept. 17 (Bloomberg)

Larry Elliott The parable of the pork pie The Guardian, Wednesday September 17 2008

Richard Adams Socialism for the rich The Guardian, Wednesday September 17 2008

THOMAS L. FRIEDMAN Keep It in Vegas NYT September 17, 2008

バブルとその破裂を、ラスベガスのカジノにたとえてみたくなるのは当然です。問題は、バブルが破裂すると銀行は融資を止めて金融危機を深めることです。資金の供給を公的機関が行い、破産処理にもRTCが必要になります。しかし、本当に必要なのは清掃業者ではなく警察官だ、というわけです。ラスベガスでやれるようなことは、ラスベガスだけにしてほしい。

Kenneth Rogoff America will need a $1,000bn bail-out FT September 17 2008

もしアメリカが新興市場であれば、ドルの価値は暴落し、金利は跳ね上がっていたはずです。ところがドルは少し高くなって、金利もほとんど動きませんでした。世界はそれほどドルに依存している、というわけです。あるいは、覇権国の特権です。

しかし、いつまで続くものか? 今名ボロボロの金融システムを頼りに、今後も莫大な資本流入を期待することなどできるか? 

今のところ、救済融資の規模は数百億ドルです。アメリカ政府の公的債務はGDPの32%でしかなく、ヨーロッパ諸政府の半分、日本政府の5分の1以下です。しかし、政治家たちが処理を誤れば、そのコストは増大していきます。そして、新興市場の経験が迫ってくるのです。

Willem Buiter The end of American capitalism as we knew it FT September 17, 2008

NELSON D. SCHWARTZ Abroad, Bailout Is Seen as a Detour From Capitalism NYT September 18, 2008

Rosa Brooks Hey U.S., welcome to the Third World! LAT September 18, 2008

Larry Elliott and Jill Treanor Short selling of bank shares banned The Guardian, Thursday September 18 2008

Nouriel Roubini Public losses for private gain The Guardian, Thursday September 18 2008

ブッシュ、ポールソン、バーナンキは、銀行家のための社会主義国家を建設中である。With the nationalisation of Fannie and Freddie, comrades Bush, Paulson and Bernanke started transforming the US into the USSRA (United Socialist State Republic of America).

ブッシュの偽善集団は、数年間の西部開拓者風自由放任資本主義を急きょ店じまいして、大恐慌以来の金融危機を始末する大掃除に忙殺されている。今度は大規模政府介入を正当化し、史上空前の国有化を実行した。

Seumas Milne The political class can't face up to the scale of this crisis The Guardian, Thursday September 18 2008

Harold Meyerson Wall Street's Just Deserts WP Thursday, September 18, 2008


The Japan Times: Monday, Sept. 15, 2008

Euro serves as Europe's anchor of stability

By OTMAR ISSING

(コメント) 確かに、もし今ユーロがなかったとしたら、ヨーロッパの通貨システムや投機的な資本移動はどうなっていたか? 想像するのも不吉です。すなわち、危機の際には、いくつかの通貨に激しい売り圧力が生じて、巨額の介入にもかかわらず、固定レート制は破壊されます。しかし今度は違いました。外国為替市場の混乱が完全に取り除かれたせいで、ユーロ圏の危機を即座に鎮静化できたのです。

物価の安定化、単一市場、それは貿易や投資、競争を促しました。そしてイッシングは明かしています。創設されたECBの理事となったとき、故ミルトン・フリードマンから手紙が来た。理事就任を祝いつつ、その「不可能なポスト」と呼んで、ユーロの崩壊を予想していた、と。


FT September 16 2008

Thai stocks

Asia Times Online, Sep 17, 2008

Asia's pickle with people power

By Chietigj Bajpaee

FEER September 17, 2008

Little To Do With Democracy

by Federico Ferrara

Asia Times Online, Sep 18, 2008

Low expectation premier for Thailand

By Shawn W Crispin

(コメント) Chietigj Bajpaeeは、アジア諸国における反政府の抗議活動と政治不安を考えます。日本もその中に加えて考察しているのが、不思議とよく理解できて、面白いです。利益供与型の団体選挙が機能しなくなったのは日本だけではない、というのです。その変化を吸収する第三勢力が権力を握れるか、アジア諸国は政治の大変動を経験しています。


WP Wednesday, September 17, 2008

Trade Saves the Day

By C. Fred Bergsten

(コメント) アメリカは住宅市場のバブルが破裂して、さらに金融危機を拡大しています。しかし、不況になる、という確実な知らせは入りませんでした。C. Fred Bergstenは、アメリカの貿易収支が大幅に改善したことを強調します。それどころか、内需が落ち込む中でも、第二四半期の成長率は3.3%に上方修正されました。そのすべてが輸出によるものだ、と指摘しています。

この貿易収支の実質3000億ドルの改善は、アメリカ国内に200万人以上の新規雇用をもたらし、その雇用はアメリカ国内の労働者の平均賃金よりも1520%も高い賃金を得ています。それが可能であったのは、アメリカ以外の世界に聖y等の高い国があったから、また、ドルの価値が減ってアメリカの輸出部門が競争力を回復したからである、と。(ただし、日本の成長はわずかであり、しかも対ドル・レートは十分調整していない、と不満です。)

アメリカは、まさに最も必要としているときに、それまで積み重ねてきた世界の政治的安定化や市場開放の努力によって、輸出の伸びが不況を回避させる、という形で大きく報われたのです。だから、このようなときこそ、新しい大統領は保護主義を唱えたり、既存のFTAを改悪しようとしたりせず、グローバリゼーションの有益さを説かねばなりません。


WP Thursday, September 18, 2008

The Power of Oil Consumers

By Henry A. Kissinger and Martin Feldstein

(コメント) リアリストの国際政治学者と、ハーヴァード大学のマクロ経済学者とが、世界の石油市場について、生産諸国の政治的な介入が高価格をもたらしている以上、消費諸国の政治的・外交的な協調行動が重要だ、と主張しています。

この発想は、もちろん、1970年代の石油ショックに対抗してキッシンジャーたちが創設したIEA(the International Energy Agency)にさかのぼるものです。年間1兆ドルを超える産油諸国への購買力の移転は世界の政治経済構造における震源となっています。また、この価格上昇は、需要側の中国やインドが将来はもっと石油を消費するのに、供給側は(政治的な制約や介入があって)容易に生産を増やさない、という将来への予測が、市場において(実際の需給変化以上に)増幅された結果なのです。

だから、消費国は協力して、石油の消費を減らし、新しい油田の開発、代替エネルギーの開発、温暖化対策、ホルムズ海峡の安全航行、などで、協調した行動を示す必要があります。それは将来への予測を変化させ、石油価格を引き戻すだろう、と主張します。

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The Economist September 6th 2008

Europe stands up to Russia

The West and Russia: Cold comfort

(コメント) グルジア戦争の最初の犠牲者は欧州の共通外交・安全保障政策です。しかし、もっとも有効な対策はEU内部のエネルギー市場を自由化して開放することだ、という主張は特に面白いです。それはロシアがエネルギー供給を材料としたEU諸国の分断化を防ぐでしょう。そして、ロシアの最大の誤算は、中国(そして上海協力機構)がロシアを支持しなかったことです。むしろ、トルコの行動が懸念されます。


The Economist September 6th 2008

Japanese politics: Another grey man bites the dust

Japan’s politics: Aso braced; Fukuda into the sunset

Japan’s economy: Down but not out

Thailand: Worse than a coup

Thailand: Samak pulls the emergency cord

The world wide web: The second browser war

Trade: Afta Doha

Economics focus: Reserve army of underemployed

日本の政治や経済をまた批判するのか、と思ったら、むしろ逆のことが書いてあります。自民党政治が終わるチャンスであり、欧米に比べて日本経済は金融危機のショックに強く、最も回復が早い、と称賛しています。ただし、改革しなければ長期的な成長率は低いままだ、と。

タイの政変について、クーデタより悪い、と群衆による首相府占拠と戒厳令の無視に憤慨します。そして、グーグルのブラウザ普及戦略、ドーハ後の地域貿易協定について自由化に向かう場合と向かわない場合の考察、最後に、中国がルイス・モデルの転換点に達したか、という議論も面白いので載せておきます。世界でもっとも重要な価格とは、石油価格? ドル・レート? いや、中国人労働者の賃金です。