IPEの果樹園2008

今週のReview

9/8-9/13

IPEの風

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

******* 感嘆キー・ワード **********************

ネパールの民主化1、 オバマ、 アメリカ外交思想1、 サラ・ペイリン、 プーチン、 タイの民主化、 日本の自民党政治、 欧・米・日の金融危機

******************************

ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


The Guardian, Thursday August 28 2008

Nepal: a remarkable peace

Ian Martin

(コメント) アメリカの民主主義も、ロシアの民主主義も、グルジアの民主主義も、タイの民主主義も、あるいは、日本の民主主義も、その真価が問われています。

ネパールはどうでしょうか? 民主主義が復活し、4月に選挙がありました。毛派の武装ゲリラを率いた指導者Kamal Dahal, 通称 "Prachanda" が、10年に及ぶ内戦を終えて、この選挙に参加しました。そして彼の政党は勝利し、首相に指名されて、新しい憲法制定議会が王政を廃止したのです。元国王Gyanendraは宮殿を出て、ひとりの市民になりました。

いかなる大国の介入や支援にもよらず、ネパールの国民は民主主義を模索しています。かつては、政府軍とゲリラ部隊が激しい戦闘において、人権を無視した事件も多かったそうです。この記事によれば、転機は2006年の4月でした。何万もの民衆の抗議活動は、19日間も連続して街頭を埋めた、と言います。国王は権力を政党に戻し、ゲリラも停戦に合意して、議会選挙を実施すると約束します。

民衆の行動は、それまでヒンズー教の国家として、権力エリートによって無視されていた社会階層の不満を解き放ちました。人口の約半分が肥沃な南部の平地に住む。しかし、3分の1以上が先住民の非ヒンズー教集落に住む。他は、社会・政治生活から排除された、ときにはカースト制の最下層、不可触民、とみなされる人々がいます。

民主主義はこうした社会構造を変形し、彼らを政治に参加させました。彼らの代表を議会に参加させるために、そしてゲリラを受け入れるために、選挙は複雑な割当制度を採用したそうです。その評価はできませんが、議会にはかつてない多くの下層からの代表が参加し、また、以前は全く無視されていた女性たちが、代表として議会の3分の1近くにまで増えました。

Prachandaは連立政権の首相に指名されました。彼らの挑戦は、この先、困難が予想されます。対話と協力を通じて議会を運営しますが、まだ、相互の信頼は容易に築けないでしょう。武器の蓄えを国連が監視していますが、毛派の軍組織は残ったままです。将来、これを解体し、「法の支配」を確立しなければなりません。何よりも、武装闘争の原因である貧困、不正義、差別を、政府は解決しなければなりません。

そんな国が、本当に、あるわけです。たとえ話半分としても、私は感動します。自民党総裁選で候補らが何を論争するとしても、日本はネパールの経済発展にもっと協力して、同時に、彼らの民主主義から学んではどうでしょうか?

Martinは、国際社会に求めています。From Delhi to Washington, from Brussels to Tokyo, the international community must be generous and steady in assisting Nepal to sustain the still fragile success of a remarkable peace process.


Margaret Carlson Obama Comes Down to Earth, Meets His Moment Aug. 29 (Bloomberg)

Obama's challenge LAT August 29, 2008

オバマの演説を、保守派の論客で、かつて大統領候補でもあったパット・ブキャナンが「すばらしいmagnificent」と絶賛したそうです。彼が聞いた48の受諾演説の中でも、最高にして最重要な演説であった、と。保守派のテレビや論説も称賛しました。歴史家のMichael Beschlossは、1960年のケネディーよりも優れていた、と。

しかし、Margaret Carlsonは警告します。共和党のネガティブ・キャンペーンが始まるだろう。「オバマは本当にそれほど優れているのか?」 大集会を開いてロック・スターのように歓声に包まれて聴衆を熱狂させるより、小さな集会で質問に答えさせる方が良い。オバマは「エリート」であり、「尊大(傲慢)」だ。

オバマの受諾演説は、LATに言わせれば、理想主義と、民主党的な実践的提案とを、適度にミックスしたものです。たとえば、デンバーのフットボール・スタジアムを満たす理想主義のフレーズに、民主党が繰り返してきた二つの考えが示されます。税制を使って富の再分配を! 政府が介入して教育や雇用の機会を平等に!

富裕層の利益にしかならない税の抜け穴をふさいで、連邦政府の官僚がばらまく無駄や詐欺、濫用を終わらせる。しかし、それだけで彼の望む政策を実行できるのか?

Charles Krauthammer The Perfect Stranger WP Friday, August 29, 2008

The Message From Denver WP Friday, August 29, 2008

Edward Luce Bedecked in Denver FT August 29 2008

KIMBERLEY A. STRASSEL Democrats Offer Stealth Liberalism WSJ August 29, 2008

レーガン革命は死んだ。それがオバマのメッセージである。

ビル・クリントンが演説したように、保守派が作った不平等の国を終わらせて、オバマが勝利すれば、新しい偉大な社会が待っている。LBJ以来の、大きな政府と再分配。労働組合に支援された民主党は、自由貿易にも反対する。

では、レーガン革命は本当に死んだのか? オバマはそうも言ってない。増税や大きな政府を支持して、選挙を生き残ることはできない。進歩的であるとは、自由や、減税や、選択、自由貿易、を主張することだ。オバマはその背後に、うまく隠れている。

Simon Schama at Mile High Stadium In its severity and fury, this was Obama at his most powerful and moving The Guardian, Saturday August 30 2008

American promise The Guardian, Saturday August 30 2008

オバマが受諾した瞬間、アメリカの歴史は前進したのだ、と理解することです。黒人を奴隷として誕生した国が、黒人の大統領によって指導される時代を迎える用意ができたからです。

しかし、マッケインがサラ・ペイリンを副大統領候補に選んだのは、十分に大きなショックをもたらし、そのせいでメディアの関心がオバマ演説の分析から離れてしまいました。マッケインが望んだように。

オバマの演説は、抱負・野望と恐怖の古典的な組み合わせでした。抱負とは、the "American promise"です。彼は、将来への希望を具体的な形で約束し、彼らを束縛してきたブッシュとマッケインがもたらす恐怖を描きます。

そして、民主党が抱える様々な亀裂や党派を超える団結のためのメッセージを示すのです。

Joan Vennochi Barack Obama's Reagan moment BG August 31, 2008

Maura Kelly The fading American dream The Guardian, Tuesday September 02

希望に満ちたメッセージとは、レーガンが好んだものでした。選挙で重要なことは、人々が喜ぶんような、聞いて楽しいスローガンを繰り返すことだ、というレーガンの戦術をオバマは実行している。"We are the party of Roosevelt. We are the party of Kennedy" オバマは言いました。しかし、彼は誰よりも、レーガンに似ているのです。

オバマが訴えるのは、アメリカ国民が広く「アメリカン・ドリーム」を実現できる社会にすることです。無一文でも、激しい労働を経て、快適な生活を得ることができる。まともな賃金、医療保険、住宅を手にして。マッケインも、ライスやパウエルを挙げて、個人の努力を称える。しかし、彼らは特別な知性と魅力、活動力を持っており、あるいはコネや、資産家の娘と結婚したのです。

アメリカ社会が、基準によっては、ヨーロッパ諸国よりも社会的移動性が低い、という結果に驚きます。オバマは、「機会の国」を再生することを約束します。


NYT August 31, 2008

Is History Siding With Obama’s Economic Plan?

By ALAN S. BLINDER

(コメント) オバマとマッケインとの違いは明白だ。オバマは貧しい人のために減税するが、マッケインは富裕層に減税する。民主党と共和党は、経済について異なるアプローチを取るから。ハミルトンとジェファーソンがそうであったように。

しかし、第二次世界大戦後は、二つの重要な事実が追加される。一つは、民主党政権のときの方が、共和党政権より、成長率が高い。もう一つは、民主党政権のときの方が、共和党政権より、所得分配が平等化する。

レーガン政権時からは、成長率の差よりも税制が重要になった。共和党政権は高所得者に大規模減税し、民主党はそれに反対した。民主党は最低賃金を引き上げ、共和党はそれに反対し、労働組合を弾圧した。

11月にオバマが勝利すれば、アメリカ国民はより高い成長と平等な経済を得られるだろう。

The Japan Times: Sunday, Aug. 31, 2008

Biden brings a liberal interventionist slant

By GWYNNE DYER

WP Monday, September 1, 2008

One Voice on Georgia

By Fred Hiatt

(コメント) 世界に多大の影響を及ぼすアメリカの外交政策にとって、オバマが副大統領候補に指名したバイデンの考え方は重要です。29歳から上院議員を続け、長く外交委員会の委員であり、今は委員長の一人です。その経歴から見て、バイデンはリベラルな国際介入主義者(あるいは、帝国主義的なリベラル派)なのです。

コソボの空爆に賛成したし、911後、アフガニスタンやイラクへの侵攻にも賛成しました(今では失敗であったと謝罪しています)。必要なら、ダルフール紛争を解決するために、スーダンにも軍を派遣するでしょう。しかし、ロシアへの反発や「テロとの戦い」に執着することは抑制します。彼はNATOの拡大を支持しています。

こうした考え方はワシントンの外交・安全保障の専門家や官僚たちにも依拠しており、十分に支持されるでしょう。マッケインやヒラリーもワシントンのエスタブリッシュメントと仕事をしてきたけれど、オバマは違いました。バイデンがそれを補ったわけです。逆に、オバマが旧式の大国間政治を放棄する、と唱えたことは、続かないのです。

Fred Hiattは、グルジアは両陣営が論争する良い機会です。マッケインはプーチンの実例が自分の主張を証明したと感じるでしょう。オバマのような話し合いは無意味なのです。しかし、オバマの陣営は、グルジアの軍事衝突も有利な材料にできる、と考えます。誰もグルジアを救うためにロシアと戦争することなど主張していません。制裁や交渉、同盟関係が重要なのです。


Aug. 29 (Bloomberg)

`Committee to Save the Dollar' May Not Be Needed

William Pesek

(コメント) 「ドル救済委員会(The Committee to Save the Dollar)」は必要ない、とWilliam Pesekは主張します。日経新聞が伝えたところでは、ベア・スターンズ救済が決まった後、3月半ばころ、ヨーロッパ、日本、アメリカが集まってドル高を促す計画があった、と言うのです。

これは、1997年にタイ・バーツの暴落で始まったアジア通貨危機の際に、その救済に奔走したグリーンスパン、ルービン、サマーズを、Times誌が「世界救済委員会(The Committee to Save the World)」と呼んだ先例に従ったわけです。

その必要はなかったのですが、なぜ今頃こんなニュースを官僚はリークするのか? それは政府間で為替市場への安定化介入について相談していること、協調介入があるかもしれない、という知識を市場関係者に与えることで、ドル暴落を予防しよう、というのです。

それはさらに、バーナンキがインフレに言及し、為替レートには言及しなかったからであり、また、アジア諸国はインフレに苦しんでおり、石油価格の上昇がドル安によるなら、ドルだけを促して石油価格を下げてほしい、と願ったからかもしれません。

もちろん、アジアの問題はもっと根が深く、ドル安によって起きているわけではないのです。「ドル救済員会」はあるでしょう。それはある程度有益です。しかし、有効ではないでしょう。


Foreign Affairs, September/October 2008

The September 12 Paradigm

America, the World, and George W. Bush

By Robert Kagan

LAT September 1, 2008

America's 'identity' blind spot

Gregory Rodriguez

IHT Monday, September 1, 2008

Realists unite

By Leslie H. Gelb

YaleGlobal, 4 September 2008

America and the World Into a New Era – Part II

Shada Islam

(コメント) Kaganによれば、ブッシュ政権のリアリズムが失敗した後、世界が利己的で、覇権を失った勢力均衡に戻るのは止められない。しかし、アメリカの外交政策には、リベラルで開放的な国際秩序を守る、という価値が残されている。この価値を実現する点において、アメリカは協力する諸国のリーダーなのである。

民族主義や民族自決、分離独立の動きは、今後、どうなるのか? Gregory Rodriguezは、アイデンティティーをめぐる世界の分割が極端に進むことを想像する議論の怪しさを問題にします。もしそうなら、アメリカなんて(否、どんな国でも)、何千、何万に分割して、争わなければなりません。

リアリズムの後には何が来るのか? Leslie H. Gelbは問います。世界はアメリカに支配されたくないが、アメリカの提供してくれる安定した秩序も失いたくもない。アメリカの将来の外交は、リアリストたちが学んだように、ネオコンでも、孤立主義でもなく、民主党のリベラルな国際主義と手を組むことです。バイデンには、その用意がある、と。


James Poulos New model Republicans The Guardian, Friday August 29 2008

Stephanie Kirchgaessner ‘Suburban mom’ who took on her own party FT August 29 2008

「サラ・ペイリンは、2年前、小さな町の市長からアラスカ知事に飛び跳ねた。汚職にまみれ、石油業界との癒着に染まった政党を改革する、と誓約して。」町の人口は8471人です。

マッケインが副大統領候補に指名したのは、アラスカ最初の女性知事で、5人の子供がある、保守派のキリスト教徒です。2006年、彼女は共和党の現職知事と争いますが、そのとき共和党の幹部の多くはFBIの尋問を受けていたそうです。

石油会社との複雑な交渉ができない、と民主党の候補に批判されますが、有権者たちは、マラソン、狩猟、釣りを好むa “suburban mom”としてペイリンを支持しました。姉妹と義理の兄弟が離婚した子供の後見問題で、その男を解雇する圧力をかけたと疑われています。知事になってから、5人目の子供を出産しますが、その息子はダウン症でした。それでも出産して三日後に、知事の職務に戻った。

Kim Ghattas McCain unveils 'The Barracuda' BBC 2008/08/30

その選択は最後まで極秘にされていました。メディアやジャーナリストは一斉に彼女の経歴や情報を探します。

マッケインがバラクーダの本性をむき出しにしたようです。彼女のニックネームは、大学のバスケット・チームでプレーした印象から付けられた"Sarah Barracuda"である、と。・・・なるほど。トナカイの肉を食べ、全米ライフル協会の会員でもあります。

ペイリンは大きなかけです。成功すれば見返りは大きいが、リスクも非常に大きい。共和党大会では、黒いスーツを着た男ばかりの聴衆を前に、ポニー・テールで登場しました。息子の一人は9月にイラクへ赴きます。

彼女の物語はアメリカ的で、その価値観はアメリカの保守派を喜ばせ、労働者階層に好かれるでしょう。他にも、彼女は共和党の求めるような特徴、すなわち、財政の均衡を重視し、アラスカの石油採掘を支持し、妊娠中絶に強く反対しています。何より、共和党の若い改革派です。

もちろん、ヒラリーを支持して副大統領にも指名されなかったことで不満を持つ人々に、近寄ります。民主党員でもマッケインを支持する人々、特に女性はサラを大歓迎です。

しかし、本当にこれで副大統領になれるのか? という不安が次第に生じます。高齢のマッケインに何かあれば、彼女が大統領? その経験と知識の不足は、オバマどころではないのです。

McCain's gamble on Palin LAT August 30, 2008

Tim Rutten The perils of Palin LAT August 30, 2008

Colbert I. King A Suicidal Choice for Clinton Supporters WP Saturday, August 30, 2008

Mr. McCain's Choice WP Saturday, August 30, 2008

Senator McCain’s Choice NYT August 30, 2008

1988年にジョージ・H・W・ブッシュが副大統領候補に若いダン・クエールを指名した例と似ている。・・・こうして並ぶと、これこそアメリカの文化戦争であり、オバマが克服すると約束した道徳や価値をめぐるアメリカの内戦です。オバマとバイデン vs マッケインとペイリン!

ペイリンは、キリスト教の中でも聖書の教えを重視するエヴァンゲリカル(福音主義)で、天地創造を信じ、妊娠中絶や同性愛者の結婚を憲法で禁止されるべきだと考えます。

GAIL COLLINS McCain’s Baked Alaska NYT August 30, 2008

McCain's calculated choice BG August 30, 2008

A Reform Ticket WSJ August 30, 2008

Michael Crowley McCain's campaign is in danger of fracturing The Observer, Sunday August 31 2008

Clive Crook McCain’s gamble on Palin is shrewd FT August 31 2008

マッケインの選択はそれほど愚かなものだろうか? 民主党やジャーナリストたちが示す多くの非難に対して、Clive Crookは反問します。その面白い点は、

1.オバマは何も運営したことがない。少なくともペイリンは市長であったし、州知事である。2.経験や知識が特に重要ではない。大統領は常に専門家たちに囲まれている。3.有権者に好まれるかどうか、が決定的だ。4.バイデン対ペイリンの副大統領候補テレビ討論は見ものになる。5.マッケインは、このままでは敗北する、と分かっていた。6.クリントン夫妻が民主党を分裂させていたら、マッケインはペイリンを選択しなかっただろう。7.「まだ4年も共和党に任せられるか? four more years”」という民主党のスローガンを黙らせ、ブッシュ=チェイニーとの連続性を、マッケイン=ペイリンは完全にぬぐい去った。

Gideon Rachman The campaign after Palin and Denver FT August 29, 2008

Jeff Jacoby McCain's maverick pick BG August 31, 2008

John H. Hinderaker and Scott W. Johnson Sarah Palin: a bold choice, or a desperate one? CSM September 2, 2008

Bob Kerrey McCain, a warrior, but ... LAT September 1, 2008

The McCain Paradox WP Monday, September 1, 2008

WPは、マッケインが大統領にふさわしい政治家であると有権者に説得できなかったことが、ペイリンを必要とした、と批判します。マッケイン自身は、改革派、財政的なタカ派、共和党のアウトサイダー、ワシントン政治のインサイダー、保守的価値を重視する者、戦時指導者、などのイメージを売り込んで失敗しました。企業への減税、海底油田の開発、民主主義の同盟、など、政策も売り込みました。しかし、劣勢は変わらなかったのです。

マッケインの政治家としての経歴は素晴らしいが、さらに彼は、アメリカという国を指導するビジョンを示さなければならない、と。

John McCain’s Challenge NYT September 1, 2008

あるいは、NYTが指摘したように、マッケインは共和党大会の当日、ハリケーン・グスタフが再現したブッシュ政権最悪の瞬間の一つ、ハリケーンに破壊されたニューオリンズの記憶から、逃げ出したかったのかもしれません。他にも、メディアが伝えるマッケインの考え方は、ブッシュのイラク戦争やチェイニーの石油利権、外交におけるタカ派思考など、今の共和党政権のマイナス・イメージでいっぱいです。

結局、オバマへのネガティブ・キャンペーンしかなかったわけです。

しかし、NYTは求めます。一匹狼の旧マッケインはもっとアメリカの中産階級から尊敬されていたはずだ、と。マッケインは温暖化ガスの排出を抑えるために課税を求め、E.ケネディー上院議員とともに超党派の移民法改正案を提示し、特殊利益団体を恐れず選挙資金規制を主張していたのです。

Gideon Rachman McCain: a roll-the-dice commander FT September 1 2008

Jonah Goldberg Sarah Palin: the new life of the Grand Old Party LAT September 2, 2008

What were McCain and Obama thinking? LAT September 2, 2008

LATからの質問に、二人の専門家が意見を述べています。要するに、マッケインの選択は失敗です。マッケインの重要なキャンペーンは、アメリカ国家のために尽くす、という使命感でした。しかし、ペイリンを指名した彼は、自分が選挙に勝つためなら何でもする、という姿勢を示したのです。

今のように議会の勢力分布が難しいときは、副大統領が議会選挙に精通した、中間選挙を勝てる人物でなければなりません。ペイリンはだめです。また、ペイリンは権力の濫用で捜査の対象になっており、無駄な公共工事をした例として有名なアラスカ州の責任者でもあったのです。

Michael Tomasky Will she even survive the week? The Guardian, Tuesday September 02

Eugene Robinson The Cynicism Express WP Tuesday, September 2, 2008

DAVID BROOKS What the Palin Pick Says NYT September 2, 2008

なぜマッケインはサラ・ペイリンを選んだのか? それは明白です。彼女はマッケインと同じ世界観を持っているからです。Sarah Barracuda was picked because she lit up every pattern in McCain’s brain, because she seems so much like himself.

ペイリンの選択をDAVID BROOKSが懸念するのは、もし大統領になればマッケインが必要とする助言を得られないことです。彼女は、政治と道徳を区別できないでしょう。

マッケインは大統領として、ワシントンの整然と組織された腐敗や不道徳、迷路に直面します。マッケイン=ペイリンは、問題を道徳的に非難し、悪者を見つけ出して懲罰を加えようとします。しかし、社会保障制度がそうであるように、道徳や悪者の問題ではなく、その多くは関係者の痛みや負担、利益を吸収して合意させる複雑な問題なのです。

マッケインのように戦闘機を操縦するパイロットの根性ではなく、政府機関を使って戦争を組織する問題であることを、老練な副大統領が助言しなければなりません。

Chrystia Freeland Palin is a true feminist role model FT September 2 2008

Sam Harris Palin: average isn't good enough LAT September 3, 2008

Jonathan Freedland Who knows if Palin will bring victory or defeat? But the culture wars are back The Guardian, Wednesday September 3 2008

政治は、すべて、セックスと戦争に尽きるわけではないでしょうが・・・。 “Bomb, bomb, bomb!

THOMAS L. FRIEDMAN And Then There Was One NYT September 3, 2008

あるいは、政治が、石油と富に尽きるわけでもないでしょうが・・・。 “Drill, drill, drill!”

ペイリンを選んだことは、マッケインがグリーン(環境保護派)ではなくなった、と理解できます。マッケインは、アラスカを採掘することに焦点を絞り、真に新しい再生エネルギーへの技術革新を捨てたのです。・・・きっとロシアを喜ばせるでしょう。

Gloria Steinem Palin: wrong woman, wrong message LAT September 4, 2008

Rosa Brooks Palin's secession flirtation LAT September 4, 2008

Ms. Palin's Introduction WP Thursday, September 4, 2008

GAIL COLLINS Sarah Palin Speaks! NYT September 4, 2008

Philip Stephens McCain’s embrace of Palin reignites culture wars FT September 4 2008

KARL ROVE Palin Could Make the Difference WSJ September 4, 2008

副大統領が誰であるかは、選挙結果に1%以下の影響しかない、という分析を紹介しながら、しかし今回は特別だ、とKARL ROVEは考えます。

なぜなら、ペイリンはオバマに二重の罠となっているから。もしペイリンを経験不足と批判するなら、オバマもそうだ。さらに、もしペイリンが主張する様々な価値を攻撃するなら、オバマの「新しい政治」は破たんする。


David Miliband Ukraine, Russia and European stability The Guardian, Friday August 29 2008

Martin Wolf The return of the Russia the west loves to loathe FT August 29 2008

オバマと逆の政治家は、マッケインやペイリンではなく、プーチンかもしれません。「君主は、愛されるよりも、恐れられる方が良い。」 マキャヴェリの教えを守るかのようなプーチンの行動を、別の視点からMartin Wolfは考えます。すなわち、国内のロシア・ナショナリズムです。

民族自決権など、ロシアの権力者が認めないことは明白です。その歴史も、チェチェン戦争も、それを示します。では、本当の理由は何か? パイプラインの利権。近隣諸国への支配。もちろん。しかし、最も重要な理由は、ロシア人の心に鬱積する恨みを晴らすこと、です。

しかも、それは単に屈服ではなく、ロシアのエリートに及ぶ危険があるのです。西側はロシアの周辺で、次々と改革を支持し、安定化してきました。グルジアへの懲罰は、ロシア人のためではなく、彼らの支配者のためなのです。

20年前であれば、ロシアの改革が進めば、周辺の安定と繁栄、その民主化をロシア自身が利益とみなす、と議論されたでしょう。しかし、その楽観は間違いでした。ロシアは世界をゼロ・サムで考え、パワーの国際的な階層制を重視し、国内の政治秩序と同じ眼で見ます。帝国主義と専制支配は一緒に強化されます。

これは世界に冷戦思考を助長するものです。たとえば、アメリカのネオコンや超リアリストは、サーカシビリをそそのかして攻撃させたのかもしれません。あるいは、これはマッケインを大統領にするための陰謀でしょう。・・・ある意味では。しかし、新冷戦は間違いです。ロシアには輸出できるイデオロギーなどなく、ロシア経済は欧米を合わせた経済規模のわずか7%です。ロシアが中国と同盟することもないでしょう。

だから西側は次の対応を選択します。1.脱ソ連のロシアに対する扱いで間違いがあったことを認める。2.ロシアの国境地帯にNATOを拡大するより、同時に、民主的なロシアの参加を促す方が良い。3.安全保障に関しては確実に実行する。4.エネルギー供給の多様化。5.ウクライナとグルジアをヨーロッパ経済に統合する。グルジアにはただちに経済支援する。6.ロシアのエリートたちに行動の代償を支払わせる。7.比例の間隔を保ちつづける。

40年前にロシアの戦車は国境を超えてプラハを制圧したが、今では民主主義が支配している。

Fareed Zakaria This Isn’t the Return of History NEWSWEEK, Aug 30, 2008

ロシア人の一撃で、グローバリゼーションは終わって、ニュー・グレイト・ゲームが始まったのか? こうした扇情的で、誤解をもたらす、間違った世界像を、Fareed Zakariaは打破します。これはグローバリゼーションと対立するのではなく、その結果、もしくは成果である。統合化と成長が加速すれば、各地で新しい繁栄が現れ、新しい勢力が勃興します。例えば国でいえば、中国、インド、ロシア、など。それが対立や紛争をもたらす面もありますが、それを抑制する力も生じるのです。

何が起きたのか? ロシアはグルジアを蹂躙し、近隣諸国は震え上がった。そして彼らが一斉に西側に助けを求めている。プーチンは誰よりも、大西洋同盟を復活させる敵役となった。中国も支持しないだろう。これと比較するべきは、プラハの春ではなく、1979年のソ連によるアフガン侵攻です。当時のモスクワも、石油価格の高騰で舞い上がっていたのだから。

世界市場に結びつけても軍事行動を抑制できなかった、と批判するのではなく、もっと統合化するべきでしたが、石油価格の上昇で独裁体制が利益を得たのです。ヴェネズエラも、イランも、ロシアも、石油の高価格は専制を強化します。だから、Fareed Zakariaにとって、ロシアを一層統合化することが重要であり、そのためには石油価格を下げるのが効果的です。

保守派やマッケインは同意しないでしょう。今こそロシアをG8から追放し、その関係を断つべきだ、と主張します。しかし、もしロシアをますます孤立させるなら、次の軍事衝突に対して、われわれは二つの選択肢しか持てません。宥和するか? あるいは、戦争するか?

Georgia exposes UN's weakness BBC 2008/08/30

Joschka Fischer Realism about Russia The Guardian, Saturday August 30 2008

ロシアに対して、EUは国際関係が大国間の軍事的均衡に戻ることを許さず、また、重要な問題についてはロシアとの協力関係を維持する、という姿勢を示すべきだ。そのためにも、

1.トルコの政治改革を支持する。2.ロシアによるヨーロッパの分割支配を許さず、EU共通のエネルギー政策を確立する。3.ヨーロッパの防衛能力を強化する。4.ウクライナの独立を支持する。5.EUの東からの自由な旅行を広く認める。

Gareth Evans Russia and the 'responsibility to protect' LAT August 31, 2008

ロシアが自分たちの軍事的占領を正当化した理由は、国連世界サミットが2005年に認めた大量虐殺の防止を目的とした決議です。しかし、それは自国民が国境の外にいる場合を含めていません。また、認める場合でも5つの基準があります。ロシアは満たしません。

Gordon Brown This is how we will stand up to Russia's naked aggression The Observer, Sunday August 31 2008

Jim Hoagland Democrats' Georgia Question WP Sunday, August 31, 2008

Tara Bahrampour In Georgia, Watching a Young Democracy's Spirits Flag WP Sunday, August 31, 2008

David Phillips A firm west can prevent a new cold war FT August 31 2008

A shrunken empire strikes back BG August 31, 2008

NATOのコソボ、中国のチベット、ロシアの南オセチア、・・・誰がうまく解決できたか?

BGによれば、グルジアとの戦争は、西側、特にアメリカのブッシュ政権がロシアに対して行ったNATOの拡大に対抗したものである。さらにそれは、クリントン政権が行ったコソボへの空爆とデイトン合意、ロシアの強い反対を押し切って西側だけで行ったコソボの一方的な独立承認、という原理を適用したものである。さらに、ブッシュ政権が行った弾道ミサイル禁止条約の破棄、も含めて、プーチンが味わった屈辱に報いるものである。

William Safire Return of the phrase from 'Cold War I' IHT Sunday, August 31, 2008

Paul Reynolds New Russian world order: the five principles BBC 2008/09/01

Simon Tisdall Putin still pulls the strings The Guardian, Monday September 1 2008

Ralf Beste, Uwe Klussmann and Gabor Steingart The Cold Peace SPIEGEL ONLINE 09/01/2008

EUにとっての意味を詳しく論じています。かつてキッシンジャーが苦情を述べたように、ヨーロッパと相談する電話番号は、今も、ないのです。欧州安全協力機構the Organization for Security and Cooperation in Europe (OSCE)は、サーカシビリが寝静まった市民を含む南オセチアの目標に対して深夜の攻撃を仕掛けたことを不快に思っています。

メルケル首相はロシア人が好きで、プーチンもよく知っている。しかし、勝手にプーチン首相と、西側を代表して安全保障問題で話し合うことはできません。他方、EUサミットに来るブッシュ大統領は西側の団結を求めるでしょう。そうかと思えば、次の大統領になりそうなオバマは、対決より、対話の重視です。グルジアを訪問したチェイニーは、サーカシビリと相談して、共和党に有利な筋書きを入れ知恵している、という噂です。

しかし、アメリカとイギリスが求める強硬路線への支持は、EUだけでなく、G7サミットでも支持されないでしょう。ドイツとフランスはG7を利用することに強く反対します。中東和平でも、エネルギー問題でも、ロシアを抜きにした形で、EUは有効な解決策を示せません。

最善のシナリオは、「ロシアのダヴォス」です。ロシアが世界経済に緊密に統合化されて、次第に西側化し、民主主義や法の支配を受け入れることです。EUはロシアとの戦略的な同盟関係を結びます。第二のシナリオは、「選択的なパートナーシップ」、「安定から停滞まで」です。両者は問題ごとに、双方が利益を見とpめることだけ合意します。第三は、「専制的・帝国ロシアの誕生」です。戦略的にも同盟できません。

それは冷戦"Cold War"ではないかもしれませんが、"Cold Peace"です。

ROGER COHEN NATO’s Disastrous Georgian Fudge NYT September 1, 2008

Understanding Russia WP Tuesday, September 2, 2008

Francis Fukuyama Russia and a new democratic realism FT September 2 2008

'Stop! Or We'll Say Stop Again!' WSJ September 2, 2008

ANDREI PIONTKOVSKY Russia's Georgia policy splits the Kremlin The Japan Times: Wednesday, Sept. 3, 2008

JUDY SHELTON The Market Will Punish Putinism WSJ September 3, 2008

WSJの論説でJUDY SHELTONは、プーチンとレーニンと比較し、新経済政策を今のロシアにも見ます。ロシアを懲罰するには、たとえば、ロシア企業のNYSEの株価が暴落するだけでなく、ロシア株式市場もルーブルの価値も下落して、外国からの投資が逆転し、国内投資家による資本逃避も始まるでしょう。アメリカとEUはロシアのWTO加盟を拒むだけでなく、EUはウクライナなど隣国からの輸入を早急に自由化して、同時にアメリカはドル化を促すことだ、と主張します。(あるいは、むしろ、ユーロ化)

Kamil Tchorek Can an independent Ukraine survive? The Guardian, Thursday September 04 2008

David Ignatius Hot or Cool on Russia? WP Thursday, September 4, 2008

マッケインとオバマの対外的な危機への発想は、ホットとクール、に対比されます。マッケインにとっては「新冷戦の始まり」、オバマは冷静になって外交を重視する。

LANDON THOMAS Jr.Conflict in Georgia May Raise Pressure on Russia’s Oligarchs NYT September 5, 2008

Anders Aslund The west should use economics to rein in Russia FT September 4 2008

西側の対策としては、1.共通のエネルギー政策、2.ガスブロムの解体、3.ロシア高官による資金洗浄を止める、など。

Dmitry Shlapentokh The failure of two empires Asia Times Online, Sep 5, 2008

グルジアへの侵攻でロシア帝国が復活する、と思うのは間違いです。むしろ、ロシア帝国が終わったのです。

スターリンが築いたソ連は、ロシア・ナショナリズムでもあり、少数民族を弾圧し、辺境に追放しました。それはその周辺部や東欧まで含む、ロシア帝国でした。しかし、同時に、少数民族は支配の手段として利用され、エリートとしてロシア化されました。彼らはロシア語とモスクワからの情報を共有し、結婚などで姻戚関係を広げて、ロシア・ナショナリズムに隠れた支配を分かち合ったのです。ロシア帝国の崩壊を嘆き、その復活を祝うのは、彼らでしょう。

しかし、プーチンはモスクワをロシア・ナショナリズムで満たし、その過程で、少数民族を迫害しました。モスクワは帝国の首都ではなくなったのです。チェチェンのモスクワによる破壊と寄生化を見ても、ロシア帝国は復活していません。むしろ、パックス・アメリカーナと同様、失われた世界秩序なのです。


BG August 30, 2008

Unions' new role in the workplace

By Kris Rondeau and Janna Malamud Smith

(コメント) この論説の筆者たちは、the Harvard Union of Clerical and Technical WorkersHUCTW)の創設20周年を祝い、労働組合の将来を展望します。彼らはそれを「進歩的組合」と呼びます。

労働組合は組織率が低下し、社会主義圏の崩壊、グローバリゼーションによって存在意義を失いつつあります。労働組合は、労働者たちに十分な賃金と福利厚生、良好な労働条件と、職場における教育と訓練、などを実現して、持続可能な職場を実現します。しかし、HUCTWは急速に変化する条件(たとえば、グローバリゼーション)に対して積極的に対応することで、労働組合の新しい役割を獲得します。

「知識型」経済において、企業は優れた労働者を集め、育てなければ、生き続けていくことはできません。企業は、トップ・ダウンで労働者を配置するだけでは、十分に力を発揮できません。現場を知り、労働者の能力や適性を最もよく知っている、下からの情報が重要です。

進歩的組合は、労働者の発言を集めて実現します。それは誰にとっても利益になることです。組合も経営者、相互の利益を理解し、組織を運営しなければなりません。進歩的組合の目標は、職場にコミュニティーを築くことです。

HUCTWは、ストライキをしません。長い労働契約書を作りません。重視するのは、参加し、十分に話し合って、考え方に賛同することです。

これは御用組合でしょうか? パターナリズム? 経営参加? ・・・否、グローバリゼーションに生きる「進歩的組合」です。

FT September 3 2008

Ways for trade unions to avoid redundancy

By Jonathan Guthrie

(コメント) イギリスでは、労働党(ニュー・レイバー)から労働組合が独立することを議論しています。


IHT Sunday, August 31, 2008

A high-wire act in Thailand

By Philip Bowring

(コメント) タクシン元首相はロンドンに亡命中です。しかし彼の政党People Power Partyは、農村において広く支持され議会の多数を握り、サマックを首相に指名し内閣を組織しています。他方、都市には新しい中産階級とさまざまな民主化運動があり、政治に関心の高い軍隊と、安定化の象徴である、否、実際に政治に介入してきた強い国王がいます。国王を支持する保守派も、民主化運動に加わっています。通信事業で成りあがった大富豪のタクシンにしてみれば、この程度の汚職や職権の逸脱はどこにでもあることで、政府と話し合いで解決できないとは思わなかっただろう、とPhilip Bowringは書きます。

デモ隊the People's Alliance for Democracy (PAD)は首相府を占拠し、政府が戒厳令を出しても軍隊は反政府活動に介入する意志がありません。では、サマック首相が辞任すれば解決するのでしょうか? サマックには警察関係者や保守派の支持もあります。国王の支持者は、プミポン国王の次の国王が権威を失い、ポピュリストや軍部に対抗できず、役割を縮小させられることを恐れます。軍部は誰を支持することもないけれど、政治介入することが解決策ではない、ということを学んだようです。都市の住民は不平等や権力者を嫌いますが、都市のビジネス・エリート層と地方の貧しい農民は、タクシンが帰国してもたらす次の改革を期待します。

開かれた、民主的な、参加型政治を実現したタイですが、その民主主義は容易に均衡しません。裁判所、軍隊、都市群衆、国王、・・・その他の力がぶつかりあったまま、先が見えないのです。

FT September 2 2008

Thailand must resist mob rule

Asia Times Online, Sep 3, 2008

Thailand teeters on the brink

By Shawn W Crispin

The Guardian, Wednesday September 3 2008

Wanted: Thaksin Shinawatra

Tom Fawthrop

(コメント) 反政府派は、選挙は買収されていた、と非難します。選挙制度を公正なものに変えなければならない、と。しかし、彼らは計算を誤った、とFTは批判します。彼らの提案する制度はちっとも民主的ではなく、新聞も批判しました。不正選挙は裁判所にゆだねるべきですが、裁判所や選挙管理委員会も疑われています。

民主主義に従うなら、議会において、サマックが政治的責任を取って辞任することはあるでしょう。しかし、街頭を占拠した群衆が権力を奪うのは、正しい政治ではない、とFTはタイの民主政治を危ぶみます。

バンコックの抗議活動は、都市群衆の突発的な反政府活動ではありません。さまざまな団体が合流しています。鉄道が止まり、港湾が機能せず、空港が閉鎖され、経済活動が停止しています。そのコストは急速に増えるでしょう。投資家たちがこの国を「統治不能」と見なして、再び、タイを逃げ出す恐れもあります。

PAD内部でも穏健派と強硬派とが対立しています。政治が行き詰まる中で、伝統的な国王の仲介に期待できるでしょうか? しかし、81歳の国王はその力を持続できません。あるいは、選挙によって新しい議会が解決する? それでもタクシンの政党はふたたび勝利し、PADは街頭で抗議するでしょう。


FT September 1 2008

Japan changes to more of the same

(コメント) 外国のジャーナリストから見れば、日本の政治は退屈でしょう。Japanese politics is a stable game. というのも、婉曲表現です。ずっと自民党の政権が支配し、主な論争は自民党内の派閥争いです。財界も官僚も、それに慣れてしまって、変化は起きません。

しかし、お世辞でない部分もあるのでしょう。確かにタイの政治混乱を見れば、This is not necessarily bad. Japan is an admirably well run country. と書くのはウソではありません。もっとひどい政治家がどこの国にもいます。日本は緩やかな改革を進めています。福田首相の決断は正しかった、と考えます。改革を進めるには選挙で多数を取るしかないのです。そのためにはカリスマ的指導者が必要です。

Sept. 2 (Bloomberg)

I Am Ready to Be Japan's Next Prime Minister

William Pesek

(コメント) むしろWilliam Pesekの描く不満や冷笑の方が普通でしょう。ジャーナリストたちが酒屋に集まって、3本目の銚子が来たころクイズを出す。日本の過去5人の首相はだれか? ・・・日本人でも思い出せない?

もっと心配なのは、5人前の指導者を挙げれば、アメリカなら1977年のJimmy Carter大統領、イギリスなら1976年のJames Callaghan首相、ドイツであれば1974年のWalter Scheel大統領(もしくは1969年のWilly Brandt首相)、中国でも1970年代のケ小平Deng Xiaopingにまで、さかのぼることです。

日本はどうでしょうか? 5人前は1998年の小渕恵三首相です。10人で1991年の宮沢喜一、15人で1980年の鈴木善幸、19人もさかのぼって、ようやく、1972年の田中角栄首相です。首相の多さでいえば、イタリアに匹敵する、とPesekは指摘します

外国投資家は日本をどう扱ってよいか悩むでしょう。解決してあげよう、とPesekは書いています。自分が日本の首相になってあげる、と。確かに、外国人で、65歳にもならず、日本語もうまくないけれど、考えてみれば、世界一の大国アメリカが、わずか2年しか知事をしたことがない44歳の女性を副大統領にするかもしれないときです。外国人が、世界第二の経済大国、日本の首相になって、英語で世界の投資家に説明するのも良いことだろう、・・・と考えてみては?

しかし、日本では自由民主党の総裁にならないと、首相にはなれない。そこで考えました。

もう受諾演説はできている、とPesekは書きます。・・・私は数カ月毎に景気対策を出す。全部、国債の発行で賄う。税制改革で法人税も変えたりしない。香港やシンガポールに逃げ出す企業は放っておく。新興企業のためには何もしない。企業を潰さないために忙しいのだから。

閣僚は自分の友達だけがやり、政府支出は自分の企業へ向ける。そして、必要のない道路や橋やダムをいっぱい建設する。誰も来ない美術館や記念碑だって、地方にどんどん建ててあげよう。私は50代の後半だが、政治の世界では若者だ。女性の社会進出も助けるぞ、ただし、それは誰も信用しなくてよい。

つまり、私の公約とは、現状維持、自民党の再生、だ。この自由でも民主的でもない政党が、日本の政治を動かし続ける。彼らは、変化を阻止するためなら、何だってするのだ。

IHT Tuesday, September 2, 2008

Vacancy at the helm

By Michael Auslin

WSJ September 3, 2008

After Fukuda

By MICHAEL J. GREEN

FT September 3 2008

A glimpse of a new shade of grey in Japan

By David Pilling

The Japan Times: Thursday, Sept. 4, 2008

Fukuda hounded out of office

By GREGORY CLARK

(コメント) 次期首相になりそうな麻生太郎について心配する論説もあります。靖国、戦争、財閥。あるいは、小泉再登板? 小池ユリ子? Michael Auslinは書きます。

「日本の政治はこの数カ月混乱するだろう。アメリカはアジアの重要な同盟国に問題を抱えるわけだ。アメリカの新大統領は、新しい、おそらくは弱体な、日本の指導者と仕事をしなければならない。経済危機、北朝鮮の核処理、中国の台頭、などを思えば、同盟関係も日本も、不確実な状態でぬかるみに沈んでなどいられない。」

他方で、FTDavid Pillingは、日本が期待されたようなスピードでは変化しなかったけれど、確実に変わってきた、と考えます。それは、ちょっと、北京オリンピックの中国を見るような感覚です。日本は、アメリカでも中国でもなく、その間です。


FT September 1 2008

The Fed is right to focus on providing liquidity

By George Magnus

FT September 4 2008

The Bank must act to end the euro’s wild rise

By Paul De Grauwe

(コメント) アメリカ政府がファニー・メーとフレディー・マックを救済して国有化する? となれば、金融政策の仕事も変わるのでしょう。

“‘Fire! Fire!’ in Noah’s flood”. これがイギリスの1930-31年における経済思想であった、とGeorge MagnusR.G. Hawtreyの本から引いています。同様に、アメリカのAndrew Mellon財務長官も大恐慌の破産処理を考えていた、というのです。何よりも重要なことは、インフレを避けることであった、と。

なぜ金融危機が軽く済んだヨーロッパで不況が始まったのか? Paul De Grauweはユーロの為替レートに注目します。ユーロ高がヨーロッパ企業に与える利潤圧縮のショックは、石油価格の高騰に等しい、と。ヨーロッパでは二重の利潤圧縮効果があったが、アメリカでは二つが逆方向に生じた。ECBは外国為替市場に介入せよ、と主張します。


BG September 1, 2008

China's winning Olympic spirit

By Anne Wu and Jason Qian

FT September 3 2008

Beijing’s Olympian task is to curb inflation

By Stephen Roach

FEER September 2, 2008

Georgia's Lessons for Taiwan

by Jeffrey Bader and and Douglas Paal

(コメント) オリンピックが終われば、中国政府が取り組むのは、国内政治課題、インフレーション、台湾問題、など、多くあります。


FT September 2 2008

What the presidential choice could mean

By Martin Wolf

(コメント) 西ベルリンに閉ざされた人々を救うと約束したケネディーの言葉は有名です。それを借りて言えば、We are all Americans now. あるいは、それはケインズ主義を採用したニクソンの言葉でしょうか?

Martin Wolfは、われわれがアメリカの創った国際秩序に住むことを認めて、それは20世紀のアメリカだけでなく、17世紀のオランダや1718世紀のイギリスから続く、Walter Russell Meadの呼ぶthe “Anglo-American” systemである、と紹介します。友人には優しいが、敵は軍事力を駆使してでも冷酷に叩き潰す。友人というのは商売で儲けられる相手のことだ、と簡単には理解できます。彼らは物理的な境界も、異なる政治体制も、異なるイデオロギーも、敵だと思えば次々に破壊してきました。

この3世紀におよぶ世界の歴史は、「アングロ・アメリカ革命」の拡大と、それによって破壊され、転換された社会・異なる文明が発した反動の歴史でした。そうであれば、アメリカの次の大統領が示す選択は重要です。


DAVID POGUE Serious Potential in Google’s Browser NYT September 3, 2008

John Gapper Google launches Microsoft’s big fear FT September 3 2008

A Bright and Shiny Browser NYT September 4, 2008

(コメント) いよいよマイクロソフトの帝国は解体されるのでしょうか? 国家が何度も試みてできなかったことを、グーグルが始めます。

******************************

The Economist August 23rd 2008

NATO and the invasion of Georgia: How to contain Russia

Russia and the West: After Georgia

Barack Obama: Explaining the riddle

Nepal: Almost a dinner party

Argentina: Clouds gather again over the Pampas

Economics focus: Lessons from a “lost decade”

(コメント) グルジア危機に対するThe Economistの考え方は、冷静に、均衡を見ながら制裁することです。ロシアは冷戦を再現できない、と。時間は欧米に有利なのです。ロシアには、こうした軍事力の誇示は利益をもたらさない、と告げておくだけでよい。

オバマについての巻頭特集記事が面白いです。ばらばらな印象の情報が、ニュースや漫画のスクラップみたいな印象を受けます。オバマの最大の成果は、クリントン夫妻の民主党支持ネットワークや資金源を出し抜いて、劣勢だった指名争いに逆転勝利したことです。その経歴はアメリカの多くの有権者にも異質な印象であり、若者のボランティアに理想主義を唱えながら、実際的な権力志向の若者であったのかもしれません。

The Economistの描くネパールの現状は幾分かの悪意と不信を含みます。毛派のゲリラ指導者の転身ぶりに、称賛よりも、警戒心を持ちつつ、成果を見守ります。都市の底辺層や、貧しい農民への土地再分配、ゲリラ部隊の国軍への編入、など。

アルゼンチンは通貨・金融・政治危機の後、中国を除けば世界でも最高水準の成長率を実現し、それを維持するためにキルチネル大統領夫妻は市場介入型の政策に頼ります。今はドルに固定した頃と違って、多くの政策が選択できる。しかし、政府がそれを拒んでいる、とフラガ元中央銀行総裁は批判します。

アメリカの現状は、日本の政策失敗を単純に批判し過ぎた、という反省をもたらすでしょう。バブルの規模も、金融政策や財政政策による処理も、日本とアメリカに大きな差はないのです。ただし、日本はデフレに苦しみました。また、銀行の不良債権処理はアメリカの方が早いはずだ、と期待されています。今はまだ、日本ほどひどくない、と。