今週のReview
7/14-7/19
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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愛国心と国際主義, アメリカの陰謀説,2, 都市と民主主義, 中国の噂と暴動, キッチン・ガーデナーは団結せよ, 平等と移動性, アメリカとインドの核合意, 洞爺湖サミットの評価, ダルフールを救えないG8, FTA批判, 気候変動に関する国際合意, 1バレル・・・500ドル!
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor, WSJ:Wall Street Journal Asia
LAT July 3, 2008
By Timothy Garton Ash
(コメント) 現代世界の変化をどう見るか? もしあなたが北京の共産党指導者であれば、あるいは、アフガニスタンの麻薬密売組織の幹部であれば、あるいは、ロシアの石油・天然ガス資源を支配する富豪であれば、ますます楽しく、明るい世界が見えるでしょう。
しかし、もし自由な国で子供を育て、諸外国においてもより多くの人が自由を享受することを望むならば、そして自由であるとは、伝統的な意味での市民の政治的自由にとどまらず、私生活や法制度、経済的に安定した条件、教育や機会の公平性によって、生きる上でのチャンスが豊富にあることまで含むと考えるなら、世界はますます陰鬱な変貌を遂げつつあると心配するでしょう。
気候変動、貧困、伝染病、そして石油、食糧、資源をめぐる争い。世界には様々なモンスターが現れ、悪質な政府はその害悪を強めて、何億人もに被害をもたらしています。グローバル・パワーが新興諸国に移動しつつあることは、事態を改善するより悪化します。旧来型の独裁と権威主義的資本主義のパワーが増して、主要な西側民主主義国は、かつてのヨーロッパ植民地が自由を無視したように、近隣諸国の自由に何の配慮もしません。
このような世界について、Ashは二つの西側の対応を批判します。一つは攻撃的な対応である「十字軍に出よ」。もう一つは防衛的な対応である「橋を落とせ」。
ブッシュの十字軍がイラクで散々な結果をもたらし、西側各国は次々に橋を落とし始めました。保護主義や文化的な悲観論が広まり、西側文明の孤島や要塞を守る声が強まっています。異質な人々、異質な商品、異質なアイデアを拒み、イスラム諸国や中国、ロシアの態度を変えようとはしません。異なる文明には、いつも、異なる価値があるのだから。
こうした二つの対応に代えて、Ashは、より楽天的で自信に満ちた、国内の愛国心と国際的なリベラリズムの統一を提唱します。既存の国家においては、自由民主主義の国家で自由が最も実現されているから、保守主義者と一緒に国民国家の強化を支持しよう。しかし、橋を落とすべきではないし、移民を阻止するべきでもない。それを管理・制御したい。彼らは市民になることを望んでいるのであり、合法的に受け入れて、同じ権利を認めよう。その場合、ますます複合的になる社会では、かつて語らなくても共有されていたような価値や理解に頼って生活することはできない。自由や合法性、個人の良識について、オープンな議論を喚起しなければなりません。
しかし、国内で自給する国は存在しないのですから、私たちはリベラルな愛国主義がリベラルな国際主義を必要とすることを認めるべきです。それは他国に侵攻して、銃によって良いことを勝手に押し付ける主張ではありません。より多くの国が共通の規範やルールに従うようになり、国際法や国際機関によって補完されるような秩序を目指すことです。異なる文化や環境、支配者によっても受け入れるべき基本的権利があるでしょう。普遍性と特異性とのバランスを取りながら進みます。
それは決して西側の価値を押し付ける新植民地主義ではありません。人間社会には多くの九通生があり、非西洋諸国にも、自由、寛容さ、互恵、責任ある政府に関する知恵が多くあります。それらが異なった制度化を遂げている以上、ここでもオープンに議論することが望ましいのです。
WP Thursday, July 3, 2008
Global Action to Save Global Growth
By Ban Ki-moon
WP Thursday, July 3, 2008
Africa's Food Crisis Opportunity
By Josh Ruxin
(コメント) 世界を救済するには何をすればよいか? 例えば、最貧困層を減らすために。石油価格や食料価格の高騰を抑えるために。
世界経済の成長を持続し、インフレやスタグフレーションを防がなければならない、というBan Ki-moon国連事務総長からG8への要請は、パニックを起こさずに、人々の行動や供給条件を変化させていくために、激変を緩和し、新技術を普及させる共通基金を設けること、です。これは、洪水を防ぐためにダムを作る、社会工学的な経済学(によって行動する国際官僚たち)が好む考え方です。
それは誰が支払うのか、どのように使うのか、効果はあるのか、といった疑問に答えなければなりません。「第二の緑の革命」を国際機関が支援することは、望ましくもあり、怪しくもあります。なぜなら、多分にあいまいな要素を残しながら、既存の社会で形成された既得権や制度を破壊しなければならないからです。だから逆に、パニックなしには実現しない、と思います。
Ruxinも、食糧危機の解決には、民主主義、開放体制、化学肥料、融資、をアフリカにもたらすよう主張しています。
NYT July 6, 2008
Man-Made Hunger
July 7 (Bloomberg)
World's Poor Hunger for Free Trade
Kevin Hassett
Foreign Policy, 10 July 2008
The Global Food Fight
Moisés Naím
(コメント) 私たちがスーパーで値段の上がった食品を見るときの不満と、飢餓や暴動を覚悟する貧しい諸国の不安とは、つながっているけれど、大きく異なります。
NYTは、先進諸国の責任を強く主張します。特に、アメリカが補助金で食糧をエタノールに変える決定は間違いでした。農業補助金や輸出国の規制も間違いです。貧しい諸国への援助も不足しています。Hassettは、たとえ食糧の供給が増えても、それが自由に取引できないのであれば、飢餓や貧困は解消しない、と主張します。
Naímも、中国やインドにおける需要増加よりも、石油価格の高騰や投機の影響、特に、食糧備蓄が減少したことにより、干ばつが投機を刺激して高価格を生じやすくなっている、と注意します。
FT July 3 2008
Closer ties to Russia will profit all of Europe
By Nils Andersen and Anatoly Chubais
FT July 10 2008
Western flattery ignores the dark reality of Russia
By Garry Kasparov(leader of the Other Russia pro-democracy coalition and a former world chess champion)
(コメント) 西側とロシアの関係は論争されています。プーチンからメドヴェージェフへの移行をどう見るか? ロシアからエネルギーを輸入して、製品を輸出する。活発な成長にロシア向けの直接投資も増えます。Nils Andersen and Anatoly Chubaisは、安定した世界管理のためにも、EU=ロシアのG2を考えます。
しかし、Kasparovが主張するように、民主主義を軽視する国がG8に参加しているのは矛盾です。メドヴェージェフは明確に、G8の資格は民主主義と関係ない、と語りました。ロシアの大統領選挙は決して民主的でも透明でもなかった、と主張します。そして、もしローデシアにロシアほど多くの石油や天然ガスがあれば、ムガベ大統領がG8に参加しただろう、と。
ブッシュ大統領がメドヴェージェフの隣でムガベを非難したのでは、単に、笑い話です。ロシアの高等教育を受けた市民、また、裕福な市民の50%がロシアを出たいと願っています。また、市民の83%が自国の政治方針に影響を与えることはできない、と答えています。だから、不正選挙や独裁体制を容認した欧州委員会のTerry Davis委員長や、ロシアとの市場によるエンゲイジメントを説いたキッシンジャーは、まったく、破廉恥なのです。
WSJ July 3, 2008
Why We Went to War in Iraq
By DOUGLAS J. FEITH(under secretary of defense for policy from 2001 to 2005)
BBC 2008/07/04
The evolution of a conspiracy theory
The Guardian, Friday July 4, 2008
Big Oil's Iraq deals are the greatest stick-up in history
Naomi Klein
(コメント) イラク戦争は「選択による戦争」であったと言われます。しかしブッシュ大統領にとって、イラクに侵攻してサダム・フセインを政権から退かせる他に現実的な選択肢はなかった、と当時の事情を知るFEITHは主張しています。パウエル国務長官、CIA、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォヴィッツ副長官、ライス安全保障担当大統領顧問、チェイニー副大統領が、9・11の前にイラクとの交渉をどのように進めようとしていたか、述べています。
飛行禁止区域を警戒する米英軍機にイラクは毎日のように発砲していました。もし撃墜されたら、あるいは、墜落する飛行機から兵士が脱出して捕虜になったら、どうするか? 数年でサダムが大量破壊兵器を手に入れ、アメリカは核武装したイラクと敵対することになる、と考えました。しかし、結論は出ないまま、その当時の選択肢を、9・11が起きたことを受けて再考します。
ブッシュ大統領の決断に影響したのは、サダムがアメリカに敵対していたし、今後ともそうであること、長期にわたって制裁の効果はなかったこと、核武装して戦争するリスクが高まること、それを我慢することが9・11によってできなくなったこと、でした。
他方、BBCの記事によると、9・11はアメリカの陰謀だった、というインターネット世代の「陰謀」幻想、都市神話が普及し続けています。Googleで「9・11 陰謀」を検索すれば790万件ヒットし、「9・11 真実」では2200万件もヒットするそうです。
ワールド・トレード・センターの崩壊が実際に起きたことが飛行機の突入だけでは説明できない、まして、突入されていない第3のビル(Tower 7)が崩壊した、という疑念から、MIHOP(Made It Happen On Purpose)とLIHOP(Let It Happen On Purpose)、さまざまな異説が発生しています。ジャーナリストや科学者、BBCまで「陰謀」「真実」論争に加わっています。
私はMIHOPではないですが、LIHOPなのでしょう。政府がまとめる報告書は多くの疑問に答えられず、陰謀論争を過熱させています。これは、第二の「ケネディー暗殺」なのです。
誰が陰謀をたくらむのか? この事件によって(予想されたような形で)利益や権力を大幅に高めた者が怪しいわけです。戦争の発端や戦局の転換点で、しばしば軍の強硬派(あるいは和平派)が陰謀を計画・実行します。また、軍事産業や科学技術者が疑われます。
イラク戦争は、結局、石油価格を高騰させ、サダムの支配していた油田をアメリカ系の石油資本に分割させたのです。
NYT July 7, 2008
Where Do We Go From Here?
NYT July 8, 2008
Put War Powers Back Where They Belong
By JAMES A. BAKER III and WARREN CHRISTOPHER
(コメント) アルカイダやタリバンが復活していることを思えば、アメリカ軍の駐留は積極的な効果がなく、むしろ撤退することで作戦を練り直すべきだ、と考える人も多いでしょう。ブッシュ政権はアメリカの資源、他の重要問題に向けるべき政治的関心、そして人命を、この戦争で失いました。オバマとマッケインは、撤退を含めたイラクへの関与の仕方、周辺地域の安定化について、その方針を語らなければなりません。
それと同時に、「陰謀説」を排除しなければなりません。それは権力が不透明で、情報を支配・操作し、さまざまな既得権益と結びつき、限られた個人に恣意的な決定を委ねているから、非常に難しいでしょう。もし「陰謀説」を完全に排除したいなら、警察が信頼を回復するために捜査活動をすべてビデオ録画して公開するように、権力者たちもすべての交渉をビデオ録画し、すべての情報を事後に公開することでしょう。もちろん、それは現実的でないと思います。しかし、実行可能な方策はあるはずです。
それ故、最も重要なことは、大統領が戦争を開始する権限を明確に規定することです。BAKER III and CHRISTOPHERは、アメリカ憲法によってあいまいに残された大統領と議会の関係を明確にします。
FT July 4 2008
Markets succumb to economic gravity
(コメント) 金融市場の重力は国際的に波及し続けるのでしょうか? 12カ月を経ても収まらない資産市場の下落と反発は、いよいよ世界不況への可能性を示し始めました。中国、インドなど、今まで結び付かなかった新興諸国の株式市場も下落し始めました。それは世界経済が不況に向かい、輸出が減少すると予想するからです。世界不況のもっとも重要な要因は、金融引き締めと石油価格上昇です。
石油の開発には、より多くの投資が必要であり、しかも時間がかかるから、その間、石油輸入国は石油消費を抑えるために不況に耐えるしかないのです。
BG July 4, 2008
By Edward L. Glaeser
(コメント) 独裁制を妥当して自由を勝ち取るとはどういうことか? アメリカ独立の歴史と経済学を組み合わせて、Glaeserは考えます。
はるかに多数の民衆が一握りの支配者に服従するのは不思議ですし、また、独裁体制を打倒するために貧しい多数の人々が協力して戦うのも不思議です。この論説は、前者がアメリカの広大な農場における支配により、後者は都市の非常に過密な貧困層の接触、情報の共有によって、可能になったと説明します。
民主主義の歴史を簡潔に振り返って、アテネのポリスに誕生した民主主義が、何度も農村を支配する独裁者に侵略されて、その後、都市とともに復活しました。Glaeserによれば、現代の民主主義の起源は羊毛を取引した低地地方(オランダ)の都市にあり、ブルージュの広場には肉屋と織工の銅像があるそうです。それは、1302年に、彼らが協力してフランス国王の占領軍の支配に抵抗し、蜂起したことを記念したものなのです。彼らは2カ月の後、ブルージュからゲントにおよぶ反乱民兵を集めて、武装したフランス軍を打倒したそうです。
民主主義と自由は、都市の住民と切り離せない関係にあります。都市には、より豊かで、教育のある人々が住み、しかも、民主主義や自由を求めて協力する条件があるのです。
IHT Friday, July 4, 2008
Lettuce on the White House lawn
By Ellen Goodman
(コメント) アメリカに急速に広まっている運動、Kitchen Gardeners Internationalとは、何か? それは彼らのスローガン、「1500マイル、400ガロン。それは何か?」が示しています。私たちが食事をするために、平均的な食材が届くまでの移動距離であり、使用されるガソリンです。
共和党が「減税」をスローガンにするように、この運動は「フード・マイルの圧縮」を叫びます。彼らは「地球規模で考え、ローカルに食べる」のです。それも、非常にローカルに! 自宅の裏庭で食糧をすべて栽培することが目標です。
ヨーロッパに10年住んで、環境保護思想を吸収し、アメリカに帰ってきた創設者のRoger Doiron はa lettuce-roots environmentalistになりました。アメリカの「草の根民主主義」という理想を拝借したわけです。食糧価格の高騰、バイオ燃料という愚かな政策への不満、食品の安全、などが重なって、急速に支持者が増えているのです。
「節約するために耕すのではない。それが正しいことだから、裏庭を耕すのだ。」「エクソンやモービルと素手で戦うことはできない。しかし、裏庭を耕すことならできる。」 どこでも空いた土地があれば耕すこと。学校でも、道路の隙間でも、ホワイトハウスの芝生でも。
The Guardian, Saturday July 5, 2008
The education boom has proved a curse for the poor
Polly Toynbee
(コメント) 社会主義政党の政治家が、あるいは、国際競争を重視する政治家が、グローバリゼーションの中でも国家に可能な領域として、最もよく取り上げるのが「教育」です。特に、人口の減少するような裕福な社会では、労働者への教育がしきりに強調されます。
しかし、逆に、教育は世代間の不平等を固定する働きをするようです。教育水準と所得水準は比例しており、親の高所得は子供の教育水準によって受け継がれます。逆に、たとえ高度な教育を受けても、それにふさわしい十分な数の雇用がなく、裕福な親のコネクションによってしか職を得られません。そもそも高等教育には、ますます高額の支払いが求められます。
労働党のブラウン首相は、貧困をなくすために、社会的移動性を強調し、教育を支援することで移動性に富む社会が実現できると考えました。Toynbeeは、むしろ平等な分配があれば、社会的移動性はその結果として実現するかもしれないが、逆に、大きな不平等があれば、社会的移動性を唱えても貧困解消にはならない、と批判します。まったく。
教育が社会的移動性を実現したのは、1950年代、60年代に、ホワイトカラー職が増加した時期だけでした。そして、1980年代には、脱工業化が進み、こうした高賃金の職場が破壊されたのです。大学を増やせば、裕福な中産階級の社会を作れるわけではありません。
北欧社会は、しばしば、グローバリゼーションの小国モデルとして有名です。そこでは社会的移動性ではなく、平等な社会が目標なのです。
NYT July 6, 2008
The Quandary of a Superpower as Others Race to Catch Up
By STEPHEN KOTKIN
(コメント) 著名な二人の批評家によるアメリカの21世紀に関する新著(Robert Kagan, “The Return of History and the End of Dreams” とFareed Zakaria, “The Post-American World”)の紹介です。悲観派のKagan(イェール大学古典学者)はマッケインの推薦書、楽観派のZakaria(ビジネス・ウィーク・インターナショナルの編集者、インドからの移民)はオバマの推薦書、という雰囲気ですね。
両者ともアメリカが21世紀の強国として繁栄し続けることを確信しますが、新興諸国の登場に対する対応は異なります。
悲観派Kagan は、中国やロシアの成長は続くけれど、彼らは民主化を許さない、と考えます。権威主義国家は民主主義をカオスとみなします。こうした世界では民主主義の拡大に限界がある、という現実を受け入れ、民主主義諸国の同盟を築いて相互に平和と繁栄を維持することが重要です。しかし、権威主義に劣らず、民主主義国も互いの利害は一致しませんし、しばしば独裁国家を擁護します。だから、アメリカは過剰な関与を抑制して、世界管理のコストを民主主義諸国や独裁国家とも分担しなければなりません。
楽観派のZakaria は、中国やインドの発展がアメリカに大きな利益をもたらすでしょう。ただし、この多極的な世界でアメリカは過大な要求や関与、負担を引き受けるべきではなく、アメリカ的な価値の優位を維持しなければなりません。それは、アメリカの高等教育、アメリカへの移民の流れを生かして、先端産業で競争力を高めることです。そうすれば、世界はアメリカに似てくるのです。
WP Sunday, July 6, 2008
Bloc-Buster Idea: Make It The G-3
By Jim Hoagland
WP Monday, July 7, 2008
New Life for the India Nuclear Pact
By Bill Emmott
Asia Times Online, July 9, 2008
G-whatever, China is here
By Francesco Sisci
YaleGlobal, 10 July 2008
Where Is the World Headed?
Immanuel Wallerstein
(コメント) G8は、世界の政治経済を指導する正当性も権威も持っていません。参加国を増やすよりも、むしろ三つ(欧米日)に絞った方が良い、とHoaglandは主張します。他にも、インド、中国、ロシア、など、その方針が問題です。
他方、Bill Emmottは、ブッシュ政権のインドとの核合意を高く評価します。アメリカはインドをイランとの戦争の防波堤に使うつもりはなく、アメリカ自身が国際的な核廃棄の先頭に立つ、という約束をして、インドの議会に承認を求めたのです。
しかも、あえてIAEAの査察体制を強化して、アメリカとインドが合意を形成した背景にあるのは、中国の軍事的脅威です。しかし、その成立には、インドの国内政治と、アメリカの国内政治における、非常に複雑な、党派によって異なる対応と同盟化が必要なのです。たとえば、アメリカ議会はインドとイランとの関係を牽制したいだろうが、インドは植民地化の歴史を経験した以上、日本のようなアメリカとの安全保障協定は結ばない、と指摘します。
Francesco Sisciの主張も興味深いです。洞爺湖のG8は、中国が重要な役割を持っており、実質的に最初のG9である。そして、このG9体制という形では、ロシアとEU(それはエネルギーをロシアに依存し、またユーロの制約によって、各国の政策が硬直化している)との不安定な関係を考慮すれば、太平洋の3カ国(P3)、アメリカ、日本、中国が主要な合意、特に世界市場に関する合意を形成する体制になる。
Wallersteinは、アメリカの覇権体制が終わって、多極化した世界が不確実であることを指摘し、国際通貨の交代や国内政治運動などにわたって説明しています。
FT July 6 2008
Recession is not the worst possible outcome
By Wolfgang Münchau
The Japan Times: Wednesday, July 9, 2008
Apply the fiscal brakes to this runaway train
By KENNETH ROGOFF
(コメント) 世界不況について、Hyman Minskyの「金融不安定性」理論が紹介されています。金融市場には、融資による投機が利益をもたらす“Ponzi game”局面が終わる「ミンスキーの瞬間」が訪れたのです。
経済学者の不幸は、それが実際に適用されることだ、というのが名言になるのは不幸なことです。秀才であっても金融政策を誤らせる理由を提供してしまった新しい学はより、BISの分析を受け入れて、金融政策が市場の不安定性を抑制するような指針を考えています。
世界経済の6年に及ぶ拡大が過熱をもたらし、国際商品市場の価格高騰をもたらした、というのは古典的なロジックであり、最も基本的な背景でしょう。新しい供給が現れなければインフレは容易に収まりません。
ROGOFFは、数十年に一度の金融危機を回避するために、各国は不況を恐れず(協力して)金融引き締めを行うべきである、と考えます。ところがアメリカは大統領選挙の年であり金融引き締めを行えず、新興諸国も様々な補助金や介入政策に依存して自ら引き締めを指導する国はありません。
価格上昇は市場によって需要を抑制し、供給を刺激します。問題は、価格の変動の幅と期間です。世界市場は労働力の供給により1970年代よりも弾力的になったのか、あるいは新興諸国の諸制度によって硬直的になったのか?
手遅れになる前に、この暴走する世界経済にブレーキをかけよ。
NYT July 6, 2008
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) アメリカ政府・軍が9・11に関する陰謀説を払しょくできないように、このままでは、拷問や人権無視を繰り返している、という批判を払しょくすることもできません。どうするべきか?
KRISTOFは、「真実究明委員会」を組織することだ、と主張します。アメリカ政府や軍隊には、間違った命令を拒んだ勇気ある人がいます。尊敬されているアメリカの軍人や知識人、ジャーナリストを委員として、真実を究明させることです。オバマもマッケインも委員を務めます。
そして新しい大統領は、グァンタナモ収容所を閉鎖し、軽視されてきた熱帯の病気を研究する施設として再建し、多くの貧しい人々を病から救う研究を長く援助します。
FT July 6 2008
Britain must act to prevent an attack on Iran
By Anatol Lieven
FT July 6 2008
Iran must grasp the world’s offer
BG July 6, 2008
Time for Iran to face more sanctions
By Peter D. Zimmerman
Asia Times Online, Jul 8, 2008
Iran takes off on a goodwill mission
By Kaveh L Afrasiabi
(コメント) 状況から見て、アメリカあるいはイスラエルの爆撃機によるイランへの攻撃が切迫しているのかもしれません。Lievenは、それが中東地域の安全と世界経済に破滅をもたらす、として中止するように強く求めています。イギリス政府はその影響力を総動員して阻止を試みます。
他方、イラン政府は核施設への査察を認めて、西側が提供する原子力の平和利用やウラニウム供給支援を受け入れることです。そしてアメリカ政府と交渉して安全保障を合意するのです。
G8ではなく、イランが組織するD8がアメリカとの交渉を仲介するかもしれない、とAfrasiabiは考えます。D8は、イラン、ナイジェリア、エジプト、パキスタン、トルコ、インドネシア、マレーシア、バングラデシュ、から成ります。また、イラン政府は、イランと6カ国(アメリカ、中国、ロシア、イギリス、ドイツ、フランス)による協議the "Iran Six"を望んでいます。
FT July 8 2008
Beijing must be tougher on Tehran
Philip Gordon
(コメント) 中国がEUやアメリカとともにイランへの制裁に加われば、重要な意味を持つはずです。しかし中国は、制裁に強制措置を加えることを嫌います。Gordonは、中国政府が望むのは自国の権力を維持するために経済の繁栄を続けることであり、現状維持である。その目的に照らして、イラン政府との有益な関係を損なうことに関心はない、というわけです。
中国政府は、西側の制裁を利用して、イラン政府と油田や天然ガスの開発・供給に加わると合意しています。中国にすれば、それは避けられないのでしょうか?
Gordonは、二つの点で中国政府を説得します。まず、石油供給の安定的な確保を望むのであれば、イランの油田だけで十分とは思えない。世界の石油供給の5%しかないイランに対して特別な合意を優先すれば、他の供給国との交渉や、輸入国との協力が難しくなる。
また、それはイランの核兵器開発を助長することになる。アメリカとイスラエルが核施設に攻撃する可能性も含めて、軍事的なリスクは高く、しかもイランの核武装は中東からアジアにかけて核軍拡のリスクを高めるだろう。中国内のイスラム過激派にも核テロ攻撃の選択肢をもたらす。
それよりも、西側だけでなく、中国がイランへの投資を控えるなら、制裁の効果は大いに高められる、と。短期的な利益ではなく、国際秩序を担う長期的な責任を果たす国として行動することが、中国政府に求められています。
William Pesek G-8 Visits Japan as Nikkei Relives Elvis's Debut July 7 (Bloomberg)
(コメント) Pesekは、洞爺湖ではなく、2000年のサミット会場であった福岡に来て、日本で行われたサミットの8年後を考えています。福岡は東京よりも中国やインドに近く、かつて日本の成長を支えた鉄鋼業の中心地であるから。世界中が中国のことばかり話す中で、今だけは日本が話題になります。
2050年の目標はしょせん遠い話です。むしろサミットでは、石油価格の高騰や食糧暴動、欧米金融市場の不安が主要テーマです。すなわち、1.ドル安、2.中国・インドの参加、3.サブプライム危機の教訓、4.インフレーション、5.バイオ燃料、について話し合うべきでしょう。
アメリカはますます、かつての日本のように、景気刺激によって金融危機を回避しようとし、ドル安・世界インフレを容認しています。
Larry Elliott Supertanker Brown set on the wrong course The Guardian, Monday July 7, 2008
Fareed Zakaria An Energy Future Passing Us By WP Monday, July 7, 2008
(コメント) Elliottは、イギリスのブラウン首相が世界市場の救世主的な活躍を確信している、と批判します。そして、1993年、暗黒の水曜日にEMSを離脱し、政府の信用を失ったまま日本へ来たイギリスのメイジャー首相にたとえます。
Zakariaは、やはりブラウン首相の模範的な対応を紹介します。1980年代の通貨価値を安定化する協調介入に代わって、今ではエネルギー価格が問題です。これは短期的に安定化することができず、需要を抑制し、供給を増やす政策によって、市場が是正されるしかないでしょう。
他方、ブッシュ大統領はそのような演説をしません。しかし、エネルギーと食糧は世界中で最も政府介入や補助金が多い分野です。アメリカも排出規制を導入して排出権取引市場を形成すれば、あるいは、アメリカが規制の枠から外れると言えば、その影響はただちに現在の価格水準を変化させます。
Climate change: let’s make a deal FT July 7 2008
Richard Black G8 fails to set climate world alight BBC 2008/07/08
(コメント) 中国とインドが参加しない国際合意では意味がない、とブッシュ大統領が言うのは正しいのです。まずG8が合意して中国とインドを説得する、というEUも正しいでしょうが。これは当然、国際規制の条件をめぐる政治的駆け引きでしょう。しかし、中国とインドが過去の温暖化ガスの蓄積を問題にしているのに、アメリカは代替エネルギーへの技術革新をもっぱら主張する、というのは、これもまた複雑な駆け引きです。
これらを全部含む形で(なぜなら正しい主張だから)、一つの排出量削減メカニズムに合意する必要があるわけです。たとえ不可能に見えても、政治家たちは国民や選挙の支持基盤を説得する十分な材料が得られたと思えば、新しい合意に達するでしょう。
FTが指摘するように、その大枠はすでに明快です。すなわち、豊かな国は過去の排出量に対する責任を認め、補償を支払うか、技術革新のための投資を行う。途上国は将来の排出量削減目標を共有し、国際的な炭素税の導入を排出権取引市場に参加する。
・・・年間50本のホームランバッターや、160キロの速球を投げて20勝できる投手を、野球チームが引き抜くための国際合意を決める交渉と、どこか、似ているわけです。・・・
BBCのBlackが書いた記事は、その成果を評価しています。全体として、この合意は1992年のアース・サミットで決めたことなのです。その後、16年を経て再び確認したことが成果であるか? 各国が交渉の「勝利」を主張するために、複雑な表現となりました。・・・“consistent with the principle of common but differentiated responsibilities and respective capabilities” しかも、主要排出国会議の交渉は、国際規制の基準を二重化するという問題を追加しました。
Poor excuses from G-8 LAT July 8, 2008
Biofuel for thought FT July 8 2008
(コメント) サミットの話し合いは、裕福な工業諸国が集まって、同じような政策を追求しているから合意しやすいでしょう。しかし、2005年のサミットでブレア首相が唱えたアフリカへの援助倍増は難しい課題でした。合意したままで、必ずしも実行されていません。今回のサミットでは、価格高騰に苦しむ貧しい国のためにも、これを相互に確認するべきでした。
Madeleine K. Albright and John D. Podesta Doing our part to feed the world BG July 8, 2008
ADAM LERRICK The Rich World and the Food Crisis WSJ July 8, 2008
(コメント) G8の介入は、歴史的に機能してきた国際商品市場を破壊するものだ。食糧危機を投機のせいにしてはならない。むしろ安価な食糧の時代が終わったのだ。食糧価格は貧しい人々や貧しい国の将来の可能性を奪う。食糧取引の自由化、農地の保全規制を撤廃、アメリカ農業に補助金を与えるより、世界の耕地を増やし、近代化することに使え、と主張しています。
G8 summit: How did leaders fare? BBC 2008/07/09
William Pesek Bring On Mad Max to Make More of Asia's Energy July 9 (Bloomberg)
Madeleine K. Albright and William J. Perry McCain's bad G-8 judgment call LAT July 9, 2008
(コメント) 石油価格上昇はインフレをもたらす。それはアジアにおいて消費を刺激する点で喜ばしい、マッド・マックス・ワールドが出現するのを恐れるよりも歓迎するべきだ、特にアジアがほしがる技術を日本は持っているから、と日本の大臣が述べた、とか?
あるいは、21世紀にもっとも貴重な資源は、石油よりも水である。日本は資源大国になるだろう、と財界人が語ったとか? 日本の強さは資源の保存と再利用の技術にもあるからです。
マッケインは、民主主義を抑圧するロシアをG8から追い出すべきだと主張しました。しかしそれは深刻な関係悪化に至る、と、Albrightらは批判します。キッシンジャーと同様に、アメリカがロシアと共有する利益や国際的な関与における中国やロシアとの交渉を重視します。
Tony Juniper The developed world must shoulder the burden The Guardian, Wednesday July 9, 2008
Wolfgang Reuter No Solutions to be Found in Japan SPIEGEL ONLINE 07/09/2008
Peter R. Orszag Climate Change Economics WP Wednesday, July 9, 2008
(コメント) 先進工業諸国が長期的には80%の削減と、中間目標を掲げること、をブラウン首相は検討していたのかもしれません。ドイツ国民は、Heiligendammサミットからの前進を期待していたからこそ、アメリカや中国、ロシアへの説得が失敗したことに憤慨します。しかも、食糧危機には援助を唱えただけで、投機的な資金への対策や、それを供給しているアメリカや日本の金融政策の失敗には何も言及していない、と批判します。日本でするサミットでは、この程度・・・?
温暖化ガスの排出削減をキャップ・アンド・トレードで効果的に行う方法が議論されています。排出に課税して新技術の開発・普及に助成するより、新しい商品と国際市場を創り出すという方法が本当に有効かどうか?
Pipe dreams and cigar smoke FT July 9 2008
Rich nations, poor policies BG July 9, 2008
Bridget Kendall Insight: New era for G8? BBC, Thursday, 10 July 2008
(コメント) もはや世界的な問題をG8で決めることはできない、とFTは認めます。G8の権威は失われ、その宣言の価値は誰もまじめに受け取らない人工貨幣のようです。G8より,ジンバブエの独裁者の方が恐れられているでしょう。
G8各国の考えがばらばらで、指導する国もなく、毎年サミットに集まっても写真を撮るだけであり、用意された宣言には特別な意味がない、というわけです。世界経済が危機に瀕しても、資本市場と中国に影響力を奪われて、かつてのようにG8で有効な国際政策協調を決めよう、という意志がありません。FTは、G8を廃棄すること、縮小することより、G12(中国、インド、ブラジル、スペイン?)への拡大を唱えます。
これは、9・11後の対立する世界から、脆弱性を共有する世界への移行を物語っている、とBBCは伝えます。また、ロシアのジャーナリストに尋ねました。ロシアにとって、このサミットの意味は何か? 貧困問題、温暖化、金融問題、その中から選ぶように。答えは、そのどれでもなく、ロシアの新大統領が国際的なイメージを高めること、でした。
NICHOLAS D. KRISTOF The Pain of the G-8’s Big Shrug NYT July 10, 2008
(コメント) G8の指導者たちが集まってダルフールの問題を話し合うとしても、彼らは介入を躊躇する理由を多く知っています。たとえば、この10年間にジェノサイドで犠牲になった人は1000万人ほどであるが、毎年、同じ数の5歳以下の子供たちが病気や栄養不良で死んでいる、と。
盗賊に殺され、あるいは、マラリアやエイズで死ぬ多くの子供たちよりも、ジャンジャウィードに襲撃されるダルフールの人々を優先して救う理由は何か? 中国はまだスーダン政府に武器や部品を輸出しているのに、ブッシュ大統領はオリンピックの開会式に行くと約束しました。国際刑事裁判所は、スーダン大統領Omar Hassan al-Bashirをジェノサイドで告発するかもしれません。
最後に、KRISTOFはG8がダルフールの虐殺を止めるように求める個人的な理由を書きます。
「私はエイズで死ぬ子供も、飢餓で死ぬ子供も見たことがある。私はマラリアにかかり、ジャングルで民兵に追われたこともある。G8は世界の貧困に緩和策を示したが、ダルフールで自分が見たことに影響しないだろう。」
「私はダルフールの風車小屋を忘れられない。そこで見た人々が私の記憶によみがえるから。若い女性はジャンジャウィードにレイプされ、妹を連れ去られた。男は銃剣で両目をえぐられ、女たちの集団は自分たちの赤ん坊で打たれた。その子供たちが死ぬまで。」
NYT July 7, 2008
Obama痴 Message to Europe
By ROGER COHEN
(コメント) オバマがベルリンで行う演説を、COHENが予想しています。政治家は、過去のシンボルを利用して、未来のイメージを共有させます。アメリカとヨーロッパにかかわる新しい理解として、こんな内容を求めるわけです。
NYT July 7, 2008
By JEAN EDWARD SMITH
(コメント) アイゼンハワーは、しばしば共和党員にも無視されているが、FDRを例外として、20世紀で最も優れた成果を上げた大統領であった、と述べています。アイゼンハワーは、勝利する見込みのない朝鮮戦争を名誉を持って終結させ、中国やソ連との予防的な戦争を唱えた軍を抑えました。そして、共和党を孤立主義の伝統から切り離したのです。
国家安全保障会議がディエン・ビェン・フーで追い詰められたフランス軍を助けるために核兵器の使用を進言したとき、アイゼンハワーはその提案を拒みました。「わずか10年で2度も、アジア人に対してその恐るべき兵器を使用することはできない。」 4年後に、中国が台湾進攻を示唆したとき、統合軍は核兵器の使用を求めました。アイゼンハワーは再びそれを否定しました。
核兵器を保有する国は、常に、その使用を検討している、ということに注目します。
FT July 7 2008
The usual suspect: Are financial investors driving up the cost of commodities?
By Javier Blas and Joanna Chung
(コメント) 1958年、シカゴ・マーカンタイル・マーケットで先物投機の罪によりEverette Harrisが非難され、議会で多くの聴聞会が開かれた商品は、玉ねぎでした。ハリスは、自分たちが温度計に過ぎず、法律で禁じても温度は変化するだろう、と述べました。しかし議会は先物取引を禁止する法律を作りました。
最近の商品価格の高騰についても、年金基金など、機関投資家が、2500億ドルも流入しているようです。しかし、この解説記事は、政治的な論争に、関係者の証言、先物取引や投機の合理的根拠とその証拠などを示しています。
今も玉ねぎの先物取引を禁止する法律はありますが、2000年来、玉ねぎが420%も暴騰するのを防げませんでした。
The Guardian, Tuesday July 8, 2008
Kevin Gallagher
WP Tuesday, July 8, 2008
Protectionism That Endangers
By Rod Hunter (the Hudson Institute)
(コメント) 「自由貿易」によって投資や雇用は増えたのでしょうか? メキシコのNAFTAによる結果から、今回のコロンビアとのFTAをGallagherは批判します。
「外国投資は増えたものの、総投資はGDPの20%以下に減り、それは、NAFTA以後のメキシコ経済が一人当たりの評価ではほとんど成長していない理由になっている。最近では中国との競争が激しくなり、外国投資も減っている。さらに、外国投資は「飛び地経済」を作って、その国際部門は広くメキシコ経済との関係を持っていない。実際、外国投資はメキシコ企業を倒産させて、技術移転は限られている。」
輸出によって増えた雇用は10万人ほどで、毎年100万人近く増える労働慮いく人口に比べて小さすぎました。その結果、アメリカに向けて毎年約50万人が国境を超え、インフォーマル経済の劣悪な条件で働いています。同様のことはコロンビアのFTAについても予測され、さらに、メキシコの環境悪化のコストはGDPの10%と推定されます。アメリカとの環境規制を調和させることがないコロンビアではもっと悪いかもしれない、とGallagherは警告します。しかも、麻薬組織との戦いを支援する基金が削られます。
他方、Hunterの記事は、食糧危機の解決策として、WTO合意による市場統合や、貧しい農業国への支援を強調しています。
FT July 8 2008
Why obstacles to a deal on climate are mountainous
By Martin Wolf
(コメント) なぜ気候変動を防止する国際合意は難しいのか? 問題は、その対策が効果的で、効率的で、公平でなければならない、という点です。・・・市場を利用するにも、政治的な合意形成や強制力を利用するにも、環境問題でこの三つの条件を満たすことは実に困難です。
効果的に温暖化ガスを減らすためには、世界中で、大規模かつ短期間に削減しなければなりません。そして、2050年には、今の発展途上諸国に人口の90%が住むのです。彼らの排出量がもっとも重要であるのは当然です。また部門によっては、その影響が非常に深刻です。森林伐採や自動車産業は、根本的な転換を迫られます。
効率的であるためには、排出量削減の限界費用が、世界中どこでも、同じであることが必要です。しかし、炭素の排出にかかる費用、もしくは税金は、世界中でバラバラです。購買力平価でみたGDPあたりの炭素排出量は、中国がアメリカの2倍、日本の3倍に達しています。世界が同じ最高の環境技術を実現することは可能なはずですが、国、産業、企業によって、その削減費用は莫大です。
ここで、その負担が公平でなければならない、という問題を解くのが、一層難しいわけです。Wolfは三つの基本的な考え方を指摘します。削減費用は、1.現在の温暖化ガスを排出してきた者、2.一人当たり排出量が多い者、3.それによる便益を享受している者、が支払うべきである、と。そして1を採用する場合、裕福な諸国が支払うべきだし、2の場合、アメリカの一人当たり排出量は、中国の5倍、インドの17倍です。
途上国にも排出量の削減を求める場合、その削減を達成できない国に罰則を決めるより、達成できた国に支払う方が望ましいでしょう。それが個別のプロジェクトごとに実施されている現在のメカニズム“clean development mechanism”です。Wolfはこれを評価しつつも、その測定や検証・事後チェックの限界、を強調し、スターンのように産業ごとや国ごとに適用する政策を否定します。
他方、G8が先行して実現するとか、75-90%削減する、という考えも否定します。これは人類史上もっとも複雑な集合行為問題であり、挑戦に値するし、また避けることのできない問題なのです。
Wolfが推奨した環境問題の分析と資料は、ハーヴァード大学のMartin Weitzmanと、イギリス政府に調査報告を出したLSEのNicholas Sternによる以下のものです。
On Modeling and Interpreting the Economics of Catastrophic Climate Change,
www.economics.harvard.edu/faculty/weitzman
Key Elements of a Global Deal on Climate Change,
www.lse.ac.uk/collections/granthamInstitute
IHT Tuesday, July 8, 2008
By Minxin Pei
(コメント) 中国では毎年、数千、数万の大衆抗議や暴動が起きています。しかし6月28日、貴州の貧しい地方Weng'anで起きた農民反乱は、北京政府を震撼させただろう、とPeiは主張しています。
北京オリンピック開幕まで40日を切り、中国の繁栄と安定を世界に示す重要な時期に、この暴動は共産党本部や警察署に放火し、多くの建物を破壊しました。その映像が即座にYouTubeへ流出しています。共産党や警察署の幹部による腐敗、捜査への不信は、この事件に限らず、関連する抗議や暴動が中国全土に蔓延しているようです。
権力者の腐敗と社会的な不正義は、暴動の構造的原因です。たとえこうした暴動を短期間に鎮圧できるとしても、政府は民衆の不満に注意して、その教訓を学ぶべきだ、とPeiは考えます。すなわち、1.抗議に対する地方政府の無能さ。平和的な陳情に対する十分な対応を取っていない。2.自由な報道の欠如。民衆は政府の情報を信用せず、根拠のない噂が飛び交う。
それゆえ、政府は報道の自由を保障するべきなのです。その目を意識して、地方政府は責任ある行動や説明を必要とし、もっと高い能力を求められるでしょう。民衆は噂に振り回されず、政府への信頼を固めるのです。
中国でも、社会暴動の頻発と国際的な非難に代えて、有能な政府と報道の自由を尊重することです。
NYT July 9, 2008
About Those Loans
(コメント) 2006年に成立した住宅抵当融資、3兆ドルの、20%がサブプライムであり、さらに15%はその次に低いランクの融資です。その多くが次々にデフォルトになる中で、金融危機と不況の悪循環が始まることを多くの関係者が懸念しています。
金融危機を抑えるために、ウォール街の救済に応じたバーナンキは、次には住宅保有者の要求に応じなければならない、と考えているのかもしれません。あるいは、サブプライム・ローンや様々な金融商品の販売に見られた悪質な行為を取り締まるルールも、連銀や議会が検討しています。
FT July 9 2008
The Fed and investment banks
By Peter Wallison
(コメント) 連銀と証券取引委員会(SEC)との合意による投資銀行の監督に関するルールは、金融危機に対する連銀の権力を高めます。しかし、明白なモラル・ハザードの危険がある、と警告しています。投資銀行は危険な高収益を実現しつつ、危機を起きそうな場合には連銀が税金で救済してくれるからです。革新的な金融商品の売買にまで連銀が関わり、金融システムの危機や商業銀行の決済網を破壊することは少ないであろう投資銀行を救済する理由はない、と考えます。
FT July 9, 2008
Welcome to a world with $500 oil
Willem Buiter
FT July 10 2008
The next big project for the EU is energy
By Michaele Schreyer and Ralf Fuecks
(コメント) 石油価格が上昇し、1バレルが200ドル? ・・・250ドル? ・・・500ドル! という予測もあります。元財務長官のロバート・ルービンは、アメリカにとって今の石油価格(146ドル)は破滅的な水準であり、1バレル100ドルでさえ持続不可能だ、と述べたことに対して、Buiterは、現状認識が甘すぎる、と酷評しています。
実際、1バレル500ドルは世界の破滅でしょうか? Buiterは、安価な石油に依存して生活するアメリカでも、その実質所得を10〜11%下げるだけで、3-4年の成長によって回復できるだろう、と考えます。ヨーロッパはもっと石油を高価格で消費しており、地理的にも集中して活動しているため、影響は軽微です。1バレル500ドルの世界が出現しても、人々は公共輸送に代えて、集まって居住し、冷房や暖房を控え、その他、裕福な世界は新しい社会への転換を制御できます。逆に、本当に貧しい国の転換こそが問題です。援助だけでは解決できません。
だからこそ、地球温暖化や石油・食糧価格の高騰を、むしろ社会的・政治的な危機として、国際秩序の再編成を展望する論説も登場するわけです。再びヨーロッパの政治家たちは制度による協調を試みるでしょう。すなわち、European Community for Renewable Energy (ERENE)によってEUの求心力を回復し、国際的な指導力を高める機会を探るのです。
The Japan Times: Thursday, July 10, 2008
Confucianism makes a comeback in China
By DANIEL A. BELL
(コメント) 社会変化の衝撃に対する調整力とは、アジアにとって、儒教的精神なのでしょうか? 中国で起きつつある共産主義イデオロギーの衰退は、もっと大きな伝統的イデオロギーによって権威を再建すること、そして、エリートたちが転換する社会秩序に吸収されること、を求めているようです。
しかし、とBELLは考えます。儒教は漢の時代から支配者に利用されてきましたが、その重要な要素に律法主義(法の偏重)がある、と。それは保守的であり、急激に変化する現代には耐えられないかもしれません。しかしさらに、とBELLは指摘します。左派の唯物的な儒教がある、と。儒教というイデオロギーの中で、中国は新しい制度改革の闘争(そして民主化)を制御できるかもしれません。
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The Economist July 4th 2008
Zimbabwe: How to get him out
The United Nations and Zimbabwe: Crimes against humanity
Israel and Iran: It’s later than you think
Australia’s foreign policy: G’day Asia
(コメント) 安全保障、という視点で分けてみました。ジンバブエ、イスラエル、イラン。日本は資源や石油を介して関係するだけで、安全保障に関与していません。今のところ。しかし、間接的には中国と争奪戦を繰り広げ、北朝鮮との交渉にも影響します。
オーストラリアのラッド首相が述べた、アジアにおけるアメリカ、中国、日本、インド、インドネシアを含む安全保障共同体の構想が動き始めるものかどうか。
The Economist July 4th 2008
Inflation: The importance of being in earnest
Migration: A turning tide?
Infrastructure: The cracks are showing
El Paso: Living together
Education reform: Top of the class
Capital Inflows to China: Hot and bothered
(コメント) インフレ、移民、社会インフラ、教育、そして、資本移動。安全保障が確立されるのを待たずに、相互の影響力は様々な形で統合化や協力、対抗を生じており、当然、各社会の対応に反映されています。