IPEの果樹園2008

今週のReview

6/23-6/28

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

国際的クラブへの参加資格、 4つの自由」宣言、 アメリカ連銀とECB1,、 アイルランド国民投票、 バブルを放置するべきか、 国際収支不均衡と政策協調、 1968年の学生革命、 世界インフレ、 住宅価格の下落対策

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


YaleGlobal, 12 June 2008

Rid of Violence, a Reforming Bosnia Emerges as a Model

Humphrey Hawksley

(コメント) なぜ同じようにNATOや米軍の軍事介入を経ながら、EUの統治したボスニアは平和になり、アメリカが占領したイラクは混乱が続くのか? EU統合とブッシュの中東民主化構想との違いは何か?

ボスニアの成功は、二重の挑戦に直面した西側の民主主義に勇気を与えます。一つは、イラクの失敗。もう一つは、ロシアや中国のような専制体制の成功です。

ユーゴスラビアの分裂と1992-95年の内戦では、セルビア、クロアチア、ムスリム社会がイラクと同じような激しいエスニック間の暴力と殺りくを繰り返しました。当初、EUの介入は効果がなく、19957月、スレブレニカの村では、約8000名のイスラム教徒が殺害されています。

Hawksleyは、この虐殺をピークに、アメリカ政府が軍事介入の意思を示し、12月にはヨーロッパではなく、アメリカ、オハイオ州のデイトンで、軍事的かつ政治的な枠組みを含む和平が合意されました。二つの政治体制、異なる地区や居住区によって、5人の大統領、4人の副大統領、数百人の政治家、そして14の政府が異なる税率や警察、法律を決めた・・・! と書いてあります。

わずか四百万人に対する平和を維持したとはいえ、有効な統一政府を樹立するものではありません。しかし、次の段階としてEUに参加する条件があり、その中に、道路標識から汚職追放の法律、徴税、人種差別の禁止まで、さまざまな要求を和平から25年かけて彼らは受け入れます。その過程を監視するのは、国際的に指名された上級代表部であり、彼らはボスニア内の大臣を罷免できるし、軍隊にも命令するほど絶大な権限を持っています。

互いに民族的・エスニック的な主権を求めて闘った彼らが、今では互いの主権を放棄させる上級代表部を求めています。平和を維持するため、このままEUが統治することを望むのです。主権と国際的介入とのバランスは、安全保障と高度に信頼できる将来の社会を築くことが重視される程度によって決まる、とHawksleyは考えます。ボスニアでも、イラクでも、ジンバブエでも。

自分が前進するためには、他者が後退するのではなく、常に、社会が全体として前進できるような標識を示すことが重要です。それこそが、ボスニア=ヘルツェゴビナとしてのEU加盟、という目標でした。

Hawksleyは、ASEANやAPECはEUのような目標を示していない、と考えます。むしろ、WTO加盟がそれに似ています。WTOに加盟するために、中国やベトナムは改革を加速しました。ユーロに通貨をペッグしたアフリカ諸国が国内の市場改革を進め、ASEANもミャンマーの民主化を求めるなら、同じような意味をもつでしょう。

人々は世界の供給連鎖に参加するため、部族主義や暴力を抑えて、国際社会のクラブに参加し、認められなければなりません。国家の主権を得ることよりも、それこそがますます重要になるのです。ボスニアの成功は、イラクにも、また、ロシアや中国の人民にも、将来のモデルを示すでしょう。


BG June 12, 2008

A question of presidential leadership

By David Gergen and Andy Zelleke

NYT June 13, 2008

Obama, Liberalism and the Challenge of Reform

By DAVID BROOKS

LAT June 15, 2008

A Perot moment

(コメント) アメリカ大統領に求められるものとは、何にもまして、「指導力」です。しかし、有権者は候補者の指導力をどうやって判断すればよいのでしょうか? この大統領の「就職面接」において必要な質問項目を、David Gergen and Andy Zellekeは選挙に向けて、さまざまな分野の専門家が協力して準備している、と言います。

オバマは本当にアメリカ政治を変える候補なのか? それとも、従来の民主党候補が新しいレトリックを使っているだけか? とDAVID BROOKSは考えます。オバマのスピーチは斬新ですが、その政策公約は従来の民主党候補と変わりません。

そこで注目するのは教育政策です。オバマは、民主党内で教育政策について対立するグループに、いずれも甘い言葉で改革を唱えながら、厳しい選択を示しません。その点で、大きな変化にともなう政治的コストを担う気がない、という不信感を記事は示しています。

候補者が有権者の歓心を買うことにばかり熱心で、難しい選択についてあいまいな態度を示せば、1992年にロス・ペローがやったように、独立の候補が単一の論点を掲げて選挙戦に登場し、大きな影響を及ぼすかもしれません。当時も、景気は悪化し、財政赤字と債務負担が増大しつつありました。今では、たとえば、社会保障費の問題です。

LAT June 15, 2008

America isn't over

By Ted Widmer

(コメント) Widmerは嘆きます。本屋に行けば、BRICsに関する本が多くの棚を占拠し、他方、アメリカに関しては外交の失敗を論じるものばかりだ、と。

ブッシュ大統領が自分の政策失敗によってアメリカの「自由」に対する国際的責務をすっかり汚してしまいました。それにも関わらず、否、それゆえに、新しい大統領はアメリカの負った「自由」に対する国際的使命を再生しなければならない、と主張します。

そのことをよく理解した民主党は、その最も成功した外交政策、すなわち、フランクリン・ルーズベルトの「4つの自由」宣言に注目するべきです。彼が中心となって,ウィルソンの理想主義と、セオドア・ルーズベルトの現実主義を継承した、第二次世界大戦後の秩序を築きました。たとえ新興勢力が国際政治で発言力を増すとしても、世界の人民に自由を呼びかけ、さらに、彼らのために軍隊を送って血を流す覚悟を示す国が、他にあるでしょうか? ヨーロッパは理想が高くても軍事力を軽視しており、国際介入を担えません。他方、中国やロシアがそのような理想を掲げるとは思えません。

アメリカの外交政策が大きな影響を及ぼしたのは、それが伝統的に示してきた理想主義と現実主義の結合によるものです。アメリカ独立革命は、同時に、世界の人民を解放する世界革命の一部でした。病気に苦しみ、文字を読めず、生きるために機会を与えられない社会に閉じ込められた世界中の人民が、アメリカのその理想に共感するでしょう。

新しい大統領は、まず、この伝統を回復するのです。


June 13 (Bloomberg)

Fed, ECB Risk 1987 Rerun With Policy Drift

Michael R. Sesit

June 13 (Bloomberg)

BOJ Is Fake Hawk in Inflation Fight of Fed, ECB

William Pesek

(コメント) アメリカの中央銀行はドル安を心配し、ヨーロッパの中央銀行はインフレを心配します。最悪のケースは、1987年のように、両者の政策が対立することを不安視した市場が、過剰に反応することでしょう。アメリカの株価は暴落し、短期金利が急上昇します。しかし、当初、それは1985922日のプラザ・ホテルによる合意を受けた調整過程でした。

非ドル通貨の増価を求めた声明は、その後のドル安を促し、1987年にはルーブル合意で(アメリカの赤字を減らすためにドル安を促す)調整の成功を認めたわけです。ところが、ドイツはインフレが心配でした。アメリカはドル安を止めようとしましたが、ドイツの金利引き上げで、合意の破たんが心配され、ニューヨークの株価が暴落します。

バーナンキとトリシェの声明は、その対立を再現しています。ドル高を誘導するためにECBが政策を変更することはないのです。「世界金融政策をうんぬんするより、インフレ目標という、単純なルールに従う方が正しい。」

インフレに対する姿勢で、バーナンキはトリシェに遅れていると見られます。それはバーナンキのインフレ抑制姿勢が示す信頼感を弱めます。同時に、このような条件で、アメリカが単独に外国為替市場でドル買い介入を行うことも難しくなります。

他方、長くゼロ金利政策を続けた日本の中央銀行も、インフレを心配しなければならない状況になりました。しかし、その転換には別の問題があります。インフレの原因は日本の外にあり、政策によって変えられません(円高にするのが嫌であれば)。

日本経済は、アメリカ経済の減速によって不況になる心配があります。インフレよりもデフレが再生する、あるいはスタグフレーションが問題です。また、日本政府は莫大な国債を累積しています。金利の上昇は財政赤字を悪化させます。


Sebastian Borger Why Europe Should Listen to Ireland SPIEGEL ONLINE 06/13/2008

Tony Barber Irish voters reject EU treaty FT June 13 2008

Time to put the EU treaty on ice FT June 13 2008

John Thornhill Irish ‘No’ leads to yet another European psychodrama FT June 13 2008

Getting their Irish up BG June 14, 2008

(コメント) アイルランドがリスボン条約を国民投票で否決した、ということに、メルケルやサルコジなど、EUの主要政治家は憤慨し、アイルランドの主要政党も落胆しています。FTにおいてJohn Thornhillが要約したように、EU憲法条約のときから、EUの統合を深化、拡大することにともなう制度改革には、さまざまな批判や不満が強まっていました。

2005年にオランダやフランスが憲法条約を否決したとき、反対派はEUがまだ十分に社会制度を融合し、構築していない、と主張しました。他方、イギリスの反対派は、EUが市場統合以上に社会統合や政治統合を求めすぎることに不満でした。大西洋から黒海まで市場統合することに意味はあるけれど、EU規模で投票したり、外交政策を統一することには意味がない、と感じたのです。

これは、ある意味で、EU諸国民とEU市民の心理戦争かもしれません。しかし、論説が指摘するように、市場が機能するには、政治的に合意された規制や制度が必要です。市場統合が成功するためには、強い政府が必要であって、分裂し混乱した政府など、誰にとっても問題を増やすだけです。

200万人の有権者なら小さすぎるのか、5億人なら大きすぎるのか、誰にもわかりません。しかし、同じ制度で27カ国のEUは機能しない、と懸念されます。他方、アイルランドが急速に成長できたのはEUの一部であったからです。「政治の妥協は、華麗でなくとも、必要だ。」

Will Hutton Europe must not be derailed by lies and disinformation The Observer, Sunday June 15 2008

Robert Kagan In Europe, a Slide Toward Irrelevance WP Sunday, June 15, 2008

Tony Barber Europe’s rocky road: An Irish rebuke leaves leaders bereft of answers FT June 15 2008

Wolfgang Münchau Europe’s hardball plan B for the Lisbon treaty FT June 15 2008

(コメント) Will Huttonは、アイルランドの否決に示されたユーロ懐疑派の隆盛を、ユーロ=ジャガーノートに反対する小市民たちの勝利、と呼びます。彼らは官僚制と民主主義を対比し、ブラッセルの権力エリートを、自分たちの矛盾した、好かれてもいない改革案で非難します。

反対派のキャンペーンは、徹頭徹尾、嘘と間違った情報をまき散らすものだった、とHutton断言します。アイルランドはすでに交渉によって条約に様々な特例を認めさせたのです。また、条約はEUからの離脱についても明確に述べてあるのです。この投票は、かつてヒトラーやムッソリーニが好んだように、デマや恐怖をあおる手法によって、国民の意思が歪められた例です。そして、ユーロを嫌い、EUを非難するイギリス保守党が政権を執ることに警告します。

他方、アメリカのRobert Kaganに言わせれば、それが理想ではなくEUの現実です。EUはまた躓いた。21世紀の世界を引っ張るどころか、21世紀に入るところでやっぱりこけた、と。将来にはEU崩壊の暗雲が膨らみ始めています。ドイツの輸出は伸びても、ヨーロッパ各地はアウトソーシングの不安に怯え、ユーロ高で買い物を楽しむのは上辺だけです。エネルギーはロシアに過度に依存しており、移民問題やイスラム教徒との文化摩擦で政治は消耗しています。

何よりも、EUには共通の利益を実現するリーダーシップが存在しません。内においても、外においても、EUの誰一人、ロシアのプーチンや中国の胡錦濤ほど国際政治で発言できないでしょう。アイルランドの否決が示したように、イギリスも含めて、分裂したヨーロッパは力を失い、国際政治の圏外に沈むのです。

ヨーロッパの政界だけでなく、ビジネス界も、この否決に失望しています。結局、ヨーロッパ企業の投資先としては、アイルランドより東欧諸国が注目を集めるようになるでしょう。有権者が繰り返し国民投票で否決するのは、人々が統合に反対しているからというより、EU諸機関に距離を感じているからだ、とTony Barberは考えます。

アイルランドはEU統合の顕著な成功例であっただけに、否決は、アイルランド自身がEU内で孤立し、あるいは歴史を逆転させるような、暗黒時代の復活を思わせた、とWolfgang Münchauは書きます。将来、歴史を振り返ってみれば、これはアイルランド国民自身がその繁栄を手放した、重大な事件となるでしょう。

Gideon Rachman Ireland’s bold blow for democracy FT June 16 2008

Philip Stephens Stop talking about Lisbon and get to work FT June 16 2008

Anne Applebaum Pity the Poor Eurocrats WP Tuesday, June 17, 2008

DAVID HOWELL What's Europe's next move? The Japan Times: Thursday, June 19, 2008

(コメント) 選挙結果に動揺するよりも、EUはこれまで構築してきた制度を継承しなければならない、とPhilip Stephensは主張します。EUは憲法条約を成立させることができず、その後の調整によって、ようやくリスボン条約による制度改革を果たすはずでした。その間、アメリカは中国と交渉して、新しい大統領になれば一気に国際秩序を築くつもりでしょう。もしリスボン条約が成立しなければ、EUと中国が多極化世界の基準を示すという機会を失うことになります。

Anne Applebaumも、またやった、と感じています。欧州委員会は重要な条約を何度も否決されてきました。ユーロも、EU憲法条約も、危機を経過してきたのです。アイルランドが反対したのは、移民政策かもしれません。外交政策かもしれません。あるいは、EU予算かもしれません。しかし、ゴルウェイの町で反対投票した夫人は頑固に答えました。自分の息子がEUの軍隊に取られるかもしれないからだ、と。しかし、もちろん、リスボン条約には軍の創設など書いていません。

有権者はリスボン条約の中身を知らず、何も理解しないまま、自分たちの不満を表すために投票を利用しました。たとえば、ロンドンへの直行便が少ない、という不満です。主要政党のすべてが、ビジネス界が、さらにアイルランド教会も、リスボン条約を支持していました。しかし、そのスローガンは抽象的で、有権者に無視されました。

EU市民は、今も、自分たちの国の制度に親しみを感じ、それがEUの制度であるとは考えていません。国民投票は容易に、噂や異常な雰囲気に流され、偏った結果を示します。

他方、DAVID HOWELLは、国民投票を独裁者の道具のように語ることをしません。政府は国民により大きな説明責任を求められており、エリートたちが国民のために最善の選択をするだけでは支持されません。インターネットによって正しい情報の普及も容易になりました。EUの諸制度が、もっと民主的な意思決定の過程を学ぶべきなのです。

The International Herald Tribune, 19 June 2008

The EU in an Irish Bog

Roger Cohen

(コメント) かつて、ウィンストン・チャーチルが有権者と話し始めて5分で、民主主義の問題点を理解した、と言います。彼らは大挙して自分たちの不満を述べ、社会の長期的利益を考えた政治家や政策を投げ出してしまう、と。

27カ国の加盟諸国が合意を形成し、中国やアメリカとも交渉できるような統一性を与えるために、この条約は作られました。重要なことは、アイルランド以上にEU統合から利益を得てきた国はない、と思えることです。植民地や内戦の国から、EUを代表する改革によって、直接投資と市場自由化、高い成長率を実現してきました。そのアイルランドでも、さまざまな不安や問題に対処するため、リスボン条約をもっと有利にしたいと考えます。

アイルランドが否決するのであれば、EUは理想を見失うでしょう。フランスがトルコの加盟について国民投票を計画します。トルコのEU加盟は、第二次世界大戦後の秩序や宗教対立による分断を克服するために重要です。EUは27カ国よりも12カ国の方が運営しやすかったでしょう。しかし、ベルリンの壁崩壊がもたらす混乱を吸収することは、同様に、重要でした。

分裂したEU、トルコを排除したEUは、政治的により扱いやすいとしても、アイルランドがEU加盟以前の状態に戻るように、その能力を急速に失うわけです。

FT June 18 2008

What dream will Europe dream now?

By Charles Wyplosz

(コメント) ヨーロッパのマクロ経済学を専門とし、国際通貨制度の改革にも第一級の知見をもつWyploszの論説には、いつも何か感銘を受けます。

アイルランドの否決を民主主義の欠陥と結びつけて考えることは間違いだ、とWyploszは主張します。

EU統合は、その政治的な正当性を持たない機関によって実現された点で、フランスやオランダ、アイルランドの国民が示すように、加盟国によって選挙で否決される恐れが潜伏していた、とWyploszは指摘します。それはローマ条約による創設以来、始祖たちが答えを示さなかった問題です。なぜなら、この問題に答えようとすれば、各国の国民が主権を譲渡し、連邦制に向かうことに賛成しなければならないからです。EUはこの“great ambiguity”を前提に、事実として統合化を推進したのです。

解決のためには、リスボン条約が示すようなEU大統領を決める選挙を行い、ヨーロッパ市民に共通の公的議論を喚起し、ヨーロッパ横断的な政党を組織しなければなりません。しかも反連邦主義者に配慮して、矛盾した妥協であれ、リスボン条約は選出された大統領を拒否する権限を、各国の指導者に認めている、というわけです。

EU統合は先行する世代の夢でした。それは大いに実現しました。しかし、それが実現するにつれて、新しい世代は制度の正当性を繰り返し、否決、したのです。この新しい時代を生き残るには、EUが変わるしかないのです。

The Guardian, Thursday June 19, 2008

Instead of bullying the Irish, Europe should be working on plan D - and E

Timothy Garton Ash

(コメント) Ashも、EUの指導者たちがアイルランド国民を威嚇する発言に反対します。たとえば、ドイツの外相は、哀れなアイルランド国民が頭を冷やして出直してくるべきだ、さもないとここから蹴り出すぞ、と発言したのです。あるいは、EU内を分割して、独仏の指導による「コア・ヨーロッパ」を形成する、と。

小国が拒否権を与えられるケースもあるでしょう。しかし、これは違います。EU内部の意思決定と、外交政策の統一を示したリスボン条約は、各国が支持しなければ成立しません。個々の国が交渉して条件を争うのではなく、各地の選挙で選ばれたEU議会が決めるべきことでした。

それでも、アイルランドの否決と、フランスの否決に対する、指導者たちの反応に見られる差異は重大です。大国が否決すれば条約を作りなおし、小国は否決しても無視するか、追い出される、というのでは、EUは大国間政治だけが支配するわけです。

欧州委員会の委員長を輪番で務めることは、27カ国に増えた中で、特に小国を外すという方向に向かいます。この点で、アイルランドの不安は他の小国と共通します。Ashは、リスボン条約の見直しはできないが、これまでの交渉が示すように、早期の改定を約束できる、と考えます。

FT June 19 2008

Why the Irish were right to say No

By Samuel Brittan

(コメント) Brittanは、否決されたのはヨーロッパやEUではなく、その一つのモデルである、と考えます。EUは、各国の権限をブラッセルに集中し、独仏による「社会的市場モデル」、あるいは、「コーポラティズム」の拡大を目指してきた、と指摘します。その考え方が否定されたわけです。

コーポラティズムは、市場でも、民主主義ではない、とBrittanは考えます。コーポラティズムは、組織された代表しか招かれず、零細企業や失業者の利益を無視・軽視するでしょう。新しいEU政府には、アイルランドの代表も、イギリスの代表も、招かれない、と警告します。


WP Friday, June 13, 2008

Make the Election About Iraq

By Charles Krauthammer

BG June 15, 2008

Iraq, the sovereign colony?

(コメント) 民主党から見ればイラクはアメリカ軍の占領地であり、植民地に近いけれど、共和党から見ればイラクは独立国であり、独自に反政府軍を掃討し、民主主義を実現する。イラクからの撤退と真の独立を優先するか、アメリカの勝利と中東政策を追求するか? 選挙によって国民に問うべきは何でしょうか。


NYT June 13, 2008

Bad Cow Disease

By PAUL KRUGMAN

(コメント) アメリカ人は殺人トマトに逃げ惑い、韓国政府は狂牛病で崩壊した。2008年を描いた政治ホラー小説です。安全保障と同じく、食品の安全を保証するのも政府の重要な役割です。保護貿易だけでなく、食品衛生局に対して、保守派や自由市場派が繰り返して示したイデオロギー攻撃を紹介しています。

自主検査と市場による賞罰だけでは、安全を守れなかったのです。アメリカ政府は、かつて日本向け牛肉輸出のために全頭検査を求めた業者の訴えは退けられました。輸入を再開した韓国政府は、国民の抗議活動に権力を失いつつあります。


Asia Times Online, Jun 14, 2008

Gaza: Mogadishu or Dubai?

By Pepe Escobar

Asia Times Online, Jun 20, 2008

Why Iraq won't be South Korea

By Pepe Escobar

(コメント) ガザ地区は巨大な強制収容所です。しかし、それはモガジシオか、それともドバイか? イラクは21世紀の韓国になれるのか?

アメリカのナショナリズムと帝国主義は、イスラム圏に対する人種差別主義をともなっている、とEscobarは批判します。

イスラエルやアメリカが繰り返し侵攻し、占領したガザ地区やイラクは、民主主義と経済的繁栄を理由に非難されました。しかし、誰が誰を非難できるのか? アメリカの大統領でも国民の4分の1以上の支持を得たことはないのです。他方、ハマスは住民の43%、118議席のうちの75議席を占めています。

それどころか、ガザ地区の封鎖やイスラエル入植地の拡大は、大イスラエル構想とアメリカによるイラン攻撃とを結びつけた全体計画の一部なのだ、とEscobarは主張します。それは9・11テロ攻撃を「ニュー・パール・ハーバー(真珠湾攻撃)」と呼び、「新しいアメリカの世紀」を築くために中東の占領・再編を唱えたネオコンの理想です。これが彼らの「新しい冷戦」、「新しい朝鮮戦争」であり、イラクを21世紀の韓国にする、と豪語しました。

アメリカ政府はユーラシアにおける戦略上の優位を確立し、石油だけでなく、無限の資本蓄積を目指して、イスラエルと一緒に占領地域の拡大を進めている。アメリカのマルクス主義地理学者、デイヴィッド・ハーヴェイもこのように批判しました。


NYT June 15, 2008

Two Bubbles, Two Paths

By ALAN S. BLINDER

(コメント) グリーンスパン=バーナンキ風の、バブル放置と、バブル破裂後の処理に取り組む考え方は、三つの批判を受けています。1.バブルを自然破裂させることは、サブプライム・ローンのように、大きな被害を招く。2.バブル破裂後に不況回避を繰り返すことは、次のバブルを準備し、大きくする。3.そのような非対称的な介入は、金融政策をインフレ加速に偏らせてしまう。

そこで、BLINDERはバブルを二つに分けて、巧みな解答を示します。

すなわち、住宅価格の高騰のように、銀行の不責任な貸出によって膨張したバブルと、ITバブルのように、その他のバブルとを区別することです。銀行融資に関する監督・規制において連銀は優位を持っているから、前者においてはバブルを早期に潰すことが望ましいでしょう。しかし、それ以外のバブルは、その判断に優位を持ちません。

ただし、銀行融資の膨張を抑える場合でも、単に、金融を引き締めてバブル以外の分野にも不況を強いることは好ましくない、とBlinderは考えます。


Victor D. Cha In China, the game has changed LAT June 15, 2008

Wang Qishan China-US energy efforts would be win-win FT June 15 2008

KEITH BRADSHER Labor Costs Rise, and Manufacturers Look Beyond China NYT June 18, 2008

STEVEN R. WEISMAN Paulson Sees Progress in U.S.-China Ties NYT June 18, 2008

William Pesek China Debunks `Domino Theory' in World Markets June 20 (Bloomberg)

(コメント) オリンピックこそは、中国社会や政治を開放し、改革する重要な圧力であり、民主化や国際交流の機会となるでしょう。中国政府はそう考えていなかったでしょうが、オリンピックの成功に向けて、ダルフールやミャンマーに対する政策は修正されたし、四川大地震の被災者を見舞う胡錦濤主席の報道にも、すでに変化が感じられる、とVictor D. Chaは指摘します。

エネルギー供給(Wang Qishanは中国政府の副首相)でも、工場移転でも、米中経済政策協議(“strategic economic dialogue”)(Paulsonはアメリカ政府財務長官)でも、アジア諸国の為替レート調整でも、中国は重要な役割を果たしています。北京オリンピックは、その今後の協調姿勢を問われています。

Pesekは、インフレ抑制のためには「強いドル」を望み、景気刺激のためには「ドル安」を歓迎する、ポールソンのドル政策を、「二枚舌」、と呼びます。

為替レートだけでなく、石油でも、食糧でも、価格安定化と備蓄の重要性が再現しつつあります。しかし、外貨準備がそうであるように、準備の管理には正しい基準と適切な介入方針を示すことが重要です。


The Guardian, Sunday June 15 2008

Scarcity in an age of plenty

Joseph Stiglitz

(コメント) ブッシュ政権は巨額の減税によって富裕層を優遇し、豊かな者が増えることで雇用も改善するのだ、と主張しました。社会の富を分配する方法は、社会が富を生産する方法と不可分です。

この新しい消費と投資のパターンを変えるために、Stiglitzは投機的な利益に課税し、石油会社の利潤にも課税することを主張します。世界がその富や知識、勤労のますます多くの部分を、投機や石油の採掘・販売に充てている姿は、決して望ましいものではないからです。

欧米が行う農産物への補助金が貧しい諸国の農業を放棄させている現実を変えるだけでなく、将来の人類の方向を過たないように。


FT June 15 2008

The Fed, the dollar and wider price concerns

David Hale

(コメント) バーナンキは、アメリカが不況になる中でも国際商品価格の上昇が止まらないような世界で、ドル安を心配しなければならない最初の連銀総裁となりました。世界の消費はますます新興諸国、特に中国によってその傾向が決まるようになりました。

しかし、サブプライム・ローン危機と住宅価格の下落で、アメリカの銀行が被る損失は大きく、まだ当分、金融システムの危機を回避するため金融緩和を修正することができないようです。バーナンキの悩みは続きます。

FT June 19 2008

The conundrum of financial stability

(コメント) 中央銀行の金融政策について、かつて、マクロ経済管理・政策の研究とは切り離すべきだと言われたそうですが、今では、中央銀行が新しい理解を模索しています。

金融危機の回避とインフレ目標とは、別々のことであるけれど、結びついています。ますます金融政策は銀行より市場を介して行われているし、金融市場は国際化して中央銀行の管理能力を奪ってしまいます。FRBもイングランド銀行も、ますます政府から独立した強い権限を与えられるでしょう。金融安定化や金融政策決定に豊富な経験と新しい理論を吸収した委員を加えて、中央銀行自身が大いに学ぶ必要がある、とFTは主張します。


The Japan Times: Sunday, June 15, 2008

Dose of humility overcomes a world of hurt

By TOM PLATE

(コメント) 深刻な経済対立や政治対立の場面で、真摯な謙虚さが事態を改善する条件となるかもしれません。1500年前に、聖アウグスチヌスは、謙虚さがすべての美徳の基礎にある、と述べました。政治の基礎にも言えることです。

LAT June 16, 2008

Candy bombing for 2008

(コメント) アメリカ軍がベルリンにチョコレート・バーの雨を降らせたのは60年前のことです。アメリカの新しい大統領が示す援助政策として、チョコレート・バーではない、何が必要でしょうか?

たとえば、1.援助の受け手から意見を聴く。2.子供を中心にした援助をする。3.現金をばらまかない。4.高価で、かさの高い肥料は減らす。・・・


FT June 16 2008

How best to manage global imbalances

By Mohamed El-Erian

(コメント) 国際収支の不均衡には、テキスト風に見て、赤字の融資(国際流動性の供給)、為替レートによる調整、赤字国のデフレ政策(そして、できれば黒字国のインフレ政策)、それでもだめなら、一時的な直接統制が主張されます。

そして、今、世界が必要としている政策ミックスとは、1.アメリカが内需を抑制して、輸入を減らし、輸出を増やす、2.アジアと中東が消費を増やす、特に中国の為替レートは弾力化して増価を許す、3.ヨーロッパは構造調整を進めて潜在的な成長力を高める、ということです。これらはすでに長く求められてきました。

つまり、不均衡を解消する政策を提唱することではなく、それを実行することが難しいのです。その理由は政策協調の実行が互いに信用できないこと、すなわち、「囚人のジレンマ」にあります。G7であれ、IMFであれ、政策の協調を求めるだけの意思決定を代表しておらず、強制的な措置を取る権限がありません。つまり、彼らの呼びかけがあっても、各国政府がそれを実行する保証は何もないのです。

このような条件で自国が協調政策を実行すれば、そのコストをともなうだけで成果は得られません。結局、誰も実行しないまま、世界の不均衡は拡大し、例えば石油や食糧が示しているように、価格変化を通じて大幅な調整を強いられるかもしれません。この調整は、さらに賃金や物価の変化をもたらし、それが第二次、第三次の調整を必要とします。

協調を欠いたまま、欧米諸国の融資に偏った政策は、新興市場においてインフレを加速しています。アジアや中東の黒字諸国が為替レートの調整を回避すれば、また、ヨーロッパが賃金の抑制に失敗すれば、調整過程はさらに長引きます。

El-Erianの結論は明確です。緊密に結合した世界経済で、各国の政策協調を促す具体的なメカニズムを欠いたままでは、成長力を高め、インフレを抑制することはできない、ということです。各国政府は調整コストの二次、三次の波及についても関心を払い、民間部門は不均衡がもたらす将来のリスク管理に責任を果たすことです。彼らが互いに勝手な行動を取れば、その結果として、世界の厚生水準は大きく損なわれるときが来るでしょう。


SPIEGEL ONLINE 06/16/2008

How Islam Came to Germany

By Ursula Spuler-Stegemann

(コメント) 記事は、ドイツにおいてイスラム教徒のコミュニティーが拡大した経緯を示しています。

それは8世紀にさかのぼれるそうですが、今のイスラム教徒はその多くが1950年代、60年代のゲスト・アルバイターとしてやってきました。あるいは、その親類や子孫です。しかし、その戦後経済に果たした役割だけでなく、すでにヘーゲルやゲーテにも大きな影響を与えたということです。今では、イスラム教徒の移民も含めたドイツ人という考え方が法律にも反映されつつあります。

The right to love LAT June 17, 2008

Marc D. Stern Will gay rights trample religious freedom? LAT June 17, 2008

Michael Tomasky Sex and November The Guardian, Tuesday June 17 2008

(コメント) 同性の結婚を認める、という裁判所の決定は、何を意味するのでしょうか? 単なる共同生活だけでなく、結婚式を認めることで、何が変わるのか? 伝統的な結婚の意味や神聖さが失われる?

こうしたカップルはコミュニティーに混乱や反感をもたらさずにいない。彼らの結びつきは法的な保護を受けられるだろう。結婚した両親として子供を育てられるし、住民が法的に認め合うことでコミュニティーは強められる。カリフォルニアの住民がますます多く結婚すれば、社会は弱くなるのではなく、強くなる。

たとえある種の宗教がそれを禁じていても、政府は法に従って市民を平等に扱わなければなりません。それはたとえば、1967年、最高裁が州によって人種間の結婚を禁止していた法律を憲法違反と判断したことに等しいのです。

he Guardian, Thursday June 19, 2008

A black prime minister?

Lola Adesioye

(コメント) イギリスには黒人の首相が登場するのでしょうか? 日本にも? イスラム教徒で、黒人の、同性結婚した女性、という日本の首相がサミットを主催する?


LAT June 17, 2008

From 1968 to eternity

By Todd Gitlin

(コメント) 世界が各地で発光し、共鳴し、何百万人もの人々が憤慨と連帯のために立ち上がった、そのような稀有の瞬間があったわけです。

1776年から1789年にかけて、アメリカやフランスを中心に、世界を支配する王室に向かって反乱が起きました。人々は自分たちにふさわしい政治体制・共和制を打ち立てたのです。また、1848年、ヨーロッパ各地の専制君主は民衆によって攻撃され、リベラルなナショナリストたちや民主派が権力を握りました。その影響はブラジルにまで及んだのです。

そして1968年、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、チェコ、ポーランド、メキシコで、学生たちは政府に抗議し、首都の路上を占拠しました。彼らはベトナム戦争に抗議し、黒人解放を叫び、ナチスに加担した年長者たちを糾弾し、改革派を弾圧したソ連を批判し、言論の自由を求め、ド・ゴール体制や旧式の教育制度を批判し、時には毛沢東主義を掲げて政治システムや大学を解体しようとし、労働者のストライキと連帯して、頑迷な保守派だけでなく共産党にも敵対して、メキシコでは一党独裁体制が非難されました。

さまざまな国際会議は、1968年の危機の遺産に基づいています。1968年の体制破壊者たちは、世界が失ったよりも多くを与えたし、現代のアイデンティティーを形成した、と評価されます。


SPIEGEL ONLINE 06/17/2008

Most Germans Think German Economy Is Unfair

NYT June 17, 2008

After 75 Years, the Working Poor Still Struggle for a Fair Wage

By ADAM COHEN

(コメント) ドイツでも、アメリカでも、今の社会が不平等で、不公正であると感じている人が増えています。日本だけではないのです。

市場経済への移行がもたらした多くの苦痛と不公正に対して、特に東ドイツ出身者には強い怨嗟の情が残っています。ある調査では、回答者の4分の3がドイツ経済を「不公正だ」と考えています。それは、ドイツ経済の成長が回復し、失業率が低下した時期であることと、一見、矛盾します。

ADAM COHENは、アメリカにおける最低賃金に関する歴史と論争を紹介しています。大恐慌からの回復を目指してF.ルーズベルトは1933年にNIRAを成立させ、労働者を支援します。後に、その法律は、ビジネス界を支持する最高裁判所で憲法違反として廃止されましたが、最低賃金と労働時間の制限は残ります。

ブッシュ政権の最低賃金法に対する攻撃にもかかわらず、民主党が多数を支配するようになった議会は、その引き上げを忌めました。今では、勤労所得控除制度が論争の中心になっています。


FT June 17 2008

How imbalances led to credit crunch and inflation

By Martin Wolf

YaleGlobal, 17 June 2008

Inflation Promises a Belt-Tightening Era

David Dapice

The Guardian, Wednesday June 18 2008

Rethinking that 1970s inflation show

Thomas Palley

(コメント) アメリカが景気を悪化させる中で生じた世界インフレーションについて、Wolfはその背景を考えます。それは、ブレトン・ウッズU、です。アメリカは国内の雇用を満たすために、貿易赤字に見合った国内の需要を確保しなければなりませんでした。それは、黒字国から流入する資本で低金利を維持した金融市場が、住宅投資を増やすことに代表されていました。

アメリカの金融政策をアジア・中東産油諸国は輸入しています。国内でインフレが起きているのに、アメリカの金融政策は住宅価格や銀行救済に関心を向けているため、金融緩和してドル安を招いています。インフレで貿易黒字を累積する諸国が同じ政策をとることは間違いであり、その巨額の外貨準備を外国に投資して世界インフレを加速する条件をなしています。

世界中央銀行があれば、金融危機を回避しつつ、同時に世界インフレに対して金融引き締めを行うはずです。しかし、世界金融に最も影響力を持つアメリカの中央銀行は、世界インフレと逆の政策に責任を持っています。ブレトン・ウッズUを解体し、変動レート制と各国にふさわしい金融政策を追求するべきだ、とWolfは主張します。

Dapiceは、国際的な調整政策が取られず、石油や食糧の価格が上昇して、調整を促すことは可能だろうが、それは裕福な諸国にとって容易でも、貧しい諸国、貧しい人々にとって非常に過酷な「調整過程」である、と指摘します。

1970年代のインフレの教訓を無視して、金融引き締めを急ごうとしないバーナンキの判断を、Thomas Palleyは支持します。なぜなら、当時のインフレ加速は物価と賃金上昇とのスパイラルがあったからであり、今日、そのような強力な労働組合は存在しません。


FT June 17 2008

Saudi Arabia should ditch its dollar peg

By Martin Feldstein

Project Syndicate, 17 June 2008

Oil Currency Hypocrisy

by Kenneth Rogoff

FT June 18 2008

Saudi Arabia faces an oil dilemma

(コメント) インフレを加速させる固定的なメカニズムとして、貿易黒字と為替レートを維持するためのドル・ペッグが批判されています。Martin Feldsteinは、サウジ・アラビアなどが、世界インフレを輸入するより、通貨の増価を許して石油価格の上昇と国内の過熱を切り離し、また、インドやパキスタンからの貧しい出稼ぎ労働者への支払いを増やしてやる方が良い、と主張します。彼らはドル安によって家族の受け取る送金が減ってしまい、しかも国内のインフレで実質賃金を削られています。それは各地の労働争議に火を付けます。

サウジ・アラビアの輸出は石油だけですから、増価によって競争力を失う心配はありません。問題は、外貨準備や海外投資の自国通貨による評価が減少することですが、彼らはそもそも自国の通貨で支出することを考えていないでしょう。主要通貨による分散投資に向かいます。

Kenneth Rogoffは、アメリカ政府が中国に対してだけでなく、中東産油諸国に対しても、為替レートを弾力化して増価を受け入れるように求めるべきだ、と主張します。そしてもっと内需中心の支出が促されるべきでしょう。


WSJ June 17, 2008

Smart Bomb Procurement

By ETHAN B. KAPSTEIN

(コメント) 「グローバリゼーションはペンタゴンにやってきた。」 主要な戦闘機や武器を同盟諸国の企業EADSと共同で生産することに、ブッシュ政権が同意したのです。それは、アメリカの安全保障に役立ち、生産コストを節約し、ヨーロッパやアジアにおける安全保障の同盟関係を強化するでしょう。軍事的同盟関係は、国境を越えた生産や企業の利益によって強化されるのです。


The Japan Times: Wednesday, June 18, 2008

Is the India and China hype true?

By BRAHMA CHELLANEY

LAT June 18, 2008

Who'll lead in Asia?

By Kim Holmes and Walter Lohman

The Guardian, Thursday June 19, 2008

China is back on familiar territory

Martin Jacques

(コメント) 将来、アジアの政治的な指導体制はどうなるでしょうか? アメリカの役割は後退し、日本はアメリカとだけ同盟関係を維持することに不安を感じるでしょう。

アジアや国際秩序の変化を予測する際に、現在の変化を単純に将来の傾向として延長する方法は、必ずしも真実を示していない、とCHELLANEYは注意します。それは戦略的な要素が欠けているからです。重要な変化を実現するには、指導者の選択が必要です。それに失敗すれば、どれほど大きな面積や人口があっても、国際秩序の形成に指導的な役割を果たせません。

1980年代に、アメリカの衰退や日本の台頭を騒いだ人々が間違っていたことは明白です。

また、韓国政府をめぐって、アメリカと中国との綱引きが起きています。アジアがヨーロッパのような制度中心の、多角主義的な協力を組織できるかどうか、たとえできるとしても、まだまだ難しいようです。アメリカが指導的な役割を維持することが重要だ、と論説は主張します。


Robert J. Samuelson Learning From the Oil Shock WP Wednesday, June 18, 2008

THOMAS W. EVANS Sue OPEC NYT June 19, 2008

Darren Bush, Harry First and John J. Flynn Sue OPEC LAT June 19, 2008

(コメント) Samuelsonは、石油価格上昇について、2015年には1バレル225ドルに達するだろう、と予想するCIBC World Markets のエコノミスト、Jeffrey Rubin が指摘することを考えます。たとえば、アメリカの製造業は利益を受ける。利益ですよ。なぜなら、輸送コストが上昇して、(関税と同じく)輸入品の価格が上昇し、製造業の利益も生産量も増えるからです。

しかし、インフレはより頑固になり、抑制しにくいでしょうし、すでに弱体化している住宅建設や自動車はさらに悪化するでしょう。人々は自動車に乗らなくなり、移動しなくなります。新しい燃料や原子力、オイル・サンド、バイオ燃料への移行が進むでしょうが、石油価格が下落すれば、それらは失敗に終わるでしょう。・・・莫大な消耗です。

頭に来たアメリカ大統領は、現行法においても、OPECを独占禁止法により訴えることができます。アメリカ政府や連銀が行う景気刺激策の効果は、石油価格の上昇によって奪われてしまいます。もちろん、法律によって裁く方が、戦争によって奪うよりも望ましいでしょう。しかし、アメリカは農産物の輸出について、豊かな農地を独占している、とOPECも逆に訴えるでしょう。

OPECを訴える法案(the Gas Price Relief for Consumers Act of 2008)が議会を通過した、というわけです。


FT June 18 2008

Rises in the east: Could Asia buckle under the burden of inflation?

By Chris Giles and Raphael Minder

FT June 19 2008

Asian economies

(コメント) インフレを抑えたまま成長を持続し、通貨危機の恐れもない地域として、アジア諸国は最近まで賞賛されていました。「トリレンマ」を無視した政策が維持されています。しかし、インフレが再生すると、にわかに政策の矛盾が表面化してきました。


FT June 19 2008

Reject sovereign wealth funds at your peril

By Stephen Schwarzmanchairman and chief executive of Blackstone

(コメント) ヘッジ・ファンドの大手、ブラックストーンの会長、Schwarzmanが、政府系投資信託の大手、中国のChina Investment Corporation(CIC)会長、Gao Xiqingの発言を引用して、強気の弁明を公表しました。要するに、資本を必要とする諸国や企業は世界中にあるから、門戸を閉ざす者はわれわれの投資先から外れるだけだ、と。

ましてや、レーガン政権以来、世界に大量のドルを供給して輸入や投資を維持してきた結果、世界最大の債務国になり、円滑な資本流入を何より求めているはずのアメリカ政府が、ヘッジ・ファンドやSWFの投資を規制する動きに反発を強めているわけです。

かつて、大恐慌とスムート=ホーレー関税法が自由貿易の重要さを教えたように、突如として大規模な資本流出を招く不安を知っておくべきだ、と。


WP Thursday, June 19, 2008

A Home Price Firewall

By Martin Feldstein

(コメント) 為替レートや金利、株価?でなくても、石油や食糧、コーヒーやイワシ?など、大幅な価格変動を抑制するための備蓄や公的介入が必要な場合があります。Feldsteinは住宅価格を取り上げました。そして、このような提案を、日本もバブル崩壊後に(また、アジア通貨危機後に)、土地・住宅価格(アジアの資産価格と通貨価値)の安定化を目指して展開すべきであったかもしれません。

住宅価格の下落によって、住宅の保有者はモーゲージをデフォルトにした方が得になる。なぜなら、モーゲージの債務返済はそれ以外に及ばないから、住宅を出ればよい。住宅は差し押さえられて競売にかけられるが、それは更に住宅価格を下げるから、モーゲージのデフォルトを増やして、住宅価格下落の悪循環を引き起こす、というわけです。

そこで、政府はモーゲージの5分の1を政府からの融資に置き換える。すると、住宅価格が下がっても、さらに20%下がらなければモーゲージをデフォルトにする動機は生じない、と。そして、住宅価格の下落が止まれば、金融システムを安定化する追加の増資や救済策も決まるでしょう。

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The Economist June 7th 2008

Central Banks: Playing politics with the Fed

The European Central Bank: Ten years on, beware a porcine plot

The ECB at ten: A decade in the sun

(コメント) アメリカでも、ヨーロッパでも、中央銀行の役割はますます重要で、しかも困難です。定型化した金融政策の説明は裏切られ、危機回避と世界インフレに挟撃されつつ信頼を維持するには、新しい条件に合った手法や説明を見出す必要があります。ECBが賞賛されるのも、一時的にすぎません。


The Economist June 7th 2008

Climate change: A convenient truth, sadly ignored

China, India and climate change

Asia’s navies: Into the wide blue yonder

South Korea: Summer of discontent

The primaries: Over at last

Microprocessors: Battlechips

Legal reform and development: The law poor

Economics focus: Building BRICs of growth

(コメント) 地球温暖化について、中国やインドの姿勢に変化が表れている、と記事は指摘します。地球環境の変化に対処するのは、国際秩序の転換や莫大な投資の誘致、彼ら自身の成長や国民の不満などにかかわることだ、と意識し始めたわけです。他方で、成長は貿易・投資の安全、資源確保など、各国の軍備拡張を刺激します。アジア諸国はこの点で早急に協力体制を確立しなければなりません。

韓国やアメリカの政治家が支持を得るのに苦労する話を読み、他方、インテルの支配が永久に続くと思えたマイクロ・プロセッサーの世界にも競争激化が始まっていることを知りました。

開発を促し、貧困を解消するカギは何か? 法律の整備と、都市化にともなうインフラ投資、という指摘を読んで、「ソフトとハードのインフラ」と考えていたことを確認しました。道路、鉄道、発電所、通信、その他、世界GDPの6%がインフラ投資に使われ、世界全体で1兆2000億ドル、そのうちの43%が中国です。中国はGDPの12%を使います。