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IPEの風 6/23/08
6月12日、アイルランド国民がEUのリスボン条約を否決した、ということが[今週のReview]を代表するニュースです。日本でも「東アジア共同体」をめぐる議論は続いているようですが、ヨーロッパとは大きな隔たりがあります。
共同体が成功する条件を考えるなら、多くの人は次の三つに賛成するでしょう。
1.歴史的な和解を受け入れ、政治家たちが共通の新しいビジョンを示すこと。
2.貿易や投資が拡大して、相互の利益を増やすこと。
3.庶民レベルの相互理解や信頼関係が広がること。
ヨーロッパの政治指導者たちは、戦争を経験して、その共通の姿勢(たとえば、極端なナショナリズムを克服し、決して軍事力に訴えない)を身に付けたようです。それはしかし、国民国家の主権を奪う側面がありながら、それに触れることなく、選挙されないEU官僚たちの統合化計画として実行されました。初期の段階では、エリートたちの合意と、有権者の求める復興や自由化とを組み合わせることも必要と考えられ、現実的な妥協であったでしょう。
しかし、すでに何度も、EUの官僚主義や権力集中、グローバリゼーションへの不安と国民国家の弱体化は問題視されていました。アイルランドの国民投票は、アジアが統合化する過程で、何度も経験する深刻な問題です。彼らの経験から学ぶなら、アジアの政治家たちは英語(自国の言語ではない国際共通語)で国際交渉を進め、有権者には主要国の言語を駆使して説得し、さらに、条約の内容や議会の審議などを周知するためにインターネットの活用するはずです。地域の小さな運動から積み上げて、小国の言語も決しておろそかにはしません。
各国は、たとえば、人口に応じて相互に留学生を受け入れ、言語習得のための交流センターを設立します。その国の学生とともに、留学生たちは共同体ニュースを編集し、各国の主要制度・政策やニュースを解説し、生活・旅行・就職情報を伝えて、若者たちの移動と交流を支援します。
EU統合が成功したのは、ユーロに代表されるような、制度化の実績を積み重ねたからです。多くの難しい問題も、基本的な価値や解決の方針を共有し、困難な状況もたがいに結びつけて、長期的・制度的な解決策を検討しました。その結果、何度も大きな危機を経験し、政治的意志を鍛えることになったのです。すなわち、EU統合の教訓は二つ追加されます。
4.共通の利益を増やし、社会資本や規則、協調と補償の制度を確立すること。
5.協力してショックや危機に立ち向かい、それを乗り越えること。
もし東アジアであれ、環太平洋であれ、ユーラシアであれ、市場統合から政治経済共同体を構想するなら、EUから学ぶだけでなく、それを超える必要があるでしょう。それは、富の創造と分配、政治的な合意形成のために有効なメカニズムを、市場の拡大と並行して整備することで、社会をより柔軟に改革することです。
どんな? どうやって? 誰が? どこから始めるのか? 多くの例、断片的な成果はあります。しかし、確かな答えはありません。答えがないことを、新しい希望である、と開拓者たちなら信じるでしょう。
NHKスペシャル「沸騰都市 ダッカ」を観ました。世界最貧国のひとつであったバングラデシュが、急速な成長を始めている、と言います。働く人たちの喜ぶ顔が素晴らしい。働いて、自分で生活する、豊かになれる、ということが嬉しくて仕方ない。家族に仕送りができる、買い物ができる、自分も商売を始める、工場を持つ。人々の向上心は旺盛です。
マイクロ・クレジットの返済日。小屋に集まった女性たちは、返済できるお金を持って集まれたことが誇らしく、何を話すにも楽しくて笑顔が絶えません。彼女たちはカメラに向かって言います。「日本より豊かになるよ。」「私たちを止められない。」
日本にも、10のアイルランド(成長する地方)を。そして、100のダッカ(興隆する小都市)を。アジアが一つの共同市場になれば、可能な未来の一つとして、きっとそうなるでしょう。
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