IPEの果樹園2008

今週のReview

6/9-6/14

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

核兵器廃絶、 モスクワ天安門、 ローマ法王の訴え、 オバマとマッケイン、 ケネディーの平和宣言、 ECB創設10周年、 さかさまの世界、 グルジアとNATO、 金融引き締めより労働協約、 アフガニスタン、 精神薬物

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


WP Thursday, May 29, 2008

A Past at Rest in Rwanda

By David Ignatius

(コメント) 100日でおよそ100万人のツチ族が殺されました。しかし今、19944月に始まったジェノサイドの残滓は見られません。

ベルギーによる植民地支配下で、少数派のツチ族が優遇されて利用されたようです。父は獣医、母は銀行に勤めていた、当時の特権的な少数派の一人、Antoine Rwegoが何を経験したか、述べています。

家族を殺されたという彼の記憶が薄れることはないでしょう。しかし、なぜ自分は生きているのか? と問います。だから、自分にできるのは、他者を助けることだ、と。勉学にはげみ、医者になって、エイズの研究に従事しています。

植民地支配は、腐敗した現地のエリート層に人種差別を教え、彼らが行う虐殺を黙認していました。軍事力によって政府を倒したPaul Kagameは、その後、ときには人権を無視する強力な支配を行います。しかし、その支配によって報復は起きませんでした。秩序と経済は回復し、アフリカの中心で輝く、繁栄の小島になっている、と称えます。


The Guardian, Friday May 30 2008

Once, 'international' sounded saintly. Now it means bureaucracy and waste

Simon Jenkins

(コメント) 国際機関とは、かつて、20世紀のナショナリズムという凶暴な言動と結びついた国民国家を抑制し、代替する、理性的で有能な機関の理想でした。しかし、その後、腐敗や無力、無能、失敗、不信、エリート主義、特権や超富裕層を守る、庶民に嫌われた超国家権力に変わったのです。国連であれ赤十字であれ、NATOであれIOC(オリンピック)であれ、FIFA(サッカー)であれG8であれ、どのような国際機関も永遠の生命を保証されてはいない。

伝統や幻想を蓄積していないから、説明責任を果たせない機関は正当性を急速に失います。


The Japan Times: Thursday, May 29, 2008

Use nature's bounty to ensure our survival

By ACHIM STEINER, AHMED DJOGHLAF and SIGMAR GABRIEL

(コメント) アジアからアフリカにわたって蔓延したミバエの被害について。その天敵を調べて、アフリカの環境に適したものを導入するための調査が行われました。

問題は、その利益(そして、その前に研究開発費用)と分配です。国際合意はあいまいで、最も活発に利益を狙う機関は化学・薬品企業です。1992年のThe Convention on Biological Diversity (CBD)と、遺伝子情報による利益分配を定めたAccess and Benefit Sharing (ABS)があるだけです。もし十分な利益の分配を得た場合は、自然保護に対する財源も得られるだろう、と主張します。海洋でも森林でも、生物種は急速に減少し、絶滅し続けています。


NYT May 30, 2008

Help Russia Help Us

By RICHARD LUGAR and SAM NUNN

FT May 30 2008

McCain talks sense on nuclear security

(コメント) ロシアと協力して核兵器や高濃度の核物質が拡散しない体制を確立しなければならない、と主張します。これをロシアの一層の情報開示や、ロシアに対するけん制に利用するのは正しくない、と。

核兵器の拡散、核軍拡競争が始まることは、世界にとってもアメリカにとっても、最大の脅威です。イラクのアメリカ軍駐留は100年かかる、イランを爆撃しろ、という今までの主張と違って、国際協調による核管理・軍縮体制を強調したマッケインの最近の演説は、大きな驚きと共感をもたらしました。

LAT June 4, 2008

A critical mass for disarmament

By Joseph Cirincione

(コメント) マッケインの演説の背後には、4つの重要な変化があった、とCirincioneは考えます。1.核拡散の脅威はますます現実のものとなり、高まっていること。核不拡散は失敗しつつある。2.アメリカに対する危険を抑えるための政策は失敗した。アメリカの核による優位の確立、核兵器の革新は、むしろ核の脅威を広めただけだった。3.かつてユートピアだと否定された核廃絶の主張が超党派の支持を受け、ヘンリー・キッシンジャーやウィリアム・ペリーを含む国務長官経験者の多数による署名("A World Free of Nuclear Weapons")を集めている。4.世界の主要諸国(Australia, France, Germany, Italy, Japan, Russia, Pakistan, South Korea, Britain, the United States and possibly Israel and Iran)で指導者の交代が同時に起き、過去の失敗した政策と決別する用意がある。それは安保理常任理事国5カ国のうちの4カ国、G8のうちの7カ国である。

この動きがアメリカの安全保障を担うエリートの中枢から起きていることは非常に重要です。それはアメリカの指導者たちに深刻な反省があるからです。ブッシュ政権は中東における核兵器の使用を防ぐと示唆してイラクに侵攻し、その情報に反して、核兵器も、他のWMDの存在も確認できませんでした。しかもこの戦争によって北朝鮮やイランの核武装を刺激したわけです。

自分たちの同盟国には核を認め、敵対国には禁止するという政策は、インドやパキスタンの核武装を追認する結果になり、現在、アメリカの同盟国が最も危険な国となったのです。パキスタンには核兵器や核物質が蓄積していながら、政治的に非常に不安定で、国内にアルカイダの支配領域と基地が広がり、核を奪う危険があるからです。

アメリカ国民の70%は核廃絶を支持し、マッケインもオバマもそれを主張している機会をとらえなければ、世界には再びこうした機会が訪れないかもしれません。


FT May 30 2008

Military makes its sacred claim

By Christopher Caldwell

(コメント) ブッシュ政権は、実際には、減税しながら大きな政府を残しました。さらに軍事国家から軍事福祉国家への移行、“21st-century GI bill”(復員軍人援護法)が、保守派の政治学を変えるのでしょうか? ヨーロッパや日本とは異なるけれど。


FT May 30 2008

Derivative thinking

By Gillian Tett

(コメント) 10年前、ロンドンにおいてデリバティブ取引が誕生した瞬間を、Gillian Tettは描きます。現在、その取引残高は60兆ドルを超えます。それはロンドン株式市場の資本総額の20倍以上です。この10年で金融ビジネスは全く変化し、非常に複雑になりました。それは年配の銀行家にとって、理解不可能な世界です。

金融革新は利益をもたらしますが、模倣され、次々に新しい、複雑な取引を開発したそうです。その背景には低金利があった、と述べています。業界団体はいつも、政治家たちが規制を求めると、激しいロビー活動を行って、革新の機会を奪うべきではない、と主張します。


WSJ May 30, 2008

Dear President Medvedev

By TATYANA MOROZOV and ALYONA MOROZOV

(コメント) 199999日、モスクワのアパートが戦闘機によって爆撃されました。それは292人もの犠牲者を出したけれど、政府はチェチェンのテロリストに責任を押しつけました。しかし、事件にはロシアの治安警察が関係していた証拠があります。当時、プーチン大統領はチェチェン戦争の拡大を正当化し、大統領として再選されるために、こうした事件を計画した疑いがあるのです。

この論説は、犠牲者の家族が真相究明と責任者の断罪を求めて、メドヴェージェフ新大統領に送った公開書簡です。


The Guardian, May 31, 2008

Forget terror, fear capital

Guy Dammann

(コメント) グローバリゼーションや資本主義に対する熱狂的な反対、レトリックを極めた攻撃が増えているように思います。実際、多くの事実はそれを支持していると思います。

しかし、非難の声を極端に強める人々は、方向を見失っていつように感じます。資本主義は、危機を繰り返しながらも改善されてきたのであって、社会を豊かにし、暮らしやすくする条件を築いてきたのです。そうでないときには否定するより、そうなるように批判して、改善することが重要ではないでしょうか?

The Observer, Sunday June 1 2008

What I told the Pope about how to shape the new capitalism

Will Hutton

(コメント) 批判にもいろいろあります。キリスト教会も、左派の知識人も、資本主義を批判します。カソリックの求める「新しい資本主義」が、グローバリゼーションによって抑圧された人々に慰めや諦めを求めているだけなのか、あるいは、経営者たちに人道主義的な利益分配や労働条件を求めているのか。スターリンの社会主義よりも生きながらえ、グローバリゼーションにも対抗できるキリスト教の最大組織として、法王の訴えに、それぞれの社会や企業がどのように反応するか、それによっては社会的な価値の回復を支持する勢力となりうるのです。

もし階級戦争が深刻になれば、資本主義は社会制度として滅びるだろう、と法王は警告します。「人間の生活は仕事によって成り立っている。利潤はその目的ではないのだ。それは必要であるが不十分な条件だ。神が万人に与えた潜在的な能力を開花させて、男も女も共通の善を実現するときに、真の発展がもたらされる。」

教会は、ニュー・レイバーと同じように、ビジネス界や資本と敵対することを慎重に避けます。しかし、ニュー・レイバーは言えなかったことを、もっとはっきり要求しています。それは人間らしい賃金水準、職場の自律性と尊厳、裕福な人々が共通の善を実現することにおいて引き受けるべき責務、です。

そして企業は、社会的に公表した望ましい経済目標を実現する限りにおいてだけ、利潤を得ることが許されるのです。ユニリーバはすべての人が使える日用品を供給し、ボーイング社は最も早く、最も安全で、最も遠くまで飛ぶ飛行機を供給し、ソニーは革新的な商品をもたらした。しかし、それが株式資本になって、市場で売買される金融資本の一部になったときから、社会的なステークホルダーの要求よりも金融市場の要求に支配される、とWill Huttonは批判します

政治家たちの多くが金融市場と超富裕層の応援団となってしまう中でも、教会はその立場を変えません。社会的な善と良い仕事を求める点で、Will Huttonは教会とともに資本主義の修正を求めます。私は、そのような人々を含む社会改革運動を、GMR(グローバル・モデレート・ラディカルズ)と呼びたいです。


The Guardian, Saturday May 31 2008

Why China doesn't break

John Lee

(コメント) トニー・ブレアは昨年、社会変化と経済的繁栄とによって、中国の民主化も「止められない」と述べました。すでに中産階級は1億人から2億人はいると思われます。しかし、John Leeは懐疑的です。天安門事件以後も民主化は進まず、むしろ後退した、と。

エリート層は政治への関心を失い、7000万人の党員を擁する中国共産党はその勢力を彼らの間にも広めて、経済・社会の主要機関を動かす指導部の人材を網羅しています。銀行、建設、インフラ、メディア、情報、などに共産党員が多くいます。高等教育機関や経済・経営分野においても、共産党はその成果を誇示するキャンペーンを周到に繰り返しています。昇進のために、規制のために、共産党との関係を求める人々は絶えません。


LAT June 1, 2008

The Obama-McCain age gap that matters

By Ezra Klein

(コメント) オバマ47歳、マッケイン72歳。アメリカ大統領選挙史上、最高の年齢差です。25歳というのは、彼らの世界が異なることを意味します。まさに、過去と未来の対決です。

また、マッケインの長大な健康情報と比べて、オバマは圧倒的に有利か、と言えば、彼の母親は若くして癌で亡くなっています。なるほど、大統領候補となれば、その遺伝子情報(!)も公開するべきかもしれません。

もちろん、彼ら個人のリスクを評価するためには、健康や死亡に係るだけでなく、その世界観、イデオロギー、現在の世界が直面する脅威に関する認識を問うことです。「大不況の最後の年、第二次大戦勃発の直前に生まれたマッケインが、ケネディー政権の始まる1961年、ボブ・ディランがニューヨークにきたとき生まれたオバマと、全く異なる参照基準を持っているのは当然である。それについて公開で討論するべきだ。

政党、人種、ジェンダー、階級、個人経歴、友人、パートナー、出身地、その他、彼らを形成したすべてが詳しく議論されます。しかし、この世代間ギャップを忘れてはなりません。

マッケインは枢軸諸国に対する勝利を経験し、核超大国間の冷戦にも勝利した世代です。脅威は必ず敵対する国家から生じ、ビン・ラディンとイラクの関係を確信していました。将来の脅威は、イスラム過激派が核保有国を支配するときに最大となるでしょう。

しかし、オバマはベトナム戦争が終わったとき14歳、ソ連崩壊も29歳です。アメリカ政治が、いまだに、1960年代の文化戦争を引きずっていることに戸惑います。ベビーブーマー世代のこだわる心理戦には意味がない。

もちろん、重要なことは候補者たちの年ではなく、有権者たちの年齢であり、参照基準です。

BG June 2, 2008

The war-hero president and the pacifist

By James Carroll

(コメント) ソレンセンTed SorensenJohn F. Kennedy(JFK)のスピーチ・ライターとして、ともに時代を方向付けた人物です。JFKがなした(すぐれた)ことを伝える点で、彼に勝る者はいません。

ソレンセンは第二次世界大戦に従軍することを覚悟していましたが、17歳のとき戦争が終わり、良心的戦闘拒否として軍隊には非戦闘用務に応募します。このことはFBIの秘密ファイルで示され、ケネディーに不利な材料となりました。カーター大統領が彼をCIA長官に指名しようとして失敗します。

しかし、プラグマティックな冷戦の指導者であったケネディーが、ベルリンからキューバに至るエスカレートを止めるために方針転換し、平和宣言を示したとき、好戦的思考を強く拒んできたソレンセンがそれを助けました。(宥和政策で悪名高い)ネヴィル・チェンバレンの平和主義や、ウィルソンの民主主義のための平和を超えて、多様性を認める世界に平和を実現しよう、と演説しました。

もっとも注目すべきは、ケネディーの演説が冷戦思考のジャガーノートを止めたことです。自分たちの態度は彼らの態度を反映しており、たがいを悪魔のように描いている、と認めます。「政府や社会システムがたとえどれほど邪悪であるとしても、その人民が道徳を欠いているとみなしてはならない。」ケネディーは自己批判を求め、敵の中にも潜在的に善の要素を見る大統領でした。

そして、軍縮のための法律や交渉を求め、大気圏中の核実験を一時停止します。「われわれには共通するものがある。われわれは皆、この小さな星に住み、同じ大気を吸っている。われわれは皆、子供たちの将来をいつくしみ、道徳を重んじるのだ。」

この演説はソビエト連邦にも大きく伝えられました。そして、部分的核実験停止条約が成立します。ソレンセンが協力したケネディーの平和宣言は、闇の世界に一条の光を投げたのです。

WSJ June 2, 2008

Don't Expect a Big Change in U.S. Foreign Policy

By TIMOTHY J. LYNCH and ROBERT S. SINGH

LAT June 5, 2008

Obama the naive

By John R. Bolton

(コメント) マッケイン、オバマ、クリントン、だれが当選しても次の大統領の外交政策は今のままである、とLYNCH and SINGHは考えます。彼らの見るところ、共和党であれ、民主党であれ、大統領にはアメリカの安全保障や外交に関する一貫した論理が継承されているようです。選挙戦では現在の方針を批判し、それぞれの違いを強調するとしても、政権を執れば一緒です。

なぜなら外交には相手があり、国際関係を良好に維持することが基本だからです。イラクでの勝利を敗北にしてしまうオバマの主張は、結局、受け入れられません。

「前提条件なしにイランや北朝鮮のパリア国家指導者と会うのはナイーブで危険な方法だ」とボルトンは選挙の争点を強調します。たとえばケネディーが1961年に初めてフルシチョフと会った時のことを考えてみよう、と。ケネディーは経験不足でフルシチョフを増長させ、キューバにミサイル基地を築かれて、結局、冷戦で最も危険な事件を引き起こしました。

オバマは世界情勢についての知識が足りず、必要な注意を払っていないだ、と。たとえば、イランをソ連に比べて「小さな」脅威でしかない、と述べたことを取り上げて、その間違いを正そうとします。1950年代、60年代に、イタリアが共産主義政権になっても、「小さな」脅威であるとして容認したのか? と。


FT June 1 2008

Six principles for a new regulatory order

By Lawrence Summers

(コメント) 金融危機が起きると、さまざまな改革が叫ばれる。モラル・ハザードを解消し、広まった危機意識を利用しなければなりません。しかし、金融改革は容易に実現しない。改革の必要性はある時間において切迫している。けれど、その提案を評価する共通の基準がないのである。そこで、とLawrence Summersは考えます。

1.金融規制当局間で激しい競争がある。2.金融業界による自己規制は、結局、規制緩和でしかない。任せていては成功しない。3.金融業界にも、政府にも、金融市場の将来を正確に予想することはできない。4.個々の金融機関がプルーデンシャル規制を守るというだけでなく、金融システムの健全性をもっと重視する。5.金融ビジネスにおける規制されていない領域の広がりに注意する。6.金融規制の目標とは、個々の金融機関の破たんが金融システムの不安につながらないような状態を作ることである。


FT June 1 2008

Why free markets have little to do with inequality

By Philip Whyte

FT June 3 2008

China and Wal-Mart: the champions of equality

By Christian Broda

(コメント) ヨーロッパ人の多くは、自由な経済改革と社会的正義の追求は両立しないと考えます。Whyteは、EU内でも最も優れた成長と低失業率を示すのはデンマークであり、自由主義的な改革を進めている、と指摘します。国による違いを説明する重要な要因は、教育、です。北欧諸国は、基礎教育だけでなく、国民の幅広い層に対して高等教育において優れた成果をあげています。

Brodaの論説は、安価な中国製品を低所得者に販売するウォルマートこそ、アメリカの不平等を大いに緩和してくれている、と主張しています。その意味で、アメリカの底辺層が中国からの輸入品の利益を否定することは間違っており、サマーズやウルフがグローバリゼーション悲観論を深刻に受け止めるのも間違っている、と言いたいようです。

趣旨はわかります。アメリカの富裕階級は、まさか安価な中国製品など消費しないでしょうし、ウォルマートで買い物することもないでしょう。実質所得は、貨幣所得とインフレ率によって決まり、安価な中国製品を買う低所得者の実質生活水準は悪化していないのだ、というのも、実証によるなら本当でしょう。

しかし、雇用の不安は本物ですし、所得格差の拡大はもっと顕著です。


FT June 1 2008

The end of abundance: Food panic brings calls for a second ‘green revolution’

By Javier Blas

The Guardian, Monday June 2 2008

Mere sticking plasters

Kevin Watkins

(コメント) ポール・エーリッヒの『人口爆発』は私も読みました。1970年代に食糧不足を警告した本です。ところが、警告がうますぎたのか、その後、食糧増産は成功します。ソ連が輸出しようとした赤い革命や、イランのホメイニが輸出した白い革命ではなく、緑の革命が世界を変えた、と論説は伝えます。そのあまりの成功によって、食料価格は下落し、EUでは穀物の山、捨てられたミルクの河、ワインの池ができてしまった、と。

ただし、今回は緑の革命を再現することが難しい、ということです。品種改良と共に、その重要な要素であった化学肥料や農薬が石油価格の高騰で制約されているからです。同時に、大量に必要な水がますます貴重になっています。アフリカだけが、まだ、この技術の波及を待っていますが。

たとえ世銀がふんだんに融資して、遺伝子組み換え食品の耕作を広めても、解決は容易でないでしょう。

当然、アメリカは補助金でバイオ燃料の生産を増やすことをあきらめ、EUは補助金で農家に生産を抑制するような体制を放棄する、という方法も検討されています。

Time for a second green revolution FT June 2 2008

Alan Beattie Seeds of change: Africa seeks to engineer an agricultural revolution FT June 2 2008

Gideon Rachman We cannot go on eating like this FT June 2 2008

Alexander Müller 'We're Only at the Beginning' of the Food Crisis SPIEGEL ONLINE 06/02/2008

A Greener Revolution WP Tuesday, June 3, 2008

JOMO KWAME SUNDARAM Reaping harvests of dire hunger worldwide The Japan Times: Wednesday, June 4, 2008

(コメント) 小規模の貧しい農民が多い発展途上諸国への支援が必要です。彼らには技術革新のための資本も土地もなく、食糧や石油によるインフレで生活水準を悪化させています。富裕諸国からの農業援助が効果的に行われなければ、世界的な政治・社会不安が高まります。

アフリカの生産増大と、中国やインドの生活水準上昇、石油価格の高騰、世界経済の成長、投機的資本、温暖化と水不足、遺伝子組み換え・・・ なるほど、この食糧危機は世界的な現象です。

世界の食糧生産は増大しており、食糧不足で餓死する世界はほとんどなくなりました。しかし、価格高騰で暴動が起きます。慢性的な飢餓と栄養不良が、貧しい人々の間で、子供たちの命や発育を損ないます。貧しい国はますます食糧を輸入できなくなっています。その意味でこれは、国際金融や工業化・貿易の問題です。


FT June 1 2008

Europe must get immigration right

WSJ June 3, 2008

Revolving Immigration

By ROLAND RUDD and DANNY SRISKANDARAJAH

The Guardian, Wednesday June 4 2008

Denmark loses tolerance

Jakob Illeborg

(コメント) グローバリゼーションへの逆流は、EU、アメリカ、イギリスで、移民問題に顕著です。FTは、EU移民政策を推進するサルコジ大統領に好意的です。サルコジは移民の需要と供給とを一致させるように求めます。EU外からの移民を共通で取り締まり、共通の人物特定法とビザ、難民の扱いを決め、EU内の移民を合法的に促進します。サルコジは更に、移民をヨーロッパの法律と価値に従う、それを受け入れるように強制しようとします。

確かに、イギリスの多文化主義だけでは反発が強まるだけで、人種差別的な政治運動を強めてしまいます。EU移民政策が価値を議論することは避けられません。しかし、同時に価値の強制は反発を招き、イスラム過激派が浸透します。法の順守と異なる文化への寛容さ、許容範囲が求められます。


June 2 (Bloomberg)

Oil Tax Exposes Democrats' Economic Illiteracy

Kevin Hassett

(コメント) ブッシュ大統領の支持率があまりにも下落したので、民主党は次期大統領を得たと確信しています。そして大幅な政策連関をもくろむわけです。ところが、最近上院に提出されたエネルギー法案(``Consumers First Energy Act'')を見れば、その劣悪さとアメリカ経済に及ぼす悪影響は顕著である、と憤慨します。

石油価格の高騰に憤慨する国民と、石油会社の莫大な利益を見れば、こうした法案を支持したくなる感情は強い。しかし、そこには合理的な政策としての根拠がない。まず、それは法による支配を侵し、経済のあらゆる分野で将来の投資を躊躇させる。価格変化によって得た利益は政府が事後的に奪ってもよいのか?

第二に、石油会社が利潤を代替燃料の開発などに投資すれば課税を免除される、と法案は主張します。しかし、政府が個々の企業の投資にまで注文を付ける「マイクロ・マネイジメント」は投資を歪めるでしょう。その投資が結果的に市場で利益を上げることに失敗すれば、やはり投資は間違いだった、ということになります。こうした政策は、正しいエネルギー投資のための本来の市場のシグナルをも歪めてしまうでしょう。

民主党員は、経済学に無知な、極度に楽天的、パングロス的な政策妄想家ばかりである、と。


The Guardian, Monday June 2 2008

The euro is a triumph

Joaquín Almuniathe European commissioner for economic and monetary affairs

NYT June 3, 2008

Once an Impossible Dream, the Euro Reigns Supreme

CARTER DOUGHERTY and MARK LANDLER

FT June 2 2008

There is no excuse for Britain not to join euro

Willem Buiter

(コメント) かつて、あからさまに崩壊を警告されたにもかかわらず、ECBの創立10周年は祝福に満ちています。ユーロ参加国は15カ国(もうすぐスロヴァキアが加わって16カ国)、その人口は32000万人です。インフレは抑制され、ドルに対して価値を強めています。

何よりも、1999年以前と比べて、ヨーロッパ経済は他の世界からのショックに対して脆弱さを抑えました。かつて、資本移動やインフレ率の差、アメリカの景気など、ヨーロッパ諸国が頻繁に為替レート調整に苦しんだことを、今では、まったく考えられません。

ユーロ圏の成長率や生産性上昇率は、非ユーロ圏やアメリカに比べて低いと批判されます。ユーロ導入に伴う市場統合や競争激化の効果が、各国の構造調整として十分に実現していない、というわけです。各国政治家はユーロやブラッセルを非難して改革を怠っている、と欧州委員会は改革を促します。

もちろん、不満を強める集団もあります。例えば、労働者たちは自分たちの権利や交渉条件を侵されたと感じているでしょう。ドイツの銀行もかつての勢力を失いました。ユーロが強いるヨーロッパの行動基準によって、国によっては悪化した社会規範もあるわけです。ユーロ参加諸国の成長率格差や改革の成否はさまざまです。スペインは急速に成長し、不動産バブルも破裂しました。もしユーロがなければ、これほどの成長はなく、バブル崩壊は極度の経済危機を招いたはずです。

今では国際投資において不可欠の重要な通貨ですが、1997年、Martin Feldsteinはユーロをめぐって戦争が起きるだろう、と警告しました。そして、もし政治家たちがもっと積極的であれば、各国の市場統合はもっと進み、すでに10年でヨーロッパ企業が世界を席巻していたかもしれません。それは、次の10年の楽しみとして残されたわけです。

・・・それは? イギリスのユーロ加盟とドル没落か、ヨーロッパ戦争か、ヨーロッパ世界企業か?


NYT June 2, 2008

The World Is Upside Down

By ROGER COHEN

(コメント) 世界はさかさまになっていることを、アメリカの新大統領は知っておかなければなりません。ユーロ圏がドルを追撃しているだけでなく、新興市場がすでに世界をひっくり返してしまったからです。

「昨年、経済成長の3分の2は新興市場から生じた。2008年の新興市場の成長率は6.7%と予想される。他方、アメリカ、日本、ユーロ圏の成長率は1.3%でしかない。」

経済の強気や楽観論はすべて新興市場に関するテーマに向けられています。世界の富がわき出すところに、世界の関心も向かうのです。資源も、貿易も、投資も、中国、ブラジル、インドへ向かいます。欧米の金融ビジネスに新しく投資したり、その企業を買収しているのは、今や、新興市場の投資家や企業です。

しかし、いまだに世界経済の管理体制はそのパワーを再配分していません。また、世界に安全保障を供給する役割がアメリカだけに担えないことがはっきりしているにもかかわらず、アメリカ以外の国に移る見通しもありません。


WP Monday, June 2, 2008

Just Call It 'Cap-and-Tax'

By Robert J. Samuelson

(コメント) アメリカもa cap-and-trade systemを準備しています。

もし効率的に化石燃料の役割を減らしたいのであれば、キャップ・アンド・トレードは結局失敗する。それは経済成長ももたらさない。しかし、もし価格を介して新技術を刺激したのであれば、もっと正直にやることだ。炭素の排出には課税し、それ以外の燃料を優遇する。キャップ・アンド・トレードがやるように、ただし硬直的な排出量制限などなしにできる。課税はより見えやすいし、より分かりやすい。もし環境保護派が許可制度を優先したいなら、それを正しく呼ぶべきだ。すなわち、キャップ・アンド・タックス、と。


FT June 2 2008

Get involved over Georgia or invite a war

By Ron Asmus and Mark Leonard

(コメント) グルジアの好戦的な姿勢から、知らぬ間に、ヨーロッパで次の戦争が始まっている? それはNATOを巻き込んで、国際平和と新しい繁栄の時代を終わらせます。

EUとアメリカが、グルジアを見捨てることも、逆にグルジアのナショナリズムに保証を与えることも、戦争を招く危険があります。しかしまた、関与を否定することは平和的な解決をもたらしません。グルジアにも、ロシアにも、平和的な解決の道があることを説得し、それに深く関与し続けることだ、と論説は主張しています。

もう一度、ミュンヘン会談を開く? あるいは、EUとロシア間で新石炭鉄鋼同盟や共同市場を創設する? あるいは、・・・黒海沿岸の都市にオリンピックを誘致するロシアの威信回復に協力する?


The Japan Times: Tuesday, June 3, 2008

Shaking Japan to the very core

By MICHAEL RICHARDSON

YaleGlobal, 3 June 2008

To Cope With Oil Shock, Emulate Japan

Dilip Hiro

(コメント) 日本について。北朝鮮やイランの核施設を心配するより、新潟の柏崎原発をどうするのか? 地震発生の危険が高い地域に、1970年代の基準で建てられた原子力発電所に大きく依存していることや、アジア地域に急速に拡大する原発建設ブームについて、もっと真剣に取り組むべきだ、と思います。

他方、日本のエネルギー政策は石油価格高騰に対するモデルとして(特にアメリカと比べて)賞賛されています。


WP Tuesday, June 3, 2008

An Olympic Amnesty

By Wang Dan

(コメント) 64日は天安門事件の記念日です。19年前、Wang Danは天安門に集まった学生たちの指導者の一人でした。その後、1993年、IOCが北京に来た際、中国政府はオリンピック誘致の道具として、その直前に彼を釈放します。彼はオリンピック開催を支持していました。しかし、誘致に失敗すると、再び投獄されてしまいます。こうして7年近くの歳月を牢獄で過ごした後、1998年、Danはアメリカに亡命しました。

論説でDanは主張しています。オリンピック開催が中国の政治的なマヒ状態を解決する触媒として働いてほしい、と。

中国政府はオリンピックを経済成長の成果を誇示する国際舞台と考えています。しかし、今も中国には政治活動にかかわる囚人が30万人もいると推定されます。Danは、文化大革命を過ごした世代が、開放的で、透明な、民主的政府を持つことを主張するより、愛国心やナショナリズムに向かうことを心配します。

しかし、四川大地震が示したように、政府やメディアは人々に情報を伝え、人民が被災地の救援や復興に参加することを称賛するようになりました。そうであれば、夏のオリンピックを中国の復興に生かしたい、と願うのです。すべての政治犯を釈放し、多くの政治亡命者が帰国して、ともにオリンピックを祝い、中国人民がオリンピックの主役になることを世界に示すべきである、と。

The Guardian, Wednesday June 4 2008

Remembering Tiananmen

Jonathan Fenby

NYT June 4, 2008

China’s Grief, Unearthed

By MA JIAN

FT June 4 2008

In China diplomacy, Rudd leads the way

(コメント) Jonathan Fenbyは、あの時、趙紫陽は戦車を天安門広場に入れるべきではなかった、とその決断(もしくは、決断の不足)を批判します。戦車が学生たちを排除し始めたとき、彼らの平和的な民主化デモは失敗し、混乱したのです。もっと違う政治的な選択があったはずだ、と。

経済成長と政治的な支配の正当性は、同じものではない、と繰り返されています。政府は歴史を書き換えられると信じているかもしれないが、そうではない。天安門で17歳の息子を殺された母親は、当局の反対を無視して、息子が撃たれた場所に花輪を置きました。

“One can only stand up from the place where one fell.”

チベットやダライ・ラマについて、天安門事件について、各国首脳が中国政府に示す反応は矛盾し、失敗しています。中国政府に人権問題を注意し、説得しようとしても、強い反発を招くだけでした。そして中国は経済分野で報復を行います。

2か月前に中国を訪問したオーストラリア首相、Kevin Ruddは、一方で中国語の演説をこなし主席に歓迎されましたが、他方で1970年代後半に中国の民主化を求めた指導者たちを彼自身が研究したことにも触れました。7世紀の中国における「友人」を意味する思想にふれて、自分たちの関心を率直に語り合い、共通の未来を描く、と述べて聴衆の喝采を浴びています。


FT June 3 2008

Useful dos and don’ts for fast economic growth

By Martin Wolf

June 4 (Bloomberg)

Asian Economic Miracle Is at Risk All Over Again

William Pesek

(コメント) 新興諸国の成長は、貧しい諸国の政府に有用な、多くの実践的指針を与えてくれます(先週も紹介したGrowth Report)。しかし、一部では、すでにその危機が予見されています。以前の開発論が破たんしたことを示す、というWilliam Easterlyの極端な批判もあります。

Pesekが指摘するように、中国経済には景気減速とインフレ高進の危険があります。それは1997年に、中国を除くアジア全域に存在する危険でした。インフレを考慮すればマイナスになってしまうような金利水準を修正しなければなりません。しかし、慎重に、ゆっくりと金融を引き締めることです。そうしなければ、アメリカの金融市場が再び過剰な反応を示すかもしれません。


The Guardian, Wednesday June 4 2008

A Thatcherite impulse

John Grieve Smith

(コメント) 1970年代のインフレが戻ってきた、と心配する記事が多い中で、John Grieve Smith1980年代が戻ってくることを心配します。金利を引き上げてインフレを初期の段階で抑えること、インフレ期待を高めることなく、賃金とのスパイラルを起こすような制度的な取決めを完全に否定することが、最も正しい政策として主張されますが、ほかの選択肢はないのでしょうか?

賃金に関する社会契約を結べ、とSmithは主張します。インフレ抑制を金融政策だけ(インフレ目標と中央銀行の独立性)に頼ることは、多くの労働者たちを苦しめ、産業の活力を破壊します。実際、デフレ政策の眼目は、労働組合を破壊し、その賃金交渉を阻止することにあります。

Smithは労働組合の利益だけを主張しているのではありません。石油や食料の価格が上昇している以上、労働者の生活水準を低下するのは避けられません。それは必要な調整過程の一部です。問題は、それをできるだけ苦痛の少ない方法で達成するべきだ、ということです。サッチャーやレーガンの時代を賛美することが唯一の答えであるかのように思うのは間違いです。

労働組合は、このインフレによって大幅な生活水準の悪化を強いられている部門が補償を得ることは正しいけれど、労働者全体ではない、と理解しなければなりません。政府は、労働組合と経営者との間に立って、経済発展を持続するための合意を議論しなければなりません。インフレに対する最も有効な政策は、おそらく減税である、と主張します。もちろん、賃金を抑制する労使の合意を促すことができたら。


The Japan Times: Wednesday, June 4, 2008

Cluster bomb ban is a good start

By GWYNNE DYER

(コメント) クラスター爆弾を禁止することは、それによってアメリカ兵を危険にさらすことになるので受け入れられない、とペンタゴンは述べました。しかし、核兵器も含めて、絶対に廃止できないという武器はないでしょう。戦闘の可能性やその状態によって、武器は増減し、変容します。国際条約によって武器が禁止できる? クラスター爆弾の非道徳性が世論を動かし、それを使用する政府に大きな損失となるのです。


LAT June 4, 2008

Mortgaging America

By Eric J. Weiner

FT June 4 2008

Bernanke and the dollar

(コメント) ポールソン財務長官。「アメリカ売ります。」 裕福な国の投資庁には訪問販売も。

バーナンキ連銀議長。「ドルも投げ売り。」 かつて、ドルの水準について言及した議長がいたでしょうか? こんなことをわざわざ言うのも、金融緩和をやめる気はないからです。


The Guardian, Thursday June 5 2008

Obama is Europe's dream candidate, but we may have to settle for McSame

Timothy Garton Ash

(コメント) ブッシュ大統領が米欧関係をすっかり台無しにした、と嘆く声は多いでしょう。しかし、歴史はそれほど個人によって変わるのか? 世界が冷戦から多極時代に入った以上、ヨーロッパもアメリカも、たがいに大きな選択の余地があるのです。

BBC 2008/06/05

Insight: Can disasters shape history?

By Bridget Kendall

(コメント) むしろ、自然災害によって政治や歴史が変わるでしょうか?

2005年のハリケーン・カトリーナ。ブッシュ政権の管理能力が、イラク戦争以上に、問われました。

1755年、ポルトガル大地震。そのあまりに大きな被害に、教会と国家が解釈を争いました。

1988年、ソ連の衛星国家、アルメニア大地震。2003年、イラン、バムの大地震。一時的なアメリカとの関係改善。1999年の地震は、ギリシャとトルコの関係改善。

四川大地震も、中国と欧米諸国との関係改善をもたらしている。1976年、20世紀最大の地震と言われる中国の地震の犠牲者は60万人。それでも、当時は国際援助を拒んだ。その責任をめぐって、ケ小平は4人組との権力闘争に勝つ。

1986年、チェルノブイリ原発事故も、ソ連の権力闘争を変えた。ゴルバチョフは開放路線、情報の自由化を進める。

インド洋大津波、ビルマ(ミャンマー)のサイクロン。・・・グローバリゼーションは、世界市民の救援に関係国が介入を求める時代なのです。

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The Economist May 24th 2008

Inflation’s back

Inflation in emerging economies: An old enemy rears its head

(コメント) アメリカの金融政策が世界のインフレ抑制や新興市場の利益にならないことを示す点で、重要な変化が起きています。それは欧米金融市場の混乱やバーナンキ議長の政策が間違っているというより、ドルに為替レートを安定化する基準を求めて、インフレでも金融緩和に追随するしかない新興市場の政策枠組みが、全体として、変わる時期に来ているということでしょう。

石油や食料の価格が高騰してインフレが避けられない今の新興市場は、かつて欧米諸国が経験したインフレの時代を再現したものでしょうか? 部分的にはそうでしょう。政治家たちは金融政策に介入し、インフレを無視して成長を持続することに熱心です。しかし、インフレを加速するメカニズムが異なります。価格統制や食料禁輸など、愚かな市場介入を繰り返すより、ブラジルように通貨の増価を受け入れよ、と記事は主張します。

ところが、それでも問題は残るようです。一つは、一層の増価が期待されると投機的な資本が流入することです。要するに、国内需要を抑制してインフレに対処するしかありません。中国がデフレではなくインフレを輸出するようになった、という断定は避けていますが、今度は(少なくとも時期によって)、中国のインフレや成長率、為替レートと金融政策が世界の政策決定を支配するわけです。


The Economist May 24th 2008

Afghanistan: How the “good war” could fail

Afghanistan: A war of money as well as bullets

(コメント) 戦争と安全保障について、アフガニスタンは軽視されています。しかし、パキスタンと含めて、アルカイダが復活する危険、テロと麻薬を輸出する危険、核兵器を手にする危険が世界で最も高い、イラク以上に重要な安全保障の焦点です。

対ゲリラ戦略を学習したアメリカ軍は、イギリス軍以上に、ふんだんな資金を利用して住民生活の改善を作戦に取り込もうとしています。9世紀、ムスリムの碩学Ibn Qutaybaの言葉が引用されています。

「軍隊がなければ政府はない。

資金がなければ軍隊はない。

繁栄がなければ資金はない。

そして繁栄は、正義と優秀な政府を必要とする。」

決断力や戦略を描き、アフガニスタンの統治に失敗したカルザイ首相を、いつまでも指導者として担ぐブッシュ政権は間違っている、と主張します。


The Economist May 24th 2008

Medicine: Smart drugs

Cognitive enhancement: All on the mind

Diplomacy: Speaking to enemy

The earthquake in Sichuan: China helps itself

South Africa: Give them a better life

Spreading the atom: Stopping the wrong sort of chain reaction

(コメント) アルツハイマー症や鬱病の治療薬として開発された薬品が、健康な人にも優れた効果を与えるとしたら、それは自由に販売されるべきだ、と記事は主張します。その含意は、社会を深いところで震え上がらせるでしょう。

チェンバレンとヒトラーが並んだ記念写真。もちろん敵とも交渉しなければなりません。無条件ではあり得ません。そして中国を刺激しすぎないように、ゴードン・ブラウン首相はダライ・ラマと首相府で会うことを拒み、英国教会で話し合いました。

また記事は、四川大地震の犠牲者を救うために立ち上がった中国人民の熱意に共感します。他方、南アフリカが流入する周辺諸国からの難民や出稼ぎ労働者たちに対して十分な配慮や合理的な政策対応を欠いている、と批判します。

最後に、しかし重要なことは、世界中が雪崩を打って原子力発電所の建設を始めているにもかかわらず、核物質(原料と廃棄物の再処理)や核兵器の開発、技術移転につながらない安全保障システムは、まだまったく模索中だ、ということです。たとえばIAEAを、大幅に充実させる必要があるでしょう。