IPEの果樹園2008

今週のReview

5/26-5/31

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

イギリス人,お断り! ユーロ崩壊, 日本の再生のために, チベットのハマス, 金融モンスター, グローバリゼーションと国民的な保障, ヒトラーと宥和政策, 開発プラグマティズム

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


The Guardian, Thursday May 15 2008

Poland is overtaking Britain on the road to Europe - and to the euro

Timothy Garton Ash

(コメント) 世界(そしてアジア)のホテルや飲食店で,『日本人,お断り!』と注意する札が立っていないでしょうか?

「ポーランドのオックスフォード,クラクフでは,イギリス人の評判が良くない.彼らは安いジェット機で酔った雌鶏を求めて週末にやってくる雄鶏であり,殺し屋どもだ.この保守的なカソリックの町にある,丸石を敷きつめた舗道で,半裸のまま,大酒を飲んで騒ぐ.彼らはそれを「クラーキング(クラコウで騒ぐ,あるいは,ノルウェー沖の怪物のことか?)」と呼ぶ.中には,こんな注意を書くバーもある.『イギリス人お断り』 いっそ(ポーランド人が嫌う)ドイツ人の方が歓迎される.」

アッシュは,およそ30年前にジョン・ポール2世がローマ法王となってポーランドを訪れたときと比べます.彼は,初めて,その愛するクラクフの街を訪れ,200万人の市民に迎えられました.彼は石の一つ一つ,レンガの一つ一つに愛着を示し.一人の少女に問いました.「ポーランドはどこにある?」

当時,レオニード・ブレジネフがソ連の指導者で,ポーランドは共産主義国家でした.イギリスとポーランドは異なる世界に属したのです.西と東,NATOとワルシャワ条約機構,市場経済と指令経済.しかし,ポーランドの連帯が資本主義を復活させてから,ローマ法王が夢見たように,今ではポーランドも同じ世界にいて,EUに属し,より新しく興隆する諸国,中国やインドの挑戦に直面しています.

当時,戸惑う少女の胸に手を当てて,ジョン・ポール2世は答えました.「ポーランドはここにある.」 そして,もし彼女が今,幼い娘を連れてロンドンを訪れたら,100万人以上のポーランド人が働くロンドンを観て,思うかもしれません.「ポーランドはここにある.」

イギリスのクラクフ,オックスフォードの街で,ポーランド人は良い評価を得ています.彼らは大学や語学学校で学び,マネージャーやウェイター,ウェイトレスとなって働く.ここで働く配管工や大工も多くいます.彼らは酔っ払って,舗道で「オクシング(オックスフォードで大騒ぎ)」するようなことはありません.しかし30歳以上のポーランド人たちは,決して忘れていないはずです.ビザを取るために大使館で何時間も行列し,二流の市民として扱われ,わずかな貯えとしてドルやマルクを持って,かわいそうな甥は外でふるえながら待っていた・・・

そうやって苦労して西側で働いた人々が,今ではEUに加盟し,シェンゲン協定の下でビザも廃止している.イタリアより,そして,イギリスより進んで,2016年を目標にユーロを採用するでしょう.他方,イギリスでは(このままなら)保守党のキャメロンが首相となり,ゴードン・ブラウン以上にユーロに消極的です.もしドルやポンドの価値が下落し,ユーロの価値が高まって,かつてのようなポンド危機を繰り返すようになれば,国民はユーロの安定性に魅力を感じるでしょう.

将来,イギリスはユーロ圏への参加を,ポーランドに手伝ってもらうのかもしれない,とアッシュは想像します.

FT May 18 2008

The euro’s success could also be its downfall

By Harold James

(コメント) EU統合の最高の表現であるユーロ参加について,Harold Jamesは,その崩壊も起こりうる,と考えます.

イギリスのポンドが国際通貨の地位を失った歴史的瞬間は,1931年の金本位制からの離脱と,1956年のスエズ危機への介入失敗であった,とジェイムズは断言します.イギリスは第一次世界大戦により最大の債権国という地位を失い,成長率を下げて,国際競争力も失ったまま,政治的危機を繰り返しました.

現在のアメリカは,イラク戦争によって国際舞台における政治的支持を失いましたが,世界最大の債務国という地位を支えているのは民間資本流入であり,過去のイギリスのような帝国主義体制ではありません.ジェイムズは,民間資本が低収益でもアメリカに流入し続ける理由を,アメリカ社会が革新に優れ,成長率が高いから,しかも,資本にとって世界で最も安全と考えられるから,と指摘します.

スエズ危機のような政治的危機が起きるかもしれません.現在のアメリカ金融市場が示す,国内の住宅市場に配慮した低金利とドル不安を考えると,かつてのような低金利で民間資本は流入しなくなるでしょう.

しかし,ユーロはまだ歴史が浅く,その政治的な基盤は定まりません.解明諸国の政府は,ユーロをグローバリゼーションの代表として攻撃する始末です.また,ドルが国際通貨となった状況に比べて,今はまだアメリカが不可欠の超大国として存在し,たとえユーロ圏がアメリカ市場より大きくなっても,特に軍事力において,世界を動かせるのはアメリカだけです.

どれほどユーロがEUの理想であっても,ドルに代る条件を備えていない,と見るべきです.


The Japan Times: Thursday, May 15, 2008

Getting Japan to capitalize on its innovation

By ANDREI HAGIU and ROBERT DUJARRIC

(コメント) 円圏も,日米同盟も,日本型資本主義も,トヨティズムも,・・・古い話です.

日本の政治家や社会の指導的立場にある者たちは,古い産業の時代をいまだに再生したがっている.しかし,日本経済が本当に復活するためには,その古い産業システムを解体し,革新による新興企業と世界市場における競争を最優先したシステムに転換しなければならない,という主張です.

旧来の製造業では,中国やインドなど,世界中の新興工業諸国が市場で支配的になるでしょう.その中で日本企業が地位を維持することは,よほど海外生産拠点を用いても難しいのです.他方,サービス分野では日本企業によりも欧米の巨大企業が優位を築いています.日本企業はアジア企業と欧米企業とに挟撃されて,利益を生み出す源泉がますます低賃金の派遣労働者に向かう,という日本経済の自滅路線を描いて競争する始末です.

他方,携帯電話業界とアニメ業界の示す世界的な水準,その優秀さを,論説は高く評価します.問題は,それが世界市場を目指すことなく,世界的な企業の成功にもつながっていないことです.系列のシステムに依存して,銀行融資の担保主義に縛られ,古いタイプの日本資本主義が彼らの活躍を妨げている,と強調します.

その対策として,1.知的所有権を守る.2.ベンチャー企業向け融資を強化する.3.独占禁止法を強化して,創造的な新興企業を育成する.4.外国の資本や経営者に参入を促し,古いタイプの産業システムに取り込まれないようにしてやる.

なるほど,まったくそうだな,と思います.ただし,実際には,旧システムの良い面や新しいシステムの欠陥を日本の実情に合わせて解決するべきでしょう.・・・携帯電話やモバイルのネットワーク産業が,日本の東京や過密な都市から,その胡散臭い富裕層や犯罪ビジネスを一掃し,地方の小さな人間らしい都市に,多くの健全な新興企業を叢生させてくれたら,そして若者たちの雇用機会を潤沢にもたらすなら,中国の脅威やユーロの実現を過剰に心配したり,悲観したりすることはないのです.

FT May 21 2008

Tokyo shows mettle in the race for Africas ore

By David Pilling

(コメント) 第4回のアフリカ開発のための東京国際会議は,中国に対抗して,アフリカ大陸の資源獲得を狙う日本の国家戦略である,とPillingは注目します.その通りでしょう.

アフリカから45カ国の指導者や大臣を招くようです.・・・45カ国もアフリカの国の名前が言えますか? 日本人にとっては遠い存在であるアフリカに,日本が積極的に関与する条件はあるのでしょうか? ダルフールの国連活動に日本から要員を派遣する,という話も聞きます.ヨーロッパの伝統的なつながりや,中国の供給する安価な工業製品に比べて,日本は「援助(ODA)」以外の何を示せるでしょうか?

アフリカのレアメタルが欲しいからだ,とPillingは考えます.携帯電話にも,自動車にも,レアメタルは欠かせません.先行する中国政府の高官たちは,すでにアフリカ諸国を歴訪し,ナイジェリアや南アフリカの銀行を買収して投資の足掛かりとし,その関係を深めています.アフリカをめぐる国際会議や開発援助においても日中の対抗戦略は鮮明です.

日本の路線は,利益を強調する中国(国連や欧米による制裁が行われている国でも,それを無視して進出する)と,理想を強調するヨーロッパ(ガバナンスの条件を付けた援助や融資)との,中間を狙っていると言います.つまり,疫病や災害に対する援助と,アジア的な価値(?)を重視した貧困からの脱出策,ガバナンスへの理解です.そして,ODA予算が大きく削られてきた状況で,日本は一層の民間企業による経済取引を促進することを狙うわけです.

アフリカ(あるいはラテンアメリカにも,資源のある諸国)へのインフラ投資や民間企業の進出や貿易・投資に伴う情報提供,保険などへの助成は,開発諸国や新興工業諸国が一斉に強めるはずです.それを前提として,19世紀の帝国主義戦争とは異なるコースに向けるアイデアと制度化について,もっと日本政府は明確に発言し,力を入れるべきではないか?

FT May 21 2008

Opening up Japan

(コメント) 技術革新が活発で,国際競争力が高く,しかも世界の資源獲得において安定した供給先を確保できたとしたら,これで日本は安泰だ.と政治家やビジネス界は思うのでしょうか?

この論説の趣旨は,日本がもっと外国からの投資に市場を開放するべきだ,という以前から繰り返されているテーマです.税制を国際的な標準に揃えることや,外国からの企業買収に対する開放性について統一した見解を形成することが重要だ,という議論です.

私は何もかもFTやWSJのような主張が正しいとは思いませんが,一つ,彼らの主張に優れた点を観るとすれば,それは自由主義の原則をオープンに主張する姿勢です.保護主義を批判するのと同じ様に,その政策や制度が特定の利益集団に利益をもたらすことは明白であり,彼らは自由化に反対して当然なのです.しかし,それは日本の国民を豊かにするのか? 日本の投資家や日本の労働者たちは,それによって生活を改善できるのか? この点を政治家たちはもっとオープンに議論せよ,と求めています.

私たちは議論の質を深めることで,もっと社会を豊かにできるでしょう.

The Japan Times: Wednesday, May 21, 2008

Permanent SDF overseas deployment law endangers democracy

By CRAIG MARTIN

(コメント) さらに,憲法と自衛隊,安全保障論です.自衛隊の海外派遣や武器の携帯と使用,自衛権,交戦権を,だれが,どのように認めるのか? 決定には,制度的なチェックを用意し,政治的なバランスを反映しなければなりません.それがあいまいになれば,政府の権力は分裂し,混乱と無法状態を招きます.

CRAIG MARTINは,その法的な整備が自衛隊の海外派遣という政治的事情を重ねるたびに政府に曖昧でチェックされない権限を付与してしまっている,と批判します.アメリカやイギリス,カナダの例と比べて,日本の派兵はどのように説明されたでしょうか? 政治的な謀略によって軍事的な介入を犯した歴史は,世界中の国にあるのです.そして名古屋高裁による自衛隊イラク派遣違憲判決に対する政府の無反省な姿勢に,私たちはもっと深く憂慮すべきでした.これも「ブッシュ=小泉」の遺産です.


NYT May 15, 2008

The Terrified Monks

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT May 18, 2008

Fed Up With Peace

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) チベットと中国に関するKRISTOFの主張は説得的です.ラサにおけるチベット人による暴動は激しいものでした.中国人の経営する商店がおよそ1000軒も焼き討ちされ,10歳の子供も含めて市民が暴行され,投石を受けた,と伝えます.

しかし,まったく非暴力の抗議活動に対しても,中国政府の弾圧は容赦ないものでした.西側のメディアを締め出した後のチベット人居住地区は,チベットの境界よりもさらに広く,戒厳令を敷くこともないまま,多くの僧侶や市民を拘束し,拷問しています.彼らはこうした自分たちの話を外に伝えてほしいと強く願っている,と言います.

共産党の支配と中国経済への統合化は,チベット人の生活を改善した,と多くの者が認めています.しかし,彼らは信仰の自由や文化的な自律を望んでいます.だからブッシュ大統領は北京オリンピックの開会式にぜひ参加し,中国国民に訴えるべきだ,とKRISTOFは主張します.「チベット人の抗議を許すことは,中国の弱さを示すことではない.むしろ,国民の自信を示すものである」,と.

さらに,政府がチベットの信仰や民族性を否定すること,中国の歴史を学校で教え,漢民族の流入を促進することは,ダライ・ラマの非暴力主義に対する不満を強めている,と指摘します.このまま中国政府による弾圧が続けば,ダライ・ラマが影響力を失い,あるいは彼の死後,チベットにIRAやハマスと同じ武装闘争組織が誕生するだろう,と.

「チベット問題を解決する取引は可能である.ダライ・ラマ派は現在の「チベット自治区」を超える広大な地域を要求せず,今求めているよりも少ない政治的自律を受け入れる.中国は宗教的な弾圧を止め,ダライ・ラマが精神的な指導者に戻ることを許す.もっとも重要なことは,チベット地区への漢民族の移民を終わらせ,チベット的な性格を保存する.」

そうすることで,中国政府は国際的な信頼を高め,チベットのハマスがもたらす危険を回避できます.


FT May 15 2008

Burma’s victims pay price for foreign policy realism

By Philip Stephens

(コメント) イラク,コソボ,ダルフール,・・・ビルマ.人民を弾圧し,その災厄をも権力維持のためには顧みないような政府を,ビルマの人民が倒そうとすれば,リベラルな国際主義は積極的に支援するのでしょうか? そして,リアリズムはそれを見殺しにする?


FT May 15 2008

Britain must not cut loose its anchor

By Martin Wolf

May 21 (Bloomberg)

Central Banks Are in Line of Fire as Prices Rise

William Pesek

(コメント) 金融不安が一息ついたと思えば,世界の金融関係者はインフレを心配し始めています.インフレは短期で抑える方が,それを放置して長期に不況を招くより好ましいはずです.しかし中央銀行の姿勢について,政治家たちは不満を示し,金融政策に干渉します.

特に,インフレが石油や食糧などの国際価格の変化や,為替レート変動の影響で生じた場合,政治家たちの不満は強いでしょう.日本でも韓国でも,中央銀行はスケープゴートになります.しかも,Pesekが指摘するのは,韓国が日本と中国の間で双方の影響を受けやすい「サンドイッチ」になっていることです.そして,もちろん,北朝鮮の影響も受けますから,その困難な経済運営に対して,もっと地域(特に日本)の協力制度があっても良いはずです.


FT May 15 2008

Change is in the air for financial superclass

By David Rothkopf

(コメント) 世界各地で勃興するスーパーエリート階級と,ポピュリズム政治家や社会運動家たちとの衝突が,主要国で起きるかもしれません.

国際金融市場を再編し,拡大してきた近年の過程を経て,その取引と莫大な利益は,ごく少数の国の少数のトレーダーや金融機関の手に集中するようになりました.Alpha Magazineによれば,昨年,ヘッジファンド・マネージャーのトップが(一人で)得た富は30億ドル(3000億円以上)に達します.また上位50の金融機関が支配する金融資産の規模は50兆ドル,世界全資産の3分の1に及ぶのです.

そうであれば,政府や中央銀行が金融危機の回避や救済に躍起となっている一方で,それらは結局,彼らの協力もしくは指導が無ければ意味がないことになるでしょう.金融「危機」を理由に,彼らの利益を代弁しているだけではないか,とさえ思えます.

こうした富の偏在や危機の性格をめぐって,政治的な反発や非難が強まることは必至です.今や,金融市場の規制や富裕層への課税に関して,主要国政府が協力する姿勢が見えます.ドイツのケーラー大統領(IMFの前総裁)が「モンスターを飼い慣らすべきだ」と主張したことも例外的な声ではないのです.

それはまた,産油諸国に加えて,ロシアや中国といった新しい金融資産を支配する政治勢力が,それを政治的に利用するのではないか,という不安を裕福な諸国の国民に与えています.国際金融市場や通貨システムが,彼らの望まないような価値や政治的方針に従うことを阻止するために,スーパーエリート階級の利益だけでなく,もっと広い政治的基盤と優れた合理的根拠が重要になるわけです.

金融ビジネス・クラスの一部にも,そのような自覚は生じつつあります.

FT May 16 2008

Europe’s monstrous market misgivings

By John Thornhill

(コメント) Thornhillは,ケーラーに代表されるドイツの左派的なレトリックを取り上げ,ヨーロッパのアンチ金融利益という風潮が異常な水準に達している,と批判しています.ほかにも,フランス,イタリア,オランダにおいても,金融エリートを批判する声が政治のトップを覆っています.それは,経済的に明白な改革を行えない政治的な障害について,彼らが不正直で,真実を隠ぺいしようとしているからだ,と主張します.

その淵源は,政治家と銀行家,産業資本家が共棲していた第二次世界大戦後の快適な暮らし,協力関係を重視した資本主義のラインラント・モデルを懐かしむ彼らの発想や心理にある,と.しかし,21世紀の資本主義はそれでは発展できない.もっと技術革新を促し,起業家を奨励しなければいけない,とThornhillはFTで主張します.これは,もちろん,既述の日本資本主義批判と同じです.

他方で,多分に左派的な,カール・マルクスに依拠した彼らの要求は,資本主義を終わらせることではない,と指摘します.一方で,銀行や金融市場が繰り返した反社会的な行為とその結果は明白であり,大衆の反感は高まっています.政治家たちの認識がようやく自分たちの見ている現実に近づいたのだ,とETUC(ヨーロッパ労働組合協議会)のJohn Monks委員長は述べています.資本自由化を優先した英語圏の資本主義はその社会的な欠陥を露呈しました.

論説はJeffrey Friedenの世界資本主義を歴史的に包括した理解に希望を見ています.Monksが望むように,社会的な利益を共有するstakeholder capitalismを復活することは,それだけでは難しいでしょう.なぜなら,1.「各国の経済は世界に開かれているときに最も効果的に機能する」からです.しかしまた,2.「開放された経済は政府が世界資本主義への不満を吸収するときにだけ機能する」のです.フリーデンは中間の道を求めます.(少し意訳しましたが.)

グローバリゼーションは,逆説的なことに,より社会的かつ政治的に積極的な役割を果たす,有能な政府を必要としています.

BG May 18, 2008

Subprime zeitgeist

WP Sunday, May 18, 2008

The Old Titans All Collapsed. Is the U.S. Next?

By Kevin Phillips

(コメント) BGの論説は,世界経済を支えるアメリカが頼っていた「サブプライム」は時代を象徴する言葉になった,と主張します.新しい意味として,"subprime"とは,"Let's get out of here."あるいは,"utterly baseless"という使われ方をします.

Kevin Phillipsのアメリカに対する悲観のイメージは,次第に,アメリカ人の楽観を失わせているものです.ローマ,スペイン,オランダが,そしてイギリスが,歴史的にそうであったように,アメリカも次第に金融的な利益に溺れ,社会の活力を損なってしまいました.

アメリカが最初の変調を示したのは1968-72年でした.復興した諸国からの輸出攻勢を受けて,アメリカは貿易赤字を急速に増やし,ドル危機を頻発しました.東南アジアにおける敗北とウォーター・ゲート事件で名誉を失い,1980年代の末には冷戦が終わって,日本とドイツが勝利し,アメリカは敗北した,と嘆いたのです.

ところがその後,2001年の9・11をも超えて,アメリカ経済は急速に金融ビジネスを肥大させます.それはまるで,かつて農業や工業が成長を支えたように,金融ビジネスの繁栄だけでアメリカの成長を加速できるかのように主張するものでした.土や油にまみれて働くのは,中国人やインド人だけで十分ではないか? 豊かになるとは,もっと頭を使って金融カジノの波に乗ることだ.

アメリカ政府はそのために内外の制度を整備し,連銀は潤沢なドルを供給し続けました.そして,果てしのない資産市場のバブルが崩れたとき,オランダやイギリスと同じ歴史の転換がアメリカにも始まっています.

FT May 22 2008

Sovereign funds offer a wealth of benefits

By Peter Weinberg

(コメント) 金融的な投機である,などと批判するだけで良いのか? Weinbergは政府系投資ファンド(SWF)によって裕福な資本主義諸国の企業も経済を多くの利益を得ている,と主張します.少なくとも,フランス革命の評価を留保した周恩来に倣って,SWFの評価をするのは早すぎる,と認めておいてはどうか?

もしSWFsが長期的な視点で資本市場の機能を回復させる損失の償却に貢献しているのであれば,日本がバブル破裂後の処理にもSWFsを招き寄せていたら,もっと迅速な処理と力強い回復を実現していたかもしれません.

SEFsはその行動を監視され,批判されるとしても,それがどのような利益を実現し,その過程で社会に何をもたらすのか,すべての関係者が主張し,議論することです.


SIMON WINCHESTER Historical Tremors NYT May 15, 2008

William Pesek Chinese Quake Shows Change in Winds Across Asia May 16 (Bloomberg)

GUY SORMAN Earthquakes and the Mandate of Heaven WSJ May 17, 2008; Page A11

Amity Shlaes China's Katrina Shows Post-Communism No Big Easy May 21 (Bloomberg)

DANIEL A. BELL China Class Divide NYT May 21, 2008

Mure Dickie, Geoff Dyer and Jamil Anderlini Resolute amid the rubble; but rebuilding will test Beijing FT May 22 2008

NICHOLAS D. KRISTOF Earthquake and Hope NYT May 22, 2008

(コメント) 四川省大地震は,中国の政治・社会システムや,世界の中国観を変えるでしょう.


Spiegel Online, 16 May 2008

Vietnam Is the New China: Globalization's Victors Hunt for the Next Low-Wage Country

Alexander Jung & Wieland Wagner

NYT May 18, 2008

A Brighter Side of High Prices

By G. PASCAL ZACHARY

(コメント) 中国の工業地域で,賃金,その他のコストが上昇しています.競争力の維持に熱心な企業は,より安価な労働力を得られるところへ生産拠点を移す競争にも遅れるつもりはありません.中国を出て,ベトナムへ.この12月と1月だけで,1000以上の工場が朱好デルタを去ったと言います.

もちろん,高価格になった商品を生産する部門には新しい利益や投資機会が現れます.


The Guardian, Friday May 16 2008

The continuing catastrophe

Seth Freedman

WP Friday, May 16, 2008

The Miracle, at 60

By Charles Krauthammer

NYT May 18, 2008

For Israelis, an Anniversary. For Palestinians, a Nakba.

By ELIAS KHOURY

(コメント) イスラエルとパレスチナの双方の記念日について.日本と韓国,中国,東南アジアにおいても,幾分,その状況は似ているはずです.


The Japan Times: Friday, May 16, 2008

What if Barack Obama were a real Muslim?

By TOM PLATE

NYT May 16, 2008

Obama Admires Bush

By DAVID BROOKS

NYT May 18, 2008

Obama and the Jews

By THOMAS L. FRIEDMAN

LAT May 19, 2008

The fear of white decline

Gregory Rodriguez

WP Thursday, May 22, 2008

Middle Class Jitters

By Robert J. Samuelson

(コメント) ウェスト・バージニア州の炭鉱夫たちの中には,オバマがイスラム教徒だと信じる者がいた,ということです.イスラム教を信仰する多くの人々は素晴らしい,とTOM PLATEは書きます.オバマはインドネシアに住んで,彼自身はキリスト教徒でも,そのことを知っているのです.他方,オバマの精神的な指導者であったJeremiah Wright牧師は,紛れもなくキリスト教徒です.ただし,とんでもないデマゴーグに駆られたキリスト教の信者です.

一部の者はオバマをイスラム教徒と呼び,イスラム教徒を恐れる感情により大統領選挙を混乱させます.そのような誤謬を信じてはいけないし,重要な論点でもないのです.

あるいはまた,安全保障に関してオバマは弱腰であるとか,テロリストとの話し合いを優先する,という主張が強まり,オバマは論争でそれを否定するために,誰よりも過激な外交・軍事政策を支持しかねません.ところが,オバマの主張と言われているもの(パレスチナ国家の独立)は,実はブッシュ大統領が話した内容にも含まれています.アメリカが中東和平に求める条件は超党派的合意の部分が多くあるのです.

イスラム教徒や,テロリストとの対話,白人労働者の困窮,自由貿易への反感,などは,論戦を通じてオバマが不利を強いられた論点です.しかし,急速に変化し,誰もがマイノリティーになる現代のアメリカでは(それ以外の諸国でも),民族自決やマイノリティーのための議席割り当ては,政治システムとして正しく合意形成をもたらさないでしょう.白人,高齢,労働者の利益を主張するヒラリーの戦略は自滅します.

Robert J. Samuelsonは,白人たちが悲観しているとは考えませんが,幻想は失われたと主張します.職場の安定や将来の保証という願いは失われました.

FT May 19 2008

Taking on the free trade bogeyman

The Guardian, Tuesday May 20 2008

Mercifully, free trade has escaped a US onslaught

Bill Emmott

FT May 20 2008

Preserving the open economy at times of stress

By Martin Wolf

One Response to “Is Larry Summers the canary in the mine?”

Comments

(コメント) FTは,先進各国で政治家たちが論争に巻き込まれる保護貿易主義と,そうではない,本当の論点を考えます.

彼らは皆,グローバリゼーションの利益を享受しており,彼らの不満は職場の不安定性や所得格差,工業部門の雇用減少など,保護主義によっても解決できないものです.なぜなら,その原因はもっと深いところ,すなわち,世界市場に登場してきた新興工業諸国との開かれた競争にあるからです.すると市場を閉ざすより,むしろ彼ら(貧しい諸国)の成長を阻止し,技術移転を妨げるなら,先進工業諸国の国民は満足するのでしょうか?

しかし,それも答えになりません.アメリカだけで保護措置を行っても意味はなく,資源への需要増や安価な労働力の供給が爆発的に増えたことは変わりません.むしろ,新しく登場した富裕層に対する課税を協力して行うことや,年金,失業手当,医療保険などを充実させて,グローバリゼーションの調整コストを社会的に負担することを考えるべきだ,と(元来,ビジネス・金融の利益に従う)FTが主張しています.

Bill Emmottも,大西洋の両側で高まる保護主義の機運に警告します.開放経済が不況になれば,貿易収支の不均衡や為替レートの水準が相互への非難をもたらし,保護主義や軍備拡張を叫ぶ経済ナショナリズムが政治の表舞台に登場し始めます.この点でオバマは開放経済を擁護している,と称賛します.

大統領候補たちは,たとえ保護主義を示唆するとしても,その対象を近隣諸国(メキシコ,コロンビア,カナダ)に限り,中国に向けていません.それはもちろん,WTOがあり,また,主要なアメリカ企業が中国に進出しているからでしょう.現在の保護主義は自由化の交渉を阻むだけで,グローバリゼーションを逆転させることはないだろう,とEmmottは考えます.

Martin Wolfは,Lawrence Summersの論説を取り上げています.サマーズが労働者の利益を強調したのは,グローバリゼーションが貧しい国の利益を増やすことを嫌って豊かな国の利益を主張したのではなく,政治システムが各国に分割されていることを重視したのだ,と注意します.中国やインドが豊かになる過程と,すでに豊かな国の労働者たちの利益とを,プラスに結び付ける仕組みが,政治的に,必要なのです.さらに,グローバリゼーションの維持は,貧しくなる諸国の政治的な安定性,資源獲得競争の緩和,を必要とします.

実際,アメリカは,2001年以後,石油など国際商品価格の高騰とドルの減価で交易条件が悪化し,グローバリゼーションによって貧しくなる傾向があります.しかしその原因は,アメリカの政策によって変更することができないため,当面,アメリカ政府には何もできないわけです.たとえば,技術や知識の移転を阻止しても成功しないでしょう.

Wolfがグローバリゼーションにおいて強調するのは,労働者の職場を安全に,安定的に維持することであり,その仕組みを提供するのは企業ではなく国家でなければならないこと.また,国際規制は主要国による合意と指導力が試される一方,政府は増税と再分配を単独でも行える,ということです.国際協力の欠如や他国の動向を理由に,また,国際競争力の維持・強化を言い訳にして,政治の無策を許してはならない,と.

要するに,各国の政治家が真の問題について議論することです.グローバリゼーションには多くの利益があり,その不利益を抑える再分配や社会保障のシステムは実現可能です.それを邪魔しているのは,グローバリゼーション自体(さまざまな見えない敵)ではなく,私たちの政治的な限界であり,指導者たちの誤魔化しなのです.

サマーズはDevesh Kapur, Pradap Mehta and Arvind Subramanianの批判に応えて,アメリカの保護主義やユニラテラリズムを主張していない,と指摘します.規制や社会保障を主張しており,国際協力を訴えたものである,と.知的所有権,資本自由化,労働基準,についてサマーズは意見を述べています.しかし,「自由貿易のお経を唱える」だけでなく,利益を共有できる社会を設計するべきだ,と主張します.

インドや中国の経済学者から,アメリカは保護主義に向かうのか? という批判が起きるのは興味深いことです.

The New Yorker, 22 May 2008

The Free-Trade Paradox

James Surowiecki

(コメント) オバマやヒラリーが大統領になって,中国との貿易を阻止すれば,アメリカの労働者たちは雇用を得て,生活が楽になるだろうか? とSurowieckiは問います.・・・米中貿易戦争が誰にとって望ましいのか? 労働者はその生活必需品の価格が上昇し,海外に失われた雇用は容易に戻ってこない,と知るでしょう.経済不況が悪化するなら,もっと激しい苦痛を味わうのです.


BG May 17, 2008

Bush's appeasement malarkey

LAT May 17, 2008

Negotiating isn't appeasement

J. Peter Scoblic

The Guardian, Monday May 19 2008

Down with Hitler!

Matthew Duss

IHT Wednesday, May 21, 2008

It's also called diplomacy

Charles A. Kupchan and Ray Takeyh

(コメント) 1938年,ナチス・ドイツによるズデーテンラント併合をイギリスのチェンバレン首相は許しましたが,1939年,ヒトラーのポーランド侵攻と第二次世界大戦は避けられませんでした.この「宥和政策appeasement policy」を持ち出して,ブッシュ大統領はイスラエルの国会でオバマの外交方針を批判したのです.

ブッシュ大統領は,彼が今までそうしてきたように,外交政策の失敗を「成功」と思いこむ姿勢を変えません.BGが簡潔に示すように,今では,ブッシュ政権自身がEUのフランスやドイツがイランと核施設の問題で交渉するのを支持しているのです.軍事侵攻によって政治体制を転覆したイラクが失敗し,逆に,交渉によって核開発を阻止するリビアや北朝鮮に対する試みが重要な成果をあげました.

アメリカ単独で軍事力を行使すること,国際条約や国際機関を無視すること,イランとの交渉を拒んで孤立させることは,ブッシュ政権が犯した深刻な誤りです.オバマはその反省に立って,ブッシュの残した悲劇的な結末を収拾しなければなりません.

J. Peter Scoblicは,保守派の誤ったレトリックを批判します.保守派は冷戦中も,ずっとこのたとえで政府を批判してきました.トルーマンやアイゼンハワーの「封じ込め」政策も宥和,キューバ・ミサイル危機でアメリカによるキューバ侵攻を否定し,ソ連と合意したケネディーも「宥和」,ソ連との戦略兵器制限条約(SALT T,II)も「宥和」,として非難しました.1987年にゴルバチョフとレーガンが中距離核ミサイルを制限した際,議会の保守派は彼らのことを「ヒトラーとチェンバレン」と呼んだのです.

Matthew Dussも,保守派の外交政策とは「ヒトラー,チェンバレン,チャーチル」に尽きる,と考えます.ヒトラーのような,宥和できない敵を殲滅するためには,軍事力を行使しなければならない.自分たちはチェンバレンではなく,チャーチルだ,と主張します.

しかし問題は,軍事力をいつ,どのように行使するのが適当か? です.ブッシュ大統領が行ったイラク侵攻は,イラクの内戦を招き,シーア派(イラン寄り)政府を誕生させ,地域を不安定化し,石油価格を上昇させ,アメリカの国際的評価を落とし,何より,最も望まなかったイランの影響力を増大させたのです.

Charles A. Kupchan and Ray Takeyhは,重要な紛争を解決に導くときには,必ず指導者による直接の交渉と現実的な決断が必要だった,として多くの例を挙げます.ニクソン訪中,マレーシアとインドネシアの和解,ブラジルとアルゼンチンの和解,など.

もちろん,敵と話し合い,合意することが,すべて解決をもたらすとは言えません.しかし,その機会を逃すことは許されないのです.

WSJ May 19, 2008

Bring On the Foreign Policy Debate

JOHN R. BOLTON

(コメント) アメリカ外交の保守強硬派と言えばジョン・ボルトンです.この論説で,ボルトンは外交の99%は交渉だ,と考えるのが我々で,100%が交渉だ,というオバマと違う,などと修辞的に反論します.無条件に話し合う,というのは意味がなく,交渉することで何を得て,何を失うのか(機会費用),明確に考えておくことを主張します.

敵と交渉することは,1,敵に交渉相手としての正当性を与える,2.敵に時間を与える.その時間で敵は軍備を整える.たとえばナチスは工業力を高め,イランは核技術と核兵器を得ようとしている.3.交渉することで,他の重要な問題から関心(そしてさまざまな作業のためのスタッフや労力,時間)が奪われる.

今こそ,いつ,どこで,交渉するべきかを,マッケインはオバマと論争しなければならない.その点で,無条件な交渉を主張するオバマを批判したブッシュ大統領は正しいのだ,と.

WP Tuesday, May 20, 2008

The Hitler Analogy

Anne Applebaum

(コメント) 誰もが相手を非難するときには,「ヒトラー」と呼び,「ナチス」と呼び,「ホロコースト」を持ち出すだけでよい.政治党派やイデオロギーに関わらない.しかし1938年のヒトラーや第三帝国を持ち出して,現実の外交政策について必要な議論を封じるよりも,70年前の事件ではなく,2008年の具体的な事情を考慮した真剣な議論を始めるべきだ,と主張しています.


WP Monday, May 19, 2008

Putin's Gulag Stability

By Oleg Kozlovsky

(コメント) ロシアの安定や繁栄をプーチンの最大の成果として称えることはやめるべきだ,と投獄された非暴力の市民活動家は発言します.ここは強制収容所国家である.


Asia Times Online, May 20, 2008

How to rule the world after Bush

By Mark Engler

Asia Times Online, May 20, 2008

The mythical post-American era

By Ehsan Ahrari

NYT May 21, 2008

Imbalances of Power

THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 待ちに待ったブッシュの任期終了によって,グローバル・ビジネス・エリートたちはビル・クリントンの時代,自由貿易楽観論に回帰できるのか? あるいは,その眼に余る不平等に抗議するグローバル・コーポラティストの新しい国際秩序が現れるのか? このようにMark Englerは問います.

しかし,ブッシュ政権が国際機関を軽視する時間が長かったために,世界のパワー・バランスは変わり,国際秩序を改革する力は失われてしまいました.もっと不安定で,もっと危険な世界に,パワーの争奪戦が続くようです.

Ehsan Ahrariは,アメリカが覇権を握る時代がまだ当分終わらないことを注意します.しかしこの点で,THOMAS L. FRIEDMANは異なります.ブッシュ政権の失敗はそれほど深刻な結果を残したかもしれないからです.石油戦略で失敗し,競争力を失い,敵対する諸国・ネットワーク・個人の台頭を促しました.今や,財政赤字,貿易赤字,地政学上の赤字によって,アメリカ政府の力は制約されています.


Asia Times Online, May 20, 2008

The silver lining in high commodity prices

By Kenneth Rogoff

(コメント) たとえ価格が上がっても,騒がず,嘆かず,政府に頼ることもない,というのが正しい.石油や食糧の高価格は市場の正しいシグナルである.将来世代のために資源を確保する意味では,(それを先取りする)投機を非難することも正しくない.必要な介入は,一時的に貧しい者の食糧支出増を補償してやることと,長期的に耕作地の拡大を助けることである.


FT May 20 2008

Unbalanced engine: Germany’s economy is firing on all cylinders – for now

By Ralph Atkins in Frankfurt

(コメント) ユーロ圏の一部となったドイツの経済運営に関する考察です.マルクの増価によってインフレを抑えることはできないし,ユーロ圏の不況に対して低金利や支出の拡大,消費を強く求められます.ドイツは,ある意味で,ユーロ圏という固定レート制の世界に戻ったのです.


The Guardian, May 20 2008

The apocalyptic mind

Robert Skidelsky

The Guardian, Wednesday May 21 2008

The uses of unreason

Andrew Brown

(コメント) 地球環境破壊や気候変動に関する科学と宗教的な終末論との混合物をSkidelskyは批判します.健全な懐疑主義を保持せよ,という姿勢でしょうか.日本人は,どこまで気候変動について確信しているでしょうか? サミットが近いから,政府はその宣伝に励んでいるだけではないか,と思います.こんな大きな変化や災害が起きるから,というより,文明や文化の質を問題にしてほしい,と思うのです.


FT May 21 2008

A proposal to improve regulatory liquidity

By Morris Goldstein

WP Thursday, May 22, 2008

Fallout From a Bailout

By Vincent Reinhart

(コメント) Morris Goldsteinは,金融市場の不安が招いた流動性の問題を指摘します.中央銀行が「最後の貸し手」の原則を破って,ますます多くの金融機関に対して,ますますどのような資産でも担保として認めて,流動性供給に応じれば,民間銀行は流動性危機に対する警戒をしなくなる(そして危険な長期融資を増やす),というわけです.バーナンキのベア・スターンズ救済や,イギリスではノーザンロック破たんで明白になったことです.

それを解決するために,中央銀行が担保として認める資産は財務省証券・国債のみとし,民間銀行には最低限の保有規模を義務付けることにします.彼らはこれを中央銀行に預けて,危機が起きれば自分の預託準備を利用して融資を受け,あるいは追加の融資を他の銀行の準備から借り受けます.これを他行は拒むことはできません.

明らかに,国内の銀行にも国際金融でIMFが果たすような仕組みをもたらすわけです.中央銀行は民間銀行の打ち出の小槌ではなくなり,うまくいけば,民間銀行はリスクを互いに自己抑制し,健全な「最後の貸し手」の条件が整います.私的な投機的利益のために公共の利益が損なわれることを防ぐ仕組み,です.

Vincent Reinhartは,バーナンキによるベア・スターンズ救済が,その後の議会における渋滞債務者への救済権限を付与する動きを過熱させている,と指摘します.大銀行が救済されて,もっと苦しんでいる住宅債務者たちを救済しないような政治家を,次の選挙で有権者たちは許さないでしょう.同時に,連銀が金融危機の回避に失敗し,権威を失ったことで,政治家たちは債務者救済の責任を金融政策の失敗に押しつけます.もちろん,金融市場の規制を強化することも議会は強く主張できます.


FT May 21 2008

Asian currency moves

FT May 22 2008

Growth challenge

(コメント) 1997-98年のアジア通貨危機やロシア・LTCM危機,2001年のアルゼンチン通貨危機を経て,「ワシントン・コンセンサス」は否定されました.ここでもラディカルの批判は(すくなくとも現実認識の部分は)ようやく政治的主流派の正統な理解となったわけです.

しかし,資本移動が衰えたのは大幅に安くなった為替レートの水準で外貨準備を増やし,また,欧米金融市場で不安や危機が起きたからでした.もはやさまざまな条件を付けて援助や融資を出し惜しみする欧米諸国やIMFは存在しません.ウォール街が資本増強のためにアラブ,ロシア,アジアの外貨準備によるドル還流を切望し,他方,石油価格高騰やインフレ抑制,ドル安のために自国通貨の増価を望むようになったのです.

これをある報告は「プラグマティズム」と呼びます.グローバリゼーションであれ,開発であれ,通貨危機であれ,基本原則を守り,柔軟かつ現実的な対応において,政府の能力が問われているのでしょう.


LAT May 22, 2008

The battle for labor's future

By Nelson Lichtenstein

(コメント) 現在,もっとも急速に拡大するサービス部門労働者の組合SEIU(the Service Employees International Union)に関する記事です.ビジネス界にも認められ,拡大すると同時に,内部の対立が指摘されています.

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The Economist May 10th 2008

Black America: Nearer to overcoming

Peru: Poverty amid progress

Germany’s security strategy: Thinking the unthinkable

Buttonwood: Backing greens with greenbacks

Argentine lending: Who needs credit?

Economics focus: A tale of two worlds

(コメント) アメリカの黒人は人種差別や貧困の罠から脱出できたのでしょうか? この特集記事は,冒頭に,スラム街でクラックの買人などをする家族で育ったFryerがハーヴァード大学経済学部教授のテニュアを得た,という話から.教育は重要だ.しかし,黒人の若者たちは「学ぶ」ことを,格好悪い,裏切り,と思うようです.Fryerが試みた実験は,携帯電話で勉強させること.日本のモデル校がまねしそうな話です.

ペルー経済は資源の高価格で成長している例ですが,地方の貧しい農民は取り残されています.交通網などのインフラや学校を改善しなければなりませんが,官僚の質が悪い.政府に頼らず,「資本主義革命」を普及する,というのが記事の趣旨です.

アル・ゴアは環境保護の殿堂だけでなく,環境ファンドの資金集めも仕事です.このファンドが環境保護に役立っているのか? という記事です.また,アルゼンチンの絶好調は,通貨危機と社会的貧困化がもたらした「資本家のパラダイス」が一時的に成功しただけだ,と述べています.

そして,中国,ロシア,ブラジル,インドなど,新興諸国の成長がアメリカの不況を補ってくれるためには,その経済運営,特に金融政策と為替レートに自律性を回復する必要がありそうです.アメリカの金利や為替レートにリンクして得られた安定性や市場,投資は,もはや反対に,インフレと競争力・投資機会喪失の罠に変わってしまいました.しかし,切上げも難しそうです.