IPEの果樹園2008

今週のReview

5/19-5/23

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

グローバル・ガバナンスの改善, イギリス労働党の敗北, ミャンマーのサイクロン被害, アメリカの戦争, アメリカの労働者か,世界エリートか?

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


FT May 8 2008

A hardened idealist: Obama’s toughest fight

By Edward Luce

(コメント) ヒラリー・クリントンがオバマを苦しめるほど,マッケインは有利になります.逆に,ヒラリーが敗北を認めて,民主党の勝利のためにオバマを支持すれば,マッケインの不利が目立つはずです.

しかし,ヒラリーによるオバマへの攻撃は,特にアメリカ軍の最高司令官としてふさわしくない,という主張は,まるでマッケインのための主張でした.演説がネガティブ・キャンペーンに流れて,さらに,オバマが白人の労働者層に支持されていないことを強調する結果になりました.マッケインは,従来の共和党支持基盤ではない,白人労働者の街に現れて演説するようになりました.

オバマの今後の選挙戦は,ヒラリーの撤退が持つ意味によって変わります.あるいは,ヒラリーがオバマと組んで副大統領候補になる可能性もあるのです.既存の政治を継続して,ジョージ・ブッシュ第3期政権となるマッケインではなく,オバマが選挙戦で主張してきたような,国民健康保険,イラク撤退,地球温暖化対策,景気回復,などを新しいやり方で実現すること,新しい政治がテーマとなるのか?

むしろ,ヒラリーやマッケインが批判するように,それはオバマの経験不足,美辞麗句に過ぎず,行動を伴わない,理想主義,リベラリズム,エリート主義なのか? 現実の権力政治と外交を得意とするヒラリー&マッケイン陣営に,若い空想的な改革派のオバマが敗北する?

NYT May 9, 2008

Sen. Clinton and the Campaign

NYT May 9, 2008

Thinking About November

By PAUL KRUGMAN

WP Friday, May 9, 2008

Too Late to the Duck Hunt

By Charles Krauthammer

LAT May 10, 2008

Idealism, refashioned

Tim Rutten

FT May 11 2008

In hope of a principled campaign

By Clive Crook

(コメント) ヒラリー支持を表明してきたNYTが,その社説で,ヒラリー・クリントンはひどい間違いを犯している,と主張します.それは,自分が候補になるために,ネガティブ・キャンペーンに走り,保護主義やポピュリズムを強め,民主党の候補決定方式に混乱を持ち込んだからです.

ヒラリーは,アメリカのために,また民主党のために,ブッシュの富裕層に偏った減税政策を逆転し,市民権の保障を掲げてなされてきた歴史を否定しようとする保守派の最高裁判事指名を逆転しなければなりません.これ以上,醜い指名争いを続けて,オバマの評価を傷つけ,民主党の団結を破壊することは,ヒラリー自身の評価を大きく損なうでしょう.むしろヒラリーは強い影響力を保持して,上院議員の地位を保つべきなのです.

PAUL KRUGMANは,通常,大統領選挙で言われる「法則」が民主党候補の優位を示している,と指摘します.すなわち,経済状態が悪化しつつあり,現在の大統領は不人気で,2期を務めた後の不満が支配政党の交代を求めているわけです.

しかしまた,これまでの経験では,この時期の数字で秋に何が起きるかを予想することはできない,ということです.ただ一つ問題は,長引く指名争いが民主党の基盤を分裂させていくことです.今,オバマがなすべきことは,経済問題に論争を集中して,それによって労働者層の支持を獲得するべきだ,と指摘します.

Charles Krauthammerは,ヒラリーが文化的・性格的な特徴によってオバマを批判することに成功した,と分析します.ヒラリーは高齢の女性・白人労働者に支持され,ヒスパニック系にも支持されるでしょう.彼らをオバマの支持基盤から隔離します.

しかし,オバマが成功したのは,個人として示す政治的な魅力を理想主義の力によって高めたからです.彼の演説の技量はケネディー兄弟を超えている,とも言われます.

重要な原則について,今後の選挙戦は関心を絞るべきだ,と言えるでしょう.そうすることで,互いの政策,そしてマッケインとの違いが,選挙運動によって明確になるのです.アメリカが何になりたいのか,示すべきです.


Asia Times Online, May 9, 2008

G7 loses grip on global policy to O5

By Barry Herman

(コメント) グローバル・ガバナンスの改善策を具体的に議論することに,私たちはもっと関心を払うべきではないでしょうか?

Barry Hermanは,国際経済を監視し,政府間で調整する様々な国際機関を取り上げています.IMF,世界銀行から,BIS,OECD,また国連のさまざまなフォーラムが具体的な問題で国際合意を促すこともあります.

一つの重要な国際会議は,そのメンバーを柔軟に変化させて現実の課題に適用しようとしてします.すなわち,G7は経済・金融分野のサミットとして機能しましたが,ソ連崩壊後にはロシアを参加させてG8とし,また2007年にはドイツの主張によりブラジル,中国,インド,メキシコ,南アフリカを拡大5カ国(the Outreach 5)として招きました.相互に関心のある,たとえば,アフリカの開発やCO2規制について,協力するためです.

しかしHermanは,同時に,こうした拡大の試みは国際機関が所詮は無力なものであることを示した,と指摘します.IMF・世銀はその能力においても信頼性においても著しく損なわれ,WTOの貿易自由化交渉は行き詰まり,G7は世界経済を動かす有効な政策を持ちません.アメリカの金融危機やEUの内部分裂は,世界的なレベルで経済改革を促す国際会議を求めているようです.

2001年の9・11の後,国連が「開発を促す金融」について国際会議をメキシコ,モントレーで開催しました.開発支援,債務削減,国家破産処理,発言参加,について話し合い,2008年末には,カタールのドーハで第二回の会合が行われます.

もちろん,世界が直ちに国際経済改革のための計画に合意することはないでしょう.まず,ガバナンスの問題を見極め,特に貿易と金融において小さな改善策が試みられるでしょう.次に,さまざまな制度改革の提案がなされて活発に議論されるでしょう.最後に,改革を通じて,新しいシステムが目指されるのです.

チリ財務省のWTO代表,Eduardo Galvezによる提案が紹介されています.開発金融のために,さまざまな関係者を集めた複合的な会合を創設する"an integrated multi-stakeholder forum, council, or a committee on financing for development"というものです.その目的は,省庁の権限を超え,国際制度の違いを超え,政府と民間の参加を得て,世界経済・金融問題についての全体的な見通しを得ることです.

世界経済の,統合した,効果的で,民主的な,ガバナンスの具体化が求められています.

FT May 14 2008

The downside of joining the superpower club

By Victor Mallet

(コメント) この論説は,中国について,超大国になることの条件を自覚するように求めています.超大国というのは,国際会議で意見を述べたり,世界中に飛行機を飛ばしたり,気に食わない小国の政治体制を転覆するだけではありません.

つまり,この災害は中国政府にとってのカトリーナではないか? 中国の行動はますます世界中から関心を集め,インターネット上で議論されるでしょう.チベットの暴動鎮圧や北京オリンピックに限らず,国際社会は中国の行動についてさまざまな矛盾した要求をします.それに対して中国国内ではナショナリスティックな反発が生じるのです.

「われわれが市場を閉ざせば軍艦をよこし,アヘンを売りつけた.しかし,われわれが自由貿易に加われば,仕事を奪うと非難する.われわれが10億人に達したら地球が破滅すると言い,一人っ子政策をとれば人権侵害だという.」「工場を建てれば汚染を気にし,安価な輸出を増やせば自分たちの赤字が心配になる.石油を買い求めれば,あなたたちもやっているが,搾取やジェノサイドを支援していると責める.」「われわれに何を求めているのか?」

Malletは,この中国の反応を知って喜びます.どうだ,アメリカの苦しみが少しは分るだろう,と.ヨーロッパの関心は,急速に,アメリカと並んで中国を敵視するものになりました.中国の軍事力はアメリカに大きく劣るけれど,世界の関心の高さから見て,すでに超大国となったのです.自信満々,傲慢,自国のこと以外には関心がない,という点で中国とアメリカはそっくりだ.他方,中国が何をしてもその影響を受ける国が多く,中国の軍備増強や主張が変化すれば自国の政治にも影響がおよぶ以上,多くの関心が集まるのは当然です.

四川省大地震について,中国政府は軍を動員して迅速な救援活動に努めています.その意味では,情報を隠して人民の犠牲を顧みないミャンマーの軍事政権とは違います.しかし,超大国であれば,アメリカがそうであるように,これからも世界中の監視の目が集まり,さまざまな意見や批判が溢れるでしょう.たとえば,四川省大地震,北京オリンピック,チベットとダライ・ラマ,・・・

中国が返す答えによっては,超大国としての中国を歓迎する前に,より多くの心配と不安,恐怖が世界に広まるでしょう.


The Guardian, May 9, 2008

Inflated claims

Joseph Stiglitz

May 12 (Bloomberg)

Inflation Fight in Sydney Is Good News for World

William Pesek

(コメント) Stiglitzによれば,インフレ目標の採用こそ,マネタリズム(全然間違っている)や自由貿易(条件次第では生活水準が悪化する)を押し付けることに並んで,世界に流行する間違った信念です.現在,世界に及びつつある石油や食糧の価格上昇が,このインフレ目標を採用した諸国(Israel, the Czech Republic, Poland, Brazil, Chile, Colombia, South Africa, Thailand, Korea, Mexico, Hungary, Peru, the Philippines, Slovakia, Indonesia, Romania, New Zealand, Canada, the UK, Sweden, Australia, Iceland, and Norway)において国民をさらに苦しめるでしょう.

インフレ目標の信仰に従えば,国際的な価格上昇によって輸入されたインフレに対しても,多くの国が金利を引き上げなければなりません.それは国際価格に影響することもなく,国内の不況や失業を増やすことで,わずかにインフレを抑えるでしょう.むしろ,インフレ率の低いアメリカこそ,金利を引き上げることで,国際価格の上昇に影響できるのです.ところがバーナンキは,世界中にインフレ目標を広める一方で,アメリカの金融危機と不況を回避するため,金融緩和に熱心です.これは周辺諸国の新しい搾取である,と批判されるのも当然です.

Stiglitzの提言は,1.政治家や中央銀行は輸入されたインフレを無視せよ.2.石油や食糧の高価格が特に社会的な弱者を苦しめることを認めて,可能な対策を駆使せよ.たとえば,バイオ燃料の補助金は撤回し,富裕諸国の農業補助金は貧しい諸国の食糧確保のために使用せよ.3.インフレを理由に不況を悪化させるインフレ目標をただちに全廃せよ.

オーストラリア準備銀行のGlenn Stevens総裁は,インフレ鎮静化に苦心しているようです.

The Guardian, Monday May 12 2008

Wrong then, wrong again

Dean Baker

FT May 12 2008

How banks can put their houses in order

By Charles Dallara

FT May 12 2008

Beware parallels between America and Japan

By Takatoshi Ito

FT May 15 2008

Monster-bankers

SPIEGEL ONLINE 05/15/2008

Former IMF Head Says Global Financial System 'Came Close to Collapse'

Horst Köhler

(コメント) 金融市場の信用は回復し,不況は来ない,というエコノミストの予想は当てになりません.住宅バブルの破裂により,人々は資産価値を失い,消費を削るでしょう.また企業の倒産も増えるでしょう.

国際金融ビジネスの民間部門を代表するIIF会長,Dallaraは,規制の強化と業界の自主規制が対立しているのではなく,正しいのは規制による正しいインセンティブの構造であり,その上で市場を機能させることだ,と従来の主張を繰り返しています.

伊藤隆敏の論説は,ヒラリー・クリントン(日本は金融緩和だけに頼りすぎた)とビル・エモット(日本は金融緩和が遅れ,財政支援も失敗だった)の対照的な主張を紹介して,日本のバブル破裂後に停滞が長引いた理由を,アメリカの現状と比べながら整理しています.日本は何よりも銀行が損失の恐れ(不良債権)を公表せず,政府がそれを隠ぺいすることに協力して,公的資金を使って処理を助けました.それはむしろ停滞を長引かせたでしょう.

他方,アメリカは迅速に公表し,損失の償却や資本増強策を取りました.政府と連銀は不況回避策を迅速に取っており,今のところ,住宅価格の下落も日本とは比べ物にならない程度です.ヒラリーにもエモットにも加担していませんが,アメリカの不況は軽く,回復は早いだろう,という意見です.つまり,アジア(そして日本)の危機を経験した金融関係者たちは,アメリカが同じように苦しむだろう,と喜ぶべきではない(それぞれの改革を競え),です.

IMFの前総裁でもあった現在のドイツ大統領,ホルスト・ケーラーHorst Köhlerの発言について,FTは憤慨します.ドイツ人はグローバリゼーションの利益を最も享受しておきながら,グローバリゼーションを「モンスター」として最も悪しざまに非難する,と.ほかにもドイツ人の政治家は,工場をルーマニアに移転したフィンランドの携帯電話会社ノキアを非難して「キャラバン資本主義」と呼び,2005年にはヘッジ・ファンドを非難して「イナゴの大群」と呼びました.

SPIEGELのインタビューに答えて,そのケーラー大統領は,金融市場の危機を懸念しています.その崩壊が私たちの生活を破壊するリスクを解消するには,利潤を追求することで「モンスター」になった金融ビジネスをもっと規制するべきだ,というわけです.


NYT May 9, 2008

The Conservative Revival

By DAVID BROOKS

The Japan Times: Saturday, May 10, 2008

Britain's next government must beat mood of retreat

By DAVID HOWELL

FT May 14 2008

Brown’s best shot is a clearer focus

(コメント) イギリスでは政権を取っている労働党に代って,地方選挙で保守党が勝利しました.それはアメリカの政治にも影響するでしょうか? サッチャーとレーガン,ブレアとクリントンのように.英米で一致しないこともありますが,アメリカの保守政治はイギリスから学ぶことができるでしょうか?

・・・20世紀は政府をめぐって論争し,保守党は個人を重視し,労働党は国家を重視した.しかし21世紀は「生活の質」が論争になる.有権者が望む生活の全体を,政治家は実現しなければならない.政治はかつて「経済の再建」を問題にしたが,これからは「社会」が中心である.われわれは家族や近隣居住区を守り,要するに「社会」を守るのである.・・・「社会なんて存在しない」と断言し,炭鉱ストライキを撃破したサッチャーの保守党とは,まるで正反対の主張です.

保守党は社会のきずなを回復する政党であり,労働党は国家や官僚制のメカニズムを重視する政党である.保守党は小規模な,分散した,双方向の,有機的ネットワークを重視する.学校でも,病院でも,労働党は大規模化・効率化を進めて集約したが,保守党は分割し,多様化する.結婚,家族,子どもの視点から,環境保護や市民生活,移民の同化を求めるのである.

保守党のキャメロン党首は,Australia, France, Germany, the Czech Republic, California and New York,世界中で保守化が強まっていることを指摘します.保守党は,単に労働党政権の長期化に対する不満や政策失敗によって支持を得ただけでなく,サッチャー主義を超えて,時代に応じた政治的動向を組み入れたようです.

DAVID HOWELLが指摘するように,保守党は若い指導者を立てて,ブレアに比べて地味なブラウン首相が,世界的な金融危機に苦しむ機会をとらえ,民主主義に特有の現象として,10年の労働党政権に飽きた有権者の心をつかみました.しかし,もっと広く政治的状況を観れば,単に王政と天皇制とが似ているだけでなく,イギリス政治の混迷は日本と似ているようです.

ブラウン首相も福田首相も,国が漂流しているのを止めることができません.ブッシュ政権は終わりに近づき,アメリカとの特別な関係は薄れて,他方,中国やEUとの関係は定まりません.危険で,しかも急速にパワーが移行しつつある世界で,自国をどこに導くのか,指導者は明快に語る責任があるにもかかわらず,彼らはそれを示せないのです.

すなわち,混迷と後退に沈んだ政治です.次の選挙では,1.われわれは何者か,2.この国や社会はどうあるべきか,3.われわれはどこに向かうのか,これらについて積極的な答えを示すことのできる,魅力的な指導者を建てる政党が勝つのです.

FTも,ブラウン首相が政権の死命を賭けた改革目標を示して,この2年で具体的に成果を示すことだ,と述べます.


Christopher Caldwell Disasters and dictatorships FT May 9 2008

ROBY ALAMPAY No News Is Bad News NYT May 10, 2008

Shawn W Crispin The case for invading Myanmar Asia Times Online, May 10, 2008

Ivo Daadler and Paul Stares The United Nations can save Burma BG May 13, 2008

China's crisis to solve The Guardian, May 13, 2008

Bridget Kendall Two disasters, contrasting reactions BBC 2008/05/13

(コメント) 「イラワジ川デルタ地帯の約2000平方マイルがサイクロンによって水没しました.人口の密集する地域で,コメの生産の3分の2がここに集中します.少なくとも100万人が住居を失いました.伝染病についてのパニックが広がります.しかし,軍事政権は援助関係者の入国にもビザを発行しません.」

援助関係者は我が国政府の担当者と交渉せよ,と求めています.被災者たちが生き延びるために必要な飲料水と食糧を無償で提供すると約束する団体に対して,何を交渉するのか? この反応はミャンマー(ビルマ)政府に対する(発言を圧殺された)国民と国際社会の評価を決定的にしました.とはいえ,Caldwellは災害の処理において独裁政治が劣っているとは限らない,と例を挙げて指摘しています.またカトリーナ(あるいはコソボ,占領後のバクダッド)と比較する場合も,有り余る資源を持ったアメリカ政府が被災者を救済できなかった例と,貧しいビルマとを,単純には比較できません.

国連の高官は,政府が受け入れなくても,国連が保証して国際援助を行うべきだと主張し,イギリスやアメリカは即座に支持しましたが,ロシアや中国は強く反対した,ということです.西側の援助を拒みながら,ミャンマー政府は中国,インド,インドネシアからの援助物資をすでに受け取っています.

ALAMPAYは,ミャンマーにおいて報道の自由がなく,情報が得られないことが,自然災害のもたらす苦しみを他の国以上に悪化させていることを強調します.しかし,その苦しみも世界には伝わってこないのです.

こうして,国際援助団体を守り,ミャンマーの国民を抑圧する軍事政権を打倒するために,軍事侵攻を求める声が現れるでしょう.アメリカが一方的な軍事力の行使を支持する事例ではないか,とCrispinは考えます.大統領としての成果を残す場合に,イラクだけでなく,人道的な国際的介入を行っておきたい,というブッシュ大統領の意向を推測しています.

フランスのBernard Kouchner外相も,国際社会にはビルマ国民を守る義務がある,と主張しました.彼は国境なき医師団の創立者として有名です.アメリカとイギリスはこれに同調して,国連安保理に持ち込む意向でしたが,ダルフールと同じく,中国とロシアが反対するでしょう.もしこうした人道援助の機会にも国連がまったく機能しないのであれば,国連の意義を大きく損ないます.

あるいは,中国政府が率先して援助するべきでしょう.そしてミャンマー政府を動かすことです.しかし,その後,中国の四川省を地震が襲いました.中国政府は,ミャンマーと違って,数時間後には温家宝首相が被災地に向かい,迅速な救援活動に努めています.最小限ではあれ,外国からのジャーナリストの報道も許し,国際援助も柔軟に受け入れました.それらは中国内部の政治状況が大きく変わっていることを示している,と論説は指摘します.

ROBERT D. KAPLAN Aid at the Point of a Gun NYT May 14, 2008

Shame on the Junta NYT May 14, 2008

Saved by China WP Wednesday, May 14, 2008

Martin Jacques His master's voice The Guardian, Thursday May 15 2008

Philip Stephens Burma’s victims pay price for foreign policy realism FT May 15 2008

(コメント) KAPLANは,アメリカ軍の配置が移動したことを指摘します.ミャンマー侵攻は軍事的には可能であり,その障害は政治的問題だけです.つまり,イラクがそうであったように,国際的な政治舞台で反対が強く,アメリカが有志連合で行えばミャンマー国内の分裂や崩壊が長引く恐れがあります.他方,バルカン半島やイラクと違って,民族対立が内戦を悪化させることはないでしょう.

問題は,ミャンマーに軍隊を送って勝利することではないのです.その後に,政治的安定性や経済的繁栄が実現するかどうか,です.そして一方的ではなく,アメリカが軍事力の行使を安保理や国際世論で問題にするとき,中国はそれに反対して独裁国家の弾圧や貧困状態に責任を問われることを心配します.

イギリス外相David Milibandの軍事侵攻を示唆する発言に,強い反対も起きています.ミャンマーがどこにあるか,周辺地域の事情も,知っているのか?

Philip Stephensは,ミャンマーの災害によって,主権を守るウェストファリアの合意(国連憲章,中国)にまで至る,リアリズム(ブッシュ)と国際リベラリズム(ブレア)の主張を想起します.そして,この相互依存を深めた世界で,国家主権に依拠した国際秩序と,人権や人道支援に向けた国際秩序が競合します.


FT May 9 2008

Living in a world of $200 oil

FT May 13 2008

The market sets high oil prices to tell us what to do

By Martin Wolf

(コメント) BRICsを流行させたゴールドマンサックスが,今度は,原油価格200ドル/バレルの世界を予測しました.それが,工業化する新興国家から資源をめぐる新しい投資機会に視点を変える宣伝文句であるのは確かですが,Martin Wolfは長期的な傾向がもたらす構造変化を問題にします.

要するに,今後とも石油価格の水準が,下がるよりは上がるとすれば,1.価格引き上げの陰謀など非難しても無駄だ,2.新興諸国の需要増を嘆いても無駄だ,3.石油価格が100ドルを超える水準であれば,それは世界のマクロ経済を動かす規模になっている.石油産出額(3兆ドル)は世界総生産額の5%だ.4.石油の効率的な利用と温暖化防止は両立する.ガソリンの最低価格を決めて効率化を促す時期だ.5.石油の世界市場を整備するべきだ(戦略的な配分を許さない).6.石油の次の燃料をみつけるために技術革新に投資するべきだ(エネルギーの自給にではなく).


New Statesman, 08 May 2008

Eric Hobsbawm on 1968

Eric Hobsbawm

(コメント) 1968年がヨーロッパやアメリカの政治家,知識人,学生,社会運動家にとって重要な年であるのは有名です.マルクス主義の歴史家,エリック・ホブズボームにとって,何が思い出なのか,短い文章を読みました.Nineteen sixty-eight is a place full of memories――


NYT May 10, 2008

Mr. Hu’s Peaceable Visit to Tokyo

WP Sunday, May 11, 2008

New Allies In Asia?

By Jim Hoagland

FT May 11 2008

A spring thaw in chilly east Asia

IHT Sunday, May 11, 2008

China and Japan start working to get along

(コメント) 日本の歓迎が比較的覚めた,むしろ疑念や警戒(恐れと嫌悪)を抑えた,儀礼的な歓迎であったのに比べて,むしろ国際社会は,日中関係が好転した,というシグナルを大いに歓迎したように思います.NYTの論説は,まだパンダを借りただけで,重要な紛争を片づけておらず,始まりでしかないが,アメリカにとっても重要なシグナルだった,と考えます.

WPの論説でJim Hoaglandが伝えるように,「過去は過去として」扱えるようになった,と福田氏が述べたのであれば,そのような立場を許すのは中国の指導者であって,福田首相ではない,と思いました.われわれ日本人としては,過去の深い反省に立って,二度と軍事的な侵略行為を犯さない(そして,許さない),軍事力を国際紛争の解決に用いない(それを支持しない),という憲法に沿った原則を主張してほしいと思いました.

福田首相がWPのインタビューに応じて説明したのは,中国が国際化し,日本との相互依存関係を深めた,という事実であって,それ以外の側面は触れなかったようです.中国も,日本の平和的な経済中心の姿勢を見習うべきだ,と書いていますが,お世辞のような気がします.

FTも,特に小泉政権下の靖国参拝で日中関係が悪化したことと比較して,日中和解のシグナルを高く評価しています.

YaleGlobal, 12 May 2008

Designing Asia

Ellen L. Frost

Asia Times Online, May 13, 2008

China and Japan tiptoe into a 'warm spring'

By Jing-dong Yuan

(コメント) 中国の成長と貿易の網の目は,アジアを経済利益の共有関係によって安定化するのか,それとも中国の成長に従う経済ブロックとしてその覇権を受け入れるだけなのか,まだ分りません.少なくとも,アメリカは中東に深入りしてアジアにおける中国の行動を抑制するバランサーにはなれない,とFrostは指摘します.

たとえば,チベット問題で,台湾問題で,日本の安保理常任理事国入りで,それを自分たちの死活問題とは考えないアジア諸国は,中国との経済的利益を重視し,中国の立場を基本的に受け入れたように見えます.もし中国の成長が続き,今後も開放的で,予測可能な,法の支配に基づく,参加型の,しかし,シンガポールのような政府管理型の国家資本主義になれば,アジア諸国は喜んで繁栄を分かち合うでしょう.しかしそうでなければ,不安が残るでしょう.

中国の成長(それによる市場統合)が続けば,長期的には,アジアの統合化を進める制度や知識は中国を中心に蓄積されるわけです.しかしFrostは,アメリカを欠いたアジアの将来が,まだ当分は,勢力均衡に戻った,海洋交易の統合に限られるだろうと考えます.つまり,内陸の制度や政治には干渉しない,国家間の外交交渉を重視した関係です.そして,ますますアジア企業が世界市場を支配するでしょう.

もちろん日本としては,中国が日本に代ってアジアにおける覇権を握ることが心配でしょう.しかし,過度のナショナリズムや軍事的脅迫ではなく,経済的繁栄における国家間競争であれば,これを歓迎して制度化する方が正しいのです.


NYT May 11, 2008

When Should the Fed Crash the Party?

By PETER L. BERNSTEIN

NYT May 11, 2008

The Dollar: Shrinkable but (So Far) Unsinkable

By PETER S. GOODMAN

(コメント) 大恐慌の時のアメリカ財務長官アンドリュー・メロンAndrew W. Mellonは,失業や倒産に対する政府の救済策をすべて否定して,まったく無差別な政策を指導しました.労働者,株式,農場,不動産を,すべて流動化して清算せよ,というわけです.J.M.ケインズはこの考え方を否定しました.銀行がすべて破たんしてから均衡を回復しても意味がない,と.

しかし,今も政府介入は論争を呼びます.金融緩和と政府介入はインフレをもたらし,ドル暴落の危険がある,と.これは現代的なアンドリュー・メロンの主張である,とPETER L. BERNSTEINは考えます.グリーンスパンがITバブルの破たん後に金融緩和を急いで,その後のバブルの種を撒いた,という批判にも反対します.

ケインズの考え方にも問題があります.金融政策がいくら繁栄を持続させても,それ自体が失敗の種を撒く,というのです.繁栄が続けば,当然,人々は楽観に浸るでしょう.不況だけでなく,繁栄の限界を科すために介入を主張しても支持されないでしょう.

PETER S. GOODMANは,ドル暴落や国際通貨の廃位を批判します.もしそれが起きるとしたら,もっと長期の予想として,世界の生産拠点や金融資産がアメリカ以外に移転され,世界金融システムが多極化したグローバル・ガバナンスに従う時代でしょう.今はまだ,アメリカの消費に依存して成長を続ける中国が資本を国際移転する,という「ブレトン・ウッズU」の時代なのです.

ただし,それはアメリカ人が喜ぶことではなく,むしろ,もっと赤字を累積してからドルが廃位するのを待っている,という意味で,訪れる破局を拡大しているのですが.


The Observer, Sunday May 11 2008

Forget the naysayers - America remains an inspiration to us all

Will Hutton

(コメント) アメリカを悲観することの誤謬を指摘し,アメリカの政治や経済,技術・知識が今後も世界の動向を決めるだろう,と断言します.特に,中国では決してアメリカのような政治システムを用意できない,と.


LAT May 11, 2008

Civilization's last chance

By Bill McKibben

(コメント) 週末に「ザ・デイ・アフター・トゥモロー」を観て,アメリカ人,特に環境保護派の信念や不安,恐怖感が,ハリウッドによってビジュアル化されると,なんともすごいモンスターが暴れまわるものだ,と感心しました.

ガロン当たり4ドルのガソリンによって自動車が運転できなくなり,トウモロコシを燃料にすると食糧価格がさらに上昇して,世界の3大陸で同時に食糧暴動が起きた.「成長の限界」という予測を思い出すわけです.・・・もう限界ですよ,と医者に言われたようなもんだ.あるいは,バブルを破裂させるのが怖くて,世界中にバブルを輸出している? 中国はさらに多くの発電所を建設し,インドは2500ドルの乗用車を販売する計画です.

「ガス・タックス・ホリデー」ではなく,CO2規制を世界化するために,再びマーシャル・プランが必要です.この23年でCO2の国際的な排出規制が成功しなければ,・・・過熱した地球上に,文明は一つも存在しなくなるのです.

FT May 12 2008

Food investment, not imperialism

(コメント) 穀物畑は移動しないから,・・・再び帝国主義の時代です.ラテンアメリカや南アジア,アフリカなど,世界の耕作可能な土地を大規模に開発する直接投資が起きています.そして各地の政治家は,外国人の土地支配を恐れ,政府による規制を導入します.しかし,ある意味では,資本や専門知識,豊かな市場をもたらす外国資本は非常に有益な選択肢のはずです.

あるいは,そうでなければならないとすれば,WTOが主要な関係国政府(組織,個人)を集めて,国際的な投資のルールを決めてはどうか? という提案です.


LAT May 11, 2008

Forget the two-state solution

By Saree Makdisi

(コメント) 二つの独立国家をめぐる果てしない論争は終わりにするべきだ.だれがどの土地を支配するか,諦めるか,分割するか,いつまで論争しても決まらない.そうであれば分割・占領される前の最初の状態をもう一度回復してはどうか? ユダラ人もパレスチナ人も,平等に,土地をシェアするのです.

そんなことは不可能? 否,ユダヤ人国家だけが存在し,パレスチナ人は「問題」とみなすことこそ不可能な解決策です.


FT May 11 2008

The global euro needs a stronger apparatus

By Wolfgang Münchau

May 14 (Bloomberg)

Euro's 10-Year Anniversary Shows Half-Empty Glass

Matthew Lynn

(コメント) ユーロが誕生して10年経ちました.ユーロ圏の経済運営をめぐる政治的な意志決定を制度化する時期なのでしょう.ユーロを使用する諸国は集まって,一層の制度的な収斂を促すこと,政策協調を合意すること,国際通貨としてのユーロの使用を監督するIMFのような制度を作ること,国際機関における代表を統一すること,そして,各国ごとの財政政策に代る,非対称的なショックを吸収する政策手段を準備すること,ECBが金融監督の権限を集中すること,が議論されるようです.こうしてユーロは,独仏が再び戦争をしないように,という出発点からイデオロギーとして独立します.

Matthew Lynnも,ユーロは通貨として成功したけれど,ユーロ圏がまだ統一した生産性を示すことはないし,政治的な統一に向かうこともないままだ,と嘆きます.半分しか満たされていない通貨が本当の試練を受けるのは,本格的な不況が訪れるときです.通貨は破滅を意味しなかったし,工業も衰退しない,イタリアの債務を支払うドイツ人が暴動を起こすこともなかった,・・・誇張した論争はなくなりました.

各国はブームや住宅バブルを経験し,ドイツの経済構造や労働市場は徐々に変化してきましたが,フランスやイタリアはまだまだです.ユーロの提唱者たちが望んだことと違って,ユーロ圏の生産性上昇率は低く,今もアメリカに劣っています.EU内にはユーロに加盟しないイギリスのような国が残り,政治的な統一は全く見通しにありません.しかし,コンコルドと違って,ユーロが現実の市場変化を反映し,グローバリゼーションや高齢化に対するEUの解決策に役立つなら,今後も生き残るでしょう.


LAT May 13, 2008

The 'Long War' fallacy

By Andrew J. Bacevich

FT May 13 2008

The case for a league of democracies

By Robert Kagan

NYT May 14, 2008

The New Cold War

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 国防総省のラムズフェルド前長官とゲイツ長官が信じる「長い戦争the "Long War"」(あるいは,終わりのない戦争)について,Bacevichは批判します.彼らは,アメリカの価値や生活スタイルを守るために外の世界を改造しなければならない,という信念を広めたけれど,それは間違いでした.アメリカの軍事力は,歴史的に見て小さな戦争でしかないアフガニスタンやイラクでも,十分な成果を上げませんでした.安価な石油供給や大量破壊兵器・テロの拡散を防ぐよりも,逆に,それらを悪化させただけです.アメリカは債務を増やし続け,軍隊は疲弊しました.

軍事的なパワーには限界がある,と知るべきなのです.彼らが,永久に戦争する以外に選択肢はない,と主張したのは想像力の貧困であり,アメリカの歴史を正しく解釈できなかったからです.Bacevichにとって,アメリカの本当の強さは政治システムの柔軟性です.産業革命であれ,大恐慌であれ,アメリカは自分たちの生活を転換し,その価値を再生あるいは革新して,アメリカ社会自身を改造したのです.

アメリカが苦しんでいるのは,外国の軍事的脅威ではなく,自分たちの浪費によるバブルや債務による生活,そして金融危機です.外国の石油や外国の資本に頼った生活を変える方が,外国に軍隊を派遣することよりも重要です.

しかし,Robert KaganTHOMAS L. FRIEDMANは,「民主主義諸国の協力・同盟」を議論し,「新しい冷戦」を展望します.

Kaganによれば,a concert of democraciesは共和党ではなく,民主党のアイデアであり,リベラルな国際主義,人道主義的国際介入のアイデアです.特に,コソボやダルフールのように,人々が虐殺や飢餓に苦しむのを政府が放置し,あるいは組織している場合,国際介入を英米やEUが主張しても,しばしば安保理ではロシアや中国の反対に遭います.このとき,アメリカとEUだけでなく,インドや日本など,世界の民主主義国を参加させることで,介入の正当性を高めることができる,と考えるわけです.

しかし,アメリカはこうした考え方を嫌うわけです.それでも真剣に議論するとしたら,「新しい冷戦」が主張されるからです.FRIEDMANによれば,中東世界はアメリカが勝利することも,撤退することもできない,永久に続く戦争状態に近付いています.アメリカはイランとの対抗をますます意識し,イランを滅ぼすことも,協力することも,封じ込めることもできない,と感じています.

イランと交渉することが正しいかどうか,大統領候補者たちは論争しますが,FRIEDMANによれば,交渉できるテコや材料があるのか,が問題です.その誘因や圧力が無いのであれば,交渉しても無駄である,と.

アメリカが事態の収拾に行き詰まって,他の選択肢を持たないとき,「民主主義諸国の同盟」に呼びかけるかもしれません.


FT May 13 2008

Is Larry Summers the canary in the mine?

By Devesh Kapur, Pratap Mehta and Arvind Subramanian

YaleGlobal, 14 May 2008

Superclass and the Inequity of Globalization

David Rothkopf

FT May 15 2008

States must act locally in a globalised world

By Jeremy Greenstock

(コメント) Devesh Kapurたちは,サマーズの主張に反対しています.リベラルな国際秩序は富をもたらす上で今も有効であるが,アメリカの労働者にとって不利な面があり,その政治的な支持を失っている,とサマーズは考えました.しかし,サマーズの主張は,アメリカの利益に従うときだけグローバリゼーションを支持し,それ以外の影響を無視するものである,というわけです.あるいは,アメリカの労働者たちを保護する政策は,グローバリゼーションのコストを国際的に貧しい諸国へ転嫁するものではないか?

・・・サマーズは,アメリカの財務長官であるとき,発展途上諸国に資本取引の自由化を求め,また,知的所有権を制度化させた.それはグローバリゼーションに参加する痛みとして発展途上諸国が受け入れたものだ.ところが,今度はアメリカが痛いからと言って,勝手に,アメリカだけの利益を主張するのか?・・・グローバリゼーションが今よりもふさわしい制度を必要としているのは広く認められている.しかし,それをアメリカの労働者の痛みと結び付けて主張するのは間違いだし,そのような議論は発展途上諸国のコストを無視している.

David Rothkopfは,アメリカと世界との対立ではなく,むしろ世界の超富裕層やエリート階級の出現(a “superclass” of elites,約6000人)を問題にします.グローバリゼーションの政治的な基盤として,彼らの富と支配権力を抑制するガバナンスの制度を創出することが重要です.

すべての市民はその社会の権力構造を作り出すことに参加し,それに従いながら,しかも権力者・機関の行動を規制する権限を持っています.市場統合だけに依拠したグローバリゼーションがそれを損なうことは,権力や秩序の正当性を根本的に破壊する問題です.金融資産,土地,世界企業の幹部,主要大学,政治家,高級官僚,その他,(物価や,北極の温度だけでなく)支配層のネットワークを監視する必要があるのです.

Jeremy Greenstockの論説は,ブラウン英首相のボストンにおける演説を紹介しながら,グローバリゼーションの政治構造が,問題別に,責任を担った地域社会の参加によって形成される,と考えます.グローバリゼーションの利益は優先的に享受され,国家型のガバナンスを掘り崩しています.他方,能力や信頼を低下させた政府が集まって超国家型のガバナンスを回復する作業は容易に進みません.

結果的に,ハイテクと越境を利用した犯罪集団や詐欺行為が蔓延し,弱者を犠牲にします.グローバリゼーションに対応したガバナンス形成を早めるためには,市民たちの世界的なネットワークを充実させること,そして彼らが責任を重視し,役割を自覚できるような,優れた情報と教育を提供することが重要でしょう.アイデンティティーを共有する地域社会が,グローバリゼーションに応じた社会的責任の問題を解決する出発点が得られる,と主張します.

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The Economist May 3rd 2008

Angry China

China: A lot to be angry about

(コメント) 中国の台頭を受け入れる西側にとって大きな不安材料は,人権や国際問題で批判を受けたときの中国の反応です.西側による中国への干渉を許さないという,歴史的な怨恨や反発が,愛国心やナショナリズムとして示されたのかもしれません.しかし,たとえそうであっても,中国が国際的な舞台で交渉の主体となるのを不安に思う気持ちを強めたはずです.

記事は,中国政府自身がそれを不安に思うべきだ,と展開します.地方政府による土地収用や乱開発,環境破壊に対して,無視され,抑圧された人々の怒りは蓄積されています.北京オリンピックを批判されて憤る人々のデモが,次に政府庁舎を目指すのは当然であろう,と.国内の改革を進めて,人々の不満を解消できるような国になって,国際的な役割も担えるでしょう.


The Economist May 3rd 2008

Farm subsidies: The right time to chop

Suicide in Japan: Death be not proud

Congo: Atrocities beyond words

Argentina: Cristina in the land of make-believe

Charlemagne: Going Dutch

Buttonwood: The fragility of perfection

(コメント) 各国ごとの食糧自給を目指すことは混乱を拡大します.他方,この時期に富裕諸国は農業補助金を削って,貧しい諸国への援助に回すべきなのです.日本と言えば自殺の話,自死を賛美する文化,非正規の労働者にとって再出発を認めない社会.アフリカ,コンゴで広がる「言語を絶する」流血と蛮行のもたらした地獄.アルゼンチンの大統領夫人は,大統領となって,各層の期待を裏切り,経済破綻を再演する準備に向かいます.

オランダの分析とグローバリゼーションの供給システムに関する考察がおもしろいです.EU統合支持の国,その受益者であり適応に成功したとして信じられていたオランダが,EU憲章に対する国民投票で,明確に否決したことの意味を考えます.また,世界的な供給ラインを構築して利潤を増やす企業について,それは世界中にある不安定要素から予測不能の脆弱性を持ち込んでいる,と注意します.