IPEの果樹園2008

今週のReview

4/21-4/26

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

ダルフールの打開策, アメリカの金融危機と打開策, 台湾の新総統, オリンピック廃止論, 中国人のナショナリズムを刺激するな, 保守派のケインズ主義政策, 食糧危機の打開策, 新しい自由貿易論, 新しい世界秩序1, イスラエル(あるいは日本)の未来

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


NYT April 10, 2008

Memo to Bush on Darfur

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) なぜダルフールにおける人権侵害,虐殺行為を,ブッシュ政権は放置しておくのか? ライス国務長官は,三つ目のイスラム教国に侵攻する決断は難しい.特にそこに石油があるなら.と答えました.

しかし,ダルフールを救うのに,イラク侵攻のような選択肢しかないのか? ルワンダ虐殺の14周年に際して,NICHOLAS D. KRISTOFは提案します.

1.フランスと協力してスーダンがチャドを攻撃しないように牽制する.スーダンにおける虐殺を周辺地域に輸出させない.

2.ダルフール救済から,スーダンの南北対立に視野を拡大する.

3.国際会議を招集する.サルコジ(仏),ブラウン(英),胡錦涛(中),潘基文(国連事務総長),そしてスーダンの指導者たちを招く.

4.ダルフールに関する和平協定を結ぶ.政府と反政府軍との対話をアナン(国連前事務総長)が仲介する.

5.スーダン南部に国連平和維持軍・アメリカ軍を派遣する.

6.アメリカはチャドの基地を利用してダルフール上空に飛行禁止区域を設ける.撃墜するのではなく,違反行為があれば,数日後,スーダンの爆撃機を地上で破壊する.

7.8.(省略) ・・・スーダン政府は実効性のあるアメとムチには反応する,と.

もちろん,ライス長官はアメリカ(その海外における拠点,関係者)へのテロの輸出を恐れているのでしょう.


Vincent Cable How to respond to falling house prices FT April 10 2008

Luigi Spaventa How a new Brady bond could ease the strain FT April 10 2008

(コメント) Vincent Cableの主張に同感です.たとえば,それは次のような指摘です.

1.流動性の供給は必要だが,銀行は不良債権を処理しなければならない.それは納税者ではなく株主が負担するべきだ.イングランド銀行がその処理過程を管理する.

2.政府が介入して株価や住宅価格を引き上げるべきではない.しかし,住宅を失った人々が増えることは社会的な負担を増す.借り手とともに,住宅に融資した者の責任を免除してはいけない.家族に返済可能な額を判定する機関(たとえばthe Citizens Advice Bureau)が有益だ.

3.最後の手段としては,住宅の投げ売りを防いで,低所得者用の公共住宅を保有するために,社会的な買い手(政府が補助する)が必要だ.

4.金融規制・監督を長期的に改善する.特に,資産価格の安定化をイングランド銀行は目標に組み入れる.そのためには,資産価格の長期的変化に合わせて自己資本比率を変動させる方法が望ましい.

ブレディー・ボンドに関するLuigi Spaventaの主張も有益です.

銀行は自己資本を増やして損失処理すべきですが,資産の市場評価が下落すれば損失が増え続けます.市場の底値が分らないうちは増資に応じてもらえません.これでは市場は悪化し続け,解決が長引きます.市場評価額によって資産を見直す会計制度を一時的に停止してはどうか,という意見もあるようです.それは危険であり,欠陥がある,と主張します.政府・FRBが購入してやる,という考えにも,それほど危機的な状況ではない,と否定します.

むしろ,ブレディー・ボンドの手法を取り入れるべきです.1989年,アメリカの商業銀行が,主にラテンアメリカ諸国の政府に融資を行い,その多くが返済不能になりました.不良債権を抱えた銀行に損失処理を可能にするため,国際的な協調により,ブレディー・ボンドが発行されました.それは大幅に割り引かれ,アメリカ財務省証券で保証されました(銀行は,満期が同じ財務省証券を割り引いた価値に応じて購入し,FRBに預けた).

その発行額は1500億ドルに達し,取引額は25000億ドルに及ぶ年もあったのです.こうしてブレディー・ボンドは新興市場の資産として流動性を確立し,銀行はリスクの分散,買い戻し,相殺などによって不良資産を処理,またはリスク管理された資産として保有できたのです.

現在の危機は,融資がすでに証券化されてしまい,確認できないような資産に対して,多くの当事者が問題を解決する行為を容易に取りません.公的機関が購入する必要はないけれど,価値を保証された長期証券で調達した資金により,証券化された優良資産を大幅に割り引いて購入することでしょう.

William Pesek Asian Crisis Offers Lessons as U.S. Skirts 1930s April 11 (Bloomberg)

Bill Emmott Asia is not immune to the financial malady of the west The Guardian, Friday April 11 2008

Bill Emmott Can China and India save the US? The Guardian, Friday April 11 2008

Richard Kozul-Wright Samurai wanted The Guardian, Friday April 11 2008

Lester C. Thurow It's got to hurt before it gets better LAT April 11, 2008

ALICE M. RIVLIN The Fed Money Well Spent NYT April 11, 2008

FLOYD NORRIS It a Crisis, and Ideas Are Scarce NYT April 11, 2008

Chrystia Freeland Man in the News: Paul Volcker FT April 11 2008

(コメント) William Pesekはアジア通貨危機とその後を担当した「ミスター・ウォン」,Kim Yong Dukと話し合った末に,アメリカ政府が注目するべきは日本の「失われた10年」ではなく,韓国の処理モデルであると主張します.

Bill Emmottの二つの論説です.まず,アジアの新興経済は欧米の不況を埋めることができるか? 問題は,アジア経済が輸出に頼り,インフレになっていることです.そして,これは1970年の日本と似ている,と指摘します.

当時,日本も通貨価値を抑えてアメリカに輸出し,成長していましたが,産業の急速な拡大は自然や生活を破壊し,水俣病などを引き起こしたのです.ニクソンは貿易不均衡に対して一方的にドル安を選択し,その後,日本は円高と石油価格の上昇,世界的なインフレに対処しなければなりませんでした.しかし日本経済は滅亡したわけではなく,苦しみながらもオートバイから半導体へと,産業構造を転換します.中国も同じだろう,と.

もう一つの論説では,1997年以後,世界に起きた重要な変化として,アジアの新興諸国や産油諸国,その他の発展途上諸国が資本輸出国になったことを指摘します.この点で,バブルと金融危機の原因をグリーンスパンだというJoseph Stiglitzを批判し,むしろ長期金利の低下はアジアなどの貯蓄過剰である,と考えます.

それは世界の食糧・エネルギーに対する需要を増やし,価格が上昇しています.しかも,アメリカはバイオ燃料を推進し,ヨーロッパは遺伝子組み換え食品を非難しています.Emmottによれば,こうして彼らは「緑の革命」を潰してしまったのです.中国は,もし国内でますます多くの暴動を弾圧したくないなら,人民元を切り上げ,金融引き締めをするでしょう.アジア諸国もそれに続き,こうして経済の減速が避けられなくなります.

Richard Kozul-Wrightは,G7を黒澤の「7人の侍」にたとえて批判します.主要国の指導者が集まって,金融危機に対しては「透明性」を高め,市場の「弾力性」を維持するように求めただけ,という結果に失望したからです.IMF・世銀総会も同じです.彼らは問題に正面から取り組む勇気を欠いていた,と.

規制緩和された金融市場が,ますます短期化し,投機的になるのを,危機になるまで注意しませんでした.政策は効果を失い,デフレが避けられません.世界経済の均衡を回復するには,指導者たちが合意しなければなりません.アメリカはもっと貯蓄し,その他の諸国は支出を増やします.

国際金融システムは,ブレトン・ウッズのように,できれば地域的な制度を介して,通貨を管理し,複数通貨によって国際決済の準備にします.資本規制や,景気変動への抑制,そしてSDRを発行してIMFがそのために行動します.

巨大な金融資産を持たない我々には関係ない? そうではない,という経験を1929年にした以上,何をするべきかLester C. Thurowは考えます.

金融不安を解消するには,住宅モーゲージの損失を税金で埋めてやり,中東以外の採掘を促すために石油価格が下がらないよう,アメリカは基準以下の価格の石油を購入して備蓄し,また,工場や雇用が流出するのを止めるためにドル安を促す.外国の投資家は損をし,投資を引き揚げるが,それはドル安を促すだけだ! ・・・これは,解決策か?

ポール・ボルカーが,2歳年上のアラン・グリーンスパンと比較され,最近の話題になっています.二人はどう違うのか?

「この80歳を超えたFRB元議長はニューヨークのディナー・パーティーで,地下鉄の駅はどこか? と尋ねてホストを驚嘆させた.」 また,洗たく代を節約するため,汚れた服を娘の家に届けて洗ってもらった,とも伝えられます.ボルカーが議長であったら,その後の金融市場やバブルはどう変わっていたか? FRBでの成果,人物の高潔さ,率直な物言いにおいて,ボルカーは常にその権威を認められた,と.公人としての責務を果たし,富よりも,敬意を集めた.

Michael G. Bellotti and Joseph D. McDonald The case of the real estate market and the sheriffs BG April 12, 2008

Ann Pettifor 1929 once more? The Guardian, April 12, 2008

A Fair Bailout? WP Saturday, April 12, 2008

Will Hutton Government fiddles while the price of houses burns The Observer, Sunday April 13 2008

Knut Kjaer Do not regulate wealth funds, improve them FT April 13 2008

(コメント) Ann Pettifor によれば,1929年の経済危機を繰り返さないためには,次のような謬見を打ち破る勇気ある指導者が必要です.1.金融危機は実物経済に及ばない.2.住宅市場の混乱で危機が起きた.3.金融緩和の行き過ぎで危機が起きた.4.政府は好景気を利用して放蕩した.5.むしろインフレが危険だ.

フランクリン・ルーズベルトが行った最も重要な政策は,公共事業や雇用創出ではなく,金融システムの再建であった,とWill Huttonは強調します.他方,Knut Kjaerは,政府系投資ファンドSWFを改善することを主張します.

Andy Mukherjee If World Skips Recession, Yuan Must Be Revalued April 14 (Bloomberg)

Dean Baker Declaring class war The Guardian, April 14, 2008

EDWARD E. LEAMER Home Buyers Needed NYT April 14, 2008

MARK LANDLER Housing Woes in U.S. Spread Around Globe NYT April 14, 2008

Self-regulation plus FT April 14 2008

Gabor Steingart The Madness of Ben Bernanke SPIEGEL ONLINE 04/14/2008

(コメント) Dean Bakerは,ドル安を止める国際合意はアメリカ国内の階級戦争に火をつけるものだ,と警告します.ドル高は高所得者に有利であり,逆に,低所得者の雇用を奪うでしょう.ドル安は彼らの雇用を守り,増やします.バーナンキやポールソンは,ドルの水準を維持することで,日本のデフレを招きつつある,と.

また,世界中の住宅価格の下落と,その移民に対する影響.

Martin Wolf Why financial regulation is both difficult and essential FT April 15 2008

Will Hutton Smell the coffee The Guardian, Wednesday April 16 2008

Martin Wolf Let Britain’s housing bubble burst FT April 17 2008

Repairing Wall Street FT April 17 2008

Helping UK banks FT April 17 2008

(コメント) Martin Wolfが,金融規制の強化を明確に支持しています.今回の危機が起きるまでは,金融危機を遅れた金融市場や規制・制度の欠陥だと考えていた.しかし,アメリカが危機の発信源となった今,IMFやG7でそれが認められた今,金融規制を強化することが支持されるべきだ,と.

IIF(the Institute for International Finance)の反対は受け入れられない.厳しい競争が続く金融ビジネスで,行動基準や自己規律を求めることは非現実的だからです.それは言葉だけに終わるでしょう.実際,IIFはそのような指針を示していたが,サブプライム融資は蔓延しました.

最近の歴史でも,資本移動の自由化と金融危機とは明白な相関を示しています.また,他の産業でも,厳しい規制によって競争の弊害を取り除いています.将来の不確実な夢をビジネスの種にする金融産業が,それを悪夢に換えないためには,もっと厳しい規制が必要です.

金融業界と政府や規制当局との見解は収れんしつつあります.その中心は,報酬を見直し,リスク管理を改善することです.「規制が有効であるためには,すべての関連する機関が参加し,完全なバランスシートが示され,すべての重要な国で,行われるべきです.その焦点は,自己資本,流動性,透明性です.そして,融資は景気変動を増幅することがないようにしなければなりません.」

完璧な規制は難しいでしょう.危機が絶対に起きないような金融システムを作ることは,不可能であり,望ましくもない,と主張します.しかし,われわれは改善できるし,今後とも試みるべきだ,と.この点は,左派のWill Huttonも同じです.

他方,Martin Wolfは,住宅価格の下落に対して(いつも)救済や補償を政府に求めるような主張に,強く反対します.イギリス政府は住宅市場やモーゲージの購入に踏み込むべきではない,と.なぜなら,

1.いつでも住宅価格を高くしておけ,と主張する者は狂っている.2.政策が対処すべきは,明白な「市場の失敗」だけである.3.変動レートと独立した中央銀行があれば,住宅バブルは回避可能である.


BG April 11, 2008

The globalization of baby-making

By Ellen Goodman

(コメント) 出版も,さまざまな労働も,アウトソーシングされます.そして,・・・赤ちゃんを作るのもグローバリゼーションです.

以前から,子どもを作るために多くの夫婦が国境を超えていますが,逆に,多くの妊娠と出産を代理で行う低コストの労働者たちが国境を超えるようになっています.たとえば,インドの代理出産は5000から7000ドルで病院が紹介しますが,この収入は田舎の農婦が10年かけて得られる賃金と同じです.

アメリカ国内でも,契約で子宮を貸し出します.代理出産を禁止しているヨーロッパの国から,裕福な夫婦が訪れるのです.冷凍精子は国際的に輸出され,妊娠,出産,代理契約のための国際ツァーが募集されます.安価で高度な医療を求めて,裕福な患者は国際移動します.

しかし,市場による仲介は,国際的な貧富の格差に伴う問題を示します.なぜ出産のために奴隷を売買し,赤ん坊を売買しないのか? より安価で,より便利な,製品やサービスがあれば,それを取引することは常に合理的か?


FT April 11 2008

Lunch with the FT: Sir Ronald Cohen

By Michael Skapinker

(コメント) Sir Ronald Cohenという人物を私は何も知りません.しかし,この記事を読みながら,イギリスと一人の政治家の雰囲気を知りました.Apax Partners, the private equity firmの共同創設者.荒廃した地域に企業をもたらす.ヨルダン川西岸のパレスチナ人にも.北アイルランドの失業したカソリック教徒にも.トニー・ブレアやゴードン・ブラウンの親友です.


BG April 12, 2008

An opportunity to defuse the Taiwan standoff

By Ezra Vogel

(コメント) 台湾の選挙結果についてEzra Vogelは米中対立の最大の懸念が和らいだ,と歓迎します.もし偶発事態と双方の計算ミスで台湾と中国が軍事衝突し,アメリカがこれに巻き込まれれば,イラク戦争が地域的な紛争に過ぎなくなるような,国際紛争が勃発したかもしれない,と.

この論説で興味深い点は,アメリカがアジアに望む目標を明確にしていること,米中関係の複雑さを前提に,中台関係が平和的に解決される道を支持すること,そのチャンスを生かす資質が馬英九Ma Ying-jeouという新しい指導者に多く備わっていること,です.

「アジアにおけるアメリカの最も基本的な利益は,安定した,平和な環境を維持して,貿易や交流,取引が継続し,諸国民が共通の課題に協力して立ち向かえることである.すなわち,環境保護,地球温暖化対策,エネルギーの円滑な供給,病気の管理,である.」

馬英九の個人的資質については,Harvard Law Schoolの卒業生で,戦略的に思考し,蒋経国前総統(蒋介石の息子)の元秘書,国民統一事業の元指導者,カリスマ的な政治家である,と彼を紹介しています.その見解も明確です.中台統一は話し合わない.台湾国民にはまだその用意がない.しかし,より密接な協力を求める.アメリカとの軍事協力も強化する.それは中国と交渉できる力を持つためだ,と.

アメリカ自身の外交政策も,歴史的な経過を踏まえて,問題のある状態でした.それは中国の指導部に今も不安(それゆえ,独立派への関与は難しく,米中衝突への懸念)を残しています.馬英九が見出す中国との協力関係であれば,ようやく,アメリカ政府も積極的に支持できるでしょう.

日本の政治家はどう考えているのでしょうか?

LAT April 14, 2008

Dial back the Koreas' volume

By Mike Chinoy

FT April 14 2008

Taiwan and Korea FX

(コメント) Mike Chinoyは,韓国のイ・ミュンバク新大統領に対する北朝鮮の過剰な攻撃について,それは北朝鮮の合理的に計算された行動だ,と解釈します.また,今までと違って,北朝鮮は韓国を敵視し,アメリカには友好的なサインを送ります.


NYT April 13, 2008

Extended Forecast: Bloodshed

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) 気候変動の影響は,海水面の上昇やハリケーンの被害に言及されるけれど,もっと間接的な被害の方が恐ろしい,とNICHOLAS D. KRISTOFは考えます.

たとえば,社会不安が頻発し,内戦が勃発し,今以上に多くの魔女リンチや,ナタによる集団的な殺戮,部族間の虐殺が猛威をふるうかもしれない? ・・・本当に! たとえば,タンザニアで降水量が異常(干ばつでも,洪水でも)になった年,魔女殺しは倍増した,とカリフォルニア大学バークレー校のEdward Miguelは報告しています.


NYT April 13, 2008

Faster, Higher, Stronger, No Longer

By BUZZ BISSINGER

(コメント) 1894年にオリンピックを復活させたクーベルタン男爵Baron Pierre de Coubertinが今も生きていたら,何を想うだろうか? 彼にとってスポーツは,政治や戦争を離れて,人間の最高の徳性が発揮される形式でした.オリンピックの現状を観れば,彼の理想は破滅し,オリンピックではスポーツが政治と金儲けに利用されているのです.

ロンドンでもパリでも,聖火リレーは中国の人権弾圧やチベット政策に抗議する人々によって妨げられました.サンフランシスコではランナーがほとんど姿を消してしまいました.オリンピックの競技や記録自体に次々とドーピングや収賄などの嫌疑が持たれ,オリンピックに関わってテロ攻撃,ボイコット,大衆抗議,その弾圧,が深刻な事件になっています.オリンピック開催の意義は,国威高揚のためのメダル競争,スポンサー企業の宣伝が多くを占めています.

もし今年,オリンピックが中国ではなくアメリカで開催されるとしたら,各国はアメリカ軍のイラクからの撤退,アブグレイブやグァンタナモでの虐待に抗議して,オリンピックをボイコットしたのではないか? そのためには,アメリカが永久にオリンピックに参加しないと宣言するだけです.

オリンピックを廃止しよう,とBUZZ BISSINGERは呼びかけます.

MATTHEW FORNEY China Loyal Youth NYT April 13, 2008

Anne Wu Separating Tibet and the Olympics BG April 14, 2008

Max Hastings Forget their clumsy rulers - China's remarkable people merit our goodwill The Guardian, Monday April 14 2008

Fareed Zakaria Our Tibet Protests Won't Work WP Monday, April 14, 2008

Anne Applebaum 'Journey of Harmony' WP Tuesday, April 15, 2008

(コメント) 聖火ランナーに跳びかかる抗議の人々と,それを取り押さえる警備関係者,その騒動を伝えるニュース・キャスターの言葉や,プライドを傷つけられた中国人の不満,中国外務省報道官の憤慨,・・・ そして,フランス商品や商店の不買運動に集まった中国人のデモ行進の映像を観ていると,複雑な不快感が残ります.

中国の若者,特に,都市の猛烈な受験勉強と大学教育を受けた,上昇志向の若者たちは,非常に(世界一!)楽天的であり,政府の優れた政策による繁栄を謳歌し,その政治的な主張にも順応して,人権弾圧など見たこともない(1989年の天安門事件は古すぎて記憶にない),というMATTHEW FORNEYの記事を読むと,ますます複雑な感覚に苦しみます.

中国にもさまざまな見解の人がいるはずであり,チベットの人権問題や貧困を解決したいと願う中国人もいるでしょう.また,西側メディアが少数のチベット人僧侶たちを英雄のように取り上げることに,不満を感じる在外中国人も多いようです.残念ながら,中国のチベット政策は世界中の多くの介入例の一つであり,特にひどい例でもないようです.

オリンピックを政治的な抗議の機会として利用することは,中国政府の考え方に影響するでしょうか? それは改善をもたらすのか,後退をもたらすのか? それぞれの主張や意見に,多くの単純化と誇張が見られます.共産党の権威が失われていくことを心配して,支配層は若者たちの愛国心やナショナリズムを容認し,奨励しているのでしょうか?

既に,最初のオリンピック競技は始まってしまいました.世界各地で実況されているように,聖火の争奪戦です.

Neville Isdell We help Darfur but do not harm the Olympics FT April 17 2008

Taiwanese path to a solution in Tibet FT April 15 2008

China bends on Taiwan, why not Tibet? CSM April 17, 2008

(コメント) Neville Isdell (chairman and chief executive of The Coca-Cola Company)は,ダルフールの難民を救済するためにオリンピックを利用できる,と主張します.コカコーラはオリンピックのスポンサーを80年間続けています.中国の開催にも協力し,同時に,ダルフールの難民たちを救済する活動も続けています.

スポンサー企業の役割は重要であり,同時に,限られています.企業は,政府でも,国連でもないからです.しかし,変化のための触媒にはなれる,と主張します.地域や難民たちに飲み水を確保しよう.それは紛争の原因の一つです.また,すべての関係者にとって維持できるような長期的な解決策の条件を支援しよう.

「オリンピックは,これを政治的なグローバル劇場として自分の主張に利用する者を引き寄せる.そのような団体や個人に望むのは,オリンピックの開放性をプラスに利用してほしい,ということだ.世界に残された最後の統一的なイベントを攻撃し,損なってほしくない.」


NYT April 13, 2008

A Fresh Look at the Apostle of Free Markets

By PETER S. GOODMAN

(コメント) もしミルトン・フリードマンが生きていたら,現在,金融危機によって自由化が逆転することに反対しただろう,という記事です.市場に介入するな,と考えました.ケインズとは逆に,大恐慌は政府による政策の失敗でした.ケインズ主義が推進した完全雇用政策が,インフレを加速し,長期的には失敗することを示したことは,その政治的な立場を超えてフリードマンを経済学の偉人にした,と評価されます.

長期的に見て,政府は解決ではなく,問題の一部である.

Asia Times Online, Apr 15, 2008

The capture of Keynesianism

By Thomas I Palley

(コメント) 第二次世界大戦後,世界の成長を指導したケインズ主義がなぜ衰退したのか? 住宅価格や株価下落に対してだけ,急に,ケインズ主義が復活するものか? 確かに,大恐慌を背景として,ケインズ主義は完全雇用,所得再分配,市場規制を実現しました.

しかし,たとえFRBが金融緩和や救済融資,ブッシュ政権が減税や住宅価格に対するテコ入れや補助金を考えているとしても,それだけでケインズ主義が機能することはない,とThomas I Palleyは考えます.なぜなら,政府はケインズ主義の目標を放棄したからです.

組合の権利を守り,社会保障を削り,完全雇用を約束して,極端な国際競争や資本移動を抑えていました.だから再分配と生産性上昇によって,賃金は上昇し,国内需要が持続的に増大したのです.構造的な政策を失った今,保守派の「ケインズ主義」政策は効果を発揮しないでしょう.


FT April 13 2008

Precious grains

By Alan Beattie and Javier Blas

SPIEGEL ONLINE 04/14/2008

AMGLOBAL FOOD CRISIS: The Fury of the Poor

By SPIEGEL Staff

The Guardian, April 15, 2008

A man-made famine

Raj Patel

(コメント) 世界の食糧価格高騰,食糧危機や暴動について,各国で解説記事が並びました.ただし,当然,輸入国で関心は高いでしょう.金融危機よりも食糧暴動の方が近づいているのかもしれません.G7,IMF,世銀がそれを警告し,危機に準備しています.

世界の運輸・情報通信システムが結びついて,中国の製造業,インドの情報処理が世界市場を席巻したように,ブラジルやタイの農産物輸出も世界市場を形成しつつある,とFTは強調します.ところが,実際には世界の農産物生産のわずか6-7%しか国境を超えていない,というのです.これは世界の価格差や生産性の差を考えると余りにも少ない,と.

各国は「食糧自給」や「価格安定化」を名目に市場に介入し,輸出入を制限し,補助金を与えています.食の文化やアイデンティティーと結びつき,日本のコメのように,700%の価格補助金がある,と例に挙げられます.

貧しい農産物輸出国は,国際交渉で,市場自由化や価格の引き上げを求めていたのであり,価格上昇は彼らを貧困から脱出させるはずです.しかし,実際に農民が所得を増やすかどうかは,その農産物を生産する農家や労働者の契約形態や肥料(すなわち石油)価格の上昇,農地や融資を含めた生産拡大の可能性,などによって制約されます.輸出向けに生産する貧しい農家がますます食糧に支出を迫られるケースも多いわけです.

農産物の先物市場で投機的売買が増えている,とSPIEGELの記事は特に強調しています.また,IMF・世銀が進めてきた発展途上諸国の構造改革・自由化が食糧危機を強めている,と批判しています.イラクやスーダンはアラブ世界の食糧庫でしたが,戦争や内戦により,今では大規模に難民を輸出し,食糧は輸入に頼っています.

「世界の最も裕福な200家族は世界人口の40%と等しい貨幣を持っている.それでも世界には85000万人が,毎晩,空腹のまま眠りにつく.」という前国連事務総長,アナンの言葉も引かれています.

Raj Patelは,食糧危機は世界銀行のゼーリック総裁たちがもたらした人災である,と非難します.彼らが貧しい諸国の食糧備蓄や価格維持政策を破壊した,と.

IHT Wednesday, April 16, 2008

Speculators and soaring food prices

By William Pfaff

(コメント) この記事は,シカゴの商品先物市場を非難するとともに,それに翻弄されるようになった発展途上国の条件を作った1980年代の「ワシントン・コンセンサス」を批判します.そして,IMF・世銀が介入して押し付けた「民営化,自由化,安定化」だけでは成長をもたらさず,彼らに従わなかった諸国の方が成長した,というDani Rodrikの研究を挙げています.


WP Monday, April 14, 2008

Colombia: No Rights, No Trade

By John Sweeneypresident of the AFL-CIO

WP Wednesday, April 16, 2008

Marching Backward on Trade

By Robert J. Samuelson

(コメント) 食糧に限らず,労働組合も輸出すべきでしょうか? AFL-CIOSweeney委員長はそう考えます.そうでなければ,企業の利潤だけが増えて,隣国の非人間的な労働条件が輸入されてしまうでしょう.自由貿易とは,労働者の権利や人権を含むシステムを合意することでなければならない,と.コロンビアのUribe政権下で400人の労働組合員が暗殺された.だから,FTAは認められない.

Robert J. Samuelsonは,何でも,特に製造業の不振を,自由貿易のせいにしてはならない,と主張します.コロンビアとのFTAに反対する経済的な理由はない.すでにアンデアン貿易特恵法で関税は撤廃されており,アメリカからの輸出にコロンビアの関税がかかっている.FTAはこれを取り除くだけだ.ところが,中国などからの安価な輸入の増加が雇用を奪っている,という意見は広い待っているから,政治的な理由で(FTAに)反対しやすいのである,と.

今後,ドル安がさらに進めば,アメリカは輸出によって雇用を増やせるでしょう.輸入を阻止してもアメリカの成長を損なうのでは意味がない,とSamuelsonは考えます.政治家や労働組合は,時代遅れの保護主義に頼っているのです.


FT April 15 2008

What follows American dominion?

By Richard Haass

(コメント) 20年間続いたアメリカの一極支配は終わるでしょう.その原因は,1.歴史.すなわち,安定した秩序の下ではさまざまな力が分散し,各地で新興勢力が不均等に拡大する.2.アメリカの政策(失敗).エネルギー,イラク戦争,経常収支赤字,ドル安,金融危機.3.グローバリゼーション.さまざまなパワーが政府の手を離れて流動的に関係を広めていく.未知の,非国家主体が重要になる.

アメリカによる一極支配の後に来る国際秩序は,たとえば中国の軍事的な脅威を強調する者が主張するような二極化や,他にも,ロシアやインド,ヨーロッパ,日本,などが加わる多極化であろうか? そうではないだろう,とRichard Haassは考えます.むしろ,明確な極のない世界です.

アメリカの外交政策は,その利害によって他国との同盟関係を選択することではなくなります.国際機関によって共通の解決策を示すことも難しいでしょう.しかし,脅威は遍在します.焦点を明確にして,創意工夫をこらし,他国と一緒に行動するような外交政策によって,この無極世界がさらに危険な,無秩序に向かわないように努めるべきだ,と.


NYT April 15, 2008

Abolish All ‘Taxes’

By RICHARD CONNIFF

(コメント) アメリカで保守派の政治的主張を見れば,最も頻繁に訴えられるのは,「税金」への反対,特に「死者への課税(遺産税)」を廃止せよ,であり,また,同性の結婚を問題にして,「婚姻を守れ」という主張だそうです.そこで,“taxes”ではなく,“dues.”と呼んではどうか? と提案します.これは社会的な連帯を示す「義務」だから.


NYT April 15, 2008

Chinese Entity Buys a Stake in British Oil Giant

By DAVID BARBOZA

FT April 15 2008

China buys BP stake

Asia Times Online, Apr 17, 2008

The rise of the new energy world order

By Michael T Klare

(コメント) 中国の政府系資本がBPブリティッシュ・ペトロリアムの株(全体の1%,約20億ドル)を買収する話です.広報担当者は,公開された企業として,株式への投資を歓迎する,と発表しました.それは中国の莫大な外貨準備について運用を改善する問題であり,世界の資源獲得競争において中国がさらに重要な役割を果たす,という文脈でしょう.

イギリスのAlistair Darling財務大臣は,政府系投資ファンドによる投資も歓迎する,と述べています.3年前には,やはり中国政府系の資本CNOOCがアメリカの石油企業Unocalを買収しようとしましたが,政治的に阻止されました.イギリスでは,すでにクウェートのSWFがBPに投資しており,BPは中国の石油・天然ガス企業が民営化する際に投資した,ということです.

ただし,将来,中国からの政府系投資ファンドによる投資がどれほど急速に拡大するのか,は未解決の問題です.そして,これが世界のエネルギー供給システムと,それを支持する政治的秩序にとってどのような意味を持つのか,ということも見えません.

Michael T Klareは,世界秩序をめぐる5つの勢力を指摘します.1.旧勢力(OECD)と新興勢力(中国,インド,など)との激しい競争,2.エネルギー供給の不足,代替燃料の開発には限界,3.地球温暖化における多くの破局シナリオ,4.エネルギー窮乏諸国からエネルギー余剰諸国への富とパワーの移転,5.地域的な軍備拡大競争から世界的な軍事衝突まで,エネルギーを支配する者が私たちの生活の隅々から世界秩序まで決定する「新しい世界」の不安定化が進むのではないか・・・?

NYT April 16, 2008

Japan Bars Investment by British Hedge Fund

By MARTIN FACKLER

FT April 17 2008

J-Power failure

(コメント) イギリスの投資ファンドが日本の電力会社を買収する話です.町村官房長官は例外だと言います.原発に関する情報に関わる.短期的な利益を追求する.安全保障の問題だ.・・・しかし,日本が国際投資に対して開かれている,という政府の公式の説明を,世界の投資ファンドは信用しないかもしれません.FTは,日本政府は,高配当を求める株主の投票を拒みたかったのではないか,と推測します.それは,日本を低配当・資本浪費国家にしてしまいます.


FT April 15 2008

Maoists have to heal a fractured Nepal

By Amy Yee in Kathmandu


SPIEGEL ONLINE 04/15/2008

Oxfam Claims Low Prices Terrible for Laborers

By Patrick McGroarty in Berlin

(コメント) ドイツのOxfamは,スーパーマーケットが行っている安売りがラテンアメリカの労働者たちを低賃金と農薬で苦しめている,という報告書を出しました.Aldi, Edeka, Lidl, Metro and Reweがドイツの小売市場の70%を支配しているからです.政府が関与して,賃金水準や農薬,児童労働など,適当な業者からだけ輸入するように指導するべきだ,と主張します.


NYT April 16, 2008

Wall Street Winners Get Billion-Dollar Paydays

By JENNY ANDERSON

Asia Times Online, Apr 18, 2008

Exposed: China's red billionaire village

By Poon Siu-tao

(コメント) アメリカにも,中国にも,大金持ちがいっぱいです.たとえば,ウォール街のヘッジ・ファンドを運営するマネージャー,John Paulsonの報酬は37億ドルです.約3800億円! これは例外ではなく,他にもJames H. Simons George Soros30億ドルに近いとか.1913年以来,アメリカの所得分配が最も不平等化している,と伝えています.

しかし,中国の記事は,Nanjie villageは利殖に長けた村落(the "red billionaire village")として有名になったが,今では金融詐欺を問われ,破産しそうだ,という話です.


SPIEGEL ONLINE 04/16/2008

Life in a Parallel Society

By Norbert F. Pötzl

(コメント) ドイツに住む約300万人のトルコ系住民について,その文化的・社会的な(自主)隔離,二重社会・政治,あるいは,"parallel society"を問う報告です.

ゲスト・アルバイター,9・11,モスク建設,イスラム教徒への不信,イスラム過激派の浸透,衝撃的な事件,ネオ・ナチの台頭,新しい世代と文化,大量失業,人口構成の変化,・・・

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The Economist April 5th 2008

Israel at 60: The dysfunctional Jewish state

The next generation: A special report on Israel

(コメント) イスラエルは60回目の誕生日を迎えた,ということです.政治学者Yehezkel Drorの示す二つの未来は,まるで,イスラエルではなく日本を描いたように感じました.

一つの未来.「2040年,国民は50%増加し,世界のユダヤ人の3分の2が住む.国民の5分の4がユダヤ教徒である.残りの5分の1はアラブ人だが,差別をなくし,隣国としてパレスチナ国家があることで,イスラエルをユダヤ教の国家として認めている.知識を基礎にした経済が繁栄し,文化が栄え,公正な社会として,中東のほとんどの国と良好な関係,強力な貿易取引,を行っている.・・・改革によって政治システムは安定した.・・・」

もう一つの未来.「イスラエルには世界のユダヤ人の半分しか住まない.イスラエルにおける多数派の地位も後退し続け,3分の2を割って,さらに減少する.<シオニズム>は若者の間で軽蔑され,海外のユダヤ人はイスラエルをますます後進的で,自分と関係ないものと見ている.イスラエル内部のユダヤ人各派は対立している.民主的で,シオニズムを否定し,アラブ系の国民に自治を認めよ,という内外の圧力が強まっている.最も優秀な人々は国外に流出し,経済は衰退する.連立政権は派閥に分裂しており,短命だ.さまざまなグループの居住区がゲットー化され,富は大きく偏っている.イスラエルは,一方的に独立を宣言したパレスチナ国家と敵対し,紛争中である.イスラム原理主義が増え続け,今や大量破壊兵器を保有している隣国たちとの和平協定は結ばれそうにもない.」

もちろん,ある面で,これは日本だけでなく,南北朝鮮や,トルコ人コミュニティーを抱えたドイツ,台湾の将来かもしれません.それぞれの将来を分けるカギとなるのは,政治的な改革が成功すれば,という短い言葉です.

「正しい決定を下すためには,特殊利益によるグループが力を抑えられるが,少数派が非道にあしらわれることなく,長期的な目標が短期的政治より優位に立たなければならない.」・・・「アメリカ史の最初の数十年は,イスラエルと同様,激しいイデオロギー抗争に悩まされた.それを解決するのに内戦まで起こした.」 だからDror氏は楽観しています.まだ60年でしかない,と.


The Economist April 5th 2008

Germany’s Turkish minority: Two unamalgamated worlds

North Korea: Kim Jong Il’s ashes

North and South Korea: Rocket man v Bulldozer

Nordic labour markets: Where bosses will be your friends

Financial regulation: Will it fly?

(コメント) ドイツ国内に強まっているトルコ系住民との亀裂や不安を伝えています.北朝鮮の強硬姿勢には,韓国経済を人質にした深刻な展開を覚悟することで,わずかな楽観を得ます.北欧諸国の技術労働者募集は率直かつ切実です.アメリカ金融規制の大改革は実現するでしょうか? 論争が続きます.