今週のReview
4/14-4/19
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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アメリカの方向転換1,2,3, キッシンジャー, 農業政策と食糧危機1,2, ドルと人民元1,2, 金融危機の考察, グリーンスパンの反論, アイスランド
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT April 3 2008
Last chance for the US to shape the new global order
By Philip Stephens
(コメント) まだ有力候補になる前に,オバマ上院議員が外交政策についてアメリカの専門家たちに尋ねたそうです.その際,選挙戦の争点を尋ねたのではなく,彼は大統領が最初の年に集中して取り組むべき外交政策の課題を三つか四つに絞るよう求めたそうです.
アメリカは今も国際秩序を動かす際に欠かすことのできない国ですが,アメリカだけで国際秩序を変更する力はありません.その意味で,これは賢明な問いかけです.オックスフォードシャーで開かれたアメリカ外交政策をめぐる専門家たちの集まる会議で,次期大統領が解決しなければならない重要問題があまりにも多いことに驚かされた,と伝えています.
イラクの安定化,イランの核疑惑,アフガニスタン,中東和平,テロとの戦い,中国,ロシア,ポスト京都議定書,核不拡散,EU,北朝鮮の核武装解除,・・・
ブッシュ氏が任期を終えることを世界中が待っています.そしてアメリカの新しい決定によって,自分たちの問題も解決できると期待しているのです.しかし,新しい大統領もブッシュ遺産から逃れることはできないし,世界システムのパワー・シフトを前提しなければなりません.「個々の政策は,アメリカの指導力と利益を最もよく守るような,世界秩序に関する明確なアイデアに依拠して決めなければならない.」
もしアメリカが対応を誤れば,世界はさまざまなパワーの新しい抗争によって支配される.あるいは,権威主義的な資本主義が重要な地位を占めるようになる.そうではなく,アメリカが過去半世紀以上追求してきた,自由な秩序を拡大し,再編することを目指してほしい,と主張します.
アメリカの新しい大統領は,世界の景観が急速に変化する際の,世界の方位磁石を握っているのです.だから新大統領はよく考えるべきです.アメリカはどんな世界を望むのか?
IHT Thursday, April 3, 2008
Win-win in the Caspian
By Borut Grgic and Alexandros Petersen
FT April 4 2008
Nato closes ranks
(コメント) Borut Grgic and Alexandros Petersenは,NATOが注目するべき地域としてカスピ海沿岸を挙げます.この地域における軍事力の未整備が無秩序な状態を拡大し,武器や麻薬,ウランなどの核物質の国際取引と密輸が増えています.ロシアもヨーロッパも,この地域が安定することに共通の利益を見るべきなのです.
ヨーロッパが今日の繁栄を実現しているのも,NATOによる安全保障があるから可能なのです.この安全保障はヨーロッパにもロシアにも有益なものであり,ロシアが主張するような西側による軍事的脅威などNATO拡大に含まれません.それはロシア政府の感情論です.むしろ,カスピ海沿岸地域が安定すれば,ロシアはエネルギー開発や貿易の拡大によって大きな利益を得られるでしょう.
問題は,NATOがこのようなロシアの利益を十分に宣伝していないことです.NATOへの加盟は,グルジアやウクライナにおける反ロシア感情を抑制したのであって,その逆ではありません.それぞれに実際的な利益を重視するなら,NATOのブカレスト会議はカスピ海沿岸を包括する,という結論を得るはずです.
FTの論説は,ブカレストのNATOサミットでブッシュ大統領は何も得られなかったが,大きな成功を収めた,と考えます.ブッシュ大統領はミサイル防衛計画を訴えました.イランからのミサイル攻撃を抑える必要がある,というわけです.また,ウクライナやグルジアを加盟させるべきだ,と主張しました.
「ロシアはミサイル防衛計画のあらゆる段階で相談を受ける権利を,少なくとも得ることができる.あるいは最大限に及ぶなら,この防衛システムにロシアも参加するようにというアメリカ政府からの真剣な提案を取り上げることもできる.」
入江昭氏は,日本がアメリカと戦争するより,国際軍縮会議とABCD包囲網(国際資源供給体制)に参加するべきだった,と主張したと思います.それを思い出しました.
そして,プーチン大統領の威嚇演説は,ポーランドとチェコを西側の防衛システムに深く関与させる方向にうながしただろう,とFTは指摘しています.NATOは何も決められなかったにもかかわらず,団結を得たのです.ブッシュ氏ではなく,プーチン氏のおかげで.
WP Monday, April 7, 2008
By Henry A. Kissinger
(コメント) Kissinger! ・・・リアリストの言説は今も十分に強力です.あるいは,グローバル・リアリストの誕生でしょうか.
戦術論を争うよりも,世界の三つの変化に対応した戦略が求められます.それらは,1.ヨーロッパにおける伝統的国家システムの転換,2.イスラム過激派の歴史的国家に対する攻撃,3.国際情勢の重力の中心が大西洋から太平洋とインド洋に向かうこと,です.
アメリカとヨーロッパの対立は,ブッシュ大統領のユニラテラリズムのせいだ,と思われていますが,そうではない,とキッシンジャーは主張します.むしろ対立の原因は,ヨーロッパが国民国家を解体しつつあり,アメリカはそれを強化・拡大している点にあるのです.国家の及ぼす影響と義務をどう考えるべきでしょうか?
ヨーロッパは二つの世界戦争によって国民国家が解決策ではないと信じるようになりました.しかし,それに代わる制度も確立できていません.長い移行過程にあるわけです.NATOの義務を果たす国は少なく,歴史の古い伝統的な国家だけが軍事協力に参加します.他方,中東地域の国家は,オスマン帝国が解体する中で,第一次大戦後のヨーロッパ諸国によって地域のエスニシティーを無視して作られました.イスラム過激派はこうした国家主権を認めず,イスラム教徒がいるすべての地域を支配しようとします.西側の考える地域的な利害の均衡や交渉は成立しません.
こうした複雑な国際情勢を動かす力の中心が太平洋やインド洋に移動するとき,その主要な国家は,中国,インド,日本,インドネシア,ロシア,など,むしろ伝統的なヨーロッパにあった国家主権を維持しています.19世紀にドイツが台頭したときのように,この地域でも紛争が起きる可能性が高まるでしょう.他方,21世紀には,紛争を抑制する力も強まっています.経済と金融のグローバリゼーション,環境破壊やエネルギー供給に関する共通の利害,近代兵器の破壊力は,軍事衝突よりも世界的な協力を,特にアメリカと中国の協力を強めるでしょう.
すべての問題に対する一つの解決策を求めることはできません.新しい大統領は,複雑な問題に対する原則的な答えを求め続けるわけです.
King said it plain BG April 4, 2008
Clay Risen The legacy of the 1968 riots The Guardian, Friday April 4 2008
Michael Eric Dyson The prophetic anger of MLK LAT April 4, 2008
A moment for Martin Luther King LAT April 4, 2008
DAVID BROOKS The View From Room 306 NYT April 4, 2008
E. J. Dionne Jr. When Liberalism's Moment Ended WP Friday, April 4, 2008
Clay Risen Legacies of the Riot WP Friday, April 4, 2008
Matt Frei Fraught politics of US race relations BBC 2008/04/04
Colbert I. King What King Would See Today WP Saturday, April 5, 2008
TAYLOR BRANCH The Last Wish of Martin Luther King NYT April 6, 2008
(コメント) メンフィスを訪れた39歳のマーチン・ルーサー・キング,Jr.が暗殺された40年前は,アメリカがベトナム戦争にかかわっていた時代でした."Beyond Vietnam: A Time to Break Silence."というキング牧師の演説が紹介されています.国内の貧困,人種差別,国外の戦争.「世界は混乱し,アメリカは病んでいる.」 しかしキング牧師は,新しい精神が育つことでアメリカは再生できる,と訴えます.
キング牧師暗殺後に起きたアメリカ国内の騒乱や暴動について,いくつかの論説が取り上げています.「事実上の隔離,職場での嫌がらせ,警察の冷酷な扱い,著しい貧困,それがゲットーの生活であった」と,Clay Risenは書いています.125年に及んだ暴動の被害は,死者や放火された建物以上に,その後も長く都市の中心部が荒廃し,投資を妨げて失業,貧困,犯罪,を恒常化したと指摘します.
しかも,暴動の恐怖は保守派による「法と秩序」という主張を強めました.ニクソンは大統領選挙に向けて支持を固め,副大統領のアグニューとともに,市民権運動やリベラル派を暴動の仲間として攻撃します.キング牧師暗殺によって起きた暴動の原因を解決する動きは,その後の政治によって抹殺された,とRisenは考えます.
LATが,キング牧師の暗殺された4月4日午後6時から40時間の暴力停止を求めていることに,ある意味で,私は驚きます.イラクやガザではなく,殺人事件などの犯罪が頻発するアメリカ社会では「40時間の暴力停止」も思い切った提案なのだ・・・!
E. J. Dionne Jr.も,短期間であったが社会改革の情熱が溢れた時期は終わり,長い保守政治の時代が始まった,と述べます.ジョンソン大統領の調査委員会が騒乱の原因を「白人のレイシズム」と認めたにもかかわらず,その後,ニクソンは暴動に加わったすべての者を非難し,「報復」を唱えました.
「暴動とは,沈黙を強いられた者たちの最後の表現なのだ」とキング牧師は語っていました.キング牧師は,家庭や学校の深刻な問題にも注意していました.自分たちの「利己主義」が,またアフリカ系アメリカ人の分裂が,人々を苦しめることを見ていました.
The Guardian, Friday April 4 2008
The road from Kyoto
Gwyn Prins
FT April 7 2008
How worldwide inflation will aid Japan
By Alexander Kinmont
(コメント) 日本は,京都議定書の目指す「エネルギー効率の高い経済」を実現した優秀なモデルである.また日本は,アメリカの金融当局が求め始めたバブル崩壊後のインフレ再生に協力することで,最も利益を受ける立場にある国だ.・・・と思えば,私たちも何か楽観できそうな気が,少しは,します.珍しく,世界が日本に感謝する例かもしれません.・・・まさか?
FT April 4 2008
Governments can no longer ignore the hungry
By Alan Beattie
Alan Beattieの論説は興味深いです.世界の農業政策はあまりにも「生産者の利益」に偏っており,世界人口の半分が都市に住むようになった時代に,農産物の不足や価格高騰で社会不安をもたらす危険を高めている,と主張します.
農産物価格が上昇する中でも,供給国は都市の貧しい住民よりも,生産者の輸出を維持することに関心を向けています.貿易自由化の国際交渉が行き詰まるのは,豊かな国と貧しい国が対立するよりも,豊かな国の中の農民と都市住民が対立しているからです.
1846年にイギリスは穀物法を撤廃することで,1848年のヨーロッパに広まる革命の嵐に巻き込まれなかった,と指摘します.
NYT April 7, 2008
Grains Gone Wild
By PAUL KRUGMAN
(コメント) 金融危機よりも,もっと多くの人々を苦しめる危機が起きている,とPAUL KRUGMANは強調します.それは世界食糧危機です.
豊かな国の消費者も不満を強めていますが,貧しい食糧輸入国では,食費が家計の支出の半分を占めることさえあるのです.他方,ウクライナやアルゼンチンなどでは,国内消費者に供給する食糧を確保するために輸出税をかけています.各地で都市の貧困層や農民が抗議の声を上げています.
その原因は複雑です.1.中国など,新興市場の富裕化と消費増大.2.石油価格の上昇.その原因が中国の重要であれ,アメリカのイラク戦争であれ.3.オーストラリアのように,耕作地帯の気候悪化.それが地球温暖化の対策を怠った政治家たちの失敗かもしれない.4.エタノール燃料化の政策.耕地を奪い,森林破壊を促した.5.食糧備蓄の取り崩し.市場崇拝によって備蓄を無視するようになった.6.同様に,食糧危機さえも証券化や金融システムによってリスク分散しようとし,逆に国際的なショックの波及を招いた.
どうすれば良いのでしょうか? FAOは世界食糧基金を呼び掛けています.少なくとも,穀物を燃料に変えるような政策を直ちに廃止することです.
WP Friday, April 4, 2008
Justice for the Poorest
By Michael Gerson
FT April 9 2008
Help poor states to seize the fruits of the boom
By Paul Collier and Michael Spence
The Japan Times: Wednesday, April 9, 2008
The world's hungry billion
By SUE HORTON and BJORN LOMBORG
(コメント) Gary Haugenが設立したInternational Justice Mission(IJM)は,発展途上諸国の,貧しい,社会的に弱い立場の人々が法の下で正しく扱われることを助ける組織です.「法の支配」は,単に企業にとって,貿易・金融取引において必要なだけでなく,むしろ貧しい人びと,弱い立場にある者が生きるためにこそ必要です.そして,それこそが開発の正しい条件を形成します.
Paul Collier and Michael Spenceは,低所得国が農産物の輸出ブームを迎える中で,これを開発に生かすために世界銀行やIMFが取り組む課題を示します.潤沢な輸出収入や中国からの資金を得て,国際金融機関のコンディショナリティーは無意味になっています.条件があるとすればそれは自発的なものであり,彼ら自身が選択する基準です.
The Extractive Industries Transparency Initiative(EITI)は,貧しい国に経済発展を進める基本的な条件を示して,援助や融資など,まったくコストをかけずに,しかも重要な,効果的支援を行う,と主張します.
SUE HORTON and BJORN LOMBORGは,世界にまだ350万人もの栄養失調の子供たちがいる,と強調します.しかし,第三世界の飢えた子供たちの映像は珍しくなくなって,豊かな国の人々は世界の主要な政治課題を,テロや,地球温暖化である,と思うようになりました.それにもかかわらず世界の食糧備蓄は歴史的な低水準にまで減少しており,食糧価格の上昇が続いています.すでに食糧暴動が西アフリカや南アジアで起きています.
それは子供たちだけでなく,社会や政府の財政を破壊します.貧しい者たちの栄養状態が悪化すると,ますます多くの者が病気になり,医療費がかかります.また生産性が低下し,子供たちの学校における教育効果も低下するのです.世界の栄養不良の子供たちは,その80%がサハラ以南のアフリカや南アジアにいます.この地域に援助を増やすことは,世界にとって多くの利益をもたらすでしょう.
世界には多くの重要な課題がありますが,常に,そのコストを考慮する必要があります.貧困緩和・教育支援計画は,その意味で,最優先すべき課題である,と.
YaleGlobal, 4 April 2008
Ashok Bardhan and Dwight Jaffee
FT April 7 2008
Surging renminbi
April 9 (Bloomberg)
Tibetan Monks May Hold Clue to Dollar's Future
Amity Shlaes
(コメント) アメリカの大幅な貿易赤字とその生活スタイルは,アメリカに流入する外国資本と対外債務の累積に対応しており,陰と陽をなしています.それはアメリカの金利を下げて,バブルの拡大にも貢献しました.
2007年半ばに,外国投資家はアメリカ企業の債券を約3兆ドル,財務省証券を約2兆ドル,保有していた,ということです.その主要部分が中国や日本の政府,そして民間投資家であるわけです.アメリカ金融市場の不安やドル安が進むことで,こうした投資がドルから逃げ出すのではないか,と懸念されています.
しかし論説は,アメリカ以外に信頼できる,しかも,十分な利益を得られる,規模の大きな債券市場は無いから,ドルからの逃避は起こらないだろう,と主張します.急激なドル資産の売却で,ドル安とインフレ,不況を起こすなら,それは彼らの利益にもならないのです.
FTは中国通貨・人民元が,対ドル・レートの増価を受け入れ,ついに1ドル=7元代に入ったことを強調します.中国政府は増価を阻止する為替介入政策を改めるのか? 否,そうではなく,これはドル安が進んだことを示すだけのようです.ユーロや円に対しては減価してしまいました.
Amity Shlaesは,ドルが人民元との対抗で地位を下げるとしたら,それは中央銀行の政策というより,中国によるチベットでの暴動鎮圧が,映像として世界に流れることに拠る,と考えます.
中国政府は,国民に新しい雇用や多くの自動車をもたらす成長政策の条件として,人民元をドルに対して安定化する「ブレトンウッズU」を放棄する気はないからです.経常収支不均衡は重要でなく,アメリカへの資本移動が重要です.中国は成長率を維持したいのであって,経常収支など気にしません.
しかしブレトンウッズUも,その前の体制と同じように,政治によって終わります.アメリカの保護主義,中国のインフレによる社会不安,アメリカや中国の新しい指導者が民主化の弾圧や社会統制について互いに非難を繰り返すことで,突然,ドルは紙くずであると非難され,通貨体制の緊密な協調の時代は終わるのです.
WP Saturday, April 5, 2008
The Real China and the Olympics
By Hu Jia and Teng Biao
NYT April 9, 2008
The Torch and Freedom
FT April 9 2008
Olympic protests will inflame repression
By Richard McGregor
(コメント) 2001年には北京オリンピック開催決定を祝って,「人権問題の改善」を約束した中国ですが,最近,著名な人権運動家が有罪になりました.たとえ8月に北京を訪れて紙吹雪や素晴らしい高層建築の街並みに迎えられても,それは真実の一部でしかない.その背後には多くの悲嘆,投獄,拷問,流血がある,とWPは批判します.
オリンピックの建物を建設するためにも,多くの住民が立ち退きを強いられました.中国は多くの人権運動家や反体制派,研究者,ジャーナリストを弾圧しています.多くのウェブ・サイトが閉鎖され,個人が訴追されています.インターネット上の情報がフィルタリングされています.外国の番組を流すことは禁止されています.さまざまな信仰,チベット仏教も弾圧されています.拷問は繰り返され,強制労働は常用されています.世界最大の秘密警察が法律を超えた権力を行使しています.地方の住民に対する差別は激しく,エイズ・HIVウィルスが広がっています.・・・
「選挙のない国,信仰の自由も独立した裁判所もない国,独立した労働組合がなく,デモもストライキも禁止された国,秘密警察が拷問や差別を許され,政府が人権を無視することを認めている国,国際的な義務を守らないような国で,オリンピックを開かないでほしい.」
WPは,中国を封じ込めたいとは思わないが,中国が国際社会の基準に耳を傾けるように求める,と主張します.中国政府はオリンピックの聖火リレーが中止されることを望みませんが,聖火リレーが抗議の焦点となることを止めることもできません.
Richard McGregorは,海外の聖火リレーに対する抗議や妨害が,中国国内の尊厳や誇りを傷つけ,むしろ逆効果であろう,と注意します.こうした抗議活動が中国政府を懲らしめる,そして,反省を強いるだろう,と考えるのは間違いです.
むしろ,将来の中国政治を偏狭なナショナリズムに委ねるかもしれません.
The Japan Times: Sunday, April 6, 2008
Suppose Texas was like Iraq
By GWYNNE DYER
LAT April 8, 2008
Resist the urge to leave Iraq
By Max Boot
(コメント) 145年前,アメリカの南北戦争が南軍の勝利に終わり,その後アメリカはさまざまに分裂してしまったとしたら,どうなっただろうか?
アラブ諸民族が一つの国家に住み,石油などなかったとしたら,どうなっただろうか?
そして石油の豊富な,しかし政治的に分裂したテキサスに,アラブの軍隊が「平和と自由」をもたらすためにやって来たとすれば,どうなるか?
Max Bootは考えます.民主的な政府を安定させるという意味で,アメリカ軍が撤退することは事態を改善することになるのか? 撤退を主張する者は答えなければならない,と.
NYT April 6, 2008
The Fed Gets a New Job Description
By ROBERT J. SHILLER
FT April 6 2008
IMF head calls for global action on market turmoil
By Krishna Guha in Washington
FT April 6 2008
Regulation needs more than tuning
By Clive Crook
FT April 6 2008
Central banks must care about house prices
By Wolfgang Münchau
(コメント) ROBERT J. SHILLERはポールソンの提案を重視します.FRBを「銀行の銀行」から「金融システムの規制官」にする,というわけです.すでにFRBはマクロ経済全体の安定化に責任を負っているのです.金融部門の在り方や経済における重要性が変わってきました.しかし,金融システムの信頼を取り戻すのは,非常に難しい作業です.
IMFや民間銀行の国際業界団体であるIIFは金融危機の広がりに警告を発し,政府による資本注入の必要性を議論し始めています.
Krishna Guhaは,規制について否定的です.金融危機の原因は一つに限ることができず,どのような規制によっても改善することを約束できません.サブプライム・ローンや証券化を規制することで危機が起きないとは言えません.むしろ格付け機関が機能しなかったことの方が重要です.まず,モーゲージの発行と,ヘッジ・ファンドの活動を規制するべきでしょう.
IMFは,中央銀行が住宅市場の価格を無視するべきではないと主張し,同時にインフレ目標を堅持するように求めました.しかし,これらの目標は矛盾します.Wolfgang Münchauは,石油や穀物,住宅価格を含んだ新しいインフレ指数が公表されるだろう,と考えます.それは金融政策を難しくするでしょうが,金融政策の目標は中央銀行家たちを安楽にすることではありません.
WP Monday, April 7, 2008
Double Bubble Trouble?
By Sebastian Mallaby
FT April 7 2008
Large-scale action needed to tackle credit crisis
By George Magnus
Asia Times Online, Apr 8, 2008
Demythologizing central bankers
By Thomas I Palley
The Guardian, Tuesday April 8 2008
A leadership deficit lies at the heart of the financial storm
Joseph Stiglitz
Robert J. Samuelson High Finance Laid Low WP Wednesday, April 9, 2008
Nout Wellink Basel II is sophisticated and sorely needed FT April 9 2008
Luigi Spaventa How a new Brady bond could ease the strain FT April 10 2008
(コメント) Sebastian Mallabyは二重のバブルが破裂したと考えます.ひとつは金融緩和の行き過ぎ.もう一つは,レーガン政権以来の市場崇拝.過剰な借金とドルへの過信.
それについて厳しい批判を行ったのはジョージ・ソロスですが,自己資本を増やさずに膨大な証券の取引を行って利潤を増やした結果,逆に扱う証券の価値が下がり始めると損失を吸収する資本が不足していました.そこでソロスの解決策は,証券を交換して減らしてしまうこと.また,証券の市場価格が上昇するときは資本を増やすように求めることです.
通常の政策ではなく,金融危機を脱出するには大規模に介入するしかない,とGeorge Magnusは提案します.FRBがモーゲージで担保された金融商品も含めて直接に購入することができます.しかし,FRBは流動性不足に対処するだけで,信用リスクに関与するのを嫌がるでしょう.そうであれば,議会が特別な債務処理機関を設置することです.さらに,
1.政府のバランス・シートを介して,債権者と債務者がモーゲージを組み直すように促す.2.フレディー・マックやファニー・メイを通じて流動性を供給する.3.有利な会計処理を認め,自己資本の増額を促す.4.FRBとSECとの再編.
バブルをもたらしたのは低インフレと低金利ですが,それをもたらした原因は,通説のような,優れた金融政策ではなく,賃金の抑制であったとThomas I Palleyは考えます.政府が完全雇用政策を静かに放棄して,労働組合を解体した結果,しばらくの間は生産性上昇が賃金上昇から切り離されたのです.しかしそれも限界に達しました.インフレ率の低下は終わり,貧困と所得格差が残されたのです.
Joseph Stiglitzは,流動性が不足しているのではなく,指導力が不足している,とFRBとブッシュ政権を批判します.アメリカ政府はイラク戦争の財政支出が消える分を住宅バブルと消費過剰で補ってきました.それが終わった今,FRBの流動性供給や救済融資とドル安による輸出で補おうとしています.これは21世紀の「近隣窮乏化政策」です.
金融システムの崩壊と不況を回避するため,財政出動も必要です.しかしブッシュ政権は的外れな刺激策を,しかも,遅れて提出したに過ぎません.住宅の債務を支払えないで追い出される貧しい住民を救済するのはモラル・ハザードを招くと拒みながら,彼らの貯蓄や生命保険を食い荒らして利益を分け合ってきた投資銀行を莫大な公金によって救済することには問題を感じない.しかも,こうした金融機関のリスク管理に依存して,経済運営や国際金融システムが機能しているのです.
他にも,自己資本規制の見直しや,1989年にラテンアメリカの債務を処理したブレディー・ボンドが言及されています.
IMF releases an Instability Report FT April 8 2008
Ulrich Beck This free-market farce shows how badly we need the state The Guardian, Thursday April 10 2008
Larry Elliott Grappling with ice and fire The Guardian, Thursday April 10 2008
HECTOR R. TORRES Could the IMF have prevented U.S. crisis? The Japan Times: Thursday, April 10, 2008
Vincent Cable How to respond to falling house prices FT April 10 2008
Christine Lagarde This crisis demands that we act, but not overeact FT April 10 2008
FT April 6 2008
The Fed is blameless on the property bubble
By Alan Greenspan
(コメント) グリーンスパンは,バブルやサブプライム.ローンの拡大に責任があると批判されたことに対して反論しています.おそらく,以下のような点で.
1.2001-06年,世界中で同様の住宅バブルが起きたが,その原因は共通のものではない.
2.景気回復が明らかであるのに金融を引き締めなかった,というのは特定のモデルが示すだけだ.極端な金融緩和はしていない.
3.金融政策が危険なほど非対称的で,景気変動を増幅した,というのは間違いだ.
4.不確実な現実に対して判断を迫られるのは当然だ.金融政策は事実に依拠して行うのであり,イデオロギーではない.
5.サブプライム問題は金融ビジネスの判断ミスだ.もっと強い権限があっても,金融監督では防げなかった.
6.市場に抗して金融政策を行える,という主張には実例がない.バブルや金融危機は事前に予測できない.
7.規制よりも金融市場が優れている.その証拠は豊富に存在する.
Martin Wolf Why Greenspan does not bear most of the blame FT April 8 2008
Caroline Baum Volcker Stands Tall, Greenspan Keeps Shrinking April 9 (Bloomberg)
MICHAEL M. GRYNBAUM Ex-Fed Chairman Chides Current One NYT April 9, 2008
Ralph Atkins and Krishna Guha Focal distance – why two top central banks are taking different views FT April 9 2008
(コメント) Martin Wolfは,住宅バブルはアメリカに限られない,という反論を受けて,三つの疑問を示します.1.他国の住宅価格下落と比べて差がある.2.バブル破裂後もモーゲージの保有を説得した.3.アメリカの金融政策は世界の金融緩和で中心的な役割を占める.
なぜグリーンスパンは住宅バブルを招いたか? それは,ITバブル破裂後,デフレを強く恐れていたからだ.それが予期せぬバブルをもたらしたのは,アメリカの金融政策によるのではなく,世界的な貯蓄過剰のせいであった,と考えている.つまり,・・・日本の亡霊に怯え,中国のわがままに翻弄されて,道に迷った!
元FRB議長ポール・ボルカーが現在のバーナンキ議長によるベア・スターンズ救済を批判した発言は,前議長のグリーンスパンの金融システム礼賛にも厳しいものでした.
Ralph Atkins and Krishna Guhaは,アメリカとヨーロッパの金融政策が互いに反対方向を目指していること,について考察します.すなわち,FRBはデフレ回避,ECBはインフレ回避です.それは両機関の歴史や法的な権限の違いを超える,何か原因があるのでしょうか? 金融市場や経済構造の違い,金融サービスの重要性や生産性上昇の見通し,なども指摘されます.
Nigel Lawson A foolish overreaction to climate change FT April 6 2008
Gordon Brown and Kevin Rudd Act now on climate change The Guardian, April 7, 2008
Walden Bello Capitalism at stake in climate crisis Asia Times Online, Apr 11, 2008
(コメント) 地球環境,気候変動,温暖化ガス排出規制,・・・まだまだ合意に基づく国際制度の構築には至らないように思います.それでも,次のサミットで日本は何を提案するでしょうか?
FT April 6 2008
Masters and misgivings: A coveted qualification turns 100 still seeking to prove its worth
By Della Bradshaw
(コメント) 1910年にハーヴァード大学から最初のMBAが誕生してから,MBAは世界経済を席巻してきました.今年卒業するMBAは,中国の3万人,インドの1000校からも含めて,世界で50万人に達するとか.・・・本当に,これで良かったのでしょうか?
LAT April 7, 2008
Changing the ways we connect
By Pico Iyer
FT April 7 2008
The political threats to globalisation
By Gideon Rachman
CSM April 9, 2008
The real issue on free trade
(コメント) 日本のどの駅を出てもマクドナルドがあり,良く見る居酒屋,コンビニ店などが並んでいます.音楽でも,映像でも,小説(Haruki Murakami)でも,ますます地域が分らない感覚,グローバリズム=ライトに巻き込まれていきます.
ダライ・ラマは地球上の最も辺境に位置するチベットの,その中でも田舎で1935年に生まれました.自動車も,外国人も,舗装した道路もなかったそうです.そして今は世界のもっとも重要なスポークスマンの一人です.こうした「新しい現実」の一部です.ツツ大司教やビル・ゲイツがそうであるように,彼らは世界について発言します.世界につながる感覚を持つ人々です.
経済の世界が変わる前に,必ず政治が変わらなければならない,とGideon Rachmanは考えます.ビジネスの世界化は政治的な基礎に立つのです.その意味では,アメリカと中国の関係が重要です.しかし,もっと重要なことは,政治家たちがグローバリゼーションの議論に背を向けないことです.ヨーロッパが,世界中の貧しい人びとが,グローバリゼーションに反対するとき,政治家たちがグローバリゼーションを支持しなければ,秩序は崩壊に向かいます.
たとえばFTAをめぐるアメリカ議会の問題は,コロンビアとの関税を撤廃するかどうかではなく,アメリカ自身が労働者たちの調整過程を受け入れるかどうか,なのです.
FT April 7 2008
Mind the gap
By John Plender
(コメント) アメリカの所得分配は,ついに,1929年,The Great Gatsbyの時代に戻ってしまいました.J.K.ガルブレイスがThe Great Crashで示したように,当時も,レバレッジによって株価を押し上げ,富の不平等な分配を拡大したのです.経済の「金融化」は再び破局によって終わりました.
労働の果実が不平等に分配され,豊かな者がますます豊かに,貧しい者がますます貧しくなるなら,社会システムの崩壊に向かう・・・と世界最大の債券投資信託マネージャー,Bill Grossが語ったそうです.論説は,さまざまな数字を検討し,すでに各地(日本を含む)で現れている政治的な動揺を紹介します.
WP Tuesday, April 8, 2008
Run, Condi, Run!
By Eugene Robinson
(コメント) ヒラリーにも,オバマにも負けない,共和党の大統領候補が登場して,選挙を戦ってほしい.そうだ! 可能性が一つある.マッケインが副大統領候補としてコンドリーザ・ライスを指名することだ.彼女以上に優れた知性ある,女性の,しかも,疲れた時にはピアノの演奏もできる,さらにロシア語でロシア史を教授できて,毎日のファッション・ショーも楽しめる,こんな副大統領候補はいない!
FT April 8 2008
Cool under fire: Iceland takes the fight back to finance
By David Ibison in Reykjavik
SPIEGEL ONLINE 04/10/2008
Crashing the Party of Icelandic Prosperity
By Alexander Jung and Christoph Pauly
NYT April 10, 2008
Nepal痴 Perilous Ascent
By MANJUSHREE THAPA
(コメント) OECD諸国の中で最小の経済規模ながら,一人当たりGDPでは最高の水準に並ぶアイスランドが,どのようにして漁業から不動産や金融サービス転換したか? そして,ヘッジ・ファンドによる通貨や株式への攻撃に対しても反撃し得たのか? いつまで独自通貨を選択するのか?
また,ネパールの選挙にも関心があります.毛沢東派のゲリラたちが作った政党と,民主化を選択した王党派の対立です.
The Guardian, April 9, 2008
Kenneth Rogoff
Asia Times Online, Apr 10, 2008
Asia must rally behind China
By Chan Akya
NYT April 10, 2008
Yuan Hits Milestone Against Dollar
By DAVID BARBOZA
Asia Times Online, Apr 11, 2008
Dollar can be saved from self-mutilation
By Antal E Fekete
(コメント) IMF・世銀総会に向けて,Kenneth Rogoffが主張するのは少し奇妙な気もしますが,ドル安を防ぐ方法を考えるより,世界の中央銀行はドルの次の国際通貨を準備しなければならない,という論説です.アメリカの景気は悪化しつつあり,金融市場や中央銀行は信頼を失い,政府がイラク戦争・占領で被る損失額はウナギ登りで財政状態を悪化させます.
北京オリンピックなどに現れた西側の姿勢に反発を感じる中で,ドルに代る通貨がないのか? ユーロには対外的な通貨政策がない? それでは,アジア通貨が人民元にリンクして,ドル建やユーロ建の資産から域内投資に転換してはどうか? という意見が出てきます.
あるいは,金本位制に戻れ,という意見も.
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The Economist March 29th 2008
After Bush: A special report on America and the world
(コメント) ブッシュが辞めてもアメリカの外交政策はほとんど変わらない,という特集記事です.私には納得できませんが.
ひとつは,ブッシュ・ドクトリンを広く解釈していることです.ブッシュ自身が態度を変えたことは連続性を示すでしょう.孤立主義を懸念するのは正しいと思います.冷戦時代のような明確な外交政策は今後も示せません.
The Economist March 29th 2008
Argentina’s taxes on food exports: Killing the pampas’s golden calf
Argentina: The Kirchners v farmers
Famine, farm prices and aid: Food for thought
Rice and politics: Needed: a new revolution
(コメント) 金融危機より食糧危機に興味を持ちました.アルゼンチンやベトナムが食糧輸出を阻止するなら,輸入国の貧困層が苦しみます.The Economistは,食糧価格の上昇を貿易自由化に対する先進諸国の農業問題を解決する好機である,と主張したわけです.これらの主張は矛盾するように見えます.
世界の食糧供給は十分あるのに,各国のガバナンスが不十分だ,という視点でまとめています.
The Economist March 29th 2008
Banking: The regulators are coming
Taiwan: Ma’s horse comes in
Bhutan: Voting on the king’s orders
Slovakia’s history: Textbook wars
Charlemagne: Europe makes peace with nationalism
China’s steel industry: Pile up
Trade and migration: How to smite Smoot
Economics focus: Divine intervention
(コメント) その他の面白い記事です.規制が良いとは限らない.馬英九総統の当選.ブータンの選挙.スロヴァキアの教科書戦争.EUには当然,調整を促す委員会があります.ヨーロッパはナショナリズムを克服したのか? 中国の資源輸入と政治介入.貿易だけでなく,移民に国境を開放する利益が大きいことを示す.理論とは逆に,為替市場への協調介入は成功している.