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IPEの風 4/14/08

NHK・BShiの放送で,名曲探偵アマデウスを観ました.否,聴きました.ラヴェルが作曲したボレロでした.小太鼓奏者の失踪,そして,トロンボーン奏者,オーボエ奏者も失踪します.この曲に仕掛けられた作曲家の技巧や,演奏者たちの緊張が良く分りました.

拙著『グローバリゼーションを生きる』をまとめてからも,私は論証の手続き,あるいは,その体裁(レトリック)が不満でした.優れた研究の基礎には,それが真実であることを示す証拠や,その確からしさを示す推論の手続きに厳格さがなければなりません.私の叙述には,そのような方法的な基礎が無いのです.

私はそれを,<歴史>,と呼ぶようになりました.

拙著が示したのは,良く言えば,現実を彩るイデオロギーの標本箱であり,その生態を模写したスケッチです.私はそれらを並べて,グローバリゼーションと私たちをつなぐ可能性を広げ,新しい現実の想像を刺激するノートを提供しただけかもしれません.どうぞ書き込んでください,と.

私は,そこに不足しているものを,何としても探そうと思います.私のイメージに刺激を与える指針が,何か,ないでしょうか? たとえば,Foreign Affairsなどでリチャード・N・クーパーが推奨した研究は,その手掛かりになるかもしれません.国際通貨制度や為替レートについて,世界の食糧供給について,環境破壊について,その他,クーパーの紹介する研究は,私にとって不思議な宇宙の羅針盤です.

しかし,<歴史>という感覚にもっと近い研究としては,たとえばJeffry Frieden, Global Capitalism: Its Fall and Rise in the Twentieth Centuryがあります.マイケル・マンの『ソーシャル・パワー: 社会的な<力>の世界歴史 T,U』もそうです(翻訳された方の知性と労力に感謝します).まだ一部を読んだだけですが,研究の示す解釈の確かさ,説得力に,深い感銘を受けました.

ジェフリー・フリーデンの研究が示す世界資本主義の歴史的な整理,社会を動かす重要な問題提起と,それに対する簡潔な解答,政治的解釈,そして次の問題への展開は,実に透明で,しかも証拠を可能な限りそろえています.あるいは,マイケル・マンは,紀元前3000年,文明の誕生から現在にまで達する社会的な<パワー>のあり方を解剖し,合理的な解釈を試みます.遺跡の発掘調査や環境条件,人類学的な考察にまで及び,さまざまな歴史解釈の論争を,証拠や推論によって判定し,組み立て直します.

ヒトは,社会に囲い込まれた最初の獣です.拙著の冒頭に書いたように,「人は<個人>ではなく,<社会>として,大きな力を発揮し,富を生産できます.」

「国家を構成する諸要素は,社会的・領域的な経済と軍事の固定投資によって強められる.」・・・「採集-狩猟に始まって永続的な文明国家に至るまでの各段階の連続的なつながりが具現しているのは,自然に対する人間の<力>の増大の「代価」として支払われる,社会的・領域的固定性の増大である.」(マン,前掲書,T,58頁)

そして,Friedenが考察した世界資本主義の過去から現在,さらに未来への可能性(彼のヨーロッパにおける講演Will Global Capitalism Fall Again? がインターネットで手に入ります)を,じっくり読んでみたいです.

わざわざ各地から集まっていただいた皆さんに,中身のある回答を示せなかったことは残念です.しかし,時間を与えられるなら,私はまだ答えを見つけたいと模索しております.学びたいことは多くあるのです.IPEをめぐる拙著の試みをどうか楽しんでください.そして,不満を感じた人は(多いでしょうが),もう少し待ってください.

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