今週のReview
3/31-4/5
*****************************
世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
*****************************
******* 感嘆キー・ワード **********************
オバマの人種差別論, ベア・スターンズ救済, 新しい金融規制, 北京オリンピックをボイコットせよ・するな! イラク開戦5周年, 朝鮮半島, 台湾の総統選挙, イギリスとフランス
******************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
Erin Aubry Kaplan It's a mad, mad, mad, mad world LAT March 19, 2008
Tim Rutten Obama's Lincoln moment LAT March 19, 2008
Michael Gerson A Speech That Fell Short WP Wednesday, March 19, 2008
NICHOLAS D. KRISTOF Obama and Race NYT March 20, 2008
Christopher Caldwell Obama breaks the secret code FT March 21 2008
Gregory Rodriguez Obama's brilliant bad speech LAT March 24, 2008
(コメント) Erin Aubry Kaplanは,黒人への恐怖を煽り,黒人運動を非難するデマゴーグたちは非難されない,と指摘します.候補者も関係者も,常に,GoogleやYouTubeによって,その言動を監視されています.
アメリカで生きる黒人たちが人種差別に苦しんできたことをオバマは知っています.しかし,人種差別を理由に白人やアメリカを非難する発言は間違っている,と主張しました.オバマを黒人の過激派やイスラム教徒のテロリストと同一視する選挙戦の中で,やむを得ず保守的な姿勢を示したのでしょうか?
そうではないようです.オバマは雄弁家として,黒人の激しい怒りを忘れることなく,それでも白人たちを攻撃することは間違っている,と主張するのです.人種差別をなくしたいなら,そのような発言でアメリカを分裂させてはならない,と.
Tim Ruttenは,アメリカの政治を変えた歴史的な演説,歴史的な名言を紹介します.リンカーン,フランクリン・ルーズベルト,ケネディー.本当に,オバマの演説はそれほど重要なのでしょうか?
アメリカ憲法に依拠して人種問題の解決を目指したことが優れていたのでしょう.オバマは,アメリカ憲法自身が奴隷制という汚点を残しながら,それを克服する道も示していた,とアメリカ人を説得します.黒人も白人も不完全であることを認めて,より完全なユニオンを実現しよう,と呼びかけます.
もちろん,オバマを批判する側はその姿勢を非難します.演説も陳腐な弁解です.Jeremiah Wright牧師の説教は強烈で,聴衆の感情を刺激します.白人の政府は広島に原爆を落としても気にしないが,9・11には大騒ぎする.エイズ・ウィルスは黒人を抹殺するために政府が図った陰謀である?とも示唆したそうです.オバマも含めて,これは憎悪の政治である,と.
アメリカの政治体制は,人種差別を廃止することには成功しませんが,人種差別的な発言や攻撃を禁止することに熱心です.むしろ人種差別を廃止する議論もできないほど.それはますます隠ぺいされた形を取るでしょう.
Gregory Rodriguezは,この制度化された差別を事実として認めるなら,オバマの理想主義的な主張は現実を無視している,と批判します.
FT March 19 2008
Ask the oil producers to rescue Wall Street
By Anil Kashyap and Hyun Song Shin
(コメント) ベア・スターンズ救済はバーナンキの仕事ではない,となると,誰の仕事か? 中央銀行の融資ではなく,株式を発行して産油諸国に投資を頼むべきです.
アメリカは金融市場の崩壊を回避するためにベア・スターンズの外資への売却を認めるし,もし世界経済が不況に向かえば石油価格は下落します.逆に,金融市場の混乱を回避することで,産油諸国は株価の回復で利益を得ることもできます.
そして同じような「配慮」を,ブラック・マンデーの際,アメリカ政府や金融市場関係者は日本政府や証券会社にも求めたのではないか,と思います.
Wolfgang Kaden It's High Time to Re-Regulate Banking SPIEGEL 03/20/2008
Robert D. Novak The Fed on a Limb WP Thursday, March 20, 2008
Ellen Goodman The gospel according to moral hazard BG March 21, 2008
Joel Stein Socialized Compensation NYT March 21, 2008
Saving Wall Street from itself BG March 23, 2008
For the Fed痴 Next Act ... NYT March 23, 2008
Wolfgang Münchau This crisis could bring the euro centre-stage FT March 23 2008
(コメント) 銀行融資のいい加減さ,デリバティブ取引の複雑さ,証券化による金融市場への中央銀行の介入手段不足,救済融資にともなうモラル・ハザード,大きすぎて潰せない,競争条件の統一,外資への市場開放,ヘッジ・ファンド,政府系投資信託,プライヴェート・エクイティ・ファンド,不正取引,金融詐欺,汚職,金融市場不安の波及,通貨危機,・・・ さまざまな問題が,金融市場の規制を改善することで解決できる,少なくとも,解決を助ける,と思われます.
資本主義の歴史は資本規制や会計原則の歴史であった,とWolfgang Kadenは指摘します.ギャンブルに耽って,儲けは自分のものにし,失敗すれば政府や中央銀行に救済させる.そんな銀行家や金融市場の権力を規制する時期が来たのです.
ベア・スターンズ救済に向けた動きが迅速であったのは,NYFRBのTimothy F. Geithner総裁がそれを指導したからだ,と記事は伝えています.金融市場に関する政府やFRBの動きは氷河が進むような遅さであると言われますが,Geithnerはキッシンジャーの事務所出身であり,ルービン財務長官の下で各国の通貨危機を処理しました.
ベア・スターンズ救済と住宅ローンの支払不能で差し押さえされる人々の救済策が,同じ「モラル・ハザード」として議論されます.論説によっては,妖怪,幽霊,・・・といった扱いです.ロナルド・レーガンが共和党のアイドルであった頃,彼が好んだ話があります.・・・最も恐ろしい9語の話.“I'm from the government and I'm here to help.”
利益が出るときは市場の結果を尊重し,企業の競争や経営者の投機的な拡大をボーナスなどで奨励しながら,それが結果的に損失を出すと,市場の秩序を求め,企業や銀行の救済を話し合うのでは,一貫した議論と思えません.社会的な基準を示す必要があるのです.
今回の金融不安は,長期的には,地政学的なシフトをもたらす,と考える論説もあります.アメリカは軍事力で突出していますが,経済的な秩序を維持するパワーがアメリカから失われて,一方は中国へ,他方はユーロへと,移るからです.Menzie Chinn とJeffrey Frankelが,今後10から15年で,ドルに代ってユーロで世界の準備通貨として最大になる,と予想しました.
かつてポンドがそうであったように,ドルも経常収支黒字を累積させて,長期的なドル安とインフレを経験するでしょうし,その過程で,今回のような突発的な金融不安と資本流出が起きるでしょう.政治的な混乱や軍事的敗北が人々の意識を変えるとき,ドルからユーロへの代替が間欠的に起きるのです.
かつて円はドルの再生に利用されるだけで終わったようですが,アメリカ中心の生産・貿易・金融・軍事的な秩序が解体しつつある現状は,逆転できないように見えます.アメリカと中国とユーロ圏が合意して,新しい国際秩序に向かい,平和的な移行が可能であることを願いたいです.
John Authers Fear fatigue: Financial markets search for signs that the worst is over FT March 23 2008
Bear and moral hazard FT March 24 2008
Banks and regulatory backlash FT March 24 2008
John Kay More regulation will not prevent next crisis FT March 25 2008
John Gapper It is time for reflection, not regulation on banking FT March 26 2008
(コメント) 株式市場の底が抜けるのか? あるいは,底が見えて回復が始まるのか? 投資家たちの見方は分かれており,まだ激しい変動が続きそうです.泥棒根性の投資家たちを追放するべきか? 文明の運転席から金貸しどもを追い払うべきか? 秩序が定まらない限り,悲観と楽観が交錯し続けます.
新しい金融リスク管理・規制部門や,会計ルール,新しいグラス=スティーガル法が議論の中に現れています.
しかし,そんなことができるのか? 実際に効果のある,金融市場の改善につながる規制とは何か? 投資の望ましさについて,ビジネスに代って公的な部門が判断するのか? 常にこうした反対論が起きます.そして莫大な利益と損失について,また,地理的に分割された主権の制約について,世界的なルールの欠如が主張されます.不完全な規制は市場の機能をむしろ悪化させるだけである.規制は「市場の失敗」に限って行うべきだ,とJohn Kayは主張します.
アメリカに比べて,EUは歴史的にも,銀行と投資銀行,融資と証券市場とを,統一して規制するような国際ルールの強化を求めてきたわけです.ブラック=ショールズがオプション価格の決定モデルを明確にして以来,世界的な規模の投資銀行が証券化を介して世界金融市場の統合を進めてしまった以上,後戻りはできない,とJohn Gapperは考えます.
ただし,新しい規制よりも,民間投資家のインセンティブ構造を変えることが合意されそうです.
The Guardian, March 21, 2008
The roots of crisis
Jeffrey Sachs
LAT March 21, 2008
Someone give Ben Bernanke a hug
Joel Stein
NYT March 21, 2008
Partying Like It痴 1929
By PAUL KRUGMAN
(コメント) Jeffrey Sachsの要約を読むことです.今回の金融危機は,2001年にブッシュ政権とグリーンスパンFRB議長が金融緩和を実行したときから始まりました.そのとき,インターネット・バブルが破裂し,金融緩和による株価下落阻止が優先されました.しかも9・11が起きてNYSEが停止し,再開後も金融緩和が続いたわけです.金利は低すぎたし,緩和が長すぎた,と.
追加された資金は住宅融資に向かいました.信用力の乏しい借り手にも融資するような行動を容認し,住宅価格の上昇を期待して銀行が利益を増やすことを歓迎したのです.バーナンキがFRB議長を継ぐ前,理事として,世界の貯蓄過剰を問題にし,アメリカには優れた金融市場があるから世界中の資金が流れ込む,と内外の不均衡を容認しました.
住宅市場が崩壊すると,再び金融緩和を強めています.今度は資金が商品市場に向かい,インフレと不況を強める気配です.ドル安も強まります.もし不況がアメリカに限定されれば,その影響は軽減される,と期待します.
Joel Steinは,苦しいときにバーナンキを当てにし過ぎである,と主張します.ところが,先週,バーナンキは投資銀行に2000億ドルをプレゼントしました.誰も買ってくれないような住宅モーゲージ債券を抱え込んで彼らが困っていたから.そしてJPモルガンに電話し,つぶれかかったベア・スターンズを買収するために資金を出してやりました.一株2ドルです.しかも,他にも危ない銀行が出ないように,短期金利を引き下げたのです.いくらでも現金を出せるFRBは,地球だって救済できる.
バーナンキは大恐慌が迫っているから,と言います.そして,大銀行や投資銀行を救済します.しかし,国民は住宅価格や株価が下がって困っています.その上,インフレとドル安です.
PAUL KRUGMANによれば,大恐慌を回避するために金融緩和し続けているバーナンキは間違いです.アメリカが大恐慌になったのは,多くの人が思うような1929年の株価暴落によるのではなく,1930-31年の銀行倒産に拠るのです.銀行は取り付けにあうと倒産し,しかも,危機が伝染しやすいのです.
その後,銀行の取り付けを防ぐ措置,規制とセーフティー・ネット,は採用されました.しばらく危機は起きなかったのです.ところが銀行は少しずつ規制緩和を実現し,証券化は銀行の取り付けと同じような証券市場の逃避行動をもたらしました.だから,バーナンキがいくら金融緩和しても,銀行危機は止められないでしょう.
1930年代の教訓を学び直すまで,この危機は続きます.
Thomas Palley Crony capitalism The Guardian, March 24, 2008
Sebastian Mallaby Demons On Wall Street WP Monday, March 24, 2008
Martin Wolf The rescue of Bear Stearns marks liberalisation’s limit FT March 25 2008
(コメント) バーナンキがやっていることは,市場関係者を個別に救済するCrony capitalismに過ぎません.
Sebastian Mallaby は,金融工学の悲観的な見通しとしてRichard Bookstaber "A Demon of Our Own Design,"を紹介しています.1987年やLTCM危機の後に議論されたように,再び活発に議論されるでしょう.
Martin Wolfも,金融自由化の見直しを求めています.「2008年3月14日は,世界的な金融自由化の死んだ日として歴史に記されるだろう.」 ドイチェ・バンクのJoseph Ackermannも述べたそうです.「わたしはもはや市場の自己治癒力を信じない.」
金融緩和を求めてきた市場関係者やロビー集団は,二度と政界で重視されないでしょう.彼らは消えてしまいます.規制されないカジノが資源を最も効率的に配分する,という信仰は売れなくなります.
この救済行為によって,FRBと金融市場の信頼は失われます.バーナンキは明らかに住宅市場の崩壊を過小評価しました.できれば,この教訓は中国が学ぶべきです.
The Japan Times: Thursday, March 20, 2008
Tibet and Olympic Games
GREGORY CLARK
(コメント) グレゴリー・クラークは,西側政府がチベットにおける人権抑圧を理由に北京オリンピックをボイコットするという主張に反対しています.
かつて1980年にソビエト軍がアフガニスタンに侵攻したことを理由に,西側政府はモスクワ・オリンピックをボイコットしました.しかし,今では当時のソ連と同じような理由でイギリス軍がアフガニスタンやイラクに駐留しています.では,西側諸国はロンドン・オリンピックもボイコットするべきでしょうか?
西側政府の偽善的な主張は,外交に関して内政干渉を非難したり,甚だしい人権抑圧を顧みずにラテンアメリカの諸政府を支援したり,チベット独立に反対する台湾政府を支持したり,と明白に矛盾している,と指摘します.もちろん,中国はラテンアメリカや中東の小国と違って,何をしても国際社会の関心が高く,非難を浴びます.
クラークは非民主的な中国政府が世界にとって非常に有益な政策を実行してきた(しかも感謝されていない),と指摘します.それは「一人っ子政策」です.もし中国がこの不人気な(人権抑圧だと非難する声もある)政策を採用していなかったら,中国の人口は今よりも3億人から4億人も多かっただろう,と考えます.それは今のアメリカやEUの人口と同じです.そうであれば,環境破壊や世界の資源獲得競争,商品価格の上昇は,今以上に激しかったわけです.
もし本当に民主化すれば,「一人っ子政策」は放棄されて,その影響は世界中に及ぶでしょう.シンガポールがそうであるように,中国は必要な,正しい政策を,民主的でない政府が実現できる例を示している,とクラークは考えます.
中国が多くの点でまだ他の発展途上諸国と同じような問題を解決していないとしても,その方向は明らかに西側諸国と協調し,国際社会の価値を受け入れるものである限り,北京オリンピックをボイコットするのは大きな間違いである.
March 21 (Bloomberg)
Olympics Boycott Chatter Grows as Tibet Unravels
William Pesek
(コメント) 8月の北京オリンピックに向けて,中国の人権運動や民主化運動はますます激しくなるでしょう.世界大国として国際舞台に復帰した中国が,その繁栄と影響力を誇示するはずでしたが.
中国政府は,チベットの問題は中国内の犯罪行為であり,オリンピックと結び付けて政治的に利用するな,と国際社会に主張しています.もちろん,それが成功すれば中国政府は政治的に多いに威信を得るわけですが.国際オリンピック委員会が開催に青信号を出すのは,それ自体が一つの政治ショーです.
中国は世界市場において生産者としても消費市場としても重要です.アメリカがイラクの民主化に手こずっているときに,台湾の民主主義を守る仕事も引き受けるのは好みません.あるいは,世界中の大企業が北京のオリンピックに莫大な投資を行って,そこから上がる利益を強く望んでいます.アディダス,コカコーラ,マクドナルド,パナソニック,三星,・・・彼らがボイコットに反対するのは当然です.
すでに中国は,チベットや国内の人権問題を国際社会から切り離せないことを学んだはずです.チベットにおける弾圧の様子や犠牲者は,ただちにインターネット上に流れるからです.
Pankaj Mishra At war with the utopia of modernity The Guardian, Saturday March 22 2008
中国政府はチベット仏教を容認して観光ビジネスの材料にしました.仏教のディズニーランドだ,と書いています.鉄道建設や補助金でラサの近代化は進みましたが,漢民族の流入や偏った富と貧困など,政府は成長モデルをチベットの人民に合わせることはなかったのです.雇用を支配し,激しいインフレによって土地や市場を支配していきました.中国の共産主義を非難する西側評論家たちは,チベットを開発した中国の植民地主義や資本主義に直面して戸惑います.
Joshua Kurlantzick Volcano in the Himalayas LAT March 23, 2008
中国の効果的な開発と支配で若い世代は中国文化に同化しつつある,というのも,ダライ・ラマが説く非暴力の抵抗運動を信じている,というのも,今のチベットを正しく表していない,と論説は主張します.植民地化されたラテンアメリカの小国の首都のように,ラサには中国人と少数の融和的なチベット人が裕福に暮らし,ナイトクラブやショッピング・モールに多額の人民元が投資されます.ところがチベットは中国でも最も貧困の程度が高く,教育や幼児死亡率で見ても社会的な困窮が放置されています.遊牧民は家畜や家財を安く売り払い,仕事を探しますが失業率は高く,都市では売春が行われています.中国国内と違い,今も厳しい宗教・社会弾圧がおこなわれている,と伝えます.
Speak Out on Tibet NYT March 24, 2008
H.D.S. Greenway A clash for power at Tibet's peril BG March 25, 2008
Parag Khanna Just like America, China is building a multi-ethnic empire in the west The Guardian, Tuesday March 25 2008
アメリカがカリフォルニアやテキサスを支配して国境を拡張したように,ロシアやイギリスと争って領土を拡大した中国にとって中央アジアを失う選択肢などあり得ないのです.他の中央アジア諸国に比べて,中国はチベットに繁栄をもたらすことができます.もし彼らと真剣に話し合うことがでいれば.
Anne Applebaum Olympic Fallacies WP Tuesday, March 25, 2008
Ian Buruma The last of the Tibetans LAT March 26, 2008
WP Sunday, March 23, 2008
Behind the 'Modern' China
Robert Kagan
(コメント) 中国には21世紀的な側面と19世紀的な側面が混在しています.上海の超近代的な高層建築群は,チベットの弾圧支配と同じく,中国の政治エリートが求めたものです.
先端技術を吸収し,経済を自由化して,豊かな中産階級を支持者にした.インターネットと領土的主権.今もアメリカの外交政策の目標は,G. John Ikenberryのように,中国をリベラルな国際秩序に包摂することだ,と考えていて良いのか?
ヨーロッパにも分離独立を唱える政治集団はいる.しかし,彼らの賛成や反対は軍事力ではなく,インターネットで伝えられる.中国政府は今も,「国際社会において責任ある役割」を果たしたいのでしょうか?
LAT March 21, 2008
Noah's Ark for salmon
By Carl Pope
(コメント) 西側の裕福な諸国に還流するサケの数は急速に減少しています.地球温暖化を防ぐために可能なあらゆる政策を行うこと.そして,サケの遡上を妨げないように河川からダムを取り除くこと.それはサケに出来ないから.地球はノアの方舟です.
The Japan Times: Saturday, March 22, 2008
Iraq after five years of war
By GWYNNE DYER
NYT March 23, 2008
Iraq, $5,000 Per Second?
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) 3月20日は,ブッシュ大統領がイラクに侵攻して5年目の記念日です.イラク戦争と占領におけるアメリカの戦死者は4000人を超えました.宗派間の対立と暴力で,400万人から500万人が難民となっています.原油価格は100ドルに達しました.それでも,アメリカはイラクの人民をより安全で,幸せにしたのでしょうか? ブッシュ氏は,そうだ,と答えます.
サダム・フセインは冷酷な独裁者でしたが,近隣諸国を脅かす脅威ではなかったでしょう.戦後の不安定さは,唯一,レバノン内戦に似ている,とGWYNNE DYERは考えます.しかし,アメリカ軍が撤退した後も,イラクに民主主義は育つのか? それはまた別の問題です.本当に比較しなければならないのは,今から20年後のイラクと,アメリカが侵攻しなかった場合のイラクです.
確かに,増派によって兵士の死亡率は抑えられましたが,撤退の見込みはないし,アメリカ軍は毎秒,約5000ドルを消耗している,とNICHOLAS D. KRISTOFは嘆きます.イラクによって失われたのは4000名の兵士たちの命だけでなく,フロリダやカリフォルニアで破産した住宅の家族や,不況によって失われる雇用である,と指摘します.同じ額を不況対策やアメリカ経済の再建に投資していたら,危機は回避できるのです.
イラク戦争と不況とを結び付けない意見もありますが,毎日,41億ドル以上を投資するにふさわしい場所とは思えません.もしイラクに駐留することが必要であると考えるなら,毎月125億ドルを国内の不況対策に用いずにイラクで消耗することを説明しなければならない,と.
WP Sunday, March 23, 2008
A Ticking Clock on N. Korea
By David Ignatius
FT March 23 2008
S Korean pledge to transform economy
By Song Jung-a in Seoul
FT March 23 2008
A hardline approach to North Korea will not work
By Andrei Lankov
(コメント) 朝鮮半島の平和統一は実現するでしょうか? 北朝鮮はシリアの核開発に協力していたのでしょうか? イスラエルはシリアの核施設を空爆したのでしょうか? 北朝鮮の核施設解体が進まない中でも,アメリカは6カ国協議の枠組みを維持するために沈黙しているのでしょうか? 中国の姿勢は変わらないのでしょうか? 韓国におけるLee Myung-bak新大統領の政策は南北の対話より対決へ向かうのでしょうか? 韓国経済を改造し,雇用や成長率を高めることで,東アジアの経済統合を活性化するでしょうか? 中国やベトナムは市場改革に取り組みましたが,ミャンマーや北朝鮮は支配体制を維持することを優先します.北朝鮮の人々が外部の情報によって政治体制の変革を要求する可能性は,どの程度,高まっているのでしょうか?
FT March 23 2008
China braced for wave of urban migrants
By Geoff Dyer in Shanghai
FT March 23 2008
A Belgian utopia
(コメント) 中国では1億人を超す都市化を予想し,社会的なサービスや資本で人口移動を受け入れることが課題です.他方,ベルギーは分裂を回避し,ようやく政治同盟を維持しました.政府がなくても生きていける,という感覚を市民は持ったようです.私たちが生きるために,政府は大きすぎるか,あるいは,多すぎる.必要な条件は,優れた制度があることと,どこであれ,優れた政治的指導力が発揮されること.
LAT March 25, 2008
Zimbabwe's Ahab
By Peter Godwin
Robert I. Rotberg Politics and power in Zimbabwe BG March 26, 2008
Meera Selva Printing deceit The Guardian, March 26, 2008
Saving Zimbabwe NYT March 27, 2008
(コメント) アフリカのスイスのようであった国が,最初の黒人大統領による民族和解の国造りに失敗し,いかに急速に経済破綻と政治的な急進主義に傾いていったか,Peter Godwinは述べています.輸出していた農場も優れた教育システムも破壊され,今は国連の食糧援助に頼り,猛烈なインフレに苦しみながら生きています.さらに,18歳から60歳の人口の70%は国を出たということです.
選挙とは言え,法律を守らず,秘密警察が支配し,国際的な監視団の入国も認めませんでした.ムガベが入国を認めたのは中国,ロシア,イラン,アンゴラです.国外脱出した人々の投票は認められません.
March 24 (Bloomberg)
Japan Needs Paul Volcker to Escape `The Matrix'
William Pesek
The Japan Times: Monday, March 24, 2008
Japan peers into the abyss
By BRAD GLOSSERMAN
The Japan Times: Wednesday, March 26, 2008
Scary signs in BOJ debacle
By KEVIN RAFFERTY
(コメント) 日本政府の統治能力について,内外の不安が高まっているからでしょう.William Pesekは,日本を『マトリックス』の世界とみなし,誰がネオであるか,見つけるべきだ,と考えます.それはボルカーのような人物です.BRAD GLOSSERMANは,日本が核武装を選択する状況になってきたと考えています.アメリカ政府はそれを理解し,説得する必要がある,と.
日本はグローバリゼーションという共通の圧力にさらされている上に,急速な高齢化と人口減少,膨大な公的債務に苦しまなければなりません.しかし,女性の社会進出や移民の受け入れが積極的に議論されているようには見えません.
日本の政治家と官僚が事態を深刻に受け止めて,根本的な変化に道を開くのは,まだ先のようです.
The Guardian, March 24, 2008
Taiwan's success story
Jonathan Fenby
IHT Monday, March 24, 2008
Taiwan's chance to expand its vision
By Philip Bowring
WP Tuesday, March 25, 2008
Test in Taiwan
FT March 25 2008
Straitened times: Taiwan looks to China
By Kathrin Hille
FT March 26 2008
Taiwan poll offers hope for peace with China
By Minxin Pei
Asia Times Online, Mar 27, 2008
Economic path opens for China reunification
By Antoaneta Bezlova
(コメント) 台湾の総統選挙では国民党の候補が民進党を抑えて勝利しました.台湾海峡で軍事衝突が起きる危険が回避されただけでなく,中国に複数政党の可能性が出てきたことを,Jonathan Fenbyは歓迎します.国際社会はその可能性をもっと注目して,支持するべきだ,と考えます.台湾における民主主義への転換は,中国のチベット支配よりも,はるかに成熟した政治統治を育てることを示した,とも指摘します.
陳水扁の独立ばかり主張する姿勢が大陸との間に紛争を継続したことに有権者は批判的であったようです.あれは1996年や2000年の事件でしたか.中国がミサイルの発射実験をして,独立派の陳水扁の当選を妨げ,台湾では中国のミサイルが正確で,決して台湾を狙ってはいない,などと妙な自慢をしていました.
しかし,台湾海峡を挟む経済統合や政治的な自由,通貨の統一などは,香港返還よりも,東西ドイツの再統一に近い大規模な実験になると思います.民主化と独立派の迷走を経て,国民党出身の総統が誕生したことは,現実的な統合化交渉を始める条件ができたように見えます.そのためには国際社会が強い関心を持ち続けることも重要です.
Minxin Peiは,台湾が望むようなEU型の共同市場を始めるには,中国政府の同意が必要であり,それは決して容易ではない,と指摘します.しかし,台湾が譲歩すれば,中国政府は経済統合を進めて安定した関係を築くことで,胡錦涛の描いた平和的な統合化を成功裏に進めたという政治的な実績を示すチャンスです.
LAT March 25, 2008
Say no to nuclear power
(コメント) 1979年にソ連のチェルノブイリやアメリカのスリー・マイル原発事故によって,安全な原子力エネルギーという神話が崩れ,世界は苦労して他のエネルギーを探してきたはずです.
地球温暖化の対策として原子力発電所が支持されるのは,私にも納得行きません.日本の電力供給がますます原発に依存するようになっている現状も含めて,脱原発の政治を再提起してほしいと思います.
BBC 2008/03/25
Bhutan experiments with democracy
By Chris Morris
(コメント) チベットやネパールの騒乱に比べて,ブータンの平和的な権力移譲や民主的な選挙が理想化されています.同じヒマラヤに連なる国々であっても,彼らの違いはどこにあるのでしょうか? 仏教思想に依拠したGNH(Gross National Happiness)によって開発を考えます.しかし記事は,国内のネパール系少数民族の問題や,選挙における選択肢の少なさ,和解君主制との関係など,潜在的な問題も指摘しています.
FT March 25 2008
Why France and Britain must join forces
By Dominique Moïsi and David Manning
The Guardian, Thursday March 27 2008
A historic compromise with France is exactly what Britain needs
Timothy Garton Ash
(コメント) おそらく,ドイツとフランスが貨幣を共有することと同様に,イギリスとフランスが軍隊を共有することは大胆な政治的決断です.
英仏はイラク戦争で厳しく対立しましたが,アフガニスタンからバルカン半島まで,また,ロシアや中国に対して,共通の外交政策を必要としています.すでに,移民政策やテロ活動への警戒で協力し,国連安保理におけるイランへの制裁について協力しています.ド・ゴールがNATOを離脱した40年以上も前の転換から,サルコジ大統領がフランス軍をNATOに戻すなら,英仏の新しい協力関係を築く機会となるでしょう.
EUが独自の共通外交政策と共通の防衛軍を持つことは,互いに敵国であると主張して「愛国心」を鼓舞するような政治と違って,英仏がドイツとともに,ヨーロッパの新しい政治を示す意欲を感じます.
LAT March 27, 2008
NATO's unhappy warriors
By A. Wess Mitchell
NYT March 27, 2008
Equal Alliance, Unequal Roles
By ROBERT D. KAPLAN
(コメント) 日本がNATOに加盟することはないのでしょうか? 少なくとも今は,NATOの議論を無視しても良い? そうは言えないはずです.アメリカ軍が日米安保や朝鮮半島・台湾海峡に関わる負担は,NATOの論争とつながっています.ドイツが担う負担は,日本の自衛隊への要求や米軍基地再編にも基準となるでしょう.
NATOに多くの新規加盟諸国が加わったことは,意思決定メカニズムや軍事力の再編を必要としています.日本は,アメリカだけでなく,韓国,中国と独自の経済協力を推進し,同時に,オーストラリアやインドネシア,インドとの協力関係も求めるわけです.しかし,将来は予想もつきません.
FT March 25 2008
Different dilemmas in America and the eurozone
By Daniel Gros
(コメント) ECBがアメリカの連銀ほど積極的に金融政策を動かさず,介入もしないのは,インフレ抑制を重視しているからだ,と言われます.しかし,Daniel Grosは,そもそも直面している問題が異なるからである,と考えます.
アメリカアでは住宅融資が証券化されて,返済が止まれば持ち主は住宅を差し押さえられて売却されます.それは住宅価格を下げ,もし20%から25%も価格が下落すれば,アメリカの銀行業界は倒産の波に沈むでしょう.ヨーロッパは住宅を強制的に売却しませんし.返済できないような住宅購入者へのローンを銀行が増やしていません.
アメリカのFRBは金融市場が開放的で,市場の変化に敏感であることを目指しており,それゆえ市場の安定化や介入手段の革新を急ぐのです.
******************************
The Economist March 15th 2008
The new colonists
A special report on China’s quest for resources: A ravenous dragon
Industry in China: Where is everybody?
Economics and the rule of law: Order in the jungle
(コメント) 中国の工業化と成長により,その供給(安価な工業製品の輸出)だけでなく,需要(資源・エネルギー・食糧の輸入)が世界を変えます.これはヨーロッパが19世紀に行った植民地支配を21世紀に再現するものでしょうか? 欧米諸国は中国の国営企業が独裁国家との取引を拡大していると批判します.中国との貿易や投資が増大することは,オーストラリアやブラジル,コンゴの経済発展や民衆の幸せにつながるのでしょうか?
The Economistは,中国だけを非難する欧米の主張に偽善性を認めています.中国は国際社会の動向を無視していないし(特にオリンピックがあるので),中国自身の国際的な地位向上のためにも,欧米との関係を意識しています.それ以上に,中国国内の環境破壊を抑制することが重要です.環境問題を考慮するなら,成長モデルは持続できず,社会不安も高まっていきます.
この点で,香港周辺のデルタ地帯はすでに労働力の流入に依存した工業化がピークを超えて,工場の内陸への移転や,外資系の企業の再配置が起きている,と紹介している内容に驚きました.春節の出稼ぎ労働者が故郷に帰る大移動は,次第に消えていくだろうが,工業力の構造転換や再配置が引き起こす諸問題の影響も甚大です.
関連して,「ワシントン・コンセンサス」が信用を失い,嫌われてから,開発経済学が新しいブームとして扱っている「法の支配」や「制度」の紹介がおもしろいです.
The Economist March 15th 2008
Credit crunch: Plugging holes
Credit markets: If at first you don’t succeed
Exports and the economy: A few good machines
Economics focus: Grossly distorted picture
(コメント) アメリカの金融市場が何度も詰まる水洗トイレにたとえられています.その度にFRBが流動性を増やして詰まりを解消していますが,喜ぶのはまだ早い,と.ドル安がアメリカの輸出を刺激して不況を緩和する,という論点も,雇用の回復には至りません.
GDPではなく,一人当たりGDPを基準にすると,アメリカよりも日本の方が改善している,というのは,当然なことですが,驚きです.日本悲観論が誇張されていたのでしょうか? 日本は生産性の上昇をどのように達成したのでしょうか? フリーターや店長を酷使したのであれば,やはり問題です.