IPEの果樹園2008

今週のReview

3/17-3/22

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

アメリカの不況, 危機は似る, 日本を悲観する, 強力なリアリストたち, 政府の介入, 1968年の反体制派, 凍結されたエデンの園, 高級売春クラブ, イギリス人らしさ, ポテト

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


March 6 (Bloomberg)

Financial Mess Doesn't Worry All Central Banks

John M. Berry

(コメント) 小国の中央銀行にとってインフレを抑えることは至難です.ニュージーランドはミルクなどの酪農製品を輸出しており,ミルクの価格上昇で利益を得たようです.さらに国際的な金融緩和が住宅価格の上昇や消費者の支出を刺激しました.中央銀行はインフレを抑えるために金利を8.25%にまで上げています.

その結果,通貨NZドル,あるいはキーウィの価値は上昇し,輸出の利益を削って成長率を下げましたが,それはインフレを抑える働きもあるでしょう.こうして,海外の金融危機や住宅価格の低下はNZ中央銀行にとって朗報です.


FT March 5 2008

Haven evasion

FT March 6 2008

Rich and famous

(コメント) 税金を課すと,それを免れる手段が生まれる,といいます.税金が重くなるほど,表に現れない非公式な取引が増えて,地下経済が膨張するわけです.

ヨーロッパには競争する小国が多く,それはすなわち,課税の権限や制度が複雑に入り組んで,中には免税のための手段を供給する政府も現れます.世界のタックス・ヘイブンを取り締まることは,容易なはずなのに,避けられてきました.リヒテンシュタイン,モナコ,バーミューダ,スイス,・・・アメリカのデラウェア州やオーストリア,ルクセンブルグも銀行の情報を交換しません.

最近のForbes magazineでは,ビル・ゲイツが世界最高の資産家ではなくなったそうです.第一位は投資家のバフェット,第二位はメキシコの民営化などを経て企業グループを支配するようになったカルロス・スリムです.ゲイツは第三位.

しかし,こうした順位は信用できない,と記事は指摘します.公表されたデータは金持ちたちの富の一部でしかないでしょう.


FT March 7 2008

Fed expands lending to tackle liquidity crisis

By Krishna Guha in Washington

NYT March 9, 2008

When Ben Bernanke Speaks ...

FT March 9 2008

Central bankers cannot stop this contagion

By Wolfgang Münchau

(コメント) アメリカの雇用統計は予想以上に悪く,経営者たちは不況に入ったと思い始めています.バーナンキ議長は,株価の急落した日に,2000億ドルの追加供給を決めました.市場で買い手の付きにくくなった資産が,これで売れるようになるでしょうか?

かつては破産処理を優先したこともありました.しかし,いくらバーナンキが頑張っても,内容の悪い金融機関はつぶれるでしょう.いくら連銀でも,不審な内容の金融機関を救済して,大きくなっても仕方はいはずです.不況の入り口にあって,バーナンキも銀行や企業の不始末を融資によって吸収してやるのでしょうか?

まさにこれに関連して,NYTの論説が強調するのは,住宅価格が下落して金利が上昇しても,その住民たちを追い出すようなことがないように,議会は破産法を修正しなければならない,という点です.住民たちは支払いが可能な水準に債務を組み替える必要があるのです.それを裁判所が判断するような手続きを認めてやるべきだ,と指摘します.

Wolfgang Münchauも,これは流動性不足ではないから,貨幣供給を増やして短期金利を引き下げても危機が終わることはない,と考えます.これは「伝染性の支払い不能危機」なのです.もちろん,金融政策はインフレ抑制のために重要です.しかし,資産市場の価格調整が支払い不能を拡大する波を止める力はありません.

規制の改革,財政的な救済策,国有化,そして金融機関の相次ぐ破たん,などを通して解決の姿が見えてくるしかない,と.

FT March 10 2008

Fate of finance lies with real economy

FT March 11 2008

Going, going, gone: a rising auction of scary scenarios

By Martin Wolf

FT March 11 2008

Fed fights on with $200bn facility

(コメント) もちろん,金融政策がうまく働くかもしれません.金利は抑えられて,住宅の投げ売りは起こらず,ドルは安くなるけれど暴落せず,世界経済は成長を維持してアメリカの輸出を助け,不況は短いでしょう.

サブプライム・モーゲージの損失はどれほどに達するのか? アメリカ経済への影響はどうなるのか? 予想額の大きさはケタ違いです。昨年の7月、バーナンキ議長は1000億ドルと予測しました。現在、ゴールドマン・サックスは5000億ドルと予測しています。そしてルービニNouriel Roubiniは1兆ドルから2兆ドルに及ぶ、と予測します。さらに最終的な損失は、3兆ドルにさえ及ぶ可能性があるのだ、と言います。

住宅価格、株価、商業地の地価、信用によって維持してきた消費水準、その影響する程度は、予測を大きく変えるのです。

連銀は流動性を追加するけれど、この機器は支払い不能危機であるから、その効果は限られている、と言われます。その場合、連銀はすべての債務を肩代わりしてやるしかないでしょう。救済融資です。しかし、中央銀行がそのような行動をとれるのは、金融・決済システムが崩壊する危険を認めたときです。

連銀の対策は、次第に、リフレ政策と救済融資に向かいつつあるようです。

NYT March 10, 2008

The Face-Slap Theory

By PAUL KRUGMAN

WP Monday, March 10, 2008

Another Preemption Fight

By Sebastian Mallaby

(コメント) ニューヨーク連銀総裁のTim Geithnerは、アメリカが既に金融メルトダウンの過程にある、と述べました。住宅市場だけでなく、銀行とその他の市場が悪循環を始めたからです。2000億ドルの供給は大きな額ですが、モーゲージの残高は11兆ドルもあります。KRUGMANは、モーゲージの保証機関であるFannie and Freddieを正式に政府保証することも考えるべきだ、と指摘します。

Sebastian Mallabyは、サブプライム・ローン危機がイラク危機に似ている、と考えます。大量破壊兵器(WMD)はウォール街のどこかにあり、政府は大砲を動かして破壊します。他方、ヨーロッパはこの作戦に協力しません。

アメリカは日本の経験を学び、金融市場が崩壊する危険性を訴えます。他方、ヨーロッパは自分たちの経済が健全であり、過剰反応を戒めます。イラクと同様に、危機を未然に防ぐべきかどうか、意見は一致しません。

また、連銀はインフレの危険性も心配します。カーター政権のように、石油危機とインフレの高進が突然襲い、ドル暴落にパニックを起こしたくないからです。しかし、ECBのような自虐趣味は願い下げです。どちらが正しいか分からないまま、米欧間の政策の相違が互いの意図しない結果に向かいます。

ヨーロッパはアメリカの飽食経済をますます嫌っています。世界経済の不均衡を協力して調整する政治的意志がないまま、ドル暴落・ユーロ暴騰と世界同時不況が迫ります。


YaleGlobal, 7 March 2008

India’s Forgotten Farmers

Tarun Khanna

(コメント) グローバリゼーションによって豊かになるインドの中産階級は都市に集中しています。そして人口の70%を占める農村は、都市の市場と結び付いていません。この点が、インドと中国の違いである、と主張します。インド政府の弱さ、都市に集まった企業家の政治的な支配力、中国のような農村革命を主張する政治は支持されませんでした。

多国籍企業の力を使ってでも、インドは農村のインフラに投資する必要があります。


Al Ahram Weekly, 7 March 2008

Dying to Live

Gihan Shahine

(コメント) アフリカからヨーロッパに移民する人々の強い希望、意志を思えば、移民を国境で阻止する政策は必ず失敗する、と考えます。アフリカ人たちは仕事を求めている。働き、食料を得て、子供たちを学校へ通わせ、将来により希望の持てる暮らしを実現してやりたい、と強く願っている。それが違法であるとしたら、それはだれの責任か?

今も、彼らやその家族は、12ドル以下の生活、砂漠の徒歩による横断、地中海で沈む漁船の船底、あるいは、ヨーロッパの移民収容キャンプに押し込められています。成功した者は家を建て、結婚し、店を持てます。多くの家族が行方不明になっても、村から出る人々は絶えません。あまりに多くの失業と不安定な職場、極端な低賃金、略奪やインフレーションが起きる彼らの国では、それが唯一の希望であるから、と。

それを利用して利益を得ているのは人身売買や密入国を請け負う業者であり、人々は全財産を賭けて、家族が借金してでも、移民しようとします。ある推計では、ヨーロッパの収容所で死亡したエジプト人移民は1993-2006年において8800人です。彼らはむしろ幸運な人々であり、もっと多くの者が行方不明になっています。

ウィリアムAdel Williamthe Land Centre for Human Rights (LCHR)所長は、政府間合意で移民を減らすという考えに反対します。エジプト政府は減らすことができないし、その少ない数字を承認したのは密入国を仲介するブローカーたちから賄賂を得ているからだ、と。そうではなく、エジプトの開発によって、雇用をもたらすことが正しい、と主張します。


Asia Times Online, Mar 8, 2008

China card still wild in White House race

By Jing-dong Yuan

(コメント) 1992年の大統領選挙で、中国に対する姿勢がビル・クリントンとブッシュとの論点となったように、現在の選挙でも中国問題が浮上することは確実です。安全保障面と経済面では、必ずしも方針が一致せず、米中関係が将来も非常に重要な関係であることは分かっています。

ヒラリー、オバマ、マッケインの対中国政策を、アジア諸国はもっと聴く必要があるでしょう。


Asia Times Online, Mar 8, 2008

When freaky-deaky equals hara-kiri

By William Sparrow

March 10 (Bloomberg)

Japan 2028 May Put Bad Science Fiction to Shame

William Pesek

The Japan Times: Monday, March 10, 2008

Mistaken economic policies

By GREGORY CLARK

(コメント) 日本人はますますセックスよりもマスターベーションに偏っている、とWilliam Sparrowは日本の急激な人口減少の背景を説明します。こんな論説しかない? 社会は高齢化し、政治家は愚昧で、若者はビデオゲームに耽る日本、というイメージが流布されます。

William Pesekは、日本の現実はSF小説よりも奇想天外である、と考えます。ピーター・タスカの2028年日本を描いた``Dragon Dance''は、不況、通貨価値の暴落、ホームレス、犯罪の増加、臓器売買、・・・どことなく中国でもあり、インドでもあるような、衰退した日本が描かれているようです。国際金融の著名な雑誌、EuroMoneyがロンドンで開催したパネル・ディスカッションの材料です。

日が沈むか、昇るか、と議論するのではなく、日本は中国の影へ入ってしまう。日食、なのです。

しかしタスカは、日本の市場を無視することは間違いだ、と主張しています。市場の規模、アジアで唯一の本格的な国際通貨、日本はむしろ、それを利用しない姿勢を説明なければならない存在なのです。なぜ日本には政治的・経済的な真空が生じるのか? 最近の事例は、日本人自身がいかに悲観的であるか、しかも一時的ではなく、長期的な病気、うつ病であるか、を示します。

日銀の総裁人事迷走が示すように、日本人は人口減少、累積債務、外国からの投資を嫌い、中国からの挑戦にこたえる姿勢がありません。他方、中国は急速に変化しています。このままでは、日本が世界の主要な役割から外されるのは確実です。・・・台湾か、チベットのようになる?

GREGORY CLARKは、日本の停滞を過小需要によって説明します。中国のように成長するには、小泉改革の継承を訴えることや、生産性上昇を強調するより、ヨーロッパやアメリカのように、環境問題や自然の回復、別荘を持って、浪費を楽しむことである、と。

BoJ’s succession FT March 10 2008

Michiyo Nakamoto BoJ faces leadership vacuum FT March 11 2008

Michiyo Nakamoto Currency surge adds to Japan’s woes FT March 13 2008

Bank of Japan stalemate FT March 12 2008

MARTIN FACKLER Choice of Central Banker Is Snarled in Japan Politics NYT March 13, 2008

(コメント) 日銀総裁の人事について、福田首相は評価が高いと自慢しましたが、そうでしょうか? FTは、むしろ誰がやっても変わりない点を見ます。イングランド銀行の金融政策会議では意見が対立することはしばしばあり、総裁が重要な役割を持ちます。他方に、日銀ではほとんど全会一致です。せいぜい舞台裏の駆け引きです。

民主党は、財務省出身者が総裁になるのは日銀の独立性を侵す、と主張しますが、本当でしょうか? やってみなければ分からないように思います。福田首相も、その疑いを払拭し、民主党の提案を受けた形で、日銀の独立性を尊重する形式を具体的に示すべきではなかったでしょうか?

キッシンジャーはEUに電話する相手がいない、と批判しましたが、中銀総裁もそうです。国際金融不安が高まる中で、日銀だけは蚊帳の外?

“In the current global turmoil, the BoJ is potentially a very, very powerful player on the global stage and not to have a governor at the helm is irresponsible,”というスコットランド銀行のスタッフの言葉が適切だと思います。

日銀総裁の空白期間が長引くだろうと考えるみずほ証券の研究者が、「アラン・グリーンスパンを雇うべきだ」と愚痴を述べます。いっそ、アジア通貨危機のときはデフレで処理し、アメリカの危機は積極的な介入を主張するように変わったサマーズか、日本に流動性の罠を主張したポール・クルーグマンを雇ってはどうでしょうか?


NYT March 9, 2008

A Global Need for Grain That Farms Can Fill

By DAVID STREITFELD

(コメント) 「誰もがアメリカ人のように食べたいと願っている。」・・・「しかし、もし本当にそうしたら、地球があと二つか三つ必要だ。」

食料価格が長期的に高まると、インフレの心配だけでなく、社会不安や政治の混乱が世界中に広まります。他方、高価格は節約・代替と供給の拡大、技術革新をもたらすはずです。農民たちは耕地の不足を解決し、何を作るべきか選択(そして出費)しなければなりません。


WP Saturday, March 8, 2008

The Cost Of Retreat In Iraq

By Lee Kuan Yew

IHT Monday, March 10, 2008

To embrace or not to embrace

By Henry A. Kissinger

YaleGlobal, 10 March 2008

Pyrrhic Victories

Ernesto Zedillo

(コメント) Lee Kuan Yewの議論はいつも明確で、力強い、優れたリアリストの視点です。国際秩序の安定性と経済的繁栄を支えたのは、アメリカがスンニー派のサウジ・アラビアと石油供給と中東地域の安定化に協力することを合意したクインシー協約Quincy compactでした。それはヤルタ会談の帰路、ルーズベルトとサウド国王によって結ばれ、その後63年、中東紛争や石油危機を生き延びた、と。

また、Lee Kuan Yewはアフガニスタンとイラクへの攻撃を支持し、軍事協力を続けています。アメリカの大統領候補者たちは、イラクからの撤退について勝手なことを主張しますが、決して早期撤退などしてはいけない、と主張します。

アフガニスタンやパキスタンのタリバンが再興しつつあり、イランは核兵器を開発中である懸念が濃厚です。もしアメリカ軍が撤退し、イラクでもシーア派が優勢となれば、中東地域はスンニー派の政権が弱まって、イランとイラクのシーア派が石油資源を支配するでしょう。

国際秩序を安定させるために、4000人の戦死者を出してもアメリカ軍はイラクにとどまるべきだし、それを支持する国際同盟を結集するべきだ、と主張しています。

Henry A. Kissingerもリアリストとして健在です。イスラム過激派との戦闘が続くパキスタンで、ムシャラフ大統領の基盤が選挙によって否定されたことを考えます。ここにもイスラム圏と核保有の問題があります。

アメリカ政府はムシャラフ(軍)と民間政党の連携を促し、彼らを支援するつもりでしたが、選挙結果はその可能性を潰しました。Kissingerにとって、しかし、選挙よりも国際秩序の方が重要です。インドからの独立と、その際の宗教対立と恐怖、冷戦下の米ソ対立、パキスタンという国の歴史と封建的な社会構造を振り返って、選挙が必ずしも安定性を達成する正しい方法ではないことを指摘します。

アメリカは民主主義を支持するけれど、安全保障との間で選択してはいけない、とKissingerは主張します。二つともアメリカの重要な目標であって、民主主義はパキスタンの政治勢力が達成するのを待つしかない。他方、安全保障は互いの国益に基づき、戦略的に達成しなければならない、と。つまり、民主主義を否定すると思える動きがあっても、ムシャラフを支持することは正しい。

Ernesto Zedilloは,アメリカの選挙で最も有権者を動かしやすい論点は,「貿易への恐怖」と「テロへの恐怖」である,と指摘します.9・11が起きたとき,共和党はその一つをつかみました.しかし今,アメリカの有権者はイラクのニュースに不満を積もらせています.

今年の大統領選挙では,民主党がもう一つの論点,「貿易の恐怖」をつかむでしょう.それは選挙戦のために利用されて強まり,容易に収まりません.新しい大統領を縛り,外交関係を歪めるでしょう.ブッシュのイラク戦争と同じように,「ピュロスの勝利」となるのです.


BG March 9, 2008

How government makes things worse

By Jeff Jacoby

WP Sunday, March 9, 2008

The Case for a Housing Rescue

By Barney Frank

WP Sunday, March 9, 2008

Is There a Cure for Cuba?

By George F. Will

(コメント) 「意図しない結果の法則the Law of Unintended Consequences」は、政府がエタノール補助金やサブプライム・モーゲージ保証によって、新しい危機をもたらしたことによく示されています。何かを解決すると称して、政府の介入は被害を拡大することが多いのです。

しかし、これは政府が何もしない方が良い、という理由になりません。正しく理解せよ、それは難しいが、現実に即して考えを修正せよ、とでもいう<柔軟な政府>を要求するべきでしょう。

住宅の差し押さえを回避するためにも、キューバの改革を促し、政治体制が崩壊するのを避けるためにも。政府は行動するでしょう。なぜなら、それは「意図しない犠牲者を増やす法則」が働くからです。

資本主義を導入すれば、市民社会と民主主義も受け入れるだろう、という"the Starbucks fallacy"は、中国でもロシアでも失敗だった、とGeorge F. Willは主張します。だから、禁輸措置を続けてカストロと社会主義体制が完全に崩壊するまで圧力を強めるべきだ、というわけです。これは、正しくもなく、柔軟でもない、と思いますが。


The Japan Times: Sunday, March 9, 2008

Opposite poles of protest 40 years ago

By JAN SKORZYNSKI

(コメント) 1968年の東西両側における反体制運動とその後の考察です。西側の学生たちはベトナム戦争に反対し、大学の体制擁護的な役割を否定し、アメリカ帝国主義を批判しました。東側の学生たちは(西側の学生たちが当然として得ていた)自由を求め、大学の伝統的な自由を主張し、ソビエト帝国主義を批判しました。二つの運動は全く異なった視点から、似た状況を批判したのです。

政府の対応や学生たちのその後の変化も対称的でした。西側の学生たちは孤立し、極端な社会主義運動を主張します。しかし次第に、彼らも体制を受け入れ、社会的な地位を得ます。他方、東側の学生たちは、労働者に支持されますが、政府によって厳しく弾圧され、刑務所につながれ、あるいは、国外に逃れて暮らします。

1980年代の連帯と、平和的な共産主義体制の消滅を成功させたのは、こうした「社会主義の改良」や「市民的自由」を求めた東側の学生たちでした。


Leslie Bennetts Go away? Why should she? LAT March 9, 2008

Robert B Reich Will Clinton spoil the party? The Guardian, Monday March 10 2008

ヒラリー・クリントンはオバマを一時的流行だと考え,彼の支持者を減らす「焦土作戦」を展開している.しかし,オバマは民主党に新しい生命力を与えた.政治において理想主義は重要であり,社会を動かす力の源泉である.それを否定して,政治に対する冷笑をもたらすのは間違いだ.

ROGER COHEN Tribalism Here, and There NYT March 10, 2008

オバマは,その父親がアメリカに来てから生まれたアメリカ人であるが,父の出身地であるケニアには,今も部族主義と流血の対立が絶えない.アメリカを観て,同じような部族主義が繁茂していると思ったかもしれない.有権者はさまざまなグループに分けられて支持を訴える戦略に耳を傾ける.それは民主主義なのか,部族主義なのか? オバマがアメリカ大統領になることは,世界の希望である,とアナン前国連事務総長は語りました.

Gideon Rachman The real problem with Power FT March 10 2008

政治は正直なだけではいけない.特に公共の場での発言は難しい.オバマの外交政策顧問,ジョナサン・パワーが辞任しました.

ORLANDO PATTERSON The Red Phone in Black and White NYT March 11, 2008

ヒラリー・クリントンの“It’s 3 a.m.”という選挙コマーシャルは不安を残す.それはクリントン陣営がネガティブ・キャンペーンに移ったことを示すだけでなく,暗黙のうちに,人種問題にも波及する.クー・クラックス・クランを再興した政治宣伝も,静かな家族を襲う黒人のイメージから始まった.・・・オバマは危険だ.アウトサイダーだ,というシンボルの宣伝である.

David S. Broder The Dream-Ticket Fantasy WP Thursday, March 13, 2008

二人が組んでも,そしてビルが加わっても,ドリーム・チームにはならない.ウェスト・ウィングが狭すぎて,顧問たちがいがみ合うだけだ.

FT March 13 2008

Halt the political hara-kiri

By James Carville

(コメント) ヒラリーはモンスターだ,と私的な会話ならだれでも言いそうなことです.しかし,選挙では許せない,というわけです.アメリカ大統領選挙での「はらきり(切腹)」,「オオカミ少年」現象について,なぜこれほど過剰に反応するのか? これは互いを厳しく監視することで,アメリカ政治がビクトリア朝の弁論大会という品位を保つための仕掛けである,と解説します.


NYT March 9, 2008

Oceans at Risk

The Japan Times: Tuesday, March 11, 2008

A frozen Garden of Eden

(コメント) クジラやマグロだけでなく,海の生態系はまだ十分に保護されていません.多くの種が絶命しつつあり,すでに絶滅したように思われます.

どうやって保護するのか? 温暖化防止,国際協力,説得,利害調整,国際機関,保護区,法の支配,・・・

ノルウェーにできたThe Svalbard Global Seed Vaultの紹介です.かつて「ノアの方舟計画」というのを読みましたが,これもそうです.人類は自然に介入し,自分たちに有益なものと有害なものに分けて,絶滅作戦を繰り広げてきました.たとえば,イネの雑種は10万以上あるけれど,人類が利用しているのは150種ほどしかない,ということです.今,将来世代のために,その多様性を保存しておこうとしています.

116カ国が参加するthe International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and Agricultureもそうです.あるいは,帝国主義時代に活躍した,資源や植物,薬などを採取したプラント・ハンターたちの末裔です.温暖化で機構の地理的な範囲が変化し続ければ,そしてグローバリゼーションで移動するはずのない疫病や新品種が侵入すれば,移動できない植物たちは容易に絶滅します.

欧州委員会のJose Manuel Barroso委員長は,雑種の遺伝子保存を「凍結されたエデンの園」と呼びました.知的所有権を確立して,将来の人類がその利用に代金を支払うのでしょうか?


The Japan Times: Monday, March 10, 2008

The global economic party has ended

By HANS-WERNER SIM

The Guardian, Tuesday March 11 2008

For the government and the consumer, the party's over

Larry Elliott

NYT March 11, 2008

Sharing the Pain

By BOB HERBERT

(コメント) HANS-WERNER SIMが指摘する,アメリカとヨーロッパにおける住宅融資の証券化による融資の違いがショッキングです.

「アメリカの銀行はモーゲージの裏付けがある証券を世界に売りさばいたが,それは同じような名前のヨーロッパの資産とまるで異なっている.」「ヨーロッパ,特にドイツでは,モーゲージ付き証券は特に安全な資産であって,通常,銀行は住宅の価値の60%まで融資した.これに対して,アメリカのそのような証券は宝くじに近い.アメリカの銀行は住宅の価値の100%かそれ以上も融資し,仕事や所得がない者にも,サブプライム市場で融資した.」

アメリカの資産市場がメルトダウンを引き起こせば,世界の景気も悪化します.世界GDPの5%でしかない中国では,28%のアメリカの不況を埋め合わせることができないのです.アメリカにとっても,世界にとっても,パーティーは終わりました.

Larry Elliottは,イギリス経済について,三つのエンジンを使った高速飛行は終わる,と述べています.すなわち,住宅価格上昇と消費支出,財政支出,銀行・金融部門の拡大,です.

BOB HERBERTは,ソフト・ランディングなど期待するな,と書きます.株価急落,ドル安,原油高,サブプライム危機から金融市場のパニック,イラク占領のコストは3兆ドル.

アメリカ国民は約3億人.その中の3700万人は貧困で,多くの子供が含まれています.公式の貧困線近くに,6000万人がいます.彼らの所得は,4人家族で2万ドルから4万ドルです.彼らを扱った本(Katherine S. Newman and Victor Tan Chen, “The Missing Class: Portraits of the Near-Poor in America”)には,大統領候補を目指したジョン・エドワーズが序文を寄せています.

アメリカには,もっと多くのまともな仕事,アメリカン・ドリームを支えるだけの仕事が必要だ,とHERBERTは主張します.Andrew Sternpresident of the Service Employees International Union)が述べます.「その夢が重大な危機にある.なぜなら支配的エリートが社会の集団的な利益を考慮しなくなったからだ.将来への投資を止めてしまった.われわれは債務の海に溺れ,そこから何も得るものなどない.」

アメリカの指導者たちは,子どもたちやインフラ,将来の社会のために投資するより,現在の報酬と戦争に支出して,債務を増やしたわけです.

The Guardian, Thursday March 13 2008

War costs and costs and costs

Joseph Stiglitz

(コメント) 戦争と財政赤字を重ねたブッシュ政権を,無能で,しかも不正直だ,と批判しています.この戦争で利益を得たのは,石油業界と防衛産業だけです.そしてイラク国民は,今も最悪の犠牲を強いられています.


BG March 11, 2008

The power of charisma

By H. D. S. Greenway

(コメント) Joseph Nye, "The Powers to Lead,"はカリスマ型権力を解剖しますそのリストに挙がる人物はMahatma Gandhi, Adolf Hitler, Martin Luther King, Winston Churchill, Benito Mussolini, Tony Blair, Fidel Castro, Nelson Mandela, Osama bin Laden, Jack Kennedy, Franklin Roosevelt, Joan of Arc, and Eva Peron

それは暴力より説得による権力ですが,悪用される危険も示します.マックス・ウェーバーは,カリスマがその支持者との関係によって権力を生じるという限界を指摘していました.チャーチルが選挙によって権力を失ったように,大衆はカリスマにも飽きてしまいます.ブレアがカリスマでなくなったとき,誰も彼の言葉を信じません.


Mr. Spitzer痴 善rivate MatterNYT March 11, 2008

Spitzer repercussions FT March 11 2008

Niall Stanage Eliot's mess The Guardian, March 12, 2008

TRACY QUAN Really Dangerous Liaisons NYT March 12, 2008

Ruth Marcus Spitzer's Tragic Flaw WP Wednesday, March 12, 2008

John Gapper How the fighter knocked himself out FT March 12 2008

Patty Kelly Decriminalize prostitution LAT March 13, 2008

(コメント) ニューヨーク州知事Eliot Spitzerが高級売春クラブthe Emperor’s Club V.I.P.に高額で契約していた,というスキャンダルです.権力と言えば,カリスマと秩序,そして・・・セックス,スキャンダル.改革派,ウォール街を裁いた厳格な検察官,超優秀な家系と学歴の保持者です.彼は,打ちのめされた妻を伴った,その傲慢な記者会見で,堂々とこれを認め,謝罪し,個人の生活と政治上の大きな論争とは別である,と主張して地位を守ろうとしました.もちろん,後に辞任します.

彼は自分の権力が本当は人々のものであり,彼らの信頼によって与えられていることを知らないのだ,とNYTは批判します.

あるいは,むしろ麻薬もセックスも売買を合法化してはどうか,という議論に関心があるでしょうか? Patty Kellyは売春の研究者です.アメリカ国民の男性の1割は売春にかかわったという統計があり,2005年に売春関係で逮捕された人数は86000人だ,と言います.メキシコには国が認めた売春宿があります.世界中で,日本でも,歴史上の,あるいは今も,公娼制度があります.

スウェーデンの非合法化,ニュージーランドの合法化が紹介されています.売春を合法化しても,非合法化しても,さまざまな問題があるようです.Spitzerが,メキシコのような公娼制度の下で,女性に敬意払い,安全なセックスを行い,十分な報酬を支払っていたら,もう一度投票するだろう,とKellyは書いています.


WP Wednesday, March 12, 2008

An Empty Breadbasket

(コメント) 10万%のインフレ.25の寝室を持つ大統領官邸.ジンバブエの経済危機はますます深刻ですが,それをもたらすムガベ大統領の支配と政策を変えることはできません.選挙は彼の再選を阻止できず,国際世論や経済制裁も,NGOや周辺諸国の対応も,彼を辞任させるものではありません.

これでジンバブエに石油か核兵器があれば,アメリカが軍隊を送るか,中国が資本と労働者,大量の安価な工業製品を送るか,したかもしれません.


FT March 12 2008

There must be no turning back on Nafta

By Dalton McGuintypremier of Ontario

(コメント) カナダ人はアメリカ大統領候補たちがNAFTAの一方的な見直しを議論する声に耳を澄ましています.NAFTAが可能にした五大湖周辺の経済圏は,両国にとって大きな利益であり,中国やインドの追い上げに対抗するためにも必要です.経済統合は今後とも必要性を増すことはあれ,逆転することは間違いです.両国政府はインフラ投資や教育において,将来の統合化と成長を共有できるでしょう.

こうしたカナダの説得をアメリカ政府はどう思うのか? メキシコ政府は?


The Wall Street Journal, 12 March 2008

Weak Dollar Feels New Stress

Joanna Slater

FT March 13 2008

Intervene to slow the dollar’s decline

The Guardian, Thursday March 13 2008

Dollar's tumble rattles markets

Larry Elliott, economics editor, Graeme Wearden and Katie Allen

(コメント) アメリカにとって,金利低下とドル安は,いわゆる開放型のマクロ経済学で,金融政策の効果が強くなる,という好ましいケースです.しかし,国際通貨ドルの場合,ドル安の影響はそれにとどまりません.例えばドルで表示される国際商品の価格が上昇します.自国通貨の内外価値を安定化するためにドルに固定してきた多くの発展途上諸国も対応を検討します.

ECBの役割はいっそう重要である.


The Japan Times: Thursday, March 13, 2008

Good capitalism and bad capitalism

By WILLIAM BAUMOL, ROBERT E. LITAN and CARL SCHRAMM

(コメント) 1989年のベルリンの壁崩壊で,資本主義か共産主義か,という論争は終わったはずですが,資本主義にもいろいろある,とこの論説は考えます.

たとえば,「寡占型資本主義」は,権力や富が少数の者に支配されます.彼らは必ずしも高い成長を望みません.ラテンアメリカ,中東アラブ,アフリカの広い地域に存在しています.また,「国家主導型資本主義」は,政府と結びついた特定の産業や企業に信用や補助金,税制上の特典を与えます.これは東南アジアで成功しましたが,アメリカ政府の模倣は失敗でした.生産フロンティアの近くでは「勝者の決定」が難しい,と.

「大企業・経営型資本主義」は,逆に雇用や成長を介して,大企業が政府の代わりに成長を組織します.西ヨーロッパや日本の成長はこれであった,と考えますが,問題は官僚制がダイナミックな変化を好まず,リスクを取らないことです.革新を嫌い,IT技術や金融部門で遅れました.それに勝ったのが,「企業家型資本主義」です.革新を広まる企業家が中心となる資本主義であり,世界の生産フロンティアを拡大します.

それぞれの地域の資本主義は,たとえば,中国,インド,ロシア,・・・日本は,こうした異なった資本主義間の移行という問題に直面しています.


IHT Thursday, March 13, 2008

Brain drains and blame games

By Jonathan Zimmerman

(コメント) 大学教育を受けたガーナ人の47%が国外に住んでいます.特に医療分野では,たとえば,外科医の54%が外国で働きます.この論説は,彼らの愛国心を非難することも,政府が補助金を与えることも,間違いだ,と主張します.国外で働いても,彼らは多額の送金をしているし,長期的には自国に戻る者も多いからです.貧困解消を目指すことが唯一の対策です.


LAT March 13, 2008

How to be British now

By Timothy Garton Ash

FT March 13 2008

Why the Dutch must win hearts and minds

By Jan Melissen

(コメント) 愛国心や国民性,民族を主張するのは,頭脳流出に限りません.開放的な国民社会をめざす場合,政治的なアイデンティティーを強化することに政府は関与します.まるで日本の安倍内閣が強行した「愛国心教育」を見るようですが,もっと多様性を歓迎するように思うイギリス人・政府が,強制的な女王への服従を法律で決めたことは驚きでした.

「私はイギリス市民であることを喜ぶ.私はそれが好きだ.もっと好ましい機構の国は多くあるが,そこに帰属したいと思う国は少ない.しかし,私は女王の臣下であると思っていない.」

その背景は,たとえば,イギリス300年祭,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドの分離,EU統合,移民,人種暴動,自国で育った聖戦のテロリスト,などです.

社会が多様化すればするほど,アイデンティティーが問われます.国民文化や国民的な価値を学校で教える問題が先鋭な論争になり,周期的な政治の正当性を脅かします.そこで,・・・宣誓ナショナリズムが登場します.一種の(保守的)社会契約論ではないでしょうか? 「イギリスの法律を守る.」「国内の価値を支持する.」「イギリス市民としての義務を果たす.」

しかし,「女王に忠誠を尽くす」とは言いません.そのような抽象的なものは必要ないのです.移民コミュニティーも,積極的に議論し,その中身を決める過程に参加することです.「市民」をとらえ直すactive citizenshipは,20年の論争を経て,実行の時代に入った,とAshは肯定的です.

オランダでは,反移民・反イスラム政党が作った映画が論争になっています.

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The Economist March 1st 2008

Russia’s uneasy handover

Russia’s economy: Smoke and mirrors

Chechnya and the north Caucasus: And they call it peace

Obamanomics: Hope and fear

Obamanomics: Dr Obama’s patent economic medicine

The potato: In praise of the humble but world-changing tuber

Foreclosures in America: Searching for Plan B

(コメント) ロシアの経済的な成功と政治の安定性を考察しています.プーチンは幸運だったが,メドヴェージェフまで続かない.チェチェンの安定性も同じです.オバマ経済学は,若者の希望を担うオバマの経済政策に疑問を呈します.住宅価格の下落と差し押さえについても,アルゼンチンの通貨危機と同じように,解決のために行動には諸説が入り乱れています.ただし,IMFの介入はありません.

面白いのは,ポテトの記事です.ジャガイモは,アンデスの山地に生まれて世界の諸対立に広まりました.この作物のおかげで,イギリスの穀物法を廃止し,自由貿易を促しました.産業革命はイギリスから世界に成長のモデルを輸出します.それは今やグローバリゼーションの基盤です.