IPEの果樹園2008

今週のReview

2/25-3/1

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

キッシンジャー, 中産階級の再生, セルビアとコソボ, オルブライト, EU帝国の衰亡, キューバ, ルービニの最悪シナリオ, ハイパー・インフレーション

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Bill Emmott Go Ahead, Ignore the Economy NYT February 13, 2008

Robert Kuttner Obama's voice, Edwards's message BG February 15, 2008

Hugh Cortazzi U.S. campaign fires up Brits The Japan Times: Friday, Feb. 15, 2008

Questions, Not Just on Iraq NYT February 17, 2008

David Ignatius The Obama Mystery WP Sunday, February 17, 2008

Robert J. Samuelson The Obama Delusion WP Wednesday, February 20, 2008

(コメント) 選挙は,その人物を選ぶ以上に,政策に関する論争でしょうし,さらにその前に,何を論争するか,重要な争点が何かを決める論争なのです.

たとえば,NYTは,イラクにとどまらないアメリカの外交に関する争点を次のように示しています.・・・ 1.指導力,2.中国,3.核不拡散,4.ロシア,5.防衛予算,6.武力行使,7.テロ,8.中東,9.イラン,10.北朝鮮,11.イラク.それぞれについて投票前に,正しい質問を発し,真剣な答えを聞くことが必要です.

NYTが指摘したように,イラクの過去の政策失敗についてだけでなく,もっと未来について語るべきです.大統領就任第一日目から,何をするのか? 米軍の駐留は続くのか? イラク国内の和解を促せるのか? 政治的カオスを中東地域に広めないように,何をすることが望ましいのか?

ヨーロッパから見たアメリカ大統領選挙の最大の争点は,オバマでもクリントンでもなく,アメリカが保護主義(そして孤立主義)に向かうのではないか? という点です.アメリカ国民の生活について,その経済の実感を把握した方が勝利するのです.

オバマがオハイオやペンシルバニアの労働者に支持されるためには,エドワーズの政策を引き継ぐべきだ,とRobert Kuttnerも考えます.エドワーズは,その発言や政策と,自身の生活スタイルが矛盾していたために支持を集められず,敗退しました.しかし,多くの支持される要素を示しています.アメリカの貧しい労働者,社会的な弱者にとって,重要な政策を掲げることです.

女性大統領か,黒人大統領か,あるいは,史上最年長の大統領か? アメリカの選挙には話題がいっぱいです.英語(そして,他に多く)を共有するイギリス人にとっても,ブッシュが辞めて,新しい大統領がだれであれ,新しい政策に向かうことを歓迎します.

David IgnatiusRobert J. Samuelsonは,オバマへの熱狂的な支持が,政策としては明確ではない以上,大きな誤解や失望をもたらす危険を指摘します.

SPIEGEL ONLINE - February 18, 2008

'Europeans Hide Behind the Unpopularity of President Bush'

Henry Kissinger

むしろ,Henry Kissingerのように,政策が揺るがないマッケインを支持するべきでしょうか?

「もしアメリカが疲弊して,イラクを支え切れずに撤退するとしたら,それは世界的な破局を招くことになる.」

「大量殺戮が起きる可能性が高い.われわれが撤退すれば,ラディカル・イスラムの拡大は止まらない.急激に撤退すれば,それは西側のパワーがこの地域では無能であることを示すことになる.ハマス,ヒズボラ,アルカイダが一層支配的な役割を担うだろう.西側の諸国が事態を決定する力は一期に削られる.ヴィールスは大量のイスラム教徒を抱える国で深刻な結果につながる.すなわち,インド,インドネシア,ヨーロッパの大部分である.」・・・

30年前,あなたはヨーロッパを呼び出す電話番号を一つだけ欲しい,と言いましたね.」

「そして,それは実現した.しかし,今や問題はその先にある.国民国家は単にその主権をあきらめてEUに渡すのではなく,自分たちの未来についてのビジョンもあきらめなければならない.彼らの未来は,今では,EUとしてあるが,EUはまだ単一のビジョンを示せず,国民国家が擁したほどの忠誠心を得られていない.その結果,ヨーロッパの過去と未来の間に真空が広がっている.」・・・

また,ドイツがNATOを介して世界の安全保障をアメリカと分担するべきだ,と考えます.


The American Prospect, February 13, 2008

The Middle Is Falling Out of the Economy

Harold Meyerson

Harold Meyerson The Mall of America WP Thursday, February 21, 2008(縮小版)

(コメント) 第二次世界大戦後の30年でアメリカ中産階級は増大したが,その後の30年で減少しました.その理由は,労働組合が解体され,製造業が解体され,グローバリゼーションが進展したからです.

最初の30年間,アメリカで最も大きな雇用主はジェネラル・モーターズでした.その後の30年で最も大きな雇用主はウォルマートです.GMは,労働者たちが自動車を買えるように,賃金を上げることに賛成しました.しかし,ウォルマートは世界中から最も安いコストの物資を調達し,労働者たちもその商品を買うような最も安い賃金で良いと考えました.人類史上,最も多くの中産階級をもたらしたアメリカ経済は,その性格を変えたのです.

もはや教育システムが平等をもたらす魔法の杖ではありません.教育が貧しい労働者や移民たちに子どもの生活を改善する道であるとは思われていません.富裕層には富裕層だけの集まる教育システムがあり,職場があるからです.アメリカはもはや,安定した高賃金の職場を多くもたらす国ではなくなりました.企業の福利厚生施設,年金・保険,年々の給与引き上げは,かつて常識でしたが,今では存在しません.

世界経済におけるアメリカの役割も変わりました.かつてヨーロッパやアジアの経済を復興するために,アメリカは農産物や工業製品を大量に輸出しました.世界の最後の貸し手ではなく,大幅な経常収支を出す最初かつ最後の買い手(消費者),かつてイギリスが商店の国と呼ばれたように,アメリカも世界中で生産された製品を輸入する商店の国になりました.

サブプライム・ローン危機も重要ですが,アメリカは市場の条件整備を政府が積極的に行って,かつてのような多数の中産階級を回復しなければなりません.そのためには,インフラ整備など輸入できないものと,輸入できるとしても,国内ではるかに高度なものに,特化するしかありません.同時に,雇用主の嫌がらせを許さないように法制度を整備し,労働組合の参加と活動を強化することです.

「資本主義は繁栄をもたらす.政府は,その繁栄が広く共有されるような,法的・社会的な条件を整備する.」

多くのアメリカ人が豊かな暮らしを取り戻すにはどうすれば良いのか? 産業政策と所得政策を,21世紀の新しい経済に即して,再建するように求めています.


NYT February 14, 2008

Here Comes Kosovo

By ROGER COHEN

FT February 14 2008

Kosovo: born under a bad sign

By Stefan Wagstyl and Neil Macdonald

(コメント) セルビアは自国の領土内に勝手に作られた「独立国家」に憤慨し,ロシアに助けを求めています.EU諸国は速やかに20カ国以上が独立を承認するだろう,と言われます.しかし同時に,自国内にも少数民族の分離独立運動を抱える国は,その波及を恐れて承認しないかもしれません.スペイン,ルーマニア,スロバキア,ギリシャ,ブルガリア,・・・ロシア,トルコ,インド,中国,カナダ,イギリス.

その民族や領土に「主権」を認めるのは,誰,なぜ,どうやって,何のためでしょうか? 国連憲章や大国間の合意や齟齬があっても,ナショナリズム,保護主義,帝国主義,派閥の抗争はなくなりません.

ROGER COHENは,セルビアがコソボのアルバニア人を支配し,自国に統合しようとしたのは,最近のことであり,しかも,完全に失敗に終わった,と主張します.コソボ独立は,少なくともEUや西側にとって,1999年以来,ミロシェビッチからの権力剥奪と国際秩序回復に関与することの一部です.ユーゴスラビアが解体する過程で,彼はセルビア民族主義をあおり,権力維持のためにユーゴのセルビア化を進めたのです.「コソボは単に死滅した国家の最後の一切れであった.」・・・「ミロシェビッチはジェノサイドのサイコロを振って,賭けに負けたのだ.」

コソボ内のセルビア人はどうするか? コソボが電力の供給を止める? ロシアが軍備支援を強化する? ソ連邦解体後の各共和国に残る飛び地やロシア人にも分離独立が波及するのか? 何が起きても,アメリカやEUは強い支持と,場合によっては軍事的な強硬策を取れるだろうか?

これはセルビアにとっても良いことだ,とCOHENは考えます.セルビアは紛争地域の支配から手を引いて,政府の間違った民族主義や強要される犠牲から解放されます.歴史の間違った利用から,未来の希望に,東からの支援ではなく西の繁栄へ,自分たちの目を向ける時だ,と.

他方,Stefan Wagstyl and Neil MacdonaldによるFTの記事は,コソボの独立式典にアルバニア解放戦線の黒と赤の鷲を描いた旗が見られなかったことを指摘して始まります.この独立はアルバニア人の勝利ではないのです.

1999年に彼らの解放運動に国連やNATO軍が介入し,セルビア軍を追放して占領したのは,もっと違う結末を願ったからでした.「彼らは数年間,和平合意を遅らせることで,およそ200万人のアルバニア人多数派が10万人から12万人の残されたセルビア人と,ミロシェビッチが追放された後の民主的なセルビア指導者とが交渉する時間を与えようとした.彼らはまた,時間をかければ,セルビアの伝統的な同盟国であるロシアが,コソボに関する根深い齟齬を解消し,国連の認める和平案を支持するようになると思った.」

しかし,コソボのセルビア人も,セルビアの新しい政府も合意を拒み,コソボは独立以外のあらゆる選択肢を問題にしませんでした.そしてロシアと西側の関係も,時とともに,さまざまな問題を生じて,むしろ悪化することになったのです.

国連の特使Martti Ahtisaariが示した和平案は,EUが国連に代ってコソボの国際監視を引き継ぎ,コソボ内の少数民族や歴史的建造物の保護を担う,というものでした.

FTが注視するのは,この和平案が成功する軍事・外交的な条件だけでなく,コソボ経済の再建です.旧ユーゴスラビアの中でも最も貧しい地域でした.人口の半分は農村に住み,男性の47%,女性の10%しか職に就いていない,と言います.新しい国は,外国からの援助と移民たちからの送金に頼るしかありません.

しかし,今後も混乱を続けるセルビアと,貧困に苦しむコソボにとって,その希望はEU加盟です.そうであれば,長期的に,独立と分離が引き起こす問題は緩和され,和解が実現するかもしれません.

A difficult birth FT February 17 2008

Kim Bytyci Independence for Kosovo repairs two broken decades The Guardian, Monday February 18 2008

Independent Kosovo WP Monday, February 18, 2008

Kosovo: Mind the gap CSM February 19, 2008

Mladen Tosic Kosovan consequences The Guardian, Tuesday February 19 2008

John Laughland A postmodern declaration The Guardian, Tuesday February 19 2008

Kosovo's just, but rash, escape BG February 20, 2008

David L. Phillips Now, it's time to build a nation BG February 20, 2008

Simon Tisdall A far cry from Kosovo The Guardian, February 21, 2008

Anne Applebaum The Consequences of Kosovo WP Tuesday, February 19, 2008

Dusan Reljic'Kosovo Is not Independent, It Is an EU Protectorate' SPIEGEL ONLINE - February 19, 2008

(コメント) つまりコソボの独立が抱える不安とは,1.セルビア人の反発,2.ロシアの反対,3.EUによる監視・監督,4.貧困,である,とFTは考えます.

John Laughlandも,1908年のボスニアと2008年のコソボを比較します.前者は第一次世界大戦の導火線となりました.ただし,コソボは違う,と考える者は,それがナショナリズムを超えた「主権」であると主張します.国旗も,国歌も,軍隊も,憲法も,それが示すものはナショナリズムの実現ではないのです.西側同盟の最新の保護領,委任統治領だ,という皮肉な見方もあります.

まだ多くの問題が起きるでしょう.しかし,国際社会や国際主義がユーゴ解体と国家建設の細部に至るまで関与した以上,この実験が成功することを願わずにはおれません.

Anne Applebaumは,グルジアの分離独立運動を支援することで西側をけん制するロシアに,短期的な権力の奪い合いではなく,何がロシア国民にとっての長期的な利益かを考えよ,と警告しています.

LAT February 21, 2008

The Kosovo precedent

By Timothy Garton Ash

FT February 21 2008

Milosevic was the midwife to Kosovo’s nationhood

By Philip Stephens

(コメント) 独立宣言ではなく,従属宣言だ,とTimothy Garton Ashは書きます.その記念すべき独立宣言は,コソボを代表する偉人たちが起草したのではなく,西側の政治的な「助言」をさんざん詰め込んだ形でしか認められませんでした.

しかし,実際には,コソボの政治的自立は大きく前進他のであり,Ashは,EU本部のあるベルギーが事実上分裂しても平和的に共存しているように,セルビアとコソボもEUの枠組みによって共存するべきだ,と考えます.つまり,EUが帝国ではなく加盟国の「拡大」を続けているように,コソボも委任統治と完全な独立国との間からEU加盟国へと変身するのです.それは民族や主権を超えた,合意による従属的な独立です.

だからAshは認めるのです.コソボは特別だ.コソボが先例にならない,と国際社会は繰り返すけれど,すべての独立派はユニークな問題を抱えており,いくつかは独立するでしょう.

すべての責任をウッドロー・ウィルソンに負わせるのは簡単だ,とPhilip Stephensは考えます.ウィルソンは国際社会が,すべての民族に独立を認め,戦争は各国の民主主義と集団的な安全保障によってなくすことができる,と主張しました.それ以来,コソボのような小国の独立も避けられないのです.

そのような幻想を与えたことで,多くの民族は独立を要求し,現実には大国によって流血の弾圧を受けました.コソボが出来たからルールが出来たのではなく,ウィルソンのルールに戻ることでコソボは独立を要求しました.国家となるための多くの要素は,さまざまな妥協や枠組みを利用して,これから確立しなければなりません.


The Guardian, Friday February 15 2008

The Olympics is a festival of politics worth every penny to a fascist state

Simon Jenkins

The Japan Times: Sunday, Feb. 17, 2008

China's path deserves respect, not fear

By TOM PLATE


FT February 15 2008

Learning from the Greenspan legacy

(コメント) あれほど絶賛されていたにもかかわらず,グリーンスパンの何が間違っていたのか? 彼がサブプライム・ローンを許したのか?

グリーンスパンが称賛された頃,世界経済は4つの議論で描かれていました.1.低インフレ論,2.新興市場の過剰貯蓄論,3.グローバリゼーション論,4.アメリカの生産性上昇による世界的優位論.・・・それらをグリーンスパンが創り出したかのように称賛され,その条件の下で金融政策は容易に見えたのです.

しかし,グリーンスパンは金融緩和を長期化してしまったし,金融市場の自己規律に依存しすぎたようです.金融機関はバブルを頼って,リスクを過小評価し続けました.

しかし,FTはグリーンスパンがデフレを回避する行動をとったのは正しいし,それが長すぎたし,非対称的な介入であった,と批判することは,今から見て,正しいと考えます.最大の失敗は,資産市場の変動を無視する,と決めたことです.


IHT Friday, February 15, 2008

Toward a true dialogue

By Madeleine K. Albright

(コメント) 中東和平交渉は再開され,イラクの治安が回復する兆しを示し,パキスタンでは選挙が行える.元国務長官のオルブライト女史は,新しい大統領に,アメリカ外交政策の転換を進言します.

「1.この地域あるいは世界を,間違いを犯さない人々と善をなさぬ人々,に分けてはいけない.穏健派と過激派,世俗派と信仰派,邪悪と善良とに,分けてはいけない.」

単純すぎる考えからは複雑な現実を導くことができないない.過去の失敗や引き続く論争を止めて,すべての関心を考慮に入れなければ答えは出せない.

「2.アメリカの敵はイスラム教徒ではないし,そのいずれの分派でもない.イスラム教徒とテロとは結びつかない.アルカイダと戦うとき,あらゆる確信を持ったアメリカ人とイスラム教徒は仲間である.」

「3.アメリカも,他のいかなる国も,法を超える存在ではない.すべての国は人権を尊重し,世界的な法典や安保理の決議に従う義務がある.」

「4.アメリカは和平実現に向けて,断固とした,公平な関与をしなければならない.アメリカ大統領は,イスラエルの生存と安全保障だけでなく,パレスチナ人の尊厳と正当な願いに対して敬意を払うべきだ.」

アメリカは何を実現したいのか? われわれは,平和を望む全ての者が隣人として暮らせるような合意を求める.安全保障や正義を語るだけでなく,それが何を意味するのか,共通の定義を見出す必要がある.

「真の対話は,無視,偽善,尊大さ,と両立しない.ある人々や文明が,他の人々が文明よりも優越している,という前提にも立てない.」

「われわれは協調の精神で前進しなければならないし,そうできるのだ.」

「前進という言葉で,私が意味するのは,中東における本当の意味で有効な二国家(イスラエル・パレスチナ)の独立,イラクの統合,安定化,それ自身と隣国との和平,イランとアメリカがその土地における自治政府の権利を尊重すること,アルカイダとその海外拠点,その同盟者と統一して戦うこと,いかなる背景や信仰を持った子どもたちも,恐れることなく,成長できることである.」

From the New Testament: Blessed are the peacemakers. From the Hebrew Bible: Swords into ploughshares. And from the noble Koran: Enter into peace one and all.

日本にも,このような優れた政治指導者,政策担当者がいるのでしょうか?


FT February 15 2008

. . . and now for somewhere completely different

By David Pilling

FT February 17 2008

From zero to hero

By David Pilling

(コメント) Japan is different – differently different…” この長い,長い,考察で,David Pilling日本人の「特異さ」を理解しようとして,最後に伊勢神宮へ行き,神様ではなく鏡しかないことを書きます.日本人は自分たちが特異であることを「優秀さ」であると信じている(信じたい)のだ,というわけでしょう.

日本人の特異さに拠るわけではないのですが,金利を下げて当然と考えるバーナンキに比べて,金利はなかなか動かさないし,むしろ上げると公言したまま動かさない福井総裁の行動をどのように説明しようか? とPilling悩むわけです.超金融緩和から金融政策の正常化を目指しながら,日銀総裁は悩みます.インフレとデフレの可能性,膨大な政府債務の累積,銀行の不良債権,円高で輸出に依存した経済拡大が止まる恐れ,円キャリー・トレードの影響,・・・政治家の干渉に反発する気持ち,など.

そして,株価の下落や,後継総裁人事の問題,フリーターの低賃金,なども影響するのでしょうか? むしろ,日本人の無原則さ,実際的な妥協の積み重ねが,重要な政策を機能させないのかもしれません.


BG February 16, 2008

The perils of a weak dollar

By Brad Setser

(コメント) しかし,そんなアメリカの連銀も,ドルの下落には不安を隠せないでしょう.連銀が金利を下げれば,アメリカの財務省証券に対する需要が減ります.アメリカへの資本流入が不足して,ドルの下落や長期金利の上昇が起きるわけです.経常収支の赤字が続く以上,政府系投資ファンドを非難する余裕などありません.

影響力のある外交評議会のBrad Setserは,他方でドル安は外貨準備を抑制するためにアメリカへの直接投資を刺激している,と述べます.アメリカに工場と雇用が増えるのは良いことでしょう.しかし,むしろ,経常収支が黒字の中国などアジア諸国と,石油輸出国が為替市場への介入を止めて,その通貨の増価を認めるべきである,と主張しています.


JULIA WERDIGIER Britain to Nationalize Troubled Mortgage Lender NYT February 17, 2008

Chained to a Rock FT February 17 2008

(コメント) 住宅ローンで失敗したイギリスのノーザンロック銀行を国有化することが決まりました.およそ30年ぶりという破たん銀行の国有化は,イギリスの金融市場や政府の評価を傷つけるだろう,とNYTは書きます.

巨額の融資保証を与えていながら,保有資産の現在の市場評価では,それを売却することが財政に大きな損失を負わせることになる.むしろ,このまま一時的に保有して整理し,市場価値の回復を図る方がよい,と判断したわけです.それは政府にふさわしい仕事なのか,という批判も起きるでしょうが.

ヴァージン・グループやゴールドマン・サックスへの売却も検討されましたが,金融秩序を維持し,預金者のお金も,納税者の茜も守る,といおう政府の基準は満たせなかったようです.しかし,株主の一部は,政府には新規投資を行う考えがない,と批判します.また,少なくとも最近まで,ブラウン首相もダーリング蔵相も,国有化を最も嫌っていたはずです.

FTは,国有化が限られた選択肢の中で最もましなものである,と認めます.最小の悪だ,と.株主たちが強く抗議するのは,買収案に比べて,株価が下がると思うからでしょう.しかし政府は,雇用の急激な切り捨てや金融不安を避けたい,と思ったはずです.

The Guardian, Monday February 18 2008

Northern Rock's rescue is part of a geopolitical sea change

Martin Jacques

(コメント) ノーザンロックの国有化は,世界中で同時に起きているパワー・シフトの一部である,とMartin Jacquesは主張します.西側世界から中国やインドへ,産業革命以来,政治経済のパワーが決定的に移行しつつあるのです.

アメリカは経済力の衰えを,金融的な支配や軍事力の優越によって,維持できないような取り決めや介入を繰り返して隠し続けていたのです.その反動が顕著になって,これまでの支配的な制度や思考パターンが急速に正当性を失いつつあります.

自由放任や自由な市場は,所詮,富裕層や既得権の保有者に有利でした.しかし,その見せかけも捨てて,西側世界のエリートたちは,新興国からの輸入品を締め出し,自分たちの金融資産を守ろうとするでしょう.

Jesse Norman The return of the Treasury The Guardian, Monday February 18 2008

Vincent Cable Getting there slowly The Guardian, Monday February 18 2008

Diane Abbott Paying the free-market price The Guardian, Monday February 18 2008

JULIA WERDIGIER Government to Control Struggling British Bank NYT February 18, 2008

Philip Stephens Later not sooner: the Rock’s election legacy FT February 18 2008

Northern Rock in state hands FT February 18 2008

Larry Elliott Complicit, but correct The Guardian, Tuesday February 19 2008

JULIA WERDIGIER Brown Defends Takeover of Ailing British Lender NYT February 19, 2008

(コメント) 政治の世界では,それが避けられないような失敗であるなら,先手を打って,できるだけ早期に処理してしまえ,というのが鉄則です.その意味で,ブラウンはノーザンロックに時間をかけ過ぎました.

ロールスロイスはイギリスが誇る世界クラスの企業であるが,1971年の保守党のヒース首相が国有化したことを多くの人は忘れている,とLarry Elliottは指摘します.ロールスロイスが立ち直ったように,住宅価格が上昇すれば,ノーザンロックに注いだ税金を取り戻せる見込みは大きいのです.国有化は正しかった,と.ほかにも,スウェーデン政府は,長年,銀行を保有したまま経営させていますし,1981年,1984年にナショナル・バンク・イリノイを国有化したのはレーガン大統領でした.

しかし,イギリス政府も責められるでしょう.1.ノーザンロックの処理や預金者への支払い保証が遅れて,手際が悪かった,2.金融システムを監視する制度が三つに分割されている,3.金融市場の投機的な取引を煽った,と.イギリスの未来像がぶれ始めたことは確かです.

FT February 19 2008

The ‘nationalisation’ that is no such thing

By Will Hutton

FT February 20 2008

The top 10 Northern Rock losers

By John Gapper

(コメント) 国有化を戦略とした戦後の労働党政権とは異なる.Will Huttonは,これがイデオロギーによるのではなく,実際上の必要によって行われた,と考えます.資本主義システムの下で,企業の活動はすべて政府によって維持された条件に依存しており,銀行はますます政府との関係を抜きに考えられません.それが国民の福祉にとって重要であると思えば,政府は企業を支援しますし,銀行を国有化することもできるのです.

では,国有化によって誰が損失をこうむったのか? John Gapperは上位10名を紹介します.10位,Mervyn King総裁.9位,Lloyds TSB.8位,The investment banks.7位,Sir Richard Branson.6位,株主.5位,被雇用者.4位,金融サービス局.3位,Alistair Darling蔵相.2位,Gordon Brown首相.1位,イギリス国家.


FT February 17 2008

Seoul needs sound policy, not soundbites

By Aidan Foster-Carter

(コメント) 韓国の体制転換? それが新しい大統領Lee Myung-bakの挑戦です.ブッシュ大統領による北朝鮮の体制転換は進みませんが,韓国を率いるのは現代財閥を率いた若き天才経営者です.日本列島改造ではないけれど,韓国に運河を張り巡らせて,朝鮮半島改造を掲げています(専門家は誰も支持しませんが).

しかし,韓国経済が挑むべき課題は他にあります.高学歴の若者が大量に失業してしまうこと.雇用のミスマッチングです.そのためにはサービス産業を振興し,直接投資を受け入れるべきだ,とFoster-Carter考えます.また,中国の台頭に対処する戦略を見出す必要があります.

これまでとは逆に,韓国の挑戦が,日本の学ぶべき先例になりつつあるようです.


FT February 17 2008

Two nails in the coffin of German corporatism

By Wolfgang Munchau

FT February 21 2008

The fall of a financial model

By Jean-Louis Beffa and Xavier Ragot

(コメント) 一方では,ドイツのコーポラティズムが死滅するのは確実だ,他方では,民間金融市場の自己規律に依拠したシステムが終わった,と主張されています.株式市場の評価で経営者の報酬を決め,非効率な経営は株価の下落や企業買収を招き,彼らに企業の効率化を強いる.政府も労働組合も,企業を効率化するという目的に対しては従うしかない,という発想でした.

それは,経済システムを運営するのに十分でなかったのです.現実に経済成長している国は「新重商主義」に依拠しており,株価も上昇しています.短期的な利益を目的に株価は変動し,企業買収も効率を改善するとは限りませんでした.

コーポラティズムも市場の自己規律も,その条件が再生すれば重視されるようになるでしょう.ただし,新しい仕組みや名前が並ぶでしょうが.


The Guardian, February 17, 2008

A Viennese mirror

Wess Mitchell

EUの官僚たちが1世紀前のウィーンに旅することができたら,彼もしくは彼女はハプルブルク帝国が現代のEUとあまりにも似ていることに驚くだろう.EUのように,オーストリア・ハンガリー帝国は民族を超える制度の実験であった.それは5100万人の住民を擁し,11の民族,14の言語があった.ヨーロッパの小宇宙を維持するため,二重の王朝と双子の議会が,領域の半分に当たるオーストリアとハンガリーの概ね独立した人々を代表した.

ハプスブルク帝国は,その住民とヨーロッパのための安定化する勢力として機能していた.その分散したエスニック集団にとって,審判であるとともに反発者であり,住民の対立を抑えるとともに,侵略的な国家から弱小な民族を保護する役割を担った.それはまた大陸の地政学的な真空地帯を埋めて,ドイツとロシアの双方を牽制した.

こうした役割を果たす限り,オーストリアは「ヨーロッパの必要物」,すなわち諸民族と国家の均衡を図り,それに代わるものは考えられなかった.しかし,1900年代初め,帝国は二つの問題に直面し,この使命を果たす能力を疑われた.

第一に,それは構成員の諸利害を和解・代表することができなくなった.問題の核心は,1867年の帝国分割の妥協であった.帝国人口の半分を占めたスラブ人を排除したことで,この妥協はドイツ人とマジャール人の取引とみなされた.ドイツ人とマジャール人が達したと同じような政治的合意が,ドイツ人とスラブ人との間にも必要であったが,その後の懐柔策は不十分だった.

第二に,帝国内のナショナリズムがもたらす危機によって,帝国はますます国際情勢で統一した独自の路線を採れなくなった.より強硬なロシアと1906年に対立してから,オーストリア・ハンガリーはますますドイツに頼るようになった.その結果,地政学的な安定化という帝国の特殊な地位を否定してしまった.

こうした問題は,オーストリア・ハンガリーが「必要だ」というイメージを回復できないほど損なった.臣民にとっても,1918年に帝国を解体する外部の大国にとっても,民族主義を超えた帝国より,民族自決の方が優れていると見なされた.その結果,最初のヨーロッパ同盟(EU)は死滅した.

オーストリア・ハンガリーと同じように,EUの存在理由は加盟諸国間の自生的な勢力均衡を乗り越える力である.そして問題の解決を国際機関にゆだねる.どちらの点でも,EUが2007年に直面している諸問題は,オーストリア・ハンガリーが1907年に直面していた諸問題と非常によく似ている.

EU新加盟諸国の多くは,地政学的な信頼性に問題を抱えている.それは,EUの執行権力グループによる支配を恐れるポーランドと,不十分な代表権のままでEUの財政負担を強いられるのが嫌なドイツとの間に緊張関係が生じて示される.対立はこじれ,反目が広がり,EUはちょうどオーストリア・ハンガリーが冒されたような状態に落ち込む.

第二の問題は対外関係だ.オーストリア・ハンガリーのように,EUは強力な二つの隣国に挟まれている.復活したロシアは失った影響力を取り戻したがっているし,反動的なアメリカは海外の軍事的な冒険に固執している.

オーストリア・ハンガリーが示す三つの教訓がある.第一に,ハプスブルクのスラブ人たちより政治的に大きな参加を許されているけれど,多くの中央ヨーロッパの住民は,経済的・戦略的に,EU15カ国と同等に扱われていないと考える.それゆえ会議において,新加盟諸国が国益をより強く示すことになる.

審議妨害を恐れて,EUの指導者たちは二つのスピードによる同盟を再び主張し始めた.spmp場合,前衛となる西側諸国がより深い統合を進め,新参者たちは追いつくままに放置する.しかしハプスブルクの歴史は,そのような取り決めが「特権的な者たち」と「貧しい者たち」との懸隔につながることを示している.多くの部品からなる同盟に,安易な道はなく,EUは周辺においても,帝国の中心と同じく,同一水準の統合を提供しなければならない.

第二に,オーストリアがドイツ人とスラブ人との合意を必要としたように,EUは独仏の和解を,東西の最大国家,ドイツとポーランドの間でも再現する必要がある.1952年の鉄鋼を共有する枠組みが先行したことに倣えば,ドイツとポーランドは天然ガスの輸入を共同で管理することだろう.

最後に,オーストリア・ハンガリーが軍事的な安全保障を得るためにドイツと同盟したように,EU加盟諸国は,ロシアの天然ガスを得ながら,エネルギー安全保障の戦略を必要としている.戦略的に必要な財についてのロシアへの過度の依存が,加盟国間の利害に亀裂を広げる.ドイツのように,ロシアとの優先的なパートナーシップを求める国と,ポーランドのように,それを脅威と見なす国がある.オーストリアのドイツとの同盟は,帝国の統一を犠牲にして,スラブ人をロシアの保護に向かわせた.同様に,ヨーロッパがロシアと組むことは,EUの統一を犠牲にして,新加盟所子億をアメリカの保護に向かわせる.

オーストリア・ハンガリーが見出したように,一旦,地政学的な依存が始まれば,支配的大国は自由を取り戻すというより,自分たちの利害に応じて従属する同盟国を利用するだろう.EUがロシアへのエネルギー依存を脱する見込みはないが,オーストリア・ハンガリーが欠いていたものによって,その従属に対処する能力を高めることができる.それは対等な条件で加盟国間の関係を維持することだ.それはまず,エネルギーに関する統一した意見を確立することである.

結局,オーストリア・ハンガリーの滅亡に関与した多くの者が,その帝国の消失を嘆きながら生きることになった.引き続く事態は,彼らが理解していた以上に,旧帝国の必要性を示したからだ.その失敗に学ぶなら,現代のヨーロッパ人は,今後とも重要な役割を担う「帝国」を改革し,再生することができるだろう.


Jeff Jacoby What would JFK do? BG February 17, 2008

Amity Shlaes Cuban Crisis Is Avoidable If Bush Can Copy Poppy Feb. 20 (Bloomberg)

Beyond Castro BG February 20, 2008

Ignacio Ramonet Fidel's exit means continuity. For change, look to Obama The Guardian, Wednesday February 20 2008

Jon Lee Anderson Fidel's slow fade LAT February 20, 2008

Twilight of the Dictators: And a Chance for Cuba — and the U.S. NYT February 20, 2008

Anya Landau French Our Failed, Punitive Policy WP Wednesday, February 20, 2008

Robert Kagan A Card to Play for Cuba's Freedom WP Wednesday, February 20, 2008

Chance for the US as Fidel fades FT February 20 2008

(コメント) 新しいキューバ危機の予感です.カストロが大統領を辞任しました.キューバの体制転換が起きるのでしょうか?

J.F.ケネディーにたとえられるオバマが,ヒューストンの選挙事務所に,カストロの盟友チェ・ゲバラの大きな旗を飾っていたことで責められます.

警察国家に抑圧された反体制派が蜂起する? ミハイル・ゴルバチョフのようにソフトに語るカストロが,キューバの無血・資本主義革命を受け入れる? フロリダに逃れた10万人以上の亡命者がキューバに帰還する? ・・・国内の権力闘争は,まだ,どうなるか分りません.

Amity Shlaesは,それだけでなく,ベルリンの壁崩壊後の国際秩序の再編と同じように,主要国の秩序ある関与を求めます.東西ドイツの平和的統一を管理したのは「4プラス2方式(US,ソ連,フランス,イギリス,そして,東西ドイツ)」でした.安保理やワルシャワ条約機構,NATOも重要でした.西ドイツのコール首相は,当時のブッシュ大統領の支持も受けて,東ドイツの市民一人ひとりに,以前より状態が悪くなることはない,マルクは全て11で交換する,と約束しました.しかも,10年に及ぶ莫大な補助金を与えた,ということです.

キューバはどうでしょうか? 東ドイツか? それとも,アメリカにとっての香港か? しかし,キューバにはまだ,ロシアのプーチンや,ベネズエラのチャベスが付いています.

キューバの新しい指導者たちが,自由な選挙を行い,政治犯たちを釈放する可能性もないとは言えません.そしてアメリカは,キューバに対する禁輸措置を廃止し,経済支援を与えて投資を促すかもしれません.


BG February 18, 2008

Singapore's mosaic

(コメント) 多民族・都市国家のシンガポールでも,主権を維持するためには,領土だけでなく,それが掲げ,守る,仮想的な理想主義の実体"Singaporeanism"という,国家と個人の属性を発明する必要があるのです.

それは時代の先端的なキャッチ・フレーズ「グリーン,クリーン,多文化」に敏感なだけでなく,内部にイスラム過激派が広まることを強く警戒しています.


Christopher Marcisz Watching democracy in action BG February 18, 2008

Gideon Rachman Why politics will not fix Pakistan FT February 18 2008

NICHOLAS D. KRISTOF Machetes and Elections NYT February 21, 2008

(コメント) ロシアとパキスタンの「選挙」です.それがどのような仕組みと経過で行われれば,民主主義の実現に向かうのでしょうか? ロシア人は自国の選挙よりアメリカの大統領選挙に関心を持っているようだ,とMarciszも考えます.いっそ,オバマやヒラリーやマッケインが,アメリカ諸州だけでなく,モスクワやカラチ,カブールや東京,ソウル,北京,台北,・・・でも,選挙演説会を開いてくれたら・・・そして,ハリウッドの映画会社や野球チームがするように,政治家たちも国境を超えて,インターネットで選挙運動資金の寄付を集め,党員集会も開く!

あるいは,アフリカの内戦やハイパー・インフレに苦しむ諸国から体験者たちを招いて,選挙(によって権力を委譲)するよりもナタで殺し合うことがどういう意味か,教えてもらうことです.


The Japan Times: Monday, Feb. 18, 2008

The IMF as a global financial anchor

By AGE BAKKER and PERRY WARJIYO

(コメント) 国際金融危機を受けて,IMFの機能を強化するべきだ,という提言です.三つの領域・課題を示します.

1.多角的なサーベイランス.しかも,単に中央銀行家や財務省のためにではなく,金融制度の監督者,規則の決定者,市場参加者のために,情報を集めて公表する.それらがマクロ経済の問題,例えば国際収支や為替レートに関係しているという理解を促す.新しい規則が必要なケースprivate equity, hedge funds and sovereign wealth fundsについて,論争に必要な材料を提供する.

2.国際金融システムにおいて重要な諸国との個別協議.特に重要なケースは,個別の国と,日々の金融取引に関してまで,具体的に細かい交渉をする.金融監督や金融市場の設計に関して,各国の健全な金融市場育成に協力する.それゆえIMFは,経済理論化よりも,むしろ金融市場の実務家から,より多くのスタッフを採用する.

3.新興市場の安定化に関する助言.新興諸国が市場を開放し,国際金融市場に統合する過程について,明確・適切なプログラムを作成するように助言する.金融危機を恐れて市場を管理したり,膨大な外貨準備を積み増したり,地域的な差別的協定を求めたりするより,適切な流動性を供給する手段を持つことで彼らが自由化に自信を持てるようにする.


FT February 18 2008

Closer ties between China and America are crucial

By Bill Owens

LAT February 19, 2008

Ringing in the Asian century

By Kishore Mahbubani

(コメント) アメリカと中国は,協力するのか,敵対するのか? としばしば話題にされます.それは単に国際政治戦略の選択としてだけでなく,the “new commons”という視点が重要だ,とBill Owens主張しています.相互に共有財を増やすことで,米中の協力関係は必然的に深まるでしょう.

1.インターネットを介したサイバー攻撃を自分から始めない.2.公海上の安全を保障するために協力する.3.人工衛星を使ったグローバルな軍事情報の透明性を確立する.4.宇宙空間の軍事利用を禁じ,核兵器の削減に協力する.5.石炭による火力発電所からの汚染削減に協力する.

こうした活動を通じて協力関係は深まり,突発的な事件で敵対感情が起きても,互いの関係悪化を抑制する基礎が確立される.


FT February 19 2008

America’s economy risks mother of all meltdowns

By Martin Wolf

(コメント) 住宅市場の悪化は経済全体に及ぶものではない,と述べたグリーンスパンの予測は間違っていました.そこでWolfは,反対に真の市場悪化論者の意見を検討します.それがNouriel Roubiniです.

Roubiniはすでに20067月,最初に不況の危険性を予測しましたが,今では,“a rising probability of a ‘catastrophic’ financial and economic outcome”と主張しています.そして,金融危機への12段階はこうなります.

1.アメリカ史上最悪の住宅危機.価格が20-30%も下落する.

2.サブプライム・ローンなどで,さらに金融機関の損失が増える.

3.保証のない消費者金融の危機が加わる.金融逼迫が消費者にも及ぶ.

4.モノラインの格付け悪化で,信用保証が得られない.

5.商業不動産市場も暴落する.

6.地方銀行や全国規模の銀行が倒産する.

7.レバレッジを利用した企業買収などで巨額の損失.金融機関のバランス・シートが悪化.

8.企業の倒産が急増する.企業債務の保険業者も破たんする.

9.「影の金融システム」が崩壊する.ヘッジファンドなど,中央銀行からの融資を受けにくい.

10.世界中の株価は雪崩のように暴落する.

11.金融市場から流動性が消滅する.誰もが支払い不能のリスクを抱えて慎重になる.

12.資産市場の底値が分らない.“a vicious circle of losses, capital reduction, credit contraction, forced liquidation and fire sales of assets at below fundamental prices”

さらにRoubiniは,「デカップリング」論も,連銀による救済論も否定します.これほどの崩壊を前にしては,他の地域の刺激策やアメリカ連銀・政府の介入も,ほとんど役に立ちません.金融緩和の限界は,ドル暴落とインフレの危険ですが,他にもRoubiniは指摘します.支払い不能には無効であり,モノラインの破たんや住宅価格の暴落には刺激として少なすぎる.市場に依拠した金融システム自体が崩壊の危機に瀕します.

深刻な危機の場合,最後は政府が介入するしかないのです.この点で,Wolfは日本との興味深い比較をしています.すなわち,「政府は不良債権処理か,インフレーションによる債務の帳消し,あるいは,その両方を選択する.大蔵省が嫌ったため,日本は不良債権処理を選択した.しかし,日本は対外債権国であり,貯蓄者は政府が破たんすると全く思わなかった.しかし,アメリカは債務国である.外国投資家を信用させなければならない.もしそれに失敗すれば,インフレが起きる可能性が高い.だから,金の価格は1オンス920ドルに急騰している.」

たとえ政府が救済に入っても,それは好ましい話にならないだろう,と.

David Ignatius Wall Street Bank Run WP Thursday, February 21, 2008

Eloi Laurent Why the European Central Bank must cut rates FT February 21 2008

Marc Chandler This is the rainy day Japan’s reserves are for FT February 21 2008

Euro-US coupled FT February 21 2008

(コメント) アメリカの金融市場も,ヨーロッパの金融政策決定も,市場の動揺を受けて信頼を失いつつあるようです.日本についても,景気の先行きが不透明で,悪化の危険があるのに,このまま外貨準備を積み増し続ける政策で良いのか? という声は当然です.

アメリカとヨーロッパは切り離せない,とFTは考えます.「アメリカとヨーロッパは,論争好きで,長い付き合いの,恋人同士である.どちらかの経済が勝手に動いても,もつれ合った生活がそれを一緒に引き戻す.・・・」

Foreign Policy, 21 February 2008

The Recession Felt Around the World

Nouriel Roubini

(コメント) これはForeign Policy からYaleGlobalに転載されたものです.アメリカの不況が世界に及ぼす影響を分類します.

損失を被る者:メキシコ,カナダ,中国,東南アジア,ラテンアメリカ,東欧,そして,イギリス,フランス,ドイツ.もちろん,日本.日本経済は特に貧血症だ.成長と不況,インフレとデフレの境界線をさまよい続けている.だからこそ,アメリカの不況が及ぼす影響は甚大である,と.

利益を受ける者:アメリカ自身が,ドル安によって輸出を伸ばす(輸入を減らす).ヨーロッパ,日本,中国の輸入部門.ヨーロッパの商店.


FT February 19 2008

Losing the countryside: a restive peasantry calls on Beijing for land rights

By Jamil Anderlini

FT February 19 2008

Raise the renminbi

(コメント) 私は拙著(『グローバリゼーションを生きる』)に収めた旅行記で,中国の未来を占いました.「成長を制約するものは,農民と国際秩序である.」

Jamil Anderliniは,農民反乱の実例を詳しく紹介しています.また,人民元切り上げは積年の国際論争・摩擦の焦点です.


NYT February 20, 2008

Making Economics Relevant Again

(コメント) 経済学は新しいアイデアに乏しく,現実を変える力もなく,衰退している.ウォール街の金融機関は経済学を専攻した学生の採用を大幅に減らしている,と10年前にアメリカでは議論されたようです.

しかし,現実を大きく変える争点を見つけ,経済学を適用する成果は現代にもある,と紹介しているのは,開発論の革新,です.Mr. Banerjee and Ms. Dufloを知ってますか? Marianne Bertrand, Michael Kremer and Edward Miguelは? ・・・全然,知りませんでした.


WP Wednesday, February 20, 2008

Dying Silently In Zimbabwe

By Michael Gerson

国家のなしうる最も無責任で残酷な行為は,その通貨を破壊することである.

ドイツのワイマール共和国でハイパー・インフレーションが起きたとき,マルクの流通額は1918年の290億マルクから,1923年には4971018乗マルクに達した.労働者は一日に2回支払われた.そして無価値になる前に,手押し車で貨幣を運んで支払うため,休憩時間が与えられた.多くのドイツ人は生涯貯蓄を失い,自分たちの窮乏化を誰かのせいにしたかった.ナチスはユダヤ人のせいにした.

これほどのハイパー・インフレーションは歴史上も稀であるが,ジンバブエで再現しつつある.政府はインフレ率を66212%であると主張するが,IMFは15万%に近いと確信している.それはワイマール・ドイツにほぼ等しい.ある推計では,ジンバブエ政府の歳入の半分ほどが貨幣を印刷して得られている.1980年に独立したとき,ジンバブエ・ドルは1USドルより価値があった.最近では,政府系新聞の売価が300万ジンバブエ・ドルと記され,2ポンドのチキンが1500ジンバブエ・ドルと報告されている.

「もし48時間以内に支払いを受けないなら,集金する意味はない.その価値がなくなってしまうからだ.どこであれ貨幣を得たら,直ちに使ってしまうことだ.年金は何年も前になくなった.われわれの誰一人,貯金などない.」 アメリカ大使館の職員がレストランに行くと,貨幣を入れたボックスを持って行き,食事を始めると貨幣を数え始める.そうしないと,食事が終わっても数え終わらない.

ロバート・ムガベの政府は独裁者の用いる通常の経済政策を採った.価格統制だ.当然,商店の棚から商品は消えてしまい,ほとんどの必需品が不足するようになった.友人の妻は,小麦粉と砂糖を買うためにボツワナへ行く.

ムガベは軍隊の指導者や政治家の仲間にはハード・カレンシーで支払う.それは金とプラチナの鉱山から得られる.彼はまた,農地を中国人やリビアの投機家に売却する.ジンバブエ・ナショナリズムを口実に,白人の農場主を追い出して得たものだ.ムガベは賢慮億を維持するために,その国を文字通りブロックで売り払うのだ.

だが,どうして窮乏化する人々がジンバブエ革命を起こさないのか? 「誰も通りに出ない.」と友人は述べる.「人々は黙ったまま死につつある.」

その安定性には理由がある.300万人以上の不満を持つ人々は国を出た.それは才能ある,教育を受けた人たちだった.ムガベへの内部の反対は少なくなった.残った人々は国際援助や外国の家族からの仕送りで生きている.政治的な反対派は,たとえ政府によって投獄されたり,拷問されたりしていない者でも,弱体で,分裂している.ムガベは反植民地運動の英雄であるから,地方の支持がある.建国の父が,腐敗した,野蛮な,無能政治家であると,多くの人は思いたくない.

しかし,反抗の兆候はある.ムガベは選挙を警察によって監視し,メディアを規制し,統制や買収で票を支配している.反対派はわずかに票を得ているが,もし選挙に参加しないなら,街頭で闘うしかない.支配政党は初めて動揺し,貨幣の印刷や価格統制に反対する元財務長官が,329日の選挙で,独立候補となる.アメリカは彼を正直で有能な官僚とみている.その勇気を疑う余地はないが,草の根の支持はない.

だからムガベは武力で王座にとどまり,その国でワイマール共和国と全体主義国家を同時に実現する.


Asia Times Online, Feb 21, 2008

Slouching towards Petroeurostan

By Pepe Escobar

(コメント) ドルの支配も,石油輸出国(イランなど)とアジア(中国など)がユーロで支払うようになれば,急速に衰えるかもしれません.


NYT February 21, 2008

Broken Borders and Dover Sole: My Lunch With Lou Dobbs

By LAWRENCE DOWNES

(コメント) LAWRENCE DOWNESは指摘します.・・・もしグローバリゼーションのもたらす様々な悪を問題にするなら,なぜ非常に瑣末で,弱い相手である「移民問題」を重視するのか? もし「非合法移民」が「非合法」であるから問題というなら,彼らを合法化して課税し,問題解決の財源にすればよい.移民を攻撃することで,現実にどんな問題を解決できるのか?

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The Economist February 9th 2008

Half-way there

After Super Tuesday: A fighter in search of an opponent

Snowbound China: Megaphone apology

China’s weather: Frozen assets

China and Myanmar: Our friends in the north

The economy: The geography of recession

Brazil: Happy families

Islam in the Netherlands: Wild thing

Technology in emerging economies: Of internet café and power cuts

(コメント) 若い頃の豪遊や乱交,ストリッパーたちの話を好み,イランの爆撃ソングを鼻歌にするマッケイン上院議員が共和党の大統領候補に決まったようです.雪害によって列車が来ず,帰郷できぬまま駅に泊まり込む出稼ぎ労働者たちに,メガホンを取って謝罪する温家宝首相.その姿を,1989年の天安門事件に戻って,その発端となった趙紫陽総書記のメガホンを持った写真に見つけたのは秀逸です.その中国がミャンマーを貫くパイプラインの建設に投資するのも興味ある記事でした.

アメリカは? と言えば,住宅市場の機能麻痺で従来の高い労働移動性が損なわれるかもしれない,という指摘に感心します.さらに,ブラジルの貧困解消と教育支援を組み合わせた革命的開発政策,世界の貧困地域で急速に普及する技術革新,そして,オランダの移民排斥政党についても,読んでみてはどうでしょうか?