IPEの果樹園2008

今週のReview

2/11-2/16

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

ソシエテ・ジェネラル, 創造的資本主義,  アメリカと金融部門の国際管理,  SWF, 中国の減速, オランダの「寛容」崩壊, EUとコソボ, アメリカ大統領選挙, 毒入り餃子

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT February 1 2008

Sarkozy and Kerviel chase a French-American dream

By Paul Betts

(コメント) フランスで最も尊敬される銀行,Société Généraleソシエテ・ジェネラルのスキャンダルは,その典型的なエリートDaniel Bouton会長だけでなく,フランス資本主義そのものに対する権威の崩壊をもたらしたようです.バブル崩壊後の大蔵省解体論・日銀批判(そしてホリエモンや村上ファンド)と同じような騒動が,今後,フランスでも続くのでしょうか?

なぜなら,と論説は指摘します,これはフランス人が口を極めて非難し続けてきたアメリカ型の野蛮な資本主義,ウォール街の強欲に身を委ねる行為だからです.アメリカが大好きな新大統領Nicolas Sarkozyの奇行も,ある種のヒーローとなった犯罪者Jérôme Kervielとともに,こうしたフランスの変心(そして落胆)と重なります.

フランス人もソシエテ・ジェネラルも,矛盾したまま,そのアメリカン・スタイルを熱望する点では変わりなく,アメリカ大統領を大歓迎し,マクドナルドのハンバーガーを食べて,アメリカ式のデリバティブを攻撃的に駆使し,東欧市場を席捲して最大の利益を上げてきたのです.

犯罪者Jérôme Kervielが,同時に国民的な英雄の性格を示すのは,彼がウォール街の犯罪者と違って,高額のボーナスより,むしろソシエテ・ジェネラルやフランスの名誉を重んじていたからだ,と指摘します.

この点でも,大蔵省や日銀,日本企業の無名のエリートたちを追憶させます.


The Guardian Saturday February 2, 2008

The voices of a silent billion

Guy Sorman

NYT February 4, 2008

Empty Olympic Promises

(コメント) 「Pierre de Coubertinが再現して以来,オリンピックはいつも政治的に利用されてきた.1896年の第一回,アテネ・オリンピックは,ギリシャ北部を占領していたトルコを邪魔するために行われた.1936年のベルリン・オリンピックはナチスのイデオロギーが勝利したことを祝うために行われた.1988年のソウル・オリンピックは韓国の民主化に門戸を開いた.」

もしそうであれば,2008年の北京オリンピックとは何か? ベルリンなのか,ソウルなのか? 権威主義体制の神格化か,あるいは,その崩壊の始まりか?

すでにオリンピックに備えて多くの反体制派や民主化運動の活動家,非暴力・不服従によって示される批判をも,厳しく弾圧していると言われます.しかし,中国の治安当局はソ連のサハロフやソルジェニーツィンの先例を恐れているようです.共産党の栄光を損なうもの,その権威に従わないものを許しません.

中国政府が望むのは,西側の民主主義とは異なる,中央からの「組織された民主主義」です.6000万党員は支持するでしょう.成長の利益を受けた2億人も支持するでしょう.しかし,極度な貧困と無権利状態に置かれた10億人はどうか?


WP Saturday, February 2, 2008

Political Stimulus

NYT February 3, 2008

My Birthday Wish: Not Burdening Our Children

By N. GREGORY MANKIW

WP Wednesday, February 6, 2008

Why It's Not The Economy

By Robert J. Samuelson

(コメント) あれは不況を回避するために経済刺激策なのか? それとも民主党大統領候補者のために政治的な刺激策であったのか?

N. GREGORY MANKIWは,サブプライム・ローン問題を連銀は解決するだろうし,2008年は不況にならない,と考えています.それはせいぜい小さな短い不況です.だからMANKIWが子どもたちのために心配するのは,2008年の不況ではなく,政府の財政悪化です.年金や健康保険制度は,人口の高齢化と医療費の高騰によって,どの国でも破たんしつつあるのです.

共和党候補は減税を主張し,社会保障制度についても,減税による成長の加速や民営化を支持します.他方,民主党候補は社会保障制度を全国民に拡大すると主張し,そのコストは富裕層に課税する,と訴えています.しかし,増税規模は彼らの主張に反映されていない,とMANKIWは批判します.

Robert J. Samuelsonは,大統領の良し悪しは景気循環で決めてはならない,と考えます.大統領には景気を調整する力などないからです.確かに,F.D.ルーズベルトは大恐慌と25%の失業率に立ち向かったことで有名です.金本位制を離脱し,預金保険機構を設け,農産物や工業製品の価格を引き上げようとしました.破産した住宅所収者を救済し,株式市場を規制し,膨大な公共事業を開始したのです.

しかし,とSamuelsonは続けます.金本位制離脱を除けば,ニュー・ディールの多くの介入手段は経済の回復を妨げただろう,と.どのような意味でも,ニュー・ディールが不況を終わらせたのではなく,第二次世界大戦が始まるまで,失業率は1939年でも19%もあった,と.

ところが,景気が良ければ大統領が称賛され,不況になれば政敵たちは彼を非難します.れーガノミクスやクリントノミクスというのは支持者たちが作り出した神話にすぎず,共和党も民主党も好景気の人気を政治的に利用しました.ところが,レーガンがした重要な決定は,P.ボルカーを連銀議長として支持し,その金融引き締め政策を実行させたことでした.それによってインフレ率は13%から4%に低下し,1980年代,90年代の好景気をもたらしたのです.また,クリントンが行ったのは財政再建と金利低下の魔法ではなく,ニクソンやカーターのような金融政策への介入を避け,「保守的な」予算を守ったことである,と指摘します.

大統領の行った改革や予算は,その効果が彼らの任期を終わってから効果を示すのであり,また,短期的には良くても,長期的な効果はマイナスになることもありました.だから,大統領を景気循環の調整で判断してはいけないのです.


BG February 3, 2008

A capital gain for the world

市場で富を得たビル・ゲイツが,資本主義を大改造したい,と語る.マイクロソフトの創設者は,世界を変える新しい経済学を求めている.

最近,ダヴォスの世界経済フォーラムで述べたように,ゲイツは世界を改善する科学や技術を称賛するが,同時に,それを人々が買えなければならない,と警告している.

「貨幣が重要であるから,それを持たない人々は市場に無視されている.」

ゲイツの打開案は「創造的な資本主義 “creative capitalism”」である.それは利己心だけでなく,他者への配慮(思いやり)によって動く.すなわち,どうすれば最も貧しい市場でも資本主義が機能するか,を問うことだ.

企業は豊かな人々に奢侈財を売る方法を知っている.創造的資本家になるには,非常に貧しい市場においても利益をもたらす方法を考えなければならない.その利益とは,ときには貨幣であるが,ときには顧客や被雇用者を惹きつける力である.

何を売るのか? 300ドルのiPod45000ドルのBMVではないだろう.企業はもっと住民たちの声を聞かなければならない.そうやって,低価格のワクチンを開発し,無線の電話やコンピューターで世界中を結ぶ企業が現れた.持ち運べる光源や太陽電池,水の浄化がもたらされる.

また,創造的な資本主義は双方向であり,貧しい世界から豊かな世界へビジネスを拡大する支援が行われる.

ゲイツは,「企業が,その最高の発明・開発力の1%を,世界経済から取り残された人々を助ける問題について使うことを考えてほしい」と付言する.それは寄付するようリも有益であろう,と.

世界の貧困を新しいフロンティアにするという見通しは,先端的な思想家(理論家,科学者)たちが世界的な規模の革新を進める分野を開放する.ゲイツはその呼びかけを続け,ビジネス界や政府やNGOsの協力を求める.

市場を開放するだけでは貧困はなくならない.創造的な資本主義が人々を動かす,と.


FT February 3 2008

Three ways to reform bank bonuses

By Daniel Heller

FT February 4 2008

What banks can learn from this credit crisis

By Francisco González

(コメント) Daniel Hellerは,ソシエテ・ジェネラルのスキャンダルや金融市場の混乱の原因として,金融部門のボーナス・システムを批判します.それは賃金水準を安定させ,同時に成果を競う誘因となるはずでした.しかし,実際は,リスクや不確実さが非対称的な行動を取らせ,銀行や金融システムを破壊する結果になったのです.

Francisco Gonzálezは,さまざまな金融革新がもたらした危険を正しく反映させるための諸改革を提案します.すでに繰り返し主張されていますが,金融革新を破棄するのではなく,それが銀行のバランスシートを悪化させないように,切り離す措置が必要です.流動性を管理し,リスクを正しく評価し,慎重な融資態度を守り,透明性を高め(そのためにも基準を国際的な調和させ),道義的にも,社会的にも,認められるような原則を確立するべきです.

FT February 5 2008

Why it is so hard to keep the financial sector caged

By Martin Wolf

FT February 7 2008

Why a crisis is also an opportunity

By Martin Wolf

(コメント) Martin Wolfの論説は,いつもほど,明確な主張が見えません.金融部門が肥大化し,社会の利益から多くを取ってしまうことは間違っていると思います.しかし,さまざまな改革案が正しく是正できる,とも考えていません.

少なくとも,罪のない者が多数巻き込まれて苦しむような危機を再発する金融部門が,公的な規制や保護を得ながら,莫大な利益を占めている状態は,政治的に受け入れ難いだろう,というのは同感です.金融部門こそ「グローバリゼーションのアキレス腱だ」.

もう一つの論説は,イギリス経済に関して,それが世界的な景気悪化の影響を避けられないし,それに対してマクロ政策で永久に是正できるものでもない,と考えています.そうであれば,イギリスは貯蓄を増やし,経常赤字の削減や公的部門の効率性改善を目指すべきなのです.それが難しいのは分かっているが,それしかない.

The Guardian Thursday February 7, 2008

Learning from experience

Kenneth Rogoff

アジアとラテンアメリカが1990年代から2000年代に金融崩壊を経験したとき,彼らはIMF だけでなく,多様な背景と経験を持つ著名な人々の多くの小さな集まりから助言を得た.アメリカも同じようにするべきだ.IMFのトップであるストラス=カーンは危機を経験した広い範囲の諸国から,容易に優れた諮問委員を集めることができるだろう.メキシコ,ブラジル,韓国,トルコ,日本,スウェーデン,もちろん,アルゼンチン,ロシア,チリは言うまでもないが,他にも多くの候補がある.

実のところ,IMFのパネルがアメリカの過去の偽善を注意するべきだった.アメリカ財務省はアジアに,1990年代の危機に際して,財政引き締め政策を強く求めた.しかし今,アメリカ議会や大統領は間違った巨額の財政刺激策という助言を採用しようとしている.その主要な効果は次の大統領が税制改革や財政再建をやりにくくするだけだ.

アメリカ人は日本に対して,経済を一掃する唯一の方法は支払い不能の銀行を追放し,シュムペーター的な「創造的破壊」によって金融システムを再生することだ,と固く命じていた.今や,アメリカ当局がどのような手段も歓迎し,どれほどインフレを促すとしても,主要銀行や投資会社が破たんするのを避けようとしているようだ.

何年間も,外国政府はアメリカにそのヘッジ・ファンドを問題にし,不透明な活動が安定性への受け入れ難いリスクである,と述べてきた.今や,多くのアメリカの政治家たちは政府系投資ファンドの透明性を問題にし(それは主にアジアや中東からの巨大な政府投資である),それがアメリカの最高級資産であるシティバンクやメリルリンチの株式に及ぶことが不満らしい.

事実として,ロシアや中国のような国がアメリカの経済が良好であることを利益と見なすなら,それは悪いことではないだろう.まさに,IMFはSWFsに自主的な行動原則を示すように促しているが,それは金融的な保護主義を強めるために利用されはならない.

何年間も,私や多くの者が,世界的な金融ガバナンスの中で,新興市場はより大きな代表権を持つべきだ,と主張してきた.今や,それは言葉だけではなくなった.アメリカ経済には問題があり,それは国境を超えて波及するだろう.新興市場その他の専門家たちは,金融危機の処理について言いたいことが多くある.アメリカは,手遅れになる前に,それを聞くべきだ.


LAT February 3, 2008

Downsizing our dominance

By Fred Kaplan

The Japan Times: Monday, Feb. 4, 2008

Geopolitical risks on the rise

By BRAHMA CHELLANEY

WP Wednesday, February 6, 2008

New Europe, Old Russia

By Robert Kagan

(コメント) Fred Kaplanは,アメリカの覇権が終わったことを明確に認めるべきだ,と主張しています.冷戦終結で「唯一の超大国」になり,「歴史の終わり」が議論されましたが,それらは間違いでした.軍事力であれ,ドルであれ,アメリカの衰退は明らかです.共通の敵であったソ連が消滅し,アメリカは単独で国際的な方針を決定する力を失い,同盟諸国への絶対的な優越や強制力を失いました.アメリカは同盟にとって重要な役割を今後も果たしますが,今までと全く違う難しい作業が必要です.

BRAHMA CHELLANEYは,ホッブス的な世界における,アジアへの急速なパワー・シフトを描きます.それは戦争に拠らず,もっぱら経済力の移転によって,しかも二極の争いというより,グローバリゼーションにおける4層(西側,アジア成長国,中所得国,サブサハラ・アフリカ)の権力闘争として展開される,と考えます.

優れた政治は,優れた経済と同様に,安定した国際秩序の維持(平和的な調整)にとって重要です.三つのC(consistencycredibilityconsensus)を重視せよ,と.

Robert Kaganは,EUとロシアは外交政策の姿勢として,その生きている時代が違う,と指摘します.つまり,21世紀と19世紀の対決です.あるいは,EUが戦っているのは1930年代の危機であり,その解決策はナショナリズムの克服です.しかしロシアが戦っているのは1990年代の混乱であり,その解決策は国家秩序の再建です.

コソボ,ウクライナ,グルジア,エストニア,リトアニア,ラトビア,モルドバ,・・・ふたつの外交政策は根本から一致していません.EUはソフト・パワーで戦い,ロシアはハード・パワーを求めます.ロシアが弱体で,経済的に衰退するときは問題が起きませんでした.しかしEU拡大が停滞する一方,資源によって経済力を回復したロシアが,自ら手放した帝国を再建し始めたとき,両者は対立を生じます.

新しい地政学の時代に入った,とスウェーデンの外交官は認めます.


 NYT February 3, 2008

How Democracy Produced a Monster

By IAN KERSHAW

NYT February 4, 2008

The Cold War as Ancient History

By ROGER COHEN

(コメント) ヒトラーが選挙によって権力を握ったのは,75年前の先週であった,IAN KERSHAWは書いています.再び同じことは起こるだろうか? それが彼らの深刻な問題です.非常にリベラルな憲法を持った,民主主義のドイツで,それは起きました.民主主義は第一次大戦の敗北の結果としてできましたが,ドイツ国内の主要勢力はそれを受け入れませんでした.エリートも,軍隊も,大地主も,大企業も.

ユダヤ人への憎悪が煽られ,ボルシェビキの革命が恐れられていたそうです.資本主義もアメリカから崩壊していました.社会的,政治的,文化的な分断が強まり,民主主義は死んでしまった,とKERSHAW は書きます.1933年,130日,ヒトラーは首相に任命されたのです.

ヨーロッパは今もヒトラーの亡霊を戦っています.そして,プーチンや,チャベス,ムガベ,ムシャラフ,アフマディネジャド,を嫌います.民主主義を濫用して独裁的な権力を求める「狂犬」を世界の政治から取り除くために,民主的な諸国は協力しなければならない,と主張します.

ドイツで聞いても,若者たちは冷戦やベルリンの壁崩壊のことを知らない,とROGER COHENは書いています.それは歴史の時間に習うはずだったが,自分は風邪で行かなかった,と若者は答えます.1989119日に起きたことを,詳しく述べています.自由に旅行できる,というある政治局員の発言が,一気にインターネットなどで広まり,人々は境界を超え始めたのです.


NYT February 3, 2008

A Clearer Picture on Voter ID

By JIMMY CARTER and JAMES A. BAKER III

NYT February 6, 2008

You’re 16, You’re Beautiful and You’re a Voter

By ANYA KAMENETZ

(コメント) 民主主義とは何でしょうか? 普通選挙とは何でしょうか? その条件は? 選挙権とは何であり,誰が,何を知っており,何を選択するのでしょうか? 選挙違反は,偽札やインサイダー取引と同じように,21世紀を左右します.

ロシアを,中国を,キューバを,北朝鮮を,・・・あるいは,アメリカを民主化するには,どうすれば良いか? 日本の政治が民主主義によって変わっている,と信じることができますか?


WP Sunday, February 3, 2008

Investors We Need Not Fear

By George F. Will

FT February 3 2008

China learns the lessons of Unocal

FT February 7 2008

Sovereign stealth

CSM February 08, 2008

Sovereign wealth funds: China's potent economic weapon

By Peter Navarro

(コメント) アメリカの金融市場が混乱すれば,経常赤字国として,外国からの投資を拒むより,歓迎するのが当然です.しかし政府系投資ファンドについては,欧米や日本の金融資産市場が議論し続けています.資本市場に関する国際ルールの見直しが求められます.

経常赤字やドル安は海外投資を必要とするけれど,一旦,金融不安が解消し,民主党の大統領が誕生すれば,金融市場でも保護主義が強まる,という予想もあります.


FT February 4 2008

China may yet be economy to lose sleep over

By Kenneth Rogoff

(コメント) もし中国の成長も減速したら,世界はどうなるか? 誰も考えたくないようですが,成長率が6%程度に減速する確率は半々である,とKenneth Rogoffは指摘します.インフレ抑制,市場改革の遅れ,輸出の減少.

アジア通貨危機でも,2001年にも,中国の成長は続いて世界経済の拡大に貢献しました.しかし,新興市場が永久に危機を免れることはない,というのが歴史の示す真実です.他のケースと同じように,経済・金融・社会・政治の地雷がますます増えているだろう,とRogoffは考えます.

アメリカよりも,中国の成長が減速するリスクに注目せよ,と説く理由は,例えば,労働者の不足です.これまで中国の高度成長にもかかわらずインフレを抑えてきた地方からの優れた労働者の移動は,次第に枯渇している,と言います.また,欧米における景気悪化や所得分配の不平等について,政治的反発と保護主義が強まっています.そして,中国自身が国内の不平等拡大によって社会・政治不安を高めています.

いずれも周知の問題であり,その解決策も,政府による物価統制や市場改革の後退ではなく,為替レートの変動を弾力化して金融市場を介して金利が経済活動を調整できるように改革を前進させるべきだ,という周知の主張です.しかし,それを過去の新興市場の危機と結びつけ,現在の国際金融不安に対して中国の成長を安易に前提する議論に対する批判としている点で,優れた論説だと思います.

Feb. 5 (Bloomberg)

China Sovereign Wealth Can Profit From Storms

Andy Mukherjee

FT February 5 2008

Carmakers in China

The Japan Times: Wednesday, Feb. 6, 2008

When snow falls on China and Japan

By TOM PLATE

Asia Times Online, Feb 8, 2008

No cooling China's economic engine

By Zhou Jiangong

(コメント) たとえば,中国の成長減速は,日本の自動車会社にも即座に影響するようです.過剰投資を恐れていた自動車会社が,22%で拡大した市場に驚き,コストの上昇を心配し,今度はその減速を恐れます.

上海の春節に帰郷する出稼ぎ労働者たちが,激しい雪で足止めを食い,政府が復旧を指揮する大事件となりました.まるでハリケーン・カトリーナが襲ったアメリカのニューオーリンズみたいだ,とTOM PLATEは書いています.東京にも雪が降り,二つの都市や政治経済に共通する懸念が指摘されます.

あるいはZhou Jiangongのように,輸出減少の影響をSARS騒動と比べるべきでしょうか?


LAT February 4, 2008

The politics of resentment

By Ian Buruma

「寛容」という言葉がオランダのような土地で乱用されるとき,何か深刻な事態が起きているのである.オランダ人はいつでも地球上で最も寛容な人々であることを自慢していた.これほど熱狂した時期でなければ,ベアトリクス女王がクリスマスに寛容さをもって,「マイノリティーを尊重しなさい」,と述べても異例なことではなかったはずだ.しかし,右派の,反イスラム教徒自由党の指導者ウィルダースGeert Wildersは女王の「多文化主義的雑言」に辟易し,彼女を憲法の定める政府内の役割から外すよう求めた.

ウィルダースは,オランダ議会に9議席を占める政党の,人気の高い煽動家であるが,コーランをヒトラーの『わが闘争』にたとえ,イスラム教徒がオランダに入るのを阻止したいと願い,すでにここにいるイスラム教徒たちは留まりたいならコーランを真二つに切り避け,と叫んでいる.彼にとっては,イスラム教徒への寛容さは臆病な宥和でしかない.彼は,ヨーロッパが「イスラム化」の危機にある,と考える.「もうすぐモスクは教会よりも多くなる」と彼は言う.ヨーロッパ人が立ち上がって,西側の文明を守る勇気を示すべきだ,と.

コーランを禁止せよという彼の訴えにもかかわらず,ウィルダースたちは西側の生得権である言論の自由を無制約に確信している.イスラムに対する批判は,いかに攻撃的であっても,政治的な正しさによって邪魔されることはない.ウィルダースはあらゆる機会にイスラム教の寛容さを試すが,それはしばしば非常に制限されている.イスラム教を否定する短い映画を作ったが,まだ公開される前からパニックを引き起こした.オランダ政治家の,しかも少数派であるが,ウィルダースのニュースは世界中のメディアに発信されている.

ウィルダースは,オランダの地方の村で,カソリックに生まれて育った.彼はその敵であるイスラム教徒と同じくらい熱心なキリスト教徒である,と評論家は言う.ヨーロッパをユダヤ・キリスト圏として維持するという目標に向けて突き進む.彼は信仰も篤いが,それはおそらく余計な問題だ.彼のイスラム教に対する戦争は,もっぱら,文化的・政治的なエリートたち,すなわちオランダのインテリ上流階級,ブラッセルのユーロ官僚,またリベラルな発想の女王に対する戦争である.

彼の演説には,庶民の感覚から離れた傲慢なエリートたちへの言及が散りばめられている.寛容さとは,街頭の厳しい現実を知らない人々に典型的な,弱さである.しかし現実には,正直なオランダ人たちが暴力的で手に負えない外国人たちに脅かされている.

エリート主義という考え方はオランダに限らない.イスラエルには「美しい心」という,冷笑される表現がある.パレスチナ人に対してイスラエルの行き過ぎを批判する教育あるユダヤ人活動家たちや,暴力よりも交渉を重視し,たとえアラブ人たちにも権利を認めるようなイスラエルの和平支持者たちを指している.

現実の世界により近い普通の人々は,現実をよく知っているはずである.非妥協的な強さ,強硬姿勢が,唯一,結果をもたらすのだ.アメリカでは「リベラル」という言葉が,ポピュリストのラジオや右派の政治家にとって,東西の海岸地帯に住む軟弱な都市の俗物たちを意味している.この観点では,リベラル派は単にソフトなだけでなく,とんでもなくアメリカ的でない何かを意味している.

エリートたちと外国のもの,寛容さ,大都市とを結び付けるのは昔からである.エリートはしばしば外国語を話し,大都市は伝統的に人口が混じっている.現代のポピュリズム,すなわちワシントンに対抗すると称してアメリカの政治家が展開する運動や,「フランスの内奥」を求めて語るフランスのポピュリズムは,常に,首都に敵対している.EUの首都であるブラッセルは,左派であれ,右派であれ,ポピュリストたちに憎まれている.そして大都市には多くの移民が住み,右派のポピュリストたちがその支持をもっぱら得ている小さな町には移民がいない.

さらに,怨嗟の政治は本物の恐怖を煽るときに最もうまく行く.人々は経済のグローバリゼーションを心配し,ヨーロッパ全域の官僚制を心配し,膨大な移入民とその崩壊した管理体制,政治的に過激なイスラム教徒の攻撃を心配する.こうした心配はしばしば無視されてきた.多くのヨーロッパ人には,オランダだけでなく,急速に変化する世界で彼らが見捨てられた,多国籍企業は国民国家よりも強力だ,都市の富裕層や教育ある人々はうまくやっており,地方の一般民衆は衰退していく,民主的な選挙で政治家を決めても,彼らは無力であり,人々を脅かすこうした巨大な力には哀れなほど弱い,と感じている.寛容さとは,単に弱さであるだけでなく,裏切りなのだ.

イスラム教徒の脅威は幻想ではない.イスラム教の信仰によって実際に暴力を振るわれるのは,今後も続くだろうが,極端なイデオロギーを持つ少数の者に限られるだろう.しかし人々の怨嗟は深く,広く,存在している.ウィルダースのような者たちは,単に過激派を攻撃しているのではない.彼が成功したのは,こうした裏切られたという感覚に依拠したからであり,しばしば起こるように,エリートたちへの激しい嫌悪がアウトサイダーたちに向けられるからだ.

われわれはもちろん,イスラム過激派と戦わねばならない.しかし,それが思慮のない群衆の暗黒の感情に火をつけることであってはならない.そこからは何一つ良い結果を生じないから.


NYT February 4, 2008

Clinton, Obama, Insurance

By PAUL KRUGMAN

(コメント) クリントンの社会保障制度は強制的であり,国民全体に及ぶだろう.オバマの案は,それに失敗する.


NYT February 5, 2008

Europe’s Central Banker Engineers His Economics

By MARK LANDLER

Feb. 7 (Bloomberg)

Bending It Like Bernanke Shows Error of Fed Ways

Mark Gilbert

(コメント) ECBとアメリカ連銀の金融政策,そしてその比較,国際協調に関する意見です.そして,イギリスや日本はどうでしょうか?


The Guardian Tuesday February 5, 2008

The war that can bring neither peace nor freedom

Seumas Milne

FT February 7 2008

Nato must find a fix in Afghanistan

(コメント) アメリカの強硬姿勢で失敗したイラクに比べて,アフガニスタンはヨーロッパ諸国も協力し,成功した例だと言われてきました.しかし,そうでもない,という論説です.NATOはアフガニスタンの安定化に失敗し,組織としても機能していません.

朝鮮半島や台湾海峡において軍事衝突があれば,日本はどうするのでしょうか?


The Guardian Tuesday February 5, 2008

The EU's greatest dilemma

Ian Bancroft

BG February 6, 2008

A tilt in Serbia needs a shove

The Japan Times: Thursday, Feb. 7, 2008

Kremlin making mischief in the Balkans

By MORTON ABRAMOWITZ

(コメント) たとえば次のような叙述を読んで,コソボの独立問題を考えるときも,日本の安全保障政策を連想します.

「国際事情におけるEUの発言と効力は,主権をプールし,合意を形成し,ソフト・パワーを用いることで実現する.コソボに関しては,アメリカやロシアに対して,EUの独自の立場が交渉のテコとなっている.その基礎にはEU自身が発展する中で築いてきた統合された主権の在り方や自律性がある.交渉とパートナーシップの組み合わせにより紛争の力学を緩和し,変形するヨーロッパの能力こそが,それである.開発協力,対外支援,通商関係,社会政策,それらが西バルカン地域でも持続する平和と安定性の基礎を提供するのだ.」

他方,ロシアの外交はバルカン半島で,コーカサスのチェチェン紛争を再現したいのでしょうか? コソボの独立は,ロシアやセルビアの態度によってはEU内部の統一を乱します.


The Japan Times: Tuesday, Feb. 5, 2008

Dealing with the risks to global growth

By SIMON JOHNSON and JONATHAN OSTRY

Feb. 6 (Bloomberg)

U.S. Contagion Is a Fast-Growing Danger for Asia

William Pesek

(コメント) IMFの二人の専門家は,世界経済の成長減速に対して,新興市場の為替レートを弾力化するように求めています.1997-98年の通貨危機を経て,新興市場は為替レートを割安にしたまま,十分な外貨準備を保有することで繁栄と安定性を同時に得られる,と考えました.しかし,国際収支がその原理に従って,他国に,特にアメリカに巨額の赤字を発生させたのです.


The Guardian Wednesday February 6, 2008

It's no beauty pageant - there are real differences between the candidates

Jonathan Freedland

FT February 6 2008

Beware the coming Democratic sea-change

By David Frum

The Guardian Thursday February 7, 2008

A triple whammy of soft power sees the world in thrall to Super Tuesday

Timothy Garton Ash

(コメント) これは「政治の世界におけるフットボール・ワールド・カップである.」

世界の耳目を集めるアメリカ大統領選挙が示しているのは,「民主主義,メディア,アメリカ」の「ソフト・パワー」,すなわち世界を魅了する力である.「魅力的な競馬やソープ・オペラのように.」

ここで競われるのは,「政策,イデオロギー,ビジョン」だけではない.大統領候補者たちの個性であり,「自分とアメリカについてのストーリーを人々に買ってもらうこと」である.

「私たちはアメリカ人ではないから,もちろん,投票権はない.われわれがだれを支持しても結果に影響を与えない.ワールド・カップでブラジルの優勝を支持するみたいなものだ.われわれはここで,いわゆる,代表権がない.しかし,われわれの隣人の選挙はおろか,自分たちの選挙以上に関心がある.世界化したメディアが我々に詳しく報道するように,たとえ離れた選挙にもわれわれが投票できるとしたらどうか? 他国の大統領ではなく,国連や世界銀行,IMFの指導部を選挙するとしたらどうか? そこには驚くほどの違いがあるだろう.(アメリカという)ある国の政府に対する選挙に,情熱的な,世界中からの,強い関心が示されることと,どの国にも,どのような広い関心もなく,(国連,世銀,IMFのような)グローバル・ガバナンスが形成されることと.」

The Guardian Thursday February 7, 2008

The new plutocracies

Randeep Ramesh

(コメント) しかし,選挙にかかる費用を考えると,それが投票なのか,選挙資金を介したビジネスや金融界,富裕階層への接近,癒着なのか,・・・民主主義の本質が変化しているように思います.TVコマーシャルであれ,贈賄であれ,アメリカがそれを上手に隠しているとしたら,インドを見れば良い.

そこで,選挙資金を制限するか,公的に支援するか,その収支を詳しく公表するか,国によってさまざまな規制が行われます.

NYT February 7, 2008

Who Is More Electable?

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) オバマのカリスマ性は抜きんでている,ということです.

「私は3人の大統領のために働き,他の2人ないし3人を知っている」と,ケネディー大統領の下でキャリアを開始し,カーター大統領の下で財務長官を務めたMichael Blumenthalは述べた.「(だから言うのだが)オバマは私が出会った政治家の中で,ただ一人,ジャック・ケネディーに匹敵する人物だ.」

FT February 7 2008

A chance to redesign American politics

By Philip Stephens

(コメント) アメリカの政治状況が大きく転換しつつある,とPhilip Stephensは考えます.クリントン,オバマ,マッケインは,それぞれがアメリカ政治の分割線を書き換える者たちだからです.その再編力において,オバマには強さがある.


FT February 6 2008

Less toxic relations between Japan and China

By David Pilling

Asia Times Online, Feb 8, 2008

Toxic globalization

By Nin-Hai Tseng

(コメント) 毒物・食品衛生検査体制において,日本と中国,あるいは世界は,どのような解決策に向かって進むべきでしょうか?

そして,同時に,これほど経済的に結びつきを深めながら,これほど潜在的な反感(善意ではなく敵意)を蓄積している隣国を,互いに政治的に利用するとしたら,些細な経済・文化摩擦が外交的・軍事的な威嚇を招く,という恐ろしい可能性を秘めています.

中国政府は異例のスピードと協力的な姿勢を示して “gyoza diplomacy” を展開しています.日本の反中感情や,中国の反日感情を,相互に協力してチェックする監視・改善勧告体制も必要ではないか?

Nin-Hai Tsengは,マンハッタンのレストランで出たカツオの寿司から水銀が検出され,中国製のおもちゃから鉛が検出された,という事件に触れています.そして,食品やサービスの取引がグローバリゼーションを押し進める結果,すべての利用者に対する責任が明確になって,多くの発展途上諸国からも豊かな諸国に共通の基準を求めるようになる,と考えます.

殺虫剤入りの冷凍餃子が輸入されたことだけでなく,サブプライム・ローンを組み込んだヘッジ・ファンドの債券を世界に輸出したアメリカにも,同様の責任が求められる,と.


YaleGlobal, 6 February 2008

Has Globalization Deepened Inequality?

Dieter Braeuninger

(コメント) 1980年代初めから,世界の労働人口は4倍に増えた,と指摘して,豊かな国においても労働分配率の低下が起きている,と述べています.グローバリゼーションの利益は,もっぱら消費者にもたらされます.

そこで工業諸国の政府は,グローバリゼーションを逆転させるのではなく,新しい社会政策や社会保障制度,国際協力を工夫するべきである,と主張します.すなわち,労働力の再配置や移動を可能にする,労働市場の弾力性を高める改革を補完することです.よく言われるように,教育や技能訓練,所得の低下を部分的に補償すること,良質の住宅や学校の供給,などがあるでしょう.


The Guardian Thursday February 7, 2008

Russia's Maximato

Simon Maxwell Apter

The Japan Times: Thursday, Feb. 7, 2008

Russia disappoints the world

By DAVID HOWELL

(コメント) Simon Maxwell Apterは,プーチンによる大統領の後継指名について,1994年のメキシコと比較します.その頃メキシコでは,1929年以来政権を支配したPRIの大統領候補Luis Donaldo Colosioが暗殺されて,メキシコの権力構造が異常をきたします.大統領の後継指名は廃止され,「透明性」を重視した党の予備選挙によって候補を決めますが,PANの候補Vicente Foxに選挙で敗北します.

プーチンとその統一ロシア党United Russiaは,このメキシコ型権力構造の創設者Plutarco Elías CallesとPRIに似ているのです.プーチンが引退すれば,後継の強力な支配者を欠けば,権力構造も失われるでしょう.あるいは,プーチンが君臨するのです.


FT February 7 2008

Financial bridge from dirty to clean energy

By Henry Paulson, Alistair Darling and Fukushiro Nukaga

FT February 7 2008

Unite and prepare

(コメント) アメリカ,イギリス,日本の財務大臣が,環境保護のためにはクリーン・エネルギーへの転換を可能にする新技術が必要だ,と主張して,国際基金の設立を呼びかけました.・・・と思ったら,そうではなくて,既存のクリーン・エネルギーに関する技術を貧しい諸国でも市場化して普及させるために基金である,というのです.・・・何とも失望しました.

もちろん,それは発展途上諸国や新興市場が,今後も地球環境を破壊せずに成長して,貧困を解消するために必ず必要です.こうして,双方にとっての世界市場を拡大するのです.世界銀行か管理して,温暖化ガスの排出量を減らし,エネルギー効率を高めて節約するために投資します.

他方,国際金融不安のさなかに開催されたG7は重大な使命があったはずですが,その成果は見当たりません.為替レートの調整,アメリカ経済の不況懸念,国際金融規制・制度の改革,に関して,参加諸国は異なる関心と利害をぶつけ合っただけのようです.

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The Economist January 26th 2008

It’s rough out there

Global markets: A wild ride

The Federal Reserve: Going it alone

Decoupling 1: Emerging Asia: An Independent streak

Decoupling 2: Japan: Unable to fend for itself

Economics focus: Faulty powers

The world’s silver lining: Somewhere over the rainbow

Race and the Democrats: The cooks spoil Obama’s broth

Eastern Europe, America and Russia: Pipedreams

(コメント) 世界中の金融市場と,アメリカ連銀,ECBの金融政策が示す効果に関して,一連の記事が検討しています.

衆参ねじれ国会と,福田・小沢のガソリン=年金・ねじれ論戦で予算もモタモタする,金融不安や不況に対して何もしない政府・日銀を頂く,・・・日本はデカップリング論からデカップリングされたサブプライム国家だ,と言いたいのかもしれません.

バーナンキは孤立し,いよいよヘリコプター・ベンに変身して,財政赤字にドル暴落=インフレ棄捐令を発動する,・・・アメリカはアルゼンチンではない,それどころではない?

世界の貧困が解消する鍵は,人口の抑制と世界貿易の成長,そして何より技術革新に応じた教育であり,そのためには賢明かつ厳格な国家である.民主党はあまりにも人種による投票行動を刺激して,大統領への道を分解しつつある.ヨーロッパとロシアのエネルギー帝国主義を決定するパイプラインの地政学はますます盛んです.