IPEの果樹園2008

今週のReview

1/14-1/19

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

チャールズ・テイラー, アメリカの予備選挙, 核兵器と温暖化に応じた国際体制, 石油の供給, アメリカの景気対策, 中国IMFか?

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


SPIEGEL ONLINE - January 4, 2008

Liberian Dictator Taylor Faces Justice for Sierra Leone War

By Thomas Darnstädt and Jan Puhl

リベリアの独裁者,チャールズ・テイラーは,来週,ヘイグで裁判にかけられます.隣国,シエラレオネにおける内戦に加担した戦争犯罪と人道に反した罪です.

内戦は11年間続き,10万人以上が犠牲になったと言われます.非常に多くの女性や子供,父親たちが,生き延びたけれどもその手足を失いました.住民たちを恐れさせるために,武装集団がナタをふるって切り落としたからです.首都,フリータウンには,寄る辺ない,手足を失った人びとと,最近までナタを振り回していた少年兵が,あふれています.

この悲惨な戦争は,ファシズムからの解放ではなく,エスニックな対立があったからでもない.子どもたちがその両親を撃ち殺したり,強制労働やセックスの奴隷として死ぬまで働かされたりしたのは,たった一人の男のせいだ,と多くの人が思っている.すなわち,チャールズ・テイラーです.

テイラーは,1989年から,リベリアのギャングの指導者として,後には,リベリアの大統領になって,西アフリカの人々を死と恐怖で支配した.彼の大統領就任時期に,暴力の波は国境を超えて拡大し,隣国シエラレオネまで巻き込んだ.

シエラレオネでは,殺害を生業とするギャングたちがダイヤモンド鉱山を支配し,その資金が旧ソビエト・ブロックからの武器を流入させて,内戦をさらに拡大した.テイラーは蜘蛛の巣を張って,そこから莫大な富を奪い,ついには燃え盛る首都モンロビアから,ドル札を詰めたスーツケースを持って逃げ出した.

オランダ,ハーグにおける国際法廷でのテイラーの証言は,ビデオによってフリータウンに伝えられています.国民は彼の行ったこととその裁きを知る必要があるのです.「銃器の権力」ではなく,「法の支配」を実感しなければなりません.

テイラーの裁判は,世界中の独裁者が自分も法の支配を逃れられないということを知る機会なのです.しかもテイラーは,その前の独裁者を追放するためにリビアやアメリカが支援したカリスマ的指導者でした.彼はアメリカの価値など受け入れず,西アフリカのダイヤモンドを求めました.RUFのサンコーに武器を与え,彼らは村を襲うと住居に火を放ち,村人を並べて,少年兵を集め,手足を切断したということです.少年たちはしばしば麻薬を与えられました.

ついに国連の平和維持軍が介入し,地域の平和を回復します.テイラーを裁くことは難しいと思われました.国内の支持を失ったテイラーがナイジェリアに亡命し,さまざまな手段で告発を逃れようとしました.しかし国際法廷は,国家の元首も告発を免れないことを示しました.


Deval Patrick Why America needs Obama BG January 5, 2008

Martin Kettle Hillary is the candidate of retribution, not of hope The Guardian Saturday January 5, 2008

The Political Road Ahead NYT January 5, 2008

BOB HERBERT The Obama Phenomenon NYT January 5, 2008

GAIL COLLINS What Would Hillary Rodham Do? NYT January 5, 2008

Purple Promises WP Saturday, January 5, 2008

(コメント) 民主党の支持者が,民主党候補者の中でオバマだけが政治で何を変えたいか実感できた,と説明します.またMartin Kettleは,ブッシュだけでなく,クリントン夫妻にも,若い有権者は良い印象を持たない,と指摘しています.旧政治の,古い対立軸や,戦争や分断を煽った責任を旧世代の政治家に求め,もっと若い候補者に変化を求めるのです.

「彼女は多くの点で完璧な民主党大統領候補者である.頭脳も,知名度も,資金も,選挙運動マシーンも,彼女は持っている.」

それでもアイオワでは3位になりました.彼女は民主党の多数から強く支持されず,少数のグループには執拗に嫌われているのです.彼女はブッシュと同じくらい,国民を分断する人物とみなされました.彼女が大統領になれば,再び国民の間に「文化戦争」が起きるでしょう.

「ビル・クリントンはアイオワでの敗北が分かっていた.クリスマス前に,前大統領は私的に述べたことがある.彼の妻は,事実上,イラク戦争の最新の犠牲者だ,と.確かに戦争は,ヒラリーの能力や経験を際立たせて,彼女を最も安全な選択肢にした.しかし,イラクの地上戦が鎮静化し,政治的な争点として重要性を下げると,候補者の経験も重要でなくなった.ビル・クリントンが1992年に同じような変化を目撃した.選挙運動において希望を示す候補者が有利になったのだ.その候補者とは,ヒラリー・クリントンではない.バラク・オバマだ.」

NYTも,activism,と書きます.国民は大統領に,精神的な指導力を求めているのです.共和党候補の間で,ブッシュ大統領との関係についてはだれも言及しなかった,と指摘します.ただし,この傾向が持続するか,と疑問を述べています.ニューハンプシャーは人口が多く,もっと多様であるから.

ヒラリー・クリントン上院議員の集会は,動員された参加者によって占められ,政治運動の盛り上がりを示すのではなく,講義を聴くようであった.

BOB HERBERTは,「バラク・オバマ現象」について述べています.候補者と同じように,その支持者たちもクールだった,と.彼らは根本的な変化を確信し,オバマを大統領にすることに没頭していたのです.オバマのメッセージはもはや素人のたわごとと非難されません.「希望,蘇生,変革(hope, healing and change)」を,彼らは信じています.

「オバマが登場することで,そのたびに示したのは,この国に再び良いことを期待する気持ちを人々が持てることであった.」

ヒラリー・クリントンは公開討論において,この点でオバマに咬み付き,大きな失敗となりました.ヒラリーは過去の重荷を引きずり,オバマにはそれがないのです.そして,オバマの魅力的な性格と人物を描きます.それをアメリカの新しい個性にしたい,と有権者が望むような.彼はケネディーなのです.ロバートではなく,ジョンです.オバマは大きな成果をすでに挙げています.すなわち,彼は黒人や若者を政治に引き寄せているのです.

Iowa's upside LAT January 6, 2008

MAUREEN DOWD Voting for a Smile NYT January 6, 2008

Gary Younge An Obama victory would symbolise a great deal and change very little The Guardian Monday January 7, 2008

Gideon Rachman Barack Obama’s message to the world FT January 7 2008

DAVID BROOKS McCain and Obama NYT January 8, 2008

Robert Farmer Why I Still Back Hillary Clinton WP Tuesday, January 8, 2008

(コメント) Gary Youngeはオバマの勝利を分析します.中西部の中規模の州で,白人の票を広く集めた黒人候補というのは,歴史的な成果である」とNYTが書いたのは,バラク・オバマについてではなく,19884月にジェシー・ジャクソンがウィスコンシンで接戦を演じたからでした.ジャクソンはミシガンで,白人票の20%を含む,55%の支持を得ました.ウィスコンシンでは,白人有権者たちが彼らの赤ん坊を抱かせ,ジャクソンは子どもたちにキスしたのです.

オバマの勝利は歴史的ではあるけれど,前例がないものではない,とYoungeは考えます.そして,多くの保守派の論評が,オバマをジャクソンとは全く異なる,と主張していることを指摘します.黒人の政治問題や,黒人の選挙運動から,オバマは脱皮した,というわけです.アメリカの人種差別問題を解決する答えが,まるでここにあったかのように.オバマはジャクソンではない,と.

Youngeはマルクスの叙述を引いて,これが白人保守派の望む解釈である,と批判します.しかし,政治は連続しているのです.オバマが学校へ行けたのは,ジャクソンたちが公民権運動を戦ったからでした.ジャクソンは典型的な黒人政治家であり,信仰心から左派の政治活動に入り,黒人コミュニティーを基盤として支持を得ました.そして労働組合員,反原発活動家,フェミニスト,農民,ラティーノ,ゲイの活動家へと,支持層を広げたのです.

オバマが大人になったときには,すでに公民権運動はなく,その成果として黒人が有名な大学にも入っていました.オバマのような多くの黒人がコロンビアやハーヴァードに行って良い職につけたのも,彼らの活動があったからです.オバマな黒人コミュニティーに依拠しているわけではないけれど,彼らの成果なのです.

ジョン・エドワーズは,もっと多くの左派と進歩派の支持層を引き継いでいます.企業重役たちの強欲を批判し,イラクからの即時撤退を主張します.ラティーノたちの運動とも連携し,労働組合や環境保護運動から支持を得ようとします.他方,オバマは基本的に民主党の戦略と基盤を延長しただけです.それはラディカルではなく,それゆえ選挙に有効でした.

・・・オバマの勝利は大きな成果であったが,ほとんど変革しない,ということを象徴する.アイオワに集まった白人の群衆は,オバマの勝利演説を人種問題の文脈で聞いたはずだ.ジャクソンがキスした子供たちが,オバマに投票したのだから.

Gideon Rachmanは,アメリカ大統領選挙が,しばしばヨーロッパ(そして日本)から見れば,フリーク・ショーや聖書をかざす説教師,有権者の恋心をくすぐる美男子,といった,他の世界では見られない様相であることに驚きます.集会を経るにつれて,確かにオバマはロック・スターのように話し,演出しています.しかし,ハッカビーほど風変わりではありません.

黒人大統領として,かつて,コーリン・パウエルやコンドリーザ・ライスが議論されたこともあります.彼らがブッシュ政権に入っても,政策の方向や国際的な評価は変わりませんでした.オバマのメッセージを考えれば,少なくとも,選挙の焦点が軍事的な安全保障から離れて,国際協調や多角主義に向かうことを意味しています.

政党によるのではなく,個人として政治を観る者の間では,本当の対決が,マッケインとオバマの間で,起きているのかもしれません.

Experience counts BG January 9, 2008

Voices of experience LAT January 9, 2008

Ruth Marcus The Man Who Won't Go Away WP Wednesday, January 9, 2008

Michael Gerson Can Obama Build a Movement? WP Wednesday, January 9, 2008

Jonathan Freedland Clinton's amazing comeback could yet crown McCain The Guardian Thursday January 10, 2008

Robert D. Novak The Clintons' One-Two Punch WP Thursday, January 10, 2008

Philip Stephens A reflection that defines the choice for US voters FT January 10 2008

(コメント) アイオワからニューハンプシャーで,オバマからヒラリーへと,勝者に対するメディアの関心が変わりました.なぜオバマは勝ったのか? という説明を聞いて,また,なぜヒラリーは強いのか? という解説を聞くのは矛盾した感じですが,アメリカ政治の構造や動態を示しているのでしょう.

ヒラリー・クリントンは,アイオワで敗北したことで,これまでよりも人間として好まれるようになったのかもしれません.むしろ,マッケインの復活が注目されています.

オバマが有利であるのは,彼のパーソナリティーがアメリカ人の求める未来と重なるからでした.オバマは細かい政策の実施面よりもその目標を重視し,政策の優先順位,大統領として組織をどう変えるか,という問題に強い関心を示したそうです.しかし敗北によって,ロック・スターではいられないでしょう.


NYT January 5, 2008

In Chinese Factories, Lost Fingers and Low Pay

By DAVID BARBOZA

(コメント) 中国の苦汗工場,労働条件や労働者の権利に関する問題は,まったく解決に向かっていない,と報告されています.世界企業が中国からの部品供給や下請け制度を利用している以上,こうした問題への対応を中国政府に求める声は,今後も,内外から起きるでしょう.

政府や国際機関の監視・情報不足を,NGOsが補います.


FT January 4 2008

Trouble ahead

By Strobe Talbott

(コメント) 核兵器の拡散防止と廃絶に向けた国際協力体制と,地球温暖化防止の国際体制を,次のアメリカ大統領は真っ先に取り上げて世界に範を示し,指導しなければならない,とStrobe Talbottは主張しています.ブッシュの次の大統領は,彼が残した不安定な遺産とさまざまな危機に対処しなければなりません.その際,ブッシュからの転換を示して,この二つの目標を掲げたら,世界の支持を得られるでしょう.

アメリカはまず,国際法,国際条約,国際機関を重視しなければならない,とTalbottは考えます.中東地域の安定化は重要ですが,その問題を解決するには時間がかかるでしょう.そしてそのためにも,ブッシュ政権が拒んできた,国際的な協力を組織する必要がある重要な二つの課題において,2009年のアメリカ政府が指導力を発揮するべきです.それは,核兵器の拡散と,地球温暖化です.

アメリカこそ,世界で最も核武装した国であり,世界最大の温暖化ガス排出国なのです.アメリカ自身がそれらを解決する姿勢を示さなければ,世界がその問題を解決する見込みはありません.核拡散や温暖化ガスの将来の排出量を考えれば,アメリカ政府のスタッフがモスクワを訪問し,この問題に指導力を発揮するときなのです.

核兵器を保有する国が増え(アメリカ,ロシア,中国,イギリス,フランス,インド,パキスタン,そして北朝鮮と,おそらくイスラエル),トルコや日本も核武装を議論し始めました.核軍拡競争と,その末に,核を使用する紛争が起きる可能性が急速に高まっています.核拡散防止から核廃絶を目標にして,国際体制を構築するために,アメリカ政府は北朝鮮やイランとも交渉し,体制転換はその国内論争に委ねなければなりません.

温暖化ガスの抑制は,すでに冷戦と核抑止の歴史を知っているケースと異なり,その深刻な影響は孫の世代に生じるでしょう.それにもかかわらず,われわれがその政治的・経済的なコストを受け入れるには,アメリカの指導力と主要排出国(排出量の80%を占める,いわゆる“dirty dozen”,アメリカ,EU,ロシア,中国,インド,ブラジル,など)の協力体制が必要です.

Talbottは,この二つの問題がリンクしている,と考えます.環境破壊は世界の貧しい地域や人びとに大きな負担となり,破たん国家や地域紛争,テロ,原理主義を広まるでしょう.彼らが核兵器の拡散した世界において低水準の核物質を入手する方が非常に危険です.温暖化防止のために,原子力発電所が世界中で建設されることを考えると,国際的な核物質の管理体制が高度な核ミサイルの防衛システム以上に今すぐ必要です.


The Japan Times: Sunday, Jan. 6, 2008

Food for oil: global version

By PAUL KENNEDY

(コメント) 石油価格の上昇は国際秩序の将来,特にアメリカと中国に,どのような影響をもたらすか? 石油価格の上昇の背景は,アジア,特に中国とインドの石油消費が増えたことと,より裕福な諸国が消費を削減できないこと,そして,石油産出国が石油を低価格で浪費し続けていることによる,とKENNEDYは指摘します.インドネシアは輸入国になったし,メキシコなども輸入を始めるでしょう.

石油価格が高騰した結果,他の燃料が求められ,特にエタノールが注目されています.その結果は,サトウキビやトウモロコシの消費が増え,耕作面積が増え,他の農産物の供給を減らして,裕福になった中所得国の食肉生産のために穀物需要が増えていることが重なって,農産物価格を上昇させているわけです.

要するに,石油価格と食糧価格が上昇するという長期の傾向によって,アメリカは石油輸入で損失を被るけれど,国内の余剰農産物を解消し,耕作地を拡大できるでしょう.中国はその両方で弱体化し,国際秩序への参加と受容を尊重し,新しい国際秩序を軍事的に樹立するという方針を選択できないでしょう.

もちろん日本も,両方で損失を受けます.

FT January 10 2008

Challenging the myths of energy security

Pierre Noël

(コメント) エネルギーを市場によって供給する体制は間違いでしょうか? もし直接に油田を支配しなければならないのであれば,主要国は石油を得るために軍事力の行使や外交交渉を必要とするでしょう.むしろ,リスクの増大に対して,保険としての備蓄を増やし,個別にではなくレジームを介して市場の安定化を図るほうがすぐれているのです.

あるいは,ロシアや中国との戦争を繰り返す?


 NYT January 6, 2008

Stop the World (and Avoid Reality)

By ALAN S. BLINDER

(コメント) ALAN S. BLINDER は,アメリカ人が次第にグローバリゼーションを止める気持ちthe Stop-the-World Syndrome,そして孤立主義に傾いている,と心配します.新しいアメリカ大統領は,グローバリゼーションがアメリカの成長にとって不可欠であり,それは脅威ではなく機会である,ということを国民に説得しなければならない,と考えます.

しかし,同時に,アメリカ国民をグローバリゼーションによってもっと快適にしなければなりません.彼が支持するその手段とは,たとえば,貿易調整支援プログラムの拡充,さらには,グローバリゼーションに即した失業保険制度の構築です.失業者の賃金を保証し,転職によって失われた賃金を補償します.また,職業訓練や健康保険,年金制度の適用も全国民に及ぼします.

また通商政策の面では,NAFTAやヨルダン,ペルーとの合意が示したように,労働や環境に関する合意を含めて,貿易を自由化することは可能です.アメリカは他国にILOの基本的な労働基準を受け入れるよう求めながら,自分たちは守りません.ブッシュ政権は労働者の組織化や団体交渉を妨げてきました.アメリカがこうした姿勢を改めることで,世界の動向は転換するでしょう.

これらは空論ではなく,新しい大統領がそれを実行すれば,その任期中にも実現できることである,とBLINDER は主張します


NYT January 6, 2008

Economic Policy for Tough Times

FT January 6 2008

Why America must have a fiscal stimulus

By Lawrence Summers

FT December 20 2007

How should the US economy be rescued?

(コメント) アメリカで失業者が増えているという統計を受けて,財政的な刺激策や貧困層への救済が論争になっています.ブッシュ政権はそれに否定的です.

Lawrence Summersは,明確に,財政刺激策を求めました.不況の可能性は高まり,刺激策の必要は受け入れられても,それが金融政策なのか,財政刺激策も必要か,人々は議論しています.Summersは,@政策の効果は予想しがたい,A財政政策の方が苦しんでいる過程を直接に助けられる,B金融緩和はドル安やインフレ,国際経済の不安定化を招く,C低金利の行き過ぎはバブルのリスクをともなう.

戦後,これまで不況が緩和されていたのは,クレジット・カードが消費の落ち込みを緩和したからである,と指摘し,それゆえ金融機関が傷つくときにはそれが機能しない,と注意します.日本の1990年代は,財政刺激策を躊躇した結果,景気悪化と信用不安(金融機関の貸出抑制)が悪循環をなしたケースです.

Summersは,財政刺激策の適切な実施基準と規模についても言及しています.3つのT,と呼べるでしょうが,その時期Timely, 対象Targeted, そして赤字を恒常化しないTemporary,という基準を示します.こうすることで効果を上げて,しかも長期金利が上昇して相殺するようなことが起きない,というわけです.その規模は500750億ドル,乗数効果も含めてGDPの1%です.うまくいけば,財政赤字は不況を緩和し,長期的な回復が将来の歳入を増やすから,金利を上げないわけです.

Summersは,昨年末に,FTで読者からの質問に答えています.インフレは強まらないか? サブプライム・ショックは? 刺激の中身は? 不況で資産価格の下落やドル安が進めば,むしろエコノミストたちが憂慮してきた内外の不均衡を解消するのでは? 住宅価格の維持に使われるのでは? 経済の基本は健全であるなら,不況を恐れなくてもよい? 財政赤字の融資は続かない? 日本の90年代と同じにならないか? 財政刺激策への最強の反対論は何か?

どの質問も,回答も,すばらしいですね.

FT January 7 2008

America’s inflated asset prices must fall

By Stephen Roach

Jan. 9 (Bloomberg)

U.S. Economy Needs Time, Not Fiscal Stimulus

John M. Berry

Jan. 7 (Bloomberg)

Japan Ghosts of Bubbles Past Haunt U.S. in 2008

William Pesek

NYT January 10, 2008

Not Just the Fed

(コメント) Stephen Roachは,逆に,債務に依存して資産価格を膨張させたアメリカ経済が調整される過程を市場に委ねるべきだ,と主張します.

その際,アメリカの経常収支赤字も為替レートの不整合によるのではなく,資産価格上昇によるドル高と過剰な消費によるものだった,と考えます.それゆえ,中国の人民元を切り上げるように求めるのは間違いです.これからバブルが解消される過程で対外赤字は解消し,もし人民元が切り上がったら不況を更に苦しいものにするでしょう.

人民元を20%切り上げるのではなく,このままバブルが破裂して,アメリカの資産価格が2030%も下落するのです.

John M. Berryも,サマーズの500750億ドル財政刺激策に反対します.アメリカの不況は確実ではないし,マイルドなものかもしれません.彼の基準も,実行するのは難しいでしょう.財政政策は通常その逆であることが多く,だからこそ金融政策が重要なのです.大統領選挙の最中に議論すれば,それは余計に問題です.

William Pesekは,2001年と今の,日本とアメリカとの危機の対比,そして,Stephen Roachの政策提案について,当時と今とを比較しています.金融規制や監督が優れているとか,金融市場が効率的だ,などと日本の失敗を繰り返すはずがないと言われていました.しかし,すでにある程度は,不良債権を過小に評価して隠し続け,金融緩和や株式市場への介入などで解決策を延期するだけであれば,日本と同じです.


WP Sunday, January 6, 2008

Nuclear Credulity

By Carolyn Leddy

LAT January 7, 2008

Accountability for Pyongyang

Asia Times Online, Jan 8, 2008

A chance for change in North Korea

By Georgy Toloraya

(コメント) 北朝鮮の核処理施設解体は昨年末の期限を過ぎても進んでいません.核施設の処理過程を全容解明し,それを無能力化するはずでしたが,アメリカ政府は期限を譲歩した,とCarolyn Leddyは批判します

LATは金正日の姿勢を批判します.アメリカ,中国,日本,韓国は,再び制裁を考えるときでしょう.安倍首相は辞任しましたし,韓国でも大統領が交代し,太陽政策は見直されます.ブッシュ氏は支持を失った末期状態です.北朝鮮が4カ国の関係を分断する見込みは,以前より,顕著に小さくなったと思います.アメリカ大統領の候補者たちは,明確な姿勢を示すことでしょう.

Georgy Tolorayaは,むしろ北朝鮮の経済改革が成功し,その成果を後退させたくないはずだ,と考えます.


Stabilising Georgia FT January 6 2008

GHIA NODIA Reviving Georgia's Western dream The Japan Times: Monday, Jan. 7, 2008

'A Time of Trouble' Ahead for Georgia? SPIEGEL ONLINE - January 7, 2008

(コメント) グルジアのサーカシュヴィリMikheil Saakashvili大統領は選挙に勝ちました.しかし,紛争の原因は容易に解消されません.1位になるだけでなく50%を超えるか? 開票で不正が行われたという訴えにどう答えるか? 街頭で抗議する群集を鎮静化できるか? 2003年にバラ革命で独裁者を追放し,民主化を成し遂げたはずの指導者が,今度は自分で同じ過ちを繰り返しています.経済成長が必要ですが,分離独立を求めるテロ活動や中央アジアの不安定化,領土紛争へのロシアの干渉にも対応しなければなりません.西側の支援には複雑な状況を理解することが必要です.

Desmond Lachman Russian growth is stalked by inflation demons FT January 6 2008

(コメント) ロシアはインフレを抑制する強権的手段にリスクを抱えています.


The Japan Times: Monday, Jan. 7, 2008

Gut reaction to immigration

By HUGH CORTAZZI

SPIEGEL ONLINE - January 10, 2008

When It Comes to Integration, Silence Is Golden

By Charles Hawley in Berlin

(コメント) HUGH CORTAZZIの論説は,最近のイギリスやヨーロッパにおける移民政策と世論の動きを簡潔に紹介しています.人口や労働力の問題として,経済停滞か移民か,を問い,閉鎖社会を批判します.また,最後に日本にも言及し,外国人旅行者への指紋請求は,結局,日本におけるテロがすべて日本人によって行われたことを見れば,無意味であり,アメリカ政府に連帯感を示したかったのだろう,と結んでいます.

Charles Hawleyは,ドイツの移民論争の現状を伝えています.政治家たちは有権者に対して,EUとして移民を受け入れる理由,その統合化を助ける理由を明確に説明しなければなりませんが,しばしば感情論に負けてしまいます.特に,選挙前には,外国人を非難することで票を稼ぎ,擁護することで明らかに票を失うのです.


WP Monday, January 7, 2008

While in Beijing . . .

By Ellen Bork

Asia Times Online, Jan 8, 2008

Putin for president ... of the United States

By Spengler

(コメント) 中国政府が著名な反体制派の活動家を逮捕したことで,ブッシュ大統領は北京オリンピックへの参加にも,このままでは不満を感じています.反体制派は社会を自由にするために重要だ,とブッシュ氏は述べます.

Spenglerは,とんでもないけれど面白い政治風刺の論説です.すなわち,ウラジミール・プーチンこそ次期アメリカ大統領に最適だ,です.プーチンはアメリカの国籍を取って,アメリカが憲法を改正すれば,十分に可能です.経済を立て直し,国内政治でも,国際政治でも,崩壊した帝国を再建できるでしょう.権力の絶妙な行使には定評があります.ただし,英語は下手です.それは,今の大統領,ジョージ・W・ブッシュも同じですから.


FT January 7 2008

Gold is the new global currency

(コメント) ドルが国際通貨の地位を失えば,再び金に関心が集まるのでしょうか? 石油が1バレル100ドルを突破したように,金も1オンス1000ドルを越えるかもしれません.インフレーションを逃れる手段として,また安全保障に問題のある国が資産を逃避させる選択肢として,金はじゅうようでした.今は,欧米の金融市場の不安に対して金への逃避が起きているわけです.

それはいわば,中央銀行家たちへの不信任票です.もしかすると,将来,金融政策の自由を奪うかもしれません.


FT January 7 2008

Europe’s school books demonise enterprise

By Stefan Theil

(コメント) フランスやドイツで市場改革が成功しない理由は,彼らが学校で教えている教科書のせいだ,とStefan Theilは考えます.改革やグローバリゼーションを叫ぶものは,「市場に偏っている(pro-market)」と非難されるのです.

経済学についても,国家・政府がその内容をチェックするべきだ,という話になりそうです.日本政府が南京大虐殺の叙述を変えさせたり,パレスチナの学校は地図にイスラエルがなかったり,ロシア政府がスターリニズムを教え方についてガイドラインを示したり,中国では台湾が単なる島でしかないように.


FT January 7 2008

China’s monetary policy

Asia Times Online, Jan 9, 2008

Shanghai breaks with market principles

By Wu Zhong, China Editor

Jan. 11 (Bloomberg)

China Can No Longer Procrastinate on Rates, Yuan

William Pesek

(コメント) 中国の中央銀行は,経済の安定と成長を維持することを目標にしています.しかし,金利は効果的な手段ではないようです.為替レートの変化を抑えるために外国為替市場に介入し,結果的に,商業銀行には過剰な人民元が蓄積されています.中央銀行が決める金利に関係なく,彼らは融資を増やすでしょう.

Wu Zhongは,北京と上海,中央政府と地方政府の対立,を示唆しています.どの国にもあることですが,中国ではどうか? 人口移動や住宅の売買に関して,地域による制限もあるようです.

William Pesekは,北京の中国人民銀行本店が世界の中心だ,と書きます.アメリカ,ヨーロッパ,日本の中央銀行はそれぞれに問題を抱えて忙しい.もし中国が人民元の為替レートよりも国内のインフレを重視する姿勢に変わったら,世界に何が起きるのか? ・・・世界のことは中国に訊け? というわけです.

もっと恐れるなら,中国の人民銀行総裁は,アラン・グリーンスパンではなく,ポール・ボルカーになるでしょう.学生のみなさん,思い出しませんか? 不可能の三角形を.資本移動はまだ制限されていますが,金融市場が人民元を政府の自由にしておくとは思えません.


YaleGlobal, 8 January 2008

The Globe’s Most Important Relationship

Morton Abramowitz

(コメント) アメリカは中東の紛争にかかりきりでアジアの安全保障に深く関与したがりません.アメリカはアジアと言えば,中国の成長にばかり目を奪われています.幸い,台湾では独立宣言や軍事的な威嚇が抑制されるようです.他方,日本は普通の国家になることを議論し,安保理常任理事国を目指していますが,中国の強い反対に遭っています.日本と中国が和解できない限り,東南アジアの開発は容易に進まないでしょう.

こうしたAbramowitzの指摘はその通りだと思います.それゆえ,解決策はアメリカと日本と中国が協力関係を深めることである,というのも支持できますが,それが容易に進むかどうか? 日本の低成長と,アメリカの影響力低下,消極姿勢,を心配します.

Abramowitzは,アジアの統合化と政治的な対話の制度化に向けて,3つの提案をします.1.アメリカと日本は,オーストラリアやインドを含む民主主義などの価値を強調した,実質,反中国同盟の方針を破棄する.2.日本は国連安保理の常任理事国になり,中国は反対しない.3.東アジアの公式・非公式な政策協議を,特に三大国を含めて,積極的に行う.

実際,日本と中国が,ドイツとフランスのように協力して地域の市場統合化を支持することが,東南アジアの発展にもっとも良い条件でしょう.しかし,独仏のたとえが適切とは思えません.

The Japan Times: Wednesday, Jan. 9, 2008

Mistaken economic policies

By GREGORY CLARK

Jan. 9 (Bloomberg)

Asia's Self-Inflicted Wounds May End the Fun

William Pesek

(コメント) 日本の成長率は1〜2%という話を聞くと,本当にそうなのか? と思ってしまいます.人口増加がない以上,生産性上昇に関わることでしょうが,それにしても,もっと高く考えても良いのではないか,と思います.

GREGORY CLARKは,それは政策として間違っている,と主張します.確かに財政赤字が巨額で,赤字削減が重要です.その結果,歳出を削減し,景気を悪化させ,さらに財政赤字を増やしているのではないか? 悪循環を断つには,逆に成長刺激策が必要だ,というわけです.日銀が国債を直接購入する形で財政赤字を拡大するのが良い,と.

小泉改革の迷信に呪縛されている,と政府を批判します.国債購入による金融緩和と刺激策は,インフレより円安をもたらして,輸出を増やすでしょう.他方,日銀は,成長率を下げて企業倒産と外国資本の流入による整理を促している,と批判します.

むしろ日本の方が,不況の到来を心配して,積極的な財政刺激策や失業保険,職業訓練,社会保障制度の改善を積極的に政府が議論しなければならないと思います.アメリカが不況になるかもしれないときに,すでにタイ,韓国,台湾,マレーシアなど,アジア諸国では政権を動揺させるほど景気の悪化や失業が問題になっています.

5年も続いた景気回復でデフレを完全に解消できないのは,Pesekが指摘するように,日銀の姿勢に問題があったのでしょうか? むしろ,企業が賃金やコストを圧縮したことで景気回復の波及を抑えてしまったのか? アメリカや中国ではなく,日本こそアジアの成長をけん引する役割を一緒に担うべきです.


LAT January 8, 2008

Democracy: inevitable no more

By Madeleine K. Albright

FT January 8 2008

Bush must dispense bitter pills for peace

By Zbigniew Brzezinski

NYT January 9, 2008

We Still Need the Big Guns

By CHARLES J. DUNLAP Jr.

(コメント) Madeleine K. Albrightは,1989年に,世界の対立軸は変わった,と考えます.資本主義と共産主義,の対立は終わって,民主主義と専制,との対立が世界にとって重要になった,と.かつて,たとえ困難であっても,民主主義は必ず勝利する,と信じることができたけれど,今は違います.中国やロシアは専制政治を続けて,しかも権力と富を世界において高めています.

たとえ民主主義でもその勝利や繁栄を約束されていない,とオルブライトは冷徹に述べます.民主主義は状態ではなく,闘いのプロセスである,と.常に民主化を求めて闘わなければ,世界は専制政治に侵されます.

Zbigniew Brzezinskiは,ブッシュ大統領が最後の花道として中東和平に歴史的な成果を上げる基本方針を検討しています.

CHARLES J. DUNLAP Jr.は,伝統的な軍事力の重要性を強調しています.イラク戦争にも関わらず,軍備の近代化や兵員の補充,訓練を怠ってはならない,という趣旨です.


FT January 8 2008

Challenges for the world’s divided economy

By Martin Wolf

FT January 8 2008

Illiberal capitalism: Russia and China chart their own course

By Gideon Rachman

(コメント) 世界資本主義の今後の発展は二つの要因に拠るだろう,とMartin Wolfはか投げます.ひとつは新興経済の成長.こう一つは,開放体制を維持する・あるいは逆転する,不況を悪化させて輸出する,各国の政治です.アメリカがたとえ不況になっても,資本は新興市場に「逃避」しつつあります.世界経済の成長は新興経済の力強い投資や消費によって持続可能なのです.現代の国際収支不均衡は1970年代のオイル・ダラーのリサイクリング問題と似ている,という,K.ロゴフらの指摘を取り上げています.

ロシアや中国は,社会主義のイデオロギーを捨てても,資本主義や民主主義に完全に転換しようとしない.支配層はビジネスに入り込み,ともにナショナリズムを政治基盤として復活させます.両国は冷戦を復活することはないけれど,西側の政治経済システムに収れんすることもないだろう,とRachmanは考えます.


FT January 8 2008

Korea for sale

(コメント) 1997-98年の通貨・経済危機でもやれなかった,韓国資本主義のバーゲンセールが,いよいよ新大統領,Lee Myung-bakの下で実行されるかもしれません.アングロサクソン型資本主義のアジアにおける戦略拠点となるでしょうか?

あるいは,欧米からの買収攻勢に対して,アジア企業が連合体を形成しようとするかもしれません.政治的な介入はなくても,それを可能にする制度的な条件を整備するため,アジア諸国は率先して協調するべきではないでしょうか?


The Japan Times: Wednesday, Jan. 9, 2008

Let the IMF manage foreign reserves

By HAROLD JAMES

(コメント) 国際金融不安の拡大と,IMFの機能低下とを結び付けて,HAROLD JAMESは,IMFが外貨準備の共同管理を担うべきだ,と主張しています.これは,先に,IIE所長のF.バーグステンが主張したSDR振替勘定案に似ています.

これはもちろん,アジアや産油諸国の政府系ファンド(SWF)を意識したものです.しかし,同時に,アジア通貨基金やかつての金プール,G10のスワップ取決めなどにも似ています.また,1907年のJ.P.モルガンによる株価安定化介入や,2007年のゴールドマンサックスの提案を指摘します.国際収支不均衡による黒字の蓄積を,黒字国が政治的な目的に利用することから切り離して,国際金融市場を安定化するためにIMFが管理できれば,すべての国の利益になります.


LAT January 9, 2008

Malawi's 'free trade' revolt

By Benjamin R. Barber

(コメント) 世界銀行が勧める「自由貿易」や補助金の廃止によって,豊かな諸国の脳残物を輸入しなければならなくなったマラウィの革命を,Benjamin R. Barberはイラクやアルゼンチンと同じだ,と考えます.イラクでは,アメリカ軍のバクダッド占領後,自由市場への盲信がアナーキーをもたらしました.何でも市場にゆだねればよい,と考えるのは間違いです.

市場は,それが貧しい者にも裕福な者にも同様に働いて,初めて正しい結果をもたらす,と主張します.貧しい国が自由貿易に参加するには,彼らが自由貿易によって生きていけるような道がなければなりません.

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The Economist December 22nd 2007

Fraud and financial innovation: The match king

Staying at the top: Mao and the art of management

(コメント) クリスマス特集号の後半を見れば,この二つの記事が面白いです.特に前者は,スウェーデンの企業家にして金融サギ師?であった,Ivar Kreugerの話です.野心的な人物で,若くしてマッチの工場を使い世界市場に進出します.政府と組んで,税金や債務保証,市場独占を組み合わせます.大恐慌下,国際取引の途絶によって苦しむ諸国に対して,素晴らしい救済パッケージを提供し,投資家たちにはふんだんな利益を約束して,その仮面の下で金融サギ的な拡大を続けました.

後の記事は,ビジネス書の教訓には飽きた者にも,GMを支配したアルフレッド・スローンが,所詮,中国を支配した毛沢東の経営者的な資質には遠く及ばない,という話です.トップの地位を維持する点で,世界企業の経営者たちが毛沢東から学ぶことは多いのでしょう.