IPEの果樹園2007

今週のReview

12/3-12/8

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

企業統治の改革, 住宅ローン破産1,, バルカンの暗雲, 再建ドル本位制の終わり, 北京オリンピックと政治劇, 米中の環境冷戦, グローバリゼーションの政治経済学1, ニューヨークの教育改革, ヨーロッパ激変

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


NYT November 23, 2007

Megachurches Add Local Economy to Their Mission

By DIANA B. HENRIQUES and ANDREW W. LEHREN

(コメント) メガチャーチによる経済の活性化,地域の再生に関する報告です.メガチャーチとは,一般に,アメリカのプロテスタント系キリスト教の教会で,毎週の礼拝に2000人以上が集まるものです.

教会の動機としては,信者を増やし,宣教を行って,彼らが喜ぶようなこと,またキリストの奇跡と復活を祝福するようなことを行いたい,ということでしょう.それが教会の中にとどまっている必要はないわけです.

昔から,学校や病院,失業者や移民の生活支援,さまざまな慈善活動に,教会は熱心に関わってきました.アメリカのメガチャーチは,それをビジネスの分野にも積極的に拡大します.信仰を広め,信者を増やすのに,地域社会の要求を取り入れるのは正しいことだ,と考えます.

バスケットボールの学校,地域航空,投資会社のパートナー,リムジンによるサービス,ショッピング・センター,ドーム球場,クレジット・カードの発行,アパートや住宅,事務所など,不動産の販売・仲介,住宅地の開発・販売,独立記念日の祝祭,・・・

民間企業が進出しないような遠隔地にもサービスを行い,地方政府に歓迎されます.しかし,教会が公共サービスの一部を担うとしても,信仰を異にする者がそれを喜ばないかもしれません.また,教会は税金を免除され,さまざまな公的監視から免れています.民間企業よりも有利な条件で競争するかもしれません.

ウォルマートが撤退した土地や施設を教会が購入してくれた,と地方政府は喜びます.


NYT November 23, 2007

The Immigration Wilderness

(コメント) 大統領選挙の季節を迎えたアメリカ全体で,移民(そして移民政策)についての不満があふれています.なぜ誰もが移民に反対するのでしょうか? 支持派の声は消えてしまうのでしょうか? 移民に関することは何にでも噛み付き,激しく攻撃します.

非合法移民たちにも運転免許証を発行しようとしたニューヨーク州知事の政策について,クリントン夫人は訊かれ,支持者の期待を裏切って,これに反対しました.彼女は,移民問題を「YesNo」で答えることはできない,と考えます.それはa yes-or-no questionではなく,yes and noである,と.非合法移民の増加,国境管理の失敗,地下経済の拡大にはNoである.同時に,誰であれ,この国の法律を破った者は取り締まり,罰金を科すこと,非合法移民を合法的な居住や労働,市民権の取得に向ける政策にはYesである,と.

またJ・エドワーズも主張します.企業が労働者を合法的に雇用できる.アメリカ人が記録されていない労働者に地位を脅かされるようなことはない.親が非合法移民であるからという理由で,子どもたちが勉強する意欲を挫かれない.まじめに働く者を歓迎し,彼らに居場所を与えてくれる.そのような国でなければならない,と.


NYT November 23, 2007

Banks Gone Wild

By PAUL KRUGMAN

フォーチュン誌の表紙は,「彼らが吸ったタバコは何だったのか?」と問いかけている.ウォール街の巨人たちは莫大な富を得て,損失を創り出した.

答えはもちろん,彼らがいつもの薬,強欲に衝き動かされた,ということだ.重役たちの報酬体系により,社会的には破滅的な決定を奨励された.こうした報酬はエンロンやワールドコムのスキャンダル事件が起きたときに改革されるべきであったが,その後も改革されていない.

直截的にいえば,ウォール街で起きた大虐殺がこの住宅不況なのである.

不況は予想できたし,予想されていた.私は20058月に書いた.「この頃,アメリカ人は互いに住宅を売買して,その支払いの金を中国人から借りている.どう考えても,それが持続可能な生活スタイルとは思えない.」 その通りだった.

しかし,危険な兆候が増えていく中でも,ウォール街は疑わしい住宅債権に基づく証券を累積させた.そのほとんどが間違った投資であり,現在,金融界を揺るがしているが,それは住宅バブルの最後の熱狂であった.バブルが消滅してからも続けられた.

支払いの時期が来て,ほとんどすべての人が支払わねばならないのに,それに責任があった者たちは支払いを免れている.

メリル,シティグループ,ベアスターンズなどの株主はその損失に苦しむが,それはほんのわずかでしかない.はるかに大きな人間的苦しみが,理解しないまま契約した住宅証券にだまされたアメリカ家庭を襲っている.何百万とは言わないが,何十万の家庭で債務の金利が引き上げられ,支払が増えて,しかも住宅の価格は下がっている.

その後,抵当価値の下落は経済に及んだ.

サブプライム問題はそれほど重要ではない,と聞いているだろう.その数字は増え続けているが,今では4000億ドルという損失も,金融資産の総額に比べたら小さなものだ,と.

しかし,住宅投資の失敗はその自己資本を一掃してしまうから,金融システムを麻痺させ,融資活動に決定的な影響を与える.ゴールドマンサックスの調査では,住宅関連の損失で銀行などが削減する融資額は2兆ドルに及ぶ.これは厳しい不況をもたらすほどの数字である.

さらに,市場の信頼は失われたままであり,金融システムの歯車に砂が撒かれているに等しい.それはアメリカ政府の債券に求める金利と,銀行が互いに資金を出す金利との,大きな差に示されている.

何が間違っていたのか?

一つの答えは,危険を警告し,事前の予防手段を取るべき人々が,むしろアメリカ人に何もかも健全で,危険な住宅証券を購入するよう軽率に奨励したことである.そうだ,グリーンスパン,あなたのことだ.

しかし,もう一つの答えは,フォーチュン誌の表紙に乗った人々がしなかったこと,つまり,彼らがその大失敗を露見する前に受け取った莫大な報酬を返すように,少しも強制されなかったことだ.

25年前,アメリカのビジネス界は,政界とともに,強欲を肯定する考え方に染まった.企業の業績がよければ,その重役たちは呆れるほど高額の報酬を受け取った.昨年のメリルやシティグループの重役報酬は,それぞれ,4800万ドルと2560万ドルであった.

しかし,企業の成功が幻想であったと分かれば,彼らはどうしてその金を返さないのか? 彼らは儲け,われわれは損をする.

この大きな不公平に加えて,そのような報酬がリスクを喜び,詐欺も犯すように仕向けている.数年でも業績を成功したように見せて,重役たちは莫大な報酬を得て逃げてしまう.その後の見直しで価値が失われても,それは誰か別の者の問題だ.

こうしたことは十分に分かっていたことだ.しかし,今回も法律としては問えない.国民の信頼が再び裏切られた.

サブプライム危機も金融逼迫も,過去のスキャンダルを経て,われわれが企業統治に効果的な改革を行わなかった結果である.ジョン・エドワードは企業統治の改革案を示したが,大統領選挙の争点になっていない.この問題を取り上げるべきだ.


WP Friday, November 23, 2007

No Rescue Here

NYT November 25, 2007

A Time for Bold Thinking on Housing

By ROBERT J. SHILLER

(コメント) L.サマーズは,Freddie Mac and Fannie Maeによる救済策を支持していましたが,その巨額の損失に言及して,WPは反対しています.

他方,この金融市場に詳しいROBERT J. SHILLERは,住宅市場の下落は,これまでの最悪のケース,1925年から33年に並ぶ規模,すなわち30%に及ぶかもしれない,と考えます.

1925-33年の住宅不況に対する公的な対応は,政府と民間機関に何が達成できるかについて重要な教訓を与えている.当時の人々は一時的な緩和策に満足しなかった.彼らはより大きな,不動産の制度に革命的な変化をもたらすことを考えていた.そのような根本的な変化がなければ,大恐慌はそれが歴史的に経験した以上にひどいものになったかもしれない.そして今日,われわれはもっと傷つきやすいだろう.」

1932年,不動産融資国民協会が提案し,議会が創始した連邦住宅融資銀行制度は,その後の連邦準備銀行制度のモデルになった.12の地方銀行が創設されて,連邦準備局のように,連邦住宅融資銀行局がそれらを監督した.これは,不動産の最後の貸し手となる特殊な銀行であり,問題のある銀行や信用組合がモーゲージを発行し続けることができるようにそれを割り引く,という野心的な計画であった.」

さらに,1933年には,フーバー政権が最後の時期に破産法を改正し,住宅債務の支払いを止めても家から追い出すことを禁止します.そして,F・D・ルーズベルトが大統領に就任し,住宅金融の公社を設立します.預金保険機構だけでなく,その後,Fannie Maeも設立して,莫大な額のモーゲージを証券化します.

それに比べて,とSHILLERは考えます.現代の提案は浅く,小規模なのです.不動産市場の根本的な改革が必要だし,既存の制度をもっと活用するべきです.Allan Weissの「住宅資産保険」を真剣に取り上げてはどうか,とも指摘します.

1930年代には深刻な危機を経験して,国民が危機意識を持って改革に取り組んだから多くのことが出来たのです.革新は,困難な時代だからこそ実現できる,と.


NYT November 24, 2007

Lost in a Flood of Debt

By BOB HERBERT

サブプライム・モーゲージの破滅に強く影響された人々を私は訪ねてきた.その多くは,驚き,恐怖に陥ったドロシー・レヴィーのような人たちだ.彼女は79歳で,41年間住んだ小さな家に一人で座っていた.電話のベルも,ドアのノックも恐れている.

彼女はとにかく心配なのだ.彼女の住宅に対する毎月の支払は,彼女のわずかな毎月の収入とほぼ等しい.支払えずに,それが遅れているから,レヴィーさんの予想では,住宅を明け渡せという通知がいつか来て,警察官が訪問し,そして,誰かが出て行けと言うのだろう.

メディアはサブプライムの熱狂的な取引で財を築いた連中ばかり映している.その哀れな犠牲者たちは,陰に取り残され,経済的な破局に陥る.

何十年も住宅債務を支払った挙句,レヴィーさんと夫のダンは新しいローンを勧められた.債務を支払い終わるのは,見かけの上では2002年であった.しかし,流砂に呑まれるように債務が増え,ダンは病気になって2年後に亡くなった.

今日まで,レヴィーさんと夫は何に同意したか理解していない.その条件はまるでサンスクリット語で書かれているようだった.それでも彼女は支払いを続けようと努力した.貯蓄を使い果たし,自動車も売った.衣服を買わず,食べる者も減らした.しかし支払い続けることはできなかったのだ.

私は州政府に行って,彼らに自分が空腹であることを言ってやる,と彼女は述べた.

同じような話を,私は何度も何度も聞いた.礼儀正しい人たちが誘惑され,ときにはだまされて,理解できない,支払えないような融資を受けた.

長年にわたって,貧しい,労働者階級の住民たちは,居住区の差別やその他の慣行により自宅を所有できなかった.彼らには黒人や有色人種が多かった.彼らが融資を受けられることは重要だった.

しかし,逆の極端な事態が起きてしまった.この数年,モーゲージによる融資業者はここに大きな需要があることを認め,攻め込んだのだ.彼らは顧客が払えるような普通の融資では飽き足らなかった.住宅を買ったこともない客,あるいは住宅証券を負い,それを再融資してもらう素朴な客を相手に,悲惨な債務の急増を招く仕組みで,規制の少ないこの分野を食い荒らした.

ドロシー・レヴィーさんのような貧しい人びとの多くが,住宅に自分の資産を残すために何年も働いたのだ.それが破壊され,消滅した.住宅証券融資のもっとも破廉恥な業者たちは,こうした人々を襲って,甘言を弄し,彼らが持っているあらゆるものを巻き上げる契約書にサインさせた.

こうしたことがしばしば合法であったことは彼らを正当化しない.それがどれほど異常であっても,レヴィーさんに住宅証券の再融資を示す条件が届き続けている.

多くの買い手がそれを支払えないことを知らずに契約してしまったのは確かであろう.がめつい業者が,顧客に十分説明する,という言葉など無視している.

サブプライムの熱狂は,恥ずべき,巨額の,強欲と搾取に満ちた取引だ.犠牲者はもっと保護されるべきだ.人生で最も重要な金融取引の市場が,その顧客を無視している.つつましい資産しか持たぬ人々の取引を,それが剥ぎ取られるようなことのないように金融規制して当然だ.

1年前,サブプライム・ローンはアメリカの住宅融資の約4分の1を占めた.推定220億ドルのサブプライム市場で,人々は住宅を失いかねない.

この問題に気づいたのは遅すぎた.しかも今は,住宅を追い出される家族を無視している.それが引き起こす長期の結果を見ていない.

残された債務を緩和し,住宅の明け渡しを防ぐために,政府や企業の指導者はどこでも可能な限り介入するべきだ.それは人道的に,また経済的な責任として,なすべきことである.


The Guardian, November 25, 2007

Financial hypocrisy

Joseph Stiglitz

(コメント) アジア通貨危機をめぐる国際金融市場の破壊的な影響を,Stiglitzは「大恐慌以来の最悪の世界的危機であった」と断言します.その主たる原因はIMFやアメリカ財務省が進めた無責任な金融自由化の脚付けであり,その主要な利益はウォール街の重役やファンド・マネージャー,トレーダーたちが得て,危機の犠牲はアジアやラテンアメリカの何百万人,あるいはもっと多くの勤勉な人々に生じました.金融市場を開放しなかった中国やインドは,これを免れて,成長を加速できました.

その従来の主張に加えて,今回の欧米金融市場に起きたパニックに対して,IMFやECB,アメリカ政府の取った対応が甚だしい偽善であったことを非難しています.

「IMFとアメリカ財務省が東アジアに与えた助言と,現在のサブプライム破綻において起きたことを対比する,それはあまりにも明らかである.東アジア諸国は金利を引き上げ,ときには25%や40%にも達して,債務不履行の急増となった.他方,現在の危機では,アメリカ連銀やECBが金利を引き下げた.」

他にも,当時,「透明性」,「金融規制の改善」について助言したことを思えば,その偽善者ぶりは明白だ,と主張します.


WP Sunday, November 25, 2007

Back to the Brink In the Balkans

By Richard Holbrooke

(コメント) パキスタンの政治混乱や中東和平の挫折,イランや朝鮮半島,台湾海峡から「第三次世界大戦」が起きるよりも,むしろコソボから起きるのではないか,と思ってしまいます.そして,クリントン政権下の国際事件として,アジア通貨危機に並ぶ重要性がユーゴ内戦とNATOによる空爆にあったはずです.

バルカンには新旧の戦争と安全保障が積み重なっています.1210日のアメリカ・EU・ロシアの交渉チームが加わって,セルビア人とアルバニア人にコソボの将来を合意させようとしましたが,失敗に終わりました.このままでは数週間後にコソボが独立を宣言するでしょう.アメリカとEU(特に,イギリス,フランス.ドイツ)は即座にこれを承認するでしょう.しかし,ロシアは認めません.コソボの8年に及ぶ統治は国連最大のプロジェクトですが,今も政治不安と衝突が続き,ボスニアにも波及しています.

コソボの治安は国連の責任ですが,これ以上の紛争介入を嫌うブッシュ政権がアメリカ軍を動かしません.その動揺をロシアが利用して,セルビアはコソボの独立を認めません.そしてコソボが独立するなら,ボスニアのセルビア系住民も独立を宣言する,と脅迫しています.・・・このロシア土産として有名な人形は,いくつ開けたら終わるのか?

ボスニアのアメリカ副代表Raffi Gregorianは,この数か月でボスニアの存立が決まる,と述べて,NATO(特にアメリカ軍)の増強を求めます.他方,ロシアはこの問題を,グルジア,アブカジア,南オセチアの問題と結びつけます.1990年代に解決したはずのこうした問題を蒸し返すのであれば,解決することは不可能でしょう.

20009月にミロシェビッチが権力を失ってから,セルビアには改革派の政府が成立しましたが,その後,ブッシュ政権はクリントンのやったすべてのことを嫌って,コソボについても2005年まで事態を放置しました.ラムズフェルドはコソボのNATO軍司令部からアメリカ軍を撤退させようとし,パウエル国務長官に止められました.

2006年に外交的な努力が始まる前に,セルビアの改革派首相は超ナショナリストに暗殺され,プーチンがバルカンに対する政策を逆転させます.それは1995年にクリントンとエリツィンが歴史的な合意に達し,コソボのNATO軍指揮下にロシア軍を置く,と決めた政策を否定したのです.プーチンは,ロシアが地域の覇権を握るべきだ,と考えています.ブッシュ政権がヨーロッパの安全保障から撤退する中で,ロシアが国際的な敬意を示される機会を,このバルカン問題に見ているのです.

プーチンは,ボスニアのセルビア住民をも支援することで,掛け金を増やしました.穏健な西側寄りの指導者であったMilorad Dodikを,ロシアは石油資金を使って,分離独立を求める陰険なナショナリストにしてしまったのです.

コソボのソフト・ランディングの機会は2004年に閉じた,と考えます.しかし,ブッシュ大統領がプーチンを説得し,その地域にアメリカ軍を展開するなら,まだ最後のチャンスはある,と.


FT November 25 2007

Dollar’s last lap as the only anchor currency

By Wolfgang Munchau

(コメント) 2003年に発表されたMichael Dooley, David Folkerts-Landau and Peter Garberによる「再建ドル本位制the Bretton Woods II」論は,為替レートを考える重要な仮説です.すなわち,新興経済が過小評価された水準で自国通貨をドルに固定し,輸出志向の成長を目指していること.それによって得たドルをアメリカに再投資すること.こうしてアメリカは彼らにとっての最後の貸し手であり,最後の頼りとなる消費者であること.GDPの6%を超えるアメリカの経常収支赤字は望ましく,しかも持続可能であること,を彼らは指摘しました.

しかし今,それは持続可能ではなくなっています.アメリカへの資本流入は急激に減少しているのです.Wolfgang Munchauは再建ドル本位制を,世界的な規模の「資金洗浄」メカニズムだった,と批判します.もっと商品を買ってくれたら,その資金は融資してあげよう,ということです.金融市場の混乱で終わったのは当然です.

為替レート制度では,意外なほど規則的に,固定制と変動制とが交代しています.ブレトンウッズ体制の後変動制が続き,ヨーロッパは時間をかけて通貨同盟に至りました.再建ドル本位(ブレトンウッズU)も同じ道へ向かうでしょうか? 

Munchauは二つのシナリオを示します.ひとつは,「ドルの世界的な独占はドルとユーロによる複占に代わる.」 各国はドル・ペッグを止めて,さまざまな割合によるドルとユーロのバスケットに固定する,というものです.すでに中国や湾岸産油諸国が,ドル安によるインフレを嫌って,この方向に進みつつあります.もう一つは,「地域的な為替レート体制が登場する.」 ブレトンウッズTの後でヨーロッパに起きたことがアジアでも起きる,という議論が盛んです.これまでのところ進展はほとんどないけれど,と.

いずれにせよドルの独占は崩れていくでしょう.そしてブレトンウッズVの時代は来ないのです.

FT November 26 2007

Could the euro rule supreme? It’s not worth it

By Simon Tilford

YaleGlobal, 27 November 2007

Who Gains When the Dollar Sinks?

Scott B. MacDonald

The Japan Times: Wednesday, Nov. 28, 2007

Hello to the euro, goodbye to the dollar

By GWYNNE DYER

FT November 28 2007

America should be thankful for canny Arab wealth

By John Gapper

(コメント) ドルの廃位は,ヨーロッパ人が信じているように,どちらにとっても望ましい(win-win)ことか? とSimon Tilfordは問います.

長期の成長率が高いと予測されるから,ドルに対する信頼は失われず,アメリカも経常収支赤字や財政赤字を減らすために貯蓄するようになり,世界の準備通貨としてその地位を回復するでしょうか? あるいは,債務が爆発し,インフレが高進し,海外の投資家,特にアジア諸国の政府がドルを準備として保有しなくなるのか?

そしてユーロがその地位を代わる? もしそうなれば,価格がユーロで表示され,ヨーロッパ企業・銀行が世界に進出し,インフレは抑えられ,為替レートの変動を気にしなくてもよくなる.何よりも莫大なシニョレッジが得られる.世界中がユーロで預金し,金利が下がるはずだ.

他方,マイナス面もある.世界経済の不均衡にさらされ,現在のアメリカのように,東アジアの重商主義的な政策によって赤字を押し付けられる.ユーロの流通量を管理できなくなり,インフレが起きても抑えられない.ユーロの世界的な需要が増えるから,増価することで輸出競争力は損なわれる.ECBは金融緩和を求められる.それはユーロ圏内の政治対立を強める.

ヨーロッパは喜んでばかりいられない.

Scott B. MacDonaldは,大砲とバターのバランスを取ることがアメリカの基本的な問題であった,と考えます.それはドルによって緩和されてきたけれど,もはや許されない?

ジョージ・ソロスの元パートナーであるジム・ロジャースはアメリカから中国に移住すると発表しました.「私がアジアに移住するのは,1807年にロンドンに,1907年にニューヨークに移住するのと同じである.」 金融市場の比重も,世界のパワーは一も,アメリカから中国に移動していくのです.ドル安に対しては,アメリカが国内を立て直すしかありません.もはや海外のドル需要に頼って時間稼ぎは出来ないのです.

GWYNNE DYERは,その数週間で世界中に起きたドルの衰退を示す発言や事件を並べています.間違いなくドルの凋落が始まったのです.その主要な原因はブッシュ大統領が行った減税と戦争です.この前,世界がこのような変化を経験したのは40年前でした.第一次大戦まで最高の地位にあったポンドは世界準備の60%,世界貿易の64%を支配していました.それが完全にドルに代わったのは1950年代です.

アブダビの高級ホテルなどで見られる巨万の富と活発な国際投資について,John Gapperは恐れるよりも感謝するべきだろう,と考えます.かつてヘッジファンドや個人投資信託によって調達されたリスク・キャピタルを,今では産油諸国の政府系投資信託(SWF)が供給します.彼らがスイス銀行の預金口座やアメリカ国債,ロンドン郊外の住宅などとしてしか資産を保有しないとしたら,世界はもっと苦しむのです.


IHT Monday, November 26, 2007

The 'China honeymoon' is over

By David Shambaugh

(コメント) ヨーロッパと中国の関係は,この15年で急速に拡大しましたが,初期の「ハネムーン」が終わって,互いに問題を意識するようになりました.特に中国に対する市民の意識は,好感から急速に悪化し,対中貿易赤字と雇用の流出を強く意識するようになっています.産業スパイ,政府のホームページや情報へのハッキング,チベット,人権問題も,悪化の理由です.

また,ヨーロッパ企業はさまざまな中国との問題を抱えています.知的所有権,市場アクセス,流通システム,国内産業の保護,などです.貿易,投資,エネルギー,環境,人権,核不拡散,アフリカ援助,台湾,グローバル・ガバナンス,といった政府の基本政策にも,中国との関係は強く影響します.さまざまな違いを示していたヨーロッパ諸国の政策が,中国について収斂するようになった,と指摘します.

中国も,アメリカのブッシュ政権に対応するための持ち駒のように見ていたヨーロッパが,中国に統一して対抗する事態を本格的に準備しなければなりません.ヨーロッパと中国の関係は成熟する過程にあるようです.

Foreign Policy, 26 November 2007

The Battle of Beijing

Moisés Naím

(コメント) T.フリードマンにも劣らないグローバリゼーションの優れたイデオローグであるNaímの論説を読むのは政治的空想の楽しみです.

「しかし,今度のオリンピック中継は単に予想を覆す陸上選手や世界記録の映像ばかりではない.中国の警察と世界中から集まる活動家たちとの衝突が中継されるだろう.・・・それはスポーツマンたちの世界的な試験場であるだけでなく,中央集権的な警察国家が,BlackBerries[携帯電話で映像を世界に伝える]で武装した外国の活動家たちが形成するネビュラ[多頭の怪物]とぶつかって,その能力の限界を試される機会である.20世紀型の政府官僚組織と21世紀型の世界政治,レーニンとYouTubeとが出会う戦場となる.」

中国の諜報機関,警察,政府シンクタンクは世界中の活動家に関する情報をかき集めている,というわけです.しかし同時に,世界中のインターネットが結ぶ情報通信システムの端末が中国のすることを監視しています.かつて,戦争を革命へ,と訴えた共産主義が,オリンピックを民主化へ,と訴えて通信技術革命の波に乗る群衆におびえます.現代中国の興隆を世界に宣伝する400億ドルの政府公共事業が,醜い人権抑圧国家の映像を世界にばらまく機会となりそうです.

200年にオリンピック開催を望んだとき,中国政府は考えもしなかった事態でしょう.世界が急速に変化した結果です.同時に,この間,中国資本は世界の制裁を受けた諸国家に進出し,政府は国内の環境破壊を顧みませんでした.しかし,最も重要な変化は,中国における携帯電話とウェブを利用したブログやチャットの普及である,とNaímは考えます.

6億台を超える携帯電話を誰が監視するのか? ビデオカメラと直結して容易に政治化するYouTubeを誰が制限するのか? 世界中がオリンピック中継を待っています.


Sovereign wealth funds FT November 26 2007

Silent sovereign wealth FT November 28 2007

STEVEN R. WEISMAN Oil Producers See the World and Buy It Up NYT November 28, 2007

KEITH BRADSHER $200 Billion to Invest, but in China NYT November 29, 2007

(コメント) アジアへの投資を求めていたDubai International Capitalがソニーの株式を一部取得しました.かつてオイル・ショックが激しいインフレや不況をもたらしたように,今度は金融市場への浸透や株価の高騰,大企業の買収ラッシュをもたらすのでしょうか? ドル資産の暴落を避けながら,国民的な大企業ではなく,それほど有名でない優良企業をアジアで探しているのかもしれません.

Abu Dhabi Investment Authorityは,シティグループの株式を一部取得しました.主要な世界的金融機関の内部情報を得て,世界中の優良企業に浸透することが目的ではないでしょうか.リスク.キャピタルの供給を歓迎する企業もあるでしょう.それが配当を得るためだけなのか,支配を意味するのか,分りません.

どこか第一次大戦後のドイツ賠償金支払いに似た,新しいトランスファー問題です.もし産油諸国が資金を還流させる方法を持たなければ,世界の貨幣供給は抑制されて厳しい不況になるでしょう.これは必要な過程なのです.また,産油諸国のバブルやインフレを抑えるためにも必要です.石油価格がドルで支払われるかどうか,サウジとベネズエラやイランが激しく論争します.

他方,中国の政府系ファンドthe China Investment Corporationは,アラブ諸国のような情報も経験もないため,外国の資産ではなく,むしろ国内の銀行システム改革に投資しようとしています.


IHT Tuesday, November 27, 2007

Why don't all politicians 'shut up'

By Paul Kennedy

(コメント) ベネズエラのチャベス大統領がスペイン国王Juan Carlosに「いいかげんに,黙れ!」と命じられた映像が世界を駆け巡りました.チャベスがスペイン元首相José Maria Aznarを繰り返し侮辱したことに憤慨した発言です.

Paul Kennedyは,政治家を黙らせる,というのは素敵な考えだ,特にアメリカの政治家について,と指摘します.Rudolph Guiliani, Mitt Romney, Barack Obama, Hillary Clintonといった大統領選挙を目指す政治家たちが,世界中のあらゆることについて発言し,ブッシュ政権も黙っていません.

フランスのサルコジ,ロシアのプーチン,中国政府,そして,ビスマルク.Paul Kennedyは,現代のメディアが遍在する政治環境を嘆きつつ,それでも政治家が黙ってくれたらよいのに,と考えます.


The Japan Times: Tuesday, Nov. 27, 2007

Japan's first regional EPA

Asia Times Online, Nov 28, 2007

Dalai Lama cuts little ice in Japan

By Catherine Makino

(コメント) 日本とASEANとの経済連携協定(EPA)や中国とのハイレベル政府間協議は,日本政府と官僚が恒常的に国際政治と関係する時代を覚悟したのであれば,いくら遅くても,良いことでしょう.ただし,常設の制度とスタッフを共有し,充実させることが必要です.

他方,日本政府がダライラマの訪問を無視した姿勢には,中国との関係改善を優先する判断があったかもしれません.しかし,アメリカやヨーロッパとの違いが醜い印象を残します.


LAT November 27, 2007

At peace with Pax Americana

Jonah Goldberg

(コメント) 「アメリカ帝国主義」について,これまでに多くの発言が飛び交いました.多くの非難するために使われたわけですが,その必要性を率直に認めるよう求めたNiall Fergusonや,左派の批判を並べたNaomi Wolfe, Frank Richなど,そして,ローマでもソビエトでもない,と弁解するWalter Russell Meadや,世界最初の「自由主義的な帝国」であったイギリスと並べるAmy Chuaが紹介されています.


NYT November 27, 2007

Exit, Russian Democracy

WP Tuesday, November 27, 2007

Russia's New Old Dissidents

By Anne Applebaum

(コメント) ロシアの大統領選挙とアナポリスAnnapolisで行われた中東和平会談については,多くの論説があったのですが,読めないので諦めました.

プーチンの人気と後継者指名,あるいは,自分自身の大統領職延命など,対立する候補がいないなかで,チェスの元世界チャンピオンというロシアの英雄Garry Kasparovが例外的な存在です.アメリカ,EU,日本はロシアをサミットに迎えて,政治的な安定化に偏った関与を示してきた,とNYTは批判します.大統領選挙は重要です.


FT November 27 2007

Why banking is an accident waiting to happen

By Martin Wolf

FT November 27 2007

Central banks offer liquidity vaccines

(コメント) Martin Wolfは,銀行システムが政府によって保障されているために,結果的に彼らを短期的・投機的な利益に走らせている,と批判します.銀行はより多くの自己資本を求められるか,あるいはナロウ・バンキングのように監視・管理を強化して,倒産できるようにするべきだ,と.

流動性の枯渇した市場に中央銀行が介入する問題を,FTは考えています.


The Guardian Wednesday November 28, 2007

Global warming's cold war

Mark Hertsgaard

(コメント) ブッシュ大統領は京都議定書を拒否しました.5%の温暖化ガス排出量削減はアメリカ経済を破綻させる,中国が従わないのにアメリカが従う理由はない,という不満を繰り返してきました.

かつて冷戦下の核軍拡競争が続いていた頃,ソビエトに新しい指導者,ゴルバチョフが登場し,相互確証破壊のロジックを否定しました.ゴルバチョフはアメリカが受け入れなくても一方的に核実験を停止したのです.ソビエトに遅れていると間違って信じ込むレーガンは軍拡を続けましたが,これを認めて,ソビエトとの核軍縮交渉を開始します.

「世界は今,もう一人のゴルバチョフを必要としている.気候変動に関する同様の奇跡を起こしてくれる人物だ.アメリカとソビエトが核兵器について超大国であったように,アメリカと中国は気候変動の超大国である.中国とアメリカは他の世界が温暖化に対する改善策を取ることに拒否権を行使できるような,大量の温暖化ガスを排出している.」

「数年にわたって,アメリカと中国は米ソの核兵器を支配した相互確証破壊のロジックに従ってきた.ブッシュは(クリントンと同様),中国が削減しなければアメリカも削減しない,と主張している.しかし,中国の一人当たり排出量はアメリカの10分の1でしかなく,アメリカが削減しないのに中国が削減するはずはない.」

温暖化ガスの削減は,中国にとって悪い話ではないでしょう.環境破壊は深刻なコストを生じていると中国政府も認めています.現在利用できる環境に優しい技術を導入するだけで,中国は50%の削減が可能である,と考えられます.

その意味では,アメリカの新しい大統領とともに,日本の環境技術者がアメリカと中国の環境冷戦を終わらせる<ゴルバチョフ>になると期待したいです.


The Japan Times: Wednesday, Nov. 28, 2007

Globalization blurs North-South divide

By JAMES D. WOLFENSOHN

(コメント) 元世界銀行総裁のWOLFENSOHNは,世界が成長の加速と緊密な相互依存によって根本的に変化した,と考えます.かつての南北による分割は重要でなくなりました.

世界は4っつの集団にわかれています.@「富裕層」:アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリア,日本,などの10億人.A「グローバル化集団」:中国とインドを含む30カ国の32億人.B「資源地主層」:重要な資源を持ちながら成長に結びつかない50カ国の11億人.C「出遅れ組」:世界の最も貧しい諸国に住む10億人.

WOLFENSOHNは三つの政策を求めます.1.出遅れ組の挽回を図る.2.グローバル化集団を国際秩序に取り込む.3.中国やインドなど,グローバル化集団は国内の平等化と改革を進める.「より平等な世界をつくりたければ,貿易,投資,援助,移民といった従来の伝達機関を包括的・統一的にスケール・アップするだけでなく,世界的な制度を改善しなければならない.」


WP Wednesday, November 28, 2007

Ghosts of Rwanda

By Michael Gerson

(コメント) 「私が通りであった男性は,家のそばに母親と父親,そして兄弟姉妹たちを埋葬したとき,まだ14歳であったと知る.」

ルワンダはジェノサイドを経験した国です.生き残った者たちは,今もそのときの記憶が鮮明に残っている,と言います.その起源は,一部には,ヨーロッパの植民地支配にさかのぼります.

ルワンダにおける加害者と被害者との和解はヨーロッパよりも困難であろう,ということです.彼らはあまりにも近くにいて,直接,激しい暴力をふるい(振るわれ)ました.ヨーロッパのユダヤ人はきわめて少数になったけれど,ツチ族とフツ族は今も勢力が拮抗しています.告発や訴追は十分に行えません.

虐殺が始まってから,狩られる者たちを自宅が一杯になるまでかくまった夫人が,一人を拒んだ後,泣きながら去る友人を見て呼び戻したそうです.「戻ってほしい.さもないと,あなたの涙が私を永遠に裁くから.」 しかし世界は,当時,彼らを助けるために何もしませんでした.


FT November 28 2007

France burns again

(コメント) 2年前にパリ郊外から地方都市にまで広がった,移民の2・3世による放火と略奪は,サルコジ大統領が外交に忙しく,労働組合のストライキに譲歩する姿勢を示すなかで,再発しました.サルコジは社会住宅の再建や地域の再生,インナーシティーの学校改善など,財源を与え,移民出身の改革派を起用して,選挙後もその改革姿勢を強調してきました.「マーシャル・プラン」を唱えて,多様で開放的なフランスを実現するはずでした.

しかし,彼は自分で移民たちの住む郊外都市を訪れません.サルコジの政治的優先順位はそこに無く,既存のシステム内部に特権を得ている人々を懐柔することに熱心です.郊外都市の若者たちは「希望と機会」を求めて再び叛乱を起こしました.これはサルコジの改革を試す本当の舞台なのです.


FT November 29 2007

Global response needed to the shifting world order

By Philip Stephens

グローバリゼーションの話には飽きている.中国が生産する電子レンジやインドのエンジニアを数えても仕方ない.これまで世界から切り離されていた数億人が政治的・経済的に覚醒したことが,世界の繁栄と安全保障のすべてを変える重大な変化となっている.中国は購買力でみて2015年にアメリカの経済規模と等しくなり,2025年までには明確に凌駕するだろう.

経済統合は19世紀以来,世界のパワーを移動させる最大の激変であった.政治的影響力と軍事力のシフトは,経済的変化に遅れて起きるだろう.

2世紀遅れて,中国はこの地政学を再発見した.インドについても,そのソフトパワーはいたるところに存在する.

グローバリゼーションの前進は不可避のものではない.ワシントンで会ったアメリカ政府高官は,グローバリゼーションがアメリカでもはや「政治的に持続可能」ではない,と語った.自由貿易は議会の多数を抑えられなくなり,アウトソーシングが中産階級の職場に与える影響(と想定されたもの)は,保護主義の炎を上げた.これに加えて巨万の富を支配する政府系投資信託がアメリカの資産を狙っている,という経済的な意味だけでなく戦略的な不安が高まっている.中国との戦略上の戦いが遅かれ早かれ避けられない,というワシントンの一部政治家による主張も不安をあおる.

ヨーロッパでも,フランスに限らず,同様の不安がある.自由貿易派のチャンピオンであるマンデルソンEU通商代表が北京を訪れ,知的所有権の保護,製造物の基準,為替レート操作,といった多くの不満を述べた.

ワシントンに広まる深刻な関心がある.ベルリンの壁崩壊後,グローバリゼーションは発展した経済によって行われてきた.財市場と金融市場の開放は,いわゆるワシントン・コンセンサスの枠組みであった.技術はシリコンバレーが供給していた.

しかし突如として,グローバリゼーションはアジアのものになった.豊かな国が他の世界に,もちろんすべての者の利益として及ぼすものであったが,今では誰かが彼ら(豊かな国)に及ぼしている.その誰かが中国であるのは,特にワシントンで好まれない.保護主義の衝動に戦略的不安が重なる.

しかし,グローバリゼーションを逆転するのは難しい.統合化の経済的・技術的な動力は,情報技術やサービス業や製造業の革新により,ますます強まっている.世界経済を享受した何億人もの人々が再び畑に戻るとは思えない.グローバリゼーションは自律的な拡大能力を得た.

それを止める衝突もありうる.世界経済が景気後退に入り,貿易戦争と近隣窮乏化政策が不況を恐慌にする.または地政学的な事件として,アメリカと中国が台湾を巡って衝突するかもしれない.

2008年がどうなるか,と悲観しているだろう.政府が経済統合に反応して効果的なグローバル・ガバナンスを築く緊急の行動を取るという兆候があれば,われわれは楽観しても良い.その結末はわからないが,グローバリゼーションが世界を変える.

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The Economist November 10th 2007

Technology in Asia: Howling at the moon

China: Beware of demob

Toyota: A wobble on the road to the top

Economics focus: Buying off the opposition

(コメント) 特集記事には興味を持てず,拾い読みしてやめました.そのLeaderでは,中国とインドの技術力・研究開発投資は日本や韓国を見習った産業政策ではなく,多国籍企業による,と断言します.アジアが技術力でも急速にキャッチ・アップする,という見方を否定しています.その限界は政府もしくは政治システムです.

政治的限界については,中国の軍隊組織が示す不満を,北京政府がどこまで吸収できるか,ここで問題が起きるかもしれません.日本で交換を持った記事が載るのはトヨタのことぐらいですが,ここでは世界一の自動車会社になる不安と問題点が示されています(しかし私には説得的と思えませんでした).

経済学の焦点として,アメリカの自由貿易を政治的に救済する方策が論じられています.つまり,「反対派を買収せよ!」です.1.アメリカ国内で大規模な再分配政策を導入して,労働者に自由化反対を取り下げてもらう.2.グローバリゼーションによる雇用不安を解消するためにTAA(貿易調整支援)による支給を拡大するか,失業保険を拡充する.3.自由化されたダイナミックな経済の利点を説明する.


The Economist November 10th 2007

School reform: From broken windows to broken schools

New York’s school: The great experiment

(コメント) ニューヨークのジュリアーニ前市長が警察を改革したように,ブルームバーグ現市長は学校を改革しようとしています.学校に非常事態を宣言し,市長の直接管理下に置いて,改革案を実現しました.その資金も議会に財源を認めてもらう政治論争を回避し,資産家たちの協力で用意した,というわけです.何とも・・・アメリカ的?です.

「学校の独占を廃止せよ!」 学校経営を教育委員会と労働組合から解き放ち,市長の手によって競争させます.より大きな経営の弾力性と,より大きな説明責任を求めます.学校の成績が振るわないと校長先生を解雇します.成績が改善するとボーナスを出します.校長が交代しても改善しない学校は廃校にします.大きな学校は分割し,同じ校舎を利用しても別々に経営して競争させます.優れたチャーター・スクールをモデルにします.IBMと協力し,ニューヨーク市のコンピューターと膨大な情報を利用させます.


The Economist November 10th 2007

Europe !!!!!!!!!!

Italy and immigration: Disharmony and tension

France’s suburbs: Two years on

Belgium’s governmentlessness: The BHV question

Georgia’s protests: People power

Russia’s past: The rewriting of history

Charlemagne: Post-enlargement stress

(コメント) あまり期待しなかった号ですが,ヨーロッパの記事を読んで目が覚めました.ヨーロッパは激変の土地です.

イタリアに流入するルーマニアからのジプシーに対して,人権を無視した犯罪行為や差別が行われているようです.フランスのサルコジ大統領は,郊外の移民23世を社会的・経済的に統合する計画を進めるはずでしたが,その期待に応えていません.ベルギーでは「政府のない状態」が続いて,旧来の重要な合意が翻されました.グルジアに起きた人民革命はその抵抗の英雄を大統領にして改革を夢見たけれど,指導者に裏切られたようです.ロシアのプーチンは歴史教科書の方針を示し,プーチン王朝の基礎を示すイデオロギーに着手したようです.

このヨーロッパの混乱,ヨーロッパの政治的反動は,どこまで続くのでしょうか?  EU統合こそが世界の最重要な経済・通貨圏,指導的国家群として,国際秩序に君臨する,そのためのダイナミズムを実現できる,と説得し続けたヨーロッパの支配層は,権威を失いつつあるのです.「将来のEU加盟を約束するから,苦しいことでも我慢して,EUの基準を満たすまで改革に邁進せよ!」という「拡大のグレート・バーゲン」がもたらす政治的魅力が色褪せてしまった,ということです.