IPEの果樹園2007

今週のReview

11/19-24

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

社会的移動性, パキスタン, ドル安, 世界所得の不平等な分配, 移民政策論, 世界社会, 統一朝鮮暫定政府, チェチェン, 宗教の復活

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT November 8 2007

There is too much social mobility in Britain

By Jamie Whyte

(コメント) イギリスの「社会的移動性」に関する面白い論説です.アンソニー・ギデンズのように,社会的移動性が足りない,もっと教育に投資せよ,という労働党の政策を支持する者に,この論説は挑みます.

こんなデータが紹介されています.イギリス男性(30歳)の所得階層を4つに分け,彼らが10歳の時の父親の所得階層と比べるのです.もし完全な社会的移動性があれば,どの階層でも,その父親は均等に25%ずつ各階層に属しているだろう,というわけです.逆に,所得階層で見て移動性がない場合は,父親と息子が100%同じ階層に属しているはずです.

さて,イギリスのデータは(私にとって)意外なほどの高い移動性を示しています.第二の階層に属した者が,30歳になるとき,第一の階層に上昇する割合は24%,第二の階層にとどまるのが29%,第三の階層に落ちる24%,第四の階層に落ちる23%,という割合です.これはすごいな,全然身分制や階級社会とは思えない,と私は感心しました.

しかし,ギデンズは他国と比べて,フィンランド,スウェーデン,ノルウェー,デンマーク,ドイツの移動性はイギリスよりも高く,アメリカは低かった,ということに注目します.そして,これは所得格差が小さいからであろう,と考えるのです.

さて,Jamie Whyteは,二つの点で反対します.ひとつは,所得の格差が変わっても,移動性の比較には影響がない,ということです.二つは別の問題です.また,もう一つの批判は,社会的移動性はコストを伴う.だから高いほど望ましい,とは言えないわけです.この比較方法(絶対水準ではなく,全体を4つに分ける)では,必ず上昇する者と下落する者がおり,ゼロサムです.しかも,移動性にはコストがともなうので,事実上,マイナス(これは変ですが)なのです.

私は,ギデンズと同様,所得格差が少ないことは移動性を改善すると思いますし,教育によって移動性を改善せよ,という主張にも根拠があるように思います.この分析手法との整合性に問題である,というのはその通りです.日本はどうでしょうか?


Asia Times Online, Nov 10, 2007

What's Chinese for 'Ponzi'?

By Chan Akya

FT November 12 2007

Inflation: China’s least wanted export

FT November 12 2007

Asian inflation poses a problem for us all

Tim Bond

NYT November 14, 2007

Chinese Prices Surge Again, Despite New Controls

By KEITH BRADSHER

(コメント) 土地や株式の価値が膨張して人々は一気に金持ちになった.それは消費を促し,物価が上昇し始める.けれど,資産が増えればインフレも気にならない.ということでしょうか?

当然中国のエコノミストやアナリストは,このバブルの将来を考えます.為替レートを安定化するために金利を上げることをためらい,バブルが膨張し続ければ,日本がそうであったように,バブル崩壊により金融システムは不良債権を抱え,消費者は資産の消滅によって消費を止めてしまうでしょう.

株価の市場評価額で世界の10大企業には,中国の企業が4社もあり,アメリカはそれに次いで3社ある,というのは確かに驚きです.その理由の一部は,バンク・オブ・アメリカやシティ・グループが,最近の金融波乱で順位を落としたからですが,Chan Akyaは,中国の行方を憂慮します.その理由は,1.人民元レートを安定化するために通貨供給が増えすぎている,2.政府が株価水準を維持したがるために投資家を過度に強気にしている,3.企業の会計や財務管理がデタラメである,4.政府が企業経営や株式上場を管理している.

これらを説明するのに,やはり日本がしばしば言及されます.

食用油を購入するために焦点に殺到した人々で死者が出たことを,FTは中国におけるインフレの犠牲者として重視します.インフレは食用油だけでなく食料品全般に起きており,工業製品でも確認されています.

FTは,それが中国にとって悪いニュースであるだけでなく,「中国価格」を利用してインフレを抑えてきた世界の裕福な諸国でもインフレが復活するだろう,と懸念します.これまで生産性の上昇が輸出価格を抑えてきましたが,人民元の増価が進めば,それも終わるでしょう.今度は,中国のインフレが次第に世界に輸出されるのです.しかも,もし中国が国内インフレを抑えるために人民元を大幅に切り上げるなら,その影響は一種の「石油ショック」として波及します.

他方,アメリカの金融政策はジレンマに直面しています.金融市場の混乱から不況に陥るでしょうが,インフレやドル安にも注意しなければなりません.金利を引き下げることは,モラル・ハザードだけでなく,インフレの再現やドル暴落の引き金ともなります.

Tim Bondは,ここでアメリカと中国のインフレや金融政策(さらにドル暴落や金融市場不安)は互いに影響し合う,と主張します.

「このジレンマから逃れる唯一の道は,相互作用するアジアとアメリカの金融政策を変えることだ.国際合意が必要である.アジアの金融当局はドルに対する通貨の増価を許す.こうして国内通貨供給は抑制され,インフレ(の波及)や原材料国際価格の高騰も緩和されるだろう.そして,そのような合意がない限り,アメリカの金融資産市場は下落し続けるのだ.」

しかし,実際に中国政府が取っている政策は,地方の争議を抑えるために価格を統制する,というものです.一党支配による中国の政治システムは成長の維持と労働者たちへの生活水準改善を訴えるしかありません.10月の食料価格が前年比17.6%も上昇したのは,まさに政治的な危機を意味するのです.価格統制は供給を細らせ,少しでも安い商店の前には,人々の行列がさらに長くなります.

輸入原材料の価格を抑えるために人民元を増価させ,輸出先をアメリカからヨーロッパに変えることが起きるでしょう.もしヨーロッパの景気が悪化すれば,国際的な政治対立は不可避です.

Nov. 15 (Bloomberg)

Money Is Key to Solving Many of China's Puzzles

Andy Mukherjee

(コメント) 欧米の金融逼迫によって,為替レート調整,インフレ抑制,金融政策,国際収支不均衡,そして米中関係が,これまで以上に鮮明になってくるでしょう.

Andy Mukherjeeは,中国の謎,を列挙します.1.中国の輸入原材料は価格が上昇している.それでも輸出は減らないのはなぜか? 2.しかも,中国の成長率は他の主要国よりも高い.なぜ経常収支が赤字ではなく,むしろ黒字を増やすのか? 3.なぜ巨額の投資を賄い,しかも経常収支の黒字を出し続けるような国内貯蓄が行えるのか? 

Michael Mussaによれば,その答えはアジア諸国の(事実上の)ドルペッグ制です.中国の急速な成長には貨幣が必要です.貨幣の供給を増やすには,最終的に,中央銀行が国内資産(国債)を買うか,外貨準備を増やすことしかありません.

しかし,ドルに対する為替レートの増価を拒むために,外貨準備を増やし続ける中国は,外貨準備を増やしつつ,それによって増加した貨幣供給を国内資産の売却によって吸収しなければなりません.いわゆる,不胎化介入です.その結果は,国内でさらに国債が購入され,貯蓄が増えることになるのです.

人民元は安く,貨幣供給は増えず,銀行は人民元を好調な輸出向け企業に融資して投資を助けます.それゆえますます輸出が伸びるわけです.これは重要な点で日本と違います.日本では,資本取引が自由化されていたので,巨額の資本が海外に融資・投資されました.それがバブルと円安・ドル高を維持したわけです.

いずれ中国もバブルが破裂します.資産価値の消滅が徐々に,あるいは急激に,処理される場合,不良債権と損失を持つ主体や彼らの処理方法は,やはり日本と違うわけです.


The Guardian Friday November 9, 2007

We can best stop terror by civil, not military, means

Amartya Sen

(コメント) The Commonwealth Commission report Civil Paths to Peaceに関するA.センのコメントです.センは,決して軍事的な手段,犯罪者への対策を否定していません.しかし,間違った情報に基づいた作戦,市民的な手段と切り離された対策は失敗する,と主張します.むしろ体系的に市民関係を再生することが成功の条件なのです.

平和への道を広げよ,というのです.それ以上の示唆を読み込むのは難しいかもしれません.


WP Friday, November 9, 2007

Marcos . . . Pinochet . . . Musharraf?

By Charles Krauthammer

(コメント) イスラム過激派の攻撃を理由に大統領は非常事態宣言を行い,市民社会の法律を無視しました.人々は通りに出て抗議活動を繰り広げ,鎮圧部隊が彼らを叩きのめします.ミャンマーではなく,ブッシュ政権が支持してきたパキスタンです.

ハーヴァード大学でアメリカ政治を学び,1973年に卒業したブット元首相は,アメリカ政府が海外で動く理由をよく知っています.「アメリカは世界のどこであれ独差者を許さない.アメリカは抑圧される者の側に立つ.」と,その行動を促すのです.

しかし,それは出来ない相談だ,とCharles Krauthammerは明言します.世界を民主化する,と一般に主張していることと,実際に世界中で独裁者を倒すために行動することとは違う.アメリカ政府は,現地の事情や戦略上の必要性を考慮し,日々の外交を決定する,と.たとえば,エジプトやサウジアラビアに対して,アメリカが今すぐ民主化を求めることはあり得ないのです.

アメリカが独裁者と組んだのは初めてではない,とも書きます.ベトナム戦争に敗北した冷戦の続く時期には,チリのピノチェトやフィリピンのマルコスとも手を組みました.政府を批判する者は,アメリカの偽善を糾弾しました.

しかし,1980年代に二つの変化が起きました.対外的には冷戦が終結し,また,国内条件としてチリでもフィリピンでも民主化運動が国民に広く支持されたのです.それゆえレーガン政権は両国の民主化=人民革命を積極的に支援しました.パキスタンではどうでしょうか?

ムシャラフはアメリカの支援によってイスラム過激派との戦争を選択しましたが,国内の改革は進まず,戦争に勝利する見込みも不透明なままです.しかし,二つの条件をどう考えるべきか? とKrauthammerは問います.どちらも弱い,と.ライス国務長官は,パキスタンを支える軍組織と市民組織を協力する合意を求めました.ブットの帰国はムシャラフとの政治合意が前提とされていたのです.

ムシャラフの選択は相談なしに行われ,双方が合意を捨てました.

BG November 13, 2007

What Musharraf could not abide

By H.D.S. Greenway

LAT November 14, 2007

Aunt Benazir's false promises

By Fatima Bhutto

(コメント) ムシャラフは裁判官や反対する政治家を逮捕させ,憲法裁判所を無視しました.民主主義による社会の転換などに頼っていられない,というわけです.ムシャラフも,今のアメリカが何を求めているかよく知っています.パキスタンでは,アフガニスタンと違い,アルカイダの幹部が逮捕あるいは処刑されています.

ムシャラフが述べたように,パキスタンの民主主義は不完全です.軍はその政治的な統一を保つ重要な機関であり,経済や社会にも浸透しています.他方,投票は地主によって支配されていると言えます.軍隊は規律を失い,戦うことなく降伏しており,イスラム過激派の攻勢が強まるなかで政治的な紛糾を続けることは望ましくない,というわけです.その通りです.

テロの専門家が指摘するように,民主的な政府であればテロを掃討できるわけではありません.多くの民主主義国家はテロと戦う十分な措置をとれず,あるいは,国民の意思を示すこともできません.パキスタン政府には核兵器を安全に管理する重要な役割もあります.しかし,同時にこの非常事態宣言の目的は,裁判所の判断を回避して,ムシャラフが将軍から大統領になることでした.

Fatima Bhuttoは,この宣言で最も利益を得たのはブット女史である,と主張します.自宅軟禁と言われるが,彼女は支持者たちと会談を重ねています.彼女は夫とともに収賄を重ね,パキスタンの富の10%を盗んだ人物だ,と.またブット女史は国内の平和を維持することもできないだろう.私の父は,その姉であるブット女史が首相であるときも軍事政権下の99の告発と死刑求刑と闘い続けた.そして他の6人と一緒に軍に暗殺されたのだ,と主張します.

パキスタン民衆にとって最悪のケースは,ネオコンの主張を実現するために,民主化は葬り去られ,ムシャラフやブット女史のような政治家に利用されることです.アメリカ政府,ライス長官が直面する選択とは,このようなものです.


FT November 9 2007

An abduction of idealism

By Christopher Caldwell

(コメント) アフリカの東部には,破たん国家の卵,イスラム過激派の肥沃な土壌が用意されています.エチオピア,スーダン,チャド,ソマリア,など.それらは,西側の人道的介入が残した遺産であるか,あるいは,今もそのような介入が効果を上げると期待されている地域です.

そこに現れた孤児たちを救済するZoe’s Arkというフランスの団体は,一体,何であったのか? FTはこの件について,奇妙な理想主義を振り回す団体に,国家が奇妙なナショナリズムやジェノサイド批判,そして文明の優位を主張している,という見方です.人道主義は,その単純さと無私の姿勢によって,誰にも否定できない主張のように見えますが,現実に擁護される具体的な行動としては,まだ,何も意味していないのです.


FT November 9 2007

The world’s currency could be a US problem

By Krishna Guha

The Guardian Monday November 12, 2007

US dollar :The greenback blues

NYT November 12, 2007

Dollar Policy: Don Ask, Don Tell

WP Monday, November 12, 2007

The Dollar In Danger

By Sebastian Mallaby

(コメント) ドル安はアメリカにとって何も問題ないのか? アメリカ人はそんなことを言うが,もちろん不況とドル安が重なればそうは言わないでしょう.すでに2002年をピークとして貿易額に加重平均して24%も,特にユーロに対しては41.2%も,ドル安が進んでいます.

ヨーロッパでは競争力の低下やアメリカに投資した収益が失われたことを憤慨しています.ドルの国際的な使用も悪影響を受けるでしょう.1.もはやアメリカの金融政策が決定的ではなく,為替レートが重要だ.2.それゆえ,海外投資家のアメリカに対する信頼を失うことは恐ろしい.3.アメリカ連銀は株価下落やアメリカの不況をいつも救済するわけにいかない.

中央銀行家(たとえば中国の人民銀行総裁)やファンド・マネージャー(Jim Rogers and Warren Buffett),石油輸出諸国だけでなく,世界を舞台に活躍する職業であれば,支払われる通貨がドルかユーロであり,ドル安によってますますユーロを欲しくなるのは当然です.世界のトップ・モデルたち(たとえばブラジルのGisele Bündchen)も,プロ・ゴルファーやレーサーも,オーケストラの指揮者も,(ドバイの)出稼ぎ労働者や(イラクの)傭兵も,ドルよりユーロで支払うように求めるはずです.

アメリカの貿易赤字7600億ドルは,何と,オーストラリアが2006年に生産した総額に等しいのです.それにもかかわらず,クリントン政権の時代には「ドル高」政策が採られ,資本流入によって貿易赤字を支払うことに成功しました.外国の中央銀行が介入によってアメリカの証券を買い続けたことも幸いでした.

しかし,幸いも過ぎると不幸に転じます.もはや不安定なウォール街は世界の資本を吸収することができず,貿易赤字を放置したツケを国民は支払わねばなりません.ドル安を受け入れ,貯蓄を増やし,そのために不況を招いても,一層のドル安や低金利は選択できないのです.

他方,ユーロもまだ誕生して5年しかたたず,加盟国によってはユーロ安を望むことが明らかです.金融政策には対立が生じます.世界の準備通貨がドルからユーロに変わると断定するには早すぎます.中央銀行家や民間投資家は,ドルとユーロのバランスを少しずつ変え,投機家は市場に不安が高まるときを狙って儲けます.

アメリカ財務省は,かつてのような「ドル高歓迎」だけでは済みません.現実にドル安が止まらない以上,一体,アメリカ政府はどこまでドル安に耐えられるのか? 為替レートは市場が決める,と言い続けられるのはどこまでか? と問われています.インフレや金利に影響し,生活水準や雇用にも影響します.「それはあなたたちの問題だ.」とばかり言ってはおれないでしょう.

SPIEGEL ONLINE - November 13, 2007

WEST WING :A Pearl Harbor without War

By Gabor Steingart in Washington, D.C.

Nov. 15 (Bloomberg)

Droopy Dollar May Be U.S. Economy's Biggest Asset

David Pauly

(コメント) 以前は日本が担っていたはずのアメリカ過剰消費を支える役割を,日本だけでなく中国も担うようになっただけで,その関心が一気に高まったわけです.

「アメリカにとって,ドル(外貨準備)を放棄するという中国人の決定は戦争によらない真珠湾攻撃と同じである.それは世界最大の経済が,世界最速の成長経済に挑戦されたことを意味する.その結果として何百万人もの生活水準が悪化し,すでに揺らいでいるアメリカ人の自信は一層損なわれる.アメリカはその縄張りである経済領域において,致命的な一撃を食らうのだ.」

既にアメリカは輸出市場をアジアの新興経済に次々と奪われ,世界最大の債権国から世界最大の債務国へ転落した.真珠湾攻撃の兆候を傍受しながら,1941年には,まさかそんなことをするはずがないと思ったように,今も,アメリカの金融街は中国がドルを捨てるはずはない,と安眠できるのか? とドイツ誌SPIEGELは問います.

日本がどうするかは何も書いていませんが,たとえばポンドがユーロに参加し,日本・円がアジア共通通貨構想を目指して共通のバスケットに対して通貨介入を行うようになれば,そして,産油諸国がユーロ・ドル・アジア通貨で資産を分散して保有する時代になるのでしょう.しかし,日本政府や日銀はそのような検討を積極的に行っているのかどうか? もっと民間企業や投資家に将来像を示す必要があるでしょう.

あるいは,安全保障も通貨政策,アメリカと一致していることが何よりも重要だ,と言い続けるのでしょうか?

逆に,David Paulyは,ドル安によって輸出が伸びるから,当面アメリカは景気を刺激できる,と考えます.インフレは生産性上昇と競争の激しさによって加速しません.もしドル安が進むことでアメリカの景気が良くなるのであれば,ドル暴落は杞憂なのです.


The Guardian Saturday November 10, 2007

To have and to have not

Kenneth Rogoff

(コメント) 天文学的な世界の不平等について,11歳の息子Gabrielにその理由を教えようと努めたが,・・・とKenneth Rogoffは書きます.

息子はビル・ゲイツの600億ドルの資産にしびれてしまったようです.これは何よりもすごい,と.資産の価値より美術品や天才的なスポーツ選手の方が優れている,と説得しても,ビル・ゲイツなら美術館ごと,ナショナル・リーグごと,買い取ってしまえる,とGabriel君は考えるわけです.

話は転じて,フォーチュン誌の世界の資産家を見て,ニューヨーク市長のMichael Bloombergを含めて9人が得た昨年の稼ぎは合わせて550億ドル.これは国民総生産で比べても100カ国以上を抜いているそうです.しかし,彼らは同時に巨額の寄付を行っている,ゲイツとバフェットが特に有名ですが,このことをGabriel君に教えます.その寄付額は世界で最も貧しい10億人の3か月分の所得に匹敵します.

また,当然,そんなに稼ぐのであれば,いっそもっと課税して,貧しい人びとのために使うべきではないか? という点に言及します.しかしRogoffは,富を再分配すれば貧困がなくなる,という皮相な意見を拒み,貧しい国に対する有効な援助は,豊かな国が市場を開放し,彼らのインフラ整備に投資してやることだ,と教えます.

そして,超富裕層は同時に超創造的な人々であり,多くの価値をもたらしている,と考えます.だから,彼らに課税しすぎて自分の国から出て行ってしまうことや,価値の創造を妨げてはならないのです.それには,世界で統一的なフラット・タックス(せめて消費税)を設け,かなり大きな課税控除額を示すことだ,と主張します.

こうして,世界の超富裕層は富を増やす限りのびのびと資産を増やすことができ,世界のどこにおいても等しく課税されます.世界貿易は貧しい国に大きく開放され,世界を結びつける輸送や情報通信網には積極的な公共投資が行われます.こうした未来社会では,超富裕層がもっと祝福されるわけです.


The Guardian Saturday November 10, 2007

When small is not beautiful

Ian Buruma

(コメント) ヨーロッパの小国,スイス,ベルギー,オランダは,平和で,経済的にも裕福で,リベラルな社会である,と思われていました.世界の小国が紛争や侵略の惨禍を繰り返し経験し,非常に不安定な政治や経済に翻弄されながら生きているのと比べて,何と幸せな諸国であるか.

ところが,スイスでもベルギーでも,人種差別をあからさまに主張し,外国人や移民の排斥・追放を唱える政治集団が,選挙において,急速に支持を拡大しています.

「これらの政党や運動に共通しているのは,生まれつきの市民たちが,移民流入や犯罪増加,イスラム過激派を防ぐことができないリベラルな政治エリートたちに,また,国家の主権を掘り崩すEU官僚や世界資本主義に,失望していることだ.」

この感覚はヨーロッパの他の諸国にもあるが,特に小国では政治エリートの無力さが顕著に問題視されます.しかし,民族主義的右派の政治的な伝統がなかったオランダでも同じ問題が拡大していることに,大きなショックが感じられます.

Ian Burumaは,しかし,ソマリア生まれの難民としてオランダに入国し,市民権を得て国会の議席を得るようになったAyaan Hirsi Aliが,イスラム過激派から脅迫され,アメリカに逃れた事件を考察しています.Aliの権利や政治家としての社会的上昇は,難民として入国してから10年における変化であり,オランダ以外には起こり得ないような現象です.しかし,Aliはこの機会を,ソマリアやイスラム教国家の女性差別と宗教による抑圧に対する糾弾の場に変えてしまいました.Aliの支持者たちが彼女から離れていったことをBurumaは指摘します.

ヨーロッパの小国は,その開放性とリベラルな政治的伝統を誇るにもかかわらず,それゆえに,その伝統からはみ出すことについて非常に慎重であり,保守的であるしかない,と認めます.


Robert Satloff How to Win The War Of Ideas WP Saturday, November 10, 2007

Kaveh L Afrasiabi The illusion of American 'smart power' Asia Times Online, Nov 13, 2007

Woody Tasch$1 trillion to the rescue CSM November 15, 2007

(コメント) ブッシュ政権は,イラク,アフガニスタン,そして世界中で「テロとの戦い」を展開しているが,「アイデアをめぐる戦い」には十分な見通しがない,と批判します.外交官や留学生を招き,アメリカの政治や文化にも親しく接してもらう,などです.

Kaveh L Afrasiabiは,「スマート・ウォー」に関するCenter for Strategic and International Studies (CSIS)の報告書を紹介しています.この報告書はJoseph NyeRichard Armitageが指導してまとめられました.しかし,その内容は折衷的で,既知のものである,とAfrasiabi批判しています.これはミシェル・フーコーが指摘した政府当局による思想の生産である,と.特に,当たり前の二元論的なパワーの分類を,もっと優れた先行思想に言及することもなく繰り返している,ハーヴァード大学教授,J.ナイに対する厳しい非難です.

他方,エコノミストたちはイラク戦争のコストを1兆ドルか,それ以上,と見積もったわけです.もうあと1兆ドルを政府が使うとしたら,やはり戦争に使うのか? と考えます.あるいは人類や稀少生物種のために使ってはどうか? この資金で,世界経済の急激な変化に合わせて行うべき改革を実行してはどうか? アメリカの世界的な指導力を回復するために使ってはどうか? あるいは・・・

次の戦争をする前に,人々はよく考えてほしい,と.


CSM November 09, 2007

A plan to keep needed foreign laborers

By Lionel Sosa

(コメント) Lionel Sosaは,基本的な移民擁護論のエッセンスを示しています.

1250万人の非合法移民に対して,彼らを強制送還するために税金を使う必要はなく,彼らに労働ビザを認めるべきです.なぜなら彼らは私たちの求めに応じて,働くためにアメリカに来たのであるから.彼らが秩序正しくこの国で働けるようなシステムを提供するべきです.

アメリカ人は彼らに自分たちの子供が望まないような仕事を引き受けてもらい,その代わりに移民たちが自国で稼ぐ数倍の賃金を支払うのです.それは双方の利益になる正当な契約です.彼らを追放したいならそれは簡単です.彼らを解雇すれば,仕事のない移民たちは数ヶ月後には帰国しています.

アメリカは移民を拒む国ではありません.もしメキシコとの国境に2000マイルの壁を建設したら,移民たちを励ますニューヨークの自由の女神に代って,この新しいベルリンの壁がアメリカのシンボルになるでしょう.アメリカ人が望むのは,国境地帯についても,法と秩序を維持することです.

だから壁など要らないし,国外退去も必要ないのです.アメリカ国内で雇用を見出す移民たちには労働ビザを発行することです.彼らは仕事をもち,英語を学ぶ必要があります.家族たちは自国にとどまり,その代わりいつでも両国を往来できます.

こうしてやみ市場に隠れた人々は正式に雇用され,家族と会い,法の支配が行き渡るのです.それはアメリカ人にも移民たちにも幸せなことです.

FT November 12 2007

Hearts, minds and immigration

By Gideon Rachman

(コメント) こちらはイギリスにおいて移民政策論争に正当なバランスを求めた論説です.

移民がロンドンのどのような職場で働いているか,調査した資料によれば,それは高度な熟練職と,定休の未熟練職でした.最上部と最底辺です.この資料は,しばしば政治問題として過熱した論争の末に,「イギリスの雇用はイギリス人のために」などと約束する政治家の非現実性を示しています.最上部ではイギリス人の有資格者が足りないから移民を雇うのであり,最底辺ではイギリス人が働きたがらないから移民を雇うのです.

ヨーロッパじゅうで移民の規制を求める声が強まっていますが,Gideon Rachmanは楽観しています.移民は不可避である,という理由からではなく,移民を規制する強力な措置は好まれないからです.

移民をめぐる論争も,過熱しているけれど,選挙ではそれほど成功していません.いずれの国でも,移民排斥の人種差別政党は支持を拡大していません.確かに多くの人々は移民を流入に関して批判的ですが,選挙の争点としてこの問題をそれほど重視していないか,あるいは,原則としては自由な社会を支持しているからです.

移民反対派でも極端な措置は避けたいのであり,移民擁護派でも完全に規制しなくてよいとは主張しません.彼らの主張はいずれも「正しく管理された移民」なのです.その水準や方法を巡っても,経済的な明確な基準は示せません.移民は短期的には低賃金の未熟練労働者を国内で不利にするでしょう.しかし,長期的には経済全体に起業家や柔軟性を増します.ただし,その利益は一人当たりで富を増やすほどではない,と推定されます.

非合法移民を排除しよう,と言うのも,不可能ではありません.過熱した論争の末に,イタリア政府はルーマニア移民の住む居住区域をブルドーザーで破壊しました.しかし,こうした行動がどこでも増えてくる,とは思えません.厳しい移民規制のためには国境警備が時間を要し,行列が伸びることになります.今まで拒んできたIDカードが強制されるかもしれません.雇用主はより厳しく規制されるでしょう.そして,国境に本気で壁を建設すれば,確かに非合法移民が減るはずです(少なくとも一時的には).

しかし,非合法移民をこうした手段で減らした社会は,その国民にとって望ましい社会ではないでしょう.彼らはそこまでしたいとは思わないのです.それは社会的・政治的な選択の問題です.


LAT November 12, 2007

Fiscal foolishness

By Robert Kuttner

(コメント) 今回の金融危機に関する一つの基本的な解釈を示しています.それは,1929年の大恐慌により反省の末に否定した「レッセ・フェール資本主義」を再生したことの結果だ,というものです.金融技術や取引,そしてイデオロギーが変化した結果,今度は違う,市場は自己規律によってダイナミックに発展し続けることができる,という主張が政府・議会を動かしたのです.

大恐慌を経て,政府は情報開示や銀行の監督を強化したし,利益の相反関係を厳しくチェックし,銀行が証券や株式の売買にかかわることを禁止しました.その結果,第二次大戦後は,金融が実物経済の拡大にとって付随的な地位に置かれたのです.それは経済の支配者ではなく,下僕・従者でした.

規制緩和のイデオロギーはこうした枠組みを解体し,錬金術的な金融ビジネスを投機的な利益で膨らませました.不思議の国のアリスのように,金融的な経済では融資が証券化されて売却され,格付け機関はトリプルAで信用を与えました.しかし,誰もそれが実際にはどう売られていくか,知らなかったわけです.潤沢な手数料だけが目的でした.最後は,借り手の信用を調査することもなくなったわけです.

政府や連銀は強制的な措置を取れたにもかかわらず,これらを放置しました.


Asia Times Online, Nov 13, 2007

Mixed messages from Myanmar's junta

By Larry Jagan

LAT November 15, 2007

Myanmar's repression rubies

(コメント) スーチー女史が,「国の利益になるなら,私は政府とも協力して対話を続けたい.国連がその仲介をしてくれるのを期待する」という声明を,ガンバリ特使を通じて表明しました.しかし軍事政権は,彼女が対決することをあきらめ,西側による制裁を支持するような姿勢を改めるなら話し合ってもの良い,と回答したようです.

スーチーは一貫してすべての点で話し合うことは可能だ,という姿勢を示してきた,とLarry Jaganは述べています.しかし,国連が成功したと自画自賛する特使も,実際はヤンゴンではなく山中の新首都に囚われていたのと同じです.国連もASEANも,軍事政権に対話を強制する力はないようです.

LATは,ミャンマーの宝石や,その取引を維持している企業を名指しして,そのボイコットを呼びかけています.シエラレオネに対しても有効であったと聞きますが,消費者が離反すれば,企業の方が政府よりも迅速・明確です.Tiffany & Co., Bulgari and Cartierがすでに取引を停止しました.


FT November 11 2007

‘And then what?’ A strike on Iran may be one problem too many for Bush

By Daniel Dombey, Demetri Sevastopulo and Andrew Ward

(コメント) アメリカ政府が,イランに対する軍事攻撃について,どのような立場を取るのか,ブッシュ大統領とチェイニー副大統領の過激な表現にもかかわらず,そのスタッフや,軍隊,国防総省,国務省,CIA,IEA,財務省,その他の高官やOBから証言を集めて,その可能性は低いだろう,と分析しています.

あるいは,石油価格や金融市場の不安,ドル安,EU,UN,大統領候補たち,民主党が多数を占める議会,ロシア,中国,などが,ブッシュ政権から「もう一つの戦争」という選択肢を奪ったのです.


The Guardian Tuesday November 13, 2007

Foreign policy :Fit for global purpose

The Guardian Thursday November 15, 2007

Full of good ideas

David Clark

(コメント) 日本でも,首相は所信表明演説をするわけですが,その内容によって国会が,そして周辺諸国や国際政治が動かされるのでしょうか? 安倍首相の演説には「美しい国」が何回出たとか,そう言えば解説されていましたが,自民党の長期政権と日米安保が絶対条件のように信じられてきた戦後日本では,首相の演説(そして国会論戦)に特別な意味や力は無かったのでしょう.

イギリスでは労働党政権が続いているものの,ブレアからブラウンに交代したことで,方針転換が話題になるわけです.要するに,イラク戦争から内政重視に政治の焦点が変わった,と言えます.外交に関しては,世界を変化させるsix new global forcesとして,@破たん国家,A財・サービスのグローバル・ソーシング(世界的供給体制),B気候変動,C人の国際移動,D感染爆発,Eインターネットによるシンボル・ネットワーク,を挙げています.

繰り返しますが,日本の外交方針は何で決まっているのでしょうか? 北朝鮮(特に拉致問題),中国脅威論,インド洋上の自衛隊による給油活動,日米安保,・・・FTA・EPA,トヨタ,金融不安の波及,中国市場,資源・エネルギー確保,・・・?

ブラウン首相は述べました.だから「われわれは,もはや不十分になった世界機関を更新しなければならない.われわれは新しい世界社会の中においてわれわれ自身を熟考しなければならない.」 これはブレアの基本姿勢と同じであるが,それを達成する方法には違いがある,と記事は述べています.たとえばEUとの関係です.ブラウン首相が重視する世界政治の三つの課題は,「1.平和維持活動,2.核兵器の不拡散,3.国連安保理から世界銀行まで,国際機関の改革」です.

日本政府はどうでしょうか? 幸い,よく似ている,と思います.しかし,イギリスのはるか後塵を拝す,という印象です.

David Clarkは,ブラウンの演説から"hard-headed internationalism"ではなく,the vision of an emerging "global society"を取り出して検討します.ブラウンは,グローバリゼーションや情報革命を受けて,個人や団体がより直接に国際的な関係を結ぶ<世界社会>が形成されつつある,と考えます.その場合,国家間の合意よりも,直接に個人間の合意を重視した世界市民権や法律が必要でしょう.

また,国際社会や国際協定では,世界社会に対する個人の十分な意志が表明できません.中国も含めて,いまだに個人が民主的に意見を反映できない国家が多くあります.そこで「民主的国家と市民社会の連合」を重視します.これは,批判されるような,ネオコンの煙幕にすぎないか?

この点について,最後に,アメリカとの緊密な関係をブラウンも重視します.ただし,もはや無条件に従うことはない,と明言して.


The Guardian Tuesday November 13, 2007

Strait fight

Simon Tisdall

(コメント) 中華人民共和国(中国)と中華民国(台湾)との統一と独立をめぐる対立が,アメリカをはさんで過熱しています.中国から台湾を狙う「988基のミサイル」を陳水扁大統領は軍事的な威嚇として強調します.アメリカはもっと高度な軍備を台湾に売却しなければならない,と.

しかし,アメリカはますます国際問題の処理で中国に頼るようになりました.イラン,北朝鮮,ビルマ,ダルフール,・・・中国との協力関係が不可欠です.それゆえ,中国と台湾との軍事衝突が起きないように,アメリカは中国の意向に近い形で台湾政府に圧力をかける結果となります.特に台湾の独立運動は受け入れられない,と明言します.

北京オリンピックと台湾の大統領選挙,そしてオリンピックの聖火リレーや台湾の国名変更に関する国民投票,など,衝突が起きれば,日本はアメリカ軍の基地を抱えています.


IHT Tuesday, November 13, 2007

Fear of foreign capital

By Felix G. Rohatyn

(コメント) 政府系投資ファンドがアメリカやヨーロッパ,日本の優良企業を買収し始めたことについて,資本市場の支配層からも深刻な自己点検や法律・制度の変更が議論され始めています.ノルウェーの政府系投資ファンドと,ベネズエラやロシア,中国の投資ファンドを,同じようには扱えない,と資本市場は考えます.

しかし,私には疑問があります.そもそも資本市場という意思決定のメカニズムには,怪しい論理が隠されています.投資家たちは非常に短期的な利益に向かうかもしれません.機関投資家や投資ファンドは,個人投資家の利益を損なっているかもしれません.投資が支配であり権力であること,金融資産家の富を増殖させる手段であることが,社会のために有益であるとは思えません.政治家が国営企業・銀行やその民営化を利用しないことなどあるでしょうか?

もちろん,石油資源が独裁者の国に偏って存在し,それによって軍備拡張や国際的な政治介入を自由に行えることは望ましくないのです.世界の優良企業やメディア,穀倉地帯や金融機関,軍事・輸送・情報産業を,国境を超えて次々に買収し続けるのを,各国政府は許すべきではないでしょう.

同様に,チャベスやプーチンのような人物が,国内の経済ネットワークを支配することが正しいとも思えません.


FT November 13 2007

Survival instinct: an unlikely saviour helps Japan’s LDP regain the initiative

By David Pilling

FT November 14 2007

Japan’s exposure to an external shock remains

By David Pilling

FT November 15 2007

Japan’s taxing problem

(コメント) よく言われるように,自民党はイデオロギーによる政治集団ではありません.それは自由主義的ではないし,民主的でもなく,政党ですらないのです.自民党とは,日本の支配集団が権力をプールしておく機関に過ぎません.自民党内の派閥が,人脈と金脈によって,政策実行を掲げた関連の産業界と結びつき,規制・監督権限によって,複雑な権力闘争を展開しています.離合集散を繰り返す彼らの姿は,ほとんど,原始的な政治空間です.それゆえ,国際的な舞台では3S(Smiling, Silence, Sleeping)と嘲笑されても気にしないように思います.

David Pillingの論説を読みながら,そんなことを考えました.彼は自民党を,ロシア共産党やメキシコ制度的革命党にもまして,権力の長期独占に成功した政治集団とみなします.しかし,さすがに次第に支持が失われてきたことで,危機感を持った福田首相が示した「大連立」構想は失敗しました.危機感を持っても,所詮,その目指すところは権力の独占です.

David Pillingのもう一つの論説は日本経済です.戦後最長の景気回復,企業の売上や利益が空前の伸び,などと称賛する声が聞かれますが,その一方で,労働者の賃金は上昇せず,建設業や輸出に頼った景気回復というのでは,危うい基礎しかありません.日本企業がますます中国で生産し,アメリカ市場に売ることにより利益を上げるとするなら,こうした日本の景気回復を喜ぶ者がどれほどいるのか,台湾に習って,日本の政治家たちも考えておくことです.

彼らには政治の原始時代を終わらせる意図も,グローバリゼーションを生かす戦略も,感じられません.


FT November 13 2007

Welcome to a world of runaway energy demand

Martin Wolf

NYT November 14, 2007

Coulda, Woulda, Shoulda

THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 2002年から2005年に中国の石油需要で増加した量は,今の日本の年間消費量に等しい,とMartin Wolfは冒頭に書いています.こうして3年ごとに日本が増えたら,石油の価格が上がり,供給は不足して当然です.

「新古典派経済学は経済成長を資本,労働力,技術進歩で分析した.しかし,今考えると,基本的な動力はエネルギーとアイデアである.制度や誘因は,われわれが依存している化石となった太陽エネルギーを,われわれが享受する財やサービスの流れへと転換する,有益な知識の発展と応用にふさわしい枠組みを提供しているのだ.」

この世界に,双方から,中国とロシアが加わりました.しかし,驚いたことに,IEAの報告では,2030年に現在よりも50%増えた消費量はバレル当たり60ドルで供給される,と予測しているようです.しかし,たとえそうであっても,主要な供給国は豊かな民主主義諸国と必ずしも友好的ではない国であり,そのような国に莫大な富が移転され,生活水準の維持について依存を深めているわけです.

エネルギーの供給を確保し,効率を改善し,環境保護を目指すために,政策転換や技術革新が必要です.しかし,ガソリン増税で選挙に勝つことはできません.

2001年に9・11が起きたときの石油価格はバレル当たり25.50ドルでした.20071113日,それは90ドルに達しました.THOMAS L. FRIEDMANは,アメリカがガソリン税をかけるべきだ,と主張します.それによって高価格を維持し,アメリカの富がロシア,ベネズエラ,サウジアラビア,イラン政府の収入になるのを抑えるのです.

ガソリン消費を抑えるための税金は,アメリカ政府の収入になります.アメリカの貿易赤字を減らし,財政赤字を減らし,ドル安を抑え,エネルギー効率を改善し,社会保障のための財源を用意するから,Win- Win- Win- Win- Win戦略である,と.ブッシュ大統領なら,イラク撤退を早め,イランへの攻撃を回避するためにも,ガソリン増税を主張できるはずだ,と.


FT November 13 2007

The limits of a smaller, poorer China

By Albert Keidel

(コメント) アジア開発銀行は,今までの推定に比べて,厳密な購買力平価による中国経済の規模が40%も小さい,と報告しました.中国の成長や貧困解消,開発戦略の他国への輸出,外交の影響力が,新しい推定によって変わるはずです.


Asia Times Online, Nov 15, 2007

Working through Korean unification blues

By Andrei Lankov

(コメント) これは不思議な,そして現実的で,それゆえ余りにも醜悪な,朝鮮半島の南北分断・共同管理構想です.

ドイツ統一の財政負担における悪夢,東欧における難民流出の悪夢,ロシアの国営企業解体の悪夢,メキシコ国境警備,麻薬,犯罪組織の悪夢,ラテンアメリカにおける多国籍企業の土地所有や企業買収の悪夢,・・・これらを南北暫定政権が共同管理します.

なぜなら,このままでは南北いずれの政府も,口では何と言おうとも,統一など望むはずがないからです.韓国の政治家たちはドイツの統一コストを知って,すでに,すっかり統一を嫌っています.左派はまだ「中国式の改革」を望んでいますが,それも北の延命策に過ぎません.他方,北朝鮮の支配層は,南との格差があまりにも大きいので,改革が彼らの支配を崩壊させると確信し,いかなる改革や開放にも反対します.

Andrei Lankovは,北の現政権ではなく,次の政府に移行する時を好機と考えているようです.統一のために移行期間を1015年と定めて,この期間の問題を共同管理しよう,と呼びかけます.これは連邦制ではありません.南北が(嫌っている)統一を受け入れるのです.なぜなら,いったん何かのきっかけで統合が進みだせば,世界中の例が示すように,それは政治家のどのような介入にも従わないからです.

何よりも,国境管理体制を敷きます.犯罪者の移動や密輸,貧しい移民を禁止・管理します.土地投機やさまざまな南北間の買収を禁止・管理します.土地改革,官僚,軍隊,若者の教育,中産階級の形成について,共同で管理し,民主的な体制,資本主義的な市場に統合するよう再教育します.北の労働者が南の企業の搾取される対象として永久化されるような事態を回避するために規制・介入します.また,旧体制下の犯罪や汚職を免責する合意が必要です.

あまりにも多くの幻想を捨てて,その経済的なギャップと政治的・社会的な相違を埋める現実的な体制が求められます.

ここに書かれていないことは,日本や中国がどう関わるか,という地域的な枠組みです.


BG November 14, 2007

A determined spirit guides Grozny

By Ruth Daniloff

(コメント) チェチェンの首都,グロズヌイが平和になり,復興しているという外観と,その恐怖政治の実情を伝えています.復興資金の一部は大統領がマフィアからまきあげて病院やモスク,教会の建設に充て,失業率80%の人々に平和のありがたさと恐怖の予感を絶やしません.人口の15%は殺されるか,外国に逃れたのです.

31歳の大統領,Ramzan Kadyrovは,その父親で,暗殺された前大統領Ahkmed Kadyrovとともに,プーチン型権力の模倣に過ぎません.しかし,若い絶対権力者の暴走を人々は恐れています.豪勢な外車を乗り回し,ライオンをペットにし,宮殿のような家に住み,何人もの妻を持つ.・・・


YaleGlobal, 14 November 2007

How Not to Repeat the Mistakes of the Kyoto Protocol

Scott Barrett

(コメント) Scott Barrettは,京都議定書に代わる国際環境保護協定のモデルを,モントリオール議定書に求めています.京都議定書の目標面が近づいても,温暖化ガスの排出量は着実に増えているからです.

もし環境規制を有効にしたいなら,三つの条件が要る,と論説は指摘します.1.世界中の国が参加すること.抜け穴があれば,主要な参加国も(今のアメリカのように)離脱します.WTOEUによるアメリカの鉄鋼関税を協定違反として認め,アメリカもこれを廃止しました.京都議定書にはこうした力(あるいは,従う方がよいという誘因)がありません.

2.協定の実行をあきらめないようにさせる.ところが国際社会に忠実であったはずのカナダも京都議定書の目標達成をあきらめました.その経済的なコストは重く,罰則はないし,たとえ達成しても温暖化を防げるという確信がないのです.

3.実質的な温暖化防止に従う協定に参加させる.なにも要請がなければ(中国やインドのように)参加するし,あまりにも制限が寛大であれば(ロシアのように)意味がない.他方,アメリカは参加せず,カナダは達成できない.

モントリオール議定書の成功の秘訣は,@最初からすべての国が削減に合意した.A目標の達成に飴と鞭を用意した.B一つを達成すれば次に進むような誘因を用意した.

いずれも抽象的で,私には中身がわかりませんが,何度も協定を改正した,というのは良かったと思います.個々のガスについて,さまざまな方法で,送料を減らすような合意を積み重ねる,ことを勧めています.

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The Economist November 3rd 2007

The new wars of religion

A special report on religion and public life: In God’s name

(コメント) 宗教戦争が終わり,啓蒙主義,近代化,そして産業革命によって物質世界が満たされるなら,宗教は重要ではなくなる,と考えられたにもかかわらず,むしろ1970年代から,宗教はその影響を拡大している,ということです.John Lewis Gaddisは,1970年代について,世俗的な宗教,すなわちソ連のマルクス主義は動揺し,資本主義も石油ショックやインフレによって損なわれた,と指摘します.政治家は信頼を失い,政府への期待は消滅しました.

すなわち,宗教が復活した理由は,@世俗の宗教(イデオロギーや政治集団,政策)に対する反動であり,A近代化の新しい破壊力を広めたグローバリゼーションに,宗教運動も乗ったからです.宗教はますます巨大化しながらも,それはますます個人の選択の問題となり,それゆえ,ますます資本主義やビジネスと利益を共有する運動にもなっているようです.

政治がこの動きと無縁であるはずはなく,イスラム過激派であれ,移民排斥であれ,政治の宗教化,宗教戦争の再来,が予感されます.

The Economist November 3rd 2007

Immigrants in Arkansas: Illegal, but useful

South Africa: The rise of the buppies

Foreign workers: Undercounted and over here

Gap: Clean, wholesome and American?

The IMF: Kahn do

(コメント) アメリカでは地方政府による移民への差別的扱いが強まっています.イギリスでは移民の統計が不十分であり,その問題を引きずりながら主要政党が移民規制策を競っています.

南アフリカには黒人の中産階級が生まれたのか,あるいは,再分配の行き過ぎか? 営利企業であるGAPの児童労働問題は,まだ優れた答えを模索中です.IMFも新専務理事の決定を新しい方針や仕事の始まりにしたい,と,その存在意義を模索しています.