今週のReview
11/12-17
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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移民政策論争を開始せよ, パキスタン戒厳令, ドバイの出稼ぎ労働者, 腐敗国家, ドル安歓迎, ビルマ, 小沢一郎乱心, 革新よりも簒奪, 筋肉より頭脳をもった軍隊
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT November 1 2007
Why immigration is hard to tackle
By Martin Wolf
国には,その人口の構成を決める権利があるのか? もしそうであるとしても,それはどうやって行うのか? こうした問いには答えにくい.だから,イギリス政府は「隠れた」移民受け入れ政策を行ってきた.しかし,その政策はもはや機能しない.論争する時だ.その焦点は,移民の規制は,合法か? 望ましいか? 実行可能か? である.それらに答えてから,追求する政策を決める.
イギリス政府はこの点で難しい状況にある.第一に,移民流入がきわめて大きい規模に達している.1997〜2006年に,総移入民は480万人,純移入民は160万人であった.2006年人口のそれぞれ7.8%と2.6%である.最新の予測で,2006〜2016年に人口が440万人増えるが,その半分は移入民である.
第二の理由は,この国にどれくらいの移民が要るか,政府には分っていないのだ.政治的なリスクを意識して,政府はルーマニアとブルガリアからの労働者を規制する措置を継続する,と発表した.EU外からの労働者の流入を管理するために,ポイント制度を導入した.パニックになったブラウン首相は「イギリスの職場はイギリス人労働者のものだ」とまで主張してしまった.
第三に,最も基本的な理由として,政府は適当な移民の水準を示したことがない.
国家に移民を規制する権利があるか,という問題を最初に扱うのが良いだろう.著名なエコノミストで著述家のPhilippe Legrainは,ロンドンの自由主義的シンクタンクが発行したレポートで,最近,強い主張を行った.移動の自由は人権の一つである,と主張した.その意味で,国家は一定の領域を管理する機関institutionsと定義される.その住民は人口の構成を決める権利はない.私はその主張を理解できるが,賛成しかねる.国家は単に機関ではなく,故郷・家庭homeである.住民は彼らの(集団的)故郷・家庭にだれが入るかを決める権利を持つ.
しかし,たとえ移民を規制する権利を持つと考えても,直ちに,そうするべきだ,ということにはならない.Legrainは,自由移民は世界の利益であるだけでなく,受け入れ諸国の利益でもある,という.標準的な「貿易の利益」論が示唆するように,これは正しいはずだ.しかし,もし経済的な見地で労働の自由移動を支持するなら,その起こりうる帰結にも注意する必要がある.大幅な実質賃金の格差を前提に自由移民を分析すれば,われわれは膨大なインフォーマル部門や掘立小屋の貧民窟を抱えることになる.それが貧しい諸国で起きていることだ.それが世界中でも起きないだろうか? 受入国の住民たちを,このような帰結が自分たちの利益である,と説得するのは不可能だ.
そこで,論争を規制するべき移入民の水準に向ける.ここで最も印象的なことは,政府の分析が非常にお粗末なことだ.内務省は最近,上院の委員会にその影響を報告した.われわれのように「労働定量説」という謬見を無視するものには,労働者が増えれば経済規模も増えることは明らかである.するとどうなるか? 移民は利益であると人々を説得するには,そのGDPへの影響と分配,しかも移民たちがそこから彼らの所得を取り去った後でどうなるか,を分析する必要がある.今まで,内務省がそのような分析に手をつけたこともない.
Legrainには迷いがない.彼は,移民がほとんどいつも国内労働者の補完的な存在であると考え,労働者たちの生産性や所得を引き上げている,と主張する.特に,多様性がその利益である.こうした点は重要だ.しかし,彼はまた,人口の多様性や過密がほとんどマイナスの結果を持たないと仮定している.これは信用できない.
とはいえ,論争で最も目立つのは,われわれが何も知らないことだ.Sir Nicholas Sternが気候変動に関して行ったような分析が望まれる.もし移民を規制することが不可能であれば,そのような評価も意味がない.しかし,可能性は限られるが,完全に実行不可能ではない.ただし,われわれは労働許可書のオークションといった市場となじむシステムに移行するべきであり,恣意的なポイント制ではいけない.
正直な論争を始めよう.可能な最善の分析に依拠し,倫理的な帰結も含めて.移民がたとえ減少するとしても実質的な規模で続くとすれば,こうした問題のすべてに回答しなければならない.もしそうでないと,確実に,論争はもっと不快な排外主義に向かう.移民は「隠れた」領域ではなく,はるかに開放的で,透明な,今まで以上に正しく正当化される政策である.さあ,論争を始めよう.
BG November 2, 2007
Not an answer on immigration
FT November 4 2007
Migration debate
(コメント) アメリカ大統領選挙の候補者たちも,非合法移民について論争しています.「非合法移民にも運転免許証を発行するべきか?」
連邦政府が移民政策を改革できないまま,ニューヨーク知事のEliot Spitzerが非合法移民にも運転免許証を発行すると述べてから,彼は本土安全保障省の長官と話し合い,それを通常の免許証と区別し,別建てで発行する方向にあるようです.しかし,それでは国民の免許証と非合法移民の免許証が差別の目印になるでしょう.また,市民権を持つヒスパニック系の住民が疑われます.
FTは正直な論争について条件を示しています.昨年,イギリスの新しい雇用の半分以上が外国人によって占められている,というショックに対して,特に若者たちは反発するでしょう.ただちに対策が必要な地域に財政支援が用意されました.
同時に,主要政党間で論争が始まっています.まず,移民は経済にとって有益である,という確認が必要です.しかし,その場合でも利益の分配は不均等であり,特に,貧しい地域が移民を歓迎する理由にはなりません.激しい言葉を交わすうちにますます国民をパニックに導き,政府に取りうる政策の余地は失われます.
何よりも,信頼できる情報を,迅速に提供しなければなりません.それが移民にかかわる都市の逸話や噂を否定します.
The Japan Times: Friday, Nov. 2, 2007
Dealing with the Iran threat
By HUGH CORTAZZI
WP Sunday, November 4, 2007
How to Rein in Iran Without War
By Jim Hoagland
FT November 4 2007
Diplomacy is the only hope on Iran
By Clive Crook
(コメント) イランが核兵器を開発するより,政情不安のパキスタンでアルカイダが核兵器を奪う方がたやすいでしょう.アメリカはこの二つの不安に対処しなければなりません.イランの核施設や革命防衛隊を空爆することや,パキスタンの民主化を支持して選挙を実施することが,その長期的な解決へ世界を導くのか,予想出来ない要因が多すぎます.
それらはむしろ,確実に,原油価格や世界の金融市場に衝撃を与えて,不安定さの増す世界経済に深刻な影響を及ぼすのではないか,と懸念されます.そうであれば,アメリカはもっと他の手段を用いて,周辺諸国の会議や地域への援助政策,民間団体の交流など,軍事力以外の外交的な交渉を続けるべきである,と主張されるわけです.
あるいは,今度こそ,国連安保理決議によるEUやロシア・中国も参加した国連軍がイラン周辺に移動し,IAEAの査察受け入れと核廃棄への最大の圧力をかけ始めるのでしょうか? それが危険であると阻止する人々は,チェイニーの単独行動によるイラン空爆を数日後に招き寄せているだけでしょうか?
戦争以外の選択肢としては,制裁や軍事的圧力を準備して,イランを外交による調整や経済交流・技術支援へと誘導する “a bigger stick and more carrots” しかありません.アメリカの強硬派だけでは,イラン国内の穏健派を支援するより,逆に,弱めるでしょう.イランが核武装した中東地域を望む主要国はありません.イラクとアメリカとの交渉,その結末を知っているのですから,今こそ諸大国と周辺諸国,国連組織は,国際紛争や核拡散に正しい対策を示すべきです.
あるいは,インドに認めたように,イランがその民主主義に対する国際的な信頼を高めることで核開発を承認され,地域の核兵器廃棄を進めることでしょう.
The Japan Times: Friday, Nov. 2, 2007
U.S. influence behind Bhutto's return
B. GAUTAM
(コメント) アメリカはまたやっている,とB. GAUTAMは考えます.自分に都合のよい政権(独裁者でも)を金と武器で支援し,アメリカに依存させて利用するが,役に立たないと思えば破滅させる.そして政権抗争に火をつけ,革命を演出して,後継者を探し,送り込む.
パキスタンのムシャラフ将軍とブット元首相はその典型です.自ら8年間も亡命者として生活していたブット女史が帰国したのは,アメリカがすべてをお膳立てしたからです.それはイラクのような軍事侵攻をともなわない形であれ,アメリカの気に入る政権を打ち立てる国際政治過程なのです.戒厳令も,政治的な暗殺も,すべてパキスタン政治や軍隊が自分たちでやってくれます.しかも,ブット女史はパキスタン内に支持者がおり,政党を持っています.
これによって彼女の支払う代価とは,彼女の父親が核兵器の開発を命じたカーン博士をアメリカに引き渡すことであった,とB. GAUTAMは書きます.彼女の父はイスラムを強調し,本当の敵であったインドとの対抗を隠していた.しかしブット女史はアメリカと西側の同盟を支援し,その結果,イスラムの敵になるだろう,と.
二人はアメリカの支配下で妥協します.ブットはムシャラフが大統領になることを受け入れ,ムシャラフは軍を引退します.ともに公金横領やさまざまな罪を免責するのです.その結果は,しかし,不吉なものです.ムシャラフと協力するブットの人気は急落するでしょう.そして,いつも重要なことはブッシュが決めるのです.
A desperate power grab in Pakistan FT November 4 2007
Frederick Kempe Pakistan Gets My Vote for a Black Swan Event Nov. 5 (Bloomberg)
Musharraf clinging to power BG November 6, 2007
The Pakistan Mess NYT November 6, 2007
Working With a Dictator WP Tuesday, November 6, 2007
MOHAMMED HANIF Pakistan痴 General Anarchy NYT November 7, 2007
David Ignatius In Pakistan, Echoes of Iran WP Wednesday, November 7, 2007; A21
(コメント) FTは,ムシャラフの戒厳令が,イスラム過激派の掃討に対する協力を受け入れた代償として,彼がアメリカに求めた権力の維持である,と考えます.これはとんでもない暴挙です.ムシャラフはパキスタン国民のためでも,テロとの戦いのためでもなく,自分たちの権力を維持するために,裁判所や政治的反対派を抹殺しようとしています.その過程で,テロに対抗する市民社会の制度も破壊してしまうでしょう.パキスタンは,戒厳令ではなく,「国民の合意」と「法の支配」を必要としています.
ブッシュ政権の中東政策は危機の展示場のようになっています.イラクの占領と内戦状態,トルコとクルドの紛争過熱,イラン核開発への政治圧力と軍事攻撃の準備,そして,パキスタンでは大規模なテロとクーデタの再発.
Frederick Kempeは,通常の予測をあまりにも外れているため,またそのあまりにも極端な結果により,アメリカ大統領選挙や世界の安全保障にまで影響するような事態が起きることを,「ブラック・スワン」現象と呼びます.それがパキスタンで起きるかもしれません.パキスタン軍部はタリバンやアルカイダに同情的であり,核兵器を持っています.
イランのイスラム革命,キューバ革命,ソ連崩壊,9・11のようなブラック・スワンを予感して,ムシャラフの戒厳令はその崩壊を止めたのでしょうか? 少なくとも,ブット女史の帰国による民主化への移行は起きないでしょう.こうした軍政の下で,ブラック・スワンの出現が迫っているようです.
ブッシュ大統領は,パキスタン政府の支持なしにはイスラム過激派との戦争に勝てません.しかし,ムシャラフの愚行によっても,やはりこの戦争に勝てないでしょう.ブッシュ大統領が行った「ファウスト的な契約」は失敗でした.ムシャラフのクーデタはテロとの戦争に取り組む有効な政府に至らず,民主主義への移行も完全に否定したのです.NYTは,ブット女史がすべての勢力に参加を呼び掛けた選挙を行い,これをアメリカ政府が強力に支援するべきだ,と考えます.WPも,アメリカ政府は市民社会と民主主義を支持するべきだ,とブッシュ政権に選択を求めます.
アメリカはパキスタン政府を支援し,宗教学校に通う子供たちを民主的な学校に入れるよう援助しました.また,軍隊を支援して近代化するよう求めました.しかし,その結果は,ムシャラフが逮捕したのは弁護士や裁判官,教師,反戦運動家,などであり,他方,タリバンの囚人を釈放し,自爆テロの犯人を名目的な禁錮刑にしました.
Mohammed Hanifは,パキスタンにおいては軍隊と宗教が合流し,それは利権やビジネスとも合体していることを強調します.ムシャラフはその頂点から国民を支配するのです.
NYT November 2, 2007
A War Game Supposes Scarce and Risky Oil
By JOHN M. BRODER
FT November 6 2007
Biofuels can match oil production
By Ricardo Hausmann
(コメント) イランとの戦争が始まり,ガソリンはバレル5ドルで割当制になる.徴兵が始まる.中国は台湾を征服する.二桁のインフレと失業.石油の戦略備蓄が枯渇する.・・・もちろんこれは最悪のシナリオに備えるためですが,アメリカ政府の元高官が「エネルギー政策」を説明したそうです.
アメリカの超党派議員団がエネルギー政策を考えるために,ロール・プレーイング・ゲームを紹介したそうです.名づけて「オイル・ショック・ウェーブ」.アメリカが,不安定で非友好的な諸国からの石油輸入に頼っていると,どうなるのか? それを啓蒙すれば,大統領選挙の争点として重視され,新しいエネルギー法案が成立するからです.
2009年の春と夏にゲームはセットされています.新しいアメリカ大統領は現在のエネルギー政策の下にとどまっています.石油市場は大火災でバレル150ドルに達しています.政治危機が最初は中央アジアで発生し,イランでもベネズエラでも軍事的あるいは政治的な衝突が起きます.
この危機に対して,これまでの政府高官が集まって対策を練りますが,実行できる効果的なプランは見つかりません.例えアメリカでも,石油の価格を決めることはできません.核開発に対する制裁に反発して,イランは原油供給を大幅に削るでしょう.ベネズエラの指導者,チャベスが追随します.アメリカの海軍と空軍はペルシャ湾に集結し,若者たちが徴兵されます.
戦略備蓄を放出するより,政府はガソリンの割り当てや日曜日のドライブ禁止など,市民生活への介入を始め,アメリカ大統領は,自分が再選されることはない,と覚悟します.
Ricardo Hausmannは,バイオ燃料が,その不安定で危険な化石燃料への依存を一気に払しょくし,しかもさまざまなメリットをもたらす,と絶賛しています.にわかに信じがたいほどの楽観です.すなわち,1.石油価格の高騰はバイオ燃料の技術開発を加速し,価格を下げる.2.世界にはバイオ燃料を栽培できる土地が豊富に遊休状態にある.3.その供給は価格に応じて弾力的である.原油価格はカルテルに影響されなくなる.4.バイオ燃料の価格が土地の利用を決める.5.農産物価格や土地価格が上昇し,現在のような農業補助金問題はなくなる.6.最も多くの遊休地を持つのが発展途上諸国であり,インフラ投資などを通じて,そこでの開発・貧困問題も解消する.
バイオ燃料はすべての解決をもたらします.温暖化防止,エネルギー安全保障,農業補助金(と貿易自由化),そして,持続可能な経済発展.これらがすべて解決されてしまう・・・!?
FT November 2 2007
Bears are talking bull on US’s long-term decline
By John Gapper
The Guardian Monday November 5, 2007
Down with the dollar
Dean Baker
FT November 5 2007
Currency pegs under pressure
(コメント) Jim RogersやWarren Buffettのような,アメリカの著名な投資家や企業が,ますます国内ではなく,海外の資産に投資し,ドルから逃げ出しています.しかし,長期については分りません.
Dean Bakerは,クリントン政権下のルービン財務長官によるドル高政策,アメリカへの資本流入が,今のドル安をもたらした,と考えています.貿易赤字にもかかわらず資本流入に依拠して,インフレ抑制や低金利による好景気を享受したことの付けが,これからのドル安,それゆえインフレ再燃と高金利によって支払われる,というわけです.
主要国と違って,世界は変動相場制を取っていません.さまざまな国がドルもしくはユーロに為替レートを固定しており,あるいはそれらを組み合わせたバスケットに対して変動を抑制する介入を続けています.そうなれば,ドルがユーロに対して大きく減価する展開は,国によって,混乱や貿易摩擦,資本市場の乱高下をもたらします.
もし中東諸国や中国,アジア諸国が,その固定する対象をドルからユーロへ転換すれば,外貨準備が整理され,ドル暴落への道が開くでしょう.しかし,他方で,自国経済の管理をユーロへの固定にゆだねてきた東欧諸国などは,急激なユーロ高に耐えられず,ドルに転換するかもしれません.もしドル安が安定的に推移すれば,通貨を切り下げたい諸国にとって好ましい選択です.
さらに,金融監督もできていない,政治的に不安定な諸国がドルにペッグを求める結果,安易に金融市場を統合すれば,一時的なブームと投機的な売買を経て,金融危機を中枢に波及させる病巣と化すのではないか,と思います.
ドル安ものたらす社会対立は世界各地に拡大しています.
The Wall Street Journal, 5 November 2007
Falling Dollar, Inflation Feed Dubai Strife
Chip Cummins
アラブ首長国連邦(UAE),ドバイ.石油の噴き出す繁栄の町は,労働力の輸入に頼っているが,ドル価値の急速な下落は市民生活に不和をもたらしている.
この数日,海外で働く何千もの建設労働者が職場を離れて,低賃金と生活費の高騰に抗議した.法執行官たちは,この国で労働争議を扱っているが,抗議の拡大と散発的な暴力事件,逮捕者増を認めた.超高層ビルの街並みを建設するこの町で,労働争議は珍しくない.彼らは低賃金で,町の周辺に暮らす.人権団体の批判を受けて,政府は労働慣行を正すキャンペーンを行った.
しかし,政府は困難に直面している.なぜならドル安が,インフレとともに,労働者たちの家族への仕送りを減らした,という不満を増やしているからだ.
UAEの他の諸国と同様,ドバイも通貨をドルに固定している.石油の産出が次第に減少するのに応じて,ドバイも経済を多様化し,娯楽,観光,金融の地域的な拠点を目指してきた.その建設と維持には,ほとんどすべて輸入した労働力を利用している.
労働者たちは湾岸地域の相対的に高賃金を得られる建設職に群がってきた.それは,典型的には,数年を働いて家族に送金し,帰国するような,インド,パキスタン,東南アジアの貧しい諸国から来る労働者たちである.
世界銀行は,2006年の湾岸諸国から行われた送金額を,207.5億ドルと推定している.労働者たちの自国通貨に対してドルが安くなれば,こうした送金は続けられない.
同時に,湾岸地域全体にわたって,住宅や輸入品の国内需要が伸び,インフレを強めている.ドルに固定しているため,UAEの中央銀行は金融政策を使用できず,インフレ抑制のために金利を引き上げることはない.昨年のインフレ率は9.3%であり,今年も8%と予想される.
ドル安とインフレは二重の脅威であり,クウェートは今年前半にインフレ退治のため自国通貨をドルから切り離した.UAEでもそれは検討されている.「現時点では,まだドルに固定することが我々の最善の選択である」と経済省次官補は述べる.住宅の完成と,資本流入が続いており,雇用主は賃金を引き上げるだろう,と.
しかし,それでは足りないと多くの労働者は言う.インドから来た熟練大工職人の一人は,月に900 dirhams ($250) 稼いだが,ルピーとのレートが悪化して,家族への送金を減らしている.18か月前,1dirhams=12.5ルピーであったが,今では10.7ルピーである.もし8ルピーになったら,私はインドに帰る,と.
多数の肉体労働者たちが非合法労働者への免罪によって,居住や帰国を合法化された.労働力不足は起きていない.しかし,労働者の不満が高まっている.週末には,労働者が職場を放棄し,ドバイ周辺の数か所では暴動も起きた.
ドバイとSharjahとの境界付近で起きた建設現場のストライキでは,労働者たちは追加の労働時間を要求した.しかし,それは法律によって禁じられている,と雇用主は言う.この事件は警察によってすぐに解散させられたが,雇用企業は事情によって賃金引き上げを検討している.
YaleGlobal, 2 November 2007
Globalization and the Corrupt States
Branko Milanovic
The Japan Times: Sunday, Nov. 4, 2007
Something about a one-party approach
By TOM PLATE
(コメント) 移動や輸送のコストが低下し,情報が容易に手に入ることで,グローバリゼーションはさまざまな活動を世界中で再編成しました.それはアメリカの製鉄業を衰退させ,ソフトウェア産業を繁栄させたように,世界の非合法なサービスや商品に関わるビジネスを,「腐敗国家」に集中させています.
主要な例として,アルバニアの人身売買,麻薬煙草の密輸,ビルマとアフガニスタンの麻薬栽培,パラグアイの武器密輸,偽造商品,コロンビアのコカ栽培,を挙げています.
国際的に違法な活動を展開するビジネス組織,あるいは「マフィア」も,こうして国際分業の規則に従いますが,同様に,政治家たちに献金し,自分たちに都合の良いルールや支配を求めます.それどころか,国家が国際法を無視するように,政府自体を乗っ取ってしまうこともあります.つまり,それが「腐敗国家」です.
経済発展は国内に良質のガバナンスを必要としますが,腐敗国家にはその「ビジネス」のインセンティブが腐敗を求めている以上,国際機関が求めるような改革は容易に実現しません.そこでBranko Milanovicは,その消費国の側が,すなわち裕福な諸国が非合法な財・サービスを合法化することを求めています.アメリカがかつて禁酒法によるギャングの時代を終わらせたように.
え!? と思いませんか? 人身売買,女性や子供の売買,麻薬や武器の密輸を合法化するのか? 多分,Branko Milanovicはそう主張しています.これは倫理や合法化して規制する問題だと思います.しかし,その規制によって,やはり密輸が行われるのではないでしょうか? そして,犯罪を取り締まるより,貧困や経済的な機会の差,教育やインフラ投資を可能にする問題に戻ってくるように思います.
他方,TOM PLATEが指摘するのは,東アジアにおける「一党支配体制」の繁栄です.中国も,ベトナムも,シンガポールも,そして,衰えたけれど以前の日本も,一党支配体制によって高い成長を持続したわけです.北朝鮮がこれを模倣したいと思うのは当然です.
もしベトナムと同じように,朝鮮半島の南北が統一し,そして韓国がアレンジした一国二制度による北朝鮮の支配層を温存した7200万の人口を持つ国家が誕生すれば,その重要性はドイツ(統一後で8200万人)に並ぶだろう,とTOM PLATEは考えます.政治体制の違いは,国民の民族融和の願いを超えて厳しいようですが,この統一の夢が実現する可能性はあるのです.
The Guardian Saturday November 3, 2007
Iran :Stopping nuclear ambitions
WP Wednesday, November 7, 2007
A Chance for Nuclear Leadership
By Deepti Choubey
(コメント) 世界から核兵器を廃絶したいと願う多くの日本人は,何を具体的に支持すれば良いのでしょうか? 日米安保の再編や北朝鮮・中国との対抗,インド洋の海上給油問題に翻弄されている日本政府の対応だけで十分だ,とは決して思わないでしょう.
まず,イランが核武装することを阻止したい,と思います.この論説が簡潔に示すように,軍事的な選択肢がイランに核武装計画を放棄させるとは思えません.そうであれば,アメリカの新しい大統領は選択肢を限定し,EUやロシア,中国との連携を重視するべきです.そして,「グランド・バーゲイン」をイラン政府に受け入れるよう説得を強めます.イラン政府は独自にウラン濃縮を行うのをあきらめ,その代わりに,国際的なウラン燃料サイクルに参加し,寛大な援助を受け,関係を正常化して国際政治に復帰するのです.日本もこれを支持します.
次に,アメリカの新しい大統領は核廃絶に向けた指導力を発揮しなければなりません.WPの論説が示すように,世界中に核軍拡競争の危険があります.核不拡散条約を再生するには,三つの点でアメリカが率先して行動するときです.
1.核兵器を所有ない諸国が保有諸国の廃絶に向けた努力を信用していない.2.核兵器・エネルギーの国際的な査察と管理システムを信用できない.3.温暖化防止に関する核エネルギーへの関心について,発展途上諸国の核エネルギー開発に応じていない.
The Observer Sunday November 4, 2007
The worst crisis I've seen in 30 years
Will Hutton
FT November 5 2007
The silver lining in America’s subprime cloud
By George Shultz and John Taylor
(コメント) 現在進行中の危機は,この30年間で最も深刻なものだ,とWill Huttonは主張します.金融市場の緊密な統合は危機を波及させて政府・中央銀行の市場管理能力を奪い,それを再建する見通しはありません.同時に,石油価格はバレル100ドルに向かって上昇しています.
危機はロンドンやニューヨークから発しており,アメリカでもヨーロッパでも同じような金融市場の行動が称賛され,同じような巨額の損失をもたらしています.中央銀行もその対応が分かれ,住宅市場の焦げ付きやノーザンロック銀行の取り付けについて納得できる対策はありません.これが市場の自由化や富裕層の役割を賛美したことへの手痛いしっぺ返しです.
他方,アメリカ経済政策の最高の学識と経験を持つ二人George Shultz and John Taylorが,住宅バブルの破裂とサブプライム・ローン危機は,アメリカの経常収支不均衡を調整するために必要な政策転換を政治的な混乱なく実行してくれた,と歓迎します.確かに財政赤字が抑制され,中国の人民元も徐々に増価しています.しかし,なによりも経常収支の赤字を減らしたのは,住宅市場の価格下落と融資の返済不能によって,投資が減り,アメリカ国民が貯蓄し始めたことです.政策的な安定化は必要ですが,今後も市場に任せることが良い,と二人は考えます.
WP Sunday, November 4, 2007
By U Gambira(a leader of the All-Burma Monks Allianceそのペンネーム)
「8月,ビルマ人民は平和と自由を求める闘争に新しい章を書き始めた.」
「何百人もの僧侶や尼僧が殴打され,逮捕された.多くの者が殺されてしまった.恐ろしいことに,何千人もの聖職者がゆくえ不明である.神聖なる僧院が略奪され,破壊された.毎晩,夜の闇とともに,秘密警察が政治指導者や宗教指導者を狩りに来る.」
「軍事支配はビルマを崩壊させた.経済は破滅だ.かつてアジアの穀倉であったが,今では自分たちが飢えている.かつて教育が施され,文字を読めたが,今では体制が学校や大学を破壊している.かつて自由の空気を吸ったが,今では独裁者の悪臭に息が止まる.われわれは奴隷化された人民だ.」
「私も仲間たちも,金融規制や旅行の制限など,体制とその擁護者に対してアメリカが強い行動を取ることを歓迎する.オーストラリアはこれに続き,EUもそうするだろう.」
「人々は尋ねるだろう.私はすっかり絶望したか? 民主化運動の最後の痙攣も止まったのだろうか? その答えは,どちらもNO!だ.私は軍隊に探索され,自国で隠れるしかないが,多くの者の勇気に驚かされた.軍事政権の治安部隊でさえ,民主主義の指導者や私に自宅を提供してくれる.」
「水曜日,200人以上の僧侶がポコックで抗議活動を行った.彼らは軍事警察を正面から睨みつけたのだ.彼らの精神と決意は,体制とその賛美者に対する警告である.」
The Guardian Tuesday November 6, 2007
The revolution that never was
Simon Tisdall
(コメント) しかし,この論説はビルマの民主化革命に悲観的です.アメリカによる金融制裁も,シンガポールやオフショアにある口座を閉じさせることはできず,軍事政権が示したのはジェスチャーと話し合いの姿勢だけです.逮捕者は増えており,難民は流出し続けています.国際社会の統一した圧力が決定的に重要です.しかし,国際政治において関心を持続させるのに,6週間は永遠に近い時間です.
WP Monday, November 5, 2007
Carter's Clarity, Bush's Befuddlement
By Robert D. Novak
FT November 7 2007
Roosevelt’s lessons for future presidents
By Michael Fullilove
(コメント) カーター元大統領の自伝的映画"Man From Plains"が公開され,今月末に予定されているAnnapolisの中東和平会談と対比されています.カーターは,ブッシュ政権も,議会の共和党も民主党も決して明確に言わない主張(反イスラエル,あるいは,反ユダヤ主義と非難されるのを恐れて),「イスラエルはヨルダン川西岸の違法な占拠を止めて撤退せよ」を明確に主張しました.カーターは,土地を奪われた人々への不正が許せなかったのです.
大統領が変われば政策も変わる,というのは,間違いのもとになりますが,大きなチャンスです.
75年前にフーバーに勝利したフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)は,しばしばその欠点を指摘されてきました.外交においてもスターリンにだまされたとか,その場しのぎで,結局,孤立主義に敗北した,と.突如として内的なロジックを見出すFDRに比べて,G・W・ブッシュは頑なに決められた外交の枠組みを変えようとせず,イデオロギーに固執しました.しかし,両者の違いはそれほど明確ではない,と指摘して,Michael FulliloveはFDRの外交から教訓を導きます.
1.政府を人間的な関係で扱い,制度に縛られなかった.それゆえ情報源を固定しなかった.2.戦争に向かう国内の合意を形成することに時間と労力を惜しまなかった.3.アメリカが世界に対する魅力を積極的に表現した.
FT November 5 2007
Triumph of politics over policymaking
FT November 8 2007
A grand coalition for Japan was a very bad idea
By Gerald Curtis
(コメント) 安倍首相の辞任,小沢代表の辞任宣言,鳩山法相のアルカイダ発言,・・・欧米メディアが注目した日本です.
「日本の政治で人間が交代するのに慣れている者でも,小沢一郎の民主党代表辞任発言にはびっくりしただろう」とFTが伝えています.そして,率直に述べているように,自民党も民主党も,その明確なイデオロギーに従って再編し,次の選挙を戦うべきでしょう.
Gerald Curtisの論説は,ドイツの例にも触れており,私が大いに共感できる主張でした.自民党と連立政権を組むのは民主党の解体につながる.小沢は目先の戦術と権力奪取に長けているけれど,長期的な見通しがない.もし政治指導者たちに想像力と決意があれば,国民の声にこたえるため,政治的再編を試みるときです.
BG November 6, 2007
In China, better rich than red
By H.D.S. Greenway
Nov. 9 (Bloomberg)
China's Pyramid Scheme Finds Lessons in Japan
William Pesek
(コメント) 中国人は,まだ当分,ネズミを捕まえるのに忙しい.・・・H.D.S. Greenwayの論説はケ小平の名台詞を借りて中国社会・経済の変化を要約します.中国が月やアフリカに向かうのはイデオロギーではなく,ビジネスだ,と言えるのでしょうか? 私はそう思いません.しかし,中国人の友人が,世界にはイデオロギーで動く国が4つだけある,というのは面白いジョークです.「キューバ,北朝鮮,そして多分,イランとアメリカだ.」 数年前までいなかったのに,今ではアメリカに次いで大富豪が多い,という中国の変貌ぶりを考えさせるショート・ショートです.
中国が,自分たちは世界第3位の経済大国だ,と言うとき,いつも第2位が日本であることは嫌な気持ちでしょう.しかし,日本の成長がバブル崩壊で終わったように,中国はもっと日本を研究するべきです.中国において,これほどの人口が豊かになることへのユーフォリアに染まっていく様は,恐ろしいものがあります.
株価の上昇を支えているのは,生まれて初めて株式投資する人々の資金が市場に流入し続けていることです.しかし,ここは要注意です.日本のバブルがそうであったように,短期金利はあまりにも長期にわたって,あまりにも低い水準で維持されています.そして,日本のバブルも,引き締めに転じる時期を逸したのは,国際市場で金融危機が起きたからでした.
1兆4000億ドルの外貨準備を持って,中国人はバブルの頂点からバンジー・ジャンプを準備しています.
Simon Ward How the Bank of England broke its own rules FT November 6 2007
Balanced Bernanke FT November 8 2007
Pragmatic progress FT November 8 2007
(コメント) イングランド銀行,アメリカ連銀,彼らの金融政策が重視されるのは当然です.そして大西洋間で金融市場の統合化が進みます.アジア証券市場や世界資本市場統合が起こるのは,あと何年先か?
FT November 6 2007
Why plutocracy endangers emerging market economies
By Martin Wolf
(コメント) 世界一の資産家としてフォーチュン誌に認められたメキシコのカルロス・スリムCarlos Slimについて,Martin Wolfは資本主義世界の変質,「独裁国家」の蔓延を問題にします.彼の資産は590億ドル,メキシコ全体のGDPの6.6%です.ロックフェラーの最盛期でも,アメリカGDPの2%であった,とWolfは指摘します.
メキシコの所得分配が不平等であることは,彼の資産についても正当化の必要を感じるでしょう.彼の家族は毎年36億ドルを稼ぐのに,メキシコ人口の最底辺10%は年に1200ドルしか得ていません.貧しい者の所得と300万倍の格差があります.こうした所得分配は政治にも影響して,腐敗や汚職を広め,ポピュリズムが主流となって,政治的混乱を続けています.
所得格差を正当化するのは,それが自由な競争によって企業家精神や技術革新を促す,というものです.しかし,スリムの資産形成は全く違います.彼の富の源泉はTelmex,メキシコ電話会社であり,1990年に政府から売却されたものです.彼はこの企業によって国内市場を独占し,国際価格よりも高い価格を徴収しており,競合する企業の参入を妨害している,と批判されます.
アメリカはフォーチュン誌による100人の大富豪の39人を出していますが,彼らの資産を合計してもアメリカGDPの4.5%であり,スリムの規模に及びません.しかも,彼らの富の源泉は多様であり,いずれも競争的な市場です.
つまり,Wolfが強調するのは,富が政府とのコネによって生じるのか,競争的市場から生じるのか,です.アクセスが制限されているのか,開放されているのか,それは政治システムと関係あるはずだ,と.市場競争が制限されているから,投資は起こらず,成長率を抑えています.新興市場の将来はこの点にかかっている,と.
たとえば,ロシアを見れば,大富豪100人中の14人を占めていますが,その資産合計はロシアGDPの26%に達します.アメリカに次いで多くの富豪を要しながら,その富の源泉は超大国の解体過程にあったわけです.こうした国が増えることで,世界の資産が革新的な企業かではなく,政治に取り入った独占や制度破たんを悪用して,てっとり早く資本主義の富を簒奪する人々によって支配される時代が来るかもしれない,とWolfは懸念します.
The Guardian Wednesday November 7, 2007
Let's license brothels
Jean Johnson
(コメント) 世界のセックス・ビジネスに繋がれた女性や子供たちを解放するためには,もっと厳しい法律と買春の取り締まりが必要か,あるいは,売・買春それ自体を合法化するべきか? イギリスだけでも約8万人が,現代の奴隷制と言われる売春に従事しています.彼らの多くは海外から連れてこられて,中世的な法律によって規制されています.
ドイツやオランダでは大規模な売春施設が合法化されており,これによって違法な人身売買や麻薬の買人,ポン引き,が一掃されたというわけです.特に,最下層の街娼を犯罪組織の搾取から守るためには,彼らが合法的に売春し,そこからでも改善できる仕組みを認めるべきだ,と主張します.
The Japan Times: Wednesday, Nov. 7, 2007
Three relationships the U.S. must tend to
By TOM PLATE
(コメント) アメリカのアジア外交をどのように評価するか,という論説です.アジアのトリオである,中国,インド,日本の3大国とアメリカとの関係は,北極の冬よりもシカゴの冬は暖かい,という程度に改善したようですが,まだ大いに問題です.
NYT November 7, 2007
High-Priced Oil Adds Volatility to Power Scramble
By MARK LANDLER
NYT November 7, 2007
Warning on Impact of China and India Oil Demand
By JAD MOUAWAD and JULIA WERDIGIER
FT November 7 2007
$100 oil would have a big political impact
By Gideon Rachman
(コメント) 石油価格の高騰は,世界の市場や貿易,投資の流れを変えていきます.それは国際システムや政治的な条件にも影響します.さらに,将来のエネルギー需給予測が今の投資に影響します.
Gideon Rachmanは,バレル当たり100ドルを超えた石油が世界の安全保障や経済戦略に与える影響を想像します.石油産出国の独裁者が影響力を増し,石油を渇望する中国は世界中の石油産出国を支援するでしょう.産油諸国から軍を撤退させることには反対が強まります.ブッシュ政権は価格をさらに上昇させるようなイランへの軍事攻撃を控えるでしょう.EUとロシアの関係はさらに微妙になります.ロシアを回避した油田開発とパイプライン敷設に莫大な投資が向かいます.そしてロシアは旧ソ連圏の衛星諸国を引き寄せるでしょう.
気候変動であれ,中東情勢であれ,世界は今,新しいエネルギーの開発に莫大な規模で投資しようとしています.
FT November 8 2007
Are the imbalances on the mend?
By Samuel Brittan
(コメント) これも興味深い論説ですが,要旨のみ紹介します.なぜ興味深いか,と言えば,人々の関心が金融市場のパニックに向かってしまったけれど,数か月前には国際収支不均衡を恐れていたはずだ.望み通りにドル安は起きたが,解決できるのだろうか? 為替レートであれ,インフレ率であれ,金融政策を固定することに意味があるのだろうか? どちらが優れているのか? とSamuel Brittanは(おそらく)考えているからです.
また,この短い論説にはジェームズ・ミードJames Meade(1907-95年)の生誕100年記念会議が紹介され,Max Cordenの講演があったと伝えています.アメリカは証券を売却して消費に費やしています.つまり,それは「時間を超えた取引」です.それが問題に至るケースを,偉大な分類学者のミードにならって,さまざまに分類したようです.
Brittanは,1.検証責任は,それが問題であると主張する者の側にある.2.提唱された多くの解決策は病気を悪化させるだろう.という二つの結論を認めます.解決に至る模索を続けるには,為替市場や資本市場に委ねる方が良い,というわけです.
しかし,Brittanは反対します.市場にゆだねることも好ましくない,なぜなら調整にはコストがかかるから.あまりにも経常収支の赤字を放置するなら,それがスムーズに(不況や失業を伴わずに)解消されることなどあり得ないでしょう.彼は,金融政策の目標が,インフレ的でない,合理的な国内需要の伸びを持続することだ,と主張し,国内需要を直接に測定し,目標にするよう求めています.
The Japan Times: Thursday, Nov. 8, 2007
Let history judge Russia's revolutions
By ROY MEDVEDEV
The Japan Times: Thursday, Nov. 8, 2007
Mr. Putin's faulty history
(コメント) ロシアは10月革命の90周年を迎えました.そしてブレジネフが亡くなって25周年.来月はソ連崩壊の15周年です.
現代のロシアの哲学者や歴史家は,ロシア革命を厳しく糾弾しているようです.たとえば,「ロシアの大虐殺」と.他方で,ロシア革命を擁護する人もいます.奴隷制や抑圧から人々を解放し,アジアやアフリカに希望を与えた.それは陰謀ではなく,社会の革新でした.
革命のすべての重要な側面を理解することは今でも難しいのです.革命政府の側も,その反対勢力も,ロシア革命を粉飾し欺瞞してきました.そしてプーチン政権は,その言及を避けていますが,反革命や皇帝ニコライ2世の復権が進んでいます.今なら,ロシア革命の歴史を正しく描けるかもしれない,と.
しかし,プーチンはすでに様々な現代史を都合よく書き換え始めている,と指摘されています.
NYT November 8, 2007
Bending Ears on Economics as ・8 Nears
By LOUIS UCHITELLE
(コメント) アメリカ大統領選挙の背後には,その政策綱領を立案する経済のプロがいるわけです.1960年代にWalter Hellerがケネディーにケインズ主義の経済政策を教えた時代や,1970年代後半にArthur Lafferがレーガンにサプライサイド経済学による政策を教えた時代とは,経済学も大きく変わりました.大統領の経済学教師であり,政策顧問について,概観した記事です.
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The Economist October 27th 2007
Fighting insurgents: After smart weapons, smart soldiers
(コメント) 興味深い特集記事です.アメリカ・ブッシュ政権は,特にラムズフェルドが中心となって,冷戦後の軍事衝突や介入,軍事力を再考し,超ハイテク化した小規模・緊急展開部隊を中心に据えて,世界的再編計画を示していました.それはイラク戦の勝利によって満足の頂点に達した後,占領政策の失敗と自爆テロの続発,アメリカ兵の死者累積,ラムズフェルドの辞任により終わったのです.
今やアメリカは,ハイテク投資や民間軍事請負契約も続けながら,同時に,兵力を増員して破壊したイラク社会の市民的秩序を再建する作業を担っています.後者の兵士たちは戦闘において優れている以上に,イラクなどの軍事展開後に秩序を再建する過程で,現地社会との交流や信頼構築を重視しなければなりません.それは軍隊であっても,兵士ではない人びとと親交を深めることができる,高度な人文学的感受性を磨いた人びとなのです.アメリカの兵士たちは,今や,現地の言葉を学び,その歴史や人類学の知見をも使って,戦後の秩序に勝利しなければなりません.
今や戦争は,敵の政治的な意志を砕き,その心を直接に攻撃するものだ,と.そうでなければ,破壊力を強めるほど占領政策は失敗し,ジャングルや砂漠から現れた軽装のゲリラ部隊に犠牲を強いられる.彼らはただ負けることさえなければ良い.必ず勝利すると信じ,負けることを認めなければ,外国の軍隊はいつか去るしかない,と知っているのです.
筋肉はもう十分だから,もっと頭脳を使うこと.スマート・パワーによる無血の戦争です.
The Economist October 27th 2007
Buses: The Chinatown express
The rustbelt: Back from the dead
Switzerland’s election: Colours of intolerance
Bangladeshis in Britain: From Brick Lane to the fast lane
Financial Markets: Spooking investors
(コメント) 私の視点で興味深かった記事としては,ニューヨークとボストンの間を何と10ドルで走る長距離バスがチャイナタウンでバス戦争を始めた; アメリカの製造業が衰退した都市にも再生の動きがある; スイスの民族主義化は,都市と農村の対立に由来するものか; 多文化主義のイギリスを代表するバングラデシュ人コミュニティーの映画化; そして,金融市場や投資家が落ち込んだ現代の迷宮案内,です.