IPEの果樹園2007

今週のReview

11/5-10

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

イランとの戦争, アルゼンチン大統領選挙, サブプライム・ローン問題, ドル不安の共同管理, イギリスと移民, トルコとクルド, バブル金融危機, アルメニア人案虐殺非難決議

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


SPIEGEL ONLINE - October 25, 2007

US WAR ON IRAN: 'Closer to Reality'

By Gregor Peter Schmitz and Cordula Meyer in Washington

(コメント) ディック・チェイニー副大統領の描くイランとの戦争は,イスラエルがNatanzのウラン濃縮工場をミサイル爆撃し,テヘランがそれに報復するだろうというので,アメリカ軍がイランの軍事施設や核処理工場を攻撃する,というもののようです.先日,イスラエルがシリアの核施設を攻撃したのも,その準備ではなかったか? アメリカ議会では,チェイニーの秘密でもない戦争計画について,疑念が渦巻いています.

ネオコンの中東民主化という夢,あるいは,国務省やペンタゴンのリアリストが恐れる,イラクの失敗が地域全体に拡大するという悪夢,はワシントンの政治家を次の一手に向けて動かし始めています.ブッシュ大統領は演説しました.イランのアフマディネジャド大統領は,核兵器を得たら世界戦争を始めるつもりだ.次のイスラエルによる爆撃が第三次世界大戦になる,と.

NATOやEUは選択をせられるでしょう.そしてプーチンの大ロシア構想や,独自の資源確保を優先する中国が,核保有したイランを加えて上海協力機構を強化すれば,世界戦争も単なる悪夢では済みません.

ブッシュ大統領の関心は,もはや現在ではなく,イラクの失敗ではありません.自分が歴史に残す記録だけです.ブッシュ氏自身は外交によって北朝鮮だけでなくイランを核廃棄させる,と述べます.しかし並行して,公然の戦争を準備している状態です.アメリカ上院は,イラク革命防衛隊の12万5000人をテロリストと宣言しました.つまり,核関連施設を爆撃する計画を縮小して,革命防衛隊の本部を破壊する新しい計画に変えた,と記事は述べています.そして,イラクでの多くの失敗にもかかわらず,アメリカは中東民主化という目標を掲げて戦った,という証拠を残したがっているわけです.

議会での交渉は熱を帯びています.ジョン・マッケイン議員もヒラリー・クリントンも,強硬な発言をしています.問題はイランの核施設から,イラク国内のイラン支持勢力に移りました.イラクのアメリカ軍基地やCIAはイランとの国境で貿易を監視し,イラン国内の情勢に介入しつつあります.イラクの大量破壊兵器を見つけられなかったせいで,国民はイランの核施設疑惑だけで戦争を支持しないでしょう.しかし,イラクに侵入するイランのテロリストであれば,戦闘は避けられない,と主張できるのです.

国務省のライス長官も,ペンタゴンのゲイツも,戦争より外交交渉を強く支持しています.彼らは既にアメリカ軍がイラクの占領政策で人員を酷使したことを後悔しています.しかし,それでも戦争の危険は非常に高い,と元CIA職員でブルッキングズ研究所のBruce Riedelは考えます.その理由は,イランもブッシュ政権も危険な行為を回避しないからです.たとえブッシュ政権の多くのネオコンが地位を退いても,チェイニーは副大統領としてブッシュ大統領に信頼され,彼がネオコンたちの影響力を今も組織しています.

プーチン大統領がテヘランを訪問し,カスピ海や中央アジアの問題を共同で管理しようと話し合いました.プーチンはイランの非核化に西側ほど関心がないようです.ネオコンの父であるNorman Podhoretzは,ウォール・ストリート・ジャーナルに論評を掲載し,イラン爆撃をネオコンの悲願として訴えました.彼の夢見る第4次世界大戦は,「イスラム・ファシズム」との戦いです.今は1938年ではないのか? と講演で繰り返します.こうした意見は共和党内で,たとえば,ジュリアーニにも支持されています.

イランの革命軍将校たちは,すでに何年も,アメリカとの軍備の差を前提に,必要となる反撃を計画してきました.それは直接の軍事衝突ではなく,世界中でのテロリストによる攻撃となるでしょう.たとえば湾岸の石油施設は,西側経済を破綻させる弱点です.

Asia Times Online, Oct 27, 2007

Attack Iran and you attack Russia

By Pepe Escobar

BG October 27, 2007

Talking through a nuclear staredown

By Graham Allison

(コメント) プーチンとイランの最高指導者ハメネイが語り合ったことは,アメリカによる先制核攻撃を回避する対策についてでした.その答えは,もしアメリカがイランを攻撃すれば,それをロシアが核で反撃する,というものです.・・・日本がアメリカに求めたように.

Graham Allisonは,キューバ危機を振り返ります.ケネディーは現代であれば「悪の枢軸」であるソビエト連邦のフルシチョフと,私的・公的な対話を重ねました.19621026日の私信で,フルシチョフは初めてキューバからのミサイル撤去に言及します.その条件は,アメリカがキューバに侵攻せず,また他の軍事勢力によるキューバ侵攻を支援しない,ということでした.

しかし,ケネディーがそれに返答する前に,ソ連政治局から正式な条件が示されました.それには,アメリカの核兵器をトルコから撤去する,という交換条件が追加されていたのです.ケネディーはこのような条件を受け入れることができませんでした.それはNATOの同盟国である西欧を裏切り,安全を切り売りしたように見られて,信用を失うものであったからです.

その後,複雑な交渉を経て,ソ連はミサイルを撤去し,アメリカは侵攻しないと保障しました.そして,その6ヶ月後にトルコから核兵器を撤去したのです.なぜ多くの味方を殺し,さらに多くの自国民を殺すという脅しを繰り返す敵と,ケネディーは交渉したのか? Graham Allisonは考えます.それは,「恐怖によって交渉することはない.しかし,交渉することを恐れもしない.」という原則があったからだ,と.

Graham Allisonは,それがアメリカ政府の正当な交渉姿勢であった,と主張します.レーガンもソ連との交渉を支持しました.そして,二期目になって,ブッシュ政権は北朝鮮と交渉しました.6年と半年もイランとの交渉を拒んできましたが,それは間違いです.戦争することなくイランの核武装を阻止するために,ブッシュはケネディーよりもはるかに多くの条件を利用できる,と.

The Guardian, October 29, 2007

Turning truth on its head

Abbas Edalat and Mehrnaz Shahabi

NYT October 29, 2007

Trash Talking World War III

CSM October 30, 2007

The cost of American bellicosity toward Iran

By Kaveh L. Afrasiabi

The Daily Star, 29 October 2007

The United States Risks Walking Into a Trap in Iran

David Ignatius

(コメント) アメリカ政府は,イラン革命防衛隊がテロ組織であると宣言し,1979年のイラン革命以来,最も厳しい制裁を実施しました.しかし革命防衛隊は,対イラク戦争で英雄的な働きを示し,今も経済活動を含めて,指導的な地位を占めています.大量破壊兵器を拡散させている,という非難は,IAEAの報告とも矛盾します.それどころか,アメリカはイラクが革命防衛隊に対して化学兵器を使用したことについて共謀の罪がある,とAbbas Edalat and Mehrnaz Shahabiは憤慨します.また,イラクにおいてテロ活動を支援している,というライス長官の非難も,イギリス政府の情報と矛盾している,と.第三次世界大戦など,ブッシュ政権の強硬発言は,好戦派を刺激するだけです.

交渉によってライス国務長官が核兵器開発計画放棄を受け入れさせるためにも,そのような戦争を刺激する発言は控えるべきです.ところが,例えばイスラエルの軍関係者は,こうした核戦争の脅威論を歓迎しています.なぜなら,それによってアメリカやドイツからイスラエルが経済・軍事支援を得やすくなるからです.

イランは何世紀も他国を侵略しておらず,ユダヤ人にも友好的でした.しかしアメリカやイスラエルは外交政策や内政上の利用価値があれば,イスラム圏を悪魔のように非難し,イランの強硬論を刺激し,助けます.そのコストはあまりにも大きいでしょう.

The Guardian Thursday November 1, 2007

Facing disaster in Iran, Europe must finally make the hard choices

Timothy Garton Ash

(コメント) 4半世紀前には,ボン,ロンドン,ローマの通りに,アメリカの核ミサイル配備や,原子力発電所に反対する人々が抗議の声を上げて大群をなしていた,とTimothy Garton Ashは回想します.今ではイランの大統領がイスラエルの消滅を要求し,核武装を目指し,中東地域に核軍拡競争を展開しつつあります.かつて戦争を回避しようとしていた人々はどうなったのか? デモ隊はどこに消えたのか?

すでに,イスラエル,インド,パキスタンは核を持っています.西側はダブル・スタンダードを用いて,友好諸国にだけは核武装を認めたわけです.それが大量破壊兵器であることに違いはないし,脅威を感じる他の諸国の核武装を刺激したのは当然です.それでもイランの核武装を認めるべきではない以上,ドイツ・フランス・イギリスが中心となって交渉を重ねました.しかし,EU内の外交姿勢が分裂している様を,Ashは「酔っぱらったカタツムリ」と呼びます.

交渉は,「大きなこん棒と大きな飴」を必要とします.

飴とは,イランが望む全てが含まれます.イラクの周辺国会議,核エネルギー,貿易,投資,アメリカとの国交回復,など,前提条件なしに話し合われます.棍棒は,アメリカやヨーロッパが行う貿易そして貿易金融の制限です.そんなことがうまくいくのか? 確かに,私たちはただ手をこまねいて,アメリカが先制攻撃したり,イランが核武装したりするのを見ているしかないのでしょう.

もしそうでないヨーロッパの道があると信じるなら,もっと信頼できるイラン,信頼できるアメリカ政府が誕生するように,またEU市民が支持する外交方針をまとまるように,(政治家も資金も投入して)努めることでしょう.


FT October 25 2007

It won’t be easy . . . No tears for the IMF as a feisty Argentina awaits its next Evita

By Jude Webber and Richard Lapper

(コメント) 2001年から02年にかけて,アルゼンチン経済は通貨危機と不況に苦しみました.しかし,キルチネル大統領になって急速な回復を実現し,IMFの政策が間違っていたことを示した,とその支持者たちは成果を誇ります.今度の大統領選挙では,その妻のクリスチーナ・フェルナンデスが高い支持を得て当選すると予想されています.

アルゼンチンの通貨危機については調べたことがあります.多くの論説や研究が,兌換法とIMF融資の延長,そのために国内不況を悪化させた緊縮政策を失敗の主な理由に挙げています.それがIMFの主張した「ワシントン・コンセンサス」であったと批判されているわけですが,私はそう思いませんでした.マクロ経済の安定化や為替レートを競争力のある水準に維持することは,何も特別な政策ではないからです.

しかし,それがアルゼンチンの政治事情にかかわっていたわけです.政府は兌換法や外資流入を過度に信頼し,経済や制度の改革を行わずに,国際経済の条件が変化してもそれに対処できませんでした.

フェルナンデス新大統領とIMFのストラス・カーン新専務理事が,どのような融資の返済条件に合意するか分りませんが,アルゼンチンは国際資本市場に復帰したいと願っています.そして,新大統領がさまざまな目標を掲げても,すでにインフレや賃金交渉,エネルギーの供給など,調整すべき問題はいっぱいあります.

Argentina's new Peronist president? LAT October 26, 2007

Daniel Schweimler Argentina's divisions clear to see BBC 2007/10/26

Daniel Schweimler Key questions in Argentina's election BBC 2007/10/27

(コメント) LATはもっと直截にクリスチーナの政策が失敗すると警告しています.

危機からの回復では8%成長と社会主義的目標を可能にしましたが,それを維持するには価格統制や財政支出を解決しなければなりません.また,IMF批判や反米主義も見直すべきです.そうした政治的手腕が期待できるでしょうか?

しかし,Daniel Schweimlerの記事は,キルチネル夫妻のアルゼンチン支配の正当性を一層厳しく問いただすものです.彼ら二人は出身地の圧倒的な英雄ですじ呼び世は.

すなわち,ブエノスアイレスのヨーロッパ風街並み,美しいレストラン街とは別に,各地にみられる貧富の格差,少数民族の飢餓,地域格差,そして,政治腐敗,武装したギャングによる強盗や誘拐,政府によるデータの改ざん,インフレ率や支持率,あるいは,投票結果も,広く疑われている,と言います.

いずれにせよ,政府はインフレを逃れることはっできず,社会的な不満が噴出するのを後で悔やむことになるかもしれません.反対派は分裂していますが,決選投票に持ち込めば,前評判ほどクリスチーナが優勢を維持できないかもしれない,と記事は伝えます.

選挙を支配する感情は,今も強烈な危機への恐怖,です.人々は,政治的崩壊を決して繰り返してほしくない,と願っています.人びtは性がの繁栄を願うけれど,

Maxwell A Cameron Victory for Argentina's power couple The Guardian, October 29, 2007

Mark Weisbrot How Argentina jump-started its economy LAT October 30, 2007

(コメント) クリスチーナは初回の投票で過半数を得ました.アルゼンチンの政治が,今後,どのような展開を見せるのか,に関心が移っています.ヒラリーと同様に,サッチャーと比べて,女性であることを除けば,クリスチーナが伝統的な保守的政治家である,とMaxwell A Cameron考えます.チャベスに近づくより,アメリカの新大統領に近づく?

この5年半で貧困層が大幅に減り,経済が8%で成長したのですから,クリスチーナ・フェルナンデスの当選は驚くことではありません.しかも,とMark Weisbrotは注目します,その成果は正統派の経済学やIMFの予想に反するものだった,と.アルゼンチンは1000億ドル以上の債務を不履行にしたまま,不況から好況に急速に転換しました.

その成長は輸出や一次産品価格の上昇によるのではなく,マクロ経済政策を正しく調整したからでした.アルゼンチンは,何より,その実情に合わない為替レートの固定化と,返済しきれない対外債務に苦しんでいました.輸出ができない以上,厳しい不況により国内消費を減らして返済するしかなかったわけです.

中央銀行は為替レートが増価しないように,また変動しすぎないように,維持しました.また,どこまでもインフレを抑えるより,成長と雇用を促すように金利を低くしました.債務不履行が大混乱を招く,という予言は当たらず,2005年に債務の3分の2を免除する合意を得ます.

「政治がいつも地域に依拠しているように,重要な経済政策も地域に依拠しなければなりません.その国の基本経済マクロ経済政策を正しく行うことは,国際機関や外国の投資家が求めるものよりも重要なのです.」

New President, Old Cycle WP Tuesday, October 30, 2007

The problem with Peronism remains FT October 30 2007

Political animal in the Pink House FT October 31 2007

(コメント) クリスチーナ・フェルナンデスをペロン大統領の夫人,イザベル・ペロン(エヴィータ)と比べるより,もっと重要なことは,その歴史を繰り返すのかどうかです.すなわち,「過去100年間,輸出品価格,政府のポピュリスト政策,国際資本による金融支配により,アルゼンチンはブームと破綻を繰り返した.」

すでにポピュリスト政策とインフレ率の上昇は現れています.「もし彼女が歴史を繰り返さなければ,それは嬉しい驚きなのだが.」


Oct. 26 (Bloomberg)

China, Emerging Markets Can't Fill U.S. Shoes

Michael R. Sesit

(コメント) アメリカの景気が減速しても,中国をはじめとして,新興市場経済圏があるから世界経済の成長は維持できる,という期待があります.しかし,Michael R. Sesitは,そうならないだろう,と書きました.また,日本やドイツも十分な成長を実現できていません.アメリカは豊富な消費支出が成長を加速しましたが,中国(あるいは,BRICs)などでは今も輸出が重要です.中国はアメリカの代わりにならないでしょう.


IHT Friday, October 26, 2007

The rise of the 'red capitalists'

By Willy Lam

(コメント) 中国共産党の目標は,党綱領によれば,資本家による搾取から労働者や農民を救うことですが,その中国で,香港や上海の株式市場に上場した企業を支配する,共産党員の資本家(「赤い資本家」)が多くの富を得ています.

政策を決める中央委員会の大部分は,共産党,政府,人民軍の幹部で占められています.そこには一人の労働者も農民もいない.しかし,赤い資本家たちはすでに加わっている,と.それは,共産党が生産性と成長率を重視する政党だということを意味します.

資本家を共産党に加えるというのは,江沢民の方針でした.論争を呼んだ重要な転換です.その方針を現指導部は継承しています.誰もが納得しているわけではないようです.しかし,党内左派に比べて,一般の国民や代議員たちはビジネスそのものに敵意を抱きません.彼らが嫌うのは国営企業の幹部など,ビジネスにふさわしくない,政治的地位によって成功した富豪たちです.国内市場では独占企業による利益が膨らみ,賄賂が横行して,共産党幹部の子弟たちが私腹を肥やしています.

しかし,ソ連や天安門事件が示すように,それは共産党が崩壊する前兆現象であるかもしれません.


LAT October 26, 2007

A new course for Cuba policy

LAT October 31, 2007

On Cuba, the U.S. is an island

By Paolo Spadoni

(コメント) 共産主義政権下で人権を抑圧し,アメリカと激しく対立した三つの国を挙げれば,それは,中国,ベトナム,そしてキューバである,とLATは書きます.その後,どうなったか? しかし,前2者とはアメリカ政府が話し合い,国交を回復して貿易や投資を認め,世界市場に参加することで彼らが成長するのを助けました.

なぜキューバにもそうしないのか? キューバの独裁体制は間違いです.しかしブッシュ大統領は,独裁体制に劣らず時代錯誤的な失策の最後において,キューバが一層の経済危機に陥り,民主化革命が起きて彼を大歓迎するシーンを待ち望むようです.

カストロが死んでも,キューバに対する経済制裁は解除しないし(「制裁解除は奴らを富ませるだけだ」),ラウルへの政権移譲も認めない,という強硬姿勢は,キューバを追い詰め,ソ連崩壊後も新しい支援者,石油成り金のベネズエラ,チャベス大統領に頼らせました.

LATは,次期大統領に政策転換を求めます.まず旅行者を自由に行き来させて,カストロの情報統制を取り除くべきだ,と考えます.そして,カストロとその取り巻きに絞った制裁を行い,人権の尊重を求めます.他方,キューバの貧しい人びとを苦しめて,政権の宣伝に利用されるような経済封鎖は廃止します.

Paolo Spadoniは,むしろブッシュ政権が「革命の輸出」に熱心であることを指摘します.「フリーダム・ファンド」という巨額の基金を設けて,キューバ国民が自らその「熱帯の強制収容所」を転覆すれば,インフラの改善やその他の投資を行う,と奨励しています.「キューバの体制,その支配階級を取り除きさえすれば」という条件付きで,キューバの学生に奨学金を用意し,また宗教団体やNGOにコンピューターを提供し,インターネットへの接続を許す,と言います.

しかし,他国の民主化団体の多くはアメリカの姿勢に抗議してきました.先日も国連総会は,45年に及ぶ,アメリカのキューバ制裁を廃止するべきだ,という決議を承認しました.アメリカによるキューバの経済封鎖は,アメリカによる法律が第三国の行動まで制限するという,主権を無視した強制なのです.アメリカの孤立を反映して,今年の決議には184カ国が賛成し,アメリカとともに反対したのは,イスラエル,マーシャル諸島,パプア,だけでした.

かつて自主労組・連帯の委員長としてポーランドの民主化を指導し,大統領となったレフ・ワレサの言葉です.「全体主義社会においては,政府は人民に確かに話しかける.それは,話しかけるばかりなのだ.彼らは人民の声を決して聞かない.」

キューバの独裁体制を非難するだけでなく,この言葉で,Paolo Spadoniはブッシュ大統領を批判します.


NYT October 26, 2007

A Catastrophe Foretold

By PAUL KRUGMAN

FT October 28 2007

Time to avoid a subprime future

(コメント) 連銀のスタッフEdward M. Gramlichは,現在,サブプライム・ローンとして問題になっていることを,20045月に指摘していました.Gramlichは最近,ガンで亡くなったそうですが,さらに早く,2000年にもグリーンスパンに対して,サブプライム融資をもっと監視するように求めた,ということです.彼の助言は生かされなかったわけです.なぜか?

PAUL KRUGMANは,その理由はイデオロギーである,と主張します.

「これはレッセ・フェール(自由放任)のイデオロギーであった.グリーンスパンを含むワシントンのグループをこのイデオロギーが支配していた.彼らは政府がいつも問題の源であり,その解決をもたらすものではない,と信じていた.規制とはいつも悪いことであった.」

「残念ながら,規制されない金融市場が自分たちでうまくやっていけるという主張は,規制緩和が電気料金を引き下げるという主張と同じくらい,間違っていることがわかった.」

サブプライム融資は規制緩和の当然の結果でした.金融市場はプルーデンシャル規制と監督が必要であり,それがなければ悲劇につながります.実際,借り手も投資家も,カモとしてだまされたのです.投資家たちは,トリプルAの優良資産を買ったはずであったのに,実は,ジャンク・ボンドでした.借り手たちが示された良い条件は,実は,過重債務への罠でした.

なぜそのような危険な融資が,その複雑な仕組みを評価できない貧しい人びとに対して行われたのか? もちろん,彼らは引き込まれたのです.その結果は大虐殺,破産者の山です.

FTも,この200万のアメリカ家族が住宅を失うかもしれない危機に,規制緩和というレーガノミクスが批判される事態を予想します.正しい規制を行い,金融ビジネスに不当な誘因を与えず,政府は責任を果たすべきだ,と.


NYT October 27, 2007

Today’s Hidden Slave Trade

By BOB HERBERT

The Observer Sunday October 28, 2007

Child sweatshop shame threatens Gap's ethical image

Dan McDougall

(コメント) この論説は,ローワー・マンハッタンの法廷で証言した韓国人女性を紹介し,売春ビジネスと現代の奴隷貿易について警鐘を鳴らします.

彼女はほとんど英語を話せず,通訳を介して,ニューヨーク,フィラデルフィア,ジョージア,ロードアイランド,コネチカット,ワシントンDCの売春宿で働いた,と証言しました.明らかに精神異常者にも売春を強要され,彼女は傷つけられ,背中など体の一部を削り取られました.

売春と人身売買の組織は,若い韓国人女性をときには違法に入国させて搾取しています.「かつては奴隷貿易が公に行われ,広告が氾濫し,奴隷たちはパレードし,動物のように検分され,しばしば公開して競売された.その末裔である現代のセックス産業と人身売買は,活動を隠しているが,女性によるサービスは大々的に宣伝している.」

電話帳,インターネット,雑誌にも,セックス・ビジネスは溢れています.こうして人間の売買は,今もパレードし,検分し,動物のようにあつかわれている,と.

セックス・サービスに関する幻想は浸透しているけれど,もちろん,自ら望んで売春婦になった者はほとんどいないし,売春婦のすべては逃げたがっている,と支援団体の代表(元売春婦)は述べます.その理由は,「危険,心理的・感情的な荒廃,低報酬,恥辱」です.

Dan McDougallの記事は,インドの児童労働と国際アパレル企業,GAPとの関係を批判しています.たとえ社会的な慈善活動に取り組む企業であっても,10歳の子供を下請け工場で働かせることは別問題です.それは,下請けまで調査することは非常に難しいから,消費者が安すぎる商品に注意せよ,という主張で終わっています.


Will Hutton These tycoons are stranger than fiction The Observer Sunday October 28, 2007

Matt Welch Burn, burn, burn, burn, burn the rich LAT October 31, 2007

Wolfgang Reuter Rising Prices Widen Gap Between Rich and Poor SPIEGEL ONLINE - October 31, 2007

(コメント) ビジネス大富豪の生活を知るには,the Financial Times Goldman Sachsが選んだ今年のビジネス・ブックを読むのが良いそうです.

The Last Tycoons by William D Cohan.それに加えて,Anne Enright's compelling The Gathering.そしてIan McEwan's portrait of Sixties sexuality On Chesil Beach,が紹介されています.

南カリフォルニアの大規模な山火事が住宅地に及び,人々の家を炎の海が消し去っているようです.その消火施設や消火体制について,Matt Welchは「階級戦争である」と憤慨する声を伝えています.なぜなら,消火体制のコストを居住区が負担するから,富裕層だけが助かるのです.

消火活動も民営化され,市場が導入されています.その結果,アメリカは消火できる地区と焼失する地区とに分割されてしまいます.しかし,もちろん消火体制や消火活動は公共性が高く,ゼロサム・ゲームではありません.こうした非難と憎悪が続けば,焼け残った金持ちの家を燃やせ,という叫びが広まるでしょう.

中央銀行が金融市場のパニックに対して通貨を供給し続けることも,インフレの炎を呼び込んで貧富の差を拡大するのではないか,と懸念されています.土地や株価の上昇とバブル,その崩壊は,貧困層をより大きく傷つけます.


WP Sunday, October 28, 2007

Free Elections Come First

By Robert Kagan

(コメント) かつて奴隷制は自然に反しており,崩壊するしかない,と言われました.しかし,リンカーンは奴隷制が新しい条件のもとでも繁栄し得る,と主張し,それは自然に消滅するのではなく,人間の意志によって廃止しなければならない,と考えたのです.

Robert Kaganは,同じことが中国やロシア,ベネズエラの支配体制についても言える,と主張します.こうした体制は生き残れるとは思えなかったのです.特に冷戦後には,死滅するはずでした.しかし,それは実現せず,逆に,専制支配が成長に有利である,と主張する者さえ見られます.

彼らを承認し,世界市場に加えることで,自由な選挙を求める中産層が経済的繁栄によって形成され,自分たちで専制支配を終わらせるはずでした.しかし専制政治は成長過程にも同化し,さらに,その支配層は民主的な選挙でさえ勝利するケースがあると分りました.そして,シンガポールでリー・カン・ユーが誇ったような「リベラルな専制支配」が誕生します.

少なくとも,民主化は自然に・受動的に実現するものではない,ということです.


FT October 28 2007

How America must handle the falling dollar

By Lawrence Summers

Oct. 29 (Bloomberg)

Dollar's Demise Can Be Seen Even in the Maldives

William Pesek

FT October 29 2007

History’s warning about the price of money

Manuel Hinds and Benn Steil

(コメント) Lawrence Summersは,ドル暴落の不安や,ユーロ高への懸念,米中の経済戦略会議,などを引きながらも,為替レートに関する新しい協調体制が必要なことを指摘します.

新しいアメリカ大統領は,もはや「強いドル政策」や「ファンダメンタルズ」を反映した為替市場の変動を支持するだけでは不十分です.なぜなら巨額の経常収支赤字を前提したドルの水準とは,それに対応した中国など,自国通貨を安く維持しようとして外貨準備を増やし続ける諸国の政策によって,大きく変わるからです.

G7はもはや為替レートへの関心を失い,そのメンバーは力不足です.中国だけを非難することもできません.新しい為替レートとマクロ経済政策を組み合わせる国際協調体制には,次の二つの原則がふさわしい,とLawrence Summersは考えます.1.より強力な,統合された世界経済が,それに参加するすべての市民にとって望ましい,という原則.エコノミストや政治家が決めた「公正な為替レート」で駆け引きしてはいけない.2.多角主義は一方主義よりも望ましいが,現状の国際機関が最善ではない.その構成を改善し,頻繁に会合を開き,中央銀行を加えるべきです.しかし決定は,各国の代表が行い,国際機関にゆだねることはできない.

モルジブ諸島の首都で意外なことを言われ,William Pesekは驚きます.「ドルはいらないよ.」 その国の通貨rufiyaaの方に人気があるのです.たとえ小さな国でも,これまで事実上のドル化を受け入れてきた人々が,どうして現地通貨に変わったのか? これはドルによる世界経済の終焉ではないか?

通貨の価値を維持するという目標と,金融システムの不安定化を防ぐ,という目標が対立したとき,中央銀行はどうするべきか? バーナンキは金融緩和に踏み切りましたが,消費者物価が安定しているだけで,インフレが回避されているとは言い切れません.メキシコでも,アジア諸国でも,ドルへの逃避が起きたとき,インフレは抑えられていたのです.

Manuel Hinds and Benn Steilは,フランスの経済学者Jacques Rueffの指摘を紹介して,ドル建て資産から逃避して他の価値あるものへ向かう投資家の動きがすでに始まっていることに注意します.通貨の価値が失われると感じれば,金,土地,住宅,株式,絵画,その他,数が少なくて,しかも本来的な価値を認められているものを,人々は購入しようとします.これほどの移動は,1960年代の国際収支危機と,70年代の石油危機において起きただけです.

まだアメリカはボルカーによって得た低インフレ率を頼り,ドルに代る通貨建の資産がないことを頼れるでしょう.しかし,貨幣の歴史はいつでも次の危機を待っています.


The Japan Times: Monday, Oct. 29, 2007

China and Japan

WP Thursday, November 1, 2007

The Japanese Navy Heads Home

By Ayako Doi

(コメント) 中国の急速な追い上げは,常に日本の不安を刺激しています.しかし,同時に,新しい開放的な関係が試みられている,と言います.仕事,言葉,引退後の生活,教育,その他の文化面でも,日本と中国は互いの機関を利用可能な形で開放し,共有することで,親密な関係を築けるかもしれません.

WPが掲載した日本人の論説は,インド洋における自衛隊による海上給油活動を延長するかどうか,自民党と民主党が争っていることをアメリカ人向けに取り上げています.こうした論説を載せるほど,アメリカの政治家が日本の方針転換を降って湧いたようなアメリカへの裏切りだと感じているのでしょうか.


The Guardian Tuesday October 30, 2007

Debating diversity

Anthony Giddens

FT October 30 2007

England’s massacre of the immigrants

By Sue Cameron

The Guardian Wednesday October 31, 2007

The left can no longer afford to bury the migration debate

Jenni Russell

FT October 31 2007

Why limiting immigration is bad for Britain

Danny Sriskandarajah

FT October 30 2007

How Switzerland swung to the far right

By Haig Simonian

(コメント) David GoodhartRobert Putnamの最近の研究を基に,移民の増加は福祉国家(そして多文化主義)の政治的な基礎を掘り崩す,また,社会的な多様性の増大が「信頼」や「社会資本」を減少させる,とAnthony Giddensは紹介します.しかし,移民を悲観することは間違いです.それがもたらす社会変化は多くのプラスの側面もあります.言葉や宗教,民族,などを超えた公共政策や社会制度を構築することで,人々は社会的な連帯感や公共心を持つでしょう.

スカイ・ニュースTVのプレゼンター,Julie Etchinghamが,マイクの入っているのを知らずに,「保守党の移民政策は<絶滅>だよ.」と冗談を言ったそうです.イギリス史における1000年前のエスニック・クレンジングを紹介しています.すなわち,デーン人たちはひそかに入植して王とその仲間を暗殺し,この国を乗っ取ろうとしている.だから,彼らを殲滅しなければならない,という勅令をEthelred IIが発しました.その結果,デーン人の男も女も子供も,生きたまま焼き殺されたのです.ジャーナリストのジョークは重要ではない.しかし,ここで起きたことについての歴史は重要だ,と.

Danny Sriskandarajahが指摘するように,移民に関する論争は政治的な関心を集めて,主要な課題になっています.しかし,国境警備や新規加盟国からの移民拒否など,表面的な対策をいくら講じても,有権者の満足は得られないでしょう.たとえ最低賃金を引き上げても,非合法な移民や下請け業者は守らず,イギリスが安価な労働力を必要とすることに変わりないからです.もしそのような企業を処罰すれば,安価な商品を求めることが難しくなる,という矛盾に直面します.また,白人の若者が失業し,新規雇用の多くは安価な移民の熟練労働者によって満たされる,ということも判明しました.

その解決策は一つしかない,とDanny Sriskandarajahは考えます.イギリスの労働者の技術水準を上げることです.たとえ時間と財政負担がもっと必要でも.

スイスの国民投票では移民排斥を強調したSVPが勝利しました.その解説はまだ政治的な解釈を迷っています.

The Guardian Thursday November 1, 2007

Not immigrants, but 'semigrants'

Denis MacShane

ふたたびイギリスは移民恐怖症にとらわれた.そしてまた保守党の党首はパウェルのように移民排斥を唱えている.ポーランド人労働者にシラク的な保護主義が必要だ,と.しかし,もちろんEU外の移民でも,アメリカ人やオーストラリア人ではない.

Cameron の個人史を読めば,その保守主義と品の良いノッティング・ヒル・モダニズムが分かる.あるいは,お好みならストリッパーの話もある.彼女たちの国籍は何だったのか? と思うが.労働党がシラクの保護主義を拒み,ポーランドの労働者を認めたとき,保守党も賛成したはずだ.Cameron はソフトな反移民,反外国人労働者という政策を掲げる.

新しい労働者に住宅や学校が足りないのは本当だ.統計局は正しい数字を示すべきだ.しかし,これが論争のテーマではない.私は20年前にスイスで働いていた.二人の子供はそこで生まれた.税金を払い,スイスの労働や生活の習慣に従った.それでも私は移民か? メディアや政府,野党によれば,そうである.たまたま自分の国ではないところだったから.

イギリスの最大の移民集団はアイルランド人である.この10年間に40万人のフランス人が,フランスより魅力的なイギリスで働いた.20万人のアメリカ人,20万人のドイツ人,そしてオーストラリア人,ニュージーランド人.移民は伝統的に土地を負われた家族であった.生活やアイデンティティーを永久に移す.1960年代,70年代のカリブ海諸国やインド亜大陸から来た人々は移民だった.しかし,私はポーランドに行くたびに思うが,飛行機はポーランド人でいっぱいだ.彼らはイギリスとポーランドを行き来する.彼らは移民ではなくヨーロッパ人であり,稼げるところで働くのだ.

だから新しい言葉"semigrant" とか,ドイツ語から "guest-worker" を借りてはどうか.スペインには75万人のイギリス人が住んで,幸せに働いている.彼らは移民ではない.スペインの新聞もそう書かない.スペインに来た大量のイギリス人は,労働者が働けるところに向かい,他国の市民であるとともに,どの国に移って住んでも良い,という開かれたヨーロッパの正常な側面である.伝統的な意味での移民ではなく,イギリス企業を拡大し,支援するヨーロッパ市民たちであり,スペインの不動産市場を活気づかせた.

この10年で300万人を受け入れたスペインの国境開放政策は良い見本だ.それは成長が維持された時期であったから.イギリスよりも好調だった.国民の富は倍増した.しかし,偶然の一致ではない.逆に,すべての証拠から見て,外国の労働者に国境を開放するときに成長は最速になる.アメリカは1924年に国境を閉ざし,不況に陥った.逆に,戦後ヨーロッパの奇跡的復興は,数百万人の外国人がフランス,ドイツ,北欧,イギリスに着いたから可能だった.この20年間のアメリカの成長も,5000万人の人口流入を伴った.

保守党は「片足のリトアニア人」というジョークを好む.George Osborne は,イギリス経済の何も価値を追加しないで,家族を外国に置いたままの非イギリス人の教授たちを,財政的に懲罰する,などという.ドイツとフランスは,新規加盟諸国が労働市場に加わることを拒んで,損失をこうむった.今やその方針を撤回し,勤勉な東欧の労働者たちを歓迎している.労働党の閣僚がブルガリア人やルーマニア人の労働者に国境を閉ざすと語るのは悲しいことだ.両国民はイギリスに来るが,未登録の闇市場で働くことを強いられる.「移民」というだけで.

新しい言葉が必要だ.さもないと一層の外国人嫌いのパニック,ここに居住し働く非イギリス人へのパニックが起きる.彼らが来なくなったとき,イギリスの輝きは失われる.


Jonathan Power Visit Africa. Bring checkbook. IHT Tuesday, October 30, 2007

William Pesek China's Africa Dream Is Looking Less Nightmarish Oct. 31 (Bloomberg)

China’s African ties FT October 31 2007

(コメント) アフリカには成長を実現する投資が不足していました.中国には成長を維持する資源が不足しています.中国やインドがアフリカの銀行と企業を買収し,資源の開発に積極的な投資をすることは,望ましいことに間違いないのです.西側諸国がアフリカの援助や政治的混乱に疲れてしまったとき,中国とインドは新しい機会を見ています.

しかし,問題もあります.それはアジア諸国によるアフリカへの投資が政治的な介入を伴うことです.旧植民地銀行の買収は,中国が世界企業を得るための戦略です.


FT October 30 2007

Biofuels: a tale of special interests and subsidies

By Martin Wolf

(コメント) 環境保護とエネルギー供給は,経済成長を長期的に脅かす最も重要な問題です.そして,それが政治的な目標として掲げられるようになったのは,関連する補助金の分配が政治家たちにとって非常に重要だからです.バイオ燃料の生産や普及には,当初から,アメリカの農民に与える補助金の新しい理由であることが指摘されていました.WTOの自由化交渉を破たんさせた同じ理由が,ここでも重要なのです.

OECD諸国がバイオ燃料に与える補助金はすでに130150億ドルです.それが少なくとも1500億ドルになると言われます.しかし,補助金の支給はきわめて複雑で,しかも不合理である,とWolfは嘆きます.その影響は食糧市場までゆがめてしまうでしょう.

5つの正当化はいずれも否定されます.1.農業の補助金に代わる,2.石油価格を下げる,3.化石燃料より安定・安全,4.温暖化ガスの効率的な抑制,5.インフラを整備する期間だけ必要.それらは真実ではありません.

いつもと同じように,既得権者が喜ぶから,新しい補助金が導入されたのです.バイオ燃料への転換を促す定率混入制を廃止するとともに,政策目標(温暖化阻止や安全保障)を明示し,燃料の世界市場価格を統一してから,その目標の実現を図れ,とWolfは主張します.


BG November 1, 2007

Turkey's Iraq problem

By David L. Phillips

FT November 1 2007

Kurdish crisis offers a chance for lasting peace

Ibrahim Kalin

(コメント) 国境を超えて広がる国家を持たないクルド人の居住地域から,民族独立の武装勢力がテロ攻撃を行います.トルコ政府はイラク北部に入ってクルド人のPKKを掃討する権限を議会から与えられました.しかし,イラク内のクルド地区へ武力介入することは,周辺諸国からの介入を招きます.それでもエルドガン首相は行動を求められています.

トルコ政府が今まで行ってきた同化政策や掃討作戦は多大な犠牲者を出してきました.イラクの問題に関わることで,今度ばかりはアメリカや周辺諸国との協力が必要です.民族の自治権を大幅に認め,経済復興を支援する必要があるでしょう.PKKとも和平を合意し,段階的に政治犯を釈放するべきだ,とFTは考えます.

FT November 1 2007

America is still indispensable but it must work with others

By Philip Stephens

(コメント) トルコとイラクの国境地帯に関するアメリカの関与といった形で,世界中に秩序が再編される際に,アメリカが関わることは今も重要です.アメリカは,たとえ軍事的な優位があってもブッシュ氏のような一方的国際秩序を描くことが出来ないと自覚し,紛争諸国に解決を促す国際・地域協定の保証人になるべきです.

しかし,とPhilip Stephensは注意します.この点をヒラリーやオバマは明確に指摘しているが,新しい勢力の,すなわち中国やインドの台頭をどのように組み入れるか,という考えが示されていない,と.すなわち,「第二次世界大戦後にやったように,大国が互いに競争するのではなく,協力するような国際システムを設計しなければならない.」 それは今のアメリカに求めても無理ではないか? そうかもしれません.しかし,もしそうであれば,世界は新しい無秩序に備えなければなりません.


FT November 1 2007

Central banks should prick asset bubbles

By Paul De Grauwe

SPIEGEL ONLINE - November 1, 2007

Fed Cut Could Spell Doom for Europe

Anselm Waldermann

(コメント) 金融政策の決定は難しくなりました.Paul De Grauweは,金融資産市場との関係を考えています.Anselm Waldermannは,国際的な影響を考えます.

アメリカとユーロ圏ではインフレに対する姿勢が異なります.アメリカはユーロへの影響を無視して政策決定を行っています.しかし,ユーロ圏の懸念は次第に中央銀行間の対立や社会対立を強めています.

Paul De Grauweの主張は明快です.最近の経験が示したように,資産市場のバブルは銀行システムを破壊しますし,銀行システム以外の機関が信用の膨張にかかわっています.これらを解決しなければ,インフレ目標だけで経済は安定化できません.すなわち,

1.中央銀行は資産市場のバブルも監視して,それを予防しなければならない.それは認知できるし,政策として,インフレ抑制と同じように実行可能であろう.2.中央銀行は信用創造できるすべての機関を監視しなければならない.そうでなければ無責任な貸し手の失敗を引き受けることになる.

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The Economist October 20th 2007

Lessons from the credit crunch

Only human: A special report on central banks and the world economy

Northern Rock: Lessons of the fall

(コメント) 中央銀行の金融政策に対する過度の信頼がもたらす破壊的な影響について反省し,ノーザンロック銀行の取り付けがイギリスの金融システムに示した教訓を理解しようとしています.これは,かつて為替レートについてG7が,政策協調と目標設定を模索した成果と,その破壊的な影響を批判された経過に似ていると思います.

日付を追って金融危機が迫る過程の詳細には興味を惹かれました.The Economist1987年のブラック・マンデーと比較して挙げたのは以下の点です.

1.金融危機は,株式市場ではなく,債務市場に集中した.市場化された債務は危機を切り離すことが難しく,非常に危険である.サブプライム・ローンによる損失がどの金融機関にどれほど発生するのか分らないため,短期資金市場が麻痺し,金融逼迫を拡大した.

2.中央銀行が,インフレ抑制によって称賛される一方で,金融システムの安定性維持には失敗した.金融技術の変化や複雑な金融商品,制度的な独立や政治家からの独立,などを経て,金融政策にも反省を求められている.

@インフレ率が低いからというので,低金利を続けすぎたのではないか? A資産市場のバブルを正しく扱えなかった.B「最後の貸し手」と「金融監督」との関係が切れてしまった.

そして何より,中央銀行の強大な権限や影響力について,政治家や市民が幻想を抱くようになって,問題があれば中央銀行の行動を求めるような政治的圧力が生じてしまいました.それは,中央銀行が得た高い信頼を成長の加速に転換できると思ってきたことが,実は間違いだった,という反省を生んでいます.

新しい規制や監督は必要でしょう.しかしThe Economistは規制がコストを伴うと注意します.実際,BISによる自己資本に偏った規制は,リスクの評価方法なども含めて,今回の金融危機を回避するより,促進した面があるようです.他方,制度的な背景も含めて,中央銀行総裁の考え方や金融市場とのつながり,さまざまな重要な地位にある個人の力量が問われたと思います.

中央銀行も,金融政策も,金融システムも,パニックも,「すべては人間が担う」(そして,制度や政治が重要である)という原則に回帰したようです.


The Economist October 20th 2007

Turkey and Armenia: A resolution too far

Turkey and Armenia: Unearthing the past, endangering the future

Japan: Don’t furl the flag

Argentina’s presidential election: Cristina, a familiar enigma

Economics focus: Intelligent design

(コメント) 90年前のオスマン・トルコによるアルメニア人虐殺を,トルコ側の反論に対する考慮もなく,現在のトルコ政府に抗議する.しかもEU加盟問題や国内の近代化・民主化に取り組む中で,また,アメリカ軍やNATOの同盟国として重要な貢献を果たすイスラム大国に,アメリカ議会が非難決議を示す,というのは失敗だった,とThe Economistは考えます.

「諸国がその過去(に犯した罪)を直視するのは良いことである.」「ドイツがナチの時代犯した罪を認めた開放的な態度は称賛できる.日本はそれほど率直ではない.」 トルコも,第1次世界大戦中に起きた虐殺事件を直視して,近代的で民主的なトルコを築くべきです.

しかし,アメリカ議会の政治的な介入は,トルコ人の自尊心を損ない,ナショナリズムを(それゆえ,軍部を)刺激したでしょう.イラク北部とトルコとの国境地帯でクルド人組織と繰り返される紛争について,アメリカやイラク国内のクルド地区がトルコ政府と協力し,解決することを示す必要があります.

他方,日本の安全保障における自衛隊の貢献を国民が強く支持していない,という状態をThe Economistは憂慮しています.この記事において,すでに福田と小沢が協力する案,自民党と民主党の「大連立政権」が,安全保障にかかわる政治的な根回しで進められている,と明記しています.さらに,これは決裂し,小沢が代表を辞任するけれど,自民党のタカ派も強硬策を主張して,公明党が政権を離脱する.民主党との連立政権が成立するだろう,と予想しています.もちろん,記事は政治アナリストや加藤紘一など,日本人が助言して書かれたわけです.

あるいは,民主党が分裂する,というシナリオでしょうか.

アルゼンチンの政治危機は過ぎ去って,今はキルチネルの妻が権力を継承するときです.しかし,記事は,クリスチーナ・フェルナンデスが政策を示さず,夫と権力をバーゲンセールで交代する気ではないか,と疑っています.経済もインフレ,政治もインフレです.

さて,ノーベル賞の対象になった「メカニズム・デザイン」について,この簡潔な紹介もそれほど助けになりませんでした.受賞した一人(Leonid Hurwicz)は90歳で,対象論文は55歳のときに書いたそうです.パレート最適には,参加者の情報やその動機が前提されています.これがうまく働かないと良い結果につながらない,ということでしょうか?