IPEの果樹園2007

今週のReview

10/29-11/3

IPEの風

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

第三次世界大戦, 中国の進路転換, 中国の農村改革指導者, BeSTコンセンサス, グローバリゼーションのラッダイト運動, 国家のATM化, ビルマへの制裁, オーウェル主義国家, 金融理論の定理と惨禍

******************************

ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT October 18 2007

War is never simple but it must at least be just

By Philip Stephens

(コメント) イラク後のアメリカと世界において,「戦争をする」という国家の選択肢をPhilip Stephensは考えます.

要するに,アメリカはもう海外の紛争に手を出さないでしょう.イラクで失敗し,国際社会の非難を浴びたのであれば,ダルフールも,ジンバブエも,ビルマも,アメリカ政府には関わりない.たとえば,アメリカは軍事力を過信し,自分たちの理想に従って世界を作り変えられると考えた.それが間違いだったのだ,と.

しかし,ブッシュもヒラリー・クリントンも,「すべての選択肢を考慮する(“all options” remain on the table)」と答えています.これは危険な表現です.ワシントンの戦争に関するコンセンサスが,自信(過信)から不安(恐怖)に変わったかもしれません.

強硬な態度は必ずしも敵の攻撃を抑制できません.それは国民に攻撃を予感させ,ときには,軍事的オプションを避けているという非難を強めます.しかし,イラクが示したように,国民の期待は未来を予測する正しい基準ではありません.

より好ましくない非難は,人道主義的な国際介入とネオコンとを同一視するものです.基本的人権を守るために国家がその境界を超える場合と,軍事力の優位を普遍的な価値観の実現に利用する場合とは,区別しなければなりません.制裁を課し,ジェノサイドを止めるため地域的な平和維持軍を編成することもできます.しかし暴君たちが知っているように,その効果は限られています.

イラク戦の後,軍事的選択肢は再び「最後の選択肢」という位置に戻りました.しかし,世界には破たん国家,イスラム原理主義テロ組織,大量破壊兵器,ジェノサイド,などが蔓延しています.軍事的選択肢には道徳的側面がある,ということを忘れてはなりません.

戦争を認める国連憲章と安保理の六つの基準は,国家は国境を超えるな,と,国家は人権を守れ,という二つの原則を結び付けようとしたものです.戦争は積極的に支持されてはいないが,最悪の事態を意味してもいないのです.

Philip Stephensが言うように,それは「正しい戦争」を時代に即して合意することです.湾岸戦争やコソボ介入はそれが成功し,イラク侵攻には当てはまらなかったようです.しかし,過去だけでなく,将来についても問われています.国家が戦争を選択するのは,いつか(条件),そして,なぜか(根拠)? その問いを避けることはできません.

LAT October 20, 2007

Avoiding WWIII

BG October 22, 2007

Forgotten faces of war

By James Carroll

LAT October 22, 2007

One strike, Iran could be out

Niall Ferguson

(コメント) ブッシュもブレアも,再び戦争への準備を促しているようです.しかも明確に,第三次世界大戦,を意識して.イランであれパキスタンであれ,核武装したテロ集団とイラクのアメリカ軍との衝突が,中東地域における石油資源や,ロシアと中国も関与する世界再分割戦争の始まりとなるのでしょうか?

ブッシュ大統領は,第三次世界大戦を避けるためにイランの核武装を許してはならない,と主張し,ブレアは,イランの革命防衛隊を1930年代のナチスにたとえています.いずれも重大な危険を強調する(そして軍事介入や戦争を準備する)ための表現です.

LATは,ブッシュ大統領の発言からニクソンの「マッドマン理論」を連想します.ベトナムの戦況が悪化する中で,ニクソン大統領はソ連と北ベトナムによる支援を止めるために,「ニクソンは核兵器のボタンを押すほどの狂人だ」と信じるような芝居を打とうとしたのです.ブッシュ氏も,同じような威嚇を試みています.

ただし,イランの指導者たちには,この「理論」が前提するような合理的反応を期待できません.すでに,イスラエルを世界地図から消してやる,と宣言しているほどです.むしろ,互いの戦争準備を加速させ,アメリカは外交的手段を失って,議会が今度こそ分裂し,友邦諸国からも見捨てられるでしょう.

James Carrollは,ブッシュ大統領はようやく第三次世界大戦を招いたことに気づいたようだが,実際は,世界に自爆テロのベストを着せたのだ,と批判しています.

Niall Fergusonは,2006年1月に書いたコラムで,将来の中東戦争を予想したシナリオを書きました(「今週のReview 1/23-1/28」も参照).そして,外交的手段が成功しないなら,アメリカ政府がイランの核施設を直接に破壊するように求めたのです.

実際,最近,イスラエルはシリアにこれを行い,その報復や地域の不安定化を招かないことを示しました.たとえイギリスやフランスが支持しなくても,アメリカは軍事攻撃をする(そして,それが正しい)だろう,と考えているようです.

アメリカ政府がイラン核施設への攻撃に対応できる空母を派遣すれば,中東戦争,もしくは第3次世界大戦の始まりかもしれません.http://www.gonavy.jp/CVLocation.htmlorでいつも原子力空母の位置をチェックせよNiall Ferguson教えています.


FT October 19 2007

G7 steps up pressure on renminbi

By Chris Giles and Krishna Guha in Washington and Richard McGregor in Beijing

(コメント) G7が世界経済の不安定な状態についていつも警告を発しているのは,中国の介入による為替レートの不整合です.アメリカの経常収支赤字を減らす負担がユーロ高によってユーロ圏にのみ負わされている,という不満が強まっています.

他方,中国はG7に政府の代表を送っておらず,またIMFの新しいサーベイランス・メカニズムにも反発しています.こうして主要国が人民元の増価を望ましいと表明する中で,しかも,中国政府がそれを無視する中で,主要為替レートの調整が不安定な状態を準備しているのは当然です.


BG October 19, 2007

Turkish threats

The Guardian Friday October 19, 2007

A fight on many fronts

Jonathan Steele

YaleGlobal, 22 October 2007

Old Gripe Brings Turkey Face to Face With Iraq

Dilip Hiro

The Japan Times: Wednesday, Oct. 24, 2007

Turkey's army won't invade

By IAN BREMMER

(コメント) イラク北部への軍事介入を行う権限を議会がトルコ政府に認められました.これは危険な威嚇である,とBGは批判します.トルコ政府などが非難するように,クルド人の武装勢力PKKがトルコ北部で兵士や市民を殺害する事件が真実であれば,トルコ国民が政府に改善のための行動を求めるのは当然です.

しかし,その背景にはトルコ政府と軍部・諜報機関との権力闘争の影響があります.エルドガン政府はPKKによるテロへの対応において,軍部の強い影響を受けるのです.また,トルコが介入すれば,他の周辺諸国も介入を強めるでしょう.イランやシリアはクルド民族国家の誕生を嫌ってすでに介入しています.

BGは,こうした軍事的手段はテロを抑えることもないし,地域を安定化することもない,と反対します.むしろ,トルコは拘留中のPKK逮捕者を解放して,PKKとの平和的な交渉を指導するべきだ,と主張します.それがトルコの国益にも沿うだろう,と.

Jonathan Steeleは,トルコによる限定的な越境攻撃が支持される場合もある,と考えます.

「単純な『テロとの戦い』という図式は,多くの政府が世界中で少数民族を弾圧している事実をごまかすために利用している.こうした少数民族がすべての他の手段は閉ざされたから,武器を取るのだ,と言うのが正しいかどうか,その地域の条件を注意深く分析する必要がある.また,彼らが暴力をふるうのが主として非武装の民間人であり,それゆえテロリストであるかどうかも,彼らを非難する前に検討しなければならない.」

他方,Dilip Hiroの論説は歴史を振り返ります.トルコのクルド人制圧が重大な問題になるのは,第一次世界大戦によるオスマン帝国の崩壊後,大国の介入によってできた中東地域の国境と安全保障システムが問い直されるからです.そして,アメリカの庇護の下で独立を確信するようになったクルド人たちにより,地域のバランス・オブ・パワーが崩れ,アメリカの撤退がますます難しくなる状況を分析しています.

イラク北部のクルド人地区は,独自の軍隊を持ち,独自の議会を持ち,独自の国旗を掲げています.彼らがトルコ,シリア,イランに帰属させられたクルド人たちを刺激するのは当然です.また,アメリカ議会が第一次大戦時のオスマン帝国とそれを引き継ぐトルコに対してアルメニア人虐殺と強制移住を非難したことも,トルコの反発を生じました.

トルコがイラク北部に軍事侵攻した場合,国連やアメリカ,イラク政府がどう動くのか,判断は難しいです.かつてクルドの独立は国際条約(1920年)で認められ,その後(1923年),否定されました.さらに,2003年,米英軍によるイラク侵攻はクルド人の支持とその安全確保が条件でした.その後,イラク政府内において,シーア派は中央の権力を強化したいと考え,クルド人は地方分権を主張します.

シーア派が折れて連邦制に向かったことで,トルコは危機感を抱いた,とDilip Hiroは書きます.トルコ政府は,これをクルド人に対するアメリカの政策の失敗,また「テロとの戦い」における失敗である,と考えます.アメリカ軍は,両者を分離するために駐留し続けるしかないわけです.


The Guardian Friday October 19, 2007

Pakistan holds its breath

Simon Tisdall

NYT October 19, 2007

The Return of Benazir Bhutto

FT October 19 2007

Bhutto fights on ‘to save democracy’

By Jo Johnson and Farhan Bokhari in Karachi

FT October 19 2007

Pakistan enters a bloody transition

The Guardian Saturday October 20, 2007

Bhutto must fight on

FT October 21 2007

Only democracy can defeat Pakistan’s extremists

Benazir Bhutto

Asia Times Online, Oct 24, 2007

US forced into 'Plan B' for Pakistan

By Syed Saleem Shahzad

(コメント) イラン,トルコ,さらにパキスタンが最も危険な状態を示しています.アメリカからの圧力によって国境地帯のイスラム原理主義を掃討しつつ,国内では軍事政権を維持してきたパキスタンに,民主化の政治指導者が帰国した途端,支持者たちの行列が自爆テロで吹き飛ばされたのです.ブット女史は助かりましたが,多数(130人以上)の死者と政治的混乱を残しました.

しかしSimon Tisdallは,この大規模なテロが政治的な和解と原理主義への拒否を促すだろう,と主張します.ムシャラフ将軍とブット女史の曖昧な合意は,新しい政治の現実として実効性を試されるでしょう.二人の政治的立場は大きく違っても,パキスタンが分解することを避けたい気持ちは同じはずです.アメリカからの圧力も,民主化を進めるブット女史の方が和らげる余地を得るでしょう.

NYTが指摘するように,ブット女史の帰国は双方の免罪や恩赦をもたらす多くの妥協や法を無視した合意によって可能となったものです.その意味で,「民主化」でもなければ,「法の支配」でもありません.しかし,アメリカが利用してきた8年間の軍事政権を終わらせ,議会の選挙に向けて政治指導者たちの帰国を認めたことは,最初の重要な一歩なのです.たとえそれがテロリストによる歓迎を受けたとしても,前進を止めるべきではない,と.

人々を家の中に押しとどめ,沈黙を強いてきたパキスタン軍と秘密警察が,あるいは,アルカイダなどのテロリストが,「テロとの戦い」とアメリカを支持するブット女史を迎える彼女の政党と民衆の再登場を阻止するために爆破したのであれば,それがパキスタン政治の流れを変えるかどうか,今後の選挙運動にかかっています.一層の流血を防ぐことができるのか,パキスタンの軍や治安部隊,警察組織に対する権力を掌握するネットワークを問い直すときです.

ブット女史はFTに声明を出しました.これはパキスタン国民の選択を示している,と.穏健派と過激派,教育と文盲,独裁と民主主義,寛容と頑迷,平和と戦争.国民はどちらを選ぶか.この戦いを進めるだろう.「パキスタンの通りと私の衣服を染めた支持者たちの血に対して,私は誓う.」・・・パキスタンの将来は,自由で公平な選挙によって決めよう.


Kamil Tchorek Fighting for the past IHT Friday, October 19, 2007

Marian Tupy Poland must wind back power of the state FT October 22 2007

Poland: Separating the terrible twins The Guardian Tuesday October 23, 2007

(コメント) 双子のKaczynski兄弟がポーランドの政治を支配しているのは,ポーランド国民がその過去にとらわれているからです.すなわち,英米がソ連を動かせず,ドイツ軍によって蹂躙された「ワルシャワ蜂起」の悲劇,あるいは,その後のソ連支配下における生活,です.しかも,歴史をねつ造し,恐怖によって支配するのはソ連と同じである,とKamil Tchorek批判します.

漸くそのポピュリズム政権が終わる,とMarian Tupyは選挙結果を喜びます.中央ヨーロッパには自由化や改革を唱える政治エリートの汚職・腐敗が蔓延し,それゆえ,ポピュリズムや民族主義の保守派政権が誕生してきました.移行経済として,まだ政府の規制や介入が多く,政治エリートが経済的利益を独占するケースが多くあったわけです.


NYT October 19, 2007

China Economic Puzzle

(コメント) 「胡錦涛主席が共産党大会の開幕に際して中国の成長経路を見直すよう求めた.しかし驚くのは,これまでそうしなかったことだ.

輸出産業に莫大な投資を行ったせいで,その歪みは衝撃的なものとなっている.呼吸できないような大気,有毒な河川は,エネルギーの膨大な消費と増大する二酸化炭素排出量に並んで,世界的な規模の被害をもたらすという危惧を強めている.その代わりに,投資がもたらした雇用はわずかでしかない.中国の家計の購買力は経済成長よりも大きく遅れている.沿岸部の歯止めない輸出産業の拡大は,内陸部を犠牲にしており,その所得格差をアフリカ以外では見られないほどに拡大している.」

NYTは求めます.1兆ドルを超える外貨準備は,ドル安による損失のリスクにさらされています.人民元を切り上げることでこれを抑え,軽工業を拡大して,労働者の雇用と消費を増やしなさい.また内陸部においても医療保険や年金,教育を整備し,成長のひずみに苦しむ人々を助けなさい.金利を引き上げて,輸出向け企業の過剰な投資と資源・エネルギーの浪費を抑えなさい.

多くの国民に利益を分かち合う,環境に優しい発展に向けて,中国は変化する必要がある,とNYTは主張します.さらに,その際,アメリカ議会が中国を罰するような法律を作れば,それは中国人の怨嗟をもたらし,特殊な利益を守るために国旗を振り回す人々を刺激することで,事態を悪化させるのだ,と.

BBC 2007/10/20

Growth behind China's identity crisis

By Jill McGivering

LAT October 21, 2007

China's future: a nation of single men?

By Joshua Kurlantzick

FT October 21 2007

Roots of China’s miracle

By Yasheng Huang

FT October 22 2007

China’s billionaires begin to add up

By Robin Kwong

FT October 25 2007

The dollar, euro and China

(コメント) 急激な社会変化を経験している現代中国の人々は,再び儒教を学ぶことで伝統的な価値観を尊重し始めているようです.なんでも金に換算し,豊かになることにばかり多くの人は夢中です.貧しい人びとは共産党も自分たちを救ってくれないことを知っています.かつて文化大革命で破壊された儒教が復活し,混乱の中でも優れた思想を示した,歴史上の孔子に学びたいという人が再び現れています.

あるいは,中国の一人っ子政策が重大な社会問題を引き起こしつつあります.人類史上最悪の男女比率(120100)である,とJoshua Kurlantzickは警告します.中国はまた急速に高齢化しつつあります.それは所得の上昇よりも急速にアメリカの水準に並びます.男女比の不均衡は犯罪率を押し上げ,セックス産業の人身売買が増えている,とも主張します.政府はそれを軍隊へ吸収することも考えるでしょう.

中国の歴史上,19世紀半ばにも同じような男女比の不均衡は地方における反乱を多発させ,10年に及ぶ政治不安を招いた,と.

Yasheng Huangは,中国経済の成長が1980年代の農村改革にあったことを強調します.特に,197812月,安徽省の村Xiaogangで,18家族が秘密裏に生産物を私有化しました.もし誰かが逮捕されたら,残りの者が家族を助けるという血判状まで作りました.Wan Liは当時,安徽省の書記でした.彼は農民たちを逮捕せず,むしろその試みを擁護しました.今では生産請負制と呼ばれる制度が,その年の内に安徽省の90%の農家で行われるようになり,数年で国中に広まって農産物を増やしたのです.

その後,Wanは副首相にまでなり,金融の自由化,土地貸借期間の長期化,雇用の移動,地方と都市の取引,地方の党幹部の権限縮小,農村レベルの民主化,など,改革を推進した,ということです.91歳の彼は,今回の共産党大会でゲストとして招かれました.

その後,1990年代の開発は沿海部の都市や高層ビルの建設に集中し,逆に農村を貧しくしました.しかし,それは雇用・消費も技術進歩も軽視した失敗であった,とYasheng Huangは批判します.1980年代の開発に戻って,農村に学ぶべきだ,と.

次は,中国の億万長者に関する論説です.1999年から行われている長者番付the Hurun rich listによれば,初回にはたった一人が10億ドルを超えた中国の富裕層が,昨年は14人,今年は106人に急増しました.彼らの富は,自由化と不動産バブル,そして政府とのコネクションによるようです.

G7が中国政府に人民元切り上げを求めたとき,不均衡是正はその通りですが,なぜユーロ圏はそれほど強く主張したか? という点をFTは考えています.中国が切り上げても,その他のアジア通貨やロシア,産油諸国など,調整するべき通貨がどうなるかはわかりません.また,アメリカとユーロ圏の対中国貿易はパターンが似ており,米欧間の貿易パターンを変えることはないからです.ユーロ圏の競争力が多いに高まる,とは言えないだろう,と.


WP Friday, October 19, 2007

Crisis Comes to the IMF

FT October 19 2007

Rethinking development policy: A new consensus

By Keun Lee, John Mathews, and Robert Wade

(コメント) 固定レート制で,しかも,民間資本移動がほとんどなかった時代には重要であったIMFが,今では旧経済大国による無用の長物になって,むしろ市場の混乱を拡大した,と非難されています.

年間10億ドルの経費を賄えなくなったIMFは,経費削減を求められます.しかし,余計な分野に手を出すより,いまは安全な金融システムのための助言や情報収集に努め,次の危機に備えるべきだ,とWPは主張しています.

新興市場のメンバーがIMFにおけるもっと大きな発言力を得るでしょうし,役に立たなかったミクロ経済的な政策介入を止めるべきです.Keun Lee, John Mathews, and Robert Wadeは,「ワシントン・コンセンサス」を三つの点で批判します.

1.マクロ経済の安定化や市場自由化,特に為替レートや資本移動,民営化などは,ワシントンの経済理論モデルが要求した条件であった.それらを満たしたハイチよりも,満たさなかったベトナムの方が,はるかに成長し,貧困を減らすことにも成功した.2.市場を強調するだけで,それに反応できる生産能力や資源配分を実現する問題について何も考えていない.3.発展段階の違いを無視し,後発的発展の重要な効果を見逃している.

そこで彼らが提唱するのは,アジア諸国が示した高成長を説明する合意,「BeSTコンセンサス(the Beijing-Seoul-Tokyo Consensus for development日中韓開発モデル)」です.

日本やアジアの経済発展に関してこれまで議論されてきたものを集約した形で述べており,新しさではなく,開発政策の合意を呼び掛けたものです.すなわち,既存市場の欠陥を補うために公的な機関が民間企業のキャパシティー構築を手伝うのです.輸出入銀行,開発特区,研究開発機関,高度な政府・民間協力,などです.

こうした手法では,その国・政府が世界の生産フロンティアから大きく後退しているときに,容易に目標となる産業を民間市場で見出すことができる,という点で市場介入を賛美するだけの主張と異なります.同時に,政府は投資による利潤を大きく期待させ,また教育の役割を重視して,民間投資を高めることに貢献します.

こうした問題はワシントン・コンセンサスでは無視されていた,と批判します.


FT October 19 2007

No easy answers on immigration

By Christopher Caldwell

FT October 24 2007

Jobs without borders: Nordic nations want Baltic immigrants

By Robert Anderson

(コメント) 長期においては,とイギリスの移民相は述べました.「イギリスは移民がいないよりも移民がいる方が豊かである.」 しかし,短期については,確かなことは何も言えないのです.移民受け入れの損得は,経済学だけでは答えられない,と.

東ヨーロッパのEU新加盟諸国にも移民の自由を認めたブレアに比べて,その後の移民流入の激しさ,世論の厳しさを受けて,ブラウン首相は移民を規制し始めました.オーストラリアに似た「ポイント・システム」を検討し,雇用をイギリス人優先にできる,と主張しています.

Robert Andersonは,北欧諸国が積極的に移民労働者を受け入れる政策に転換した様子を描いています.@好景気による賃金上昇,と A高齢化による介護サービスなど福祉体制の維持,がその主な理由です.

移民は人種差別や社会対立を招く,という議論は全く触れられていません.むしろ,スウェーデンの若い労働者はロンドンに行ってしまい,特に熟練した肉体労働者が不足しているから,積極的に,例えばロシアからの移民を雇用するようになった,と,流出と流入について労働市場が活性化しつつあることを描きます.

問題は,政治的な支持を維持するために社会福祉システムのコストを抑えることと,労働者の反対を招かないように孤高ない労働条件が守られることです.労働党政権でもある以上,難民の受け入れを拒むより,特に低賃金労働者の流入をチェックしようとしています.

それは,あたかも中国のように,EU労働市場が形成されて経済発展が波及する過程であると思います.こうした移民政策の転換が,景気の悪化や保守党の政権に変わったとき,どうなるのか,数年後?を注目したいです.


Foreign Policy, September/October 2007

The Free-Trade Paradox

By Moisés Naím

(コメント) 現代の自由貿易論に関する要点を尽くした簡潔なメモです.「なぜ世界貿易は繁栄しているのに,貿易自由化交渉は破たんしたのか?」と,Moisés Naímは問います.

多くの国が自由貿易に反対する理由は分かっています.自由貿易の利益は広く分散しており,将来において実現します.他方,その痛みや損失は特定の集団に集中して,しかも直ちに発生します.政府は反対派の激しい抗議を無視することができません.

しかし,とNaímは指摘します.世界貿易は世界成長をはるかに超えて増加し続けている(例えば2006年には,15%と4%),と.ますます多くの国が世界貿易によって自国の成長を加速しようとしているのです.

この一見矛盾した現象の背後にあるのは,技術と政治である,とNaímは考えます.すなわち,コンテナ輸送やインターネットの普及は,輸送や情報伝達のコストを大幅に引き下げました.それは関税引き下げと同じ効果を発揮します.また,中国やインドに限らず,国内政治の流れが貿易に対して積極的に開放することを好むようになりました.重要なことは,多角的な自由貿易交渉ではなく,地域内のFTAや一方的な自由化が進んでいる,ということです.

それでは多角的な自由化交渉など必要ないのか?  Naímはその必要性を支持します.1.まだ自由化されていない分野がある.特に,農産物,サービス,貧しい諸国の相互貿易.2.世界的なルールが必要になる.3.小国や小企業にとって,優れた貿易ルールを作ることが重要だ.

貿易をおこなう国の方が,貿易を嫌う国よりも急速に成長している.成長はすべてではないが,成長できなければその他の努力が無駄になる.それこそが(この考え方を普及させることが),貿易自由化交渉をあきらめてはならない理由である,と.

FT October 21 2007

End global inequality: become a Luddite

By Clive Crook

(コメント) IMFのWorld Economic Outlookがグローバリゼーションに反対する議論に証拠を提供した,というのでthe Wall Street Journalの記事は憤慨したそうです.Clive Crookは,IMFの分析とその主張を検討して,現代のグローバリゼーションが不平等を拡大する面があることを認めているが,その理由は技術進歩にある,と指摘します.

確かに,貿易や直接投資は各国の不平等を拡大する面があります.しかし,世界全体としてみれば,富が増大し,その不平等は悪化していない,と分析しているようです.また,それでは,グローバリゼーションが技術進歩を世界に普及させる過程を,その他の成長加速過程から排除することもできるでしょうか?

「グローバリゼーションに対する批判者たちは,こう言い換えるべきだ.不平等の減少を他のすべての目標よりも重視する.貧困から人々を救い出すこと(グローバリゼーションが行っている)よりも,世界全体としての生活水準を高めること(グローバリゼーションが行っている)よりも,それを重視する.また,教育を改善する努力は無駄であり,論じる価値もない,と認めよう.自由な貿易というわれわれが敵視している目標は,間違っている.全体としてそれは平等をもたらす.全体としてそれは我々の味方である.たじろぐことなく,本当の敵を見るべきだ.グローバリゼーションを批判するのではなく,技術進歩を批判するべきである.われわれがそれを遅らせ,阻止するなら,より平等な社会が得られる.」

「不可能な夢か? 決してそうではない.懲罰的な課税から始めよう.科学者や技術者には課税する.大学院教育を制限する.芸術,人文学,法律だけ学べ.いっそ,これらを義務教育にすれば良い.そして知的所有権をすべてやめてしまう.」

こうしてClive Crookは,IMFの提供している分析が,正しく,グローバリゼーション反対派の息の根を止める,と考えます.

YaleGlobal, 24 October 2007

China and India: Same Globalization Road, Different Destinies

Scott B. MacDonald

(コメント) 世界経済の将来は,中国とインドの同盟(Chin-dia)によって決まるのでしょうか? 同じようにグローバリゼーションから大きな利益を受けているように見える中国とインドですが,その方針や政治姿勢は大きく異なります.Scott B. MacDonaldは,将来,この大人口国家が衝突する可能性を示唆します.両国の得意な分野は異なっていますが,次第に重なって競合するでしょう.他方,その国内政治システムや対外政策は大きく食い違っているので調整や協力は困難です.

互いの軍事力拡大や,影響圏の分割,国境紛争の記憶,異なる世界観が,次第に対立するコースを描くかもしれません.


LAT October 20, 2007

Outsourcing government

By Naomi Klein

(コメント) ブッシュ政権が描く「国家のATM化」を批判します.国家・政府の公的な機能は全て民間部門がやればよい.政府はそれを監督し,税収で支払うだけだ,と.国境の警備(移民管理)も,刑務所も,安全保障,すなわち戦争も,何でもボーイングやブラックウォーターに下請けに出す方が安上がりだ,と彼らは確信しています.

テレビにはいかめしい建物が映り,大統領の行動に関するブリーフィングや,議会では法案をめぐる喧騒が今も演じられています.しかし政治の舞台にはたいした意味がなく,本当に重要なことはカーテンの裏で企業が行っているのです.


LAT October 21, 2007

Making peace with Americans

By Charles A. Kupchan and Peter L. Trubowitz

(コメント) アメリカが新しい大統領の下で外交政策の合意を再生する,とは言えないようです.それは国際情勢においても,国内の政治情勢についても,政党の対立や政治的イデオロギーが合意を妨げるからです.アメリカはもっと左右が合意できる領域(温暖化防止,人権擁護,国際開発)に絞って外交政策を展開し,その他の面では主要諸国と分担する法的・制度的な枠組みを整備する方針を採用しそうです.


WP Sunday, October 21, 2007

No Longer the Generals' Burma

By Tom Malinowski

Asia Times Online, Oct 23, 2007

UN fiddles while Myanmar burns

By Bertil Lintner

The Guardian, October 24, 2007

The whole world must act

Gordon Brown

(コメント) 弾圧は続いています.ポーランド国民がワルシャワ蜂起を忘れないように,ビルマの僧侶や民衆は,彼らの戦いをインターネットで克明に鑑賞しながら,決して介入しなかった近隣諸国や,勇ましい演説をした指導者たちの無策を,死ぬまで(そして死んでも,子々孫々にわたって)忘れることができないでしょう.

しかし,Tom Malinowskiが書いているように,政治家として法案を通すことに限らず,たとえ小さな声でも,彼らは支援してくれた者に感謝するはずです.

1988年,ビルマの民衆が民主主義を求めて非暴力の闘争を始めたとき,彼らは銃口と対峙した.私はパット・モイニハン上院議員の下で働いていたが,彼は当時のアメリカで,この孤立した国で起きていることに注目した唯一の影響力ある人だった.上院が最初のビルマに関する決議を通過させてから,ある日,私たちの事務所に写真が届いた.それは「ありがとう,モイニハン上院議員」という横断幕を掲げたビルマのデモ行進を示していた.私たちは誇りに思うとともに,深く悲しんだ.私たちの乏しい言葉は勇敢な人々が殺戮され,彼らの運動が粉砕されるのを防ぐことはない,と知っていたから.」

Tom Malinowskiの論説は,20年後の今はそうではない,と主張します.まず,政府は僧院を襲って閉鎖しましたが,ビルマで仏教を廃止することはできません.僧院は再開され,必ず,さらに組織された反体制派が育つでしょう.すでに支配者たちはそれを恐れて,ジャングルに新しい首都を築いています.

今では,欧米に限らず,ASEAN諸国や中国,国連など,国際社会が強い関心を持っています.ビルマ政府に対して,明確に軍事力の行使を非難しています.また,経済制裁は無駄であると言われますが,的を絞った金融制裁は非常に効果的になった,と指摘します.たとえ密輸が行われても,ビルマの支配者たちはその代金をハード・カレンシーで貯蓄するしかない.それが取り引きされるには,アメリカやヨーロッパの決済システムを利用しなければならない.その時点で必ず封鎖される,と.北朝鮮への経済封鎖は難しくても,金正日個人の口座をアメリカが封鎖したことで,その影響は彼らを交渉の席に着かせたのです.

最後に,今こそ,アメリカ政府が持続的な強い関心をビルマに対して向けるでしょう.なぜなら,ブッシュ政権が内外で孤立している今であるからこそ,ビルマの民主化を支持するアメリカの姿勢を世界中が指示していることは貴重な政治的舞台となるのです.国際社会はブッシュ氏の指導力を称賛するでしょう.


NYT October 22, 2007

A Once and Future Nation

By ROGER COHEN

(コメント) 人命と財源を注ぎ込んでアフガニスタンのタリバンやアルカイダを制圧する軍事行動を成功させても,その後の村々の再建にはまだ多くのことが残されたままです.アメリカ軍は特別な組織を創って,直接,村人たちの要望を聞き,地方の村の再建をモデルとして学ぼうとしています.


Haig Simonian and Adrian Michaels Pragmatism behind shock tactics of Switzerland’s SVP FT October 22 2007

Swiss antagonists FT October 22 2007

(コメント) スイスの政治を動かす保守主義,排外主義,民族主義に関する論説です.今や極端な主張に頼るSVPは国民的な支持を失うと予想されたのに,投票結果は29%とむしろ支持を2%ほど高めたようです.それはスイスの選挙において,この90年間に達したことがない高水準です.

FTは,SVPをナチスやル・ペンと同一視する非難は間違いだろう,と考えています.スイスの政治は合意を重視するスタイルを維持するでしょうし,今後もすべての政党が政府に参加する,というわけです.そんな中で,SVPや街頭の紛争は政治家たちにショックをもたらす,と期待されたのです.


FT October 22 2007

Russia and China’s challenge for the west

By Gideon Rachman

ロシアの大統領報道官であるDmitry Peskovは冗談を好み,そのコンピューターのスクリーンセーバーにはジョージ・オーウェルの『1984年』から引用された文句が並ぶ.「ビッグブラザーがお前を監視している.」「戦争は平和だ.」「自由は奴隷だ.」「無知は力だ.」

彼のアメリカ報道官を真似た発言を聞きながら,スターリンを思うより,むしろ中国に似ている,と思った.

今また,両国はよく似たイデオロギーを抱いている.ロシアと中国はもはや共産主義を信奉していない.しかしロシアも中国も,その政治原則が非常に似ているのだ.国内では権威主義.急速な経済成長とナショナリズムをともなう.国際的には新興の経済大国であり,過去の抹殺(された国家の威信)に報復しようとしている.彼らは国家(民族)主権を絶対的に尊ぶ原理を唱えている.

彼らは西側の政治・経済モデルが信頼を失った現状を利用している.そこには富裕な資本家階級が明らかに復活しているけれど,中産階級は自分たちの消費を満たすことにだけ熱心だ.どちらの国も政治的無関心が支配的である.政府の喧伝する「政治的なカオスの恐怖」が国民を黙らせている.汚職と環境問題が深刻であるのもそっくりだ.

エリートたちの悩みは,たった一つ,政治的な不確実性,である.過去の恥辱を強調し,しかし,ナショナリズムが限度を超えないように管理している.さまざまな国際問題で,西側諸国と両国とはその意見対立に苦慮しなければならない.台湾,チベット,グルジア,チェチェン,ビルマ,コソボ,・・・

両国がリベラルな民主主義体制に向かう過渡期であるのか,それとも,もっと別の何か,たとえば「オーウェル主義」国家体制へ向かうのか,まだわからない.

H.D.S. Greenway China's grip on Tibet BG October 23, 2007

Daniel Yergin and Simon Blakey Europe and Russia need positive energy FT October 24 2007

(コメント) 中国はチベットまで鉄道を建設し,現在のダライラマ14世が亡くなれば,15世を自分たちの好みで選ぶでしょう.EUとロシアは,さまざまな意見の相違にもかかわらず,相互の利益を考慮した新しい契約や管理体制を基礎に,天然ガス取引安定化のため交渉を続けるでしょう.

権力を持つとは,他者を支配すること,その結果,その動機,その思考を支配することです.


FT October 23 2007

The pseudo-science hurting markets

By Nassim Nicholas Taleb

(コメント) 「ノーベル賞」(ノーベル財団ではなく,スウェーデン中央銀行が授与するようですが)を受賞した金融理論が危機を説明しないどころか,危機の増幅や被害の拡大に貢献している,という論説です.FTに載るのですから,軽い冗談ではありません.

1990年にWilliam SharpeHarry Markowitz が受賞したのは1987年のブラック・マンデーから3年後であった.その事件は,何にも増して,受賞者たちのポートフォリオ構成理論を打ち砕いたはずだったが.さらに,1987年の暴落も例外ではなかった.1960年代に偉大な数学者Benoît Mandelbrot が示したように,このような激しい変動は市場で累積するのだ.それを「予想しなかった」のは経済理論が愚か者の道具であったからだ.

1997年には,スウェーデン王立学会がRobert MertonMyron Scholesのオプション価格式に ノーベル賞を与えた.多くのトレーダーたちは,私も,この受賞が不快であった.Ed Thorpのような数理的なトレーダーも含めて,多くの者が何年も前から同じ式をもっと実際に近づけてすでに使っていた.マートンとショールズはそれを経済理論に合わせて説明しただけであった.価格変動に対応して売買することにより連続して調整する「ダイナミック・ヘッジング」を仮定して「再導出」したわけだ.

ダイナミック・ヘッジングは(市場が)ジャンプしないと仮定していた.それはすべての市場でみじめなほど間違っていた.その結果が,1987年の暴落であった.」

こうした金融理論の状況は中世の医学に近い,とTalebは述べます.「それは観察と一致せず,平民の散髪屋や外科医の経験など相手にしない.その薬は患者の命を救うより,もっと多くの命を奪った.金融理論がリスクを減らすのではなく,リスクを作り出してシステムを破壊しているのとそっくりだ.」

では,なぜそれらが科学の外観を取っているのか? それは抽象的な「公理」を数式で表現しているからです.マートンのテキストは339回も「定理」(あるいは公式)への言及があるけれど,同じ穴が差の物理学の本には平均で25回しか「定理」に言及していない.ところが経済モデルはおおざっぱな推測や酔っ払いのタクシー運転手ほどしか当てにならないが,物理学は小数点以下10桁まで正確に予測する,と.

だから? この論説は,金融理論など教えるより,トレーダーたちの経験をビジネス・スクールで伝えるべきだ,と主張しています.


Oct. 24 (Bloomberg)

Japan's Economy Can't Afford 43% Housing Plunge

William Pesek

(コメント) アメリカでは住宅価格や株価が下落したために,ポールソン財務長官,バーナンキ連銀議長が行動を起こし,ドルはもちろん為替レートを急速に減価させています.もしアメリカで44.3%も住宅価格が下がったら,これは何かの陰謀でしょう.

しかし,日本はそうではない.日本は特別だ,・・・とWilliam Pesekは述べています.日銀,円安,デフレからの脱却,というのが永久に唱えられています.


The Guardian, October 24, 2007

Don't blame Westphalia

Ian Williams

(コメント) 1024日がウェストファリア条約の調印記念日であったそうです.次々と国際介入をともなった宗教戦争(30年戦争)の末に,1648年のこの条約によってドイツの諸地方は完全な主権を認められ,近代的な国家によって分割された国際システムがヨーロッパに成立しました.

この論説は,神聖ローマ帝国を国際連合に読み替えます.国連憲章によれば,各国はウェストファリア体制の残した戦争の悲惨な経験を踏まえて,自衛のためを除いて,「戦争する」という主権の一部を放棄したのです.ウェストファリア体制は,同時に,宗教的な寛容という国家の義務を示しました.2年前に,国連加盟諸国は自国の人民にその基本的権利を認めない国家に対して,ようやく介入する義務を認めたのです.

******************************

The Economist October 13th 2007

China, beware

China’s Communist Party congress: Still in Mao’s shadow

Economics focus: A workers’ manifesto for China

Passport-free travel in Europe: Burning bridges

Switzerland’s election: A noisy herd

The German left: Troubled times

(コメント) 中国の急速な成長にもかかわらず,水道が引かれていない,学校が無い,医者がいない,地方の貧困は深刻です.オリンピックを準備し,宇宙船を打ち上げ,ナショナリズムや軍備拡張を唱える国の内部で,社会的な不満と秩序の崩壊が進むかもしれません.1989年の天安門事件は,共産党に都市部の繁栄と消費を重視させましたが,改革は地方(農民と出稼ぎ労働者たち)を豊かにしていません.

国民所得に占める賃金の割合が急速に低下している,ということは,逆に,中国の改革から世界が変わるのかもしれません.労働者にもっと多くの雇用と高い賃金,社会保障と優れた教育や住宅を,中国でも世界でも,提供してほしいです.中国の労働者と政府が,切実に,それらを必要とするはずです.

ヨーロッパの政治的な変化にも,旧文明の脱皮や変態を見るような,歴史の深淵を感じます.そうであれば,日本も変化する時が来る,と思うのです.