IPEの果樹園2007

今週のReview

10/22-27

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

香港, ハミルトン, ビルマ(ミャンマー), 移民論争(アメリカスイス), ダライ・ラマ, 中国共産党の指導者とバブル, ドル安賛成, IMF世銀総会, 投資ファンド, ブット元首相, 世界共通言語

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Asia Times Online, Oct 12, 2007

SUPER CAPITALISM, SUPER IMPERIALISM

PART 1: A Structural Link

By Henry C K Liu

Asia Times Online, Oct 13, 2007

PART 2: Deregulation: Global war on labor

By Henry C K Liu

(コメント) 長大な論説です.クリントン政権で左派の労働省長官であったRobert B Reichの新著,Supercapitalism: The Transformation of Business, Democracy, and Everyday Life (Afred A Knopf)と,Michael Hudsonの本Super Imperialism: The Economic Strategy of American Empire (1972-2003),から話は始まります.そして,もちろんHobsonImperialism, (1902)を取り上げています.

アメリカによる帝国主義的な支配を分析した古典的研究を取り上げ,戦後のブレトンウッズ体制放棄や財政赤字の国際流動性への転化を,金融的な帝国主義であると考えます.日本や中国はその犠牲者なのです.

他方,アメリカ国内の利潤を確保するために行われた規制緩和や減税,自由貿易の推進は,分配の不平等と金融の不安定化をもたらしています.企業重役たちの桁外れの給与に対して,不安定化な雇用と抑え込まれた賃金に対してポピュリズムの動きが再生し,政府への抗議を強めているわけです.


Oct. 12 (Bloomberg)

A Tax Cut Even Milton Friedman Might Not Like

William Pesek

香港には,固定為替レート制度,世界で唯一の国有ディズニーランド,中国政府が指名する指導者,一握りの独占業者たち,そして,・・・世界で最も自由な経済がある.

と言えば,不思議に思うだろう.ヘリテイジ財団やウォール・ストリート・ジャーナルが香港に魅了され,「経済的自由度」で高い点を与える理由は,その税率の低さである.もちろん,外資の自由な参加や法の支配も重要だが,香港の真のセールス・ポイントは税率である.

その香港が,シンガポールや上海の追い上げを意識して,水曜日に所得税と法人税をさらに引き下げると発表した.しかしその行動は,たとえミルトン・フリードマンのような自由市場派のチャンピオンでも反対するし,長期的に香港を損なうものだ.

税金を下げるのは,典型的に,景気が悪い時だ.しかし香港は逆であり,景気が良いのに税率を下げようとしている.

「この都市の時に計数は0.5であり,アジアで最も裕福なものと最も貧しい者が一緒に住む,開発された世界である.所得税のベースは拡大しており,教育や病院,公共住宅,汚染を減らす研究にそれを支出することは重要である.」と,ドイチェ・バンクのトレーダーは言う.

ジニ係数は香港行政局長官が特に聞きたくない数字だ.それがゼロであれば富は平等に分配されているが,香港は,経済学者たちが警告水準とみなす0.4を超えている.

香港の擁護者は,大きな所得格差が住民の貧困よりも,多くの億万長者が住むことから生じている,という.香港は人口一人当たり最も多くの億万長者がいる都市だ,と自慢する.アジアンのハブ都市として,香港の将来は安泰だ?

しかし,将来の経済的繁栄をもたらすには,税率以上のものが必要だ.

たとえば,地域の労働市場である.たとえ恐れを知らぬ強気派のBruce Rockowitz(香港を拠点にウォルマートに供給しているLi & Fung Ltd.の社長)でも,「人材が重要だ,われわれはここにもっと多く連れて来る」という.また,もう一つのアキレス腱は環境だ,とも言う.私は香港が他の地域よりの高い成長を実現し続けるという予想を疑っている.

香港は人材を育てる教育に投資しなければならない.そのためには政府支出が増える.また,ますます悪化する大気汚染は,外国から多くの人材を連れてくる障害になっている.専門家の人々で,ますます海外に暮らす数が増えている.どちらにせよ,公共投資が必要だ.

「何よりも香港の自由放任を改めるべきだと思う」,ソシエテ・ジェネラルの香港支店主任エコノミスト,Glenn Maguireは述べた.「公共財の悪化に対する反応は,大気汚染と同じく,税引き後の所得を増やして,個々人が問題に対処できるより大きな能力を持つこと,である.課税の源泉を増やして集団で問題に対処するということがない.」

もし自由市場派が宣伝するトリクル・ダウンの経済学がうまく機能するなら,それは素晴らしいだろう.しかしアメリカを見るだけでも,ブッシュ大統領の減税は広く支持されていない.

減税するより,香港は気前の良い最低賃金・年金制度を作ることができるだろう.金融部門や不動産部門だけでなく,未熟練労働者を雇用し,教育や職場における訓練をネットワークの改革に取り組むべきだ.こうした取り組みにおいても,かなりの政府支出が必要になる.

問題を誇張してはいけない.飢餓問題は香港にないし,子どもたちは無料の学校教育と,高等教育への政府融資を利用できる.しかし香港が今取り組むのは10年,20年後に重要になる問題である.

アジアにおける香港の役割は称賛され,経済はますます自由になっている.しかし,シンガポールには美しい空があり,金融ビジネスが栄えている.香港が注目されるには一層の努力を要する.

アメリカ企業の58%が香港より他に投資するという,その理由は汚染問題である.もし呼吸できないようなら,経済的自由度など重要ではない.

BG October 16, 2007

Hong Kong's heyday

By H.D.S. Greenway

(コメント) 40年前に来て,家族と住んだ香港を,H.D.S. Greenwayは回想し,その意味を考えています.99年の租借地として,「借り物の時間,借り物の土地」でした.中国には文化大革命の嵐が吹き荒れていた,と言います.

当時はベトナム戦争が猛威をふるい,インドネシアでは驚異的な数の人々が虐殺されていました.シンガポールとマレーシアの将来がどうなるかはわからず,タイには共産主義の脅威が強まっていました.内陸のラオスはいつも揺らいでいた,と書いています.

香港は,一握りのイギリス人官僚が統治し,本国とは全く逆に,自由市場の原則を実行していました.香港にはサッチャー以前から,国有企業も,高課税率も,硬直的な労働市場も,過度の社会支出も,なかったのです.

「毛沢東の言葉を書いた真っ赤な旗が裏庭に閃く中国銀行の隣で,町中の競技場に行ってクリケットの選手たちを観るのが好きだった.」

当時,中国本土の政治的混乱を逃れて香港に入ろうとする人々がいました.香港政府は,難民が渡るのを阻止したし,海上で捕まえれば送り返しました.しかし,香港に泳ぎ着いた者は受け入れたのです.

誰でも,中国が望みさえすれば,いつでも香港を接収できると考えていました.イギリスの将軍は,香港の防衛について質問を受けました.「あなたは,中国人民軍からこの土地を実際に守ることができる,と考えてはいませんよね?」 それに対して将軍は,「多分,考えていない.ただ興味深い午後を過ごす程度だ.」

しかし,中国は香港に手をつけなかったのです.ここは彼らにとって,西側とつながる価値ある土地でした.香港は非常に反映しました.人力車の数をロールスロイスの数が超えた,と新聞が書き立てました.香港返還後も,「一国二制度」という政治的妥協を好んだのです.

その後も香港の繁栄は続き,人々が期待したほど民主化は実現していませんが,人々が恐れたほど共産党の全体主義的支配に屈してもいません.いまでは,戦乱や飢餓で死体が流れ着くのはチグリスであり,珠江(the Pearl River)ではありません.人々が中国のことを心配するとしたら,それは成長の行方であり,戦争や革命ではないのです.


BG October 12, 2007

The state's global-local paradox

By Barry Bluestone and Chase Billingham

(コメント) 生産的な資源がますます空間的に移動しやすくなると,その立地選択を有利にできる地域は限られてきます.衰退する地域はインフラや教育にも十分投資できず,住民や法人への課税を増やさざるを得ません.特に,アメリカは地方政府の財源を不動産税に大きく依拠しており,地域的な衰退と繁栄とをむしろ増幅する効果がある,と批判しています.

一方では州政府や連邦政府による財源の移転が必要でしょう.そして同時に,生産的な資源が移転することを社会が許容できる条件を合意することが必要です.


NYT October 12, 2007

The Hamiltonian Ground

By DAVID BROOKS

アレクサンダー・ハミルトンは人々が上昇し,成功できるような経済を創りました.政府は商人階級のエネルギーを呼び起こし,所有者階層を増やして,商業や移動の制約を解消しました.

エイブラハム・リンカーンは若い政治家として,道路,運が,銀行を多く作りました.彼のように上昇志向の若い農夫は地位を登り,財をなしました.大統領になって,共和党はホームステッド法を通過させました.その法律により,豊かになり開発できる財産を人々は得られるようになったのです.また,大学への公有地払い下げの法律は人々に知識への接近を可能にし,鉄道関係の法律は野心的な若者たちに展望を与えた.

マーガレット・サッチャーが首相になったとき,イギリス労働者階級に住宅と資産へ近づく道を示し,彼らをより勤勉で自立するようにした.

いつの選挙でも,共和党はこの伝統を引き継ごうとしてきた.いつでも中産階級の家族が立つ台所のテーブルで,野心的な子どもたちと考えた.最初の質問はこうだ.この子どもたちにとって何が障害になっているのか? 彼らが夢を実現するのを具体的に助けるためには何をすればよいのか?

しかし,共和党員たちの討論では何も示されなかった.成長を高めるために減税するという以外,野心的な労働者の家族や中産階級が必要とする具体的な計画は何もない.

彼らはあたかも儀式のために立候補しているように見える.しかし,大統領に選ばれれば,具体的な提案が必要だ.この意味では,共和党はハミルトンの基礎を捨ててしまったのだ.彼らは善を希求する労働者たちの夢を取り上げなくなった.

この基礎をつかんだのは一人の民主党員だ.ヒラリー・クリントンは,野心的中産階級の一人ひとりに直接届くような特別な政策案を発表してきた.

昨日,それは有権者への税額控除であった.彼らにも手が届く401K型の株式投資による貯蓄プランを示したのだ.今,7500万人の労働者が年金に入っていない.今の課税基準では所得が増えると貯蓄するより税金に取られる.労働者には貯蓄する誘因がなかった.

クリントンの提案は,新しい彼らの401Kに見合った額を税額控除にする.こうした数100万人の投資家が増える.投資信託と株式購入を選択できる.彼らは月々のことを心配するより,将来に向けた貯蓄を考える気分になる.

クリントンの提案は,かつて共和党が結びついていた経済的価値観に侵入するものだ.その上,彼女の政党の左派が依拠するポピュリストの世界観を掘り崩す.グローバリゼーションに反対したり,経済的王党派でいるより,クリントンは労働者にウォール街への道を開き,世界経済から利益を得られるようにする.

共和党員の誰も,クリントンのような提案をしていない.

ハミルトンが生きていた頃,大地主たちは競争や経済ダイナミズムを窒息させていた,ハミルトンは国民的な資本市場を創って,各地の独占業者たちを打倒した.リンカーンが登場したとき,アメリカの膨大な距離が商業を遅らせていた.ホイッグ,後の共和党は国民市場創設のための国内改革を指導した.今日,グローバルな情報経済は人的資本を持たぬ人々が豊かになり,参加するのを難しくしている.

ここに共和党の応えるべきテーマがある.しかし,今はだれも関心を示さない.


More Than Talk for Burma WP Friday, October 12, 2007

BRAHMA CHELLANEY Democracies' double standard The Japan Times: Saturday, Oct. 13, 2007

India's identity crisis in Burma BG October 14, 2007

Bernard Kouchner and David Miliband Keeping the momentum on Burma IHT Sunday, October 14, 2007

Thant Myint-U Saving Burma the right way LAT October 14, 2007

Beat Balzli Bloodstained Rubies Fund Burmese Regime SPIEGEL ONLINE - October 16, 2007

F William Engdahl The geopolitical stakes of 'Saffron Revolution' Asia Times Online, Oct 17, 2007

Priscilla Clapp China faces a tricky balancing act in Burma FT October 17 2007

(コメント) 潘基文国連事務総長は強く非難し,特使を送りましたが,ミャンマーの軍事政権は弾圧を続けました.制裁や武器禁輸措置,統一した行動が話し合われましたが,いずれも言葉だけでした.ブッシュ大統領の妻は非難の声をあげましたが,ライス国務長官は黙ったままです.

16年前にノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー女史は,今も間違いなく,民主主義と和解,そして非暴力の理想的存在です.しかし,この16年をほとんど自宅軟禁で過ごしました.中国,インド,東南アジアが強い姿勢を示さない以上,これから先も軍事政権が行動を改めることはないでしょう.ゴア元副大統領とIPCCに本年度のノーベル平和賞を与えた人々は,祝福の声を聞く前に,16年前の受賞者に敬意を表し,現状について改善をもたらす義務を感じるべきだ,とWPは指摘します.

また,BRAHMA CHELLANEYは書きます.「ビルマの軍事政権による弾圧はそれにふさわしい国際的な憤慨を招いた.しかし,アメリカが主導した制裁の新しい波や義憤は,また,不都合な真実を曖昧にしている.自由を広めるというのは,世界最大の人権蹂躙国家である中国や,民主主義から滑り落ちつつあるロシアではなく,弱体な,支持されない,孤立した諸国に対してだけ用いられる外交的手段なのだ.」

大国には経済支援や市場への統合が呼びかけられ,弱小な国には制裁による屈服が求められます.また,そうした制裁を強めるほど,悪辣な大国が戦略的・商業的な利益を得ます.また,ビルマの民主化を求めるのに,自国内で民主化を弾圧している中国に頼らなければならない,というのは大きな矛盾です.「どちらの弾圧の方が大きいか?

また,アメリカはパキスタンの軍事政権を自国の利益になるため8年間も支援してきました.それでも確実にイスラム過激派の勢力は拡大しています.国際安全保障にとって脅威になるとしたら,それはビルマか,それともパキスタンか? そもそも,アメリカがイラクで行ってきた戦争こそ大きな脅威をもたらしているのではないか? タクシン首相を追放したタイの軍事政権が,ビルマ軍事政権への制裁に協力するでしょうか?

外国が,他国の民主化にどのように影響することができるのか,まだ答えは見つかりません.

F William Engdahlは,ビルマのサフラン革命も,ウクライナやグルジア,などと同様に,民主化を推進するワシントンのNGOsが計画して起こしたものだ,と資金などのつながりを解説します.それは国務省や個人の大資産家が作るNGOsです.それは中国に対する圧力だけでなく,戦略的に重要な海洋を支配するアメリカ国務省やCIAの陰謀だった,と考えます.

中国は,ミャンマーに対して何をしても,民主化失敗の責任を国際社会で非難されるような難しい立場にいます.


WP Friday, October 12, 2007

Immigrants and Laureates

By Carl Schramm and Robert Litan

NYT October 14, 2007

Protecting Farmworkers

LAT October 17, 2007

Don't fence them in

By Rubén Martínez

(コメント) Mario Capecchi and Oliver Smithiesがノーベル賞を取りました.二人は遺伝学者であるだけでなく,アメリカへの移民です.特にCapecchiは,子どもの時期を戦時のイタリアで過ごし,その後,ダッソー強制収容所の生き残りである母親と一緒にアメリカへ渡りました.

この15年間にアメリカでノーベル賞を受賞した研究者の3分の1以上は外国生まれの移民だ,ということです.彼らがアメリカの科学・学術コミュニティーを共有し,その発明や発見がアメリカ経済を動かしているのです.

Carl Schramm and Robert Litanは,アメリカの移民政策がビザの発行を制限したために,ノーベル賞を得るような科学者たちでも入国が難しくなった,と指摘します.アメリカの研究機関や企業は多くの技術者や研究者を外国から雇用しています.しかし,その場合でもビザを得るのに6年待たされる,というのです.これでは,研究所をアメリカの外へ設けるか,インドや中国からくるはずだった多くの研究者が自国の経済発展に機会を求めるのも当然です.

また,移民に多くを頼る産業では衰退が顕著です.作物は畑で腐り,雑草が繁茂している,とNYTはアメリカ農業の苦境を伝えます.しかし,それ以上に憂慮しているのは,ブッシュ政権が移民規制を緩和する際に農業団体のロビーイングを受けて,移民労働者の権利や労働条件を著しく悪化させるのではないか,ということです.アメリカの労働者たちは,農場主たちが危機を利用している,と訴えます.

NYTは,その批判をもっともだと考えています.農場主が廃止せよと言うのは,移民労働者のための無料の住宅,地元労働者への募集を優先するという条件,十分な賃金,作業分野の制限,などです.これらは,アメリカの農場主と労働者たちが話し合い,妥協と合意を積み重ねてできた条件であり,同時に,移民労働者への搾取を廃止するためのものだからです.

Rubén Martínezは,アメリカ政府の本土安全保障省が建設しようとしている国境線の壁は,さまざまなイデオロギーを超えて,反対派の連携を生じている,と紹介しています.環境保護も,自然を描くアーティストも,地域住民の自由も,アナーキストの資本主義批判も,人権擁護も,・・・壁に反対です.国境線の壁は,莫大な費用をかけてハイテク装備の壁を建設すれば全てうまくいくという,9・11後の「パラノイド・オプティミズム」がもたらした大失策です.

歴史的な壁はすべて,トロイであれ,中国であれ,ベルリンであれ,ワルシャワ・ゲットーであれ,その理由となった問題を解決することができませんでした.

The International Herald Tribune, 17 October 2007

Far-Right Swiss Party Divides Nation on Immigrant Issue

Elaine Sciolino

The Guardian Thursday October 18, 2007

In a muddle on migration

Tony Travers

(コメント) Elaine Sciolinoは,スイス最大の政党,スイス人民党(SVP)が選挙に向けて外国人排斥の主張に危険なほど転換した,と伝えます.そのポスターや映画,講演会で示されたイメージは,外国人が「楽園」であるスイスに入り込んで「地獄」に変えようとしている,と主張しています.有罪判決を受けた外国人は投獄し,釈放後は家族も含めて国外に追放する,というのです.当然,これはヒトラーやムッソリーニとおなじ政治宣伝である,と厳しく批判されています.

こうした主張が,個別に郵送され,テレビで宣伝され,新聞や雑誌で表明される,というのは,合意を尊ぶ開明的な国際都市を自慢してきた人々にショックを与えています.ローテーションで大統領となっているMicheline Calmy-Reyは,「このポスターには吐き気がした,受け入れがたいものだ」と憤慨します.「他者を悪者にして,恐怖をあおっており,危険である.この選挙運動は世界に開かれたスイスのイメージに合わない.私はすべてのスイス国民が,こうしたメッセージには同意しない,と表明する勇気を持つよう願う.」

しかし,コソボやルワンダなど,世界中からの難民が居住するスイスでは,有権者の多数がもっと極端な右翼政治団体に支持を移しているのです.議会多数派を守るためにSVPが取った外国人攻撃の宣伝は,これに対抗するものです.スイスの居住者の20%以上が外国人であり,労働力の4分の1を占め,犯罪や麻薬取引にかかわる比率はもっと高く,外国人が刑務所人口(囚人)の70%に達する,と言います.

3年前の選挙で国籍取得を容易にする法改正に反対を唱えて成功し,最大議席を占めるようになったSVPの宣伝映画は,本当におぞましいものです.映画の第1部「楽園か地獄か」では,若者たちがヘロインを打ち,老人からハンドバッグを奪い,生徒たちを蹴ったり殴ったりして,ナイフを振り回し,若い女性を略奪します.第2部ではイスラム教徒が映って,女性たちはスカーフで頭部を隠し,男性は働かずに座っているだけです.第3部「天国のようなスイス」では,通勤の混雑にも関わらず職場に向かう男たち,スイスの多国籍企業のロゴ,農場,実験室,湖.山,教会,ヤギ,などが映ります.

ハイチからスイスに来た28歳の男性James Philippeはドイツ語,フランス語,クレオール語,英語を話せます.スイスに14年間住んでいますが,国籍を得られません.通りで頻繁に警官に止められ,「警察は自分を人間ではないかのように扱う」と言います.「そんなとき私が口を開いて,優れたスイス風のドイツ語を話すと,彼らはいつもショックを受ける.」

移民はなくならない.しかし,移民との共存はまだ多くの相互理解と努力を要する,とイギリスに関してもTony Traversが書いています.


Asia Times Online, Oct 13, 2007

Ben, beef and Buddha

By Chan Akya

(コメント) バーナンキの金利引き下げは金融政策の歴史的な失敗と見なされるだろう,とChan Akyaは批判します.

雇用が減ったというたった一つの統計を強調し,ウォール街の大物たちから寄せられた願いをかなえるために,この間違いは犯されました.しかし,株価が上昇したのは,前議長のグリーンスパンが株価下落を住宅価格への投機に転換させることで不況を逃れたのと逆に,バーナンキは住宅価格の下落を株への投機によって不況に向かわせないという曲芸を試みているからです.

株価は確かに上昇しましたが,その他の指数を観れば,インフレ懸念が強まっています.特に,エマージング・マーケットの金融政策は多方面で効果を失いつつあり,豚肉などの食料でも価格上昇が顕著です.

Chan Akyaは,バーナンキが金融政策の効果を維持するために,アメリカ人に消費を抑制するように,つまり,仏教に帰依することを冷静に説く最初のアメリカ連銀議長となるかもしれない,と書いています.


Bjorn Lomborg An inconvenient Peace Prize BG October 13, 2007

Gore v. Bush WP Saturday, October 13, 2007

THOMAS L. FRIEDMAN Who Will Succeed Al Gore? NYT October 14, 2007

Drafting Gore FT October 14 2007

PAUL KRUGMAN Gore Derangement Syndrome NYT October 15, 2007

Paul J. Saunders and Vaughan Turekian Why Climate Change Can't Be Stopped

Foreign Policy, 18 October 2007

(コメント) 慎重に科学的な調査を積み重ねたIPCCの努力を称賛する一方で,環境宣伝映画『不都合な真実』がゴアにもたらした「不都合な平和賞」をBjorn Lomborgは厳しく批判します.たとえば今世紀中に海面が20フィートも上昇すると予言するゴアは,IPCCが海面上昇は0.5から2フィートであろうという予測を無視しています.

ノーベル賞の選考委員会がブッシュ政権を批判し,ゴア元副大統領を称えるのは,政治的な意図などない,と付言したにもかかわらず,ブッシュ政権の環境問題無視と国際的な孤立を注目させたでしょう.WPは,ブッシュ政権がノーベル賞の選考委員会だけでなく,歴史によって環境問題への責任を問う前に,行動せよ,と求めています.

THOMAS L. FRIEDMANは,強烈に,ゴアとブッシュの成果を比較しています.ゴアは選挙結果に異議を唱えたけれども,政治システムの安定と尊厳を守るために訴訟を抑えました.他方,ブッシュは9・11まで目標を持たず,9・11以後は目標を得たものの,有り余る世界の同情や政治的支持を自分のための権力拡大に悪用し続け,内外の分裂を好みました.

他の論説でも繰り返し主張しているように,FRIEDMANは,アメリカが国際・環境保護=エネルギー市場・体制の主導権を握るべきだ,と考えています.ブッシュは有り余る権力を使い果たし,ゴアは権力においては徒手空拳で環境問題を国際政治の最優先課題として育てました.二人が去ったときに,これを引き継ぐ者を待ちます.


Tom Lantos The power of peace and persistence BG October 13, 2007

China Cancels Human Rights Talks With Germany SPIEGEL ONLINE - October 15, 2007

JOSEPH KAHN China Warns U.S. on Dalai Lama Honor NYT October 16, 2007

Peter Grier Why Bush risks China's ire to honor Dalai Lama CSM October 17, 2007

Honoring the Dalai Lama BG October 17, 2007

Honoring the Dalai Lama NYT October 18, 2007

Maura Moynihan Afraid of the Dalai Lama? WP Thursday, October 18, 2007

(コメント) ダライ・ラマ14世のドイツとアメリカ議会への訪問は,ミャンマーとは関係あるかどうか分りませんが,もちろん,中国のチベット政策を意識したものでしょう.カリフォルニア選出の民主党下院銀,下院外交評議会・人権委員会共同議長のTom Lantosは,ダライ・ラマがチベットの分離・独立を煽っているという非難は間違っている,と言います.そして,中国政府がダライ・ラマとの話し合いを認めて,彼を中国に招待し,チベット問題の平和的解決に貢献する余地を与えるべきだ,と訴えています.

「何年もの間,ダライ・ラマは,中国とチベットの対話を通じてチベット問題の交渉による解決を追求してきた.5回の会談において,ダライ・ラマはチベット独立を求めない,とその権威において中国政府に対し明確にしている.そうではなく,最善の解決策は中国の主権内で,人民中国の憲法に従って,チベットに本当の自治を認めることだ,と確信している.ところが中国政府は,ダライ・ラマの平和に向けた提案を受け入れることなく,いかなる譲歩も断固として拒んできた.」

2008年のオリンピックは,中国政府にとってダライ・ラマと和解する良いチャンスである,とLantosは考えます.それは中国の平和や人権に対する姿勢を明確に示し,オリンピックを盛大にするでしょう.

しかし,ダライ・ラマのドイツ訪問も,中国外務省は中国とドイツとの関係を損なうものだ,と強く非難しています.ノーベル平和賞受賞者であり,1959年以来,インドで亡命生活を強いられているダライ・ラマの外国旅行を,いつも中国政府は非難します.中国は認めていない,というわけでしょう.ましてや人権に関する受賞式に出席するなんて.

ドイツやEUは,人権の尊重を自分たち国家の存在条件であり,至上の価値と表明してきました.オーストラリアやスペインへも,同様に理由で訪問しています.カナダは名誉市民権を与えました.なぜ日本はダライ・ラマを招待しないのでしょうか? 他方,中国政府はダライ・ラマをオウム真理教や法輪法の支持者であると主張し,ますます激しく非難しています.


BBC 2007/10/13

Can the world stop genocide?

Mark Doyle

LAT October 15, 2007

Labeling genocide won't halt it

Niall Ferguson

WP Wednesday, October 17, 2007

To End a Nightmare

By Michael Gerson

(コメント) ジェノサイドは止められるか? という国際シンポジウムがカナダ,モントリオールのマッギル大学でありました.第二次世界大戦中に行われたロマ(ジプシー)抹殺計画を体験した老夫人が出席して,その体験を語った,と言います.ユダヤ人600万人,ツチ族100万人,などは数字にすぎない,彼女の体験を分かち持つことで,私たちが虐殺を本当に知ることになる,と主催者は考えます.

ジェノサイドは定義しません.定義に当てはまるかどうか確認しなくても,行動を起こさなければなりません.ある専門家は,共通した特徴を挙げます.すなわち,エスニックな憎悪を煽動する,標的となる集団を悪魔に仕立てる,エスニック.宗教による境界線の先鋭化,過激集団への武器流出,抹殺する者のリスト配布,です.

しかし,こうした情報が寄せられても大国は介入に動きません.今のスーダンがそうです.私たちは柔らかいカーペットを敷いた,暖かい部屋でコーヒーを飲み,カナダ・カナッペを食べているだけだ,と記事は書いています.「早期警戒」も,「国連平和維持軍」も,「国際社会の決意」も,ジェノサイドを止める役には立たないのです.

では,何がジェノサイドを止めるのか? ジェノサイドを組織する者への抵抗勢力が武器を得て,彼らを打倒することによって,です.ナチス・ドイツも,カンボジアのクメール・ルージュも,ルワンダの過激なフツ族の体制も,あるいは内外で虐殺を組織したリベリア政府も,すべて軍事力を得た反対派や外国の軍隊,もしくは国連軍の侵攻によって倒れたのです.

「議論,議論,・・・」ではなく,「戦争,戦争,・・・」によってしか解決できない問題もある,とチャーチルは認めたそうです.大国は,しばしば危機は起きる前に外国で軍事介入することを嫌います.そうであれば,反対派に武器を与えるしかない,とジェノサイドについてある作家は語っています.

Niall Fergusonは,中東における90年前の「アルメニア人大量殺戮」を話し合うアメリカ議会下院の委員会を伝えています.その定義は何か? アルメニアはそれに当てはまるか? その場合でも,アメリカ議会がトルコ政府を非難することは適当か?


The Observer Sunday October 14, 2007

Will China's next leader be its Gorbachev?

Will Hutton

(コメント) イギリスや日本の選挙など忘れても,無視できない重要な政治的決定が迫っています.アメリカ大統領選挙も重要ですが,2012年からの中国共産党の指導者を決める第17回大会も重要です.中国はドイツを抜いて間もなく世界第3位の経済規模を持つようになり,すでに軍事力は世界第2位,輸出額や外貨準備では世界第1位である,とWill Huttonは指摘します.

重要なことは,この大会で革命第5世代が共産党の中心になることです.ソビエト連邦では,第5世代を代表するゴルバチョフが登場して大きく変わりました.彼らは革命を経験しておらず,経済運営の責任を共産党支配の正当性の中心命題に置いていたからです.ゴルバチョフだけでなく,多くの支配層がソ連の社会・経済モデルをその機能不全,腐敗,非効率によって改革しなければならないと確信していたのです.

環境破壊を防がねばなりません.低賃金の農民労働力に依存した輸出によって成長するパターンを変える必要があります.インフレや為替レート,金融システムなど,通貨問題が爆発するかもしれません.現在の指導部はこうした問題をよく知っているはずだ,とHuttonは考えます.その解決策は,さまざまな点で説明責任を果たし,開放的で,精査に耐えるものでなければなりません.それは,開放型の市場システムによって世界大国に成長してきた国としての責任です.

指導部に新しい誰が入るのか,注意が必要です.

FT October 16 2007

China’s bubble may burst but the impact will be limited

By Andy Xie, an independent economist in Shanghai

The Guardian Thursday October 18, 2007

China: Power in the sun

(コメント) 中国の株価上昇を1989年の日本や1997年の香港に比べるのは間違いだ,とAndy Xieは考えます.外貨準備による通貨供給と資産市場への統制によって,中国ではバブルが確実に起きているけれど,経済規模に比べた資産保有額はまだ小さいから,バブル破たんの影響も限られる,というわけです.むしろ深刻な問題は,さまざまな政府機関を通じて利益が支配層に集中し,それが土地などに投資されて,さらに増えているということです.

中国の成長のエンジンは輸出と不動産です.アメリカの減速でそれが変調をきたすでしょう.しかし,輸出はますます新興市場や発展途上国に向かっており,彼らは潤沢な外貨準備を持っています.だからXieは,中国の成長は持続できる,と考えます.

胡錦涛の演説は,共産党内の民主的な決定を強調しましたが,市民社会の成長を受け入れる用意はまだないようです.


LAT October 14, 2007

Preemption, Israeli style

By Joshua Muravchik

The Guardian Tuesday October 16, 2007

No military solution

David Shariatmadari

(コメント) もし本当に行われたとしたら,ブッシュ・ドクトリンを適用したイスラエルによる先制攻撃がシリアの核施設に対してであろう,しかもその施設には北朝鮮が関わっていた,というスパイ小説も現実も区別できないような事件が,起きたようです.ところが,イスラエル政府もシリア政府もこの事実(あるいは,何が事実かどうか)を公表する気はないのです.

たとえ噂でも,通常はイスラエルに対する非難がアラブ諸国から巻き起こるのに,今やシリアはイランと接近して他のアラブ諸国から強硬姿勢を恐れられているために,どの政府も公式に反応していない,とJoshua Muravchikは伝えます.各国はまだ,相互の反応や報復の可能性を考えて,沈黙を守っているのです.どの国も,本当に先制攻撃の可能性がある,という現実を受け入れることで何が起きるか,恐れているのかもしれません.そして,この事件がアメリカとイランの行動に影響することを.

権力を握れば,誰でも不用意に思ったことを話すべきではないのです.ヒラリー・クリントンが大統領になるかもしれないときに,イラクへの軍事攻撃について彼女が支持を表明したのはその一つでした.彼女は慎重な言い方をしていますが,民主党のヒラリーに近い学者Amitai Etzioniは,ネオコンに対抗する外交政策の考え方を展開します.そして,もしイランが交渉に応じなければ,限定的な軍事攻撃も必要だ,と認めています.

これは,まだ現職にあるチェイニーに最後の決断を誘発させるでしょう.イランの核施設は攻撃されますが,そのすべては破壊できず,国民に嫌われていた政府も核開発への意思を一層固めて支持されるでしょう.イランの核保有は許容できない,と言うものの,かつてはソ連や中国,インド,パキスタンもそうでした.軍事攻撃で解決できるかのような幻想を肯定するべきではない,と.


FT October 14 2007

A more competitive dollar is good for America

By Martin Feldstein

(コメント) マクロ経済学の教科書に出てくるような,明確にドル安を支持する論説です.

年に約8000億ドル,GDPの6%におよぶ経常収支赤字を出すアメリカが,それを減らすためには一層のドル安が必要だからです.アメリカが成長することで赤字を出し,たとえ他の世界が成長を加速しても貿易赤字のわずかしか減らないことは経験が示している,と.

それゆえ,株式投資や直接投資が増えないときにはアメリカの債券を外国投資家が毎年8000億ドルも純増で購入しなければなりません.その額は金利が上昇することによってさらに増えます.いつまで外国政府や政府系のファンドはドル債券を購入するだろうか,とFeldsteinは疑います.それは彼らにとって,ドル安による損失の不安を大きくすることだからです.しかし,アメリカが貿易黒字を出すことは当分ないから,外国投資家が売るためには他の外国投資家がその債券を買わなければなりません.そうでなければ,ドル安の不安がないほどすでに安くなってしまうか,不安を否定するほどアメリカの金利が高いか,両方あるいはどちらかが起きるでしょう.

ドル安はアメリカが対外均衡を回復するため歓迎すべきです.また長期的にも,不況を起こさずにアメリカが貯蓄率を回復するため,輸出を伸ばす必要があるのです.これに対応して外国は財政政策や金融政策を用いて国内支出を増やすべきです.そうでなければアメリカは不況に陥り,議会では保護主義が強まるでしょう.

しかし,以上の説明が正しいと思うのとは別に,なぜ今になってそれを主張するのか? なぜもっと早く,例えば経常赤字が4000億ドルのときに,不均衡を解消する国際協調政策を呼び掛けなかったのか? 今までアメリカ政府はむしろ不均衡拡大を歓迎していたのではないか? という疑問が残ります.

Thomas I Palley Triangular trouble: Euro, dollar and yuan Asia Times Online, Oct 16, 2007

Euro bears the brunt FT October 15 2007

Polly Toynbee We can't let the Euro-crazies drag us out of the club The Guardian Tuesday October 16, 2007


FT October 14 2007

Central bankers got us in this mess

By Wolfgang Munchau

FT October 18 2007

The right direction for credit ratings agencies

By Avinash Persaud

(コメント) Wolfgang Munchauは,金融市場の混乱について中央銀行の責任を軽くするような原因究明を批判します.金融革新が難しくした資産・債務の管理,数学モデルやリスク管理の欠陥,格付け会社の失敗,などは事実ですが,責任の主要な担い手は中央銀行でなければならない,と.すなわち,2004-6年のクレジット・デリバティブやCDOsの急増は,2002-4年に起きた実質金利のマイナスによって可能になったのです.

金融市場の証券化は将来も続くでしょう.しかし,このことは中央銀行の金融政策に大きな課題を残したわけです.インフレ抑制に注目した金融政策は金融市場に意外な拡大効果をもたらしたからです.そしてクレジット・バブルを防いだ先例として,イングランド銀行とスウェーデンのリクスバンクを挙げています.

Avinash Persaudは,リスクを評価する格付け会社とリスクのトレーダーが正しく機能しなかった,と考えています.格付け会社の改善とその利益相反を解消する必要があります.


John F. Wasik How to Blissfully Ignore Reasons for 1987 Crash Oct. 15 (Bloomberg)

VIKAS BAJAJ and MICHAEL M. GRYNBAUM Banks Create a Fund to Protect Credit Market NYT October 15, 2007

Banks create debt fund FT October 15 2007

Gillian Tett in London, David Wighton in New York and Krishna Guha in Washington ‘Super fund’ helps ease markets FT October 15 2007

Dean Baker Bailing out Wall Street - again The Guardian Wednesday October 17, 2007

VIKAS BAJAJ BanksSafety Net for Lenders May Have Holes in It NYT October 17, 2007

John Authers The anatomy of a crash: What the market upheavals of 1987 say about today FT October 18 2007

John Willman The News at Ten – from Black Monday FT October 18 2007

(コメント) 金融市場が崩壊したのは,20年前の今週に起きたブラック・マンデーの方が大きかったようです.ダウ式株価指数が史上最大の幅で,すなわち1日に508ポイント(22.6%)も暴落し,市場から1兆ドルが消えた,というわけです.しかも,その後一つの銀行も倒産していないし,不況にもなりませんでした.今よりも,制度的な安定化が効果的に機能したのです.・・・否,別の論説によれば,制度ではなく,グリーンスパンと大銀行,大手ブローカーたちによる,ウォール街救出作戦であった,というわけです.

1987年と2007年の比較,それぞれの原因,対策について,いくつかの論説がありました.今また,ポールソン財務長官は大手銀行に出資させて債務を保証するファンドを設立させました.これによって集めた資金で介入するから,他の債券保有者が競って投げ売りをしなくても済み,市場が安定化することを期待しています.税金は注ぎ込まないのか? 投資家に何を期待するのか? 価格が下落し続ける住宅市場に連銀や政府は介入してくれるのか? ・・・バブルが発生するときには放置したが.もしファンドによる介入が信用されないときは,暴落の危険を公認したわけですから,さらに多くの売りが生じるかもしれません.

その評価についていくつか論説を見つけましたが,読む時間がありません.あしからず.


WP Monday, October 15, 2007

A Booster for the World Bank

By Sebastian Mallaby

NYT October 17, 2007

The World Bank, the Little-Noticed Big Money Manager

By STEVEN R. WEISMAN

(コメント) 融資するのは民間市場で十分だし,貧困を減らすのはグローバリゼーションだ,という意味で,これまで世界銀行は縮小を迫られていました.世界銀行の復活と拡大を担うゼーリックの自信は,民間金融と競争するのではなく,グローバリゼーションや環境破壊,中国やインドの登場,その他のマイナスの側面について積極的に対処する,という主張です.中国への投資は無駄ではなく,一層の取り込みを助けるものであり,アフリカの開発やガバナンス改善に有益だ,と考えます.

グローバリゼーションに最も欠けているのは政治的な仲介や発言です.世界銀行がそれに貢献できるなら,新しい役割を認められるかもしれません.

世界銀行は,ゴールドマンサックスからアメリカの通商政策や外交政策を担当したゼーリックによって,貧しい諸国や中所得国の実情に即した金融サービスや情報を扱える機関に変身しようとしています.また,しきりに議論される「民間融資との競合」問題など,自分がゴールドマンサックスにいたころ誰も言ってなかった,とゼーリックは主張できます.

The Wall Street Journal, 16 October 2007

IMF Fuels Critics of Globalization

Bob Davis

IHT Thursday, October 18, 2007

What the IMF doesn't see

By Mark Weisbrot

(コメント) こうした論説がいくつかあるのは,秋のIMF・世銀総会が開かれたからです.世界の銀行家やビジネスマン,財務大臣たちがニューヨークに集まりました.

IMFのthe World Economic Outlookは,今までになくグローバリゼーションのマイナス面を肯定し,その改善策を支持する内容だ,ということです.特に,理論としては,グローバリゼーションが各国の所得分配を平等化すると期待されるのに,実際は多くの地域で不平等化が進んでいます.それは自由化や開放を進めた諸国で,IMFや政府に対する反発を強めてしまいました.

Mark Weisbrotも,IMFはグローバリゼーションを含む社会変化の激しさを見ていない,と批判します.IMFの進める政策は,成長も分配も,期待した通りに行きませんでした.不平等が改善したのはアフリカや旧ソ連圏に限られ,それはその前に極端な不平等が発生したからでした.逆に,中国,インド,ベトナムなどは,IMFの政策に従わず,はるかに優れた成果を上げています.その結果,多くの中所得国はIMF融資を頼らず,IMFの活動は縮小し,方針転換を目指しています.


Pranab Bardhan Inequality in India and China: Is Globalization to Blame? YaleGlobal, 15 October 2007

Robert LaLonde Helping Workers Where it Hurts WP Wednesday, October 17, 2007

Dan Steinbock Multinationals fear US-China trade wars Asia Times Online, Oct 17, 2007

(コメント) UCバークレー校のPranab Bardhanによれば,貧困や不平等の解消,もしくは増大について,グローバリゼーションを称賛したり,非難したりするのは間違いだ,と言うのです.たとえば,中国の貧困解消は,1990年代に輸出部門への直接投資が増えたことよりも,地方における生産性上昇が重要であって,それは1980年代に集団農場が解体され,農村の生産量が増大したことによるのです.中国やインドの経済発展を,単純にグローバリゼーションで説明してはならないのです.

グローバリゼーションによって傷つく労働者たちを助けるため,アメリカにはthe Trade Adjustment Assistance Actがあります.労働者たちが貿易自由化を支持するようにできた法律ですが,欠陥があるとRobert LaLondeは考えます.失業の原因が貿易に直接起因している場合に限られ,補償額は少なすぎ,十分な再訓練は受けられません.その結果,労働者たちは今も自由化に反対しています.これに対して,むしろ賃金保険を提案します.失業と再雇用によって減った所得を保険で支払います.


FT October 16 2007

The brave new world of state capitalism

By Martin Wolf

(コメント) 資本市場が政府系の投資ファンド“sovereign wealth funds”によって支配されていく,というグローバリゼーションの「素晴らしい新世界」をどのように理解するべきか?

その支配する資本は総額で22000億ドル,上位にあるファンドはAbu Dhabi ($625bn), Norway ($322bn), Singapore – GIC ($215bn), Kuwait ($213bn), China ($200bn), Russia ($128bn) and Singapore – Temasek ($108bn) です.

それは,世界の資産市場(株式,債券,銀行預金)の1.3%,ヘッジファンド ($1,000bn-$1,500bn) private equity funds ($700bn-$1,100bn)を凌駕していますが,従来の機関投資家の資産規模($53,000bn)には達しません.主に,国民が一度に使い切れないような資源を持っている国や,外貨準備を累積した国が,政府によるファンドの運用を始めました.急速に増大しているファンドもあり,この10年で世界資本市場の5%におよぶとMartin Wolfは考えます.

もちろん,たとえ政府系であれ,その取引が透明で,市場に従って運用されているなら,問題はない,と言います.しかし,各国政府の戦略的な目標に従って銀行や企業を買収するために利用される場合,それに対抗して資本市場が制限される恐れがあります.あるいは,自国の主要なTV局や銀行,空港を,中国系資本が買収したら,国民や政治家はどう思うか?

Martin Wolfは,さらに問題を拡大し,世界中の政府系の企業を指摘します.政府系投資ファンドはその一部でしかないからです.そして,彼らを拒否することは無謀であり,彼らを市場に取り込むべきだ,と主張します.同時に,各国は投資の対象にしてほしくない「リスト」を示すべきであり,また,こうした巨大投資家の行動を詳しく監視するべきです.他方,政府系投資ファンドも,その最善の利益追求が資本市場の原則を守ることにある,と理解していなければならない,と.

昨日のTV番組で武村健一氏が,年金の穴を埋めるのに政府系投資ファンドを活用すれば良い,と発言していました.民営化され始めた郵便貯金や外貨準備の行方にも,世界中の投資銀行や市場参加者が注目しています.

Oct. 19 (Bloomberg)

Maseratis Show Asia Is 60-100 Years Behind U.S.

William Pesek

(コメント) 成長によって不平等が拡大するアジア経済は,貧しい人びとの社会に対する不満が投資家を不安にします.


HEATHER TIMMONS Regulation Plan Shakes Indian Stocks NYT October 17, 2007

Confusing recipe for Indian markets FT October 17 2007

Indian stock market FT October 17 2007

(コメント) インドの証券取引委員会が決めた外国のデリバティブ利用を禁止する措置により,インドの株価が大きく下げました.FTは,タイの軍事クーデタによる資本規制導入に似た悪い政策であった,と批判します.発表後,株価は数分で9%も下落しました.中銀総裁は,資本取引の自由化を決定しつつ,同時に,資本流入による為替レートの増価を抑えるための措置だった,と述べました.


BG October 18, 2007

Journeying to democracy

By Benazir Bhutto

(コメント) ブット元首相が,パキスタンを逃れて8年間の亡命生活ののち,帰国しました.しかしその歓迎行列で爆弾テロが起きたのです.

帰国する日にBGに寄せた論説では,何度も暗殺予告を受けたけれど,自分がパキスタンで穏健なイスラム教徒の国をつくり,西側との和解を実現する,という強い使命感を表明していました.ムシャラフ将軍と数か月の交渉を行った,とも書いています.すでに2度の暗殺未遂を生き延びたが,アルカイダは,自分やパキスタン人民党の代表する近代化・民主主義・女性の平等・情報・技術を恐れている,と.

それだけに,この爆弾テロが今後,パキスタンの政治にとって重大な意味を持つのでしょう.軍事勢力の内部に民主化への強い反対があるとしても,それを一掃する機会になるかもしれません.


The Guardian Thursday October 18, 2007

Never mind the treaty squabbles. Europe's real problem is Babel

Timothy Garton Ash

(コメント) EUが解決できていない最大の問題とは,ブラッセルではなく,バベルである,とTimothy Garton Ashは断言します.ブラッセルはEU政治がEU市民から乖離していることを示し,バベルはヨーロッパ市民が多くの言語に分かれており,そのために直接の対話ができない状態を意味します.「仲間意識」のないところで,民主主義は機能しない,とJ.S.ミルによって主張します.

いつか,EUは共通言語を発明できるでしょうか? あるいは,もっと早く世界共通語翻訳機が開発されるでしょうか? ワイヤレスや衛星回線で世界の主要言語サーバーに接続し,共通言語を介した会話を小さなイヤホンとマイクでできるなら,多様な民主制度と文化や政治システムが育つでしょう.

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The Economist October 6th 2007

Myanmar: Life beyond the pale

Indian business: Untouchable and unthinkable

America’s property crisis: The hammer drops

Economics focus: When to bail out

(コメント) ヒラリー・クリントンが抜け出しそうだ,という記事の次に,ミャンマーの軍事政権が抗議運動を抑え込む見込みを読みます.中国は北京オリンピックが抗議の声によってさえぎられるのを好まないし,ASEANやインド,日本はミャンマーへの援助や経済関係を維持してきたのであれば,そうした関係を梃子に軍事政権を抑えるべきです.

The Economistはインドのカースト制度を克服するには,大学や雇用に割り得て制度を強制するのではなく,成長率を高め,維持することだ,と考えます.アメリカ住宅市場の崩壊を議会はなんとかして介入したい,と議論しています.日本でも不動産市場は崩壊しましたが.

経済学の知識は,金融市場のパニックを完全に説明したとは言えません.金融市場が銀行を介して,さまざまな部分的パニックから破壊的効果を生じる過程を,いくつかの点で防ごうとしているのが分かる,簡潔な記事です.