今週のReview
10/15-20
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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北朝鮮の非核化合意, ミャンマー(ビルマ)の革命, 中国に関する楽観と悲観, チェ・ゲバラ, 鹿とテロリスト, エイズとの戦い, 自由貿易論の確認, パソナによる革命
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
BG October 6, 2007
BG October 10, 2007
A new course for Korea
By Leon V. Sigal
The Japan Times: Thursday, Oct. 11, 2007
'Silly summit' produced serious results
By TOM PLATE
The Japan Times: Thursday, Oct. 11, 2007
Six-party talks make progress
By RALPH COSSA
(コメント) BGは,非常に楽観的なコメントを寄せています.北朝鮮の究極的な目的はアメリカとの敵対関係を終わらせることであり,それは北朝鮮が非核化する代わりに,アメリカがテロ支援国家の指定を取り下げることで合意した,というのです.日本政府がこれに反対していたけれど,あたかも安倍首相が辞任したせいで障害がなくなった,と指摘しているようで,私はこれが安倍辞任劇の本当の理由ではないか,と思いました.
アメリカが北朝鮮との戦争を始めるという可能性がどれほどあったのか,私はよく分りません(しかし,クリントン政権でも戦争を覚悟した瞬間があったそうですから).そうした事態が少しでも遠ざけられたのですから,私は合意を歓迎します.しかし,条件を限定しただけに,今後の北朝鮮の改革や朝鮮半島統一に向けた話し合いの萌芽を見出してほしいです.その一環として,日本の拉致家族の調査が進展する可能性もあるはずです.
アメリカのブッシュ政権批判派から見れば,イラク戦争によって示されたことが,北朝鮮との交渉でも確信できた,という喜びが強いのかもしれません.Leon V. Sigalは明言しています.
「(アメリカ政府の)強硬派の戦略は失敗し,関与することで北朝鮮を変えようとした韓国政府を孤立させた.それはまた日本において右派のナショナリストを勢いづかせたが,彼らは中国との対抗が避けられないものと考え,日本の安全保障に対するアメリカへの依存を疑っていた.右派のナショナリストたちは日本の核武装を議論し,それが地域の核軍拡競争に火をつけて米中関係を損なうかもしれなかった.」
だから,今回の6カ国協議を米朝対話が主導して合意に至ったことは重要なのです.つまり,北朝鮮と日本を危険なコースから外した,と.
The Japan Timesの二つの論説は,北朝鮮の変化に関して,もっと厳しい評価です.
Oct. 8 (Bloomberg)
Iraq War Is Cheap Versus Peace With Kim Jong Il
William Pesek
(コメント) William Pesek は,韓国経済が「正常化」できない理由は金正日である,と書いています.分断国家であり,数十キロ先から首都を欠く攻撃すると脅されているのであれば,韓国に投資する際,誰でも躊躇するのが当然です.
世界第12番目の経済規模を持つ韓国が,その国境線に戦争の危険を常に感じるというのは,南北対話で半島の統一を議論することが白昼夢であるのと同様に,韓国経済の低迷を長引かせます.もし在韓米軍が撤退し,ベルリンの壁と同じように非武装地帯が取り除かれたら,一体,何が起きるのか?
北朝鮮経済を復興する費用として,韓国国民は3000億ドルから6700億ドルを負担する,と推定されています.その額は,アメリカがベトナム戦争で支払った戦費や,イラク侵攻に要した費用を超えるのです.Marcus Nolandは,10年で北朝鮮の所得水準を韓国の60%に達するために,6000億ドルが必要だ,と推定しました.その費用と長期にわたる復興計画に見合う政治的意志を結集することは非常に困難です.北の経済復興には南から労働集約的な雇用が失われるという事態が起きます.そうなれば,南で成長が減速するだけでなく,不平等化するだろう,とNolandは指摘します.
ドイツ再統一の例と比べる場合,韓国はさらに不利です.東ドイツはある程度世界市場との関係を持っていましたが,北はほとんど孤立しています.負担を軽減するEUのような共同市場もなく,北の貧困も東ドイツより甚だしいものです.北は,こうして,財政的な負担が大きすぎて,誰も倒す気がしないのです.かつてロシアが,核兵器を大量に保有しているからIMF融資を継続するしかない,と言われたように,北朝鮮の核保有も交渉継続の切り札となっています.
解決策は,この負担を韓国だけでなく,日本やアメリカ,EU,そして中国も分担するしかないでしょう.IMFや世界銀行,アジア開発銀行なども協力します.こうして統一朝鮮が安定することに,世界経済は最大の利益を見出すのです.
Jared Genser A new strategy for Burma BG October 5, 2007
IAN BURUMA Believers make good rebels The Japan Times: Friday, Oct. 5, 2007
Burma's Bloody Silence WP Friday, October 5, 2007
Living in fear in Burma BBC 2007/10/05
David I Steinberg Myanmar and the loss of legitimacy Asia Times Online, Oct 6, 2007
William Kristol Talk Is Cheap WP Sunday, October 7, 2007
Jeff Kingston How to tear down Burma’s bamboo curtain FT October 7 2007
Salil Tripathi Trade and Security Trump Democracy in Burma – Part II WP Sunday, October 7, 2007
KISHORE MAHBUBANI Disparate tale of two Asian dictatorships The Japan Times: Wednesday, Oct. 10, 2007
KEVIN RAFFERTY A role for Japan in Myanmar The Japan Times: Wednesday, Oct. 10, 2007
George Yeo Finding common ground IHT Thursday, October 11, 2007
ROGER COHEN Monks and China Rising NYT October 11, 2007
Fergal Keane Burma changing, slowly but surely BBC 2007/10/11
(コメント) 国連特使の要請を無視して,ミャンマーのタンシェ将軍は抗議する僧侶や群衆に発砲させました.安保理決議も経済制裁も議論は紛糾しています.中国政府が北京オリンピックの成功とミャンマー政府の利用価値とを天秤に掛けるのを見守っている,という感じです.
これまでもミャンマー政府は少数民族を弾圧し,住宅を燃やし,住民たちを殺害し,レイプし,強制労働を強いてきました.
他方,イラク,ダルフールなど,これまでの勇敢な外交政策の論争を聞いているがゆえに,ミャンマー政府の民主化弾圧に対する国際社会の反応の鈍さには驚くべきものがあります.多くの激しい抗議の声が上がっていますが,ミャンマー政府も中国政府も,こうした声には動じません.ミャンマー政府に対する有効な圧力は中国政府かタイ政府が持っています.西側政府ではない,と言われます.
ブッシュ大統領は国連で,西側政府のビルマに対する制裁を指導するため,厳しい演説を行いました.しかし,その効果は見られません.軍事政権は国民の権利を無視し,傷つけ,威嚇して,街頭抗議活動を禁じました.弾圧による静けさが戻りつつあります.
アメリカにできることはないのか? ともに行動しない政府に対して何かできることはないのか? 我々の軍事力や諜報活動によって反体制派を支援することはできないのか? ビルマのインフラや通信システム,支配者の宮殿などに,限定的な攻撃を加えることはできないのか? それによって軍事政権の武力行使を抑止し,体制を開放させることはできないのか? 進行しつつある反体制派への虐殺を辞めさせる方法はないのか?
ブッシュ大統領は,神の手助けを求めるしかないのか? とWilliam Kristolは憤慨します.それ以上に,日本人ジャーナリストが銃撃によって殺害された日本政府の対応は十分であったのか? 日本国民の生命や権利を尊重するように外国政府に強く要請しなければなりませんし,もしそれが侵された場合,もっと強い抗議や真相究明を要求するべきではないでしょうか? 日本政府は,中国やタイにも圧力をかける手段を持っています.
Jeff Kingstonは,軍事政権が受け入れるような脱出策を示してやることだ,と考えます.フィリピンのマルコス,インドネシアのスハルト,韓国の軍事政権は,すべて,永久に続くのかと思われた抑圧体制が,民主主義に移行したのです.脱出策とは,民主体制に移行することを軍人たちが受け入れるような誘因と強制です.まずは,北朝鮮に対する6カ国協議に似た,恒常的監視主体を設けるべきです.
アジアにおける市場開放と民主化は,さまざまな時間差を持ちながらも,並行して進行していくようです.抑圧体制の下で貧しい暮らしを強いられる人々が,自由や豊かさを求める行動をいつまで抑えられるか,軍事政権は真剣な展望を欠いているだけです.
北朝鮮が核実験をしたとき,日本の軍国主義復活や核武装を心配し,東アジアで核保有国として秩序を支配できる地位を失いたくなかった中国は,積極的にアメリカと北朝鮮を仲介しました.もし中国が,本気で,調和ある社会や国際秩序の平和的な転換を望むとしたら,非暴力の僧侶たちが求める軍事政権との対話を積極的に支持することから始めてはどうか? とROGER COHENは主張します.
南アフリカやジンバブエの抑圧体制を観てきたジャーナリスト,Fergal Keaneがラングーンから報告しています.
NYT October 9, 2007
Developer Is China痴 Latest Hot Stock Offering
By DAVID BARBOZA
FT October 9 2007
Big challenges lie ahead for the emerging economies
By Martin Wolf
FT October 11 2007
More powerful than ever: how China’s Communist party is firming its grip
By Richard McGregor
(コメント) 中国の不動産開発業者SoHo Chinaがニューヨークへの株式上場で,2004年に上場したGoogleに匹敵する17億ドルの資本を得た,というのはショッキングな話です.サブプライム・ローンやブッシュ政権の末期に賃貸するアメリカから,土地・株式のブームや高層ビル群の建設,バブルに沸騰する中国へ,資本が殺到するのでしょうか?
フォーブズ誌によれば,中国で最も裕福な個人は,昨年,小売業の創業者Wong Kwong Yu(23億ドル)でしたが,今年は不動産開発会社の創業者の娘,Yang Huiyan(保有株式の評価額,160億ドル)です.
Martin Wolfは,アメリカに代って新興市場が世界経済の成長を主導する,そして世界経済の不均衡が解消される,という楽観論を否定します.それは望ましいことだけれど,難しい,と.
アジアは危機の後それを忘れられず,輸出を増やして外貨準備を蓄えました.それはアメリカが債務依存の成長を実現したのと補完的でした.その結果,アメリカが減速してもアジアは成長を続ける余地があります.しかし,中国は輸出を増やし続けています.世界不況に対してアジアが成長し,世界から輸入を増やせるような弾力的な調整を可能にする体制には,まだ移行しそうにありません.
Richard McGregorも,共産党の支配は経済の拡大においても重要な企業や指導的な改装を網羅しており,揺るぎそうにない,と強調します.ただし,それゆえに汚職や腐敗への誘惑は強く,また,地方や都市下層との所得格差も拡大し続けています.経済的な成功を理由に政治改革を先送りする姿勢は変わらないでしょう.
FT October 11 2007
How Hu can break free from political gridlock
By Minxin Pei
(コメント) 中国に関しては,経済でも政治でも,楽観論と悲観論とが対立しています.末尾に紹介するThe Economistは楽観の根拠を要約しています.
Minxin Peiが悲観の根拠とするのは,過剰投資や対外不均衡,銀行の不良債権,環境破壊,不平等,などに加えて,共産党が後継者争いを始めることです.ビザンチン帝国風の後継者争いが激しくなるほど,指導層は「安定性」を重視し,大胆な改革を避けようとします.まさにその逆のことを求められるような事態に直面して,中国は政治的な崩壊への内部抗争に向かう恐れがあるのです.
NYT October 5, 2007
Foreign Policy, Privatized
By ALLISON STANGER and OMNIVORE
Foreign Policy, 11 October 2007
Latin America’s Hidden War in Iraq
Kristina Mani
(コメント) バクダッドでブラックウォーターが市民を殺害した事件は注目を集めました.しかし,アメリカによる戦争の民営化は世界中で進んでいます.契約の規模は2001年に比べて倍増しており,この傾向はクリントン政権で始まった,と記事は主張しています.戦争だけでなく,外交政策のますます多くの部分が「民営化」されています.民間部門の効率性や柔軟性を利用することは必要であり,また,援助や医療など,さまざまな形でNGOsなども参加しています.
また,たとえ軍事請負契約が政治的責任をあいまいにし,不透明で,政府が説明を言い逃れるために使いやすい面があります.それゆえ,利用する分野や行動の範囲と監視にはとくに注意が必要です.しかし,通信や軍事技術の高度化によって,民間請負契約は必要になっており,過去のような戦争に戻ることはない以上,今後もますます利用が増大する,と主張します.
Kristina Maniは,民間軍事請負会社がこれまでラテンアメリカでやってきた戦争行為が世界に広まりつつある,と指摘します.イラクの「傭兵たち」の約3分の1はラテンアメリカから移動しているのです.傭兵の国際需給は,こうして,貧しいラテンアメリカと中東の民間軍事サービス拡大とを結びつけ,人員の移動を引き起こしています.
これまで多くの軍事政権の兵士や秘密警察がラテンアメリカで行ってきた誘拐,拷問,暗殺などを利用して,アメリカの兵士たちに汚い戦争から手を引かせるわけです.コロンビア,チリ,エルサルバドル,ホンジュラス,エクアドル,・・・こうした地域でチョムスキーがアメリカの支援する汚い戦争を強く批判してきました.
ラテンアメリカは犯罪組織が跳梁し,富裕層が警護や治安サービスに頼るパターンを確立してきました.しかも,この地域の軍隊や警察は,アメリカとのさまざまなコネクションを持っています.こうした民兵や私的なコネクションに頼って反政府軍の掃討や治安回復を図ることは,結果として,重大な人命の損失だけでなく,政治的破綻を招くだろう,と.
The Guardian Friday October 5, 2007
The fallout from an attack on Iran would be devastating
Seumas Milne
WP Sunday, October 7, 2007
'A Way Out' for Iran
By David Ignatius
NYT October 10, 2007
Bomb, Bomb Iran
By MAUREEN DOWD
(コメント) 「ブッシュとチェイニーは再びやる気だ」と,Seumas Milneは警告します.イラクの惨状に反省することなく,次はイランとの軍事行動を準備している,というのです.・・・まさか? と思いますが,そうでもない・・・! たとえば,イスラエルはシリアの核施設を空爆した,というのですから.そして,今度はイギリス以上にフランス政府の強硬姿勢が鮮明です.イギリス政府も戦争準備を進めている,とボルトンはリークしました.
特に,軍事衝突の関心がイランによる核兵器の開発から,アフガニスタンやイラクへの介入に移ったことが重要だ,とSeumas Milneは考えます.その真意は,核兵器を得る前に,アメリカ政府はイランが中東地域の強国として影響力を確立してしまうことを受け入れがたい,と考えているわけです.
ヒラリー・クリントンもイラクとの軍事衝突を支持する発言をしました.それはブッシュ政権がその可能性に及ぶ時間を持たない,と思ったからでししょう.しかし,そうだろうか? という不安を一部の人々は持っています.ワシントンの政治は臨戦ムードを濃くしている,と.
The Guardian Monday October 8, 2007
Richard Gott
NYT October 9, 2007
A Revolutionary Icon, and Now, a Bikini
By MARC LACEY
(コメント) 40年前にボリビア山中で処刑されたチェ・ゲバラは革命のヒーローとして尊敬され,今また反グローバリゼーションのシンボルになっています.特に2004年の映画The Motorcycle Diariesで関心が高まりました.その映画には革命家の政治的スローガンではなく,貧しい農夫やアマゾンの住民の暮らしにショックを受けた一人の人間が描かれている,と言います.
ゲバラはカストロの友人というより,第三世界から起きた,オックスファムや「国境なき医師団」のようなNGOsの先駆者でした.そして戦場が,彼を医師や詩人から革命家に変えたようです.しかし,彼がキューバ革命で学んだことは,アフリカやラテンアメリカ革命へ適用できませんでした.
ゲバラは1962年のキューバ・ミサイル危機のとき,カストロの命を受けてモスクワに飛び,フルシチョフにミサイル配備計画を公表するよう交渉させた,ということです.しかし,ゲバラがソ連に失望し始めたのは,キューバが砂糖のモノカルチャーから抜け出そうと金融・技術支援を希望したとき,彼らがそれを拒んだからでした.その後もキューバは砂糖輸出に依存し続けました.
最終的に,ソ連は平和共存を目指し,ゲバラのラテンアメリカ革命を否定します.ベトナム戦争にも示されていたアメリカの脅威を無視するようなソ連の態度を,ゲバラは容認できませんでした.世界中がベトナムに連帯し,アメリカ帝国主義の支配を打ち倒す戦争が起きる,とゲバラは主張しました.最後の訴えからも,彼が詩人の心を持ち続けた革命家であったことがわかります.
「どこにおいても死は私たちを驚かす.しかしそれを祝福しよう.私たちの戦いの叫びが誰かの耳に届き,その腕を伸ばして私たちの武器を取るのだから.他の者たちが葬列に加わって歌うだろう.マシンガンをスタッカートとして,新しい戦争の叫びが起きる.そして,勝利の声も.」
チェ・ゲバラとオサマ・ビンラディンとの類似に驚く,と記事は書きます.ある種の宗教的な指導者であったかもしれない,と.しかし,その類似にもかかわらず,チェは仲間の信頼を得た優れた革命家であった,と.
他方,NYTの記事は,ゲバラの祭典を紹介し,TシャツからCD,ウォッカ,ビキニにまでゲバラを描いて販売するシンボルの商業化と,若者たちの姿を伝えています.つまり,チェ・ゲバラの時代が完全に終わったことを教えるわけです.
しかし,同時に,アメリカが他国への制裁やイラク戦争のような姿勢を示せば,チェの声は革命家の新しい世代を呼び起こします.
FT October 8 2007
Fear the deer, not the terrorists
By Gideon Rachman
最近の本で,アメリカの学者John Muellerは,1960年以来,テロリストによって殺された人の数は,同じ時期,鹿が関係する事故で亡くなった人の数とほぼ等しい,と書いた.
これには驚いた.いつもロンドンのリッチモンド・パークで鹿を観るのが楽しみだったのに,彼らを疑いと恨みの目で見なければならないなんて.もちろん,鹿のすべてが悪いわけではない.ほとんどのシカは平和的な生き物だから.しかし,少数の,狂信的な鹿のグループがいることを無視してもよいのか? 邪悪なイデオロギーが角の間に宿っている.彼らは人殺しも厭わず,恐るべき空想に耽る.中世のヨーロッパのように鹿が森を支配した黄金時代へ帰りたい,と.
私はロンドンの住民であるから,鹿よりもテロリストに殺されることの方が起こりそうだ.この夏,ロンドンでテロの未遂事件があった.2005年には52人の通勤客を殺害する地下鉄への自爆テロがあった.しかし,地下鉄に対するテロ攻撃が今後もあると分かっていても,もっと危険なことが多くある.昨年,イギリスでは3201人が道路上の事故で死亡し,148人が自転車だった.2005年のテロ後,自転車の売り上げは急増した.人々が公共輸送手段を恐れたからだ.
同じことはアメリカでも言える.「平均的なアメリカ人が自動車事故で死ぬ確率は9000人に一人,殺人事件の被害者になる確率は1万8000人に一人.過去5年で,9・11を含むテロ攻撃による死者は,50万人に一人でしかない.」
しかし,テロの脅威こそ,アメリカ政府とその外交政策を痙攣させてきたものだ.「テロとの戦い」という名目で,アフガニスタンとイラク,二つの国と本当に戦争を起こした.今もイランに対してミサイル攻撃を検討している.ブッシュ政権は本土安全保障省を設け,それは20万人の職員を擁する,連邦政府内で3番目に大きな省である.世論調査によれば,アメリカ人の半分が自分や家族がテロに遭うことを恐れている.
テロ攻撃の時のニューヨーク市長であるジュリアーニは2005年に書いた.「安全保障にかかわるすべての専門家が9・11について聞かれたら,同じようなテロ攻撃は今後数年間に何十も行われるだろう,と予想している.まだそれほど悪くなっていないが.」 今もジュリアーにはガードを下げていない.大統領に立候補するのは「テロとの戦い」に向けてである.アメリカの政策担当者たちは,9・11よりも悪いことが起きると考えるのを慎重さの証と考える.
問題は,最悪の場合に備えることが,たとえ意味あるように聞こえても,コストを伴うことだ.それはアメリカの外交を歪めた.国内でも過酷な安全保障対策を増やしている.最近,アメリカの本土安全保障省の元職員が,ヨーロッパ諸国からのビザなし入国を止めるべきだ,と示唆した.もしそのようなことになれば,明らかに,アメリカのビジネスと観光に破滅的な損害を与えるし,大西洋の政治同盟も損なうだろう.
リスクがないというのではない.社会が機能するためには,ときには小さなリスクを許容するもの必要がある.ロンドンの地下鉄から本当にテロの可能性を根絶したいなら,すべての乗客に空港のような厳しいチェックをすればよい.しかしそのようなことをすればロンドンの活動が停止する.そしてテロリストは単に,バスやショッピングセンターといった,他の標的に目を向ける.
ある脅威は他の脅威よりも重要だ.長期的に見れば,世界的なテロよりも地球温暖化の方がアメリカにとって大きな脅威である.しかし,北極の氷が急速に溶けているのに,気候変動に関する新しい部局は一つもできていないし,アメリカの外交政策にこれを扱うような変更はない.
ある意味で,世界的テロと地球温暖化の求める政策対応は似ている.政治家たちは,将来の,真の規模が分らない脅威に対して,それを取り除くための行動を,ある程度不快なものでも,決定する必要がある.
不確かなことが多くあるというのが事実でも,政策担当者がリスクを比較しなくてもよいとは言えない.テロリストが1%でも大量破壊兵器を得る機会を持つなら,アメリカはそれが確実なことであるとみなして行動する,とチェイニー副大統領は述べた.しかし将来は,1%の可能性は,1%としてあつかうべきだ.
The Guardian Tuesday October 9, 2007
Houses of cards
Joseph Stiglitz
(コメント) きわめて穏当な危機に対する評価とその対策,関係諸国の動きを紹介します.
バブルを生じたマクロの動き,個人に消費を勧めたグリーンスパンなどの失敗であるミクロの動き.そして,外貨準備を積み増した中国の動き,など,
世界が安定的に成長を持続するには,何が必要か? アメリカ? 中国? 貨幣を発行するのも,削減するのも中央銀行です.規制強化,仲介業者の監視,小企業も監視,・・・
グローバリゼーション,セキュリタイゼーションに見合った,透明性とアカウンタビリティーの確保.詐欺的融資を拡大する悪辣な業者を,金融市場から締め出すべきです.そのためには常に新しい規制が必要です.
WP Tuesday, October 9, 2007
By Richard Holbrooke
(コメント) 「あなたがこのコラムを読んだ日に,世界では1万2000人がエイズで亡くなっている.」 国際機関がさまざまな努力をしてきましたが,人類はエイズとの戦いに負け続けているようです.マーシャル・プランに匹敵する財政移転を行ってエイズ治療薬を使用しても,感染者を減らすことには失敗しているからです.これでは順序が逆である,とRichard Holbrookeならずとも憤慨するわけです.感染者が増える一方で,その治療薬には税金を注ぎ込むなんて!
では何が必要か? エイズや性の知識を普及する教育,エイズ感染のチェックを広め,各地で相談員の数を増やし,コンドームを無料で配り,女性の力を強めて男性による無思慮なセックスの犠牲者であることから解放せよ,と主張します.
FT October 9 2007
The free trade perspective lives on
Jagdish Bhagwati
(コメント) 自由貿易論の権威であるJagdish Bhagwatiが,繰り返される自由貿易への反対とその消滅を示します.
現代において,アメリカ(のエコノミストたち)が自由貿易論をめぐって疑う余地を認めたのは,不完全競争を考慮したポール・クルーグマンでした.それは日本の興隆がアメリカの労働組合や議会を憤慨させたときです.しかし,不完全競争の影響が検討され,また,報復措置を繰り返せば事態が悪くなることを認めて,クルーグマンは自由貿易に戻ります.
次に,中国やインドの興隆を受けて,ポール・サミュエルソンthe Journal of Economic Perspectives (summer 2004)が自由貿易に反対しました.グローバリゼーションにおいて常にアメリカの福祉が改善されるわけではない,というのです.この場合も,彼は貿易を拒むことが正しい政策ではない,と指摘しました.
最後に,アラン・ブラインダーForeign Affairs (April 2006)が,アウトソーシングの影響を重視しました.インターネットによるサービス雇用の海外移転は大規模な失業につながる,と主張したのです.しかし,Bhagwatiはサービス貿易の自由化こそアメリカがウルグアイ・ラウンドで強く要求したものであり,アウトソーシングが大きな利益になることを知っていたのだ,と考えます.サービス貿易によってアメリカが失う低賃金の職業と,アメリカが多数を占める高度に専門的な,給与の高い職業とを比べれば,明らかに大きな利益があるのです.また,ブラインダーが主張した調整策は,以前から自由貿易論が支持してきたことです.
こうしてJagdish Bhagwatiは,Robert Kuttnerのような自由貿易の否定論を破棄し,エコノミストたちの自由貿易論は今も全く揺るがない,と宣言します.
Oct. 10 (Bloomberg)
Japan Needs Fewer Beauty Queens, More Pioneers
William Pesek
(コメント) 猪口邦子氏が国連大使として平和に取り組む以上に,日本の女性を経済的にも政治的にも高い地位につけるよう奮闘することに,私も大いに期待したいです.おそらく日本が変われば,世界の平和にもっと貢献するでしょう.
東京のプリンス・ホテルで,同じ日に,ミスユニバース・コンテストと,女性の地位向上を求める会議とが開かれた皮肉を,William Pesekは伝えています.一方は女性のセックス・アピールを称え,他方は頭脳を称えます.
もちろんどちらについても素晴らしい女性が多くいるのに,日本はそれを否定してきました.「経済規模では世界第2位の日本が,女性の政治的・経済的な進出では世界第42位である.」と猪口氏は述べました.企業や政府の幹部に女性が占める割合は,1985年の7%が2005年に10%へ上がりましたが,アメリカでは43%です.
実際,年功序説性と性差別によって,日本経済は低いパフォーマンスを強いられています.もし女性の社会進出を改善すれば,GDPが16%増え,高齢化や年金問題も解消する,とゴールドマンサックスの報告書は述べます.現実には,能力の高い女性たちが重役になることもできずに彼らのお茶くみに徹し,結婚や出産を遅らせて日本のGDPと人口を減らし続けています.
WP Wednesday, October 10, 2007
Lessons From the '87 Crash
By Robert J. Samuelson
(コメント) 1987年のブラック・マンデーについて,私たちはその教訓を十分に学んだか? 取り付けやパニックによる暴落は起きないのか? ・・・多分.しかし,次の危機が来れば,新しい理由がわかるでしょう.投資家の不安や恐怖に左右されず,資本市場が正しく機能するための制度や規制は,常に危機によって更新されます.ますます複雑で,コンピューターを介して相互に依存した取引に,さまざまな革新的商品が投げ込まれています.
FT October 10 2007
How to prevent a rout of the declining dollar
By Jeffrey Garten
(コメント) フランスのJean-Claude Junckerは,ユーロ圏を代表してワシントンの会合で不満を述べた.G7は為替レートの不整合に声明を出すだけで何もしません.しかし,アメリカは毎日,経常収支赤字を賄うために20億ドルの資本流入を必要としているのです.現状では主要国の利害が食い違うので,1985年のような合意は難しいでしょう.
しかしJeffrey Gartenは,ドルの暴落を回避して,円滑に,緩やかな為替レートの調整を導くために,いまこそ行動を起こすべきだ,と主張します.1.国際協調介入を行って投機的なドル安の加速を明確にけん制する.2.人民元への切り上げ要求を一時的に取り下げる.3.黒字国によるアメリカ企業や資産の買収に積極的に応じる.4.国際経済におけるドルの役割が低下することに準備する.
BISが示したように,アメリカ・ドルは長期的に地位を低下させるでしょう.ユーロの利用やロンドン金融市場の成功,人民元の国際的な利用,アメリカの軍事負担や社会保障負担が増加すること,などを考慮しなければなりません.
SPIEGEL ONLINE - October 11, 2007
'A Clear European Voice is Missing in the World'
Timothy Garton Ash
(コメント) Timothy Garton Ashは,オックスフォード大学教授で,その名声を得たのはthe "history of the present"に関する多くの批評と著述です.ヨーロッパ政治に関する最も尊敬される批評家の一人です.
EUの拡大は終わるでしょう.おそらく,ウクライナとトルコを加盟させたところで.また,交渉は続くでしょうが,コソボはEU加盟国として独立します.アメリカとEUが協力すれば,中国やロシアなどによる多極化が起きることを前提しても,一定の重要な影響力を保持するでしょう.
このインタビューは,散漫な印象が強く,失敗しています.しかし,最後にAshがthe European Council on Foreign Relationsに参加し,ヨーロッパとして未来を考えることで,何がヨーロッパであるということかを積極的に示したい,と主張しています.
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The Economist September 29th 2007
The saffron revolution
Myanmar’s protests: On the brink
Myanmar and the world: Destructive engagement
World economy: Stronger China
China’s economy: How fit is the panda?
France and the European Central Bank: Faulty Sarkonomics
America’s car industry: A turning point for Detroit
Economics focus: Playing games with the planet
(コメント) ミャンマーの「サフラン革命」(黄褐色の衣をまとった僧侶たちが率いた革命)について,仏教の庶民に対する役割や意味と,革命が日ごとに鮮明な方向を示す叙述は優れています.それに比べて周辺諸国,中国やインドもそうですが,ASEANという地域組織や日本政府の関わり方に,政治的な意志の欠如を強く感じます.
中国に関して,The Economistは強気です.インフレもバブルも軽微にとどまっており,政策によって抑えられる.たとえアメリカが不況になっても,その影響は限られており,財政的な刺激策も取れる.過剰投資や不良債権,労働力の枯渇も,まだ問題にはならない,と判定しています.中国は世界経済の救世主になれる,その条件を備えている,というわけです.
フランスのサルコジ大統領は改革を進めるための作戦としてECBを大げさに叱責し,GMとUAWは改革のために基金を設けて協調しました.地球温暖化対策が進まないのは「囚人のジレンマ」が解決できないからであり,京都議定書だけでは難しいが,国際協定の見直しをより短いスパンで繰り返せば協調が促せる,という研究を紹介しています.
The Economist September 29th 2007
Face value: Changing how Japan works
(コメント) 特に関心を持ったのは,めったに読めない日本人への称賛の記事です.福田首相ではなく,人材派遣業パソナの南部靖之社長です.日本企業の雇用慣行や人材利用は女性に対して不公平・非効率であり,それを打破するためにパートタイムの労働を集約して労働市場を転換した,という主張です.フリーターや派遣に対する批判を受けても,むしろ組織化が労働条件の改善を可能にすると考えます.
少し前の号に,グーグルについて,特殊な夢の組織ではなく,情報の新しい扱い方を示した資本主義企業である,とThe Economistは指摘しました.同じことはパソナにも言えるでしょう.一方で日本の硬直的な労働市場を改革し,それによって資本主義企業として大きな利益を上げた.それが目的だ,と.私は拙著で,こうした企業や政治家を称賛しました.社会を活性化し,利益をもたらす革新だからです.
パソナもコムスンのように,実情と大きく異なっているのでしょうか?