IPEの果樹園2007

今週のReview

9/10-9/15

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

競争力, ドイツ軍, サブプライム・ローン, バーナンキ, アメリカ軍とアジア, W.W.ロストウ, 移民より投資:USEU, プーチン大帝, ヘイマーケットの暴動, ドル安を求める, オルブライトの助言, 金融政策の政治的あいまいさ

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT August 30 2007

‘Competitiveness’ rears its ugly head

By Samuel Brittan

(コメント) 「競争力」というのは相対的な概念です.ビジネスマンや政治家は「競争力」ばかり求めます.しかし,何について,誰に対して述べているのか? かつてOECDの副委員長であったEmil van Lennepは述べたそうです.「世界が競争力を持つというのは,誰に対しての競争なのか? 月に対して?」

個別企業や都市の「競争力」というのは正しいか? ペプシはコカコーラより競争力がある? リバプールはマンチェスターより競争力を高めるべきか? 「パーフォーマンス」の方が正しい使い方です.また,通貨が異なると「競争力」は比較できません.為替レートによって変わるからです.固定レート制の世界では,その通貨と相手国通貨との為替レートが高すぎるか,低すぎるかもしれません.

1972年にエドワード・ヒースがポンドの為替レートを変動にしたとき,イギリスは外貨準備に合わせて景気変動を繰り返すストップ・ゴー政策をやめたのです.

保守党の経済レポートは,ユーロに加わったり,為替レートの目標を定めたりする試みを明確に否定し,独自通貨による対外収支の自動調整を支持します.しかし,他方で中国やその他の発展途上諸国に「競争力」を奪われることを恐れています.

Samuel Brittanは,現代の為替レートが資本移動(しかも短期)によって決まることを指摘し,よりふさわしい理解を求めます.為替レートは貿易赤字を抑制するより,しばしば増幅することがあるのです.もしOPECや中国が為替レートの調整を拒んで外貨準備を累積するなら,われわれはその間,フリー・ランチを楽しめばよい,と.

「世界はまだ単一の経済になっていない.しかし,その方向に進んでいる.中国やインドがそれに統合するということは,熟練労働力や資本の供給に比べて,未熟練労働力の量が急激に増えることを意味する.これに対する伝統的な回答は,アメリカやヨーロッパの産業はもっと上位の市場に移行し続ける必要があり,新製品や新工程を開発し,その地位を守るべきだ,ということだった.しかし,このやり方には限界がある.誰でも再訓練でハイテク分野に雇用されるわけではない.

さらに,誰もが常にノン・ストップの再訓練(これを「生涯教育」などと言い換えているが)に従うべきだ,というのが本当に望ましいことだろうか? 「立ち止まって見つめる時間もない,必死に生き延びる人生なんて楽しいか?」 西側の答えは,貿易の利益を得るために国境を開放せよ,しかし,それによって損失を受ける者には確実に再分配せよ,である.私は,「グローバリゼーション」という言葉が発明されるずっと前から,スローガンにしてきた.「再分配に賛成.平等化に反対.」」

LAT September 5, 2007

Globalism and Barbie's behind

By Jennifer Tang


FT August 30 2007

Marching orders

(コメント) ドイツの再軍備がヨーロッパで受け入れられる姿は,日本がアジアで今後議論する基礎になります.

ドイツの徴兵制度は,ますます専門家する軍隊にとって不要なもの,時代錯誤になった,とFTは述べています.これはドイツの戦後におけるタブーでした.専門の軍隊はナチスに支配され,ヒトラーが権力を握るのを妨げなかったのです.それゆえ国民が軍隊にかかわり,そのような失敗が再現しないことを願ったようです.

私はこの議論に共感しますが,たった9ヶ月の軍務でまともな兵士は得られず,18歳人口のほんの一部が軍務についているだけで,これもタブーであったドイツ国外への展開は,すでに志願兵のみで行われているようです.

ドイツの連立政権は徴兵制という考え方を放棄するのでしょうか? そして,それを近隣諸国もドイツ国民も歓迎するべきでしょうか?


FT August 31 2007

Market vultures await more blood

By John Authers

FT August 31 2007

Subprime loans – subprime solutions

FT August 31 2007

Bernanke and Bush

(コメント) 投資家の一つの昔からある教訓は,「通りが血で染まるときこそ,最高の買い時だ.」“buy when there’s blood in the streets”. しかし,将来の収益が期待できない限り,慌てて買うのは考えものです.

他方,政治家たちは救済の道義性を問題にします.そして,誰を助けるべきか? 多くの者が家を失い,多くの者が資産を失った.これでは政治家が黙っていられません.たとえばオバマ候補は,無責任な融資を行ったものから罰金を取って,借り手を救済する基金に使用,と考えます.

規制や監督が甘かったと民主党の下院金融サービス委員会委員長は考えます.今後間もっと厳しく規制する.そして,融資を受けられない者の住宅所有という夢は消されます.

アカデミックなバーナンキ議長と,戦争指導者として落ち目のブッシュ大統領が,市場の混乱を回避する点で,一致協力のアピールをするときです.ただし,バーナンキは,愚か者が逃げ出すのを助けるつもりはない,と断言し,ブッシュは,住宅を取り上げられる債務者に同情を示しても,助けとなるのは僅かなものです.

NYT September 2, 2007

Can the Mortgage Crisis Swallow a Town?

By NELSON D. SCHWARTZ

WP Sunday, September 2, 2007

The Real Causes of the Financial Storm

By David Ignatius

FT September 2 2007

Prepare for the credit crisis to spread

By Wolfgang Munchau

(コメント) サブプライム・ローンが原因で次々に住宅を明け渡し,空き家になるか競売させるに及んで,居住区全体がスラムのようになり,自分たちも住んでいられなくなった,というクリーブランドのイーグルトン一家が紹介されています.

低所得者向け住宅金融の失敗は,金融システムを通じて,居住区の荒廃を通じて,倒産や失業,消費の抑制から不況の拡大を通じて,アメリカ全体と世界に向けて,その翼を広げています.住宅価格全体が暴落し,返済に困った住民たちには,もっと悪質で破壊的な金融ブローカーが近づいてきます.

市場が上向きのときには,誰もが高い収益に向かいます.子供たちが競争しているようなものです.金融市場の錬金術師が投資できないような質の悪いローンを集めて不確実さを減らし,投資の対象にしました.もちろん,高収益には高リスクが伴います,と説明して.

金融市場はパニックを繰り返しました.いつでも資金が流入し,誰でも儲かる時間があり,その後市場は崩壊します.パニックと資本流出が続くのです.資本を国境を超えるように,パニックも国境を超えます.決済システムが止まることを恐れた中央銀行は次々に介入して,市場を流動性で満たしました.こうして次のパニックを用意しています.

David Ignatiusが示すこの話を,大筋では皆が知っています.トレーラー・パークを竜巻が襲って,住民たちに救済資金が与えられた.それは正しいことですが,竜巻を止めることはできなかったのか? 金融市場をかき乱すデリバティブが精査されるときです.

そしてWolfgang Munchauは考えます.投資する前に,J.K.ガルブレイスの『バブルの物語』を読むこと.

中央銀行の金融政策は,バブルの後始末に使うべきではありません.政府が資金を準備するべきです.モーゲージが住宅の価値を越えてしまい,毎月の返済額が所得を越えてしまったような人が,金利を下げても助かる見込みはないのです.

住宅価格が下落することは避けられないが,それが不況や失業をもたらすことを,政府と連銀が防ぐべきだ,と考えます.たとえば,企業の倒産も増えています.

The Guardian Monday September 3, 2007

The Fed v the financiers

Kenneth Rogoff

831日,ワイオミング州ジャクソンホールの講演で,アメリカ連銀議長のベン・バーナンキは,株価や住宅価格の下落に連銀が介入するのを拒む理由を冷徹に述べた.バーナンキの原則的な立場に,ECBのトリシェ総裁も,イングランド銀行のキング総裁も,賛同していた.バーナンキの前任者グリーンスパンがしたような,金融業者におむつを履かせる対策は良くない.

しかし,これはあまりにも掛け金の高いポーカーだ.170兆ドルの金融市場がかかっている.投資家たちに毛布を用意してくれたグリーンスパンは,今や6桁の給与で厚遇されている.どちらが正しいのか? バーナンキか,グリーンスパンか? 中央銀行家か,金融市場か?

バーナンキは1999年に同じジャクソンホールの会議で論説を発表した.学者としてバーナンキは,中央銀行が世界的な証券市場について推測を述べることには慎重であるべきだ,と主張した.中央銀行は株価や住宅価格の変動を無視し,それが無視できないというなら,生産やインフレに影響するという明確な証拠を示さねばならない.

グリーンスパンは静かにそれを聞いていたが,その後の回想録では,自分が行った198719982001年の市場を救済する金融緩和を明確に擁護した.そうしなければ,世界はばらばらに分解したはずだ,と.

表面上は,バーナンキの主張に欠陥を指摘できない.中央銀行総裁も,投資家以上に株価や住宅価格を予想できるわけではないからだ.同時にバーナンキは,資産価格が金融政策決定に影響してはならない,という膨大な研究を知っていた.1930年代のような生産やインフレにもショックを与えるのでない限り.

要するに,中央銀行家はデルフィ神殿の信託だ.多くのエコノミストたちは,中央銀行家に代えて,コンピューター・プログラムに金利と生産・インフレとを単純なルールで関連付けることができる,と考えている.

しかし,現実はどうか? 問題なのは,アカデミックなモデルが,中央銀行はリアルタイムで正確な生産やインフレの数値を知っている,と前提していることだ.実際は,中央銀行も不明瞭な数字しか知らない.たとえば先月,統計局は2004年の国民生産について大幅な修正をした!

インフレを正確に測ることも非常に難しい.新しい製品やサービスが常に,また,以前よりも高速に現れる時代に,価格の安定は何を意味するのか? 

たとえ金融政策を自動化しても,コンピューター・プログラマーは言うだろう.「データがいい加減なら,その結果もいい加減ですよ.」 株価や住宅価格は浮動するだろう.しかし,そのデータは,利用できる生産やインフレのデータよりも明確で,随時示されている.だから中央銀行は資産価格に注意しなければならないのだ.

私は金利引き下げが続くと思う.それは資産市場に妥協するのではなく,実物経済が助けを必要とするからだ.

中央銀行と資産市場の関係は,妻を喜ばせるためにではなく,自分が楽しいからバレーを観に行く,と主張している人のようなものだ.彼はそう言ってから,そっと付け加える.妻が楽しくなければ,私も楽しめないからね,と.

多分,バーナンキは同じように感じているだろう.連銀議長はハネムーンを終えたのだ.

NYT September 3, 2007

Few Expect a Panacea in a Rate Cut by the Fed

By EDMUND L. ANDREWS

FT September 3 2007

Mishkin’s message

FT September 4 2007

Questions and answers on the debt crisis

By Martin Wolf

Asia Times Online, Sep 5, 2007

Western grasshoppers and Chinese ants

By Spengler

(コメント) 

連銀理事のミシュキンFrederic Mishkinは,住宅価格が下がった時には必ず金利を下げるべきだ,という研究を発表しました.シラーRobert Shiller教授は,住宅市場のバブルが破裂して,その価格は半減することもありうる,と述べました.またフェルドシュタインMartin Feldstein教授は,たとえインフレを起こしてもよいから,1%の大幅金利切り下げで対応せよ,と述べました.

問題は,資産価格が下落する時に金利を下げ,資産価格が上がるときには金利を下げないとすると,インフレが加速するのではないか,ということです.ミシュキンの答えは,住宅価格が下がるのを止めたいのではなく,それが実物経済に影響するのを抑えるだけだ,というものです.

Martin Wolfは,証券化された金融市場で生きる問題を考えます.今回の金融危機は,周辺資本主義の「クローニズム(縁故主義)」ではなく,世界経済のコアにおける「無責任」が問われています.

1.なぜアメリカから起きたか? 2.その条件はだれが作ったか? 3.なぜ危機は拡大したか? 4.その影響はどうなるか? 5.中央銀行はどうするべきか? 6.証券化された融資の将来はどうなるか? 7.将来の金融規制はどうなるか?

Asia Times Online Spenglerは,誰が住宅バブルを融資したのか? とアジアの責任と負担を問います.もしアメリカが再びアジアの資金を必要とするなら,今度は投資対象として,まともな企業を紹介することだ,と.アジアは貯蓄し,アメリカは消費する.つまり,アリとキリギリスです.こうして毎年1兆ドルがアメリカに流入するのです.アメリカの家族は貯蓄しなくても住宅の価格が永久に上昇する,と期待したのです.

なぜアジアの投資はそんな奇妙な金融商品に流れたのか? それは西側政府が,プロレタリア革命と同じように,中国などの政府投資信託による買収を恐れたからです.時給30ドルで永遠に働けると思っているミシガン州の自動車工場の労働者を,その10分の1でも十分な仕事をする中国の企業が狙っています.もしアメリカ政府が許すなら,中国企業はフォードを買収し,労働者をすべて解雇してから,自分たちの自動車にブランド名だけ使うでしょう.

なぜアメリカは,それにもかかわらず,アメリカ市場に中国の製品が浸透することを許したのか? それは,中国が黒字を再びアメリカに投資すると知っていたからです.それはアメリカの金融市場に流れ込みました.金利は低下し,バブルが起き,住宅価格の上昇に満足して,アメリカの消費者は貯蓄を止めて消費をさらに増やしました.

この流れが変わります.アメリカの雇用が減れば,保護主義が強まるでしょう.中国の安価な製品がウォルマートに並ぶのは,アメリカ人が雇用や住宅を失わないと思ったからです.だから中国もギアを入れ替えるべきです.国内消費やインフラ整備に投資し,外貨準備を減らすことです.アメリカ以外の市場を求めなければなりません.他方,アメリカ人はもっと働いて貯蓄し,外国の投資家を歓迎して優良企業を買収させるべきです.

FT September 5 2007

Three steps to calm the storm

By Willem Buiter and Anne Sibert

FT September 6 2007

Europe must get ready for a banking crisis

By Nicolas Véron

FT September 6 2007

Central banks face a liquidity trap

By Raghuram Rajan

(コメント) Willem Buiter and Anne Sibertは,イングランド銀行に金融システム危機の回避について改革を助言します.銀行の取り付けだけでなく,多くの金融機関に特別融資することもやむを得ない.特別融資は忌避されるものではない.その対象となる金融機関はすべてイングランド銀行の金融監督に従う.担保として認める債権の種類も増やすべきだ.

ヨーロッパでは,銀行の統合化・ヨーロッパ化が急速に進んでいます.同時に,金融システムの危機を回避するにはEU全体の金融監督システムが必要です.

Raghuram Rajanは,流動性危機と支払い不能危機との区別を扱い,同じような政策含意を示します.つまり,金融市場への流動性供給を支持し,その限界を探ります.


Aug. 31 (Bloomberg)

Zoellick Sees Asia's Clear and Present Danger

William Pesek

(コメント) アジアは1997年を繰り返さないために何をなすべきか? 世銀総裁となったゼーリックが答えました.

アジアは当時の約束に比べて,債券市場の発達があまりにも遅い.優れた債券市場を形成すれば,もっと投資を促すとともに,貧困も減らせる,と.その条件とは,企業統治の改善と,優れた会計情報の公開です.

アジアは高度な成長を実現しても,債券市場が無いのでリスクの評価や分散ができません.危機のとき,株式を売って債券市場に移りたかった投資家も,それが無かったので海外に逃避しました.今も,またアメリカからの住宅バブル破たんが波及します.債券市場があれば,民間投資が海外に向かわなくてもよかったのです.

もっと国内の中小企業とその雇用が増えるでしょう.それがアジアの最も必要とするものであり,アメリカの金融危機が波及するリスクも軽減します.


Aug. 31 (Bloomberg)

New Evidence on Old Idea That Works for the Poor

Gene Sperling

The Guardian Friday August 31, 2007

Agenda for a fairer Britain

John Grieve Smith

BG September 3, 2007

Economy thrives, but schools go begging

By David D'Allesandro

(コメント) 労働者家族の所得を引き上げる伝統的な革新的発想を復活させてはどうか? と考えます.それはEITC(the earned income tax credit)保障所得税制度です.1990年代にクリントン政権下で真剣に検討されました.日本でもワーキング・プアを救済する政策が求められます.

イギリスでは企業重役が,平均的な労働者の給与の100倍を得ている,と言います.累進課税や最低賃金の引き上げも,企業幹部の高所得にはかないません.弾力的労働市場への改革などより,労働組合を重視して,(企業幹部より)労働者の積極的な貢献を強調するべきです.

低所得者の非課税所得を増やすとか,累進部分を増やすとか,遺産相続に課税する,という政策手段が従来からあるわけです.それを使う政治的意志と説得する言葉を駆使する優れた政治家がいれば.

David D'Allesandroは,グローバリゼーションに生きる企業家として,子どもたちや優れた教育システムには投資する,すなわち,政府が税金を集めて改善するべきだ,と考えます.


LAT August 31, 2007

Who freed Asia?

By Ian Buruma

(コメント) イラク占領を続けるためにベトナム戦争を持ち出したブッシュ氏は批判にさらされています.同様に,第2次大戦後の日本占領や朝鮮戦争はアメリカの軍事介入が成功したケースなのでしょうか? アメリカは,本当に,アジアや世界に自由をもたらしただけなのか?

私たちがよく知っているように,アメリカ人の多くはそう思っていないでしょうが,それは間違いです.最初,アメリカ軍による日本占領は目覚ましい改革を行いました.左派のニュー・ディーラーたちが先頭に立って,学校や労働組合,女性の地位を改善したのです.天皇は人間宣言をし,戦争犯罪者は追放されました.

しかし,中国で毛沢東が政権を確立し,北朝鮮が中国とソビエトの支援を受けて韓国を侵略するに及んで,アメリカの方針は転換しました.イラクでバース党が復活した様なものです.日本でも右翼の政治家たちが「民主主義」を掲げてアメリカに近寄り,権力を握って左派を排除しました.

韓国で,台湾で,フィリピンで,インドネシアでも,アメリカは冷戦を理由に,中東で今もしているように,軍事指導者や独裁者の政府を次々と支援しました.1980年代まで,アメリカは韓国の民主化運動を弾圧する軍事独裁政府を擁護したのです.彼らが「自由」を忌み嫌ったことは,その支配に苦しんだ市民たちがよく知っています.

アジアにおいても,アメリカの役割は中東と同じように,きわめて保守的でした.


NYT August 31, 2007

Katrina All the Time

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 2年前の今日,カトリーナの惨状をテレビで観て知ったときが転換点だった,とPAUL KRUGMANは考えます.それは多くの失敗に対して,貧しい住民が苦難を強いられ,連邦政府が救済に乗り出した最初でした.

PAUL KRUGMANは,ブッシュの成果を三つ考えます.カトリーナの救済,イラクの惨状,保険のないアメリカ人,です.ブッシュ氏は,カトリーナを救済するために財源を移転しました.しかし,イラクには支出を渋っています.そして,保険のない個人には,救急室で治療してもらえばよい,と答えました.つまり,彼らもイラクです.

カトリーナが転換点だった,と未来の歴史家も書くでしょう.それは政府が何をやっても社会を傷つけるだけだ,という保守派の自己正当化としてか,あるいは,優れた政府を求める強い願望が実現し始めたときか.


FT August 31 2007

Chinese giants

LAT September 2, 2007

China's latest export: soft power

By Joshua Kurlantzick

(コメント) 月からでも見える唯一の人工建造物という万里の長城にならい,2000年たって,中国は株式市場にも巨大な人工建造物を追加するのでしょうか?

中国株の規模は,香港市場を含めて,ついに日本の株式市場総額を越えました.その規模は約5兆ドルであり,特に個別企業の規模は空前です.世界最大の銀行Industrial & Commercial Bank of China2800億ドル,世界最大の通信会社China Mobile2600億ドル,他にも,生命保険,航空会社など,世界最大の企業が並びます.

しかし,株式市場の二重性やその評価は怪しく,本当に良い買い物かわからない,と.・・・日本の株価が異常であったように.

アメリカ政府は中国とロシアの軍事演習に関心を示しません.ブッシュ政権は「テロとの戦い」を支持してもらうために,中国への懐柔策を取りました.上海協力機構も黙認です.しかし,中国の影響力はますます強まるでしょう.ソフトでもハードでも,中国はアメリカの競争相手として最も重要になるのです.

では,それを妨げる問題はないのか? もちろん一杯あります.最近では,中国製品含まれる有害物質です.あるいは,インフレやバブルを招くマクロ経済管理の失敗と,将来の資本自由化による国際的な危機の波及です.

FRANK CHING China's image sinking fast The Japan Times: Thursday, Sept. 6, 2007

China bubbles as world goes crunch FT September 6 2007


LAT September 1, 2007

Mideast peace through porn

(コメント) 愛で戦争をやめさせるのは昔からの反戦運動のスローガンです.しかし,ポルノを撒いて(あるいは女性を貢いで)戦意を殺ぐ,というのも昔からあったと思います.

アラブ諸国でもポルノは蔓延しているようです.イスラエルが周辺のアラブ諸国向けに,その国の検閲を避けて接続できるアラビア語のサイトを開設した,というわけです.このサイトは,イスラエルの兵士やアラブ人との交流を紹介しています.兵士たちの素顔を伝えている,と.


LAT September 2, 2007

The Paul Wolfowitz of the '60s

By David Milne

(コメント) 1960年代のウォルフォウィッツとは誰のことか? W.W.ロストウです.『経済成長の諸段階』など,近代化や開発論のパイオニアですが,同時に,第3世界における冷戦の闘士でもありました.

彼は聡明な経済学者にして,世界的なニュー・ディールの信奉者であった,と書いています.そうであるからこそ,ケネディーが44歳のロストウを国家安全保障の次席顧問とし,彼は第3世界の近代化と「共産主義」という疫病の掃討に全力を傾けます.民間人としてあまりにもタカ派で,冷戦を絶対視したため,北ベトナムの初期工業化を開発の成果と見ずに,北爆によって破壊することを提言します.

ベトナム戦争の終結に向かった政府では孤立し,ついに「アメリカのラスプーチン」と呼ばれて,ニクソン政権下で現実主義的なキッシンジャーと交代します.

私が関心を持ったのは,多くの経済学者が強大な権力を与えられると,その使命感と確信に従い,同じように変貌していくのではないか,ということです.


LAT September 2, 2007

A sanctuary for immigrants

By Grace Dyrness and Clara Irazábal

NYT September 4, 2007

American Farmers Are Crossing the Border for Labor

By JULIA PRESTON

WP Wednesday, September 5, 2007

Importing Poverty

By Robert J. Samuelson

(コメント) アメリカの教会関係者には,非合法移民を保護するthe New Sanctuary Movementというものがあるようです.ベトナム戦争の末期,徴兵拒否や軍隊から脱出した者を保護する運動があった,というのを思い出します.ただし,記事にはこの運動の起源が80年代の中米である,と書いてあります.

子供はアメリカ生まれで国籍を持ち,その母親は非合法移民であるために,二人はバラバラにされ,強制送還されました.メキシコの経済はますます農民・貧困層の生活を破壊し,アメリカの移民法は,結局,改正できません.苦しむのは彼らです.

JULIA PRESTONの記事は,農民たちの写真が印象的です.

メキシコの非合法移民が行ってきた農作業を,今では,アメリカ農家がメキシコ側の農地を借りて合法的に行っている,という話です.そういえば,南米にも大規模な土地を借りて,アメリカのアグリビジネスが進出しています.

それはラテンアメリカの市場改革が進んだことを示しています.かつてアメリカの農民はこうした投資が激しいインフレや経済・政治危機,輸送インフラや法律の未整備によって失敗することを知っていました.

Robert J. Samuelsonの論説は,政府の最新統計でも貧困や不平等が増大していることに皆は注目するが,それが移民の増加によって生じているとは考えない,と主張します.政策により貧困は減らせるし,不平等も緩和できる.ただし,移民は高度な熟練を持つ,速やかに同化する者だけを合法的に入れるべきだ,と主張します.


WP Sunday, September 2, 2007

Vladimir the Great?

By Jay Winik

FT September 2 2007

Reform is the answer to Gazprom

By Katinka Barysch

Asia Times Online, Sep 5, 2007

Russia rains on Bretton Woods parade

By Zorawar Daulet Singh

(コメント) ピーター大帝ならぬ,プーチン大帝ですか? Jay Winikの論説から,国際政治や国際関係を動かす個性と時代について考えるでしょう.

プーチンが新しい冷戦を誇張しても,彼を理解するにはスターリンやフルシチョフではなく,女帝エカテリーナ2世を比較せよ,とJay Winik指摘します.エカテリーナは,啓蒙主義のヨーロッパに心酔し,ヴォルテールと手紙をかわし,モンテスキューに依拠してロシアを統治し,エルヴェシウスがパリで処刑されたとき,ディドロが亡くなったとき,その業績をたたえたほどです.

しかし,彼女は強烈な権力者でもありました.アメリカ独立革命を支援せず,フランス革命が起きると啓蒙主義にも反対し,近代的権威主義者になりました.ロシアのインテリを弾圧し,フランスを逃れてきた「民主的」ジャコバン派を破壊します.「エカテリーナは,魅力的で,聡明で,生き生きとして,複雑な人物」であったようです.知識人たちを称賛したけれど,最後はロシア帝国を絶対視しました.

また,プーチンの権力の源泉は,秘密警察ではなく,天然資源です.ヨーロッパはロシアの資源に依存することを恐れるより,ガスプロムを近代化するべきだ,とKatinka Baryschは主張します.なぜなら,ロシアもヨーロッパへの輸出に依存しています.採掘もパイプラインも,膨大な資本と技術を必要とします.相互利益が合意できるはずです.

プーチンがチェコ中央銀行の元総裁Joseph TosovskyをIMF専務理事候補に推しました.それは微妙な国際政治のゲームです.IMFはヨーロッパの指名する人物に自動的なポストの割り当てをするだけでは正当性を欠く恐れがあると心配しています.フランスの候補指名はEUに承認されましたが,ロシアは東ヨーロッパに優れた候補がいることを示します.

Zorawar Daulet Singhは,ロシアの野心と旧ソ連圏での影響力回復,を動機とします.IMFが世界金融の関心を,OECDだけでなく,むしろ新興市場に向けるのは国際金融アーキテクチャーの視点からも支持されるでしょう.しかもチェコは「新しいヨーロッパ」として,アメリカの支持を得やすいわけです.アメリカが事実上の拒否権を持つかもしれません.


BG September 3, 2007

The labor day that wasn't

The Guardian Monday September 3, 2007

Lost in history

Kat Christofer

The Guardian Tuesday September 4, 2007

Now you see it ...

Jeremy Seabrook

(コメント) 「1880年代,アメリカの労働者は雇用主たちに18時間の労働を要求していた.シカゴで労働組合が協議し,188651日にゼネラル・ストライキを呼びかけた.それはビジネス界とその市議会の仲間から激しい反対を招いた.抗議活動は1週間に及び,そのクライマックスが56日のヘイマーケット広場における平和的な集会だった.しかし,200人の警官隊が群集を蹴散らすために行進し,誰かが爆弾を投げた.そして7人の警官が死んだ.結局,7人の労働者の指導者が取るに足らない証拠で「殺害の謀議」を認め,4人が処刑された.「お前たちが今日絞め殺す声よりも,我々の沈黙の方が強力になるときが,必ず来るぞ」と,絞首刑になる前に無政府主義者のAugust Spies は言った.」

アメリカの労働者の日は,法律によって91日とされ,世界中のメイ・デーと分けられました.その後の世界に共産主義が盛衰し,アメリカの労働者はヨーロッパ的な福祉国家を求めるようになりました.しかし,その成果も,処刑された7人がいたからこそ,勝ち取られたと考えてみてはどうか,と論説は指摘します.

同様にKat Christoferthe 1886 Haymarket Riotを紹介しています.この論説によれば,8人が警官殺害の罪で起訴され,彼らが爆弾を投げたという証拠はないにもかかわらず,その内5人がドイツの移民,一人はドイツ系移民の子孫でアメリカ人であった.激しい人種差別に染まった陪審員たちと,彼らをアナキストと決めつけた検事により,法廷は彼らを見せしめとして有罪にし,5人を処刑した.

また,Jeremy Seabrookの論説は,インド,中国,インドネシア,ブラジル,バングラデシュ,と苦汗工場が広がっている現状を報告します.非人間的な労働条件や政治的弾圧,激しい労働者の要求と社会対立が歴史上の事件でしかない,と信じたい私たちに反省を求めます.消費者としてだけ,この世界に満足することが許されるでしょうか?


LAT September 3, 2007

Real crises aren't fixed overnight

Niall Ferguson

(コメント) Niall Fergusonは,1970年代と同じように,政治経済の構造が大きく変わるときには,数日や数週間の変化に重要な意味はない,と考えます.本当に何が起きたのかは,数百日たって見ないとわからないのだ,と.19977月にタイでバーツが危機に陥ってから,グリーンスパンが金利を下げるまでに,503日が経ちました.1973年,パリの平和条約でベトナム戦争が終わるまでに,1700日が経ったのです.イラク戦争はバクダッドで戦われていない.その戦争を決めるのはワシントンの争いです.


FT September 3 2007

Now is a good time to sell the dollar

By Barry Eichengreen

(コメント) Barry Eichengreenが言うように,世界経済の不均衡を正すためには,アメリカの不況が必要だ,と以前から分かっていました.だから,世界はアメリカが不況になっても嘆くべきではありません.ただし,調整過程は他の条件によっても促されなければなりません.すなわち,黒字国が支出を増やし,双方の為替レートが変化するのです.つまり,ドル安です.

ところが最近のドルの動きは,Eichengreenにとって大きな不満です.ユーロやポンドに対して増価し,新興市場についてもドルが強くなったからです.質への逃避とか,アメリカに不況は来ないとか,その理由は考えられます.短期的には.

しかし,長期的に考えれば,調整の方向が決まっているのですから,ドルは安くなります.投資家も,ドルだけでなく,もっと分散投資するでしょう.投資家も,次第にドル売りに傾くはずです.


Anna Fifield Keeping North Korea afloat FT September 3 2007

David E. Sanger Nuclear Pact Broadening, North Korea and U.S. Say SPIEGEL ONLINE - September 3, 2007

Getting to yes with North Korea BG September 6, 2007

(コメント) もし北朝鮮の核開発やミサイルが本当に解決されるとしたら,拉致問題はどうなるのでしょうか? もちろん,解決に近づくはずですが,日本政府の考え方は逆のように聞こえます.もっと北朝鮮が悪者になって,世界中から非難・攻撃され,ついに体制が完全に崩壊して,初めてすべてが解決される,と.それは無責任なシナリオではないですか?


BBC 2007/09/04

Winds of change shake Romanian farms

By Mark Mardell

(コメント) ルーマニアと言えば,トランスヴァニアのドラキュラの城,独裁者チャウシェスクの国として,今も貧困に苦しんでいると思いましたが,改革の明るい話題があるのは嬉しいことです.

夫婦が共に学校の先生だ,という家庭にも小さな畑があり,そこでとれたリンゴを家の前で売っています.私はかつて中央アジアを旅したとき,同じ光景を観ました.ルーマニアが違うのは,EUに参加したことです.

EUは共通農業政策を改正し,大規模農家よりも伝統的な景観や鳥などの野生生物を保護するために小規模農家を保護しています.しかし,ルーマニアがEUの法律に従った基準を満たせるのか? 記事は,その余りに中世的な農村風景を見て,疑います.

この国の改革を助けているイギリスの専門家Mark Redmanは,確かにEUは彼らに大きな障害を設けているが,そこには多くの機会がある,と指摘します.ブラッセルの規制は各国による様々な工夫を認めているのです.ルーマニアの農民たちが生活や文化を捨てる必要はない,と.WWFのRaluca Barbuも述べます.「ここには人と自然と動物たちの間に,真のバランスがある.」

また,他の地域では地形や温度が異なり,ヨーロッパでも最大規模のアグリビジネスが外国投資によって繁栄しています.多様な生物種を死滅させるとは言え,フランス人のArnaud Perrainはターボチャージ式のトラクターを自慢します.彼のような農家がルーマニアの伝統農業を変革します.彼は10年来ここに住み,ルーマニア人と結婚しました.隣人はイタリア人です.EUがコストや法律を統一し,移住を可能にしました.

数ヘクタールではなく,数十万ヘクタールを耕作する新しい農家が誕生します.広大な農地と豊かな食糧を,人々は見たこともないだろうが,きっと望んでいるに違いない.物事は急速に変化しつつあるのだ,と.

ルーマニア農家は,EUの補助金によって選択を求められるでしょう.より多くの人々に食べさせる農業を目指すのか? それとも,エコロジカルな保護を担う農家を目指すのか? そして,人々がEUの市場に統合され,スーパーで食糧を買えるようになれば,家庭菜園の作物は売れなくなります.・・・乳牛たちの首では鈴が鳴り,丘にはオオカミたちがやってくる.


WP Wednesday, September 5, 2007

In Japan, Leadership at a Crossroads

By Herbert London

Sept. 7 (Bloomberg)

Bernanke's Job Is Cake Compared With Fukui's

William Pesek

(コメント) 保守派を支援するアメリカの研究機関ですが,安倍政権を批判しながら助言する内容は苦しいものです.郵政民営化で自由になる3兆ドルの資金はどうなったのか? 世界第二の市場規模を利用してアジアのFTAを指導する役割はどうなったのか? ・・・まったく.

William Pesekは日銀の福井総裁に同情します.日本の政治家(や企業家)は,十分な経済改革や投資をもたらしていない.その問題を日銀の超低金利でごまかしている.こうした状態が続くほど,日本は自力で成長する力を失ってしまう,と.


BG September 5, 2007

US must reassert global leadership

By Samuel R. Berger and Eric P. Schwartz

Asia Times Online, Sep 6, 2007

The case for pragmatic idealism

By James A Baker

(コメント) アメリカがイラクで重い火傷を負っている間に,中国はラオス,カンボジア,フィリピン,そして東チモールに影響力を拡大しています.ロシアも,中央アジアやカスピ海沿岸で活動を強めています.ラテンアメリカでもチャベスの勢力が拡大します.

アメリカは外交の重点を見失っている.イラクに注意する一方で,世界の他の地域には権力の空白が生じ,大国の進出と地殻変動が生じている.バランスを回復する時だ,とBerger and Schwartzは考えます

James A Bakerの論説は長大です.アメリカの国益と世界構想との有機的関係を議論しています.つまり,リアリズムとアイデアリズムとの実際的バランスに依拠した覇権の再建について.外交政策の経験と知識を集約したテキストです.10の教訓を提案します.


WP Wednesday, September 5, 2007

How to Gain A Climate Consensus

By George P. Shultz

(コメント) オゾン層の破壊を阻止したモントリオール議定書に戻って,アメリカは新しい環境規制の国際秩序を提示するべきだ,と主張しています.その目標は,温暖化ガスの抑制と,安全保障の確保,です.

いつもは国際機関を嫌う上院が国際議定書を認めたのは,保守派のレーガンが大統領だったから? 他にも色々な注意点があったようです.


WP Thursday, September 6, 2007

How To Change Iraq

By Madeleine K. Albright

いかなる戦争でも,決定的な問いに直面する.すなわち,われわれは何のために戦っているのか? 兵士たちは納得できる答えを求めている.

イラクには多くの使命が掲げられたが,いずれもしっくり来ない.大量破壊兵器の脅威を取り除く.アラブ世界に民主主義のモデルを示す.9・11の責任者を懲らしめる.あるいは,ニューヨークでテロリストが次の旅客機を乗っ取るのを阻止する.今年の「増派」は,イラクの指導者たちに政治的合意に基づき安定化する時間と政治的余地を与える,と言われた.彼らにそんな関心はないようだが.

皮肉な見方では,イラク戦争は破滅をもたらしたということをブッシュ大統領が否定できるように,まだ戦争を続けているわけだ.もう少し婉曲に見れば,占領の目的は三つだ.イラクをアル・カイダに与えない,イランの傀儡国家にしない,地域全体の戦争状態にしない,ということだ.しかし,これらはアメリカがイラクに侵攻した理由ではなく,むしろその結果である.我々の兵士たちは,政治指導者がもたらした諸問題を解決するために,自分の生命を危険にさらしている.大統領は我々に失敗してはならないと懇願しているが,イラクの錯綜した政治情勢と信頼を失ったブッシュ政権にもかかわらず,この軍事作戦が成功するということを彼は説明しなければならない.

使命と能力を区別して現状を議論することが最近の報告書に求められ,議会は秋の戦略を練るはずだった.多くの期待に反して,報告書は戦争がすぐに終わりそうにないし,われわれの見通しに対する新しい支持もなかった.どのような状況で撤退できるかは,次の大統領に委ねられた.しかし,そのときまで民主党と共和党はダメージを最小化するために協力しなければならない.

イラクの政治や安全保障の要因が根本的に変化しない限り,最近のアメリカの作戦はほとんど成果がないだろう,と,先月,国家情報局も評価した.アメリカに介入手段がない以上,パトロールも,ベンチマークの決定も,演説も,また,電撃訪問しても,効果がない.国際的な支援を組み合わせることが唯一の選択だ.

バルカン半島が今日平和であるのは,アメリカ,EU,国連が協力して努力したからだ.これら3者は地域の穏健な指導者を支援してきた.同様の作戦はイラクについても初期から考えられたが,真剣に試みられたことはない.そのような提案がまだ有効だろうか?

多分.国連は参加すると約束した.ヨーロッパの新しい指導者たちは,サルコジ,メルケル,ブラウンが,地域の将来がイラクにかかっていることを理解し,支持するだろう.サウジ,ヨルダン,シリアの政府はイラクの不安定化を重大な安全保障の脅威とみなしている.トルコとクルドの代表も,最近,混乱した境界地帯について協力することに合意した.イランは予想出来ないが,地域の和解を求める国際協力において排除されることは望まないだろう.もしそうなれば,われわれにとっても,イランの影響を最小化したいシーア派やスンニー派のイラク指導者たちにとっても,勝利である.

ブッシュ大統領は,世界がすでに知っていることを,認めることで役割を果たす.つまり,アメリカのイラク侵攻に対する戦前の多くの批判は的を射ていた,ということだ.こうした承認は外交上必要なショックである.今も自分は正しかったし彼らが間違っていた,と主張する大統領を助けるのは,各国の有権者が嫌う.そんな中で,この承認によってヨーロッパやアラブの指導者たちが支援しやすくなる.アメリカの兵士たちは毎日死に直面しているのだから,大統領が行う最小限のこととして,真実を受け入れることだ.

国際的な協力活動として,イラクの国境を警備し,再建を助け,軍隊と警察を訓練し,合法的制度や司法を強化する.それはまたイラク各派の指導者たちに,政治権力を分け合う制度を受け入れ,多数派が支配し,少数派の権利を守ることが唯一の解決策である,という統一メッセージを送る.

もしイラクが一層の破局を逃れられるとしたら,それは大きな心理的転換が起きて,人々が無秩序の中で生き残ることを望むだけでなく,平和的に権力を求めて競い始めるからだ.国際社会はそのような変化を保証できないが,それをもっと励ますことができるし,そうしなければならない.

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The Economist August 25th 2007

Putin’s people

The American-India nuclear deal: Worse will come

Mexico and the United States: Death in the desert

Central Asia: Not quite the pact that was

(コメント) 秘密警察によってすべてを支配することはできるでしょうか? それは持続するでしょうか? たとえロシアのように,秘密警察とその関係者があらゆる重要決定を支配しても,将来は不確実です.ロシアの資源は,また豊かになった市民たちは,経済情勢が悪化すれば,インフラの破たんや権力の継承,コーカサスの紛争,人権抑圧,・・・ ナショナリズムが彼らの支配できない過激な主張に向かうかもしれません.

インドはNPTの体制に最初から批判的で,参加しませんでした.アメリカはNPTを維持するより,インドも含めた体制を目指します.核廃絶を願う日本も,アメリカだけでなくインドが安全保障で重要な意味を持つのは歓迎です.

アメリカの移民法改正は失敗し,反移民感情と国境警備問題だけが残りました.非合法に国境を超えたい貧しいメキシコ人たちは,砂漠の中で死に直面します.上海協力機構に参加することは,ロシアと中国とキルギスタンにとって,全く異なる意味があるのです.

The Economist August 25th 2007

Monetary Policy: Hazardous times

Economics focus: Does America need a recession?

(コメント) 金融政策の謎は深まります.中央銀行は金融市場の奴隷なのか? バジョットの原則は通用しないのか? さまざまなモラル・ハザードは回避できるのか? 個別金融機関の救済とシステム危機の予防とを区別できるのか? 恐れるべきは,インフレか? それとも不況か?

「戦後の景気拡大で高齢により死亡したものはない.それはすべてアメリカ連銀に殺されたのだ」と,故R.ドーンブッシュは述べました.

なぜバーナンキはインフレ抑制だけに集中して,株価や住宅価格を無視し,アメリカ経済が不況になることも放置しないのか? 不況には好ましい効果がある,と論説は主張します.創造的な破壊なしには,新しい分野に資源が流れることもなく,日本のようにゾンビ企業と国民が心中するしかないのです.不況か,不況でないかを選択しているのではない.今すぐマイルドな不況を受け入れるか,将来にもっと悲惨な不況を延期するか,その選択しかないのだ,と.

ただし,バーナンキが不況を容認することは,政治的な自殺行為であることは確実です.