IPEの果樹園2007

今週のReview

9/3-9/8

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

移民論争:ドイツデンマークアメリカ, 移民送金, サブプライム・ローン危機, 日本, 世界一の富豪, 金融市場危機をどうするか?

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


SPIEGEL ONLINE - August 23, 2007

IN WAKE OF RACIST ATTACKS IN MÜGELN

Germany Wonders How to Stop the Neo-Nazis

SPIEGEL ONLINE - August 24, 2007

CREATIVE INTEGRATION

Denmark to Immigrants -- Let's Ride

By Josh Ward

(コメント) 旧東ドイツの小さな町Mügelnには,ネオナチの痕跡がいっぱいです.「88」というのは,アルファベットの8番目の文字「HH」を示し,"Heil Hitler"を意味します.ネオナチが来たことを誇示するために,その署名や落書きとして用いられます.町の祝祭日に,ネオナチなどのドイツ人50人ほどに8人のインド人が追い回され,ピザ屋に逃げ込んだけれど,店内に押し入ってきたドイツ人に暴行された,というわけです.さまざまな証言が食い違い,犯人はなかなか捕まりません.

ドイツ政府は,シュレーダー政権のときにネオナチに対する対策費を設けましたが,役に立っていない,と批判されます.Mügelnはこれを申請して却下されています.ネオナチに抵抗する人たちの対話集会が計画されています.

次のデンマークの話は成功例です.

デンマークでは,移民たちがデンマーク人になる授業を受けなければなりません.デンマーク語を学び,デンマークの基本的な規範や価値を知ります.その際に,自転車の乗り方を教わる,と言います.これが大変な人気なのです.自転車の乗り方を教える予定などなかったようですが,移民や難民たちはそれが分らないので,赤十字のスタッフがボランティアで始めました.

特に中東からの女性たちには,自転車に乗って外出し,仕事や学校,買い物に出ることが素晴らしい経験です.それは男たちだけがしていたからです.

デンマークは他の先進国に比べて,より多くの自転車利用者と走行距離が特徴です.2006年,デンマークの自転車乗りは954キロも走りました.ドイツ298キロ,イギリス84キロ,アメリカは33キロです.

それにしてもどうしてこんなに走るのか? 記事によれば,平たんな地形に加えて,環境保護を強く意識した国民と政府が,自転車の専用車線を全国に整備し,一定の市街地には公用の自転車を無料で用意している,というから驚きです.公共交通手段よりも自転車の方が手軽なのです.

赤十字で自転車の乗り方を覚えた移民たちは,必要なら,警察で回収した自転車をもらえます.移民の女性たちは,子どもを連れて外出し,デンマーク社会により多く参加できるでしょう.話し相手を見つけ,料理や化粧も学びます.

LAT August 25, 2007

California without a Mexican

By Tamar Jacoby

The Observer Sunday August 26, 2007

Ignoring immigration issue is not an option

Nick Clegg MP

(コメント) 2004年の映画「メキシコ人の消えた日」"A Day Without a Mexican"についての想像ですが,有権者たちが移民法の完全な実施を求めて選挙により政治家を入れ替え,その結果,移民労働者のチェックが厳しくなったらどうなるか,とJacoby考えます.

メキシコ人の多くは国境を越えられず,正規の書類を持たない労働者を雇った雇用主は処罰されます.フェンスを築き,ハイテクのICカードや国境警備隊,無人の偵察機を飛ばします.

アメリカでは,農業労働者の70%以上が非合法移民です.エコノミストの推計では,一人の農業労働者は,食品加工や農業機械など,関連する分野の3〜4人の雇用をアメリカ人労働者にもたらしています.ホテル,レストラン,建設,医療介護などでも,同じことが言えます.

もし非合法移民が本当に利用できなくなれば,ジャガイモは畑で腐り,イチゴも虫に食われ,収穫されないキューリは大きくなって,メロンも腐って溶けだすでしょう.道路はボコボコ,病院には看護婦がいない,学校の教室も修理されない.農産物は輸入され,農業は消えてしまうか,もっと悪質な「地下経済」になるでしょう.正規の経済活動は大幅に縮小し,地下経済で非合法に労働者を雇い,怪しい下請け業者が増え,ID記録の窃盗事件が急増するでしょう.

移民を締め出せ,と決めることはできるが,彼らがしている仕事はどうするのか? 政治家たちは答えません.

イギリスでも移民政策の見直しが進んでいます.海外に居住するイギリス人は,国内に住む外国人よりも多く,それゆえ,一方的に国境を閉ざすような政策は取れない,とNick Clegg下院議員は指摘します.しかし,EU拡大によって生じた移民流入による影響を正しく評価し,移民を管理する政策が必要だ,と.すなわち,移民の利益を増やす三つの条件を求めます.1.適切かつ公平な移民管理,2.大量流入地域についての移民計画,3.移民の統合化,です.

FT August 27 2007

The tale of globalisation’s exiles

By Richard Lapper

FT August 27 2007

Filipinos’ mixed blessings

By David Pilling and Roel Landingin

SPIEGEL ONLINE - August 29, 2007

FORTRESS GERMANY

Skilled Immigrants? No Thanks

By Michael Sauga

FT August 30 2007

Migrants breathe life into old country

By Richard Lapper

(コメント) 世界の多くの貧しい人びとにとって,豊かな諸国のサブプライム・ローンや投資信託がどうなるかよりも,もっと重要な問題があります.それはますます増大する移民による本国送金です.

移民送金は,公的な援助よりも,直接投資よりも,国によっては,通常の貿易額よりも,巨額に達しています.最近の世銀の推計では,移民送金が経済算出の15%を超える国は14カ国あり,モルドバでは38%にもおよびます.

世界経済に占める送金の重要性も高まっており,2006年には2063億ドル(あるいは他の民間推計では2980億ドル),それは1990年の7倍になった,ということです.

しかし,移民送金が経済に果たす役割についてはさまざまな見方があります.通貨価値を強めてしまうのではないか? 消費や文化に依存症が起きる? 自国で低賃金労働を嫌う? 安定した貯蓄や投資を増やす? 住宅建設や教育,起業に役立つ?

David Pilling and Roel Landinginは,新橋のカラオケ・スナックで働くフィリピン人ホステスを紹介しています.学位を持っても,日本に出稼ぎしてスナックで働く方が所得は多いのです.家族・姉妹のために送金を続け,20歳も年上の日本人男性と結婚します.

日本で働くフィリピン人は35万人,世界中に家政婦,船員,工場労働者,看護婦,介護など,約200万人の出稼ぎ労働者を輸出しています.2006年の送金額は128億ドル(GNPの9.2%)です.

労働者を輸出しても,彼らの送金は国内の経済発展に必ずしも役立ちません.その多くは消費されるか,住宅に消えます.教育や投資をしても,フィリピン経済が不安定で,停滞しているために,その収益が望めないのです.彼らは自分たちが家族のために犠牲になってもよいと考えます.しかし,もし自国が発展していたら,もっと一緒に暮らしたかったでしょう.

Michael Saugaの論説は,ドイツがいかに技術者の国際的な獲得競争に遅れているか,を書いています.高度なIT技術者には大学卒業とともに世界中の国の企業から求人が舞い込むのです.移民を差別する国に行く必要などありません.ドイツはアメリカやカナダに技術者を奪われます.

最後の論説でRichard Lapperは,移民たちが集まって住むことを示し,コミュニティーとネットワークが移民の流れや送金を決める,と指摘します.特に,出身地への投資を促すファンドを運営することは注目されますが,それは移民たちが積極的に情報を求め,投資家として発言するからです.メキシコなど,出身国の政治やビジネスを変える可能性があります.


Aug. 24 (Bloomberg)

Four Ways for Central Banks to Avert Crisis

Michael R. Sesit

WP Friday, August 24, 2007

Why We Need a Housing Rescue

By William H. Gross

FT August 24 2007

Bank of China’s hit

(コメント) 中央銀行家たちは4つの挑戦に直面しています.1.協調介入できるか? 2.透明性はあるか? 3.間違った金融機関を救済しないか? 4.悪い副作用を残さないか?

アジア通貨危機とLTCM救済のときに比べて,難しいだろう,と予想します.債権債務は複雑になっており,アメリカの銀行システムとアメリカのインフレ抑制が関わっていますから.

William H. Grossは,LTCMではなくS&Lやクライスラーと比べ,バーナンキではなくブッシュ大統領に,ウォール街ではなく住宅所有者の救済決断を求めています.

危機については,金融政策やデリバティブよりも,情報の公開や金融監督が重要だ,ということを学ぶべきです.アメリカ人の70%が住宅を所有しており,住宅価格が10%下落すれば,その影響は大恐慌以後になかったほどの不況をもたらすでしょう.この穴を金融政策だけで埋めることはできません.

金融政策には限界があります.たとえ金利を23%下げても,モーゲージ市場が回復しないからです.なんにでも安心して投資したり,融資の基準を甘くすることはなくなりました.むしろ投機的な業者が現れるでしょうし,ドル不安を招き,アメリカの覇権を破壊する,とGrossは懸念します.

モラル・ハザードを心配するのは,アメリカで住宅市場についてバブルが起きたのは今回しかないことを考えるべきだ,と指摘します.それは,最近,奇妙な金融商品や金融監督の及ばぬ領域が拡大したからです.

中国銀行がアメリカのサブプライム・ローンで失敗した,という話が載っています.財務省証券から分散しよう,もっと高収益を,と考えても,証券市場のリスク評価は難しいわけです.

NYT August 26, 2007

A Psychology Lesson From the Markets

By ROBERT J. SHILLER

NYT August 26, 2007

The Fed Subprime Solution

By JAMES GRANT

FT August 26 2007

This is where Fannie and Freddie step in

By Lawrence Summers

FT August 26 2007

Bernanke’s dilemma

(コメント) 連銀が金利を下げても,12年か13年も世界に拡大し続けた投機心理が崩壊することを止めるわけにはいきません.世界経済の成長は続いている,という反対意見を,ROBERT J. SHILLERは一蹴します.中国とインドも,所詮,世界GDPのわずか7%に過ぎません.

危機の本質は変わっていない,というJAMES GRANTは,グリーンスパンとバーナンキの連銀が,金持ちのための社会主義を築いた,と批判します.かつて危機が来れば流動性は枯渇し,それを確保できた銀行だけが生き残ったのに,今ではパーティーを続けるばかりです.

しかしLawrence Summersは,政府による救済を主張します.この20年間,3年おきに深刻な金融危機が起きた,というのですから,もう十分だ,と言いたいところです.ブラック・マンデー.S&L.メキシコ.アジアとLTCM.ITバブル崩壊とエンロン.

金融危機のサイクルには共通性があります.1.自信過剰overconfidence,2.驚きsurprise,3.出口に殺到rush for the exits,そして破産と整理が続き,実体経済も不況に入ってしまいます.このとき,日本のように流動性不足を放置すれば,デフレと危機の悪循環に入ります.

今回の危機も,時間だけが解決策です.しかし,サマーズは三つの問題領域を指摘します.1.格付け会社の信用失墜,2.非金融機関への救済融資,3.住宅金融市場への公的介入,です.特に,政府系の住宅金融機関を彼は批判してきましたが,そういうものが必要であるとすれば,それが今である,と行動を促しています.住宅証券の価格は長期的な水準としては明らかに低すぎる,借り手は利子調整型の返済に苦しんでいる,と.

流動性を供給して危機を回避したのは良かったが,問題は次の,金利を下げるかどうか,である.FTはバーナンキのジレンマを説明します.つまり,金融緩和を期待させてしまうと,先回りをして危機を拡大するようになります.

The Observer Sunday August 26, 2007

Curb the greedy global financiers

Will Hutton

現代のもっとも不公平で破廉恥な行為が我々の目の前で起きているが,イギリスでこれに抗議する者はいない.1920年代以来最大の融資や売買が行われた世界金融において数十億ドルの救済融資が行われたのは一面にすぎない.

貧しい者の税金が富裕層の失敗を救済するために使われる.彼らはその取引で貪欲を満たす以上の儲けを得てきたのに.グローバリゼーションは,いまや明らかに,世界金融階級の利益に従って運営されており,西側政府もその奴隷だ.貯蓄家やクライアント,さらに多くの労働者には全く関心がない.

ゲームのルールは,ロンドンでもニューヨークでも香港でも,金融家の利益になるためだけに作られている.危機の最中に行われた責任を負わないナンセンス,すなわち,所得も雇用も資産もない借り手に,100%モーゲージの融資を行い,債務をパッケージにして世界中の銀行に売りつけ,取引には十分な手数料を得ていた.金融規制とは金融市場の効率のためにある,と言われていたのに.

今や,主にアメリカの債務者たちが,高金利と住宅価格低迷の時代に,そのモーゲージに支払う意思も能力もないことは明らかだ.こうした無価値の債務に何兆ドルも投資して保有している世界システムの結末がパニックになるのも当然だ.

この数日,金融市場にいくらか回復が見られ,正常に復帰すると期待する者もいる.しかし,正常とは何か? 何十億ドルも何兆ドルも融資を返せぬまま世界的な衝撃を与えて,このシステムが何もなかったように復帰することはありえない.危機の震源地になった銀行やその幹部たちは,破産し,解雇されるべきだ.債務を買って世界中の銀行に売りつけたヘッジ・ファンドは破産し,詳しい調査と規制に従うべきだ.

国際警察は,ニューヨーク,ロンドン,東京,北京,フランクフルト,パリで,信用格付け会社の幹部を逮捕することから始めなければならない.愚かな融資をしたその銀行から多くの報酬や特典を得て,彼らは債務が投資にふさわしいと評価したのだ.政府は関係者を告発すべきだ.そして彼らの貯えた富を民間と政府のバランスシートの回復に使うことだ.

ところが,西側の中央銀行や政府は彼らの破滅を減らすことに全力を挙げている.銀行やヘッジ・ファンドに際限ない公的資金を注ぐことが,「正常」に復帰する政府の目標である.その説明は明白だ.西側金融システムは破たんするには重要すぎる.信用はすべての経済システムの血液であり,もし信用が失われ,バランスシートが傷ついて供給システムが詰まれば,すべての者が苦しむから,と.全くその通りだが,われわれは少なくともその条件に注意するべきだ.資金を与え,潜在的な救済を行い,金融と社会との暗黙の契約を導くのだから.

信じられないけれど,ECBは来る者すべてに巨額の資金を与えた.何のペナルティーもない.アメリカ連銀も困窮する銀行を助けるために金利を下げた.それはまるでヨーロッパとアメリカが人殺しの大騒ぎに耽るギャングたちに,彼らの犯罪をひどくしないために恩赦を与える,と発表したようなものだ.

イングランド銀行だけは一線を画し,最後の貸し手に頼る者は借り手が苦しむような金利を支払うべきだ,と主張した.イングランド銀行はユーロ圏の外にあるから,ECBにその立場に続くよう主張できない.また,こうした問題では西側で最も臆病なイギリス政府がイングランド銀行の脚を引いた.

ドイツとフランスの政府も,アメリカの民主党員と同じく,根本的な問題を提起した.個人として莫大な利益を得るために反社会的な無謀なふるまいに耽るのを規制するなと金融界が主張するのは間違いだ.しかし,実際に事態が悪化すると,問題なく政府に救済融資を求める.

だからメルケル首相やサルコジ大統領はヘッジ・ファンドにより大きな透明性と規制を求めた.またブラッセルやワシントンは,格付け会社の幹部が何をしたのか,調査を開始した.しかしイギリス政府からは,国内も海外も,金融と社会との契約について再評価する,という示唆は示していない.それは禁じられた「反ビジネス的」姿勢であるから.

しかし西側の経済と社会は,投資銀行や投資信託,ヘッジ・ファンドの確実に取引を行い,潤沢な信用を得て,必要なときにはいつでも政府が救済してくれる,ということだけが存在理由で形成されているのではない.金融界は決して貧しくない.金融市場ではいかに瞬時に大金を得られるか,何人も例がある.

ゴードン・ブラウンが政府を率いているが,ビジネスについて保守的であり,野党はさらに保守的である.ここ数年,イギリスの資産を外国人に大安売りし,アメリカの金融界がボーナスを支給できるように債務を売りまくる助けとなった.だからイギリスのいくつかの金融機関が救済されるとしても,私は驚かない.

誰かが,どこかで,ホイッスルを吹くしかない.アメリカ人は資本主義を神聖化して,それに挑戦し,監視し,規制することを嫌う.資本主義を敬わないイギリスには,そんな文化がない.利己的で,不道徳な富豪たち以外の利益を代表する政党が必要だ.しかし,どこにもない.

Aug. 28 (Bloomberg)

Bernanke Opts for Tough Love and Targeted Cure

Caroline Baum

FT August 28 2007

Central banks should not rescue fools

By Martin Wolf

FT August 28 2007

Fine unscrupulous lenders

By Barack Obama

(コメント) バーナンキは金利を下げてグリーンスパン風の慈愛を示しました.富者のための社会主義,にCaroline Baumの論説は呼応します.連銀が金利を下げる根拠を三つ.

Martin Wolfは,中央銀行が救済融資を広げることに反対します.腐ったレモンの価値を保証しても仕方ないのです.最後の貸し手が登場するべき問題ではないからです.中央銀行は火遊びした連中を奨励してはなりません.

バラク・オバマ上院議員はサブプライム・ローン問題で発言しました.「現代の統合された金融市場を前提すれば,サブプライム融資業界の破たんは,それを封じ込めない限り,住宅と我が国経済を脅かす破壊的影響を及ぼすようなガンである.」 住宅金融の業界が巨額の献金とロビー活動でワシントンを汚染し,新しいモーゲージの販売を認めさせたことが,問題の発端である,と議会の姿勢も批判します.

こうした融資で利益を上げた業者や銀行を救済するのではなく,返済できなくなった貧しい借り手に猶予を与えることが望ましい.そこでオバマは,政府が基金を設けて人々の再融資もしくは売却を支援することを提案します.

Asia Times Online, Aug 29, 2007

Your move, Mr Bernanke

By Walter T Molano

Aug. 29 (Bloomberg)

Mrs. Watanabe's Loss on Carry Trade to Help U.S.

William Pesek

FT August 29 2007

Asian subprime

FT August 30 2007

Market insight: Greenspan’s error was the pace not the put

By John Calverley

(コメント) 連銀による市場の安定化を演出する議会はサル芝居だ.バーナンキが何でもできるわけではない.国際機関でもロビー活動によって業界の利益が守られ,バーゼル協定は世界金融システムに信用危機を波及させた,とWalter T Molanoは批判します.また,日銀が円高になるのを阻んだように,アジアはアメリカの不況を穴埋めする気はないようだ,と.

他方,日本の貯蓄はどうなるのか? あまりの低金利を嫌って海外へ投資された貯金は,サブプライム・ローン商品に塩漬けにされ,ドル安・円高の中で急速に価値を失ってしまうのではないか? 日本の貯蓄が日本で投資できないのは,経済改革の見通しが暗いのと,個人投資家たちの自信喪失において政府が投資するべき時に,財政再建で動けない,といった事情です.円高になる過程で,日本は景気が悪化し,外国投資家の日本株保有が増えるだけ,と日本政府は心配します.

中国も,日本も,韓国,シンガポールも,多くの銀行が資金をふんだんに持っていたために,サブプライムローンに投資してしまい,失敗しそうです.

何でも証券市場で価格が下がると「グリーンスパン・プット」(オプション)があるから,と投資家は期待するわけです.John Calverleyは,グリーンスパンがLTCM危機に流動性を供給して,金利を下げたことより,危機が過ぎてから金利を戻すのが遅すぎたことを批判します.


Aug. 24 (Bloomberg)

Japanese Recession Risk Leaves Goldman Wondering

William Pesek

FT August 24 2007

On Asia: Curious culture shows signs of change

The Japan Times: Monday, Aug. 27, 2007

Alliance can't hide its anti-China intent

By GWYNNE DYER

The Japan Times: Thursday, Aug. 30, 2007

Collective self-defense and collective security: what the differences mean for Japan

By CRAIG MARTIN

NYT August 30, 2007

An Investor Activism Uncommon in Japan

By MARTIN FACKLER

(コメント) 再び日本がその不況突入を恐れさせて世界の注目を集めるかもしれません.世界第二の経済規模を使って,破滅的な理由で有名になるのは,もうやめてほしいですが.ゴールドマンサックスの出した報告書は,``Is a Recession Likely?'' です.

日本の景気回復は,いつも,輸出や財政刺激策で始まった,と言われます.日銀が金利を引き上げれば,円高と財政赤字への抑制が強まり,どちらもなくなります.戦後最長の景気回復を続けている,というのが政府やエコノミストの見解ですが,@円安,A超低金利,B先進諸国中最悪の国債累積,を前提したものです.

日本では,資本主義よりも,外国人嫌いの方が資本市場を動かす,というのも,なんとも憂鬱ですが納得できます.外国の投資ファンドが,市場より大幅に高い価格で買収を持ちかけても,日本の投資家が拒む,なんてことになるのです.ブルドック・ソースの会長が,「価格は重要ではない」と答えたことに,FTは感動します!?

日本では,株主も従業員も一つのコミュニティーを共有します.しかし,そのことが経営陣への反対を難しくしている,という批判が内部からもあります.年金基金の行動も変わりつつある,と指摘します.

中国を除く,という点だけが明白な,日本とインドとの協力関係は,アメリカの発想を借りただけです.それはアジアにおける連戦を再現するものです.

CRAIG MARTINは,憲法9条について考えます.集団的自衛権collective self-defense は,いずれかの国が攻撃を受けた場合に,集団で反撃する権利です.他方,集団的安全保障collective securityは,国連安保理が認めて介入する場合のように,一方的な反撃を許しません.集団的安全保障の方が,安保理に承認を得るなら,広い地域の軍事行動を容認します.

日本政府は,北朝鮮の発射した弾道ミサイルがアメリカを狙ったものかどうかわからないときでも迎撃することができるように,集団的自衛権ではなく,集団的安全保障による軍事力行使を求めています.しかし,国連のPKOやPKFのあいまいさには,憲法9条の戦争放棄,軍事力を使用しない,という精神と合致しないでしょう.

MARTIN FACKLERは,再び,日本の年金基金が投資を変えることを示唆します.


IHT August 24, 2007

The pretend superpower

By William Pfaff

BG August 30, 2007

America's golden years?

By Mark L. Haas

IHT Thursday, August 30, 2007

Our twin worlds of Mars and Venus

By Paul Kennedy

(コメント) アメリカと中国の覇権について.「近代的な工業国が覇権を築くには,まず,技術開発の高度な自律性,さらにそれを利用する洗練された革新的産業,が必要である.その両方とも中国には欠けている.」 中国は,科学技術教育と人材を外部に頼り,実質成長率は10%ではなく45%であり,環境破壊がひどく,社会不安による政治的混乱が迫り,外国企業や資産価格の影響を受けやすくなり,傲慢不遜な毛沢東時代の官僚制が変わりなく支配している,と.

しかしまた,Mark L. Haasの論説を読めば,世界の覇権を決めるのは,老人と移民です.高齢化が中国も含めたすべての覇権(候補)国を圧倒します.アメリカが最も生き残りそうなのは,年金や医療の負担を抑えており,より多くの人々が高齢まで働き,しかも,移民を活発に受け入れて彼らが子供を産み育て,働き続けているからです.

「アメリカは火星人.ヨーロッパは金星人だ.」とかつてRobert Kaganは指摘しました.アメリカ人は戦争,殺戮,ヨーロッパ人は平和,性愛が大好きな,全く異なる種族だ,というわけです.Paul Kennedyはイタリアの田舎町で休暇を過ごし,イラク戦争のニュースを観るとき,その「超現実的な」感覚を実感した,と書きます.

しかし,アメリカにも強い戦争反対論があり,ヨーロッパも戦争の脅威を感じています.世界はアメリカとヨーロッパだけでなく,ロシアも中国も,さまざまな国が存在して,核兵器やテロ集団も交じって対抗します.軍事力も,外交も,ともに必要です.アメリカとヨーロッパが協力する大西洋システムが世界を指導することを何よりも重視すべきだ,と.


LAT August 24, 2007

The cold rush

FT August 26 2007

How west can win in central Asia

By Stefan Wagstyl

(コメント) アメリカが国連の推進した海洋法条約を受け入れていたら,これほどの奪い合いは起きなかった,かもしれません.アメリカが条約を批准せず,北極海は周辺諸国の奪い合いとなっています.ロシア,デンマーク,ノルウェー,カナダが,石油や地下資源,航行権や制空権,軍事拠点を狙って行動を起こしています.

The Guardian Tuesday August 28, 2007

Confronting Russia

Joschka Fischer

The Japan Times: Wednesday, Aug. 29, 2007

It's not the West that should worry Putin

By ANDREI PIONTKOVSKY

(コメント) “a new Russian assertiveness”・・・まるで,安倍首相が登場したときに雑誌の表題を飾った表現です.しかし,これはロシアです.

北極に資源を奪う旗を立て,西側防衛システムを非難し,アメリカのミサイル防衛網を拒み,西側寄りのグルジア政府を何度も威嚇し,グラムの米軍基地を偵察飛行し,コソボの最終的地位に関する国連決議を差し止め,エストニアにサイバー攻撃をかける.・・・これはassertivenessです.

ロシアは崩壊した中央の政治システムを再建中であり,民主主義を政府が管理してしまいました.しかし,ロシアが資源大国以上になるには,経済の近代化が必要です.EUは本腰を入れてロシアと交渉せよ,と.

他方,ANDREI PIONTKOVSKYは,ロシアの本当の脅威は中国であり,上海協力機構に依存して西側に対抗する,などと考えるより,ニクソンに習うべきだ.すなわち,プーチンは西側と和解し,今度は逆に,本当の脅威が中国であることを教える必要がある,と.


Fernand Braudel Center, 24 August 2007

RIP: Nonproliferation

Immanuel Wallerstein

(コメント) 多くの人が分かっているように,アメリカがインドと核兵器・エネルギーの情報を交換することは,核拡散防止や核兵器廃絶の目標を廃棄するものでした.それを非難するより,この機会にインドとの安全保障を模索した日本政府には,核廃絶を目指す世界の多くの人が不満を覚えたことでしょう.

NPTは最初から,インド,パキスタン,イスラエルが承認を拒みました.そのインドを,アメリカは核協力体制に入れたのです.NPTは正式に終わりました.


NYT August 25, 2007

Dollars for Sale

FT August 28 2007

Yen and risk

(コメント) もし極端なドル安につながれば,アメリカの金融危機は世界に輸出されたでしょう.しかしアジアの中央銀行がドル価値の安定化を引き受けました.いつものように.


The Guardian, August 26, 2007

Richesse oblige

Jeffrey Sachs

(コメント) 「1000人の赤ん坊が生まれても,裕福な国では5歳までに7人しか死なないが,最も貧しい国では155人が死ぬ.」 もし貧しい国の医療にまとまった投資をすれば,死亡する赤ん坊は大きく減少するはずだ,とSachsは主張します.

貧困は政府の行動で減らすことができます.


NYT August 27, 2007

Mexico Plutocracy Thrives on Robber-Baron Concessions

By EDUARDO PORTER

(コメント) メキシコは不平等の国です.そのことをよく知っているはずのEDUARDO PORTERも,フォーブズ誌が世界最大の富豪としてメキシコ人を挙げたのには仰天しました.Carlos Slim Helúが資産590億ドル(約6兆円)で,ビル・ゲイツを抜いたのです.ただし,スリムSlimの資産はメキシコのGDPの7%をわずかに切りますが,ビルゲイツの資産はアメリカのGDP0.5%です.

スリムはジョン・D・ロックフェラーよりも金持ちです.しかしまた,ロシアのオリガークやアメリカのエンロンがそうであるように,すべての富は盗まれたものです.ロックフェラーのような技術による盗みではなく,スリムは独占によって盗んでいます.サリナス大統領から国営電話会社を買い取り,その後,テレメックスがメキシコの携帯電話市場を独占します.競争相手が認められても,それを押さえつけてきました.

メキシコ国民は,その結果として,悪いサービスと高い価格を支払っています.こうした富豪たちは1990年代の民営化によって,他にも多く現れました.なぜアメリカはロックフェラーの帝国を解体したのに,メキシコにはそれを蔓延させたのか? 人々は不満を抱きます.しかも,アメリカは次第にメキシコの社会モデルに近付いている・・・


NYT August 27, 2007

A Socialist Plot

By PAUL KRUGMAN

(コメント) KRUGMANは,アメリカ人の子供たちが,教育と医療において,無料のサービスを受けるのが良い,と主張します.

共和党の大統領候補,ジュリアーニ前ニューヨーク市長は,それを「社会主義だ」と非難しました.貧しい家庭の子供たちが学校に行くのを財政的に助けることは,子供のいない中産階級の家庭から見たら,税金を奪われている,というわけです.ブッシュ大統領は,貧しい家庭の子供に保険が無くても,救急室で治療してもらえばよい,と答えたそうです.

KRUGMANは,アメリカ人の多くはすべての子供たちが十分な教育と医療を受けるべきだと考えている,と主張します.そして,十分な扱いを受けられない子どもたちの重要な問題を無視して,中産階級の税金を奪った詐欺的なケースに関心を向ける政治手法を批判します.


Asia Times Online, Aug 29, 2007

Robots replace trigger fingers in Iraq

By David Isenberg

(コメント) アメリカ政府は2006-12年にイラクで17億ドルを支出し,160の企業が参加するthe National Center for Defense Roboticsによる戦争のロボット化を推進しています.

たとえば,PackBot robotはリモコンの小型戦車みたいなもので,敵がいないか先行して記録します.またRoombaは真空掃除機のようなものです.それは最初,道路わきに仕掛けられた爆弾でアメリカ兵が多数傷ついたことによります.

Dragon Runner "throwbot"the Special Weapons Observation Remote Reconnaissance Direct Action System (SWORDS),・・・ これらは決して自立した行動を取りませんでした.しかし,誰を,どこで,いつ殺すか,自分で決めることのできる「ターミネーター」型のロボットも開発する,ということです.


WP Wednesday, August 29, 2007

The Economic Catch-22

By Robert J. Samuelson

(コメント) いつまでも成長し続ける経済とか,リスクのない高収益の投資とか,そういうものはないと分かっているはずだが,・・・それがあるのだ! と信じる人は出てきます.すると,それを利用して富を築くプロ集団も現れます.

救済融資を繰り返した連銀も,財務省証券を買い続けた中国政府も,モーゲージを理由に住宅を売る業者も,証券化して投資家に売りまくったウォール街も,その信用を評価した格付け会社も,みんな失敗したわけです.

しかし,企業スキャンダル,9・11,石油価格高騰,などの不利な条件をものともせずに成長し続けたアメリカ経済が,その後の非合理な楽観主義を広めただろう,とRobert J. Samuelsonは考えます.今後も.


The Guardian Thursday August 30, 2007

Shattered lives

Edith Montero

(コメント) ペルーの町,イカIca,そのスラム街を襲った地震とその犠牲者の話です.住居の90%が破壊され,500人以上が死亡し,1300人が負傷したと推定されます.しかし富裕層の住宅地には何の変化もない,と.

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The Economist August 18th 2007

Surviving the markets

Banks in trouble: The game is up

A liquidity squeeze: Bankers’ mistrust

Japanese foreign exchange: Not-yet-desperate housewives

Economics focus: What would Bagehot do?

The Arctic: Drawing lines in melting ice

Garments in Bangladesh: Knitting pretty

Asia’s skills shortage: Capturing talent

(コメント) 金融市場や貿易を自由化して,グローバリゼーションが繁栄を普及させるという話が疑わしくなるはずですが,どうもThe Economistの新しい編集者は頭が固いのではないか? まるでエコノミストだな・・・! と不満を感じるときがあります.

金融市場が新しい証券化の手法によって,重要な決済システムの核である銀行を脆弱にしてしまった,というのはよく分ります.どうするのか? という点で,今までだったら面白い話がいろいろ紹介されそうなのに,まったく経済学の開設ばかり並んでいるのは,・・・変じゃないか?

バジョットの話と,証券化したグローバル金融市場で中央銀行がマーケット.メーカーになるべきだ,というWillen Buiter and Anne Sibertの提案は,唯一,面白い話です.中央銀行総裁は,金融市場への介入に当たって,株の相場師や禿鷹資本家から,もっと人材をスカウトするべきなのでしょう.

あるいは,日本の平凡な家庭の貯蓄が,世界の投機家たちの傷をふさぐために大盤振る舞いされ続けるのです.