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IPEの風 9/3/2007

破たんしかかった金融機関を救済する「富者の社会主義」と,貧しい家庭の子供たちに無料の学校と医療を提供する「貧者の社会主義」が,世界資本主義の発達と並行して広まります.

The Economistの前編集長であるビル・エモットの論説を見つけました(「世界を読む 矛盾している二つの悪夢」朝日新聞,114日).エモットが挙げたのは,世界金融危機と雇用・所得不安,です.

「矛盾・・・?」 と考えて,二つの悪夢が矛盾している,という意味を考えました.もし金融市場の統合化がすすむなら,金融危機が波及する危険はあるけれど,世界の雇用や所得を増やし,投資を刺激するでしょう.あるいは,もしグローバリゼーションが富裕国の低所得層・未熟練労働者から雇用や所得を奪うなら,国内政治を動かして保護主義や資本規制,移民排斥を行うでしょう.

しかし,東アジアの金融危機が安定効果を示した,という理解は納得いかないです.それは,アジアがグローバリゼーションを離脱せず,アメリカが不況を免れたことを指すようです.他方,現在,アメリカで起きている低所得者や未熟練労働者の不満,中国製品やヒスパニック系住民,ガソリン価格高騰・イラク戦争・アラブ世界への不満は,アメリカ政治をグローバリゼーションから離反させる点で,特に重視しています.それはそうでしょうが,不満です.

二つの悪夢は,「開放された資本市場の恩恵を精力的に推進せよ!」という話で終わります.「安定効果」があるから? どうも怪しい結末です.自由貿易や移民が貧困層や未熟練労働者の仕事を奪うのではなく,増やすものである,ということを示すように努力し,仕組みを設け,協力を組織して,議論を重ねなさい,というのであれば,賛成です.

同じ日に,染谷芳秀氏の「近隣外交 保守政治のゆがみを正せ」も興味深く読みました.私は,安倍首相や麻生外相の歴史認識,安全保障論,戦後レジーム再編論,が日本の国内改革や外交戦略を後退させたと思います.それだけでなく,この論説を読みながら,韓国に金大中政権が誕生した時こそ,日本は東アジアの大きな変化を韓国と協力して担えたのかもしれない,と思いました.しかしそのとき,日本は金融危機により政治機能が低下し,韓国もアジア通貨危機の処理に忙殺されたのです.

Reviewをまとめながら,つまるところ,二つの怪物が私たちの将来を示すのかな,と思いました.中国の環境破壊,アメリカのドル.この二つです.

中国が環境破壊をさらに拡大して,住民たちが抗議活動を強め,あるいは都市に流入して不平等な所得分配に政治的関心を向けるなら,オリンピックでいくつ金メダルを取っても,北京の政治崩壊が避けられないかもしれません.それは中国経済を不況にして,貿易や移民により混乱が波及するでしょう.国際関係も一気に悪化するのではないか,と心配します.

アメリカの金融不安がさらに高じて,ドル建ての金融資産を保有することに不安を感じれば,ドルが急激に減価するとともに,金利が高騰し,あるいは資本規制を導入するぞ,と脅して世界中の金融緩和と景気刺激策を強制するかもしれません.それは世界経済をデフレやインフレの激動にさらし,保護主義と移民規制も一気に蔓延するのではないか,と心配します.

しかし,もちろん,そんなことは起きないと思います.政府は,厳密にではなくても大筋で,こうした危険があることをよく知っています.中央銀行はそのためにあるわけです.さまざまな国際機関が監視や諮問,勧告を行い,中国であれ,ロシアであれ,国内政治がそれを使って改革に取り組むことができます.

怪物たちと対峙するために,日本政府は近隣諸国に呼びかけ,協力して国際的なリーダーシップを示すべきです.第2次安倍内閣の町村外務大臣,高村防衛大臣,桝添厚生労働大臣には,政策転換を期待します.安倍総理も彼らから学ぶことがあるでしょう.

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