IPEの果樹園2007

今週のReview

8/6-8/11

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

次のIMF, イラク1, 安倍自民党の大敗, 国家社会, 民主主義理想と安全保障, 民主主義と移民, 石油食糧円安

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Project Syndicate, 27 July 2007

Does the UN Still Matter?

Joseph S. Nye

(コメント) 国際秩序を築くのはだれか? 安保理の議長を務める国連事務総長か? あるいは,ローマ法王か? むしろ,ヘッジファンドのマネージャーたちではないか?

192の加盟国によって,国際安全保障からエイズや鳥インフルエンザの予防にまで権限を与えられた国連ですが,その予算はわずか200億ドルほどです.それは良い年にウォール街で支払われるボーナスに過ぎません.ニューヨークの本部はその10%ほどを使い,アメリカのいくつかの大学はもっと大きな予算を立てています.国連は独自の軍隊を持たず,加盟国が合意しなければ何もできません.それゆえ,国際政治における独自のアクターではなく,実際は,むしろ主要国の道具なのです.

国連事務総長は,「世俗の法皇」にすぎないのか? Nyeは,国連が完璧でも強力でもないことを認めたうえで,それでも国連の仕組みを各国が必要とすること,合法的な権力としてそれを生かす方がよい,と主張しています.たとえば,国連の平和維持活動も,国連創設時にはなかった制度です.1956年のスエズ危機に際して,ダグ・ハマーショルド国連事務総長とカナダ外相レスター・ピアソンが創設しました.その後,ボスニア,ルワンダ,東チモールなどで,改革を経ながら,ジェノサイドの防止のため,繰り返し要請されています.


FT July 27 2007

Bridging poverty gap should be IMF priority

By Chrystia Freeland and Edward Luce in Washington

(コメント) 次のIMF専務理事になると思われるDominique Strauss Kahn(DSK)は,豊かな国と貧しい国との格差を減らしていくことをIMFの主要な目標にしたい,と述べました.WTOや世銀もそうですが,国際機関のトップは必ず貧困や開発,環境に言及して,その権限の正当性を示そうとします.

同時に,DSKはIMFの主要諸国を訪問して,自分への支持を積極的に固めています.メキシコ,アルゼンチン,南アフリカ,ブラジル,サウジアラビア,エジプト,中国,韓国,日本,インド,ロシアを訪問する予定です.ヨーロッパがIMFのトップを指名できる,という特権を廃し,オープンな選考方式に変える,という流れを肯定するためです.フランス以外から候補が出てもよいが,ヨーロッパはもちろん候補を出せる,と主張します.

もちろん,アメリカのポールソン財務長官や,世銀のゼーリック新総裁とも会談しました.そして,グローバリゼーションの挑戦を意識し,「多角主義」を強調します.


BG July 28, 2007

The silence lifts on Poland's Jews

By Joseph Polak

(コメント) ポーランドの民族主義と保守主義を掲げる首相は,ドイツの侵略を厳しく非難してEUサミットを混乱させました.しかし,ポーランドもユダヤ人を虐殺したのを忘れていないか,とユダヤ人は考えます.

ユダヤ人はポーランドに多くの貢献を行い,また,あまりにも多くが殺されてきました.かつてのワルシャワ・ゲットーのあった土地に,ポーランド・ユダヤ人歴史記念館Museum of the History of Polish Jewsが建設されています.2011年に開館する予定です.

もちろん,私は日本のことを考えています.


The Guardian Saturday July 28, 2007

Bush now must lay out the least worst options for Iraq

Martin Kettle

(コメント) イラク戦争が始まる前,イギリス政府はそれを1940年のヒトラーに対する戦争と同じものにみなしていました.アメリカの開戦反対派は,1975年のサイゴン陥落を思い出していました.それはチャーチルのようにブレアを迎えて,ブッシュによる戦争の選択として始まり,1975年の再現に向かっています.

2007年になっても,議論は2003年のままです.アメリカの国益や国際秩序のために戦争を続けるべきか,むしろ即時撤退することが正しいのか? 政府は現状維持を主張しますが,もはや中東の民主化を主張していません.もし完全に勝利したいのであれば,今の3倍の兵士を送る必要がある,というWesley Clarkの意見もあります.

他方,即時撤退は決して容易ではありません.1900台の重戦車,4300の武器,700機以上のヘリコプターなど輸送機,また,軍人のための住宅,病院,プール,発電所,・・・270万本のキャンディーバー,160万個のソフトドリンク缶,があるからです.

実際のイラク政策は,もっと可能な,効果的な選択肢に向かうでしょう.すなわち,イラク国境をイラク自身が維持できるように訓練・支援し,アメリカ軍は,アメリカによるイラク再建の安定的な支持者である,クルド人の支配地区に撤退することです.

Saudis Going South on Iraq NYT July 29, 2007

MICHAEL E. O辿ANLON and KENNETH M. POLLACK A War We Just Might Win NYT July 30, 2007

(コメント) そして,中東地域全体については,アメリカの利益と一致する政府に大量の武器を供給し,地域のバランス・オブ・パワーを維持することです.例えば,サウジ王家です.アメリカもサウジアラビアも,石油を支配し,イランのシーア派勢力拡大を恐れ,テロによる攻撃を防ぎたい,と考えているからです.

そして,その代償として,サウジ王家による非民主的な支配を強く支持するのでしょうか? その他の独裁国家との提携を進んで受け入れるわけです.また,イラクのシーア派政府はどうなるのか? マリキ首相は,バース党やスンニー派の復活や油田の利益分割に同意しなければなりません.ブッシュ政権の現状維持,そして,部分的な撤退案は,イランやサウジを含めて,周辺諸国の協力を必要としています.

ブルッキングズ研究所the Brookings Institutionの二人は,イラク政策が好転しつつあることを強調します.特に,アメリカ軍の士気が高く,イラク民衆の生活を守るために協力して戦っている,と.そして,各地の腐敗した支配者を追放し,アメリカに協力的な地方権力者が増えている.イラクの舞台は,宗派や部族を超えて形成されている.イラク民衆にはアル・カイダやマフディー軍団のシャリア支配に対する反発がある,など.

John Gray The death of this crackpot creed is nothing to mourn The Guardian Tuesday July 31, 2007

John Palmer End of empire chaos The Guardian Tuesday July 31, 2007

Jim Lobe US arms for Arab authoritarians - again Asia Times Online, Aug 1, 2007

Derrick Jackson The $63 billion sham BG August 1, 2007

(コメント) John Grayは,ネオ・コンザーバティブだけでなく,その後の事態を引き継ぐ介入主義的なリベラルも批判します.どちらも西洋型の政府モデルを他の世界に当てはめる失敗である,というわけです.それは,帝国崩壊に対するノスタルジアと伝統的な地政学にまじりあった,妄想です.

アメリカの中東政策は誰が決めているのか? 今回の天文学的な軍事援助を,サウジアラビアやエジプト,湾岸諸国に与える決定は誰がしたのか?  John Palmerは,その論理を疑います.なぜなら,「民主主義」はどこに行ったのか? 地政学的な均衡に後退するのを誰が指示したのか? 何の説明もないからです.それでもゴードン・ブラウンはイギリス首相として「テロとの戦い」に加担するのか?

ぜい弱な基盤の政府に巨額の軍事援助を行うことで,本当に安全や秩序を買えるのか? このような軍事援助や武器取引は政府を腐敗させ,反政府勢力に流れ,あるいは独裁体制が転覆されて反米勢力が得たのはなかったか?


The Japan Times: Saturday, July 28, 2007

Clipping the wings of the soaring euro

By ROMAN FRYDMAN and MICHAEL D. GOLDBERG

FT July 29 2007

France’s president spins his plates

By John Thornhill

FT August 2 2007

The case for a top-down approach

By Samuel Brittan

(コメント) フランスのサルコジ新大統領はユーロ安政策を望んでいます.今のユーロの水準は間違っている,と考え,ECBの政策に反対するのです.確かに変動為替レートの動きは財の価格によって貿易収支の均衡をもたらさず,「間違った」水準を示します.しかし,それでも為替レートを一定の水準に誘導し,固定する政策を主要国政府は取りませんでした.均衡値に対する大きな振幅のモデレーションが支持されるだけです.

ミッテランがドゴールの作った第5共和制の制度を作り変えたように,フランスの制度はたった一人の個人に大きく依存しています.第5共和制は法を無視し,議会と対立するクーデタの連続であった,とミッテランはドゴールを批判しました.サルコジも同様に大統領に権力を集中させ,フランスの制度,あるいはEUを作り変えようとします.毎日,ニュースはサルコジ(とその妻)の派手な行動を伝えます.

そのポピュリスト的で積極果敢な行動はまた,彼個人の失敗を増幅します.ユーロに関する非難がそれです.彼の積極的な介入姿勢に期待が集まるけれど,同時に,ユーロの将来やECBの信用に不安が生じます.トリシェECB総裁が,条約,義務,手続き,制度が重要だ,というのは,ミッテランと重なります.

Brittanサルコジとは逆に,金融政策をBISに委ねることを勧めます.なぜならグローバリゼーションは金融政策の効果を貿易だけでなく,移民や安価な輸入品,そして資本移動によって「漏らす」からです.一国の金融政策決定は,ますますこうした国際的要因に依存しています.金融政策の意思決定は政府から隔離され,ますます集中するほうが良いでしょう.


WP Saturday, July 28, 2007

Two Votes Over Tokyo

By Christopher Griffin

FT July 29 2007

Abe vows to stay on despite election defeat

By David Pilling in Tokyo

FT July 30 2007

Japan faces political gridlock

By David Pilling

The Japan Times: Thursday, Aug. 2, 2007

U.S. House urges clear apology

(コメント) Griffinは,安倍首相の不人気と参院選挙の自民党敗北を予想しています.同じ時期に,アメリカ議会は日本政府に対する「従軍慰安婦への責任と謝罪」を求める決議を行います.さて,この二つは日米の同盟関係を揺るがすものになるか,と考えるわけです.

たとえ選挙で民主党が勝っても,日米関係を重視することに変わりありません.このあたりが,日本に二大政党の時代を期待するアメリカの本音でしょう.とはいえ,安倍政権ほど積極的にイラクやアフガニスタンの戦争を支援すると明言できる政府は,他の勢力に期待できません.

他方,アメリカ議会の決議は政治的なタイミングとしてよくないわけです.アメリカの政治家は,日本がアジア諸国の人権を無視して侵略戦争を行ったことに対して,戦後処理を十分に実行していない,と考えているようです.そして,そのことが日本政府の「拉致問題」を最優先する外交姿勢や,中国を含めたアジアの経済協力に障害となっています.つまり,アメリカ政府は同盟国としての日本に,もっと周辺地域に対する責任を果たし,協調を担えるような外交を展開してほしい,日本がアジアで孤立していることが,アメリカの今後の外交政策を制約する,と考えていると思います.

「歴史は外交に影響する.日本がアジアで生産的な役割を果たそうとするなら,歴史を正すことが必要な一歩である.朝鮮半島から東南アジアまで,歴史的な論争を解決できないことが日本に制約をもたらし,中国などが歴史を利用して日本政府への反対を地域的な組織するのを許している.」

Pillingは,主要な政治家の発言を紹介し,赤城農林大臣の絆創膏だらけの顔が選挙のイメージだった,と指摘します.彼らの答えは,「何も問題ない」.

選挙に大敗した安倍首相が語った言葉は,ほとんど超現実主義絵画でした.「私には改革を進めるという責任がある.」「私の推進した政策は間違っていない.国民は理解してくれていると思う.」・・・ こんなことを言うのは,「問題ない」? 一体,何を見ているのか? むしろ自民党の地方支部が憤慨しています.

Gerry Curtisは,三つの問題を指摘します.1.なぜ安倍政権はこれほど嫌われたか? 2.中長期の影響は? 3.政策に対する影響は?

小泉人気を引き継ぐことは誰にとっても難しかったでしょう.また,構造改革への情熱も失われました.加藤紘一が,小泉改革の負の遺産が現れた,と解説しました.地方財政の悪化や労働者派遣の実態,金融や株式市場のてこ入れは,今の国民の不安や不満を強めた政策です.小泉改革こそが自民党の政治基盤を破壊したわけです.安倍首相は,人々の苦しみに深い同情や共感を示せなかった,と.

カーティスも,小泉人気は改革や政策によるのではなく,小泉首相のスタイルを国民が好んだからだ,と考えます.それゆえ,彼が辞任すれば改革の痛みだけが残ったのです.他方,こんなときに,安倍首相は戦後政治の保守的転換を目指し,国民生活を改善する努力を無視しました.「世界のどこに,自分の国で<体制転換>を主張する首相など居るものか!」と呆れます.

しかし,安倍が首相を継続すると宣言すれば,それに反対することは難しい,と記事は認めます.民主党は衆院の解散を求めますがそれを強制する力はなく,今の衆議院では首班指名に負けるでしょう.むしろ自民党の中で,安倍降しの声が起きるのを待つだけです.

経済情勢や,個々の政策に対する今後の民主党の対応が,次の焦点になります.

July 30 (Bloomberg)

Investors Are Big Losers as Japan's Abe Stays On

William Pesek

FT July 30 2007

Japanese elections

LAT July 31, 2007

Abe: a Japanese Bush?

(コメント) 森元首相は安倍首相の経験不足を批判したようですが,彼自身が褒められた首相ではなかった,とPesekは指摘します.アメリカの潜水艦と漁船が衝突して,生徒9名と教師が死亡した事故の時,森首相はゴルフを中断しませんでした.また,女性が大学で学ぶようになって子供を産まなくなったと暴言を吐き,戦前の日本のことを天皇の支配する美しい国だったと賞賛しました.・・・

安倍の失敗は,規制緩和や累積国債,超低金利による金融再生や円安を引き継いで改革を実行することより,憲法改正や若者への愛国心教育を自分の新しい重要政策にしたことです.小泉の改革は,まだその多くが実現しておらず,その後の政権に委ねられただけです.安倍首相の不人気や自民党政権の行方が不透明になれば,日本株が売られてしまいます.小泉が残した中国や韓国との摩擦も,安倍には解消できません.

いまさら安倍が経済を重視すると強調しても,改革のための政治的支持を得られないでしょう.ただし,衆議院における小泉の遺産をまとめるなら,まだ時間はある? それに失敗すれば,選挙は安倍の敗北だけでなく,投資家や消費者の敗北になります.

また,FTは選挙結果を安倍・自民党政権への不信任であった,と考えます.他方,ポピュリスト的な民主党の政策では財政再建に失敗する,と警戒しています.安倍首相が内閣を改造し,経済再建に取り組む姿勢を市場に評価されないようなら,世界的に広まる金融不安が犠牲となる国を探している中に警報ベルを付けて飛び込む結果となるでしょう.

LATは書きます.「日本の有権者は変化を望んでいる.しかし首相は聞いていない.」

ブッシュと安倍が再会したら,きっと二人は互いに同情するだろう.安倍はブッシュと同じ「傲慢」という評判を得ており,選挙に負けても「自分の政策は間違っていない」と主張する.年金問題も,中国や韓国との関係改善も,安倍は失敗した.つまり,辞任するべきだ.

FT July 31 2007

Japan needs bipartisan solutions

By Hitoshi Tanaka

NYT August 1, 2007

Mr. Abe on the Ropes

The Japan Times: Thursday, Aug. 2, 2007

What the Japanese election really means

By TOM PLATE

(コメント) 日本は,特に外交政策において,超党派の協力を実現するべきだ,という意見がFTに載っています.しかし問題は,その内容でしょう.アジア政策において重要な転換を図るには,政策論争を格段に深めなければなりません.安倍や麻生では無理だと思います.

NYTは,安倍が方針転換をするしかない,と書きます.軍人的なナショナリズムの復活ではなく,もっと有能でクリーンな政府を作ることに集中するべきだ.平和憲法を修正するより,近隣諸国との友好関係を築く方が重要である,と.日本が国際関係も含めて政策転換を図れなかったのは,事実上の一党独裁制度に陥ったからだ,とNYTは考えます.だから,民主党の勝利を歓迎しています.その期待通りになるかどうか・・・?

「国は停止した.人身は割れている.株価は下落し,指導者は信用されていない.しかし,まだ続けるという.もしこれがアメリカの今日の政治状況を示すとしたら,どうだろうか? しかしこれはまた,世界第二の経済規模を持つ,アメリカの最重要な同盟諸国の一つ,日本の政治状況を表している.」

PLATEの論説は,安倍政治の拙劣さを猛烈に批判しています.結局,安倍の描く未来の美しい国とは,ホンダやトヨタで世界を制覇した技術を使って,再軍備や核武装に励む国なのか? 安倍は憲法を改正して戦争できる国にしたいと主張し,その防衛大臣は原爆投下に理解を示した.二人とも,その結果,日本の有権者によって拒まれたことを忘れないように.


NYT July 29, 2007

The Under-Taxed Kings of Private Equity

By ALAN S. BLINDER

(コメント) BLINDERは,クロイソス王にも例えられる巨万の富を得ながら,われわれよりも低い税率しか負担しない者がいるのはなぜか? と問います.資本収益を優遇する理由は,投資を促す,というものでした.しかし,これほどの所得格差があるときに富者を優遇しても,不生産的な投資を助長するだけでしょう.


NYT July 29, 2007

China Moves to Refurbish a Damaged Global Image

By DAVID BARBOZA

(コメント) かつての「日米構造協議」がどれほど有効であったか,今も否定的な評価が強いように思います.今回,中国の輸出に対する安全・衛生基準の監視強化を焦点とした交渉は,中国政府自身のイメージ回復を期した迅速で断固とした介入により,重大な転機となるかもしれません.

中国がアメリカの安全基準や検査を批判し,保護主義を非難し,報復的な安全基準や貿易管理を主張する場面もありました.しかし,米中経済サミットでは前向きに対話を続けるでしょう.直接投資と外国市場に国内の成長や雇用を大きく依存している中国政府の対応は,貿易が友好的な国際関係を育てるという考え方を支持する例かもしれません.


The Observer Sunday July 29, 2007

Monarchy is the key to our liberty

John Gray

(コメント) アメリカが帝国解体後の世界に自分勝手な理想的秩序を押し付けたのは,これが初めてではありません.ブッシュはウィルソンの理想主義・国際主義と全く異なりますが,Grayにとっては,ともに,いい加減な理想で世界を変えようとした同類です.ウィルソンが掲げた民族自決の原理など,今であればタリバンの主張ではないか,と.

そもそもイラクという国家などないのです.それはオスマン帝国の解体とイギリスによる植民地政策が,第一次世界大戦後に作り出した,人工的な支配体制です.自由主義的な理解によれば,帝国や君主制などは,時代錯誤の,無意味な体制でしょう.しかし,現在の秩序の多くも,事実上,これらによってできています.イラクは,植民地支配の残滓でしかなく,それが民主的であったことなどありません.アメリカ政府は理解していなかったとしても,こうしたイラクを「民主化する」とは,平和的でも,統一を維持することでもなかったのだ,と指摘します.

国民国家建設はいつも流血の事業でした.アメリカは南北戦争を行い,フランスはフランス革命を行いました.それは今,中国がチベットを弾圧することに重なります.それは個人の自由や世界市民主義と全く異なるものを意味しています.逆に,多民族が平和的に暮らす国では,現代でも王制が維持されています.帝国の遺制を除けば,複数国家で民主的な制度を成功させた国はありません.

王制によって,私たち(イギリス・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド)は血統や土地・伝統への執着,その他,アイデンティティー政治の悪循環に陥ることを回避しています.

FT August 1 2007

Remember Thatcher’s wisdom

By Jamie Whyte

(コメント) 他方,サッチャーは「社会などというものはない」と断言しました.1987年です.

“They’re casting their problem on society. And, you know, there is no such thing as society. There are individual men and women, and there are families. And no government can do anything except through people...”

ところが今では,保守党のキャメロン党首も含めて,サッチャーの主張を否定し,社会を重視するという合意が成立しています.Whyteはそれを批判します.もし誰かが損失をこうむって,それを社会のせいにし,補償してやるなら,その負担はだれかが担うしかない.「社会なんてものはない」のです.

またそのような所得移転は,労働意欲を妨げたり,国内投資を妨げたりする点で,左翼内部でも意見が分かれています.それは富を増やすわけではありません.

「左派にとっての社会とは,キリスト教徒にとって神のようなものである.それが存在するというだけで,契約も,論争も,法律もなく,道徳的な義務が生じた.社会の存在を否定する者は,単に,自分たちの責任を逃げている.この世俗の時代においても,それは深刻な政治的罪である.」

ただし,キャメロンが社会を尊重するのは,その上に国家を復権させるためです.


IHT Sunday, July 29, 2007

The battle on the home front

By Charles A. Kupchan and Peter L. Trubowitz

BG July 31, 2007

A new vision for America's security

By Tom Ridge and Barry McCaffrey

Foreign Affairs, 1 August 2007

Grand Strategy for a Divided America

Charles A. Kupchan and Peter L. Trubowitz

(コメント) Kupchan and TrubowitzのIHT論説は,イラク戦争をめぐってアメリカの外交政策が分裂してしまい,それがイラクの混乱に拍車をかけている,と批判しています.アメリカの外交と影響力を復活させるには,超党派的な解決が求められます.政治的妥協の勧めです.

その取引の条件としては,1.軍事力の行使と外交をともに重視する.即時撤退は行わない.しかし,軍事力より外交を重視する.2.イラク戦争をめぐる党派争いを止める.ホワイト・ハウスの責任追及に時間的な余裕を与える.グァンタナモ監獄を即時閉鎖する.3.ホワイト・ハウスと協力してイラク政策を進める超党派の委員会を設ける.閣僚が毎週,委員会に出席する.

BGの論説は主張します.「911以来,国民は軍事力だけで国家の安全を維持できないことを学んだ.アメリカが直面する世界的規模の挑戦は今も強力で,増大し続けている.・・・次の大統領にとって,真に国民の安全保障を得るとは,軍事的なものに重点を置くのではなく,外交,経済発展,国際関係や同盟の性質・範囲に関する挑戦を意味する.大統領が成功するとしたら,それは人間性,繁栄,自由といった共通の世界的目標に向けた支持を高揚させる場合であろう.」

Kupchan and TrubowitzForeign Affairs論説は,アメリカの国際主義が国内政治において支持されるレベルに後退することを主張しているようです.


FT July 29 2007

Funds that shake capitalist logic

By Lawrence Summers

(コメント) 1兆ドルの半分に達するほど,発展途上諸国から工業化された諸国に向けて資本移動が起きていることは,現代の国際金融システムの矛盾です.それと並行して政府投資ファンドSWF(sovereign wealth funds)が増えています.中国国民にとって,これほどの貯蓄が必要か?  産油諸国やロシアの外貨準備が何に使われるのか? また,ますます巨額の政府投資ファンドが運用されることは,国際金融システムにどのような影響をもたらすか?

国有部門や国営企業が縮小されてきた世界資本主義の歴史は,SWFsの拡大でその傾向を逆転させるかもしれません.外国政府の資本によって買収された企業に自国政府から補助金が支払われるのを国民は支持するか? 外国資本に買収された主要銀行を通じて金融政策が作用し,また金融監督や最後の貸し手を演じることにより,中央銀行の行動はどんな影響を受けるか?

政府は,他の経済主体と全く異なった行動原理を持つ,とSummersは警戒します.

The Guardian Monday July 30, 2007

Financial markets: The risks of rocket science

FT July 30 2007

The dangers of the liquidity boom

By Henry Kaufman

(コメント) ロケット・サイエンティストたちの新しいおもちゃが,かつて多くのヘッジファンドやLTCMがやったように,巨額の資本を調達可能にして投資しました.それが破たんすれば,今度も,救済されるでしょうか? イラク戦争以来,最悪の5日間だった,と論説は書きます.先週,世界の株式市場で約1兆ドルが消えたのです.さまざまな新しい証券を銀行は貨幣と同じのように保有し,株価の下落でそれがゴミになったとき,金融システムに衝撃が走りました.

「音楽が止まれば,・・・ダンスは終わる.」 カウフマンは書きます.金融の自由化は流動性の概念を拡大しました.中央銀行だけでなく,市場それ自体がある種の流動性を自分が増やし始めたのです.少なくとも,市場が平穏な時は.金融技術の革新で,非流動的な家屋などの資産も,人々はまるで流動資産であるかのように認識し始めました.投資家たちは瞬時にして信用を利用できるので,現金の重要性を忘れてしまいました.

証券化の進展とさまざまな市場の連動性は,何がファンダメンタルズか,という問いを無視させるように働きました.流動性やリスクはモデルの中にだけ存在し,まるで科学者が既知の実験を繰り返すような具合に,安全な処理が可能でした.しかし,中央銀行が流動性の供給を減らすとき,投資家たちが感じていた「快適さ」は消滅するでしょう.


IHT Monday, July 30, 2007

Plugging the democracy gap

By Anne-Marie Slaughter

(コメント) 日本政府がにわかに主張するのとは違って,アメリカ(とフランス?)こそ自由と民主主義を世界に広めることを外交の基本と主張してきました.しかし,イラク戦争の経過に失望したアメリカ国民が,その態度を変えたことも確かです.新しい多数派は,アメリカの外交に複雑な内容を与えます.

アメリカはその安全を民主的な同盟諸国と協力して維持するでしょう.しかし,自由や民主主義は支持されるけれど,それを促進することは放棄します.それは人々が浴していなければ,外から与えることはできないからです.移植することは考えられません.また,たとえ平和をもたらして選挙を実施しても,その結果はしばしば反米的な政府を成立させます.

民主主義は手段であって,個人の政治的自由が目的である,とSlaughterは書きます.あるいは,アメリカの国益と両立するような開放型の国際システムや国際秩序への支持,親米的な政権の増大,ということです.民主主義の促進は,長期的に一致するけれど,それには複雑な支援策やメカニズムを理解しなければなりません.

「新しい戦略は,自由で民主的な体制,市民たちに対する責任を果たす制度を持った政府を支援する.民主的な手続きを守り,国際的に認められた反対派の権利や少数派の権利,すべての個人の権利,独立した司法と正直な政府を支持するなら,いかなる宗教,いかなるイデオロギーの党派でも,支援するだろう.その戦略は,また,自由で民主的な世界がアメリカの安全を保障すると主張するが,その理由はそうした諸国の政府がアメリカを好み,アメリカに同意するからではない.ヨーロッパ,ラテンアメリカ,アジアの自由民主主義諸国は,アメリカの政策に反対することも多い.そうした諸国の政府や制度を決める手続きが彼らを正直にし,過激派や暴力,不正義に対する最良の解毒剤であるからだ.」

アメリカ政府は,自国の利益や安全のためなら,ジンバブエのムガベやパキスタンのムシャラフに対して抵抗する人々を見捨てるのか? 国益や安全と民主主義を,そのように単純な選択に押し込んではいけない,と.

The Japan Times: Monday, July 30, 2007

Ending the nuclear threat

By BRAD GLOSSERMAN

LAT July 30, 2007

The mirage of nuclear power

By Paul Josephson

(コメント) 民主主義で安全が守れるか? 特に,敵対する国が核武装し始めているときに? アメリカはイランに,日本は北朝鮮に,その対応として軍事的な均衡回復を目指します.アメリカは,核保有国により提供された核兵器をテロリストがアメリカ攻撃に利用することを真剣に恐れています.

国連は,2004年の安保理決議1540において,大量破壊兵器(WMD)の拡散や移動を禁止しました.1年後には国際条約として115カ国が調印しています.アメリカが国境を無視してテロリストやWMDを捜査し,容疑者や施設を拘束し,破壊するよりも,国連の査察を受けることの方が合意しやすいでしょう.

しかし,その実現を妨げているのは,各国の管理体制の違い,その能力の不足だけでなく,各国の不満足な協力姿勢です.原因は三つある,とGLOSSERMANは考えます.1.それは自国にとっての問題ではない.自国は標的にならない.2.経済やビジネスとの関連.そのコストと利益を計算して,自国が協力するのは損だと考える.3.核不拡散(NPT)体制は核保有国の利益にしかならない.彼らは核を廃絶する気がない.核(WMD)の独占体制だ.

もし国際協調を組織する制度に道徳的な説得力を持たすのであれば,こうした不満に正しく応えなければなりません.アメリカの旧政権にかかわった安全保障の幹部たちが,核兵器の完全廃棄を要求した声明は,アメリカ政治の方針転換を明確にするものです.

Jo Johnson and Edward Luce Delhi nuclear deal signals US shift FT August 2 2007

Making Iran pay the nuclear price FT August 2 2007

Nayan Chanda The US and India: Nuclear Bonding YaleGlobal, 2 August 2007

(コメント) こうした事情を考えると,アメリカが世界最大の民主主義国家であるインドと,その核技術・核武装に協力し,経済発展にも支援するのがうなずけます.他方,テロリストとつながるイランの核武装は断じて許せないわけです.NPTは,民主主義国家の核武装によって,テロリストを支援する国家と対抗する制度に変わったのでしょうか?

中国とインドの台頭は避けられず,それはパクス・ブリタニカによる国際秩序をドイツとアメリカの台頭が崩壊させたように,パクス・アメリカーナを脅かしている,とアメリカの戦略家たちも考え始めています.彼らを組み込んだ新しい国際秩序を指導することで,アメリカは生き残ります.

その場合,核武装した中国やパキスタンはどうなるのでしょうか? 中東や東アジア地域の核軍拡競争を抑制できるでしょうか? 

いつ,誰が,どこで国際秩序を築くのか? と私はよく自問します.突発する熱病のように,あるいは,台風や旱魃のように,地球上の政治的な空白地帯や脆弱地を危機が襲い,甚大な被害を出しながら救済されることなく,国際政治の真空と無秩序に拡大するさまざまな結びつきによって,難民やテロは中枢にまで届きます.大国間の政治は,その向きを変えるだけです.


LAT July 30, 2007

Malthusian misery's comeback

Niall Ferguson

(コメント) 石油危機よりも食糧危機,すなわち,マルサスの予言が復活します.200年前にマルサスが予言したように,食料生産は序数的にしか増えません.しかし,人口は幾何級数的に増えます.確かに繰り返し農業革命は起きましたが,この指摘を覆したわけではない,とFergusonは考えます.

世界人口が増え,中国などで貧困が減り,世界の農産物需要は幾何級数的に増えています.それに対して農業の技術革新も飛躍的に進むでしょうか? 遺伝子組み換えで農産物を巨大化し,あるいは加速的に成長させ,都市や砂漠にも農業ビルを建設し,宇宙空間における農耕プラントの打ち上げ,農業植民地の探索を急ぐかもしれません.しかし,世界人口とその富裕化,さらに気候変動が迫っています.

マルサスが予言したように,私たちは教育と道徳によって人口を抑制し,あるいは飢餓や戦乱によって人口を減らすしかない時代に向かっています.


WP Monday, July 30, 2007

Partnership for the Ages

Gordon Brown

FT July 31 2007

Britain can’t have two best friends

John Bolton

(コメント) イギリスのゴードン・ブラウン首相は,英米の同盟関係を確認します.イラク戦争の失敗を経験しても,なお.

イギリスは,アメリカとの親密な関係なしに国際的な影響力を持たない,と言われます.しかし,戦略的な同盟関係が失敗し,国民の支持を失った以上,ブラウン首相が強調するのは「思想」「価値」「理想」「歴史」です.現実的にはイラクから手を引く代わりに,言葉としては,共通の理想を称えておくわけです.アメリカがその理想を失ったから,協力はできない,と言えるように.・・・「冷戦の思い出」「市民社会」「民主主義」・・・

これはブレアの開戦演説と同じです.しかし,支持しているのはアメリカのイラク政策ではなく,ドーハ・ラウンドやダルフールでアメリカが指導力を発揮すること,アフリカの人道援助とアフリカ同盟を介した軍事協力,などです.

John Boltonに言わせれば,「特別な関係」など存在しない,イギリス人の勝手な思い込みです.第二次世界大戦では重要であったが,両国が常に同じ意見であるはずはなく,それ以後は,他の外交関係と変わらない.ブレアがブッシュのプードルであったわけでもなく,互いに利用し合ってきた.

より重要なことは,イギリスがEUにますます緊密に統合され,イギリス自身の重要な判断を変えてきたことだ,と言います.それゆえ,ブラウン首相の対米関係重視は見せかけ,お世辞でしかない.EUは国家建設に向かうのか? アメリカが聞きたいのはむしろそれだ,と.その場合,イギリスもEUの一部でしかなく,独自の外交関係など意味がない.安保理にも出席するべきではない.結局,イランへの決議でアメリカに意見するのは,だれなのか?

George Monbiot Brown's contempt for democracy has dragged Britain into a new cold war The Guardian Tuesday July 31, 2007

Paul Reynolds US and UK: Close but not quite as close BBC 2007/07/31

Memo to Bush: no more ‘Yo, Blair’ FT July 31 2007

(コメント) ロシアとの新冷戦,アメリカとの新関係,ブラウン首相の模索は次々と起きる事件によって厳しく試されるでしょう.


LAT July 31, 2007

Too uninformed to vote?

Jonah Goldberg

(コメント) 「民主主義」や「選挙」というものは,いつも正当性の神話や,承認された手続きによる聖別です.有権者は恣意的に分割され,制限されます.有権者の知識や理解力,情報は限られています.有権者の投票行動は偏っており,投票を強制する,あるいは,棄権する者を処罰することも(多くの場合)ありません.

「投票を易しくするよりも,むしろ難しくする方が良い.なぜ有権者に政府の基本的な働きを質問しないのか? 移民たちが投票のために試験を受けなければならないとすれば,なぜすべての国民がそれを受けないのか? 」

民主主義を改善するには,民主主義を拡大するしかない,という文句は,一種の原理主義として非難されるべきでしょう.市場の失敗をただすには,一層の市場化を主張する原理主義者が非難されているように.もし知識のない者を有権者から除外するなら,民主主義の健全さを示す投票率は大幅に改善するはずです.

LAT July 31, 2007

Illegal immigration: our best foreign aid

By Gregory Clark

アメリカの平均所得の5分の1か,それ以下の,およそ1億6000万人が,我々の南部国境から1500マイル足らずのところに住んでいる.この巨大な所得格差があるから,国境警備を増やしても,国境にフェンスを建てても,多くの非合法移民を阻止することはできない.しかし,移民は事実上のアメリカが与える最も効果的な海外援助であり,世界で最も貧しい人びとを助けている.そのような移民は寛容に受け入れるべきであり,妨げて死に至らすべきではない,と主張する者もいる.

歴史が示すように,非合法移民にも波はあるが,将来もアメリカの問題として残るだろう.1800年までは,国境を挟む所得の違いは少しだった.それゆえ,非合法移民への圧力も弱かった.しかしそれ以後,世界経済はいわゆる「大分断」の過程を経験した.矛盾したことに,財や情報の流れに障害が減ると,豊かな経済と貧しい経済との生活水準の差は拡大した.

アメリカはたまたまこの大分断の堅固な断層の一つに沿う位置についた.1982年以降,メキシコ経済は自由化し,NAFTAによって貿易も自由化したけれど,一人当たり所得でメキシコはアメリカに比べて最近でも減少している.メキシコの一人当たり所得はアメリカの22%でしかなく,1950年以来の最大格差である.しかしメキシコは中央アメリカやカリブ海域に比べると豊かである.他の諸国は一層劇的に所得を減らし,アメリカの10%以下しかない.たとえば,ホンジュラス,ハイチは6%,ニカラグアは9%である.メキシコはグァテマラやホンジュラス,エル・サルバドルからの非合法移民の問題を抱えている.

南の隣国がわれわれよりも所得を減らしていることだけでなく,その人口が増加していることも問題だ.1950年,メキシコ人口はアメリカの6分の1にすぎなかったが,今では3分の1より大きい.

アメリカと南の近隣諸国との所得格差拡大は国境管理を一層難しくしている.潜在的に膨大な利益が期待できる以上,非合法移民はアメリカに入る試みを止めない.これほど長大な国境線であるから,監視の人員や技術を整備しても,移民を遅らせるだけで,阻止することはできない.

アメリカは隣国の総体的な経済衰退を防げるだろうか? 無理だ.繰り返し歴史が示すように,経済の盛衰は政策の能力を超えている.1857年から1947年まで,イギリスはインドを統治した.その経済政策は市場を促進する近代的なエコノミストにも通用するものだった.すなわち,自由な市場,所有の絶対的な保障,安定した物価,低い税率,資本や企業の移動の自由.しかしこの間,インドの所得はイギリスに比べて低下した.アメリカと南の隣国との所得格差が拡大することは大いにあり得る.

その場合,この富の断層を超えて労働力が移動することを認め,またアメリカの労働市場に彼らが入る道を合法化することは,悪い選択肢ではない.アメリカの最大の援助計画は,世界中に対して政府が行っている190億ドル(GDPのわずか0.14%の)公的援助ではない.むしろ,第3世界,主にラテンアメリカからアメリカに来た非合法移民を雇用し,彼らに支払っていることだ.こうした移民たちの収入は推定で2000億ドル以上に達し,アメリカの援助額をはるかに凌駕する.

さらに移民から自国の親類への送金は,毎年,250億ドル以上に達している.それは政府援助のように相手国の官僚や顧問に支払われるのではなく,直接,貧しい者が手にする.

現実に合わせて移民を受け入れることは,たんに賢明なだけでなく,隣人への思いやりを示すことだ.


NYT July 31, 2007

Why Africa Fears Western Medicine

By HARRIET A. WASHINGTON

(コメント) なぜブルガリアの医師や看護婦がリビアで何年も投獄されていたのか? そんなニュースの背景をこの記事は伝えています.一言でいえば,アフリカは裕福な諸国の医薬品開発業者に,安価な(そして死病を蔓延させるような)人体実験の機会を(意図的に,あるいは,だまされて)提供してきたから,というわけです.医師たちは病気を治療に来たのではなく,むしろ持ち込んだのです.

その悪名高い例として,アパルトヘイト下の南アフリカやナミビアで数百人を殺したという医師,Wouter Bassonの話が紹介されています.たとえブルガリアの看護婦たちが洗浄不足の器具でエイズを感染させたとしても,彼らの反発と告発は異常なものではない,と.


NYT July 31, 2007

A War Best Served Cold

By NICHOLAS THOMPSON

WP Tuesday, July 31, 2007

Sept. 10 in Waziristan

By David Ignatius

(コメント) 60年前に,ケナンは「冷戦」を理論化しました.しかし,彼の影響力ある論説は,トルーマン政権の軍事力行使に利用されただけで,「封じ込め」が真に実行されはしなかった,とTHOMPSONは考えます.そして,共産主義以上に,それ自身が破滅の種を宿しているイスラム原理主義のテロリズムに対して,攻撃的な軍事力のしようではなく,「封じ込め」政策を実行する時だ,と.

パキスタン北東部に形成されたアル・カイダの聖域,Waziristanに対するアメリカ軍の限定的な地域掃討作戦が主張されています.ここを拠点として,アル・カイダは化学兵器,生物兵器,核物質などを利用してアメリカ本土を攻撃する能力を得ている,と分析します.これは,「イラクの自由」作戦(ブッシュ大統領の失敗したイラク戦争・占領)ではなく,J.F.ケネディーの「進歩のための同盟」作戦である,と.


FT economist forum

July 23, 2007

The growth of nations

By Martin Wolf

(コメント) なぜ韓国は成長したのにインドは停滞していたのか? その論争です.L. Alan WintersArvind PanagariyaAnne KruegerMartin Wolf,その後も,Edmund Phelpsなどが参加しています.


The Japan Times: Tuesday, July 31, 2007

Asians a boon to American prosperity

By TOM PLATE

Aug. 1 (Bloomberg)

China Racks Up Points as Bush Team Snubs Asia

William Pesek

WP Thursday, August 2, 2007

China's Chance to Lead

By Maximilian Auffhammer and Richard Carson

(コメント) PLATEはグローバリゼーションの深化を受け入れるよう求めます.

「アジアとアメリカとの関係を理解するなら,それを対立や戦争ではなく,相互利益や国益の重複と呼ぶのがふさわしい.アジアがアメリカから職場を盗んだと言うなら,それと同じように,アジアはアメリカに新しい職場を創り出した,と認めなければならない.それゆえわれわれが貿易障壁を築き,あれこれと違反を取り上げて中国やインド,韓国の処罰を求めるなら,実際には存在していない敵を創り出してしまうことになる.

アメリカとアジアは双方が直面している問題に新しい解決策をもたらすため,一緒に作業する必要がある.富をすべての者に行き渡らせ,成長のエンジンが止まるのを防ぎ,グローバリゼーションの激しい台風に巻き込まれて職を失った人たちにはセーフティー・ネットを提供するのである.」

アメリカ政府は東南アジアを軽視し,中国の影響力がこの地域に拡大するのを放置しています.しかし,人口や資源などから見ても,アメリカは中東より東南アジアを重視するべきではなかったでしょうか?

中国の温暖化ガス排出量は,新しい国際システムの性格を左右する規模に達しています.ドルや石油と同じように,中国政府が世界的規模での炭素税を受け入れるかどうか,主要諸国は注目します.中国は世界貿易や世界経済の成長から最も大きな利益を受けるでしょう.そして中国人民自身が,環境悪化に苦しんでいるのです.


Aug. 2 (Bloomberg)

Korea Goes Where Soros Fears to Tread -- the Yen

William Pesek

(コメント) 日本の低金利,円安,キャリー・トレードは,国際的な責任を無視している,と批判されています.世界経済の安定化や均衡回復に反する政策だからです.それでも日本政府は景気回復や国内金融秩序のために,国際機関による政策変更を一顧だにしません.20043月までの14ヶ月間で,日本政府はインドネシアのGDPに等しい額を使ってドルを買い,円安を誘導しました.韓国やニュージーランドは,日本の金融政策に強い不満を持っています.アジアの指導国として尊敬されるどころではありません.

アメリカ政府との黙約で? 人民元の水準は問題にしても円安は無視するという姿勢もいつまで続くのか? この12カ月でタイ・バーツは20%,フィリピン・ペソも14%,増価しています.2.6%成長と大幅な貿易黒字が円高にならない理由は,低金利とキャリー・トレードです.日本は0.5%,ニュージーランドは8.25%です.アメリカは人民元を問題にしますが,アジア諸国では円安が問題なのです.


The Japan Times: Thursday, Aug. 2, 2007

Expect oil to hit $100 a barrel and beyond

By GWYNNE DYER

BG August 2, 2007

Energy and the Simpsons

By Gilbert J. Brown

(コメント) 石油価格は1バレル=78ドル40セントをつけました.それは中東の戦争や革命に拠ることなく達した水準です.もっぱら供給能力の限界が迫り,ますます困難な条件で採掘する,という事情が,またアジアの景気が需要を増やし,アメリカ・ドルの減価がドル建ての石油価格を上昇させています.もしアメリカの住宅金融問題が不況をもたらさないときは100ドルを超え,チェイニー副大統領がイラク戦争に踏み切れば200ドルを超える,・・・

中東の戦争からも,ロシアやヴェネズエラの政治不安からも,中国との資源争いからも手を引いて,地球温暖化の国際監視体制に参加できる,環境にやさしい,生活水準を下げないような政治・経済条件を確保したい.そこで一斉に,核エネルギーが注目されています.アメリカのマンガ「シンプソン」の描く典型的なアメリカの町でも,その生活と工業を担うエネルギーは原子力発電所です.

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The Economist July 21st 2007

The riddle of Iran

The revolution strikes back: A special report on Iran

Monetary policy: From helicopter to hawk

Papua New Guinea: Left behind by Asia’a rise

Panama: Glitter and graft

Business in Africa: Looming difficulties

The candidates: John Edwards, Man of the left

Minorities in Germany: The integration dilemma

(コメント) イランとアメリカの関係は国際政治の焦点です.革命後のイランについて特集記事が論じています.他方で,バーナンキ議長による金融政策についても.

他に挙げたのは,世界における小国の問題です.もし自由な時間があれば,そんなテーマで研究してみたいな,と思いました.アジアの成長に取り残されたパプア・ニューギニア,中米では突出した成果を示すパナマ,アフリカのレソトにおける台湾資本による織物工場の将来.

そして,アメリカやドイツにおける貧しい労働者や移民の問題を読みながら,何か考えてみてはどうでしょうか?