IPEの果樹園2007
今週のReview
1/22-1/27
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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貿易交渉, 中国の通貨と環境破壊, ゲオ・グリーン戦略, 日本の金融と景気, ベッカム, アメリカ人の平等
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
YaleGlobal, 9 January 2007
US-South Korean Free-Trade Agreement: The Cost of Failure
Bruce Stokes
NYT January 16, 2007
With New Urgency, U.S. and South Korea Seek Free-Trade Deal
By CHOE SANG-HUN
(コメント) アメリカと韓国の自由貿易交渉が難航しています.韓国の農民は保護を強く求めており,アメリカ政府はそれを拒んでいます.しかし,この点で韓国は,アメリカ市場に代わる中国市場を考える余地があり,また,農業保護という点でEUと合意することもできます.その意味では,アメリカが世界の貿易秩序を決める時代が終わったようです.
NAFTA以後,アメリカ政府はドーハ・ラウンドの合意に失敗し,南北アメリカのFTA締結にもチャベスなど南米の左派政権が反対し,今また,韓国とのFTA交渉が失敗しつつあります.他方,EUと中国は積極的に二国間交渉やFTAを増やしています.
もしアメリカ政府が韓国との政治的な合意を促す意志があれば,北朝鮮と朝鮮半島の統一問題を持ち出すべきでしょう.ブッシュ氏がこの点で韓国政府の考え方を非難し続けているなら,東アジアの貿易秩序からも取り残されるわけです.
NYTのCHOE SANG-HUNによる記事は,アメリカ側の要求として,自動車,米,医薬品の市場開放を,韓国側の要求として,鉄鋼,自動車,コンピューター・チップ,繊維製品を反ダンピングの対象から外すこと,を示しています.盧泰愚大統領の支持率は低く,農民,労働組合,映画関係者の反対は激しい,と伝えています.
Chicago Tribune, January 10, 2007
Opening up the transatlantic market
By Daniel S. Hamilton and Joseph P. Quinlan
The Japan Times: Friday, Jan. 12, 2007
Crisis in multilateral trade
By RAMESH THAKUR
FT January 15 2007
Why everyone needs a deal in Doha
(コメント) ドイツのメルケル首相は,EU諸国を指導して,アメリカと自由貿易協定を結ぶでしょうか? WTOに代わって,大西洋貿易が世界の貿易の基本ルールを決めるのか?
グローバリゼーションは急速に世界の経済的相互依存関係を深めています.しかし,グローバリゼーションは極めて偏った関係をもたらす,とRamesh Thakurは注意します.特に,多くの発展途上諸国は,今も互いに孤立しており,他方,発達した工業諸国には大きく依存しています.また,グローバリゼーションは所得や資産をますます不平等化する,と考える研究を紹介しています.失業率が高まり,しかも労働者は急速に組合を失っています.資源も,市場も,労働力も,彼らは一方的に安く買い叩かれます.
発展途上諸国は,グローバリゼーションにおいても自分たちで,農民の暮らしを守り,地方を開発しなければならないと考えています.それは裕福な諸国と比べて,はるかに大きな人口を養っており,重要なのです.実際,日本や韓国,台湾は,政府が彼らを助けることで発展してきました.同時に,裕福な諸侯の市場は彼らに開放されていました.
今度は,発達した工業諸国が農産物市場も貧しい諸国に開放して,世界貿易の多角的自由化を促すでしょうか? つまり,農産物市場を開放して,農民に生産転換への補助金を与え,貧しい諸国には開発援助を与える交渉です.
A military coup and a submerging market FT January 10 2007
William Pesek What Thailand's Woes Say About Asia's Outlook Jan. 12 (Bloomberg)
William Pesek Nationalism, Globalization Are a Bad Thai Combo Jan. 15 (Bloomberg)
William Pesek Asia Receives Much-Needed Reminder From Bangkok Jan. 17 (Bloomberg)
(コメント) タイの軍事政権は資本規制によって市場の信頼を破壊し,爆弾テロで3人の犠牲者が出たため,日に日に厳しい評価を受けています.タクシンの復権が近いのか? 軍事政権はタクシンとその勢力を封じ込めようとして,ますます間違った方向に介入を強め,不透明で,投資家たちに何の相談もないため,自分たちの息の根を止めている,とFTは批判します.
William Pesek の一連の論説は,東南アジアへの投資に関して警戒感を示します.タイのクーデタが示したのは,アジアにおけるグローバリゼーションへの反感です.軍事政権は通貨投機や外国投資家,外国企業に制限を加え,「自給経済」への回帰を目指した,と批判します.確かにアジアには,1997年に見られたような過剰資本の流入が続いています.セブ島に集まって繁栄を祝うアジアの指導者たちに,元アメリカ財務省スタッフで,今も通貨危機のHPで有名なNouriel Roubiniは,危機の再来を警告し続けています.
あるいは,タイのUターンが起きた背景を,グローバリゼーションにおいてもナショナリズムが噴出することに見ています.プーチンやチャベスが石油資源を国有化したように,タイも企業や資産を国家が支配するのか? かつてナショナリズムは,豊かな者を懲らしめ,貧しい者を助けるために叫ぶものでした.今は違う.グローバリゼーションは逆転できない,とPesekは主張します.
こうした論説を読むと,日本の金利がいつまでも低い中で,異様な円安が続き,中国の成長率も高いまま,いつか調整を迫られる貿易黒字を放置している状態に,不安を感じます.
Jan. 10 (Bloomberg)
Move Over Libor, It's Time for China's Shibor
William Pesek
FT January 12 2007
China's trade surplus spells trouble ahead
FT January 12 2007
Pollution fears over China’s growth
By Richard McGregor in Beijing
(コメント) アメリカのポールソン財務長官は,中国に人民元を切上げさせ,次第に弾力化して,資本取引を自由化するように求めています.Shiborは,資本市場が開放されるための重要なステップです.そして・・・“Shibor”の時代が来る? それは,ロンドンに代わって上海が,世界の資本市場にとって支配的な金利水準を決める世界です.
金融市場が発達することは,さまざまな金融取引が盛んになるだけでなく,中央銀行の金融政策を通じて景気の過熱やデフレを回避できることを意味します.そして,アジア経済全体にわたって,為替レートや金利が正常に働きだす,とアメリカの金融関係者たちは期待します.ただし,金融市場が機能するために必要な情報の透明性や投資家の冷静な行動,北朝鮮や台湾に関する地政学的リスク,は解決されていません.
ポールソンの協力姿勢は,成果を示すのに時間がかかるでしょう.昨年の貿易黒字が74%も増えた,ということに,アメリカ議会が強く反発するのは確実です.そして,中国自身の経済運営にも悪影響を生じます.そもそも,貧しい中国人民が貯蓄して裕福な国の通貨価値や資産市場を買い支えるのは不合理である,と.
「たとえ大幅に(人民元が)増価しても,アメリカの貿易赤字はほとんど減らないだろう.返金すれば,中国の輸出品について,付加価値の3分の1以下しか中国は得ていない.それゆえ(人民元の増価による)競争力の低下は,輸入される中間財の価格低下によって大きく相殺される.また中国の輸出が減るとしても,それによって利益を得るのは,もっと安価な生産コストを提供する産地であって,アメリカではない.アメリカが貯蓄を越えた支出をやめない限り,対外赤字は残るだろう.」
ここでFTは,中国の過剰貯蓄の側にも,単に為替レートの調整では解決できない,として,内需主導型の成長を実現する財政的な刺激策,を求めています.それは,中国政府の公共投資を実行する能力が欠けているからだ,とFTは考えますが,政府が無駄遣いするのは容易なはずです.日本もそうでしたが,不均衡解消に積極的な財政政策を強調するのは,適当でないように思います.それに比べて,ポールソンが主張したような社会保障制度の充実は,多分,実に良いアイデアです.
あるいは,環境保護のための投資や損害を受けた住民に補償することです.10%を超える高度成長を続ける中国経済が環境に与える負荷は,水問題や大気汚染などに示されています.中国の国家環境保護局や汚染防止法は効果を示していません.
FT January 14 2007
China in key deal with Asean on services
By Roel Landingin and John Burton in Cebu
FT January 14 2007
China threatens America’s lead in technology
By Ernest Hollings and Charles McMillion
FT January 16 2007
We must prepare for the march of China’s giants
By John Edwards
Jan. 16 (Bloomberg)
Changfeng, Invoking Mao, Aims at U.S. Auto Market
Doron Levin
(コメント) アジアにおいては,ますます中国が貿易のルールを作る時代になっています.銀行,情報技術,健康,不動産,教育ビジネス,輸送,建設,といった分野でサービス貿易の自由化を合意しました.ASEAN諸国は中国との貿易赤字を緩和できると期待します.「中国はすでに道路やホテルなど,ハード・インフラを供給しているから,われわれはソフト・インフラ,すなわち人とサービスを供給したい」と,ASEAN商工会議所のメンバーは述べました.
中国の12億人とASEANの5億人を加える世界最大の自由貿易圏に向けた動きを,記事はもちろん称賛しつつ,実際には,中国に対して他の諸国が従うだけの関係になることを懸念します.かつてハーシュマンがドイツと周辺の小国について主張したように.
これまでアメリカの優位が疑う余地のなかった技術や多国籍企業の分野でも,次第に中国の台頭が注目されています.技術の基準やロイヤリティーについても,中国市場へ参入を求める企業に対する要求を通じて,新しいルールを築くかもしれません.戦略物資や軍事技術を外国に依存することを,アメリカの政治家は警戒し始めています.
中国政府が外貨準備を優先する姿勢を変えれば,中国企業の海外投資が急速に増えるかもしれません.人民元の急騰を抑制するためにも,政府はむしろ資本流出を促すでしょう.もし中国企業がアメリカ,EU,日本の企業と同じように直接投資でも競走を始めるとしたら,貿易のような国際ルールや制度化された交渉システムがないために,問題が起きるだろう,とJohn Edwardsは指摘します.それはすでにオーストラリアへの中国企業の投資として論議を呼んでいます.
自動車の輸出でも,すでにアメリカやヨーロッパに向かっています.
AC Grayling The price of belonging The Guardian Tuesday January 16, 2007
KEITH BRADSHER and DAVID BARBOZA Hong Kong and Shanghai Duel for Financial Capital NYT January 16, 2007
Sheng Lijun Beijing's soft power in Southeast Asia IHT January 17, 2007
Guy de Jonquieres Do not be fooled by the bull in the China shop FT January 17 2007
Andy Mukherjee Fewer Yuan in Wallets Is China's Next Headache Jan. 18 (Bloomberg)
Benjamin Shobert China's auto makers hunt for US key Asia Times Online, Jan 19, 2007
(コメント) ASEAN+3は,アメリカ抜きの重要な国際会議を開き,フィリピンのアロヨ大統領が中国の代表が出席していることを歓迎しました.しかし,中国を生産拠点として利用している企業は,その労働・社会条件や環境破壊などにも,もっと注意するべきです.AC Graylingは,中国が覇権国になるのは確かだろうが,そのときにも,今のような政治体制であることを危惧します.
資本市場の争いでも,ソフトパワーの争いでも,中国の特異性と重要性は圧倒的です.日本の企業や資本も,香港へ,そして上海へ流れます.
中国市場への参加を期待しつつ,ASEAN諸国には中国への警戒感が強くあります.冷戦後の地政学的な変化は,ASEAN諸国による地域統合に弾みをつけ,中国市場に呑み込まれないように,アメリカの関与を強く求める形で,最終的には,中国の影響力が拡大するのを平和的に受け入れる,という結果になっています.しかし,日本の役割は限定的です.
オリンピックまでは必ず上がり続ける,と皆が期待する中国の株式市場に資金が流れ込み,その終幕はどうなるのか? 人民元の相場を維持する介入の結果,増大するM2はどうなるのか? 中国の自動車産業はどうなるのか?
WP Tuesday, January 16, 2007
What Will China Do With All That Money?
Charles Horner(a senior fellow at Hudson Institute)
(コメント) この論説は,アメリカ政界の雰囲気を伝えていると思いました.
「2006年の暮れに,ヘンリー・ポールソン財務長官が中国への代表団を率いて北京へ向かった.それは世間の関心を集め,詳しく報道された.それは真剣な訪問のはずであった,なぜならベン・バーナンキ連銀議長もともなったくらいだから.まさに,ポールソンとバーナンキという,ブッシュ政権の大物が参加する,米中戦略経済会談と公式に呼ばれた会場であった.しかし,それは結局なんだったのか?
そのような会談とは,実質も儀式もともない,世界に対して重大な関係が展開されていることを宣伝するものである,と分かった.それはまた,現代の「ハイ・ポリティクス」を示している.数年前なら,アメリカの政治家たちは中東外交に意欲を示し,さらには,おそらく米ソ首脳会談を経なければならなかった.しかし今では,大国間の関係,少なくとも超大国と新興大国との関係は,ミサイルではなく,資金をめぐるものである.
これは改善である.冷戦期に,われわれはソ連の軍備拡大を心配し,特に水爆を搭載した長距離ミサイルに注意した.ソビエトがそれらの過大な軍備を持っていた.しかし,資金はほとんどなかった.それゆえ長期にわたり外交の舞台は戦略兵器制限交渉(SALT)であった.中国は今日,水爆を搭載した長距離ミサイルを少ししか持っていない.しかし,莫大な資金を持っている.しかし,それは日々増えている.われわれの心を占めるのは,中国に集まる金融力である.かつて戦略家たちがソビエトはそのミサイルで何をするだろうかと思案したように,今は中国がその資金で何をするかを思案している.」
冷戦期の核戦争を回避したのは「相互確証破壊」という「恐怖の均衡」でした.アメリカと中国は,その対外債務と巨額のドル準備により,新しい「恐怖の均衡」を形成しています.これはもちろん,リベラル派の言う「相互依存関係」です.サマーズ元財務長官によれば,国家は必要に応じて再軍備することはあるが,金融システムを軍事化するのは難しい,ということです.
中国はその資金を使って外国企業を買収し始めるでしょう.上海の年金基金がアメリカの優良企業の株式を購入するようになり,アメリカのM&Aを支配する力はないとしても,たとえば,ニュージーランドやアルゼンチンであれば,500億ドルで,その公開されている株式をすべて買い占めることができます.
The Guardian Thursday January 18, 2007
Mao was cruel - but also laid the ground for today's China
Will Hutton
(コメント) 大躍進や文化大革命で,毛沢東はおびただしい政治的弾圧や飢餓による死者をもたらしました.しかし同時に,毛沢東は現在の中国の成長の基礎を作った,とWill Huttonは主張します.なぜなら,毛沢東以前の中国では,官僚たちが儒教によって農民を支配し,安定した秩序のために成長は犠牲にされました.毛沢東は過激な平等主義を実現することしか,労働者や農民たちをこの貧しさから救い出す道はない,と考えたのです.
毛沢東の時代に,中国の工業生産は13倍に拡大し,鉄道網が整備され,農地の再分配や識字率の改善,女性の地位向上が実現しました.同時に,改革を阻むイデオロギーを徹底的に破壊しました.毛沢東が直面した課題の大きさを,多くの批評家は忘れてしまいます.世界中どこでも,国家の介入なしに近代的な市場が発達することはなかったのです.Huttonはそれを,ウェーバーを引いて,異なる道徳的基準が必要だった,と述べ,アイゼンハワーが日本に原爆を使用した決断と比較しています.
ケ小平は,毛沢東が絶対的な平等主義の失敗を示した,という教訓を得て改革を成功させました.しかし同様に,共産党支配の秩序を維持したまま,成長できると考えたのは間違いです.
NYT January 10, 2007
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) 石油に代わる新しい環境にやさしいエネルギーを見つける話です.それは,・・・・・石炭! 石炭は安価で,中国にも,インドにも,アメリカにも豊富にあります.だから,石炭を環境に優しい形で燃やす新しい方法を見つけることが最も望ましいわけです.
フリードマンはモンタナ州の民主党の知事Brian Schweitzerに会います.知事は,エクソン・モービル社がいくら多くの科学者を雇って温暖化を否定しても,自分たちの生活が脅かされている怒りを鎮めることはできない,と考えています.さらに知事は付け加えます.モンタナ州はアメリカの石炭埋蔵量の約3分の1,世界の8%を保有している,と.それは石油に直して2400億バレルに相当し,アメリカの輸入量の60年分になります.
だから彼は,石炭利用産業で,画期的な燃焼方法を発見し,普及させることにすべてを賭けているのです.そしてワシントンに要求します.1.政府が石油価格にばれる40ドルの下限を設定し,代替エネルギー開発を促進する.2.石炭のクリーンな利用技術を採用する企業の補助金を与え,そうでない企業から罰金を取る.3.石炭の気化・液化技術を開発するさまざまな計画に政府が共同投資し,優れた技術の普及を図る.4.石炭から発生する酸化物を除去し,地中に戻すための規制をただちに法制化する.
FT January 11 2007
Pension attention: why the investment pots await Japan’s big savings switch
By Michiyo Nakamoto
FT January 14 2007
Japan’s future looks brighter than Germany’s
By Wolfgang Munchau
The Japan Times: Thursday, Jan. 18, 2007
Unhappy state of education
By HUGH CORTAZZI
The Japan Times: Thursday, Jan. 18, 2007
So much for Abe's reconciliation policy
By GREGORY CLARK
FT January 19 2007
Discombobulated BoJ
Jan. 19 (Bloomberg)
BOJ Keeps Carry Trade Alive and Well -- for Now
William Pesek
(コメント) 日本人は貯蓄の多くを銀行預金でもっています.それは,アメリカと対照的です.日本人は51%を預金し,17%しか株式などに投資しません.アメリカ人は52%を株式投資して,預金は13%に過ぎません.この姿勢を改めさせようと,日本の銀行や投資会社が高齢者向けにさまざまなイベントや啓発のためのグループを育てています.なぜなら,日本人の高貯蓄は高度成長の源泉から,デフレの元凶に変わったからです.
日本は,GDPの3倍に及ぶ1495兆円という,家計の保有する金融資産を有効に活用できていません.郵政民営化の際にも,その目的の一つに指摘されていました.それがやっと,投資信託へ流れつつあります.
日本はバブル破綻で,ドイツは再統一で,デフレを深めた,とWolfgang Munchauは回顧します.それは政策の失敗によるものでした.両国は漸く最近になって不況を脱しましたが,今はドイツの方が投資家に人気があるようです.Adam Posenの議論を紹介して,ドイツより日本の方が成長するだろう,と述べています.その理由は,1.構造的問題,2.マクロ政策,3.国家と市民社会,4.大企業や銀行への報酬,において,つまり構造改革においてドイツより日本の方が優れており,技術革新や規模の経済を利用できる,というわけです.
イギリスでブレア政権が唱えた教育政策と,日本の論争は,表面的に似ているだけです.日本の教育基本法改正を,イギリスの元外交官であるHUGH CORTAZZIは,日本で軍国主義が復活する証拠とは考えません.日本の右翼集団が政府に強い影響力を及ぼしているとも考えません.しかし,日本の政治家や政府は,もっと明確に,そのような発言や行動を政治から排除し,批判する姿勢を示すべきだ,と考えています.それを曖昧に支持するような印象を許すことが重大な意味を持っていると,日本政府は自覚するべきです.靖国参拝,拉致問題,北朝鮮.G.クラーク氏が示す安倍政権への疑問も,日本政治の質に関わる問題だと思います.
日本政府・政治家たちは,同様に,日銀を脅したという印象を残しました.これほどの低金利と円安にもかかわらず,デフレ状態が完全に払拭できません.日銀が金利を据え置いたのは正しい判断である,とFTは支持します.しかし,その決定過程は不明瞭で,市場の信頼を損ないました.この混乱と低金利を使って資本をむさぼるのはヘッジファンドや世界中の投機家ばかりではないでしょうか?
それは新しいバブルをもたらすのか? とWilliam Pesekは問います.内外のバブル,その破綻,資本移動の逆転,円安から急激な円高,・・・ 長期に及ぶ超低金利政策と流動性の過剰な水準は,常に,金融市場の変調を増幅するのです.世界中の中央銀行が引き締めに動いている中で,日銀だけが金融緩和を続けています.その差は「円キャリー・トレード」となって,世界の流動性と円安を維持しています.
いずれ逆転のときは来るでしょう.次のアジア危機,次のロシア・デフォルト,次のLTCMが,準備されています.しかし,危機ではない形で,政策的な調整もできる? 日銀と日本政府の協力と対応は,世界経済の将来にも重要な意味を帯びます.
FT January 11 2007
A semi-hard landing faces America
By Samuel Brittan
(コメント) 貿易黒字の問題は,アジア諸国よりも産油諸国の方が大きくなったし,中国の過熱や不況を警戒するのは,その経済規模がイギリスに劣ることを考えれば誇張である,という指摘を紹介しています.産油諸国はドル資産を保有し続けることができます.しかし,たとえユーロに転換し始めても,その結果,ユーロ高はECBによる金融緩和を招くでしょう.
バーナンキは,インフレが完全に鎮静化するまで金融緩和をしないようです.そこでSamuel Brittanは,世界経済が緩やかに減速するが,ハード・ランディングはない,と予想します.
Surge towards debacle in Iraq and MidEast FT January 12 2007
Jonathan Steele There is no military solution for Iraq, only a political one The Guardian Friday January 12, 2007
Rosa Brooks How Republicans win if we lose in Iraq LAT January 12, 2007
Zbigniew Brzezinski Five Flaws in the President's Plan WP Friday, January 12, 2007
Henry Allen Therapy For Nation Builders WP Saturday, January 13, 2007
BRIAN KNOWLTON Bush and Cheney Rebuff Critics of Iraq Troop Increase NYT January 14, 2007
Leslie H. Gelb and Richard K. Betts We're Fighting Not to Lose WP Sunday, January 14, 2007
Robert Mann Mustering the courage to end war BG January 15, 2007
Niall Ferguson Blue-helmet time in Iraq LAT January 15, 2007
PAUL KRUGMAN The Texas Strategy NYT January 15, 2007
Henry A. Kissinger Withdrawal is not an option IHT Thursday, January 18, 2007
(コメント) イラクの社会が分裂と混乱を深めているのに,アメリカ兵を2万人増やしても「勝利」することはできません.その目的は,せいぜい,撤退の立派な名目を作ることです.しかしブッシュの選択は,最後にはイランまで攻撃する恐れがあります.そして,最も起こりそうな危険は,アメリカがバクダッドをシーア派に委ねた結果,アラブ世界のスンニー派とシーア派の均衡が崩れ,イランを強めるだけでなく,より大きな宗派争いが中東全域に起きることです.
ブッシュの決断は,イラクとベトナムの類似性をさらに進めました.変死の命を勝利のためではなく,敗北の印象が和らげる時間を稼ぐために浪費し続ける,というのは,1972年の選挙前にニクソンとキッシンジャーが考えたことだからです.
Henry Allenは,理想と国家との関係を想像しています.「もし大統領に望むものすべてを与えてやれば,どうなるか?」・・・資金,軍隊,議会の支持,軍・産・政・知・メディア複合体,その他,戦争に勝つために必要なものすべて.かつて,イラクだけでなく,キューバでも,南ベトナムでも,ソマリアでも,朝鮮半島でも,そうしたではないか? 彼らよりもわれわれの理想の方が優れていた.敗北はアメリカを病気にする.・・・しかし,すべてを得た大統領は,イランと戦い,北朝鮮と戦い,チベットを解放し,・・・?
Leslie H. Gelb and Richard K. Bettsは,イラクとベトナムはまったく違う,ということを詳細に検討しています.ベトナム戦争はリアリズムによって政府のシステムが有効に機能したにもかかわらず敗北した戦争でした.他方,イラクはブッシュの非現実的な楽観主義によって,戦争の拡大を無視し,国内政治的にも広く合意できないまま進められた戦争です.その違いにもかかわらず,ブッシュはジョンソンと同じジレンマに直面しています.敗北は考えられないが,勝利を得られる見込みもない.その結果,同じように,明白な敗北を受け入れず,後継者にそれを任せる政策を選択したわけです.
Niall Fergusonは,国連軍を利用するべきである,と指摘し,PAUL KRUGMANは.ブッシュの選択をS&Lの破綻で有名な「テキサス戦略」である,と考えます.
他方,Henry A. Kissingerは,アメリカが西側最強の国として世界秩序を築く,という視点から考えるように求めます.
LAT January 12, 2007
By Richard Adams
(コメント) 野球選手,サッカー選手,バスケットボール選手,など,プロ・スポーツの選手が,より高い報酬に向けてチームを移るのは当然です.それが国境を越えるとしても.
ベッカムの場合,サッカー選手としての寿命は終わりに近いけれど,ゴシップ産業,あるいは,アイドル・グッズとしての輸出,特に,日本市場におけるベッカム様人気が,その価値を引き上げている,と記事は紹介しています.アメリカ人にサッカーの試合が分かるのか,という心配は要りません.ベッカムはサッカー・チームに合流するのではなく,ハリウッドの有名人街に引っ越すだけです.
ただし,ベッカムが得る5000万ドル(約60億円)の報酬は,ブームと破綻を回避するため,サッカー・チーム全体の報酬に上限(190億ドル)を設けたルールそのものを変更してしまいました.それは単に,イギリスよりもアメリカのスポーツ市場がどれほど大きいかを示すものです.
FT January 14 2007
The influx of workers demands welfare reform
By Frank Field
(コメント) 就職して2〜3年で多くの若者が転職し,流動化する事実は,社会保障制度に修正を求めます.それは成長や雇用のメカニズム,失業についての保証のあり方を変える必要を示しています.アメリカにおけるニュー・ディール型の発想,日本における終身雇用型の発想,などは,労働市場の性質が変化すれば,維持できません.
LAT January 14, 2007
A living wage we can live with
By Robert Pollin
NYT January 14, 2007
By DAVID BROOKS
(コメント) 生産性は上昇しても,それは賃金ではなく,利潤の増大にばかり向かいます.それこそ,連邦全域に及ぶ最低賃金を設けて,それを引き上げる運動が強まる理由です.しかし,市場の反応や財源,グローバリゼーションの影響は,どのように評価するべきか?
DAVID BROOKSは問います.所得分配がますます不平等化する中で,再分配を求める新しい法律が必要か? この点で,リプセットの考察を想起します.すなわちリプセットは問いました.なぜアメリカには社会主義の運動が起きないのか? なぜヨーロッパのような福祉国家が支持されないのか?
それを説明する社会的・人口的な理由(たとえば民族の多様性)を拒んで,リプセットはアメリカの歴史と価値観を強調します.すなわち,アメリカには封建制度の支配した時代がありません.そのため,国民が「階級」によって分断された意識が広まることはなかったのです.また,アメリカには,その起源から,個人の勤勉さによって信仰を示すピューリタニズムがありました.いずれの影響も,アメリカ人の発想を他国に比べて,例外的に強く,個人主義的・能力主義的・反国家介入主義の方向へ傾けました.
アメリカ人にとっては,「平等」と「成果」とは矛盾しません.なぜなら,その概念がヨーロッパとは異なるからです.なんでも自分で努力すれば達成できる,と考えるアメリカ人にとって,「平等」とは「機会の平等」です.ヨーロッパ人のように,個人の制御を超える力が成果における不平等をもたらしている,とは考えないのです.この例外的な個人=成果意識は,アメリカにおける政治・社会運動を今でも難しくしています.
たとえば民主党によるブッシュ政権批判や不平等の改善策は,そのポピュリスト的な主張にもかかわらず,意外なほど穏健なものにとどまるでしょう.
NYT January 14, 2007
Out of Africa: Cotton and Cash
By G. PASCAL ZACHARY
(コメント) 飢餓と貧困,それゆえ援助に依存するしかないアフリカ,というイメージを払拭するほど,綿花栽培が民営化・自由化され,多国籍企業の進出と急速な生産拡大が起きている,という記事です.
The Guardian Monday January 15, 2007
Don't believe this claptrap. Migrants are no threat to us
Philippe Legrain
CSM January 17, 2007
EU proposes new door for legal immigration
By Daniela Gerson | Contributor to The Christian Science Monitor
(コメント) Philippe Legrainは,移民受け入れに積極的な議論を正面から展開します.移民の洪水は起きていないし,移民は脅威ではない.逆に,移民は受け入れ社会を豊かにする,ということです.東欧新加盟諸国からの移民にイギリス政府が開放政策を取ったことは,労働市場のギャップを埋めるという意味で,成功でした.彼らはわれわれの雇用を奪っていません.危険な,厳しい職場を満たし,病人や老人の介護を行い,移民労働者の追加した弾力性とダイナミズムが,企業の活発な技術革新を促している,と評価します.
「いっしょに生活することを学ぶのが難しいのは,否定できない.しかし,国境を閉ざしても国内のマイノリティーから生じるテロリストを防げないし,移民排斥のレトリックは国内のエスニック・マイノリティーを憎しみの対象にする.分離の拡大に関心が集まるのは分かるが,本当に問題なのは多文化主義ではなく,社会的排除である.」
ドイツも,議長国として,EUの移民政策を開放型に向けるようです.しかし,移民を管理できるのか? もし移民を抑制したいなら,送り出し国の失業している若者に雇用を提供しなければなりません.働きに来た移民たちの居住を認め,帰国したがっている移民たちの自由を認めることが,そして移民たち自身が誘因に従って選択できることが,重要です.
The Guardian Monday January 15, 2007
Time to break silence
Gary Younge
The American Prospect 01.15.07
Why He Was In Memphis
By Peter Dreier
(コメント) キング牧師の言葉としては,「私には夢がある」が有名です.しかし,同じように彼は,ベトナムを越えて,真実を語ること,を訴えました.彼の非暴力主義は外交に適用され,アメリカ帝国主義,ベトナム戦争を批判します.あるいは,キング牧師は最低賃金や生活保障制度を支持しました.
FT January 17 2007
Managing Asian currencies
FT January 19 2007
Sterling’s strength
(コメント) アジア通貨は危機を恐れるより,通貨市場への介入が金融バブルを生じることが懸念されます.他方,イギリスはユーロ加盟を先送りし,マクロ政策に慎重さを求めています.輸出部門の競争力についても,ユーロ高が進んでいるため,大きな影響は受けていないようです.
WP Wednesday, January 17, 2007
Like Nixon or Like Ike?
By Harold Meyerson
LAT January 18, 2007
How the left led us into 9/11
By Dinesh D'Souza
WP Thursday, January 18, 2007
A New Chance for Peace?
By Jimmy Carter
(コメント) 政治指導者によって,その国の選択は大きく異なるでしょう.アメリカがイラクから撤退するにも,その過程は同じ共和党のニクソンとアイゼンハワーでまったく違います.
アイゼンハワーはニュー・ディールを後退させなかったし,民主党を攻撃することなく,朝鮮戦争を終わらせました.他方,彼の副大統領であったニクソンは,大統領になると,国民が嫌っていたベトナム戦争を終わらせる必要を感じていました.しかし,国民を統一する必要があったのに,敵を分断する選挙術に生きてきた本能に従ったのです.
Dinesh D'Souzaは,クリントンやカーターのようなリベラルの軟弱な中東外交は,イスラム過激派のテロリストたちに格好の領土を与えた,と強く批判します.たとえばイランがホメイニのイスラム革命に支配されたように.また,ビン・ラディンはクリントン政権の外交に弱さを見た,と.
他方,カーター元大統領は,再び,アメリカの関与によって中東和平が再生し,イスラエルによるパレスチナの占領が終わり,近隣諸国が平和的に繁栄できる未来を築くチャンスがきた,と訴えます.
もちろん,日本の将来も,政治指導者たちの選択によって大きく変わりつつあります.
FT January 18 2007
Why Scotland cannot be Ireland
By Martin Wolf
(コメント) 「国籍」とは何か? Martin Wolfは,両親がイギリス国籍を得た.それは自然であり,満足している,と言います.しかし,そのイギリスに分割論が強まっている? イングランドとスコットランドに分割する話です.
イギリスと国境を接する英語の国として,スコットランドはアイルランドの成功を模倣したいのです.しかし,Wolfは反対します.社会福祉,税率・財政移転,北海油田,ユーロ,などが焦点となっています.
FT January 19 2007
China’s anti-satellite missile test criticised
By Demetri Sevastopulo in Washington, Mure Dickie in Beijing, Jean Eaglesham in London, Mariko (コメント) 中国の軍備拡大について,私は容認し,地域的・国際的な安全保障システムに包括する政策を支持していました.同時に,中国が軍備拡大することを理由に,日本の政治が「右傾化」し,安全保障のジレンマを増幅する余地をアジアに許すべきではない,と思います.
だからといって,中国が宇宙空間で軍事技術を開発したり,強力な海軍や潜水艦を増やしたりするのを支持する,ということはありません.アメリカ,日本,イギリス,オーストラリアなどが,ただちに抗議しました.
これも,新しい国際秩序の中国式設計でしょうか?
Sanchanta in Tokyo and Neil Buckley in Moscow
China sets off a new round of Star Wars FT January 19 2007
JOSEPH KAHN U.S. Dominance in Space Challenged by China’s Test NYT January 19, 2007
Rob Watson China test sparks space arms fears BBC 2007/01/19
M K Bhadrakumar China begins to define the rules Asia Times Online, Jan 20, 2007
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The Economist, January th 2007
A chance for a safer world
The United Nations: Mission impossible?
Peacekeeping: Call the blue helmets
China: Coming over the horizon
Mormons: A modern prophet goes global
Manpower: The world of work
Emerging markets: The global gusher
(コメント) 新しい事務総長が解決するべき重要課題を示しています.アメリカとの距離感.安保理改革.常任理事国の拒否権.その他の投票形式.冷戦終結後の,平和維持活動の拡充.国連軍をどうするか? ・・・まるでIMFの介入とSDRsのようです.ポール・ケネディーは,拒否権があるから,主要所国も安保理から離脱しないのだ,と評価します.
中国に大規模な海軍は必要か? 大陸間弾道弾や原子力潜水艦,攻撃型人工衛星が必要か? アメリカがそれらを保有するのだから,中国にだけ悪い,とは主張できません.軍備拡大競争を回避するためには,交渉の積み重ねと制度化,などが必要です.イラクでも,アジアでも,国連軍の介入が必要です.
モルモン教徒は世界中で布教していますが,Manpower社は世界の主要諸国で起きた労働市場の構造変化に対応して,さまざまな労働力の調達を世界化しつつあります.それは,また,ますます制御しにくくなる世界資本の供給メカニズムと,どのようにしてか,交差するのでしょう.タイ政府は資本取引(しかし,株式を免除)を規制し,韓国政府は外貨建て債務に対する預金準備率を引き上げ,中国政府は短期資本取引を禁じています.それが誰のために行われ,また市場にどのような影響を及ぼしているのか?