IPEの果樹園2006
今週のReview
12/18-12/23
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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イラク政策の見直し1・2, アメリカの覇権は終わった, アメリカ人認定試験,
ポールソン訪中, ナーランダ大学, ドル安1・2, 国際通貨システムの改革
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
WP Thursday, December 7, 2006; 12:00 AM
Reining in Military Contractors
By Michael A. Cohen and Maria Figueroa Kupcu
The Guardian Friday December 8, 2006
Alternative endings
Conor Foley
LAT December 8, 2006
It's still about oil in Iraq
By Antonia Juhasz
NYT December 8, 2006
Set a Date and Buy Some Leverage
By THOMAS L. FRIEDMAN
The Guardian Saturday December 9, 2006
A revolt against broken forms of government
Martin Kettle
The Guardian Saturday December 9, 2006
The fabulous Baker boys
Robert Zelnick
(コメント) ベーカーとハミルトンらによるISGの報告書は,その後も波紋を広げています.イラク占領はどうなるのか? 現状を打開する斬新なアイデアは無いでしょうか?
民間の軍事請負企業に委ねる,というのも一つです.アメリカ軍はイラク軍の顧問やハイテク兵器の使い方を教えるだけで,実際の軍事行動は民間の傭兵たちが担当するでしょう.しかし,戦争をビジネスとして莫大な利益を上げる者が,各国の政治を侵食するのは確実です.
戦争ではなく,国際法に頼る,というのも斬新です.テロや領土,宗教対立,などについて,一方的な軍事力の行使が解決策ではなかった以上,国際法がもっと注目されるでしょう.独裁者も,常に,国際的な監視と告訴を免れないのです.
そもそも石油の地理的遍在が政治不安の源であり.軍事力による領土や秩序の再編を繰り返させるのです.政治家たちはそのことを認めないけれど,ISGの報告書は「アメリカの石油権益を守ること」に正直です.もっと他の方法で守れるか? という問題です.たとえば,国際石油資本による油田開発への参加です.
アメリカ撤退の期限を定めることがISGの解決策で鍵となります.それをテコとして内戦を終結させる,と考えます.しかし,そんなにうまく行くか? イラクはスンニー派のシリアとシーア派のイランが介入する激しい内戦に向かうだけです.そして,その事実こそがテコになる,とFRIEDMANは考えます.
あるいは,イラクの教訓とは,アメリカ政府もイギリス政府も,その能力はこの程度でしかなく,侵攻と占領によって混乱を極めてしまった,ということです.賢明な撤退策を実行できる,と望むことは難しいでしょう.
中東和平はどうでしょうか? アメリカが再び中東和平に積極的に乗り出すことは,この地域を安定化し,イラクの治安にも協力する勢力を増やすでしょうか? あるいは,失望と不安定,次の戦争と反米デモを招くだけ?
NYT December 10, 2006
After the Fall
By DAVID BROOKS
WP Sunday, December 10, 2006; B01
Even If We Leave Now, We'll Be Back
By David Rothkopf
The Guardian Monday December 11, 2006
A feeling of deja vu
Conor Foley
LAT December 11, 2006
Baker-Hamilton's fine print: Stay in Iraq
Niall Ferguson
LAT December 13, 2006
Throw the Iraq report in the trash
Max Boot
WP Wednesday, December 13, 2006; A21
Dying for 'Maybe'
By Richard Cohen
LAT December 14, 2006
Iraq needs a Pinochet
Jonah Goldberg
(コメント) DAVID BROOKSは,「第二次30年戦争」と呼びます.アメリカ軍が撤退することで,長期におよぶ宗教戦争が始まります.この戦争の主体はヒズボラやマフディ軍団のように,国家ではなく,信仰集団です.国家間システムが崩壊し,その真空状態において,他の社会集団が権力を奪い合っています.新しい指導者たちが登場して,20世紀的な秩序の基盤を破壊します.
米軍の・・・再展開 ・・・減員 ・・・脱出 ・・・いずれイラクと中東への軍隊派遣が復活する,とDavid Rothkopfは考えます.アメリカは,愚かな指導者だったから軍隊を送ったのではなく,経済的・政治的な要因が働く結果として,決断したのだから.今も,それらは変わらない.石油供給についての不安,イランと反米勢力,大量破壊兵器の拡散,中東和平の混迷,・・・ 第三次湾岸戦争は避けられない.
Conor Foleyは,ISGの報告に接して,イギリス政府の失敗を考えています.一握りの閣僚たちが,イデオロギーによって決定を行い,情報を操作した,と.そして,もっとコソボやダルフールへの介入や治安回復に失敗した経験から学ぶべきだった.
Niall Fergusonによれば,ISGが薦めたのは,米軍の撤退ではなく,将来もイラクに残留する,という合意です.アメリカ政府は,軍事力よりも外交的な説得に重心を移すでしょう.しかし,そのメッセージは共通なのです.すなわち,「アメリカ軍のいないイラクがどれほど危険であるか,近隣諸国は理解しなければならない.」 それを回避するために協力せよ.
Max Bootによれば,ISGはすべて「たわ言」です.すべてゴミ箱に投げ捨てるべきです.9・11で世界認識を変えたアメリカ人に,再び平和への希望を持って,天使たちが舞い踊る世界へ戻ろう,というわけか? 彼らの願いをかなえる天使はどこにもいない.
「できるだけ早くイラクから抜け出せ」 この最も現実的な選択肢を示さないことにRichard Cohenは不満です.アメリカはいずれ撤退するしかないし,内戦は続くしかない.アメリカ軍撤退後のイラクを正確に予測することは誰にもできない.湾岸戦争において,ブッシュの父はとどまって,サダムを打倒しておくべきだった.今,息子はすぐに撤退するべきだ.しかし実際は,かつて支配の「ベトナム化」を図ったように,イラク軍を増強しています.
イラクを平和にするには,まず独裁者を立てることです.フセイン,ピノチェト,カストロ?
The Japan Times: Thursday, Dec. 7, 2006
America's unipolar moment has ended
By DOMINIQUE MOISI
WP Thursday, December 14, 2006; A31
Farewell to Pax Americana
By Robert J. Samuelson
(コメント) アメリカの覇権による平和と繁栄,という時代は終わったのでしょうか? イスラエルと韓国の行動を見れば,世界が,一極型から多極型へ,変化しつつあることがわかる,とDOMINIQUE MOISIは考えます.
レバノンとの戦争で成果を得られなかったイスラエルが,最近,頼るようになったのはヨーロッパです.また,北朝鮮との核廃絶と融和を交渉するために,韓国が頼るのは中国です.ソビエト崩壊で生じた,アメリカによる一極型の世界は,急速に失われました.しかし,多極型世界はド・ゴール派の予想に反して,安定したものではないでしょう.それは,中国,インド,ロシアが,まだ世界の新しい秩序を指導し,安定化する準備も,それだけの能力も欠いているからです.彼らはキャッチ・アップすることに夢中で,国益だけを主張し,他国を気遣う姿勢を欠いています.
またアメリカにとっては,その基本的な価値観から,同盟を組む相手はヨーロッパしかいません.しかしEUにはその役割を担う自信が無く,積極的な姿勢を示すことができません.EUもまだアメリカを必要としています.
Robert J. Samuelsonも2006年を,パックス・アメリカーナ終焉の年,と考えています.戦後の国際秩序を支えたアメリカは,ついに,その能力と意志を失ったのです.イラク占領の失敗と道徳的な堕落に加えて,中国の台頭,核の拡散,自由貿易の後退,社会保障のコストによる軍事費の圧迫,アメリカの伝統的な同盟国であるヨーロッパと日本の衰退.
パックス・アメリカーナはすばらしい結果を示している,と.戦争は少なく,民主主義体制と経済的繁栄が世界に広まりました.しかし,冷戦終結で歴史が終わったと楽観したのは,アメリカのパワーを経済規模や軍備によって他国と比較し,過大評価したからでした.「他者が自分の望むことを行う」という意味での,アメリカのパワーは限られていたのです.イラク国民は,アメリカに軍事的に敗北してからも,アメリカが望むものを与えてくれませんでした.思いのままに破壊できても,思い通りの秩序を築けるわけではないのです.冷戦が終わって同盟関係が弱まり,世界中で嫌われるようになったアメリカは,その役割を放棄することは無いとしても,国際秩序を決める覇権国ではなくなりました.
IHT Friday, December 8, 2006
We must do better
Kofi Annan
(コメント) 国連のアナン事務総長は,10年の任期を振り返ります.彼の目標は,「人権」を,「開発」や「平和」とならぶ,国連の第三の使命にすることでした.国連はその責務を果たすために行動しなければならない.1.大量虐殺を放置してはならず,それが起きる前に行動することが重要だ.また,2.犯罪者が免責されるような世界は終わらせるべきだ.独裁者であれ,アメリカ軍であれ,国際法から免れるべきではない.3.テロは人権のあからさまな侵害だ.他方,テロを防ぐために取られる対策が,人権を否定するようなものであってはならない.
アナンは国連を,その目的のために人民に尽くす組織にしようと務めてきた,と述べます.人は個人として真空の中に存在するのではない.人は国家やさまざまな制度の中に生きているし,人にはエスニシティーや信仰など,さまざまな属性がある.だからこそ,一人ひとりが個性を尊重され,可能性を伸ばす世界であるために,違いを超えて,人権を保障することが重要なのだ,と.
WP Monday, December 11, 2006; A19
What I've Learned
Kofi Annan
およそ50年前に,アフリカからミネソタに来て学び始めて以来,私は学び続けてきた.マイナス15度の気温に接して,耳を覆う防寒具(earmuff)を付けたように.21世紀に諸国の共同体を築くため,私が得た教訓を示そう.
1.核拡散,気象変化,疫病,テロ,・・・ 現代では,誰もが互いの安全に責任を持っている.国連は,ジェノサイド,戦争犯罪,エスニック・クレンジング,人道に反する犯罪,なども,なくそうと努めてきた.
2.互いの経済運営,グローバリゼーション,貧困解消にも責任がある.
3.安全も繁栄も,人権や法の支配を基礎にしている.
4.政府は,その行動を,こうした原則に照らして説明する責任がある.それは,強力な政府や機関に,特に強く求められる.
5.国家は,国際機関においてのみ説明を求められる.それゆえ国際機関は民主的に組織され,弱小で貧しい国も,強大で裕福な国と同様に,国際機関において発言する力を持たねばならない.
アメリカ人も,人類の他の多くの者と同じように,有効に機能する世界システムを必要とする.アメリカの指導者はその責任に応えてほしい.
Laura Trevelyan All change at the UN BBC 2006/12/09
WARREN HOGE U.N. Chief Takes Parting Shot at Bush’s Diplomacy NYT December 11, 2006
Annan chides US in final speech BBC 2006/12/11
(コメント) BBCのLaura Trevelyanは,ニューヨークの国連ビルで退任演説を行ったアナン事務総長と人々の雰囲気を活写しています.
「アナン氏とその優雅な妻Naneは国連への忠誠心と同じものである.居合わせた外交官たちが本心では何を考えていたかは別にして,華麗で,威厳のあるアナン氏には人気があった.アナン夫妻が働く部屋には,外交の盟主たちが押し寄せた.ここに来るゲストや配偶者は関心を集め,子供たちにまで及んだ.もし潘基文が退屈になれば,アナンのことを思い出すだろう.」
アナン事務総長の講演は,アメリカへの批判と受け止められました.アメリカ自身が国際機関を創り,必要としてきたはずである,とアナン氏は訴えました.アメリカが国連に深く関与してくれたときは,互いが望ましいと思う方向に世界を変えることができた,と.
Off the fence LAT December 8, 2006
Martin Feldstein Immigration is no way to fund an ageing population FT December 13 2006
Kavi Chongkittavorn Thailand's Cynical Ploy on Burmese Migrant Workers The Nation, 13 December 2006
(コメント) アメリカの大統領になるよりも,正しい移民政策を作るほうが難しい? ヨーロッパや日本は,高齢化と人口減少がもたらす財政破綻を,移民流入によって解決できません.タイには,およそ60万人の非合法移民労働者がいる,と推定されます.ビルマ,ラオス,カンボジアなどからの移民・難民で,最低賃金の3分の1で働いています.
LAT December 8, 2006
Rosa Brooks
(コメント) 安倍政権が,中韓訪問によって人気を博して以来,低迷してきた支持率を高める会心のヒットである(!)はずの教育基本法改正が実現しました.しかし,それが国民にとって良いものである,という確信は得られません.むしろ,これは何なのか・・・? という疑念を抱きます.戦時国家の統制色が復活するのではないか? という不安はもっともです.
さて,Rosa Brooksの論説は,移民を選別する「アメリカ人テスト(認定試験)」を夢想しています.移民の誰がアメリカ人となるにふさわしいか,本土防衛省と移民局が協力してテストするわけです.「アメリカの民主主義について」,「アメリカの歴史」,「三権分立とは何か?」,「法の支配とは何か?」,・・・ まるで,非合法で地球に戻ったレプリカントを人間から区別するため,ブレード・ランナーがテストを行ったように.
このテストを,新しい移民だけに限る必要もないな,とBrooksは考えます.たとえアメリカに移住して,10代目のアメリカ市民であっても,それが新しい移民よりも,アメリカについて多くのことを知っている保証にはなりません.何も分かっていない生まれつきのアメリカ人が,それでも,投票する資格などあるのか?
学校の成績や雇用状態,資産,などで,アメリカ人にふさわしくないと思えば,市民を大量に国外追放するのでしょうか? ついでに,憲法を無視するホワイト・ハウスの住民たちも国外追放してはどうか? ラムズフェルドはドイツに追放されて,アメリカで命じた拷問の罪で告発されるでしょう.ブッシュは「ファンタジランド」,チェイニーはトランシルバニアへ強制送還です.
安倍首相は,新しく作った政府公認「愛国心テスト」で教員たちの適性を判断する前に,自分や閣僚たちを採点してみることですね.
LAT December 8, 2006
Speaking frankly about Israel and Palestine
By Jimmy Carter
WP Tuesday, December 12, 2006; A27
It's Not Apartheid
By Michael Kinsley
(コメント) カーター元大統領は,そのカーター・センターにおいて,過去3回(1996年,2005年,2006年)のパレスチナ選挙をモニターしました.
カーター氏は,政治エリートの外から大統領になった人物です.さまざまに批判されましたが,正直である,という点で,他の大統領に劣ることはないでしょう.アメリカの主要メディアが,パレスチナ人の受けている迫害と占領下の町の苦境を伝えることなく,イスラエルとパレスチナの間でバランスを取る政策に同意している点を,新しい本("Palestine: Peace Not Apartheid")で批判した,と述べています.それは,あたかも,アパルトヘイト政策を強いる白人政権と黒人の解放運動との間で,バランスを取るようなものです.
Michael Kinsleyは,こうしたカーターの主張を,強く非難しています.
NYT December 8, 2006
Blood, Toil, Tears and Nukes
The Guardian Tuesday December 12, 2006
How Gulf states could start new nuclear race
Simon Tisdall
(コメント) NYTは,ブレアが,これまでのような新しい発想ではなく,旧い発想によって核兵器の更新を支持し,NPTの理想ではなく,北朝鮮やイランと同じ主張を行った,と失望します.それは湾岸地域でも核の連鎖を招くでしょう.
Chris Giles Chinese to climb ranks of world’s richest FT December 8 2006
David Gosset The Dragon's metamorphosis Asia Times Online, Dec 9, 2006
John Feffer How to 'congage' with China Asia Times Online, Dec 9, 2006
(コメント) 中国の人口は多く,その経済は急速に成長しているから,近い将来に,世界の最富裕層も主として中国人で占められる時代が来るでしょう.日本など,すぐにも抜かれる,ということです.
中国の人権尊重や政治システム改革も着実に進んでいる,将来の民主化も議論されている,とDavid Gossetは強調します.それには,中国構内の事情だけでなく,台湾問題や主要国の姿勢も関係するでしょう.
John Feffer は,アメリカの対中政策を'congagement'と呼びます.つまり,「封じ込め」と「関与」とを組み合わせた姿勢です.アメリカ政府内部でも意見が分かれています.中国自身も,文化大革命の頃と比べて,対米姿勢は大きく変化しました.中国経済のダイナミズムは,内外において外交政策の見直しを避けられないものとしています.
しかし,今も中国は一党支配体制で,独立した労働組合もありません.社会保障制度も整備されておらず,不満は街頭での抗議活動として示されます.さまざまな国内問題への答えは,今のところ経済の拡大を持続することであり,それは対外的な安定に依存しています.
Susan Schwab Chinese voices that oppose reform grow louder FT December 10 2006
Alan Beattie and Richard McGregor China faces fresh tasks on trade FT December 10 2006
Mitchell Landsberg In China, Marx and Trump collide LAT December 10, 2006
David R. Francis US tries to tame the Chinese tiger CSM December 11, 2006
(コメント) 中国のWTO加盟5周年について,アメリカ通商代表のSusan Schwabがプラス面とマイナス面を評価しています.現在の課題は,知的所有権を保護し,間違った産業政策を破棄させ,為替レートや金融政策を是正して極端な貿易不均衡を減らすことだ,と考えます.
中国の巨大なショッピングモールを楽しみながら,今でもマルクスのことを話し合えるか? マルクス主義のスローガンは現実に合わないのではないか? ・・・否,そんなことはない,と女子学生は答えました.理解することが難しいだけだ.ショッピングモールを歩く人たちだって,ほとんど何も買わない.彼らの多くは貧しいから.
FT December 11 2006
ポールソンが示した政策課題は,アメリカの利益であるだけでなく,中国の利益にもなることである.彼は,慎重に,騒々しい話題である人民元の為替レートを議論から外し,中国がバランスの取れた成長を実現するための中心課題に焦点を当てた.
その鍵は,中国の貯蓄率を下げることである.それは巨額の貿易黒字と過剰な設備投資の主な原因となっている.社会保障制度を整備し,家計の貯蓄率を下げること.企業に課税し,配当を促すこと.同時に,中国は金融改革を急ぐべきだ.それは低金利で預金されている貯蓄に幅広い選択肢を与え,同時に,企業のリスク評価を介して投資を抑え,脆弱な金融システムを強化する.
発達した金融インフラは市場に依拠した金融政策や変動レート制に必要な条件である.それが整備されるまで,中国は多くの歪みと是正によって経済運営を混乱させる.それは国際摩擦を強めるだろう.
中国の洗練された政策担当者たちはこのことを知っている.ポールソンは彼らを励まし,アメリカからの圧力に屈したと見られないように,行動を急がせることだ.また中国側は,内部の対立を超えて,中国の長期的な国益を支持することだ.もし彼らが失敗すれば,妥協する余地の少ないアメリカ議会の指導に従わされる危険に直面する.
IHT December 12, 2006
It's not just China, Mr. Paulson
Philip Bowring
Asia Times Online, Dec 13, 2006
Paulson in China: Tread softly, forget the big stick
By Jing-dong Yuan
Dec. 14 (Bloomberg)
Paulson's China Obsession Misses the Big Picture
William Pesek
Asia Times Online, Dec 14, 2006
Paulson, China and the turmoil beneath
By Henry C K Liu
LAT December 14, 2006
Chatting with China
(コメント) ポールソンやバーナンキの北京訪問にどんな意味があるのか,いくつかの論説が載りました.これは,1930年代の世界経済会議や1980年代の日米構造協議を思い出しますが,中国とアメリカの「第一回 経済戦略会談The Strategic Economic Dialogue」です.
しかしPhilip Bowringは,ポールソンらの使節団は,北京だけでなく,東アジア諸国の首都と,産油諸国にも回るべきだ,と指摘します.タイやシンガポールが自国通貨の強さを誇る時代が来なければなりません.そのような説得は,日本と中国が通貨を増価させることが条件です.また,中国だけでなく,サウジアラビアやロシアが同様に黒字を問われます.
Jing-dong Yuanは,これがアメリカ企業による中国市場への進出を実現するミッションである,と考えます.そして,アメリカの過剰消費を中国が責められる理由は無く,中国側としては改革に取り組み,人民元の増価も許すようになった.中国市場自体が世界で最も急速に拡大することをアメリカ側も注目している,と指摘します.その通りだと思います.
William Pesekも,ポールソンは中国に執着しすぎではないか,と中国問題の過大な取り上げ方を批判します.インドやメキシコも重要ではないか? もし対外不均衡やドル安が心配なら,日本とアメリカの消費者を説得するべきだ,と.しかし,日本政府がPesekの考えるほど,日本を通り越して中国へ向かうアメリカ政府の大派遣団を,喜んでいるとは思えません.
Henry C K Liu は,1986年9月2日にケ小平がアメリカのテレビ番組においてMike Wallaceの質問に答えた内容を紹介しています.「貧しい共産主義は豊かな資本主義よりも好ましい」という,文化大革命の頃の考え方を私は否定した,とケ小平は述べました.「貧しい共産主義,などというものは無い.」「社会主義的な社会においては,すべての人民のために豊かさを分かち合う.」 率直な,力強い言葉です.
しかし,著しく貿易に依存した成長の過程で,貧富の差は拡大し,大規模な失業も生じました.社会主義の原則は変えないが,豊かさを分かち合うことは難しい,と現在の指導部は認めています.対米貿易摩擦はこうした中国自身の矛盾を直撃します.Liuはその全体を見て,知的所有権やWTOではなく,国際金融アーキテクチャーの革新を求めます.
LATは,こうした大交渉団を公式に派遣することで,問題解決の期待を高めることは,一方で中国側の政治的圧力を拒む姿勢,他方でアメリカ議会の妥協しない保護主義,を強めるだけではないか,と心配します.むしろ問題をWTOに委ねるべきだ,と.
FT December 12 2006
Unstoppable yet unsustainableBy Richard McGregor
Politics: Push to bring the provinces into lineBy Richard McGregor
Economy: Difficult to slow the behemothBy Alan Beattie
Trade: World Trade Organisation membership is a successBy Alan Beattie
Regulation: obscure words from opaque ministriesBy Mure Dickie
Automotive sector: Homegrown groups take a larger shareBy Geoff Dyer
Private sector: Thriving but faced with uncertainitiesBy Geoff Dyer
Overseas investment: Hunt for resources in the developing worldBy Victor Mallet
(コメント) FTの中国特集からです.中国の成長は,「止めることができないし,持続することもできない,矛盾した複合物である」という指摘に,興味を持ちました.
NYT December 9, 2006
By JEFFREY E. GARTEN
(コメント) これも安倍首相に読んでほしいです.核武装や憲法9条の破棄を議論するより,アジア各地から集まって一緒に学ぶ秀才たちを育てる計画に,日本政府が指導的な役割を果たしてください.インド北部,ネパールに近い古来の大学Nalanda Universityを復興して,ハーヴァードやイエール,ケンブリッジに並ぶような世界的な大学にして,仏教に限らず,さまざまな分野の指導者とそのネットワークを育てることです.
問題は資金集めではなく,日本の政治が示す想像力と意志です.“But the bigger issue is imagination and willpower.”
LAT December 10, 2006
Don't colonize the moon
LAT December 10, 2006
A space station with good parking
By Tim Cavanaugh
(コメント) 石油に代わる資源が見つかったり,IT産業の死命を決する技術が宇宙空間での生産に依存したり,あるいは次世代の安全保障や環境保護が月面基地の拠点で決まるとしたら,・・・次の覇権国は,月の領有をめぐって戦争する結果,登場するのでしょうか?
NYT December 10, 2006
79 Steps to Victory in Iraq?
Endangered Advisers
By ANDREW EXUM 兵隊を減らし,軍事顧問を増やすのは危険だ.撤退に関しては軍事専門家に任せるべきだ.
Democracy Defeated
By RICHARD PERLE 報告書には証拠が無い.イランやシリアはアメリカの望む秩序を妨げている.アラブ世界に国民を代表する民主的政府を広めるというブッシュ大統領の使命を,報告書は反映していない.
Don’t Get Sectarian
By MADELEINE ALBRIGHT アメリカはスンニー派とシーア派の歴史的な抗争に加担しないことを明確にした.内戦に関わらないほうが良いが,関わるとしたら勝者を支持するべきだ.しかし,イラク国内ではシーア派が多数であるが,地域全体では逆になる.それゆえアメリカは,境界を定めて,和平を合意したすべての勢力を支援する.
The Last War
By FOUAD AJAMI 中東の戦争の歴史に加わった最新の一つに過ぎない.
Find New Allies
By LESLIE H. GELB 報告書は難しい選択をしなかった.イラク各派が権力を分かち合う計画に悲観して,アメリカにはダメージを限定する作戦を推奨する.
DANIEL ALTMAN As the Dollar Falls, Some Dominoes Don’t NYT December 10, 2006
Michael Bluhm Slumping Dollar Has Nasty Surprise in Store for Lebanese Consumers The Daily Star, 11 December 2006
Sebastian Mallaby Cracking the Currency Puzzle WP Monday, December 11, 2006; A19
The decoupled pound is a better currency FT December 12 2006
(コメント) ドル安に対するさまざまな反応が起きていますが,正しい予測は誰にもできません.レバノンではドルが流通しており,戦争だけでなく,ドル安にも苦しみます.ドル安はイギリス経済を苦しめるより,ユーロ高によって,独自通貨としてポンドを持つことのメリットを発揮しているようです.
Sebastian Mallabyは,中国の貿易黒字や為替レートへの介入を批判します.貿易に関してはWTOが各国の行動を厳しく監視し強制するのに,為替レートに関しては誰もそのような監視や強制を行っていない,と考えます.為替市場への介入政策についても,グローバリゼーションに見合った基準を示して,各国による相互の監視を強めるべきだ,と.
FT Forums | December 13, 2006
FT Home> Martin Wolf> Economists' forum
(コメント) Dooley, Folkerts-Landau and Garberのブレトン・ウッズ・システムUと最近のドル安をめぐって,世界の国際通貨専門家たちは何に注目するのか? 金融市場や政策の歪み,中国政府の成長・雇用戦略と景気過熱への判断,・・・ FTのフォーラムに登場するメンバーたちの論争から次の秩序を予想しませんか? Martin Wolf, Jeff Frankel, Brad Setser, Fred Bergsten, Andrew Smithers, Michael Dooley, Ronald McKinnon, など.
FT December 14 2006
Rethink the exchange rate system
By Vijay Joshi
外国為替市場の突風は,おそらく,世界的な不均衡が解消される過程に入ったことを意味している.それはまた,世界の為替レート制度が,システムとして,その目的にふさわしくないことをも意味している.
為替レート制度の選択については,レッセ・フェール(自由放任)を容認する,というのが現時点の合意である.それぞれの国が一方的に,その目的と条件に照らして,制度を選択する.しかし,この何でもありのアプローチはシステムとして欠陥を孕む.小国の選択は他に影響しない.しかし,主要国(a key country)の選択はそうではない.その為替レート制度と政策が他の主要諸国に影響し,その他の世界には重要である.もし主要諸国が互いの為替レートに満足しないなら,経済的・政治的な対立が生じるかもしれない.さらに,もし為替レート制度が不均衡を,適時,是正できないなら,無秩序な調整と,その他の国を巻き込んで由々しい結果をもたらす恐れがある.
その顕著な例が現在の主要国間で起きている.すなわち,アメリカ,ヨーロッパ,日本,中国の間で対立が起きつつある.アメリカの経常赤字は大幅に減らすべきだと広く合意されている.そのためには,アメリカが貯蓄を増やし,その他の世界が支出を増やす必要がる.しかし,実質為替レートも変化しなければならない.市場がドルの減価をもたらすとしよう.もし日本や中国が,許されているように,それでもドルに対する為替レートを維持する場合,他の国,特にアジア諸国は同じようにするはずだ.それゆえユーロの大幅な実質的増価が生じて,ヨーロッパ経済に深刻な打撃を与えかねない.為替レート戦争が起きて,保護主義も復活する.こうして,主要諸国が何でもありを主張することは原則として適当でないと分かる.彼らは合意(協定)によって為替レート制度を選択しなければならない.この点の重要性は現在にとどまらない.これから中国が,そしてインドなどが,主要国になるだろう.実質為替レートの主要な変化は生産性上昇率の差を反映するべきだ.為替レートの円滑な調整は,ノン・システムでは起こらない.
では主要国の為替レート制度をどうするべきか? 固定為替レートや「ハードな」目標相場は,金融政策の自律性を奪う点で,政治的に受け入れられないものである.大幅な,非対称的なかく乱,すなわち,すでに言及されているような成長率の差,が国内物価によって調整される.それは効率が悪いし,耐えられない.
だから主要諸国は変動させる必要がある.(中国の場合,そうなるには時間がかかる.漸次,交渉によって為替レートが変更される.) しかし,管理されない変動レートは時に為替レートの「群衆行動“herd behaviour”」をもたらす.それは1984−85年のドル・バブルのように,明らかに常軌を逸する.
二つの現実的な選択肢がある.主要諸国の為替レートは,ほとんどの期間,管理されずに変動しているが,適時,協調介入が行われる.あるいはジョン・ウィリアムソンが示唆するように,レファレンス・レートが適時合意されて,市場為替レートがレファレンス・レートに向かうようにだけ,介入が許される(しかし,介入の義務はない).どちらの枠組みも,為替レートと,場合によっては,マクロ経済政策の協調について,主要諸国が定期的に話し合う必要がある.通貨に関する正式なフォーラムは今のところ無い.G7は中国をふくまず,今ではシステムにとって重要でない国をふくむから,適当ではない.
IMFで良いか? IMFが設立された動機の一つは,為替レートの対立を回避することであった.しかし1978年,協定の第二次改正以後,そのような使命を放棄してしまった.この修正は為替レート制度の選択が自由であると公認した.それはまた「為替レートの操作」を禁じているが,この言葉が明確に定義されたことは無く,死文と化している.さらにIMFには主要諸国に政策を要請する手段が無い.情報や専門家を提供し,「残酷な真実を告げる」ことはできる.しかし実際に行われるのは,主要国間における現実的な合意しかないだろう.
LAT December 11, 2006
Calming an anxious middle class
By Lawrence H. Summers
FT December 14 2006
The world's challenge
(コメント) 新しい議員を迎えるアメリカ議会が,経済成長にもかかわらず富の分け前を得ていない中産階級の不満に強い関心を示すことをSummersは注意します.労働者たちは生産性上昇の利益を十分に得ておらず,企業とその重役たちに利益が偏っていることを知っています.新しい議会はポピュリズムに傾くでしょう.
しかしSummersは,市場システムや自由貿易,大企業,グローバリゼーションに反対することは中産階級の利益にもならない,と考えます.税制を見直し,重役たちの報酬を公開させ,労働者への保険支払を怠った企業を告訴する,など,さまざまな方策がある,と指摘します.そしてビジネス界も,それに応えなければなりません.
FTは,世界的な課題として,グローバリゼーションのマイナス面を緩和するように求めています.
Dec. 11 (Bloomberg)
The `Skyscraper Curse' Is Worth Watching in 2007
William Pesek
(コメント) 「石油の呪い」に代わって,今度は「摩天楼の呪い」というわけです.ブレトン・ウッズUは,金融不安から,土地・不動産バブルで終わると予想します.
Stephen Cecchetti Federal Reserve may have hit speed limit FT December 11 2006
Bemused Bernanke FT December 11 2006
Caroline Baum The Fed's Vision Is Reason to Worry Dec. 11 (Bloomberg)
Of Prices and Paychecks NYT December 13, 2006
(コメント) バーナンキ議長が難しい経済運営の舵取りを担っていることを,住宅市場のバブル崩壊,ドル暴落の警報,経常収支赤字と議会の保護主義,などにさらされている今こそ,強く感じているはずです.ブッシュ政権の弱体化と経済政策の混乱を恐れているかもしれません.
William Pesek Bank of Japan's Headwinds Complicate Recovery Dec. 12 (Bloomberg)
(コメント) 他方,福井日銀総裁はどうでしょうか? 日本の成長率が低いままであることに,誰よりも失望しているのではないか,とWilliam Pesekは指摘します.いまだに金融政策の自由を得られないからです.市場との対話は少なく,追い風も吹かないままです.
CSM December 11, 2006
Reforms are helping Africa's diamonds sparkle again
By Marcus Noland and J. Brooks Spector
Asia Times Online, Dec 15, 2006
Oxfam calls World Bank report 'inconsistent'
By Mattias Creffier
(コメント) アフリカのダイヤモンド鉱山が民兵組織と内戦の資金源になっていることを,ジャーナリズムが批判し,政府・企業・NGOが協力して,ボイコットするだけでなく,生産や流通のシステムから彼らの資金源となるルートが排除されるようになった,と伝えています.
他方,オックスファムのEtienne De Belderは,発展途上諸国に市場自由化や自由貿易を要請する世界銀行を批判します.輸出向けの成長モデルは,サブサハラ・アフリカで貧窮化を進め,インドネシアでは森林破壊を進めた.中国やインドが成功したのは巨大な国内市場があるからだ.規制を緩和するだけではグローバリゼーションが増幅する社会問題や環境破壊を解決できない.発展途上諸国の多くの企業はグローバル競争に生き残れず,不平等化が加速する.対等な競争による自由貿易の利益は期待できない,と.
FT December 12 2006
Europe is losing faith in its most successful policy
By George Parker and Daniel Dombey
(コメント) ヨーロッパは市場規模が小さすぎる,とジャン・モネは考えました.しかし,大市場を目指すEUの拡大は政治を難しくしました.2004年のビッグ・バンで加盟国は15から25に増え,人口もアメリカの約2倍,4億9000万人になりました.さらに,トルコ,ベラルーシ,ウクライナも加盟するのか?
EU拡大は失敗ではなかった,とParker and Dombeyは考えます.労働市場は弾力性を得て,成長も高まり,失業者はようやく減少に転じました.確かに中欧やポーランドの政治不安はありますが,EUはそのソフト・パワーによって地域を安定させ,成長を広めることに成功しています.ところが旧加盟国では,国民の支持を失いました.市民たちは,拡大する政治から取り残されたのです.
イギリス,イタリア,スウェーデン,ポーランドなどの拡大支持派は,共通の加盟条件を問います.他方,フランス,オランダ,オーストリアなどは,EUの拡大をその能力(“absorption capacity”や “integration capacity”)によって決めるよう求めています.
Minxin Pei and Oriana Skylar Mastro How to deal with North Korea FT December 12 2006
William Pesek Let's Send Kim Jong Il Spam, Faux Fur Dec. 13 (Bloomberg)
Mark Seddon A way out of the bunker The Guardian Thursday December 14, 2006
John Feffer China and the uses of uncertainty Asia Times Online, Dec 15, 2006
(コメント) 北朝鮮が6カ国協議に復帰するようです.それは米中間の合意による圧力があったからでしょう.その背後で,中国とアメリカ,韓国は,朝鮮半島の統一と,北朝鮮の体制を安定的に移行させる準備に入ったのかもしれません.東アジアの核ドミノと,北朝鮮の体制崩壊による難民や経済混乱を,彼らは一致して回避することを願うからです.
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The Economist, December 2nd 2006
The falling dollar
The world economy: Rebalancing act
(コメント) ドル安についての考察です.国際収支の不均衡を調整する過程で,適度なドル安は望ましいものです.アメリカ経済にとっては,インフレにとってマイナスですが,もし不況に向かうならドル安は望ましいでしょう.しかし,ドル安が調整として歓迎されるのか,資本市場の変調やドルの国際通貨としての衰退につながるのか,分かりません.中国との話し合いが好ましい結果をもたらすなら,調整過程を制御する良い知らせになるでしょう.
The Economist, December 2nd 2006
Malaysia: Putting the malaise into Malaysia
Multicultural Britain: A nation at ease with bits of itself
Russia and the West: Russia deserves pity as well as fear
Russia and China: When dragons dance with bears
Starbucks v Ethiopia: Storm in a coffee cup
(コメント) マレーシアでも,イギリスでも,ロシアでも,民族や宗教が政治統合と民主化を阻む新しい局面を迎えています.
スターバックのフェアトレードによるコーヒー販売は,本当に貧しい農民たちを助けているのでしょうか? 消費者の倫理観に訴える商品が成功することは,貧しい諸国や農民に,新しい問題を引き起こしそうです.オックスファムはスターバックが農民を搾取している,と批判します.また,フェアトレードの認証・流通システムから排除された貧しい農民はさらに苦境を強いられます.