******************************

IPEの種 12/18/2006

今年亡くなった,作曲家の市川昭介氏を偲ぶ番組をたまたま観ているとき,都はるみの歌う「涙の連絡船」を聞きました.歌が人の心を動かす,と実感します.ちあきなおみ,テレサテン,・・・

The Economistで読んだロシアのことを話しました.政治的暗殺やメディアの統制,資本家たちへの脅迫,街角では人種差別主義者による襲撃.コーカサスでは弾圧と虐殺.近隣の小国に対する政治介入.それでも石油・天然ガスを売った資金が溢れ,貧富の差は拡大し続ける.ヨーロッパやアメリカを黙らせ,パイプラインの敷設では中国と日本を競わせる.

しかし,それはロシア人のせいではないし,資源があるからでもない.イラクと同じように,社会や政治が上手く機能しないからだ,と私は指摘しました.日本はどうなのか? ロシアのようにはならない? 大丈夫だろうか? と問いました.日本社会のここがおかしい,病んでいる,問題だ.社会がおかしいから,異常な事態を強いられている.・・・そんな風に思うことはないでしょうか?

移民のことを話していました.移民は黙らせておけば良い.賃金が少なくても.労働条件がひどくても.彼らは発言できないのだから.彼らは市民ではないし,合法的に働くこともできない.そのままにしておけば良いさ.・・・主要政党が移民たちの声に耳を傾けず,有権者に移民問題を解決するよう論争を指導しなかったため,ヨーロッパでは人種差別的な政治党派が移民論争を支配し,政治的な関心をその他のテーマから奪ってしまいました.

人権や平等というのは,現実ではなく,思想(理想)です.それは社会制度を変え,現実を変えました.かつて少数の貴族や男性しか発言できなかった政治の世界を,その他の身分に拡大し,女性にも開放したのは最近の変化です.もし苦しい労働に従事して社会を支えている人々が,より平等な制度のために発言することを許されず,抑圧されたままであれば,暴力的な衝突や,精神の荒廃が広まるでしょう.

ドル安は続くでしょうか? イラクからの撤退や中東地域の安定化,石油供給を確保しながら,アメリカは中国との経済調整を協力して進める必要があるでしょう.プーチンやチャベス,金正日やアフメドネジャド,メキシコからの移民問題も,ブッシュ政権は心配しなければなりません.考えてみればこうした問題で,日本にできることは,多分,ほとんどありません.アメリカが日本について関心を失うのは当然なのです.

横井先生のゼミ生から,中国の安全保障に関してインタビューを受けました.報道番組のようなビデオを撮る,という面白い企画です.自分のゼミ生たちもやってみたら,と思いました.

1.中国の軍事費が増大しているからといって,直ちにその脅威を意識し,日本の軍備増強や核武装を議論するのは間違いです.中国は世界市場と結びついて成長する道を選択し,世界との相互依存を強めています.国際秩序が必ずしも自国の利益に従わない以上,どの国も相互の影響力を管理したいと考えています.国境を越えて自国の利益を守るために,あらゆる国が軍備を維持しているわけです.中国における世界的な関与・影響力の増大,急速な経済成長,人民解放軍の社会的機能,国内の治安問題,国際的な地位の回復,などは,軍事費の増加を説明する要因かもしれません.

2.中国の政治支配層は,多分,過去の戦争によって日本の侵略を敗退させた(あるいは,武力侵攻も含めて台湾を解放する),という点に支配の正当性を見ているでしょう.あるいは,人類的な「ラブ&ピース」を主張するより,強大な軍事力を示すことで国民から支持される,と考えていると思います.だから日本は,より平和な,経済・社会交流を重視し,協力によって繁栄を分かち合う方向に,中国を変える努力が必要です.台湾海峡における軍事衝突や,アメリカの覇権に挑戦する可能性が無いとは思いませんが,そうならない可能性を広げることもできます.

3.中国の急速な成長は,基本的に,アメリカや日本と同じ世界市場のルールに従うことで実現しています.そして成長は,その過程で,中国の社会や政治システムを変えつつあります.アメリカの覇権は終わるでしょう.しかし,それは中国が世界を支配するからではなく,国際秩序も中国も,ともに変化して,誰もが参加できる新しい秩序に向かうからです.

4.軍備によってではなく,ともに平和と繁栄を分かち合える仕組みを構想する点で,多くのアイデアを競ってほしいです.それがすばらしいものであれば,中国人も日本人も,その実現に協力できるでしょう.

******************************