IPEの果樹園2006

今週のReview

12/4-12/9

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* キー・ワード **********************

国連. ヨーロッパ礼賛. 中国とインド. 核武装. 自由貿易. 世界化するNATO

財務大臣を引き受けた中央銀行家. アメリカ人は買い物を楽しみ,イラクは燃えている

ヨーロッパ民衆の謀反. ポールソン&バーナンキ. 香港ドル. 日本

アメリカ史上最悪のブッシュ外交. メキシコ

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT November 23 2006

United Nations must find freedom to act

By Douglas Hurd

(コメント) 潘基文事務総長によって国連は何か変わるでしょうか? Douglas Hurdは,国連が弱く,分裂して,官僚主義的である,と認めます.しかし,この世界に不可欠である,とも指摘します.200もの国家が集まり,資源を共有し,国際法に依拠した特異な権威を維持している.このような組織は,決して容易に作り出せないでしょう.今年,レバノン,イラン,北朝鮮,ダルフール,パレスチナについて,国連決議が出されました.それらが成功する保証はありません.しかし,現実に国際社会が行動するとしたら,これ以外に道はなかったでしょう.

ところが,その国連が世界政治から消えてしまったことに,現在の政治的混沌があるわけです.世界の安全保障は,国連決議の下で,地域(の共同軍事介入)が確保する,という形が理想ではないかとHurdは指摘します.それは,アジアが北朝鮮に対して模索していることです.しかし,ダルフールに介入するアフリカの連携は見当たりません.バルカン諸国の将来はEUにかかっています.

もしそれが不可能であれば,私たちはアメリカに頼るわけです.アメリカが善意の超大国であると信じて.しかし,それはアメリカの社会や経済が世界から称賛されていたとき,その軍事的な関与に国民が積極的な支持を与えていたときの話です.イラク戦争がその二つを破壊してしまいました.Hurdは,潘事務総長の孤独を,50年前のスエズ危機と重ねます.

イギリスのアンソニー・イーデン首相は,国連軍にスエズ運河の占領を求めました.そして,イギリス,フランス,エジプト,イスラエルを含めて,各国が集まったのです.1956年の国連緊急軍は,アメリカの支持を得たとはいえ,アメリカが命じたわけではありません.それはダグ・ハマーショルド事務総長とカナダ外相のマイク・ピアソン,そしてスカンジナビア諸国が強く主張したものです.

潘基文は,彼らに学ぶべきです.常任理事国の賛成は必要ですが,彼らが十分なアイデアと行動を示すとは限りません.そして,当時はそれぞれの理由で行動しなかった諸国が,たとえば,インド,ブラジル,南アフリカが,今では行動するでしょう.国連決議と国連軍は,常に,新しい試みなのです.


FT November 23 2006

Reasons to be cheerful about Europe

By Dan O’Brien and Aurora Wanlin

The Japan Times: Thursday, Nov. 23, 2006

Global mission for the EU

By GEORGE SOROS

FT November 28 2006

Europe must not lose sight of why it still matters

By Mark Mazower

(コメント) Dan O’Brien and Aurora Wanlinは,ヨーロッパの悲観論,特に経済的な無能さ,「硬化症」について騒ぐ政治的議論を批判します.EU統合は支持されているし,「旧いヨーロッパ」が投資の中心地として評価されています.その証拠は,ヨーロッパ企業の躍進と,直接投資の流入,企業収益の回復です.

確かに,労働生産性を高める必要や,もっと雇用を創出しなければなりません.しかし,アメリカ・モデルや日本・モデルを賛美しすぎることは,そのマイナスを無視し,過大な期待を描いているだけです.ヨーロッパは自分たちのモデルで成長できるし,改革を進めることができる,と.

GEORGE SOROSは,「開かれた社会」という人類の理想をヨーロッパが示して欲しい,と訴えます.それは,ベルグソンやポッパーが示し,ブッシュ政権になってアメリカが失い,共産主義やファシズムの対極となる理想です.異なる価値観や利益が共存できる,人権や個人の自由を守る社会制度を育てることです.

確かに,憲章が否定されてから,ヨーロッパでも迷いと後退が見られます.ソ連の脅威が消えた結果,一方では,ナショナリズムや外国人排斥,反イスラム教の感情が強まっています.移民たちのコミュニティーを社会的に統合化することは失敗しています.しかし,アメリカに代わって国際秩序を指導することはできないとしても,EUが統一した方針を決めれば,独自の影響力を発揮できます.何より,「開かれた社会」のモデルを世界に示すべきです.

Mark Mazowerは,アメリカ中間選挙の結果が何を意味するか,考えます.アメリカ政治には,国内の問題に集中する勢力と,ヨーロッパを国際政治に引き出そうとする勢力が強まるでしょう.ヨーロッパは中東に「権力の真空」が生じ,混沌が広がることを許せません.それはアメリカとアラブ諸国が求める秩序をヨーロッパが示し,政治的支持を得るチャンスなのです.ダチョウのように頭を砂に突っ込んでいるだけではいけない,と.


FT November 24 2006

Mending fences in Delhi and Beijing

(コメント) 胡錦涛主席のインド訪問は,中国とインドが相互の不信を取り除くことで,具体的な行動を取れるでしょうか? そして,まず中国が動くべきだ,と.

中国はインドを封じ込めようとしてきました.パキスタンに核技術を供与し,核武装を手伝いました.インドが安保理の常任理事国となるのを阻止しました.そして,最近もインド北東部の地域を中国の領土であると主張しました.

しかし,インド自身の失敗もあります.インドはハイテク・サービス産業の成功にもかかわらず,今も中国の成果を学ぶことができず,貿易や投資において鎖国に近い状態を続けています.インドの貿易が低級な工業製品でしかないのは,国内の市場競争を抑圧しているからだ,とFTは考えます.また,インドは近隣諸国にも横柄で差別的な扱いしかしてこなかったため,彼らが新しい貿易や援助,協力の相手を中国に求めることを許している,と.

両国が市場統合を進め,繁栄と安定について共通の監視を高めることは重要です.しかし同時に,インドは改革を通して,中国の成長に対抗するべきです.


The Guardian Friday November 24, 2006

Trident renewal: Nuclear countdown

The Guardian Saturday November 24, 2006

Great minds think alike

Kate Hudson

The Guardian Monday November 27, 2006

Nuclear chain reaction

John Palmer

FT November 30 2006

Nuclear deterrence may still have role

By Lawrence Freedman

(コメント) 日本の核武装論は,イギリスの核装備に関する論争から学ぶことがあるでしょうか? 優れた議会と民主主義の伝統を持ったイギリスでさえ,核兵器のシステム(その更新)を決めるのは内閣の秘密でした.今回の更新も,ブレア政権の期限を考慮して急がれたようです.しかし,核兵器システムはイギリス国民の尊重するNPT(核不拡散)体制と矛盾します.NPTが核廃絶を核保有国に対して求めているにもかかわらず,更新し続けるのであれば,非保有国が核武装を急ぐことも避けられない?

この問題は,スコットランドの分離独立やユーロの採用にも影響します.来年の議会選挙に向けて,スコットランド国民党SNP(the Scottish National party)が優勢であり,緑の党と組んで,核の配備に反対するでしょう.スコットランドは北海油田を擁し,ユーロに統合することでロンドンに見切りをつけることもいとわないように見えます.イングランド銀行の決める金利はスコットランドには高すぎる,と彼らは考えています.

Lawrence Freedmanは,ナチスの脅威も,ソビエトの脅威もなくなった今でさえ,イギリスには核武装しておく理由が三つある,と考えます.1.イギリスの潜在的な敵国は核武装を狙っている.それゆえ,抑止力が必要だ.2.たとえ抑止力をアメリカが提供するとしても,イギリスが核兵器を持つことで英米の「特別な関係」や国際的地位を高めて影響力を保持できる.3.核の使用は考えられないが,将来はまったく不確実で予想できない.核保有は,将来への保険である.

核拡散の危険はむしろ高まっています.そして,インドとパキスタンのように,核武装することで紛争の安定化さえ期待できる,と指摘します.大規模な戦争だけを考えるのではなく,もっと小さな紛争が抑制されることも考慮するべきだ,と.


The Japan Times: Friday, Nov. 24, 2006

Breaking the trade impasse

By HUGH CORTAZZI

FT November 28 2006

Fairer trade does not mean an end to free trade

By John Sweeney

NYT November 28, 2006

Speed Bump at the Border

By THOMAS B. EDSALL

WP Thursday, November 30, 2006; A23

'Fair Trade' Foolishness

By Robert J. Samuelson

(コメント) ブレアは反グローバリゼーションを現代のラッダイト派と呼び,自由貿易を支持しました.しかし,彼が望んだドーハ・ラウンドは決裂し,アメリカ,ヨーロッパの農産物と補助金をめぐる問題,日本や韓国の保護主義を扱わない態度,知的所有権や非関税障壁,労働組合の反対,などが自由化を阻んでいます.

AFL−CIOのJohn Sweeneyは,「公正貿易」の重要性を主張します.それは「自由貿易」を潰すことにならない,と.むしろ,自由貿易を推進するには,もっと時間とお金をかけろ,というわけです.そうでなければ,孤立主義やナショナリスト,外国人排斥,利己主義が増えるでしょう.貿易が本当に労働者の平均生活水準を改善しているのか? 課税や社会政策で分配上の対立を緩和しなければなりません.

問題は,「自由貿易」ではなく,むしろ民主主義の原理なのです.ブッシュ政権は,富裕層に減税し,製造業を破壊し,人権や労働組合を無視し,世界中の反米主義を燃え立たせました.その結果,アメリカ国民の多くは苦しんでいます.だから,多数の利益を損なう「自由貿易」は支持されないのだ,と.

THOMAS B. EDSALLも,安定した雇用や医療保険,年金を奪われるばかりの労働者に,経営者はもっと利益を配分するべきだ,と主張します.政治家たちがNAFTAやグローバリゼーションを攻撃する理由は,中産階級の所得低迷と不平等拡大です.しかし記事は,どのような国においても,保護主義の主張は電子的な情報伝達による国際市場競争に勝てないだろう,と予想します.民主党が自由貿易を支持するための再分配戦略は実現できない,と.

Robert J. Samuelsonも,保護主義は自殺行為だ,と断言します.2005年の世界貿易額は10兆ドルを超えており,この流れを妨げる国は,現在の豊かさから取り残されます.しかも,現代の特徴は,特定の産業利益を保護する主張ではなく,貿易そのもの,すべての貿易自由化に反対する主張が広まっていることです.たとえば,多国籍企業は国内で労働者を解雇しながら,海外の低賃金労働者を雇用する点で「不公正」だと批判します.

こうした意見は,問題を個別の企業や職場に限る点で,貿易の利益を正しく見ていないのです.アメリカ経済の雇用創出力は貿易の「不公正さ」とは関係なく,アメリカ経済自身の問題です.貿易を止めれば,不況を招き,むしろ失業をもたらすでしょう.中国が雇用を奪ったとしたら,それはアメリカ市場を奪われた他のアジア諸国からです.アメリカが外国からの資本流入によって成長を維持しているとき,貿易を「スケープゴート」にして破壊するのは最も危険な行為です.


NYT November 24, 2006

Dollar Falls as Concerns Grow About Economy

By JEREMY W. PETERS and CARTER DOUGHERTY

FT November 27 2006

Tattered dollar could quickly lose further allure

By Peter Garnham and Chris Giles and Christopher Brown-Humes

FT November 28 2006

Dollar dynamics are an economic danger

(コメント) 輸出を増やす(輸入を減らす)ために,ドル安はどうでしょうか? 貿易赤字ではなく,アメリカとヨーロッパや日本との金利差が,ドル暴落の引き金となります.しかも,世界中の中央銀行が外貨準備をドルから分散する方針を示しています.調整と危機は紙一重であり,ドルの減価を管理できません.


NYT November 24, 2006

Temptations of a Minister of Finance

By FLOYD NORRIS

(コメント) イタリアの有名な中央銀行家で,経済学者でもあるTommaso Padoa-Schioppa,今度,財務大臣になりました.経済学者は予算案を見ると,いつも政治を無視して,支出削減を忘れ,増税や借金に頼っているとか,難しい決断を先送りした,と批評します.財務省と中央銀行を(たとえ時期が違っても)同じ人物が指導するのは,ドイツでは考えられないことであり,「メフィストフェレス(悪魔)」との取引だ,と批判されるはずです.

しかし,Padoa-Schioppaのような人物であれば,政治家が財政赤字に頼って成果を示したがるだけでなく,逆に,国民がその必要を理解しているなら,財政赤字削減を行うことで政治的評価を高めることもできる,と知っています.中央銀行の金融政策は市場が相手であり,むしろ簡単だった,と言います.他方,財務大臣は,誰かに No! と言うことで,他に Yes! と言うのです.その選択は常に難しい.それでも,GDPを超える債務がある国の財務大臣であれば,悪魔と契約することを考えることもないのだ,と.


FT November 26 2006

Reforms would help stabilise Asia’s bond markets

By Thomas Schiller

(コメント) アジア通貨危機の10周年を前に,危機が再び起きるか,とThomas Schillerは問い掛けます.確かに膨大な外貨準備を保有しています.しかし,それだけで十分か? 唯一の弱点は,債券市場が未発達なことです.

通貨危機に際しては,企業が債券市場を持たず,銀行融資やドル建,もしくはユーロ建の債券発行に頼りました.今も債券市場は小さく,国際投資を受け入れず,十分な流動性を持ちません.その発展を促すためにSchillerが強く求めるのは,透明性,です.市場の透明性は,広く,深い,多様な投資を集めます.透明性を高めるためには,情報の開示,会計基準,そして企業統治の明確化を求めます.

しかし,私はこうした意見に同意できません.債券市場があれば危機は起きない? もちろん,銀行融資よりも価格による調整は円滑にできたかもしれません.しかし,浮動的で,投機的である,とも言えます.債券市場こそがミッシング・リングだ,と思えないのです.


FT November 26 2006

The Dutch are leading a popular rebellion

By Wolfgang Munchau

(コメント) ヨーロッパの政治にも謀反の流れが強いようです.1年前,まさにオランダがEU憲章を国民投票で否決しました.先週,与党を選挙で敗北させ,グローバリゼーションに反対する社会党と移民排斥の右翼政党に勝利を与えました.中道政権は,まだ,連立を組めます.しかし,有効な政策合意はありません.

なぜか? 一つの説明は,改革疲れ,です.ユーロやEU拡大に構造調整を唱えることで対応するはずでしたが,福祉国家を解体しても,市場改革の成果はなかなか現れません.反対派はその不満を吸収しています.ヨーロッパ全体で,同様の不満と右傾化が示されています.

そこで,ルクセンブルグ首相のJean-Claude Junckerが述べたという嘆きが政治家たちを包みます.「われわれはなすべきことを知っている.しかし,それをした後,どうしたら再選されるのかが分からないのだ・・・!」

Wolfgang Munchauは,この言葉を批判します.政治家たちは,なすべきことを理解していない,と.社会福祉制度を改革した結果,生活水準が悪化したことを知った有権者が政府を支持しないからと言って,彼らを非難することはできません.ヨーロッパの政治家たちは,まだ,21世紀の繁栄と安定した職場をもたらす,包括的で透明なビジョンを有権者に示していないのです.

EU憲章をどうやって国民に承認させるかではなく,もっと基本的な経済戦略が欠けています.


John Tirman Regionalizing Iraq BG November 26, 2006

Chuck Hagel Leaving Iraq, Honorably WP Sunday, November 26, 2006; B07

BOB HERBERT While Iraq Burns NYT November 27, 2006

Jacob Weisberg International way forward in Iraq FT November 29 2006

THOMAS L. FRIEDMAN Ten Months or Ten Years NYT November 29, 2006

Jonah Goldberg It's losing we hate, not war LAT November 30, 2006

(コメント) イラクを地域安全保障の中に組み込むことで,その治安も回復できるでしょうか? そして,アメリカ兵たちは名誉ある撤退を行い,アメリカ国民はイラクのことを忘れて楽しい休日のプレゼントを買うため商店街をあさる・・・?

文章を読みながら,イラクの安定化を願うサウジアラビアを,北朝鮮の核開発放棄や朝鮮半島統一への関与に迷う日本と重ねてしまいました.「サウジアラビアは,イラクの隣国が皆そうであるように,単一国家としてイラクが維持されることを切望している.それは,スンニー派の中核が崩壊して,政治的暴力と難民が流出することを恐れるからであり,また,自国のシーア派に問題が起きることを恐れるからだ.サウジもまたイラク債を保有しており,石油の豊富なイラクを再建することに資金を出すか躊躇している.

イランやシリアが,「体制転換」を明確に断念するというブッシュ大統領の言葉と引き換えに,イラクの統一と安定化に協力する,といった国際政治取引が成立するのは,非常に難しいわけです.たとえ彼らもイラクの安定化を各国とも利益であると考えても,それも余りに早く,余りにも容易に与えるなら,友好国としてアメリカに足場を与えるという結果になることを嫌うでしょう.

アメリカにとっては,撤退は勝利でも敗北でもない,と共和党のChuck Hagelは主張します.なぜなら現在のイラクで起きていることは,専ら,イラク人が起こしているからです.世界の不安,野蛮さ,不寛容,原理主義,テロ,などを抑えるためにアメリカ軍は戦っているのであって,イラクにおける軍事的な勝利や敗北には意味がない.今後も,戦いは終わる見込みがないのだ,と.

アメリカは,2500万の国民がいるのに,間違った計画,間違った目的で政治体制を変えられると考えたが,少なくともその戦いには崇高な目的があり,莫大な予算と人命を費やしてきた.その修復には何年もかかる,と.

テレビ・ニュースには,サドル・シティの連続自動車爆弾による殺戮と,アメリカにおける感謝祭の買い物風景が並んで紹介されます.・・・ Iraq burns. We shop. ・・・ イラクで死んでいくアメリカ兵たちの姿が,ニュースに現れることもほとんどありません.アメリカにとって第二次大戦に並ぶ長く続いている戦争であるにもかかわらず,アメリカ国民は一体感を持てず,その犠牲について関心を失っています


Nov. 27 (Bloomberg)

The Paulson & Bernanke Show Airs Soon in China

William Pesek

IHT November 29, 2006

Leave the yuan alone

Joergen Oerstroem Moeller

(コメント) 中国に為替レートと金融政策の変更を求める最強の使節団として,財務長官・FRB議長のコンビPaulson & Bernankeが赴くようです.その説得手法は,初期のブッシュ政権が市場に委ねると唱えてきたことを思えば,むしろクリントン政権のルービン&グリーンスパンに似ている,とWilliam Pesekは指摘します.アメリカの貿易赤字と対外債務,ドル価値の安定を考えるとき,中国(1兆ドルの外貨準備)側に調整政策を求めて,協力することが望ましいからです.

Pesekは,ここに4つの疑問がある,と書きます.1.アメリカ最強の二人の政策担当者の間で,その目的は一致しているか? 2.バーナンキは領分を越えた危険な水域に入らないか? 3.アジア,アフリカ,ヨーロッパで外交的な成果を上げている中国が,アメリカの言い分をどこまで聞くか? 4.アメリカは中国の行動に対して何を(どこまで)譲歩するのか?

特に,アメリカ連銀がどこまでアジアや中国の経済運営や危機管理に責任を持つのか,グリーンスパンがアジア通貨危機に直面したように,その境界は不明でしょう.いくら事実上のドル圏を維持したがっているとしても,他国の金融システムを救済することは,アメリカの政策目的を損なわない限り,関心を示す程度に過ぎません.

他方,13億の中国人が世界で自由に経済活動を楽しみ,石油を購入し,外交的な成果を上げる間も,アメリカは自由貿易や平和を築くため財源と人命を費やし続けていることに,ブッシュ政権は秘めた鋭い不満を持っているはずです.もちろん,急速に拡大する国内市場と外貨準備を,中国側が交渉手段として持っていることは無視できません.

アメリカがもっと貯蓄し,中国は為替レートや貿易黒字を調整するなら,両国にとどまらず,その利益はアジアや世界に及びます.

確かに協調することで不均衡の調整は緩和されるでしょう.しかし,Joergen Oerstroem Moellerは調整政策の国際協力に反対します.それは,かつてイングランド銀行のモンタギュー総裁がアメリカ連銀に求めて1929年の大恐慌を招いた政策であり,アメリカのベイカー財務長官が1980年代に日銀に金融緩和を求めてバブルを招いた政策だからです.人民元切り上げは企業の利益を減らし,投資を削減し,賃金と消費を抑えるでしょう.

FT

Martin Wolf> Economists' forumEconomists' forum

What exchange rate regime should China adopt?


Richard McGregor Pressure on China forex management FT November 27 2006

Andy Mukherjee Hong Kong Must Keep Its Dollar Peg -- for Now Nov. 28 (Bloomberg)

John Ng The perils of yuan parity Asia Times Online, Dec 1, 2006

(コメント) 人民元が増価すれば,香港ドルは捨てられる日が来るかもしれない,と香港通貨庁長官Joseph Yamは心配します.1997年の通貨危機の際には,果敢に,株式市場にも介入した人物です.その場合,ドル・ペッグを人民元・ペッグに変えるのでしょうか?

香港ドルの交換は制限されており,為替レートも管理されています.香港は資本市場を開放し,ドルにペッグすることで,中国の投資窓口として繁栄する道を選んできました.それは激しい不況も金融政策によって緩和できない,というコストをともないました.中国経済と密接に統合化する現状を見れば,アメリカ・ドルにリンクした香港は矛盾しています.もし中国本土と資本取引や資産市場において自由化と統合化が進めば,ドル・リンクは破棄されるでしょう.

香港と深?における人民元と香港ドルの自由な流通が,使用する人々の選択によって,通貨の行方を決めるようです.


CSM November 27, 2006

NATO needs a big think

The Japan Times: Wednesday, Nov. 29, 2006

Building a global NATO

LAT November 29, 2006

France's two faces on NATO

Asia Times Online, Nov 29, 2006

NATO maps its future

By Marcel H Van Herpen

FT November 30 2006

Nato needs to wake from its daydream

By Philip Stephens

(コメント) ソビエト連邦が消滅して,1949年,12カ国で設立したNATOは,西ヨーロッパを共産主義の攻撃から防衛する,という目的を失いました.NATOは,ロシアやベネズエラのエネルギー帝国主義に対抗し,あるいは,「テロとの戦い」や,北朝鮮やイランの核拡散,アフリカの大量虐殺,にも対応して,世界化するべきか・・・a global NATO? ラトビアの首都リガで会議に集まった26カ国は,そんなことも考えていたはずです.

世界の安全保障が不安定化する一方で,ユーゴ内戦への介入にNATOを利用してから,後で理由を探すような扱いは続けられません.さらに,アフガニスタンにまで利用したことは,加盟諸国の軋轢を高めました.アフガニスタンは加盟国から遠く,軍備の維持や経済再建には大きな負担がともないます.NATOは何のためにあるのか? と不満を持つ加盟国が出るわけです.

日本政府がNATO拡大に積極的であるとしたら,それは日米安保条約を,憲法改正後の集団的自衛権行使として,NATOと一体化することを歓迎するからでしょう.靖国参拝や中国ではなく,「民主主義」や「人権」を強調した(特に外国のメディアに対して)安倍首相の外交・防衛姿勢は,それを目指しています.

問題は,NATOが国連安保理を軽視し,あるいは,アメリカや各加盟国の主張や負担を他国に押し付ける道具になる,ということです.また,加盟や軍事介入の基準によっては,誰を排除するのか? という敵対関係を刺激することになるでしょう.限定された目的,少数の加盟国である方が,原則と行動,負担は明確・迅速であり,それゆえ初期のNATOは効果的であったわけです.

任期を終える直前のフランスのシラク大統領は,リガにおいて,最後の演説を行いました.しかしアメリカから見れば,国際的な使命を唱えて,自国の負担は免れたい,という自分勝手な話です.世界化し,アメリカに負担を強いるだけの,分裂したNATO.

他方,中国は,NATOによって包囲されている,と不安を感じるでしょう.ロシアやイランをともなって,上海協力機構(SCO)は強化されるでしょう.これら二つの地球組織が,石油の豊富なカスピ海から中央アジアにかけて,衝突する危険を示しています.もしNATOがウクライナやグルジアにまで拡大されるとすれば,それは反ロシア同盟になるか? あるいは,ロシアや・・・ 中国も加盟できるか? そして,日本は自衛隊をアフガニスタンやカスピ海にも派遣する・・・?

そんな未来の悩みより,NATOは今にも崩壊する,とPhilip Stephensは心配します.アフガニスタンをめぐって,加盟諸国の意見は分裂し,対立しています.政治的な危機意識,関与への意志,が欠けています.シラクは来春引退すれば,旧友のシュレーダーとともに,ガスブロムの重役にでも納まればよいかもしれないが,NATOに容易な答はない,と.


FT November 27 2006

Japan is ready for evolution and reform

By Robert Zoellick

Nov. 29 (Bloomberg)

Japan Must Risk Growth Now to Ensure Its Future

William Pesek

(コメント) アメリカの元通商代表,そして国務次官でもあったロバート・ゼーリックは,日本が北東アジアの地殻変動を支える主体になるだろう,と予想します.安倍首相が代表するナショナリストのグループに対して,ゼーリックはパイルKenneth B?Pyleの研究により,日本が常にリアリストとして国際情勢の変化に対応してきた,と肯定的に判断します.

日本のエリートたちは,150年に渡って,外部の秩序が変化するのに応じて,規律正しく(しかも迅速に)調整することで安全を追求してきた.日本のエリート層は何よりもリアリストである.国際的なパワーの配分が変化したと意識すれば,そのパワー,相対的な地位,国家の威信などから合成された国益に照らして,実際的な適用が即座に図られてきた.

そしてゼーリックは強調します.安倍政権は国内において,改革を継承し,成長をもたらすことを示さねばならない,と.その試金石は郵政民営化の実行(政治家とも切り離す)と,郵貯資金の市場放出です.また日本は,アメリカ,中国,韓国,ロシアとともに,6カ国協議において北朝鮮の核問題を話し合っています.この問題をどのように解決するかが,今後の北東アジアにおける対立や協力のあり方を大きく変えるだろう,と.

他方,William Pesek は,日本の景気回復が消費ではなく,ゼロ金利と政府債務に頼っている以上,アメリカや中国の景気悪化が容易に不況をもたらす,と警告します.改革したいが,大きな改革や不況はしたくない,という自民党政権の欲張りな政治的限界に,経済は今なお縛られています.


FT November 27 2006

Rethinking Russia

WP Monday, November 27, 2006; A19

David and Goliath

By Richard Holbrooke

(コメント) 論説は,EUとロシアの関係,アメリカとロシアの関係を考えています.プーチンは,石油の高価格とヨーロッパへのエネルギー供給を武器として,近隣諸国における反ロシア的な指導者を倒し,ロシア人の権益を拡大しています.Richard Holbrookeは,特にグルジアに対するプーチンの介入・弾圧と,二人の指導者の個人的な憎悪を指摘し,ブッシュ政権が何としてもグルジアのMikheil Saakashvili大統領を守るべきだ,と主張します.


BG November 27, 2006

Buffett, Gates, and you

(コメント) なぜ寄付するのか? 人は満たせなかった多くの夢を持っています.それを満たすには,同じ夢を持つ若い世代に,その実現を手助けしてやることではないか? ノーベル賞を取るような科学者になりたいけれど,貧しくて学校に行けない一人の子供を助けることで,あなたの夢がよみがえる.


Donald Steinberg When war and children collide CSM November 27, 2006

Nikolas Gvosdev and Ray Takeyh America's shrinking global prestige BG November 30, 2006

(コメント) もちろん単に寄付ではなく,子供たちを暴力から守り,学校を再開する手助けも必要です.子供たち(とその権利)を守ることは大切です.治安を回復し,法の支配を長期的に確立するには,それを重視する大人と,保護された子供たちとの関係が重要です.もし捨てられた子供たちが町に溢れるなら,反政府軍は容易に兵士を補充できます.

Donald Steinbergは,国連とアメリカに,条約,制度,行動を求めています.国際的な危機において,アメリカが彼らを守らないとしたら誰が子供たちを守るのか?


FT November 28 2006

Tear up the Bush doctrine

By Martin Wolf

アメリカの有権者は,軍事力によって外国に民主主義を押し付ける人々を拒絶した.選挙における妨害にもかかわらず,コモンセンスは表明された.ジョージ・W・ブッシュはまだ大統領であるが,その政治は傷つき,転換は避けられない.

この政府は無能であっただけでなく,第二次世界大戦後にアメリカが築いてきた外交政策の伝統を破壊するものだった.政府の戦略は次の4つの考え方が基本である.すなわち,軍事力の優位,一方的な秩序の拡大,制約されないアメリカの支配,緊急の脅威がなくても先制攻撃する権利.9・11テロに対する怒りが,こうした原則を強めた.

その結果は余りにもひどかった.間違った情報,間違った正当化,イデオロギーの押し付け,がなされた.特にイラクについてそうであった.しかし,その無能さは偶然ではない.軍事力による優位を過信したことで,権限を国防総省に移すことになった.軍事的な勝利が平和や民主主義をもたらすと信じた.同盟諸国を見くびって,戦後の占領も協力を欠いた.

アメリカは再出発しなければならない.

第一に,外交政策は「テロとの戦い」に尽きるものではない.イスラム原理主義のテロリストは超大国間の冷戦と同じではない.世界経済の繁栄を維持し,新しい大国の勃興を管理し,イスラム世界に限らず,経済発展と世界的な共有財を供給することも同様に重要だ.

第二に,軍事力は,その支持者たちが考えたよりも,はるかに効果の少ない手段である.軍事力による脅しによって,他の大国が政策を変更することはないし,むしろアメリカの意図を疑うようになるだろう.それは潜在的な敵に核武装を急がせる.イラクが示したように,莫大な軍事力を投入しても,2100万人の国家を安定化できない.

第三に,世界大国としてアメリカが正当性を認められるのは,アメリカが他国や民衆の尊敬を集めるときである.もし反米主義が高まっていなければ,シュレーダーは2002年の選挙に敗北していただろう.さらに重要なことに,聖戦テロリストとの戦いは思想をめぐるものだ.それは恐怖によってではなく,西側の価値が狂信的な敵対者の価値よりも,多くのイスラム教徒たちにとって,より魅力的であることを示すとき,勝利できる.ブッシュ政権が敵に対して法の支配を曲げたことは,その勝利を難しくした.

第四に,多角的な(国際)機関は重要である.国際機関は,各国の威信と軍事的圧力がぶつかり合う状態を避けて,好ましい行動についての共通のルールを受け入れさせる.何よりも,少なくとも指導的な諸国が協力の意志を示せば,多くの世界的な課題にも応えることができる.国際機関を共有することで,そのような協力がより強く信頼でき,維持される.

第五に,強固な同盟関係も重要である.有志連合は頼りないものでしかなかった.イギリスでさえ,今後は,イラクと同様の協調に,アメリカとは乗らないだろう.イギリスは十分に協力したが,アメリカの方針を変える力はなかった.そしてアメリカは,支援なしに目的を達成できなかった.強固な同盟関係は制約であるが,同時に,確実な協力をもたらす.

ブッシュ氏の外交は,アメリカが世界的大国になって以来,最悪のものであった.それは完全に破綻した.問題は,次にどうなるか,である.破局を恐れる者もあるが,そうならないかもしれない.西側の価値を無視した「リアリズム」はまったくの失敗だろう.イラクから撤退して孤立主義に,そして開放体制から保護主義へ向かうのも,さらに大失敗だ.

ウィンストン・チャーチルが述べたように,アメリカは正しいことをするのだが,最後にしかしない.だから楽観しよう.アメリカが他国の利益に配慮し,世界に広めようとしてきた価値を重視するなら,アメリカの指導力は今なお世界で求められている.

30年前,ベトナム戦争に負け,ニクソン大統領は辞任を強いられ,世界経済はインフレで脱線し,西側の将来は悲観されていた.しかし,それから15年の内に,中国は市場開放を選択し,ソビエト帝国は崩壊したのだ.共産主義に勝利したのは軍事力によってではなく,西側の繁栄と自由,民主主義が魅力的であったからだ.

外交は難しいものだ.しかし,議論の余地がない点として,アメリカは自由の価値を,法の支配や世界的な協力関係の価値を,もう一度,確信する必要がある.1945年以後の国際秩序が驚くほど成功したのは,それらによる.19世紀的な国家主権やバランス・オブ・パワーに復帰してはいけない.アメリカは軍事力によってではなく模範を示し,一方的に支配するのではなく先導する能力を示すことだ.20世紀のアメリカはそれをよく理解していた.21世紀にもそうあるべきだ.


The Guardian Thursday November 30, 2006

Liberal elitists who ignore the context of power and privilege

A Sivanandan

(コメント) 私が重視するロンドンの人種関係研究所IRR所長であるA Sivanandanは,ブレア政権や議会がこぞって少数民族を抑圧し,曖昧な「イギリスらしさ」を振り回して,イギリスへの同化を強いる政策に向かっていることを批判します.

批判の核心は2点です.一つは,マイノリティーへの非難が内側にしか向かず,どうかしようとしない責任を問うだけであること.実際には,移民を増やしている英米の抵抗主義的な介入政策が問題であろう,と.もう一つは,マイノリティーへの非難が,実際には,イギリス市民の自由をも奪う,市民社会の自由な伝統を否定するものである,ということです.

かつて,世界を解釈することより革命を唱えた時代は終わり,世界を解釈しなおす人々を取り替えることが重視される時代になってしまった,と結んでいます.

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The Economist, November 18th 2006

Organ transplants: Psst, wanna buy a kidney?

Tibet: Hu’s afraid of the Dalai Lama

Germany’s place in the world: Merkel as a world star

Immigration: The rusty grenade

United Nations: An ambassador’s fight for life

Currency pegs in China: Yuan for all, all for yuan

Economics focus: Third thoughts on foreign capital

(コメント) いろいろ興味深い記事があります.肝臓の移植について,日本だけでなく,世界中で供給が不足しており,密売よりも相互利益と安全性を高める,イランの肝臓売買システムが紹介されています.また,中国とインドの関係が改善するにつれて,インドに亡命しているチベット人からなる町とダライラマの将来が注目されます.

この二つの記事は,まったく異なるテーマですが,共通した関心を刺激します.

さて,ドイツが「普通の国」になって,軍隊を拡充し,海外でも展開する,という話を聞けば,日本政府はこれを意識して行動しているのだな,と分かります.しかし日本は,ドイツほど受け入れられないでしょう.移民を争点にすれば選挙に勝てる,と信じた共和党候補たちは失敗しました.移民問題を単純化して,恐怖を刺激する作戦は,ヒスパニックの矛盾した信条を理解しない点で間違っていたのです.そして,国連を舞台に正論を吐いたボルトン代表も,余りの傲岸不遜な態度に,アメリカの敵を増やしたようです.

この三つの記事に似通う法則も,あえて言えば,パーセプションでしょうか.

最後に,人民元と香港ドルとの結婚が噂されています.そもそもアメリカ・ドルと離婚してよいものか.最適通貨圏をどう考えるのか.興味深い指摘です.中国が工業製品の輸出基地であり,人民元はまだ増価するはずであり,香港は金融センターであり,(バーナンキではなく)人民元に縛られて金融政策を失うわけに行かない,というのが記事の示す答です.そしてIMFは,資本移動の祝福を証明するトートロジーの曖昧さに,戸惑っているかもしれません.


The Economist, November 18th 2006

Time to wake up: A survey of Mexico

(コメント) メキシコの概観が気になりました.NAFTAは,メキシコをアメリカに近づけるはずでしたが・・・ 9・11に阻まれたのでしょうか? 市場自由化やNAFTAをめぐる両極端の意見を,どのように理解するべきか.

記事の論調は,南部の貧困や失業を解決するためには教育にもっと投資すること,メキシコ・シティーの犯罪や麻薬密輸を減らすためにも警察・治安機関にもっと投資すること,を求めます.ところが,政府も市場も一握りの組織やサリナス一族に独占されてしまい,競争もなければ法律もない,と記事は強調しています.

NAFTAが特別な改革と成長のエンジンになる,という空しい期待は捨てて,オブラドールと彼にすがった人々だけでなく,メキシコそのものが夢(そして悪夢)から覚めるときです.