IPEの果樹園2006
今週のReview
11/20-11/25
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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インフレと金融政策, フリードマン, グローバル・ガバナンス, ドイツと日本の軍隊,
民主党による政策変化, イラク, APEC, 韓国, 日本
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT November 8 2006
Money’s vital role in monetary policy
By Jean-Claude Trichet
FT November 10 2006
Trichet and Bernanke differ on strategy
By Ralph Atkins in Frankfurt
FT November 13 2006
Central bankers need money in monetary policy
By Wolfgang Munchau
(コメント) 戦争や石油価格上昇が起きているのに,世界のインフレは落ち着いていました.以前から,中国の成長過程においては,バブルやインフレの懸念とデフレの恐れが拮抗する,不思議な平衡状態にあったはずです.それは,多分,世界にも及びつつあります.
ECBの金融政策に対する不満から,貨幣や金融政策を無視した経済モデルが注目を集めている,という事情があるのでしょう.トリシェ総裁は金融政策を重視するべきだ,という主張を,貨幣数量説にまで遡って強調します.もし貨幣がなければ,インフレーションのように,そもそも存在しないような重要な問題があるのだ,と.
学会や民間部門からの批判を歓迎するが,中央銀行の経験や知識,意思決定こそが重要であることを忘れるな,と主張するわけです.ジャン・ボーダンやハイエクの貨幣論をECBのトリシェ総裁が称賛するとき,国家論や国際秩序を再考する話に向かいそうです.
他方,アメリカのバーナンキFRB議長は,むしろ貨幣供給量から独立した金融政策に関心を向けます.なぜなら,アメリカの方が金融革新は急速にすすんでおり,貨幣供給と個人の支出との関係は変化し,複雑である,と.
つまり,とWolfgang Munchauは考えます,ECBのトリシェは火星人で,FRBのバーナンキは金星人である.これは,まるでマネタリストとケインジアンとの対立のようですが,そうではない,と書きます.
ECBは,経済予測だけでなく,貨幣供給量によるモデルによるクロス・チェックを行います.他方,FRBは,学会の流れと同じように,貨幣量による分析は必要ない,と主張します.いわゆるネオ・ケインジアン・モデルでは,貨幣が含まれていないのです.インフレーションは貨幣的な現象であり,貨幣供給は長期の成長に影響を与えない,という伝統的な中央銀行の考え方は,そのモデルで表現されます.
しかし,グッドハートの法則で有名なグッドハートが,貨幣供給とインフレーションの関係が再び安定する傾向を示しているかもしれない,と指摘しました.つまり,もし企業が新技術に投資するとき,過度に楽天的で,過剰な生産設備を抱えると,インフレ率が低下するでしょう.金融政策がインフレ目標に従うなら,金利は低下し,さらに企業の投資を増やしてしまいます.・・・まるで中国のように?
Wolfgang Munchauは,貨幣が経済モデルに戻ってくるだろう,と予想します.しかし,それは21世紀のマネタリズムを意味しません.
Samuel Brittan Milton Friedman, economist, dies aged 94 FT Nov 17 2006 November 16 2006
HOLCOMB B. NOBLE Milton Friedman, a Leading Economist, Dies at 94 NYT November 16, 2006
Robert Kuttner Cant and Recant The American Prospect 11.16.06
Milton Friedman: Free Market Thinker BBC 2006/11/16
(コメント) マネタリストもしくは市場原理主義,国家介入よりも市場自由化を信じた指導的エコノミストであったミルトン・フリードマンが亡くなりました.94歳です.ケインジアンと同様,いわゆるマネタリストは「グッドハートの法則」によって決定的に破棄されました.しかし,フリードマンの貢献は,むしろ経済分析の方法にあるようです.Samuel Brittanの論述は,実証経済学の方法論から変動レート制擁護論,フィリップス曲線の批判,について整理し,フリードマンがマネタリスト原理を支持するときの限られた意味に注意しています.
シカゴ学派を築き,サッチャー政権やレーガン政権を支え,消費関数を実証し,金融政策のルールを示したり,財政的刺激策の効果を否定したりしました.その生涯には,ハイエク,ヴァイナー,クズネッツ,ロバートソン,ガルブレイス,ソロー,サミュエルソン,などの名前が登場します.他方,3週間に1度のペースで1966年から84年まで,Business Weekに有名な経済コラムを書き続け,経済原理を実際の諸問題に応用する際の優れた手腕を示し,その後のエコノミストたちにとって先例となりました.
ミルトン・フリードマンほど,経済効率や社会正義に関して,政府の積極的役割を否定した保守派の思想家はいない,とRobert Kuttnerは書きます.政府介入は事態を悪化させるだけだ.資本主義とは人間が自由であることと同じである.市場は機能するが,政府は機能しない.FRBは受動的に,物価水準の安定,を追求するだけでよい.フリードマンはこうしたイデオロギーを広めました.
フリードマンは,アメリカや日本の最近のバブルやデフレを取り上げて,やはり貨幣供給が重要である,と確認します.しかし,Kuttnerは,グリーンスパンがいかに積極的な介入主義者であったか,を指摘します.グリーンスパンはバブルを煽り,世界中の危機や株価暴落に対して救済融資をしました.フリードマンの主張とは逆に,危機の後に融資を維持する積極的な役割を政府・中央銀行は担っているし,バブルや通貨危機の重要な原因ともなっているわけです.
Kuttnerは,クルーグマンの主張と比べて,フリードマンの解釈を批判します.現代ではケインズの指摘した「流動性の危機」を軽視する中央銀行が増えてしまい,フリードマンとは逆に,金融システム,価格競争の激化,労働組合など,貨幣的問題以外の理由で,デフレが深刻になりそうです.将来,ドル暴落が起きた場合,フリードマンが言うようなマネタリスト・ルールは役に立たないでしょう.
「インフレを加速させない失業率(もしくは,自然失業率)」が下がった,という説明を,Kuttnerは批判します.現実との齟齬が生じると,フリードマンは定義を変えた.環境,安全,学校など,政府の役割が好ましいものであっても,彼はそれを信用しない.なぜなら,定義から,政府は非効率で,必ず(市場より)間違いを犯すから.
FT November 8 2006
Paris will find it difficult to erase mark of Le Pen
By Martin Arnold and John Thornhill in Paris
(コメント) 土曜日の朝日新聞でも,ヨーロッパにおける「保守派」「右翼政党」の支持拡大が注目されています.しかし,ナショナリズムや,国民文化・共通の社会=政治的価値を保護するように求める「保守派」は,以前のような「右翼」と異なるでしょう.
しかし,ナショナル・フロントの党首ル・ペンJean-Marie Le Penは,2002年大統領選挙で二位になりました.それはフランス政界とヨーロッパ全土をパニックに陥れたのです.フランスの政治家に失望した有権者が支持したル・ペンは,自ら,義賊ゾロである,と宣伝します.フランス国民の反感は,政府の示したEI憲章を国民投票で否決したことや,1年前,そしてその後も再び,バスや公共施設を破壊し,放火する若者や犯罪者の急増,労働法改正に対する学生たちの抗議と実施撤回の過程,にも明らかです.
The Globalist, Wednesday, November 08, 2006
Globalization and Global Governance
By Pascal Lamy
Towards Global Governance
By Pascal Lamy
(11月1日,ハーヴァード大学ケネディー・スクールで行われたWTO事務局長,パスカル・ラミーの講演the Malcolm Wiener Lectureです.: 「グローバル・ガバナンスとは何か?」 )
グローバル・ガバナンスは,習慣や利害,文化,社会の形態や価値,が変化することによって実現する.相互依存とグローバル・ガバナンスが増大することが,新しいアクター(主体)や政治プロセスの開放,実質的な参加,執行者の責任,統合度をもたらす.
相互依存を管理するには,4つの要素が重要になる.1.価値観:国民の特異性を残しながら,世界社会・世界共同体への帰属意識.2.アクター・主体:結果責任や説明責任を負い,論争において公的な意見を導く正統性を持つ.3.透明な議論と交渉.4.国家の行動をモニタリング,サーベイランスし,正当な形式で強いる.
私は制度の革新を提案するのではなく,世界的な豊富と実際的な示唆を組み合わせる.グローバル・ガバナンスの構築は徐々にしか進まない.
WTOの使命は,すべての人のための,市場開放と世界貿易の規制である.世界共同体に帰属する価値観は,たとえ萌芽的であれ,WTOに備わっている.また,モニタリングとサーベイランスの機能もある.加盟諸国に調整や義務の実行を求める権限もある.そして,他の国際機関と統一性を確保する権限もある.
非国家主体もふくむ多くのフォーラムを組織し,解決策を示すWTOは,正当性と効率性との優れたバランスを模索する機関となる.GATTの旧いクラブ体質に代わって,WTOは問題によって自由に国家が連携し,再編する.すべての国家が議論に参加して合意を形成するから,強制することもできる.情報はNGOや各国の議会にも伝えられる.WTOは,貿易自由化とその他の社会問題との関係についても十分に配慮している.
WTOは,優れたグローバル・ガバナンス構築に向けた主要プレイヤーの一人である.
The Guardian Friday November 10, 2006
Snowballing costs
Joseph Stiglitz
WP Friday, November 10, 2006; A31
Greenhouse Guessing
By Robert J. Samuelson
(コメント) 地球温暖化について,地球規模の負の外部性に対して課税し,経済的な誘因を用いて温暖化ガスの抑制に働きかけるべきだ,とJoseph Stiglitzは考えます.
Robert J. Samuelsonは,Sternの報告書はでたらめで,温暖化を防ぐこともできない計画によって,経済を損なうことしかできない,と批判します.豊かな国も,貧しい国も,たとえ合意できても,抑制手段を採用することは無いだろう,と.
IHT November 10, 2006
William Pfaff
LAT November 12, 2006
The dark side of the 'Good War'
By Michael Bess
FT November 15 2006
Germany and Japan strive to regain military might
By Stephen Fidler
WP Wednesday, November 15, 2006; A21
A Freedom Agenda for Japan
By Fred Hiatt
(コメント) ドイツや日本が軍隊を国外でも展開することは,国際安全保障にとって,非常に重要な選択になります.もちろん,その条件は,それが周辺諸国に受け入れられ,展開する地域の平和と繁栄を支持する成果を挙げることです.
ドイツの社会民主党党首Kurt Beckは,EUの連邦軍として,ドイツの兵士たちが国際展開する提案を行いました.これまでも,同じような提案をドイツ以外の国がしていた,ということです.ドイツ軍は既に,NATOの一部としてアフガニスタンに展開し,彼らの理解できない戦争で命を失っています.
かつてEU連邦軍を模索した結果,ユーゴ内戦で不十分な合意しか形成できず,NATOの空爆に頼った不満足な介入と混沌を生じた経験があります.ドイツによる提案は,EU軍を強化するだけでなく,再びEU内部の,対米同盟を支持する諸国とそれを批判する諸国との間で,対立が起きています.
Michael Bessの論説は,第二次世界大戦がファシスト国家による攻撃から自国民を守り,『プライヴェート・ライアン』のような美談によって示された英雄的行為だけでなく,連合国の側にも,多くの過ちや非人間的な,戦争によって正当化できない行為があったことを指摘します.戦争中なら誰でもしたことだ,という無責任な免罪を求めるのではなく,敵であれ味方であれ,戦争においても正しい選択や行為を,間違った選択や行為から,区別しなければならない,と主張します.
この論説によれば,第二次大戦には二つの特徴がありました.1.人種差別主義,2.戦闘行為の野蛮さ,です.ナチスが人種によって大量殺戮を組織したことや,日本軍が占領地域の住民や捕虜に対して取った野蛮な振る舞いは有名ですが,同様に,アメリカ兵も,イギリス兵も,フランス兵も,市民に対するさまざまな虐殺行為を犯しました.
第二次世界大戦後,60年を経て,漸く日本とドイツは経済力に見合った安全保障の負担を受け入れる気になった,とStephen Fidlerは指摘します.それはアメリカが望む方針転換であり,ドイツの周辺諸国も認めるものでしょう.他方,中国や日本周辺の諸国は,まだ,日本の行動を注視している,と.
同時に,両国は国際関係において,国益をより明確に発言したい,と願っています.アメリカからの強い影響を受けながらも,両国は軍事力の行使に関するきわめて懐疑的な姿勢を,法律だけでなく,国民感情として持っています.それは,冷戦終結により,対米関係から地域問題を重視するようになった情勢とあわせて,今後の国際関係を複雑にするでしょう.
ドイツの国防大臣は,日本とドイツはまったく異なる,と考えます.ドイツは冷戦中から,オランダやデンマークから軍事費の増額を要請されてきたし,軍隊を複数の平和維持に参加させてきました.他方,日本では憲法9条や非核3原則について,安倍政権が初めて手をつけようとしているわけです.日本はアメリカの核の傘に依存することを今も選択し,アメリカの防衛システムに代価を支払うことで,同時に,その危険も共有しなければなりません.
しかし,ドイツでも日本でも,国際的な使命に兵士が命を懸けることへの合意は,決して国民に広く受け入れられていない,と記事は紹介しています.それゆえ,「普通の国」への移行はスムーズなものではないだろう,と.
日本人は,国民自身が国家のイメージを模索し続けている,とFred Hiattは考えます.戦後の平和主義から,経済的繁栄による一種の覇権国へ,それが急速にバブル崩壊による「失われた10年」と中国の台頭を恐れる悲観主義へ,自己イメージを変え続けてきました.
Fred Hiattは,ワシントン・ポストの記者として安倍首相に会いました.「自分は新しい価値観で育った首相である」と,安倍氏は記者に述べました.それはブッシュ氏も強調してきた「自由,民主主義,人権」です.アメリカによる占領下に行われた裁判や憲法には従わない,としても.安倍首相は,こうした二重性を前提にして,中国やアメリカとの戦略的利益と提携関係を築ける,と考えているようです.
「インタビューの間,首相の孫で,外相の息子でもある安倍は,異常な平静さを保ち,手をひざに置いたまま,抑揚のないソフトな声で話した.」と記者が書くのも,こうした戦略的提携関係の怪しさを暗示していると私は思います.日本はアメリカと価値を共有し,それをアジアで広める役割を担う,というわけです.アメリカ政府も,こうした安倍首相の姿勢を評価します.彼は「新しいナショナリズム」を示している.それは「健全なナショナリズム」,今のところアメリカの利益にもかなうナショナリズムなのです.
PAUL KRUGMAN The Great Revulsion NYT November 10, 2006
Charles Krauthammer Only a Minor Earthquake WP Friday, November 10, 2006; A31
Ralf Dahrendorf Vote God, pray for liberty The Guardian Saturday November 11, 2006
(コメント) PAUL KRUGMANは,永久の保守政治を求めた運動が敗退したことを喜びます.しかし,Charles Krauthammerは,選挙結果を見ても二大政党の均衡政治が続いている,と考えます.両党は互いに相手陣営の得意な分野を切り崩し,保守化し,支持者を奪い合ってきました.スキャンダルやイラク情勢への失望以外に,選挙の勝敗を分けたものはないのです.
イデオロギーの終焉が支持されたように,宗教による政治介入が終わることをRalf Dahrendorfは支持します.アメリカとは少し違う形で,ヨーロッパでも保守派の政治支配が強まり,宗教や価値観が政治を動かしています.Dahrendorfは宗教や価値観を強制しないように,表現の自由に政府が制限を加えないように,求めています.
NYT November 10, 2006
China: Scapegoat or Sputnik
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) 2006年の選挙を支配したのがイラク問題であるとすれば,2008年の大統領選挙を支配するのは中国であろう,とFRIEDMANは考えます.共和党がイラク問題で分裂したように,民主党が中国との関係で分裂するでしょう.
9・11やアフガニスタン・イラク侵攻ではなく,中国とインドの台頭こそが現代の秩序を形成しつつあるのです.ブッシュ政権がイラクに奔走する間,中国問題はメディアから消えていました.しかし,中間選挙の結果,民主党が支配するようになった議会では違うでしょう.人権について,また中国からの輸入で倒産した企業と失業者について,議員たちは対策を求めます.また,中国とインドがもたらした国内社会の変化(中産階級の消滅)について,「ビル・ゲイツがバーに入ってきた」ような所得分配を,平均所得水準が改善されたかどうか,議論することもなくなるはずです.
ブッシュ政権と民主党が,中国をスプートニク・ショックとするのか,あるいは,スケープゴートにするのか? 人々は変化に対応する技能や対策がないとき,変化に対する壁を築くことに向かう,とFRIEDMANは懸念します.
NYT November 10, 2006
The Perils of Inaction
(コメント) アメリカ・メディアから軽視され,後退し続けてきた問題は,中国との貿易摩擦や国際収支不均衡だけでなく,パレスチナ難民と中東和平もそうです.
イスラエルの戦車がガザ地区で砲撃し,イスラエル政府は誤爆と認めていますが,子供7人をふくむ18人を殺害しました.他方,パレスチナ政府はハマスが政権に加わったことで制裁を受け,財源や援助物資が枯渇しています.パレスチナは結果的に,ハマスとファタハの政治対立から内戦状態に近づいている,と言われます.NYTは,アメリカの積極的な仲介を求めます.
Chan Akya China's four-play Asia Times Online, Nov 11, 2006
Dilip Hiro Not only the Democrats are celebrating The Guardian November 11, 2006
(コメント) Chan Akyaは,共和党の敗退とブッシュ政権の弱体化,ラムズフェルド更迭を,中国が超大国になる大きな機会を得たもの,と考えます.
しかし,民主党の中国非難に応じて人民元を10%切上げる案が検討されており,Akyaはそれを「改革に破壊的な影響を及ぼす」と反対します.しかし,他の戦略的な利益を得る可能性もあります.すなわち,@北朝鮮,Aパキスタン,Bイラン,の今後の動静について,中国は重要な役割を担うでしょう.それは,ロシアやインドとの関係でも,重要な要因です.
Dilip Hiroも,ブッシュ政権の外交姿勢が弱まることで,ロシアと中国の重要性が高まる,と考えます.
WP Saturday, November 11, 2006; A27
By Harold Meyerson
Nov. 13 (Bloomberg)
New Democrats Sing Old, Populist Tune on Economy
Kevin Hassett
NYT November 13, 2006
True Blue Populists
By PAUL KRUGMAN
(コメント) NAFTAに不満を持つ民主党が多数を占め,企業主導のグローバリゼーションを最善の道と主張する時代は終わるでしょう.民主党は,企業への増税,社会的給付の増額,貿易における保護主義,を強めるでしょう.
民主党が政治的な支配権を握った議会では,所得格差の拡大に関心を集まり,ポピュリスト的な政策が採用されるでしょう.と言うのも,これまで保守派が支配する議会では,多数の有権者を犠牲にして少数の富裕層に利益となる政策ばかりが実現してきたからです.しかし,とクルーグマンは考えます,それは多数派ではない.民主党議員の多くも,共和党に負けずに,企業の利益を重視している,と.
WP Monday, November 13, 2006; A21
Return to Rubinomics?
By Sebastian Mallaby
The Wall Street Journal, 13 November 2006
Protectionist Stance Is Gaining Clout
Gregg Hitt
The American Prospect 11.14.06
The Fair-Trade Election
By Harold Meyerson
YaleGlobal, 14 November 2006
Relax, Democrats Might Not Be So Protectionist After All
Edward Gresser
WP Thursday, November 16, 2006; A27
Can the Democrats Deliver?
By Robert J. Samuelson
(コメント) Sebastian Mallabyも,民主党が長く少数派であった間に,貿易の利益を無視した保護主義の主張に染まってきたが,今や政策を支配できるようになったのだから,クリントン時代の中道的な政策に戻るだろう,と考えます.それがルービン元財務長官を中心とした研究グループが示すハミルトン・プロジェクトです.
民主党は,労働者たちが苦しみ,中産階層が減少している現実を認識しています.保護主義に代わって,労働者や政府が貯蓄することを容易にし,促します.また,失業保険を実際に役立つ形にして,レイオフされた労働者を助けます.プロジェクトの基本精神は,不平等を是正し,財政破綻を回避し,成長を促すこと,です.そのような政策プログラムでなければ,ウォル・マートを非難するだけでは有権者をつかめません.
グローバリゼーションや自由貿易を批判する民主党員や共和党員の当選に,ビジネス界の政治資金が流れてしまっていることをGregg Hittは嘆きます.アメリカにとって,また世界にとって,テロの次に重要な脅威は保護主義である,と.
民主党員とは何を主張しているのか? 実にさまざまな民主党員がいますが,彼らを統一する問題が一つある,とHarold Meyersonは指摘します.それは貿易です.1994年,民主党はNAFTAを阻止できませんでした.しかし,今や「公正貿易」の主張は多数派です.新しい議会は,もっと異なるグローバリゼーションを目指すでしょう.
他方,Edward Gresserは,民主党員が自由貿易を支持することは矛盾ではない,と考えます.民主党の政策は貿易について懐疑的で,国内経済を重視します.しかし,中国やインドの登場で世界貿易に対するアメリカの姿勢が慎重になるとしても,保護主義に頼るのではなく,革新的な政策をもたらすはずだ,と.
Robert Kagan and William Kristol Bush must call for reinforcements in Iraq FT November 12 2006
DAVID BROOKS Talking About Iraq NYT November 12, 2006
Changing Iraq policy is not enough FT November 14 2006
Zeb Bradford More troops will not solve Iraq crisis FT November 15 2006
Martin van Creveld The coming U.S. withdrawal from Iraq IHT November 16, 2006
(コメント) イラク政策は,アメリカ軍を撤退させるか,あるいは長期駐留,そして増強するか,たとえ民主党が勝利しても結論を出すのは難しいようです.
アメリカ政府の失敗は,フセイン体制を破壊してから,安定した秩序を再建するために十分な兵力を送らなかったことです.撤退すれば内戦は一定の均衡に達する? シリアやイランと合意できれば地域の均衡が回復する? しかし,アメリカ兵を5万人増派することによってしか,問題は解決できない,とRobert Kagan and William Kristolは考えます.
さらに,中東和平を積極的に推進し,西岸においてパレスチナ政府による安定を支持することで,アラブ世界の賛同を得られるかもしれません.
Zeb Bradfordは,Kaganらのイラク増派論を批判します.それだけの兵士をどうやって集めるのか? 短期的には不可能であり,長期的にも政治的な意志は無い.まさに中間選挙後のアメリカで,イラク増派は現実の選択肢から消えました.
アメリカ軍のイラク撤退は数ヶ月以内に始まり,2007年の秋までかかるでしょう.それによってイランの内戦は慢性化し,安定化にはさらに時間を要する.イランの脅威は一気に増大して,石油情勢を左右するかもしれません.アメリカ軍と外交政策の見直しは,ブッシュ政権が廃棄される2008年まで続きます.
FT November 12 2006
East Asia exposes the limits of the regional
By Alan Beattie
FT November 15 2006
How Bush should spend his weekend in Hanoi
By Guy de Jonquieres
IHT November 15, 2006
APEC's last chance to matter
Philip Bowring
Asia Times Online, Nov 16, 2006
Asia searches for security in trade
By David Fullbrook
NYT November 16, 2006
Bush, in Asia, Makes Appeal on North Korea
By DAVID E. SANGER and HELENE COOPER
(コメント) APEC首脳会議が大きな関心を集めました.ドーハ・ラウンドの破綻,北朝鮮の六カ国協議再開,アメリカ中間選挙による民主党躍進,安部政権のアジア外交始動,ロシアの石油戦略,メキシコ・・・
自由貿易協定FTAは,二国間の取引によって決まり,それぞれのFTAが貿易を複雑にしてしまう,とバグワッティが強く反対してきました.しかし,APECが示すように,いずれの国もより大きなFTAへの参加を求めており,FTAの拡大という動きが,自由貿易への準備になるという期待もあります.
実際には,APECの制度や代表制はOECDには程遠く,FTAの共通化もありません.日本,中国,韓国が,勝手な条件でFTAを競い合っても,域内の貿易は増えないでしょう.それは政治的な空騒ぎに過ぎません.
Philip Bowringは,APECが行動しなければならない,と考えます.これはアメリカが通商政策に関して動ける最後のチャンスです.つまり,APECが重要である最後のチャンスでもあります.一つは,ドーハ・ラウンドの妥結を得るために積極的な譲歩を示すことです.もう一つは,特にアメリカや中国が,二国間のFTAを増やすことを阻止するべきです.APECにおけるいかなる合意も,各国内の改革と自由化を促すものでなければなりません.
NYT November 12, 2006
Facing Reality on Europe’s Immigrants
By DAVID C. UNGER
(コメント) ドイツは300万人が外国生まれの市民であり,その多くがトルコ,ボスニア,アルバニア,アラブ世界,パキスタン,イラン,などから来たイスラム教徒である,という現実に慣れる努力を始めています.そうでなければ,ますます多くの若者が技術を持たず,仕事もない生活を続けるでしょう.彼らを励まして社会に統合することは,ドイツ自身のために必要なことです.それは,フランスであれほど多くの移民とその子孫が自動車に放火した現実によって明らかなのです.
Douglas J. Feith The Donald Rumsfeld I Know WP Sunday, November 12, 2006; B01
Jim Hoagland Right Vision, Wrong Policy -- and a Mideast Price to Pay WP Sunday, November 12, 2006; Page B07
Max Boot Rumsfeld, the walking contradiction LAT November 15, 2006
(コメント) 政治家や軍人の評価は難しい,と思います.その人の長い経歴において,さまざまな発言や行動が,多くの異なる解釈を支持するからです.
FT November 13 2006
Change in US will not solve UN’s crisis
By Gideon Rachman
The Guardian Thursday November 16, 2006
America faces a future of managing imperial decline
Martin Jacques
The Guardian Thursday November 16, 2006
Here are two signs of hope for the world's secret superpower
Timothy Garton Ash
(コメント) 中間選挙後,ラムズフェルドが辞任した今,ボルトン国連大使も交代するでしょう.この二人こそ,アメリカがユニラテラリズムを主張し,国連軽視の姿勢を代表する者でした.しかし,新事務総長,潘基文と,アメリカの方針転換が,国連を一気に有益な国際機関にする,という楽観はもてません.安保理常任国である中国やロシアにも,国連に主権を譲歩するつもりなどないからです.
国連は既に平和維持軍を過剰に展開しており,各地の紛争処理に増援を要求され,困っています.アメリカの大統領は,たとえリベラルな国際派でも,国連に軍隊を委ねないでしょう.イラク戦争での非難の応酬や,国連の汚職事件,改革要求により,国連もアメリカに頼りたくないはずです.ダルフールでも,北朝鮮でも,中国やロシアは国連を無視しています.国連安保理が決める「正しい戦争」に対する世界の信認は失われていくでしょう.アメリカとイランのように,地域の大国が対立するのを,安保理は仲裁できるでしょうか?
「ネオコン」によりアメリカの軍事力は過大評価され,その政治的介入や影響力も間違って過度に拡張されてきたわけです.自らも「アメリカ帝国」を正当化するような行動が逆転する過程に入りました.しかし,Martin Jacquesは,それがイラクに限られ,イランや北朝鮮など,世界各地でネオコンの方針は生き延びるかもしれない,と考えます.現実の世界は,アメリカ以外のさまざまな大国が競い合う,古典的な勢力均衡の世界を再現しつつあるというのに.
あるいは,メディアの覇権を狙うアル・ジャジーラが英語放送を開始したことについて,反発と関心が高まります.
Nov. 14 (Bloomberg)
South Korea Faces Risk of Japan-Like Lost Decade
William Pesek
LAT November 14, 2006
South Korea blinks
(コメント) 韓国は日本型のデフレに直面し,アメリカ軍撤退と北朝鮮の挑発によってイラク型の無秩序にさらされるのでしょうか?
1997年の通貨危機を,韓国は急速に改革し,日本は長く改革を避けていました.韓国は成長し,日本はデフレに苦しんだわけです.しかし今,韓国はかつての日本のように,ウォン高,石油価格高騰,土地バブル,によって成長を損なわれています.中国やアメリカの経済が減速するという予想とともに,韓国の土地バブル崩壊は,デフレへの流れを強めます.特に,中国との貿易はますます高度な製品分野でも激しくなっています.こんなときに,ノムヒョン政権の支持率や経済運営は低迷し,消費者心理を悪化させています.
何より,William Pesekは日本が悪い先例を示して韓国を失敗に導くだろう,と警告します.新規の雇用を拡大するのではなく,雇用を維持するために赤字を増やし,金融機関や企業における重役たちの保身を政府や中央銀行が助けたのです.
韓国の姿勢は間違っています.金正日の核実験により米中の接近と協力が進み,外交的な北朝鮮への圧力は有効な改革をもたらすはずでした.南北融和を掲げる韓国政府は,それさえも破局をもたらすと反発し,観光事業や開発特区によって金正日に加担します.改革の好機を失うことで,最も傷つくにもかかわらず.
NYT November 13, 2006
Truth About the Trade Deficit
Asia Times Online, Nov 16, 2006
The pain of a weak US dollar
By Axel Merk
Nov. 16 (Bloomberg)
U.S. Trade Deficit Has Roots Here, Not in China
John M. Berry
(コメント) 石油価格が下がって,アメリカのドライバーたちがガソリン価格に対する不満をやわらげれば,それでよかったのか? 7900億ドルと予想される今年の貿易赤字.NYTは,ブッシュ政権と共和党が,自分たちの行った減税や消費刺激を称賛するために,こうした対外赤字を軽視してきた,と批判します.他方,民主党は,人民元が安すぎると非難するばかりで,自分たちの保護主義が世界経済を不況にしてしまう危険を軽視している,と批判します.
ドルの価値が暴落する不安は,この対外不均衡をアメリカへの外資流入で維持しています.毎日20億ドルです.ドル建資産に対する海外の需要は,もしドルの価値が下がると思えば減少し,悪循環を生じます.大幅に下落して,これ以上は下落しないと確信できない限り,新しくドル建の資産を購入しないでしょう.そんなことが起きたら,ドルは暴落するはずです.
しかし,ドル暴落は誰の利益にもなりません.誰かが先にドルを売れば逃げられる,というものではないのです.しかしまた,だからといって誰もが我慢する,とは限りません.こんなゲームは続けられない,と誰もが知っているからです.アメリカが積極的に貯蓄するか,不況になって,消費と投資を大幅に減らすまで.突然,もしくは,円滑に.
FT November 14 2006
Hard choices await Japan despite record postwar boom
By David Pilling
(コメント) 日本の景気拡大がイザナギ景気を超えた,というニュースに,David Pillingは疑いを感じます.イザナギ景気は,若さに満ちた日本が世界にキャッチ・アップする時期でした.人口構成や動態もまったく違う.しかし,今の日本は,心臓麻痺で金融機関をやられたが,とにかく死ななかった,というに過ぎません.そもそも景気が拡大したと言っても,そのスピードはぜんぜん違います.1997年以後,アメリカやEUが41.5%,55.8%も拡大したのに,日本はまだ0.3%少ないままです.しかも,日本はその現状維持のために,世界最悪の,対GDP比180%という債務を残しました.
これは何か!? アメリカのように,海外からの投資に依存していないから良かった,などと喜ぶことさえブラック・ジョークに聞こえます.
STEVEN R. WEISMAN A Setback for Vietnam Trade Bill NYT November 14, 2006
Protectionists punish Vietnam LAT November 15, 2006
Slowly winning Vietnam LAT November 15, 2006
Shawn W Crispin Bush strikes a 'grand bargain' with Vietnam Asia Times Online, Nov 16, 2006
Karl D John The new Vietnam welcomes the world Asia Times Online, Nov 16, 2006
(コメント) ネオコン心理が,ベトナムに対しては強気の外交で,社会主義経済の繁栄を拒む,というわけでしょうか? 否,中東と違ってベトナムでは,確実に,市場という形で,アメリカが勝利を実現しつつある?
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The Economist, November 4th 2006
The future of Kosovo: Independence days
Retailing: Setting up shop in India
China’s investment: Dim sums
(コメント) アメリカ中間選挙や民主党の行方も,スターン報告も,パリの暴動1周年も,ベトナムのWTO加盟交渉も,石油の呪いも,インフレーションと金融政策も,書いてありました.しかし,日時を経過して面白いと思うのは,この三つです.
まずコソボの独立について.NATO軍が駐留することで,セルビアによる介入を食い止めています.人種構成から考えればアルバニアに近いのです.しかし,セルビア人は国土の一部と信じています.これ以上,国民投票による独立を延期させることはできません.しかし,セルビアとの戦争を回避するためには,独立に条件をつけて,それを守るように監視する,という妥協が模索されています.
次に,インドの小売業におくる外資参入について.インドの膨大な小売分野の雇用を脅かすことは決して政治的に受け入れられません.しかし,改革を目指す政府は,消費の拡大と外資系の大型店舗を,何とか矛盾なく導入できる道を探しました.その結果,卸売り分野に参入し,小売店をチェーン化する際にも外国資本が参加します.
最後に中国の過剰投資について.中国の景気は過剰な設備投資や不良債権を積み重ねることで持続しているから,それが崩壊するのは時間の問題だ,と言われます.しかし,過剰投資などないかもしれません.他の統計と矛盾します.そもそも投資に対する収益は改善しつつあります.特定分野の過剰は起きていますが,まだまだ成長は続きそうです.