IPEの果樹園2006

今週のReview

11/13-11/18

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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資産家と慈善. イラク占領の方針転換. 地球温暖化. 海の死滅

グローバリゼーションの新局面. アメリカ中間選挙. イギリス人の定義. 学校. 

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


LAT November 2, 2006

Giving back, big time

By David Nasaw

NYT November 7, 2006

America’s Laziest Man?

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) 少しなら「お金持ち」,かなりなら「成金」.もっと裕福な人を,「資産家」と呼びます.私の勝手な辞書によれば,投資家と慈善家・篤志家は,もっと儲けたいか,儲けることに飽きたか,によるのです.

ビル・ゲイツやバフェット,あるいは,ターナーが寄付を申し出たとき,アンドリュー・カーネギーの助言が引き合いに出されました.「金持ちのまま死んだら,浮かばれないぞ!」 アメリカ人には馴染み深いようです.成功した華僑たちも学校を建てるとか,慈善の話を聞きます.しかし日本では,金持ちは金持ちに過ぎず,慈善の話は余り聞かないように思うのですが.

カーネギーは1901年に鉄鋼会社を売却し,2260億ドルを得ました.彼は情け容赦ない資本家として,労働者の賃金を削り,労働時間を延長し,組合を潰しました.しかし,富が決して個人のものではなく,社会によってもたらされたのであるから,社会に還元されるべきだ,と考えたようです.それゆえ,資産に課税することには反対しましたが,遺産には100%課税せよ,と主張したのです.自分で稼いだわけでもない資産を得るのは,資本主義にも,デモクラシーにも悪いことであり,指導的な地位に就く金持ちの子供たちにも悪いことだ,と.

カーネギーは,大学,技術学校,図書館,コンサート・ホール,などを建て,学生への奨学金,教授たちへの年金を設けました.そして,平和を広め,知識普及するために,財団を残したのです.

昨年,アメリカで再考の収入を得た企業経営者は,Barry Diller でした.46900万ドル,約500億円です.しかし,彼の経営する会社は業績も株価も決して良好ではないのです.NICHOLAS D. KRISTOF は,彼をMichael Eisner Awardに表彰したい,と書きます.Eisnerは,ディズニーの元会長ですが,他にも多くの経営者が破格の所得を得て企業をダメにしました.

KRISTOFは,映画俳優や野球選手と同様に,高所得を得るものが現れるのは資本主義のシステムが機能していることを示し,歓迎する,と書きます.しかし,企業から見てDillerのコストはどれほどであったか? 彼は投票権のある株式の56%を支配し,自分で自分の給与を決めることができました.その結果,企業の上げた利益の9.8%を自分のポケットに入れたわけです.他の優れた収益を上げている企業では,それが0.2%でしかありません.時給15万ドル,という史上最悪の社員を雇っているわけです.

破格の慈善が,売名なのか,贖罪なのか,あるいは,信仰心によるものか,何であれ,資本主義がシステムとして機能する重要なパーツをなしている,というのは本当かもしれません.


WP Friday, November 3, 2006; A21

Seeking Options On Iraq

By David Ignatius

FT November 6 2006

Only Iraqis can find way out of conflict

BG November 6, 2006

What it will take to end war

By James Carroll

LAT November 8, 2006

Many dead ends in Iraq

Max Boot

NYT November 8, 2006

Tolerable or Awful: The Roads Left in Iraq

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) ブッシュ大統領の支持率も,中間選挙も,次期大統領選挙も,アメリカの外交政策も,すべてはイラク情勢に大きく依存します.

それは,いつもながら,イランの核開発よりも,パレスチナとイスラエルに関する中東和平の進展に関わっているのかもしれません.ハマス政権に対立し,レバノン侵攻によって力を誇示しようとしたイスラエルが,今も,フランスなどの多国籍軍に対して威嚇飛行を続ける理由は,アメリカの中間選挙と関係があるのだろうか,と思います.つまり,アメリカがイランやシリアを地域安全保障や経済協力に組み入れるために,イスラエルは中東和平でパレスチナ自治政府に政治的な譲歩を求められる,と.

FTは,ブッシュ政権がイラク分割をウルトラCと考えるなら,それは宗派や部族間の虐殺と周辺諸国の本格的な介入をもたらすだけだ,と反対します.むしろ,ヨルダンにおける各派の話し合いを支持します.聖戦を否定し,政治的な妥協を促すほかに,選択肢はないから,と.

James Carrollは,ベトナム戦争,フルブライト公聴会,ニクソンの「秘密計画」,を考えます.中間選挙において両院を押さえ,公聴会によって世論を反戦に変えることができても,再び,ニクソンのように「名誉ある撤退」を求めて,政府は北爆を繰り返さないだろうか? 国民は撤兵を求めるが,同時に,政治は敗北を嫌うから.ラムズフェルドとチェイニーはそれを狙っています.戦争を終わるには,名誉を失うことにも耐え,今度こそ敗北を受け入れるのか?

Max Bootは,すべての選択肢が撤退の言い訳に過ぎず,失敗する,と考えます.アメリカがイラクに作り出した政治体制の崩壊は,ついに社会的な崩壊とアナーキーに至り,宗派や部族,村同士が武力によって殺戮と報復を繰り返しています.これは「内戦 “civil war”」と呼ばれていますが,決してアメリカの南北戦争に似ていません.治安の悪化は合意を難しくし,合意の欠如がさらに治安を悪くします.秩序を回復に向かわせる唯一の現実的な選択肢は,アメリカ軍の駐留を増やすことだ,とBootは考えます.さもないと,イラクはアメリカの死活的な利益を脅かすイスラム原理主義国家になるかもしれない,と.

FRIEDMANは,むしろ,これでイラクを問題にするアメリカの選挙は終わった,と主張します.なぜなら,アメリカの選択は撤退しかないからです.イラクの統一は保持しても,各地域の自立は進むでしょう.シリアやイランの関与も認めて,協力を求めます.そのための合意が成立する条件とは,アメリカが一気に撤退して全面的な混乱を放置する,という脅しです.合意があれば,アメリカは段階的に撤退します.


FT November 3 2006

An elemental economist

By Chris Giles

BG November 3, 2006

Cooking the global economy

The Guardian Saturday November 4, 2006

America's anti-enviromentalists

FT November 7 2006

Benefits of climate action outweigh costs

By Nicholas Sternthe UK Government Economic Service

FT November 7 2006

Curbs on emissions will take a change of political climate

By Martin Wolf

(コメント) 地球温暖化に関してイギリス政府が求めた報告書において,「優れた経済学者がセールスマンになった」とFTChris Gilesは驚きました.

Sir Nicholas Sternの報告書は,もし温暖化を放置すれば,そのビジネスへの被害は現在の消費の5%〜20%にも及び,他方,その対策には1%しかかからない,と対策の実行を求めます.他方,これでは「環境保護の狂ったギャングたち」と同じではないか,と非難を受けてもいます.

Sternは非常に優秀な数学者であり,その後,経済学者に転進しました.学術的な才能だけでなく,世界銀行の主席エコノミストを勤めたように,官僚組織や外交分野にも長けた逸材である,とFTは紹介します.しかし,イギリス大蔵省ではゴードン・ブラウン蔵相の取り巻きに疎んじられ,ブレア首相がアフリカ援助,そして,今回の地球温暖化に取り組む仕事を与えました.

たとえ統計や経済原理の応用として優れた報告書でも,その過程は恣意的に選択される,と他の専門家は批判します.対策の費用がわずか1%などというのは勝手な解釈である,と.また,問題は,温暖化防止による利益と負担が人類にどのように分配されるのか,です.現在の世代が苦しい思いをしても,その利益の多くは孫の孫まで実現しないでしょう.貧しい人々がどうなるか,支配的な諸国がどうなるか,分からないことばかりです.アメリカが支払う莫大な温暖化防止の税金によって,中国のエネルギーを脱炭素化する事業に支払う,というのであれば,はたしてアメリカはその競争相手の共産主義国に補助金をくれてやるでしょうか?

他方,BGは地球温暖化を,1930年代の世界不況,にたとえています.1920年代から世界の指導者たちは警告を受けながら,何もしなかった,と.イギリス政府は真剣に受け取りましたが,ブッシュ政権はどうか? そして,企業や州政府,自治体によっては積極的ですが,多くは問題を無視し続けます.

Stern自身は,リスクの経済学を適用した点が報告書の新しい点である,と考えます.将来のリスクですから,それを評価するには割引率が必要です.これは予測が大きく異なって当然です.

Wolfは,Willem Buiterに同意して,この問題が「マイナスの公共財」に関する集合行為の困難を示している,と指摘します.誰もそれを過度に行い,あるいは,抑制しても,他者の行動を妨げない.誰も温暖化防止に支出したことで,他者が利益を受けることを阻止できない.フリー・ライダーを許さないためには,主権を各国がプールして,環境規制を誰にでも強制できる世界体制が必要です.

さらに,分担の問題,効果が遅れる問題,もあります.最後に,余りにも不確実なことが多いので,ルールについて合意ができません.それでも何かできないか? と考えるWolfは,@意識を高め,A主要排出国という,少数の国で合意し,Bエネルギー安全保障など,他の重要問題とリンクする.そして,エネルギー価格に介入し,技術開発に投資し,政策や規制で変化を促し,貧しい諸国を支援し,長期の不確実性を減らすべきだ,と主張します.


Dealing with North Korea BG November 3, 2006

Testing North Korea NYT November 5, 2006

Nayan Chanda Pyongyang: Let’s Talk, But Change the Subject YaleGlobal, 7 November 2006

Lauren Keane Viewed From Chinese Border, North Korea Is More Curiosity Than Threat YaleGlobal, 9 November 2006

(コメント) 6カ国協議に復帰するという北朝鮮ですが,国際援助を核開発に悪用し,この間,飢饉で100万人以上が死んだ,とthe Havel-Wiesel-Bondevik reportはその政治体制を批判します.NYTは,ブッシュ政権がライス国務長官に交渉を委ね,体制転換を行わない代わりに,核を放棄させる,という合意を試すべきだ,と主張します.

しかし,中国,韓国,日本がバラバラに行動することは,アメリカの交渉を難しくするでしょう.


LAT November 3, 2006

Was Kerry right?

Rosa Brooks

NYT November 3, 2006

As Bechtel Goes

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 「学校でまじめに勉強しなさい.・・・さもないとイラクの戦場に送られるぞ!」 というケリーのジョークで,民主党はあやうく選挙の風を逃がすところでした.しかし,この言葉への非難と究明で,アメリカ兵とは誰のことか,が明らかになりました.むしろ,もっと政治家やその子弟が軍務に就くべきだ,と指摘します.

KRUGMANが非難するように,ブッシュ政権は戦争によって利益を得ています.ベクテルはイラクの公共サービス再建を請け負って,アメリカ国民の税金から23億ドルを受け取っています.しかしバクダッドの電気も水道も下水も,まだ完全には復旧されません.なぜか? ・・・再建の成果はその契約と結びついていないからだ,とKRUGMANは考えます.契約企業はラムズフェルドやチェイニー,ブッシュとの関係で決まります.


The American Prospect 11.03.06

The Old New World Order

By Blake Hounshell

(コメント) 1995年以来,WTOを介したリベラルな国際主義は機能しています.ベトナムの加盟申請はその顕著な例です.何が民主主義か,を議論するより,人権抑圧を減らし,生活水準を引き上げる過程で,WTOへの加盟を目指すベトナムの方が,最初にアメリカが民主主義(や資本主義)を押し付けようとしたイラクよりも,はるかに成功しているわけです.それは,戦後世界の秩序を築いたディーン・アチソンの考えだった,と.


NYT November 4, 2006

Where the Tuna Roam

By JOHN TIERNEY

FT November 4 2006

Keeping fish in the sea and on the menu

LAT November 7, 2006

Too few fish in the sea

By David Helvarg

(コメント) あなたは,なぜ犬や猫,鳥に同情するのに,魚には同情しないのですか?

世界中で寿司がブームになった結果,かつて大平原からバッファローが消えたように,2048年には世界の海からマグロが消えてしまう,という予測が科学雑誌Scienceに載りました.マグロを守るのも,やはり牛と同じように,牧場やカウボーイを必要とするようです.今後,おいしいマグロの漁獲量を許可制度にして売買したり,マグロを囲い込んで養殖したりすることで,野生のマグロが守れるでしょうか? マグロ漁の規制にも多くの問題があります.

FTは,アダム・スミスの解決法を避ける分野として,二つを指摘します.それは,気象と海洋です.ここでは私的利益が公的な利益を支持せず,しばしば対立します.しかも,マグロの絶滅は,地球温暖化よりも確実です.具体的な対策も示されています.

David Helvarg は,the Blue Frontier Campaignの会長です.1950年以来,大型の魚の90%が海から既に消えた,と言います.どこに? ・・・それは工業的な漁法によって過剰に捕獲され,食卓を経て,人間に胃袋に消えたわけです.このままでは,2048年には多くの魚が全滅します.漁獲量を減らし,参入を規制し,禁漁区を設けます.そして,沿岸警備や禁漁区の保護を強化しなければなりません.


WP Sunday, November 5, 2006; Page B01

Dispatch From The Future

By Wolfgang Drechsler

LAT November 5, 2006

The cost of voting by mail

By Steven Hill

(コメント) インターネットや電子メールは非常に便利ですから,マトリックスの映画風に,それで投票できれば最善ではないか? とアメリカ人でなくても考えます.実際,エストニアでは成功した,ということです.技術的な問題もクリアしたようです.エストニアはロシアから離れて自立し,世界市場で目立つために,何でも電子情報化する,という特徴を発揮しました.

電子投票には反対もあり,完全には導入されていませんし,電子投票によって投票率が上昇した,という証拠もない,ということです.IDカードを購入しなければならず,老人や反対派を排除し,若者の投票を増やしたかもしれません.Manuel Castellsは,電子投票が民主的な正統性を脅かす,と考えます.

Steven Hillは,カリフォルニアの不在者投票制度から考えます.この制度が条件を緩和され,大規模に利用されると,いつでもどこでも投票できるようになります.それなら,いっそ電子メールで投票しよう,というわけです.分散した有権者に対して,選挙活動の形態が変わり,必要な選挙資金も増えるかもしれません.


FT November 5 2006

US faces globalisation without safety net

By Alan Beattie

(コメント) グローバリゼーションは大西洋の(そして太平洋の)両側で,雇用や所得への不安と不平等とを拡大しています.しかしヨーロッパの福祉国家も,日本の終身雇用も,グローバリゼーションには生き残れません.アメリカの共和党政治家から見れば,彼らは自分の周りに城壁を築いて固め,世界市場の変化に乗り遅れてしまうのです.そして,城とともに滅びるでしょう.

The Guardian Tuesday November 7, 2006

The new globalisation

Anthony Giddens

(コメント) Gene Grossman, Alan Blinder, Richard Baldwinらの研究を引いて,Anthony Giddensは,「グローバリゼーションの新パラダイム」を考えます.それは,貿易が製造業の国際分業を再編し,欧米諸国から造船業が失われるような過程から,電子的な情報の移転により,どのような部門であれ,その仕事の内容が国際的に移転されてしまう,という新しい時代が始まったからです.

もはや政府は,ハイテク部門を育成すれば雇用を維持できる,と信じることなどできません.どのような分野や職種でも,電子的に移転される限り,世界的な競争に巻き込まれます.彼らの雇用は減り,賃金も急速に下がるでしょう.Alan Blinderによれば,今後,サービス分野で3000万から4000万人の雇用が海外に移転される,ということです.政府にできることは,さまざまな分野で弾力性を高く維持することでしょう.高度な教育や熟練をもった労働者も,以前と違って,世界中で競争を強めています.たとえば外科医でさえ,患者を,外国の高度医療サービスに奪われます.

グローバリゼーションに反対する者は,蒙昧な保護主義者である,と決め付けないほうが良いのです.


Nov. 6 (Bloomberg)

Japan's Latest Economic Solution Is Phone Sex

William Pesek

FT November 9 2006

Japanese economy

(コメント) 日本の景気は本当によくなっているのか? 町の商店街や小店はさびれ,多くの労働者は所得が減り,あるいは,増えないと感じているでしょう.

日本経済の復活はテレホン・セックスから? それは,日本を代表する企業がNTTドコモだから,また,テレホン・セックスのような新サービスしか需要を生み出せないから,そして,日本の人口が減少し始めているから.もっとセックスに解放的な社会にした方が良い!?

データが示すように,日本の景気回復はますます不安を色濃くしている,とFTは考えます.融資は伸びず,賃金は上昇しないまま,デフレがいつでも蘇えりそうです.


FT November 6 2006

European Union needs Turkey

By Guler Sabanci

FT November 7 2006

Central Europe can cure economic malaise

By Anders Aslund

IHT November 7, 2006

Open wide Europe's doors

Carl Bildt

(コメント) 改革がなければ,EUの拡大も民主化の拡大も終わりそうです.Anders Aslundは中東欧諸国の政治不安が,EU加盟への改革を怠ったことによる,と考えます.もっと税率を下げて,労働市場を弾力化し,公共投資によって教育やインフラを整備する必要があります.それらは個々の国が競争して達成すべき課題なのです.トルコ加盟を拒否することではありません.


Max Hastings Bush and Blair have forfeited the moral authority to hang Saddam The Guardian Monday November 6, 2006

David Cox Saddam: a tribute The Guardian Monday November 6, 2006

The Saddam Hussein Verdict NYT November 6, 2006

Anne Applebaum Justice in Iraq WP Tuesday, November 7, 2006; A21

Incomplete justice in Iraq BG November 8, 2006

(コメント) サダム・フセインの死刑判決を,それに関わる多くの人たちが異なる思いで聴いたでしょう.フセインを生きて逮捕し,裁判にかけるべきであったのか,と議論されています.アンソニー・イーデンはヒトラーが兵士に殺されることを望んだかもしれませんが,スターリンは自分で処刑するために生きたまま逮捕したがりました.戦争の後がどうなっているかを思えば,フセインなど,どうでも良かったように思えます.ヨーロッパの死刑廃止を嫌うアメリカが,ここでも争っているのか?

David Coxの反論は興味深いです.この裁判が,アメリカの選挙ではなく,イラクにおける法の支配や民主的統治,治安回復に役立つとしたら,すぐれた政治的装置になるはずです.せめて,18万人のクルド人と,10万人のシーア派を殺した罪によって,フセインを歴史に記録することは果たせるでしょうか.


Mandating democratic change The Guardian Monday November 6, 2006

(コメント) アメリカの選挙は,ある意味で,世界の政治を動かします.アメリカの有権者だけが,彼らの関心によって,アメリカの及ぼす世界政治における重要な地位や政策を決めるわけです.まるで自民党総裁選挙のように.

しかし今度は,その関係が逆転しました.イラク情勢がブッシュ大統領と共和党を罰する結果になりました.実際,アメリカ大統領が外交によって評価され,あるいは罰せられるのは,繰り返されてきたわけです.The Guardianは,二期目の大統領がいつも中間選挙では苦しむ,と書いています.中間選挙で大統領を交代させることはできません.だから彼を罰するより,関係者の責任をただし,政策の説明を求めて,民主党からの提案に妥協して,方針を変えさせることができます.

John Hughes Bush faces daunting challenges in his lame-duck years CSM November 08, 2006

A change of course BG November 8, 2006

Scot Lehigh No confidence in Bush BG November 8, 2006

Melissa McEwan Pride is yet to come The Guardian Wednesday November 8, 2006

Post-Election Job Number One NYT November 8, 2006

DAVID LEONHARDT Election’s Over. Now to Tackle the Realities. NYT November 8, 2006

Jacob Weisberg A poll victory for economic nationalism FT November 8 2006

Demetri Sevastopulo, Holly Yeager and Edward Luce in Washington and Jeff Pruzan in New York US voters in resounding call for change FT November 8 2006

A very good day for American democracy FT November 8 2006

(コメント) レイムダックの期間,ブッシュ大統領は何をするべきか?  John Hughesは,まず国内政治における融和と協力を演出し,社会保障制度の改革,移民政策の改革を進め,イラク,イラン,北朝鮮に対して外交政策の転換を図るべきだ,と整理します.そのためには,中国やロシアと話し合う必要があります.まったく,その通りです.

選挙というのは,えてして,多くの争点や地域の異なった利害を反映し,その結果もさまざまな解釈を生むわけです.しかし,アメリカの中間選挙は違います.争点はイラク戦争.結果はブッシュ政権への不信です.まるで,小泉・優勢民営化選挙と逆さまです? ブッシュ氏は民主党にも代案はない,と正しく批判しましたが,選挙結果はブッシュ政権の専横,共和党の一党支配を批判したのです.

まずはラムズフェルド国防長官の辞任です.しかし,民主党が上院でも多数を占めたわけですから,それで終わるはずがありません.しかし今後,たとえ糾弾されても,フセインは死刑になるでしょうが,ラムズフェルドは死刑になりません.

ラムズフェルドが辞めても,イラクの方針はなかなか変わらないかもしれません.むしろブッシュ政権に民主党が強いるとしたら,経済ナショナリズムである,とJacob Weisbergは予想します.彼らは自由貿易に反対し,グローバリゼーションや,いかなる穏健な移民政策にも反対するだろう,と.彼らは大企業や銀行と敵対するポピュリストではなく,中国やメキシコを非難する経済ナショナリストなのです.ドーハ・ラウンドの再開は難しく,中国への通貨操作という非難は強まって,国際市場に混乱が予想されます.

FTは,当然,そうした傾向について「自滅的な戦略だ」と警戒しています.

Timothy Garton Ash This marks the beginning of an end - and the end of a beginning The Guardian Thursday November 9, 2006

Thank you, America The Guardian Thursday November 9, 2006

Sidney Blumenthal The American revolution of 2006 and beyond The Guardian Thursday November 9, 2006

Anatol Lieven Time to talk to the bad guys IHT November 9, 2006

Charles A. Kupchan and Peter L. Trubowitz Bush is still 'the decider' LAT November 9, 2006

WILLIAM SAFIRE After the Thumpin’ NYT November 9, 2006

William Pesek China Sanctions Shouldn't Be on Democrat Agenda Nov. 10 (Bloomberg)

(コメント) アメリカ政治を分断し,世界を分断した,ブッシュ戦略を放棄するときです.国際機関を通じた協力によって,軍事力ではなく外交による国際秩序の回復を,イラクでも,イランや北朝鮮でも,試すときでしょう.もしアメリカが中東世界で嫌われているため撤退したいなら,EUや日本が復興に関与するように求め,逆に,ロシア周辺やアジアの地域安全保障を支援することに代えてはどうでしょうか?

その理想を,Timothy Garton Ash はアメリカの戦後外交政策を示した報告書"Forging a World of Liberty under Law"に求めます.ウィルソンの理想主義に,キッシンジャーの現実主義が組み合わさったもの.この方針を冷戦の封じ込め戦略として採用させたのはジョージ・ケナンであった,とAshは回想します.

この危険で不安定な世界,そして,聖戦,宗教から文化,道徳まで,対立する価値に沸騰する世界にしたアメリカが,ブッシュ政権によって6年間も維持・強化されました.しかしアメリカ国民は,この選挙によって,明確に方針転換を求めたのです.ありがとう,アメリカ.ありがとう,民主主義!

Charles A. Kupchan and Peter L. Trubowitzは,外交政策に期待されるような転換は起きない,と考えます.なぜならアメリカ憲法が大統領に戦争と平和に関する権限を与えているからです.また,民主党が大統領に強いてアメリカ軍を撤退させれば,イラクの混乱の責任を今度は民主党が問われることになります.民主党内も分裂しており,民主党と共和党の意見の違いは拡大しています.ブッシュ大統領の特権だけが,外交政策を決めるでしょう.

民主党の不満は,中国に向かうのでしょうか? あるいは,アジアとの共生関係をもっと重視する?


The Guardian Tuesday November 7, 2006

The struggle for belonging

Billy Bragg

(コメント) 「イギリス」とは何か? 「イギリス人」や「イギリス文化」を定義する論争は,アカデミックな世界でいつまで続いても,どうでもよいはずです.しかし,イスラム社会はイギリスの価値観と相容れない,といった非難が繰り返される時代に,「何がイギリス的か」を語ることは危険な議論です.

イギリスを定義しようとすれば,それは歴史に向かうでしょう.そして,王様や女王様,将軍たちの歴史ではなく,人々の歴史を見るなら,それは多面的で,どこで終わることも,分けることもできないはずです.たとえば,マンチェスター自由貿易会館the Manchester Free Trade Hallを例にとれば,1856年に穀物法反対の集会が開かれ,1905年にChristabel Pankhurst が女性参政権を求め,1976年にセックス・ピストルズが演奏してパンク音楽への関心を高めました.そこが今ではホテルになっています.要するに,イギリスの伝統とは何を意味するのか?

私たちが共有する国とは,共通の脅威に対する安全を与えてくれる,何よりも「場所」を意味しており,「民族」や「文化」ではないのです.


The Guardian Wednesday November 8, 2006

We've forgotten to teach social skills, and our children are stagnating

Jenni Russell

The Japan Times: Wednesday, Nov. 8, 2006

Expected behavior in a school jungle

By GREGORY CLARK

(コメント) Jenni Russellは,イギリス社会において社会的統合を担ってきた家族や宗教,学校がその機能を果たせなくなっていることを強調します.社会はますます階層間の移動性を失い,子供たちの経験に較差を生じているにもかかわらず,学校は成績や競争にだけ時間を費やして,子供たちの社会的な経験を育てることに投資していません.

GREGORY CLARKは,日本の「教育崩壊」を取り上げています.教育システムは,文部科学省の過剰な介入や指導,硬直した教育,により崩壊しつつあるのです.多摩大学の改革に学長として関わった経験から,CLARK氏は,文科省が英語を入試から外したり,彼が特に強く望んだ「暫定入学制度」を拒みました.しかし,強制的に横並びの教育を行うことが効果的であった時代は終わった,と.

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The Economist, October 28th 2006

Cut and run?

(コメント) The Economistは,超大国アメリカでさえ,2200人を超す戦死者の負担には耐えられず,これ以上の損失を抑えるために撤退策を考えるのは正しい,と認めます.しかし,イラク侵攻が失敗ではなかったと示せる可能性はまだあり,アメリカはイラク自身が安定した政治的基礎を見出すのを助ける力を保持している,と主張します.

アメリカの有権者は,当然,ブッシュ政権をイラク占領の失敗によって罰するべきでしょう.しかし,それはすでに苦しんでいるイラク国民を罰するものであってはなりません.


The Economist, October 28th 2006

America’s economy: A falling speed limit

Germany: land of emigration

Charlemagne: Europe, Russia and in-between

Africa and China: Wrong model, right continent

China in Africa: Never too late to scramble

China’s foreign reserves: Who wants to be a trillionaire?

(コメント) アメリカでは選挙結果次第でイラクからの撤退を検討する流れを予想し,さまざまな方針転換が模索されていました.同時に,政府が何を望んでも,経済の成長鈍化は避けられない情勢です.それは,対外赤字とともに,アメリカの政策運営を難しくするでしょう.

ヨーロッパに目を転じれば,ドイツが移民流入ではなく,移民流出を心配しています.優れた若者たちがドイツの外に職場を得る傾向が顕著になりました.また,ロシアのエネルギー戦略に抗して,東欧から中央アジアに至る旧ソ連圏の諸国に,EUは積極的な「善隣友好政策」を取るべきだ,とThe Economistは考えます.

他方,中国の積極的なアフリカ外交には,それがアフリカの資源輸出依存や独裁政治を助長し,国家による経済の統制を美化する点で,望ましくない,と反対します.中国製品の流入は,貧しいアフリカ諸国の重要な市場や雇用を奪い,投資にともなって増えつつある中国人労働者の劣悪な労働条件とともに,アフリカ人労働者を苦しめるでしょう.

1兆ドルを超える中国の外貨準備についても,The Economistの反応は正統的です.私は,中国の市場改革(そして国際通貨制度改革)に,積極的に活かす形で,この問題を解決して欲しい,と思います.