IPEの果樹園2006
今週のReview
11/6-11/11
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :新古典派経済学,
安全保障 :イラク占領の方針転換,安倍首相インタビュー,新技術と軍事・国家
貿易・投資 :ユーロ圏の成長,APECかFTAAPか,ウォル・マート
通貨・金融 :ルービン
世界統治 :グローバリゼーションと中産階級,温暖化の新報告
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
Weekly Standard, 10/24/2006
One World . . .
by Irwin M. Stelzer
(コメント) グローバル化した世界では,雇用も,賃金も,消費も,生産も,互いに国境を越えた影響を及ぼします.それにもかかわらず,私たちは政策の正しい効果を理解していません.
「EUは厳格な競争政策をアメリカ企業(マイクロソフトやインテル)に求め,アメリカ企業はEU企業にも同じ厳格な金融財務規制(the Sarbanes-Oxley Act)を求める.アメリカ人もヨーロッパ人も中国のルーズな知的所有権保護を自分たちに合わせるよう求める.イギリスはアメリカの金融規制を免れ,また,EUの労働市場規制を免れたいし,フランスやドイツが望むようなハーモナイゼーションが税率の引き上げになることを,またアイルランドが(結果的に,企業の流出を招いて)引き下げを迫ることも,心配している.そしてどの国も自国の望ましい環境政策を他国に押し付けようとする.実際,EUは先週,その空域に出入りするアメリカの航空機に温暖化ガスの排出税を賦課する,と迫った.」
世界市場の圧力と企業間競争がもたらすのは,ますます錯綜した政治的に分裂したままの世界に閉じ込められた人々です.
LAT October 30, 2006
By Lawrence H. Summers
間違いなく,私たちは富裕の時代に暮らしている.9・11の後遺症や,石油価格の三倍におよぶ高騰にもかかわらず,世界経済は記録に残る経済史上のいかなる5年間よりも,急速な成長をこの5年間に遂げた.最近の成果と楽観的な予測を考慮すれば,自由な市場と世界的な統合に対する顕著な熱い支持が広まっている,と期待するかもしれない.
しかし,世界のいたるところで,市場システムや世界統合に対する幻滅が膨れ上がっている.貿易自由化に関するドーハ・ラウンドは失敗し,ウォル・マートへのバッシングが続いている.ロシアでは一連の再国有化が進み,ラテンアメリカや東欧の政治ではポピュリズムの勝利が広がっている.私たちはベルリンの壁崩壊以後見たこともない,多分,それ以前にもなかったような,市場システムへの不安に直面している.
なぜこうした幻滅が広まるのか? 疑いなく,個々の国に特殊な要因がある.反グローバリゼーションの感情は,ある程度,ブッシュ政権の外交がもたらした失敗のせいである.しかし,もっと根本的な,困難な理由がある.それは,現代の経済成長の利益を,膨大な世界の中産層が享受できていない,という不満が強まっていることだ.事実,彼らの分け前は増えておらず,むしろ減ってさえいるだろう.
ジョン・ケネス・ガルブレイスは正しく指摘した.「偉大な指導者たちはすべて共通の特徴を備えている.それは彼らが,その時代の人々が抱く主要な不安に断固として挑戦する姿勢を示したことだ.これこそ,他のなにものにも増して,指導力の本質なのである.」
世界の中産層が抱く不安に応えることこそ,われわれの時代の経済的課題である.
グローバリゼーションと技術変化から利益を受ける適当な時間と場所を占めた二つの集団があることは分かっている.第一は,低所得国で,特にアジアの,その中でも中国で,世界システムに接続できた人々である.低賃金が技術や金融市場を介した資本と結びついて,経済的な(富の)爆発を生じた.
18席後半から19世紀前半にイギリスと大陸ヨーロッパで起きたことを産業革命と呼ぶのには理由がある.人類史上初めて,生活水準が一世代で目に見えて,それと分かるほど増えたのだ.人生を通して,一人当たりの実質所得が倍増し,そしてさらに倍増した.それが維持されるなら,この30年間に中国で続いている成長は,一生の間に,人類が100年かかった生活水準の上昇を達成する.
第二に,既に価値ある資産を所有している人々にとっても黄金時代であった.希少な商品の所有者たちは,その報酬が桁外れに増大するのを見ただろう.以前より高価でない労働に依拠して,より大きな市場に販売できる,というグローバリゼーションの利益を得た企業の所有者や経営者たちは,その所得が他の者たちよりもずっと急速に増えた.
誰もが同じように報いられなかった.低コストの労働,普通の中産階級の労働者やその雇用主は,彼らがアメリカ中西部に住んでいても,ドイツのルール峡谷や,ラテンアメリカ,東欧に住んでいても,(所得の上昇から)取り残された.これがアメリカにおいて生産性上昇よりも中間的な家族の所得が大きく遅れている理由であり,また,NAFTAが承認されてから13年も経つのにメキシコの平均的家族の所得がほとんど上昇しない理由であり,また,天然資源がない中所得国が比較優位のある分野を見出すのに苦しんでいる理由である.
グローバリゼーションから利益を受けるための資本が不足し,中国の労働者たちと競争することなど想像できない,この膨大な人々が,縮小する世界の中で安心を求めており,(グローバリゼーションの)進路変更を求めている.しかも,彼らの支持なしには,既存の世界的な経済秩序を維持することは難しい.グローバリゼーションは避けられないし,保護主義は誰にとっても非生産的である,という揃いの主張は正しく,そのこと自体は美徳であるが,敗者に対する何の慰めにもならない.
経済学者たちは正しく強調している.その他の進歩がそうであるように,貿易もより安価に財を買えることで人々を豊かにする,と.しかし,自分の職場を失うかもしれないと不安を抱く人々にとって,そのような機会は慰めにならない.熟練したコンピューター・プログラマーがインドでは月にたった2000ドルしか得ていないとき,(職場を失った労働者への)教育は完全な答にならない.失業した労働者たちを保護するには,もっと多くのことをする必要がある.しかしそれは当然,反動的で防衛的である.
アメリカでは,さらに他国でもそうだと思うが,政治の振り子が左に振れつつある.進歩的な伝統の最良の部分は,市場に反対していない.市場がもたらす結果を改善することだ.それは今日のわれわれにも必要である.
容易な答はない.自由で,世界化した,高度な技術に依拠する資本主義の経済的ロジックによれば,より大きな富が最も裕福な者と最も貧しい者の一部に移るだろう.そしてその中間の人々は減っていく.
第二次大戦後のGIビル(復員兵援護法)や住宅供給計画が,マーシャル・プランやGATT,国際金融制度を推進するという,アメリカの全政策体系にとって決定的であったように,国際統合の推進が成功するためには,内外において,膨大な中産階級のために何をするかが,再び決定的である.
WP Thursday, October 26, 2006; A25
Capitalism's Next Stage
By Robert J. Samuelson
(コメント) 資本主義の新しい段階? かつて,資本家は一大で財を成しました.使用人の数も限られ,自らの才覚と運だけが頼りでした.1848年に死んだJohn Jacob Astorは,当時,アメリカ第一の富豪でしたが,資産は1億ドル,不動産売買と手側の取引で儲けたようです.使用人は約100人.そのほとんどが書記や執事であったとか.
しかし,わずか50年後には,もう巨大な産業資本家が鉄鋼,石油,砂糖など,経済を支配していました.Alfred D. Chandler Jr.によれば,企業の歴史はこうなります.
ロックフェラー,カーネギー,フォードといった新興成金もしくは「泥棒貴族」たちの強欲や野心は,新技術が求めた巨大企業経営の産物であり,実際には,多くのエンジニア,会計士,工場監督をもたらしました.すべては鉄道から始まりました.かつてニューヨークとシカゴの移動には3週間かかりましたが,鉄道によって3日に短縮されました.そして鉄道の規則的な運行にとって,膨大な管理部門が重要でした.
新技術が価格を下げた,という単純な話ではありません.企業は巨大な工場を建てて効率的に維持するために,膨大な管理部門を必要としました.原材料や製品の動きを管理するために,マネージャーたちがさまざまな問題を統計的に処理したのです.シンガー編機は1910年頃,月に2万から2万5000台を生産しました.これを管理し,販売する1700の支店に,多くのエンジニアやセールスマンが雇用されたのです.
しかし,こうした富の特徴が再び変わりつつあります.かつてはATTのように,垂直統合によって巨大化を目指した企業が,今や統合を解体しつつあります.かつて技術やノウハウにより市場を独占していた企業は,その支配力を失いつつあります.
Chandlerが描いた「経営資本主義」の時代は終わったのです.そして,インターネットが有料化されるとき,新しい時代が来るかもしれません.
Roula Khalaf US doing right things in Iraq, two years too late FT October 27 2006
Real Timetables for Iraq NYT October 27, 2006
David Ignatius The Paradox Behind the Paralysis on Security WP Friday, October 27, 2006; A23
The point of departure The Guardian Saturday October 28, 2006
Martin Kettle The inquest on Iraq cannot be left to the absolutists The Guardian Saturday October 28, 2006
Gideon Rachman Iraq conflict has strained special relationship FT October 30 2006
H.D.S. Greenway Straying from a failed course BG October 31, 2006
William E. Odom How to cut and run LAT October 31, 2006
The Untracked Guns of Iraq NYT October 31, 2006
Richard N. Haass The Withdrawal Syndrome ? Part I YaleGlobal, 31 October 2006
DAVID BROOKS Same Old Demons NYT November 2, 2006
The Great Divider NYT November 2, 2006
Robert Kagan Staying the Course, Win or Lose WP Thursday, November 2, 2006; A17
Dilip Hiro The Withdrawal Syndrome ? Part II Yale Global, 2 November 2006
(コメント) バース党を解体し,戦後再建から排除した決定や,イラクの新しい憲法に独立権限を与えたシーア派やクルドの地域を認め,石油利権を分配した取り決めの承認と,将来の再考を約束した決定は,もはやイラクの分裂と内戦状態を悪化させるばかりです.そして今度は,国内の要求に応じるため,アメリカ軍の撤退スケジュールを示すことになりました.
David Ignatiusは,その過程について説明できる論理を,マンカー・オルソンの『集合行為論』に求めます.なぜ大きな集団は,共通の利益に基づく行動について合意できないのか? 共通の解決策は政治的分裂によって阻まれ,驚くべきことに,小さな集団が大きな集団を採取する.地球上に広がったこうした問題をオルソンは考えます.
たとえば? たとえ集合的な安全保障がすべてのものの利益をもたらすとしても,誰も率先してそのために行動することはないでしょう.2004年の1月に,L. Paul Bremerはイラクの治安回復を「破産処理」にたとえました.協力して処理するほうが良いのに,一人ひとりの利益を優先するために,企業は解体されてしまいます.イラクの治安もそうでした.あるいは,私たちもそうです.もし支払わなくても済むなら,他の者が軍隊を維持するために税金を支払えばいいではないか? 是認の賃金を上げる交渉について他の者が費用を負担してくれるのであれば,誰が組合費など支払うのか?
要するに,強制する者がいなければフリー・ライド(ただ乗り)を止められないのです.問題は,国際社会において強制する者がいない,ということです.イラクの状態がそれを示しています.
「アメリカが居ても,安定化は望めない.」「アメリカが去れば,内戦は激化する.」・・・ イラクへの軍事介入はアメリカの純粋な失敗であった,と国際査察を指揮したハンス・ブリックスは考えます.そして今,国際介入の条件や,アメリカとヨーロッパとの関係(そして,英米の特別な関係)が,再考されているわけです.
破滅を経験することは政策を大きく変える.スエズ紛争でも,イラク占領でも.しかし,その教訓はさまざまに異なります.スエズ紛争から,フランスはヨーロッパがアメリカに対抗する独自の超大国になるべきだ,と考えました.他方,イギリスは,アメリカの方針から決して外れてはならない,と考えました.ブレアはこのチャーチルの教訓に従いましたが,イラク占領の結果,ドイツはフランスの判断に近づきます.もちろん,FTはイギリスがアメリカにもEUにも親しい外交関係を築くことを望みます.
イェール大学のWilliam E. Odomは,アメリカがイラク侵攻によって破壊した中東のバランスを重視します.そしてそれを回復するには,まず,アメリカ軍が無条件に6ヶ月で完全に撤退することだ,と主張します.なぜならアメリカはこの地域における変化に逆らえないからです.イランの影響力,スンニー派とシーア派の抗争,サドルなど,反米勢力の台頭,そして,イラクの領域を超えて不安定化は進むでしょう.
アメリカ軍が完全に撤退することで,アメリカ政府は現実を直視し,外交政策も幻想から解放されます.遅らせるほどアメリカ兵の戦死は増える,というわけです.逆に,完全撤退は本格的な多国籍軍による駐留を話し合い,国内の諸集団にも安定化を真剣に考えさせるでしょう.たとえば,イランの影響力は強まるとしても,同時に,イラン国内のクルドが連携する動きや,イラク国内のバース党復活がそれを抑制するはずです.イランの非核化は失敗するでしょうが,アメリカはイランと石油などの個別分野で協力できます.
他方,Richard N. Haassは撤退に反対です.撤退以外にも選択肢はあります.1.アメリカ軍の増強.それは既にある程度まで試みられたが,今後,続けても成果を期待できません.2.イラクの独立を宣言して,国際社会に委ねる.しかし,国連はその責任を引き受ける力がないでしょう.結果的に,アメリカには撤退策しかないわけです.しかし,撤退にもいろいろあって,その違いは重要です.ハースはブッシュ政権に,イラク政府の達成水準と撤退とをリンクさせて撤退スケジュールを示すように求めています.
Robert Kaganは,中間選挙がアメリカの外交方針を転換する,というヨーロッパで期待されている可能性を否定します.既に二期目のブッシュ政権にとっては,残された2年間で方針を転換するより,これまでの成果を固める方が歴史に好ましい結果を残せる,と期待するはずだからです.アメリカの外交方針(ヨーロッパよりも軍事介入に積極的)は,その歴史と国際的な地位によって伝統的に決まっており,大きな変化はない,と.
FT October 27 2006
Japan's local liabilities
FT October 27 2006
On Asa: Japan needs a beauty treatment
By Michiyo Nakamoto
FT October 30 2006
Dogged deflation
(コメント) 確かに株価は上がったようだが・・・ 日本について心配なことは何か? 債務,デフレ,アジア外交です.
宮城スタジアムのように,今も,地方自治体が巨額の債務をして公共工事を発注しています.中央の財政改革によって,暗黙の債務保証は取り消され,地方財政の自律が求められています.また,日本経済は投資よりも消費によって成長するべきだ,とFTは考えます.これらを一気に進めれば不況になりますが,日本はむしろ漸進主義を改革放棄の言い訳にするかもしれません.
安倍首相の提唱する『美しい国』が,何か重要な政治転換をもたらすという意見はまったく聞きません.しかし,投資家たちはもっぱら日本に投資した場合の利益を気にします.その意味では,新生銀行や東京スター銀行,あおぞら銀行に投資した「ハゲタカ資本家」たちは,他の投資家にも「美しい日本」をアピールしたでしょう.
ところが,そうでもない,とMichiyo NakamotoはFTで教えています.日本で有利な投資になるような破たん金融機関はもうないし,既に高い買い物しか残っていません.むしろ,探すなら経営体質の旧い企業です.経営者や経営管理体制が古く,後継者も育たず,現実に合っていません.改革には旧来の人間関係がしがらみとなって,むしろ外部の投資家を必要としているのです.
もちろん,日銀がデフレを再発するような失策をしない限り.
FT October 31 2006
Abe aims to secure Japan’s world status
By David Pilling
FT October 31 2006
World Close Interview transcript: Shinzo Abe
(コメント) 世界が抱く「日本についての心配」に,憲法改正や核武装,が加わり始めたのではないでしょうか.
FTのDavid Pillingは安倍首相にインタビューを許されました.次の選挙までの一時的な首相でしかない,と軽視されていた安倍首相が,最初の1ヶ月は予想外な好成績を示しました.特に外交において中国・韓国と関係を回復し,北朝鮮の核実験にも厳しく対抗して,6カ国協議の再開という結果を出しました.支持率も高く,長期政権を期待する空気が起きています.インタビューでは,FTに対して,自民党総裁の任期6年を首相として務め,その間に憲法を改正して日本の新しい時代を開く,という抱負を語った,と伝えています.
戦犯に問われた岸伸介の孫として,安倍自身が敗戦国の後ろめたさを強く意識してきたのでしょうか? 日本は敗戦国としての戦後を終えるべきだ,と主張します.そして未来に目を向けて,積極的に国際的役割を果たしたい,と.その中心的な課題こそ,日本が被占領国家であったとき,理想主義的な若いアメリカ人たちが書いた憲法を修正することです.それによって自衛隊の地位を確立し,自衛と国際安全保障に役立てる,というわけです.
安倍と言えば国威発揚や安全保障問題が有名で,タカ派のイメージが強いけれど,その分,経済や外交には弱い,と言われました.ところが,小泉の(プラスとマイナスの)遺産によって,明確な政策目標が示せます.すなわち,「構造改革」を継承し,中国・韓国との関係改善を図る,ということです.首相となった安倍は,良いほうに期待を裏切って,柔軟な姿勢や妥協を進め,タカ派の主張を控えました.
しかし,国債の累積や高齢化など,本当に解決しなければならない難しい問題には手をつけていません.靖国問題だけでなく,消費税や日銀の金融政策など,これから,その手腕が試されます.
しかし,安倍首相のインタビューは,官僚の作文ではないか? と疑わせます.「新しい憲法が適合すべき価値とは何か?」 と聞かれて,「世界環境」や「プライヴァシー」というのでは,それが本当にあなたの憲法改正の趣旨なのか? そんなはずは無いだろう,と言いたくなります.「日中関係」に関して,当然,その確かさを聞かれますが,「戦略的で利益をもたらす関係」に合意した,と言うだけです.その他の点でも,FTの記者は満足できなかったと思います.
FT October 31 2006
Japanese consumer finance
Nov. 1 (Bloomberg)
Japan Must Beat Roach's Forces of Globalization
William Pesek
FT November 1 2006
No need to panic about Japan’s debt mountain
By Guy de Jonquieres
FT November 2 2006
Japan's constitution
(コメント) 消費者金融の業績悪化に限らず,William Pesek は日本経済にまだ不信感をぬぐえません.しかも,アメリカ経済の減速や石油価格,北朝鮮に加えて,モルガン・スタンレーの高名なエコノミスト,Stephen Roachは,日本がグローバリゼーションによって衰退することを警告した,というわけです.すなわち,日本は1990年代を通じてグローバリゼーションへの調整を拒み続け,そのために公共工事を連発して,国民に甚大な債務負担を課したから.それでも日本が世界第二の経済大国であれば,急速な衰退は免れたかもしれません.そのために必要なすべての条件は,中国によって変わりました.特に,輸出や公共投資に変わって,消費が伸びるというシナリオは実現しないでしょう.
Guy de Jonquieresは日本の財政赤字を深刻に描き過ぎないように求めています.またFTは,憲法9条を破棄する安倍首相の意図を,リベラルで穏健なものと解釈して,海外の平静な対応を求めます.
FRANK CHING Crisis boosts U.S.-China ties The Japan Times: Friday, Oct. 27, 2006
Graham Allison Deterring Kim Jong Il WP Friday, October 27, 2006; A23
Donald Kirk Seoul dodges the dragon but feels the heat Asia Times Online, Oct 28, 2006
Perilous Journeys: The Plight of North Koreans in China and Beyond International Crisis Group, 27 October 2006
South Korea as Kim's ATM CSM October 30, 2006
Keep the pressure on North Korea LAT November 1, 2006
Bennett Ramberg Why North Korea loves the bomb LAT November 1, 2006
Glenn Kessler N. Korea Agrees to Return To Talks WP dnesday, November 1, 2006; A01
O Masako Toki and Mary Beth Nikitin Opportunity for Japan over North Korea Asia Times Online, Nov 2, 2006
John Feffer The US-Pyongyang paradox Asia Times Online, Nov 3, 2006
(コメント) 北朝鮮について,ここに書き加えたいことはありません.
Graham Allisonは,ブッシュ政権が金正日を「抑止」できなかったのは,その三つの条件を満たしていないからだ,と考えます.すなわち,1.明確さ,2.実行力,3.信認,です.「抑止」論は冷戦において考えられた論理であり,特にキューバ危機で,ニクソンがフルシチョフを説得しました.核ミサイルを持ち込んでも,核攻撃による利益は,必ず核による報復によって,それ以上のコストを強いられると信じたのです.
北朝鮮に対して,ミサイルを発射するな,核実験をするな,と言いながら,それが行われてもアメリカは国連決議を求め,制裁を行う程度でした.北朝鮮は,たとえその核兵器をアルカイダに渡してアメリカ本土を破壊しても,それが北朝鮮の核であるとは証明できず,報復する能力も,政治的な意志がないから,報復することはできないだろう,と考えるかもしれません.
Bennett Rambergは,核武装しなかった,もしくは核を放棄した,南アフリカ,リビア,ウクライナの経験から,北朝鮮の核放棄を考えています.核開発計画が金正日の国内における支配を正当化し,国際的な孤立を強めるだけであるなら,制裁や軍事介入によっても,それを放棄させることはできないでしょう.
NYT October 27, 2006
Allies Dressed in Green
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) ベルリンの壁が崩壊した後,西側の同盟を維持するには新しい敵が要る,と人々は考えました.それは誰か? いかにも答えにくいこの問題は,しかし,すぐに解決されたのです.それはエネルギーの供給でした.西側の生活を破壊する最も恐ろしい敵は,石油供給を断つものです.それは私たちの石油依存が原因であり,それゆえ石油への中毒症状を絶つグリーン戦略が求められます.
自家用車を止めてバスに乗り,安全保障や外交の基本は石油依存からの離脱,もしくは地球温暖化の阻止,になります.THOMAS L. FRIEDMANはこれを,“geo-greenism”(環境問題を戦略的に考える)と呼びます.こうして,ヨーロッパのグリーンと,アメリカの安全保障とは,再び環境問題で同盟するのです.
Two poor choices for economic policy FT October 28 2006
Jeff Jacoby The race card an insult to candidates and voters BG October 29, 2006
David Corn Holding back the tide Guardian, Sunday October 29 2006
Racism enters the races LAT October 29, 2006
Niall Ferguson 1958 and today's GOP LAT October 30, 2006
BOB HERBERT The System’s Broken NYT October 30, 2006
DeAnne Julius and John Gault US democracy needs reform FT October 31 2006
Jonathan Freedland Let us hope Americans seize their chance to hobble George Bush The Guardian Wednesday November 1, 2006
(コメント) アメリカの中間選挙に関する論説は避けています.たとえ苦労して読んでも,短く要約することは非常に難しいからです.
中間選挙によって影響を受けるのは,イラク政策でしょうか? 米欧関係でしょうか? 税制や労働市場,通商政策でしょうか? 外交以外では,民主党の方が優れている? 劣勢を挽回するために,共和党は人種差別から同性愛,堕胎まで,道徳的な問題を強調します.
DeAnne Juliusは,アメリカの民主主義を改善する具体的な提案を行っています.1.上院・下院の多選を禁止すること.大統領は8年,上院議員は12年,下院議員は8年まで.2.選挙区の変更を人口調査に基づいて独立の委員会が行うこと.3.公的な選挙資金を受けて支出の制限を受けている議員に対して,選挙期間の最後の一週間は放送時間を無料で与えること.これは選挙資金の圧力から候補者を解放する.
NYT October 29, 2006
Africa’s World of Forced Labor, in a 6-Year-Old’s Eyes
By SHARON LaFRANIERE
(コメント) アフリカのケニアで労働する,6歳の少年,Mark Kwadwoに関する報告です.子供たちは,債務奴隷として夜明け前から漁に出たり,サウジアラビアに売られて騎手にされたり,あるいは,売春を強いられたりします.
FT October 29 2006
Baroque fantasies of a most peculiar science
By Philip Ball
《新古典派経済学》という,支配的な迷信,もしくは,星占い,について.それは右派の政治的主張に親和的である.それはニュートン力学の間違ったイメージを借りて作られた.それは物理学のように硬直的な前提と複雑な数学を好む.それは人間同士が容易に単純な取引だけで行動を決定すると仮定している.それは「景気循環」のような厳密に定義できない概念を繰り返し使用する.それは,ソビエト崩壊後の犯罪経済も,イギリスのユーロ参加も,社会福祉システムのあり方も,理解しない.それは,市場が正しい答を示すと説明しながら,市場が多くの間違いを犯すことも知っている.・・・ それは「科学」ではなく,「要塞」もしくは「伝道所」である.
NYT November 1, 2006
By DAVID LEONHARDT
(コメント) ゴールドマンサックスから財務長官,そしてシティグループに移ったロバート・ルービンでさえ,数年前にドルの価値は下落すると予想してオプションを買いました.しかし結果は裏目に出て,大きな損失を出しました.ケネス・ロゴフも,ポール・ボルカーも,アメリカの経常赤字と資本流入が増え続けることに驚き,深く憂慮しています.
たとえドル価値を下げることが合理的であっても,この混乱した世界では,それがいつ・どのように起きるのか,誰にも分かりません.・・・成功の可能性を高めることしかできない,と.
FT October 29 2006
Eurozone’s imbalances present a serious challenge
By Wolfgang Munchau
FT November 2 2006
Two cheers for eurozone’s spurt
By Samuel Brittan
(コメント) ユーロ圏はその他の世界に対してわずかな赤字しか出していません.しかし,その内部に深刻な不均衡が形成されています.スペインの経常赤字はGDPの10%,西ドイツの黒字は9%におよびます.それはドイツが競争力を回復した,良い成果を示しています.
ドイツの労働者は「次善の策」を採りました.彼らは雇用を守るために,実質賃金の切り下げを受け入れたのです.しかし,ヨーロッパにとってはどうか? ある国が賃金を下げることは,輸出によって他の国の市場を奪うのではないか? ヨーロッパ全体としては,労働市場を改革し,生産性を高めるしかないのです.
Samuel Brittanは,むしろ成果について好感を持ちます.低賃金に依拠したチェコと,西ドイツの福祉国家に依拠した東ドイツの比較は,すでに前者に落ち着いたわけです.ヨーロッパはアメリカの生産性上昇に並ぶでしょう.そしてヨーロッパの成果は,人口の中で働かない割合が減ったことにあるだろう,と考えます.
LAT October 29, 2006
Are we the Mongols of the Information Age?
Max Boot
(コメント) 「新技術が,新原則や新組織と重なって,戦闘のあり方だけでなく,国家や国際システムの性格を変えてしまう,という重大な変革の時代が来た.1500年以来,4度目の大きな革命,情報革命,の真ん中に私たちがいることを思えば,この大変動の本質や結果を理解することは特に重要である.」
軍事技術が国家や産業のあり方とともに大きく変化するとき,モンゴルから北ヨーロッパに,そしてアメリカに,世界権力の中心は移行しました.テロとの戦争においても,情報革命は同じ役割を果たすでしょう.アメリカは情報収集にもっと投資し,産業革命以来の国家を見直し,スーツケースに隠された原子爆弾のような,より分散した脅威に対抗しなければなりません.
NYT October 29, 2006
A Windy Wal-Mart
By LUIS ALBERTO URREA
(コメント) シカゴにもゴジラが来た! 東京のように,ぺちゃんこにされてしまう,と弁護士,公正賃金運動,コミュニティー商店の代表,あるいは環境保護派,などが激しく抗議しました.ウォル・マートがシカゴ郊外に出店したからです.400人の求人に1万5000人が集まりました.このゴジラは,そのような抗議には目もくれず,グリーン・シティを掲げる市長のご機嫌を取って屋根の半分に緑を植え,黒人やヒスパニックが利用者の多くであることに的を絞り,駐車場の無料利用で客を呼び寄せます.
Needed: A South Asian Economic Union The Asianage (10/29/2006 9:37:24 PM)
David Fullbrook ASEAN: Poodle to the dandy dragon Asia Times Online, Oct 31, 2006
(コメント) インドと南アジアでも,中国と東南アジアでも,経済統合の模索は魅力的です.むしろ魅力的であるからこそ,恐れられるわけです.
FT November 2 2006
Asia must opt for open regionalism on trade
By Jagdish Bhagwati
(コメント) 自由貿易論の指導者,Jagdish Bhagwatiは,APEC総会がドーハ・ラウンドの再生を促す機会であることを求めます.彼は,APECが「開かれた地域主義」を捨てて,特恵的な二国間協定や地域協定,Free Trade Agreement of Asia and the Pacific (FTAAP),に変わることを批判します.
Bhagwatiのように地域的な自由貿易協定を多角主義に反する排他的な城砦(もしくは,スパゲッティー・ボウル)と見るか,あるいは,イェール大学の浜田宏一のように,多角主義に向かう過程(もしくは,ラザーニャ)と見るか,その答は実際の交渉と成果にかかっていると思います.
Christopher Adams and Fiona Harvey UK pushes for new climate change treaty FT October 30 2006
George Monbiot Save the planet in 10 steps The Guardian Monday October 30, 2006
Tony Juniper Act now, save later The Guardian Monday October 30, 2006
Bill Emmott Shock and awe The Guardian Monday October 30, 2006
Martin Wolf Compelling case for action to avoid catastrophe FT October 31 2006
Stern review offers counsel of hope FT October 31 2006
Anthony Giddens We should ditch the green movement The Guardian Wednesday November 1, 2006
Max Wilkinson Stern’s report is based on flawed figures FT November 2 2006
Philip Stephens Bitter crop from failure to tend to global warming FT November 2 2006
Climate threat heats up LAT November 2, 2006
(コメント) ブレア首相は,元世銀エコノミスト,Sir Nicholas Sternによる温暖化の報告書を受けて,京都議定書に代わる地球温暖化防止の国際的枠組みを作るため,次のG8議長であるドイツのメルケル首相に報告書の提言を採用するよう求めました.
スターン報告書は,イギリスの姿勢とともに,英語圏のさまざまな論争を呼んでいます.Bill Emmott やMartin Wolf,George MonbiotやAnthony Giddensが示す異なった主張を考えることによって,私たちも日本政府の姿勢を問う必要を感じるでしょう.情報や軍事技術が国家を変えるだけでなく,地球温暖化についての知識や生活スタイル,環境保護の技術も世界を変えるわけです.
NYT October 30, 2006
Bursting Bubble Blues
By PAUL KRUGMAN
(コメント) 住宅市場のバブルが破裂したら,・・・? グリーンスパン=ブッシュの楽観論を批判し続けてきたPAUL KRUGMANが,さまざまな悪循環への悲観論を支持しています.
WP Monday, October 30, 2006; A17
The Decline Of Trust
By Sebastian Mallaby
(コメント) なるほど,そういうことなのか? 「信頼」から「責任」へ,社会を扱う概念はすっかり変わりました.なぜだろうか? とSebastian Mallabyは問います.
1995年,Francis Fukuyamaは"Trust"を書き,Robert Putnamは有名な論文"Bowling Alone"を書きました.パットナムはそこで,アメリカが失った信頼できる社会関係,社会資本,の喪失を嘆いたのです.
「1990年代の経済ブームはビジネスへの信頼を高め,2001年のテロ攻撃は政府への信頼を高めた.しかし,経営者CEOや政治家たちはこの贈り物を濫用し,スキャンダルと経営失敗で損なった.それは企業の違法行為であり,イラク戦争に至る.貴重な社会的資本は,指導者たちの貪欲と高慢によって,滅ぼされたのだ.」
The Asianage (10/30/2006 10:00:43 PM)
50 years after Suez and Hungary
WP Tuesday, October 31, 2006; A21
Supporting Democracy -- Or Not
By Anne Applebaum
LAT November 1, 2006
Who likes Ike?
Max Boot
BBC 2006/11/01
France's own lesson from Suez
(コメント) スエズ危機の50周年,また,ハンガリー動乱の50周年.現代の指導者や評論家たちは,それを基準としてさまざまな教訓を引き出します.たとえば,ブッシュに祝福を!? アイゼンハワーにはより慎重な評価を.
William Pesek China's IPO Revolution May Be Long March to Doom Oct. 31 (Bloomberg)
Andrew Hill Tempered view of China’s might FT October 31 2006
Geoff Lamb China, Africa and fear of a borrowing binge FT November 1 2006
Elizabeth Economy and Karen Monaghan The perils of Beijing's Africa strategy IHT November 1, 2006
Wei-Wei Zhang The allure of the Chinese model IHT November 1, 2006
Consuming China FT November 2 2006
(コメント) 少し前なら,株式上場で中国の主要商業銀行が資本を調達する,などということは,悪いジョークだったでしょう.ただし,中国へのゴールドラッシュに続いて,何が起きるかは分からない.にわかに,乏しい資源と国際政治での評価を求めて,アフリカ外交にも関心を払います.…China Shakes the World!
CSM October 31, 2006
German military 'normalcy'
NYT November 1, 2006
Germany’s Army
(コメント) 日本が北朝鮮のミサイルや拉致問題で「愛国心」を唱えだしたように,ドイツはワールド・カップの興奮とたなびく国旗の波によって「愛国心」を誇りにし始めたようです.あたかも相互に申し合わせたような,どちらの国の「正常化」論議にも,それを歓迎するべきか,懸念するべきか,周辺諸国や国際政治における人々の迷いは隠せません.
ドイツに対する期待が大きい分,日本に対する不安が大きいことは,日本の行動や指導者たちの発言に責任があるでしょう.
Asia Times Online, Nov 2, 2006
Chain-gang economics
By Walden Bello
(コメント) IMFのチーフ・エコノミストであるRaghuram Rajanが描く,「世界のマクロ的不均衡」とは,多国籍企業と中国の地方政府が暗黙の共謀関係において,中国の過剰投資とアメリカの過剰消費を加速し続けており,それは必ずいつか崩壊する,という恐怖の均衡です.核拡散を進める国際政治よりも,参加者の数が圧倒的に多い分だけ,国際資本市場におけるバブルと崩壊は避けがたいでしょう.
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The Economist, October 21st 2006
America drops, Asia shops
Asia and the world economy: The alternative engine
(コメント) アメリカが不況になれば,世界経済はどうなるのか? 大丈夫,アジアがアメリカに代わって,世界経済のエンジンになるでしょう.日本も,アジア諸国を介してアメリカ市場への依存を続けていますが,中国やアジア諸国の市場拡大に自分たちの成長が依存することを知るべきなのです.アジアがアメリカに深く依存しているのは,その消費ではなく,金融市場によってです.
The Economist, October 21st 2006
Iraq: Between staying and going
Turkey: Is the West losing Turkey?
Charlemagne: Free speech under threat
Bagehot: The uncomfortable politics of identity
(コメント) The Economistは,アメリカがイラクに駐留し続けることを支持します.撤退やイラク分割は,イラクやこの地域の安定化に役立たないでしょう.そして,アメリカは世界に代わって,安全保障や民主主義,石油供給を維持する役割を担うのです.
むしろ,この号において注目したのは,トルコの重要性と,関連しますが,イギリスにおけるヴェール論争です.トルコは,その地政学的な位置や,イスラム教徒の穏健な民主主義国家が西側の一部として繁栄する可能性について,重要な分岐点に差し掛かっている,とThe Economistは主張します.アメリカやEUにとってとることの関係が安定することは,日本やアジアにとっての中国にも似た難しい,そして重大な関係なのです.大きく後退しつつあるEU加盟問題や,1915年のアルメニア人の虐殺という歴史問題をフランスが法律で強制する騒ぎは,こうした大局的な視点を欠いています.
また,The Economistは,ブレア政権がイスラム教徒の女性がかぶるヴェールについて,また,イスラム教寺院における過激な説教や,ヨーロッパにおけるホロコーストを否定する右翼について,発言や主張の内容に法律的な規制や処罰を強いることは間違いである,と主張しています.言論や表現の自由は,いかなる法律にもなじみません.
The Economist, October 21st 2006
Carbon emissions: Terminating greenhouse gases
Libertarians: The neglected swing voters
The super-rich: Always with us
(コメント) The Economistは,カリフォルニアがEUから学んで,優れた排出権取引市場を組織するように求め,アメリカのリベラルが共和党と民主党の両方から狙われる位置にある,と穏健派・良識派の勝利を期待し,ビッグバンによって再生したシティが,まったくイギリスらしくない,異星のスーパー・リッチたちによる新風景をもたらしたことと,多分,いつか労働党の急進左派が復活する予感?を示唆します.
他にも,アラブ世界の反米的再編,中国の貧困,北朝鮮の指導者が見捨てた人民,中間選挙で問われるフェンス建設と移民たち,パナマ運河への投資と新計画,石油の呪いを解けないナイジェリア,雇用や民主主義に向かいそうもない疲弊したサウジアラビア,ノーベル平和賞とユヌスへの厳しい批判,中国企業の利潤改善,・・・