IPEの果樹園2006
今週のReview
10/9-10/14
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :ナショナリズム,アーミッシュ
貿易・投資 :不均衡と不安
通貨・金融 :ユーロ圏
世界統治 :安倍政権誕生,インドのグローバリゼーション,潘基文
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
Asia Times Online, Sep 29, 2006
An Asian currency - a bridge too far
By Huw McKay
(コメント) アメリカが「アジア共通通貨」の考えに反対しなくなった,と言います.人民元レートの調整を促すための一つの枠組みとして.しかしHuw McKayは,@その所得格差や経済構造の違い,A既に十分に域内貿易や投資が行われていること,B固定レートによって金融政策や均衡為替レートの水準を決定できなくなること,を考えれば,アジア地域が通貨統合に進むべきではない,と主張します.それが実現するとしたら数十年の単位で考えるべきだ,と.
IHT September 29, 2006
Oil weapon: It's time for a long, hard look at Russia
Robert R. Amsterdam
Asia Times Online, Oct 6, 2006
China mixes rice and neo-colonialism
By Kent Ewing
(コメント) ロシアは豊富な石油資源を利用して市場を政治的に歪めています.EUのエネルギーと金融における強い関心はロシアからの誘惑に逆らえません.Robert R. Amsterdamは,かつてジョージ・ケナンの「X論文」がソ連について分析したように,冷戦後のロシアを分析する必要を訴えます.
他方,中国は成長によるエネルギーや資源への需要増を,豊富な外貨準備によるエネルギー関連企業の買収や,アフリカの資源豊富な専制国家への経済援助によって,世界中で安定供給源を確保することに邁進します.それが国際的な行動規範を無視するほど,「新植民地主義」と呼ばれるのは当然です.
FT September 29 2006
France and Germany find common view of history
By Robert Graham
(コメント) 「フランスとドイツは,かつての敵国同士が近年の歴史について共通の味方を採用することができる例であった.両国がこの150年間に三つの戦争を経験したことを思えば,これは大きな成果である.」
もし日本にも強い政治的意志と各国との合意があれば,アジア共通教科書を作る準備が始まるでしょう.
FT September 29 2006
Abe vows to create a prouder, new Japan
By David Pilling in Tokyo
The Japan Times: Saturday, Sept. 30, 2006
Shinzo Abe's twin challenges
By BRAD GLOSSERMAN and RALPH A. COSSA
NYT October 1, 2006
Who’s Afraid of Shinzo Abe?
By YOSHIHISA KOMORI
International Herald Tribune, Sunday, Oct. 1, 2006
Asia will welcome a more outgoing Japan
Philip Bowring
(コメント) 経済危機からの脱出を果たして,政治的・社会的な課題を意識しているものの,具体的な見通しは示せないままです.中国・韓国との関係改善や,北朝鮮の核開発問題は,静かにプライドを持って新しい国づくりを進める,という抱負と衝突しそうです.家族の価値を重視する,と言うのは保守派の本質ですが,国家・民族の価値と区別しません.しかし,差別するようなことは無い.日本は「自由市場経済」なのだから・・・?
GLOSSERMAN and COSSAは,安倍首相の課題を整理しています.まず,日本はアジアや世界においてどのような地位を占め,どのような役割を具体的に担おうとしているのか? 国民や近隣諸国,世界に対して十分明確に語ってこなかった,と批判します.それゆえ安倍首相は,1.日本のビジョンを示し(また,靖国参拝問題などの解決と,国連常任理事国への展望),2.同盟関係を明確にし(特に,脅威や先制攻撃を含めたアメリカとの役割分担),3.日本の内外における米軍再編に対する国内の支持を得て,4.アメリカとの軍事行動や諜報活動の共有(憲法改正やFTAをふくむ緊密な統合化)について判断を示すべきである,と.
日本は,アメリカと協力する,民主的な軍事大国になる,とYOSHIHISA KOMORIは説明します.それは,敗戦国としての恥辱を雪ぎ,世界の指導的国家という誇りを持つことでもあります.
Philip Bowringも指摘するように,アジアでは北朝鮮の核武装を不安に思う以上に,有人飛行ロケットの発射や核保有を確立している中国が,国際社会のルールを共有し,民主化する以前に,急速に経済を拡大して影響力を増している,ということを心配するべきなのです.アメリカが中東への軍事介入に失敗して後退を強いられているとき,日本が正式に武装し,国際安全保障に貢献することを歓迎する国も多いはずです.
中国のプロパガンダと,欧米諸国の帝国主義的侵略に対する健忘症を前提に,軍国主義の過去を理由に日本だけを責めることは間違いです.
Bowringは,日本が非軍事的なパワーを豊富に持っている,と強調します.アジア諸国,中国が自国内で資源や企業を買収することよりも,日本企業の投資を歓迎するでしょう.韓国でさえ,将来は日本との間ではなく,中国との間で困難な問題と政治圧力が増えることを心配しているはずです.日本はアメリカと協力しつつ奴隷ではなく,アジア諸国を支援しつつ尊大であってはならない,と.そして日本は,外向的で,寛容な大国として,多くの国から好意を受けるようになります.
FT October 4 2006
Agreement clears way for Abe to visit China
By Mure Dickie in Beijing, David Pilling in Tokyo and Anna Fifield in Seoul
FT October 4 2006
Chance of thaw if Abe goes to China
The Guardian Wednesday October 4, 2006
Pacific overtures
Jonathan Fenby
The Japan Times: Thursday, Oct. 5, 2006
The right kind of nationalism
By DAVID HOWELL
(コメント) 「建設的な曖昧さ(“constructive ambiguity”)」というのがキー・ワードでしょうか? 決めないことや,発言しないこと,規制しないことは,しばしば政治的に重要な決断です.そして,市場により現実が変化する時間を,双方に与えたものだと思います.安倍首相が直ちに中国と韓国を訪問する条件が,靖国参拝問題を棚上げし,非政治化する合意でした.
しかし,行動や発言に対する実質的な問いかけは,当然,続くでしょう.FTは,小泉首相が2001年に北京を訪問して謝罪の言葉を述べ,中国との新しい関係を築くものと賞賛されたことを想起します.その希望は,2002年に小泉首相の靖国参拝で消滅しました.安倍はよりプラグマティックな政治家であるから,教科書問題や靖国に代わる施設の検討,日中間の資源開発について,双方の利益になる解決策を模索する余地があるはずだ,とFTは期待します.
安倍晋三は,日本のドゴールやニクソンなのか? とJonathan Fenbyは問います.欧米から見て,日中関係の改善は,世界の成長エンジンを円滑に調整するための重要な条件です.中国が一方的に日本のナショナリズムや侵略を問題にすることは間違いです.今では,中国が西域に世界最大の植民地を築き,中国のナショナリズムが輸出されているのを無視しているからです.アメリカが最も避けたいと願っているのは,日中間で互いのナショナリズムを刺激しあうことです.
日本の過去は,その未来を決定するわけではありません.日本人の多くが靖国神社や東条英機の考え方を支持することもないのです.たとえタカ派を支持基盤としていても,政治家は支持を広げるために有利なことを選択します.日本は「タダ乗り」を批判されてきた戦後の姿勢から,積極的に転換すると主張しているわけです.
パックス・アメリカーナが衰退する中で,これまでナショナリズムに冒されたことのないイギリスでさえ「イギリスらしさ(イギリス的なもの)」が議論されている,とDAVID HOWELLは憂慮します.
LAT September 29, 2006
By Robert D. Kaplan
NYT October 2, 2006
An Offer Tehran Can’t Refuse
By TED KOPPEL
(コメント) アメリカの軍事的圧力とヨーロッパの宥和的な提案が組合されれば,その地域的・国際的な枠組みへの参加を促すことで,イランも北朝鮮も問題解決へのプロセスを受け入れるはずでした.しかし,制裁が回避されるだけで交渉が長引き,核やミサイルを得てしまえば,軍事的な均衡が大きく動揺します.軍事的な選択肢を排除するだけでは,問題解決をさらに難しくするわけです.
交渉するしか選択肢はない,というのも間違いです.軍事力を行使する明確な理由と条件,その政治的意志を示すことで,交渉は前進します.
TED KOPPELは,アメリカができることは何も無い,と考えます.イランは核開発に成功するでしょう.そして,どうなるのか? アメリカはイランと和平を結び,経済交流を促すでしょう.つまり,核兵器など無くても,平和で繁栄できることを示すのです.その上,アメリカはイランに確信させることです.もし万一,どのような偶然であれ,イランが開発した核兵器がミルウォーキーやバルチモア,その他,アメリカ国内のどこであれ爆発するとか,イスラエルやエジプト,サウジアラビアが「事故」の犠牲になるようなことがあれば,その報復は必ずイランの国内で行われる,と.
Asia Times Online, Sep 30, 2006
Korea: Redesigning a historic alliance
By Donald Kirk
(コメント) 韓国は同盟関係の見直しを進めています.なぜなら北朝鮮が中国人民軍とともに確立していた軍事的優位を失い,韓国の経済発展と軍需産業により,逆に韓国が優位を得たことです.また,北朝鮮に対して軍事的な選択肢を受け入れたくないノムヒョン大統領が,有事における指揮権を在韓米軍から取り戻そうとしていることも重要です.
そして,重要な貿易相手国もアメリカから中国に変わりました.日本と韓国の動きは,今後の東アジアを考える基点です.
Paul Reynolds Double blow to nuclear detente BBC 2006/10/03
Two kinds of truculence BG October 4, 2006
John Gittings North Korea's nuclear wake-up call The Guardian Wednesday October 4, 2006
Donald Kirk North Korea calls the shots Asia Times Online, Oct 5, 2006
Ralph A Cossa Pyongyang's bluster - and bluff Asia Times Online, Oct 5, 2006
Kim's challenge FT October 5 2006
Ralph A. Cossa North Korea's nuclear threat International Herald Tribune, October 5
The North Korea Nuclear Puzzle LAT October 5, 2006
Kim Myong Chol ("Unofficial" spokesman of Kim Jong-il and North Korea.) Kim's message: War is coming to US soil Asia Times Online, Oct 6, 2006
(コメント) とはいえ,北朝鮮の核開発問題では韓国も強い反対を示しています.
アメリカは北朝鮮による武器輸出や偽ドル紙幣の「輸出」に憤慨しています.北朝鮮はアメリカによる金融制裁を解除させたいのです.しかし,どちらの強制力も間接的です.アメリカによる経済封鎖も,決して十分な効果は期待できません.
たとえ北朝鮮が核実験を行っても,アメリカが直ちに空爆するような気配はありません.アメリカが攻撃すれば,北朝鮮は必ず韓国と在韓米軍に報復するでしょう.アメリカは中国の圧力を期待しますが,実現していません.
BGは,北朝鮮の過激なレトリックを省けば,核実験を延期して6カ国協議へ復帰するためには,アメリカが金融制裁を解除せよ,という要求です.そのために金融取引を監視する提案や,アメリカの主要銀行に口座を開く提案を示しています.その意味では,北朝鮮を正常化する動きに沿うわけです.
核不拡散の国際体制を守り,近隣諸国への軍事的な脅威を取り除くことは,6カ国協議の最も重要な目的です.アメリカは北朝鮮の核実験声明を機会として,こうした条件で直接交渉を開始するときでしょう.多くの論説が,日本を含めたアジアの核ドミノを懸念しています.
このタイミングが意味するものは何でしょうか? 安倍政権成立と日中・日韓関係の修復,韓国大統領の訪米,イランとの交渉決裂,中間選挙を控えたブッシュ政権の支持率低下,韓国の潘基分外交官が国連事務総長就任への可能性,・・・ これまで示された北朝鮮の強い意志を考えるなら,核保有・実験までの時間は短いようです.
もし核実験を阻止することで合意しているなら,各国が具体的な制裁措置を事前に約束するべきではないでしょうか? それは,ある意味で,外国為替市場への協調介入と同じです.事前に介入を申し合わせた協定があれば,市場は安定します.その協定が信用できなければ試されます.
それに失敗すればどうなるのか? たとえ一層難しいとしても,各国は非難の応酬に終始するより,危機をバネに,核保有国となった北朝鮮の民主化や朝鮮半島再統一に本格的に取り組むことです.ただしアメリカには,弾道ミサイルの完成までに時間があり,中国や韓国には,本心で,自分たちの脅威であるとは考えていないかもしれません.
もちろん,北朝鮮が狙っているのは,核実験そのものではなく,追加の制裁でもありません.北朝鮮に対する包囲をかく乱し,圧力を加える国際協調を破綻させることです.
LAT October 1, 2006
Don't Let the Andes Trade Pact Expire
By Sergio Munoz
FT October 1 2006
Washington free traders struggle to hold the line
By Alan Beattie
(コメント) WTOの自由化交渉が破綻した後,「自由貿易」の実現というスローガンは,競争的なFTA締結に置き換えられた印象があります.
豊かな国との共同市場は,貧しい諸国に富と雇用をもたらし,安定した民主主義をもたらす,と期待されます.中米やラテンアメリカで自由貿易を推進することは,アメリカ政府が他の地域で声高に主張した目標を,平和的に達成させるでしょう.
他方,アメリカにおける多角的な自由化を目指す動きは止まったままです.「自転車理論」が言うように,自由化交渉の停止は保護主義への後退を招く恐れがあります.
NYT October 1, 2006
What Kept Russia From Producing Tennis Stars Before Now?
By SERGE SCHMEMANN
(コメント) ロシアといえば,ソ連崩壊後,裕福な諸国のナイトクラブに金髪のコールガールを供給する国から,一流の女子テニス・プレーヤーを輩出する国へと転進しました.しかし,なぜシベリアからもテニス・プレーヤーか?
もちろん,マリア・シャラポワが成功したからです.シャラポワの美貌よりも,富と名声に魅惑された親たちが,子供たちの英才教育に奔走し,予備軍を膨らませています.
FT October 2 2006
Engines of globalisation: the story of Maersk
By Robert Wright, Transport Correspondent
(コメント) 海運業といえば・・・台湾のエバーグリーンか? と思えば,間違いでした.これは世界最大のコンテナ輸送会社,Maerskに関する記事です.全長397メートル,幅56メートルのタンカーがノルウェーの造船所で火事に遭い,そのニュースを見るために訪問者が殺到したウェブ・サイトは破綻しました.
Maersk (the Emma Maersk)は,世界のコンテナ・タンカーの巨大化と効率化,コスト削減をリードしています.しかし,人々が知っているのはコペンハーゲン証券取引所が求める最低限の情報だけで,多くの秘密が残され,保有船舶の情報さえも公開していません.コンテナは1956年に発明され,中国とヨーロッパを結ぶグローバリゼーションの主要なリンクとなっています.
その特徴は,創立者であるMcKinney-Mollerの一族が株式の多数(株式の55%,議決権の75%)を保有しており,株価に影響されずに,長期的な目標(コンテナ・タンカーの保有量とコンテナ取引の世界的な支配権を拡大する)を追及していることです.
Oct. 2 (Bloomberg)
`City on a Hill' Is No Place for a Border Fence
Kevin Hassett
LAT October 2, 2006
Why Churchill Opposed Torture
Niall Ferguson
(コメント) ベルリンの壁を倒して20世紀最大の事件を誇るレーガンの共和党が,今や世界最大の隔離フェンスをアメリカ=メキシコ国境に建設する提案を企てているのは,異様な光景です.それは何よりも,アメリカの地位を政治的・道徳的な高みからも,経済的な競争からも,転落させるでしょう.開放性だけでなく,アメリカは余りにも多くを失うでしょう.
他方,アメリカ議会は裁判なしの囚人や拷問を認めるブッシュ大統領の提案を通過させました.選挙を前にして,どの議員も「テロリストに甘い」という政府からの非難を受けたくなかったからです.しかしAndrew Sullivanは,それを「専制の合法化」と呼びます.
Niall Fergusonは日本における拷問や言論抑圧の歴史を示して,こうした法律が逆効果でしかない,と主張します.なぜなら,たとえ戦争中であっても,捕虜の扱いには相互性(互酬性)があったからです.
The Guardian Monday October 2, 2006
Does profit equal performance?
Bill Emmott
The Guardian Tuesday October 3, 2006
Home grown inequality
Will Hutton
NYT October 2, 2006
Curing the Debt Addiction
The Guardian Tuesday October 3, 2006
The calm before the storm
Kenneth Rogoff
NYT October 3, 2006
How to Fix the Global Economy
By JOSEPH E. STIGLITZ
(コメント) Bill Emmottは,企業の利潤がます中で重役たちが得る高収入を,宝くじが当った者と見なし,非難すべきでもないが,尊敬にも当らない,と考えます.問題は,彼らがそれをどのように使うのか,です.自分たちのボーナスと年金のことしか考えていないなら,彼らは社会的な責任を忘れています.Will Huttonは明確に,100倍も,300倍もの賃金格差を否定します.
アメリカにおける保護主義の台頭,人民元切上げへの圧力は高いのに,中国の改革はなかなか進みません.ポールソン財務長官はブッシュ政権で社会保障制度の改革を命じられています.そんな折に成長率が下がり,住宅バブルがはじけ,ドルの減価を嫌って中国が外貨準備をユーロに転換する・・・など,起きて欲しくないわけです.
世界が必要としているのはプロザック(抗鬱薬)でしょうか? Kenneth Rogoffは,「気味が悪い静けさ」と書きました.アジア諸国の中央銀行がたとえ3兆ドルの外貨準備を介入に使っているとしても,いつまで安定しているか,次の変動を予測することはできません.
JOSEPH E. STIGLITZは,アメリカ政府が不均衡を是正する政策を取るべきだ,と考えます.それは単に歳出を削減する(あるいは,ブッシュ政権が言うように,さらに減税する)のではなく,富裕層に増税し,低所得者には減税します.それは財政赤字を減らし,しかも(富者より貧者の方がより多くの割合を支出するので)支出を維持するでしょう.対外赤字も減ります.
The American Prospect 10.02.06
A Few Hundred Supernovas
By Robert B. Reich
(コメント) あるいは,富裕層の寄付や慈善に依存した時代よりも,政府を信用できる時代の方が良い,と.
FT October 3 2006
How to ensure the eurozone does not unravel
By Simon Tilford
(コメント) ユーロが成功したと思えるには,その成長や競争力が改善しなければなりません.そうでない以上,ユーロ圏の解体や単一市場の崩壊という心配も排除できません.
重要な違いは,通貨同盟の中では(その国だけで)切下げができないから,競争力を回復するには財や労働力の相対価格が変化しなければならない,ということです.それゆえ,ユーロ圏内の労働力の(国際)移動と競争促進が不可欠です.企業は競争して有利な立地を探し,財や資本の移動はインフレ率の差をなくすでしょう.そして各地の財政を健全化して不況に備えなければなりません.
ユーロ成立後に進むはずであった改革は阻止され,ドイツやイタリアは成長や競争力を損なっています.イタリアだけでなく,ドイツが賃金抑制と輸出に依存した成長を続けていることは,ユーロ圏全体を苦しめます.ドイツの低賃金・低成長,イタリアの債務累積が,ユーロ圏を解体に導きます.イタリアの離脱と切下げは,各国に関税率の引き上げを促すでしょう.
ユーロ圏が成功するためには,ユーロだけでなく,改革が必要なのです.
The Guardian Tuesday October 3, 2006
Kevin Watkins
YaleGlobal, 3 October 2006
Globalization Hits Road Bumps in India
Pranab Bardhan
(コメント) 同じように,グローバリゼーションが成長や雇用をもたらす,というユーフォリアも,不平等をもたらすという警戒論も繰り返されています.
もう一つのインドを忘れていないか? 確かに2億5000万人に達する中産階級の誕生はショッピング・モールの輝きに示されています.携帯電話利用者が毎月500万人増加し,株価はうなぎ登りです.
しかし,インドは「分断の国」である,とKevin Watkinsは指摘します.毎年280万人の子供が栄養失調や簡単な病気で死亡する.一日50ペンス以下で暮らす人々が3億人もいるのです.成長する南部と停滞する北部,都市と農村,貧富の差,男女の差は,グローバリゼーションによって緩和されるわけではありません.
IT産業が100万人を雇用しても,毎年800万人が新しい仕事を求めています.既存の製造業は衰退し,最も多くの雇用を維持する農業には投資が不足しています.公共サービスは不足し,教育も不十分です.国民の多くが文字を読めず,性別によって学校から排除するような国で,発達した産業は築けない,とIT企業,Infosysの幹部は警告します.
Journal of Development Economics の編集主幹でもある,カリフォルニア大学バークレー校教授のPranab Bardhanは,グローバリゼーションに参加するためにインド社会が改革に取り組む必要を訴えます.その過程では,政治家や投資家,市民の権利が激しく衝突します.しかし彼に言わせれば,「反改革ポピュリズム」に偏る左派やガンジー主義者,さまざまなカースト集団に依拠した諸政党の発想こそ,インドの貧しい人々を苦しめる現代の妄想です.
ポピュリズムは社会的・経済的な差別や格差が余りにも大きな現実によって生じています.分配の正義を確保することで,人々は改革の長期的な,社会的展望を得ることができ,政治的な支持を与えるのです.
NYT October 3, 2006
BG October 5, 2006
When schools turn deadly
CSM October 06, 2006
The Amish protest against evil
(コメント) ペンシルベニアのランカスター・カウンティ,アーミッシュの村にある小学校を,拳銃を持った男が襲撃しました.そしてセックスを目的に少女を縛り,5人を銃殺してから自殺しました.
学校で銃を乱射する事件は,まるでアメリカの社会的病です.さまざまな対策が取られています.しかし,アーミッシュの村人は犯人の家族を許し,犠牲者たちの葬儀にも招いた,ということです.それが彼らの自衛の方法なのです.誰からも憎しみを生まないような,誰をも愛する生き方を尊ぶ人々です.彼らは許し,祈るのです.かつて,村人を引いて殺してしまった運転手を招待しました.人は獣ではない.人は他者への思いやりを持たなければならない.
犯人は死にました.アーミッシュの人たちから見れば,彼は助けを必要としていたのです.無邪気な子供の心を取り戻すには,その怒りや精神的病を治してあげる必要があった,と.
CSMの記事はこう結びます.「本当の安全は,暴力を止めるために恐怖から行動することではなく,むしろ人々のより良いつながりを回復する寛大な心にあります.そのような思いやりが恐怖を減らして,暴力に冒される人々を救うのです.」
Out of the world winds, a new UN chief CSM October 04, 2006 edition
Thorsten Benner Over to you, Ban Ki Moon International Herald Tribune, Tuesday, Oct. 4, 2006
South Korean Homecoming at the U.N. LAT October 4, 2006
Alexander Casella UN mess is Ban Ki-moon's challenge Asia Times Online, Oct 6, 2006
(コメント) 韓国の外務大臣,潘基分,が国連事務総長に決まった,というニュースを,世界はひとまず好意的に受け止めています.その人物評価とともに,大国が介在して水面下の駆け引きを繰り返し,地域ごとに代表をまわし,民主的で透明な選考プロセスを示していない,という批判はあります.しかし,韓国は歴史的に大国の干渉にさらされ,今は北朝鮮との問題を抱えています.その苦難の歴史が,最も説得的な理由かもしれません.
彼が生まれたのは1944年,日本が植民地支配していた韓国です.その後,韓国は,冷戦下の分断国家,独裁国家,急速な工業化,厳しい民主化運動,国際金融危機を経て,朝鮮半島の平和統一を目指し,アメリカ軍の撤退を求めるまでになりました.アナン事務総長の人道的介入を支持してきた潘氏が,まずダルフールで試されます.
Asia Times Online, Oct 4, 2006
Military face to Thailand's civilian rule
By Marwaan Macan-Markar
Asia Times Online, Oct 5, 2006
In Thailand, a return to 'sufficiency'
By Shawn W Crispin
(コメント) クーデタであれ,通貨危機であれ,プミポン国王の信任を得て,国民を指導する政府は穏健な中道政策を採用することができるのでしょうか? 民主主義とナショナリズムの,タイ式キックボクシングが始まります.
BG October 4, 2006
By Seyom Brown
NYT October 4, 2006
Don’t Pass the Salted Peanuts, Henry
By MAUREEN DOWD
BG October 5, 2006
Misreading the tea leaves: US missteps on foreign policy
By Stephen M. Walt
NYT October 5, 2006
The Ghost of the Oval Office
By JAMES MANN
(コメント) 新著“State of Denial”が話題になっています.ブッシュ外交の舞台回しを勤めるのは,ニクソン大統領の糾弾者と指南役でもあった,ジャーナリストのボブ・ウッドワードと83歳のヘンリー・キッシンジャーです.
「テロとの戦い」や「悪の枢軸」,「体制転換」,「十字軍」,「中東民主化」,・・・を連呼するのは止めて,「穏健派と過激派の戦い」と呼びなおし,アメリカの道義的価値や人権を守るよりも,(たとえ人権を抑圧する独裁国家でも)アメリカの貿易や投資,資源を守ってくれる国を厚遇するほうが望ましい,というリアル・ポリティークへの揺り戻しが起きている,とSeyom Brownは警戒します.なぜなら,確かに,国際政治がリアル・ポリティークであるとしても,それを余りにも単純に理解してしまうという大きな不安が,ブッシュ政権の劣悪な経歴が重なるからです.
逆に,ブッシュ政権は現実を理解していない,とStephen M. Waltは批判します.重力を無視して飛びたがる操縦士のように,墜落するしかないのです.@他国がアメリカをどう見ているかを知らない.A反アメリカニズムは,アメリカが何であるか(価値)よりも,アメリカが何をしたか(行為)を批判している.B唯一の超大国になって,敵が抵抗する力を過小評価している.C自由を求め,独裁者を追放することを望む人でも,他国の軍隊に命令されたいとは思わない.
責任者を辞めさせ,いくつかの原則を改めれば,アメリカの開明的な指導力を世界の多くの国々が望んでいます.しかし,ブッシュ政権は現実から学ぶ能力が欠けている,と.
キッシンジャーの影響力がなぜこれほど持続したのか,アメリカのエリート主義やアメリカの外交方針自体を振り子のように動かすハト派とタカ派の論争において,大統領執務室の一つの家具や「幽霊」として,キッシンジャーは用意されている,とJAMES MANNは理解します.
FT October 5 2006
Central Europe must tackle its political malaise
By Scott Salembier and Pawel Swieboda
(コメント) EUやNATOに加盟して,東欧諸国は繁栄と安全とを享受できました.しかし,民主化された政治システムは機能していません.市民や企業は政治に関心を持たず,政治家たちは敗者の不満に訴えるだけで政策を議論しません.政治の質の悪化は悪循環をもたらします.各地で政治危機や民主化の反動が起きています.
日本でも,政治文化,民主主義の再生が求められていると思います.
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The Economist, September 23rd 2006
Thailand’s military coup: Old soldiers, old habits
Berlin: Poor but sexy
Charlemagne: Hungarian dances
(コメント) 「民主主義を回復するために」「双方の流血を回避するため」と軍事クーデタは説明されています.しかし,将軍たちは間違っています.クーデタは何一つ問題を解決するのに役立たないのです.
工場が逃げ出したベルリンでは,デザイナーなどの新興部門と旧産業の労働者とが対立します.ハンガリーでは,あからさまに有権者を騙したと認める首相に市民たちが反発しました.
何をしなければならないか分かっているとしても,それを有権者が受け入れるか分からない,と政治家たちは迷います.選挙を前に,嘘と分かっていることを繰り返し断言するか,あるいは,真実を述べて選挙に負けるか? 有権者も,市場も,決して真実を聞きたがらないのです.
中央銀行が独立したように,すべての政策が独立の専門委員会に諮問されて,政治から切り離されるべきかもしれません.
Lexington: Poison Ivy
Face value: China’s pied piper
Economics focus: Dolling up the dole
(コメント) アメリカの大学は社会的な移動と,無階級型の実力社会を実現する装置であるはずです.しかし,実際には卒業生の子弟や富裕層が優遇されており,社会的な階級の固定化と較差の拡大をもたらす装置になっている,という記事です.
中国のIT長者にして世界のIT革命児Jack Maについて伝える記事,また失業者への最低生活費保障に関してアメリカが模索する記事を読んで,日本でも新しい動きがどんどん起きて欲しい,と思います.