IPEの果樹園2006

今週のReview

9/25-9/30

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :福祉国家

安全保障 :北朝鮮と韓国

貿易・投資 :中国の経済改革,米韓FTA

通貨・金融 :IMF改革

世界統治 :国連改革労働党政権下のイギリス1,2,タイのクーデタ日本

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


The Guardian, Saturday September 16, 2006

Circus tricks

Paul Kennedy

LAT September 17, 2006

The World's Elder Statesman

By James Traub

NYT September 21, 2006

Lessons From U.N. Week

By DAVID BROOKS

(コメント) 国連改革とは何を行うことでしょうか? 退任するアナン事務総長がこれまで描いてきた国連の未来にもかかわらず,各地の人道介入や紛争の予防,和平締結をめぐっては,国連の失敗が議論されています.国連を改革するには,財政の規律? 汚職・腐敗の一掃? 平和維持軍による積極的な介入・展開? いろいろあるけれど,安保理の改革が何よりも重要だ,とPaul Kennedyは考えます.

事務総長の候補者たちはその姿勢を問われます.拒否権を持つ常任理事国をどうするか,です.一方では,常任理事国を増やすことが考えられます.ただし,常任理事国が増えすぎると,安保理は機能しません.他方で,拒否権を弱め,あるいは廃止することが求められます.

新しく追加される常任理事国としては,ドイツも日本も強硬に反対する国がありますし,現在のイギリスやフランスを外すことには彼らが拒否権を行使するでしょう.常任理事国を増やすことは難しく,かろうじてインドが追加されるかもしれません.

他方,拒否権をなくすことは歴史的な教訓を無視することになる,と考えます.それは国際連盟が,小国の安全を守るには大国の保障が要るのに,アメリカやロシアは国連に(なかなか)参加せず,国際紛争の解決に有効な議論を行えなかったことです.

Kennedyは,インドの常任理事国入りと同時に,非常任理事国を増やし,しかも連続して選出されることを認めることにする,という改革案を唱えます.国連の運営に参加し,それを学ぶ国が増えて,国連にふさわしい行動を取る大国が常任理事国でなくても影響力を強めるでしょう.これによって国連安保理に一定の正当性と柔軟性が加わるでしょう.

大国が拒否権を持つことは,望ましいことではないが,国際介入への軍事力提供と,彼らが国連組織に参加することを有利と考える,強い動機を与えるために必要な妥協です.

DAVID BROOKSは,国連が既に破綻している,と批判します.国連は宣言するだけで,何も実現できない.ヨーロッパ諸国は改革を忌避し,ロシアと中国は利己的な要求のために非人道的な諸国の政府を弁護し,最悪の人々が最善の人々を苦しめています.

また,9・11以後,脅威の性格について合意が形成されていません.また,アメリカ国民は,ますます単純な図式を信用し,争いを深めてしまう.国連がこの世界に生きるには,冷静な抑止と封じ込めが機能しなければなりません.


Giles Fraser The unmistakable whiff of Christian triumphalism The Guardian, Saturday September 16, 2006

The Pope’s Words NYT September 16, 2006

Will Hutton Only reason can conquer intolerance The Observer, Sunday September 17, 2006

Pope: Wrong Words, Right Concern LAT September 19, 2006

Anne Applebaum Enough Apologies WP Tuesday, September 19, 2006; A21

E. J. Dionne Jr.We Need a Real Dialogue WP Tuesday, September 19, 2006; A21

(コメント) ローマ法王ベネディクト16世が,イスラム教徒を非難した,ということで大きな騒ぎになっています.以前,デンマークにおける風刺漫画で起きた,各地の暴動を思い起こしました.マホメットの信者は邪悪で,剣によって信仰を広める,という過去の皇帝の言葉を,ローマ法王が引用したのです.

それは,十字軍を呼びかけた法王もいたこと,中東における軍事力の行使を賛美する再生派のキリスト教徒もいること,などを無視した,あまりに無神経な発言であり,一方的にイスラム教を暴力や邪悪な行為と結びつけるものでした.法王は即座に謝罪します.

Giles Fraserは,なお,キリスト教の指導者たちが抱く偏見を指摘しています.NYTも,これは初めてではない,と書きます.ローマ法王やヨーロッパの指導者たちは,トルコ加盟問題や移民問題に限らず,ヨーロッパ=キリスト教圏とイスラム教圏との違いを,価値判断を加えて,強調してきました.

宗教観の真の和解はあるのでしょうか? むしろ,余りにも信仰を重視する者は,偏った見方も自分たちの信仰心の表れとして許し,むしろ助長してしまうように思います.対話が必要だ,と言うとき,特定の信仰からの自立も必要ではないか?


NYT September 16, 2006

Capitalism With a Heart

By JOHN TIERNEY

FT September 19 2006

Millionaires

(コメント) ブッシュ政権の唱えた「思いやりのある保守主義」は大失態にいたりましたが,ワシントンでは次の流行がすでに現れた,とJOHN TIERNEYは書きます.「思いやりのある資本主義」,あるいは,「利潤を生む慈善事業 “philanthropy as a for-profit organization”」です.見えざる手によって社会事業も振興できるでしょうか?

世界のミリオネアー(100万ドル)についてBoston Consulting Groupが示しています.資産1億円,と言うのは,かつてほど大きな額ではありません.そこで720万ドル以上の資産を持つ家族を調べています.彼らが世界の金融資産の29%,25兆ドルを所有しています.フォーブズ誌は,世界最大の資産家,上位45人(家族)のうち,12人(家族)は新興市場の出身者だ,と伝えました.もちろん,金融資産の85%は今も開発世界にあります.

示された図によれば,億万長者の比率と人口は,比率の高い順に,@UAE:全家計の6%(4万人),Aスイス:5%(17万人),Bシンガポール:3%(3万人),Cアメリカ:2.7%(290万人),Dサウジアラビア:2.5%(10万人),Eイスラエル:2.3%(5万人),F香港:2.1%(5万人),Gイギリス:1.8%(44万人),H日本:1.8%(82万人),Iドイツ:0.9%(33万人),となるようです.


FT September 17 2006

This stable isle: how Labour has steered an economy going global

Martin Wolf

(コメント) なぜ労働党政権下のイギリス経済は,不安定な世界経済において,安定の島となりえたのか?

二度目のグローバリゼーションに応えたイギリス経済の変化は興味深い.@工業製品の輸出国から,金融・ビジネスサービスの輸出国へ.AGDPの3倍に達する巨額の対外債権国から,債権債務の均衡国へ.B再建や融資による対外収益から,安定的な資産の売却で得た資金を使ってリスク売買する,ヘッジ・ファンド国家へ.C移民輸出国から輸入国へ.DGDPの10%以下を国が支出する軽国家から,40%を国が支出する重国家へ.E労働者階級の増大から,減少・衰退へ.F社会主義イデオロギーの勃興から消滅へ.

左派のように政府の失敗を軽視しない.右派のように市場の失敗を軽視せず,公益を重視する.ブラウン蔵相は2003年の講演で断言しました.開かれた市場と積極的国家との組み合わせが,イギリスの安定と成長を支えてきました.市場を活用しながら,政府は再分配にも積極的に関与したのです.労働党政権のイギリスは,国有化ではなく,「思慮深い」「介入」「介助」そして「再分配」に積極的な国家です.

Martin Wolfの,ゴードン・ブラウン蔵相に対する評価は高いものです.労働党政権下の繁栄は,ブレアではなく,ゴードン・ブラウンの功績だ,と考えています.しかし,積極的な政府の支出は増え続けてきました.今度は,政府がいかに効果的に税収を増やせるか,が問われるときだ,と.


BG September 17, 2006

Mexico's dangerous political chasm

By Chappell Lawson

(コメント) NAFTA後もメキシコ経済は多くの問題を抱えています.メキシコシティーの市長を務めた老練なポピュリスト,オブラドール候補が,大統領選挙の敗北を認めず,その投票の集計確認を求めています.このまま政府が分裂し,カルデロンが権力を掌握できないとすれば,アメリカ・メキシコ関係の悪化も懸念されています.


International Herald Tribune, September 17, 2006

Give dialogue in Korea a chance

Michael Vatikiotis

Asia Times Online, Sep 21, 2006

Two Koreas: A beehive and a desert

By Aidan Foster-Carter

(コメント) 北朝鮮と韓国の行方には,東アジアの次の秩序にも及び,不安を覚えます.

もし北朝鮮の独裁体制を排除するため,イラクのように,多国籍軍が介入すれば,韓国の民族感情を刺激し,南北が(対立するより)共謀して核開発をするのではないか,という疑念さえ浮かびます.彼らを戦わせることができない以上,対話を見守るべきです.

Aidan Foster-Carterは,韓国民は自分たちのことを「クジラに挟まれたエビ」と表現します.しかし,現実には10万平方キロの面積と4800万人以上の人口を擁し,世界の10大国に入るのです.GDPで中国やインドに抜かれたのは最近のことであり,今でもメキシコやロシアを越え,ブラジルとほとんど並んでいます.50年前に,このような繁栄を予想したものはいなかったでしょう.世界市場における韓国からの輸出はさらに優れており,また,韓国の人口増加や都市化はオランダ並みです.

これに対して,北朝鮮は12万平方キロ,2270万人を擁し,飢餓に苦しんでいます.南北統一によって誕生する7000万人の統合国家は,人口でも世界20位であり,決して「エビ」ではありません.南北の余りに対称的な性格は,統一がもたらす効果についてもさまざまな空想を刺激します.韓国からの投資も,人口も,北朝鮮に広がる空白を急速に埋めるでしょう.


FT September 18 2006

The CEQ on FT.com: China’s commitment to reform

By Tom Miller, Beijing correspondent of China Economic Quarterly

BBC News, 2006/09/18

China signals peaceful ambitions

By Dan Griffiths

SPIEGEL ONLINE - September 6, 2006, 03:48 PM

China's Scramble for Energy

By Wieland Wagner

Sept. 20 (Bloomberg)

Chinese Yuan Too Strong If You Look Under Hood

William Pesek

NYT September 19, 2006

Nature With an Edge

WP Tuesday, September 19, 2006; A20

The Genocide Test

FT September 20 2006

US-China launch ‘economic dialogue’

By Krishna Guha and Richard McGregor in Beijing and Raphael Minder in Cairns

Sept. 22 (Bloomberg)

China + U.S. = G-2, the New World Economic Order

William Pesek

(コメント) アメリカや日本でも所得格差が問題になっているのですから,中国内部で市場改革に関する左右の論争が強まるのは当然でしょう.世界市場と結びついた中国の経済発展を続けるためには,所有権や破産に関して,国際的に通用する法律を作る必要があります.しかし,左派は通常の法律に反して,他の債権よりも未払い賃金を優先するべきだと主張します.

それでも改革派は喜んでいます.破産法が成立すれば,銀行は資産を効率的に配分できます.他方,所有権は法制化が遅れています.改革派は独占禁止法の成立に期待しています.

中国は,レバノンに派遣される国連軍に1000人の兵士を出すことを表明しました.中国は中東の経済復興や建設業に参加するという関心を持っています.そして,レバノンは産油国ではないとしても,中東の油田地帯に政治的影響力を強めたい,と願っているでしょう.

中国は,配置,アフガニスタン,カンボジア,ボスニア,といった国連の平和維持活動に積極的です.中国が国連への関与を深めることで,アメリカや近隣諸国の中国に対する警戒感を緩和するだろう,とも期待するからです.すなわち,国際的な責任ある地位にふさわしい行動,を意識しているようです.また,清王朝が滅んだのも,中国が国際情勢の変化に注意を払わなかったからだ,という教訓が指摘されます.

2500万トンという重さで何が意味されていると思いますか? USSエンパーステート級の航空母艦1000体,エンパイヤー・ステート・ビルが68棟,あるいは,今年の中国におけるりんごの収穫量! ・・・・中国の巨大さを考えてしまいます.中国経済は,まだ,日本の半分以下の規模ですが,金融市場では違います.

人民元を10%から40%は切上げて,中国は対外不均衡(特に貿易黒字)を調整するべきだ,と主張されます.しかし,William Pesekは逆かもしれない,と考えます.人民元は過大評価されている,と.

なぜなら,中国政府は毎年,数百万人の新規雇用を必要としています.それを実現するために,しかも政府に可能な政策手段として,為替レートの水準を考えているのは当然です.そうであれば,失業者が増えるなら,人民元はまだ過大評価なのです.しかも,中国ではインフレとデフレが混じり合っています.確かに沿海部の住宅投資などは過熱していますが,同時に,過剰な設備投資はデフレ圧力となっています.

もし中国が金融危機になれば,アジア通貨危機をはるかに越える,日本さえも成長の条件を奪われるような大きな影響を及ぼします.「中国の通貨が弱すぎるのか,それとも強すぎるのか,それは見方による」とある専門家は指摘します.貿易を見るのか,金融を見るのか? 北京を見るのか,工業地帯を見るのか?

中国は,北京オリンピックに課させられた環境破壊の浄化というハードルを超せるでしょうか? また,スーダンへの国連軍派遣という課題はどうでしょうか?

ポールソン財務長官の北京訪問は,当然,一つの憶測を呼びます.それは世界市場において,グローバリゼーション,通貨,技術革新,安全保障など,中国が,日本に代わって,アメリカとのG2協調体制を築く準備かもしれません.特に,IMFにおいてChina + U.S. = G-2は既成事実でしょう.グローバリゼーションの恩恵をすべての発展途上諸国に及ぼすことが提唱されていますが,実際の話題は,チャイナ,チャイナ,・・・チャイナ!!!

ポールソンは,人民元切り上げを中国自身の利益である,と説得します.しかし,いずれの政府も関心は為替レートではなく,成長であり,雇用拡大です.相互に依存した不均衡の拡大を,記事は「危険な椅子取りゲーム」と称します.もしアメリカが率先して自国の貯蓄不足や財政赤字を解消すれば,中国の為替レートに過度の期待を払う必要もなく,市場の圧力に委ねることもできます.それができないから,G2管理体制などに誇張された役割が求められるのです.


FT September 18 2006

Swedish result is a warning Labour must heed

By Andrew Adonis

The Guardian, Tuesday September 19, 2006

Swedish elections: Stockholm syndrome

CSM September 20, 2006 edition

A new walk for the Swedish model

(コメント) イギリスでは労働党のブレア政権が末期症状を呈し,スウェーデンでは社会民主党が権力を失いました.新しい左派として希望をつないだ二つの政府が,なぜ,今,支持を失ったのか? それは,グローバリゼーションにおける「福祉国家」の可能性に関して疑問が深まっている,ということかもしれません.グローバリゼーションに適応するための改革を指導することで,福祉国家体制を守る,という姿勢に限界が現われたのです.

特に,雇用の創出や新規産業の発展,技術革新と生産性上昇が,本当に統計として示されるように優れたものかどうか,人々は疑っています.たとえグローバリゼーションでは通貨危機やバブルを生じる危険があっても,もっと自由な市場に任せたほうが望ましいのではないか? また,グローバリゼーションに対する政策を尋ねられて,「教育,教育,そして・・・ 優れた教育だ!!!」 とブレア首相が答えたけれども,その成果は曖昧です.

アジアからの市場競争,アフリカやイスラム圏からの移民,アメリカとの外交対立,・・・それらは社会民主主義国家の目指す平和で豊かな社会の世界的基礎を,深く蝕んできたように思います.

FT September 18 2006

A tale of two valleys

By Chris Giles

(コメント) グローバリゼーションがイギリスをどのように変えたか,この記事は,二つの町(the Tees and the Thames)を比較しています.急速に衰退する町と,急速に成長する町があります.かつてICI(インペリアル・ケミカル・インダストリー)の町は衰退し,新しく情報・通信や輸送のグローバリゼーション中継基地となった町が発展します.こうして,二つのスピードで走る経済(a two-speed economy)が誕生しました.

ヨーロッパ中で,地域経済の盛衰は,目に見えて急速に変化しています.もちろんグローバリゼーション下では,今繁栄する地域も,それが永久に続くことはありません.


Thailand's witch hunt FT September 18 2006

Amy Kazmin Thai military seizes power in Bangkok FT September 19 2006

Thai PM 'overthrown in army coup' BBC 2006/09/19

Victor Mallet Old-fashioned coup for old-fashioned crisis FT September 20 2006

Thailand FT September 20 2006

Andy Mukherjee Thai Coup May Force Investors to Cut Asian Risk Sept. 21 (Bloomberg)

Jonathan Fenby Optimism under martial law The Guardian Wednesday September 20, 2006

Philip Bowring One night in Bangkok International Herald Tribune, September 20, 2006

Turmoil in Thailand LAT September 20, 2006

A Retrograde Coup in Thailand NYT September 20, 2006

Of kings, coups, and Asian democracies CSM September 21, 2006

Shawn W Crispin Thailand: All the king's men Asia Times Online, Sep 21, 2006

Shawn W Crispin Military coup tumbles Thailand's Thaksin Asia Times Online, Sep 21, 2006

James Hookway, Patrick Barta, and Jay Solomon Coup Ousting Thailand's Premier Tests Democracy in Key US Ally The Wall Street Journal, 20 September 2006

The generals strike The Guardian Thursday September 21, 2006

Michael Vatikiotis Thailand on the mend? International Herald Tribune, Sept. 21, 2006

James Pringle They didn't need another coup International Herald Tribune, Sept. 21, 2006

(コメント) 2月以降,タイには事実上統治できる政府が失われた,とFTは嘆いていました.魔女狩りのような政府と批判派の応酬が,ついには軍の介入がすべてを沈黙させたわけです.

タクシン首相は,家族が保有するタイ最大の通信企業の株式49%を,シンガポール国営の投資グループTemasekに対して,違法に売却しました.タイの商務大臣は同様の16のケースを挙げて調査を始めましたが,これはタクシンの家族から関心を分散させる目的である,と野党に糾弾されています.

こうした政治的「魔女狩り」にふけることは,タイへの投資や輸出,観光産業に打撃を与えて,経済危機を再現するでしょう.

農村の貧困を救うと公約し,都市の住民からは嫌われた通信大富豪が,反対派のボイコットする選挙に勝っても,その独裁的な政治手法を変えようとしなかった時点で,双方の戦略は失敗したように思います.

Victor Malletは,これが1970年代に発展途上諸国で広まった旧式のクーデタである,と考えます.模範的な民主主義国家が軍事独裁者に権力を奪われた,というわけではないのです.逆に,タクシンこそ通信事業の新しい利権を支配する旧来型の独裁者であり,2001年の当選以来,タイの民主主義を自分の富と権力を拡大するために犠牲にしてきました.法制度を歪め,都市部においてはメディアやジャーナリズムを弾圧・支配し,地方においては支持者を煽動して反対派の殲滅を図ったのです.通貨危機後の選挙で大勝したのは,国民の傷ついた誇りに対してナショナリズムのレトリックを多用し,農村部には金銭的な援助をばら撒いたからです.

正しい教訓としては,民主主義が軍部に倒されたという事実だけでなく,アジアの民主主義が実際には制度的に脆弱であることだ,と言います.法律,選挙,政党,などが弱く,多数の教育ある中産階級が民主主義を運営する十分な基礎ができていないのです.それゆえ,強烈な個性を持つ富豪や軍部,国王による政治介入を回避できませんでした.


Sept. 19 (Bloomberg)

G-7's Newfound Love for IMF Is Already Extreme

Andy Mukherjee

NYT September 18, 2006

Developing Nations to Gain More Power at I.M.F.

By STEVEN R. WEISMAN

FT September 19 2006

IMF’s ancien regime must give up privileges

By Martin Wolf

The Guardian Tuesday September 19, 2006

A long and winding road to reform

Patrick Watt

Asia Times Online Sep 20, 2006

A (slightly) more equitable IMF

By Anil Netto

(コメント) 影響力を失いつつあるG7が,IMF改革とその権力を高めることで,世界経済への安定化・介入手段を確保したい,と考えるのは当然です.すなわち,IMF総会のステートメントは,新興諸国により大きな発言権をあたえ,IMFにより強い政策監視・審査権限を与える,というものです.また,IMFが突然の資本流入停止に陥った国に対して何かできないか提言するように求めました.

しかし,市場参加者はそこに書かれていないことに関心がありました.以前から求めてきたアジア諸通貨(特に人民元)の為替レートを調整する,という内容です.IMFは,G7が主張するような調整よりも,なお各国の事情に応じた為替政策を尊重し,市場の変動に任せることを選択したようです.

では,中国とアメリカの政策はどうなるのか? 中国は,その介入により,わずかだけ変動する為替レートを維持するでしょう.ただし,IMF協定は加盟国がIMFに協力することを求めています.他の加盟国経済を乱すような政策は取るべきではない,という合意があるわけです.

アメリカは,急激なドル安と赤字削減は世界に不況をもたらす,と牽制します.他方,中国は,急激な人民元切り上げは輸出を損ない,アジア経済を不況にする,と反対します.それゆえ,ここで,IMFが協調に向けた判断を求められます.G7は,IMFが主要国の政策をサーベイして,その影響を分析するべきだ,と主張します.どのようにすればグローバリゼーションの影響を各国にとって好ましいものにできるか? しかし,これはIMFの手に負えない課題です.

Martin Wolfは,統合化する世界経済で各国は,明確に目的を掲げて,正当なガバナンスを認められた,専門スタッフによる独立の判断を示す国際機関を介して,協調するべきだ,と考えます.IMFは,その点で,不十分だ,と評価します.

為替レートの調整や政策協調,通貨危機への融資と政策調整には,IMFの正当性が承認されていなければなりません.改革案としては,@ヨーロッパ諸国の発言権を減らす,Aヨーロッパ諸国の理事を減らす,BIMFのトップを世界に公募する,CIMFの専門スタッフによる判断を独立させる,を示します.


Sept. 18 (Bloomberg)

It's Sayonara Koizumi, Welcome Back Japan Inc.

William Pesek

International Herald Tribune Tuesday, Sept. 19, 2006

For Koizumi's likely heir, a narrow path

Jeff Kingston

LAT September 21, 2006

Japan's Drift From Pacifism

By Mike Mochizuki

CSM September 22, 2006

Japan's rising son

(コメント) 小泉から安倍へ,平和国家からナショナリズムと軍事力行使へ,天皇家の改革論議から保守主義へ.しかし,安倍は間違っている,とWilliam Pesekは考えます.小泉はマクロ改革を達成した.だから次は,ミクロの改革です.政府への支持は,経済成果を競って得るべきです.政府は国債を累積したまま,日銀との関係も不安定なままです.靖国参拝や外交,憲法改正をめぐる論争で,その間に経済改革が遅れるなら,大きな付けを払うでしょう.

日本は,本当に,「一国不戦主義」(あるいは,自由貿易にたとえれば,一方的不戦主義,です)を放棄しても良いのか?  Mike Mochizukiは,この15年,次第に進んできた不戦主義からの方針転換を指摘します.そもそも日本政府にとっての不戦主義は,理想や理念ではなく,きわめて実際的・実利的な選択だった,とも考えることができます.

自衛隊の海外派遣を認めた今,次は,比較3原則や,GNP1%ルールをも見直すのでしょうか? Mochizukiの主張は,この方針転換が緩やかで,漸進的であることです.それはアメリカ政府に時間を与える点で,好ましい,と評価されます.

そして日本は,アジアにおけるイギリスになる?


Forbes, 19 September 2006

Give Globalization a Hand

Ernesto Zedillo

The Independent, 21 September 2006

Globalisation requires the greater good to be put first

Stephen King

(コメント) Ernesto Zedilloは,グローバリゼーションに各国の経済管理と国際協調の制度化を求めています.それは当然でしょう.他方,Stephen Kingは,クラブの理論により,なぜ国際機関が十分に有効ではないか,を考察します.

クラブ内においては,そのルールに従うか,クラブを抜けるか,あるいはルールを変えることを選択します.そして,参加する者は相互の利益を共有します.それに同意する参加者を増やすことでクラブは成長します.安全保障,警察,法体系,公共のプール,などを決める仕組みは,市場ではなく,クラブを選択することによって説明したほうが優れているわけです.

公共サービスを提供するクラブがうまく運営できるのは,そのサービスをクラブの参加者だけに排他的に供給でき,しかも彼らがサービスの利用において争わないときです.もしクラブが気に入らなければ,そこを抜けて他のクラブに移るでしょう.世界市場は単一のクラブではなく,さまざまな点で分割されたクラブから構成されます.


FT September 20 2006

Migrants enrich ever more anxious host

By Stefan Wagstyl

LAT September 21, 2006

Border Fence Is Borderline Insanity

Patt Morrison

CSM September 22, 2006

Help today's immigrants integrate: Keep tomorrow's out

By James P. Pinkerton

(コメント) 移民をめぐる論争と現状の紹介です.移民は成長に貢献している,とブレア首相は支持してきました.しかし,移民を国境で管理することは困難です.コミュニティーによっては大きな違いがあって,多文化主義より,もっと統合化を促すべきだ,という声が強まっています.

アメリカ政府はメキシコとの国境に700マイルどころか,全長2000マイルの長さのフェンスを築き,さらに役立たずの国境警備隊など廃止して,地雷を敷設するでしょうか? そんなものを期待するより,まともな外国人雇用計画と移民政策を作るほうが良い.

しかし,「国境戦争」は既に始まっている?


FT September 20 2006

Cynical in Sakhalin

(コメント) サハリン2の油田開発を止めたのは,環境破壊を懸念するからか? あるいは,石油資源をもっと高く売りたいからか? もし政府が恣意的に法律を変えられるのであれば,外国からの投資は来なくなる,とFTは警告します.


The Guardian, Wednesday September 20, 2006

Truth in the free market

Mark Almond

(コメント) 自由市場による改革は失敗し,政治家たちは嘘を重ねてきた.そのことを知った有権者が,経済的苦境によって民主主義そのものに対する信用を失ったことは真の悲劇である,と嘆きます.

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The Economist, September 9th 2006

The Swedish model: Admire the best, forget the rest

Denmark’s labour market: Flexcurity

South Korea and America: Awkward bedfellows

(コメント) 二つのテーマに関心を持ちました.北欧型の福祉国家がグローバリゼーションにおいても生き延びるだろうか? 米韓関係はどうなるのか?

スウェーデンは急速に輸出を伸ばしていますが,その労働は移民の流入によるところも大きいと言います.そして失業率は低いけれど,実際には失業者の多くを再訓練という名目で政府機関が吸収し,失業率を下げているだけなのです.彼らの勤労意欲も労働効率も低く,しばしば欠勤と転職が続きます.そんなことに税金を使うくらいなら,もっと税率を低くして新規投資を促し,移民の職場も広げて,若い企業家を育成してはどうか? という批判が強まっています.

他方,デンマークは福祉国家と労働市場・教育改革とをあわせた新しい体制を編み出したのかもしれません.

韓国とアメリカの関係は,もちろん北朝鮮の宥和か制裁か,によって完全に亀裂を生じてしまいました.韓国は北朝鮮の金正日体制が崩壊すれば,その災難が韓国に降りかかる,という点で一致して体制維持に支援を送り続けるのです.人権や労働者を守る弁護士であったノムヒョン大統領が,今や,最悪の独裁体制を支援するのは皮肉な状況です.そして,この平和(的な統一)を脅かすのはアメリカだ,というわけですから,在韓米軍など不要になるわけです.

ノムヒョンのワシントン訪問で両国の同盟関係再生を託されたのは,米韓自由貿易協定(FTA)です.しかし,アメリカが日本の頭越しに韓国とFTAを結ぶとしたら,北朝鮮が日本を飛び越してミサイルを発射したような衝撃かもしれません.