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IPEの種 9/25/2006
イラクの民主主義が機能しないのは分かります.ロシアやヴェネズエラ,スーダン,ジンバブエでも,政治システムに問題があると読みました.しかし,タイやメキシコでも民主主義は虚弱な生き物であることが示されたのには,深刻な印象を持ちました.
NHKテレビに映った軍制圧下のバンコク,兵士が警戒するタクシン邸は,広大な敷地をピンクの塀が囲い込んでいました.通信・マスコミ事業で世界有数の大富豪となり,政治家も,政党も自分で用意して,地方の有権者に債務の免除や貧困解消などを約束し,民主的に選ばれた独裁者となりました.国王による批判後も,簡単に復活を遂げたことが,軍によるクーデタとなったのだろうか,と想像しました.
FTが批判したように,タクシン政権は誕生以来,プーチンやベルルスコーニと同じ,民主主義の制度を軽視し,それを蝕む政治家でした.とはいえ,タイを襲った通貨危機も困りますが,資産家による支配を排除するために軍事クーデタが必要だ,というのも困ります.
朝日新聞の夕刊(2006年9月25日)を読んで,「現代の漂白G 政治『奉仕』究める舞台」という記事に驚きました.
ツルネン・マルテイさんは,日本国籍を取り,国政に挑戦して4回連続で落選したそうです.フィンランドの貧しい酪農家に生まれたツルネンさんは,10歳のとき,シュバイツァーの伝記を読んで感動し,宣教師として日本に来ました.そして,日本人になるために,教会も,フィンランドの妻子も捨て,この異国で漂流します.
この情熱は何と呼べるでしょうか? 日本人と再婚し,二人の子供を育てて,7年間,選挙に勝てないまま貧困に苦しみました.低収入もなく,100円の古着,300円の食費で家族は耐えた,とあります.彼は日本文化を翻訳・紹介し,塾やカウンセリングで過ごします.満ち足りなかったから.「私には野心があった.他の誰にもやれないことをやりたい.」 政治家である,というのは,これほどの情熱を要することなのか,と感嘆しっぱなしでした.
ツルネンさんの情熱は,日本で有機農業を推進する法案を成立させたい,という目標に向かっています.もし来年夏の参議院選挙で落選しなければ.私は夏休みに書いた論文で,キンドルバーガーが取り上げていた,自由貿易が始まった頃に起きたデンマーク農業の酪農への転換を思い出しました.ツルネンさんの法案が成立し,日本の農村に若い豊かな有機農家が増える未来を夢想します.
政治とは「究極の奉仕の舞台」という言葉を,全身で吐ける人物が,遠い異国から日本人に加わったことに,私は感動します.
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