IPEの果樹園2006
今週のReview
7/17-7/22
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :社会的目標,アジア・シフト
貿易・投資 :GDPリンク債
通貨・金融 :アメリカの金融・財政政策,IMF改革
世界統治 :グローバリゼーションと政策1,2,メキシコ,G8
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
YaleGlobal, 4 July 2006
Globalization’s Hidden Benefits
Richard W. Fisher
グローバリゼーションはどのように機能するのか? 市民や企業は冒険を求めて外国をさまようのではない.彼らの仕事が目的だ.それは,財,サービス,アイデアを安価に運ぶ技術によって,輸送・情報コストが切り下げられた結果,資本主義の自然な過程なのである.グローバリゼーションは,政府がそれを阻止するために介入しない限り,どこまでも広がっていく.政治においても通貨においても,政策担当者としては,その目的のためにグローバリゼーションを掴むしかない.
いくつかの数字でグローバリゼーションの進展が示せる.
・世界の総生産に対する貿易の比率は,1986年に15%であったが,今日では27%である.
・過去20年で,世界総生産に対する海外直接投資の資産は4倍近くに増えた.
・世界平均で,各国が受け入れる外国からの来訪者は,1950年に,100人当り一人であった.1980年代半ばには,それが6人となり,その後も倍増して12人になった.
・1991年以来,国際通話量は3倍以上に増えた.携帯電話利用者はほとんどゼロから18億人,世界人口の3分の1に増えた.インターネット利用者も,もうすぐ10億人に達する.
多くのアナリストは,グローバリゼーションの民間部門における利益を強調する.他方,グローバリゼーションが公的部門に与える影響は不明確だ.
2005年のダラス連銀年報に,グローバリゼーションと公共政策との相互作用に関するエッセーが載っている.グローバリゼーションが強まることと,成長,低インフレ,高所得,経済自由化,とは関係している.
競争は,民間部門と同様に,公共部門にも利益をもたらす.グローバリゼーションにおいて生産要素がますます移動可能になり,政府もそれらを得なければならない.移動する要素は重税を嫌い,過度の規制や気まぐれな行政を嫌う.そうした要素は,利益を増やし,支払が確かな諸国に引き寄せられる.生産要素の経済的利益が,各国に経済政策の改善を促すのである.
その研究はA.T. Kearney and “Foreign Policy” magazineによるグローバリゼーション指標に拠っている.グローバリゼーションが進むのと,行政の改善,規制緩和,法人税の軽減,技術革新の促進が結びついている.グローバリゼーションによって,民間も政府もより説明を求められ,裁判所と法の支配が強まる.政府はより効果的で,腐敗から切り離される.政策は安定し,企業の長期計画に不可欠なものとなる.
金融政策に関しては,インフレこそが中央銀行家の難問である.インフレは貧者を苛み,老人や固定収入の人々からその購買力を殺ぐ.勤労や貯蓄の動機を損ない,投資の基礎を奪う.現代では,貨幣はおそらくもっとも移動可能な生産要素である.マウスを動かせば,瞬時に,世界のどこにでも飛んでいく.インフレ抑制に失敗すれば,高金利をつける以外に,その国は他国から資本や貨幣を引き寄せることができない.それは高インフレだけでなく,低投資,高金利,低成長を意味する.
こうした結末を回避したければ,低インフレを保つことだ.過去30年にわたって,世界中でインフレは低下してきた.それは世界経済に統合された国で顕著である.
すべての政府がグローバリゼーションとともに政策を改善したわけではない.たとえば,グローバリゼーションと財政緊縮には相互関係が見られない.緊密に統合化する世界でも政府はますます拡大し,公的な財源移転や補助金を増やしている.それは個人への税負担を増やす.豊かな諸国は課税や再分配の手段を豊富に持っているから.
同様に,労働市場の弾力性も,世界に開かれた経済ほど一般に改善されているわけではない.労働者が世界市場での競争を拒む限り,彼らは政府に雇用の保護を嘆願する.しかし,労働市場の硬直性は雇用創出を妨げ,失業を増やし,セーフティーネットの更なる財源を負担することになる.最近のフランスにおける事件が示したように,雇用を妨げる規制にわずかな改革を行うことも強い反対にあう.
より緊密に統合される世界で,機動的な労働市場が持つ価値を理解している諸国もある.彼らは改革を始めている.企業はその報酬にふさわしい労働者を,情報通信,輸送,サプライ・チェーンの進展につれて,どこであれ求める.グローバリゼーションにおける労働者の最善の選択は,適応し,競争し,さらに力をつけることだ.
財政政策と労働市場に関する重要な例外を含むけれども,ダラス連銀の研究は,グローバリゼーションが政策を改善する,と結論した.もちろん,これは鶏と卵の関係である.どちらも相互に強めあう.われわれはグローバリゼーションを軽蔑するのではなく,祝福するべきだ.それは政府を改善し,生活水準を引き上げ,経済的な自由をもたらす.
The Guardian Friday July 7, 2006
The new class struggle
Jeremy Seabrook
YaleGlobal, 11 July 2006
Fortress Europe?
Patrick Sabatier
Wednesday 12th July 2006moneyweek.com
Why globalisation isn't a win-win situation
By Stephen Roach
The Guardian Thursday July 13, 2006
The death of Doha signals the demise of globalisation
Martin Jacques
(コメント) Jeremy Seabrookは,産業革命の際に現れた社会の分裂と階級対立が,今また,世界的な規模において再生している,と訴えます.わたしたちはそれを「距離」や「民族」によって曇らされたメガネで見ています.
他方,Patrick Sabatierは,ヨーロッパの人口減少とアフリカの貧困を考えれば,移民流入は止められない,と指摘します.非合法移民に対して「主権」を強調する議論は盛んですが,「ヨーロッパ要塞“Fortress Europe”」は幻想です.開発や援助を通じて移民を阻止する,という政治家たちの主張も現実を大きく変えることはありません.その結果,政府は移民を選別して受け入れますが,それは非合法移民を増やす結果になりました.政策の限界は,国民の間に,移民受入に関する合意ができていないからです.
Stephen Roachは,なぜ世界の石油埋蔵量や供給が増えているのに,石油価格は高騰し続けるのか? もちろん戦争の不安は各地にありますが,その最大の不安はアメリカから中国へのヘゲモニーの移行である,と.平和的な移行を実現するため,グローバリゼーションの「ウィン・ウィン理論」が唱えられています.それは,リカードの示した比較優位に従って,世界の貧しい国と豊かな国とが貿易を自由化することです.
ところが,IT革命は比較優位による貿易を破壊的にしました.豊かな国の労働者は,貿易によって失業しても,生産的に雇用される見込みがありません.そのことをPaul Samuelsonは「リアリスト」として認めます.そこで米中貿易に関して,Roachは三つのガイドラインを主張します.1.労働者の訓練や再雇用,セーフティーネット,技術革新に投資する.2.貧しい諸国を排除せず,市場統合する.3.マクロ経済政策によって雇用を維持する.
他方,保護主義や中国に切り上げを迫る政治家たちは,問題を解決するより,悪化させます.アメリカも中国も,グローバリゼーションにふさわしい調整を模索しなければなりません.
Martin Jacquesは,ドーハ・ラウンドの失敗がグローバリゼーションの終焉につながる,と考えます.アメリカを多角主義につなぐ最大のリンクが失われます.アメリカの利益が実現できなければ,国連と同様,WTOには何の価値もありません.中国に殺到する欧米や日本からの企業が輸出を増やすことに対して,各国の政治的な反動は止められないでしょう.
WP Wednesday, July 5, 2006; A13
Global Warming's Real Inconvenient Truth
By Robert J. Samuelson
(コメント) 世界的な問題に関して常に起こることです.温暖化についてRobert J. Samuelsonは指摘します.「いかなる政府も,たとえそれらが温暖化を抑えるとしても,経済成長や個人の自由(電力消費,自動車の運転,旅行)を杓子定規に制限するような規制を受け入れない.それでも政治家たちは,彼らが「何かしている」ことを示したがる.」
もし問題を解決できるとしたら,それは新しいエネルギーについての技術革新です.ところが,政治家たちは問題を「道徳的な使命」として争います.イラク侵攻やゲイ・マリッジもそうです.
The American Prospect 07.05.06
Minimum Politics
By Robert B. Reich
July 10 (Bloomberg)
Why a Higher Minimum Wage Is Bad Economic Policy
Kevin Hassett
(コメント) 他方,最低賃金(時給5.15ドル)はどうでしょうか? 民主党は引上げを主張し,共和党はそれを否定しました.今や所得格差や失業,企業のスキャンダルが選挙の争点になれば,最低賃金引上げを主張する民主党は有利です.共和党はインフレによって失われた分を取り戻すべきだ,と考え,共和党は引上げがインフレをもたらす,と主張します.共和党が選挙の争点として避けたいと思えば,最低賃金をインフレと連動させればよい,とReichは述べます.
民主党は秋の中間選挙に最低賃金引上げを主要な論点にするつもりです.それは同義的な使命だ,とハワード・ディーンは主張します.Kevin Hassettは,これを痛烈に批判します.貧しいものの雇用を減らす.むしろ低所得者に減税するほうが良い,と.
道徳的な要請,社会的な価値に関する合意を,法によって強制することはあるでしょう.労働組合との交渉で,最低賃金や労働時間を決めれば,それを国民全体の基準として採用するように求めることもできると思います.他方,その条件にインフレや失業,グローバリゼーションなどが関係する以上,市場と法律との関係は条件に応じた見直しが必要です.
Do N Korea's missile launches increase the threat to world security? FT Administrator 05 Jul 2006
DAVID E. SANGER Few Good Choices in North Korean Standoff NYT July 6, 2006
Daniel Griffiths Can China solve N Korea crisis? BBC 2006/07/06 11:34:43 GMT
Mark Turner at the United Nations and Anna Fifield in Seoul US and Japan table draft UN resolution FT July 7 2006
NORIMITSU ONISHI U.S. and Japan Press for North Korea Sanctions NYT July 7, 2006
Anna Fifield in Seoul and Stephanie Kirchgaessner in Washington North Korea initiative aims at ‘five-party’ talks FT July 9 2006
Rupert Wingfield-Hayes China's tough decisions over N Korea BBC 2006/07/11 19:00:38 GMT
(コメント) アメリカやインドが核実験やミサイル発射を試すように,いずれの国も自国の防衛のために軍隊を持つことは認められている.アメリカが国連安保理に認められない軍事力の行使を他国に承認させ,イスラエルが核の保有や周辺地域への殖民地建設を支持し,市民を含めた報復を行っても制裁を受けないのだから,北朝鮮のミサイル発射を騒ぐ必要はない,・・・といった意見もイギリスやヨーロッパにはあります.
問題は,軍備を共同管理し,安全保障をより少ない軍備で実現する条件をめぐる主要国間の争いにあり,北朝鮮という国家の意図や行動理由が市民や国際社会の理想を損なう点にあります.これ以上,北朝鮮指導者の勝手な振る舞いを許すべきではない,という日米の主張は当然です.同時に,北朝鮮を存続させているのは,中国からの食糧や燃料,援助である,と言われます.そうであれば,中国の対応が最も重要であることも当然です.
中国は6カ国協議への復帰を求め,日米は安保理決議を求めています.北朝鮮が中国の意向に反してミサイル発射実験を行っているのであれば,中国は金王朝に代わる朝鮮半島統一のシナリオを描いているのでしょうか? 中国とロシアが明確に北朝鮮を説得するときです.特に,中国政府がそのような長期的目標を示せば,歴史は変わると思います.
WP Thursday, July 6, 2006; A02
Six-Party Talks -- and Half a Dozen Doughnuts
By Dana Milbank
LAT July 7, 2006
North Korea's clown provocateur
By Edward N. Luttwak
NYT July 7, 2006
What Does North Korea Want?
By BRUCE CUMINGS and MEREDITH JUNG-EN WOO
WP Friday, July 7, 2006; 12:41 PM
Deterrence is Not a Dirty Word
By Jon B. Wolfsthal
The Wall Street Journal, 8 July 2006
North Korea's Neighbors Keep Friendly Tone
Evan Ramstad & Neil King, Jr.
(コメント) Dana Milbankは,数年前のイラクと今回の北朝鮮に対するブッシュ政権の対応を比較します.かつて戦争に突き進んだ政府も,今では多角主義・外交交渉の見本です.スノー,ライス,ボルトン,などが北朝鮮への冷静な対応を整理します.ブッシュ大統領は,国連のアナン事務総長の演説を真似たように,われわれは一致して行動することが大切だ,と力説しました.
「・・・このしつけの悪い子供をどうしたものか・・・?」 軍事的な処罰がやりにくいとなれば,延期し,褒美をやり,話し合い,無視する? 「これは地域の問題だ」とライス国務長官は中国に解決を委ねます.スノー財務長官が繰り返したように,アメリカは6カ国協議の枠組みを重視する,というだけです.
金正日の狙いは,主要国の関心を惹くことだ,とEdward N. Luttwakは考えます.朝鮮民族同胞の命を楯に,アメリカや日本の政治指導者に平和のための代償を求め,韓国からは多額の援助を得て,脅迫のパターンを繰り返しています.世界最強の軍隊と世界最大の富を動かせる日米同盟に,北朝鮮が命令するような芝居に,なぜ日米は付き合うのか?
北朝鮮が,ミサイルや核兵器開発をアメリカとその同盟諸国との国際合意の中で規制し,その過激な言動で北朝鮮人民を世界から孤立させ続けるなら現状の苦しみから逃れる術はない,と理解することです.
北朝鮮にとってミサイル発射は,アメリカ(や日本)のシンボリズムに対する,シンボリズムによる回答です.BRUCE CUMINGS and MEREDITH JUNG-EN WOOは,6年前,クリントン政権がオルブライト国務長官に,ピョンヤンで金正日と長距離ミサイルに関する協定を交渉させたことも指摘します.韓国の金大中大統領も合意し,ミサイルの実験や輸出は規制され,アメリカはそれに対して10億ドルの食糧を援助するはずでした.しかし,合意に必要なクリントン大統領の訪朝は,大統領選挙によって実行できなくなったのです.北朝鮮の脅迫は,この合意を催促したのではないか? と.
Jon B. Wolfsthalは,抑止による封じ込め政策を支持します.Evan Ramstad & Neil King, Jr.は,中国と韓国が支援をやめるべきだ,と考えます.
LAT July 10, 2006
When will China pull the plug on North Korea?
Niall Ferguson
Asia Times Online, Jul 11, 2006
Pyongyang's missiles right on target
By Donald Kirk
NYT July 11, 2006
The Dear Leader’s Boiling Cauldron
By NICHOLAS D. KRISTOF
Donald Kirk North Koreans let their feet do the talking Asia Times Online, Jul 14, 2006
Antoaneta Bezlova China chooses its own pace Asia Times Online, Jul 14, 2006
(コメント) ユーラシア大陸を閉ざした二つの壁のうち,ドイツの壁だけが取り壊され,朝鮮の壁は今も残る.なぜか? Niall Fergusonは,その背後にあった共産主義国家の命運による,と考えます.ソ連邦は崩壊し,中国共産党の支配は今に及ぶ.北朝鮮の生存を決めるのは,アメリカではなく中国です.ミサイル発射は,金正日の狂気に,アジアの安全保障を担うと自負する中国が,決別を告げる予兆であったかもしれません.
他方,また,日本の保守派政治家たちが,自主防衛のために憲法改正と軍備拡張を主張する大義名分を得たわけです.この動きに,韓国は「日本の帝国主義的な性格が現れた」と反発しました.中国や韓国の反日運動にも,新しい話題を与えたわけです.こうして同盟諸国間の反目を刺激する点で,アメリカ政府は朝鮮半島の問題を扱いにくいと感じるでしょう.
北朝鮮は,核兵器だけでなく,大量の生物・化学兵器を貯蔵しているようです.北朝鮮をどうするかよりも,核拡散を防ぐことがアメリカの第一の優先課題である,とNICHOLAS D. KRISTOFは書きます.
FT July 6 2006
A planning method without madness
By Martin Wolf
(コメント) 地方の開発を規制するべきか? Martin Wolfは,政府や計画の意味を問います.もし地方の住宅購入を規制すれば,住宅価格が上昇し,既に所有しているものが利益を受ける.都市の富裕層が大規模に地方の住宅を買い占めたようです.彼らは地方に住まない所有者であり,地方の自治や経済には無関心だ,と.住宅価格上昇の利益も地方経済や環境維持には役立たないでしょう.
成長も環境も,地方を維持する際には重要です.政策の意図は明確でも,その効果については,市場の機能を忘れてはいけない,というわけでしょう.
NYT July 5, 2006
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) THOMAS L. FRIEDMANは,ペルーの熱帯雨林から,中東の紛争激化とインターネットの普及を考えます.熱帯雨林の中では,すべての生き物が何かに食べられ,何かを襲って食べます.もちろんそれは(いわゆる)暴力ではないが,生き延び,生きる空間を得ることが,すべて力で決まることなのです.
FRIEDMANは,インターネットの世界と結びついて仕事中毒になっている自分たちの生活を考えます.ペルーの森で4日もインターネットから切り離されると,それは抹殺されたように感じる,と.これは情報時代における「近代の病」です.結びつくことは非常に有益であるとしても,過度に結びつくことで失うものもあります.
ガザ侵攻とインターネット.アマゾンの森において優れた知識を示すガイドのペルー人は,自分の周りに広がる世界の感触を,その細部に至るまで知っているのです.イスラエルとハマスは互いの生存を認めずに殺戮を繰り返します.私たちは世界との接触を失うと生きていけません.
Sami Abdel-Shafi From the eye of the storm The Guardian Friday July 7, 2006
Mona El-Farra My life in Gaza BG July 10, 2006
Simon Tisdall UN impotence laid bare as Gaza suffers The Guardian Wednesday July 12, 2006
Shlomo Ben-Ami Only deal with Hamas can bring peace FT July 13 2006
Israel’s Two-Front Battle NYT July 13, 2006
(コメント) 周辺地域の経済復興に協力することで,イスラエルとの共存を願う人々を増やすはずではなかったのか? さまざまな援助や融資によって復興された町並みにイスラエル軍の戦車が砲撃するときに,彼らは信頼や友好を破壊するだけでなく,それらが二度と育たない,苦渋と怨嗟の土地を耕しつつあります.
イスラエルは兵士を拉致されたことで直接に探索を開始しました.その評価はまだ早すぎますが,これに戦争の拡大で対抗することは間違いです.実際,イスラエルの行動はその均衡や原理を失わせ,最初の目的によって正当化できないものに変わりつつあります.撤退が選択されるのを待って,政治的な交渉による解決を求める時期が来るでしょう.
Mexico: Victory by a sliver The Guardian Friday July 7, 2006
Mexico, the day after LAT July 7, 2006
A Recount in Mexico NYT July 7, 2006
Ilan Stavans What next for a fractured Mexico? BG July 9, 2006
Daniel Lak Power gamble on Mexico's streets BBC 2006/07/09 11:59:43 GMT
新しい大統領には,真っ先にアメリカとの関係が問われます.移民をどうするのか? アメリカの軍事介入を支持するのか? それはさまざまな国内問題と結びつきます.民主的な選挙が各地で政権転覆や僅差の勝利を頻発する傾向について,すでに,議論が起きています.
オブラドールは支持者を街頭に集めて,政府や軍隊に逆らうのでしょうか?
LAT July 8, 2006
Mexico's election lesson to U.S.
By Robert A. Pastor
NYT July 8, 2006
How to Be a Good Neighbor
By GREG GRANDIN
WP Sunday, July 9, 2006; B01
Don't Take the High Road
By Ronald Klain
(コメント) Robert A. Pastorは,1986年と今回の選挙を比較して,かつては選挙違反のすべてを出し尽くすほどであったメキシコが,自由で公正な選挙の見本となるほどに変わった,と賞賛します.僅差の選挙結果は抵抗や暴力をもたらしますが,メキシコは近年,選挙に関する制度も整備されています.それはアメリカの選挙制度に比べても進んでいる,と指摘します.すなわち,政党に支配されず,国際的な監視を受け入れ,民間の寄付を制限し,優勝の選挙管理スタッフを動かし,迅速な集計と裁判所による判断が用意されている,など.
アズテク人の信仰によれば,歴史的な大事件は数百年ごとに再発する,というわけです.1810年に,プランテーション農場として土地を奪われた農民たちが祖ペイン人の支配者に対して叛乱を起こしました.それはメキシコ独立につながったのです.今回の叛乱は南部の農村から起き,彼らを苦しめる支配者とはNAFTAのことです.オブラドールがカルデロンの勝利に反対したのも,地方の貧しい人々が彼を支持しているからです.NAFTAは,それ以前のトウモロコシと豆に頼った彼らの自給的な生活を破壊しました.そして数百万人が土地を離れました.
アメリカのアグリビジネスや低利の融資によって,メキシコ農民は追い詰められ,畑ではトウモロコシが収穫もされないまま腐っています.NAFTAは巨額の補助金を受けるアメリカ農民がメキシコ市場を席巻する自由を与えたのです.オブラドールがNAFTAの条件を見直す再交渉を唱え,彼らを刺激しました.メキシコとアメリカの政府がNAFTAによって約束した繁栄は,農民たちにまで届きませんでした.Greg Grandinは,アメリカ政府が再集計を待ち,オブラドールを非難せずに,誰が大統領になってもNAFTA再交渉を認めるよう求めます.
Ronald Klainは,オブラドールの抵抗姿勢をむしろブッシュの政治的脅迫で勝利を奪い取ることにたとえています.
The Japan Times: Saturday, July 8, 2006
Britain soars without euro
By DAVID HOWELL
(コメント) DAVID HOWELLは,ユーロに加盟しないイギリスは海外からの投資を失うはずではなかったか? と問います.イギリスはEUにおける影響力を失い,ロンドンもフランクフルトに負けて衰退する,などと加盟を支持した連中はどうなったのか? こうした予想に反して,イギリスはユーロ圏よりも高い成長を遂げ,海外からの投資を今まで以上に引き付けています.ユーロ権向けの輸出も伸びているのです.
彼らの間違いは,1.通貨の統一を過大に評価した.それは旅行者にとって便利であっても,発達した通貨間取引の電子化を前提すれば,企業にとっては重要ではない.2.共通通貨による金融政策や為替レートの不便を過小評価した.つまり,EUは最適通貨圏ではない.3.21世紀において,政府の役割は縮小してしまった.巨大な経済圏を政府間で決めることは,もはや重要ではない.ここでも技術革新を過小評価している.
資本移動と技術革新は世界の日常時です.急速かつ弾力的に変転する世界市場で,軽やかにダンスを踊れるのは巨大な象ではありません.賢明な学者たちが設計した牢獄より,それを逃れた小国の方が,イギリスと同じく華麗なステップを学んでいます.
FT July 9 2006
Inflation targeting is the way forward for the Fed
By Stephen Cecchetti
FT July 9 2006
Paulson could provide a better legacy for Bush
By Krishna Guha and Holly Yeager
(コメント) Stephen Cecchettiは,インフレ・ターゲットを21世紀の最良の金融政策である,と考えます.確か,どのような金融政策の公式も必ず失敗する,というのがグッドハートの法則ではなかったか・・・?
Cecchettiによれば,インフレ・ターゲットの優れた点は,@広く合意された目標が得られる.A金融市場や国民とのコミュニケーションを円滑にする.B中央銀行が低インフレを守る姿勢について,人々が確信し,低インフレを予想して行動する.たとえば賃金交渉で.
こうして金融政策は「非人格化」されることが主張されている一方で,財政ではハンク・ポールソンという大物投資家が,ブッシュ政権の政策マシーンを再編する核として,その転換に「人格化」された期待を高めています.
しかし,ブッシュの減税策を弁解することや,議会の保護主義をなだめることに,ポールソンの持ち込んだ「市場の信頼」がいつまで続くかは分かりません.対外経済政策でこそ,ポールソンの最大の活躍が期待されています.アメリカは対外不均衡を抑えて,国際金融危機を回避しなければなりません.その際,ポールソンの中国人脈が重要になります.中国の金融改革を促し,アメリカとの貿易不均衡を緩和できるかどうかに,多くの政策の成否がかかっているからです.
他方,たとえポールソンでも,二期目の政権で低い支持率しかないブッシュ氏の下では,思い通りに予算案を決めることはできないでしょう.特に,中間選挙で民主党が勝利すれば.また,イラク戦争など,ブッシュ氏による制約は拒めません.もちろん,たとえば社会保障制度の大改革を進めて,イラク戦争以外に成果を残しておきたい,とブッシュ氏は考えているかもしれません.こうした大きな仕事を委ねる上で,ポールソンは最適の人物である,とグレン・ハバード元大統領経済諮問委員会委員長は語りました.
The Japan Times: Sunday, July 9, 2006
'Sayonara Summit' saw the best of ties
By BRAD GLOSSERMAN
July 12 (Bloomberg)
More Greenspan, Less Volcker, Needed in Japan
William Pesek
(コメント) Brad Glossermanは,「ジョージ=純」の信頼関係によって深められた日米同盟が,これから反転することを予想します.彼らの派手なパフォーマンスは国民の強い支持を得ていません.アメリカ軍の再編に日本が財政負担を合意したことは,小泉後の政府を縛り,国民やアメリカとの関係を難しくするでしょう.牛肉輸入再開問題,安保理改革など,政府間の協力はしこりを残しています.
日本は,今後,高齢化問題と,アジア経済における統合化から疎外される懸念,を抱えています.クリントン政権時には,アメリカ政府が日本を軽視して,アジア地域で中国との関係に重点を移す姿勢を示しました.日本はその不安を,アメリカとの同盟に傾斜することで解消するほかないわけです.それゆえGlossermanは,日米両政府が今までの成果を確実に制度化し,日米経済の統合化をアジア市場にも広げる形で,積極的にアジアに関係すること,を薦めているようです.
日銀がゼロ金利政策を解除したのは,インフレが心配されるからではなく,ゼロ金利によって政府が債務に依存する傾向を強めてしまうからである,とWilliam Pesekは考えます.日本はまだインフレ抑制のためにブレーキに足をかける中央銀行を必要としていません.むしろ,福井総裁が日銀の信頼を守るために,ゼロ金利を解除して辞任するほうが良い,と.
Neil Buckley and Arkady Ostrovsky G8 boost for Putin as Chechen rebel killed FT July 10 2006
Taking the measureof Putin's new Russia FT July 10 2006
GARRY KASPAROV What's Bad for Putin Is Best for Russians NYT July 10, 2006
Fred Hiatt The Democracy Backlash WP Monday, July 10, 2006; A17
The Chechens' long war BG July 11, 2006
Simon Tisdall Putin limbers up to flex new muscles at G8 The Guardian Tuesday July 11, 2006
Sonni Efron The twisted saga of Chechnya's Che LAT July 11, 2006
Thomas de Waal Russian myopia threatens Chechen peace FT July 12 2006
Roderic Lyne We need to be patient with Russia IHT WEDNESDAY, JULY 12, 2006
John Edwards and Jack Kemp We need to be tough with Russia IHT WEDNESDAY, JULY 12, 2006
Russia's entry price FT July 13 2006
Charles Ryan G-8 in St. Petersburg: Clouded vision at the summit IHT THURSDAY, JULY 13, 2006
Graham Allison For energy security, think nuclear IHT THURSDAY, JULY 13, 2006
(コメント) 2004年のベスランにおける小学校占拠事件の主犯といわれるShamil Basayevがロシア治安警察によって殺害されました.Basayevは,チェチェン独立運動から,イスラム原理主義に偏り,コーカサスまで含むイスラム国家を唱えて,多数の市民を殺傷するテロの首謀者となったようです.「テロとの戦争」における新しい戦果です.特殊部隊はG8に対するテロ計画を防いだ,と言います.しかし,他方,ロシア政府がチェチェン紛争に和解をもたらす見込みはまだありません.
ロシアの改革が後戻りしないようにサミットに参加させた決定は,今から振り返れば,むなしい願望であったようです.ロシアの危機は,金融市場によって深まりましたが,石油価格高騰によって打ち消され,西側の改革に対する圧力も弱まったのです.チェチェン紛争と9・11は,プーチンを政治的な強権政治に向ける背景となりました.
経済が回復し,政治が安定し,ロシアの支配層は国際的な威信と影響力を回復し,単に西側の一員ではない,独自の存在を目指しているようです.民主的な制度や発言を弾圧する姿勢は,次第に,サミットにおける分裂に至るでしょう.
チェチェン紛争の沈静化は,ロシア軍と警察による10年以上もの破壊活動の結果であり,仕事がなく,疫病に苦しむ人々にとって反抗する余地は失われたのです.プーチンと協力した現地政府の冷酷な反対派弾圧や,「テロとの戦争」を理由に国際的な援助や和解への協力をすべて排除してきたことにもよる,とThomas de Waalは伝えています.
ロシア経済の移行過程や対外関係の調整は,ようやく安定してきたのであって,プーチンのロシアに時間を与えるべきだ,という意見もあります.石油に頼って外国に干渉することが主要な外交政策ではありません.ロシアは発展のために外国資本や技術を必要としています.危機から無秩序に転落する可能性もあったことを思えば,改革に時間がかかるのは当然です.他方,その政治姿勢に,より強硬な姿勢で改善を要求する必要がある,ともいわれます.
エネルギー,テロ,核,など,ロシアは扱いにくい国です.問題を解決するには協力しなければなりません.しかし,敵ではないとしても,同盟国とするには問題があります.麻薬,犯罪,疫病,人身売買,・・・ ロシアを拠点とした国際問題が多くあります.アメリカが外交政策の目標をますます民主化に求めているとき,ロシアはますます権威主義的な支配を強めています.経済の回復が政治的な民主化にもおよぶのか? 多くの国で問われていることです.
ロシアは今や,石油と天然ガスを合わせて,サウジアラビアを越える世界最大のエネルギー生産国にして輸出国です.他方,アメリカは世界最大のエネルギー消費国です.そこでサミットでは,「エネルギー安全保障」がテーマになります.Graham Allisonは,米ロが協力する「新しい国際金本位制」として,核兵器・燃料・技術の国際取引をすべて管理することを求めます.
FT July 10 2006
A bond that insures against instability
By Stephany Griffith-Jones and Robert Shiller
(コメント) 各国の成長率にリンクした債券(GDPリンク債)についての関心が高まっています.それは債務国の財政基盤を安定化します.なぜなら,景気変動を通じて,好況では債券の元本返済・利子支払が増え,不況では減るからです.債務不履行も減るでしょう.
GDPリンク債は,投資家・債権者にとっても,デフォルトが減り,債務者の比較と世界的な分散投資とリスク分散が容易になります.
国際機関にとってはどうか? デフォルトを減らす金融革新として,その導入や普及に公的な支援を行うことが望ましい,とGriffith-Jones and Shillerは主張します.株式市場に大規模に流入し,突然,流出する民間資本の国際移動よりも,GDPリンク債を利用した分散投資は,その経済全体の見通しを重視するはずです.
市場によりながら,各地の長期的な開発を促せる,理想的な開発融資のための手段が見つかったのかもしれません.
FT July 11 2006
Time is running out to rebuild the Fund
By Edwin Truman
(コメント) もと財務省の高官で,現在はIIEの上級研究員であるEdwin Trumanが,アメリカの新しい財務長官にIMF改革を進めるよう求めます.9月のIMF年次総会で,ポールソンは三つの課題を示して,現実的な改革を強力に指導するべきだ,と.1.IMFのガバナンス,2.IMFの政策指導,3.危機へのIMF融資.
まず,IMFはそのクォータの変更や専務理事の選出方法を改善しなければなりません.新しい経済力を反映したIMFの意思決定・管理体制が必要です.特に,専務理事をヨーロッパが独占する第二次大戦後の欧米合意は廃止されるでしょう.同様に,IMF合意による加盟諸国の政策監視は,アジア諸国を調整過程に参加させる形で改善されるでしょう.アメリカの財政赤字とドルの水準は財務省の責任で均衡を回復するべきです.また,アメリカ国内にもIMF融資への強い反対意見があります.ポールソン財務長官は,新興市場に金融自由化を促すためにも,IMF融資は必要であることを訴えるべきです.IMFが弱いせいで,各国は外貨準備を蓄積し,国際的な不均衡を増幅しました.
トルーマンは,こうした改革を実現するには,バランスの取れた包括的なパッケージが示されるべきである,と主張します.担当者たちが議論したくない問題を扱うには,技術的・分析的なレベルから政治的なレベルへ移すことです.それができるのはポールソンだけでしょう.「政治は成果を求める.政治は妥協の技術(アート)である.」
Andrew Yeh and Fiona Harvey China learns of pollutant perils FT July 12 2006
Guy de Jonquieres To innovate, China needs more than standards FT July 12 2006
Chinese interest rates FT July 12 2006
John Gittings Capitalism with Chinese characteristics The Guardian Wednesday July 12, 2006
(コメント) 水銀中毒事件が起きています.中国の急激な工業化による環境破壊・汚染は,周辺地域や地球環境にも影響を与えます.携帯電話,DVDなど,最先端の技術も利用した企業間競争により,中国の技術水準が向上しています.しかし,WTOが保護する技術の障壁は高く,技術開発も欧米の大学や研究所が支配している,とGuy de Jonquieresは指摘します.中国の望みを短期に実現することは難しい,と.
インフレ,金利,為替レート.中国の金融当局には難しい判断が待っています.
CSM July 13, 2006 edition
Make room for Asia's new 'indispensable nations'
By Helena Cobban
(コメント) 「世界情勢を引き付ける重力は,アメリカから離れ,長くとどまった北西大西洋からアジアへと,移動し始めた.数十年にわたる反響は甚大だ.」
「この意向を最近の事件が示している.6月,中国は「上海協力機構」を開催して,ロシア,ほとんどの中央アジア諸国,インドの政府代表を迎えた.しかし,アメリカが招かれなかったのは明らかだ.中国とロシアは軍事協力を強化し続けている.北朝鮮とイランはアメリカ政府による「封じ込め」を逃れ,ロシアや中国から支持を得てきた.7月6日に,中国とインドは国境を開放し,1950年代以来,両者を分け隔ててきた国境問題や政治的反目を回避した.」
しかし,Helena Cobbanの論旨は警戒感だけでありません.アメリカの人口は世界人口のわずか4%でしかなく,アメリカの影響力は既に後退していましたが,イラク戦争により,その制約を増しているのです.中国やインドが生活水準を改善し,国連に集約された秩序とルールを,また,日本敗北後の60年間,アメリカによって支えられたアジア地域の安定を積極的に担うようになるのは良いことだ,と支持します.
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The Economist, July 1st 2006
Billanthropy
Israel and Palestine: Try to be calm
Mexico’s presidential election: Change, please
(コメント) 世界情勢を決めるのは,将軍や偉人とは限りません.さまざまな歴史的事件が重なって,事後的な編成を変えていきます.アメリカに誕生した超大富豪たちが,慈善事業のスケールを世界に広げています.他方,イスラエルとパレスチナの暴力的なエスカレーションは再び加速しています.メキシコ大統領選挙に勝ったのは,ネオリベラリズムでも,ポピュリズムでもなく,安定した市場改革の維持と,政治的な腐敗や旧制度を一掃する革新です.
三つの互いに独立した事件が世界秩序に及ぼす影響を,人々が判断するには,まだ数年を要するでしょう.
The Economist, July 1st 2006
Charlemagne: The absorption puzzle
American manufacturing: Lean and unseen
Economics focus: A toll on the common man
(コメント) EU政治や官僚がもたらす新しい焦点として「吸収能力」が示されています.これはそもそも開発論で,貧しい国が援助を生産的に吸収する能力に限界がある,という議論でした.EUは,その拡大や成長への転化を,加盟申請国の「参加条件」だけでなく,旧加盟諸国の「吸収能力」として問題にしたわけです.
GMが損失を重ねているとしても,アメリカの製造業が苦境にあるとは言えません.むしろ,今では多くの利益を上げて,生産性上昇の成果を実現しているのです.他方,こうした大幅な利益を得ている企業に対する増税を主張する人々は,それが低投資や低雇用として,結局,自分たちのコストでしかないことを分かっていない,と批判します.
私は,The Economistのように,大富豪を賞賛しませんし,「吸収能力」や「法人税」の意義を否定しません.