IPEの果樹園2006

今週のReview

6/19-6/24

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :国際システムの将来1アジア・ハイウェイとSCO

安全保障 :犠牲者への共感,北朝鮮,アメリカと国連,核廃絶

貿易・投資 :雇用流出

通貨・金融 :金融緩和の終わり,中国のデフレ回避

世界統治 :火星のエコノミストサッカー移民論争

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


The Japan Times: Thursday, June 8, 2006

Big lessons from a small town

By DAVID HOWELL

(コメント) Hay-on-Wyeの文字を見て,この論説を読み始めました.知っている人は知っているけれど,余り行ったことはないでしょう.Hay-on-Wyeとは,イングランドとウェールズの境に近い,ロンドンから二度もバスを乗り換えてやっと着く,イギリスの有名な古書の町です.

1000年前,そこにはウェールズ人の叛乱を見張るノルマン人の拠点がありました.その後もローマ帝国の城砦があったようです.しかし長い間,ワイ川沿いの静かな美しい田舎町としてだけ残りました.現在のヘイ・オン・ワイを始めたのはRichard Boothです.彼が各地の閉鎖された図書館や巨大なマナー・ハウスから,厖大な古本と稀こう本を集めて来て,ここの倉庫に並べたそうです.戦火を避けてロンドンから移設した,とも聞きました.

ブースの店に来る客を目当てに,その後も古書店ばかりが,一つ,また一つと開かれます.ついには古書の街として世界的に有名になり,イギリス国内だけでなく,ヨーロッパや日本からも旅行者が訪れ,今ではホテルやレストラン,本に関わるさまざまな産業が発達している,ということです.

さて,この論説でDAVID HOWELLは,元大統領候補のアル・ゴアをリチャード・ブースと比較しています.選挙後も,ゴアは地球環境を保護する運動を頑固に譲らず,最近,終末論的な地球温暖化阻止の宣伝映画を作りました.これに対してブースの発想の柔軟さを賞賛し,何があろうとも,小さな町が生き延びるには柔軟に適応することが重要だった,と主張します.

この論旨が説得的とは思いませんが,ヘイ・オン・ワイに行ってみたいです.


NYT June 8, 2006

Other People's Blood

By BOB HERBERT

(コメント) なぜ普通の人々が戦争に参加しなければならないのか? とBOB HERBERTは問います.終わりの無い殺戮に加わった,善良な人々.敬虔な人々.愛国者.彼らの役割や責任とは何か?

・・・ブッシュ大統領は,戦争の良い面ばかりを強調し,傲慢な主張を繰り返した.戦争を始めたとき,彼は人々が何をするかについては考えなかった.いまも考えていない.イラクの民衆に大歓迎されるだろうと送り込まれたアメリカ兵たちが死んだ.将来については何も計画が無い.

ウォルフォヴィッツは,石油があるから再建費用はまかなえると言った.チェイニーは,武装勢力は制圧される寸前だと言った.大量破壊兵器と同じで,どれも間違っていた.1000人以上のアメリカ兵が志望し,1兆ドルから2兆ドルの費用がかかるだろう.

しかし,誰も責任を取っていない.国民はイラク情勢に関心を持たない.その主な理由は,アメリカ人がこの戦争に関わっているという感覚を持っていないから.ニュース・メディアは最悪の犠牲者たちを国民に見せていない.

アメリカ軍が行う殺害に関してはほとんどニュースにならない.しかし,誰かがあなたの職場にやって来て,向かいのデスクに腰掛け,突然,粉々に吹き飛び,あなたは彼や彼女の血にまみれることを想像して欲しい.このような経験をすれば,あなたは一生苦しむだろう.イラクでは毎日起きていることだ.

赤ん坊や子供を含めて,多くのイラク人が殺され,吹き飛ばされ,虐殺されているが,アメリカの大衆はそれを知らない.彼らの苦しみに同情するアメリカ人はほとんどいない.ブッシュ大統領の吹聴する幻想にもかかわらず,悪夢のような暴力は増大し続けている.

アメリカ兵には使命がない.何のために死んだのか分からない.それでも,まだ,死に続けている.

The Guardian Friday June 9, 2006

Death of a salesman

Zeyad A

NYT June 10, 2006

Mourning in America

By JOHN TIERNEY

(コメント) 反政府テロの指導者,ザルカウイAbu Musab al-Zarqawiがアメリカ軍によって殺害されました.人命を省みなかった男の死体を見ても,同情するものはいません.しかし,ザルカウイが死んでも,さらに過激なテロによる報復や,組織の再編,叢生が刺激されるかもしれません.彼は単なる広告塔だった,と見るイラク人も多いのです.アメリカ軍によるテロリスト殺害を多くのイラク人が歓迎したのかどうか.それで「勝利」や「転換点」を議論する気持ちはありません.

デラウェアの緑の党候補Michael Bergは,ザルカウイの死を,残念なことだ,と述べました.アメリカの契約労働者が首を切り落とされたことについてザルカウイを責めず,本当のテロリストであるブッシュ大統領の責任を問いました.首を切り落とされたのは,彼の父でした.9・11の犠牲者の妻であるAnn Coulterは,民主党も共和党も,誰でも批判します.

犠牲者とその親族たちが,特殊な集団によって社会に負担を押し付けるため利用されています.かつて,デュカキスMichael Dukakisが大統領候補として論争したとき,妻を強姦して殺した男を死刑にしたくないのか,と聞かれました.聴衆の意図に反して,彼はそのことを無視し,法の公平な執行と死刑廃止を主張しました.

議会ではよく,美しい犠牲者や親族たちが,法案審議に添えられます.そして,テレビを意識した政治は,しばしば劣悪な政策をもたらします.


YaleGlobal, 8 June 2006

Time to Lift North Korea’s Quarantine

John Feffer

(コメント) 拉致など,さまざまな犯罪行為に関わり,麻薬やミサイルを輸出し,マネー・ロンダリングや貨幣偽造まで行ってきた北朝鮮が,アメリカ政府の経済制裁を受けるのは当然です.しかし,北朝鮮を市場に引き出すほうが,経済制裁で孤立させるよりも効果的である,とJohn Fefferは主張します.

制裁の結果,核開発をめぐる6カ国協議は停止し,北朝鮮内部の経済改革の動きも損なわれました.韓国とのKaesong工業地区はアメリカに敵視され,米韓のFTA交渉でも障害となっています.アメリカと北朝鮮は,互いにグローバリゼーションを抑圧し合っています.それは解決を難しくするだけです.


FT June 9 2006

Economists are from Mars, Europeans from Venus

By John Thornhill

火星のエコノミストが地球を訪れる.その来訪はエコノミストという生き物が他の星にも生息すること(誰も信じていなかったが)を証明するだけでなく,新しい見方をもたらす.

地球のエコノミストたちは,中国の恐るべき成長率について,来訪者に夢中で話し続ける.この21世紀における奇跡の経済は,フランスもイギリスも抜いて,世界で4番目の経済大国になってしまった.ヨーロッパは過去の土地.アメリカは現在の土地.中国こそ未来の土地だ,と.世界の経済的な重力は,断然,北東アジアに向かっている.

しかし,火星のエコノミストは頭を掻く.「・・・私の経済学教授は,1945年に地球を訪れたのですが,ヨーロッパは最良の才能を持った人々を含めて3600万人を殺害する恐るべき内戦を経たばかりだ,と言いました.あなたは今,6000万人のフランス人が13億の中国人とほとんど同じ経済的生産物をもたらしていると言います.この星の歴史では,一体,どちらが支配的な経済大国なのですか? フランス人が週に35時間しか働かず,246種類もの異なるチーズを作れるというのに,何が不満ですか? ヨーロッパの経済的な奇跡はどうして起きたのですか? 」

地球のエコノミストたちは互いに見つめあい,そして,足元を見る.「私たちは普通,・・・そんな風に考えていないのです.ヨーロッパは「動脈硬化」に苦しんでいる・・・ と,ね? 低成長,高失業,福祉国家の膨張,人口減少,・・・そんな話ですよ.」

「どうやって起きたかを知るには,エコノミストより,歴史家に聞く必要がありそうですね.」と,火星の友人は言う.眼をぱちくりさせて,数ヶ月,ワシントンでデカダン・ヨーロッパの将来に関する講義を聞く.

イギリスの歴史家Tony Judtは,経済的な「必然性」と地政学的な予想を混合する危険について語った.それは結局,カール・マルクスの犯した間違いだ.そうではなく,Judtは人間の関わる国際情勢について,政治の第一義的な重要性を強調し,戦後のヨーロッパが,税収によって軍備を拡大する国家から,莫大な資金を健康・教育・年金・住宅・公共施設に費やす社会国家に転換する,という人類史上かつてないことを実現した,と言う.ヨーロッパはこうしたリベラルな福祉国家を築いたのだ,とJudtは聴衆に思い起こさせる.それはユートピア的な社会主義の未来に関するビジョンではなく,政治的安定を保ち,恐るべき過去の再現を防ぐための手段であった.

確かに,国家主義は1970年代半ばに多くのヨーロッパ諸国で見捨てられた.しかし,テロ,環境破壊,金融危機など,世界的な不安が強まる中で,ポスト国家主義も限界を示しつつある.効果的で正統性を持つ国家だけが,かつて家族やコミュニティーが提供していた多くの機能を継承する国家だけが,そうした予測できない変化から個人を守ってくれる.「現在のヨーロッパとは妥協の産物である.歴史の教訓と,繁栄がもたらす矛盾.予防的な社会的給付と,利潤の最大化.そうした妥協には,深刻な矛盾や欠陥がある.しかし,世界で今選択可能なモデルの中では,それがもっとも今世紀の問題に対してうまく対処するだろう.」 それがJudtの結論である.

火星のエコノミストはテレパシーで火星経済諮問会議に報告する.「先の報告にもあったように,アメリカは印象的です.しかしそのモデルはユニークで,移植することも,世界化することも無いでしょう.火星人はアメリカから,金星人はヨーロッパから来た,とよく言われますが,私たちの有権者でも,被雇用者の年金支払を反故にしながら,自分は莫大なボーナスを取るような企業ボスに噛み付くでしょう.また,私たちのレッド・ハウス(大統領府)が財政についてホワイト・ハウスをまねることもないでしょう.明日のランチを今日食べてしまうのでは,消化不良を起こしますから.」

「中国経済には驚きます.その成長率が続けば,2025717日に火星経済の規模を超えるでしょう.しかし,どのような数字も13億人で膨れ上がっています.13億で割ればむしろ小さいのです.それが普通の中国人の暮らしです.もし政治が経済より優先されるなら,私たちは再び驚くことになるでしょう.」

「面白いことに,私たち火星人と同じ問題をヨーロッパは考えています.どうやって国家の機能を回復し,国際(つまり惑星間)集団行動を強化するか,ということです.もちろん,ヨーロッパは政府支出の無駄を削り,労働市場を自由化し,高等教育を変革する必要があるでしょう.しかし,北欧経済が示すように,国家が公共財を供給することは経済に必要です.社会的正義は経済の潜在力を最大化し,競争力を強めます.」

「結局,私たちも金星人との合同調整会議に参加するべきでしょう.」


IHT FRIDAY, JUNE 9, 2006

Meanwhile: At the UN, how we envy the World Cup

Kofi A. Annan

LAT June 9, 2006

Tiny islands, big kicks

By Davan Maharaj

LAT June 9, 2006

The soccer Nazis' losing battle

By Tony Karon

WP Saturday, June 10, 2006; A19

Soccer With a Side of Slavery

By Katherine Chon and Derek Ellerman

Daily Times, Friday, June 09, 2006

VIEW: The geopolitics of football ? Pascal Boniface

The Japan Times: Thursday, June 15, 2006

Soccer, flags and nationalism

By HUGH CORTAZZI

(コメント) 国連に加盟する191カ国を超える207の加盟国を持つFIFAのワールド・カップをアナン事務総長は羨みます.サッカーについてならできるのであれば,こんなこともして欲しい.1.各国が一つの家族のように,人権尊重や子供の養育,社会的な教育活動を助け合って欲しい.2.互いのことを良く知り,互いのことを話し合い,もっと共通の基準で評価して欲しい.人間開発指標や,温暖化ガスの排出量,HIV感染率,など.3.各国がもっと自由で公平な条件の競争を認め合って欲しい.関税や補助金は減らして欲しい.4.より良い生活を求めて移住する人々に国境を開いて欲しい.

サッカー・ゲームと同じように,各国は国民の統合と再生を願いつつも,人間性において恥じないよう,誇りを持って行動して欲しい.

小国の復活を祝い,歴史的な憎悪や記憶を再生し,ネオナチや移民排斥の活動家を集め,・・・しかし,選手たちには優れた才能と国際主義が広まっているようです.

サッカー・ファンは酒と乱闘にしばしば及びます.しかし,それ以上に恥ずべきことに,女性を家畜のように運び,閉じ込めて,集団で売春に興じています.ワールド・カップの「需要」を見込んで,既に4万人の女性や子供がドイツに人身売買されてきた,と推定されています.売春を煽る宣言に反して,女性や子供たちの多くが強姦や暴行を受けています.売春する女性や子供を犯罪しゃにするのではなく,売春を強要し,人身売買して監禁・輸送する者たち,買春する者たちを犯罪者にすることで,スウェーデンは大きな成果を挙げているようです.

サッカーは,本当に,軍国主義やナショナリズムをもたらすのか? もちろん,日本と韓国や中国の試合がファンをいつも以上に興奮させるのは,サッカーがナショナリズムを煽るからではなく,ナショナリズムが強まっているときにサッカーがあったからです.サッカーが外交関係に影響しない諸国も多いわけです.しかしまた,戦争の準備や国威高揚のために,国際試合を利用する政治家も多いわけです.日本が周辺諸国と戦争を繰り返していたら,今日のように繁栄していたとはとても思えません.


The Japan Times: Saturday, June 10, 2006

China's buildup is no wonder

By TOM PLATE

IHT THURSDAY, JUNE 15, 2006

Tokyo's next task? Reaching out

Michael Auslin

(コメント) 米中関係が軍事的な衝突にいたる場合もあるのでしょうか? ラムズフェルドは,中国の軍備拡張を懸念し,アメリカによる軍事的対抗を模索します.アジアが,アメリカと中国によって二極化された同盟関係に色分けされるのでしょうか? シンガポールの首相はそのような事態を懸念します.特に台湾海峡が気になりますが,中国は香港型の一国二制度で統合しようと考えているでしょう.むしろ,中国はアメリカの軍事的拡大,例外主義を懸念しています.

景気回復を遂げつつある日本にとって,次の課題はアジア諸国との協調を強め,地域協力の制度を築くことです.しかし,非政府の協力関係が発達しているにもかかわらず,日本政府はその流れをつかんでいません.


WP Saturday, June 10, 2006; A19

A Lesson in How Not to Leave

By Emily Messner and J. J. Messner

FT June 11 2006

East Timor’s blunders brutally laid bare

By Shawn Donnan

(コメント) インドネシア軍の支配から,国連が住民投票を組織し,独立を承認・支援した東チモールが,なぜ再び警察と軍隊に分かれて対峙し,内戦に向かいつつあるのでしょうか? 国連軍は武装勢力の対立を抑えましたが,(イラクとは逆に)それを余りにも早く撤収し,秩序の回復に失敗した,と批判されています.既に昨年の首都のディリには,武器を手放しただけで仕事が無い失業者たちが広まっていました.

国連軍が地域の雇用を維持するために駐留しているわけではないとしても,その撤退が失業者をさらに増やしたことは確実です.早期の撤退に慎重な意見や,それに反対する東チモール大統領の声を無視して,安保理は「安価」に維持できる国連軍に執着しました.

現地政府の役割と責任は急速に肥大化し,内戦によって失われた民間部門に比べて,政府は雇用を求める人々の声に直面しました.もちろん,政府にはインフラ整備など,多くのなすべきことがあったのです.彼らを吸収して,新国家の政治的な安定性に利益を見出すように雇用することが重要でした.清潔で,効率的な公的部門を確立することが,新国家の最低条件です.しかし,不人気な首相は兵士たちを解雇して,叛乱を招きました.

Shawn Donnanは,ウォルフォヴィッツ世銀総裁がわずか2ヶ月前にディリを訪問して,その成果を賞賛したことを指摘します.ノーベル平和賞を受賞した東チモールの現防衛・外務大臣Jose Ramos-Hortaなどにインタビューしながら,新しく独立した国家を確立して機能させるだけの,一貫した長期的見通しと財政支援が国際社会に無い,ということを描いています.

独立過程で,インドネシア軍はインフラを破壊してしまい,20万人が難民となりました.平和維持軍は余りにも早く,小規模になり,新政府は警察を整備できませんでした.国際機関も援助供与国も,異なった方針で東チモール政府に関与し,再建するよりも混乱を深めました.内外から民間投資が回復し,援助が枯渇するまでに,雇用水準を維持する8%の成長が実現できなければ,ここにもまた新しい破綻国家が誕生することになります.


FT June 11 2006

A moment of truth for the United Nations

By Kofi Annan

FT June 11 2006

Annan hits at US use of ‘the power of the purse’ at UN

By Mark Turner at the United Nations

The Guardian Monday June 12, 2006

It's America's U.N. too

Anne-Marie Slaughter

WP Monday, June 12, 2006; A21

At the U.N., Bluster Backfires

By Sebastian Mallaby

FT June 15 2006

The UN serves US interests

By Philip Stephens

(コメント) アメリカのボルトン国連大使が,国連改革に関するアメリカ政府の消極姿勢を批判したMark Malloch Brown事務総長代理を激しく非難しました.事務総長代理の発言はG77の気持ちを代弁してくれた,と南アフリカの国連大使は支持しました.

アメリカは国連の財源を止めてしまい,財政危機を作り出して,アメリカが認めるような改革を実現するように求めています(ロシアとウクライナのようですが).こうしたアメリカのやり方は発展途上諸国の反発を強めました.財政の危機ではなく,政治の危機です.改革の多くは発展途上諸国に関わる問題であるのに,また,基本的な合意は可能であると思えるのに,安保理をめぐる大国の権力争いで紛糾していることに,発展途上諸国は疎外感を深めます.

テロ対策であれ,伝染病予防であれ,公共政策はますます世界的な規模で求められて行きます.国連の機関を機能するように改革することは,すべての国の利益です.開発,集団的安全保障,人権,そして制度改革を行うことが,国連活動の基本です.安全保障理事会だけでなく,人権理事会を開設し,災害緊急支援基金を設けるなど,そのような改革は進められています.

アナン事務総長はアメリカの主張を批判しましたが,Mark Turnerは,貧しい諸国が国連予算を増やすために,さまざまなレトリックで豊かな国から財源を引き出そうとすることも止めるべきだ,と主張します.実際,アナンの態度に,ボルトンはさらに厳しく反発しました.国連の最も重要な加盟国にそのような発言をしても良いかどうか,まじめに考えろ.国連が何をするかは加盟国が決める.加盟国は国連の農奴ではない,と.

ブッシュ政権が指名した強硬派のボルトン国連大使が,この問題を煽っていると思います.アメリカと国連は多くの問題で戦後の秩序を協力して維持してきたし,互いを助けてきました.事務総長代理の発言は,アメリカ政府でなく,アメリカ国民を非難したものだ,というボルトンの政治的レトリックは最悪です.

Sebastian Mallabyも,過激な発言が間違いによって反発を強めてしまうことを,ブッシュ大統領はようやく認めたが,国連ではボルトンがまるで学ぶ気配も無いのはどうしてだ? と,いぶかります.ボルトンは国連において,アメリカをますます孤立させるために暴言を吐き続けています.「傲慢」「威嚇的」「外交官がそうであってはならない悪い見本である」と,George Voinovich上院議員も考えます.その失敗の例を数え上げて,ボルトン更迭を今すぐに求めます.

Philip Stephensは,逆に,ボルトンの憤慨の背景としてブッシュ政権の孤独感を見ます.ブッシュ政権は国際機関から距離をおくユニラテラリズムを今も変えていません.Brown事務総長代理の発言は,反米主義への譲歩と見えたわけです.ブッシュ政権が利他主義で動くはずは無いのです.しかし,ブッシュ氏も理解するように,ルーズベルトもトルーマンも,国連を支持したのはアメリカの利益に役立ったからです.


NYT June 12, 2006

A Fence for Good Neighbors

By STEPHEN HANDELMAN

(コメント) カナダのリベラルな移民政策がアメリカにテロリストを送り込んでいる,と言われて,カナダ人は激怒したようです.しかし,カナダ国内でテロ集団が摘発された今,共通の国境管理体制と情報提供が求められています.ヨーロッパのシェンゲン協定と同じように,移民やテロリストに関する共通の壁を築くべきだ,と主張します.


June 12 (Bloomberg)

Asia Can't Wait for Bernanke's Rate Moves

William Pesek Jr.

The Sydney Morning Herald, 13 June 2006

It’s Been Too Good for Too Long

Peter Hartcher

FT June 14 2006

A timely caution on uneasy uncertainties

NYT June 14, 2006

The Mark of the Bust

By MARTIN MAYER

WP Wednesday, June 14, 2006; A23

Global Capital On the Run

By Robert J. Samuelson

FT June 15 2006

Were the dollar really to collapse...

By Samuel Brittan

(コメント) 韓国,インドでも金利が引き上げられました.アジアの金融緩和は終わったのです.インフレは確かに再現しつつあります.しかし,アジア諸国の経済は金融引き締めに耐えられるだろうか? とWilliam Pesek Jr.は問います.バーナンキの金利引上げ,日銀の金融緩和終結と円キャリー・トレードの逆転.アジア諸国は過去のバブル崩壊に学んで,協調的な金融引き締めに向かうでしょう.

どこよりも,アメリカの過激な金融緩和策も急速に修正されつつあります.しかしその過程は,リスクや不確実性という言葉が飛び交い,市場の反応次第であり,曖昧な神経戦です.経済政策のタイミングや効果は正確には分からない,と中央銀行家たちも認めています.楽観も破滅論も振り回すことなく,リスクを計算しながら適当な金利水準の近くで模索します.

MARTIN MAYERは,アメリカの対外債務に注意します.彼が注目するのは,毎週,発表されるFRBの統計値,外国の公的国際勘定に保有されるアメリカ政府証券,です.先週の数値は,16300億ドルでした.それは3年前のイラク戦争直前の週に,9000億ドルでした.ブッシュ政権が成立した週は,6930億ドルでした.無限に増えるものではありません.

アメリカに輸出する国は,その黒字をこのようにドルとして保有するか,あるいは国内通貨に換えます.それは消費や投資を刺激し,アメリカからの輸入を増やすでしょう.バーナンキは,グリーンスパン同様に,アメリカの対外赤字は貿易相手国で投資機会に比べて貯蓄が過剰であることを意味する,と答えます.この数値をMAYERは,これが急激に減ることより,急速に増大すること(それは,インフレやバブルをもたらす)を心配します.外国の公的部門は,自らドル安を招くような行動を抑制しており,むしろアメリカは公的資産の信託行為に励むわけです.

他方,Robert J. Samuelsonは,世界資本市場と資本移動の現状を示します.アメリカは8560億ドルの海外投資を行っており,他方,1兆4400億ドルのアメリカ国内向け投資が行われています.日本の証券市場に行われた投資額は4140億ドル,外国投資家による日本への投資額は2130億ドルに達します.1980年代のフランスによる資本規制撤廃が起源である,と考えます.こうして急速に発達した世界資本市場では,理論が指摘すうような利益をもたらすだけでなく,貿易不均衡や通貨危機のリスクも拡大しました.

BISは世界の株価暴落を警戒し,ECBはドル暴落に注目します.しかし,Samuel Brittanはドル暴落を否定します.アジアの諸国は,自国通貨が暴騰するのを分かれば,ドルを売らないから.アメリカの住宅価格が急落してもFRBは金融緩和で対応するでしょう.債券価格が下落するでしょうが,アメリカの景気は回復します.EU経済が好調でないとき,ドル以外に巨額の投資を受け入れる通貨がないから,ドル暴落もないのです.


FT June 12 2006

The little guy is calling the shots

By Moises Naim

(コメント) 国際システムは一極集中になるか,それとも多極化するか? Moises Naimは,どちらも間違っている,と考えます.世界は「ハイパー・ポーラー・ワールド」,すなわち,多くの巨大なパワーが各地にあるとともに,常に新しい小さな極が並存する世界に向かっている,と.

シェルのような多国籍企業もボリビアのような小国の政策変更(国有化)に抵抗できない.アメリカ軍もイラクの民兵組織を抑えられない.エンサイクロペディア・ブリタニカが新興のウィキペディアに圧倒され,ニュー・ヨーク・タイムズがグーグルのニュースに脅かされる.巨大企業のCEOsもますます回転が速くなっている.主要国の政治家は僅差の勝利に苦しみ,ますます短命で,新しい政治組織にも敗北する.中央銀行はヘッジファンドと金融市場の権力を分け合う.ローマ法王でさえ新興宗教に信者を奪われている.・・・

権力は分散し,ますます浮動的で,分派的な存在になるだろう,と.


June 13 (Bloomberg)

China, India Set to Rediscover Silk Route Ties

Andy Mukherjee

Asia Times Online, Jun 14, 2006

Asian Highway network gathers speed

By Raja M

The Guardian Thursday June 15, 2006

This is the relationship that will define global politics

Martin Jacques in Beijing

Asia Times Online, Jun 16, 2006

China and Russia embrace the Shanghai spirit

By M K Bhadrakumar

(コメント) シルク・ロードが復活し,アジア・ハイウェイが建設され,上海協力機構(SCO)が組織されています.北東アジアの成長が次第に,西へ,南へ,拡大するのは当然です.ただし,それが政治的な調整も円滑に進めるかどうか?

中国とインドは,その繰り返された境界線をめぐる軍事衝突を克服して,互いの経済発展と辺境地域の安定化に協力し始めました.世界が中国とインドとの競争を空想している内に,新しい経済圏と成長のフロンティアは移動しています.

アジア・ハイウェイは,総延長141204キロ.ベトナム,ラオス,タイ,ミャンマーをつなぐ,総工費14477万ドルの部分が完成し,その一部をアジア開発銀行が融資しています.全体計画は32カ国を結び,アジアがヨーロッパとつながります.総工費は440億ドル.アジアの港,空港,観光地が結びつき,貿易と観光で地域経済を活性化することが目的です.それは,EUに匹敵するアジア共同体の夢を抱かせます.そして,もしアジア・ハイウェイが,各地の人々に,政治的安定とインフラ投資のための金融秩序を尊重すれば繁栄が得られる,と支持されるなら,夢は現実に近づくのです.

SCOの背景には,中国のアメリカ衰退論があります.アメリカは,当面,世界の覇権国にとどまるが,長期的な衰退は避けられない.その際,地域の不安定化は,たとえば中央アジアのイスラム原理主義により中国の辺境地域にも及ぶだろう.中国にとってSCOは,アメリカ後の覇権体制を平和的に準備するものです.

他方,ロシアは,アメリカ中心のグローバリゼーションにおいて,自国の利益が脅かされている,と感じています.ロシアの国益に照らしてアメリカと対抗するために,SCOが利用できる,と考えたわけです.中国はこの点について何の幻想も持っていません.「協力はするが,同盟ではない.」

SCOは各地の民主化を弾圧するために動かなかったし,アメリカが中央アジアに軍事基地を設けることとも並行して維持されました.SCOはポスト・ソビエト時代,ポスト9・11の地域安全保障として,各政府の柔軟な政治手段となっています.ロシアは外交における対抗戦略を重視し,中国は内政における地域問題を重視しています.

それは各地の政治体制や権力者に内政の安定化や干渉の排除を訴える後ろ盾となり,また,中国とロシアの協力関係を世界に重視させる道具立てとなっています.


FT June 13 2006

US foreign policy needs ‘liberal realism’

By Martin Wolf

(コメント) 同じ世界を,Martin Wolfはどう見るでしょうか? アメリカは「テロとの戦争」という定義に失敗し,勝利を見失いました.アメリカは「民主化」を他国の「体制転換」にまで拡大し,「利益をもたらす覇権者」を自称して,逆に,強い反感を呼びました.そして,アメリカはイラクに対する過剰な軍事介入と占領計画の失敗から,世界の社会工学的改造計画から手を引くでしょう.

アメリカ抜きの世界がアナーキーに回帰することも,アメリカ帝国の再建も望まないなら,アメリカと各国(特にヨーロッパ)が世界的な制度に参加し,それを強化することです.Wolfはそれを「リベラルなリアリズム」と呼びます.


WP Tuesday, June 13, 2006; A21

In Search Of a New New Deal

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) 民主党のスローガンは,いつも,「仕事をくれ,仕事をくれ,仕事をくれ!」です.しかし,安定した高賃金をもたらす職場を作り出す術を知っているのか?

これは保守派も同じことです.減税すればするほど投資が増える,と彼らは訴えます.しかし,投資のますます多くが海外に雇用を生み出すばかりで,国内では所得格差と失業が累積することを知っているのか?

全米自動車労組のRon Gettelfinger会長は,全国大会に向けて報告書を出しました.われわれは構造的問題に直面しており,長期的な解決策を求めている,と.自由市場派の政治家たちは,クリントン大統領のように,教育と職業訓練に投資することで,自動車のような旧産業から情報・通信のような新産業に雇用を移すことができる,と訴えました.しかし,たとえハイテク部門でも,インドや中国との競争は激しく,雇用を確保することは難しいのです.

アラン・ブラインダーは,保護主義を支持することはないとしても,雇用流出の危険がどれほど大きいかに一層の真剣な取り組みを求めています.


WP Wednesday, June 14, 2006; A23

Rethinking Nuclear Safeguards

By Mohamed ElBaradei

The Wall Street Journal, 14 June 2006

US Approach to Iran Has a Familiar Ring

Jay Solomon

(コメント) 核兵器を管理し,それを廃絶することが国際システムの重要な目標であることは疑う余地がありません.ノーベル平和賞を受賞したIAEAのエルバラダイ事務局長が強調したのは,固定観念を配して,リアリズムを失わず,常に新しい解決策を模索することです.

各国が個別の安全保障を追及する限り,軍備拡張は終わらず,核武装を求めます.核燃料サイクルを一括して国際管理しなければ,平和利用と軍事利用とを区別できません.そして,NPTに従っていないインド,パキスタン,イスラエルを参加させなければ,それらの目標は達成できません.エルバラダイは,アメリカとインドが情報を交換する協定を結ぶことも,こうした目標に照らして現実的に考える余地がある,と支持します.

アメリカはイランとも核開発放棄の高く交渉に参加する方向に転換しました.しかしそれは北朝鮮との交渉を繰り返すことにならないか,Jay Solomonは懸念します.北朝鮮は時間を引き延ばして,核兵器を完成させました.そして,大陸間弾道弾の実験が迫っています.


FT June 15 2006

Group of Eight limps towards St Petersburg

By William Richard Smyser

(コメント) ペテルスブルク・サミットは,従来の政治課題や経済政策協調を話し合ったサミットに比べて,ほとんど何もできないでしょう.しかし,新しい国際協調体制に向けた制度改革を話し合うことが最大の課題です.すなわち,まず,中国をインドを加えて,G10を準備することです.そして,政治的な立場の違いを超えて,世界経済が円滑に機能するように保証する,という本来の目的に集中するべきだ,と.


The Japan Times: Thursday, June 15, 2006

Japan bashing then, China bashing now

By RONALD McKINNON

(コメント) 従来から,R.マッキノンは,アジアにおけるドル本位制と,日本の失敗を繰り返すな,と主張しています.30年前,アメリカは日本の黒字累積を叩き,80年代には円高を強要して,ついにバブルが崩壊し,日本では激しいデフレを引き起こし,同時に,アメリカ経済の再建と「強いドル」政策に戻りました.

アメリカの貿易赤字はドル高やアジア通貨安のせいではなく,アメリカの財政赤字と貯蓄不足に対応している,と言います.IMFなどが求めるように,アメリカのような支配的市場に対して通貨を切り上げ,変動制導入,資本移動を自由化しても,不均衡を「解決」するより不況を招く,とマッキノンは主張します.

急速に成長する新興市場では,金融システムが未成熟なため,為替レートや貨幣供給が変動しやすい.国内のマクロ政策を独立させるには為替レートを弾力的にするべきだ,というIMFの指導を,疑わしいどころではない,とマッキノンは否定します.

インフレとデフレの間をジェット・コースターのように振れた後,中国はドルに固定することで為替レートと金利を安定させ,輸出と成長を実現しました.それゆえ1997-98年のアジア通貨危機の際にも,中国は国内のマクロ政策を従わせて,切下げを回避しました.今,WTOに従い,経済の開放度を高めつつ,金利を自由化しようとしています.

人民元が増価するということは,それだけドルの金利が高くなければなりません.しかし,ドルの金利が世界市場で決まるため,むしろ中国の金利が下がるでしょう.中国の厖大な外貨準備が貨幣を供給し,金利をゼロに向かって低下させてしまいます.他方,人民元を変動させて,増価を許しても問題は解決しない,とマッキノンは考えます.日本と同様に,黒字は減らず,増価だけが続くのです.これ以上金利が下がらないほどの増価は,成長モデルを破壊します.

要するに,中国は人民元を増価した水準で再び(何らかの信頼を得た形で)固定するか,もしそれができないなら,資本自由化を延期するべきである,と.

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The Economist, June 3rd 2006

Australia and its neighbours: Policing the Pacific

China: Atomised

Timor-Leste: Problem child

(コメント) 東チモールや南太平洋の島々に政治混乱と内戦が起きれば,国連は地域の民主的な大国に秩序の維持と民主的な手続きで政府を再建するように要請するはずです.つまり,それは日本や中国,インドであるべきですが,人口2000万人のオーストラリアが軍隊を派遣しています.アジアにもNATOやEUのような地域安全保障の仕組みが整備され,各国が協力して地域の不安定化を回避するべきです.日中関係の悪化はそれを阻んでいます.

中国は,一方で市場化が進み,他方で地方政府の引き締めが難しい中で,金融引き締めや補助金の削減ができるのか,とThe Economistは疑問を示しています.もし共産党が政治改革を行えないなら,腐敗と経済混乱が中国の成長を止めるのです.


The Economist, June 3rd 2006

Charlemagne: Talking of immigrants

アメリカとヨーロッパでは,移民に関する論争が異なっています.テッド・ケネディとジョン・マッケインがアメリカで主張しているような,移民政策を支持する政治同盟はEU内に存在しません.アメリカでは非合法移民を問題にしますが,EUではすべての移民を問題にし,規制の仕方だけを争っています.The Economistは,社会福祉の違いに注目します.アメリカでは多くの労働者に社会福祉がかけており,合法移民に市場を開放することを優先します.他方,EUでは労働者への社会福祉を損なわないように,移民を排除しようとするのです(そして,既に内部にいる移民には社会福祉を与えて統合を求めます).

さらに,移民が既存の社会・政治システムに受け入れられる程度が異なっています.移民を排除するように求める人種差別はどこにもありますが,アメリカではそれに反対する者が政治的な発言と影響力を確保しています.フランスの36000地方自治体において,移民から首長に選ばれたケースはほとんどないし,議会には一人の議員も出していません.他方,アメリカには2ダースのラテンアメリカ系議員がいます.EUは労働力を必要としており,移民労働者の地下経済が広がっています.アメリカが経験したような人権運動が必要だ,と.