IPEの果樹園2006
今週のReview
6/12-6/17
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :ワールド・カップ
通貨・金融 :ポールソン新財務長官,インサイダー取引
世界統治 :モンテネグロ独立,移民は必要か1,必要だ2,中国
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT June 1 2006
India's lower castes
June 1 (Bloomberg)
India Badly Needs Jobs; Companies Hire Robots
Andy Mukherjee
(コメント) インド社会の発展や豊かさを妨げている最大の要因は,カースト制度でしょう.それゆえFTは,インド政府が社会の下層階級に大学の入学定員の一定割合を保証する政策を打ち出したことを賞賛します.しかし,実際には機能せず,むしろインドの優秀な大学教育を損なってしまうだろう,と批判します.
たとえ,より過激な計画や政敵との駆け引きがあるにせよ,それは教育の質を低下させ,官僚による介入を強めるだけで,文字を読めない,基本的な医療も受けていないインドの農村やスラムの住民たちにとって何の役にも立たない,と.
また,モルガン・スタンレーのStephen Roachが,「労働者よりもロボットに対して余りに多くの職場を作り出す」インドの工場を見て驚いた,とAndy Mukherjeeは伝えます.インドが2010年までに完全雇用を実現するには,1億5000万人の労働者に雇用を与えなければなりません.それはフランスとドイツの人口を足したものに等しいのです.
Chetan Ahya, Stephen Roach and Andy Xie, “India and China: New Tigers of Asia.” によれば,インド人の労働力人口の20%,約8000万人が事実上の失業者です.1994年から2000年までの統計によれば,インドのGDPが1%増大すると雇用は0.16%増加しました.1980年代と90年代の前半には,0.52%増加していました.
中国と比べて,インドは企業に多くの課税を行い,間接費用が高いために,低賃金労働者の雇用を重視しないのです.また,財政赤字を減らすために社会資本の整備も大きく遅れています.関税や輸送費の面でも,厳格な労働規制の面でも,雇用をもたらす企業は,インドより中国に投資するでしょう.
LAT June 1, 2006
European trivia quiz: How many little nations does Europe really need?
By Timothy Garton Ash
ヨーロッパにはいくつの国家があるか?
まあ,それはヨーロッパの意味にもよる.EU加盟国の数は25である.OSCE(全欧安保協力機構)の「参加国」は55だ.Andorra, the Holy See, Liechtenstein, Monaco and San Marinoは,EU域内にあるが加盟していない.
欧州委員会は8億人のヨーロッパを代表すると主張して,46加盟国と書いている.ヨーロッパ歌謡大賞はTurkey, Armenia, Moldova and Israelの歌を含めているし,ミス・ヨーロッパ(美人コンテスト)はTurkey, Israel and Lebanonの代表を含む.
どれにせよ,ヨーロッパは他のいかなる大陸よりも人口当たりで多くの国を抱えている.中国は一つの国に13億人が住む.他方,ヨーロッパはせいぜい8億人に対して45ないし55の国がある.しかも今週,また一つ増えた.ようこそ,次はミス・モンテネグロです!
47万4720人の選挙登録者のうち86%が投票し,55.53%が独立を支持して,EUの圧力によりモンテネグロが採用した法律の条件は満たされた.
あなたは疑問を感じるだろう.フランスの国民投票でわずか51%を得て成立したマーストリヒト条約が,モンテネグロに55%で独立する,という条件を決めたことは正しいのか? しかし,最終的には,この条件がプラスの効果をもたらした.独立に反対したセルビア人たちは,この条件なら独立を阻止できると考えて,選挙に参加したからだ.もはやセルビアもこの選挙結果に疑いを挟むことはできない.
モンテネグロ議会は独立要求を承認し,セルビアと円滑に分離するための細部の交渉を始めねばならない.こうして1978年から1918年まで存在した国家が,再びヨーロッパに現れる野は確実だ.
モンテネグロは武装闘争によってオスマン帝国から独立したが,それは冒険小説風のルリタニア王国について語るオペラ "The Merry Widow" の元になった.モンテネグロは,第一次大戦後,西側連合諸国の支援で滅ぼされ,ユーゴスラビアに吸収された.
それが再生したことは,何よりも,ポスト共産主義のミロシェビッチが擁立した,大セルビア国家を唱えたナショナリストたちの計画が無残な失敗に終わったことを意味している.そして,確実にモンテネグロの後に続くであろうコソボ独立により,セルビアは海から切り離された国家となり,ヨーロッパ史の敗者になる.
しかし,EUが課した高いハードルをモンテネグロが乗り越えたことは,旧ユーゴスラビアの住民たちが明らかに分離を望んでいるとしても,彼らに統一を維持するべきだと要請してきた西欧のアプローチが破綻したことも意味している.その地域の人々は,セルビアとモンテネグロを合わせた架空の同盟を「ソラニア」と呼んだ.その計画を作ったヨーロッパ外交政策委員会委員長のソラナを皮肉った名称である.ソラナは,モンテネグロが独立を遂げることで,コソボのアルバニア人とボスニアのセルビア人が同様に独立を求め,EUが維持するために腐心してきた脆弱な平和を崩壊させるのではないか,と恐れていた.
その不安は理解できるが,彼のアプローチは間違いだった.もし人々が真剣に独立を望むなら,そして,もしそれが生存可能なフロンティアの中にあれば,彼らは独立を許されるべきである.重要なことは,それが平和に,法に従い,民主的な手段によって達成されることである.
確かに,小国家のつぎはぎ細工は無意味に見える.(かつては,Serbo-Croatと呼ばれる言語が一つあるだけだった.今では異なる4つの言語が存在する.セルビア語,クロアチア語,ボスニア語,モンテネグロ語.)
余りにも多くの小国家を持つことはEUが多様性を維持するための取引コストを増大させる.しかし,機能しない多民族国家の中では,多様性のコストはさらに高い.主権と憲法上の地位に関する問題が解決できないまま,この5年間,セルビア,モンテネグロ,コソボの経済・社会改革は進まなかった.ゴルディアスの結び目を断つときだ.いまや,モンテネグロとセルビアの市民たちは,繁栄と民主主義,法の支配を目指す道を自分で進む必要がある,と知るだろう.
ソラニアは滅んだが,ルリタニアの世界に帰るわけではない.
FT June 2 2006
Hank Paulson: Titan in the Treasury
By Ben White
(コメント) 1973年,ニクソン政権の頃,当時26歳のホワイト・ハウス補佐官であったPaulsonが書いたメモは彼の性格を代表している,とBen Whiteは書きます.ぶっきらぼうで,冷笑的,そして攻撃的です.ポールソンは財務省の税制改革案を批判しました.それは「ブルー・カラー労働者に魅力的で,・・・税制改革に関する大統領の考えに整合し,しかも財政的に責任ある」政策パッケージによって置き換えるべきだ,というメモです.
しかし,それだけでは彼を過小評価することになる,とも述べます.ハンク・ポールソンは政治的な繊細さを持ち,減税への強い志向と,中西部にルーツを持つ,均衡財政への強い欲求を兼ね備えている,と.
ゴールドマンサックスのCEOとして,ポールソンは7時半頃に出社する.考えているときは一言も話さない.クリスチャン・サイエンティストとして飛行機の中でも祈り,朝8時前でも会議を開く.酒もタバコも嫌い,ナチュラリストとしてフィッシングを好む.誰よりも大きなカジキマグロを釣り上げるまで,仲間に釣りをやめさせない.あるいは,ガイドを代えて,夕食を抜いても釣りに出る.・・・その他,ホワイト・ハウスとゴールドマンサックスの広報による個人的な逸話,FTによる投資銀行の情報が並びます.
NYT June 2, 2006
Secretary, Protect Yourself
By PAUL KRUGMAN
June 5 (Bloomberg)
Why We Should Be Glad Henry Paulson Said Yes
Kevin Hassett
FT June 6 2006
A deep divide in America’s global outlook
By Chrystia Freeland
June 9 (Bloomberg)
A Memo to Henry Paulson Jr. Regarding China
William Pesek Jr.
(コメント) PAUL KRUGMANはポールソンに警告します.ブッシュ政権がどれほど甘言を尽くしたかもしれないが,彼らの約束など信用してはいけない.前任者たちを見ることだ.ポール・オニール,デイビッド・リンゼーが,どれほど高い能力と忠誠心を示しても,政府の人気を落とすようなことを言えば,すぐに首を切った.彼らは,その幻を説明してくれる大物を必要としているに過ぎないのだ.そして嘘で固めて,問題には触れようとしない.彼らに利用されたら,あなたの信用は失われ,役に立たないと思えば,簡単に捨てられる.
どうすれば財政赤字は減らせるか? どうすれば株価やドルは暴落しないか? どうやって社会保障制度と税制を改革するか? こうした問題に共通するのは,中国とアジアの影です.
The Guardian Friday June 2, 2006
Beijing to Baghdad: is it time to move on?
John Gittings
(コメント) ブレアとブッシュがイラク戦争を正当化するために情報を操作したことに比べて,中国政府が天安門事件を隠蔽し,公式な謝罪も報告もしないことを比較しています.
LAT June 2, 2006
Will civil war bring lasting peace to Iraq?
By Edward N. Luttwak
(コメント) 内戦には理由があります.たとえアメリカ軍が駐留していても,それを止めることはできません.イギリス,スイス,アメリカも内戦を経験しました.そして停戦が合意されたのです.アメリカ軍はイラクに外国から侵入する勢力があれば,それを防ぐ義務はあります.しかし,内戦は自分たちの地域を確定することにより停戦に合意するのであるから,内戦それ自体を止めることはやめるべきだ,と.
NYT June 2, 2006
Global Stock Trading
(コメント) 株式のトレーダーたちがウォール街のスズカケノキの下に集まって取引を始めてから2世紀が経ちました.今では取引は国境に制約されず,電子的に行われます.そこではますます多くの新しい金融手段が取引されています.
アメリカとヨーロッパの株式市場が統合して,ついに世界株式市場が形成されるのでしょうか? NYSEグループがEuronextの買収で合意しました.金融監督局と株主が認めるなら,世界株式市場(少なくとも大西洋横断市場)が誕生します.上場される企業の総評価額は27兆ドルです.
The Guardian Saturday June 3, 2006
The worst thing about this World Cup is it's in Germany
Martin Kettle
The Guardian Saturday June 3, 2006
Whitewash in Oldham
Sadek Hamid
(コメント) ワールド・カップが国別に戦い,それがドイツで開催されることは,過去を思い出す人にとって楽しめない理由です.ナチの歴史も,現在のドイツに対する姿勢も,イギリス人とイギリスの政治家は真剣に考えます.
イギリスにおける旧工業地帯で,アジア系移民の隔離と暴動が問題になったOldham, Burnley and Bradfordの中で,オルダムは調査レポートを出しました.コミュニティーの結束は回復している,と肯定的な評価を示すけれども,その分析は余りにも短く,改善の速度は余りに遅いのではないか? と記事は疑います.何の不思議も無い.住宅,教育,雇用において,今も差別は続いているからだ,と.
NYT June 3, 2006
By BARRY R. CHISWICK
IHT TUESDAY, JUNE 6, 2006
UN report: Migration is not a one-way street
Peter Sutherland
(コメント) BARRY R. CHISWICKは,移民労働者がいなくなれば低賃金労働者が不足してアメリカ経済は止まってしまう,という懸念を打ち消します.誰が畑のレタスを集め,誰がホテルのベッドのシーツを換え,誰がレストランの食器を洗い,誰が芝生を刈ってくれるのか?
しかし,移民の存在はしばしば誇張されています.移民たちは特定の州の,特定の地域に集中しています.すなわち,カリフォルニア,フロリダ,イリノイ,ニュージャージー,ニューヨーク,テキサス,の6州に,しかも都市部に集中します.では,移民の少ない地域では誰が彼らの代わりに芝を刈るのか? もちろん,アメリカの低賃金労働者です.アメリカの未熟練労働者の大部分はアメリカ生まれです.
CHISWICKは,移民増加によって起きている問題を指摘します.それは低賃金労働者がますます貧しくなり,富裕層がますます豊かになる,アメリカの不平等化が進むことです.未熟練労働者の作る商品は相対的に安価になるからです.「要するに,未熟練労働者の流入が続くことは,経済的,道義的に見て,逆心的な課税に等しい.」
アメリカの労働者は勤勉で,アメリカ経済は非常に弾力的であるから,移民が減っても問題は起きない,と主張します.
他方,BP会長で,国連のアナン事務総長の任命した「国際移民と開発」特別代表であるPeter Sutherlandは,移民に対する積極的な意義を政府が認め,それを生かす包括的な政策を実施するように訴えます.移民にはマイナスの面もあるが,それでも社会が進歩する過程で移民たちが切り開いた歴史を思い出すべきです.すべてに困難に正しい答えを用意できなくても,どうすればうまく行くか,多くの知識と情報を私たちは集めて移民たちを助けるべきである,と.
The Wall Street Journal, 8 June 2006
Kofi A. Annan
国家の境界が作られてからも,人々はそれを乗り越え続けてきた.単に外国を訪れるだけでなく,そこで働き,暮らすために.そうする中で,彼らはリスクを負い,逆境を克服し,より良い暮らしを模索したのだ.彼らの向上心は常に進歩の原動力であった.歴史的に,移住が個々の移民の生活を改善しただけでなく,人類全体の改善をもたらした.
それは今でも正しい.明日,私が国連総会に示すレポートは,移民がうまく行われれば,移民たち自身にとってだけでなく,彼らを受け入れる国や,彼らの出た国にさえ,利益をもたらすことを説明している.どうしてそうなるのか? 受入国では,その国の労働者たちが就きたがらない重要な職場で移入民が働くからである.彼らは社会が依存している個人的サービスの多くを提供する.子供の世話をし,病人や老人の面倒を見て,収穫をもたらし,食事を用意し,住居やオフィスを掃除する.
移民たちは召使の仕事をするだけではない.1990年代に工業諸国で増加した25歳以上の移民の約半数は,高度な熟練労働者である.熟練であれ,未熟練であれ,彼らの多くは,24時間の宅配食であれ,グーグルであれ,新しいビジネスを起こす企業家である.また,芸術家や役者,著述家であり,彼らの新しいふるさとを創造性と文化の中心地にする.移民たちはまた財・サービスへの需要を増やし,国民の生産水準を高め,一般に,彼らが福祉や給付で得る以上に,多くの税金を国家に支払う.ヨーロッパのような地域では,人口が非常に少ししか増えないか,まったく増えないのだが,若い労働者たちが外国から来て年金の財源を補ってくれる.
その他のこともあわせて,移民を歓迎し,彼らが社会に統合されるのを助ける諸国は,経済的,社会的,文化的に見て,世界の最も活力ある国々である.
一方,移民の出身国は,移民たちが家族に送る送金によって利益を受ける.それは昨年2320億ドルにも達し,代わりになるという意味ではないが,発展途上諸国に向かった1670億ドルは政府援助の総額よりも多い.こうした送金を受け取る家族が利益を得るだけでなく,それを支出する財やサービスの供給に関わる人々にも利益をもたらす.その結果,所得が増加して,投資も刺激される.
家族の一部が海外で働く場合,自国で教育や医療に支出する額も増える.もし彼らが貧しいと,セネガルの古典的な映画が描くように,受け取った送金が銀行や融資組合,マイクロ・ファイナンスの利用に結びつくこともある.ますます多くの政府が,海外の市民たちは開発を助けるということを理解し,彼らとの結びつきを強めている.二重国籍を認め,海外における投票機会を増やし,彼らのための領事館サービスを拡大し,協力して彼らの故郷を開発する.政府は移民の利益を増幅しつつある.国によっては,移民協会が故郷のコミュニティーを改革する小規模プロジェクトを集団的な送金で支援している.
成功した移民たちはしばしば出身国に投資し,他の者を後に続くよう励ます.熟練を得て,技術や知識を伝達する.インドのソフトウェア産業は大部分が在外インド人,帰国した移民,内外の企業家たちを結ぶ強力なネットワークから生じた.ギリシャで働いた後,帰国したアルバニア人は新しい農業技術を持ち込み,収穫量を増加させた.など.
確かに,移民にはマイナスの面もある.皮肉なことに,その最悪の影響は移民を規制しようとする企てから生じている.不規則で,未登録の移民たちは,密入国の請負業者や人身売買組織,さまざまな搾取に陥りやすい.確かに,既に長く居住する者たちと移民たちとは相互に調整する際の軋轢を経験する.特に彼らの信仰や習慣,教育水準が異なっている場合に.そして確かに,たとえば南アフリカの医療労働者のように,貧しい諸国は彼らがもっとも必要としている熟練が,海外の高い賃金や優れた労働条件により自国から「漏出」することで,人々が苦しむことになる.
しかし,各国はこうした問題に対処する術を学びつつある.もし彼らが協力して取り組み,互いから学ぶならば,もっとうまく対処できる.それこそが,9月の国連総会で移民と開発に関する「高次の対話」を持つ目的である.いかなる国も,誰かに対して国境を管理したり,彼らを警戒したりするように求められることも期待されることもない.しかし,すべての国とすべての政府がその討論と意見交換から収穫を得られるだろう.だから私は,9月の対話が始まりであって,終わりではないと思う.
国家が存在する限り,移民も存在するだろう.そうでないことを願うかもしれないが,移民は現実の一部である.だから移民を阻止することが問題ではなく,それにより良く対処すること,すべての立場からそれを理解し,もっと協力することが問題だ.移民はゼロサム・ゲームでは決してないし,すべての者に利益をもたらすようにできるのである.
WP Sunday, June 4, 2006; B07
By Jim Hoagland
BG June 4, 2006
Seizing the day in Iran
By Maryam Elahi
WP Monday, June 5, 2006; A15
Iran's China Syndrome
By Jackson Diehl
(コメント) イラクとの交渉姿勢でも,ポールソンの財務長官指名でも,ブッシュ大統領はチェイニー副大統領と距離をおくようになった,とJim Hoaglandは考えます.もちろん,良い意味で.チェイニーはイランの現体制をあからさまに否定し,ドイツのメルケル首相が交渉に加わるよう求めても関心を示しませんでした.しかし,チェイニーとラムズフェルドが支配するペンタゴンは,解決策よりも問題の出所に変わりました.イラクに関しては,彼らが決定権を握ったまま,打開策を示せないままです.他方,イランが交渉を拒んで中東情勢やイラクへの介入を続ければ,チェイニーの意見が復活するでしょう.
Maryam Elahiは,ブッシュ政権がイランに交渉を促す手段を示します.イランは長期的に見て反体制派の亡命者たちによって民主化を実現する.そのためにアメリカは,1.交渉に軍事的な威嚇を用いない.それは強硬派を利するだけだ.2.人権活動家たちに同義的な支援を与えるが,資金援助はしない.資金はイラクの民主化運動を妨げる.3.そして,教育や文化面の興隆に最大限の力を注ぐ.4.イランとの外交関係を回復する.孤立させるのではなく,取り込むことが重要だ.大使館の開設を間違った宥和政策と捉えてはならない.それは自由と民主主義,軍備削減のための過程である.
Jackson Diehlが指摘するように,イランも,かつての(そして現在も)中国と同じように,アメリカと和解し,世界の大国として認められたい,と願っているようです.しかし,アメリカの傲慢や民主主義を非難し,イスラエルの消滅を公言する限り,アメリカとは和解できません.同時に,ニクソンが中国と交渉した過程は参考になる,とも述べます.ライス国務長官は,ニクソンの中国訪問より,米ソ対話にならって,問題を限定した多角的な交渉を利用したい,と考えます.
FT June 4 2006
Only basic reform can deliver legitimacy to the fund
By Jean Pisani-Ferry and Andre Sapir
FT June 8 2006
Making the IMF relevant for Asia
(コメント) Jean Pisani-Ferry and Andre Sapirは,国際的な不均衡解消のために,IMFが政策サーベイランスを強化し,為替レートの調整を促すことと,IMFの分担金=投票権を見直し,ガバナンスと正統性を改善することが,切り離せないと強調します.今回の調整過程にはアジア諸通貨の増価が必要であり,IMFCが積極的に関与するべきです.そのためには,アジア諸国がIMFで正当な発言力を得ていると納得していなければなりません.
EU25カ国,アメリカ,中国,日本,はそれぞれほぼ同じように,(購買力平価で)世界のGDPと貿易の約20%を占めています.ところが,EUはIMF理事会の24か国中7カ国を占め,しかも専務理事を常に出しています.そして,IMF分担金=投票権の30%を占めます.これに対して,アメリカは一人の理事,分担金の17%だけであり,中国と日本も一人ずつ,合わせても分担金の9%に過ぎません.
EUはそのバランスを変えたくないでしょう.しかし,時間を引き延ばしても,問題は解決しません. Pisani-Ferry and Sapirは,むしろIMF改革を指導して,新しい,真に影響力を高めたIMFで,指導的な地位を確保することを主張します.そのためには,EU内でユーロ・グループが統一した代表を出すべきです.
FTによれば,かつてKen Rogoffは述べたそうです.もし外貨準備が雨の日に備えるものであれば,アジア諸国はノアの洪水に備えているのだろう,と.
Anne Krueger第一副専務理事の見解など紹介しつつ,FTは三つの点を指摘しました.1.中国をどの程度受け入れるか,ではなく,今後,世界経済の変化を反映する理事会の構成と分担金の決定方法を明確に示すこと.2.IMFの専門職員は加盟国の構成に縛られること無く,独立に行動するべきであり,IMF専務理事と副専務理事をヨーロッパとアメリカから出すという慣習も終わりにすること.(3.)日本はいまだにアジア通貨基金を作ろうとしているが,その見込みはないし,IMF改革を妨げる口実にしてはならないこと.
LAT June 4, 2006
By Andres Martinez
LAT June 4, 2006
Can Zidane be king of France again?
By Sebastian Rotella
WP Sunday, June 4, 2006; B01
The Soccer Wars
By Daniel W. Drezner
June 8 (Bloomberg)
Soccer World Cup Won't Revive Germany's Economy
Matthew Lynn
(コメント) ワールド・カップというものが国際秩序に及ぼす影響も,多分,あるわけです.もちろん,それは軍事的な意味ではありません.
当然,スポーツ界の勢力均衡が崩れました.野球やバスケットより,そして,相撲や剣道より,サッカーの影響力が世界のメディアを席巻します.もしフランスのジダンが活躍すれば,アルジェリア移民として,フランス人の移民に対する理解と協調を深めるかもしれません.
いや,もっと直接に及ぼす影響とは,サッカーが平和の使者ではなく,戦争に代わる政治と愛国心,その他,ナショナリストたちの祭典であるということです.サッカー場に集まって騒ぐフーリガニズムは,世界中に輸出されています.サッカーは,和平を進めるより,賭博や暗殺,いかさま,殺戮や戦争の原因にさえなりました.
ワールド・カップの影響でドイツ経済の復活が刺激される,という期待にも,Matthew Lynnは反対します.失業率は11%,労働コストは高く,政治的な改革意欲は乏しく,人口は急速に高齢化しています.サッカーは何一つ解決しません.もしサッカーへの情熱が経済を繁栄させるなら,ブラジルは世界一の経済大国になり,リバプールはイギリスで一番繁栄しているはずです.
LAT June 5, 2006
An X-rated White House
Niall Ferguson
(コメント) Xメン(ハリウッド映画のヒーロー)がアメリカ政府に乗り込んだ! たった5分でネオコンの魔術師どもと財政赤字垂れ流しの浪費家どもを地面に叩きつけた.
・・・ Xメンを見たことが無いので,うまく紹介できません.せめて政治的寓話として,日本の政界にもヒーローが現れてやっつけてほしいです.
FT June 6 2006
Japan is acting to clean up its revitalised markets
By Michiyo Nakamoto
FT June 6 2006
Japan's watchdogs
June 7 (Bloomberg)
Japan Needs More Mavericks, Not Gordon Gekko
William Pesek Jr.
(コメント) 村上世彰がインサイダー取引容疑で逮捕されたのは,ライブドアの堀江貴文たちが取り調べられた際の情報から派生したのかもしれません.しかし,村上何某より,日本の多くの経営者や企業家たちは,本当にインサイダー取引に関わっていないのでしょうか? 信じがたいです.もし多くの経営者が,実際には私服を肥やしながら,検察は村上ファンドだけを狙ったというのであれば,堀江と同じように,旧エリートたちの報復や隠蔽,犠牲のヤギ,という政治的憶測が流れるのは当然です.<株式市場>が社会に受け入れられる制度であるためには,厳格な法の執行が不可欠です.
Michiyo Nakamotoの記事は,金融庁の相次ぐ告発が,西洋式の金融ビジネスに対する逆襲ではないか,という疑念を表明しています.それを,日本の金融・経済改革の評価にまで結びつけます.それが偏った判断かどうかより,世界第二の証券市場に対する海外投資家の厳しい見方を示しているのは当然です.
日本はきわめて平等主義的な国だから,とファンド・マネージャーたちは金融庁の対応を国民感情の反映と解釈します.日本の市場経済は,その社会・経済環境の変化と一致しておらず,そのギャップを埋めるために,金融庁の裁量でさまざまな処罰しているのではないか? それは,あるいは,国民感情が本格的に逆転することを防いでいるのかもしれません.
日本は,本当にFTが描くように,透明で説明責任を重視した,明確なルールによる市場取引と,国民大衆が参加する投資ブームの時代に向かうのでしょうか?
もう一つのFTの論説は,金融庁の処分が,違反行為に比べてその程度が過ぎており,公平な扱いをしていない,と批判しています.村上や堀江の取った積極的な姿勢だけが特に厳しく処罰されるのであれば,市場の監視役としては失格です.
それゆえ逆に,William Pesek Jr.は,彼らのような一匹狼がもっと現れることを求めます.もちろん,冷酷非情な反社会的ヒーローではなく,旧秩序や支配的ルールに果敢に挑戦する,勇気ある合理主義者たちです.
FT June 6 2006
China should risk bolder trials
By Martin Wolf
FT June 8 2006
Don’t use exports to China to develop military
By David McCormick
(コメント) 中国が高い成長率を維持するためには,政治改革も必要ですが,もちろん経済戦略も変えていくべきです.Martin Wolfは,これまでの戦略は三つからなる,と考えます.@計画経済から市場経済へ漸進的に改革する.A世界市場に深く統合する.B高率の投資を続ける.
しかし,特に,後ろの二つはこれ以上続きません.既に中国の貿易依存度は日本やアメリカの3倍であり,ますます増える投資は,ついには過剰設備となるか,消費を刺激するしかありません.外国企業の直接投資をひきつけて,急速に生産性を上昇させてきた輸出部門にも限界が来るでしょう.銀行融資は無駄に浪費されています.石油価格の上昇や経常収支の黒字は,こうしたパターンの転換を促します.
経済戦略の転換方向は明確でも,それを以前のような漸進主義で達成できるかどうか,Wolfは疑います.既に大幅に市場が経済過程を決定するようになっています.銀行も,金利や為替レートを,政府の指導だけに従って変えることはできないのです.いよいよビッグ・バン・アプローチの時期が迫ってきた,と.
それに失敗すればどうなるのか? David McCormickの論説は異なる視点ですが,歴史的に多くの国で,過剰設備投資や金融不況が軍備拡大と帝国主義をもたらしたことに不安を抱きます.中国向けの武器輸出にブッシュ政権は注意を払います.
FT June 8 2006
In Koizumi’s wake comes uncertainty
By Gerald Curtis
WP Thursday, June 8, 2006; 12:00 AM
Japan Fails the Test on Democracy and Burma
By Michael Green
(コメント) 日銀は量的緩和政策を終えた.5年半の小泉政権も終わる.つまり,日本は「不確実」な時期に入る,とGerald Curtisは述べます.小泉後の日本では,経済政策,日中関係,自民党の権力,などに何か変化が起きそうですが,不確かなことばかりです.そもそも政治家たちが小泉型の権力操縦を真似ることにより不確実さは増します.
中国を世界市場で責任ある大国にし,日本を太平洋のイギリスにしようとアメリカ政府が考えているとしたら,私は日本の政治システムが成長して,それに応えてほしいと思います.
Michael Greenは,安保理における日本の決定を強く批判します.日本の国連代表は,ビルマの軍事政権が国連事務総長の特使による経済援助と民主化を組み合わせた提案を拒否したことに対して,制裁など,次の段階に進むことを中国やロシアとともに拒否しました.これは,アジア諸国が民主主義に向かう過程に反しており,アメリカとその同盟諸国の譲れない価値を裏切るものだ,と憤慨します.
日本がなぜこうした決定に至ったか,もちろん,Michael Greenには推測できます.「ビルマを余りにも中国の影響にさらすのは間違いだ.」「日本が独立した外交政策を持っていることを示すチャンスだ.」「外務省アジア局(とビルマ関係者)の一種の仲間意識」「資源への関心」・・・
アメリカ政府も,他の地域では独裁国家にテロとの戦争を支援してもらったり,影響圏や資源,イデオロギーなどを理由に,国内政治の都合で,他の重要な価値を棚上げにしたりするわけです.そして,もちろん,中国やロシアとの関係を悪化させるわけでもないのに,日本の決定には横槍を入れて当然だと信じている.ビルマは重要でないし,日本はアメリカに庇護された国だ? そのような反論もあるでしょう.しかし,以下の主張は聞くべきです.
「日本は独自の価値体系と外交手段を持っており,世界における役割を維持・拡大して,それによって,あらゆるところで日本市民の利益を守る.しかし,もし日本が19世紀的な重商主義のゲーム,中国に対するバランス・オブ・パワーを演じ続けるなら,それに失敗するだろう.そのようなゲームに勝つのは中国である.」
「日本とインドネシアとの関係を考えてみると良い.1990年代前半には,ODAと投資によって,日本はインドネシアに大きな影響力を保持していた.1997年の金融危機とスハルト体制の崩壊後は,日本の影響力は中国やアメリカ,オーストラリアに比べて,減少し始めた.なぜか? それは日本が権威主義体制に過剰に投資していたからであり,インドネシアを民主化する人々を正しく扱わなかったからである.」
IHT THURSDAY, JUNE 8, 2006
Don't forget those other 27,000 nukes
Hans Blix (a former chief UN weapons inspector)
(コメント) 北朝鮮やイランへの核兵器拡散が激しく議論される一方で,核拡散防止体制(NPT)は無視され,アメリカやロシアなどが保有する27000発の核弾頭が,常に,一触即発の状態に置かれていることを誰も議論しない.それどころか,使用しやすい?新型核兵器の開発が進んでいる.NPTに対する不満がアメリカに単独の軍事行動を優先させたかもしれないが,イラクの大量破壊兵器に対する侵攻は重大な反省をもたらしたはずだ,とHans Blixは訴えます.
NPTを改善し,核軍縮を勧める提案を彼らは作成しています(www.wmdcommission.org.).そのためにも,まずアメリカが核実験を停止し,ウラン濃縮の国際的な査察を支持することです.
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The Economist, May 27th 2006
Education and caste in India: We have a few reservations
Charlemagne: Snakes and ladders
Economics focus: McCurrencies
(コメント) インドもEUも,社会を活性化し,その統合と経済再生を促すメカニズムとして,教育を重視しています.日本はどうか? 受験戦争が意味を失い,高等教育機関が劣化し,所得格差やアメリカ式教育が刺激や正統性を与えてくれると誤解されていないでしょうか?
マックカレンシーは1986年に誕生し,20周年を迎えました.購買力平価説を簡単に理解してもらう,ちょっとした工夫であったはずが,なんと二十年間も生きながらえ,経済学者や政治家の話題として今も取り上げられています.しかし,だから中国の人民元は切り上げるべきだ,という主張には,それは違う,と説明します.
The Economist, May 27th 2006
Chile: Coping with the copper boom
Canada’s immigration debate: Help wanted
(コメント) 主要な輸出財である銅の国際価格が上昇して,チリは好景気と通貨の増価(オランダ病)を正しく扱う処方箋,さらに,制度的な工夫を模索しています.すなわち,社会民主主義的な左派のチリ政府は,増税・財政黒字によって景気過熱を抑え,銅の輸出は外貨のままオフショア信託で運用しています.こうした市場変動による富を,政府は将来の年金制度整備や,教育・技術開発への投資に使うことを指定します.
他方,カナダは経済の繁栄や高齢化に見合った移民の統合を模索します.