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IPEの種 6/12/2006

1 ・・・NHKの視点・論点で,関沢英彦氏が「2転職4学習」という内閣府の21世紀委員会が採用したキャッチ・コピー(?)を説明していました.少子高齢化で,入学者数が大学定員を大幅に下回る時代になりました.大学は何をするのか? 高校卒業者だけでなく,(人生で二度の)転職希望者,そして退職者を大学に引き寄せ,新しい魅力的なキャンパスを創造すれば良い,と関沢氏は主張します.

大学キャンパスが実社会の変化とより密接に関連し,社会変化の触媒になる,という期待は常にあります.かつて,キャンパスを「革命の溶鉱炉」と見なした全共闘の学生たちが(毛沢東の言葉に刺激されて)戦ったように,今度は,NGO/NPOの社会起業家や,次の人生に挑戦する転職者,既存社会の欠陥を自覚した高齢者や移民たちが,キャンパスで若者たちと積極的に議論し,この国の社会モデルを革新して行きます.

2 ・・・大学院のゼミで難しい質問を受けました.なぜ(それを)研究をしてきたのか? つまり,研究の理由や,きっかけ,動機,目標は何か? ということです.大学院というのは,確かに,そうした問いを否応なく発するところです.

それは個性による,と私は答えました.

若い頃は,少し,違ったかもしれません.何か,漠然とした野心か,闘争心,曖昧な飢餓感,克己心や向上心があって,言い換えれば,「権力への意志」により,学問を究めたいと思ったかもしれません.あるいは,単純に,自分の才能や天分を信じ,何か他人とは違う,画期的な着想が得られるように感じて,栄光の瞬間を期待していたかもしれません.しかし,どのような研究動機であれ,それをエネルギーにできる人もあれば,無関心な人もあります.

社会的な不正に怒り,義憤に駆られて学問を志す,というのは,これも実に気持ちの良い,理想的な動機です.しかし,時がたつと,世界が余りにも複雑で,手に負えない様相を延々と広げていることに,よほど強靭な精神力を持ち続ける人でないと「付き合いきれない」と思うわけです.それはまた,時代の精神,でもあります.社会対立が先鋭化し,戦争や革命が頻発する時代に生きる若者であれば,正義と悪とを証明して,大義によって生き抜くべきだ,と確信するかも知れません.(逆に,ただちに食うに困らない家庭に育てば,多くは二元論的な世界への信仰を受け入れないでしょう.)

本当のところ,今は,優れた研究に出会ったときの感動から「前進する力」を得ています.そのことを誰かに伝え,話し合いたい,そして自分もそのような研究に少しでも近づけたら良いのに,と思いながら,自分なりの研究を模索します.

しかし,たとえば,山本周五郎の「おたふく」や「ちゃん」を読んで,小説の中に描かれる薄幸な,好人物たちの苦悩,喜び,ささやかな充足の瞬間を,良かったな,と感心する一方で,「国際通貨システム」の改革論争や,世界の「移民政策」を研究することは,何か矛盾した,無責任なテーマでしょうか? 私はそう思いません.社会の下層で押しつぶされる弱者や,国際政治における小国,厳しい労働に生涯従事してもわずかな報酬しか得られない人々,通貨の混乱や経済危機に翻弄される人々,輝く才能を持ちながら移民・難民として生きる声なき人々,・・・ 強者や富者ではなく,正しく生きようとする彼らこそ,優れた,頑健な社会制度をもっと必要としています.

3 ・・・学部のゼミ生たちと東アジア共同体を議論しているとき,中国からも,アメリカからも切り離された形で,日本は生きていけるだろうか? という話しになりました.安価な工業製品も,豊かな輸出市場も,そして多分,輸入される食糧や,石油などの資源・エネルギーも,国際金融市場の利用機会も,すべて失います.

それは無理だな・・・ という顔の学生たちに,「それでもかまわない」と私は言いました.江戸時代に戻るわけだから.もちろん,「自分が殿様だったら戻っても良い」などと身勝手なことを言うのではなく,鎖国政策によって,庶民は農耕の改良や商取引を発達させ,結構,豊かになる可能性を見出していたと思います.歴史の授業で習ったいろいろな文化や芸術作品を思い出しても,当時の人々が現代より劣っている,と決め付けることはできません.

4 ・・・ゲーム機や携帯電話,i-Podが無くても,私たちは平和で豊かに暮らせるでしょう.しかし,貿易や通貨,戦争,移民,などに関する社会的合意と,それを維持する制度が失われたら,どうなるでしょうか? 未来のキャンパスでは,人間が実現可能な世界=社会の理想について,議論する人々が増えるでしょう.

たとえば,東アジア共同体でも(EUから学んで),一定の条件を満たせば,人口50万人を超える地域に独立のための住民投票を認めてはどうでしょうか? 日本は最大200,中国は最大2600の小国家からなる宇宙の創造に向けて,社会が静かに変容して行きます.

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