IPEの果樹園2006
今週のReview
6/5-6/10
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :EUの帝国化
通貨・金融 :アメリカの新財務長官
世界統治 :移民政策
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
WP Thursday, May 25, 2006; A29
Get Serious About China's Rising Military
By Dan Blumenthal
FT May 30 2006
Birth of military giant in modern China
(コメント) 中国の世界市場進出と経済成長が,それにともない,中国の軍備増大・近代化やエネルギー供給の確保,影響圏の拡大をもたらしている事実は,IPEの基本原理を確認するものです.
隣国が市場の変化によって急速な成長を遂げ(それに比べて自国は衰退し),それとともに軍備を拡張し始めた.台湾海峡をはさんで並ぶミサイルは700基以上も増えており,最新式の潜水艦も配置している.今では,中東やアフリカからの石油輸送をアメリカ軍が管理する海域に頼るのは危険である,と主張する.南シナ海や東シナ海の領土紛争を軍事的に解決し,アメリカの支配する海域に中国人民軍を配置するべきである,と.こうして近隣諸国のバランス・オブ・パワーが急速に変化し,相互に不信感を打ち消しがたいとすれば,軍備拡大競争が始まるのは当然だ. ・・・しかし,だから中国と戦争になるのは避けられないとか,中国を今のうちに市場から閉め出し,封じ込めるべきである,ということにはなりません.
既に中国は東アジア地域の覇権を得ようとしている,とDan Blumenthalは指摘し,私もそう思います.アメリカ政府はどのように対応しているか? アメリカ政府は「テロとの戦い」で中国政府との協調を重視し,世界市場の拡大やアメリカの対外赤字に対する融資の点でも,中国を参加させる方針を選択してきました.しかし,北朝鮮でも,イランでも,その他のアメリカと敵対する政府との関係でも,中国政府は信用できる相手ではない,と考えます.
中国に対する積極的な支援や市場参加を促すエンゲイジメント・ポリシーは,それがうまく行かなかった場合の対抗策も準備してある場合にだけ,有効な政策になる,とBlumenthalは主張します.すなわち,まず日本との同盟関係を強化し,日本の軍事力をアメリカと協力して地域全体に展開できるようにしよう.インドとの戦略的な提携を深め,ベトナムとも関係改善を深めるべきだ.さらに,一定の制約を設けてきた台湾への軍事支援を,大陸とのバランスを回復するために,より高い水準に引き上げるべきだ.広域の監視システムや防衛力を備え,ミサイルによる報復力を持った台湾が,海峡で何かあればただではすまないぞ,と中国政府に自覚させて初めて,地域の安全保障体制に向かう過程を実質化できる,と.
もう一つの可能性も示唆しています.それは中国政府がもっと軍備計画や目標についてオープンになり,周辺諸国と積極的に協力する,責任ある姿勢を取る場合です.しかし,そのような姿勢への転換は,まだこの先も,起こりそうに無い,と.
FTの論説は,米中間の定例化された対話を考えます.中国の軍備拡張と近代化に警戒するべきだ,とアメリカ国防総省は言い,中国政府は,それが誇張であり,中国人民軍には平和的な意図しかない,と否定します.
イギリスのジャーナリズムは,必ずアメリカとは異なる,独自の視点を示します.ここでもFTは,中国の軍備がその経済規模や長い国境線に見合っており,不当なものではない,と指摘します.市場レートで換算して,中国の2003年の軍事支出は396億ドル,GDPの2.7%です.それはアメリカの3.7%,韓国の2.4%に比べて,特に違いません.しかし,問題は中国の軍備や安全保障に関する秘密主義です.軍備についても中国の指導者たちは真実を示さず,その意図がわかりません.この点で,ペンタゴンが新興の覇権国家に警戒を強めるのは正しいだろう,と.
May 26 (Bloomberg)
China's Pollution Battle Might Fan Inflation
William Pesek Jr.
FT May 30 2006
China’s autocracy of bureaucrats
By Martin Wolf
IHT TUESDAY, MAY 30, 2006
In China, globalization can be green
Saleem H. Ali
CSM May 31, 2006 edition
The importance of the US-China partnership
By John Hughes
(コメント) 世界市場に参加して成長を加速する.グローバリゼーションの負の側面など気にすることも無いか? 豊かな国からは工場や雇用が流出し,世界のエネルギーが急速に枯渇します.所得格差も広がっています.特に中国で注目されるのは,環境破壊が社会不安の温床となることです.
モルガン・スタンレーの香港で活躍するエコノミストAndy Xieは,中国における生産コストの低さが環境破壊を加速し,ついにはコストを押し上げて世界のインフレ傾向に火をつけるのではないか,と警告します.すなわち,低賃金だけでなく,中国の環境規制の甘さ(あるいは,環境破壊の激しさ)が中国の輸出依存型成長を支え,世界の生産コストを引き下げていたのだ,と.
3億人が汚染により水を飲めなくなった? 環境破壊が地方における共産党の正統性を脅かしている? もちろん,危機感を抱いた政府は汚染を撒き散らす香港企業を取り締まりつつあります.こうして中国における生産条件の「正常化」が,2002年から2005年に起きた世界経済へのデフレ効果を失わせるだろう,とXieは主張します.
インフレにより,中国の賃金水準も上昇します.それは,中国への雇用の流出と不確実さによって世界中で賃金水準を抑えてきた要因を取り去るでしょう.また,債務に依拠して生活水準を維持してきた人々にも返済を迫ります.こうして世界経済の循環は大きく変化し始めます.
中国の謎は,共産主義というより,厖大な官僚層とダイナミックな資本主義,という矛盾した組み合わせにあります.中国の歴史で繰り返されたように,これも一つの新しい王朝でしかないのか? とWolfは疑います.中国の王朝は,秦以来,ギリシャ・ローマの共和制と違って,個人主義ではなく集団主義,自己決定よりも権威主義・父権主義・絶対主義,法の前の平等より不平等・階層秩序,市民よりも臣民,そして,権利より義務を強調した,と.
ダイナミックな経済の生み出す成果が硬直的な支配を維持する官僚制の肥大化であるから,中国経済は成長する力を失い始めているのです.つまり,この矛盾は4つのシナリオを予想させます.1.改革は続き,経済の好調さにより政治的な民主化も円滑に実現する.2.経済的繁栄によって共産党の独裁が継続できる.その体制を維持したまま,政治的なバランスの調整が行われる.3.改革は行き詰って,経済的な活力も失われる.中国は,開発が失敗した他のケースに追加される.4.成長の減速が政治的危機を招く.混乱を経た後,民主的な秩序が誕生する.
Wolfは,1も2も3も実現しそうにない,と考えます.すぐにも政治危機が襲ってくることは無いでしょう.しかし,巨大な官僚制と権威的支配が,資本主義のダイナミズムと両立する可能性はゼロだ,と考えます.数年を経て成長は減速し,政治秩序は崩壊に向かうでしょう.市場の力は抑えられず,支配する側がそれを受け入れるしかない,と.
それゆえ,John Hughesが指摘するように,米中関係(それは日中関係と相似的です)の性質が非常に重要です.米中関係は貿易や投資において双方の非常に大きな利益を意味しています.それと同時に,台湾の独立問題に関して,軍事的な衝突も辞さない危険な関係でもあります.中国政府は,さしあたり,アメリカとの貿易を通じて成長率が高められることを重視しています.しかし,アメリカが台湾の独立派をいつまでなだめられるかは不透明です.また,中国政府が,国内の社会問題や政治的不満を海外における強硬政策で押さえ込むという事情も,どれほど重要になるか,予測がつきません.アメリカ政府は中国を信頼できないのです.
Matthias Gebauer An African Dream "I'll Make it to Europe, or Die Trying" SPIEGEL ONLINE - May 18, 2006, 11:32 AM
CELIA W. DUGGER U.S. Plan to Lure Nurses May Hurt Poor Nations NYT May 24, 2006
Amity Shlaes Blame Mexico, Too, for U.S. Immigration Trouble May 26 (Bloomberg)
Jonathan Glancey Walls fall down LAT May 26, 2006
E. J. Dionne Jr. A Debate Beyond The Fence WP Friday, May 26, 2006; A21
An Immigration Victory NYT May 27, 2006
For Want of a Nurse NYT May 27, 2006
Wayne A. Cornelius You can't wall off immigrants LAT May 28, 2006
Richard Rodriguez What a Wall Can't Stop WP Sunday, May 28, 2006; B07
David S. Broder Immigration Deal? Don't Bet on It WP Sunday, May 28, 2006; B07
Mois駸 NaIt's Not About Maps WP Sunday, May 28, 2006; B01
Robert Kuttner Helllloooo, Nurse The American Prospect 05.30.06
Alvaro Lima and Peter Plastrik 'Hidden assets' of Boston's immigrants BG May 31, 2006
Robert J. Samuelson What You Don't Know About the Immigration Bill WP Wednesday, May 31, 2006; A19
Stanley A. Weiss U.S.-Mexico: Next door neighbors, worlds apart IHT THURSDAY, JUNE 1, 2006
George F. Will Between a Rock and 'Reform' WP Thursday, June 1, 2006; A19
William Pesek Jr. Philippines Pays Human Cost of Globalization June 2 (Bloomberg)
(コメント) 移民政策をめぐる論争に終わりは無いようです.アフリカからヨーロッパへの移民がどれほど抑えがたいものか,考えるべきです.それを阻止するより,彼らに自国で生きるチャンスを与えない限り,不可能ではないか,と思います.
否,それでも阻止するべきだ,と考える人々がいます.壁を築くことです.歴史的に形成された社会制度を侵食され,社会対立を招くことを恐れるから,移民には上限が必要だし,入国のためのテスト,技能や資産,会話能力による選別が必要だ,と.政府は,世界市場への編入の仕方を選択する権利があり,それは各国の利益(や不安,先入観)を反映して「当然」なのです.
たとえば,日本でも老人の介護などで外国人労働者の導入を期待する声があります.アメリカでは,既に,看護婦の供給を大きく移民に頼っています.それは,他方で,発展途上国から優れた労働者たちを奪うことを意味します.フィリピンで看護婦の年収は2000ドル以下ですが,アメリカでは少なくとも3万6000ドルあります.
メキシコで誰が大統領になるかによって,移民たちはより多くが北へ向かいます.もし7月2日に左派のAndres Manuel Lopez Obradorが当選すれば,アメリカでは「殺到」する移民に対して壁を建設する声が強まるだろう,と指摘する論説があります.メキシコが中国と同じように,健全な通貨と地方の所得を増やす政策を取れば,8%の成長によって,移民する必要はなくなると対立候補は主張します.
他方,シカゴ大学のSteven Davisは,メキシコと同じ比率の労働者がアメリカに移民して働いた1980年代のプエルトリコを例に挙げて,大量移民が成長をもたらすわけでも,所得格差を縮小するわけでもない,と考えます.たとえ移民が自由化されても,それは改革の契機に過ぎず,真の経済転換をなしえるかどうかはメキシコ自身の問題です.アメリカもメキシコも,他国を責めるのは間違いである,と.移民に反対する者は,「メキシコ人は帰れ!」ではなく,「メキシコも成長しろ!」と叫ぶほうが良い.
世界にはいろいろな壁があったけれど,人々を分離する壁というものは,すべて,いずれ崩壊するしかない.万里の長城でも,ベルリンの壁でも,マジノ線でも,ジェリコの壁でも.イスラエルが築いても,テキサスが築いても.
いずれの壁も,その崩壊後に,同じ教訓を残す.壁を築くより,隣人を理解し,隣人を助け,そして,隣人を愛することを学ぶほうが良い,と.
移民は確かにアメリカを豊かにしている.しかし,移民を支持する者は,移民によって思わぬ苦難を強いられる人々がいることを忘れてはいけない,と主張する論説もあります.たとえば地方政府は,財政的な負担を強いられます.また,職を失い,移住を強いられる貧困層の底辺労働者がいます.分配をめぐる対立と財政のメカニズムが問題です.
国境線を軍事要塞化して,詳細なID管理を行うとしても,移民を完全に閉め出せるわけではありません.非合法移民を斡旋する業者は抜け道を見つけ,偽造した書類を用意し,危険なルートを開拓して,さらに多くの料金を要求するだけです.外国人を嫌う人々はいても,軍事要塞化する費用を支払いたい国民などいません.
むしろ,北アメリカを一つの共和国にしてしまえば良いではないか? そして南北アメリカも? 既にアメリカのメキシコ化は移民によって進行し,メキシコのアメリカ化は商品や企業によって進められています.これを再び切り分けることに,どのような利益があるのか?
FT May 26 2006
Enron’s hard lessons for corporate bosses
BG May 26, 2006
Flim-flam executives
NYT May 28, 2006
Are Enrons Bustin' Out All Over?
Gretchen Morgenson
(コメント) Jeffrey Skilling,とKenneth Layによるエンロン事件はようやく有罪判決が出ました.企業幹部による不正取引や会計書類の改ざん,金融犯罪に関しては,既にthe 2002 Sarbanes-Oxley改革法ができて規制と罰則が強化されました.しかし,その後も企業幹部による詐欺事件は続いています.
BGが指摘したように,資本主義とはそれほど大きな富をもたらし,富を破壊し,富に惑わされるシステムなのです.それでも資本主義が機能するとしたら,正しい情報を共有できる限り,です.
FT May 26 2006
No need to take away Japan's punchbowl
(コメント) FTもIMFも,日銀が金融引き締めに向かうことのないよう,釘を刺すことに熱心です.日本経済は改革が肯定され,政府の赤字削減も少しずつ進みだしている.ここで景気回復が止まってしまうようなことは避けるべきなのだ,というわけです.中央銀行の代表や味方であるはずのIMFが日銀に冷たい(?)のは意外なことです.
日銀が懸念するようなバブルは起きていないし,物価の下落も完全に終わったわけではない,という理由です.まだインフレよりもデフレを回避することに注意するべきときだ,と.パーティーが始まったかどうか分からないときに,早くもお酒を引き上げるようでは,主催者として信用されないぞ,と.
もちろん,判断が分かれるのは当然ですが,それでも日銀が引き締めを示唆する理由は,やはり,どうしても金融政策の主導権を回復したい,という政府との確執でしょうか?
LAT May 26, 2006
Rosa Brooks
NYT May 28, 2006
What to Do When the Oil (or the Innovation) Is Gone?
By DANIEL ALTMAN
(コメント) ガソリンの高騰を招いた最重要責任者はブッシュ大統領だ,とRosa Brooksは批判します.内政・外交にわたって,ブッシュ氏は石油依存や石油消費を奨励し,石油供給国の政治に介入して供給を減らしました.もしそうであれば,増税を軽蔑し,自分が行った減税を自慢し続ける大統領が,増税と同じガソリン価格引き上げを推進してきたことを説明すべきではないか?
DANIEL ALTMANは,1970年代に議論されたように,資源が枯渇するという不安は実現しない,と指摘します.石油はさらに有効な採掘や輸送,節約の方法を見出すでしょう.さまざまな技術革新が起きるでしょう.たとえば,もし持ち運べるような小型核融合炉が発明されるとしたら,どうなるでしょうか?
経済学者に言わせれば,本当に不足するのは土地と労働力です.資本によって代替するにも限界があります.そして,子供が減少していますから,石油よりも先に,優れた労働力が枯渇するでしょう.成長の限界は,地下にではなく,家庭や学校にあるわけです.
NYT May 26, 2006
By THOMAS L. FRIEDMAN
The Observer Sunday May 28, 2006
The ideals worth rescuing from the deserts of Iraq
Andrew Rawnsley
The Japan Times: Sunday, May 28, 2006
It's still too early to exit Iraq
By IAN BREMMER
LAT May 28, 2006
Iraq: Time to talk about disengagement
NYT May 28, 2006
The Price of Iraq
WP Sunday, May 28, 2006; B01
Iraq Is the Republic of Fear
By Nir Rosen
WP Wednesday, May 31, 2006; A19
A Political Path Out of Iraq
By Fareed Zakaria
NYT June 1, 2006
Tearing Iraq Apart
By THOMAS X. HAMMES
(コメント) なぜイラクを諦めないのか? とTHOMAS L. FRIEDMANは自問します.それはイラクの市街でテロが続く中でも,指導者たちは進歩的な国を築くために努めているからです.彼らがそれに成功すると確信できるなら,アメリカ軍は撤退の準備を始めるべきです.しかし,今はそのときではない,と.
エジプトの社会学者Saad Eddin Ibrahimによれば,アメリカのイラク侵攻は1798年のナポレオンによるエジプト侵攻に相当します.その後,エジプトの支配者は留学生をヨーロッパに送って,国家の近代化に取り組みました.50年に及ぶ独裁政治を終えたイラクも,国家再建の「重労働」を担う人々が必要です.
イラクの聖職者や官僚たちは,アメリカやイギリスが望むような近代化や民主化を恐れています.だからあらゆる段階で改革を止めようとします.それでも選挙を行い,議会を開き,憲法を定めたイラクが,今こそ近代的な軍隊を整備し,近代国家を築くチャンスを得たのだ,と考えます.2000年から2003年まで投獄されたIbrahimは夢想家ではありえません.
アメリカ軍はイラクの民主化を求めて侵攻し,民主的な統一イラク政府を支援するために駐留している.それが実現される過程を支援し,地域の安全保障に関与して,その条件が満たされるにつれて撤退するだろう,とイラク,アメリカの両国民に訴え続けることです.そのためには,アメリカが地に落ちた道義的地位と敬意をアラブ世界でも得られるように,特に,アブグレイブ監獄やグァンタナモ基地,イラクの各地で行われるテロ掃討作戦での市民の犠牲者について,明確な姿勢を示すことです.
Andrew Rawnsleyも,イラク侵攻と占領政策の失敗を経ても,イギリスとアメリカは国際的な関与を後退させるべきではない,と主張します.イギリスがシエラレオネへの介入で正しいことを行い,国際社会の賛同を得たように,豊かな諸国には国境を越えた責務があり,紛争や疫病,テロを防ぐことに自身の利益を見るべきです.
今や,いかなる国も孤立しては生きて行けない.No country can now be an island. 人道主義的国際介入がイラクで危機に瀕したことを認めるブレアは,それでも悲観主義的なリアリストになることを拒んで,一層の理想主義を掲げます.「国際的な主体を強化する必要がある.軍事的介入の能力を高め,人道的な対応を編成するべきだ.」 そして,第二次世界大戦後にできた国連などの国際機関を改革すべきだと訴え,アメリカにおけるユニラテラリストを批判した.
イギリスがアメリカを説得するように,EUはロシアやアフリカを説得し,アメリカが南米やアラブ世界を説得し,そして,・・・日本は中国を説得しなければなりません.
イラク侵攻を正当化しなければならないブッシュ大統領は,イラクにおける最悪のニュースと強気の発言,侵攻の成果を繰り返し強調しました.しかし,ブッシュ批判が主流となった今,アメリカの政治的潮流は変化し,占領政策の過ちを部分的に認め,良いニュースもあると強調し,撤退の準備を始める約束が重要になっています.
民主化や「テロとの戦い」は結構な話だ.しかし,いつまでアメリカ国民はブッシュの夢の実験室で命を失い続け,さまざまな悪行に手を染め続けるのか? と,LATはその代価を支払う国民の声を聞くように求めます.そして,二人の指導者が過ちを認め,その代価にふさわしくない関与を見直すべきだと国民が求めているのだから,もっと国際社会の公平な関与について議論するときだ,と.
イラク社会に秩序を回復するためには,軍事力を新しい社会に向けて前進する強い意志のある人々が握ることです.他方,エスニシティや宗教の異なる社会秩序を,長期にわたって,アメリカ軍が掌握することはできません.内戦の危機に瀕し,アメリカ兵を憎む地域に,テロリストを追って入り込む舞台が住民を惨殺するような事件が起きることこそ,ベトナムの再現を恐れたアメリカ国民が最も避けてほしいと願っていたのです.
イラクであれ,移民であれ,問題は技術的でも,軍事的でも,官僚的でもなく,政治的です.政治だけが解決策を示せます.さまざまな勢力が拠り強固な軍事力で問題を解決できると考えています.しかし,それは間違いでしょう.秩序は失われ,ますます多くの人々が殺されます.指導者たちは政治的なバランスに合意し,社会が協力できるような動機を与えなければなりません.それができないのであれば? ・・・内戦が続くということです.アメリカ軍がいるかどうかに関係なく.
むしろ,イラクの分割を認めてはどうか? とTHOMAS X. HAMMESは考えます.ブッシュ政権は方針を転換し,平和的な分割により,治安維持よりも市民生活の復興に援助とスタッフを振り向けるほうが良い,と.
David Ignatius It's Time to Engage With Iran WP Friday, May 26, 2006; A21
Neda Bolourchi A case for engagement Asia Times Online, May 27, 2006
David Gardner Visceral mistrust bedevils search for settlement FT June 1 2006
Edward Luce Change of course on Iran, but all options remain open FT June 1 2006
Rice's choice for Iran BG June 1, 2006
Simon Tisdall Rice calls Iran's bluff The Guardian Thursday June 1, 2006
Rice makes the right move on Iran LAT June 1, 2006
DAVID BROOKS No More Excuses NYT June 1, 2006
(コメント) イランとの交渉姿勢が変わりました.アメリカ政府はヨーロッパやロシアと一致して,核開発の国際管理を主張し,それが受け入れられた場合の経済支援,拒否された場合の安保理による制裁,を行うことに参加しました.
どれほど常軌を逸した国でも(北朝鮮やイランでも?),その国民をすべて悪人とみなすことはできません.無法国家を国際システムに復帰させ,自らまともな政府を選ぶように助けるしか,長期的な解決策は無いのです.
軍人が「開放型社会と閉鎖型社会の,グローバリゼーションをめぐる最初の戦い」と言うのは,何か大げさな正当化のロジックだろうと思います.しかし,開放性や世界市場との連携を助けてやることが,この戦いに勝利する鍵である,というのは正しいと思いました.イラン国民の75%はアメリカとの関係改善を望んでいる,という世論調査もあるようです.欧米が示す各施設の査察と経済援助のパッケージを,イスラム聖職者の強硬派は拒むかもしれません.しかし,こうした交渉を通じて,改革を望むイラン国民は励まされるでしょう.・・・そして,アメリカ政府内部のネオコンを外交政策から遠ざけたことも示せるわけです.
アメリカとイランは余りにも文化的・歴史的な背景が異なっているために,ブッシュ政権の強硬発言がイランの強硬派を政治的に強める結果しかもたらしていません.国際秩序の一部として,もっとイランが望むような安全保障と経済的繁栄をもたらす方法はあるはずです.
しかし,中東におけるアメリカの政策とイランの地位については,常に,複雑な相互作用が働きます.たとえば,アメリカのイラク侵攻でもっとも顕著な利益を得たのは,シーア派の勢力拡大を得たイランです.また,石油価格高騰はイラン政府の財政を潤し,景気や雇用を刺激し,石油を渇望する諸外国への強い影響力をイランに与えました.イラク情勢がアメリカ政府を制約している現状では,イランとの交渉が容易に進むとは思えません.
もし現実的な柔軟性を備えて交渉に向かうなら,強硬な条件を示しあった末に,政治的に妥協することを自国民に支持させる政府が,ときには,もっとも大きな成果を示すのです.ライス国務長官の方針転換は何を可能にしたのでしょうか?
The Guardian Saturday May 27, 2006
James Harkin
The Japan Times: Sunday, May 28, 2006
Reconciling with wounded minorities
By DOMINIQUE MOISI
BG May 30, 2006
Europe's Muslim dilemma
By H.D.S. Greenway
LAT May 30, 2006
EU is at a turning point
By Charles A. Kupchan
(コメント) 25カ国から27カ国にも及びつつあるEUとは何か? 世界最大の貿易・投資ブロックを形成したものの,これは帝国や超国家をめざしたわけではない.かつてジャック・ドロールは,EUをUFO(未確認飛行物体)ならぬ,UPO(未確認政治物体=目標an "unidentified political object")と呼びました.なるほど!
オックスフォードのJan Zielonkaは,EUにかつての帝国と同じ変化を見ます.すなわち,ソ連崩壊はEUの偏狭に不安定な地域を生じ,これらを放置するよりも吸収して管理することを選んで,東・南へ拡大しました.その過程でEU自体が変質し,帝国化したのです.では,パレスチナ国家や中東,ウクライナやロシアはどうするのか?
それはハプスブルク帝国や大英帝国のような帝国として,統治者たちの良き意図を強調するかもしれません.しかし,内部における政治的な正当性は薄れていくでしょう.
DOMINIQUE MOISIは,歴史的な「和解」"reconciliation"の重要性を考えます.東アジアにおいては,日本と中国,韓国との和解が求められているように,ヨーロッパはフランスとドイツの和解を実現することで前進してきました.しかし,もはやバルカン諸国を除いて,ヨーロッパの平和を乱すような対立は存在しない,と思われます.
今では,むしろアメリカとの和解が必要だと指摘するときです.しかし,和解する相手は内部にいる,とMOISIは考えます.ヨーロッパ各地に,暗い,灰色の点が広がるように,マイノリティーの住宅が集まっているからです.諸国家・国民の和解よりも,おそらく,もっと困難な課題です.
ホロコーストを知ったとき,ヨーロッパの人々はユダヤ人への迫害を後悔し,それに加担した者も,受動的に見過ごした者も,心から謝罪しました.ヨーロッパの黒人たちは,自分たちが負ってきた奴隷制以来の歴史を,今では,ホロコーストにたとえています.フランス政府は,ヴィシー政権が国家としてナチズムに加担していた歴史を,謝罪しました.和解は,調和と繁栄に満ちた未来を共有することによって可能になります.フランスチームにおけるジダンの貢献と国民の賞賛は,アルジェリア戦争に対する和解を促しました.ヨーロッパはマイノリティーに対する和解を進めることができるのか?
9・11に加わったZACARIAS MOUSSAOUIは,典型的な形で,ヨーロッパのイスラム教徒に対する迫害と反発を示しています.フランス,イギリス,オランダ,ドイツは,さまざまな事件を究明する過程で,自分たちのモデルを反省し始めています.貧しく,教育も受けていないイスラム教徒の移民であっても,彼らを社会に統合する用意があるか?
Charles A. Kupchanは,EU本来の政治的使命を継承しようとします.すなわち,EUはナショナリズムや保護主義に対する自由主義の理想を制度的に保証するものであったわけです.ところが,移民問題の政治家にともなって,国境線が再び強調されるようになりました.
EUの基礎を脅かす4つの勢力をKupchanは指摘します.1.温情主義的な福祉国家制度とその官僚たち.2.EU拡大とイスラム教徒の移民増加に怯え,ヨーロッパ文化や価値を強調する人々.3.急速にポピュリスト的な傾向を強める政治家たち.4.ヨーロッパの強力な政治指導者を求める人々,あるいは,ヨーロッパ的な指導力を発揮できないまま重要な地位にある人々.
ヨーロッパの政治家たちは,何度もEUの危機を乗り越えてきました.今は漂流するばかりです.政治家たちは現実を直視し,その政治的・経済的プロジェクトを復活させるため,果敢に行動するときです.
FT May 28 2006
China should help Japan win a Security Council seat
By Kazuo Ogoura
中国は頑なに日本が国連安保理の常任理事国となることに反対している.しかし冷静に考えてみれば,それを支持することが中国自身の利益であると分かるはずだ.
まず,外向的利益だ.もし中国がアジアで指導的な役割を果たしたいなら,日本との良好な政治的関係が必要である.現在,中国の政治システムはアジアの多くの民主的国家と異なっており,たとえ大国になっても,貧しい諸国に経済・技術支援を送る地位につけない.そうであれば,日本との共同指導体制が,中国にとっては特に助けとなる.
中国が日本の安保理常任理事国を支持する第二の理由は,中国が国際社会で孤立する危険に関係する.中国の急速な経済成長は多くの国の関心を集め,同時に,疑いを招く.特に西側社会では,中国を敵対する文明であり,民主主義や人権について中国に敵意を示す人々が多くいる.中国を潜在的な敵国とみなすことさえある.こうした状況で国際社会に混じるなら,中国を理解してくれるパートナーが必要だ.日本は中国の孤立を緩和し,特に国連安保理のようなフォーラムで重要な役割を果たせる,ということを考えるべきだ.
安全保障に関わる第三の理由がある.もし中国が軍事力を過度に増強すると,アメリカだけでなく多くのアジア諸国も,それを心配するだろう.そうなれば日本も軍備拡大に踏み込むはずだ.軍事的な拡大への日本の動機を抑制し,日本がその軍事的・経済的な影響力を中国の利益に敵対する形で行使しないよう確認したいなら,中国にとって,日本が国際制度の確かな地位についておくことが重要となる.中国が本当に日本の軍国主義復活を恐れているなら,国連内部で影響力と尊敬を得られる地位に日本を就けるべきである.
第四の理由は,中国の国内政治状況に関わる.中国社会はますます情報に依拠した民主社会に変わりつつあるが,近代化と伝統的な価値の擁護とは,政治的安定性にとって圧倒的に重要である.中国はこの点で日本をモデルとすることが可能だ.中国と日本が国連やその他の国際機関で協力するイメージは,中国の安定性を維持する重要な役割を果たせる.
最後に,中国経済の問題だ.中国経済がその規模とパワーを増せば,国際社会との摩擦も避けられない.日本だけが,輸出自主規制や農業,知的所有権で(中国の)そのような摩擦を理解するだろう.なぜなら日本はまさにこうした問題を経験してきたからだ.中国は,WTO加盟の際に,日本が大いに尽力したことを忘れるべきではない.経済摩擦が起これば,他国が中国考え方を理解し,中国が国際社会の希望を理解できるように,日本は仲介するだろう.
安全保障理事会は,その性質上,広い意味での経済的安全保障と矛盾しないように行われる.常任理事国がその他の国連機関でも重要な地位を占める以上,中国が日本の常任理事国入りを支持することは,中国経済の安定的発展と国際経済社会との調和した関係を形成する上で重要なのである.
もし中国が重要な役割を果たしたいのであれば,その隣国である日本と最初にパートナーシップを築くべきである.日本はかつて国際連盟で常任理事国であったが,中国との対等なパートナーシップを築くことができなかったせいで,国際社会における主要国としての地位を失った.中国が日本の失敗を繰り返さないことを願う.
May 29 (Bloomberg)
Japan's Next Export Is Higher Interest Rates
William Pesek Jr.
YaleGlobal, 30 May 2006
Southeast Asia Casts Wide Net for Cooperation
Barry Desker
(コメント) この,多分少し身勝手な,中国に対する主張が中国や世界で注目されるかどうか,私は自信がないです.むしろ,日本について文句なしに関心を呼んでいるのは,日銀が量的緩和政策を改め,次には金利の上昇を容認する姿勢を示していることです.円が暴落することはなかったですが,キャリー・トレードが大規模に行われているはずだ,と憶測されます.それが逆流するとき,世界の株価や住宅価格,国際商品市場,財務省証券などに,どのような影響が生じるか? そして日銀が仕組んだ「陰謀説」のようなものが,国際社会で,酒席の話題となっているのかもしれません.
Barry Deskerは,昨年末の東アジア・サミットと,中国の台頭に動揺するアメリカやASEANの立場を描きます.冷戦期には明確に反共の政治同盟であったASEANが,中国との貿易を急速に伸ばし,中国との経済協調を組織し,交渉力を得るための枠組みに変化しました.そして,アメリカと中国の間でバランスを模索します.
FT May 29 2006
Save globalisation from radical global utopians
By Barry Lynn
(コメント) これはグローバリゼーション・ユートピアニズムの批判です.何か奇妙な,ナショナリズムと国家介入と,保護主義と国際管理システムと,市民に対して責任ある自由主義を標榜する,荒唐無稽なアメリカ優位システム再構築の提言ではないでしょうか? それが現実的な意味で,グローバリゼーションの生きる道である,とアメリカの支配エリートには響くのでしょう.
The Japan Times: Wednesday, May 31, 2006
Textbook economists leave casualties in their wake
By GREGORY CLARK
(コメント) より直截な自由貿易への反対意見として,GREGORY CLARKは「メイド・イン・ペルー」のシャツを着ます.ペルーの貧困や犯罪を減らすには,この素晴らしいシャツがもっと売れることが何より良いのだ,と.
ところがペルーのシャツ工場は閉鎖される予定でした.WTOの決めた自由化で中国製のシャツに勝てないから,と.こんなテキスト経済学にCLARKは憤慨し,唾棄します.ペルーには多くの大学卒業者や高速道路がある.しかし,工業化に必要なソフトウェアは,自国の工場を維持する中で蓄積されるだろう.1970年代に訪れた中国は,今のペルーよりもずっとひどい,何もない土地だった.しかし,急速な成長が可能であった.
国内市場や工場を重視しないような開発は,グローバリゼーションの末に,度重なる通貨の切下げと,失業,犯罪だけを残す.自国の産業を守るために消費者が負担するのはわずかであり,それによって将来の繁栄をつかむこともできる,と. ・・・日本のように.
Caroline Daniel in Washington and Ben White in New York Bush names Hank Paulson as new Treasury chief FT May 30 2006
Edward Alden Wall St heavyweight will try to win over public on economy FT May 30 2006
Ben White ‘‘Hank the Hammer’ sports tough-guy reputation FT May 30 2006
Stephen Cecchetti Paulson has the tools but needs Bush’s support FT May 31 2006
Turning to Wall Street FT May 31 2006
A bearish welcome BG May 31, 2006
A new man at Treasury LAT May 31, 2006
A Secretary for Troubling Times NYT May 31, 2006
EDMUND L. ANDREWS and JIM RUTENBERG Bush Nominates Wall Street Chief for Treasury Job NYT May 31, 2006
EDMUND L. ANDREWS 2 New Captains of the Economy Face Volatile Global Markets NYT June 1, 2006
(コメント) 財務長官が投資銀行の社長である,となると,ドル紙幣に署名し,管理しているのはゴールドマンサックスのような気がします.投資銀行がアメリカ政府の力を借りて(むしろ,直接に参加して),世界の金融市場でドル紙幣の価値や金融ビジネスの拡大に励むことは,確かに,彼らの利益として一致するでしょうが,それはアメリカ国民や国際金融システムにとっても望ましいことなのでしょうか?
影の薄かったポール・オニールやジョン・スノーと違って,ハンク・ポールソンはロバート・ルービンの再来として,ブッシュ政権の救世主になれるでしょうか? 昨年の年収は3880万ドル(約40億円)で,個人としてはゴールドマンサックスの最大の株主でもあります.既にニクソン政権に参加していた,と書いてあります.そして,ブッシュ政権の経済政策建て直しに向け,金融界の指導者として申し分ないが,ホワイトハウスの言いなりになる人物ではないだろう,と.
株価が動揺し始めている時期に,新しい財務長官が市場にてこ入れしたい,などと考えないでしょうか? また,同じ景気を刺激するなら,富裕層に利益となるような方法を好む,ということはないでしょうか?
NYT May 30, 2006
Songs From the Wood
By SCOTT WEIDENSAUL
(コメント) 森からの歌声が聞こえますか? 北アメリカの亜寒帯に広がる針葉樹林です.
「ほとんどのアメリカ人は亜寒帯の森を訪れたりしないだろう.森に住む何百頭ものカリブーの群れが丘の頂きを流れる様子を見ることもない.針葉樹の間を貫く灰色狼の遠吠えが響くのを聞くこともない.しかし,春のたびに,亜寒帯の森林は私たちに届けてくれる.森が世界中に飛び立つことを許し,また呼び戻す鳥たちだ.そして,もし私たちが賢明であれば,それはいつもそうであろうが,・・・ 私はポーチに座って鳥のさえずりが去りゆくのを聞いていた.」
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The Economist, May 20th 2006
The battle for Latin America’s soul
Latin America’s economies: Improving on the Latin rate of growth
Bad memories in China: The cultural what?
Japan: Ikonoclast
Immigration: Cross-border suspicions
(コメント) 通貨・経済危機と低成長はラテン・アメリカ諸国の政治を左派寄りに傾けました.しかし,左派にも大きな違いがある,と記事は主張します.健全な通貨や経済状態を維持して,貧困解消のために教育や社会政策の改善に努める社会民主主義と,資源を国有化して外国企業を追い出す,過激なポピュリストたちです.
他方,中国に対する批判は的を射たものです.文化大革命であれ,大躍進であれ,中国政府は過去の失敗を認めません.社会不安を引き起こすから,という理由ですが,過去についての真実を隠す姿勢は,改革の正統性や,日本との歴史認識にも,間違った影響を与えるでしょう.
そして,日本の政界が年金制度の改革という重要な論争を避け,小泉後の総裁レースに都合の良い論点だけを示すのも,メキシコ国境に双眼鏡を持って集まるミニッツマン(いわゆる自警団)たちが,広大な土地を擁しながらも,保守派の強硬策に歓声を上げるのも,正しい発言や影響力のメカニズムが欠如した世界を実感させます.
The Economist, May 20th 2006
Currencies: On the slide
Financial markets: Playing with fire
Thinking big: A survey of international banking
(コメント) 通貨価値が動揺し,株式市場や債券市場も値を下げだした.G7は人民元を引き上げてドルを下げるべきだ,などと決まりきったことを言うが,本当に市場が動き出したら,誰にも止められないのではないか? そもそもドル安が不均衡を解消するとは言い切れない.
そんな折に,ゴールドマンサックスの社長が財務長官になったけれど,まだこのThe Economistはそれを知りません.ただ,国際金融市場において復活した銀行(商業銀行であれ投資銀行であれ)を特集しています.その中心問題は,銀行はどこまで大きくなるのか? 最適通貨圏や世界単一通貨が問題にされますが,銀行業の最適規模や,世界最大の銀行の上限規制,などというのは,なんとも泥臭く,帝国主義や犯罪組織の歴史を調べるような作業です.
なぜこれほど銀行の規模が大きくなるのか? それは,日本の場合,周辺部における不安定性を管理するためかもしれませんし,欧米では,経営者の支配欲とリスクに賭ける体力を保持したいから,といった理由です.