IPEの果樹園2006

今週のReview

5/29-6/3

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :モンテネグロ独立1989年と1978年,国際秩序の主体

安全保障 :イラン,虐殺と和解

貿易・投資 :調整過程と調整政策

通貨・金融 :新興市場投資世界株価の下落金融政策の自動化

世界統治 :グローバリゼーションのワクチン一人の国籍剥奪移民政策

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


NYT May 18, 2006

The Fever for Exotic Stocks

By LANDON THOMAS Jr.

(コメント) あなたにザンビア政府の国債を買う勇気はあるでしょうか? 新興市場への投資は,カジノよりも投機的です.ちなみにザンビアの通貨クァチャ建国債は,銅価格の上昇により,年40%の高利回りを実現したとか.

LANDON THOMAS Jr.は,1990年代に何度も危機を生じた新興市場への記憶が早くも薄れて,裕福な諸国のヘッジファンドや個人投資家たちが高利回り債券に群がっている様子を,ある投資家の言葉を引いて,「ランプに集まる蚊の群れ」と表現しています.また,他のプロの投資家は,原油価格がもうすぐ100ドルになるぞ,と言ってベネズエラの石油関連株を買う人々の話を聞いて,市場から撤退するべきだと考えます.

確かに,新興市場や,今ではBRICsと呼ばれる諸国の株式相場は高騰しています.利回りが高ければ,人々はリスクも高いということを忘れてしまうのです.裕福な諸国の株価が一斉に下げ始めた時期に,新興市場がいつまでも高騰を続けるはずがありません.しかし,新興市場にはドルの外貨準備が貯まっており,マクロ経済指数は健全化し,輸出超過によって投資しても安泰に見えます.むしろ歴史的パターンは逆転し(!),アメリカこそが新興市場からの資本流入に頼っているのです.

中国や韓国が数兆ドルの外貨準備を持ち,ロシアのガスプロム(史上初の1兆ドル企業になる!)や韓国のサムソン電子こそ世界企業の先頭を走っている世界で,今さら新興市場への投資に慎重になる必要などあるのか!? すでに今年の新興市場向け資本流入は330億ドルを超え,年間史上最高額を更新し続けているようです.

インド,ロシア,パキスタンなど,株式から不動産まで,ヘッジファンドだけでなくJ.P.モルガンやメリルリンチなどが,地元の提携先を見つけて投資を拡大しています.そして,アメリカの財政赤字もあって,新興市場とアメリカ財務省証券との利回りの差は縮小しています.しかし,トルコ,アルゼンチン,メキシコで,株価を上昇させている最大の買い手がヘッジファンドであるような状態が,いつまでも続くはずはありません.

ひとたび資本移動の乱気流が生じれば,すべての投資家たちは吹き飛ぶときが来たことを知るわけです.


YaleGlobal, 18 May 2006

Europe Faces Globalization ? Part II

Bruce Stokes

失業に対するワクチンを打っておくこと.デンマークの労働者たちは「フレキシ=キュリティー」によって職場を保証されています.

一方,ワシントンでは,サラントSarah Surrattが貿易戦争の犠牲者の列に加わりました.サラントさんは,その職場が1992年にメキシコに移転するまで,ノース・カロライナのKannapolisにあるAllied Signal21年間働いてきました.幸い,地元の繊維メーカーPillowtexに管理職の補助ポストが見つかった.しかし,20037月,Pillowtexが増価する輸入品との競争に耐えられず閉鎖され,4800人の労働者と一緒に解雇された.その後,サラントさんは地元のコミュニティー・カレッジで仕事を見つけたが,給与は29%も減った.

サラントさんは例外ではなく,アメリカの平均的な労働者が貿易のせいで職を失い,二人のうち一人は新しい職場で給与を減らしている.最近の研究では,輸入のせいで閉鎖された工場の解雇された労働者について,10人中3人が1年以上経っても仕事が見つからない.

失業が長引き,給与が減ることに対して,アメリカの労働者たちが,ドイツ,フランス,イタリアなど,工業諸国の労働者と同じく,貿易が自分や家族に及ぼすマイナスの影響を懸念するのは当然だ.

アメリカのエコノミストや経営者は,イギリスもそうだが,長い間,そのような気分を保護主義と嘆いてきた.むしろグローバリゼーションの利益に注目して,国際競争により生産性が刺激され,低コストの輸入品で消費者は利益を受ける,という具合に,アングロサクソン型グローバリゼーション崇拝者たちは,より開かれた経済がもたらす人的・社会的なコストを無視してきた.

アメリカとイギリスの自由貿易擁護論では,世界で競争するためには,経済を開放し,弾力的な労働市場を備えて,変化する市場環境に合わせて急速に調整すべきなのだ.現代の世界で,敗者の要望に注意することは,破滅的な経済的硬直性であり,余りにもフランス的だ,と非難されるだけだ.

しかし,道義的に,競争のために同情心を否定することは受け入れがたい.実際,世界的な市場で成功し,かつ,社会的にも責任ある経済を維持することは可能である.デンマークがその例である.デンマーク人がグローバリゼーションに対応した「フレキシ=キュリティー」と呼ぶ政策は,労働市場の弾力性(フレキシビリティー)と社会のセーフティー・ネット(セキュリティー)とをバランスさせている.

デンマークはその成果として,ヨーロッパ再考の就業率,長期的失業者の劇的な減少,工業諸国中,最も平等な所得分配を実現している.

「フレキシ=キュリティー」は,三つの要素を正しくバランスするときに成功する.企業が雇用と解雇を容易に行えること,労働者が進んで変化を受け入れること,政府が十分な失業手当と職業訓練・支援を与えること,である.

現在,デンマークは世界で最も弾力的な労働市場の一つである.世銀の指標(100が最悪)でも,デンマークは20,ドイツ55,フランス66,である.

一つの理由は,デンマークにおいては新規雇用によって発生する課税で見た追加コストが非常に少ないことであり,それは給与のわずか0.7%,ドイツでは21.3%,フランスは47.4%である.

多くのヨーロッパ諸国と違って,デンマークには労働法が少ししかない.だから労働者の4分の3以上が生産の変動に合わせて平日の労働時間を変化させることができる.

変化に抵抗しない代わりに,労働者は強固なセーフティー・ネットを得ている.デンマークの最低給与を得ている失業者は,失った給与の90%をを受け取る.それ以上高い給与を得ていた労働者は,比例的に,支払われ利失業手当の割合が減少する.

こうした手厚い給付があっても,失業者の半分は6ヶ月以内の再雇用され,1年以内に70%がこのシステムを抜け出す.アメリカでは,平均的な失業者の給付期間が15.9週間と報告されているが,彼らが再雇用されたのかどうか分からない.

それが成功するには,政府の厳しい愛の姿勢が重要だ.失業して1年たつと,人々は異なる分野で職業訓練を受けねばならない.彼らに選択肢はない.もし仕事を拒めば,給付も切られる.

「フレキシ=キュリティー」の第三要素は,労働者に熟練を磨き,新規雇用を見つけることへのデンマーク政府の関与である.企業は短期の研修を引き受け,政府は訓練コースや利労働者給与への支払いを引き受ける.もし雇用主が彼らを引き受け,再訓練するなら,政府は失業者の初期給与の一部も支払う.そうした給付額は大きく,課税額は2004年デンマーク経済の49.6%に達する.これに対して,フランス43.7%,ドイツ34.6%,アメリカ25.4%である.

公的支援の結果,2003年調査によれば,デンマークの労働者の半分以上が過去12ヶ月に補足的な訓練や技能向上のコースを受けた.それは他のEU諸国より多い.

より良い訓練は,企業に新しい,より弾力的な労働組織を導入可能にし,デンマークを世界的に競争できる状態に維持する.たとえば,Unimercoは,デンマークの高度に専門化した工具メーカーであって,釘うち機から自動車や宇宙船に必要な専門的ドリルまで作っている.同社はデンマークで最も優れた職場に選ばれたが,それは労働者の小さなチームに合わせて生産を組織し,生産労働者のすべてに同じ給与を支払い,同社の半分を所有させているからだ.

「フレキシ=キュリティー」のコストは安くない.デンマークが所得維持と労働訓練に支払う額は,GDPの4.4%であり,ドイツ3.5%,フランス2.95%,アメリカはわずか0.5%である.

EUの低成長,競争力低迷で,デンマークの経済・社会モデルが成功したことに欧州委員会は関心を向けている.2007年末には,「フレキシ=キュリティー」に関するEUサミットが予定されている.

しかし,「フレキシ=キュリティー」の移植は容易ではない.ドイツのシュレーダー前首相は失業手当の給付期間短縮によってデンマークの改革をまねようとした.しかし行政府は,デンマークほど労働者指導員が厳格でなく,その結果,コストは減少せずに増加した.フランス政府は若者の雇用を容易にするはずだったが,パリで暴動を招いた.

デンマーク人に言わせれば,要素をつまみ食いしても成功しないのだ.その教訓は,十分なセキュリティーなしには,フレキシビリティーは抵抗を受ける,ということだ.

同時に,経営の弾力性と労働者のセキュリティー・ネットの求める圧力は,アメリカでも,グローバリゼーションにおいて生じている.長期失業者は増えており,賃金水準は低迷している.

しかし,民主的福祉国家の典型のようなデンマークが,ポスト・レーガン時代のアメリカで,モデルになるとは思えない.小さな政府,低税率,問題は市場によって解決せよ,である.だからデンマークは処方箋ではなく,あくまで示唆にとどまる.

それでもデンマークの経験は,より適応力のある労働力,潤沢な失業手当,強制的な再訓練,という組み合わせが労働者・企業・国をますます競争的になる国際経済で優れた成果をもたらすことを示している.同じグローバリゼーション型の市場圧力と社会問題に直面するとき,非北欧ヨーロッパやアメリカは,独自の「フレキシ=キュリティー」ワクチンを開発するべきだろう.


Christopher Caldwell Hirsi Ali case only the start FT May 19 2006

A Victory for Intolerance in Holland NYT May 19, 2006

IAN BURUMA Hard Luck for a Hard-Liner NYT May 19, 2006

(コメント) ソマリア出身の難民で,オランダ国籍を取得していた著名な作家,その作品を映画化したTheo van Goghが殺されたとき,イスラム原理主義から名指しで暗殺の脅迫を受けて,オランダを永住の地として信頼し,その優れた才能を発揮して,見事に同化し社会貢献してきたAyaan Hirsi Aliが,新しい移民法のせいで国籍を剥奪されました.彼女はオランダ議会の議員として選出されるほど,尊敬された市民でした.アンネ・フランクを生んだオランダ政府と国民が,反対の声を抑えてこのような判断を支持したことは,ヨーロッパ社会が歴史的な人種差別や移民排斥という精神病を再発したという意味で,ルビコン川を渡った瞬間である,とChristopher Caldwellは厳しく批判します.

オランダのように小さな,集住型の先進的民主国家で,「多文化主義」は可能なのか? という問題をNYTは指摘します.オランダの世論は,より強制的な同化政策と移民規制に傾き,彼女は議員を辞職しました.NYTは,女性の抑圧とイスラム原理主義に反対する彼女の意志を称え,彼女がAyaan Hirsi Ali であれ,本名のAyaan Hirsi Maganであれ,アメリカに移住する意志を持っていることを歓迎したい,と書いています.

Ian Burumaは,移民法とこの事件をめぐるオランダ政治の内情を解説します.


FT May 19 2006

Echoes of late eighties crash persist in markets

(コメント) 裕福な諸国から新興市場にまで,株価の上昇に沸いています.それが一斉に動揺し始めたとき,多くの人は1980年代を思い出します.株価暴落の原因は,投資家心理によるところが大きい,というわけです.

一つ.株価の「大バカ理論the Greater Fool Theory.投資家たちは,1980年代にも,株価が既に過大評価されていることを知りながら,それでも株を買い続けました.なぜか? もちろん,株価が上昇し続けたからです.たとえ過大評価された株でも,売ろうと思えばいつでももっとひどいバカが買ってくれるのだから,自分が買うのは悪くない.しかし音楽は止み,気がつけば,その大バカとは自分のことだ,と分かるのです.

二つ.プログラム売買.取引に最新のコンピューターが導入されて,ある価格を切ると自動的に売りが指令された.コンピューターたちは,誰かがスイッチを切るまで,次々と価格を設定しなおして,売り続けた.しかし今では,膨大なデリバティブを含む,はるかに複雑な取引が,物理学の博士号を持つ者たちによってプログラムされています.

三つ.当時は,日本の株価のほうがはるかに危なかった.他に危ない相場があれば,自分たちのことを忘れてしまう.しかし実際は,ダウが1987年に暴落してからも東京市場は上昇し続け,さらに50%も高い水準で1989年にようやく大暴落した.しかも,ニューヨークの相場は1987年を小休止として2000年まで上昇し,バブルがはじけた.東京市場は今もピークの半分でしかない.

株価はそれほどでもない,と言うものの,石油から油絵まで,何でも価格が上昇しています.低金利が終わるかもしれない,と政府や大企業が水増しした最後の資金調達に駆け回っているとしたら,再び大暴落も近い,と感じるわけです.

NYT May 19, 2006

Coming Down to Earth

By PAUL KRUGMAN

Asia Times Online, May 20, 2006

Global economy headed for danger

By John Berthelsen

FT May 20 2006

The return of fear to world stock markets

LAT May 22, 2006

World markets' wild ride

Niall Ferguson

FT May 23 2006

The rightfully anxious ‘Mr Market’

By Martin Wolf

May 19 (Bloomberg)

Making a Fortune in China and Choking on It

William Pesek Jr.

May 24 (Bloomberg)

Plunging Tiger, Booming Dragon? Don't Panic

William Pesek Jr.

(コメント) PAUL KRUGMANは,株価が下げたことより,今まで挙げ続けたことを疑問とします.なぜなら,株価が昨年秋から上昇したのは,アメリカの個人も企業も支出を増やし続ける力がある,と信じたからです.2005年には,貿易赤字,ドル高,住宅バブル,ガソリン価格の高騰,などがあっても,借り入れを増やしながら消費を拡大できる・・・ようにも見えました.

しかし,この数週間は,重力が再発見されています.日本では,かつて笠信太郎が『花見酒の経済学』を書きましたが,KRUGMANが指摘したのも同じ話です.アメリカの消費者は住宅を買って,それを高く売れるから,ローンと消費を増やし続けた,と.ただし,アメリカの消費に融資してくれるのは中国政府ですが.

重力が働くようになれば,アメリカは外国に証券を売るのではなく,商品やサービスを売らなければなりません.問題は,その調整がどのように起きるのか? 調整にかけられる時間はどれくらい残されているのか? なのです.バーナンキは,秩序正しく,緩やかに調整できる,と考えます.そうかもしれません.しかし,KRUGMANは懐疑的です.

先週,水曜日の下落率は,ロンドン市場で過去3年間における最大でした.ドイツのDAX index 3.4%,フランス CA 3.2%,アメリカthe Dow Jones Industrial Average 1.8%,そしてthe Nasdaq Composite 1.5%the Standard & Poor's 500 1.7%の下落です.インフレ懸念による中央銀行の金利引き上げで,国際商品価格も下落するでしょう.バーナンキは,インフレを放置するべきでしょうか? それとも暴落を放置するべきでしょうか? John Berthelsenは,アメリカがカーター政権時代のスタグフレーションに戻るかもしれない,と考えます.

4月後半から5月前半のピークに比べて,the FTSE 100 index 7.5 %, the S&P 500 4.6%,the Eurotop 7.1%,日経 225 8%,この10日間で下落しました.FTの判断は,まだ暴落には早いが,風向きが変わった,と.新しい議長としてバーナンキは,過去と同じように,インフレとドル安に挟撃されています.パニックには早いが,警戒するに越したことは無い・・・

ブレトンウッズ体制やパックス・アメリカーナ(アメリカの覇権)が懐かしい? それらが失われた世界で,アメリカ経済の調整過程は円滑に進むでしょうか? いやいや,これは成功のもたらした代価である.貿易,金融,投資,規制緩和,弾力化,健全化,・・・すべてが(予想以上に)うまく行ったからこそ,「Mr.マーケット」は不均衡を維持する自信を深めた.しかし,歴史から学べば,うまく行ったように見えても,その次に破綻することがある.「Mr.マーケット」も,所詮,人間であり,成功ゆえに過信し,過度の楽観で身を滅ぼす.

William Pesek Jr.は,中国とインドへの資本流入を除けば,アジアは変わった,と考えます.中国では,香港が示すように,もし金融危機が成長を止めなければ,大気汚染や所得格差が爆発するでしょう.


The Guardian Friday May 19, 2006

Big dams, big problems

John Gittings

WP Sunday, May 21, 2006; B03

Heard the One About the 600,000 Chinese Engineers?

By Gerald W. Bracey

Asia Times Online, May 23, 2006

China: Embrace the competition

By Axel Merk

(コメント) 中国は三峡ダムを完成し,毎年60万人のエンジニアを育て,激烈な市場競争を国内で行いながら,品質改善にも急速に進化を遂げている・・・!

アメリカもヨーロッパも,石油や国際商品価格の高騰に対して,製品市場では中国との競争があり,価格を引き上げることは難しく,生き延びるためにますます多くの企業が中国へ流出して行きます.低賃金労働力,ハイテク技術者,競争的で,弾力的な市場システムが急速に拡大する,現代中国を世界市場が統合することで活力を得るか,つぶされるか?


BG May 19, 2006

Guests at the melting pot

By Ellen Goodman

NYT May 19, 2006

The Day an Immigrant Refugee Can Say, 'I'm an American'

By HELENE COOPER

WP Friday, May 19, 2006; A21

Why Is Border Security 'Conservative'?

By Charles Krauthammer

BG May 20, 2006

A glimmer of leadership on immigration

By Robert Kuttner

NYT May 20, 2006

Press One for English

(コメント) メルティング・ポット派とゲスト・ワーカー派が対立しています.移民はあるときは英雄であり,あるときは犯罪者です.移民の二つの流れは,一方でハイテク企業の億万長者CEOの席に,他方はレストランの裏口や芝刈り機につながっています.ブッシュ大統領は,地下経済で生活する多くの移民労働者たちを陽のあたる場所に迎えたい,と演説しますが,反対派は,二流の市民を作り,同化を妨げるだけだ,と批判します.

HELENE COOPERは,彼女の母が1990年にリベリアから逃れてアメリカにわたり,ようやくアメリカ市民になった様子を描いています.永住権ではなく,アメリカの市民権を得ること.星条旗の前で宣誓し,アメリカの理想に従うことは,彼らの誇りとなります.

Charles Krauthammerは,大統領の善意は信じるが,それだけでは正しいことを行えない,と批判します.なぜなら,決定的要因は国境管理だからです.非業移民の流入と合法化(国籍付与)を繰り返しても,問題が悪化するだけでした.唯一の実行可能な対策は,壁を築くことです.トンネルや海岸線から流入する,という反論は間違っている,とKrauthammerは考えます.

これは保守でもリベラルでもない.国境管理が行われて始めて,非合法移民を合法化できるだろう.移民ではなく,その非合法性を取り除けるだろう,と.

ブッシュ大統領の提案は,もちろん,政治的な妥協と個人的な理想,選挙の計算などによる折衷・混成案です.合法化や犯罪者扱いを避け,市民権取得に含みを残し,人員補充や部分的な壁を認め,ゲストワーカーや雇用主への処罰を盛り込む・・・ 特に,国籍取得には英語の能力をテストする,という点が論争になっています.

LAT May 21, 2006

Get out, but leave the quesadilla

By Michael Skube

NYT May 21, 2006

An Immigration Bottom Line

LAT May 23, 2006

Borders without visas

By Tim Cavanaugh

(コメント) アメリカ人が移民について抱く矛盾した感情.アメリカ人のアイデンティティーや英語とスペイン語の争い.言語,住居,教育などをめぐる同化の問題.優れた移民政策は,その国の価値を尊重し,国籍を得ようとする望ましい人々の意欲を殺ぐことなく,二流の市民を作ったり,永久に法的な地位を拒むことも無く,新しい入国希望者を法に従って公平に扱い,労働法を厳格に守らせ,移民の合法的な入国が遅れることのないように,迅速に処理しなければならない.

Tim Cavanaughは,安全保障と経済学の観点から,移民の完全自由化を支持しています.9・11により,移民や国境警備と安全保障とを結びつけるのは間違っている.南北の国境線を閉ざすことは,テロリストを防ぐ足しにならない.むしろ国境を開放したほうが移民たちは危険なルートを取ることもなくなる.いつでも戻ってこれるなら,失業した移民たちはメキシコに帰るだろう,と.それらは移民規制が始まる以前の歴史によって,概ね支持される,と主張します.

カナダ,アメリカ,メキシコが,その国民に自由移動を認め合うことは,決して愚かな提案ではありません.


Gordana Djurovic We can no longer tolerate this dysfunctional union The Guardian Friday May 19, 2006

Marian Tupy Montenegro must be friendly to business FT May 23 2006

Montenegro goes solo FT May 23 2006

Neil Clark Never mind the Balkans The Guardian Tuesday May 23, 2006

Mirjana Tomic Balkanized, again IHT TUESDAY, MAY 23, 2006

Montenegro's challenge to Europe CSM May 25, 2006 edition

The Montenegro model BG May 25, 2006

(コメント) モンテネグロが住民投票によって独立を選択しました.世界で193番目に生まれた最新の国家です.人口70万人(あるいは612000人とも).旧ユーゴスラビアの多人種,多宗教,共和国です.これ以上,混乱した連邦制にとどまることは難しく,独立と経済協力を模索する道を選びました.EUの中でキプロスやルクセンブルグは繁栄しており,モンテネグロも既にユーロを使用し,インフレ率は1.8%に抑えられています.他方,セルビアは通貨ディナールを使用し,インフレも18%です.

Marian Tupyは,アダム・スミスの言葉をモンテネグロの指針として示します.「最悪の野蛮さから再考の豊かさに国家を高めるものとは,平和,簡素な租税,そして法を守るために受け入れられる程度の政府,でしかない.」 それさえあれば,モンテネグロもユーゴ内戦の野蛮さを抜け出し,最高の豊かさを目指し始めることができる,と.実際,EUとNATOがあれば,内戦によって破綻した政府の支配から抜け出すことは,他の地域には想像もできないほど,容易になるでしょう.

しかし,国家を分割できるのは,通常,戦争のような深厚な混乱によってだけです.戦乱を逃れてスペインで暮らすMirjana Tomicは,「独立」の声にも不安を覚えます.彼のパスポートはユーゴスラビア政府が発行し,最近までセルビアが承認していました.今後はどうなるのか? 年金も,資産も,分離された家族も,・・・ 国家の分割は多くの交渉すべき問題を残します.それは協力して解決しなければなりませんが,分離した諸国がそのような姿勢を示すことは難しいでしょう.異なる言語やエスニシティーを持つ人々はナショナリズムの加熱を恐れます.

紛争地域の指導者や各地の分離独立運動が次々に「国家」を要求することは,多くのEU加盟諸国にとって不安(さらに悪夢)でもあります.CSMはEU外交がモンテネグロに対して動揺し続けてきたことを指摘します.そして,次は流血と怨嗟を今も色濃く残す,コソボ独立が問われます.


John Swenson-Wright Springtime in North Korea The Guardian Friday May 19, 2006

Anna Fifield Washington and Seoul pull different ways on N Korea FT May 21 2006

Bertil Lintner North Korea's creepy-crawly capitalism Asia Times Online, May 26, 2006

Don Kirk Never mind missiles, stay on the rails Asia Times Online, May 26, 2006

(コメント) ついにアメリカも北朝鮮との和平協定や,ニクソン訪中のような外交政策の劇的転換を考えるでしょうか? あるいは,非武装地帯を越える朝鮮半島の経済特区が発展し,中国・ロシア・韓国の協力により,その他の問題を先送りにして事態を転換してしまうのでしょうか? あるいはアメリカが,ジミー・カーターの時のように,韓国に歩み寄って北朝鮮の核の平和利用と開発援助に歩調を合わせるのでしょうか? そのような各国の食い違いは,時間がたつほど,北朝鮮の地下倉庫に並ぶ核兵器を増やすわけです.

アメリカや日本が経済制裁をしても,北朝鮮企業は北京やバンコクで繁栄し,韓国からの鉄道も開通します.


NYT May 20, 2006

Putin's Baby Love

By VIKTOR EROFEYEV

WP Wednesday, May 24, 2006; A23

Behind The Birth Dearth

By Robert J. Samuelson

(コメント) プーチンのロシアと日本が似ているところは,他にもあるでしょうが,子どもが少ないことです.年に70万人が減少している,とプーチンは訴えます.子供を育てることは面倒で,不合理だという人々,心理的負担,将来に対する不安.中国では一人っ子政策を取っているために,それ以上生まれた子供はロシアに輸出しようか,という奇妙なビジネスも考えられているとか.つまり,国際養子仲介や,孤児の売買です.ただし,実際は今まで,ロシアはこの分野の輸出国でした.

出産に資金援助する,というのは日本政府と同じです.プーチン大統領は,若者が国防にも必要である,と訴えました.しかしEROFEYEVは,ロシア人が酒に頼らず,政府が国外の敵や味方を選別することに動き回るのをやめて,石油価格の高値を利用するのではなく,人々が道徳的な退廃を抜け出せた日に,ロシアの美しい子供たちも待ちに帰ってくるだろう,と期待します.

Robert J. Samuelsonは,富裕国で人口爆発の時代が終わったことを指摘します.人口減少の何が問題なのか? 年金が破綻し,労働者が減り,消費は抑制され,税金が増え,・・・ 福祉国家と重税は,老後の不安を減らし,子供を育てる意欲や,結婚する経済的余裕を失わせます.ただし,子供を産まないことは,移民が流出することと同じように,その国の将来に対する拒否反応です.この国では子供を愛することもできない,と思うほど.


NYT May 20, 2006

Gambling on a Weaker Dollar

FT May 25 2006

Falling dollar sets test for Asia and Europe

By Martin Feldstein

(コメント) いずれの論説も,アメリカが対外不均衡の調整過程を開始したことについて,不況ではなく,アメリカ国内と各国の協調によって円滑に実現する必要性を訴えています.

調整のためにドル安はもちろん必要ですが,もしアメリカ議会が減税にこだわって国内の貯蓄を増やさなければ,調整は成功せず,大幅なドル安と金利の高騰を招くでしょう.最悪の場合,アメリカ発の世界不況に向かうのです.

また,ドル安が調整をもたらすのは,アジアの主要な黒字諸国が通貨の増価を受け入れ,輸出の減少を受け入れるときです.それが各国で失業をもたらさないよう,国内需要を増やす刺激策が必要であることを意味します.

ドル安を促しているのは誰でもなく,まさに市場の力です.しかし,それに反応する主要諸国の政府や中央銀行は,これが世界的な調整過程を前向きに実現する協調プロセスであることをよく理解して,それぞれが積極的に行動しなければなりません.


NYT May 21, 2006

Darfur's Fleeting Moment

By ANTHONY LAKE and FRANCIS FUKUYAMA

(コメント) 左右両派の外交の専門家が,ダルフールに対する国際介入をアメリカ政府が積極的に支持するよう求めています.21世紀最初の大量殺戮を止め,破綻国家がアル・カイダを育てることのないように秩序を回復すべきである,と.ブッシュ政権は非難声明だけを繰り返し,人々の窮状を実際に救う活動を避けており,その結果,強姦,殺戮,飢餓が広がるのを放置するようなことになってはならない,と.

和平合意を守らせるために,軍事物資を供給し,軍事情報を提供し,軍事顧問を送ること.既にダルフールに展開するアフリカ同盟の軍隊を支援し,計画中の国連平和維持軍を支持し,NATO軍も動かすこと.スーダン政府が空軍を使用しないように飛行禁止区域を定めること.合意に従わない場合,一層の経済制裁を発動し,関係諸国にも協調して制裁させること.


NYT May 22, 2006

Corn Laws for the 21st Century

(コメント) 「21世紀の穀物法」とは何か? それはブラジルから輸入されるエタノールにかかる関税を引き下げる論争です.ブッシュ氏は関税を引き下げて,ガソリン価格を下げたい,と考えます.他方,議会は関税を決めることが議会の権限であり,とうもろこし農家に重要な需要を与えていることを守ろうとします.

記事は,もちろん,関税引き下げを求めるとともに,石油に代わる代替エネルギーの開発を促すあらゆる政策手段を求めています.


BG May 23, 2006

US could benefit from a give-and-take strategy with Iran

By Clifford Kupchan and Ray Takeyh

(コメント) アメリカ政府は,結局,経済的な譲歩を含めてイラン政府に核開発を諦めるよう説得するしかないのです.なぜなら,イラン大統領が示す強硬派は,特に革命防衛隊は,核開発を放棄せよという要求を,アメリカがイスラムの価値を否定し,イランの政治体制を転覆するために主張している,と信じているからです.たとえ核を放棄しても,アメリカは次に人権を問題にする.人権が解決しても次はアニマル・ライツだ.・・・だから,核武装して体制を守るしかない,と.こうした実存的な信念に対して,核放棄を受け入れさせることはできません.

しかし,イランには異なる考え方もあります.ラフサンジャニ師らによる聖職者の体制は,より柔軟で,国際的な孤立を避けようとします.インドのように,最終的にはNPT体制に入って,時間をかけて核技術を得ることも支持するでしょう.あるいはハタミ氏のように,核を放棄して国際社会の信頼を得たほうが良い,と考えるグループもいます.

アメリカが強攻策を取るほど,イランはアフメドネジャド大統領の強硬な発言に傾くでしょう.


IHT TUESDAY, MAY 23, 2006

Let's learn from global health failures

Carol C. Adelman

LAT May 23, 2006

Africa: the corrupt continent

By Michael Holman

(コメント) 開発や援助の政策,基本方針は,今も決まった答えがありません.たとえば,WHO(世界保健機構)やエイズ撲滅の運動が,なぜ成功しないのか? 誰も反対するはずが無いのに? そして,ウォルフォヴィッツの世界銀行が唱える汚職・腐敗追放も,なぜ実現しないのか?

イギリスのゴードン・ブラウン蔵相は言いました.「19世紀の問題は,われわれはアフリカに対して何をするべきか,であった.20世紀の問題は,われわれはアフリカのために何ができるか,だった.21世紀には,力をつけたアフリカが,自分たちで,何をするのか,を問題にする.」


FT May 24 2006

Global change needs flexibility, not a fixed rule

By Edmund Phelps

(コメント) 金融政策のオートメーション化,<裁量>よりも<ルール>に従う,インフレ・ターゲットに対する反論です.

フリードマンが示した貨幣供給量のルール,ジョン・テイラーが示した短期金利のルール,そして,ルールを修正するルール,・・・ それでもモデルは正しいのか? 経済の構造が変化するときはどうするのか? 要するに,知識は不完全であり,過去と違う形で構造的な関係が変化し続けるのだから,ルールも新しい不確実性の源泉でしかない.固定したルールによって<裁量>の余地を与えないほうが,むしろ危険である,と.


Asia Times Online, May 24, 2006

Russia plays nuke card with Vietnam

By Sergei Blagov

Asia Times Online, May 24, 2006

'The Great Game' comes to South Asia

By M K Bhadrakumar

(コメント) ロシアは,東南アジアの資源をガスプロムに開発させるため,ベトナムに核技術・兵器を供与するというカードを使うかもしれません.

中央アジアから南アジアまで,「グレート・ウォー」が始まっています.軍事拠点,武器援助,軍事顧問,パイプライン敷設,・・・ 中国,アメリカ,ロシアだけでなく,インドも参加します.


The Guardian Thursday May 25, 2006

Workers will carry on striking until they get a life

Richard Sennett

(コメント) 世界中で,いつの時代も,労働者の抗議は起きています.イギリスでは工場労働者たちがストライキを行い,アメリカでは移民労働者たちが市民権を求めてデモを行い,中国では出稼ぎ労働者たちが賃金や労働条件の改善を求めて集会を開きます.

Richard Sennettの論説は,労働者が自分たちの運命をほとんど左右できないにも関わらず,今もヴィクトリア時代の勤労精神や責任感を持って戦い,抗議の声を上げている,と指摘します.その含意が何かは,読み取れませんでした.しかし,グローバリゼーションが進むにもかかわらず,労働争議が伝統的な姿を守ろうとするのは,労働者たちの生活を貫く理想に関わるのかもしれません.


FT May 25 2006

Unlocking the door to history’s atrocities

By David Scheffer

(コメント) 過去の残虐行為,大量殺戮,を経験した社会が,その後も互いに和解できない事例は,世界中にあります.グローバリゼーションを受入,共通の価値を尊重するためには,過去における犠牲者と侵略者という問題を解決しなければなりません.

セルビア,トルコ,日本,ソ連・ロシア,ラテンアメリカ,アメリカ,・・・ 論説は二つのことを求めます.学者たちが集まって,共通の歴史的な事実認識を積み上げること.インターネットによって,だれでも互いに間違った認識を是正できること.

しかし,私はこの二つがともに機能していない,と悲観的です.


The Guardian Thursday May 25, 2006

If the 20th century ended in 1989, the 21st began in 1978

Martin Jacques in Beijing

(コメント) 1989年を20世紀の週末として歴史の転換点に記録することは,誰もが同意するはずです.このとき1917年に始まった共産主義の試みは終わりました.アメリカは唯一の超大国となり,旧ソ連圏は解体して,グローバリゼーションに飲み込まれます.

しかし,1989年よりも重要な年代をMartin Jacquesは掲げます.それは1978年です.ケ小平が中国に開放政策を導入し,二桁の成長と,その後の社会変化,将来に及ぶ国際秩序の転換を引き起こしました.1978年の衝撃は今も世界中を変化させ続けています.

1989年は20世紀の終わりであったけれど,1978年こそ21世紀の始まりであった,と.

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The Economist, May 13th 2006

Axis of feeble

Japan and its neighbours: A giant stirs, a region bridles

Google: Fuzzy maths

Economics focus: Baby boom and bust

(コメント) IPEを学ぶと,常に,国際秩序はどうなるか,を考えます.それは,誰が,なぜ,いつ,どうやって変えるのか? 何のために?

アメリカもしくは英米同盟が,アルカイダなどのテロに対して,あるいは,世界の不安定化する秩序に対して,軍事的な反撃を試みてきました.たとえ成果は好ましくないとしても,続けるべきだ,とThe Economistは主張します.東アジアでは,日本(の支配政党)が近隣諸国との急変するバランス・オブ・パワーを経験し,軍事同盟強化や憲法改正を準備しています.

否,そんな古典的ゲームではない.グーグルが構築しつつある未来の「グローバル・ブレイン」こそ,もしかすると,秩序の主体となるでしょう.マイクロソフトによる支配を終わらせます.そして,アメリカのベビー・ブーマーたちは,引退する際に,移民法を改正してメキシコ移民を歓迎するか,アジアの投資家たちをウォール街に勧誘するか,それとも,スポーツジムや病院に通って若さを保ち,働き(そして投資し)続けるか,と考えるわけです.


Russia and the West: In search of a Putin policy

Russian nationalism: Playing a dangerous game

Cheer up: A survey of Poland

(コメント) ロシアを孤立させるのは間違いです.その石油資源を政治的に利用するのはロシア国民の利益にもなりません.西側からの民主化や人権擁護の要求に対して,ロシア・ナショナリズムを称揚し,ネオ・ナチや人種差別,秘密警察を容認する結果,彼ら自身がますます貧しくなる道しか残りません.

他方,ロシアを嫌い,共産主義を嫌い,ソ連崩壊後の自由化を嫌い,カトリック教会と曖昧な新生プログラムを信用する国民に支持された,「秩序と正義」を唱えるアマチュア保守主義集団がポーランドの権力を得ました.しかも,若者の半分はEU諸国に流出してしまい,残りの半分も出稼ぎの準備をしています.ソ連の軍隊に逆らって民主化を勝ち取った勇敢な人々も,自分たちの腐敗や保守主義を改革できませんでした.政府の無能さと国民の愚かさに絶望した改革派は,通貨危機や経済破綻がポーランドを覚醒することに期待する有様です.