IPEの果樹園2006

今週のReview

5/15-5/19

IPEの種

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

IPE方法論 :大国と小国BNPの人種差別,理想主義と現実主義,アメリカの理想

安全保障 :東アジア

貿易・投資 :石油価格ドーハ・ラウンド

通貨・金融 :ADBのアジア通貨単位ユーロとプラザU

世界統治 :移民とガソリン,ボリビア,オーストラリア

******************************

ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


The Guardian Thursday May 4, 2006

What a larger Europe needs is small countries able to think big

Timothy Garton Ash in Lisbon

(コメント) 大国と小国.国際秩序をめぐる基本的な枠組みは,国家間の不均等に始まります.EUはその憲章を加盟国の直接投票で否決され,政治統合への見通しを失いました.では何が残されているのか? Timothy Garton Ashは,小国が大国とともに,新しい指導体制を確立してほしい,と願います.小国は大国のように考え,大国は小国のように考える.そのような指導者たちがヨーロッパに育つことです.

現在の議長国オーストリアが終われば,EUの議長は大国と小国の組み合わせで構成されます.次は,ドイツ・ポルトガル・スロヴェニアです.ヨーロッパ諸国の人口規模には,いつも驚きます.オーストリアは820万人.次の議長諸国は,8200万人・1060万人・200万人,です.その次の議長諸国はフランス・チェコ・スウェーデン,さらに次はイギリス・エストニア・ブルガリア,です.

ヨーロッパには多くの小国があります.小国は大国よりも優れた面がある,とAshは考えます.小国は戦争が嫌いですし,大国のような傲慢さがありません.社会的な統合度が高く,ヨーロッパ市民として,安定感と満足度も高いわけです.もちろん,小国に不利な点もあります.特に取引費用が高く,相互の政治交渉や官僚制度の維持に費用がかかることは,経済的損失です.小国は謙虚である反面,地方の特性に固執します.

小国が大国のように考え,行動する素晴らしい例を,Ashはポルトガルや,Jose Manuel Barrosoポルトガル大統領に見ます.ポルトガルにはヴァスコ・ダ・ガマの世界発見やブラジルのポルトガル語人口があります.その思考は,常に,世界を目指しています.また,Jose Manuel Barrosoは,ヨーロッパ委員として,英語を話すときはイギリス人のように考え,フランス語を話すときはフランス人のように考えている,と賞賛します.他にも,オーストリアをバルカン半島や中央における影響力(そしてドイツ語)で,あるいは,ボスニアをキリスト教徒とイスラム教徒の共存を示す点で,優れた小国の例に挙げます.小国から優れたヨーロッパの政治指導者を育てるためには,優れた教育システムが何より重要だ,とAshは主張します.さらに,若い頃から,複数の言葉で,複数の国の習慣に親しむことです.

ドイツ・フランス・イギリスの大国が協議すればEUを動かせる,という幻想は捨てることです.そして,近い将来,EUが完全に一つの連邦国家になると仮定することも非現実的です.すなわち,現実には大国と小国が戦略的な政治同盟を築くことでEU政治を動かせるのです.そのような能力を政治家たちが持てるでしょうか? 小国には希望がある,と.


Brendan O'Neill Genocide? What genocide? The Guardian Thursday May 4, 2006

Jonathan Steele One-sided reporting that is delaying an end to the killing The Guardian Friday May 5, 2006

Darfur Gets a Fighting Chance NYT May 6, 2006

UN Darfur force 'vital' for peace BBC 2006/05/07 15:09:30 GMT

Half a deal for Darfur FT May 9 2006

Matthew Yglesias Is It Genocide? The American Prospect 05.09.06

Hope, if not peace, in Darfur LAT May 10, 2006

Darfur Needs U.N. Peacekeepers Now NYT May 11, 2006

(コメント) ダルフールの虐殺を許すな,スーダン政府を止めろ,・・・国連は軍事介入するべきだ,というのを,アメリカ帝国主義である,とBrendan O'Neillは批判します.かつてパウエル国務長官がダルフールの紛争を「虐殺」と呼んだのは,イラクのWMDを安保理で「証明」した後でした.つまり,イラクで続く不祥事からダルフールに関心を移したかっただけではないか? また,リベラルはナチスによるユダヤ人虐殺の特異性と重要性を隠してしまうのではないか?

TVの虐殺報道が英米政府の関心を引き,難民キャンプへの救援や武装勢力の排除のために軍の派遣が検討されます.物資や資金が必要になり,分離に関する政治紛争に巻き込まれます.一方的な解釈で軍事介入することが,どのような秩序やリスク,それを維持するコストをともなうのか,英米は正確に理解しているでしょうか? AUによる介入であれば良いのか? NATOを動かすのか? Jonathan Steeleは,スーダン政府は国内の深刻な分裂状態を正確に理解していない,と考えます.

しかし,民間人に対する武装勢力による暴行について,国際介入を支持する声は強いです.特に,隣国チャドの政治不安にまで波及するに至る事態に,国際機関や主要国は早期の警戒を示しています.ここでも問題は制度的な保障です.誰が,どのような合意を定め,責任を負えば,秩序が回復するのか? 住民たちは家に帰れるのか? 正当な意味で,誰が強制するのか?

政府が信用できないとなれば,交渉ではなく,軍隊を派遣し,法律を定め,境界を画定して,代表を選び直すわけです.その間,軍隊も食糧も補給するしかありません.


LAT May 4, 2006

Iraq: Get out now

By William E. Odom

WP Thursday, May 4, 2006; A25

Another Way for Iraq?

By David S. Broder

NYT May 9, 2006

Three Iraqs Would Be One Big Problem

By ANTHONY H. CORDESMAN

(コメント) 他方,イラクはどうでしょうか? 「今すぐ撤退するか,それとも,このまま戦い続けるのか? それが問題だ.」 ブッシュ氏が戦い続ける理由とは,@内戦を避ける.Aイラク治安警察を養成する.B撤退の期限はアメリカ軍の志気を損なう.Cアメリカの世界における信頼や役割を損なう.William E. Odomは,すべてに反対です.David S. Broderは,激しい内戦に驚きます.むしろ,イラクの各地区に認められた自主権を利用して,クルド,シーア,スンニーに分割することを許すべきだ,と考えます.そしてアメリカからの援助を受ける条件として,各グループに基本的な民主化を求めます.

ANTHONY H. CORDESMANは,分割を認めません.その理由は? 1.部族や宗派を分割する明確な線は引けない.2.分割による移住や暴挙は大きな被害を残す.3.イラクは都市に人口が集中している.4.警察や治安軍は分割できない.武装勢力を抑えられなくなる.5.油田や利権を分割できない.6.原理主義の進入を強め,地域の安定を損なう.7.クルド地域の安定は,クルド人問題を抱えるトルコ,イラン,シリアの介入によってつぶされる.中東・アラブ世界全体が不安定化し,原理主義に侵される.


LAT May 4, 2006

Cheap oil, cheap labor and costly habits

Patt Morrison

移民デモとガソリン価格の関係は? もちろんあるさ.移民も石油もわれわれの生活の基礎だ.

二つとも,この国が薬中(ジャンキー)の国であることを示した.自動車はゴトン,工場もガタン,だ! それは長く,ばかばかしいほど高い,失敗の始まり.安いガソリンも,安い労働も,結局,そんなに安くは無かったわけだ.重役たちは石油と移民をガブ飲みして,利潤を誇示し,利益を得てきた.コストは他の奴に押し付けて.

しかし.しかし,しかし,だ! 安価な自動車の運転,安価な労働者は,余りにもこの国の動きに組み込まれて,余りにもすべてと関わっているから,それが止まるまで誰も気づかなかった.今,それが分かったように.

都市も商売も自動車を運転することが前提になっている.歩行者ではない.職場まで何マイルもあり,子供の学校も遠い.市場がまた何マイルか先.どれも違う方向だ! 消費経済は安価な労働が大好きだ.すべての基礎に安価な労働がある.海外にアウトソーシングできないものは,企業がこの場でアウトソーシングする.つまり,困窮する外国人労働者たち! どちらでも,私たちは欲しいものを手に入れる.そして富と権力を蓄えた.

こんな風に,われわれは針にかかったわけだ.自動車に乗れないし,労働も安くない.私たちはそれを当然の権利としてきたのに.

どうしていけないのか? 今まであんなに上手く行ったのだ.企業はハッピー,政府もハッピー,非合法にやって来た外国人労働者だってハッピーだった.自国でなら一月かかる稼ぎが,ここでは一週間で手に入る!

ところが,ガソリン価格の高騰で,自我の壁が破綻した.ガソリン1リッターが2ドルを超え,さらに3ドルを超えた.エクソンの取締役はたった一日でメリーランド州知事の年収を稼ぐのだ.たった1分で6000ドル(あるいは,2000ガロンのガソリン)を稼ぐ! 他方,議会はベビーシッターやバスボーイを重罪人にするだって! 移民も自我の壁を打ち破った.シャツや旗を振る移民の数の多さに,私たちは観念した.彼らを追い払うなんて無理だ.

解決しなければならない問題が多すぎる.911の後,その数年前にも,議会は燃費の良い自動車を要求できたはずだ.とんでもなくガソリンを食う自動車に免税措置など止めれば良かったのだ.自分たちで働くように,最低賃金を引き上げることもできただろう.アウトソーシングや規制逃れをする企業ではなく,「アメリカ人」を雇う企業だってあったのだ.

メキシコの政治家たちはアメリカと逆だ.たとえば政治家はこう言った.カリフォルニアのように「かつてわれわれの土地であったところは」,知性と愛と労働によって,「われわれがメキシコのために取り戻そう.」

今こそアメリカの政治家たちも目覚めるだろうか? まさか,そんなはずない.ワシントンとはそんなところだ.上院では移民法の改正や,ガソリンの払い戻し,を議論している.それで,いつガソリンが100ドルになるのか? ガス・スタンドで会おう.次は,何万,何十万の人々が通りを埋めているはずだ.彼らは抗議しているのか? しかし,冷や水を浴びて,働きに行くしかない.


NYT May 4, 2006

Crisis Feared Over Bolivia Gas Takeover

By THE ASSOCIATED PRESS

NYT May 4, 2006

Good Neighbor Policy

By JORGE G. CASTANEDA

LAT May 6, 2006

ECON 101: Unnatural disaster

NYT May 7, 2006

All Smoke, No Fire in Bolivia

By WILLIAM POWERS

(コメント) ボリビアの新しい大統領Evo Moralesモラレスは,ベネズエラのチャベスのように,天然ガスの国有化を宣言しました.アルゼンチンで開かれたラテン・アメリカ会議では,二人の指導者が意気盛んです.しかし,ボリビアに投資してきたブラジルやEUは新規投資をカットしました.チャベスはラテン・アメリカ各国に石油を供給するパイプラインの建設を計画しています.

ポピュリズムの復活は各地で顕著です.他にも,ペルーのOllanta Humala,アルゼンチンのNestor Kirchner,メキシコの大統領候補Lopez Obrador.ブッシュ政権が移民政策やラテン・アメリカ政策でナショナリズムを示すほど,ポピュリズムは繁栄するでしょう.経済の繁栄,安定,民主主義,安定した外交政策,貧困解消,などを続けるためには,アメリカの支援が明確に示されるべきです.

LATは,石油と違って天然ガスは輸送が困難であり,モラレスの国有化は間違いだった,と指摘します.モラレスは国民が投票で選んだ.ボリビアの資源は過去において外国によって奪われ,国民を貧しいままにした.それは正しいが,天然ガスを軍隊によって占領することが,国民を豊かにするはずは無い,と.

他方,WILLIAM POWERSは,国有化を支持しています.それは政治混乱ではないし,1990年代半ばの民営化を憲法違反と批判して当選したモラレスが国民の合意を得て行ったことである.投資についても利益を継続できるように配慮することを明言している.IMFによる構造調整策,ネオ・リベラル政策が失敗して,貧困が増えたことへの強い反発があった,と指摘します.


FT May 5 2006

High price of east

The Japan Times: Monday, May 8, 2006

China unlikely to double-deal over Korea

By TOM PLATE

(コメント) 麻生太郎外相ほど,日本の外交政策を乏しくする人物は珍しいと思います.田中真紀子もそうでしたが,小泉首相の指名する外務大臣と言うのは,何か,とんでもない間違った理由で決められ,間違った理由で日本の外交政策を振り回しているようです.

麻生氏がアジアの軍備増強や領土紛争,ナショナリズムを警戒するのは正しいことです.しかし,彼自身がそれをエスカレートさせることに熱心で,アメリカを日本側の切り札のように使うとは,アメリカ政府も当惑しているでしょう.財務大臣や中央銀行総裁が集まれば地域通貨統合や政策協力を話し合っているというのに,首相と外相はこれで良いのですか?

TOM PLATEは,中国の外交を批判します.中国は,表面的には,6カ国協議を通じて朝鮮半島の非核化を推進しているように見えるが,実際は,北朝鮮の核武装を容認したのではないか? という疑いが広まっています.これでは,北朝鮮は核兵器を得ても,孤立し,経済支援を受けられなければ,妥協するだろう,という見通しが崩れます.また,中国の唱えてきた「和平演変」も嘘ということになります.日本は軍備拡張を急ぐでしょう.


FT May 5 2006

ADB chief explains currency unit plan

By Jo Johnson and Martin Wolf in Hyderabad

May 8 (Bloomberg)

Asia Is Getting Ready to Dump the Dollar Peg

Andy Mukherjee

FT May 9 2006

Let dollar fall or risk global disorder

By Martin Wolf

May 9 (Bloomberg)

Global Game of Musical Chairs May End Badly

William Pesek Jr.

NYT May 10, 2006

Bush Aides Struggling With Yuan

By EDMUND L. ANDREWS

May 10 (Bloomberg)

Asia's Savings Glut Keeps Its Bond Markets Tiny

Andy Mukherjee

(コメント) ADBの黒田総裁は,これが円圏でもなければ,ユーロの始まりでもない,と警戒を解くように求めました.日本の影響力を確保するために,地域通貨・金融協力で日本の力を制度化しておきたい,という願いはもちろんあるでしょう.しかし,それだけでは受け入れられないことも分かっています.まずは共通の通貨単位を作って,債券市場を育成し,アジアの貯蓄や外貨準備を,ドルではなく,アジアの通貨や共通通貨で投資したい,と考えるわけです.

それはまた,見方を変えれば「ドル暴落」への対抗策です.ドルの外貨準備を介してアメリカの赤字削減に関わる損失を押し付けられることに,アジア諸国は黙っていないぞ,というわけでしょう.ドル安よりも自国の景気過熱を抑制して,増税もしてから,アジア通貨の為替レート調整に応じる話し合いだ,と.しかし,中国は日本・円が大幅な割合を占めるACUに固定することを嫌うでしょう.ACUが日本・円も中国・人民元も含まないとしたら,瑣末な通貨単位になります.

Martin Wolfは問います.「中国や日本の高官はドル安を牽制するが,彼らは本気で為替レートの調整なしに不均衡を維持し続ける,もしくは調整できる,と思っているのか?」と.それはアメリカに大幅な景気後退を期待しているという意味です.あるいは,アジアの大幅なインフレ政策ですか?

通貨・金融面での協力関係について,William Pesek Jr.によれば,椅子取りゲームが行われています.ニクソン風に考えれば,「世界の不均衡? それは自分たちの問題ではない.君たちの問題だろう.」と,言い合っている.アメリカも,中国も,日本も,EUも.アメリカの過剰消費も,中国の過剰投資も,日本の過剰貯蓄も,すべては善意と他者を愛する心(altruism)からなせる業か!? あるいは,アメリカは債務を拡大するのに国際通貨システムを悪用し,アジア諸国は重商主義に走っている? そして,中国の高官が言うわけです.「われわれは同じ船に乗っている.沈むときは一緒だ.」 ・・・中国人が言うと,説得的ですね.

各国が長期的な,世界の均衡回復に向けた,政策の調整を果たすために,プラザ=ルーブル体制を再生するべきではないか? G7も,IMFも,ADBも,そのことを認めているようです.二国間での調整は困難です.たとえば,アメリカ政府が中国を「為替レートを操作して不当な利益を得ている」と断定し,懲罰のための輸入関税など,制裁措置を発表するべきでしょうか?

なぜ債権国も債務国もドルで契約し続けるのか? アジア諸国はドル安で資産を失い,ラテン・アメリカ諸国はドル高で債務を支払えなくなる.ドル化をやめて,ウォール街を通さず,アジア通貨でラテン・アメリカに投資すれば良いのに.・・・しかし,中国やインドが資本取引を規制している限り,アジアで資本市場は発達しません.資本規制の理由とは,通貨危機の恐怖であり,ドル建資本市場に飲み込まれるのを嫌うからです.


WP Friday, May 5, 2006; A19

Never Again?

Charles Krauthammer

WP Tuesday, May 9, 2006; A23

Muslims and Jews: Common Ground

Robert Eisen

(コメント) かつてナチスによって600万印が殺されたというユダヤ人も,今や,その主要な居住地であるアメリカで減少しつつあります.その理由は,もちろん虐殺ではなく,少子化と同化です(すなわちアメリカ人になってユダヤ教や伝統を捨てる).イランには,核攻撃でイスラエルを滅ぼしてやる,と主張するような大統領がいます.

Robert Eisenは,イスラエルについて,ユダヤ人とパレスチナ人の認識を比較します.イスラエルは民族の救済であるのか,それとも民族の抑圧とヨーロッパの帝国主義なのか? しかし,両者が共有している歴史をもっと素直に見るべきだ,とEisenは考えます.すなわち,ユダヤ人はキリスト教の国で抑圧され,暴力に苦しめられた長い歴史を持っている.彼らがパレスチナ人の境遇に理解を示すなら,互いを抹殺するしかないという思い込みがある限り,殺戮を繰り返すしかないことを理解できるはずだ,と.

その意味では,人々の進行をつかさどる聖職者たちが,和解を示すべきではないか?


The Guardian Friday May 5, 2006

Hate the vote, not the voter

Roy Greenslade

BNP(イギリス国民党)がBarking and Dagenhamの議会で13議席のうち11議席に達するだろう,と地方紙は告げている.BNPの選挙前のプロパガンダを批判してきたジャーナリストたちには驚嘆する結果だった.しかし私は,これまでの歳月を知っているから,その結果に驚かない.

私はDagenhamで学校に通い,最初の職場は地方新聞社のレポーターだった.その後も,その地を何度も訪れ,何人も友人がいる.そして,1962年に知り合った夫婦がいた.

夫はフォードで働き,妻は少女たちにダンスを教えていた.空いた時間には絶え間なく地域のチャリティーに尽くした.他の者と同じようにロンドン東部から来て,労働党の支持者だった.彼らの親友には市会議員もいた.彼らは地区を愛し,コミュニティーを愛した.不幸な人々ほど彼らは愛した.引退してからも,彼らは人々を助け続けた.

しかし,はるか以前,多分10年以上前に,彼らとの会話に正真正銘の怒りを感じた.「私はレイシスト(人種差別主義者)ではないのだが・・・」と,語り始めるときだ.最初は単なる不平だった.5年前には,移民や難民資格を求める人々が流入してくることについて,彼らがあからさまに不満を示すのを避けて話し合えるときはなくなった.議会は「政治的な正しさ」に偏り過ぎだ.住宅の割り当てが「不公平」なのだ.年金暮らしの老人が困っているのに,無職の移民たちは税金でのうのうと暮らしている,という話を持ち出す.私が知っている名前も挙げた.

こうした考えは彼らに限らない.彼らの友人も,隣人たちも,ほぼ同様の意見だった.最後に会ったとき,1年前,彼らは,もはや「自分たちの」土地ではなくなった場所で済むことの苦しみばかりを語った.奴らが「洪水のように押し寄せた.」 そして,「私たちイギリス労働者階級の文化」を掘り崩している,と.

夫は,初めて私がいるときに,自分もBNPに投票するだろう,と言った.冗談をよそって私に批判されるのを避けたかったのだ.(私は望みばかり高いリベラルで,自分たちの問題を知りもしない,安全な中産階級に生きるものだと思われていた.) 彼が予期したように,それは衝撃だった.

こうした意見が,特にBarking and Dagenhamの白人住民に広がっているのを知ったときは,それほど驚かなかった.基本的な点で,それはレイシズムだった.根拠の無いうわさが広まっていた.議会は決して難民を優先して住宅を割り当てていない.

しかしまた,この地の住民たちには,他国から侵入してくる人々が眼に余り,通りが次々と異邦人たちによって逆植民地化されている,と見えるのだ.それは私の昔からの友人たちを含めて,人々の心を根底から変えてしまった.

彼らが本当にBNPに投票したかどうか,私は知らないが,選挙結果には驚かなかった.

リベラル派の人たちは彼らを非難してはいけない.彼らの声を聞くべきだ.彼らの怒りを理解する必要がある.イギリスをレイシズムが覆い尽くす前に,移民たちがもっと繊細な配慮を持ってわれわれと統合していけるような政策を見出すべきだ.

貧しい移民たちが,街のもっとも貧しい地区に集まっていることに,それが緊張関係を高めていることに,眼を背けている.そのような条件でこそ偏見は広がり,作り話が加勢し,否定しようの無い現実が加わる.BNPに投票した友人たちを見捨てることは決して無いだろう.彼らの心を変えたいから.どうすれば良いのか?

The Observer Sunday May 7, 2006

Bigots, racists and worthless buffoons - so why do they keep getting elected?

Nick Cohen

(コメント) どれほど内容がひどいものでも,イスラム教徒や移民を非難するBNP,あるいはユダヤ人を排斥するRespectなど,極右勢力は拡大しています.イギリスでさえ.


NYT May 5, 2006

As Energy Prices Rise, It's All Downhill for Democracy

By THOMAS L. FRIEDMAN

FT May 11 2006

An improbable cure for oil addiction

By Philip Gordon

(コメント) 石油価格が高騰するほど,石油による政治の腐敗,専制の蔓延は眼に余ります.もしアメリカの安全保障派が環境保護派と同盟して,経済を石油依存から完全に切り離す長期計画を本気で示せば,世界の専制政治を終わらせるための最大の攻撃になるでしょう.

たとえばどんな計画があるか? Philip Gordonは石油価格に下限を設定することを薦めています.すなわち,たとえば下限を60ドルと決めて,それを下回れば介入します.石油の高価格を維持するのか? もちろん,そうではありません.代替エネルギー開発(たとえばエタノール)が長期的に投資できる水準で,石油価格を安定させるのです.

この論旨は,長期的には石油が枯渇し,また中国やインドも成長して,石油価格がもっと上がる,と考えているかもしれません.そうであれば,遅れて石油による成長モデルを導入する新興諸国に課税するようなものではないか? と思いました.つまり,アメリカではなく,国際機関が,代替エネルギー開発や成長モデルの転換を指導するほうが良いのです.


C Mott Woolley What is a Wilsonian realist? Asia Times Online, May 6, 2006

H.D.S. Greenway Playing ethnic politics BG May 9, 2006

Geoffrey Wheatcroft They should come out as imperialist and proud of it The Guardian Wednesday May 10, 2006

Helena Cobban The original aim of the UN: peaceful conflict resolution CSM May 11, 2006 edition

(コメント) C Mott Woolleyは,ウッドロー・ウィルソンに見られる理想主義とリアリズム(権力政治)との結合を論じています.ブッシュにも必要だ,ということでしょう.

H.D.S. Greenwayは,エスニック集団によってアメリカ外交が振り回される現実を示しています.ユダヤ人がアメリカの中東政策を決めている,というのは極端ですが,アイルランドでも,キプロスでも,アメリカ国内の移民集団は強固な政治ネットワークを通じて政府の政策に影響します.

Geoffrey Wheatcroftは,イギリスの左派やアメリカのリベラルに,国際介入や民主化・人権支援を目指す「リベラルな帝国主義」が表れたことを指摘します.マルクスであれ,フェビアン社会主義であれ,ヨーロッパの政治家や思想家は,彼らが到達した文明を世界に普及するべきだ,と考えました.

しかし,何よりも戦争を回避しなければならない,とHelena Cobbanは主張します.アメリカは,世界各地における過剰介入(その要請)を避けるために,ルールに基づく戦後秩序を築きました.ところがアメリカの政治家には,戦争が正しく,戦争は簡単で,勝利は確実だ,と考える者が増えました.戦争によって解決できる,という幻想を捨てるべきだ,と.

WP Monday, May 8, 2006; A19

A Realistic Idealism

By Madeleine K. Albright

イラクと中東における最近の事態は,外交における理想主義と現実主義,という昔からの議論を想起させた.民主党にも共和党にもいるリアリストたちは,分シュ政権がアラブ諸国に民主主義を育てようとしたのは余りにもナイーブだった,と批判する.その証拠に,イラクでは宗派間で戦闘が起こり,エジプトではイスラム原理主義が議会で増えているし,パレスチナの選挙でハマスが勝利した.民主主義がテロを抑制する,とブッシュ大統領は予言したが,中東のアラブ世界では,むしろテロを蔓延させている.

外交の失敗から責任ある政治家や評論家が逃げ出すのはいつものことだ.ブッシュ氏が極度にイデオロギー的で,現実を見失っているから,顧問たちはますます頑なにリアリストであろうとする.私が懸念するのは,こうした過程で,中東に民主主義を促すという考え方そのものを間違いと思い込むことだ.そうではない.

民主主義を支持しないとすれば,われわれは自国民を抑圧する政府の共謀者となる.そのようなアプローチは安定性と現実性を混同し,アラブの民主主義者を裏切り,偽善をもたらす.中国や,プーチンのロシアとは違う何かを,アメリカは世界の指導者として求めている,という評価を損なうことになる.

同時に,われわれは期待しすぎてもいけない.ブッシュ氏は,アメリカなら世界中に,「星星を越えて」自由をもたらす,と言った.ライス国務長官は,民主化だけが飛行機でビルに自爆攻撃をかける者を止められる,と言った.こうした言い方は誇張である.民主主義は統治の形態に過ぎない.それだけで,すべての邪悪なものが消滅し,誰もがわれわれと同じ意見を持つ世界への入場券にはならない.

もしアラブの民主主義が発展するとしたら,それはアラブの歴史や正義を認めてその基礎としなければならない.投票や政権交代がアラブ諸国のイスラエルに対する態度を軟化させることはない.しかし民主主義はアラブ諸国に,もっと広い,もっと開かれた論争をもたらすだろう.その結果,現実離れした神話が再検討され,極端な考えは反駁される.そのような開放性を嫌うものもいるが,アメリカはそれを歓迎する.

「リアリストたち」がイラク侵攻を嘆くのは当然だ.しかし軍事作戦の失敗によって民主主義を裁くことはできない.イラク侵攻の目的は大量破壊兵器WMDを取り除くことだった.それは存在しなかったし,サダム・フセインとアルカイダのつながりも見つかっていない.大統領の指導と諜報機関は間違っていた.しかし,民主主義を求めすぎたことが間違いではない.

エジプトでは,ムスリム同胞団が禁止されたが,昨年の議会選挙で大きく躍進した.政府はこれに対して弾圧を強化した.それは反感を強めた.ムバラク大統領は息子に権力を譲りたがっているが,それは難しい.アメリカがエジプトの民衆の側に立つなら,もちろん,そうであるべきだが,民主的改革は動揺しないだろう.

パレスチナについて,公平を期せば,選挙がハマスを作ったわけではない.有権者たちがテロ集団を選んだのは,まさに以前のパレスチナ政府が無能であったからだ.今は,選挙の結果として,初めて,ハマスが政府として問われている.彼らは組織として暴力を抑え,イスラエルに対する政策を穏健化するだろう.民主主義はハマスを作ったのではなく,彼らを変えようとしている.そうでないなら,失敗する.どちらであれ,現状維持よりも良いだろう.

外交における理想主義と現実主義とは,振り子のように,入れ替わる.どちらも極端に進めば維持できないからだ.成果を生む外交政策とは,現実をありのままに捉えて,どうなって欲しいかを考えるものだ.現実は余りにも複雑で,何の原則もないように見える.しかしそれでも,われわれは冷笑主義に負けない希望があるから,毎朝,起き上がる.もしアメリカが安定性だけを求めるなら,誰もわれわれに従わない.

ブッシュ政権の次を展望するときが来た.どちらの党派であれ,われわれの新しい指導者は,アメリカが世界で支持するものを明確に再定義しなければならない.たとえば,ビン・ラディンやザルカウィのような連中に対して,理念において勝利すること.核拡散を阻止すること.意味のあるエネルギー政策を示すこと.国際法や人権についての超大国アメリカの評価を高めること.しかし,そのリストのトップにあるのは,アメリカが自由を支持すると約束し,すべての人間の尊厳を守ることだ.それなしには,他の課題も意味は無い.


Chuck Hagel America must use a wide lens for its strategy on Iran FT May 7 2006

Abbas Maleki Iran is eager to defuse the nuclear squabble FT May 9 2006

Jackson Diehl In Iran, Apocalypse vs. Reform WP Thursday, May 11, 2006; A27

(コメント) たとえ核拡散を防ぎたいと願っても,国家の中はブラック・ボックスに近いとすれば,誰が核兵器を持っているのかわかりません.核物質を採掘から精製まで追跡するシステムができなければ,それに答えることはできないでしょう.

安全保障理事会の政治的圧力や経済制裁には限界があります.IAEAの技術力や探査能力にも.とすれば,イランが民主化されて,核兵器を自ら放棄し,透明性を増すしかないわけです.


IHT SUNDAY, MAY 7, 2006

Punishing the innocent is a crime

Jimmy Carter

(コメント) 民主的で,対立候補を立て,平和に行われ,皆がその結果を受け入れた選挙で,ハマスによる政府が樹立されました.それに対して,国際社会が支援を絶ち,パレスチナ住民を苦しめているのは間違っている,とカーター元大統領は糾弾します.


LAT May 7, 2006

The chronics

NYT May 9, 2006

Bush Takes On the Brothels

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) ホームレスと売春宿について,政府は何をするべきか? ホームレスについて画期的な試みを始めたのはカリフォルニアのサンタモニカです.Santa Monica's Chronic Homeless Project サンタモニカが慢性的なホームレスを収容し,医療を施すのは,その方が病院,警察,など,彼らに要する公共コストを軽くできるからです.

NICHOLAS D. KRISTOFは,未来の歴史家がブッシュ大統領の外交政策を,「赤ちゃんガゼルをひとまとめにしてチーターに届けてやるようなものだ」と批判するだろう,と強く批判しました.しかし,ブッシュ氏はカーター氏の人権外交を引き継いで,人身売買(現代の奴隷貿易)を国際的な課題にしました.アメリカが指摘するまで,多くの国際援助が売春宿に流れていました.エイズが人類に対する脅威になっているにもかかわらず,人身売買は十分に関心を集めていませんでした.この点では,ブッシュ氏の貢献が未来の歴史家にも評価される,と.


NYT May 9, 2006

Cheney as Pot, Putin as Kettle

NYT May 10, 2006

The Post-Post-Cold War

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) チェイニーとプーチンの「こわもてタカ派対決」です.しかし問題は,プーチンを厳しく批判すれば,彼がハト派の民主化論者に代わるわけではないことです.自己満足と政治宣伝ではないか? そして,安保理を通じてイラン政府がロシア案を受け入れるように働きかける問題はどうなるのか? そもそも,チェイニーがプーチンを批判しても,どちらに道義的な優位があるのか,分からないではないか?

チェイニーのプーチン批判を,チャーチルの「鉄のカーテン」演説にたとえ,冷戦の再来を吹聴する記事もあるようですが,THOMAS L. FRIEDMANは,ポスト冷戦の時代が終わったのだ,と考えます.米ソ二極化の冷戦から,アメリカ一極のポスト冷戦,そして再び,中国の台頭など,多極化したポスト・ポスト冷戦です.この世界をさらに混乱させているのは,イデオロギーでも軍事力でもなく,石油です.


YaleGlobal, 9 May 2006

Can the Doha Round Be Salvaged?

Ernesto Zedillo

The Guardian Thursday May 11, 2006

Workers of the world, unite

Thomas Palley

(コメント) 元メキシコ大統領のErnesto Zedilloは,ドーハ・ラウンドの現状を悲観します.貿易自由化交渉は,GATTの下では,主要国の重商主義によって進められた.しかし,参加国が増え,その要求も多様化してしまった今回のラウンドでは,互いの利益を計算できないし,相手の戦略を予測できません.

Zedilloは,WTOが重商主義ではなく,地球的公共財供給というアプローチに変えたと強調します.重商主義的な姿勢では,交渉を先延ばしにしてしまうでしょう.自分の自由化を約束しないまま,誰でも自由化されたシステムに「ただ乗り」したいのです.むしろ,公共財は完全に互恵的で,すべての参加国に同様に供給されます.そのための交渉を進めるのは,パワーだけでなく,明確に正当性を持った指導国の説得です.他国が条件を示さないときでも,進んで自国が条件を示し,他国がそれを見習うようにします.しかし,アメリカもヨーロッパも見せ掛けだけで,真に指導的な条件を提示することは無いでしょう.

ドーハ・ラウンドが失敗する場合,将来のオプションとしては二つです.さまざまな条件を大幅に薄める(ドーハ・ライト案)か,地域的な自由化交渉を優先するか.そして,ドーハ・ラウンドの挫折から,どうやってWTOを救済するか,が重要になります.

Thomas Palleyは,ドーハ・ラウンドを「トロイの木馬」と見る,グローバリゼーション反対派の意見を紹介しています.グローバリゼーションの支持は落ち込み,市民社会が貿易自由化を受け入れるための条件を真剣に検討するべきではないか?


FT May 10 2006

Sun, surf and birth of new economic model

By Peter Hartcher

The Japan Times: Thursday, May 11, 2006

Seeing Europe as a museum

By DOMINIQUE MOISI

May 12 (Bloomberg)

Australia Needs China, Tax Cuts, Not Sheep

William Pesek Jr.

(コメント) それは鎖国政策ではなく,たとえばオーストラリアかもしれません.Peter Hartcherは,オーストラリアが他のOECD諸国にとってモデルとなった,と考えます.オーストラリアでは,アメリカのような活力ある資本主義と,ヨーロッパのような安定した市民社会が共存しています.財政は黒字で,好景気が16年間も続いています.10年間で,失業率は半減し,市民の所得は二倍になりました.

不断の経済改革? それはそうでしょう.いくら美術館のように美しいと自慢しても,このままでは観光と金持ちの高級不動産販売しかなくなってしまうぞ,とリー・クァン・ユーはヨーロッパに警告しました.

他方,オーストラリアが成長し続けるのも,中国市場が現れたからです.土地や資源,距離,農産物(収穫時期)など,アジア市場の勃興はオーストラリアに最善の経済機会となりました.しかし,いつかドラゴンが下降し,あるいは貿易や資源を支配したい,と思うようになったら,機会はリスクに転じます.


LAT May 10, 2006

Sex is essential, kids aren't

By David P. Barash

(コメント) ドイツも日本も少子化に苦しんでいます.セックスがあれば十分だ.子供は要らない? ドイツは女性の30%が子供を持たないということにショックを受けた,とDavid P. Barashは伝えます.妊娠を制限できる,ということが,人間をどう変えたのか? そして,遺伝子を変えられるということが,人間をどう変えるのか? 子供を持たない,という選択を自由意志で示す女性は,ますます増えるかもしれません.その結果は? 分かりません.

******************************

The Economist, April 29th 2006

The party, the people and the power of cyber-talk

China: Struggling to keep the lid on

Chinese banks: Drag on the dragon

African poverty: The magnificent seven

Berlin’s finances: Painful relief

(コメント) 中国政府は人々の表現の自由や情報を統制し続けています.このインターネットの時代に,不可能と思えた情報統制を,企業の協力(もしくは情報提供の拒否)が支えています.他方,景気の過熱も同様に統制できるか,と言えば,これはできないようです.しかし,まだハイパー・インフレーションや資本逃避は起きていません.もし金融部門が改革され,自由化されたなら,中国経済ははるかに大きな富と安定性を得られる,と予想する議論もあります.

アフリカの貧困を解消するJ.サックスのモデル村は,腐敗した政府介入を回避する点で成果を示すかもしれませんが,それ以上になるでしょうか? 他方,ベルリンの財政危機は,アメリカとオーストリアの道を示します.すなわち,地方や都市も独立して財政を再建するか破綻せよ.あるいは,地方財政にも厳密な上限を課そう.前者を選ぶ都市が増えそうですが,その場合,アメリカのように地方の格差が拡大します.


Charlemagne: Euro blues

Economics focus: A host of problems

(コメント) ユーロとプラザ合意Uについての,非常に興味深い二つの記事です.

The Economistは,ユーロにも,プラザ合意Uにも,否定的です.ユーロが賞賛されるのは,為替レートの不安定かと危機を恐れて,周辺の小国が参加を求めていることです.すでに,イタリアやアイスランドは,ユーロが無ければ,厳しい通貨危機に遭っていたはずです.他方,ユーロが描いた夢は実現していません.完全な市場統合,活発な投資,改革推進,それゆえ高い成長率と失業者の減少を目指していたわけです.現実は違いました.財政赤字は減らず,改革も先送りです.危機の懸念もなくなった・・・?

市場統合による収斂・コンバージェンスは起きませんでした.各国の政策や経済成果はバラバラです.同じ圧力に対して,国によって異なる反応がおきます.アイルランドは繁栄し,イタリアは停滞しています.ドイツは輸出を伸ばしても,フランスの輸出は落ち込んでいます.通貨統合は魔法の杖ではない,とThe Economistは主張します.

他方,IIEのW.クラインが示した為替レートの調整と国際政策協調について,それがG5や少数の国によって管理できる,という条件は失われた,と指摘します.そこで,参加国を増やし,IMFが交渉の条件整備に当ればよい,という話が出ています.

当然でしょうか? R.マッキノンは反対します.中国も日本のバブルや不況を強いられるだけではないか,と.また,アメリカと中国が無視している限り,IMFの作業は単なるセレモニーでしかない,と.