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IPEの種 5/15/2006

パチンコ中毒や麻薬で身を滅ぼす人がいます.カジノがもてはやされ,その実体と関係なく,単に,より強い刺激やより大きな資産が賞賛されるような時代は,かつてS.ストレンジが国際金融の変化を糾弾したように,社会構造として狂っていると思います.

私がとても嫌だと思うのは,アマチュア・スポーツや社会人の競技が廃れる一方で,プロ・スポーツの高額報酬や賭博の広告,ショー・ビジネスとして格闘技を奨励し,賞賛する文化を育てる人たちがいることです.若者たちをだますため,誇張され,粉飾された文章や発言も溢れています.お金が無くても,精神が貧しくても,心の渇きに悩む人たちに,手軽な熱狂を与えてやるビジネスが儲かるわけです.

個人と社会をつなぐものとしては,制度やイデオロギーがあります.合理性,欲望,美意識,肉体・パワー,利益・富・・・ それらを追求することと,<社会>を住みよくすることとは別です.しかし,若者たちは「当然ですよ.個人の自由でしょ.」と言います.それも一つの<イデオロギー>です.「欲望の独裁となっても良いのか? それで社会が良くなるのか?」と,私は不満でした.将来,社会が変化する際に,自分たちが難民やホームレスになるかもしれない,と.

最近の記事や論文を見て,国際社会(そして世界社会)を制度化し,構造調整する意識的な試みが再生していることに関心を持ちました.すなわち,

1.主要国の財政赤字削減や国際収支不均衡の調整.IMFによるプラザ合意U.

2.ヨーロッパ経済通貨統合をめぐる再検討.ユーロ圏の改革精神・改革モデル.

3.人民元の将来.ADBによる共通通貨単位と資本市場育成.アジア政策フォーラム.

The Economistの興味深い記事を読んで,私は早速,IIEのHPからW.クラインの「ニュー・プラザ合意」を印刷しました.また,図書館へ立ち寄った際,CEPRの雑誌Economic Policy, April 2006を見て,C.ウィプロシュが「ヨーロッパ通貨同盟」を書いていることに気づいた偶然に感謝し,それもコピーしました.

深刻な危機や国際秩序の激変に直面したとき,新しい構想や理念が力を持つことがあります.ヨーロッパの通貨統一が実現したのは,その理念はありながら,政治的な条件が欠けていた状況に,突如として,ソビエト連邦が崩壊し,ドイツ再統一が起きたからです.コール首相は同盟諸国,特にフランスの同意を求め,ミッテラン大統領はこの問題を共通通貨の創設とリンクさせることで受け入れた,とウィプロシュは冒頭に描いています.

しかし,The Economistはクラインの提案に否定的ですし,討論者のM.ウルフはウィプロシュのユーロ評価に厳しい反対意見を書いています.とはいえ,彼らがアメリカや中国,インドやロシア(あるいは日本)を分割するべきだ,と主張しないのはなぜでしょうか? アジア通貨統合を議論しようにも,もしマーストリヒト条約の基準を当てはめれば,日本は国債残高の限度をはるかに超えており,完全に排除されてしまいます.

次の大幅なドル安や,人民元高,中国の景気後退や金融パニック,朝鮮半島や台湾海峡における武力行使,東南アジアにおける通貨危機の再発,石油施設へのテロ,政治家の暗殺,などが起きるかもしれません.あるいは,朝鮮半島の統一が加速し,アジア市場統合にも日本が国内対立から遅れを取り,アジアの通貨統合にも参加できないかもしれません.危機管理を超えて,国際・地域制度の構想を積極的に提示する力を,日本も示すべきです.

北国の線路で安全な鉄道輸送を支えてきたのは,吹雪の夜にも休まず働く保線作業のスタッフたちです.彼らの大切な仕事は,電車を利用する通勤客や学生たち,運び込まれる製品や送り出される農産物に示されています.しかし,報酬は多くなかったでしょう.誰も感謝せず,誰も尊敬しなかったかもしれません.雪国の厳しい自然を生き抜いて,廃線とともに自分たちの職場を失い,鍛え上げた技量も見捨てられてしまいます.

しかし,こうした人々がいるから社会は機能することができ,暮らしは豊かになります.地方や,世界の辺境にまで至る,社会構造を束縛する報酬・分配システムは,深刻な貧困と虚飾を生み出し続けているのではないか.社会構造を見る力,それを改善する意志が,私たちにも必要なのです.

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